説明

シソ科植物の加熱処理方法

【課題】シソ科植物から得られるロスマリン酸を大幅に増量させることができる加熱処理方法を提供。
【解決手段】シソ科植物の加熱処理方法は、ロスマリン酸を含有するシソ科植物を80℃〜180℃の加熱温度で蒸気又は通風による加熱乾燥により1分〜20分加熱処理することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量の増加率を120%以上とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シソ科植物から得られるロスマリン酸を増量させるためのシソ科植物の加熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康に関する関心の高まりから、生活習慣病など種々の疾病に対する予防効果が期待される商品に対する需要が高まっている。こうした予防効果が期待される食材の1つとして、シソ科植物が知られている。シソ科植物は、従来より蘇葉、紫蘇葉として薬用に用いられてきており、抗菌性、抗酸化力、抗アレルギー作用といった効能を有することが知られている。
【0003】
シソ科植物のこうした効能は、主として葉に含まれるロスマリン酸の作用によるものであると考えられている。ロスマリン酸は、抗アレルギー作用及び抗酸化作用、抗菌作用等の機能性を持つことが知られている。そのため、化粧品分野では、例えば、美白剤及び紫外線防止剤等の有効成分として期待されており、医薬品分野では、例えば、抗炎症作用、抗血栓閉塞作用、抗増殖作用、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)阻害作用等の薬理作用を発揮する有効成分として期待されている物質である。
【0004】
シソ科植物においてロスマリン酸の含有量を増加させる方法としては、特許文献1にはシソ科植物の種子を特定期間に発芽させる方法が記載されており、特許文献2にはシソ科植物の栽培過程で青色単色光を照射する方法が記載されている。また、シソ科植物からロスマリン酸を効率的に抽出する方法としては、特許文献3には、シソを細断後直ちに−19℃〜5℃の温度において含水エタノールなどのアルコール性溶媒で8〜120時間抽出し、抽出液から溶媒を除去する製造方法が記載されており、特許文献4には、シソ科植物を酸性条件下で有機溶剤、水又はその混液にて抽出する方法が記載されている。また、特許文献5には、植物茎葉を減圧下でマイクロ波照射して乾燥させ、得られた乾燥物を粉砕して乾燥粉末を得る製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−316665号公報
【特許文献2】特開2007−68512号公報
【特許文献3】特開2004−97108号公報
【特許文献4】再表2002−062365号公報
【特許文献5】特開2010−273650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ロスマリン酸を大量に抽出する手段として発芽直後のシソ科植物を利用するため、原料としてシソ科植物の種子を大量に必要とし、さらに発芽直後のものに限定されるといった課題がある。また、特許文献2では、ロスマリン酸の含量を増加するために特別な設備が必要となり、ロスマリン酸の含量を向上するために収穫時期の3日から14日前に実施しなければならず、ロスマリン酸の含量が増加した個体を得るまで時間を要するといった課題がある。
【0007】
特許文献3及び4では、ロスマリン酸を抽出する方法が記載されているものの、得られるロスマリン酸を増量する点については特に言及されていない。
【0008】
特許文献5では、減圧下でマイクロ波照射し乾燥することで、得られるロスマリン酸の量の低下を抑制することが記載されているが、ロスマリン酸を増量させる方法については言及されていない。
【0009】
そこで、本発明は、シソ科植物から得られるロスマリン酸を大幅に増量させることができる加熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るシソ科植物の加熱処理方法は、ロスマリン酸を含有するシソ科植物を80℃〜180℃の加熱温度で蒸気又は通風による加熱乾燥により1分〜20分加熱処理することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上となる。
【0011】
本発明に係る別のシソ科植物の加熱処理方法は、ロスマリン酸を含有するシソ科植物を80℃以上の加熱温度で蒸気又は加熱乾燥により、下記の式で求められる基準時間以上の処理時間で加熱処理することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上となる。
基準時間(分)=100/(加熱温度(℃)−70)
【0012】
本発明に係るさらに別のシソ科植物の加熱処理方法は、ロスマリン酸を含有するシソ科植物を80℃〜300℃の加熱温度で焙煎による加熱乾燥により0.5分〜30分加熱処理することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上となる。
【0013】
本発明に係るさらに別のシソ科植物の加熱処理方法は、ロスマリン酸を含有するシソ科植物に電力500W以上のマイクロ波を照射して0.5分〜10分加熱処理することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上となる。
【0014】
本発明に係るさらに別のシソ科植物の加熱処理方法は、ロスマリン酸を含有するシソ科植物を沸騰水中に浸漬して10秒〜120秒加熱処理することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記のような構成を有することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸を大幅に増量させることができる。すなわち、本発明に係る加熱処理方法によれば、シソ科植物の栽培工程中で特別な手段を必要とせず、収穫後のシソ科植物を利用して得られるロスマリン酸を増量することができる実用性の高い方法である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】加熱処理によるロスマリン酸の増加率の時間的推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。本発明で用いられるシソ科植物は、シソ科に分類されるものであれば特に制限されることなく、例えば、アカシソ、アオシソ、カタメンシソ、チリメンシソ、ローズマリー、エゴマ、ペパーミント、ブラックペパーミント、オレンジミント、ラベンダー、セージ、スィートバジル、レモンバーム、スペアミント等が挙げられる。好ましくは、アカシソ、アオシソ、カタメンシソ、チリメンシソ、エゴマ、ペパーミントが好適である。
【0018】
シソ科植物は、処理の前に予め水洗いをして、砂等の汚れを取った生鮮物又は乾燥物を使用する。また、洗浄した後凍結保存したものを用いるようにすることもできる。
【0019】
シソ科植物の加熱方法には特に制限がないが、蒸気中で加熱する方法、通風による加熱乾燥により加熱する方法、焙煎による加熱乾燥により加熱する方法、マイクロ波を照射して加熱する方法、沸騰水中で加熱する方法等が挙げられる。加熱処理中の有効成分の流出を防止する点で、蒸気による加熱方法、マイクロ波照射による加熱方法が望ましい。加熱しすぎると、シソ科植物独特の色や香りが低下することから、処理物の用途に応じて加熱時間を設定する。
【0020】
加熱温度は80℃以上に設定することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸を増量させることができる。加熱温度を80℃以上に上昇させるまでに時間がかかると、得られるロスマリン酸が減少するので、できるだけ短時間で加熱温度を上昇させることが好適である。蒸し器を用いて蒸気加熱処理を行う場合には、蒸し器を予め十分加熱した状態に設定した後に蒸し器にシソ科植物を投入して加熱処理すれば、短時間で目標となる加熱温度に上昇させて加熱処理を行うことができる。なお、蒸し器の他に圧力鍋等の加熱容器を使用して加熱処理を行うようにしてもよい。
【0021】
蒸気を用いた加熱処理の場合、加熱時間は、80℃〜180℃の加熱温度で1分〜20分、好ましくは90℃〜135℃の加熱温度で2分〜10分がよい。このように加熱処理することで、得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上とすることができる。例えば、シソ科植物の重量100gに対し、蒸し器を用いて蒸気で蒸気圧を47kPa〜1000kPaに設定して3分〜5分間加熱することが望ましい。この場合、加熱温度(蒸気温度)は、蒸気圧によって変化するため、蒸気圧を調整することで80℃〜180℃に設定することができる。加熱温度が180℃を超えるか加熱時間が20分を超えると、シソ科植物独自の香りや色が低下するため好ましくない。また、シソ科植物が加熱により柔らかくなることで、後の乾燥工程や加工工程等での作業性が悪くなるといった点も考慮して加熱温度及び加熱時間を設定することが望ましい。
【0022】
通風による加熱乾燥により加熱処理する場合、加熱時間は、80℃〜180℃の加熱温度で1分〜20分、好ましくは、90℃〜135℃の加熱温度で2分〜10分がよい。このように加熱処理することで、得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上とすることができる。加熱温度が180℃を超えるか加熱時間が20分を超えると、シソ科植物独自の香りや色が低下するため好ましくない。また、シソ科植物が加熱により柔らかくなることで、後の乾燥工程や加工工程等での作業性が悪くなるといった点も考慮して加熱温度及び加熱時間を設定することが望ましい。
【0023】
焙煎による加熱乾燥により加熱処理する場合、加熱時間は、加熱温度80℃〜300℃で0.5分〜30分、好ましくは、加熱温度90℃〜250℃で0.5分〜20分がよい。このように加熱処理することで、得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上とすることができる。加熱温度が300℃を超えると、シソ独自の香りが低下する。また、加熱時間が1分より短いと、得られるロスマリン酸の量が減少する。
【0024】
マイクロ波を照射して加熱処理する場合、加熱するシソ科植物の量にもよるが、加熱時間は、電力500W以上で0.5分〜10分が好ましい。このように加熱処理することで、得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上とすることができる。例えば、シソ科植物の重量100gに対し、500Wで電子レンジ用の蒸し器を用い2分〜5分間加熱することが望ましい。加熱時間が0.5分よりも短い場合には、得られるロスマリン酸の量が少なくなる。加熱時間が10分を超えると、シソ科植物独自の香りの低下や一部が乾燥するといった問題が生じる。
【0025】
沸騰水中に浸漬して加熱処理する場合、沸騰水中にシソ科植物を浸漬して10秒〜120秒の加熱時間で加熱処理することが望ましい。このように加熱処理することで、得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上とすることができる。加熱時間が10秒よりも短いと、得られるロスマリン酸の量が十分でなく、加熱時間が120秒を超えると、有効成分の流出が生じ、シソ科植物が加熱により柔らかくなって以後の乾燥工程や加工工程等での作業性が悪くなるといった不具合が生じる。
【0026】
一般に、加熱温度が低い場合には加熱時間を長く設定した方がより多くのロスマリン酸を得ることができ、加熱温度が高い場合には加熱時間が短くてもより多くのロスマリン酸を得ることができる。加熱温度80℃の場合には、加熱時間を15分以上に設定することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上とすることができ、ロスマリン酸含量を大幅に増加させることが可能となる。
【0027】
後述する実験結果から考察すれば、蒸気又は加熱乾燥による加熱処理の場合、加熱時間を以下の式で求められる基準時間以上の処理時間に設定すれば、得られるロスマリン酸の量を最大化することができる。
基準時間(分)=100/(加熱温度(℃)−70)
【0028】
加熱処理により得られた処理物は、乾燥やペースト、冷凍、抽出等の加工処理を施すことができ、用途によっては乾燥物の粉末又は抽出物の濃縮物を製造することもできる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例に関する説明に先立ち、ロスマリン酸の同定法、実施例で用いる水分含量測定法及びロスマリン酸の定量条件について記述する。
【0030】
[ロスマリン酸の同定方法]
ロスマリン酸の同定は、LC−MS(高速液体クロマトグラフ質量分析計)を用いて行った。具体的には、LC装置にWaters2695を使用し、MS検出器にWaters MicroMass Quattro micro APIを使用した。試料から80%含水エタノールを用いて抽出後、0.45μmフィルターを用いて不溶成分を除去した後、分析に供した。分析カラムとしてカプセルパックC18 ACR (4.0mmID×150mm、株式会社資生堂製)を用い、流速0.8ミリリットル/分で行った。溶離液はA液(10%アセトニトリル、0.3%ギ酸含有蒸留水)とB液(60%アセトニトリル、0.3%ギ酸含有蒸留水)の2液を用いたグラジエントの系で行った。グラジエント条件は、B液濃度を20分間で0%から60%まで直線グラジエントで行った。イオン化は、エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionization:ESI)法、ポジティブイオンモードで行った。標品として、ロスマリン酸(Carbosynth Limited社製)を用いた。試料の溶出時間と得られたマススペクトルがロスマリン酸の標品と一致したことから、試料中の成分をロスマリン酸と同定した。
【0031】
[水分含量測定法]
乾燥試料の水分含量は、105℃ 3時間の常圧加熱乾燥法によりそれぞれ測定した。
【0032】
[ロスマリン酸の定量条件]
ロスマリン酸含量は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)による定量分析を行った。具体的には、80%含水エタノールを用いて試料からロスマリン酸を抽出後、0.45μmフィルターを用いて不溶成分を除去したのち、分析に供した。分析カラムとしてカプセルパックC18 ACR (4.0mmID×150mm、株式会社資生堂製)を用い、流速0.8ミリリットル/分、UV検出器の検出波長は280nmで行った。溶離液はA液(10%アセトニトリル、0.3%ギ酸含有蒸留水)とB液(60%アセトニトリル、0.3%ギ酸含有蒸留水)の2液を用いたグラジエントの系で行った。グラジエント条件は、B液濃度を20分間で0%から60%まで直線グラジエントで行った。標品として、ロスマリン酸(Carbosynth limited社製)を用いた。
【0033】
[実施例1]
赤シソ葉6gを水洗いした後、50ミリリットルの容量のチューブに入れた。予め所定の加熱温度に調整した水浴中で加熱した湯10ミリリットルを、シソの葉6gの入ったチューブに加え、加熱時間を1分、2分、3分、5分、7分、10分、15分に設定した。加熱温度は、80℃、90℃、100℃に調整した。また、高圧蒸気滅菌機(株式会社トミー精工製)を用いて、水洗いしたシソの葉6gを121℃の加熱温度に調整し、上述した加熱時間に設定して加熱処理した。また、フライパンに水洗いしたシソの葉6gを投入してガスレンジにより加熱し、赤外線放射温度計で測定して加熱温度を250℃に調整し、上述した加熱時間に設定して加熱処理した。
【0034】
加熱処理後、−18℃で冷凍した状態で一晩置き、凍結乾燥機(Martin Christ社製)を使用して処理物の凍結乾燥を行った。凍結乾燥した乾燥物の水分量の測定を行い、80%エタノール水溶液で抽出処理してロスマリン酸の定量を行って乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出した。
【0035】
比較のため、加熱処理を行っていない生の赤シソ葉6gについても同様の凍結乾燥を行い、同様に水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行って乾燥物の単位重量当たりのロスマリン酸含量を算出し、生のシソの葉に対する処理物のロスマリン酸含量の増加率を算出した。図1は、縦軸及び横軸にそれぞれ増加率及び加熱時間をとり、各加熱温度における増加率の時間的推移を示すグラフである。
【0036】
図1に示すように、加熱温度が80℃以上では加熱時間が長くなるにしたがい増加率が上昇するが、加熱時間が所定時間を超えると増加率の上昇が収まるようになるのがわかる。したがって、シソ科植物から得られるロスマリン酸の量を最大化するためには、加熱温度に関連して加熱時間が重要となる。
【0037】
図1では、加熱温度80℃で加熱時間が15分を経過すると増加率が120%を超えており、得られたロスマリン酸含量が大幅に増加していることがわかる。また、加熱温度90℃で加熱時間が約10分を経過すると増加率の上昇がほぼ収まり、同様に加熱温度100℃では加熱時間が約5分、加熱温度125℃では加熱時間約3分、加熱温度250℃では加熱時間が約0.75分でそれぞれ増加率の上昇が収まるようになっている。こうした測定データに基づいて加熱温度と加熱時間との間の関係式として以下の式(1)が導かれる。
加熱時間(分)=100/(加熱温度(℃)−70)・・・(1)
したがって、蒸気又は焙煎による加熱処理の場合、上記式(1)で求められた加熱時間を基準時間として、基準時間以上の加熱時間を設定すれば、シソ科植物からより多くのロスマリン酸を確実に得ることができる。
【0038】
[実施例2]
チリメンシソの葉200gを水洗し、十分に蒸気を発生させた状態の蒸し器(加熱温度100℃)により5分間蒸気による加熱処理を行った。加熱処理後、処理物を凍結乾燥して実施例1と同様に水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出した。算出されたロスマリン酸含量は36.0mg/gであった。比較のため、同じチリメンシソの葉200gを用いて、加熱処理せずに凍結乾燥して実施例1と同様に水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出したところ、9.7mg/gであった。したがって、増加率は約371%となり、得られるロスマリン酸を大幅に増量することができた。
【0039】
[実施例3]
ローズマリーの花10gを水洗し、十分に蒸気を発生させた状態の蒸し器(加熱温度100℃)により3分間蒸気による加熱処理を行った。加熱処理後、処理物を凍結乾燥して実施例1と同様に水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出した。算出されたロスマリン酸含量は34.8mg/gであった。比較のため、同じローズマリーの花10gを用いて、加熱処理せずに凍結乾燥して実施例1と同様に水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出したところ、14.3mg/gであった。したがって、増加率は約243%となり、得られるロスマリン酸を大幅に増量することができた。
【0040】
[実施例4]
ブラックペッパーミントの葉3gを水洗し、十分に蒸気を発生させた状態の蒸し器(加熱温度100℃)により3分間蒸気による加熱処理を行った。加熱処理後、処理物を凍結乾燥して実施例1と同様に水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出した。算出されたロスマリン酸含量は、28.8mg/gであった。比較のため、同じブラックペパーミントの葉3gを用いて、加熱処理せずに凍結乾燥して実施例1と同様に水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出したところ、19.0mg/gであった。したがって、増加率は約152%となり、得られるロスマリン酸を大幅に増量することができた。
【0041】
[実施例5]
エゴマの葉10gを水洗し、十分に蒸気を発生させた状態の蒸し器(加熱温度100℃)により7分間蒸気による加熱処理を行った。加熱処理後、処理物を凍結乾燥して実施例1と同様に水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出した。算出されたロスマリン酸含量は、42.7mg/gであった。比較のため、同じエゴマの葉10gを用いて、加熱処理せずに凍結乾燥して実施例1と同様に水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出したところ、28.0mg/gであった。したがって、増加率は約153%となり、得られるロスマリン酸を大幅に増量することができた。
【0042】
[実施例6]
チリメンシソの葉400gを水洗いし、十分に蒸気を発生させた状態の蒸し器(加熱温度100℃)により10分間蒸気による加熱処理を行った。加熱処理後、処理物を通風乾燥器により40℃で十分に乾燥させた。乾燥処理後、乾燥物をミル(粉砕機)により粉末化し、乾燥粉末中の水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出した。算出されたロスマリン酸含量は、17.8mg/gであった。比較のため、同じチリメンシソの葉400gをそのまま通風乾燥器により40℃で十分に乾燥させ、乾燥物をミル(粉砕機)により粉末化して得られた乾燥粉末中の水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出したところ、5.1mg/gであった。したがって、乾燥粉末の調製の場合でも増加率は約349%となり、得られるロスマリン酸を大幅に増量することができた。
【0043】
なお、実施例6では、加熱処理後に乾燥処理を行うため、そのまま乾燥処理を行う場合に比べて乾燥時間を大幅に短縮することができ、処理効率を向上させることが可能となる。
【0044】
[実施例7]
チリメンシソの葉100gを水洗した後、十分に蒸気を発生させた状態の蒸し器(加熱温度100℃)により3分間蒸気による加熱処理を行った。加熱処理後、凍結乾燥機により−30℃で予備凍結を行い凍結乾燥処理を行った。凍結乾燥処理後、ミル(粉砕機)により粉末化した乾燥粉末に対してエタノールによる抽出処理を行った。抽出処理では、水(濃度0%のエタノール溶液)、濃度50%及び80%の3つの異なる濃度のエタノール溶液を準備し、エタノール溶液25ミリリットルに乾燥粉末0.1gを投入して抽出処理を行った。得られた抽出液中のロスマリン酸の定量を行ったところ、水(濃度0%)では4.5mg/g、濃度50%では37.4mg/g、濃度80%では37.4mg/gであった。比較のため、同じチリメンシソの葉100gをそのまま同様に凍結乾燥処理して粉末化し、同様の抽出処理を行ったところ、水(濃度0%)では検出限界以下、濃度50%では1.4mg/g、濃度80%では13.1mg/gであった。したがって、抽出液を調製した場合においてもロスマリン酸含量を大幅に増量することができた。さらに、濃度50%程度の濃度で抽出処理を行えば、ロスマリン酸含量を最大化することが可能で、高濃度のエタノール溶液を使用しなくてもロスマリン酸含量の大きい抽出液を調製することができる。
【0045】
[実施例8]
赤シソの葉20gを水洗した後、電子レンジにより電力500Wでマイクロ波照射による加熱処理を行った。加熱時間は0.5分、1分、2分、3分、5分、10分に設定して処理した。加熱処理後、処理物を凍結乾燥して実施例1と同様に水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出した。算出されたロスマリン酸含量は、0.5分で2.3mg/g、1分で5.2mg/g、2分で5.9mg/g、3分で6.3mg/g、5分で5.1mg/g、10分で5.1mg/gであった。比較のため、同じ赤シソの葉20gについて同様にロスマリン酸含量を算出したところ、1.5mg/gであった。したがって、0.5分以上の加熱時間で増加率が153%以上となり、得られるロスマリン酸含量が大幅に増加することがわかった。また、3分の加熱時間で最大420%の増加率となり、得られるロスマリン酸含量を最大化する加熱時間が設定可能であると考えられる。
【0046】
[実施例9]
赤シソの葉20gを水洗いした後、沸騰水中に赤シソ葉を浸し加熱処理を行った。加熱処理後、処理物の水を切って凍結乾燥を行った。得られた乾燥物の水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出した。算出されたロスマリン酸含量は、10秒で6.2mg/g、20秒で6.1mg/g、30秒で9.1mg/g、40秒で5.6mg/g、60秒で5.3mg/gであった。比較のため、同じ赤シソの葉20gについて同様にロスマリン酸含量を算出したところ、1.5mg/gであった。したがって、10秒以上の加熱時間で増加率が353%以上となり、得られるロスマリン酸含量が大幅に増加することがわかった。また、30秒の加熱時間で最大607%の増加率となり、得られるロスマリン酸含量を最大化する加熱時間が設定可能であると考えられる。
【0047】
[実施例10]
予めチリメンシソの葉を凍結乾燥した乾燥物をミル(粉砕機)により粉砕し、得られた乾燥粉末0.1gに水1ミリリットルを加えて容器内に密閉し、容器を沸騰水浴中で5分間加熱処理した。加熱処理後処理物を凍結乾燥し、乾燥物の水分量の測定及びロスマリン酸の定量を行い、乾物重量当りのロスマリン酸含量を算出した。算出されたロスマリン酸含量は、4.2mg/gであった。比較のため、加熱処理していない乾燥粉末について同様にロスマリン酸含量を算出したところ、0.6mg/gであった。したがって、シソ科植物の乾燥物についても加熱処理することで、得られるロスマリン酸が大幅に増加することがわかった。
【0048】
[実施例11]
実施例2と同様にチリメンシソの葉を加熱処理した処理物25gを清酒500ミリリットルに1か月間浸漬した後、浸漬液をろ紙によりろ過して固形物を取り除きシソリキュールを調製した。得られたシソリキュール中のロスマリン酸含量を測定したところ、84.6mg/リットルであった。比較のため、実施例2で用いられたものと同様のチリメンシソの葉をそのまま清酒500ミリリットルに浸漬したシソリキュールを調製し、ロスマリン酸含量を測定したところ、5.2mg/リットルであった。したがって、シソ科植物を加熱処理することで、シソ科植物を原料とする飲料中に含まれるロスマリン酸含量を大幅に増加させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量を加熱処理により大幅に増加させることができるため、ロスマリン酸が豊富に含まれる素材を食品、化粧品、医薬品といった広汎な分野に提供することが可能となる。そのため、従来の製品にはない高機能の製品開発に貢献することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロスマリン酸を含有するシソ科植物を80℃〜180℃の加熱温度で蒸気又は通風による加熱乾燥により1分〜20分加熱処理することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上となるシソ科植物の加熱処理方法。
【請求項2】
ロスマリン酸を含有するシソ科植物を80℃以上の加熱温度で蒸気又は加熱乾燥により、下記の式で求められる基準時間以上の処理時間で加熱処理することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上となるシソ科植物の加熱処理方法。
基準時間(分)=100/(加熱温度(℃)−70)
【請求項3】
ロスマリン酸を含有するシソ科植物を80℃〜300℃の加熱温度で焙煎による加熱乾燥により0.5分〜30分加熱処理することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上となるシソ科植物の加熱処理方法。
【請求項4】
ロスマリン酸を含有するシソ科植物に電力500W以上のマイクロ波を照射して0.5分〜10分加熱処理することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上となるシソ科植物の加熱処理方法。
【請求項5】
ロスマリン酸を含有するシソ科植物を沸騰水中に浸漬して10秒〜120秒加熱処理することで、シソ科植物から得られるロスマリン酸含量が加熱処理しない場合と比べた増加率で120%以上となるシソ科植物の加熱処理方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−51908(P2013−51908A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191584(P2011−191584)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【Fターム(参考)】