説明

シクロヘキセンカルボン酸エステル化合物の製造方法

【課題】リン酸オセルタミビルの製造用中間体として有用な化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(II):


(R1及びR2は異なるアミノ基の保護基を示し、R3はアシルアニオン等価基を示す)で表される化合物をエステル生成反応に続き脱水反応に付す、一般式(I):


で表される化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新型インフルエンザに対して優れた予防・治療効果を有する抗ウイルス薬であるリン酸オセルタミビル(商標名「タミフル」)の製造用中間体として有用なシクロヘキセンカルボン酸エステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鳥インフルエンザウイルスの変異によりH5N1型などの新型インフルエンザが世界的に大流行して多数の死亡者が出ることが危惧されている。新型インフルエンザに対して抗ウイルス薬であるリン酸オセルタミビル(商標名「タミフル」)が著効を示すことが知られており、感染予防のためにこの薬剤を国家機関が大量に備蓄するようになっている。このため、リン酸オセルタミビルの需要が国際的に急速に高まっており、安価に大量供給する手段の開発が求められている。
【0003】
リン酸オセルタミビルの合成方法としてはシキミ酸を出発原料として用いる方法が知られている(J. Am. Chem. Soc., 119, 681, 1997)。しかしながら、シキミ酸はトウシキミの実(八角)から抽出・精製するか、又は大腸菌によるD−グルコースからの発酵を経て調製されるが、これらのプロセスは時間及びコストがかかるという問題を有している。また、トウシキミの実などの植物原料は安定的な供給が困難になる場合もある。従って、リン酸オセルタミビルを容易に入手可能な原料化合物から効率的に化学合成する手段の開発が求められている。
【0004】
例えば、リン酸オセルタミビルの製造用中間体として有用なα,β-不飽和シクロヘキサノン誘導体及びその製造中間体を製造する方法が知られている(国際公開WO2007/099843)。また、このα,β-不飽和シクロヘキサノン誘導体を効率的に製造するための環状ウレタン化合物並びにその製造中間体として有用なアシルアジド化合物及びイソシアネート化合物も提案されている(特開2008-81489号公報)。さらに、特開2008-81489号公報で報告された化合物から誘導される化合物(下記スキーム中の化合物5)から数工程を経て、最終段階の直前の工程で光延反応を2回行なうことによりリン酸オセルタミビル(下記スキーム中の化合物1)を製造する方法が報告されている(Angew. Chem. Int. Ed., 48, 1070, 2009;下記スキーム中、Meはメチル基、Etはエチル基、TMSはテトラメチルシリル基、Bocはtert-ブトキシカルボニル基、Acはアセチル基、TFAはトリフルオロ酢酸、TFAAはトリフルオロ酢酸無水物を示す。本明細書において同様である)。
【0005】
【化1】

【0006】
しかしながら、上記の光延反応を利用する上記の方法は工業的観点から必ずしも好ましいものではないことから、光延反応を利用せずにエーテル基を効率的に導入するための新たな方法の開発が求められている。なお、上記の刊行物(Angew. Chem. Int. Ed., 48, 1070, 2009)の注釈[25]には、化合物3の二重結合を酸化することによりシスジオール化合物(酸化により導入される2個の水酸基はシス配置であり、アセトアミド基(-NHAc)に対してそれぞれトランス配置である)がおおよそ50%の収率で得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2007/099843
【特許文献2】特開2008-81489号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Angew. Chem. Int. Ed., 48, 1070, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、リン酸オセルタミビルの製造用中間体として有用な化合物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、上記の刊行物(Angew. Chem. Int. Ed., 48, 1070, 2009)に記載された化合物3の二重結合を酸化することにより得られるシスジオール化合物を原料化合物として用い、このシスジオール化合物を脱水反応に付してシクロヘキセン環を形成させると、リン酸オセルタミビルのエーテル基と同一の位置に同じ立体配置を有する水酸基を残留させることができ、リン酸オセルタミビルの製造用中間体として有用な化合物が極めて効率的に製造できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明により、下記の一般式(I):
【化2】

(式中、R1及びR2は異なるアミノ基の保護基を示す)で表される化合物の製造方法であって、下記の一般式(II):
【化3】

(式中、R1及びR2は上記と同義であり、R3はアシルアニオン等価基を示す)で表される化合物をエステル生成反応に続き脱水反応に付する工程を含む方法が提供される。
【0012】
上記発明の好ましい態様によれば、上記の一般式(II)で表される化合物から下記の一般式(III):
【化4】

(R1、R2、及びR3は上記と同義であり、R4及びR5はそれぞれ独立にアルキル基を示す)で表される中間体化合物を製造した後にエステル生成反応を行なう上記の方法が提供される。
【0013】
さらに好ましい態様によれば、R3がMAC反応剤として機能する官能基である上記の方法;R3が-C(OR6)(CN)2(R6は水酸基の保護基を示す)で表される基である上記の方法;R6が置換シリル基である上記の方法;置換シリル基がtert-ブチルジメチルシリル基である上記の方法;R1がアセチル基である上記の方法;R2がtert-ブトキシカルボニル基である上記の方法;R4及びR5が同一のC1-6アルキル基である上記の方法;R4及びR5がともにメチル基である上記の方法が提供される。
【0014】
別の好ましい態様によれば、下記の一般式(IV):
【化5】

(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物をジオール化して一般式(II)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物を製造する工程をさらに含む上記の方法が提供される。この工程におけるジオール化は、好ましくはルテニウム化合物の存在下でメタ過ヨウ素酸により行うことができる。
【0015】
さらに本発明により、オセルタミビル又はその塩の製造方法であって、下記の工程:
(a)上記の一般式(II)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物をエステル生成反応に続き脱水反応に付することにより上記の一般式(I)(式中、R1及びR2は上記と同義である)で表される化合物を製造する工程;及び
(b)上記工程(a)で得られた一般式(I)で表される化合物の水酸基の3-ペンチル化を行い、該ペンチル化の前又は後に必要に応じてR1をアセチル基に変換し、その後にR2の脱保護を行う工程
を含む方法が提供される。オセルタミビルの塩としてはリン酸塩が好ましい。
【0016】
このオセルタミビル又はその塩の製造方法の好ましい態様により、上記の一般式(II)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物から上記の一般式(III)(R1、R2、R3、R4、及びR5は上記と同義である)で表される中間体化合物を製造した後にエステル生成反応を行なう上記の方法;及び上記の一般式(IV)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物をジオール化して上記の一般式(II)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物を製造する工程をさらに含む方法が提供される。
【0017】
また、本発明により、オセルタミビル又はその塩の製造方法であって、下記の工程:
(a)上記の一般式(II)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物をエステル生成反応に続き脱水反応に付することにより上記の一般式(I)(式中、R1及びR2は上記と同義である)で表される化合物を製造する工程;及び
(b)上記工程(a)で得られた一般式(I)で表される化合物の水酸基の3-ペンチル化を行った後にR2の脱保護を行い、該脱保護の前又は後に必要に応じてR1をアセチル基に変換する工程
を含む方法が提供される。
【0018】
別の観点からは、上記の一般式(III)(R1、R2、R3、R4、及びR5は上記と同義である)で表される化合物が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によれば、リン酸オセルタミビルの製造用中間体として有用な化合物を極めて効率的に製造することができる。本発明の方法では、同様の出発原料を用いる公知の方法(Angew. Chem. Int. Ed., 48, 1070, 2009)において採用されていた工業的に不利な2段階の光延反応を回避することができ、安全かつ安価にリン酸オセルタミビルを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書に記載された化学式における立体配置は特に言及しない場合には絶対配置を示す。
R1及びR2はそれぞれ独立にアミノ基の保護基を示すが、両者が同一の保護基であることはない。アミノ基の保護基については、例えば、Greenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することができ、適宜の保護基を選択して導入及び除去することが可能である。より具体的には、アミノ基の保護基として、例えば、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルカノイル基、又はアリールカルボニル基などを挙げることができる(上記のアリールオキシカルボニル基又はアリールカルボニル基においてアリール環は置換又は無置換であってもよく、置換基を有する場合にはハロゲン原子やアルコキシ基などが挙げられる)。
【0021】
例えば、R1としてはアセチル基などのアルカノイル基が好ましく、R2としてはアルコキシカルボニル基が好ましい。R1がアセチル基である場合には、脱水反応及びエステル生成反応においてアミノ基の保護基として作用し、そのまま脱保護することなくR1のアセチル基を保持したままオセルタミビルに誘導することができるので好ましい。本明細書においてR1についてのアミノ基の保護基は脱保護を要しないアセチル基を含めて解釈する必要がある。アルコキシカルボニル基としては、直鎖又は分枝鎖状のC1-6アルコキシ基で構成されるアルコキシカルボニル基が好ましく、より好ましいのはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、又はtert-ブトキシカルボニル基であり、特に好ましいのはtert-ブトキシカルボニル基である。もっとも、R1及びR2におけるアミノ基の保護基は上記に具体的に説明した保護基に限定されることはない。
【0022】
R3はアシルアニオン等価基を示す。アシルアニオン等価体については、例えば、T. A. Hase, J. K. Koskimies, Aldrichimica Acta, 15, 35, 1982; T. A. Hase, Umpoled synthons; Wiley, USA, 1987などに具体的に記載されている。アシルアニオン等価体としては、例えば、MAC反応剤として機能する官能基、シアノ基、又はフラン等を用いることができる。MAC反応剤はH-C(OR)(CN)2(式中のRはアルキルシリル基などである)で表される化合物であり、一つの炭素上に求電子機能及び求核機能を併せ持つことから、穏和条件で一炭素増炭反応に続いて求核付加反応を高収率に行うことができる(有機合成化学協会誌, 4, 347, 2004; J. Org. Chem. 55, 4515, 1990; Tetrahedron Lett., 44, 73, 2003; Synth. Org. Chem. Jpn., 62, 347, 2004; 特開2006-104148号公報)。
【0023】
本発明の方法において特に好ましいR3は-C(OR6)(CN)2(R6は水酸基の保護基を示す)で表される基である。水酸基の保護基としては、例えば、ベンジル基などのアラルキル基、ベンゾイル基などのアリールカルボニル基、トリアルキルシリル基などの置換シリル基などを用いることができるが、例えば、Greenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することにより適宜の保護基を選択して導入及び除去することが可能である。水酸基の保護基としては置換シリル基が好ましい。置換シリル基の種類は特に限定されないが、例えば、トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル(TES)基、tert-ブチルジメチルシリル(TBS又はTBDMS)基、トリイソプロピルシリル(TIPS)基、又はtert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)基などを用いることができる。これらのうちtert-ブチルジメチルシリルを用いることが好ましい。-C(OR6)(CN)2(R6は置換シリル基を示す)で表される基はMAC反応剤として機能する官能基であり、R3として好ましく使用することができる。
【0024】
R4及びR5はそれぞれ独立にアルキル基を示す。アルキル基としては直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなるアルキル基を用いることができるが、R4及びR5の導入により新たな不斉炭素が生じないように、R4及びR5が同一の直鎖状アルキル基であることが好ましい。例えば、R4及びR5としてC1-6直鎖アルキル基を用いることができ、さらに好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基などを用いることができる。これらのうちメチル基を用いることがより好ましい。R4及びR5が示すアルキル基は必要に応じて1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。
【0025】
本発明の方法に用いられる一般式(II)で表される化合物は、一般式(IV)で表される化合物を出発原料としてジオール化することにより製造することができる。一般式(IV)で表される化合物のうち、R1がアセチル基であり、R2がブトキシカルボニル基であり、R6がアセチル基である化合物がAngew. Chem. Int. Ed., 48, 1070, 2009において化合物3として開示されているので、当業者は一般式(IV)で表される化合物を上記刊行物に記載された方法に従って容易に入手することが可能である。
【0026】
化合物(IV)をジオールに変換する反応は、例えばオレフィンをジオール化合物に変換する通常の方法に従って行うことができる。例えば、ルテニウム化合物及び硫酸などの酸の存在下でメタ過ヨウ素酸(NaIO4)を作用させることにより、収率よくシスジオール(酸化により導入される2個の水酸基はシス配置であり、-NHR1で表される基に対してそれぞれトランス配置である)が得られる。上記の反応は一般的には不活性溶媒及び水の混合物中で0℃から室温の範囲で行うことができる。ルテニウム化合物としては、RuCl3のほか、RuO4, RuO2, RuBr2、及びこれらの水和物などを用いることができる。不活性溶媒としては、例えば、酢酸エチルなどのエステル系溶媒やアセトニトリルなどのニトリル系溶媒、又はそれらの混合物などを用いることができるが、これらの溶媒に限定されることはない。
【0027】
このジオール化についてはAngew. Chem. Int. Ed., 48, 1070, 2009の注釈[25]に説明があり、ここで引用されている刊行物(Org. Lett., 5, 3353, 2003)とともにAngew. Chem. Int. Ed., 48, 1070, 2009の開示の全てを参照により本明細書の開示に含める。なお、Angew. Chem. Int. Ed., 48, 1070, 2009には、化合物3に対してトリフルオロ酢酸無水物と過酸化水素とを反応させることによりアセトアミド基とシス配置のエポキシ基が生成することが記載されている。いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、この反応では二重結合に隣接するアセトアミド基が過酸との間に水素結合を形成し、過酸を活性化しながら反応が進行するためにアセトアミド基と同じ側にエポキシ化が生じる。一方、ルテニム化合物を用いる上記のジオール化反応の場合には、アセトアミド基とアシルアニオン等価基とが立体障害要因となり、これらの基と同じ側の同じ側の空間がふさがれているために、逆側(アセトアミド基に対してトランス側)にジオール化が進行するものと考えられる。
【0028】
一般式(II)で表されるジオール化合物をエステル生成反応及び脱水反応に付することにより一般式(I)で表される化合物を製造することができる。ジオール基を保護することなくエステル生成反応に続いて脱水反応を行うこともできるが、一般的には、エステル生成反応に先立ってジオール基を保護しておき、エステル生成反応の後にジオール基の保護基を除去するとともに脱水反応を行うことが好ましい。例えば、一般式(II)で表される化合物からジオール基を環状ケタール基で保護して化合物(III)に誘導した後、エステル生成反応を行ない、引き続きケタール基の開裂と脱水反応を同時に行うことにより、一般式(II)で表される化合物から収率よく一般式(I)で表される化合物を製造することができる。
【0029】
一般式(III)で表される化合物は、例えば、一般式(II)で表される化合物に対して2,2-ジメトキシプロパンや3,3−ジメトキシペンタン、アセトン、2−プロパノン、2−メトキシプロペンなどのケタール化剤を酸の存在下で反応させることにより容易に製造することができる。この反応は、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒などを用いて、p-トルエンスルホン酸やメタンスルホン酸などの有機酸類の存在下で行うことができ、一般的には室温から溶媒の還流温度までの温度範囲で行うことができる。
【0030】
R3が示すアシルアニオン等価基からエチルエステルを生成する反応はR3の種類に応じて当業者が適宜選択することが可能である。例えば、R3としてMAC反応剤として機能する-C(OR6)(CN)2(R6は置換シリル基を示す)で表される基を用いる場合には、例えばエタノール中でフッ化水素酸を作用させることによりシリルエーテルを開裂させることができ、エトキシカルボニル基に収率よく変換することができる。フッ化水素酸としてはトリエチルアミン塩やピリジン塩を用いることができるが、本発明の方法ではエタノール中でトリエチルアミントリスフッ化水素酸塩((HF)3・Et3N)を用いることが好ましい。脱水反応は、例えばDBUなどの有機塩基の存在下で行うことができる。反応は一般的には0℃から室温程度の温度範囲で行うことができ、エチルエステル生成反応の完了後に得られたエタノール反応液から生成物を単離・精製することなく有機塩基を添加することにより収率よく進行する。
【0031】
このようにして製造された一般式(I)で表される化合物から、R2で表されるアミノ保護基を除去し、またR1がアセチル基以外のアミノ保護基である場合には該アミノ保護基を除去してアセチル基を導入することにより、下記の式(V)で表される化合物又はその塩を製造することができる。
【化6】

この方法は、下記の工程:
(a)上記の一般式(II)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物をエステル生成反応に続き脱水反応に付することにより上記の一般式(I)(式中、R1及びR2は上記と同義である)で表される化合物を製造する工程;及び
(b)上記工程(a)で得られた一般式(I)で表される化合物のR2を脱保護し、必要に応じてR1をアセチル基に変換して式(V)で表される化合物を製造する工程
を含む方法が提供される。アミノ基の保護基の除去についても、例えば、Greenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することができる。式(V)で表される化合物はJACS, 129, pp.11892-11893, 2007及びJ. Org. Chem., 71, pp.5365-5368, 2006に記載されている。
【0032】
また、上記の一般式(II)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物をエステル生成反応に続き脱水反応に付することにより上記の一般式(I)(式中、R1及びR2は上記と同義である)で表される化合物を製造した後、一般式(I)で表される化合物のR1を必要に応じてアセチル基に変換し、さらに水酸基の3-ペンチル化を行ってからR2の脱保護を行うことにより、オセルタミビルを製造することができる。また、一般式(I)で表される化合物の水酸基の3-ペンチル化を行った後にR2の脱保護を行い、R2の脱保護の前又は後に必要に応じてR1をアセチル基に変換することもできる。得られたオセルタミビルを所望の塩、好ましくはリン酸塩に変換することができる。水酸基の3-ペンチル化は、例えば、Angew. Chem. Int. Ed., 48, 1070, 2009のスキーム2における反応k)に従って光延反応を行い該スキーム中の化合物20で表されるアジリジン化合物に変換した後、該スキーム中の反応l)及びm)を行うことにより収率よく行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
化合物1から化合物5を下記のスキームに従って合成した。
【化7】

【0034】
(a)化合物2
化合物1(20.0 mg, 0.0675 mmol)、 Pd2(dba:ジベンザールアセトン)3・CHCl3 (1.4 mg, 0.00135 mmol)及びdppf:ビスジフェニルホスフィノフェロセン (3.0 mg, 0.00541 mmol)のトルエン溶液(2 ml)を攪拌しながら化合物7 (24.0 μl, 0.135 mmol)を室温で加えて60℃で1時間攪拌した。反応液を室温に戻してシリカゲルパッドで濾過した後、濾液を濃縮した。残渣をプレパラティブTLC(ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製して化合物2を黄色粉末として得た(26.6 mg, 0.0592 mmol, 収率88%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 6.31 - 5.84 (m, 3H), 4.57 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 4.35 (m, 1H), 3.97 (m, 1H), 2.94 (m, 1H), 2.15 - 1.89 (m, 5H), 1.42 (s, 9H), 0.93 (s, 9H), 0.38 (s, 3H), 0.36 (s, 3H)
ESI-MS: m/z 471.3 [M+Na]+
【0035】
(b)化合物3
NaIO4 (35.8 mg, 0.167 mmol)を水(85.9 μl)に懸濁し、攪拌しながら1 M H2SO4水溶液(11.1 μl, 0.0111 mmol)を加えた。この混合物を4℃に冷却して0.1 M RuCl3水溶液(16.7 μl, 0.00167 mmol)を加えた。混合物を同温で5分間攪拌し、酢酸エチル(341 μl)を加えた。5分間攪拌した後、アセトニトリル(341 μl)を加えてさらに5分間攪拌した。この混合物に化合物2(50.0 mg, 0.111 mmol)を加えて同温で30分攪拌し、さらに酢酸エチル、飽和重曹水、及び飽和チオ硫酸ナトリウム溶液を同温で加え、その後に室温で10分間攪拌した。水層を酢酸エチルで3回抽出し、有機層を合わせて食塩水で洗浄して無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去して化合物3を淡黄色フィルム状の粗生成物として得た(45.0 mg)。この化合物3は精製せずに次の反応に用いた。
【0036】
(c)化合物4
上記工程(b)で得られた未精製の化合物3(15.0 mg)をトルエン(311 μl)に溶解し、この溶液を攪拌しつつ室温で2,2-ジメトキシプロパン(19.1 μl, 0.155 mmol)及びp-トルエンスルホン酸・1水和物(2.4 mg, 0.0124 mmol)を加え、その後に50℃で30分攪拌した。反応液を室温に戻し、酢酸エチルと飽和重曹水を加えた。水層を酢酸エチルで3回抽出し、有機層を合わせて食塩水で洗浄して無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去して得られた残渣(14.0 mg)をシリカゲルクロマトグラフィー(SiO2 = 0.75 g, ヘキサン/酢酸エチル=1/1 to 1/2)で精製して化合物4を無色フィルム状物として得た(9.5 mg, 0.0182 mmol, 2工程での収率59%)。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 6.63 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 5.05 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 4.31 (dd, J = 7.3, 5.8 Hz, 1H), 4.12 - 4.05 (m, 2H), 3.70 (m, 1H), 2.51 (m, 1H), 2.00 - 1.89 (m, 5H), 1.51 (s, 3H), 1.40 (s, 9H), 1.33 (s, 3H), 0.92 (s, 9H), 0.38 (s, 3H), 0.37 (s, 3H)
ESI-MS: m/z 545.2 [M+Na]+
【0037】
(d)化合物5
化合物4(5.2 mg, 0.00995 mmol)をエタノール(80 μl)に溶解し、攪拌しながら0.2 M 3HF.NEt3エタノール溶液(72.1 μl, 0.0144 mmol)を室温で加えて1時間攪拌した。DBU (10.7 μl, 0.0716 mmol)を室温で加え、同温でさらに18.5時間攪拌した。酢酸エチル及び飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて同温で10分間攪拌した。水層を酢酸エチルで3回抽出し、有機層を合わせて食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去して化合物5 を粗生成物として得た(2.9 mg, 収率85%)。この粗生成物は分析目的には十分な純度を有していた。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 7.31 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 6.78 (m, 1H), 4.98 (m, 1H), 4.83 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 4.30 - 4.26 (m, 1H), 4.21 - 4.13 (m, 2H), 3.85 - 3.77 (m, 1H), 3.74 - 3.66 (m, 1H), 2.84 - 2.76 (m, 1H), 2.20 - 2.12 (m, 1H), 1.99 (s, 3H), 1.44 (s, 9H), 1.26 (t, J = 7.3 Hz, 3H)
ESI-MS: m/z 365.4 [M+Na]+

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

(式中、R1及びR2は異なるアミノ基の保護基を示す)で表される化合物の製造方法であって、下記の一般式(II):
【化2】

(式中、R1及びR2は上記と同義であり、R3はアシルアニオン等価基を示す)で表される化合物をエステル生成反応に続き脱水反応に付する工程を含む方法。
【請求項2】
上記の一般式(II)で表される化合物から下記の一般式(III):
【化3】

(R1、R2、及びR3は上記と同義であり、R4及びR5はそれぞれ独立にアルキル基を示す)で表される中間体化合物を製造した後にエステル生成反応を行なう請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R3がMAC反応剤として機能する官能基である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
R3が-C(OR6)(CN)2(R6は水酸基の保護基を示す)で表される基である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
R1がアセチル基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
R2がtert-ブトキシカルボニル基である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
R4及びR5が同一のC1-6アルキル基である請求項2ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
下記の一般式(IV):
【化4】

(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物をジオール化して一般式(II)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物を製造する工程をさらに含む請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ジオール化をルテニウム化合物の存在下でメタ過ヨウ素酸により行う請求項8に記載の方法。
【請求項10】
オセルタミビル又はその塩の製造方法であって、下記の工程:
(a)請求項1に記載の一般式(II)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物をエステル生成反応に続き脱水反応に付することにより上記の一般式(I)(式中、R1及びR2は上記と同義である)で表される化合物を製造する工程;
(b)上記工程(a)で得られた一般式(I)で表される化合物の水酸基の3-ペンチル化を行い、該ペンチル化の前又は後に必要に応じてR1をアセチル基に変換し、その後にR2の脱保護を行う工程
を含む方法。
【請求項11】
請求項1に記載の一般式(II)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物から請求項2に記載の一般式(III)(R1、R2、R3、R4、及びR5は上記と同義である)で表される中間体化合物を製造した後にエステル生成反応を行なう請求項13に記載の方法。
【請求項12】
請求項8に記載の一般式(IV)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物をジオール化して請求項1に記載の一般式(II)(式中、R1、R2、及びR3は上記と同義である)で表される化合物を製造する工程をさらに含む請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
請求項2に記載の一般式(III)(R1、R2、R3、R4、及びR5は上記と同義である)で表される化合物。

【公開番号】特開2010−215557(P2010−215557A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63877(P2009−63877)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】