説明

シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸の製造方法

【課題】工業的に有利な高純度のシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を製造する方法を提供する。
【解決手段】
アミノ安息香酸のアルカリ金属塩を貴金属触媒存在下で、水系溶媒中で核水素化することにより、シス体含有量の高いアミノシクロヘキサンカルボン酸アルカリ金属塩を製造すること。さらに、シス体及びトランス体のアミノシクロヘキサンカルボン酸のアルカリ金属塩を含有する水系溶液に、有機酸を添加することにより、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を選択的に析出させ、高純度のシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸の製造に関する。より詳しくは、アミノ安息香酸塩を貴金属触媒存在下、水系溶媒で水素化するシス体含有量の高いアミノシクロヘキサンカルボン酸塩を製造する方法、及び、シス体のアミノシクロヘキサンカルボン酸塩を有機酸で中和することにより、シス体のアミノシクロヘキサンカルボン酸を高純度で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸は、医薬、農薬等の合成中間体として有用な化合物である。シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を製造する方法としては、アミノ安息香酸又はその誘導体を水素化し、シス/トランス混合物のアミノシクロヘキサンカルボン酸又はその誘導体を得た後、再結晶等によりシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を得る方法が知られている。
【0003】
例えば、アミノ安息香酸ナトリウムをニッケル/レニウム触媒で水素化し、イオン交換樹脂で処理した後、アセトンを加えて、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を得る方法が開示されている。しかし、この方法では、水素化の反応温度が高く、水素化終了時のシス体含有量が低いため、収率はそれほど高くなく、また、イオン交換処理が必要になるなど、煩雑で、且つ経済性に劣るという欠点を有している(非特許文献1)。
【0004】
また、安息香酸を酸化白金触媒で水素化し、触媒を濾過した後、エタノールでの再結晶を繰り返すことにより、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を得る方法が開示されている(非特許文献2)。この方法では、分子間での脱水反応や、水素化物が環化する虞があるため、低濃度で水素化を行う必要があり、また、得られた水素化物から高純度のシス体を得るためには、エタノール中での再結晶を繰り返す必要があり、経済的にも有利とはいえない。
【0005】
【非特許文献1】Izvestiya Akademii Nauk SSSR, Seriya Khimicheskaya 1977年,第1号,p.195−197
【非特許文献2】Jornal of Organic Chemistry,1964年,第29巻,p.2585−2587
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特別な装置を必要とせず、且つ簡易な方法で、高純度のシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を達成すべく検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
(1)アミノ安息香酸のアルカリ金属塩を、貴金属触媒存在下で、水系溶媒中で核水素化することにより、シス体の含有率の高いアミノシクロヘキサンカルボン酸アルカリ金属塩が得られること。
(2)特に、ルテニウム/カーボン触媒は、水素化反応に繰り返し使用しても、水素化反応時の収率、選択率の低下が小さいこと。
(3)また、シス体を含有するアミノシクロヘキサンカルボン酸のアルカリ金属塩を有機酸、特に酢酸で中和することにより、シス体のアミノシクロヘキサンカルボン酸を高純度で得られること。
(4)また、上記水素化工程で得られた反応水溶液から、アミノシクロヘキサンカルボン酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液を、そのまま中和工程に供しても、高純度のシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を得ることができること。
係る知見に基づき、さらに鋭意検討することにより本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下のシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸の製造方法を提供するものである。
【0009】
(項1)(i)一般式(1)
【化1】

[式中、Mは、リチウム、ナトリウム又はカリウムを表す。]
で表されるアミノ安息香酸塩を貴金属触媒存在下、水系溶媒中で核水素化して一般式(2)
【化2】

[式中、Mは、一般式(1)におけると同義である。]
で表されるアミノシクロヘキサンカルボン酸塩を得る工程、及び
(ii)該アミノシクロヘキサンカルボン酸塩を含油する溶液に有機酸を加えて、一般式(3)
【化3】

で表されるシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を得る工程
を具備する高純度シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸の製造方法。
【0010】
(項2)貴金属触媒が、ルテニウムおよびロジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記項1に記載の製造方法。
【0011】
(項3)貴金属触媒が、カーボン担持触媒である上記項1又は2に記載の製造方法。
【0012】
(項4)アミノ安息香酸塩に対して、貴金属触媒を金属として0.01〜5重量%用いる上記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
(項5)核水素化を、反応温度50〜100℃かつ水素分圧0.5〜20MPaの条件下で行う、上記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
(項6)アミノ安息香酸塩が、ナトリウム塩又はカリウム塩である上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
(項7)、有機酸の添加をシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸塩の濃度が20〜40重量%で範囲で行う上記項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
(項8)有機酸が、酢酸である上記項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
(項9)上記一般式(1)で表されるアミノ安息香酸塩を貴金属触媒存在下、水系溶媒で核水素化するアミノシクロヘキサンカルボン酸塩の製造方法。
【0018】
(項10) 貴金属触媒が、ルテニウム及びロジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記項9に記載の製造方法。
【0019】
(項11) 貴金属触媒が、カーボン担持触媒である請求項9又は10に記載の製造方法。
【0020】
(項12)アミノ安息香酸塩に対して、貴金属触媒を金属として0.01〜5重量%用いる上記項9〜11のいずれかに記載の製造方法。
【0021】
(項13)核水素化を、反応温度50〜100℃かつ水素分圧0.5〜20MPaの条件下で行う、上記項9〜12のいずれかに記載の製造方法。
【0022】
(項14)アミノ安息香酸塩が、ナトリウム塩又はカリウム塩である上記項9〜13のいずれかに記載の製造方法。
【0023】
(項15)上記一般式(2)で表されるアミノシクロヘキサンカルボン酸塩の溶液に有機酸を加えて、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を析出させるシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸の製造方法。
【0024】
(項16)有機酸の添加をシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸塩の濃度が20〜40重量%の範囲で行う上記項15に記載の製造方法。
【0025】
(項17)アミノ安息香酸塩が、ナトリウム塩又はカリウム塩である上記項15又は16に記載の製造方法。
【0026】
(項18)有機酸が、酢酸である上記項15〜17のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、簡易な方法により、アミノ安息香酸塩から、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸塩を高純度、高収率で得ることができ、さらに、シス−アミノシクロヘキサン塩から、高純度、高収率で、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[(i)工程:核水素化工程]
本発明に係わるアミノ安息香酸塩は、上記一般式(1)で表され、具体的には、o−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸及びp−アミノ安息香酸から選ばれる少なくとも1種と、アルカリ金属であるリチウム、ナトリウム又はカリウムからなる塩であり、反応溶媒への溶解性の観点からナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。アミノ安息香酸塩は、市販のもの又は市販のアミノ安息香酸を水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等で中和することにより容易に得ることができる。この場合アミノ安息香酸塩の純度は、100%が好ましいが、アミノ安息香酸に対してアルカリ金属が80〜120モル%の範囲のものも使用できる。また、上記アミノ安息香酸塩を別途調製してから、核水素化反応に供してもよいが、核水素化反応器に、アミノ安息香酸、アルカリ金属化合物、溶媒、貴金属触媒等を入れ、アミノ安息香酸塩の調製と核水素化を逐次及び/又は同時に行うこともできる。
【0029】
本発明に係る貴金属触媒としては、ロジウム、ルテニウム、白金、パラジウム、イリジウム及びオスミウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する触媒が例示され、反応性や選択性の点からルテニウム、ロジウムが好ましい。
【0030】
上記貴金属触媒は従来公知のものが広く使用できるが、具体的には、0価の金属、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物、酸化物、水酸化物等の各種該金属含有無機物化合物、アセチルアセトナート化合物等の各種該金属含有有機物、アミン錯体、ホスフィン錯体、カルボニル化合物等の各種該金属含有錯体化合物などが例示される。これらは、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0031】
上記貴金属触媒は、そのままで使用することもできるが、通常、担体担持触媒として使用することが好ましい。担体担持触媒としては、従来公知或いは市販されているものでもよく、具体的には、珪藻土、軽石、カーボン(グラファイト、活性炭等)、シリカゲル、アルミナ、ハイドロタルサイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ゼオライト、炭酸カルシウム及びこれらの混合物等が例示される。これらのうち特に、カーボン担持触媒が、反応性や選択性の点で好ましい。
【0032】
上記担体担持触媒の貴金属成分の担持量は、特に限定されないが、触媒の総重量に対して、金属として、通常0.1〜10重量%程度、好ましくは0.5〜5重量%である。担持量が0.1重量%未満では、触媒重量あたりの活性が低下し、触媒を多量に使用する必要が生じて設備的にも経済的にも不利である。また、10重量%を超えた触媒では、担持した金属量に見合う反応速度の向上は得られずあまり好ましくない。
【0033】
触媒の使用量としては、特に限定されないが、アミノ安息香酸塩に対して、金属として0.01〜5重量%が例示され、より好ましくは0.05〜2重量%である。
【0034】
これらの貴金属触媒の形態は、特に限定されず、選択される反応方式に応じて粉末状、タブレット状等適宜選択して使用される。具体的には、回分或いは連続の懸濁床反応には粉末触媒が、また、固定床反応にはタブレット触媒が好適に使用される。
【0035】
本発明に係る水系溶媒とは、水、又は、水及び水と混和可能な有機溶媒との混合物が例示される。水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、地下水等のいずれも使用できるが、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。水と混和可能な有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級脂肪族アルコール、エチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレグリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒が例示され、これらの有機溶媒の1種又は2種以上を混和して使用することができる。
【0036】
これら水系溶媒の使用量は、特に制限はないが、アミノ安息香酸に対して100〜90重量%が好ましく、特に、150〜500重量%が好ましい。
【0037】
核水素化反応の反応温度は、触媒量、水素圧力等により異なり、一概にはいえないが、50〜150℃の範囲が好ましく、特に70〜100℃が推奨される。係る反応温度範囲内で核水素化することにより、アミノシクロヘキサンカルボン酸塩のシス体含有量が高くなる傾向にある。核水素化時の水素分圧としては、広い範囲から選択することができるが、0.5〜20MPaの範囲、特に1〜10MPaの範囲が好ましい。反応時間は、触媒量や諸条件によって異なるが、通常1〜12時間程度である。
【0038】
反応形式としては、回分反応、連続反応いずれの方法でもよく、また流動床、固定床のいずれも選択することができる。
【0039】
核水素化反応終了後、貴金属触媒を濾過、遠心分離等公知の方法で分離することにより、アミノシクロヘキサンカルボン酸塩を含有する水溶液を得ることができる。係る水溶液からアミノシクロヘキサンカルボン酸塩を単離することもでき、また、そのまま中和工程に供することもできる。
【0040】
上記核水素化反応により、上記一般式(2)で表されるシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸塩と、上記一般式(3)で表されるトランス−アミノシクロヘキサンカルボン酸ナトリウムとの異性体混合物として得られ、その異性対比(重量比)は通常、シス/トランス=40/60〜100/0の範囲、好ましくはシス/トランス=50/50〜100/0の範囲である。
【0041】
核水素化反応終了後の触媒を含む反応液は、再度、核水素化反応に供することができる。その方法には特に制限がなく、例えば、反応液を適当な方法で、アミノシクロヘキサンカルボン酸と、触媒を含む反応母液とに分離した後、触媒を含む反応母液に、アミノ安息香酸を加え、必要に応じて、反応溶媒、反応触媒を追加し、核水素化反応を行うことができる。繰り返し回数にも特に制限はなく、通常数回〜10数回繰り返し核水素化反応することができる。
【0042】
[(ii)工程:中和工程]
本発明の第ii工程は、アミノシクロヘキサンカルボン酸塩を含有する溶液に、有機酸を添加し、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を選択的に析出させる工程である。
【0043】
本発明に係るアミノシクロヘキサンカルボン酸塩は、下記一般式(4)又は一般式(5)で表され、特に、4−アミノシクロヘキサンカルボン酸塩が好適に用いられる。シス/トランスの異性体比は広い範囲から選択することができるが、重量比で、シス/トランス=40/60〜100/0が好ましく、特に50/50〜100/0が推奨される。
【0044】
【化4】

[式中、Mはリチウム、カリウム又はナトリウムを表す。なお、アミノ基とカルボキシル基は、シクロヘキサン環に対して、同じ方向にあるものとする。]
【0045】
【化5】

[式中、Mはリチウム、カリウム又はナトリウムを表す。なお、アミノ基とカルボキシル基は、シクロヘキサン環に対して、異なる方向にあるものとする。]
【0046】
溶媒としては、アミノシクロヘキサンカルボン酸塩が溶解する限り特に、制限はないが、前記、核水素化工程に例示された水及び水と混和可能な有機溶媒が例示される。その中でも、水又は、水及び炭素数1〜5の脂肪族アルコールとの混合溶媒が好ましい。アミノシクロヘキサンカルボン酸塩の基質濃度としては、通常20〜40重量%、特に30〜35重量%が好ましい。核水素化反応で得られた水系溶液を用いる場合、適宜、濃縮又は、希釈して前記基質濃度に調整した後、中和を行うことが望ましい。
【0047】
本発明に係る有機酸としては、特に制限はないが、例えば、炭素数1〜10の脂肪族のモノ或いはポリカルボン酸が挙げられる。より具体的には、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、イソカプロン酸、ヘプタン酸、イソヘプタン酸、カプリル酸、イソカプリル酸、ペラルゴン酸、イソペラルゴン酸、カプリン酸、イソカプリン酸等の脂肪族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等の脂肪族二塩基酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等の置換基を有する脂肪族カルボン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸が挙げられる。これらの中でも、取り扱いが容易である点で液状の脂肪族カルボン酸が好ましく、特にシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸が高純度で得られる点で、炭素数1〜4の脂肪族モノ若しくはポリカルボン酸が好ましく、特にギ酸、酢酸が好ましい。
【0048】
有機酸の添加量は、アミノシクロヘキサンカルボン酸塩に対して、60〜150モル%の範囲が例示され、特に80〜120モル%の範囲が好ましい。また、pHにより有機酸の添加量を制御することも好ましい方法として例示される。この場合、通常pH10〜pH4の範囲、好ましくはpH9〜pH5、さらに好ましくはpH8〜pH6の範囲となるように、有機酸を加えることにより中和することができる。有機酸を用いて、好ましくは上記範囲内において、中和することにより、シス体がトランス体よりも優先して析出するため、高純度のシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸が得られる。
【0049】
有機酸は、そのまま添加してもよく、また水溶液として添加してもよいが、液状の有機酸をそのまま添加する方法が好ましい。添加の際に、中和発熱を生じる虞があるので、10〜80℃の範囲、好ましくは、20〜60℃の温度範囲内になるように、有機酸の添加速度を調整し、必要に応じて冷却しながら、中和することが好ましい方法として例示される。
【0050】
有機酸を加える前、又は加えた後に、炭素数1〜5の脂肪族アルコール、より好ましくはイソプロピルアルコールを添加することにより、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸の純度、収率が向上する傾向が見られる。
【0051】
これら脂肪族アルコールの添加量は、アミノシクロヘキサンカルボン酸塩及び/又はアミノシクロヘキサンカルボン酸を含有する水溶液に対して、通常、10〜200重量%の範囲が例示される。この範囲内で基質濃度に応じて適宜選択されるが、基質濃度が低いほどその添加量を増やすことが望ましい。
【0052】
有機酸若しくは低級アルコールを添加により通常、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸の結晶が析出し、懸濁液となる。係る懸濁液を濾過して、目的物を得ることもできるが、好ましくは50〜60℃まで昇温して、0.1〜2時間、好ましくは0.5〜1時間攪拌した後、例えば30℃以下、好ましくは10℃以下まで徐々に冷却することにより、副生成物の析出を抑えて、高純度のシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を得ることができるので、好ましい方法として推奨される。冷却速度が遅いほど、純度が高くなる傾向はあるが、特に制限はなく、2℃/時間〜20℃/時間の冷却速度が好ましい範囲として例示される。
【0053】
かくして得られる懸濁液から、結晶を濾別することにより、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を通常、純度97重量%以上、好ましくは98重量%以上で得ることができる。
【0054】
さらに、濾別後の結晶を洗浄することにより、純度を高くすることができる。洗浄の方法としては、従来公知の方法による行うことができ、例えば、濾別した結晶を洗浄液中に分散して、再度濾別する方法、遠心分離機或いは濾過機上の粗結晶に洗浄液をリンスする方法等が例示されるが、後者の方法が好ましい。
【0055】
洗浄に用いる溶媒は、水及び脂肪族アルコール類から選ばれる少なくとも1種が好ましく、脂肪族アルコールとしては炭素数1〜4の低級アルコールが好ましく、より具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノールが例示される。この中でも、イソプロパノール、又はイソプロパノールと水との混合物が、精製効率の点から好ましい。イソプロパノールと水との混合物を洗浄液として用いる場合、イソプロピルアルコールの含有率が50重量%以上の水溶液を使用すると、精製効率が向上する点で好ましい。洗浄に用いる溶媒の使用量は、粗結晶に対して、100〜300重量%程度、好ましくは110〜150重量%程度が推奨される。洗浄により、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸の純度としては通常、99.0重量%以上、好ましくは99.5重量%以上である。
【0056】
得られたシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸の結晶は、従来公知の方法で乾燥することができ、乾燥条件としては、温度90〜150℃、圧力0.1〜1kPa、1〜10時間程度が例示される。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、各実施例及び比較例における収率、純度、シス/トランス異性体比は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。
【0058】
(実施例I−1)核水素化
電磁攪拌子付のステンレス製オートクレーブに、4−アミノ安息香酸40g、イオン交換水74g、96%水酸化ナトリウム12.8g、5%ルテニウム/カーボン触媒(含水49%)4.0gを仕込み、水素ガスで系内を置換後、水素圧5MPa、反応温度80℃で4時間還元反応を行った。得られた反応粗液から、触媒を濾過し、HPLC分析したところ、4−アミノシクロヘキサンカルボン酸ナトリウムの収率は87%、異性体比はシス/トランス=66/34(重量比)であった。
【0059】
(実施例II−1)中和
実施例I−1で得られた4−アミノシクロヘキサンカルボン酸ナトリウム水溶液にイソプロピルアルコールを60g加えた後、氷酢酸17.2gを加えてpH7.3まで中和を行なった。白色結晶が析出して状態で、50℃まで加熱し、0.5時間攪拌した後、1時間に10℃程度の冷却速度で冷却し、その後室温で一夜攪拌した。析出した結晶を濾過、50重量%イソプロピルアルコール水溶液40gで結晶を洗浄し、ついで乾燥して純度99.7重量%のシス−4−アミノシクロヘキサンカルボン酸17.4g(収率76%)を得た。
【0060】
(実施例I−2)核水素化
イオン交換水の量を160g、触媒として5%ルテニウム/カーボン触媒(dry品)4.0gを用い、水素圧2Mpaに代えた以外は、実施例I−1と同様にして核水素化を行った。その結果、4−アミノシクロヘキサンカルボン酸ナトリウムの収率は87%、異性体比は、シス/トランス=63/37(重量比)であった。
【0061】
(実施例II−2)中和
実施例I−2で得られた4−アミノシクロヘキサンカルボン酸ナトリウム水溶液に氷酢酸14.6gを加えてpH7.2まで中和した。イソプロピルアルコールを304g加えて50℃で0.5h攪拌し、10℃/hの速度で冷却して、その後室温で一夜攪拌した。析出した結晶を濾過、イソプロピルアルコール18gで結晶を洗浄し、ついで乾燥して純度99.6重量%のシス−4−アミノシクロヘキサンカルボン酸17.6g(収率76%)を得た。
【0062】
(実施例I−3)核水素化
触媒を5%ルテニウム/カーボンに代えて5%ロジウム/カーボン(含水49%)4.0gを用い、水素圧を2MPa、反応時間を3時間に代えた以外は、実施例I−1と同様にして核水素化を行った。HPLC分析の結果、4−アミノシクロヘキサンカルボン酸ナトリウムの収率は77%、異性体比はシス/トランス=68/32であった。
【0063】
(実施例II−3)中和
実施例I−3で得られた4−アミノシクロヘキサンカルボン酸ナトリウム水溶液に、ギ酸13.0gを加え、pH7.2まで中和した。イソプロピルアルコールを304g加えて50℃で0.5h攪拌し、10℃/hの速度で冷却して、その後室温で一夜攪拌した。析出した結晶を濾過し、50重量%のイソプロピルアルコール水溶液40gで結晶を洗浄し、ついで乾燥して純度99.6重量%のシス−4−アミノシクロヘキサンカルボン酸16.3g(収率76%)を得た。
【0064】
(実施例I−4)核水素化
96%水酸化ナトリウムに代えて、85%水酸化カリウム20.4gを用いた以外は、実施例I−1と同様にして核水素化反応を行った。HPLC分析の結果、4−アミノシクロヘキサンカルボン酸カリウムの収率は86%、異性体比は、シス/トランス=62/38(重量比)であった。
【0065】
(実施例II−4)中和
実施例I−4で得られた4−アミノシクロヘキサンカルボン酸カリウム水溶液に氷酢酸14.6gを加えてpH7.2まで中和した。50℃で0.5h攪拌し、10℃/hの速度で冷却して、その後室温で一夜攪拌した。析出した結晶を濾過、イソプロピルアルコール18gで結晶を洗浄し、ついで乾燥して純度99.6重量%のシス−4−アミノシクロヘキサンカルボン酸17.4g(収率77%)を得た。
【0066】
(実施例I−5)核水素化
4−アミノ安息香酸に代えて、2−アミノ安息香酸に代えた以外は、実施例I−1と同様に核水素化反応を行った。HPLC分析の結果、2−アミノシクロヘキサンカルボン酸ナトリウムの収率は、86%、異性体比は、シス/トランス=50/50(重量比)であった。
【0067】
(実施例I−6)核水素化
4−アミノ安息香酸に代えて、3−アミノ安息香酸を用いた以外は、実施例I−1と同様にして核水素化反応を行った。HPLC分析の結果、3−アミノシクロヘキサンカルボン酸ナトリウムの収率は、72%、異性体比はシス/トランス=80/20であった。
【0068】
(比較例I−1)
触媒にラネーニッケルを2.0g、反応温度を210℃、水素圧力5MPa、反応を6時間行った以外は、実施例I−1と同様に核水素化反応を行った。HPLC分析の結果、反応率は67%であり、4−アミノシクロヘキサンカルボン酸ナトリウムの異性体比は、シス/トランス=25/75(重量比)であった。
【0069】
(比較例II−1)
実施例I−1に準じて核水素化反応を行って得られた、アミノシクロヘキサンカルボン酸水溶液に、pH7.1になるまで、2M硫酸を加えた。白色結晶が析出した状態で、50℃まで加熱し、0.5時間攪拌した後、1時間に10℃程度の冷却速度で冷却し、その後室温で一夜攪拌した。析出した結晶を濾過、50重量%イソプロピルアルコール水溶液40gで結晶を洗浄し、純度76%のシス−4−アミノシクロヘキサンカルボン酸を18.6gを得た。尚、このもののトランス−4−アミノシクロヘキサンカルボン酸の含有率は、3.0%であり、さらに無機塩や他の不純物を含有していた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により、医薬、農薬の中間体として、有用な高純度のシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を得ることができる。

特許出願人 新日本理化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)一般式(1)
【化1】

[式中、Mは、リチウム、ナトリウム又はカリウムを表す。]
で表されるアミノ安息香酸塩を貴金属触媒存在下、水系溶媒中で核水素化して一般式(2)
【化2】

[式中、Mは、一般式(1)におけると同義である。]
で表されるアミノシクロヘキサンカルボン酸塩を得る工程、及び
(ii)該アミノシクロヘキサンカルボン酸塩を含有する溶液に有機酸を加え、一般式(3)
【化3】

で表されるシス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を得る工程
を具備する高純度シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
上記一般式(1)で表されるアミノ安息香酸塩を貴金属触媒存在下、水系溶媒で核水素化するアミノシクロヘキサンカルボン酸塩の製造方法。
【請求項3】
貴金属触媒が、ルテニウム及びロジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
貴金属触媒が、カーボン担持触媒である請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
アミノ安息香酸塩に対して、貴金属触媒を金属として0.01〜5重量%用いる請求項2〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
核水素化を、反応温度50〜100℃かつ水素分圧0.5〜20MPaの条件下で行う、請求項2〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
アミノ安息香酸塩が、ナトリウム塩又はカリウム塩である請求項2〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
上記一般式(2)で表されるアミノシクロヘキサンカルボン酸塩を含有する溶液に有機酸を加えて、シス−アミノシクロヘキサンカルボン酸を得るシス−アミノシクロヘキサンの製造方法。
【請求項9】
有機酸が、酢酸である請求項8に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−297259(P2008−297259A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146002(P2007−146002)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000191250)新日本理化株式会社 (90)
【Fターム(参考)】