説明

シクロペンタノン化合物の製造方法

【課題】広い波長域の可視光を吸収し得る新規な有機化合物の提供により、光重合性組成物などを調製するに当たって、選択し得る吸光性有機化合物の幅を広げることができるシクロペンタノン化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】化学式1


で示されるシクロペンタノン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は新規なシクロペンタノン化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報化時代の到来に伴い、光化学的重合が多種多様の分野で頻用されるようになり、今では、その用途は、合成樹脂の分野を越えて、塗料、印刷用刷版、印刷回路、集積回路などの情報記録や電子機器の分野にまでおよぶようになった。光化学的重合は、重合性化合物を光照射することによって重合させる技術であって、大別すると、重合性化合物を直接光照射し、活性化させることによって重合を開始させる光重合と、光増感剤を共存させた状態で光照射し、光増感剤の活性種を生成させることによって重合性化合物を重合させる光増感重合とがある。いずれの光化学的重合も、重合の開始及び停止が露出光源の点滅によって制御可能であり、また、露出光源の強度や波長を選択することによって重合度や重合速度を容易に制御できる特徴がある。しかも、光化学的重合は、一般に、重合開始のエネルギーが低いために、低温でも開始させることができる。印刷用刷版をはじめとする情報記録の分野においては、光化学的重合のこのような利点が買われて、アルゴンイオンレーザー、ヘリウムネオンレーザー、Nd−YAGレーザーの第二高調波などの可視光を照射することによって重合させることのできる光重合性組成物の需要が急速に高まっている。
【0003】
光重合性組成物へ配合する重合性化合物や重合開始剤は、その多くが紫外線だけを吸収することから、光重合性組成物を可視光により重合させようとすると、光増感剤が不可欠の技術要素となる。光増感剤の主体となる吸光性有機化合物が具備すべき特性としては、可視領域における分子吸光係数が大きいことと、諸種の重合性化合物や重合開始剤を増感し得ること、増感効率が高いこと、溶剤に対する溶解性と他の配合成分との相溶性に優れていること、そして、安定であることなどが挙げられる。
【0004】
代表的な吸光性有機化合物としては、例えば、クマリン化合物、シアニン色素、シクロペンタノン化合物、スチルベン色素、ピラン化合物、メチレンブルー化合物、メロシアニン色素などが挙げられるけれども(例えば、特許文献1乃至7などを参照)、これらはいずれも一長一短があり、重合性化合物、バインダー樹脂などの複数の材料からなる光重合性組成物にあって、前述したごとき諸特性を常に発揮し得るようなものは未だ見出されていない。そこで、光化学的重合の新しい適用分野である、例えば、情報記録や電子機器の分野においては、重合性化合物、重合開始剤、バインダー樹脂などの、用途に応じた光増感剤以外の材料の組合わせを先ず決定し、次いで、多種多様の吸光性有機化合物のなかから、それらの重合性化合物や重合開始剤に適合するものを試行錯誤的に検索しているというのが実状である。斯くして、最近では、光化学的重合の用途が広がるに伴って、より広い波長域の可視光を吸収し得る有機化合物が希求されるようになった。
【0005】
【特許文献1】特開昭54−151024号公報
【特許文献2】特開昭58−29803号公報
【特許文献3】特開昭59−56403号公報
【特許文献4】特開昭63−23901号公報
【特許文献5】特開昭64−33104号公報
【特許文献6】特開平6−329654号公報
【特許文献7】特許第3184319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
斯かる状況に鑑み、この発明は、広い波長域の可視光を吸収し得る新規な有機化合物を提供することによって、光重合性組成物などを調製するに当たって、選択し得る吸光性有機化合物の幅を広げることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決すべく、本発明者がシクロペンタノン化合物に着目し、鋭意研究し、検索したところ、一般式1乃至3で表される文献未記載のシクロペンタノン化合物は、いずれも、500nmより長波長の可視領域、通常、505乃至550nm付近に吸収極大波長を有し、しかも、吸収極大波長における分子吸光係数が大きいことに加えて、公知の類縁化合物と比較して、吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅が50nm以上と有意に広いことから、光化学的重合などに頻用される500nm付近の可視光を効率良く吸収し得ることが判明した。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
(一般式1乃至3において、R乃至Rは水素原子又は置換基を表す。)
【0012】
すなわち、この発明は、一般式1乃至3のいずれかで表されるシクロペンタノン化合物を提供することによって前記課題を解決するものである。
【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
(一般式1乃至3において、R乃至Rは水素原子又は置換基を表す。)
【発明の効果】
【0017】
叙上のとおり、この発明は、新規なシクロペンタノン化合物の創製に基づくものである。この発明によるシクロペンタノン化合物は、波長500nmより長波長の可視領域に吸収極大を有し、しかも、吸収極大における分子吸光係数が大きいことに加えて、吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅が広いことから、光化学的重合などで頻用される500nm付近の可視光を効率良く吸収することとなる。したがって、この発明のシクロペンタノン化合物は、500nm付近の可視光源を露出光源とする、例えば、写真、複写機、プリンター、ファクシミリなどの情報表示装置やフレキソ製版、グラビア印刷などの印刷、フォトレジスト、集積回路などの印刷回路における光増感剤、さらには、追記型、書き換え型の高密度光記録媒体の吸光層を構成する吸光剤をはじめとする多種多様の用途を有することとなる。
【0018】
斯くも顕著な効果を奏するこの発明は、斯界に貢献すること誠に多大な、意義のある発明であると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の実施の形態について説明すると、既述したとおり、この発明は一般式1乃至3のいずれかで表されるシクロペンタノン化合物に関するものである。
【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

【0022】
【化9】

【0023】
一般式1乃至3において、R乃至Rは水素原子又は置換基を表す。R、R、R、R、R及びRにおける置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−プロピニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、2−ペンテニル基、2−ペンテン−4−イニル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの脂肪族炭化水素基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの脂環式炭化水素基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ビフェニリル基などの芳香族炭化水素基、さらには、それらの組合わせによる置換基が挙げられる。
【0024】
及びRにおける置換基としては、例えば、R、R、R、R、R及びRにおけると同様の置換基か、あるいは、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、フェノキシ基などのエーテル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などのエステル基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基などのアミノ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、さらには、それらの組合わせによる置換基が挙げられる。
【0025】
この発明によるシクロペンタノン化合物の具体例としては、例えば、化学式1乃至10で表されるものが挙げられる。これらは、いずれも、波長500nmより長波長の可視領域、通常、505乃至550nm付近に吸収極大を有し、しかも、吸収極大波長における分子吸光係数(以下、吸収極大波長における分子吸光係数を「ε」と略記することがある。)が大きいことに加えて、吸収極大波長を中心とする半値幅が50nm以上と広いことから、光化学的重合などに頻用される500nm付近の可視光を効率良く吸収し得ることとなる。
【0026】
【化10】

【0027】
【化11】

【0028】
【化12】

【0029】
【化13】

【0030】
【化14】

【0031】
【化15】

【0032】
【化16】

【0033】
【化17】

【0034】
【化18】

【0035】
【化19】

【0036】
斯かるシクロペンタノン化合物は諸種の方法により調製できるけれども、経済性を重視するのであれば、活性メチレン基を有するケトン化合物とアルデヒド化合物との脱水縮合反応を利用する方法が好適である。この方法によるときには、例えば、一般式1乃至3に対応するR乃至Rを有する一般式4乃至6のいずれかで表されるアルデヒド化合物とシクロペンタノンとを反応させることによって、この発明のシクロペンタノン化合物が好収量で生成する。
【0037】
【化20】

【0038】
【化21】

【0039】
【化22】

【0040】
すなわち、反応容器に一般式4乃至6のいずれかで表されるアルデヒド化合物とシクロペンタノンとをそれぞれ適量とり(通常、モル比で2:1前後)、必要に応じて、適宜溶剤に溶解し、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、トリエチルアミン、ピペリジン、ピリジン、ピロリジン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、アルコキシドなどの塩基性化合物、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、無水酢酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの酸性化合物、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、四塩化錫、四塩化チタンなどのルイス酸性化合物を加えた後、加熱環流などにより、加熱撹拌しながら周囲温度か周囲温度を上回る温度で反応させる。
【0041】
溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、α−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化物、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、フェノール、ベンジルアルコール、クレゾール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類及びフェノール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、アニソール、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、メチルカルビトール、エチルカルビトールなどのエーテル類、酢酸、無水酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、酢酸エチル、炭酸ブチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチル燐酸トリアミド、燐酸トリメチルなどの酸及び酸誘導体、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫化合物、水などが挙げられ、必要に応じて、これらは組み合わせて用いられる。
【0042】
溶剤を用いる場合、一般に、溶剤の量が多くなると反応の効率が低下し、反対に、少なくなると、均一に加熱撹拌するのが困難になったり、副反応が起こり易くなる。したがって、溶剤の量を重量比で原料化合物全体の100倍まで、通常、5乃至50倍にするのが望ましい。原料化合物の種類や反応条件にもよるけれども、反応は24時間以内、通常、1乃至10時間で完結する。反応の進行は、例えば、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどの汎用の方法によってモニターすることができる。この発明のシクロペンタノン化合物は、この方法によるか、この方法に準じて所望量を調製することができる。なお、一般式4乃至6で表される化合物は、いずれも、公知の方法により所望量を得ることができる。
【0043】
斯くして得られるシクロペンタノン化合物は、用途によっては反応化合物のまま用いられることもあるけれども、通常、使用に先立って、例えば、溶解、分液、傾斜、濾過、抽出、濃縮、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、蒸留、昇華、結晶化などの類縁化合物を精製するための汎用の方法により精製することができ、必要に応じて、これらの方法は組み合わせて適用される。
【0044】
この発明のシクロペンタノン化合物は、既述したとおり、500nmより長波長の可視領域、通常、505乃至550nm付近に吸収極大を有し、しかも、吸収極大波長における分子吸光係数が大きいことに加えて、吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅が広いことから、光化学的重合などに頻用される波長500nm付近の可視光を効率良く吸収する。しかも、この発明のシクロペンタノン化合物は、光化学的重合などに頻用される、例えば、炭化水素系、アルコール系、エーテル系、ケトン系、エステル類などの親水性、疎水性の諸溶剤に対して実用上支障のない溶解性を示すものである。これらの性質ゆえに、この発明のシクロペンタノン化合物は、例えば、写真、複写機、プリンター、ファクシミリなどの情報表示装置や、フレキソ製版、グラビア印刷などの印刷、フォトレジストなどの印刷回路、集積回路における光増感剤、さらには、追記型、書き換え型の高密度光記録媒体の記録層を構成する吸光剤をはじめとする多種多様の用途を有することとなる。
【0045】
さらに、この発明のシクロペンタノン化合物は、上述した諸用途に加えて、光学フィルターの色度を調節するための材料や、諸種の衣料を染色するための材料としても有用である。とりわけ、この発明のシクロペンタノン化合物を、必要に応じて、紫外領域、可視領域又は赤外領域の光を吸収する他の材料の1又は複数とともに、衣料一般や、衣料以外の、例えば、ドレープ、レース、ケースメント、プリント、ベネシャンブラインド、ロールスクリーン、シャッター、のれん、毛布、布団、布団地、布団カバー、布団綿、シーツ、座布団、枕、枕カバー、クッション、マット、カーペット、寝袋、テント、自動車を含む車輌の内装材、ウインドガラス、窓ガラスなどの建寝装用品、紙おむつ、おむつカバー、眼鏡、モノクル、ローネットなどの保健用品、靴の中敷き、靴の内張り地、鞄地、風呂敷、傘地、パラソル、ぬいぐるみ、照明装置や、例えば、ブラウン管ディスプレー、液晶ディスプレー、電界発光ディスプレー、プラズマディスプレーなどを用いる情報表示装置用の光学フィルター類、パネル類及びスクリーン類、サングラス、サンルーフ、サンバイザー、PETボトル、貯蔵庫、ビニールハウス、寒冷紗、光ファイバー、プリペイドカード、電子レンジ、オーブンなどの覗き窓、さらには、これらの物品を包装、充填又は収容するための包装用材、充填用材、容器などに用いるときには、生物や物品における自然光や人工光などの環境光による障害や不都合を防止したり低減することができるだけではなく、物品の色彩、色調、風合などを整えたり、物品から放射したり透過する光を所望の色バランスに整えることができる実益がある。
【0046】
以下、この発明の実施の形態につき、実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0047】
〈シクロペンタノン化合物〉
反応容器にエタノールを適量とり、50℃で加熱撹拌しながら、化学式11で表されるアルデヒド化合物20gと0.1N水酸化ナトリウム水溶液8.4mlとを加え、さらに、シクロペンタノン4.8gを滴々加えた後、同じ温度で加熱撹拌しながら5時間反応させた。反応混合物を冷却した後、析出した結晶を採取し、メタノールにより再結晶したところ、化学式1で表されるこの発明のシクロペンタノン化合物の輝紫色結晶が2.2g得られた。
【0048】
【化23】

【0049】
結晶の一部をとり、常法により融点を測定したところ、化学式1で表されるシクロペンタノン化合物の融点は276℃であった。さらに、常法により、塩化メチレン溶液中における可視吸収スペクトルを測定したところ、波長506nm付近に吸収極大(ε=7.94×10)が観察された。また、常法により、クロロホルム−d溶液中におけるH−核磁気共鳴スペクトル(以下、「H−NMRスペクトル」と略記する。)を測定したところ、化学シフト(ppm、TMS)が2.86(s、4H)、3.00(s、12H)、6.67(d、4H)、6.90(d、2H)、7.24(d、2H)及び7.39(d、4H)の位置にピークが観察された。
【0050】
波長500nm付近の可視光を効率的に吸収する本例のシクロペンタノン化合物は、例えば、情報表示機器、印刷、印刷回路、集積回路、光記録媒体をはじめとするさまざまな分野において、光増感剤、吸光剤として有利に用いることができる。
【実施例2】
【0051】
化学式11で表されるアルデヒド化合物に代えて化学式14で表されるアルデヒド化合物を用いた以外は実施例1におけると同様に反応させたところ、化学式2で表されるこの発明によるシクロペンタノン化合物の茶褐色結晶が得られた。
【0052】
【化24】

【0053】
結晶の一部をとり、常法により融点を測定したところ、化学式2で表されるシクロペンタノン化合物の融点は146℃であった。さらに、常法により、塩化メチレン溶液中における可視吸収スペクトルを測定したところ、波長520nm付近に吸収極大(ε=8.02×10)が観察された。また、常法により、クロロホルム−d溶液中におけるH−核磁気共鳴スペクトル(以下、「H−NMRスペクトル」と略記する。)を測定したところ、化学シフト(ppm、TMS)が1.16(t、12H)、2.85(s、4H)、3.39(q、8H)、6.63(d、4H)、6.74(dd、2H)、6.88(d、2H)、7.24(d、2H)及び7.36(d、4H)の位置にピークが観察された。
【0054】
波長500nm付近の可視光を効率的に吸収する本例のシクロペンタノン化合物は、例えば、情報表示機器、印刷、印刷回路、集積回路、光記録媒体をはじめとするさまざまな分野において、光増感剤、吸光剤として有利に用いることができる。
【実施例3】
【0055】
〈シクロペンタノン化合物〉
反応容器にtert−ブタノールを適量とり、これに化学式12で表されるアルデヒド化合物5gとカリウムtert−ブトキシド2.1gとを加え、さらに、120℃で加熱撹拌しながらシクロペンタノン0.68gを滴々加えた後、5時間加熱環流して反応させた。反応混合物を冷却した後、析出した結晶を採取し、アセトン/メタノール混液により再結晶したところ、化学式6で表されるこの発明のシクロペンタノン化合物の茶色結晶が4.5g得られた。
【0056】
【化25】

【0057】
結晶の一部をとり、常法により融点を測定したところ、化学式6で表されるシクロペンタノン化合物の融点は210℃であった。さらに、常法により、塩化メチレン溶液中における可視吸収スペクトルを測定したところ、波長533nm付近に吸収極大(ε=5.09×10)が観察された。また、常法によりクロロホルム−d溶液中におけるH−NMRスペクトルを測定したところ、化学シフト(ppm、TMS)が2.88(s、4H)、2.99(s、24H)、6.61(d、2H)、6.65(d、4H)、6.70(d、4H)、7.13(d、4H)、7.28(d、4H)及び7.29(d、2H)の位置にピークが観察された。
【0058】
波長500nm付近の可視光を効率的に吸収する本例のシクロペンタノン化合物は、例えば、情報表示機器、印刷、印刷回路、集積回路、光記録媒体をはじめとするさまざまな分野において、光増感剤、吸光剤として有利に用いることができる。
【実施例4】
【0059】
〈シクロペンタノン化合物〉
反応容器にメタノールを適量とり、これに化学式13で表されるアルデヒド化合物1.55gと水酸化カリウム0.5gとを加え、さらに、80℃で加熱撹拌しながらシクロペンタノン0.2gを滴々加えた後、3時間加熱環流して反応させた。反応混合物を室温まで冷却した後、析出した結晶を採取し、メタノールにより再結晶したところ、化学式10で表されるこの発明のシクロペンタノン化合物の暗緑色結晶が0.43g得られた。
【0060】
【化26】

【0061】
結晶の一部をとり、常法により融点を測定したところ、化学式10で表されるシクロペンタノン化合物の融点は336℃であった。さらに、常法により、塩化メチレン溶液中における可視吸収スペクトルを測定したところ、波長548nm付近に吸収極大(ε=8.04×10)が観察された。また、常法によりクロロホルム−d溶液中におけるH−NMRスペクトルを測定したところ、化学シフト(ppm、TMS)が1.32(s、12H)、1.54(s、12H)、1.78(tt、8H)、3.07(s、4H)、3.26(t、4H)、3.35(t、4H)、7.11(s、2H)、7.72(s、2H)及び7.75(s、2H)の位置にピークが観察された。
【0062】
波長500nm付近の可視光を効率的に吸収する本例のシクロペンタノン化合物は、例えば、情報表示機器、印刷、印刷回路、集積回路、光記録媒体をはじめとするさまざまな分野において、光増感剤、吸光剤として有利に用いることができる。
【実験例】
【0063】
〈シクロペンタノン化合物の吸光能〉
表1に示すこの発明のシクロペンタノン化合物につき、常法により、薄膜状態における可視吸収スペクトルを測定した。そして、吸収極大波長を中心として、吸収極大波長の短波長側で分子吸光係数が半減する波長(A)と、吸収極大波長の長波長側で分子吸光係数が半減する波長(B)とをそれぞれ求め、それらの波長A、Bを数1の数式に代入して得られる半値幅(nm)を計算した。併行して、光増感剤としての用途が期待されている、化学式15で表される公知の類縁化合物につき、上記と同様にして薄膜状態における可視吸収スペクトルを測定するとともに、半値幅を計算して対照とした。結果を表1に併記する。
【0064】
【表1】

【0065】
【化27】

【0066】
【数1】

【0067】
表1の結果に見られるとおり、化学式15で表される対照の類縁化合物が波長484nmに吸収極大を示したのに対して、この発明のシクロペンタノン化合物は、いずれも、500nmより長波長の可視領域である506乃至550nm付近に吸収極大を示した。また、対照の類縁化合物における半値幅が42nm程度であったのに対して、実験に供したこの発明のシクロペンタノン化合物は、いずれも、それを有意に上回る、50乃至59nmの半値幅を示した。このことは、この発明のシクロペンタノン化合物が、500nm付近の可視領域において、類縁化合物より広い波長域の可視光を吸収し得ることを物語っている。
【0068】
この発明によるシクロペンタノン化合物の吸収波長は、光化学的重合などに頻用される、例えば、アルゴンイオンレーザー、クリプトンイオンレーザー、ヘリウム・カドミウムレーザー、ヘリウム・ネオンレーザーなどの気体レーザー、CdS系レーザーなどの半導体レーザー、分布帰還型若しくはブラッグ反射型Cd−YAGレーザーなどの固体レーザーの発振線若しくは高調波に近接している。したがって、この発明のシクロペンタノン化合物は、光増感剤、吸光剤などとして、斯かるレーザー光源や、それ以外の、例えば、太陽灯、カーボンアーク、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、蛍光ランプ、タングステンランプなどの通常の光源を露出光源とする光化学的重合、光記録などの分野において多種多様の用途を有することとなる。
【0069】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤として、後述する化学式11で表されるアルデヒド化合物とシクロペンタノンの全重量に対し5乃至50倍量のエタノールを加熱攪拌し、これに化学式11で表されるアルデヒド化合物と水酸化ナトリウム水溶液とを加えた後、シクロペンタノンを滴々加え、攪拌しながら反応させ、得られる反応混合物を冷却し、析出した結晶をメタノールにより再結晶して波長506nm付近の可視領域に吸収極大(ε=7.94×104)を有し、吸収極大波長を中心とする分子吸光係数の半値幅が50nm以上である化学式1で表されるシクロペンタノン化合物を生成させ、これを採取することを特徴とするシクロペンタノン化合物の製造方法。
【化1】

【化2】

【請求項2】
請求項1に記載された製造方法により得られるシクロペンタノン化合物の薄膜を形成するための使用。

【公開番号】特開2008−273974(P2008−273974A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128977(P2008−128977)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【分割の表示】特願2003−118089(P2003−118089)の分割
【原出願日】平成15年4月23日(2003.4.23)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】