説明

シクロヘキセノン含有有機混合物のシクロヘキセノン含量を低減するための方法

シクロヘキセノンを含有する有機混合物中のシクロヘキセノンの濃度を低減するための方法が開示される。前記方法は、シクロヘキセノンを含む有機混合物を亜硫酸、亜硫酸の塩、アルカリ水酸化物、またはこれらの化合物の2つ以上の混合物の少なくとも1つの有効量と接触させる工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の典型的な実施形態は、シクロヘキセノンを含有する有機混合物中のシクロヘキセノンの濃度を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カプロラクタムは、例えば、縮合重合によって、ナイロン6などのナイロンの製造においてのその使用など、広範囲の商業用途がある。商業規模でカプロラクタム、特にε−カプロラクタムを製造するための既存の技術は、シクロヘキサノンをヒドロキシルアミン塩と反応させてシクロヘキサノンオキシム中間体を形成することを必要とする。シクロヘキサノンオキシムは、濃硫酸で処理した時にベックマン転位を経てε−カプロラクタムを形成する。
【0003】
シクロヘキサノンは典型的にシクロヘキサンから製造され、それを空気酸化してシクロヘキサノール−シクロヘキサノン混合物を生じさせ、その後に、混合物中のシクロヘキサノールを脱水素化してより多くのシクロヘキサノンを製造する。いくつかの不純物が通常、シクロヘキサンの空気酸化から得られたシクロヘキサノール−シクロヘキサノン混合物中に存在する。このような不純物には、エステル、カルボン酸およびシクロヘキセノン、特に2−シクロヘキセン−1−オンなどが挙げられる。エステルおよびカルボン酸をシクロヘキサノール−シクロヘキサノン混合物から除去するためのいくつかの方法が提案されている。
【0004】
(特許文献1)は、シクロヘキサノール−シクロヘキサノンの蒸留後に残っている残留物中の、アルコール、特にシクロヘキサノール中のエステルを分解するための鹸化方法に関する。このようにして、より高い収量をもたらす付加的なシクロヘキサノールが得られる。
【0005】
(特許文献2)は、アルカリ水酸化物および炭酸塩を使用することとシクロヘキサン酸化排ガスの一部を再循環することとによって酸およびエステル副生成物を処理する間の苛性アルカリ消費(caustic consumption)の低減に関する。
【0006】
(特許文献3)は、2段階鹸化によってホウ素生成物の存在下でシクロヘキサン酸化中に得られた混合物からエステルおよびカルボン酸を除去することに関する。
【0007】
エステルおよびカルボン酸を有機混合物から除去する方法が教示されているが、シクロヘキセノンとシクロヘキサノンまたはシクロヘキサノール−シクロヘキサノン混合物などの化合物との有機混合物からシクロヘキセノンを除去するための方法は以前に教示されていない。シクロヘキセノンは、カプロラクタムの製造に後で用いられる有機混合物から除去されない場合、カプロラクタムの製造プロセスのシクロヘキサノンオキシムの調製の間に、シクロヘキセノンオキシム、典型的に2−シクロヘキセン−1−オンオキシムに変化する。
【0008】
2−シクロヘキセン−1−オンオキシムの形成は、ヒドロキシルアミン、カプロラクタムの製造の原材料を消費し、また、ナイロンの製造中、カプロラクタムの重縮合の間に品質上の問題を起こす場合があるので支障となる。
【0009】
【特許文献1】独国特許第2,123,184号明細書
【特許文献2】独国特許第2,650,892号明細書
【特許文献3】特開平08−019019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このため、例としてだけだが、カプロラクタムの製造において用いられる有機混合物など、特定の有機混合物からシクロヘキセノンを低減させることが望ましい場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態は、シクロヘキセノン含有有機混合物のシクロヘキセノン含量を低減するための方法に関する。該方法は、該有機混合物を亜硫酸、亜硫酸の塩、またはアルカリ水酸化物の少なくとも1つを含む添加剤の有効量で処理する工程を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態は、シクロヘキセノン含有有機混合物のシクロヘキセノン含量を低減するための方法に関する。該方法は、該有機混合物を亜硫酸、亜硫酸の塩、またはアルカリ水酸化物の少なくとも1つを含む添加剤の有効量で処理する工程を含む。添加剤は、これらの化合物の2つ以上の混合物を含んでもよい。添加剤は、処理前の元のシクロヘキセノンの濃度の約75%、有機混合物中のシクロヘキセノンの濃度を低減するために有効な量において有機混合物に添加される。
【0013】
本明細書において考察されるように、第一に、シクロヘキサノンも含む有機混合物中の、2−シクロヘキセン−1−オンなどのシクロヘキセノンの含量を低減するための方法が言及される。しかしながら、本発明を用いて、同様に他の有機混合物中のシクロヘキセノンの濃度を低減することができることは理解されるはずである。
【0014】
上に記載したように、シクロヘキサノンは典型的に、シクロヘキサンを空気中で酸化してシクロヘキサノンとシクロヘキサノールとの混合物ならびにシクロヘキセノン、通常2−シクロヘキセン−1−オンなどの不純物を典型的に含有する有機混合物を生じさせることによって製造される。シクロヘキセノンの物理的性質は、シクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンの物理的性質に似ており、シクロヘキセノンをシクロヘキサノールおよび/またはシクロヘキサノンから蒸留によって分離するのを困難にする。本発明の典型的な実施形態によって、有機混合物中のシクロヘキセノンの濃度は、混合物中のシクロヘキセノンの化学処理によって低減される。シクロヘキセノンの濃度は、有機混合物中の元のシクロヘキセノンの濃度の、少なくとも約75%、好ましくは約90%以上低減される。
【0015】
例えばシクロヘキサノンとシクロヘキセノンとを含む有機混合物など、有機混合物のシクロヘキセノン含量を低減するために、有機混合物が、亜硫酸、亜硫酸の塩、またはアルカリ水酸化物などの添加剤または添加剤の組合せの有効量で処理される。亜硫酸の塩は、メタ重亜硫酸塩など、ピロ亜硫酸の塩を含めることが意図される。処理は典型的に、約60〜約160℃の範囲の温度において行われ、約10〜約90分間、典型的に30分超、続いてもよい。有機混合物を処理の間、攪拌して添加剤とシクロヘキセノンとの十分な混合を促進するのがよい。
【0016】
有機混合物中のシクロヘキセノンの濃度の低減によって、カプロラクタムの製造プロセスの間のヒドロキシルアミンのための競合を減少させ、原材料を消費する副反応を少なくする、カプロラクタムの製造において次いで用いられてもよい混合物を提供する。
【0017】
使用されてもよい亜硫酸の典型的な塩には、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウムなどがある。アルカリ水酸化物には典型的に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはその2つの混合物などがある。好ましくは、水酸化ナトリウムを添加して有機混合物を処理し、シクロヘキセノンの濃度を低減する。
【0018】
アルカリ水酸化物が処理のための添加剤として使用されるケースにおいて、シクロヘキセノンを含有する有機混合物がシクロヘキサノンをすでに含有しない場合、有機混合物は、それをアルカリ水酸化物で処理する前にシクロヘキサノンを加えられるのがよいことは理解されるはずである。アルカリ水酸化物を用いて有機混合物を処理するとき、シクロヘキセノンの濃度は、シクロヘキサノンとの反応によって、シクロヘキセノンと異なりカプロラクタムの製造の間、ヒドロキシルアミンと非反応性であるダイマーを形成して低下すると考えられる。
【0019】
添加されたシクロヘキサノンの量は、有機混合物を約1重量%〜約5重量%のシクロヘキサノンにするために十分であってもよいが、より多くの量のシクロヘキサノンを添加してもよい。
【0020】
亜硫酸塩を用いて有機混合物中のシクロヘキセノンの濃度を低減する場合、亜硫酸水素ナトリウムまたはメタ重亜硫酸ナトリウムは、有機混合物が一切のシクロヘキサノンを含有しない時に特に有効であることがある。さらに、亜硫酸塩が用いられる場合、炭酸ナトリウムを添加することによって、より有効な処理を達成してもよい。炭酸ナトリウムは、有機混合物を安定化させ、シクロヘキセノンの改質を低減すると考えられる。例えば、亜硫酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合物またはメタ重亜硫酸ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合物が有利には有機混合物の処理に用いられてもよい。
【0021】
有機混合物は、シクロヘキサンの酸化のプロセスから得られたシクロヘキセノン含有シクロヘキサノール−シクロヘキサノン混合物であってもよい。酸化は、高純度酸素または空気など、いずれの酸化環境において行われてもよい。どちらの場合においても、酸化生成物を未反応シクロヘキサンから除去するために蒸留が必要とされることがある。本発明の典型的な実施形態と合致した方法による処理の後、次いでシクロヘキセノン減損シクロヘキサノール−シクロヘキサノン混合物は脱水素化されてもよい。この脱水素化は、シクロヘキサノールをシクロヘキサノンに変換し、主にシクロヘキサノンであるカプロラクタムの製造のために特に適した供給原料をもたらす。
【0022】
シクロヘキサノールを脱水素化する前または後のどちらかに処理および/または一切の蒸留が行われてもよいことは理解されるはずである。例えば、処理されるシクロヘキセノン含有有機混合物は、処理がシクロヘキサノール−シクロヘキサノン混合物の脱水素化に先行するのではなく後に続く場合、すでに主にシクロヘキサノンである場合がある。
【0023】
シクロヘキセノンを除去することが望ましい場合がある有機混合物の別の実施例は、シクロヘキサノールをフェノールから製造するプロセスから得られたシクロヘキサノールを含有し、それは典型的には、シクロヘキサノールとシクロヘキセノン不純物との有機混合物をもたらす。
【0024】
本発明の方法によって製造されたシクロヘキセノン減損シクロヘキサノンは、カプロラクタムの製造のために適している。
【実施例】
【0025】
以下の非限定的な実施例は、本発明の方法を例示する。
【0026】
(実施例1)
55.82重量%のシクロヘキサノン、43.96重量%のシクロヘキサノール、および0.22重量%の2−シクロヘキセン−1−オンを含有するKA油の200mL溶液を、加熱用マントル、攪拌バー、温度調節器、還流冷却器を備えた、試料添加/取出し孔を有する500mLガラス反応器に添加した。混合物を、絶えず攪拌しながら30分間、約95℃において0.1gの亜硫酸水素ナトリウムで処理した。
【0027】
添加された亜硫酸水素ナトリウムの量だけを変えて、実験を繰り返した。繰り返された実験は、0.25gおよび0.5gの亜硫酸水素ナトリウムのレベルにおいて行われた。添加された亜硫酸水素ナトリウムの関数として処理後の有機混合物中のシクロヘキセノンの濃度のプロットを図1に示す。図1が示すように、有機混合物を亜硫酸水素ナトリウムで30分間95℃において処理することによって、初期シクロヘキセノン含量の約90%まで低減させることができる。
【0028】
(実施例2)
実施例1に記載された同じ実験設備を用いて、65.19重量%のシクロヘキサン、21.54重量%のシクロヘキサノン、13.17重量%のシクロヘキサノールおよび0.11重量%の2−シクロヘキセン−1−オンを含有するシクロヘキサン酸化混合物に相当する200mLの混合物を反応器に入れた。3gの25重量%NaOH溶液も添加した。混合物を、連続的に攪拌する間、約75分間85℃に加熱して維持した。NaOHの添加によって、時間とともに混合物中のシクロヘキセノンの濃度の減少がみられ、その結果を図2に示す。これらの結果は、シクロヘキサンの酸化から生じた有機混合物など、有機混合物中のシクロヘキセノンの濃度が、本発明の典型的な実施形態による方法を用いて約96%低減されうることを示す。
【0029】
本発明は、本願明細書に記載された特定の実施形態によって範囲において限定されるものではない。確かに、本願明細書に記載された改良に加えて、本発明の様々な改良は、前述の説明から当業者には明白であろう。従って、このような改良は、以下の添付された請求項の範囲内にあることが意図される。さらに、本発明は、特定の目的のために特定の環境での特定の実施という脈絡の中で本願明細書において説明されたが、当業者は、その有用性がそれに限定されず、任意の数の目的のために任意の数の環境において本発明が有利に実施されうることを理解するであろう。したがって、以下に示された請求項は、本願明細書に開示された本発明の全範囲と精神を考慮して解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】シクロヘキセノンを含有する有機混合物に添加された、弱酸塩がシクロヘキセノンの濃度に及ぼす効果のグラフ図である。
【図2】アルカリ水酸化物の存在下で時間の関数としての有機混合物中のシクロヘキセノンの量のグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキセノンを含む有機混合物中のシクロヘキセノンの濃度を低減するための方法であって、前記有機混合物を、亜硫酸、亜硫酸の塩、またはアルカリ水酸化物の少なくとも1つを含む添加剤の有効量で処理する工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記有機混合物が、約60〜約160℃の範囲の温度において処理されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機混合物が約10〜約90分間、処理されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記有機混合物が亜硫酸、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムまたはこれらの化合物の2つ以上の混合物の少なくとも1つで処理されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記有機混合物が亜硫酸の塩で処理され、前記有機混合物が炭酸ナトリウムでさらに処理されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記有機混合物が亜硫酸水素ナトリウムで処理されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記有機混合物が亜硫酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムで処理されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記有機混合物が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはその2つの混合物で処理されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記有機混合物が水酸化ナトリウムで処理されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
シクロヘキサノンを前記有機混合物に添加する工程を含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記有機混合物がシクロヘキサノンおよびシクロヘキセノンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記有機混合物がシクロヘキサノールをさらに含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記有機混合物が、シクロヘキサンを酸化する方法によって得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記有機混合物がシクロヘキサノールおよびシクロヘキセノンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記有機混合物が亜硫酸、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムまたはこれらの化合物の2つ以上の混合物で処理されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記有機混合物がまた、炭酸ナトリウムで処理されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記有機混合物が、シクロヘキセノンとシクロヘキサノールとを含む混合物を脱水素化する方法によって得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記有機混合物がシクロヘキサノールおよびシクロヘキサノンを含み、前記混合物が脱水素化方法の後に処理されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記添加剤が、シクロヘキセノンの濃度を約75%低減させるために有効な量において添加されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記添加剤が、シクロヘキセノンの濃度を約90%低減させるために有効な量において添加されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記シクロヘキセノンが2−シクロヘキセン−1−オンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記有機混合物が、シクロヘキサノールをフェノールから製造する方法によって得られたシクロヘキサノールを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
請求項1の方法によって製造されたシクロヘキセノン減損有機混合物から製造されることを特徴とする、ε−カプロラクタムの製造に適したシクロヘキサノン供給原料。
【請求項24】
シクロヘキセノンとシクロヘキサノンとを含む有機混合物中の2−シクロヘキセン−1−オンの濃度を低減する方法であって、前記有機混合物を亜硫酸、亜硫酸の塩、アルカリ水酸化物、またはこれらの化合物の2つ以上の混合物からなる群から選択された添加剤の有効量で処理する工程を含むことを特徴とする、方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−513359(P2008−513359A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529992(P2007−529992)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【国際出願番号】PCT/US2005/029655
【国際公開番号】WO2006/033740
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(505245302)インヴィスタ テクノロジー エスアエルエル (81)
【氏名又は名称原語表記】INVISTA Technologies S.a.r.l.
【住所又は居所原語表記】Talstrasse 80,8001 Zurich,Switzerland
【Fターム(参考)】