説明

シクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲル、及びこれを用いた微生物固定化用担体並びに排水処理方法

【課題】芳香族化合物含有排水の処理のために有用な、芳香族化合物の取り込み作用と優れた微生物の付着作用を併せ持った微生物固定化用担体として好適な、シクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲルを提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコールをシクロデキストリンの共存下でホルムアルデヒドと反応させて得られる、又は、ポリビニルアルコール中に、シクロデキストリンとジイソシアネート化合物を反応させて得られるシクロデキストリンポリマーを分散させ、次いで、ホルムアルデヒドと反応させて得られる、シクロデキストリン含有ポリビニルアルコ−ルゲルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理に有用な微生物の固定化のための微生物固定化用担体に関し、特に、芳香族化合物含有排水の処理のために有用な微生物固定化用担体、それを用いた排水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学工場などから排出される排水中には、ベンゼン類やフェノール類などの芳香族化合物を含有するものが多い。このような芳香族化合物を含有する排水は、活性炭などの吸着材によって吸着処理したり、活性汚泥法などによって生物処理されることが多い。これにより芳香族化合物が低減された処理排水は、そのまま排出されたり、あるいは処理水として再利用されることもある。しかしながら、活性炭は高価であることから大規模施設から多量に排出される排水の処理ではあまり使用されておらず、比較的小規模施設からの排水処理に適用せざるを得ない。したがって、大規模施設からの排水処理に対しては、生物処理が行われる場合が多い。しかし、芳香族などの有機化合物は、一般に生物処理によって分解、資化され難いため、濃度が低下し難い。そのため、このような芳香族化合物を含む排水の処理には長時間を要したり、大型の装置を設置する必要があり、より迅速・簡便な排水処理方法の開発が望まれている。
【0003】
これに対し、排水中に含まれるフェノール類などの有機化合物を吸着除去するため、有機化合物を吸着し包接する作用機能を有するシクロデキストリンを利用する技術として、例えば特許文献1〜4などが提案されている。特許文献1では、少なくとも1つの有機物質、特に(−)ゲオスミン及び(+)2-メチル-イソボルネオール等の悪臭物質を除去するための水の処理方法であって、被処理水を特定の構造を有するシクロデキストリンに接触させて、そこに除去すべき有機物質を包含せしめ、シクロデキストリンから浄化した水を分離している。特許文献2では、フェノール、クレゾール、又はキシレノールを0.1〜30重量%含有する溶媒からこれらのフェノール化合物を除去するに際し、シクロデキストリンモノマーとして、β−シクロデキストリンを含有し、該シクロデキストリンモノマー1モルに対して、ジイソシアネート化合物を6〜12モルで反応されて得られるシクロデキストリンポリマーを接触させている。また、特許文献3では、シクロデキストリンとジイソシアネート化合物を反応させて得られるシクロデキストリンポリマーを、多糖類カルボン酸塩水溶液と混合する工程と、該工程による混合液をハロゲン化アルカリ土類金属塩水溶液に滴下する工程と、を経て製造された球状シクロデキストリンポリマーを使用して、フェノール類を含有する工業排水を処理している。また、特許文献4には、シクロデキストリンを表面に結合させた材料によって構成された微生物固定化担体を用いて排水を浄化する方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−507618号公報
【特許文献2】特許第4090979号公報
【特許文献3】特開2006−83379号公報
【特許文献4】特開2001−149975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにシクロデキストリンをそのまま若しくは担体に結合させて用いる方法では、シクロデキストリンが水に溶け易いため処理効率が悪い。これに対し特許文献2や特許文献3では、シクロデキストリンを水に不溶なポリマーに改質しているため、特許文献1や特許文献4のような問題は解消できる。しかし、特許文献2や特許文献3のシクロデキストリンポリマーは、表面の構造が微生物の付着に適していないため、微生物の付着量が少ないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、芳香族化合物の取り込み作用(濃縮作用)と優れた微生物の付着作用とを併せ持った微生物固定化用担体、及びこれを用いた高性能な排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段として、本発明は次の手段を採る。
(1)ポリビニルアルコールをシクロデキストリンの共存下でホルムアルデヒドと反応させて得られ、ポリビニルアルコール中にシクロデキストリンが共有結合状態で存在する、シクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲル。
(2)ポリビニルアルコールとシクロデキストリンの溶液を、高分子多糖類の存在下で金属イオンを含有する溶液と接触させてゲル化させ、次いで、ホルムアルデヒドと反応させて得られ、ポリビニルアルコール中にシクロデキストリンが共有結合状態で存在する、シクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲル。
(3)ポリビニルアルコール中に、シクロデキストリンとジイソシアネート化合物を反応させて得られるシクロデキストリンポリマーを分散させ、次いで、ホルムアルデヒドと反応させて得られる、シクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲル。
(4)前記ポリビニルアルコールの平均重合度が300〜30,000である、(1)ないし(3)のいずれかに記載のシクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲル。
(5)前記ポリビニルアルコールの平均重合度が500〜10,000である、(1)ないし(3)のいずれかに記載のシクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲル。
(6)(1)ないし(5)のいずれかに記載のシクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲルからなる、微生物固定化用担体。
(7)有機化合物を含有する排水に微生物固定化用担体を接触させて、前記排水中の有機化合物含有率を低減させる排水処理方法であって、前記微生物固定化用担体が、(6)に記載の微生物固定化用担体であることを特徴とする、排水処理方法。
(8)前記有機化合物が芳香族化合物である、(7)に記載の排水処理方法。
(9)前記芳香族化合物がフェノール化合物である、(8)に記載の排水処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリビニルアルコールにシクロデキストリンを共有結合によって導入することにより、あるいは、ポリビニルアルコール中にシクロデキストリンポリマーを分散させることにより、シクロデキストリンが本来的に有する包接作用に基づく有機化合物の取り込み(濃縮作用)効果に加え、ホルマール化ポリビニルアルコールゲルが有する優れた微生物固定化機能も併せ持つことで、排水処理能力の高い微生物固定化用担体を提供することができる。また、本発明の微生物固定化用担体を用いることによって、芳香族化合物等の有機化合物を含む排水を効率的に処理することができ、コンパクトな排水処理システムを提供することができる。さらに、連続的に排水処理を行う際に発生する余剰汚泥を低減することが可能となり、本発明の排水処理方法は非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1のCD含有PVAゲルの模式図である。
【図2】実施例1で得られたβ−CD含有PVA含水ゲルの固体13C−NMRスペクトルである。
【図3】試験例2(フェノール分解試験)におけるフェノール濃度の経時変化を示すグラフである。
【図4】本発明の排水処理システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1−1)
本発明のシクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲルは、ポリビニルアルコール(以下PVAと略記することもある)をシクロデキストリン(以下CDと略記することもある)の共存下でホルムアルデヒドと反応させることによって得られる。これにより、図1に示すように、PVAにCDが共有結合によって導入されたCD含有PVAゲルとなる。
【0011】
本発明で用いられるポリビニルアルコールは、酢酸ビニルモノマーを重合したり、ポリ酢酸ビニルを鹸化するなど公知の方法にて得ることができるが、重合する場合は、通常平均重合度が300〜30,000の範囲のものが使用され、好ましくは500〜10,000の範囲のものであり、より好ましくは1,000〜5,000の範囲のものであり、特に好ましくは1,000〜2,000の範囲のものである。平均重合度が過度に大きいと溶媒に対する溶解度が低下してシクロデキストリンの含有量が少なくなる場合があり、過度に小さいと十分な強度のゲルが得られない場合があるからである。
【0012】
本発明において用いられるシクロデキストリンとしては、グルコースユニット数が6個のα−シクロデキストリン(以下α−CDと略記することもある)、7個のβ−シクロデキストリン(以下β−CDと略記することもある)、8個のγ−シクロデキストリン(以下γ−CDと略記することもある)などが挙げられ、中でも、β−シクロデキストリンが好適である。これらのシクロデキストリンはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0013】
さらに、シクロデキストリンは、他の官能基の付加により修飾されたものであってもよい。例えば、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数8〜20の長鎖脂肪族基のいずれか、あるいはヒドロキシアルキル基、スルホン基、アルキルスルホン基などによって置換されているシクロデキストリンなどが挙げられる。
【0014】
本発明のポリビニルアルコールとシクロデキストリンの使用量としては、ポリビニルアルコールに対するシクロデキストリンの重量比(PVA/CD)が0.05〜20倍量の範囲であり、好ましくは0.1〜10倍量であり、さらに好ましくは0.5〜10倍量、特に好ましくは0.5〜5倍量の範囲である。CDの使用量が過度に小さいと得られる含水ゲルのCDの含有量が少なくて有機化合物の取り込み量が低下することで、排水の処理効率が低下する。また、CDの使用量がポリビニルアルコールに対して過度に大きくても含水ゲルとしての弾性が失われ脆くなるので、上記範囲とするのが好ましい。
【0015】
本発明のホルムアルデヒドの使用量としては、ポリビニルアルコールに対して(ホルムアルデヒド/PVA)、通常0.1〜20倍量(重量比)であり、好ましくは1〜20倍量であり、特に好ましくは2.5〜15倍量である。ホルムアルデヒドの使用量が過度に小さいと、得られる含水ゲルのCDの含有量が減少してPVAの架橋も減少するため、効果的な含水ゲル担体が得られない。また、ホルムアルデヒドの使用量が過度に大きくても、含水ゲルの物性の向上効果が頭打ちとなってコストの無駄となるので、上記範囲とするのが好ましい。なお、ホルムアルデヒドは、ホルマリンのような水溶液やパラホルムアルデヒドのような固形物など適宜選択して使用される。
【0016】
シクロデキストリンの共存下でのポリビニルアルコールとホルムアルデヒドとの反応は、溶媒中で、酸触媒の存在下で行われる。
【0017】
反応溶媒としては、反応に関与せず、反応基質をある程度溶解するものであれば特に限定されないが、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのようなアルコール類;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドのような極性有機溶媒;及びこれらの混合溶媒が用いられる。中でも、好ましくは水、アルコール類または水・アルコール混合溶媒であり、特に好ましくは水である。
【0018】
酸触媒としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸のような無機酸や、酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸のような有機酸が挙げられる。中でも、好ましくは硫酸、リン酸、メタンスルホン酸であり、特に好ましくは、硫酸である。
【0019】
反応温度としては、通常、室温〜200℃の範囲であり、好ましくは40〜150℃であり、特に好ましくは40〜120℃の範囲である。
【0020】
反応時間としては、反応温度により異なるが、通常、30分〜24時間の範囲であり、好ましくは1時間〜12時間であり、特に好ましくは1時間〜6時間である。
【0021】
かくして得られたシクロデキストリン含有PVAゲルは、所望の形に成形または成型され、微生物固定化用担体として用いられる。
【0022】
(実施形態1−2)
シクロデキストリンの共存下でのポリビニルアルコールとホルムアルデヒドとの反応は、実施形態1−1のように一段で行うこともできるが、以下のように二段に分けて行いこともできる。すなわち、まず、シクロデキストリンとポリビニルアルコールの溶液に水溶性高分子多糖類を加えた後、金属イオンを含む溶液と接触させて、球状や棒状など所望の形状のゲルを生成させ、次いで、得られたゲルをホルムアルデヒドと実施形態1−1と同様に反応させることによって行われる。
【0023】
上記水溶性高分子多糖類は、水溶性であり且つ水性媒体中で金属イオンと接触したときに水に不溶性または難溶性のゲルに変化する能力のある高分子多糖類であって、一般に約3,000〜約2,000,000、特に約5,000〜約1,500,000の範囲内の数平均分子量を有する。また、金属イオンと接触させる前の水溶性の状態で、通常少なくとも約10g/L(25℃)以上の溶解度を示すものが好適に使用される。
【0024】
かかる特性を持つ水溶性高分子多糖類としては、例えばアルギン酸のアルカリ金属塩、カラギ−ナン、ペクチン酸のアルカリ金属塩、セルロースグリコール酸のアルカリ金属塩などが挙げられる。中でも、好ましくはアルギン酸のアルカリ金属塩(好ましくは、ナトリウム塩)である。
【0025】
水溶性高分子多糖類をゲル化させる金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオンや、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、セリウムイオン、ニッケルイオンなどの多価金属イオンが挙げられる。アルギン酸のアルカリ金属塩の場合は、好ましくはマグネシウムイオン、カルシウムイオンであり、より好ましくはカルシウムイオンである。カラギ−ナンの場合は、好ましくはカリウムイオン、ナトリウムイオンである。
【0026】
ゲル化が起こるアルカリ金属イオンまたは多価金属イオンの濃度は、水溶性高分子多糖類の種類などにより異なるが、一般的には0.01〜5mol/L、好ましくは0.1〜1mol/Lの範囲内である。これらの水溶性高分子多糖類は、それぞれ単独でもしくは2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0027】
シクロデキストリンとポリビニルアルコールの溶液に水溶性高分子多糖類を加えた混合物を、金属イオンを含む溶液と接触させて、球状や棒状など所望の形状のゲルを生成させる方法としては、例えば、注射器の先端からシクロデキストリン、ポリビニルアルコールおよび水溶性高分子多糖類の混合溶液を金属イオンを含む溶液中に滴下する方法;遠心力を利用して該混合溶液を粒状に飛散させる方法;スプレーノズルの先端から該混合溶液を霧化して粒状とし滴下する方法などの方法により行うことができる。また、該混合溶液の金属イオン溶液への注加は、所望の孔径のノズル口から細い液流として連続的に供給することによって行うことができる。液滴の大きさは、最終の粒状固定化物に望まれる粒径に応じて自由に変えることができるが、滴下法では、直径が通常約0.1〜約5mm、好ましくは約0.5〜約4mmの範囲内の液滴として滴下させるのが、また、注加法では通常約0.5〜3cmの範囲内の液滴とするのが、好都合である。
【0028】
かくして得られた所望の形状のゲルは、次いで、実施形態1−1と同様にホルムアルデヒドと反応させることによって、水に実質的に不溶性で機械的強度の大きいシクロデキストリン含有PVAゲルとなり、そのまま微生物菌体固定化用成形物として使用することができる。
【0029】
(実施形態2)
また、本発明のシクロデキストリン含有PVAゲルは、PVA溶液中にシクロデキストリンポリマーを分散させ、次いで、ホルムアルデヒドと反応させることによって得られる。球状や棒状など所望の形状のシクロデキストリン含有PVA組成物を得る場合には、シクロデキストリンポリマーを分散させたPVA溶液に、実施形態1の成形方法と同様にして、水溶性高分子多糖類を加え、金属イオンを含む溶液と接触させて、所望の形状に成型した後、ホルムアルデヒドと反応させることによって行われる。なお、ホルムアルデヒドとの反応は実施形態1のシクロデキストリン含有PVAゲルの場合と同様な条件で行われる。
【0030】
PVAとシクロデキストリンポリマーの使用量としては、通常、PVA/シクロデキストリンポリマー(重量比)が0.1〜30倍量の範囲であり、好ましくは0.5〜20倍量であり、さらに好ましくは、1〜10倍量であり、特に好ましくは1〜5倍量の範囲である。シクロデキストリンポリマーの使用量が過度に小さいと得られる含水ゲルのCDの含有量が少なく、効果的な含水ゲル担体が得られない場合がある。シクロデキストリンポリマーの使用量がポリビニルアルコールに対して過度に大きくても、含水ゲルが脆くなるので、上記範囲とするのが好ましい。
【0031】
上記シクロデキストリンポリマーは、シクロデキストリンとジイソシアネート化合物を反応させて得られるポリマーであり、例えば特許第4090979号公報に記載の方法によって製造される。
【0032】
使用するジイソシアネートとしては、通常よく知られている芳香族、脂肪族および環式脂肪族ジイソシアネートや、高官能性もしくは高分子ジイソシアネートである。中でも、好ましくは芳香族ジイソシアネートおよび脂肪族ジイソシアネートであり、より好ましくは脂肪族ジイソシアネートである。具体的には、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネートおよびその誘導体が挙げられる。中でも、好ましくは2,4−トリレンジイソシアネート(以下、TDIと略記することもある)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記することもある)、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIと略記することもある)が挙げられる。より好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートである。
【0033】
シクロデキストリンとジイソシナネート化合物の使用量は、CD1モルに対し、ジイソシアネート3〜24モルである。好ましくは、CD1モルに対し、ジイソシアネートが4〜16モル、さらに好ましくは6〜12モル、特に好ましくは8〜10モルである。ジイソシアネートの使用量が3モルより小さいと、シクロデキストリンポリマーの収率が低く、使用に耐えられる強い強度のシクロデキストリンポリマーが得られないことがあるので、上記範囲とするのが好ましい。
【0034】
シクロデキストリンとジイソシナネート化合物との反応条件は特に制限はなく、通常の範囲内で実施される。具体的には、30〜150℃、好ましくは50〜100℃の温度範囲で、0.5〜10時間程度である。なお、反応は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような溶媒中で行うこともできる。
【0035】
さらに、必要に応じて遷移金属化合物触媒やアミン触媒を添加してもよい。遷移金属化合物触媒としては、例えばチタンテトラブトキシド、ジブチルスズオキシド、ジラウリン酸ジブチルスズ、2−エチルカプロン酸スズ、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルカプロン酸亜鉛、グリコール酸モリブデン、塩化鉄、塩化亜鉛などが挙げられる。アミン触媒としては、例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジブチルアミンなどが挙げられる。反応は、通常、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましいが、乾燥空気雰囲気下や密閉条件下など水分が混入しない条件下であれば何ら問題はない。
【0036】
得られたシクロデキストリンポリマーは、そのまま使用しても問題はないが、細かく粉砕して使用するのが好ましい。粉砕して得られる粒子径の大きさは、100μm以下が好ましく、80μm以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、現実的には1μm程度である。
【0037】
<微生物固定化用担体>
上記実施形態1,2によって製造される本発明のシクロデキストリン含有PVAゲルは、微生物固定化用担体として極めて有用であリ、シクロデキストリンの包接作用によって芳香族化合物などの有機化合物を担体内部まで取り込むことができると共に、ホルマール化ポリビニルアルコールに基づく構造が特に微生物の付着に適しており、有機化合物を分解する微生物を大量に付着させることができる。
【0038】
該担体に付着させうる微生物は特に制限はなく、嫌気性微生物、好気性微生物のどちらでも用いることができる。微生物の種類としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、フザリウム属などのカビ類;サッカロミセス属、ファフィア属、カンジダ属などの酵母類;大腸菌、シュードモナス属、ニトロソモナス属、ニトロバクター属、パラコッカス属、ビブリオ属、メタノサルシナ属、バチルス属などの細菌類などを挙げることができる。これらのうち、工業排水を処理する場合は、芳香族化合物、特にフェノール化合物の分解菌として有用なシュードモナス属、アシネトバクター属、アルカリゲネス属、ロドコッカス属などを好適に使用することができる。
【0039】
本発明の微生物固定化用担体は、常法により微生物を付着・固定させ、例えば図4に示すように、排水処理を行う各種設備で使用することができる。使用の条件などは特に限定されず、排水と接触可能な状態で設置する限り、従来の固定化担体の使用に従うことができる。本発明の担体は、排水処理を行う際には、担体養生として事前に汚泥等から微生物を付着させ使用することができる。
【0040】
本発明の対象となり得る芳香族化合物含有排水としては、シクロデキストリンが包接できる芳香族化合物を含む排水であれば特に限定されないが、例えば、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、tert−ブチルフェノール、sec−ブチルフェノール、アリルフェノール、キシレノール、クロロフェノール、ナフタレン、2-メチルナフタレン、2-クロロナフタレン、1-ナフトール、2-ナフトール、アセナフテン、ピレン、ピレンスルホン酸ナトリウム、アセナフテン、アズレン、1-シアノナフタレン、ペリレン等を含む排水が挙げられる。中でも、好ましくはフェノール、クレゾール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、tert−ブチルフェノール、sec−ブチルフェノール、アリルフェノール、キシレノール、クロロフェノール等のフェノール化合物を含む排水であり、より好ましくはフェノール、クレゾール、イソプロピルフェノール、キシレノールを含む排水であり、特に好ましくはフェノール含有排水である。
【0041】
芳香族化合物含有排水の濃度としては特に制限はないが、好ましくは10g/L以下の濃度であり、より好ましくは5g/L以下の濃度である。従って、排水中の芳香族化合物の濃度が高い場合には、適宜希釈して適用される。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
1−1 PVA水溶液の調製
PVAペレット(平均重合度1700、ケン化度99.8mol%)8gを水92g中に投入し、ペレットが底に溜まらない程度の速さで撹拌し、ペレットを膨潤させた。この混合物を80〜90℃にてPVAペレットが溶解するまで約30〜60分間加熱した。次いで、撹拌下で50℃以下まで冷却してPVA水溶液を調製した。
【0044】
1−2 β−CD含有PVA球状含水ゲルの合成
上記で得られたPVA水溶液10gにβ−CD粉末0.8gを溶解させ、次いで、3wt%アルギン酸ナトリウム水溶液3.3g(PVA水溶液:3wt%アルギン酸ナトリウム水溶液=3:1(wt/wt))を加えた。得られた溶液を10mLの注射器を用いて10%塩化カルシウム水溶液上に滴下し、球状化した。得られた球状ゲルを10wt%塩化カルシウム水溶液中で30〜60秒程度侵漬し、固液分離後、軽く水洗した。次いで、球状ゲルをホルムアルデヒド80g/L、硫酸200g/L、硫酸ナトリウム150g/Lを含んだ水溶液100mLに投入し、80℃にて3時間撹拌した。冷却後、固液分離し、水洗し、次いで、0.5%炭酸水素ナトリウム水溶液100mL中で1昼夜撹拌した。固液分離後、水洗して、β−CD含有PVA含水ゲルを得た。実施例1で得られたβ−CD含有PVA含水ゲルの固体13C−NMRスペクトルを、図2に示す。これによりPVAゲルへのβ−CDの導入が確認できる。
【0045】
(実施例2〜36)
表1で示したようにβ−CDの使用割合、ホルムアルデヒドの使用割合、反応温度を変えて、実施例1に準じてβ−CD含有PVA含水ゲルを合成した。
【0046】
(比較例1)
実施例1−1で得られたPVA水溶液10gに3wt%アルギン酸ナトリウム水溶液3.3g(PVA水溶液:3wt%アルギン酸ナトリウム水溶液=3:1(wt/wt))を加え、得られた溶液を10mLの注射器から10%塩化カルシウム水溶液上に滴下し、球状化した。球状ゲルは10wt%塩化カルシウム水溶液中で30〜60秒程度侵漬し、固液分離後、軽く水洗した。次いで、得られた球状ゲルをホルムアルデヒド80g/L、硫酸200g/L、硫酸ナトリウム150g/Lを含んだ水溶液100mLに投入し、80℃にて撹拌しながら90分間保った。固液分離後、水洗し、次いで、0.5%炭酸水素ナトリウム水溶液100mL中で1昼夜撹拌した。固液分離後、水洗して、球状PVA含水ゲルを得た。
【0047】
(比較例2)
微生物固定化用担体として市販されている商品名「クラゲール」((株)クラレ)を比較例2として使用した。クラゲールは、PVAとホルムアルデヒドを反応させて得られるPVA球状ゲルである。
【0048】
上記各実施例及び比較例の比重、ヤング率の測定結果を表1に示した。
【表1】

【0049】
(実施例37)
37−1 CDポリマーの合成
還流冷却器と滴下漏斗の備わった500mL三ツ口フラスコにβ−CD20.0g(0.018mol)、ジラウリン酸ジ-n-ブチル錫10滴、ジメチルホルムアミド(DMF)150mLを入れて、撹拌しながら溶解させた。フラスコ内の窒素置換を充分に行った後、29.6g(0.18mol)のヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)を含むDMF(50mL)溶液をゆっくり滴下後、70℃で24時間撹拌した。反応が進行すると直ちに白色ポリマーが析出した。反応物をクロロホルム中に投じ3時間撹拌した後、残留物を吸引濾過し、60℃で真空乾燥してCDポリマーを得た。β−CDポリマーはボールミルにより75μm以下にまで粉砕して、粉末状にした。
【0050】
37−2 CD含有PVAゲル組成物の合成
実施例1−1と同様な方法で調製したPVA水溶液10gに上記で得られた粉末状CDポリマー0.16gを混合し、次いで、3wt%アルギン酸ナトリウム水溶液3.3g(PVA水溶液:3wt%アルギン酸ナトリウム水溶液=3:1(wt/wt))を加えた。得られた懸濁液を10mLの注射器を用いて10%塩化カルシウム水溶液上に滴下し、球状化した。得られた球状化ゲルは10wt%塩化カルシウム水溶液中で30〜60秒程度侵漬し、固液分離後、軽く水洗した。次いで、球状ゲルをホルムアルデヒド80g/L、硫酸200g/L、硫酸ナトリウム150g/Lを含む水溶液100mLに投入し、80℃にて3時間撹拌した。冷却後、固液分離し、水洗し、次いで、0.5%炭酸水素ナトリウム水溶液100mL中で1昼夜撹拌した。固液分離後、水洗して、β−CD含有PVA含水ゲル組成物を得た。
【0051】
(実施例38)
実施例37−1で得られた粉末状CDポリマー0.48gを使用した他は実施例37−2と同様に処理して、β−CD含有PVA含水ゲル組成物を得た。
【0052】
(実施例39−40)
実施例37−1で得られた粉末状CDポリマー0.64g(実施例39)および0・80g(実施例40)を使用し、実施例37−2と同様に処理して、それぞれβ−CD含有PVA含水ゲル組成物を得た。
【0053】
<試験1> フェノールの取り込み試験
上記で得た実施例及び比較例の担体1.0gとフェノール水溶液(フェノール濃度500mg/L)5mLを50mL三角フラスコに入れ、ユニサーモシェーカーを用いて、25℃にて80rpmで振とうさせた。2時間もしくは24時間後、吸引濾過により担体と溶液を分離し、溶液中のフェノール濃度をガスクロマトグラフィーで測定した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2より、本発明のβ−CD含有PVA含水ゲルは、シクロデキストリンの包接作用に基づく、高いフェノール取り込み効果を示した。
【0056】
<試験2> フェノール化合物の分解試験
2−1 微生物の固定化
上記で得た実施例1、比較例1及び比較例2の担体各々50gをフェノール分解菌培地500mL(培地組成:水1Lに対してKHPO10.49g、KHPO5.44g、MgSO・7HO0.05g、MnSO・4HO5.0mg、CaCl・2HO0.662mg、FeSO・7HO0.125mg、L−トリプトファン30mg、((NHSO2.00g及び炭素源としてブドウ糖7.21g、カザミノ酸0.5g、フェノール0.5gからなる)及び蒸留水100mLと共に三角フラスコに入れ、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌した。滅菌後、フェノール分解菌を接種し、ばっ気下、室温にて1ヶ月間培養し、フェノール分解菌を担体に付着させて微生物固定化(付着)担体を得た。フェノール分解菌はノボジャイムジャパン(株)提供のDC1002CGを用いた。
【0057】
2−2 フェノール化合物の分解試験
2−1で得られたフェノール分解菌固定化(付着)担体各々を培地500mL(培地組成:水1Lに対してKHPO10.49g、KHPO5.44g、MgSO・7HO0.05g、MnSO・4HO5.0mg、CaCl・2HO0.662mg、FeSO・7HO0.125mg、L−トリプトファン30mg、((NHSO2.00g及び炭素源としてフェノール500mgからなる)に投入し、ばっ気下、室温にて培養した。所定時間毎に培養液をシリンジで1mL採取し、前処理ディスクにて除菌処理したサンプル液をガスクロマトグラフで測定し、残留フェノール濃度を追跡した。
【0058】
フェノールの分解試験結果を図3に示す。図3の結果から、本発明のβ−CD含有PVA含水ゲル(実施例1)からなるフェノール分解菌固定化(付着)担体は優れたフェノール分解作用を示し、48時間後にフェノール残留濃度が37ppb、60時間後では検出限界以下となった。一方、比較例1および比較例2の担体を用いた場合は、60時間後も50%以上のフェノールが残存していた。
【0059】
<試験3> フェノール分解菌固定化担体の菌体量の比較
3−1 菌体DNAの抽出
試験例2−1で得られたフェノール分解菌固定化(付着)担体0.1gを秤量し、市販のDNA抽出キット(ISOILfor Beads Beating)を用い、プロトコールに従って菌体DNAを抽出した。
【0060】
3−2 菌体DNAの増幅
試験例3−1で得られた菌体DNAを用いて、16rRNA遺伝子を増幅させるためのプライマー(518Rと314F−GC)およびDNA原料となるdNTPの存在下で、タカラバイオ社製ExTaq DNAポリメラーゼにより、PCR反応を行った。なお、PCRの条件は下記のように設定した。
ステップ1:(95℃、3分)×1サイクル
ステップ2:(94℃、1分、55℃、1分、72℃、3分)×24サイクル
ステップ3:(72℃、10分)×1サイクル
【0061】
3−3 菌体量の比較
試験例3−2で得られたDNAを、1.8%アガロースゲルを用いて電気泳動を行った。次いで、2μg/ml濃度のエチジウムブロマイド溶液にゲルを浸して、エチジウムブロマイドをDNAに結合させた。DNA撮影装置(FujiFilm社製LAS−3000)を用いて、エチジウムブロマイドを励起しDNAの赤色蛍光を検出した。フェノール分解菌に基づく16rRNA遺伝子のバンドの濃度から付着菌体量を比較した。
【0062】
菌体量の測定結果を表3に示した。表3の結果に示されるように、本発明のβ−CD含有PVAゲルは、比較例2の担体に比べて1.8倍量の菌体を付着できることが判明した。
【0063】
【表3】

【0064】
<試験4> 浮遊汚泥量の比較
実施例22、17、31、36及び比較例1、2の担体を用いて、試験2と同様にフェノールの分解試験を行い、その際の浮遊汚泥量(MLSS)を調べた。浮遊汚泥量の測定はリアクターから培養液(懸濁液)を経時的にサンプリングし、下水試験法に準じて行なった。各例の経時の浮遊汚泥量を表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
表4から、本発明のCD含有PVAゲルからなる担体を使用することにより、浮遊汚泥の発生を1/2から1/3に低減することができることが分かった。浮遊汚泥の発生が減少するということは、余剰汚泥の低減につながり、排水処理においては非常に大きなメリットとなる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールをシクロデキストリンの共存下でホルムアルデヒドと反応させて得られ、ポリビニルアルコール中にシクロデキストリンが共有結合状態で存在する、シクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲル。
【請求項2】
ポリビニルアルコールとシクロデキストリンの溶液を、高分子多糖類の存在下で金属イオンを含有する溶液と接触させてゲル化させ、次いで、ホルムアルデヒドと反応させて得られ、ポリビニルアルコール中にシクロデキストリンが共有結合状態で存在する、シクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲル。
【請求項3】
ポリビニルアルコール中に、シクロデキストリンとジイソシアネート化合物を反応させて得られるシクロデキストリンポリマーを分散させ、次いで、ホルムアルデヒドと反応させて得られる、シクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲル。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコールの平均重合度が300〜30,000である、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のシクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲル。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコールの平均重合度が500〜10,000である、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のシクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲル。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のシクロデキストリン含有ポリビニルアルコールゲルからなる、微生物固定化用担体。
【請求項7】
有機化合物を含有する排水に微生物固定化用担体を接触させて、前記排水中の有機化合物含有率を低減させる排水処理方法であって、
前記微生物固定化用担体が、請求項6に記載の微生物固定化用担体であることを特徴とする、排水処理方法。
【請求項8】
前記有機化合物が芳香族化合物である、請求項7に記載の排水処理方法。
【請求項9】
前記芳香族化合物がフェノール化合物である、請求項8に記載の排水処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−12582(P2012−12582A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119521(P2011−119521)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】