説明

シス−2−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,2,8,8−テトラメチルナフタレンの調製方法

シス−1−[1,2−ジメチル−4(4−メチル−ペント−3−エニル)−シクロヘクス−3−エニル]−エタノン(“Ψ−ジョージーウッド”)からシス−2−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,2,8,8−テトラメチルナフタレン(“β−ジョージーウッド”)を調製する方法であって、Ψ−ジョージーウッドと1モル当量より多くのルイス酸との反応を含む方法。該方法は、臭覚的に望ましいβ−ジョージーウッドをこれまでよりかなり高い比率で含む異性体混合物の調製を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルイス酸、特に有機アルミニウムハロゲン化物により促進される環化方法に関する。
【0002】
化合物シス−2−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,2,8,8−テトラメチルナフタレン
(式I)
【化1】

(以下β−GWと記す)は、ジョージーウッド(Georgywood)(Frater, Mueller and Schroeder, “Tetrahedron” Asymmetry, 15 (2004), 3967-3972参照) (“Georgywood” はGivaudan S.A.の商標である。)として知られている、商業化された香料混合物の臭覚的に最も有力な異性体である。
【0003】
当業者はβ−GWの2つのエナンチオマーが存在することを認識する。その1つである上記の式Iとして示されるエナンチオマーは好ましいエナンチオマー(より強い香りを有する)であるが、両方のエナンチオマーの混合物も有益な特性を有する。疑念を除くために、構造式により表されたすべての分子は、本発明の目的のために、表示された両方のエナンチオマーを両方のエナンチオマーの混合物と同様に包含する。
【0004】
β−GWは、HPO等のブロンステッド酸を用い、シス−1−[1,2−ジメチル−4(4−メチル−ペント−3−エニル)−シクロヘクス−3−エニル]−エタノン(cis-1-[1,2-dimethyl-4(4-methyl-pent-3-enyl)-cyclohex-3-enyl]-ethanone)(式II)
【化2】

(以下Ψ−GWと記す)の環化により調製できることが知られている。かかる方法は米国特許第5,707,961号において開示されている。この方法による問題点は、生成物がβ−GWと、β−GWに転化することのできない、望ましくないiso−ジョージーウッド(以下IGWと記す−式III参照)との混合物となることである。
【化3】

したがって、IGWの形成を回避することによりβ−GWの比率を増大させるのが望ましい。
【0005】
かかる環化反応を最終混合物中のβ−GWの比率を増大さる結果となるように遂行できることが見出された。したがって、本発明は、無溶媒または非錯化溶媒(non-complexing solvent)の存在下においてΨ−GWと1モル当量より多くのルイス酸とを反応させることを含む、Ψ−GWからβ−GWを調製する方法を提供する。
【0006】
本発明の生成物は、β−GW、ジョージーウッド−エノールエーテル(GWEE)(式IV)およびγ−ジョージーウッド(γ−GW−式V)の混合物である。
【化4】

IGWは約1−5重量%の比率で存在し得るが、一般には全く存在しない。この生成物の混合物は、以下に記載するように、β−GWに転化することができるため、非常に有用である。
【0007】
この反応に用いるルイス酸は、MX−タイプのルイス酸(Mは金属であり、Xはハロゲン化物であり、nは3〜5である。)から選択することができる。好ましいルイス酸は特に限定されないが、BBr、BCl、BF、AlBr、AlCl、ZrCl、ZrBr、TiClおよびTiBrを含む。このような酸の組合せを用いることができ;この場合、各ルイス酸のモル当量の合計は1より大きくなければならない。
【0008】
非錯化溶媒の例としては、特に限定されないが、炭化水素、塩素化炭化水素、ニトロアルカン、トルエン、クロロベンゼン、およびシクロヘキサンを含む。もちろんかかる溶媒の2種または3種以上の混合物を用いることができる。
【0009】
当業者は、ルイス酸を取り扱うために知られている当該技術分野の普通の技術を用いてこの反応を行うことができる。この技術は、アルゴンまたは窒素雰囲気中、試薬および基質を冷却下で混合し、各ルイス酸に典型的な温度で、上記のルイス酸の場合は−50℃から0℃の間で反応を行う、無水での条件を含む。
【0010】
このようにして得られたGWEE/γ−GW/β−GW混合物は、第2の酸促進環化工程において純粋なβ−GWに転化することができる。このことは、かかる転化が可能でない米国特許第5,707,961号のβ−GW/IGW混合物に比べて有利である。しかし、Ψ−GWからβ−GWを生成する全体の収率は、45%(蒸留後)を超えない。
【0011】
本発明の好ましい実施態様において、ルイス酸の特定の種類の使用が収率および選択性において大幅な進歩をもたらすことが見出された。したがって、本発明はΨ−GWと少なくとも2モル当量の有機アルミニウム二ハロゲン化物RAlX(ここで、RはC〜C直鎖アルキルであり、XはClまたはBrである。)とを無溶媒または非錯化溶媒の存在下で反応させることを含む、Ψ−GWからβ−GWを調製する方法を提供する。
【0012】
有機アルミニウム二ハロゲン化物は、好ましくはメチルアルミニウムジクロリド(MADC)、エチルアルミニウムジクロリド(EADC)およびメチルアルミニウムセスキクロリド(MASC)からなる群から選ばれる。MADCは好ましいルイス酸であり、任意の簡便な方法により調製することができる。しかし、以下の方法により調製された粗生成物は本発明において有用なMADCの類から明確に排除される:
(i)式RAl、ここでRはC〜Cアルキルであり、Xは臭素およびヨウ素から選択される、で表される物質と、金属アルミニウムならびに金属アルミニウムおよび三塩化アルミニウムの混合物から選択されるアルミニウム含有物質(ただし、Rがメチルで、かつXがヨウ素のとき、アルミニウム含有物質は金属アルミニウムおよび三塩化アルミニウムの混合物である)とを、加熱することにより塩化メチル雰囲気中で反応させ、および
(ii)アルミニウム含有物質が金属アルミニウムのときは、この反応混合物中に三塩化アルミニウムを加え、加熱して粗反応生成物を得る。
この方法はすでに公開された国際出願WO2005/0016938(PCT/CH2004/000505)に開示されている。
【0013】
上記の有機アルミニウム二ハロゲン化物は環化反応を触媒することができ、1モル当量より多くの別のルイス酸をカルボニル基をブロックするために添加する。したがって、本発明はΨ−GWと、塩化アルミニウムおよび触媒量の有機アルミニウム二ハロゲン化物の組合せとの反応を含み、三塩化アルミニウムが最大で1モル当量存在し、塩化アルミニウムおよび有機アルミニウム二ハロゲン化物の合計が1モル当量より多い、Ψ−GWからβ−GWを調製する方法をさらに提供する。
【0014】
本発明のこの特別な実施態様において、国際公開第2005/0016938号に記載されているように、MADC粗生成物の使用が排除されないことは注目すべきである。本発明の別の実施態様において、有機アルミニウム二ハロゲン化物は、AlXの存在下、トリアルキルアルミニウム化合物AlRまたはハロゲン化ジアルキルアルミニウムRAlXからその場で(in situ)調製することもできる(RはC〜Cであり、XはBr,Clである。)。
【0015】
「触媒量」により、0.05〜0.95モル当量の有機アルミニウム二ハロゲン化物を意味する。好ましくは0.9〜0.95モル当量のAlClを0.15〜0.25モル当量のMADCとの組み合わせにおいて用いる。反応は昇温して、好ましくは50℃で、上記の非錯化溶媒、好ましくはトルエンまたはクロロベンゼン中で行う。
【0016】
塩化アルミニウムと触媒量のMADCとによる反応の実施は、MADC単独による化学量論的反応(この試薬を少なくとも2モル当量必要とする)と比較し、比較的高価で有害なMADCの量がはるかに少ないという利点を有する。さらに、操作中にグリーンハウスガスであるメタンの産生がより少なく、アルミニウムの浪費がより少ない。
【0017】
本発明は、望ましいβ−GWがこれまでに得られたものに比べかなり豊富なジョージーウッドの混合物を調製することができる。したがって、本発明はまた、上記の方法により得ることのできる、β−GWを少なくとも70%、好ましくは85から95%含有するジョージーウッドの混合物を提供する。本発明を好ましい実施態様を記載する以下の例を参照しながらさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0018】
例1 AlClによるΨ−GWの環化、それに続くβ−GW;シス−2−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,2,8,8−テトラメチルナフタレンへのβ−、γ−、エノールエーテル−混合物の異性化:
2g(8.5mmol)のΨ−GWを含む10gのトルエンを窒素下で冷却し、−50℃まで撹拌し、ここでBBr(3.2g、13mmol)をシリンジにより滴下して加える。−50℃で7時間後、この温度で2MのHClを加える。25℃に戻し、混合物をt−ブチルメチルエーテルで抽出する。有機相をNaHCOおよび水でpH=7になるまで洗浄し、MgSOで乾燥し、減圧下で濃縮する。90°〜120°/0.05Torrにおけるクーゲルロール蒸留(Bulb-to bulb distillation)により、1.1gのβ−、γ−、エノールエーテル−混合物を得る。該混合物はトルエンに溶解し、p−トルエンスルホン酸(40mg、0.2mmol)により処理する。100℃で4時間後、有機相をNaCOおよび水でpH=7になるまで洗浄し、減圧下で乾燥、濃縮し、1.2gの褐色オイルを得、該褐色オイルを120°/0.05Torrでクーゲルロール蒸留し、0.8g(40%)のβ−GWを、GCおよびNMRに基づいて〜90%の純度で得る。
【0019】
【化5】

【0020】
例2 市販のMADCを用いたΨ−GWからβ−GWへの環化:
100gのトルエンに溶解した20g(85mmol)のΨ−GWを氷冷下、157g(0.21mol)のMADC(ヘキサン中に1M)に加える。混合物を70℃に2〜3時間加熱し、次いで40gのエタノール、さらに2MのHClを用い、氷冷下で急冷する。オレンジ色の相を分離し、水相をt−ブチルメチルエーテルで抽出する。併せた有機相を濃NaCl、次いで水でpH=7になるまで洗浄する。有機相をMgSOで乾燥、ろ過し、減圧下で濃縮する。残渣を短いVigreuxカラムで蒸留し(124℃/0.1Torr)、16g(80%)のβ−GWを無色液体として、GCおよびNMRに基づいて〜90%の純度で得る。生成物の分析データは例1に記載されたデータと一致する。
【0021】
例3 AlClおよび触媒量のMADCを用いたΨ−GWからβ−GWへの環化:
トルエン(50g)に溶解した15g(64mmol)のΨ−GWを氷冷下、窒素下、および撹拌下で、トルエン(15ml)中に8.1gの無水AlCl(61mmol)を含む懸濁液に加える。MADC(16ml、16mmol)を含むヘキサン(1M)を加えた後、赤褐色溶液を55℃で4時間加熱する。例2に記載されたように処理し、クーゲルロール蒸留により10.5g(70%)のβ−GWを無色オイルとして、GCおよびNMRに基づいて88%の純度で得る。生成物の分析データは例1に記載されたデータと一致する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス−1−[1,2−ジメチル−4(4−メチル−ペント−3−エニル)−シクロヘクス−3−エニル]−エタノン(「Ψ−GW」)からシス−2−アセチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ−1,2,8,8−テトラメチルナフタレン(「β−GW」)を調製する方法であって、無溶媒または非錯化溶媒の存在下においてΨ−GWと1モル当量より多くのルイス酸とを反応させることを含む、前記方法。
【請求項2】
Ψ−GWと少なくとも2モル当量の有機アルミニウム二ハロゲン化物RAlX、ここでRは直鎖状C〜Cアルキルであり、XはClまたはBrである、とを無溶媒または非錯化溶媒の存在下において反応させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機アルミニウム二ハロゲン化物が、好ましくはメチルアルミニウムジクロリド(MADC)、エチルアルミニウムジクロリド(EADC)およびメチルアルミニウムセスキクロリド(MASC)からなる群から選ばれ、ただし、以下の方法:
(i)加熱することにより、式RAl、ここでRはC〜Cアルキルであり、Xは臭素およびヨウ素から選択される、で表される物質と、金属アルミニウムならびに金属アルミニウムおよび三塩化アルミニウムの混合物から選択されるアルミニウム含有物質、ただし、Rがメチルで、かつXがヨウ素のとき、アルミニウム含有物質はアルミニウムおよび三塩化アルミニウムの混合物である、とを塩化メチル雰囲気中で反応させ、および
(ii)アルミニウム含有物質が金属アルミニウムのとき、この反応混合物中に三塩化アルミニウムを加え、加熱して粗反応生成物を得る、
により調製される粗生成のMADCを除く、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Ψ−GWと、アルミニウム三ハロゲン化物および触媒量の有機アルミニウム二ハロゲン化物の組合せとを反応させ、アルミニウム三ハロゲン化物が最大で1モル当量存在し、アルミニウム三ハロゲン化物および有機アルミニウム二ハロゲン化物の合計が1モル当量より多い、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
有機アルミニウム二ハロゲン化物をトリアルキルアルミニウム化合物AlRまたはジアルキルアルミニウムハロゲン化物RAlX、ここでRはC〜C直鎖状アルキルであり、およびXは塩素または臭素である、からAlXの存在下でその場で調製する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
反応生成物が化合物I、IVおよびV:
【化1】

の混合物であり、該混合物を酸の存在下でさらに反応させ、少なくとも70%の式Iで表される化合物を有する生成物を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
合計で少なくとも70%の化合物I、IVおよびV:
【化2】

を含有する混合物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により得ることができる、少なくとも70%のβ−GWを含有するジョージーウッド混合物。

【公表番号】特表2008−530147(P2008−530147A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555440(P2007−555440)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際出願番号】PCT/CH2006/000102
【国際公開番号】WO2006/086908
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】