説明

シクロヘキセン吸着剤

【課題】
本発明の目的は、都市ガスやLPガス、ガソリン、灯油などの燃料ガスに付臭剤として含まれるシクロヘキセンに対して、優れた吸着性能を有するβ型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤を提供することにある。
【解決手段】
SiO/Alモル比が20以上400以下のβ型ゼオライト、特にSiO/Alモル比が20以上150以下のβ型ゼオライト、さらにはSiO/Alモル比が20以上40以下のβ型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤は優れたシクロヘキセン吸着性能を示す。その中でも、BET表面積が550〜650m/g、SEM平均粒子径が0.2〜0.3μmであるβ型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤は更に優れたシクロヘキセン吸着性能を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シクロヘキセン吸着性能が良いβ型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)や固体酸化物形燃料電池(SOFC)などの燃料電池の燃料である水素は、都市ガスやLPガス、ガソリン、灯油などの燃料を水蒸気改質法や部分酸化法により改質することで製造される。このうち水蒸気改質法は、燃料ガスを水蒸気により改質して水素リッチな改質ガスを生成させる方法である。水蒸気改質法では水蒸気改質器における接触反応、すなわち触媒反応、によりそれら燃料ガスが水素リッチな改質ガスへ変えられる。改質触媒としてはNi系、Ru系等の触媒が用いられる。
【0003】
漏洩時感知のため、燃料ガスには付臭剤が添加されている。付臭剤の種類としては、メルカプタン類、スルフィド類、及び、チオフェン類などの硫黄化合物が使用されている。硫黄化合物のほかにも、炭化水素の一種であるシクロヘキセン(cyclohexene=tetrahydrobenzene,分子式=C10、分子量=82.1、融点=−103.65℃、沸点=83.19℃)も使用されている。さらには、シクロヘキセンはそれらの硫黄化合物と併用しても使用される(特許文献1)。
【0004】
都市ガス、LPガス等の燃料ガス中の付臭剤である硫黄化合物は改質触媒の劣化の原因となる。そのため、燃料ガスを水蒸気改質器へ導入する前に付臭剤を除去することが必須である。また、燃料ガスに付臭剤としてシクロヘキセンを含む場合、改質触媒の表面に炭素が析出し、水素製造効率が低下するという問題が生じる。また、PEFCを用いたシステムでは改質触媒に続き、副生成する一酸化炭素を二酸化炭素に変えて除去するCO変成触媒及びCO除去触媒が使用される。しかしながら、これらの触媒についても同様、炭素が析出してしまう可能性がある。さらに、シクロヘキセンを含む燃料ガスを改質器系の停止時のパージ用に使用するとシクロヘキセンが上記各触媒に吸着し、活性サイトが覆われる等の悪影響を及ぼす可能性がある。これらの問題を解決するには、都市ガス、LPガス等の燃料ガスから当該シクロヘキセンを予め除去することが必須となる。
【0005】
特許文献2乃至4では、銀担持のゼオライト(Y型及びβ型)が燃料ガス中の硫黄化合物及びシクロヘキセンを吸着除去に有効であることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−058701号公報
【特許文献2】特開2010−37480号公報
【特許文献3】特開2010−62102号公報
【特許文献4】特開2010−84130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、付臭剤の中でもシクロヘキセンの除去に焦点をあて、シクロヘキセン吸着性能に優れたβ型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、各種ゼオライトを用いたシクロヘキセン吸着挙動を鋭意評価した結果、特定のβ型ゼオライトを用いることで、優れたシクロヘキセン吸着性能を示すことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
以下に、本件発明である優れたシクロヘキセン吸着性能を有するβ型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤について説明する。
【0010】
β型ゼオライトのシクロヘキセン吸着特性はSiO/Alモル比が吸着量に大きく影響する。これは、Y型、L型やMOR型などのゼオライトとは異なる。そのため、β型ゼオライトは、SiO/Alモル比が20以上400以下であり、20以上150以下であることが好ましく、20以上40以下であることが更に好ましく、20以上30以下であることが更により好ましい。これにより、本発明のシクロヘキセン吸着剤が高いシクロヘキセン吸着能を示す。
【0011】
また、上記SiO/Alモル比を有するβ型ゼオライトのうち、BET表面積が450〜650m/gであることが好ましく、500〜650m/gであることがより好ましく、550〜650m/gであることが更に好ましい。BET比表面積がこの範囲にあるβ型ゼオライトは高いシクロヘキセン吸着能を示す傾向にある。そのため、これを用いる本発明のシクロヘキセン吸着剤のシクロヘキセン吸着特性が高くなりやすい。
【0012】
また、SEM平均結晶粒子径が0.2〜0.5μmであることが好ましく、0.2〜0.3μmであることがより好ましい。SEM平均結晶粒子径がこの範囲にあるβ型ゼオライトは更に高いシクロヘキセン吸着能を示す傾向にある。そのため、これを用いる本発明のシクロヘキセン吸着剤のシクロヘキセン吸着特性が高くなりやすい。
【0013】
ここで、SEM平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」とする)により観察された一次粒子の平均粒子径であり、例えば、以下の実施例に示した方法で測定することができる。
【0014】
次に、本発明のシクロヘキセン吸着剤を構成するβ型ゼオライトの製造方法について説明する。
【0015】
β型ゼオライトは、シリカ源、アルミニウム源、アルカリ、及び有機構造指向剤(以下、「SDA」とする)からなる反応混合物を、水の存在下、水熱合成によって製造することができる。また、水熱合成は必要に応じてフッ素化剤の存在下で行ってもよい。本発明のβ型ゼオライトの製造に用いる条件としては例えば以下の範囲が例示できる。
【0016】
これらの組成範囲は限定的なものではなく、最終的な生成物組成が本発明のβ型ゼオライトの組成の範囲内となるように任意に設定することができる。また、種晶などの結晶化促進作用を有する成分を添加してもよい。
【0017】
SiO/Alモル比 :20〜50
O/SiOモル比 :7〜15
SDA/SiOモル比 :0.1〜0.3
アルカリ/SiOモル比 :0〜0.1
フッ素化剤を用いる場合には
F/SiOモル比 0〜5
原料混合物に用いる原料として以下のものを例示することができる。
【0018】
シリカ源としてはコロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、アルミノシリケートゲルなどを用いることができる。これらの原料は、他の成分と十分均一に混合できるものが好ましい。
【0019】
アルミニウム源としては硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミノシリケートゲル、金属アルミニウムなどを用いることができる。
【0020】
SDAとしてはテトラエチルアンモニウムカチオンを有するテトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムフルオリド、更にはオクタメチレンビスキヌクリジウム、α,α’−ジキヌクリジウム−p−キシレン、α,α’−ジキヌクリジウム−m−キシレン、α,α’−ジキヌクリジウム−o−キシレン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,3,3,N,N−ペンタメチル−6−アゾニウムビシクロ[3,2,1]オクタン又はN,N−ジエチル−1,3,3−トリメチル−6−アゾニウムビシクロ[3,2,1]オクタンカチオンを含む化合物の群の少なくとも一種以上を使用することができる。
【0021】
フッ素化剤としてはフッ酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、テトラエチルアンモニウムフルオリドなどを用いることができる。
【0022】
水、シリカ源、鉄源、SDA、必要に応じてアルミニウム源及びフッ素化剤の原料混合物を密閉式圧力容器中、100〜180℃の温度で結晶化させる。結晶化終了後、十分放冷し、固液分離、十分量の純水で洗浄し、110〜150℃の温度で乾燥した後に、細孔内のSDAを550〜650℃で焼却除去することによって本発明のシクロヘキセン吸着性能に優れたシクロヘキセン吸着剤を構成するβ型ゼオライトを得ることができる。
【0023】
本発明のシクロヘキセン吸着剤は、このようにして得られたβ型ゼオライトを粉末状、円板状など任意の形状で使用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のβ型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤はシクロヘキセンに対して優れた吸着性能を有しており、都市ガスやLPガス、ガソリン、灯油などの燃料ガスに付臭剤として添加されているシクロヘキセンの除去に有効である。
【実施例】
【0025】
以下本発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
(シクロヘキセン吸着量測定)
シクロヘキセン吸着量は石英スプリングを用いるマック・ベイン法によって求めた。サンプルは事前に打錠成形を行い直径3mmに分級したもの使用した。測定前に前処理として350℃で2時間加熱吸引脱気を行った後、測定温度25℃、シクロヘキセンの相対圧P/Po=0.1で測定した。吸着時間60分後の吸着量で吸着性能を評価した。
【0027】
(BET表面積)
表面積は窒素吸着によるBET3点法で求めた。前処理として、350℃で16時間、サンプルの熱処理を行った後、相対圧力0.1、0.2、0.3における窒素吸着量を測定し、BETの式から表面積を算出した。
【0028】
(SEM平均粒子径)
15000倍の倍率で撮影したSEM写真から任意の100個の一次粒子を選択し、その各粒子径を平均してSEM平均粒子径を求めた。
【0029】
実施例1
珪酸ソーダ水溶液、硫酸アルミニウム水溶液を用いスラリー状生成物の組成がSiO:0.034Alとなるように攪拌下で反応させ、スラリー状生成物とし、脱水した後、洗浄して粒状無定型アルミノ珪酸塩とした。
【0030】
次に反応混合物の組成が、SiO:0.034Al:0.13NaOH:0.09TEAOH:10HOとなるように混合し、さらに当該組成物100部に対して0.36部のβ型ゼオライトを種晶として加え、オートクレーブ中、150℃で48時間水熱合成により結晶化した。結晶化後のスラリーは、洗浄し、110℃で乾燥した。(TEAOH:水酸化テトラエチルアンモニウム35%水溶液)当該乾燥粉末を、600℃で焼成し、SiO/Alのモル比が27のβ型ゼオライトを製造し、このβ型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0031】
実施例2
SiO/Alのモル比が23のβ型ゼオライト(東ソー社製 商品名;HSZ−920HOA)からなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0032】
実施例3
SiO/Alのモル比が40のβ型ゼオライト(東ソー社製 商品名;HSZ−940HOA)からなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0033】
実施例4
SiO/Alのモル比が40のβ型ゼオライト(東ソー社製 商品名;HSZ−941HOA)からなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0034】
実施例5
SiO/Alのモル比が100のβ型ゼオライト(東ソー社製 商品名;HSZ−960HOA)からなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0035】
比較例1
SiO/Alのモル比が470のβ型ゼオライト(東ソー社製 商品名;HSZ−980HOA)からなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0036】
比較例2
SiO/Alのモル比が29のY型ゼオライト(東ソー社製 商品名;HSZ−372HUA)からなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0037】
比較例3
SiO/Alのモル比が110のY型ゼオライト(東ソー社製 商品名;HSZ−385HUA)からなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0038】
比較例4
SiO/Alのモル比が750のY型ゼオライト(東ソー社製 商品名;HSZ−390HUA)からなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0039】
比較例5
SiO/Alのモル比が6のL型ゼオライト(東ソー社製 商品名;HSZ−500KOA)からなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0040】
比較例6
SiO/Alのモル比が230のモルデナイト型ゼオライト(東ソー社製 商品名;HSZ−690HOA)からなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0041】
比較例7
SiO/Alのモル比が93のフェリエライト型ゼオライト(東ソー社製 商品名;HSZ−770HOA)からなるシクロヘキセン吸着剤を得た。
【0042】
実施例1乃至5及び比較例1乃至7のシクロヘキセン吸着剤を構成するゼオライトの構造名、カチオン種名、SiO/Alのモル比、BET表面積、SEM平均結晶粒子径、及び、これらの吸着剤を用いたシクロヘキセン吸着方法により得られたシクロヘキセン吸着量を表1乃至3に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

これらの表から、SiO/Alモル比が20以上400以下のβ型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤は、SiO/Alのモル比が470のβ型ゼオライト、及び、他のY型、L型、モルデナイト型及びフェリエラト型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤に比して、シクロヘキセン吸着量が多い。また同じβ型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤の中でも、SiO/Alのモル比が20以上40以下で、BET表面積が550〜650m/g、SEM平均粒子径が0.20〜0.30μmの範囲内に存在するβ型ゼオライトからなる実施例1及び実施例2のシクロヘキセン吸着剤のシクロヘキセン吸着量が多い事が明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の特定のβ型ゼオライトからなるシクロヘキセン吸着剤は、他のシクロヘキセン吸着剤と比較してシクロヘキセン吸着量が大きいので、燃料ガスの付臭剤などに用いられるシクロヘキセン除去剤として利用でき、また、これらを使用したシクロヘキセン吸着方法に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO/Alモル比が20以上400以下であることを特徴とするβ型ゼオライトから成るシクロヘキセン吸着剤。
【請求項2】
SiO/Alモル比が20以上150以下であることを特徴とする請求項1記載のβ型ゼオライトから成るシクロヘキセン吸着剤。
【請求項3】
SiO/Alモル比が20以上40以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のβ型ゼオライトから成るシクロヘキセン吸着剤。
【請求項4】
BET表面積が450〜650m/gである請求項1乃至3のいずれかに記載のβ型ゼオライトから成るシクロヘキセン吸着剤。
【請求項5】
BET表面積が550〜650m/gである請求項4に記載のβ型ゼオライトから成るシクロヘキセン吸着剤。
【請求項6】
SEM平均粒子径が0.20〜0.50μmである請求項1乃至5のいずれかに記載のβ型ゼオライトから成るシクロヘキセン吸着剤。
【請求項7】
SEM平均粒子径が0.20〜0.30μmである請求項6に記載のβ型ゼオライトから成るシクロヘキセン吸着剤。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のシクロヘキセン吸着剤を使用することを特徴とするシクロヘキセン吸着方法。

【公開番号】特開2012−143747(P2012−143747A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−274394(P2011−274394)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】