説明

シグナル基準値設定方法、シグナル基準値設定装置、シグナル基準値設定プログラム

【課題】個別証券の評判に関する判断基準となる閾値を株価の変動に応じて適切な値に設定することが好ましいが株価の変動の度合には波があるためそれを考慮する必要がある。
【解決手段】市場の平均株価に対する個別証券株価の感応度を示す値であるβ値が所定値より大きい時はリスクとリターンとの関係を利用して収益性を求める関数であるリスク効率関数を選択し、β値が所定値より小さいときには期待リターンに対する実現リターンの関係を利用して収益性を求めるリターン効率関数を選択する。そして、複数のシグナル基準値候補を過去所定期間の評判値(個別証券に関するネット上の評判を数値化した値)に適用し、選択された評価関数を用いて各シグナル基準値候補の収益性を判定し、収益性がよいとされるシグナル基準値候補が既に設定されているシグナル基準値よりも収益性がよい場合にはシグナル基準値候補を新たなシグナル基準値として設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シグナル基準値設定方法、シグナル基準値設定装置、シグナル基準値設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット上において個別証券に対する評判を表す情報が多く存在するようになってきている。例えば、個別証券に関する証券アナリストや有名投資家などが提供するネット記事や、証券会社や各新聞社などが配信するニュース、一般投資家のブログ・掲示板における書き込みなど、が挙げられる。このような情報が表す個別証券の評判に応じて、個別証券の売り・買い・ステイの判断をすることも多い。
【0003】
特許文献1では、このことに着目して、ブログ等の記事から各個別証券の評判指数を算出して、投資判断の指標とする発明が開示されている。ここで、投資指標として出力されるシグナル(売り・買い・ステイ)は、評判指数が判断基準となる下限値や上限値よりも高いか低いかに応じて決定されるものである。評判指数が上限値よりも大きい個別証券(ネット上にて評判がいい個別証券)は、今後業績が伸びて株価が上がることが予測されるため、買いのシグナルが出力される。一方、評判指数が下限値よりも小さい個別証券(ネット上にて評判がよくない個別証券)は、今後業績が落ちて株価が下がることが予測されるため、売りのシグナルが出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−20745
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、個別証券の評判に関しては絶対的な判断基準が存在するものではなく、株価の変動に応じて適宜判断基準が設けられるべきである。つまり、評判指数の判断基準となる閾値は、株価変動によって定められるべきものであり、単に固定値とすることは好ましくない。したがって、この判断基準となる閾値を株価の変動に応じて適切な値に設定することが好ましいが、株価の変動の度合には波があるため、それを考慮する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、個別証券に関するネット上の評判を数値化した評判値に応じて個別証券の銘柄の売り・買い・ステイの判断をする際に利用される閾値であるシグナル基準値をコンピュータにより設定する方法であって、個別証券の株価である個別証券株価を取得する個別証券株価取得ステップと、少なくとも個別証券が上場されている市場の平均株価に対する個別証券株価の感応度を示す値であるβ値を取得するβ値取得ステップと、前記β値が所定値より大きい時はリスクとリターンとの関係を利用して収益性を求める関数であるリスク効率関数を選択し、前記β値が所定値より小さいときには期待リターンに対する実現リターンの関係を利用して収益性を求めるリターン効率関数を選択する関数選択ステップと、個別証券の過去所定期間の評判値を取得する個別証券評判値取得ステップと、既に設定されているシグナル基準値以外の複数のシグナル基準値候補を過去所定期間の評判値に適用し、関数選択ステップにて選択された関数を用いて各シグナル基準値候補の収益性を判定する基準値候補収益性判定ステップと、前記基準値候補収益性判定ステップにて収益性がよいとされるシグナル基準値候補が既に設定されているシグナル基準値よりも収益性がよい場合にはシグナル基準値候補を新たなシグナル基準値として設定するシグナル基準値設定ステップと、からなるシグナル基準値設定方法などを提案する。
【発明の効果】
【0007】
以上のような構成をとる本発明によって、評判値に応じて個別証券の売り・買い・ステイの判断をする際に利用される閾値を適切な値に設定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】シグナル基準値設定方法の処理の流れを示す図
【図2】β値の算出処理の一例を示す図
【図3】個別証券の評判値の算出処理の一例を示す図
【図4】各シグナル基準値候補に関する収益性の算出処理の一例を示す図
【図5】基準値候補収益性判定ステップの処理の流れの一例(1)
【図6】基準値候補収益性判定ステップの処理の流れの一例(2)
【図7】シグナル基準値設定装置の機能ブロックの一例を示す図
【図8】シグナル基準値設定装置の具体的なハードウェア構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、様々な態様で実施しうる。
【0010】
<<実施形態1>>
【0011】
<シグナル基準値設定方法>
【0012】
図1は、本実施形態のシグナル基準値設定方法の処理の流れを示す図である。この図にあるように、本実施形態のシグナル基準値設定方法は、「個別証券株価取得ステップ」0101と、「β値取得ステップ」0102と、「関数選択ステップ」0103と、「個別証券評判値取得ステップ」0104と、「基準値候補収益性判定ステップ」0105と、「シグナル基準値設定ステップ」0106と、を有する。なお、これらのステップはコンピュータにより実行される。
【0013】
本実施形態のシグナル基準値設定方法は、個別証券に関するネット上の評判を数値化した評価値に応じて個別証券の銘柄の売り・買い・ステイの判断をする際に利用される閾値であるシグナル基準値をコンピュータにより設定する方法である。ここで、シグナル基準値としては一つのみ設定することも可能であるが、二以上設定することも可能である。例えば、売りとステイの判断の境目となる下限値や、買いとステイの判断の境目となる上限値を設定する。
【0014】
また、シグナル基準値は個別証券の株価の変動の度合いに応じて設定されるべきものであるため、個別証券ごとに設定することが好ましい。しかしながら、処理負担を軽減する観点などから、複数の個別証券について共通のシグナル基準値を設定することも考えられる。
【0015】
まず、コンピュータは、個別証券の株価である個別証券株価を取得する(ステップS0101)。ここで、個別証券株株価はコンピュータの内部記憶媒体又はコンピュータに接続される記憶装置から取得してもよいし、ネットワークを介して通信する他の装置から受信してもよい。ここで、取得する個別証券株価の情報は、少なくとも過去所定期間の株価の変動を表す情報である。個別証券株価の情報を取得する際には、当該期間を指定して情報のリクエストを行う。なお、取得する個別証券の数は一つである必要はなく、複数の個別証券に関する株価情報を取得してもよい。また、個別証券株価の情報の他に、市場平均株価の情報や、無リスク資産(例えば、国債の値動き)の情報についても合わせて取得してもよい。
【0016】
次に、コンピュータは、少なくとも個別証券が上場されている市場の平均株価に対する個別証券株価の感応度を示す値であるβ値を取得する(ステップS0102)。具体的に説明すると、β値は個別証券と市場の連動性を示すリスク指標であり、市場全体のリターンが1%変化したときに個別証券株価のリターンが何%変化するかを表すものである。β値が1より大きければ市場平均より値動きが大きく、1より小さければ市場平均より値動きが小さいことを示す値である。β値についても、個別証券株価と同様に、コンピュータの内部記録媒体又はコンピュータに接続される記憶装置から取得してもよいし、ネットワークを介して通信可能な他の装置から取得してもよい。なお、β値を取得する態様としては、β値を算出することも含まれる。具体的には、過去所定期間の個別証券株価に加えて、過去所定期間の無リスク資産と、過去所定期間の市場の平均株価の収益率を取得して、その個別証券株価のβ値を算出する。
【0017】
β値の算出は、具体的には図2に示すような処理により行われる。まず、過去所定期間について個別証券株価の基準期間ごとの超過収益を算出する(ステップS0201)。個別証券株価の基準期間ごとの超過収益率とは、その個別証券の基準期間ごとの収益率(rTARGET[%])と無リスク資産の基準期間ごとの収益率(rFREE[%])との差をいう。個別証券の基準期間ごとの収益率としては、各日の収益率や数日単位の収益率、月単位の収益率などが挙げられる。例えば各日の収益率は、当日の終値と前日の終値の比から1を差し引いたものとして算出される。次に、上記過去所定期間の市場の平均株価の基準期間ごとの超過収益率を算出する(ステップS0202)。次に、上記過去所定期間の個別証券株価の基準期間ごとの超過収益率と市場の平均株価の基準期間ごとの超過収益率に基づいて回帰分析を行う(ステップS0203)。ここで、個別証券株価の基準期間ごとの超過収益率(rTARGET−rFREE)と市場平均株価の基準期間ごとの超過収益率(rTOPIX−rFREE)の回帰分析を行うことにより、[数1]に示す一次式の係数βTARGETの値を算出する。算出される係数βTARGETの値は、個別証券株価の市場平均株価に対する感応度を示す。なお、無リスク資産の収益率を0とみなして計算することも可能である。
【0018】
【数1】

【0019】
上記では、市場平均株価の値として東証株価指数を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば日経平均株価を用いることも可能であるし、他の母集団に基づいて算出される平均値を用いてもよい(以下同様である)。また、上記のαTARGETは、個別証券株価に関するジェンセンのαを表す。
【0020】
図1に戻り、コンピュータは前記β値が所定値より大きい時はリスクとリターンとの関係を利用して収益性を求める関数であるリスク効率関数を選択し、前記β値が所定値より小さいときには期待リターンに対する実現リターンの関係を利用して収益性を求めるリターン効率関数を選択する(ステップS0103)。個別証券株価の変動が市場平均株価の変動と比較して激しいときは、株価の変動によるリスクが相対的に高いと考えられる。この場合、収益性は株価の変動によるリスクを考慮して算出すべきであるため、上記リスク効率関数を用いる。一方、個別証券株価の変動が市場平均株価の変動と比較して穏やかであるときは、株価の変動によるリスクは相対的に低いと考えられる。この場合、収益性は期待リターン(市場平均株価から期待されるリターン)に対する実現リターン(株価の値動きによって得られるリターン)に注目して算出すべきであるため、上記リターン効率関数を選択する。
【0021】
ここで、リスク効率関数は、個別証券株価の超過収益率のバラつきをリスクとして捉え、当該リスクを考慮した収益性を求める関数である。具体的には、リスク尺度として超過収益率の標準偏差を用いる。リスク効率関数の一例として、シャープ・レシオが挙げられる。シャープ・レシオは、リスク一単位当たりの超過収益率を示す指標であり、負担したリスクに対しリターンがどれだけあったかを表す。個別証券を評判値に応じて売買するシステムトレードのシャープ・レシオは、具体的には[数2]に示すように、評判値に応じて過去所定期間個別証券の売買を行ったと仮定した場合の期間全体としての収益率(RSYSTEM[%])と、過去所定期間の無リスク資産の期間全体としての収益率(RFREE[%])、及び評判値に応じて過去所定期間個別証券の売買を行ったと仮定した場合の基準期間ごとの超過収益率の標準偏差(σ[%])に基づいて算出される。
【0022】
【数2】

【0023】
また、市場平均のシャープ・レシオは、具体的には[数3]に示すように、過去所定期間の市場平均株価の期間全体としての収益率(RTOPIX[%])と、過去所定期間の無リスク資産の期間全体としての収益率(RFREE[%])、過去所定期間の市場平均株価の基準期間ごとの超過収益率の標準偏差(σTOPIX[%])に基づいて算出される。個別証券を評判値に応じて売買するシステムトレードのシャープ・レシオが市場平均のシャープ・レシオよりも大きくなっている場合は上記システムトレードが優れたパフォーマンスを発揮しているといえ、小さくなっている場合は上記システムトレードが劣ったパフォーマンスとなっているといえる。
【0024】
【数3】

【0025】
リスク効率関数としては、シャープ・レシオの他に、ジェンセンのα'(ジェンセンのアルファ・プライム)が挙げられる。ジェンセンのα'は、評判値に応じて過去所定期間個別証券の売買を行ったと仮定した場合の期間全体としての収益率と、過去所定期間の資本市場線との差を測定するものである。具体的には、[数4]に示す関数で表される。変数の意味に関しては、[数2]などと同様である。ジェンセンのα'が0より大きい場合は、上記システムトレードが優れたパフォーマンスを発揮しているといえ、0より小さくなっている場合は上記システムトレードが劣ったパフォーマンスとなっているといえる。
【0026】
【数4】

【0027】
また、リターン効率関数は、β値をリスクの尺度としてリスクを考慮した収益性を求める関数である。を用いることを特徴とする。一例としては、ジェンセンのα(ジェンセンのアルファ)が挙げられる。ジェンセンのαは、実現されたリターンと期待リターン(証券市場線)との差を示す指標であり、具体的には、[数5]に示す関数で表される。βSYSTEMは、評判値に応じて過去所定期間個別証券の売買を行ったと仮定した場合のβ値である。当該β値は、過去所定期間の上記システムトレードの基準期間ごとの超過収益率と市場の平均株価の基準期間ごとの超過収益率に基づいて回帰分析を行うことによって求めることが可能である。その他の変数に関しては[数2]などと同様である。ジェンセンのαが0より大きい場合は、上記システムトレードが優れたパフォーマンスを発揮しているといえ、0より小さくなっている場合は上記システムトレードが劣ったパフォーマンスとなっているといえる。
【0028】
【数5】

【0029】
リターン効率関数としては、ジェンセンのαの他に、トレイナー・レシオが挙げられる。トレイナー・レシオは、ベータ・リスク1単位当たりの超過収益率を示す指標である。具体的には、[数6]に示す関数で表される。変数に関しては、[数2]などと同様である。個別証券を評判値に応じて売買するシステムトレードのトレイナー・レシオが市場平均株価のトレイナー・レシオよりも大きくなっている場合は当該システムトレードが優れたパフォーマンスを発揮しているといえ、小さくなっている場合は当該システムトレードが劣ったパフォーマンスとなっているといえる。
【0030】
【数6】

【0031】
なお、リスク効率関数、リターン効率関数として、上記で説明したシャープ・レシオ、ジェンセンのα'、ジェンセンのα、トレイナー・レシオに限定されるものではなく、それ以外のリスク効率関数やリターン効率関数を用いることも当然に可能である。
【0032】
図1に戻りコンピュータは、個別証券の過去所定期間の評判値を取得する(ステップS0104)。ここで、個別証券の過去所定期間の評判値は、コンピュータの内部記憶媒体又はコンピュータに接続される記憶装置から取得してもよいし、ネットワークを介して通信可能な他の装置から取得してもよい。また、プログラムの処理によって、過去所定期間の評判値の情報を生成してもよい。また、個別証券の過去所定期間の評判値は、基準期間単位(日単位、数日単位、週単位など)で取得することも可能である。例えば、過去所定期間内の日毎の評判値を取得することが考えられる。
【0033】
個別証券の過去所定期間の評判値の算出は、例えば図3に示す以下の処理により行う。まず、個別証券を指し示すキーワード(個別証券の名前やIDなど)が含まれるサイト記事を検索するためのリクエストをインターネットサーバに対して送信し、検索結果を受信する(ステップS0301)。次に、上記キーワードを含む各サイト記事の価値を表す指標(人気ランキング、アクセス者数、登録者数、更新頻度、更新日時など)を各サイトから取得する(ステップS0302)。ここで、各サイト記事の価値指標は、上記インターネットサーバから検索結果とともに受信してもよいし、その他のインターネットサーバに対してリクエストして受信してもよい。次に、上記キーワードを含む各サイト記事に含まれる肯定的な意味合いの単語、否定的な意味合いの単語、中立的な意味合いの単語の数をそれぞれ抽出する(ステップS0303)。ここで、各単語の意味合いの判断は、単語と意味合いを関連付けた辞書テーブルに基づいて行うことが可能である。次に、ステップS0304において、それぞれの記事情報の価値指標(Vi)と、記事情報に含まれる肯定的単語の数(Pi)、否定的単語の数(Ni)、中立的単語の数(Ci)を[数7]に代入して、個別証券の評判値を算出する。
【0034】
【数7】

【0035】
図1に戻りコンピュータは、既に設定されているシグナル基準値以外の複数のシグナル基準値候補を過去所定期間の評判値に適用して、関数選択ステップにて選択された関数を用いてそのシグナル基準値候補の収益性を判定する(ステップS0104)。ここで、複数のシグナル基準値候補は、コンピュータの内部記憶媒体又はコンピュータに接続される記憶装置から取得してもよいし、ネットワークを介して通信可能な他の装置から取得してもよい。
【0036】
また、複数のシグナル基準値候補は、プログラムの処理によって、所定の初期値から所定値ずつインクリメントして複数生成することも可能であるし、個別証券の過去の評判値の最小値と最大値に基づいて複数生成することも可能である。なお、シグナル基準値として、上限値及び下限値を設定する場合は、それぞれに対する複数の基準値候補を取得する。
【0037】
各シグナル基準値候補に関する収益性の算出は、例えば図4に示す以下の処理により行う。まず、各シグナル基準値候補を過去所定期間の評判値に適用して、過去所定期間の基準期間ごとの超過収益率を算出する(ステップS0401)。次に、過去所定期間の基準期間ごとの超過収益率を関数選択ステップにて選択された関数に代入することによって、リスクを考慮した収益性(リスク調整後収益)を算出する(ステップS0402)。次に、各シグナル基準値候補のリスク調整後の収益性を比較し、収益性が最大となるシグナル基準値候補を抽出する(ステップS0403)。
【0038】
(評価関数:ジェンセンのα)
図5は、評価関数としてジェンセンのαが選択された(ベータ値が所定値より小さかった)場合の、基準値候補収益性判定ステップの処理の流れの一例である。まず、複数のシグナル基準値候補から一のシグナル基準値候補を順番に選択する(ステップS0501)。次に、選択されたシグナル基準値候補を過去所定期間の評判値に適用して、評判値に応じて過去所定期間個別証券の売買を行ったと仮定した場合の基準期間ごとの超過収益率を算出する(ステップS0502)。次に、上記過去所定期間における市場平均株価の基準期間ごとの超過収益率を算出する(ステップS0503)。次に、上記評判値に応じた基準期間ごとの超過収益率と市場の平均株価の基準期間ごとの超過収益率の回帰分析を行う(ステップS0504)。次に、回帰分析により算出される[数5]のα(ジェンセンのα)の値をシグナル基準値候補の収益性として、シグナル基準値候補のIDと関連付けて記憶する(ステップS0505)。次に、他のシグナル基準値候補が残っているか否か判断する(ステップS0506)。ここで、残っているとの判断である場合はステップS0502に戻り、残っていないとの判断である場合はステップS0507に進む。ステップS0507においては、複数の基準値候補の中から最も収益性が優れている基準値候補を比較演算によって取得し、その基準値候補のIDを保持する。
【0039】
(評価関数:シャープ・レシオ)
図6は、評価関数としてシャープ・レシオが選択された(ベータ値が所定値以上であった)場合の、基準値候補収益性判定ステップの処理の流れの一例である。まず、複数のシグナル基準値候補から一のシグナル基準値候補を順番に選択する(ステップS0601)。次に、選択されたシグナル基準値候補を取得された過去所定期間の評判値に適用して、評判値に応じて過去所定期間個別証券の売買を行ったと仮定した場合の期間全体としての超過収益率(過去一的期間の平均超過収益率)を算出する(ステップS0602)。次に、評判値に応じて過去所定期間個別証券の売買を行ったと仮定した場合の基準期間ごとの超過収益率の標準偏差を算出する(ステップS0603)。次に、上記期間全体としての超過収益率と基準期間ごとの超過収益率の標準偏差に基づいて、[数2]で示したシャープ・レシオを算出する(ステップS0604)。次に、算出されたシャープ・レシオの値をそのシグナル基準値候補の収益性として、シグナル基準値候補のIDと関連付けて記憶する(ステップS0605)。次に、他のシグナル基準値候補が残っているか否か判断する(ステップS0606)。ここで、残っているとの判断である場合はステップS0607に進む。ステップS0607においては、複数のシグナル基準値候補の中から最も収益性が優れているシグナル基準値候補を比較演算によって取得し、そのシグナル基準値候補のIDを保持する。
【0040】
図1に戻りコンピュータは、前記基準値候補収益性判定ステップにて収益性がよいとされるシグナル基準値候補が既に設定されているシグナル基準値よりも収益性がよい場合にはシグナル基準値候補を新たなシグナル基準値として設定する(ステップS0106)。具体的には、基準値候補収益性判定ステップにて抽出された最大の収益性と、既に設定されているシグナル基準値の収益性を比較し、前者の方が大きいと判断された場合には最大の収益性を示したシグナル基準値候補を新たなシグナル基準値のデータとして保持する。なお、シグナル基準値がまだ設定されていない状態においては、基準値候補収益性判定ステップにて収益性が最大であると判断されたシグナル基準値候補をそのままシグナル基準値として設定する。
【0041】
なお、β値と比較される所定値は、一定である必要はなく、この値自身も個別証券の株価や市場平均株価などの変動に応じて適宜設定することも考えられる。具体的には、複数の所定値候補に関して、図1のステップ0103(関数選択ステップ)、ステップS0104(基準値候補収益性判定ステップ)、S0105(シグナル基準値設定ステップ)をそれぞれ実行し、所定値候補の中から収益性が最大となる値を抽出し、当該値を新たな所定値として設定する。
【0042】
<構成>
図7は、本実施形態のシグナル基準値設定装置の機能ブロックの一例を示す図である。この図に示されているように、「シグナル基準値設定装置」0700は、「個別証券株価取得部」0701と、「β値取得部」0702と、「関数選択部」0703と、「個別評判値取得部」0704と、「基準値候補収益性判定部」0705と、「シグナル基準値設定部」0706と、から構成される。以下、各構成部について説明する。
【0043】
「シグナル基準値設定装置」は、個別証券に関するネット上の評判を数値化した評価値に応じて個別証券の銘柄の売り・買い・ステイの判断をする際に利用される閾値であるシグナル基準値を設定する装置である。
【0044】
「個別証券株価取得部」は、個別証券の株価である個別証券株価を取得する機能を有する。当該機能は、例えば個別証券株価の情報を保持するサーバに対してアクセスするための通信I/Fと内部記憶媒体に保持される通信プログラムによって実現することが可能である。なお、サーバに対して個別証券株価の情報をリクエストする際には、個別証券を特定するIDや、株価の情報を要求する過去所定期間の日付などの情報を送信する。また、市場平均株価の情報や、無リスク資産の情報などについても同様の手段によって取得することが可能である。
【0045】
「β値取得部」は、少なくとも個別証券が上場されている市場の平均株価に対する個別証券株価の感応度を示す値であるβ値を取得する機能を有する。当該機能は、個別証券株価取得部と同様に、通信I/Fと内部記憶媒体にて保持される通信プログラムによって実現することが可能である。なお、上述のように、過去所定期間の無リスク資産と市場の平均株価の収益率と個別証券株価の収益率を取得してその個別証券株価のβ値を算出することも可能であり、その場合は当該算出を行う算出プログラムを内部記憶媒体に保持する。
【0046】
「関数選択部」は、前記β値が所定値より大きい時はリスクとリターンとの関係を利用して投資効率を求める関数であるリスク効率関数を選択し、前記β値が所定値より小さいときには期待リターンに対する実現リターンの関係を利用して投資効率を求めるリターン効率関数を選択する機能を有する。選択された関数の情報は、基準値候補収益性判定部に通知される。当該機能は、内部記憶媒体にて保持される、β値と比較される所定値の情報や、当該所定値に対する大小とリスク効率関数及びリターン効率関数を関連付けたテーブル情報や、これらの情報に基づいて関数の選択処理を行う選択処理プログラムにより実現することが可能である。
【0047】
「個別証券評判値取得部」は、個別証券の過去所定期間の評判値を取得する機能を有する。当該機能は、個別証券の評判値を保持するサーバに対してアクセスするための通信I/Fと内部記憶媒体に保持される通信プログラムによって実現することが可能である。なお、サーバに対して個別証券の評判値をリクエストする際には、個別証券を特定するIDや、評判値を要求する過去所定期間の日付などの情報を送信する。また、個別証券の評判値を自ら生成する場合には、当該生成処理を行う評判値生成プログラムを内部記憶媒体に保持する。
【0048】
「基準値候補収益性判定部」は、既に設定されているシグナル基準値以外の複数のシグナル基準値候補を過去所定期間の評判値に適用し、関数選択部にて選択された関数を用いて各シグナル基準値候補の収益性を判定する機能を有する。当該機能は、内部記憶媒体に保持される、シグナル基準値候補の情報や、シグナル基準値候補を過去所定期間の評判値に適用してリスクを考慮していない収益率を算出するリスク調整前収益率算出プログラムや、当該収益率に対して選択された関数を適用してリスク調整された収益率を算出するリスク調整収益率算出プログラムなどによって実現することが可能である。
【0049】
「シグナル基準値設定部」は、前記基準値候補収益性判定部にて収益性がよいとされるシグナル基準値候補が既に設定されているシグナル基準値よりも収益性がよい場合にはシグナル基準値候補を新たなシグナル基準値として設定する機能を有する。当該機能は、既に設定されているシグナル基準値の収益性とシグナル基準値候補の収益性を比較する処理と、当該比較処理に応じてシグナル基準値のデータを設定する処理を行う設定プログラムによって、実現することが可能である。
【0050】
<具体的なシステム構成>
図8は、本実施形態のシグナル基準値設定装置の具体的なハードウェア構成の一例を示す図である。この図に示すように、シグナル基準値設定装置は、「CPU」0801、「ROM」0802、「RAM」0803、「長期記憶装置」0804、「通信I/F」0805などから構成され、各ハードウェアはシステムバスにより接続され、相互に信号のやり取りを行う。CPUは、ROMや長期記憶装置に保持されている各プログラムをRAMに読みだして実行することが可能である。また、RAMに各プログラムやその処理結果を格納することが可能である。さらに、通信I/Fは、シグナル基準値設定装置とネットワークを介して接続される他の装置と通信を行うことが可能であり、RAMに格納されているデータを送信したり、受信したデータをRAMに伝送したりすることが可能である。
【0051】
CPUは、個別証券株価取得処理を実行し、個別証券の株価である個別証券株価に関して、過去所定期間(例えば、過去100日)の情報を長期記憶装置からRAMに読み出す。次に、CPUは、市場平均株価取得処理を実行し、市場平均株価に関して、上記過去所定期間の情報を長期記憶装置からRAMに読み出す。次に、CPUは、無リスク資産取得処理を実行し、無リスク資産の利率値(例えば、0)を長期記憶装置からRAMに読み出す。
【0052】
次に、CPUは、個別証券超過収益率算出処理を実行し、上記過去所定期間について個別証券株価の日あたりの超過収益率を算出し、その結果をRAMにて保持する。ここで、日あたりの超過収益率は、当日の終値と前日の終値の比から無リスク資産の日あたりの利率を差し引いたものとして算出される。次に、CPUは、市場平均超過収益算出処理を実行し、上記過去一定間について市場平均の日あたりの超過収益率を算出し、その結果をRAMにて保持する。次に、CPUは、β値算出処理を実行し、上記過去所定期間の個別証券の日あたりの超過収益率と、市場平均株価の日あたりの超過収益率の回帰分析を行い、[数1]で示したβ値を算出し、その結果をRAMにて保持する。
【0053】
次に、CPUは、評価関数選択処理を実行し、β値が所定値(例えば、0.8)以上であるか否か判定する。ここで、β値が所定値以上である場合は、評価関数として[数5]で示したジェンセンのαを選択し、その関数IDをRAMにて保持する。また、β値が所定値未満である場合は、評価関数として[数2]で示したシャープ・レシオを選択し、その関数IDをRAMにて保持する。
【0054】
次に、CPUは、評判値取得処理を実行し、個別証券に対する上記過去所定期間の評判値の情報を長期記憶装置から取得し、RAMに読み出す。次に、CPUは、シグナル基準値候補取得処理を実行し、上限値と下限値に関してそれぞれ複数のシグナル基準値候補を変数として生成し、その値をRAMにて保持する。次に、CPUは、システムトレード超過収益算出処理を実行し、各シグナル基準値候補を過去所定期間の評判値に適用して、評判値に応じて日単位で個別証券の売買を行っていたと仮定した場合の日あたりの超過収益率を算出する。次に、CPUは、リスク調整後収益性算出処理を実行し、上記評判値に応じた日あたりの超過収益率などを選択された評価関数に代入し、リスク調整された収益性を算出する。当該処理は、上限値と下限値に関して全てのシグナル基準値候補について行う。次に、CPUは、上限値と下限値についてリスク調整後の収益性が最大となるシグナル基準値候補を取得し、その収益性の最大値とシグナル基準値候補の値(上限値、下限値)をRAMにて保持する。
【0055】
次に、CPUは、シグナル基準値設定処理を実行し、既に設定されているシグナル基準値(上限値、下限値)の収益性と、上記シグナル基準値候補の収益性の最大値を比較する。ここで、既に設定されているシグナル基準値の収益性の方が大きい場合は、そのままシグナル基準値をRAMにて維持する。また、上記シグナル基準値候補の収益性の方が大きい場合は、RAMに保持されているシグナル基準値をそのシグナル基準値候補に書き換えて保持する。
【0056】
<効果>
本実施形態のシグナル基準値設定方法などにより、評判値に応じて個別証券の売り・買い・ステイの判断をする際に利用される閾値を適切な値に設定することが可能になる。
【符号の説明】
【0057】
0700…シグナル基準値設定装置、0701…個別証券株価取得部、0702…β値取得部、0703…関数選択部、0704…個別評判値取得部、0705…基準値候補収益性判定部、0706…シグナル基準値設定部、0801…CPU、0802…ROM、0803…RAM、0804…長期記憶装置、0805…通信I/F

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個別証券に関するネット上の評判を数値化した評判値に応じて個別証券の銘柄の売り・買い・ステイの判断をする際に利用される閾値であるシグナル基準値を設定する装置であって、
個別証券の株価である個別証券株価を取得する個別証券株価取得部と、
少なくとも個別証券が上場されている市場の平均株価に対する個別証券株価の感応度を示す値であるβ値を取得するβ値取得部と、
前記β値が所定値より大きい時はリスクとリターンとの関係を利用して収益性を求める関数であるリスク効率関数を選択し、前記β値が所定値より小さいときには期待リターンに対する実現リターンの関係を利用して収益性を求めるリターン効率関数を選択する関数選択部と、
個別証券の過去所定期間の評判値を取得する個別証券評判値取得部と、
既に設定されているシグナル基準値以外の複数のシグナル基準値候補を過去所定期間の評判値に適用し、関数選択部にて選択された関数を用いて各シグナル基準値候補の収益性を判定する基準値候補収益性判定部と、
前記基準値候補収益性判定部にて収益性がよいとされるシグナル基準値候補が既に設定されているシグナル基準値よりも収益性がよい場合にはシグナル基準値候補を新たなシグナル基準値として設定するシグナル基準値設定部と、
からなるシグナル基準値設定装置。
【請求項2】
前記リスク効率関数はシャープ・レシオであり、前記リターン効率関数はジェンセンαである請求項1に記載のシグナル基準値設定装置。
【請求項3】
個別証券に関するネット上の評判を数値化した評判値に応じて個別証券の銘柄の売り・買い・ステイの判断をする際に利用される閾値であるシグナル基準値をコンピュータにより設定する方法であって、
個別証券の株価である個別証券株価を取得する個別証券株価取得ステップと、
少なくとも個別証券が上場されている市場の平均株価に対する個別証券株価の感応度を示す値であるβ値を取得するβ値取得ステップと、
前記β値が所定値より大きい時はリスクとリターンとの関係を利用して収益性を求める関数であるリスク効率関数を選択し、前記β値が所定値より小さいときには期待リターンに対する実現リターンの関係を利用して収益性を求めるリターン効率関数を選択する関数選択ステップと、
個別証券の過去所定期間の評判値を取得する個別証券評判値取得ステップと、
既に設定されているシグナル基準値以外の複数のシグナル基準値候補を過去所定期間の評判値に適用し、関数選択ステップにて選択された関数を用いて各シグナル基準値候補の収益性を判定する基準値候補収益性判定ステップと、
前記基準値候補収益性判定ステップにて収益性がよいとされるシグナル基準値候補が既に設定されているシグナル基準値よりも収益性がよい場合にはシグナル基準値候補を新たなシグナル基準値として設定するシグナル基準値設定ステップと、
からなるシグナル基準値設定方法。
【請求項4】
個別証券に関するネット上の評判を数値化した評判値に応じて個別証券の銘柄の売り・買い・ステイの判断をする際に利用される閾値であるシグナル基準値を設定する処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
個別証券の株価である個別証券株価を取得する個別証券株価取得処理と、
少なくとも個別証券が上場されている市場の平均株価に対する個別証券株価の感応度を示す値であるβ値を取得するβ値取得処理と、
前記β値が所定値より大きい時はリスクとリターンとの関係を利用して収益性を求める関数であるリスク効率関数を選択し、前記β値が所定値より小さいときには期待リターンに対する実現リターンの関係を利用して収益性を求めるリターン効率関数を選択する関数選択処理と、
個別証券の過去所定期間の評判値を取得する個別証券評判値取得処理と、
既に設定されているシグナル基準値以外の複数のシグナル基準値候補を過去所定期間の評判値に適用し、関数選択処理にて選択された関数を用いて各シグナル基準値候補の収益性を判定する基準値候補収益性判定処理と、
前記基準値候補収益性判定処理にて収益性がよいとされるシグナル基準値候補が既に設定されているシグナル基準値よりも収益性がよい場合にはシグナル基準値候補を新たなシグナル基準値として設定するシグナル基準値設定処理と、
をコンピュータに実行させるためのシグナル基準値設定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−37599(P2013−37599A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174579(P2011−174579)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(500257300)ヤフー株式会社 (1,128)