説明

シクロヘキシルフェノール化合物の新規な製造方法

【課題】種々の有機化合物の原料として使用されるシクロヘキシルフェノール化合物の簡便な新規な製造方法を提供する。
【解決手段】シクロヘキシル化合物[1]と、グリニャール試薬[2]とを鉄化合物およびアミン化合物の存在下で反応させ、次いで酸で処理し、シクロヘキシルフェノール化合物[3]を製造する。






(式中、X1はハロゲン原子、アリール基がフッ素で置換されていてもよいアリールスルホニルオキシ基、またはアルキル基がフッ素で置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ基を表し、L1は1,4-フェニレンまたは1,4-シクロへキシレン基を0〜3個含む有機基を表す。R2は酸により除去可能な保護基を表し、X2はフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の有機化合物の原料や中間体として使用されるシクロヘキシルフェノール化合物の簡便で新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記の式6で表されるシクロヘキシルフェノール化合物は、下記の一連の反応式にしたがって、式7で表される3,5-ジニトロベンジルクロリドと反応させ、式8で表される芳香族ニトロ化合物を製造し、次いで、化合物8を還元し、式9で表される芳香族ジアミン化合物を得る原料として使用される。
【0003】
【化1】

【0004】
上記で製造された式9で表されるシクロヘキシルフェノール部位を持つ芳香族ジアミン化合物は、これをテトラカルボン酸二無水物などのテトラカルボン酸誘導体と反応させることにより、ポリアミック酸、又は該ポリアミック酸を脱水閉環させて得られるポリイミドが製造される。これらの、ポリアミック酸、及び/又はポリイミドは、液晶表示素子における液晶配向膜を形成する液晶配向剤などとして広く使用される。
式9で表される芳香族ジアミン化合物を液晶配向剤の原料として利用する場合は、液晶のプレチルト角をより効果的に大きくできるという点から、芳香族ジアミン化合物の有する1,4−シクロへキシレン部分はトランス−1,4−シクロへキシレンであることが好ましい。
【0005】
一方、式6で表されるシクロヘキシルフェノール化合物は、従来、特許文献1に開示されるように、下記の一連の反応式にしたがって、長い工程により製造されている。
【0006】
【化2】

【0007】
すなわち、グリニャール試薬である4−メトキシフェニルマグネシウムブロミド1と、4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキサノン2を反応させて、式3で表される化合物を製造する。そして、式3で表される化合物を脱水反応させて式4で表される化合物を製造し(脱水工程)、次いで、これを還元して式5で表される化合物を製造する(還元工程)。最後に、式5で表される化合物を三臭化ホウ素(BBr)と反応させ(脱保護工程)、再結晶によりトランス体のみを取り出し、目的物である式6のシクロヘキシルフェノール化合物を製造する。
上記のように、従来のシクロヘキシルフェノール化合物の製造方法は、工程数が数ステップに及び、変動費が高く、また、式5においては、1,4−シクロへキシレン部分がトランス−1,4−シクロへキシレンだけでなく、シスー1,4−シクロヘキシレン体がほぼ同量生成するという難点があった。
一方、近年、鉄触媒を用いたカップリング反応によるトランス選択的なシクロヘキシル化反応が知られるようになり、これを利用した式6もしくは類似の化合物の合成が報告されている。(特許文献2〜特許文献4)。
また、鉄以外の金属触媒を用いたカップリング反応を利用したシクロヘキシルフェノール化合物の製造方法についても知られている。(特許文献5)。しかし、この場合は、使用している保護基の性質上、脱保護工程に1工程割くこととなり、効率面で課題を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2008/117760
【特許文献2】WO2010/001640号公報
【特許文献3】WO2005/075384号公報
【特許文献4】特開2008-214199号公報
【特許文献5】特開2002-193853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、式6で表される如きシクロヘキシルフェノールの製造は、多段ステップを必要とし、収率が低く、また三臭化ホウ素などの高価な反応剤も必要としていたが、これらの難点を有しないシクロヘキシルフェノール化合物の簡便で新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を進めたところ、鉄化合物を用いたカップリング反応を使用することにより、上記従来の製造方法における脱水工程と還元工程を省き、かつトランス異性体をほぼ選択的に製造することができ、さらに、フェノール性水酸基の保護基を、反応の後処理時における、グリニャール試薬の酸処理と同時に容易に脱保護することができる結果、工程数が削減され、なおかつ高価な反応剤を必要としないシクロヘキシルフェノール化合物の簡便な製造方法を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、以下を特徴とする要旨を有するものである。
1.下記の式[1] で表されるシクロヘキシル化合物と、下記の式[2] で表されるグリニャール試薬とを、鉄化合物およびアミン化合物の存在下で反応させ、次いで酸で処理することを特徴とする、下記の式[3] で表されるシクロヘキシルフェノール化合物の製造方法。
【0012】
【化3】

(式中、X1はハロゲン原子、アリール基がフッ素で置換されていてもよいアリールスルホニルオキシ基、またはアルキル基がフッ素で置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ基を表し、L1は下記式で表される置換基を表す。)
【0013】
【化4】

(式中、nは0〜3の整数であり、Aは単結合、-CH2-、- CH2CH2-、-OCH2-、- CH2O-または-O-を表し、但し、Aが水素原子を有する場合、該水素原子はそれぞれ独立にフッ素原子で置き換えられていてもよく、nが2以上のとき、Aは互いに同一でも異なっていてもよい。Qは1,4-フェニレンまたは1,4-シクロへキシレンを表し、Qの有する水素原子はフッ素原子で置き換えられていてもよく、nが2以上のときは、Qは互いに同一でも異なっていてもよい。R1は炭素数1-18の直鎖アルキル基を表し、但し、該アルキル基の-CH2-CH2-は-CH=CH-又は-C≡C-で置き換えられていてもよく、該直鎖アルキル基の水素原子はフッ素原子で置き換えられていてもよい。)
【0014】
【化5】

(式中、R2は酸により除去可能な保護基を表し、X2はフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)
【0015】
【化6】

(式中、L1は前記の意味を表す。)
2.前記アミン化合物がジアミン化合物である上記1に記載の製造方法。
3.前記ジアミン化合物がN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミンである上記2に記載の製造方法。
4.鉄化合物が塩化第二鉄、鉄(III)アセチルアセトナート、鉄(II)アセチルアセトナート、臭化鉄、又はフッ化鉄である上記1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5.鉄化合物が塩化第二鉄、鉄(III)アセチルアセトナート又は鉄(II)アセチルアセトナートである上記1〜3のいずれかに記載の製造方法。
6.式[2]におけるR2がアルキル基、アルコキシアルキル基、アシル基又はシリル基である上記1〜5のいずれかに記載の製造方法。
7.前記シクロヘキシルフェノール化合物が下記の式(2-1)で表される上記1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
【化7】

(式中、nは0又は1であり、pは0〜9の整数であり、1,4−シクロへキシレンのシス−トランス異性は、それぞれトランス異性体である。)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来法と比べて、工程数を大幅に削減し、安価に、高収率で、シクロヘキシルフェノール化合物が得られる簡便で新規な製造方法が提供される。
なお、シクロヘキシルフェノール化合物が液晶配向剤の原料となる芳香族ジアミン化合物として使用される場合には、液晶のプレチルト角をより効果的に大きくできるという点から、シクロヘキシルフェノール化合物の有する1,4−シクロへキシレンの立体構造は、トランス型が好ましいが、本発明の製造方法によれば、その出発物質である式[1]で表されるシクロヘキシル化合物は、X1とL1とがシスであってもトランスであっても、又はシスとトランスとの混合物であってもよく、いずれの化合物を用いても、トランス型のシクロヘキシルフェノール化合物を選択的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の製造方法は、下記のスキームにしたがって実施される。
【0019】
【化8】

【0020】
本発明において、上記[1]で表されるシクロヘキシル化合物は、中でも、X1はハロゲン原子を表し、L1が下記の置換基である場合が好ましい。
【0021】
【化9】

かかる式の中でも、Aは単結合が好ましく、Qは1,4-フェニレンまたは1,4-シクロへキシレンが好ましく、nは、0または1が好ましい。
【0022】
R1は、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、その例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、ノナフルオロブチル基、ビニル基、1-プロペニル基、1-ブテニル基、エチニル基、1-プロピニル基、1-ブチニル基などが挙げられる。
【0023】
かかるシクロヘキシルシクロヘキシル化合物の好ましい例としては、下記のものが挙げられる。なお、下記のそれぞれの式において、pは0〜9の整数であり、qは0〜7の整数である。
【0024】
【化10】

なお、1,4−シクロへキシレンの異性体はシスとトランスがあるが、本発明の製造方法に従えば、上記[1]で表されるシクロヘキシル化合物は、X1とL1とがシスであってもトランスであっても、またはシスとトランスとの混合物であってもよく、いずれの化合物を用いても、トランス型のシクロヘキシルフェノール化合物を主生成物として得ることができる。
これらの式[1]で表されるシクロヘキシル化合物は、市販されているか、または既知の方法で製造することができる各種のシクロヘキシルアルコール化合物から、市販されているBr化試薬を用いて製造することができる。なお、実施例で用いるトランス−1−ブロモ−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、および、トランス−1−ブロモ−(4−n−ヘプチル)シクロヘキサン[6]は、第5版実験化学講座13(丸善社発行)の項目:2.2 塩素及び臭素化合物の合成に記載されている方法に準じて合成された。
【0025】
本発明において、式[2]で表されるグリニャール試薬は、中でも、X2は塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が好ましい。R2は、上記のように、酸により除去可能な基である。すなわち、フェノール性水酸基の反応によるグリニャール試薬のクエンチを抑制するための基(保護基)であり、酸により除去されてフェノール性水酸基を与える基である。その好ましい例は、t−ブチル基等のアルキル基;メトキシメチル基、2−テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基、2−メトキシエトキシメチル基等のアルコキシアルキル基;アセチル基、トリフルオロアセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等のアシル基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基等のシリル基;t−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;p−トルエンスルホニル基、2−ニトロベンゼンスルホニル基等のスルホニル基等が挙げられる。
【0026】
中でも、脱保護の容易さという観点から、メトキシメチル基、2−テトラヒドロピラニル基、2−メトキシエトキシメチル基、t−ブチル基等のアルコキシアルキル基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基等のシリル基が好ましく、特に、メトキシメチル基又はトリメチルシリル基が好ましい。
【0027】
式[2]で表されるグリニャール試薬の好ましい例としては、下記のものが挙げられる。下記のそれぞれの式において、Xは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。
【0028】
【化11】

【0029】
式2で表されるグリニャール試薬は、例えば、市販されている4−ハロゲノフェノール化合物の水酸基を既存の一般的な方法で反応させることにより、R2で保護した後、既存の一般的なグリニャール試薬の調製法にて製造することができる。また、ヨウ化アリール等のハロゲン化アリールと、イソプロピルマグネシウムブロミドやジイソプロピルマグネシウム等の有機マグネシウム試薬を用いるグリニャール交換反応によっても製造することができる。なお、実施例で用いた4−(メトキシメトキシ)フェニルマグネシウムブロミドおよび4−(トリメチルシリルオキシ)フェニルマグネシウムブロミドは、第5版実験化学講座18(丸善社発行)の項目:2.2.有機マグネシウム化合物を用いる合成反応に記載されている方法に準じて製造された。
【0030】
本発明の製造方法において用いる鉄化合物としては、ペンタカルボニル鉄、テトラカルボニル(トリフェニルホスフィン)鉄、トリカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)鉄、テトラカルボニル(トリシクロヘキシルホスフィン)鉄、テトラカルボニル(トリブチルホスフィン)鉄、テトラカルボニル(トリストリルホスフィン)鉄、テトラカルボニル鉄酸ナトリウム、テトラカルボニルヒドリド鉄酸ビス(トリフェニルホスホランジイル)アンモニウム、テトラカルボニル(トリメチルシリル)鉄酸カリウム、テトラカルボニル(トリメチルシリル)鉄酸ビス(トリフェニルホスホランジイル)アンモニウム、テトラカルボニル(アクリル酸メチル)鉄、テトラカルボニル(アクリル酸エチル)鉄、テトラカルボニル(アクリル酸ブチル)鉄、テトラカルボニル(メタクリル酸メチル)鉄、テトラカルボニル(メタクリル酸エチル)鉄、テトラカルボニル(無水マレイン酸)鉄、テトラカルボニル(マレイン酸)鉄、テトラカルボニル(フマル酸)鉄、テトラカルボニル(フマル酸ジメチル)鉄、テトラカルボニル(ケイ皮酸メチル)鉄、テトラカルボニル(ケイ皮アルデヒド)鉄、テトラカルボニル(メチルイソニトリル)鉄、テトラカルボニル(エチルイソニトリル)鉄、テトラカルボニル(ブチルイソニトリル)鉄、トリカルボニルビス(トリシクロヘキシルホスフィン)鉄、トリカルボニルビス(トリブチルホスフィン)鉄、トリカルボニルビス(トリエチルホスフィン)鉄、トリカルボニルビス(トリストリルホスフィン)鉄、トリカルボニル(ニトロシル)鉄酸ビス(トリフェニルホスホランジイル)アンモニウム、トリカルボニル(トリフェニルホスフィン)鉄酸カリウム、トリカルボニルヒドリド(トリフェニルホスフィン)鉄酸テトラエチルアンモニウム、トリカルボニルヒドリド(トリフェニルホスフィン)鉄酸テトラブチルアンモニウム、トリカルボニルヒドリド(トリフェニルホスフィン)鉄酸ベンジルトリエチルアンモニウム、トリカルボニルヒドリド(トリフェニルホスフィン)鉄酸テトラメチルアンモニウム、トリカルボニル(1,3−シクロヘキサジエン)鉄、トリカルボニル(1,3−ブタジエン)鉄、トリカルボニル(ノルボルナジエン)鉄、トリカルボニル(シクロオクタテトラエン)鉄、トリカルボニル(シクロブタジエン)鉄、ブロモトリカルボニル(アリル)鉄、カルボニルビス(ブタジエン)鉄、(シクロペンタジエニル)ジカルボニル鉄酸カリウム、ヒドリドテトラカルボニル鉄酸カリウム、ヒドリドテトラカルボニル鉄酸ナトリウム、(シクロペンタジエニル)ジカルボニル鉄酸ナトリウム、クロロ(シクロペンタジエニル)ジカルボニル鉄、(シクロペンタジエニル)メチルジカルボニル鉄、(シクロペンタジエニル)ヒドリドジカルボニル鉄、ブロモ(シクロペンタジエニル)カルボニル(トリメチルホスフィン)鉄、(シクロペンタジエニル)メチルカルボニル(トリメチルホスフィン)鉄、クロロ(シクロペンタジエニル){1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン}鉄、トリカルボニル(シクロペンタジエニル)鉄テトラフェニルホウ酸塩、トリカルボニル(シクロペンタジエニル)鉄ヘキサフルオロリン酸塩、(シクロペンタジエニル)ジカルボニル(テトラヒドロフラン)鉄テトラフルオロホウ酸塩、(シクロペンタジエニル)ジカルボニル(トリメチルホスフィン)鉄テトラフルオロホウ酸塩、(シクロペンタジエニル)トリス(トリメチルホスフィン)鉄臭化物、(シクロペンタジエニル)ジカルボニル(エチレン)鉄ヘキサフルオロリン酸塩、(シクロペンタジエニル)ジカルボニル(2−ブチン)鉄テトラフルオロホウ酸塩、(シクロペンタジエニル)ジカルボニル(ジメチルカルベン)鉄テトラフルオロホウ酸塩、(シクロペンタジエニル)ジカルボニル(フェニルカルベン)鉄ヘキサフルオロホウ酸塩、(シクロペンタジエニル)カルボニル(エトキシメチルカルベン)(トリフェニルホスフィン)鉄テトラフルオロホウ酸塩、ビス(シクロペンタジエニル)鉄〔フェロセン〕、ヨウ化トリメチル(フェロセニルメチル)アンモニウム、ビス(シクロペンタジエニル)鉄ヘキサフルオロリン酸塩、ベンゼン(シクロペンタジエニル)鉄ヘキサフルオロリン酸塩、テトラカルボニルビス(シクロペンタジエニル)二鉄、テトラカルボニルビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)二鉄、エンネアカルボニル二鉄、クロロビス〔(シクロペンタジエニル)ジカルボニル鉄〕テトラフルオロホウ酸塩、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ビス(ジスルフィド)二鉄、(ジスルフィド)ヘキサカルボニル二鉄、オクタカルボニル二鉄酸ナトリウム、ドデカカルボニル三鉄、ヘンデカカルボニル三鉄酸ビス{ビス(トリフェニルホスホランジイル)アンモニウム}、トリデカカルボニル四鉄酸ビス{ビス(トリフェニルホスホランジイル)アンモニウム}、テトラキス(シクロペンタジエニル)テトラスルフィド四鉄、(シクロオクタテトラエン)(シクロオクタテトラエン)鉄、ジクロロビス{1,2−ビス(ジエチルホスフィノ)エタン}鉄、クロロヒドリドビス{ビス(1,2−ジフェニルホスフィノ)エタン}鉄、ジヒドリドビス{1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン}鉄、ヒドリドビス{1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン}鉄、ビス{1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン}エチレン鉄錯体、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)鉄、鉄(アセチルアセトナート)等の鉄錯体;水酸化鉄、酸化鉄、酢酸鉄、フッ化鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄等の鉄塩類が挙げられる。
【0031】
上記鉄化合物の中でも、反応性、再現性、価格という点から、例えば、塩化第二鉄、鉄(III)アセチルアセトナート、鉄(II)アセチルアセトナート、臭化鉄、又はフッ化鉄が好ましく、特に好ましくは塩化第二鉄、鉄(III)アセチルアセトナート、又は鉄(II)アセチルアセトナートである。これら鉄化合物を単独で使用してもよく、もしくは2種類以上混合してもよい。
かかる鉄化合物の使用量としては、式[1]で表されるシクロヘキシル化合物の1モルに対して、0.01モルパーセント〜30モルパーセントであり、好ましくは、0.1モルパーセント〜10モルパーセントである。鉄化合物が少ない場合は反応が遅延し、一方、多すぎる場合は、グリニャール試薬同士のホモカップリング反応が生じる場合があり、収率が低下するため好ましくない。
【0032】
本発明の製造方法で用いられるアミン化合物としては、モノ〜ポリアミン化合物が使用され、また、第1級〜第3級アミン化合物、第4級アンモニウム化合物、脂肪族、芳香族、複素環のアミン化合物のいずれのものも使用できる。その例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'−テトラエチルエチレンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、2,2'−ビピリジル、1,10−フェナントレン、1,3,5−トリメチルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、N,N,N',N'−テトラメチルシクロヘキサンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン等を挙げることができる。これらアミン化合物を単独で使用してもよく、もしくは2種類以上混合してもよい。
中でも、アミン化合物として、反応の転化率の点からして、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンが好ましく、特には、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミンが好ましい。
【0033】
かかるジアミン化合物の使用量としては、式[1]で表されるシクロヘキシル化合物の1モルに対して、0.1モル〜5モルであるが、好ましくは、0.5モル〜3モルである。ジアミン化合物の使用量が少ない場合は反応性が低下し、一方、多すぎる場合は経済性の観点から好ましくない。
【0034】
本発明の製造方法において用いる酸としては、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、沃化水素酸等のハロゲン化水素酸;硝酸、硫酸、燐酸、塩素酸、過塩素酸の無機酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、酒石酸、蓚酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸、安息香酸、マンデル酸、アスコルビン酸、乳酸、グルコン酸、クエン酸等のカルボン酸;又はグルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸が挙げられる。
なお、酸は単独で用いても、混合して用いても良い。酸を用いる際は、水溶液の形態で用いても良いし、そのまま用いても良い。また、無機酸を有機酸に溶解させた溶液として用いても良い。かかる酸としては、例えば塩酸水溶液や、臭化水素酸の酢酸溶液等が好ましい。
【0035】
本発明の製造方法は、必要に応じて溶媒を用いて実施することができる。溶媒は反応に不活性なものであれば特に制限はないが、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類;四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル、プロピオン酸エチル等のカルボン酸エステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄非プロトン性極性溶媒;ピリジン、ピコリン等のピリジン類等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、これらのうちの2種類以上を混合して用いても良い。
【0036】
反応温度は、例えば−20〜200℃、好ましくは0〜100℃である。反応時間は、0.1〜48時間、好ましくは0.5〜24時間である。
【0037】
一般的には、例えば式[1]で表されるシクロヘキシル化合物1当量に対して1〜3当量の式[2]で表される化合物を、式[1]で表されるシクロヘキシル化合物1モルに対して0.1〜10モルパーセント当量の鉄化合物、式[1]で表されるシクロヘキシル化合物1当量に対して、窒素原子の数に換算して1〜6当量のアミン化合物を用い、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の溶媒中で、0℃からこれらの溶媒の還流温度の範囲で、0.5〜24時間反応を行ない、得られた反応液に酸を加えて更に10分から2時間反応を行なうことにより、式3で表されるシクロヘキシルフェノール化合物を得ることができる。
【0038】
本発明の製造方法において、反応終了後の反応混合物は、直接濃縮、又は有機溶媒に溶解し、水洗後濃縮、又は氷水に投入し、有機溶媒抽出後に濃縮などの通常の後処理を行ない、目的のシクロヘキシルフェノール化合物を得ることができる。また、精製の必要が生じたときには、再結晶、カラムクロマトグラフ、薄層クロマトグラフ、分取液体クロマトグラフ等の任意の精製方法によって分離、精製することができる。
【0039】
かくして、本発明によれば、目的のシクロヘキシルフェノール化合物が高収率で得られるが、このようにして製造されるシクロヘキシルフェノールの代表的な例としては、下記の式(2−1)で表される化合物が挙げられる。
【0040】
【化12】

式中、pは0〜9の整数、好ましくは2〜8の整数であり、1,4−シクロへキシレンのシス−トランス異性は、それぞれトランス異性体である。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例にて採用した分析装置及び分析条件は、下記の通りである。
H−NMR:
装置:Varian NMR System 400 NB (400 MHz)
測定溶媒:CDCl
基準物質:テトラメチルシラン(TMS)(δ0.0 ppm for H)
【0042】
実施例1: 4−(メトキシメトキシ)フェニルマグネシウムブロミドを用いた下記の化合物[3]の合成
【化13】

【0043】
窒素置換した500mlの4径フラスコ中に、トランス−1−ブロモ−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキサン[1](18.9g,0.0599mol)とテトラヒドロフラン89.9mlを加え、[1]を溶解させた後、0℃にて攪拌した。さらに0℃に冷却した[1]のTHF溶液に塩化鉄(III)(0.1M―テトラヒドロフラン溶液)15mlを加え、0℃にて攪拌した。その溶液に、4−(メトキシメトキシ)フェニルマグネシウムブロミド[2](0.5M−テトラヒドロフラン溶液)192mlとN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(11.20g, 0.0964mol)の混合液を30分かけて滴下した。滴下終了後25℃まで徐々に昇温した後、さらに25℃にて15時間攪拌した。ガスクロマトグラフィー(以下GCと省略)により、原料[1]の消失を確認後、50℃に昇温し、12規定の塩酸47.4gを徐々に滴下して、滴下終了後、50℃にて1時間攪拌した。
【0044】
その後、その溶液に純水454g、酢酸エチル454gを加え、分液操作にて、水層を除去した。さらに、この水層から酢酸エチル455g、454gで抽出操作を2回実施し、すべての有機層を合わせて無水硫酸マグネシウムにて有機層を乾燥した。その後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、減圧下、溶媒を留去し、化合物[3]の粗物を得た。得られた粗物をトルエンとメタノールの混合溶媒にて再結晶を実施し、析出した結晶をろ過、その後減圧乾燥して、化合物[3]を得た(10.3g、収率52%)。なお、化合物[3] の構造は1H-NMR分析にて確認した。(1H-NMR (CDCl3):δ7.07(d, 2H, Ar-H J=8.4Hz), 6.75(d, 2H, Ar-H J=8.4Hz), 4.60(s, 1H, Ar-OH), 2.37(m, 1H, Ar-CH-), 1.90-1.71(m, 8H), 1.39-0.84(m, 22H)
【0045】
実施例2:4−(トリメチルシリルオキシ)フェニルマグネシウムブロミドを用いた下記の化合物[3]の合成
【化14】

【0046】
窒素置換した50mlの4径フラスコ中に、トランス−1−ブロモ−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキサン[1](0.631g、2.00mmol)とテトラヒドロフラン2.5mlを加え、[1]を溶解させた後、0℃にて攪拌した。さらに、0℃に冷却した[1]のTHF溶液に塩化鉄(III)(0.1M―テトラヒドロフラン溶液)1.0mlを加え、0℃にて攪拌し,その溶液に、4−(トリメチルシリルオキシ)フェニルマグネシウムブロミド[4](0.3M−テトラヒドロフラン溶液)9.4mlとN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(0.328g、2.82mmol)の混合液を10分間かけて滴下した。滴下終了後25℃まで徐々に昇温した後、さらに25℃にて15時間攪拌した。GCにより、原料[1]の消失を確認後、12規定塩酸2.0mlを徐々に滴下し、滴下終了後、25℃にて1時間攪拌した。
【0047】
その後、純水29.8g、酢酸エチル30.2gを加え、分液操作にて、水層を除去した。さらに、水層を酢酸エチル30.5g、30.1gで抽出操作を2回実施し、無水硫酸マグネシウムにて有機層を乾燥した。ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、減圧下溶媒を留去して化合物[3]の粗物を得た。得られた粗物をエタノールにて再結晶を実施し、析出した結晶をろ過後、減圧乾燥して化合物[3]を得た。(0.339g、収率52%)また、化合物[3] の構造は1H-NMR分析にて、実施例1で得られた化合物と同一であることを確認した。
【0048】
実施例3:シスートランス混合物の1−ブロモ−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキサンと4−(メトキシメトキシ)フェニルマグネシウムブロミドを用いた下記の化合物[3]の合成
【化15】

【0049】
窒素置換した100mlの4径フラスコ中に、トランス−1−ブロモ−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキサンと、シス−1−ブロモ−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキサンがそれぞれ2:8の割合で含まれている混合物[5](3.87g,0.0123mol)を入れ、これにテトラヒドロフラン(7.36ml)を加えて溶解させた後、室温にて攪拌した。混合物[5]のTHF溶液に塩化鉄(III)(0.1M―テトラヒドロフラン溶液)3.10mlを加え、その溶液に、4−(メトキシメトキシ)フェニルマグネシウムブロミド[2](1.0M−テトラヒドロフラン溶液)26.5mlとN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(3.09g, 0.0266mol)の混合液を30分かけて滴下した。その後、GCにより、原料[5]の消失を確認後、50℃に昇温し、12規定の塩酸9.67gを徐々に滴下して、滴下終了後、50℃にて1時間攪拌した。
【0050】
その後、その溶液に酢酸エチル121gと、水121gを入れ、分液操作にて、水層を除去した。さらに、この水層から酢酸エチル121g、121gで抽出操作を2回実施し、すべての有機層を合わせて無水硫酸マグネシウムにて有機層を乾燥した。その後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、減圧下、溶媒を留去して化合物[3]の粗物を得た。得られた粗物をエタノールにて再結晶を実施し、析出した結晶をろ過、その後減圧乾燥して、化合物[3]を得た(2.39g、収率59%)。化合物[3] の構造は1H-NMR分析にて、実施例1で得られた化合物と同一であることを確認した。
【0051】
実施例4:4−(t−ブトキシ)フェニルマグネシウムブロミドを用いた下記の化合物[3]の合成
【化16】

【0052】
窒素置換した100mlの4径フラスコ中に、トランス−1−ブロモ−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキサン[1](1.89g、0.0060mol)とテトラヒドロフラン7.5mlを加え、[1]を溶解させた後、0℃にて攪拌した。さらに、0℃に冷却した[1]のテトラヒドロフラン溶液に塩化鉄(III)(0.1M―テトラヒドロフラン溶液)1.5mlを加え、0℃にて攪拌し、その溶液に、4−(t−ブトキシ)フェニルマグネシウムブロミド[5](0.6M−テトラヒドロフラン溶液)15mlとN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(1.38g、0.012mol)の混合液を60分間かけて滴下した。滴下終了後25℃まで徐々に昇温した後、さらに25℃にて15時間攪拌した。GCにより、原料[1]の消失を確認後、酢酸エチル201gと水200gを用いて抽出操作を行った。得られた水層をさらに酢酸エチル200gで抽出操作を行い、すべての有機層を合わせて無水硫酸マグネシウムにて有機層を乾燥した。
【0053】
その後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、減圧下、溶媒を留去して得られた粗物を、エタノール25.4gに溶解させ、さらに12規定塩酸2.54gを徐々に滴下し、60℃で6時間攪拌した。その後、減圧下溶媒を留去して化合物[3]の粗物を得た。得られた粗物をエタノールにて再結晶を実施し、析出した結晶をろ過後、減圧乾燥して化合物[3]を得た。(0.72g、収率37%)また、化合物[3] の構造は1H-NMR分析にて、実施例1で得られた化合物と同一であることを確認した。
【0054】
実施例5:4−(メトキシメトキシ)フェニルマグネシウムブロミドを用いた下記の化合物[7]の合成
【化17】

【0055】
窒素置換した100mlの4径フラスコ中に、トランス−1−ブロモ−(4−n−ヘプチル)シクロヘキサン[6]のシス、トランス、位置異性体の混合物(トランス体:シス体:位置異性体=47:38:15、2.35g,0.0090mol)とテトラヒドロフラン9.0mlを加え、[6]を溶解させた後、0℃にて攪拌した。さらに0℃に冷却した[6]のTHF溶液に塩化鉄(III)(0.1M―テトラヒドロフラン溶液)4.5mlを加え、0℃にて攪拌した。その溶液に、4−(メトキシメトキシ)フェニルマグネシウムブロミド[2](0.5M−テトラヒドロフラン溶液)36mlとN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(2.10g, 0.018mol)の混合液を40分かけて滴下した。滴下終了後25℃まで徐々に昇温した後、さらに25℃にて15時間攪拌した。GCにより、原料[6]の消失を確認後、0℃にて12規定の塩酸14.2gを徐々に滴下して、50℃にて1時間攪拌した。
その後、その溶液に純水30gを加え、分液操作にて、水層を除去した。さらに、この水層から酢酸エチル18gで抽出操作を2回実施し、得られた有機層を合わせて、再度純水20gで抽出操作を実施した。すべての有機層を合わせて無水硫酸マグネシウムにて有機層を乾燥した。
【0056】
その後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、減圧下溶媒を留去し、化合物[7]の粗物を得た。得られた粗物をアセトニトリルにて再結晶を実施し、析出した結晶をろ過、その後減圧乾燥して、化合物[7]を得た(0.75g、収率30%)。なお、化合物[7] の構造は1H-NMR分析にて確認した。(1H-NMR (CDCl3):δ7.08(d, 2H, Ar-H J=8.4Hz), 6.75(d, 2H, Ar-H J=8.4Hz), 4.55(s, 1H, Ar-OH), 2.40(m, 1H, Ar-CH-), 1.85(m, 4H), 1.46-0.84(m, 20H)
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の製造方法により得られるシクロヘキシルフェノール化合物は、ポリイミド系液晶配向膜の原料の一つであるジアミン化合物の原料として即に広く工業的に使用されているもので、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式[1] で表されるシクロヘキシル化合物と、下記の式[2] で表されるグリニャール試薬とを、鉄化合物およびアミン化合物の存在下で反応させ、次いで酸で処理することを特徴とする、下記の式[3] で表されるシクロヘキシルフェノール化合物の製造方法。
【化1】

(式中、X1はハロゲン原子、アリール基がフッ素で置換されていてもよいアリールスルホニルオキシ基、またはアルキル基がフッ素で置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ基を表し、L1は下記式で表される置換基を表す。)
【化2】

(式中、nは0〜3の整数であり、Aは単結合、-CH2-、- CH2CH2-、-OCH2-、- CH2O-または-O-を表し、但し、Aが水素原子を有する場合、該水素原子はそれぞれ独立にフッ素原子で置き換えられていてもよく、nが2以上のとき、Aは互いに同一でも異なっていてもよい。Qは1,4-フェニレンまたは1,4-シクロへキシレンを表し、Qの有する水素原子はフッ素原子で置き換えられていてもよく、nが2以上のときは、Qは互いに同一でも異なっていてもよい。R1は炭素数1-18の直鎖アルキル基を表し、但し、該アルキル基の-CH2-CH2-は-CH=CH-又は-C≡C-で置き換えられていてもよく、該直鎖アルキル基の水素原子はフッ素原子で置き換えられていてもよい。)
【化3】

(式中、R2は酸により除去可能な保護基を表し、X2はフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)
【化4】

(式中、L1は前記の意味を表す。)
【請求項2】
前記アミン化合物がジアミン化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ジアミン化合物がN,N,N',N’−テトラメチルエチレンジアミンである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
鉄化合物が塩化第二鉄、鉄(III)アセチルアセトナート、鉄(II)アセチルアセトナート、臭化鉄、又はフッ化鉄である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
鉄化合物が塩化第二鉄、鉄(III)アセチルアセトナート又は鉄(II)アセチルアセトナートである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
式[2]におけるR2がアルキル基、アルコキシアルキル基、アシル基又はシリル基である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記シクロヘキシルフェノール化合物が下記の式(2-1)で表される請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【化5】

(式中、nは0又は1であり、pは0〜9の整数であり、1,4−シクロへキシレンのシス−トランス異性は、それぞれトランス異性体である。)

【公開番号】特開2012−97076(P2012−97076A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219500(P2011−219500)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】