説明

シス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの製造方法

【課題】4−アルキルシクロヘキシルアミンのシス/トランス体混合物からシス体を高純度で単離する方法の提供。
【解決手段】(I)のシス/トランス体混合物と(II)の酸とを晶析溶媒中で混合し、(III)の酸付加塩を形成させ、晶析させる工程を含む製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品の中間体として有用なシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩およびその製造に関する。
【背景技術】
【0002】
シス−4−アルキルシクロヘキシルアミンは医薬品等の有用な中間体であり、従来、その製造方法としては、下記に挙げる種々の方法が知られている。
【0003】
非特許文献1には、4−イソプロピルアニリンから、80〜120℃、100barの加圧下で水素添加による還元によって、4−イソプロピルシクロヘキシルアミンのシス/トランス異性体の混合物を得る方法が開示されている。具体的には、触媒としてRu/Alを用いた場合には、シス/トランス異性体の比が1.1〜1.4:1である混合物が得られ、Ru/Cを用いた場合には、該比が2:1である混合物を得たものの下記に示すビシクロヘキシルアミンの副生成物が約50%含まれていたと報告されている。また、触媒としてRh/Alを用いた場合には、シス/トランス異性体の比が3:1である混合物を得たものの反応が不完全であり、また11%のビシクロヘキシルアミンが含まれたと報告している。さらに、Rh/Cを用いた場合には、該比が4:1である混合物を得たもののビシクロヘキシルアミンが約50%含まれていたことを報告している。しかしながら、反応混合物から高純度のシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンを単離する方法については記載がない。
【0004】
【化1】

【0005】
特許文献1には、その実施例1に、4−ブチルアニリンを氷酢酸溶媒中、酸化白金存在下で水素添加すると、シス/トランス異性体の比が1:1の4−ブチルシクロヘキシルアミンが合成されることを開示している。
【0006】
【化2】

【0007】
非特許文献2には、4−アルキルシクロヘキサノン オキシムを還元してシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンを製造する方法が記載されているが、トランス異性体が混在することが記されている。
【0008】
【化3】

【0009】
R=メチル、化学収率54%;トランス異性体含有率<30%
R=エチル、化学収率62%;トランス異性体含有率=約40%
R=i−プロピル、化学収率57%;トランス異性体含有率<40%
R=s−ブチル、化学収率68%;トランス異性体含有率<15%
R=c−ヘキシル、化学収率40%;トランス異性体含有率<15%
【0010】
特許文献2には、ベンジルアミン等を用いる4−アルキルシクロヘキサノンの還元的アミノ化と加水素分解を行い、高純度のシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンを製造する方法が記載されている。
【0011】
【化4】

【0012】
しかしながら、上述のごとく4−アルキルシクロヘキシルアミンのシス/トランス異性体混合物からシス異性体を高純度かつ高収率で単離する方法は知られていない。さらに、4−アルキルシクロヘキサノン類を出発原料とするシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの製造方法も、各工程が煩雑な操作を必要とすること、または、商業的に入手困難な原料を用いていることから、必ずしも工業的に有利な方法とは言えない。また、シス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの安息香酸類の塩またはベンゼンスルホン酸類の塩および製造方法も知られていない。
【0013】
【特許文献1】米国特許第3,671,642号明細書
【特許文献2】国際公開第99/47487号パンフレット
【非特許文献1】J. Med. Chem., 46, 255 (2003)
【非特許文献2】J. Chem. Soc.(B), 1047 (1971)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、4−アルキルシクロヘキシルアミンのシス異性体およびトランス異性体(本明細書においてシス/トランス異性体ということもある)の混合物からシス異性体を高純度で単離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、シス異性体含有率が50%を超える4−アルキルシクロヘキシルアミン類のシス/トランス異性体混合物に特定の酸を混合し、晶析溶媒中で塩を形成させて、晶析させることにより、高純度のシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩を効率よく、容易に単離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、以下のシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩の製造方法を提供するものである。
【0017】
[項1]下記式(I):
【0018】
【化5】

【0019】
[式中、RはC2−6アルキル基を示す。]
で表される4−アルキルシクロヘキシルアミンのシス異性体およびトランス異性体(シス/トランス異性体)の混合物(ここにおいて、該混合物のシス異性体含有率は50%を超える。)と下記式(II):
【0020】
【化6】

【0021】
[式中、Aは−CO−または−SO−を示し、R、RまたはRは、同一または相異なって、水素原子、C1−6アルキル基またはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物とを晶析溶媒中で混合し、下記式(III):
【0022】
【化7】

【0023】
[式中、A、R、R、RおよびRは上記に同じである。]
で表されるシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩を形成させて、晶析させる工程を含む化合物(III)の製造方法。
【0024】
[項2]RがC3−5アルキル基を示す項1に記載の製造方法。
【0025】
[項3]RがAに対してパラ位の位置に結合する水素原子、メチル基、エチル基または塩素原子を示し、RおよびRがいずれも水素原子を示す項1または2に記載の製造方法。
【0026】
[項4]Aが−SO−を示す項3に記載の製造方法。
【0027】
[項5]式(I)で表されるシス/トランス異性体混合物のシス異性体含有率が55%以上である項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【0028】
[項6]化合物(III)の純度が95%以上である項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【0029】
[項7]化合物(II)を式(I)で表されるシス/トランス異性体混合物に対して0.8〜2.0当量用いる項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【0030】
[項8]晶析溶媒の量が式(I)で表されるシス/トランス異性体混合物1重量部に対して10〜60容量部用いる項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【0031】
[項9]下記式(III):
【0032】
【化8】

【0033】
[式中、Aは−CO−または−SO−を示し、RはC2−6アルキル基を示し、R、RまたはRは、同一または相異なって、水素原子、C1−6アルキル基またはハロゲン原子を示す。]で表されるシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、工業的に有利に高純度のシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明について説明する。なお、本明細書において記載の簡略化のために、次に挙げる略号を用いることもある。Me:メチル、Et:エチル、Pr:プロピル、Bu:ブチル、Pen:ペンチル、t−:tert−、s−:sec−、i−:イソ−、n−:ノルマル、c−:シクロ、THF:テトラヒドロフラン、DME:1,2−ジメトキシエタン、IPA:2−プロパノール、EAC:酢酸エチル、HEP:ヘプタン、TOL:トルエン、ACE:アセトン
【0036】
式(I)で表される4−アルキルシクロヘキシルアミンのシス異性体およびトランス異性体の混合物とは、下記式(I−1):
【0037】
【化9】

【0038】
[式中、Rは項1に記載の定義に同じである。]
で表されるシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンと、下記式(I−2):
【0039】
【化10】

【0040】
[式中、Rは項1に記載の定義に同じである。]
で表されるトランス−4−アルキルシクロヘキシルアミンとの混合物を意味する。
【0041】
本発明における上記混合物は、シス異性体含有率(%)[シス異性体存在比/(シス異性体存在比+トランス異性体存在比)]×100が50%を超える。好ましくは、上記混合物のシス異性体含有率は55%以上、さらに好ましくは、60%以上である。シス異性体含有率が50%以下のものを用いた場合には、本発明の製造方法によって高純度のシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩を得ることができない。
【0042】
本明細書において、「アルキル基」とは、直鎖状または分枝鎖状の飽和炭化水素を意味し、例えば、「C3−5アルキル基」、「C2−6アルキル基」または「C1−6アルキル基」とは炭素原子数が3〜5、2〜6または1〜6のアルキル基をそれぞれ意味する。その具体例として、「C3−5アルキル基」の場合には、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、i−ペンチル基、ネオペンチル基等が、「C2−6アルキル基」の場合には、前記に加えてエチル基、ヘキシル基等が、「C1−6アルキル」の場合には、前記に加えてメチル基が挙げられる。
【0043】
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を意味する。好ましくは、塩素原子である。
【0044】
式(I)のシス/トランス異性体混合物の製造
式(I)のシス/トランス異性体混合物は、下記スキームに示す4−アルキルアニリン(IV)を還元する方法で製造できる。具体的には、化合物(IV)を反応溶液中に特定の量の酸を添加して、水素化触媒存在下でベンゼン環を水素化する方法によって、シス異性体含有率が50%を超える式(I)のシス/トランス異性体混合物が高収率で製造される。具体的には該方法によれば、シス異性体含有率が70〜85%の式(I)のシス/トランス異性体混合物を得ることができる。
【0045】
【化11】

【0046】
[式中、Rは項1に記載の定義に同じである。]
原料となる化合物(IV)は、特許文献2に記載の原料である4−アルキルシクロヘキサノン類に比して、工業的に入手容易でかつ安価である。具体的には、4−エチルアニリン、4−プロピルアニリン、4−イソプロピルアニリン、4−ブチルアニリン、4−イソブチルアニリン、4−s−ブチルアニリン、4−ペンチルアニリン、4−ヘキシルアニリン等が挙げられる。
【0047】
水素化触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属系触媒が例示されるが、反応性や選択性の点から白金系触媒が好ましい。
【0048】
金属系触媒として、具体的には、0価の金属、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物、酸化物、水酸化物等の各種該金属含有有機物、アミン錯体、ホスフィン錯体、カルボニル化合物等の各種該金属含有錯体化合物等が例示されるが、白金の酸化物である酸化白金が好ましい。これらは、それぞれ単独でまたは複数組み合わせて使用することもできる。
【0049】
上記金属系触媒は、そのままで使用することもできるが、担体担持触媒として使用することもできる。担体担持触媒としては、従来公知または市販されているものでもよく、芳香環を水素化できる触媒であれば特に限定されるものではない。担体として具体的には、珪藻土、軽石、活性炭、シリカゲル、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタンおよびこれらの混合物等が例示される。
【0050】
かかる触媒の使用量は触媒の種類によって異なるが、担体を含まない触媒の使用量としては、化合物(IV)1重量部に対して、通常0.005重量部以上であり、その上限は特にないが、あまり多すぎると経済的に不利になりやすいため、実用的には0.1重量部以下、好ましくは0.05重量部以下である。
【0051】
該水素化反応において、化合物(IV)に対して反応溶液に特定の量の酸を添加することによって、シス異性体含有率が高い式(I)のシス/トランス異性体混合物を製造することができる。使用できる酸の具体例としては、酢酸、ギ酸、プロピオン酸等の有機酸や塩酸、硫酸等の鉱酸等が挙げられ、好ましくは酢酸である。酸の添加量は、化合物(IV)に対して、0.5〜3.0当量、好ましくは0.9〜2.2当量である。
【0052】
該水素化反応は、無溶媒でまたは適当な溶媒を用いて行われる。使用される反応溶媒としては、水素化反応に不活性な溶媒であれば特に限定されないが、好ましくはTHF、ジオキサン、DME、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリルまたはメタノール、エタノール、IPA、t−ブタノール等のアルコール類等の有機溶媒や水等が挙げられ、単独あるいは混合溶媒として使用することができる。好ましくは、アルコール類が挙げられ、その溶媒の使用量は化合物(IV)1重量部に対して、通常3容量部以上、好ましくは5容量部以上であり、その上限は特にないが、あまり多すぎると容積効率が悪くなるため、実用的には20容量部以下である。なお、1重量部に対して1容量部とは、1gに対して1mLであることを意味する。
【0053】
反応温度としては、用いられる化合物(IV)や溶媒、触媒、酸の種類等によって異なるが、通常−10〜120℃、好ましくは10〜50℃である。
【0054】
反応圧力としては、反応系の水素分圧で0.1〜1.0MPaの範囲、好ましくは0.1〜0.5MPaの範囲である。
【0055】
反応時間は、触媒量や諸条件によって異なるが、通常0.5〜48時間、好ましくは2〜24時間である。
【0056】
上記方法に加えて、シス異性体含有率が50%を超える式(I)のシス/トランス異性体混合物の製造方法の具体例としては、従来公知の方法、例えば、前述の特許文献2、非特許文献1および非特許文献2の方法が挙げられる。また、得られる異性体混合物中のトランス異性体を異性化してシス異性体を高める方法、または異性体混合物中からトランス異性体を除いてシス異性体を高める方法等も用いることができる。
【0057】
上記方法により得られる水素化反応粗物から、触媒を濾過、遠心分離等の通常の方法により除去し、蒸留等の公知の方法により精製することにより、シス異性体含有率が50%を超える式(I)のシス/トランス異性体混合物を得ることができる。
【0058】
化合物(III)の製造
次に、本発明の化合物(III)の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、適当な晶析溶媒中で式(I)のシス/トランス異性体混合物と化合物(II)とを混合し、化合物(III)の塩を形成させて、晶析させる工程を包含することを特徴とする。
【0059】
晶析溶媒としては、例えばTHF、ジオキサン、DME、酢酸エチル、トルエン、アセトン、ヘプタン、またはメタノール、エタノール、IPA、t−ブタノール等のアルコール類の有機溶媒、あるいは水が挙げられ、単独あるいは混合溶媒として使用することができる。好ましくは、THFまたはIPAが挙げられ、その使用量は式(I)のシス/トランス異性体混合物1重量部に対して、通常10容量部以上、好ましくは20容量部以上であり、その上限は特にないが、あまり多すぎると容積効率が悪くなるため、実用的には60容量部以下である。
【0060】
化合物(III)の製造に用いる下記式(II):
【0061】
【化12】

【0062】
[式中、A、R、RおよびRは、項1に記載の定義に同じ。]で表される化合物の具体例としては、例えばp−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、4−エチルベンゼンスルホン酸、2−メシチレンスルホン酸等のベンゼンスルホン酸類、安息香酸、4−メチル安息香酸、4−クロロ安息香酸、3−クロロ安息香酸等の安息香酸類が挙げられる。好ましくは、RがAに対してパラ位の位置に結合し、水素原子、メチル基、エチル基または塩素原子を示し、RおよびRが水素原子を示す化合物が良い。具体的には、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、4−エチルベンゼンスルホン酸等のベンゼンスルホン酸類、安息香酸、4−メチル安息香酸、4−クロロ安息香酸等の安息香酸類が挙げられる。より好ましくは、Aが−SO−を示すベンゼンスルホン酸類がよい。化合物(II)は、水和物および/または溶媒和物で存在することもあり、これらの水和物および/または溶媒和物を用いてもよい。使用する化合物(II)の量は、式(I)のシス/トランス異性体混合物に対して、0.8〜2.0当量、好ましくは0.9〜1.5当量、特に好ましくは0.9〜1.2当量の範囲である。
【0063】
塩形成・晶析工程は、常圧、減圧または加圧下で実施される。該工程は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行っても良い。塩形成・晶析工程における温度としては、0〜120℃、特に20〜100℃の範囲が好ましく、特に還流下で行うことが好ましい。本発明においては、式(I)のシス/トランス異性体混合物および化合物(II)を晶析溶媒に溶解して均一な溶液にし、化合物(III)の塩を形成させて、晶析させることが好ましい。
【0064】
本発明における塩形成・晶析工程においては、攪拌は必須ではないが、攪拌するほうが好ましく、この工程に要する時間は、諸条件によって異なるが、通常0.5〜24時間であり、好ましくは、1〜12時間である。
【0065】
塩形成および晶析操作としては、上記溶液を濃縮および/または冷却して行うが、析出した結晶を得ることにより、目的物であるシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩を高純度で得ることができる。結晶を得る工程は、特に限定されず従来公知の方法により行うことができる。例えば、これら結晶は、濾過、デカンテーション等の通常の方法で取り出すことができる。該方法によって製造された化合物(III)は、高純度のものである。例えば、シス異性体含有率が80%である式(I)のシス/トランス異性体混合物からは、シス異性体含有率が90%以上、好ましくは、95%以上、さらに好ましくは、97%以上で製造される。
【0066】
さらに、このようにして得られた化合物(III)を再結晶、カラムクロマトグラフィー等の精製を行うことにより、トランス異性体の含有量が極めて少ないシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩を得ることができる。
【0067】
本発明の化合物は、水和物および/または溶媒和物で存在することもあるので、これらの水和物および/または溶媒和物もまた本発明の化合物に包含される。
【実施例】
【0068】
以下に実施例、参考例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、化合物の同定は、H−NMR測定(300MHzまたは400MHz)より行った。また、4−アルキルシクロヘキシルアミン類のシス異性体およびトランス異性体の比率は、シス/トランス異性体混合物中のシス異性体含有率で表し、シス異性体含有率は、NMRスペクトルにおけるシス異性体およびトランス異性体のアミノ基のα位プロトンに由来する積分比によって算出した。なお、シス異性体およびトランス異性体の混合物を合わせた収率は、化学収率として区別し表記した。
【0069】
なお、「シス異性体含有率>99%」と標記する場合、上記H−NMR測定においてトランス異性体は検出限界以下である。
【0070】
参考例1
4−ブチルシクロヘキシルアミンの製造:
4−ブチルアニリン15.0gをエタノール(100mL)に溶解させ、酢酸8.63mL(4−ブチルアニリンに対して1.5当量)および酸化白金0.40gを加え、水素雰囲気下(0.4MPa)、室温で16時間攪拌した。反応混合物をセライトで濾過し、溶媒を減圧留去した。残渣にジエチルエーテル100mLおよび水150mLを加え抽出操作し、有機層を除いた。得られた水層に水酸化ナトリウム16gを加え、ジエチルエーテル200mLで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、目的物13.0g(化学収率83%、シス異性体含有率85%)を得た。
【0071】
参考例2
4−ブチルシクロヘキシルアミンの製造:
4−ブチルアニリン15.0gをエタノール(100mL)に溶解させ、酢酸8.63mL(4−ブチルアニリンに対して1.5当量)および酸化白金1.0gを加え、水素雰囲気下(0.4MPa)、室温で17時間攪拌した。反応混合物をセライトで濾過し、溶媒を減圧留去した。残渣にジエチルエーテル100mLおよび水150mLを加え抽出操作し、有機層を除いた。得られた水層に水酸化ナトリウム17gを加え、ジエチルエーテル200mLで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、目的物14.5g(化学収率92%、シス異性体含有率81%)を得た。
【0072】
参考例3〜5
4−ブチルシクロヘキシルアミンの製造:
参考例2における酢酸の量を4−ブチルアニリンに対して1.0、1.2または2.0当量とする以外は、参考例2と同様に反応・処理し、表1に示すシス異性体含有率の4−ブチルシクロヘキシルアミンを得た。
【0073】
【表1】

【0074】
参考例6
4−ブチルシクロヘキシルアミンの製造:
特許文献1に従い、4−ブチルアニリン7.50gを酢酸75.3mLに溶解し、酸化白金0.4gを加え、水素雰囲気下(0.4MPa)、室温で18時間攪拌した。反応混合物をセライトで濾過した後、溶媒を減圧留去した。残渣にジエチルエーテル50mLおよび水100mLを加え抽出操作し、有機層を除いた。得られた水層に水酸化ナトリウム9gを加え、ジエチルエーテル120mLで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、目的物6.25g(化学収率80%、シス異性体含有率50%)を得た。
【0075】
参考例7〜10
各種4−アルキルシクロヘキシルアミンの製造:
各種4−アルキルアニリンを用いて、参考例2と同様に反応・処理し、表2に示すシス異性体含有率の4−アルキルシクロヘキシルアミンを得た。
【0076】
【表2】

【0077】
実施例1
シス−4−ブチルシクロヘキシルアミン p−トルエンスルホン酸塩の製造:
参考例2で得られた4−ブチルシクロヘキシルアミン1.00g(シス異性体含有率81%)をTHF(35mL)に溶解させ、p−トルエンスルホン酸 1水和物1.22g(4−ブチルシクロヘキシルアミンに対して1.0当量)を加え、加熱還流下で溶解させた後、2時間攪拌しながら放冷した。析出した結晶を濾取し、THFで洗浄後、乾燥して目的物1.48g(化学収率70%、シス異性体含有率>99%)を得た。
【0078】
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.18-1.32 (m, 6H), 1.33-1.78 (m, 9H), 2.29 (s, 3H), 3.10-3.21 (m, 1H), 7.11 (d, 2H), 7.47 (d, 2H), 7.60 (brs, 3H).
【0079】
実施例2〜6
シス−4−ブチルシクロヘキシルアミン p−トルエンスルホン酸塩の製造:
実施例1における4−ブチルシクロヘキシルアミン(シス異性体含有率81%)に代えて、参考例2および参考例6で得られた4−ブチルシクロヘキシルアミンを種々混合し、シス異性体含有率が異なる混合物を用い、4−ブチルシクロヘキシルアミン1重量部に対する表3に示す容量部の晶析溶媒を用いる以外は実施例1と同様に塩形成・晶析することによって、表3に示すシス異性体含有率を有するシス−4−ブチルシクロヘキシルアミン p−トルエンスルホン酸塩を得た。
【0080】
【表3】

【0081】
実施例7〜15
シス−4−ブチルシクロヘキシルアミンの各種酸付加塩の製造:
4−ブチルシクロヘキシルアミン1重量部に対して表4に示す容量部の晶析溶媒を用い、実施例1と同様に塩形成・晶析することによって、表4に示すシス異性体含有率のシス−4−ブチルシクロヘキシルアミンの各種酸付加塩を得た。
【0082】
【表4】

【0083】
実施例7
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.13-1.31 (m, 6H), 1.32-1.78 (m,9H), 1.70-1.93, 3.10-3.20 (m, 1H), 7.35 (d, 2H), 7.59 (d, 2H), 7.64 (brs, 3H).
【0084】
実施例9
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.18-1.31 (m, 6H), 1.32-1.78 (m, 9H), 3.10-3.20 (m, 1H), 7.28-7.36 (m, 3H), 7.57-7.63 (m, 2H), 7.67 (brs, 3H).
【0085】
実施例11
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.86 (t, 3H), 1.16-1.31 (m, 6H), 1.32-1.68 (m, 9H), 2.31 (s, 3H), 3.02-3.12 (m, 1H), 7.11 (d, 2H), 7.75 (d, 2H), 7.90 (brs, 3H).
【0086】
実施例13
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.86 (t, 3H), 1.16-1.31 (m, 6H), 1.32-1.70 (m, 9H), 3.08-3.17 (m, 1H), 7.34 (d, 2H), 7.85 (d, 2H), 8.23 (brs, 3H).
【0087】
実施例15
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.86 (t, 3H), 1.16-1.31 (m, 6H), 1.32-1.71 (m, 9H), 3.09-3.18 (m, 1H), 7.28-7.38 (m, 3H), 7.80-7.91 (m, 2H), 8.20 (brs, 3H).
【0088】
実施例8、10、12および14で得られた化合物のH−NMRデータは、各々実施例7、9、11および13と同様のデータを示した。
【0089】
比較例1
4−ブチルシクロヘキシルアミン p−トルエンスルホン酸塩の製造:
実施例1における4−ブチルシクロヘキシルアミン(シス異性体含有率81%)に代えて、参考例6で得られた4−ブチルシクロヘキシルアミン(シス異性体含有率50%)を用いる以外は実施例1と同様に塩形成・晶析することによって、目的物1.15g(化学収率55%、シス異性体含有率69%)を得た。
【0090】
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.10-1.33 (m, 6H), 1.33-1.68 (m, 5H+4Hx69/100), 1.70-1.93 (m, 4Hx31/100), 2.29 (s, 3H), 2.89 (tt, 1Hx31/100), 3.10-3.20 (m, 1Hx69/100), 7.11 (d, 2H), 7.47 (d, 2H), 7.68 (brs, 3H).
【0091】
比較例2〜9
4−ブチルシクロへキシルアミンの各種酸付加塩の製造:
実施例1におけるp−トルエンスルホン酸 1水和物に代えて、表5に示す各種酸を用い、表5に示す容量部の晶析溶媒を用いる以外は実施例1と同様に塩形成・晶析することによって、表5に示すシス異性体含有率の4−ブチルシクロヘキシルアミンの各種酸付加塩を得た。
【0092】
【表5】

【0093】
比較例2
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.10-1.32 (m, 6H), 1.33-1.68 (m, 5H+4Hx73/100), 1.70-1.96 (m, 4Hx27/100), 2.33 (s, 3H), 2.90 (tt, 1Hx27/100), 3.11-3.20 (m, 1Hx73/100), 7.71 (brs, 3H).
【0094】
比較例3
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.10-1.32 (m, 6H), 1.33-1.68 (m, 5H+4Hx71/100), 1.70-1.96 (m, 4Hx29/100), 2.33 (s, 3H), 2.90 (tt, 1Hx29/100), 3.11-3.20 (m, 1Hx71/100), 7.72 (brs, 3H).
【0095】
比較例4
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.10-1.32 (m, 6H), 1.33-1.69 (m, 5H+4Hx78/100), 1.70-1.97 (m, 4Hx22/100), 2.87 (tt, 1Hx22/100), 3.08-3.17 (m, 1Hx78/100), 8.00 (brs, 3H).
【0096】
比較例5
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.10-1.32 (m, 6H), 1.33-1.69 (m, 5H+4Hx80/100), 1.70-1.97 (m, 4Hx20/100), 2.87 (tt, 1Hx20/100), 3.08-3.17 (m, 1Hx80/100), 7.97 (brs, 3H).
【0097】
比較例6
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.10-1.31 (m, 6H), 1.32-1.69 (m, 5H+4Hx86/100), 1.70-1.92 (m, 4Hx14/100), 2.91 (tt, 1Hx14/100), 3.10-3.20 (m, 1Hx86/100), 7.77 (brs, 3H).
【0098】
比較例7
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.10-1.30 (m, 6H), 1.31-1.70 (m, 5H+4Hx79/100), 1.72-1.90 (m, 4Hx21/100), 2.70 (tt, 1Hx21/100), 2.91-3.01 (m, 1Hx79/100), 4.88 (brs, 3H), 6.31 (s, 1H).
【0099】
比較例8
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.10-1.30 (m, 6H), 1.31-1.70 (m, 5H+4Hx67/100), 1.72-1.90 (m, 4Hx33/100), 2.70 (tt, 1Hx33/100), 2.91-3.01 (m, 1Hx67/100), 4.88 (brs, 3H), 6.31 (s, 1H).
【0100】
比較例9
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.87 (t, 3H), 1.10-1.30 (m, 6H), 1.31-1.61 (m, 5H+4Hx80/100), 1.68-1.87 (m, 4Hx20/100), 2.69 (tt, 1Hx20/100), 2.93-3.03 (m, 1Hx80/100), 5.20 (brs, 3H), 6.01 (s, 1H).
【0101】
実施例16〜23
シス−4−アルキルシクロへキシルアミン p−トルエンスルホン酸塩の製造:
実施例1における4−ブチルシクロヘキシルアミン(シス異性体含有率81%)に代えて、参考例7〜10で得られた各種4−アルキルシクロヘキシルアミンを用い、表6に示す容量部の晶析溶媒を用いる以外は実施例1と同様に塩形成・晶析することによって、表6に示すシス異性体含有率の各種シス−4−アルキルシクロヘキシルアミン p−トルエンスルホン酸塩を得た。
【0102】
【表6】

【0103】
実施例16
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.85 (t, 3H), 1.21-1.42 (m, 5H), 1.43-1.70 (m, 6H), 2.29 (s, 3H), 3.12-3.21 (m, 1H), 7.11 (d, 2H), 7.47 (d, 2H), 7.68 (brs, 3H).
【0104】
実施例18
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.85 (d, 6H), 1.01-1.11 (m, 1H), 1.35-1.62 (m, 5H), 1.63-1.80 (m, 4H), 2.29 (s, 3H), 3.20-3.30 (m, 1H), 7.11 (d, 2H), 7.47 (d, 2H), 7.66 (brs, 3H).
【0105】
実施例20
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.85 (d, 6H), 1.11 (dd, 2H), 1.26-1.50 (m, 2H), 1.51-1.76 (m, 8H), 2.29 (s, 3H), 3.11-3.20 (m, 1H), 7.11 (d, 2H), 7.47 (d, 2H), 7.68 (brs, 3H).
【0106】
実施例22
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6)δ: 0.86 (t, 3H), 1.18-1.31 (m, 8H), 1.32-1.78 (m, 9H), 2.29 (s, 3H), 3.10-3.21 (m, 1H), 7.11 (d, 2H), 7.47 (d, 2H), 7.67 (brs, 3H).
【0107】
実施例17、19、21および23で得られた化合物のH−NMRデータは、各々実施例16、18、19および22と同様のデータを示した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上で説明したように、本発明によれば、医薬品の中間体として有用な式(III)で表される高純度のシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩の工業的な製造方法が提供される。また、これら製造方法により提供される中間体を用いて医薬品の製造を提供することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

[式中、RはC2−6アルキル基を示す。]
で表される4−アルキルシクロヘキシルアミンのシス異性体およびトランス異性体(シス/トランス異性体)の混合物(ここにおいて、該混合物のシス異性体含有率は50%を超える。)と下記式(II):
【化2】

[式中、Aは−CO−または−SO−を示し、R、RまたはRは、同一または相異なって、水素原子、C1−6アルキル基またはハロゲン原子を示す。]
で表される化合物とを晶析溶媒中で混合し、下記式(III):
【化3】

[式中、A、R、R、RおよびRは上記に同じである。]
で表されるシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩を形成させて、晶析させる工程を含む化合物(III)の製造方法。
【請求項2】
がC3−5アルキル基を示す請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
がAに対してパラ位の位置に結合する水素原子、メチル基、エチル基または塩素原子を示し、RおよびRがいずれも水素原子を示す請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
Aが−SO−を示す請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
式(I)で表されるシス/トランス異性体混合物のシス異性体含有率が55%以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
化合物(III)の純度が95%以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
化合物(II)を式(I)で表されるシス/トランス異性体混合物に対して0.8〜2.0当量用いる請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
晶析溶媒を式(I)で表されるシス/トランス異性体混合物1重量部に対して10〜60容量部用いる請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
下記式(III):
【化4】

[式中、Aは−CO−または−SO−を示し、RはC2−6アルキル基を示し、R、RまたはRは、同一または相異なって、水素原子、C1−6アルキル基またはハロゲン原子を示す。]で表されるシス−4−アルキルシクロヘキシルアミンの酸付加塩。

【公開番号】特開2008−260723(P2008−260723A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105254(P2007−105254)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】