説明

シクロヘキサントリカルボン酸無水物のトランス体製造法

【課題】未だ工業的に単一成分として得られていないtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の工業的製造方法を提供する。
【解決手段】水を用いた晶析により、下式(3)のcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸とtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の混合物から、trans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を分離することを特徴とするtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物、式(2)の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシクロヘキサントリカルボン酸無水物のトランス体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキサントリカルボン酸無水物は、塗料、接着剤、成型品、光半導体の封止剤用樹脂、あるいは液晶表示装置(LCD)、固体撮像素子(CCD)、エレクトロルミネッセンス(EL)装置等を構成するカラーフィルターの保護膜用塗工液等に好適に使用できる熱硬化性樹脂組成物の硬化剤、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂等の原料や改質剤、可塑剤や潤滑油原料、医農薬中間体、塗料用樹脂原料、トナー用樹脂等として有用である。
【0003】
シクロヘキサントリカルボン酸無水物の製造法としてはトリメリット酸を水素化した後、テトラヒドロフランおよび/またはアセトニトリルを溶媒として用いて再結晶して得たcis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を無水酢酸等の無水化試薬を用いて無水化する方法(特許文献1)、トリメリット酸アルキルエステルを貴金属系水素化触媒および脂肪族アルコール存在下に加熱して核水素化して得た1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸アルキルエステルをスルホランおよび/またはジメチルスルホキシド溶媒中で加水分解して得た1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を脱水閉環する方法(特許文献2)または、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を加熱溶融により脱水閉環する方法(特許文献3)が開示されている。
【0004】
しかし、(特許文献1)(特許文献2)から得られるのはcis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物であり、(特許文献3)から得られるのはcis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物とtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の混合物であり、未だtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物のみの工業的製造法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5412108号明細書
【特許文献2】特開平8−325196号公報
【特許文献3】国際公開第2005/049597号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、未だ工業的に単一成分として得られていないtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の工業的製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意詳細に検討した結果、シクロヘキサントリカルボン酸無水物の原料となるシクロヘキサントリカルボン酸の異性体である(cis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸とtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸)の水に対する溶解度が大幅に異なり、trans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の方がより溶解度が小さいことを見出した。更にその特性を利用して晶析により、これらの混合物からtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を単離できること、さらに、このtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を無水化することにより、trans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を工業的に製造できることを見出し本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明はcis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸とtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の混合物から、trans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を分離することを特徴とするtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の製造方法に関するものである。
また、本発明は該製造方法で得られたtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を無水化することを特徴とするtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、trans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の単一成分を工業的に作り出すことができる。これによってtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の単独での使用、または既知の製造方法で得られたcis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物と混合することで、任意の割合での異性体の混合が実現でき、物性のコントロールが可能になる点で有用性がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1.精製に用いられるシクロヘキサントリカルボン酸異性体混合物の製造]
本発明の原料となるシクロヘキサントリカルボン酸異性体混合物の製造方法は特に限定されないが、下記式(4)に示されるtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を含んでいることが必要となる。
下記式(3)に示されるcis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸は、加熱によって異性化が進行する。cis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を150℃〜250℃加熱溶融させることでtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸が一定の割合で生じる。また、この時、脱水縮合も進行してシクロヘキサントリカルボン酸無水物が生じる。例えば(特許文献3)に記載された方法を用いることにより、下記式(1)に示されるtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物と下記式(2)に示されるcis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の混合物を得ることができる。この無水物異性体混合物に重量で0.5〜5倍量、好ましくは1〜3倍量の水を加えて加熱することで加水分解を進行させ、精製原料としてのシクロヘキサントリカルボン酸の異性体混合物を得ることができる。この場合の加熱温度は60〜100℃が好ましく、75〜85℃がより好ましい。
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】

【0011】
[2.trans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の精製]
本発明におけるシクロヘキサントリカルボン酸の精製は、シクロヘキサントリカルボン酸の異性体混合物に、重量で1〜5倍量、好ましくは2〜3倍量の水を加えて、加熱(温度は20〜100℃が好ましく、40〜90℃がより好ましい)することでより水への溶解度の高いcis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を優先的に溶解させ、晶析によってtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を得ることができる。
【0012】
[3.脱水縮合]
trans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を無水化(脱水縮合)、好ましくは氷酢酸溶媒(重量で2〜5倍量、好ましくは2.5〜3.5倍量)中、無水酢酸(1.0当量〜2.0当量、好ましくは1.1〜1.3当量)を用いて無水化(脱水縮合)することでtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を得ることができる。
【実施例】
【0013】
実施例により本発明の方法を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例において、分析はガスクロマトグラフィ−及びNMRにより行った。
【0014】
<実施例1>
300mLナス型フラスコに(特許文献3)実施例1と同様にして得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物(trans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物58質量%、cis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物4質量%)50gと水150gを加えて、80℃で1時間攪拌した。その後、反応系を常温(25℃)まで冷却して、結晶を析出させた。この結晶を、ブフナーロートを用いて吸引ろ過後、真空乾燥することにより、trans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を収率80%、純度97%で得た。
次に、得られたtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸30gを、氷酢酸105gを溶媒として300mLナス型フラスコに仕込み、そこに無水酢酸15gを添加した。反応系を100℃まで昇温してから2時間で反応を終了とし、エバポレーターを用いて溶媒を除去することで結晶を析出させた。得られた結晶を、ブフナーロートを用いて吸引ろ過し、結晶に対しトルエン2gを用いたリンスを2回行った。真空乾燥することにより、trans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を収率95%、純度99%で得た。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明によれば、trans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の単一成分を工業的に作り出すことができる。これによってtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の単独での使用、または既知の製造方法で得られたcis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物と混合することで、任意の割合での異性体の混合が実現でき、物性のコントロールが可能になる点で有用性がある。
これによってシクロヘキサントリカルボン酸無水物の用途である、塗料、接着剤、成型品、光半導体の封止剤用樹脂、あるいは液晶表示装置(LCD)、固体撮像素子(CCD)、エレクトロルミネッセンス(EL)装置等を構成するカラーフィルターの保護膜用塗工液等に好適に使用できる熱硬化性樹脂組成物の硬化剤、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂等の原料や改質剤、可塑剤や潤滑油原料、医農薬中間体、塗料用樹脂原料、トナー用樹脂等にさらなる特性を与えられる可能性があり、工業的意義が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を用いた晶析により、cis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸とtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の混合物から、trans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を分離することを特徴とするtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
前記混合物が、cis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物とtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の混合物を加水分解して得られたものである請求項1に記載のtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法で得られたtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を無水化することを特徴とするtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の製造方法。

【公開番号】特開2013−56856(P2013−56856A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196481(P2011−196481)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】