説明

シクロデキストリン包接化合物含有組成物の製造方法

【課題】 シクロデキストリン包接化合物が水と接触しても、変質したり、ゲスト化合物が脱離することを防止又は減少させることができるシクロデキストリン包接化合物含有組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】シクロデキストリンにゲスト化合物を包接させた包接化合物と、両親媒性高分子化合物と、を水相中で接触させ、含水の第1組成物を形成する第1ステップと、第1ステップにより形成された第1組成物を脱水し、該包接化合物を含む固体を得る第2ステップと、を含んでなる、シクロデキストリン包接化合物含有組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリン包接化合物含有組成物の製造方法に関し、より詳細には、シクロデキストリンにゲスト化合物を包接させた包接化合物(シクロデキストリン包接化合物)が水と接触しても、溶解や膨潤等のように変質したり、ゲスト化合物が脱離することを防止又は減少させることができるシクロデキストリン包接化合物含有組成物を製造することができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリン(CD)は、複数のグルコースが結合し環状構造を形成した環状オリゴ糖の一種であり、CD分子中に形成される環空孔(環状構造の中空部分)に様々な化合物(ゲスト化合物)を包接することができることから、様々な分野に用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1には「排泄物処理シートに排泄物が接触すると、香料の発する香気によってその排泄物の臭気を速やかにマスキングすることができるように、従来の排泄物処理シートに改良を加えることを課題にして」(特許文献1、発明の詳細な説明中の段落番号0004)なされたものであり、具体的には「透液性シートと不透液性シートとの間に吸液性芯材が介在するとともに、愛玩動物の排泄物が接触すると前記排泄物の臭気をマスキングすることが可能な香気を発生させる香料が含まれた愛玩動物用の排泄物処理シートであって、前記香料がシクロデキストリンに包接されている粒子状包接化合物としてのものであって、前記芯材が前記透液性シートの側に位置する上面と、前記不透液性シートの側に位置する下面とを有し、前記包接化合物が前記芯材の上面と、前記上面の直上の透液性シートとの間にあることを特徴とする前記処理シート」(特許文献1、請求項1)が開示されている。かかる排泄物処理シートによれば、「この発明に係る排泄物の処理シートは、香料を水溶性のシクロデキストリンに包接させ、そのシクロデキストリンによる包接化合物が吸液性芯材の上面と、その上面の直上の透液性シートとの間にあるから、この排泄物処理シートの上に尿が排泄されると、その尿で包接化合物が速やかに溶解し、香料の臭気が透液性シートを通過して速やかに大気中に拡散して尿の臭気をマスキングすることができる」(特許文献1、発明の詳細な説明中の段落番号0014)というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−51261号公報(例えば、要約、特許請求の範囲、発明の詳細な説明中の段落番号0001〜0014、第2図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1の排泄物処理シートに含まれる、シクロデキストリンに香料(ゲスト化合物)を包接した粒子状包接化合物(シクロデキストリン包接化合物)においては、排泄物処理シートの上に尿が排泄されると、その尿で包接化合物(シクロデキストリン包接化合物)が速やかに溶解し、ゲスト化合物たる香料の臭気が透液性シートを通過して速やかに大気中に拡散する。このように、シクロデキストリン包接化合物は水分と接触すると、通常、シクロデキストリン包接化合物が溶解や膨潤したり(変質)、シクロデキストリン包接化合物からゲスト化合物が脱離する性質を有する。上述の特許文献1の排泄物処理シートにおいては、かかる性質を利用し、シクロデキストリン包接化合物が尿により速やかに溶解し、ゲスト化合物たる香料の臭気が透液性シートを通過して速やかに大気中に拡散して尿の臭気をマスキングすることができるので、シクロデキストリン包接化合物が水(尿)との接触によって変質(溶解や膨潤等)したりゲスト化合物が脱離することは好ましい。しかしながら、水との接触によってシクロデキストリン包接化合物が変質(溶解や膨潤等)したり、ゲスト化合物が脱離することを意図しない用途には、シクロデキストリン包接化合物を用いることができない場合があった。
【0005】
そこで、本発明では、シクロデキストリンにゲスト化合物を包接させた包接化合物(シクロデキストリン包接化合物)が水と接触しても、溶解や膨潤等のように変質したり、ゲスト化合物が脱離することを防止又は減少させることができるシクロデキストリン包接化合物含有組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の本発明者らは、鋭意研究を行った結果、シクロデキストリン(以下、「CD」と表すこともある。)にゲスト化合物を包接させた包接化合物(シクロデキストリン包接化合物)と、両親媒性高分子化合物と、を水相中で接触させ、含水の第1組成物を形成した後、第1組成物を脱水し、該包接化合物(シクロデキストリン包接化合物)を含む固体としてシクロデキストリン包接化合物含有組成物を製造することができることを見出し、さらに、かかるシクロデキストリン包接化合物含有組成物は水と接触しても、シクロデキストリン包接化合物含有組成物に含まれる該包接化合物(シクロデキストリン包接化合物)が溶解や膨潤等のように変質したり、該包接化合物(シクロデキストリン包接化合物)からゲスト化合物が脱離することを防止又は減少させることができることを見出すことで本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のシクロデキストリン包接化合物含有組成物を製造する製造方法(以下、「本方法」という。)は、シクロデキストリンにゲスト化合物を包接させた包接化合物と、両親媒性高分子化合物と、を水相中で接触させ、含水の第1組成物を形成する第1ステップと、第1ステップにより形成された第1組成物を脱水し、該包接化合物を含む固体を得る第2ステップと、を含んでなる、シクロデキストリン包接化合物含有組成物の製造方法である。
本方法は、第1ステップと第2ステップとを含んでなる。
第1ステップは、シクロデキストリン(CD)にゲスト化合物を包接させた包接化合物と、両親媒性高分子化合物と、を水相中で接触させ、含水の第1組成物を形成する。ここにCDとしては、後で詳述するように、α型(重合度6)、β型(重合度7)及びγ型(重合度8)の1又は2以上の混合物のいずれであってもよく、さらに保有する水酸基を化学修飾したものを用いてもよい。CDにゲスト化合物を包接させた包接化合物は、従来から知られ多用されているが、本発明においては包接化合物が水と接触した際の変質やゲスト化合物脱離を防止又は減少させるため両親媒性高分子化合物を用いる。両親媒性高分子化合物は、後述の如く、1分子中に親水基と疎水基を併せ持つ高分子化合物であり、包接化合物と両親媒性高分子化合物とを水相中で接触させ形成した第1組成物を第2ステップにて脱水することで、両親媒性高分子化合物がバインダー成分として包接化合物を結合させる。
第2ステップは、第1ステップで得られた第1組成物を脱水し、包接化合物を含む固体(シクロデキストリン包接化合物含有組成物)を得る。このようにして得られたシクロデキストリン包接化合物含有組成物においては、シクロデキストリンにゲスト化合物を包接させた包接化合物が、バインダー成分としての両親媒性高分子化合物によって結合され集合体を形成しており、シクロデキストリン包接化合物含有組成物が水と接触しても、それに含まれる包接化合物が変質したり包接化合物からゲスト化合物が脱離することを防止又は減少させる。
【0008】
本方法においては、第1ステップが、前記包接化合物と水とを含有する包接化合物水組成物と、両親媒性高分子化合物を含有する両親媒性高分子化合物水組成物と、を混合することで行われるものであってもよい。
包接化合物と両親媒性高分子化合物とを水相中で接触させ含水の第1組成物を形成する第1ステップが、包接化合物と水とを含有する包接化合物水組成物と、両親媒性高分子化合物と水とを含有する両親媒性高分子化合物水組成物と、を混合することで行われるようにすれば、包接化合物と両親媒性高分子化合物とのいずれも予め水と混合され、包接化合物と水との混合物(包接化合物水組成物)と、両親媒性高分子化合物と水との混合物(両親媒性高分子化合物水組成物)と、を混合するので、包接化合物と両親媒性高分子化合物とをむらなく混合することができる。このように包接化合物と両親媒性高分子化合物とが十分混合されることで、第2ステップにて脱水した際、包接化合物が両親媒性高分子化合物によってむらなく結合することができる。
【0009】
本方法においては、シクロデキストリンとゲスト化合物との合計質量m3に対する両親媒性高分子化合物の質量w4の割合(w4/m3)が0.03〜0.24であってもよい。
割合(w4/m3)はあまり大きいと第1ステップにおいて包接化合物からゲスト化合物の脱離を促進させ、逆に、該割合(w4/m3)があまり小さいとシクロデキストリン包接化合物含有組成物が水と接触した際の包接化合物の変質や包接化合物からのゲスト化合物の脱離をうまく減少や防止することができないので、これら両条件を満たす範囲とされてもよく、通常、0.03〜0.24とされてもよい。
【0010】
本方法においては、両親媒性高分子化合物が、エチレン・アクリル酸共重合体及び/又はエチレン酢酸ビニル共重合体であってもよい。
エチレン・アクリル酸共重合体及びエチレン酢酸ビニル共重合体は、1分子中に親水基と疎水基とをバランス良く併せ持つ高分子化合物とすることができ、両親媒性高分子化合物としてエチレン・アクリル酸共重合体及び/又はエチレン酢酸ビニル共重合体を用いることで、包接化合物を結合させるためのバインダー成分としてうまく機能できる。
【0011】
本方法においては、第2ステップが、第1組成物を噴霧乾燥することで脱水するものであってもよい。
第1組成物を脱水する第2ステップにおいて、第1組成物を噴霧乾燥法によって脱水(乾燥)すれば、シクロデキストリン包接化合物含有組成物が球形状をほぼなす。比表面積(単位体積当たりの表面積)が小さな球形状をシクロデキストリン包接化合物含有組成物(実施例等におけるCD包接物)がなしていれば、シクロデキストリン包接化合物含有組成物(CD包接物)が水と接触しても水と接触する比表面積が小さいので、水と接触することによるシクロデキストリン包接化合物含有組成物(CD包接物)に含まれる包接化合物の変質やそれからのゲスト化合物の脱離をうまく減少や防止することができる。
【0012】
本方法においては、第2ステップに先立ち、第1組成物をホモゲナイズするものであってもよい。
包接化合物と両親媒性高分子化合物とを水相中で接触させ混合した第1組成物においては、包接化合物と両親媒性高分子化合物とが十分混合されている方が、第2ステップによって第1組成物が脱水されて形成されるシクロデキストリン包接化合物含有組成物が均一に近い組織を有することから好ましい。このため第2ステップに先立ち第1組成物をホモゲナイズすることで、包接化合物と両親媒性高分子化合物とを十分混合するようにしてもよい。
【0013】
本発明は、シクロデキストリンにゲスト化合物を包接させた包接化合物を含むシクロデキストリン包接化合物含有組成物(以下、「本組成物」という。)も提供する。
即ち、本組成物は、本方法により製造されうるシクロデキストリン包接化合物含有組成物である。本組成物は、前述の如く、シクロデキストリンにゲスト化合物を包接させた包接化合物が、バインダー成分としての両親媒性高分子化合物によって結合され形成された集合体をなしている。本組成物が水と接触しても、それに含まれる包接化合物が変質したり包接化合物からゲスト化合物が脱離することを防止又は減少させる。
【0014】
本組成物は水と接触しても、本組成物に含まれる包接化合物が変質したり包接化合物からゲスト化合物が脱離することを防止又は減少させることができるので、水と本組成物が接触するような用途にも本組成物を用いることができる。
例えば、製紙工程において多量の水が存在するパルプ懸濁液に本組成物を添加することで、本組成物が付着した紙を製造することもできる。即ち、本組成物が添加されたパルプ懸濁液を用いて製紙工程を行うことで、本組成物が付着した紙を製造できる。かかる紙に付着した本組成物は製紙工程において水と接触しても包接化合物が変質することやその包接化合物からのゲスト化合物の脱離は大幅に抑制されるので、本来の包接化合物に応じた性質を紙に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】CD包接物を水分散させた後の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】CD包接物(シクロデキストリン包接化合物含有組成物)からのゲスト化合物の放出実験に用いる徐放速度測定装置を示す概念図である。
【図4】CD包接物担持紙からのゲスト化合物の放出実験に用いる徐放速度測定装置を示す概念図である。
【図5】両親媒性高分子化合物とその添加量に対するF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)の変化を示すグラフである。
【図6】空気恒温槽の温度を変化させた際のF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)の変化を示すグラフである。
【図7】実施例1のCD包接物からのゲスト化合物の放出実験の結果を示すグラフである。
【図8】CD包接物担持紙からのゲスト化合物の放出実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図1を参照しつつ説明する。
本発明は、シクロデキストリンにゲスト化合物を包接させた包接化合物と、両親媒性高分子化合物と、を水相中で接触させ、含水の第1組成物を形成した後、第1組成物を脱水し、該包接化合物を含む固体(シクロデキストリン包接化合物含有組成物)を得ることを特徴とするものであり、ここでは図1に示すようにCD包接体水混合物17(包接化合物と水とを含有する包接化合物水組成物)と両親媒性高分子化合物液19(両親媒性高分子化合物と水とを含有する両親媒性高分子化合物水組成物)とを混合20し(包接化合物と両親媒性高分子化合物との水相中での接触)、ホモゲナイズ23を行った後、乾燥27させることでCD包接物29(シクロデキストリン包接化合物含有組成物)を製造する。
【0017】
CD包接体水混合物17は、ここではCD水混合物11とゲスト化合物13とを水相中で混合して調製する。
(CD水混合物11)
シクロデキストリン(CD)水混合物11は、シクロデキストリン(CD)を水に混合することで調製する。
シクロデキストリンは、グルコースの重合度がそれぞれ6、7及び8であるα型(重合度6)、β型(重合度7)及びγ型(重合度8)が存在するが、ここではα型、β型及びγ型のいずれか1種又は2種以上の混合物を好適に用いることができる。また、CDのグルコース1単位は水酸基を3つ有しており(例えば、β型(重合度7)のCDの1分子には修飾可能な水酸基が21個存在する)、これらの水酸基を化学修飾したCDを用いることもできる。1分子のCD中に存する水酸基(nt個)のうち化学修飾された水酸基(nc個)の割合(100×nc/nt)は、0%(修飾無し)以上100%(全ての水酸基が修飾)以下でよい。これら水酸基の化学修飾は、メチル化やヒドロキシプロピル化等を例示として挙げることができるがこれに限定されるものではなく、目的のゲスト化合物13(後述)を所望程度包接できるものであればよい。加えて、CDは水溶性、難水溶性及び不溶性のいずれであってもよく、水に溶解しない場合にはスラリー状態のCD水混合物11としてもよい(即ち、CD水混合物11としてはCD水溶液、CDスラリー液及びこれら両者の混合物のいずれであってもよい。)。
【0018】
使用するCD水混合物11は、CDの濃度があまり高いと、CD自体が水に均一に分散している状態にならず、後に添加するゲスト化合物13がうまく分散されないため、ゲスト化合物13がCDに均一に包接されない(不均一な包接)。逆に、CD水混合物11におけるCD濃度があまり低いと後述の乳化液25の溶液量が多くなり、最終的な乾燥工程27でのCDからのゲスト化合物13の脱離(揮発)が増加し、CD包接物29の収率が低下するので、これら両条件を満たす範囲とされてもよく、通常、30〜70%(CD水混合物11全質量w5に対するCD水混合物11中のCD質量w6の割合(100×w6/w5))の濃度範囲とされてもよい。
CD水混合物11の調製は、例えば、容器中に注入した水(例えば、蒸留水)を室温下で攪拌しつつ、CDを徐々に加えることで行ってもよい。
【0019】
(ゲスト化合物13)
用いるゲスト化合物13としては、CD水混合物11に含まれるCDの環空孔(環状構造の中空部分)に包接可能な化合物(揮発性の化合物が特に好ましい)を特に制限なく用いることができる。
ゲスト化合物13の一例を挙げれば、次の如きである。例えば、香料や抗菌剤に用いられる精油に含まれる成分を挙げることができ、具体的には、天然の樹木、枝葉、根茎、木皮、果実等を原料とし、該原料を水蒸気蒸留、圧搾、各種抽出法に供し得られる天然の精油成分(例えば、ヒバオイル、ミント精油、レモングラス精油等)を使用してもよい。かかる天然の精油成分は、植物に含まれる天然物であることから、人体に対する安全性が高く好ましいが、ゲスト化合物13は天然物に限定されるものではなく、人為的に合成された合成品を用いてもよい。
天然の精油成分の例としては、テルペン(リモネンなどのテルペン炭化水素、テルペンアルコール、テルペンアルデヒド、テルペンケトン、テルペンオキシド等)やイソチオシアン酸アリル(カラシやワサビの辛味成分として知られる)等の物質が挙げられる。これら精油成分は、1種類のみを用いても、また2種以上のものを混合して用いてもよい。また、CDの環空孔に包接可能であれば、2種類以上の物質を混合して用いることができる(1の環空孔に2種類以上の物質が包接される場合と、各環空孔には1つの物質が包接されるが各環空孔毎に包接される物質が異なる場合と、の両方の場合を含む。)。
【0020】
(混合15)
CD水混合物11中のCDにゲスト化合物13を包接させるため、CD水混合物11にゲスト化合物13を混合15する。室温のCD水混合物11にゲスト化合物13を加え、そのまま室温下にて1日撹拌することでCD水混合物11をゲスト化合物13と混合15し、包接化合物を含むCD包接体水混合物17を得る。
CD水混合物11とゲスト化合物13との混合15は、CD水混合物11中に含まれるCDのモル数Mcに対するゲスト化合物13のモル数Mgの比(Mg/Mc)があまり高いとCDに包接されないゲスト化合物13が多量に残留するのでゲスト化合物13が無駄になり、逆に、あまり低いとゲスト化合物13がCDにうまく包接されないので、これら両条件を満たす範囲とされてもよく、通常、1.0〜1.5とされてもよい(例えば、比(Mg/Mc)=1.5程度としてもよい)。
また、CD水混合物11にゲスト化合物13を加えた後の撹拌時間は、あまり短いとゲスト化合物13がCDにうまく包接できず、逆に、あまり長くしてもゲスト化合物13のCDへの包接量が増加しなくなるので、これらを両立する範囲とされてもよく、通常、12時間〜24時間としてもよい。そして、CD水混合物11にゲスト化合物13を加えた後の撹拌中の温度はあまり高いとゲスト化合物13の揮発による損失が増加し、逆に、あまり低いとCDへゲスト化合物13が包接されにくくなるので、これら両条件を満たす範囲とされてもよく、通常、10℃〜40℃とされてもよい。
なお、後述のCD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21中における、CDとゲスト化合物13との合計質量の割合は、あまり高いとCD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21の粘度が高くなることで、得られるCD包接物29の粒径が大きくなりすぎたり、得られるCD包接物29の粒が球状ではなく歪な形状になることがある。逆に、該割合があまり低いと乳化液25の溶液量が多くなり、最終的な乾燥工程27での包接化合物からのゲスト化合物13の脱離(揮発)が増加し、CD包接物29の収率低下につながるので、これら両条件を満たす範囲とされてもよく、該割合(CD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21全質量w7に対し、それに含まれるCDとゲスト化合物13との合計質量w8の割合(100×w8/w7))は、通常、25%〜40%とされてもよい。
【0021】
(両親媒性高分子化合物液19)
両親媒性高分子化合物液19としては、両親媒性高分子化合物水溶液及び両親媒性高分子化合物の水分散液(懸濁液等)を用いることができる。
両親媒性高分子化合物は、1分子中に親水基と疎水基を併せ持つ高分子化合物であり、CD包接体水混合物17に含まれている包接化合物(ゲスト化合物13がCDに包接されたもの)を集合体として形成させると共に、水中においても該集合体が保持できるものである必要がある。そのためには、両親媒性高分子化合物が有する親水性及び疎水性のバランスが重要である。即ち、両親媒性高分子化合物の親水性が高すぎると、水中でCD包接物の吸水による崩壊または包接化合物の離脱が起こり、包接化合物の保持率が低下する(水中における該集合体の保持に支障を生じうる)。そして、両親媒性高分子化合物の疎水性が高すぎると水中で分散しにくかったり浮遊してしまうなどのように取り扱いが悪くなってしまう(CD包接体を集合体として形成させることに支障を生じうる)。両親媒性高分子化合物としては、水に可溶性であるか、又は水中に両親媒性高分子化合物の粒子が水中に分散できるもの(水中に分散した状態の粒子の平均粒子径が5μm以下であることが好ましい。この平均粒子径の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用い、分散媒に蒸留水を用いて3回測定を行い、その3回の算術平均値を平均粒子径とする。)を使用してもよい。
【0022】
両親媒性高分子化合物としては、1分子中に親水基と疎水基を併せ持つことで、親水性と疎水性とをバランスよく有する物質を用いることが好ましい。親水基としては、ビニル型CH2-CHX(但しX=OH、COOH、CONH2、COOCH3、COOC2H5、COOC4H9、OCOCH3、OCOC2H5)、ビニリデン型CH2-CXY(但しX=CH3、Y=COOH、CN、COOCH3、COOC2H5COOC4H9)等が挙げられる。疎水基としては、ビニル型CH2-CHX(但しX=H、CH3、CN、Cl)、ビニリデン型CH2-CXY(但しX=Cl Y=Cl、X=CH3 Y=CH3)、ジエン型CH2−CHX-CH2CH2(但しX=H、CH3、Cl)等が挙げられる。また、両親媒性高分子化合物として、難水溶性のポリビニルアルコールのような親水性高分子でも一端固化した後には水に難溶となる水溶性高分子や、元々、水溶性の高分子を架橋剤を用いて架橋し水に難溶化した高分子等も用いてもよい。
親水性と疎水性とをバランスよく併せ持ち両親媒性高分子化合物として使用可能な物質としては、エチレン・アクリル酸共重合体やエチレン酢酸ビニル共重合体を例示的に挙げることができる。詳細には、エチレン・アクリル酸共重合体及びエチレン酢酸ビニル共重合体のいずれも、水に可溶性であるか、又は水中にこれら共重合体の粒子が分散できるもの(水中に分散した状態の粒子の平均粒子径が5μm以下であることが好ましい。この平均粒子径の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用い、分散媒に蒸留水を用いて3回測定を行い、その3回の算術平均値を平均粒子径とする。)であれば特に制限なく用いることができる。
【0023】
両親媒性高分子化合物液19としては、両親媒性高分子化合物水溶液及び両親媒性高分子化合物の水分散液(懸濁液等)のいずれの態様であってもよい。
両親媒性高分子化合物液19の両親媒性高分子化合物の濃度は、あまり高いとCD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21をうまく形成できず、逆に、あまり低いと乳化液25の溶液量が多くなり、最終的な乾燥工程27でのCDからのゲスト化合物13の脱離(揮発)が増加し、CD包接物29の大きな損失につながるので、これら両条件を満たす範囲とされてもよく、通常、該濃度(両親媒性高分子化合物液19全体質量に対するそれに含まれる両親媒性高分子化合物の質量の割合)は、20%〜70%とされてもよい。
【0024】
(混合20)
両親媒性高分子化合物液19をCD包接体水混合物17に混合20し撹拌することで、CD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21を調製する。
混合20において、両親媒性高分子化合物液19のCD包接体水混合物17への添加量は、両親媒性高分子化合物液19中に含有される両親媒性高分子化合物の量として規定できる。即ち、CD包接体水混合物17を調製するのに用いたCD水混合物11含有のCD(m1(g))とゲスト化合物13(m2(g))との合計質量(m3(g)=m1+m2)に対する、両親媒性高分子化合物液19中に含有される両親媒性高分子化合物の質量w4(g)の割合(w4/m3)があまり大きいとCD包接体水混合物17中の包接化合物からゲスト化合物13の脱離を促進させるので好ましくなく、逆に、該割合(w4/m3)があまり小さいとCD包接物29を水に分散させたとき、CD包接物29が水に溶解したり包接化合物からゲスト化合物13の脱離が促進され、両親媒性高分子化合物による十分な効果が得られないので、これら両条件を満たす範囲とされてもよく、通常、0.03〜0.24とされてもよい。例えば、両親媒性高分子化合物としてエチレン・アクリル酸共重合体(エチレンユニット:アクリル酸=8:2)を用いる場合には、該割合(w4/m3)は0.03〜0.24とされてもよく、後述するCD包接物29を水中に分散させる前のCD包接物29に包接されたゲスト化合物13の量(m5)に対する、CD包接物29を水中に分散させた後のCD包接物29に包接されたゲスト化合物13の量(m6)の割合(m6/m5)が、割合(w4/m3)=0.03の場合には0.327であったが(従来から知られていたリモネンのCD包接物を用いると割合(m6/m5)=0.12)、割合(w4/m3)=0.36の場合には0.347であった。
【0025】
両親媒性高分子化合物液19をCD包接体水混合物17に混合20する際の温度は、あまり高いとCD包接体水混合物17に含まれるCD包接体(包接化合物)からゲスト化合物13の脱離(揮発)が増加し、CD包接物29の損失につながり、逆に、あまり低いと両親媒性高分子化合物液19が不安定(例えば、両親媒性高分子化合物液19中の両親媒性高分子化合物がエマルジョンを形成している場合、両親媒性高分子化合物液19が凍結等するとエマルジョン粒子同士が結合することで、凍結した両親媒性高分子化合物液19を融解させてもエマルジョン状態が形成されない等の問題が生じうる。)になるので、これら両条件を満たす範囲とされてもよく、通常、5℃〜40℃とされてもよい。混合20の撹拌時間は、あまり長くしても効果の増加がなく、逆に、あまり短いとCD包接体(包接化合物)が両親媒性高分子化合物にうまく分散しないので、これら両条件を満たす範囲とされてもよく、通常、5分〜30分とされてもよい。
【0026】
(ホモゲナイズ23)
混合20により得られたCD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21を、ホモゲナイザー(例えば、キネマティカ社製の商品名「POLYTRON PT6100」)を用いてホモゲナイズ23(例えば、8000回転/分、3分間)し、乳化液25を調製する。なお、CD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21をホモゲナイズ23する目的は、CD包接体と両親媒性高分子化合物とを十分混合するためである。
【0027】
(乾燥27)
乳化液25を乾燥27させ、粉体のCD包接物29を形成する。
乳化液25の乾燥27は、噴霧乾燥法や混練法などのような公知のCDマイクロカプセル調製方法で実施することができる。
噴霧乾燥法により形成されるCD包接物29は球形状をなす。比表面積(単位体積当たりの表面積)が小さな球形状をCD包接物29がなしていれば、CD包接物29が水と接触しても水と接触する比表面積が小さいので、水と接触することによるCD包接物(包接化合物)の劣化(例えば、吸水による崩壊、ゲスト化合物13の離脱等)を防止又は減少させることができる。この点からは乾燥27は噴霧乾燥法とすることが好ましい。
このようにして得られるCD包接物29は、顕微鏡下ではクラスター状や球状の形態を有し、従来から知られていたCD包接物(包接化合物)に比し、後述のように水分との接触による劣化(例えば、吸水による崩壊、ゲスト化合物13の離脱等)を防止又は減少させることができる。
【0028】
(CD包接物29の性質)
以上のようにして得られるCD包接物29は、次に挙げる性質を有する。
(1)水分との接触
従来の包接化合物に比し、CD包接物29は水との接触による包接化合物の水中溶解やゲスト化合物の離脱が小さい。
(2)形態
CD包接物29は、顕微鏡下でクラスター状や球状の形態を呈する。
(3)ゲスト化合物の放出
CD包接物29は、周囲の雰囲気中の湿度増加に伴ってゲスト化合物の放出量が増加する(相対湿度が約70%よりも大きくなると、放出量が顕著に増加する。)。
なお、このゲスト化合物の放出量の湿度従属性は、CD包接物29を担持した紙に関しても同様の傾向を示す。
(4)CD包接物29を担持した紙の抗菌性
ゲスト化合物13として、抗菌性を有するもの(例えば、ヒバオイル)を選択すれば、該紙が抗菌性を発揮する。
【0029】
(紙の製造工程)
CD包接物29を担持(付着)した紙を次のように製造することができる。
CD包接物29が添加されたパルプの懸濁液を抄紙原料として抄紙することで、CD包接物29を紙に含有させることができる。
ここで用いるパルプの懸濁液は、所望の紙に対応した従来から用いられているものと同様のものを用いることができ、それにCD包接物29を添加して従来と同様の抄紙工程を行うことで、CD包接物29を含有した紙を製造できる。即ち、従来の抄紙原料であるパルプ懸濁液にCD包接物29を添加することにより、従来と同様の紙製造工程に従いCD包接物29を含有した紙を製造できる。
パルプ懸濁液へのCD包接物29の添加量は、あまり少ないとCD包接物29が十分紙に含まれず、逆に、あまり多いと紙に担持されなかったCD包接物29が抄き工程におけるトラブル原因(例えば、CD包接物29が抄き網に付着し網目を閉塞させる等)となり得るので、これら両条件を満たす範囲とされてもよく、通常、30%〜70%((CD包接物29質量)/(パルプ懸濁液質量))とされてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例においても、上述の図1を参照しつつ、実験操作を説明する。
(CD水混合物11の調製)
表1に、実施例1〜22及び比較例1の実験条件をまとめた。表1も参照しつつ、実験操作について説明する。
実施例1〜22及び比較例1のいずれも、ビーカーに蒸留水w9(g)を入れ攪拌(室温下)しつつ、β-シクロデキストリン(β−CD、シクロケム株式会社製)m1(g)を徐々に加え、CD水混合物11を調製した。
【0031】
【表1】

【0032】
(CD包接体水混合物17の調製)
実施例1〜22及び比較例1のいずれも、上述のようにして調製されたCD水混合物11に含まれているCDのモル数のRm倍のモル数に相当するm2(g)のゲスト化合物13をCD水混合物11に混合15し、その後、室温で1日(24時間)攪拌してCD包接体水混合物17を調製した(ここでは、後述のCD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21全体に対する、CD(m1(g))とゲスト化合物13(m2(g))との合計質量((m1+m2)(g))の割合は、表1中の「全重量に占めるCDおよびゲスト化合物の合計重量の濃度」の欄に示した通り、実施例5及び実施例6はそれぞれ25%及び20%としたが、その他の実施例及び比較例はいずれも40%とした。)。ここではゲスト化合物13として、ナカライテスク株式会社製の商品名「d-リモネン」(型番20503−55)及び有限会社キセイテック社製の商品名「青森ヒバ精油」(青森ヒバオイル)を用いた。
【0033】
(両親媒性高分子化合物液19の調製)
実施例1〜22のいずれも、両親媒性高分子化合物液19として、ビーカーに蒸留水w3(g)を入れ攪拌(室温下)しつつ、両親媒性高分子化合物w4(g)を徐々に加え、両親媒性高分子化合物液19を調製した。 なお、比較例1については、両親媒性高分子化合物液19を用いなかった。
ここでは両親媒性高分子化合物として、株式会社セイシン企業社製の商品名「ベターゾル」(成分:エチレン・アクリル酸共重合体(エチレンユニット比率80%)、固形分量:20%。表1においては「エチレンアクリル酸(エチレン約80%)」と示した。)、住友化学株式会社製の商品名「スミカフレックス752」(成分:エチレン酢酸ビニル共重合体(エチレンユニット比率10%)、固形分量:50%。表1においては「エチレン酢酸ビニル(エチレン約10%)」と示した。)、住友化学株式会社製の商品名「スミカフレックス755」(成分:エチレン酢酸ビニル共重合体(エチレンユニット比率25%)、固形分量:50%。表1においては「エチレン酢酸ビニル(エチレン約25%)」と示した。)、住友化学株式会社製の商品名「スミカフレックス408」(成分:エチレン酢酸ビニル共重合体(エチレンユニット比率40%)、固形分量:50%。表1においては「エチレン酢酸ビニル(エチレン約40%)」と示した。なお、表1の実施例22の両親媒性高分子化合物の表示は「エチレンアクリル酸」として示しているが、これは前述の「エチレンアクリル酸(エチレン約80%)」に同じである。)を用いた。
【0034】
(CD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21の調製)
実施例1〜22のいずれも、CD包接体水混合物17((w9+m1+m2)(g))に両親媒性高分子化合物液19((w3+w4)(g))を加え、室温で30分間攪拌し(混合20)、CD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21を調製した。両親媒性高分子化合物の添加量w4(g)が、CDの質量m1(g)とゲスト化合物13の質量m2(g)の合計質量(m3(g)=m1+m2)(g)に対する割合(100×w4/m3)を表1中「添加量」(%)として示した。
なお、比較例1については、CD包接体水混合物17に両親媒性高分子化合物液19を加えることなく、室温で30分間攪拌し(混合20)、CD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21に代わる液を調製した。
【0035】
(乳化液25の調製)
実施例1〜22及び比較例1のいずれも、CD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21(実施例1〜22)又はCD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21に代わる液(比較例1)をホモジナイザー(キネマティカ社製の商品名「POLYTRON PT6100」)に供し、ホモジナイザーの運転条件8000回転/分にて3分間ホモゲナイズ23し、乳化液25を得た。
【0036】
(CD包接物29の調製)
実施例1〜22及び比較例1のいずれも、大川原化工機株式会社製の噴霧乾燥機(型番L-8型)を用い、それぞれの乳化液25を噴霧乾燥させ(乾燥27)、CD包接物29を調製した。噴霧乾燥機の運転条件は、入口温度200℃、出口温度150℃、アトマイザー速度10000回転/分、原料装入速度(エマルジョンフィード速度)30ml/分、空気流量110kg/時であった。
【0037】
(CD包接物29の水分接触の影響評価実験)
CD包接物29が水分と接触することを含む工程(例えば、湿式の抄紙工程、繊維への加工等)においてCD包接物29が使用された場合の影響(具体的には、水への溶解性やゲスト化合物13の保持性)を評価した。水分接触を伴う工程として湿式の抄紙工程をモデルとし、CD包接物29を水に分散させ、水分散前後の重量変化及びゲスト化合物の保持性を算出した。ここではCD包接物29として、表1中の実施例1〜6のCD包接物29を用いた。
【0038】
水300mlにCD包接物29を1.8gを添加し、室温下で1時間撹拌して水中に分散させ分散液とし、その前後の重量変化及びゲスト化合物の保持量を算出した。また、水に対するCD包接物29の割合を低下させたものとして、水1.5LにCD包接物29を1.8gを添加し、室温下で0.5時間及び1時間撹拌して水中に分散させ、その前後の重量変化及びゲスト化合物の保持量も算出した。
具体的には、水分散前後の重量変化は、分散液を減圧濾過(濾紙は桐山ロート用濾紙 No.5C(φ60mm)を用いた)により濾過し、CD包接物を回収してその回収したCD包接物を105℃にて30分間乾燥させ、乾燥後得られたCD包接物の質量を測定した。
【0039】
水分散前後のゲスト化合物の保持量は、水分散前の1.8gのCD包接物29のサンプルと、上記の水分散後に回収したCD包接物のサンプルと、の両サンプルにそれぞれに含有されるリモネン(ゲスト化合物13)の量を下のような方法により評価した。即ち、CD包接物1 gに対し、蒸留水40 mL と抽出用クロロホルム(1 μ L/mL シクロヘキサノンを含む)10 mL とを加え(例えば、CD包接物1.8gの場合は、蒸留水72 mL と抽出用クロロホルム(1 μ L/mL シクロヘキサノンを含む)18 mL とを加える。)、抽出混合物を調製した。フラスコに注入したこの抽出組成物を80 ℃の恒温水槽中で30分間(但し10分毎にボルテックスミキサーで約10秒間撹拌を行った。)熱水抽出を行った。抽出の後、室温で冷ました後、3000rpmで10分間遠心分離した。遠心分離により油層と水層が分離した抽出組成物から、10 μLマイクロシリンジを用い油層を1μ L分取し、ガスクロマトグラフィー(GC-14B, SHIMADZU)に注入し測定した。測定は1サンプルにつき2回ずつ行い、その平均を測定値とした。リモネン量は、注入したスタンダード溶液中のリモネン量に対するピーク面積の比より求めた。1.8gのCD包接物29のサンプルに含まれるリモネン量(質量:水分散前リモネン量(g))に対する濾残(全量)のサンプルに含まれるリモネン量(質量:水分散30分リモネン量(g)、水分散60分リモネン量(g))の割合(%)を「リモネン残存率」(%)」とした。
【0040】
なお、湿式の抄紙工程においてCD包接物29を紙に抄き混む場合には、パルプにCD包接物29を付着させる段階(以下、「前段階」)、その後、CD包接物29を付着させたパルプを抄紙する段階(以下、「後段階」)の2つがあり、両段階ともCD包接物29は大量の水に接触する。
前段階では、通常、パルプ重量が1%になるように水に分散され、CD包接物29は、パルプ重量に対して60重量%を添加するものと予想される。後段階では、CD包接物29を定着させたパルプが抄紙段階でさらに水に希釈されながら抄紙されていく。このため水300mlにCD包接物29を1.8gを添加した実験は前段階の状態を近似し(以下、「前段階近似実験」)、水1.5LにCD包接物29を1.8gを添加した実験は後段階の状態を近似する(以下、「後段階近似実験」)と考えられる。
【0041】
(CD包接物29の水分接触の影響評価実験の結果)
(前段階近似実験)
従来のCD包接体と考えられる比較例1のCD包接物と、実施例1〜6のCD包接物29と、の間で前段階近似実験においては重量変化及びゲスト化合物保持性に関し大きな差は観察されなかった。これは、室温における水に対する各種のCD包接体の溶解度(g/100ml)は、約0.1g/100ml程度と考えられる。この前段階近似実験で使用した水の量は300mlであり、溶解度が0.1g/100ml程度と考えれば、溶解量は0.3g/300ml程度である。CD包接体の添加量が溶解度以上であるため、このモデルでは大きな差が生じなかったものと考えられる。
【0042】
(後段階近似実験)
水分散前後の重量変化に関する実験結果(後段階近似実験)を表2に示し、ゲスト化合物の保持性に関する実験結果(後段階近似実験)を表3に示した。
【0043】
【表2】

【0044】
表2によれば、比較例1は水分散後(水分散60分)においてCD包接物の重量保持率が6.7%であるのに比較し、実施例1〜6は水分散後(水分散60分)のシクロデキストリン包接物の重量保持率28〜42%と4〜6倍の保持率を示した。このことからCD包接物29は、水中での溶解が減少していることが明らかになった。
【0045】
【表3】

【0046】
表3によれば、比較例1は水分散後(水分散60分)においてリモネン残存率が約12%であるのに比較し、実施例1〜6は水分散後(水分散60分)のリモネン残存率が約30〜49%と2.5〜4倍程度の保持率を示した。このことからCD包接物29は、水中でのゲスト化合物の脱離が減少していることが明らかになった。また、エチレンアクリル酸を12%以上添加しても、リモネン残存率はほぼ一定であることから、エチレンアクリル酸をこれ以上添加してもリモネン残存率のさらなる増加をもたらさない。
【0047】
(CD包接物29の形態観察)
CD包接物29を走査型電子顕微鏡により形態観察を行った。その結果、CD包接物29の形態は、実施例1、7〜9、12、13、17のときはクラスター状となり、実施例2〜6、10、11、14〜16、18〜21のときは球状となっていた。
また、水に分散させた後のCD包接物29も走査型電子顕微鏡により形態観察を行った。この水分散後のCD包接物29は、水300ml にCD包接物29を1.8g添加し、室温下で1時間撹拌して水中に分散させ分散液とし、分散液を減圧濾過(濾紙は桐山ロート用濾紙 No.5C(φ60mm)を用いた)により濾過し、CD包接物を回収した。その回収したCD包接物を105℃にて30分間乾燥させ、形態観察用の水分散後CD包接物29とした。水分散後のCD包接物29の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。図2中の実施例の番号は表1中の実施例の番号に対応している。図2中、横方向は両親媒性高分子化合物の種類をとり、縦方向には両親媒性高分子化合物の添加量(w4/m3)をとって示した。
【0048】
水分散後のCD包接物29の形態は、用いる両親媒性高分子化合物の疎水性が高いほど(疎水性は低い方から、エチレン酢酸ビニル(エチレン約10%)、エチレン酢酸ビニル(エチレン約25%)、エチレン酢酸ビニル(エチレン約40%)、エチレンアクリル酸(エチレン約80%)の順である。)、水分散前の形状を維持している。
以上のように元のCD包接物29の形態がクラスター状となるか球状になるかは、用いる両親媒性高分子化合物の種類や添加量(w4/m3)によって決まる。例えば、エチレンアクリル酸共重合体(エチレンユニット:アクリル酸=8:2)の場合は、3%添加で球構造を形成し、6%以上添加することで水分散後でも球形状を維持できる。一方、エチレン酢酸ビニル共重合体の場合、エチレンユニットの割合が低いものほど親水性が高く成膜性が高いので、低濃度でも球構造を形成する。しかし、水分散後には、逆にエチレンユニットの割合が低いものは、高い親水性のため、低濃度では球形状を維持できない。水分散後に球形状を維持するためには、12%以上の添加が必要である。
【0049】
(抄紙実験)
パルプ3g(絶乾換算重量)を水300mlに添加し、十分に撹拌した。
次に、CD包接物29を対パルプ重量に対して50%(1.5g)添加し、十分に撹拌した。
その後、定着剤としてカチオン系ポリアクリルアミド(明成化学工業株式会社製の商品名「ファイレックス」(型番RC104))、アニオン系ポリアクリルアミド(明成化学工業株式会社製の商品名「ファイレックス」(型番M))を各1%(対パルプ重量。即ち、各0.03g)添加して十分撹拌した(これによりCD包接物29がパルプに付着する)。
そして、ポリエチレンオキシド系抄紙用粘剤(明星化学工業社製の商品名「アルコックス」(型番K2))を0.03g(パルプ重量に対して1%)加えた後、角形シートマシン(抄紙面積25×25cm)で抄紙し、プレス圧0.5MPaで圧搾後、回転式乾燥機によりドライヤ温度105℃で2分間乾燥して、CD包接物担持紙を得た。
【0050】
(CD包接物からのゲスト化合物の放出実験)
CD包接物29からゲスト化合物13がどのように放出されるか実験した。
放出実験は、図3に概念図を示す徐放速度測定装置101を用いた。まず、図3を参照して、徐放速度測定装置101について説明する。徐放速度測定装置101は、大まかには、調湿ガス作製部111と徐放速度測定部131とを備えてなる。
【0051】
調湿ガス作製部111は、バイパス部113と湿度付与部118とを有してなる。バイパス部113は、図示しない加圧窒素ガス源(ここでは具体的には加圧窒素ガスボンベ)からの窒素ガス(キャリアガス)を流通させるバイパス管部115と、バイパス管部115を流通する窒素ガスの流量を調整するバイパス流量調整弁117と、を含んでなり、バイパス流量調整弁117にて流量調整された該加圧窒素ガス源からの窒素ガスをそのままの湿度で後述の合流点127に導入する。湿度付与部118は、該加圧窒素ガス源からの窒素ガスを流通させる湿度付与部管部119と、湿度付与部管部119を流通する窒素ガスの流量を調整する湿度付与部流量調整弁121と、湿度付与部管部119を流通する窒素ガスを水中でバブリングさせ窒素ガスと水とを接触させることによって窒素ガスに湿気(バブリング瓶123中の水温における飽和湿度)を付与するバブリング瓶123と、バブリング瓶123を所定の温度に保持する恒温水槽125(詳細には、恒温水槽125は、バブリング瓶123を潜入させる水125dが注入された水槽本体125aと、水槽本体125aの中の水125dに潜入し水125dを加熱するヒータ125bと、水125dの温度が所定温度に保持されるようヒータ125bから水125dに与える熱を制御するプログラム温度調節計125cを、を含んでなる。)と、を含んでなり、湿度付与部流量調整弁121にて流量調整された該加圧窒素ガス源からの窒素ガスにバブリング瓶123にて加湿し後述の合流点127に導入する。バイパス部113のバイパス流量調整弁117にて流量調整された窒素ガス(乾燥)と、湿度付与部118の湿度付与部流量調整弁121にて流量調整された窒素ガス(加湿。バブリング瓶123中の水温における飽和湿度)と、はバイパス管部115及び湿度付与部管部119の合流点127にて混合され、該混合され調湿された窒素ガスは徐放速度測定部131に流入する。なお、徐放速度測定部131に流入する窒素ガスの調湿は、バイパス流量調整弁117及び湿度付与部流量調整弁121の調整(湿度付与部流量調整弁121の開度が大きいほど、徐放速度測定部131に流入する窒素ガスの湿度が増加する)と、バブリング瓶123が潜入した水125dの温度調整(プログラム温度調節計125cの水125dの設定温度を上昇させるほど、徐放速度測定部131に流入する窒素ガスの湿度が増加する)と、によって調節できる。
【0052】
徐放速度測定部131は、調湿ガス作製部111から送り込まれる湿度を含んだ窒素ガスを徐放速度測定部131の設定温度(空気恒温槽143の設定温度)まで十分に暖めるための鋼管コイル132(螺旋状の内部流路が形成されており、合流点127からの窒素ガスが該内部流路を流通する。)と、鋼管コイル132から流出した窒素ガスが流入する放出容器133(具体的には、内径16mm,高さ80mmの直円柱状の内部空間を有する気密のガラス瓶)と、放出容器133から流出したガスを分取するガスサンプラー135と、ガスサンプラー135によって分取されたガス中の湿度を測定する湿度計137と、ガスサンプラー135によって分取されたガス中のリモネン(ゲスト化合物13)濃度を測定するガスクロマトグラフ分析器139と、ガスサンプラー135を制御するサンプラー制御装置141(詳細には、圧縮空気を断続する電磁弁141aと、電磁弁141aを所定間隔で断続させるタイマー141bと、電磁弁141aにより圧縮空気が供給されるとガスサンプラー135を動作させるエアーアクチュエータ141cと、を含んでなる。)と、鋼管コイル132と放出容器133とガスサンプラー135と湿度計137とを一定温度下にて収容する空気恒温槽143(図3中、点線にて示す)と、を含んでなる。
【0053】
放出容器133には、放出実験に供するサンプル148(CD包接物29)が底部に装入されている。このため調湿された窒素ガスは、サンプル148が内部空間に存する放出容器133に流入し、該内部空間にてサンプル148から放出された成分を同伴して放出容器133から流出する。放出容器133から流出した窒素ガスは、ガスサンプラー135により通常は湿度計137に導入されることで湿度を測定しつつ、ガスサンプラー135によりガスクロマトグラフ分析器139に所定の間隔にて導入することで、それに含有されるリモネン(ゲスト化合物13)濃度を測定した。
なお、サンプル148は、内径9mm, 深さ1mm(直円柱形状の内部空間)の有底無蓋のアルミ製容器に振動を加えながら充填し、その後、スパーテルですり切りし、重量測定後に放出容器133底部にセットした。このためサンプル148の放出容器133内部空間における表面積Aは、有底無蓋の中空の直円筒形状のアルミ製容器に試料(サンプル)を装入した場合の試料の上面の見かけ表面積であり、具体的には4.5mm×4.5mm×3.14である。
【0054】
サンプル148からのゲスト化合物13(リモネン)の「単位質量及び単位面積当たりの徐放速度F」の算出は次に示す式によって計算した。
(数式1)N=v×Cg
(数式2)F=N/(A・m)
但し、数式1及び数式2の各文字は次のものを表す。
N: 徐放速度 [g/s]
A: 表面積 [cm2]
v: 窒素ガス流量 [mL/s]
m : CD包接物の質量 [g]
Cg: リモネン濃度 [g/mL]
F: 単位質量及び単位面積当たりの徐放速度 [g/s?cm2?g]
これらのうち、vはバイパス流量調整弁117と湿度付与部流量調整弁121との合計流量とし、Cgはガスクロマトグラフ分析器139でのリモネン濃度分析値とし、Aは試料の見かけ表面積であり、具体的には4.5mm×4.5mm×3.14とし、mは放出容器133底部にセットしたサンプル148の質量とした。
【0055】
いずれの実験も、バイパス流量調整弁117及び湿度付与部流量調整弁121の調整と、水125dの温度調整と、を併用しつつ雰囲気湿度を変化させた。
ここではCD包接物29として、表1中の実施例1〜5、7〜21、比較例1用いた
実験結果を図5及び図6に示した。
【0056】
図5は、用いる両親媒性高分子化合物とその添加量(w4/m3)に対するゲスト化合物(ここではリモネン)のF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)の変化を評価したものである。用いる両親媒性高分子化合物としては、エチレン酢酸ビニル(エチレン約10%)、エチレン酢酸ビニル(エチレン約25%)、エチレン酢酸ビニル(エチレン約40%)及びエチレンアクリル酸(エチレン約80%)の4種類を用い、各両親媒性高分子化合物それぞれにおいて、両親媒性高分子化合物の添加量を3%(実施例1、7、12、17)とした場合(図5中、●にてプロットした)、両親媒性高分子化合物の添加量を6%(実施例2、8、13、18)とした場合(図5中、□にてプロットした)、両親媒性高分子化合物の添加量を9%(実施例3、9、14、19)とした場合(図5中、◆にてプロットした)、両親媒性高分子化合物の添加量を2%(実施例4、10、15、20)とした場合(図5中、△にてプロットした)、そして両親媒性高分子化合物の添加量を24%(実施例5、11、16、24)とした場合(図5中、○にてプロットした)を示した。
図5においては、両親媒性高分子化合物それぞれについて横軸に関係湿度(相対湿度とも言う)をとると共に、縦軸にF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)をとり、そして「Ramp rate」とは1分間当たり増加させる相対湿度の増加速度を示し、ここでは毎分0.375%とした。
【0057】
図6は、比較例1、実施例1、実施例2及び実施例18それぞれについて空気恒温槽143(即ち、放出容器133の内部空間内のサンプル148及びそれに接触する窒素ガスの温度)の温度を変化させてF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)の変化を評価したものである。比較例1は両親媒性高分子化合物を使用せず、実施例1は両親媒性高分子化合物としてエチレンアクリル酸(エチレン約80%)を添加量(w4/m3)=3%としたものであり、実施例2は両親媒性高分子化合物としてエチレンアクリル酸(エチレン約80%)を添加量(w4/m3)=6%としたものであり、そして実施例18は両親媒性高分子化合物としてエチレン酢酸ビニル(エチレン約10%)を添加量(w4/m3)=6%としたものである。そして、比較例1、実施例1、実施例2及び実施例18いずれも空気恒温槽143の温度を60℃としたときのものを●にてプロットし、50℃としたときのものを□にてプロットし、そして40℃としたときのものを▲にてプロットした。図6においては、比較例1、実施例1、実施例2及び実施例18それぞれについて横軸に関係湿度(相対湿度とも言う)をとると共に、縦軸にF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)をとり、そして上述の「Ramp rate」はここでも毎分0.375%とした。
【0058】
図5及び図6から、用いる両親媒性高分子化合物とその添加量(w4/m3)に対するゲスト化合物(ここではリモネン)のF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)の変化を評価した。エチレン基の量の異なるエチレン・アクリル酸とエチレン酢酸ビニルを用いたCD包接物からのゲスト化合物(ここではリモネン)のF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)を測定したところ、その量に違いがみられた。図6において実施例18と比較例1とを比較すると、両親媒性高分子化合物としてエチレン酢酸ビニルを用いたCD包接物(実施例18)のF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)は、従来のCD包接体(比較例1)と同等程度であったが、実施例1及び実施例2と比較例1とを比較すると、両親媒性高分子化合物としてエチレンアクリル酸を用いたCD包接物(実施例1、実施例2)のF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)は、従来のCD包接体(比較例1)の50%以下の値である(F(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)が急激に増加する関係湿度90%におけるF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)の値を比較する)。
また、図5に関しては、疎水性が高いエチレンアクリル酸(エチレン約80%)を用いたCD包接物のF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)は、親水性が高いエチレン酢酸ビニルを用いたCD包接物の約50%以下の値であった(例えば、F(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)が急激に増加する関係湿度90%におけるF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)の値を比較する)。そして、3種類のエチレン酢酸ビニルを用いたCD包接物の徐放速度は、全て同程度であり、エチレン酢酸ビニル中のエチレン量は大きく影響しないことが明らかになった。
そして、CD包接物29は、従来のCD包接体(比較例1)と同様、両親媒性高分子化合物液19としてエチレン・アクリル酸又はエチレン酢酸ビニルを用いたもの(図5及び図6中の実施例)は、相対湿度70〜90%でゲスト化合物(ここではリモネン)を放出することが明らかになった。
【0059】
(CD包接物及びCD包接物担持紙からの湿度変化によるゲスト化合物の放出量影響実験)
次いで、CD包接物及びそれを担持したCD包接物担持紙からのゲスト化合物の放出が雰囲気湿度の変化によりどのように変化するか実験した。
用いたCD包接物29及びCD包接物担持紙の製造に使用したCD包接物29としては、表1における実施例1を用いた。また、実施例1のCD包接物29を用いて上述した抄紙実験のようにしてCD包接物担持紙を形成した。
また、CD包接物担持紙の抄紙に用いた実施例1のCD包接物29からのゲスト化合物の放出実験は、上述した徐放速度測定装置101を用いたCD包接物からのゲスト化合物の放出実験と同様に行った。
【0060】
CD包接物担持紙からのゲスト化合物の放出実験は、図4(a)に概念図を示す徐放速度測定装置201を用いて行った。図4を参照して、徐放速度測定装置201について説明する。徐放速度測定装置201は、大まかには、調湿ガス作製部111と徐放速度測定部231とを備えてなる。徐放速度測定装置201の調湿ガス作製部111は、徐放速度測定装置101の調湿ガス作製部111と同様であるので、ここでは説明を省略する(必要に応じ徐放速度測定装置101の調湿ガス作製部111の説明を参照されたい)。徐放速度測定部231は、鋼管コイル132と、鋼管コイル132から流出した窒素ガスが流入する放出容器233(具体的には、内径20mm、高さ85mmの直円柱状の内部空間を有する気密のガラス瓶)と、放出容器233から流出したガスを分取するガスサンプラー135と、ガスサンプラー135によって分取されたガス中の湿度を測定する湿度計137と、ガスサンプラー135によって分取されたガス中のリモネン(ゲスト化合物13)濃度を測定するガスクロマトグラフ分析器139と、ガスサンプラー135を制御するサンプラー制御装置141(詳細には、圧縮空気を断続する電磁弁141aと、電磁弁141aを所定間隔で断続させるタイマー141bと、電磁弁141aにより圧縮空気が供給されるとガスサンプラー135を動作させるエアーアクチュエータ141cと、を含んでなる。)と、鋼管コイル132と放出容器233とガスサンプラー135と湿度計137とを一定温度下にて収容する空気恒温槽143(図4中、点線にて示す)と、を含んでなる。これら鋼管コイル132、ガスサンプラー135、湿度計137、ガスクロマトグラフ分析器139、サンプラー制御装置141及び空気恒温槽143は、徐放速度測定装置101のものと同様であるので、ここでは説明を省略する(必要に応じ徐放速度測定装置101の各説明を参照されたい。なお、ガスクロマトグラフ分析器139の分析条件はカラム温度が異なる。)。
【0061】
放出容器233は、上述の如く気密のガラス瓶により構成されているが、その内部は図4(b)に示すように、CD包接物担持紙を支持する構造が形成されている。詳細には、図4(b)の(イ)に示す通り、円盤状の金網により形成された底部材と、上方に向かって立ち上がるように底部材に下端が固定された複数の金属製の支持棒と、を含んでなる支持物(図4(b)の(イ)に全体が映されている)を用いた。CD包接物担持紙によって形成された幅2.5cm×長さ16cmの内側用短冊紙と、CD包接物担持紙によって形成された幅2.5cm×長さ22cmの外側用短冊紙と、の2つの短冊紙を、この支持物の支持棒に図4(b)の(ロ)のように丸めて係止させ支持させた(図4(b)の(ロ)の内側に丸められているのが内側用短冊紙であり、外側に丸められているのが外側用短冊紙である。)。このように図4(b)の(ロ)の如く形成した2つの短冊紙を支持させた支持物を、図4(b)の(ハ)の通り放出容器233の内部に配置した。
【0062】
このため調湿された窒素ガスは、徐放速度測定装置101と同様、CD包接物担持紙(内側用短冊紙、外側用短冊紙)が内部空間に存する放出容器233に流入し、該内部空間にてCD包接物担持紙から放出された成分を同伴して放出容器233から流出する。放出容器233から流出した窒素ガスは、ガスサンプラー135により通常は湿度計137に導入されることで湿度を測定しつつ、ガスサンプラー135によりガスクロマトグラフ分析器139に所定の間隔にて導入されることで、それに含有されるリモネン(ゲスト化合物13)濃度を測定した。
CD包接物担持紙からのゲスト化合物13(リモネン)のF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)の算出は次に示す式によって計算した。
(数式3)N=v×Cg
(数式4)F=N/(A・m)
但し、数式3及び数式4の各文字は次のものを表す。
N: 徐放速度 [g/s]
A: 表面積 [cm2]
v: 窒素ガス流量 [mL/s]
m : CD包接物担持紙の質量 [g]
Cg: リモネン濃度 [g/mL]
F: 単位質量及び単位面積当たりの徐放速度 [g/s?cm2?g]
これらのうち、vはバイパス流量調整弁117と湿度付与部流量調整弁121との合計流量とし、Cgはガスクロマトグラフ分析器139でのリモネン濃度分析値とし、Aは190cm2(内側用短冊紙80cm2(2.5cm×16cm×2)+外側用短冊紙110cm2(2.5cm×22cm×2))とし、mは放出容器233にセットしたCD包接物担持紙の質量とした。
なお、CD包接物及びCD包接物担持紙のいずれの実験も、バイパス流量調整弁117及び湿度付与部流量調整弁121の調整と、水125dの温度調整と、を併用しつつ雰囲気湿度を変化させた。
【0063】
実施例1のCD包接物29からのゲスト化合物の放出実験の結果を図7に示し、CD包接物担持紙からのゲスト化合物の放出実験の結果を図8に示した。
図7及び図8のいずれも、横軸に時間(分)をとり、縦軸にF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)及び関係湿度をとっている(図中、▲のプロットが関係湿度を示し、■のプロットがF(単位質量及び単位面積当たりの徐放速度)を示している。)。
CD包接物29(図7)及びCD包接物担持紙(図8)のいずれも、雰囲気中の相対湿度を増減させることで、それに対応してゲスト化合物(ここではリモネン)の放出量も繰り返し増減した。このことからCD包接物29及びCD包接物担持紙のいずれも、雰囲気中の相対湿度の増減に応じて、ゲスト化合物(ここではリモネン)の放出量も繰り返し増減することが明らかになった。
【0064】
(CD包接物担持紙の抗菌性実験)
CD包接物担持紙の抗菌性をフィルム密着法(JIS-Z-2801)にて評価した。詳細には、日本紡績検査協会にて抗菌性実験を行い、試験菌は黄色ブドウ球菌とした。フィルム密着法(JIS-Z-2801)においては、コントロール菌数[A]とサンプル菌数[B]から抗菌活性値を計算し、抗菌活性値が2以上なら抗菌能が十分に示されたことになる。抗菌活性値はlog[A/B]で求められる。
CD包接物担持紙の製造に使用したCD包接物29としては、表1における実施例1及び実施例22を用いた。
【0065】
結果を表4に示す。
【表4】

【0066】
ゲスト化合物13としてリモネンを含有したCD包接物(実施例1)担持紙の抗菌活性値は0.5と抗菌性が低かったが、ゲスト化合物13として青森ヒバオイルを含有したCD包接物(実施例22)担持紙の抗菌活性値は4.6と高い抗菌性が確認された。
このことからゲスト化合物13として、揮発性の抗菌性を有する化合物を用いれば、CD包接物29が抄紙工程で水分と接触しても、抄紙され製造された紙は十分な抗菌性を発揮することが明らかになった。
【0067】
以上の通り、実施例は、シクロデキストリン(ここではm1(g)のβ-シクロデキストリン)にゲスト化合物(ここではd-リモネン、青森ヒバ精油)を包接させた包接化合物(CD包接体水混合物17に含まれる)と、両親媒性高分子化合物(ここではエチレンアクリル酸(エチレン約80%)、エチレン酢酸ビニル(エチレン約10%)、エチレン酢酸ビニル(エチレン約25%)、エチレン酢酸ビニル(エチレン約40%))と、を水相中で接触させ(混合20工程)、含水の第1組成物(ここではCD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21)を形成する第1ステップ(ここでは混合20工程)と、第1ステップ(ここでは混合20)により形成された第1組成物(ここではCD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21)を脱水し、該包接化合物を含む固体(ここではCD包接物29)を得る第2ステップ(ここでは乾燥27工程)と、を含んでなる、シクロデキストリン包接化合物含有組成物(ここではCD包接物29)の製造方法である。
【0068】
ここでは第1ステップ(ここでは混合20)が、前記包接化合物と水とを含有する包接化合物水組成物(ここではCD包接体水混合物17)と、両親媒性高分子化合物を含有する両親媒性高分子化合物水組成物(ここでは両親媒性高分子化合物液19)と、を混合することで行われるものである。
また、ここではシクロデキストリンとゲスト化合物との合計質量m3に対する両親媒性高分子化合物の質量w4の割合(w4/m3)が、表1中「添加量」(%)として示されているように、実施例1〜5、7〜22において0.03〜0.24である。
さらに、実施例のいずれも、両親媒性高分子化合物として、エチレン・アクリル酸共重合体又はエチレン酢酸ビニル共重合体を用いている。
【0069】
さらに、実施例のいずれも、第2ステップ(乾燥27工程)が、第1組成物(CD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21)を噴霧乾燥することで脱水するものである。
実施例のいずれも、第2ステップ(乾燥27工程)に先立ち、第1組成物(CD包接体・両親媒性高分子化合物分散液21)をホモゲナイズ23するものである。
以上のように、実施例により製造されるCD包接物29は、本方法により製造されうるシクロデキストリン包接化合物含有組成物である。本方法により製造されうるシクロデキストリン包接化合物含有組成物は、シクロデキストリンにゲスト化合物を包接させた包接化合物が、バインダー成分としての両親媒性高分子化合物によって結合された、シクロデキストリン包接化合物含有組成物である。
また、上記のCD包接物担持紙は、本方法により製造されうるシクロデキストリン包接化合物含有組成物が付着(担持)した紙である。かかる上記のCD包接物担持紙は、本方法により製造されうるシクロデキストリン包接化合物含有組成物が添加されたパルプ懸濁液を用いた紙の製造方法により製造されている。
【符号の説明】
【0070】
11 CD水混合物
13 ゲスト化合物
15 混合
17 CD包接体水混合物
19 両親媒性高分子化合物液
20 混合
21 CD包接体・両親媒性高分子化合物分散液
23 ホモゲナイズ
25 乳化液
27 乾燥
29 CD包接物
101 徐放速度測定装置
111 調湿ガス作製部
113 バイパス部
115 バイパス管部
117 バイパス流量調整弁
118 湿度付与部
119 湿度付与部管部
121 湿度付与部流量調整弁
123 バブリング瓶
125 恒温水槽
125a 水槽本体
125b ヒータ
125c プログラム温度調節計
125d 水
127 合流点
131 徐放速度測定部
132 鋼管コイル
133 放出容器
135 ガスサンプラー
137 湿度計
139 ガスクロマトグラフ分析器
141 サンプラー制御装置
141a 電磁弁
141b タイマー
141c エアーアクチュエータ
143 空気恒温槽
148 サンプル
201 徐放速度測定装置
231 徐放速度測定部
233 放出容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンにゲスト化合物を包接させた包接化合物と、両親媒性高分子化合物と、を水相中で接触させ、含水の第1組成物を形成する第1ステップと、
第1ステップにより形成された第1組成物を脱水し、該包接化合物を含む固体を得る第2ステップと、
を含んでなる、シクロデキストリン包接化合物含有組成物の製造方法。
【請求項2】
第1ステップが、前記包接化合物と水とを含有する包接化合物水組成物と、両親媒性高分子化合物を含有する両親媒性高分子化合物水組成物と、を混合することで行われるものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
シクロデキストリンとゲスト化合物との合計質量m3に対する両親媒性高分子化合物の質量w4の割合(w4/m3)が0.03〜0.24である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
両親媒性高分子化合物が、エチレン・アクリル酸共重合体及び/又はエチレン酢酸ビニル共重合体である、請求項1乃至3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項5】
第2ステップが、第1組成物を噴霧乾燥することで脱水するものである、請求項1乃至4のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項6】
第2ステップに先立ち、第1組成物をホモゲナイズするものである、請求項1乃至5のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1に記載の製造方法により製造されうるシクロデキストリン包接化合物含有組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のシクロデキストリン包接化合物含有組成物が付着した紙。
【請求項9】
請求項7に記載のシクロデキストリン包接化合物含有組成物が添加されたパルプ懸濁液を用いた、請求項8に記載の紙の製造方法。
【請求項10】
シクロデキストリンにゲスト化合物を包接させた包接化合物が、バインダー成分としての両親媒性高分子化合物によって結合された、シクロデキストリン包接化合物含有組成物。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−40230(P2013−40230A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176153(P2011−176153)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(307016180)地方独立行政法人鳥取県産業技術センター (32)
【出願人】(502411676)谷口和紙株式会社 (4)
【出願人】(506180383)日本農業資材株式会社 (5)
【Fターム(参考)】