説明

シクロヘキセンの製造方法

【課題】ベンゼンを原料とし、これを水素添加することにより、高い転化率で高選択的にシクロヘキセンを得ることができるシクロヘキセンの製造方法を提供する。
【解決手段】ルテニウム触媒、水及び金属塩存在下、ベンゼンを水素により部分水素添加して反応させてシクロヘキセンを製造するに当たり、油相中に炭素数8以上の飽和炭化水素の油相中の濃度は10重量ppm以上10重量%以下であること、炭素数8以上の飽和炭化水素としては流動パラフィンを用いること、金属塩としては硫酸亜鉛を用いることがそれぞれ好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム触媒存在下にベンゼンを水素添加してシクロヘキセンを製造する方法に関するものである。シクロヘキセンは、有機化学工業製品の中間原料としてその価値が高く、特にポリアミド原料、リジン原料などとして有用である。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキセンの製造方法としては様々な方法が知られており、その中でもベンゼンをルテニウム触媒を用いて部分的に水素添加する方法が最も一般的であり、選択率や収率をアップする方法として、触媒成分や担体の種類、あるいは反応系への添加物としての金属塩などについて検討した結果が多く報告されている。
その中でもシクロヘキセンの収率が比較的高い水及び亜鉛が共存する反応系においては、例えば、(1)ベンゼンを水及び少なくとも1種の亜鉛化合物の共存下、中性もしくは酸性条件下に水素により部分還元するに際し、触媒として3〜20nmの平均結晶子径を有する金属ルテニウムを主成分とする粒子を担体に担持した触媒を用いて行う方法(特許文献1)、(2)ルテニウム触媒存在下にベンゼンを部分的に水素添加してシクロヘキセンを製造するに当たり反応系中に飽和溶解度以下の量の酸化亜鉛及び水酸化亜鉛の中の少なくとも1種をすべて溶解状態で存在させて行う方法(特許文献2)、(3)ベンゼンを水の存在下、水素により部分還元するに際し、20nm以下の平均結晶子径を有する金属ルテニウムを主成分とする水素化触媒粒子を用い、少なくとも1種の固体塩基性亜鉛の共存下、中性または酸性の条件下に反応を行う方法(特許文献3)、(4)ホウ素化合物を含有するルテニウム触媒を用いる方法(特許文献4、5、6)などが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特公平8−25919号公報
【特許文献2】特公平5−12331号公報
【特許文献3】特公平8−19012号公報
【特許文献4】CN1176886C
【特許文献5】CN1197651C
【特許文献6】CN1234666C
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ベンゼンから高い転化率で高選択的にシクロヘキセンを得ることができるシクロヘキセンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ベンゼンの部分水素添加反応において原料ベンゼン中に飽和炭化水素を添加することにより、シクロヘキセンを高い選択率で得ることができることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下に記載する通りのシクロヘキセンの製造方法である。
【0006】
(1)ルテニウム触媒、水及び硫酸亜鉛存在下、ベンゼンを水素により部分水素添加して反応させてシクロヘキセンを製造するに当たり、反応に供給するベンゼン中に飽和炭化水素を存在させて部分水素添加反応を行うことを特徴とするシクロヘキセンの製造方法。
(2)前記飽和炭化水素のベンゼン中の濃度が10重量ppm以上10重量%以下であることを特徴とする上記(1)記載のシクロヘキセンの製造方法。
(3)前記飽和炭化水素が流動パラフィンであることを特徴とする上記(1)または(2)記載のシクロヘキセンの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ベンゼンから従来にない高選択率でシクロヘキセンを得ることができることから高収率でシクロヘキセンを生産し、副生物のシクロヘキサンの量を減少することができる。これはシクロヘキセン製造を工業的に実施する上で極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の重要な特徴は、ルテニウム触媒、水及び硫酸亜鉛存在下、ベンゼンを水素により部分水素添加して反応させ、シクロヘキセンを製造するに当たり、原料のベンゼン中に飽和炭化水素を存在させることである。
飽和炭化水素としては特に限定されるものではないが、たとえばエタン、ブタン、ペンタン、オクタン、イソオクタン、ノナンなどの鎖状飽和炭化水素、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサンなどの脂環式飽和炭化水素などである。エタン、ブタンなどは部分水素添加反応の温度100℃から200℃では蒸気圧が高く、高圧に耐える反応器が必要となる。またペンタン、ヘキサン、ペンタンなどは目的生成物であるシクロヘキセンと沸点が近く、部分水素反応後に反応液からシクロヘキセンを精製するのに分離効率の高い蒸留塔などが必要となる。これらの事情より飽和炭化水素としてより好ましくは、流動パラフィンである。
本発明で言う流動パラフィンとは無色無臭で揮発性が低く主にアルキルナフテン類からなり、ミネラルオイル、ホワイトオイルとも言うものである。より具体的にはCASレジストリーナンバーの8042−47−5、8009−03−8、8020−83−5、8012−95−1、16819−97−9である。
【0009】
飽和炭化水素が反応系中に存在する量としては、部分水素添加反応における油相中の濃度が10重量ppm以上10重量%以下であることが好ましい。10重量ppmより少ないと飽和炭化水素が存在する効果が得られない。10重量%より多いと部分水素添加反応の速度が著しく低下しシクロヘキセンの生産性が低下する結果となり好ましくない。
また、飽和炭化水素中の硫黄濃度は、1ppm以下であることが好ましい。硫黄濃度が1ppmを超えるとルテニウム触媒が硫黄により被毒され、部分水素化反応のシクロヘキセン選択率と触媒活性が著しく低下し好ましくない。
【0010】
ベンゼンの部分水素添加反応における原料ベンゼン中に飽和炭化水素を存在せしめる方法としては、原料ベンゼン中にあらかじめ混合して反応系に供給してもよいし、飽和炭化水素のみをベンゼンとは別に反応系中に供給してもよい。
飽和炭化水素が存在することによって目的とするシクロヘキセンの選択率が向上する理由は必ずしも明確ではないが、飽和炭化水素が存在することにより、油相の親油性を増すと考えられ、これにより部分水素添加反応によって生成したシクロヘキセンが反応場である水相中の触媒上から油相中へ抽出されやすくなり、シクロヘキセンが触媒上で更に水素化されることを抑制するためと考えられる。
【0011】
本発明で用いるルテニウム触媒は、種々のルテニウム化合物を予め還元して得られる金属ルテニウムを含む触媒であることが好ましい。このルテニウム化合物としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物、あるいは硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、あるいは各種のルテニウムを含む錯体、例えば、ルテニウムカルボニル錯体、ルテニウムアセチルアセトナート錯体、ルテノセン錯体、ルテニウムアンミン錯体、ルテニウムヒドリド錯体、及び、かかる錯体から誘導される化合物を用いることができる。さらにこれらルテニウム化合物を2種以上混合して用いることもできる。また、反応に仕込むルテニウムの状態としては、金属ルテニウムを含まないルテニウム化合物の状態でもよいが、その場合のルテニウム化合物としては、水酸化物などを用いることができる。
【0012】
これらのルテニウム化合物の還元法としては、水素や一酸化炭素などによる接触還元法、あるいは、ホルマリン、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ヒドラジンなどによる化学還元法が用いられる。このうち好ましくは水素による接触還元と水素化ホウ素ナトリウムによる化学還元である。水素による接触還元の場合、通常50〜450℃、好ましくは100〜400℃の条件で還元活性化する。還元温度が50℃未満では還元に時間がかかりすぎ、また、450℃を超えるとルテニウムの凝集が進み、活性や選択性に悪影響を及ぼすことがある。尚、この還元は気相で行っても液相で行ってもよいが、好ましくは液相還元である。また水素化ホウ素ナトリウムによる化学還元の場合、還元温度は100℃以下の温度が好ましく、通常30℃〜90℃が好ましい。
【0013】
反応に仕込む前に金属ルテニウムを含まない状態のルテニウム触媒としては、上記の種々のルテニウム化合物を担体に担持した状態で水酸化ナトリウムなどのアルカリで処理した水酸化ルテニウムの状態で担持された状態であるか、または、非水溶性の金属酸化物または金属水酸化物からなる分散剤と上記のルテニウム化合物が存在する状態に水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加することによって得られる水酸化ルテニウムと分散剤が混合された状態が特に好ましい。
【0014】
また、ルテニウム化合物の還元前もしくは還元後において、他の金属や金属化合物、例えば、亜鉛、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、銅、金、白金、ホウ素、ランタン、インジウム、スズなどやかかる金属の化合物を加えることによって得られるルテニウムを主体とするものを用いてもよい。かかる金属や金属化合物を使用する場合には、ルテニウム原子に対する原子比として通常0.0001〜40の範囲で選択される。この中でも好ましくは亜鉛や亜鉛化合物であり、亜鉛や亜鉛化合物はルテニウム化合物の還元前、または還元時に加えられるのが好ましく、その加える量としてはルテニウムに対して亜鉛が0.1〜50重量%含有する量が好ましい。
【0015】
更に触媒活性およびシクロヘキセンの選択率の観点からルテニウムに対して亜鉛が0.5から30重量%含有する量がとりわけ好ましい。このような金属や金属化合物を含有するルテニウムを主体とする触媒の調製方法としては、たとえば、担体にルテニウム化合物と他の金属または金属化合物を担持した後に還元処理する方法、ルテニウム化合物と他の金属または金属化合物を含有する溶液に水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加することによってルテニウム化合物と他の金属または金属化合物を同時に不溶性の塩として沈殿させたものを還元する方法、担持されたまたは、されていない不溶性のルテニウム化合物を液相で還元する際に他の金属化合物を液相に存在させる方法、ルテニウム化合物も他の金属化合物も液相に溶解した状態のままで還元処理する方法などを用いることができる。
【0016】
ルテニウム触媒は、担体に担持させて使用してもよい。担体としては、特に制限されるものではないが、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ハフニウム、タングステンなどの金属の酸化物、複合酸化物、水酸化物、難水溶性金属塩、あるいは、このような担体となりうるものを2種以上化学的あるいは物理的に組み合わせた化合物や混合物などが例示される。
【0017】
この中でも酸化ジルコニウムと水酸化ジルコニウムが好ましく、特に酸化ジルコニウムが反応条件下での比表面積などの物理的安定性に優れており好ましい。酸化ジルコニウムとしては特に平均粒子径が0.05〜10μmであり、比表面積が20〜200m/g、平均細孔径が1〜50nmの間であることが好ましい。かかる担体へのルテニウムの担持方法としては特に制限されるものではないが、吸着法、イオン交換法、浸せき法、共沈法、乾固法などが開示される。ルテニウムの担持量についても特に制限されるものではないが、通常、担体に対して0.001〜50重量%である。特に酸化ジルコニウムを担体に用いる際には、ルテニウムに対して酸化ジルコニウムを1〜200重量倍用いることが好ましい。さらに好ましくは、2〜10重量倍である。
【0018】
また、ルテニウムを担体に担持しないでそのまま用いる場合でも分散剤を用いることが好ましい。分散剤としては、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ハフニウム、タングステンなどの金属の酸化物、複合酸化物、水酸化物、難水溶性金属塩、あるいは、このような分散剤となりうるものを2種以上化学的あるいは物理的に組み合わせた化合物や混合物などが例示される。この中でも酸化ジルコニウムと水酸化ジルコニウムが好ましく、特に酸化ジルコニウムが反応条件下での比表面積などの物理的安定性に優れており好ましい。酸化ジルコニウムとしては特に平均粒子径が0.05〜10μmであるものが好ましく用いられる。用いる酸化ジルコニウムの量はルテニウムに対して1〜200重量倍用いることが好ましい。さらに好ましくは、2〜10重量倍である。
【0019】
さらに、ルテニウム触媒の平均結晶子径は好ましくは20nm以下であり、これを超える平均結晶子径ではルテニウム触媒の表面積が減少するために活性点が減少し、触媒活性が低下するので効率的ではない。このルテニウム触媒の平均結晶子径の測定は、用いるルテニウム触媒をX線回折法によって得られる回折線幅の拡がりからScherrerの式より算出される。具体的には、CuKα線をX線源として用いて、回折角(2θ)で44゜付近に極大を持つ回折線の拡がりから算出される。またこの平均結晶子径の下限値としては理論的に結晶単位より大きな値であって、現実的には1nm以上である。
【0020】
本発明の反応系においては水が存在していなければならず、その量は反応形式によって異なるが、用いる原料ベンゼンに対して0.5〜20重量%である。水の量が少なすぎるとシクロヘキセンの選択性の低下を招き、また水の量が多すぎると反応器が大きくなる等弊害があるため、好ましくは用いる原料ベンゼンに対して1〜10重量倍共存させるのが良い。但し、いずれの場合においても反応条件において原料及び生成物を主成分とする有機物液相と水を含む液相とが1相とならない量の水が存在している必要がある。言い換えると原料及び生成物が主成分の有機物液相つまりオイル相と水が主成分の水相が相分離した状態、つまりオイル相と水相の液2相状態となる量の水が存在していなければならない。尚、ここに言う主成分とは、該液相を構成する成分のうちモル数にして最大割合を示す成分のことである。
【0021】
また、反応系に共存させる水が形成する水相中の水素イオン濃度つまりpHは、7.0以下の酸性または中性であることが好ましい。さらに、本発明においては、硫酸亜鉛が存在している必要があり、硫酸亜鉛は、反応系に存在する水に少なくとも一部あるいは全部が溶解状態で存在する必要がある。用いる硫酸亜鉛の量は、反応系に存在する水相中の濃度が1×10−5〜5.0mol/lであることが好ましく、少なくとも硫酸亜鉛を含む金属塩を用いる場合には1×10−3〜2.0mol/lがより好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0mol/lである。また、硫酸亜鉛に加えて鉄、ニッケル、カドミウム、ガリウム、インジウム、マグネシウム、アルミニウム、クロム、マンガン、コバルト、銅などの硫酸塩を2種以上併用してもよいし、かかる金属硫酸塩を含む複塩であってもよい。また、硫酸亜鉛と水酸化亜鉛、酸化亜鉛などの亜鉛塩の複塩の添加は好ましく、特に水酸化亜鉛を含む複塩、例えば、一般式(ZnSO・(Zn(OH)で示されるm:n=1:0.01〜100の複塩の存在が好ましい。
【0022】
更に、本発明の反応系には、従来知られた方法の如く下記の金属塩を存在させてもよい。金属塩の種類としては、周期律表のリチウム、ナトリウム、カリウムなどの1族金属、マグネシウム、カルシウムなどの2族金属(族番号は、IUPAC無機化学命名法改訂版(1989)による)あるいは、亜鉛、マンガン、コバルト、銅、カドミウム、鉛、ヒ素、鉄、ガリウム、ゲルマニウム、バナジウム、クロム、銀、金、白金、ニッケル、パラジウム、バリウム。アルミニウム、ホウ素などの金属硝酸塩、酸化物、水酸化物、酢酸塩、リン酸塩など、または、これらを2種以上化学的及び/または物理的に混合して用いることなどが例示され、
金属塩の使用量は、水相を酸性あるいは中性に保てる限り、特に制限はないが、通常は用いるルテニウムに対して1×10−5〜1×10重量倍であり、これらは反応系内のどこに存在してもかまわず、存在形態については、必ずしも全量が水相に溶解している必要はない。
【0023】
本発明において、反応圧力は、一般に1〜20MPaで好ましくは、2〜7MPaである。反応圧力が低すぎるとシクロヘキセンの選択率が低下し、また反応圧力が高すぎると反応器に供給する水素やベンゼン、飽和炭化水素を高圧にしなければならず、共に非効率的である。また反応温度は、一般に50〜250℃であるが、好ましくは100〜200℃である。反応温度が低すぎると反応速度が低下し、反応温度を上げすぎると触媒であるルテニウムの平均結晶子径の成長を促進し、短時間で触媒活性が著しく低下する結果を招く。
反応形式としては、一槽または二槽以上の反応槽を用いて、回分式に行うこともできるし、連続的に行うことも可能であり、また固定床式反応器を用いてもよく、特に限定されない。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例に示されるシクロヘキセンの選択率及び原料のベンゼンの転化率とは、実験の濃度分析値を基に、次に示す式(1)及び(2)により算出した値を表したものである。
【0025】
【数1】

【0026】
[実施例1]
塩化ルテニウム水和物(ルテニウム40重量%含有)2.9gと塩化ランタン七水和物0.09gを180mlの蒸留水に溶解した。これに酸化ジルコニウム粉末(和光純薬工業社製)8gを加え、1時間室温で攪拌した。その後、この懸濁溶液に水素化ホウ素ナトリウム3.5gを90mlの水に溶解した水溶液を30分かけて滴下した。滴下の間懸濁溶液の温度が30℃を超えないようにした。また水素化ホウ素ナトリウム水溶液は氷冷した。水素化ホウ素ナトリウム水溶液を全量加えた後、室温で1時間攪拌した。その後、16時間室温で静置した。上澄みを除去し、蒸留水を200ml加えて攪拌後、静置し、再び上澄みを除去する操作を上澄み液のpHが中性になるまで繰り返した。得られた含水触媒の一部を乾燥し、水分量、蛍光X線による元素分析を行った。
その結果、乾燥重量で10gの触媒が得られ、ルテニウムの含有量は、11.5重量%、ランタンの含有量は、0.3重量%、酸化ジルコニウムの含有量は、88.2重量%であった。
【0027】
ポリテトラフルオロエチレンが内張されている1リットルの小型オートクレーブに水280ml、硫酸亜鉛七水和物43g、上記で得られた含水触媒を乾燥重量で3.4g、酸化ジルコニウム粉末(和光純薬工業製)6.6gを仕込んだ。最初に窒素ガスを用いてオートクレーブ内の空気を置換し、その後水素ガスを用いて窒素ガスを置換した後、水素ガス圧力を4.0MPaに維持し、140℃まで昇温後、16時間前処理を行った。その後流動パラフィン(和光純薬社製、20℃での比重0.87g/ml)を20重量ppm含むベンゼンを140ml加え、同時に水素ガス圧力を5.0MPaに調整した。5minおきに反応液のサンプリングを行い、ガスクロマトグラフで油相中のベンゼン、シクロヘキセン、シクロヘキサンの含有量を分析し、ベンゼン転化率とシクロヘキセン選択率を求めた。
その結果、得られたベンゼン転化率とシクロヘキセン選択率をプロットした曲線から読み取ったベンゼン転化率50%でのシクロヘキセン選択率は、83.5%であった。また反応時間30分でのベンゼン転化率は、36%であった。
【0028】
[実施例2]
流動パラフィンの含有量が100重量ppmであるベンゼンを用いた以外は、実施例1と同様に実施例1の触媒を用いてベンゼンの部分水素化反応を行った。
その結果、ベンゼン転化率50%でのシクロヘキセン選択率は、84.5%であった。また反応時間30分でのベンゼン転化率は、28%であった。
【0029】
[実施例3]
流動パラフィンの含有量が5重量%であるベンゼンを用いた以外は、実施例1と同様にしてベンゼンの部分水素化反応を行った。
その結果、ベンゼン転化率50%でのシクロヘキセン選択率は、86.2%であった。また反応時間30分でのベンゼン転化率は、20%であった。
【0030】
[実施例4]
流動パラフィンの含有量が10重量%であるベンゼンを用いた以外は、実施例1と同様にしてベンゼンの部分水素化反応を行った。
その結果、ベンゼン転化率50%でのシクロヘキセン選択率は、86.8%であった。また反応時間30分でのベンゼン転化率は、10%であった。
[実施例5]
流動パラフィンに換えてペンタンの含有量が5重量%であるベンゼンを用いた以外は、実施例1と同様にしてベンゼンの部分水素化反応を行った。
その結果、ベンゼン転化率50%でのシクロヘキセン選択率は、85.8%であった。また反応時間30分でのベンゼン転化率は、29%であった。
[実施例6]
流動パラフィンに換えてオクタンの含有量が5重量%であるベンゼンを用いた以外は、実施例1と同様にしてベンゼンの部分水素化反応を行った。
その結果、ベンゼン転化率50%でのシクロヘキセン選択率は、85.5%であった。また反応時間30分でのベンゼン転化率は、28%であった。
【0031】
[比較例1]
流動パラフィンを含まないベンゼンを用いた以外は、実施例1と同様にしてベンゼンの部分水素化反応を行った。
その結果、ベンゼン転化率50%でのシクロヘキセン選択率は、82.2%であった。また反応時間30分でのベンゼン転化率は、40%であった。
【0032】
[実施例7]
塩化ルテニウム水和物(ルテニウム40重量%含有)6.5gと塩化亜鉛0.27gを260mlの蒸留水に溶解し、酸化ジルコニウム粉末(和光純薬工業社製)20gを加え、1時間攪拌した。この懸濁溶液に水素化ホウ素ナトリウム28.0gを730mlの水に溶解した水溶液を1時間かけて加えた。この間、懸濁溶液の温度は30℃を超えないようにした。また水素化ホウ素ナトリウム水溶液は氷冷した。水素化ホウ素ナトリウム水溶液を全量加えた後、室温で1時間攪拌した。その後、16時間室温で静置した。得られた触媒スラリーを濾過し、蒸留水を用いて濾液のpHが中性になるまで洗浄した。
この触媒を乾燥重量で5.0g、水280ml、硫酸亜鉛七水和物43gを用いて実施例1と同様にテトラフルオロエチレンが内張されている1リットル小型オートクレーブ内で前処理を行った。その後、流動パラフィン(和光純薬社製、20℃での比重0.87g/ml)を2重量%含むベンゼンを140ml加え、同時に水素ガス圧力を5.0MPaに調整した。5minおきに反応液のサンプリングを行い、ガスクロマトグラフで油相中のベンゼン、シクロヘキセン、シクロヘキサンの含有量を分析し、ベンゼン転化率とシクロヘキセン選択率を求めた。
その結果、ベンゼン転化率50%でのシクロヘキセン選択率は、83.7%であった。また反応時間30分でのベンゼン転化率は、36%であった。
【0033】
[比較例2]
流動パラフィンを含まないベンゼンを用いた以外は、実施例5と同様にしてベンゼンの部分水素化反応を行った。
その結果、ベンゼン転化率50%でのシクロヘキセン選択率は、81.5%であった。また反応時間30分でのベンゼン転化率は、45%であった。
【0034】
[実施例8]
ルテニウム触媒として、あらかじめ水酸化亜鉛を含有させた水酸化ルテニウムを還元して得た亜鉛を7重量%含有する水素化ルテニウム触媒を乾燥重量で0.5gと分散剤として酸化ジルコニウム粉末(和光純薬工業社製)5gを用いた以外は、実施例5同様に前処理とベンゼンの部分水素化反応を行った。
その結果、ベンゼン転化率50%でのシクロヘキセン選択率は、86.5%であった。また反応時間30分でのベンゼン転化率は、31%であった。
【0035】
[比較例3]
流動パラフィンを含まないベンゼンを用いた以外は、実施例6と同様にしてベンゼンの部分水素化反応を行った。
その結果、ベンゼン転化率50%でのシクロヘキセン選択率は、83.3%であった。また反応時間30分でのベンゼン転化率は、47%であった。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、シクロヘキセンをベンゼンから高選択的に得、副生するシクロヘキサンを低減することができ、シクロヘキセンの製造方法として利用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウム触媒、水及び硫酸亜鉛存在下、ベンゼンを水素により部分水素添加して反応させてシクロヘキセンを製造するに当たり、反応に供給するベンゼン中に飽和炭化水素を存在させて部分水素添加反応を行うことを特徴とするシクロヘキセンの製造方法。
【請求項2】
前記飽和炭化水素のベンゼン中の濃度が10重量ppm以上10重量%以下であることを特徴とする請求項1記載のシクロヘキセンの製造方法。
【請求項3】
前記飽和炭化水素が流動パラフィンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシクロヘキセンの製造方法。

【公開番号】特開2008−63274(P2008−63274A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242315(P2006−242315)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】