説明

シデロフォアの製造方法

【課 題】アスペルギルス属糸状菌を用いてシデロフォアを効率よく生産することができる方法を提供する。
【解決手段】
(1)アスペルギルス属糸状菌を、酸素容量移動速度を8mmol・l-1・h-1以上とした培養液中で培養する培養工程と、培養物からシデロフォアを回収する回収工程とを含むシデロフォアの製造方法。(2)アスペルギルス属糸状菌を、無機窒素源がアンモニウム塩である培養液中で培養する培養工程と、培養物からシデロフォアを回収する回収工程とを含むシデロフォアの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、鉄補給用の医薬品や健康食品などに有用なシデロフォアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の中でも真菌(かび)の一種であるアスペルギルス属糸状菌は、伝統的に食品等の発酵に利用されてきた。アスペルギルス属糸状菌はヒトにとって有用な様々な物質を生産する。
【0003】
アスペルギルス属糸状菌が生産する有用物質の一種にシデロフォアがある。シデロフォアは鉄キレート物質であり、その中にはフェリクロームが含まれる。フェリクロームは鉄をキレートする為、鉄補給用の医薬品や健康食品などに利用が可能である(特許文献1参照)。しかし、シデロフォアは二次代謝産物であることから大量生産はきわめて困難であり、シデロフォアの大量生産方法は技術的に確立されていない。
【特許文献1】特開2005−225874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、アスペルギルス属糸状菌を用いてシデロフォアを効率よく生産することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、アスペルギルス属糸状菌を培養する際に、培養液への通気量や攪拌速度などを調整して、酸素容量移動速度を8mmol・l-1・h-1以上にすることにより、培養物中にシデロフォアが効率よく生産されることを見出した。また、培養液中の無機窒素源をアンモニウム塩にすることによっても、培養物中にシデロフォアが効率よく生産されることを見出した。
【0006】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下のシデロフォアの製造方法を提供する。
項1. アスペルギルス属糸状菌を、酸素容量移動速度を8mmol・l-1・h-1以上とした培養液中で培養する培養工程と、培養物からシデロフォアを回収する回収工程とを含むシデロフォアの製造方法。
項2. 培養液中の無機窒素源がアンモニウム塩である項1に記載の方法。
項3. アスペルギルス属糸状菌を、無機窒素源がアンモニウム塩である培養液中で培養する培養工程と、培養物からシデロフォアを回収する回収工程とを含むシデロフォアの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシデロフォアの製造方法によれば、アスペルギルス属糸状菌を用いて効率よく、シデロフォアを生産することができる。
詳述すれば、本発明の第1の方法では、酸素容量移動速度を8mmol・l-1・h-1以上にすることにより、培養物中にシデロフォアが効率よく生産される。酸素容量移動速度は、培養液中への通気量、撹拌速度、攪拌翼の直径や形状、容器の形、または吹き込む気体の酸素濃度、容器内の圧力などの条件を適宜設定することにより調整することができる。また本発明の第2の方法では、培養液中の無機窒素源をアンモニウム塩にすることにより、培養物中にシデロフォアが効率よく生産される。
【0008】
本発明方法により得られるシデロフォアは鉄をキレートするため、鉄補給用の医薬品や健康食品などに利用が可能である。本発明方法により得られるシデロフォアは古くから食品分野で利用されてきたアスペルギルス属糸状菌によって生産される為、その安全性は高く、さらに、長期間継続的に服用することによる副作用の心配もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)第1の方法
本発明の第1のシデロフォアの製造方法は、アスペルギルス属糸状菌を、酸素容量移動速度を8mmol・l-1・h-1以上とした培養液中で培養する培養工程と、培養物からシデロフォアを回収する回収工程とを含む方法である。
【0010】
アスペルギルス属糸状菌
アスペルギルス属糸状菌とは真菌(かび)の一種で、昔から日本酒、味噌、醤油などの発酵食品等に使用されている。本発明方法で使用するアスペルギルス属糸状菌はシデロフォアを生産する菌種であれば特に限定されないが、例えばアスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・ウサミ、アスペルギルス・グラウカスなどが挙げられる。中でも、医薬品や健康食品の有効成分として有用なデフェリフェリクリシン(以下「Dfcy」という)を生産する点で、アスペルギルス・オリゼが好ましく、アスペルギルス・オリゼのDfcy高生産変異株3129−7株(FERM P−20961)がより好ましい。
【0011】
前培養工程
本発明の第1の製造方法においては、アスペルギルス属糸状菌を本培養する前に、前培養を行ってもよく、行わなくてもよい。前培養を行うことにより、菌の増殖に要する培養時間を短縮することができ、本培養工程において効率良くシデロフォアを生成することができる。また、本培養工程の初発菌数を増やし、雑菌によるコンタミネーションを防止することができる。
前培養工程で使用する培地は真菌類の培養に通常用いられる培地を制限なく使用できる。このような培地としてはツァペックドックス培地や麦芽エキス(MA)培地などが挙げられる。本培養に使用する培養液で前培養液を例えば5〜20倍程度に希釈することにより、本培養を開始すればよい。なお、前培養は、固体培地を用いて行ってもよい。
【0012】
本培養工程
本培養工程に使用する液体培地の種類は特に限定されず、アスペルギルス属糸状菌の培養に使用される公知の培地を制限なく使用できる。炭素源としては、デンプン、デキストリンのような高分子化合物;グルコース、スクロース、フラクトース、マンニトール、ソルビトール、ガラクトース、マルトース、エリスリトール、ラクトース、キシロース、イノシット、トレハロースのような単糖又はオリゴ糖;グリセロールのような低分子化合物などを用いることができる。また、窒素源としては、硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニウム塩などの無機化合物の他、アミノ酸、酒粕のプロテアーゼ分解物のような有機化合物を用いることができる。酒粕は米の糖質が発酵中に分解されて大部分が除かれており、タンパク質を高濃度で含むため、酒粕プロテアーゼ分解物は効率良い窒素源となる。また、培地には、P、K、S、Mg、Zn、Cuのようなミネラルや、ビオチン、チアミンなどのビタミン類などが含まれていてよい。培地中の鉄濃度は、約2ppm以下とすることが好ましい。液体培地としては、代表的には、鉄濃度を約2ppm以下にした、鉄制限ツァペックドックス液体培地や鉄制限麦芽エキス(MA)培地などの培地を用いることができる。培養液のpHは約3〜8とすればよい。
【0013】
本培養時には、酸素容量移動速度(NA/V)を8mmol・l-1・h-1以上とした培養液中で培養する。酸素容量移動速度は、10mmol・l-1・h-1以上とすることが好ましく、20mmol・l-1・h-1以上とすることがより好ましい。これによりシデロフォアの生産量が格段に高くなる。酸素容量移動速度の上限値は特に限定されないが、通常80mmol・l-1・h-1程度である。
酸素容量移動速度(NA/V)は液体体積(V)あたりの酸素の移動速度(NA)であり、酸素移動容量係数(KLa)と濃度勾配(Δc)との積で表され次式の関係で示される値である。
酸素容量移動速度(NA/V)=(KLa)×(Δc)
酸素容量移動速度が大きいほど微生物の酸素要求量を連続的に充足しうる供給速度を有していることを示す。
酸素容量移動速度(NA/V)は、培養液への通気量(F)、液体体積(V)、培養槽からの排気中の酸素濃度(Cout)、培養液に通気する気体中の酸素濃度(Cin)を測定し、次式に従って算出することができる
NA/V=(F/V)( Cin−Cout)
排気及び通気中の酸素濃度は排ガス分析装置(堀場製作所製、VA−3000)を用いて測定した値である。
酸素容量移動速度を高めるためには、酸素の移動容量係数(KLa)、酸素の濃度勾配(Δc)のいずれか、あるいは両方を高めることが必要となる。KLは酸素の液境膜移動係数であり、またaは単位容積当たりの気体−液体間の接触面積である。従って、通常の液体培養においてKLは大きく変化せず、aの大小によってKLaは変化する。つまり酸素移動容量係数(KLa)は、培養液中への通気量、撹拌速度、攪拌翼の直径、または容器の形などにより変化する値である。また、酸素の濃度勾配(Δc)は通気する気体中の酸素濃度、容器内の圧力などにより変化する値である。
例えば、5Lの通気攪拌型培養槽に3Lの液体培地を入れて培養を行う場合に酸素容量移動速度(NA/V)を8mmol・l-1・h-1以上にするには、その通気量を約0.67〜1vvm(volume/volume/minute)とすればよい。攪拌翼の直径は4〜7cm程度とすればよい。攪拌速度は、約300〜500rpmとすればよい。上記の攪拌速度の範囲であれば、酸素移動容量係数を大きくすることができ、かつせん断応力により菌体に損傷を与えることがない。また、培養液中へ酸素を空気より高い濃度で吹き込めばよく、純酸素の方がよりよい。容器内の圧力を常圧より高圧にすればよく、常圧〜0.2MPa程度とすればよい。上記の酸素濃度、加圧条件であれば酸素の濃度勾配を大きくすることができる。
培養液中への通気量、撹拌速度、攪拌翼の直径や形状、容器の形、または吹き込む気体の酸素濃度、容器内の圧力などの条件を上記範囲で適宜設定することにより、培養液の酸素容量移動速度(NA/V)を8mmol・l-1・h-1以上にすることができる。また、培養槽の容量及び培養液量を変える場合は、上記条件に準じて培養槽の条件を適宜設定することにより、培養液の酸素容量移動速度(NA/V)を8mmol・l-1・h-1以上にすることができる。
本培養工程の培養方法は、回分培養や流加(半回分)培養などのバッチ方式や灌流培養などの連続培養方式などいずれであってもよい。
また、培養温度は、使用する菌種や菌株によって異なるが、概ね25〜35℃程度とすればよい。また、培養時間は、回分培養や流加(半回分)培養では2〜7日間程度とすればよい。また、連続培養では滞留時間を2〜6日間程度とすればよい。
【0014】
回収工程
本発明において回収工程とは、培養物からシデロフォアを回収する工程をいう。
アスペルギルス属糸状菌は、通常、菌体外にシデロフォアを分泌生産する。よって、菌体を含んだまま培地ごと回収してもよいし、遠心分離等で菌体を除去した後の培地から、公知の方法で精製してもよい。
シデロフォア
シデロフォアとは細菌や放線菌又は真核微生物が生産する分子量1500以下の鉄イオンキレート物質である。アスペルギルス属糸状菌体が生産するシデロフォアとしては、以下の一般式(鉄をキレートした状態を示す)で表わされる化合物が挙げられる。
【化1】


(式中、R1は水素原子、又はヒドロキシメチル基を示し;R2は水素原子、メチル基又はヒドロキシメチル基を示し;R3、R4、R5は、同一又は異なって、メチル基、N5−(トランス−5−ヒドロキシ−3−メチルペント−2−エノイル)基、N5−(シス−5−ヒドロキシ−3−メチルペント−2−エノイル)基、又はN5−(トランス−4−カルボキシ−3−メチルペント−2−エノイル)基を示す。)
これらの化合物の一般式(1)における官能基であるR1〜R5を以下の表1にまとめて示す。
【0015】
【表1】


本発明方法により製造されるシデロフォアの種類は、使用菌種によって定まる。アスペルギルス・オリゼを用いる場合は、主にフェリクリシンのデフェリ体であるDfcyが得られる。
【0016】
(II)第2の方法
本発明の第2のシデロフォアの製造方法は、アスペルギルス属糸状菌を、無機窒素源がアンモニウム塩である培養液中で培養する培養工程と、培養物からシデロフォアを回収する回収工程とを含む方法である。
第2の方法では、前培養を行ってもよく、行わなくてもよい。前培養を行う場合の条件は、第1の方法について説明した通りである。
培養液中の無機窒素源のアンモニウム塩としては、アスペルギルス属糸状菌の培養に用いられる公知のアンモニウム塩を制限なく使用できる。このようなアンモニウム塩としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、クエン酸二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、酢酸アンモニウム、燐酸水素二アンモニウム、燐酸二水素アンモニウム、蟻酸アンモニウムなどが挙げられる。中でも、硫酸アンモニウムが好ましい。アンモニウム塩は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
アンモニウム塩の含有量は、通常0.1〜2.5%(w/v)程度、好ましくは0.5〜1.0%(w/v)程度とすればよい。
その他の無機窒素化合物は、前培養培地から混入したものを除き、実質的に含まれない。このような、アンモニウム塩以外の無機窒素化合物としては、硝酸塩、亜硝酸塩などが挙げられる。
培地中のその他の成分や培地pHなどの培地条件は、第1の方法について説明した通りである。培養方法、培養温度、培養時間、回収工程も、第1の方法と同様である。
【0017】
実施例
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0018】
シデロフォアの製造方法
後掲の実施例1〜4は、基本的に以下の条件で行った。各実施例で変更した条件は後述する。
<前培養工程>
以下の表2に示す条件で、Dfcy高生産変異株アスペルギルス・オリゼ3129−7株(FERM P−20961)の前培養を行なった。
【表2】


酒粕プロテアーゼ分解物粉末は、酒粕をプロテアーゼで分解したものであり、以下の方法で調製したものを用いた。即ち、酒粕の凍結乾燥品300gに蒸留水600mlを加え均一にし、市販のプロテアーゼであるスミチームLP(新日本化学工業社製)を0.6g加えて50℃で16時間攪拌しながら反応させた。反応終了後、80℃で10分間加熱し、酵素を失活させた後、遠心分離(11000rpm、15分)により不溶性の残渣を除去し、上清液を凍結乾燥機で粉末になるまで除湿乾燥したものを使用した。
【0019】
<本培養工程>
以下の表3に示す条件で本培養を行なった。
【表3】


酒粕プロテアーゼ分解物粉末に関しては前培養と同様である。
【0020】
酸素容量移動速度の測定方法
下記式に各数値を代入することにより算出した。
酸素容量移動速度(NA/V) =(F/V)( Cin−Cout)
F:培養液への通気量
V:培養液体積
Cin:培養液に通気する気体中の酸素濃度
Cout:培養槽からの排気中の酸素濃度
Cin、Coutは排ガス分析装置(堀場製作所製、VA-3000)を用いて測定した。
【0021】
Dfcy生産量の測定方法
培養上清に100μlに10μlの0.2Mクエン酸バッファー(pH4.0)、10μlの3000ppm FeCl溶液を添加し、Dfcyに鉄をキレートしフェリクリシン(Fcy)とした。
このFcy溶液を、HPLC(SHIMADZU社製;Prominence)を用いた逆相クロマト分析に供し、Fcyに特異的な吸収波長である波長430nmを指標にFcyピークを同定した。そのピーク面積からFcyの定量を行った。定量したFcy量に、Fcyに対するDfcyの分子量比0.93(744/800)を乗じてDfcy量を算出した。
【0022】
実施例1
酸素容量移動速度がDfcy生産性に与える影響の検討(1)(通気条件)
培養時の通気条件を変化させることにより酸素容量移動速度を変化させ、酸素容量移動速度がDfcyの生産性に与える影響について検証した。即ち、空気を0.67(vvm)で通気する場合と、酸素(濃度約100%、以下同じ。)を0.33(vvm)で通気する場合との間で、酸素容量移動速度、及びDfcyの生産量を比較した。前培養条件は前掲の表2の条件の通りである。本培養条件は前掲の表3の通りであり、但し窒素源としてはNaNOを1.0%(w/v)添加し、(NHSOは非添加とした。pH制御は行わなかった。また、本培養時の攪拌速度は300rpmとし、48時間培養した。
結果を以下の表4に示す。
【表4】

【0023】
表4より、Dfcy生産量は、酸素通気時は空気通気時と比較して約2倍近くになることが分かる。
【0024】
実施例2
酸素容量移動速度がDfcy生産性に与える影響の検討(2)(攪拌翼速度)
培養時の攪拌翼速度を変化させることにより酸素容量移動速度を変化させ、酸素容量移動速度がDfcyの生産性に与える影響について検証した。即ち、攪拌速度を100rpm、300rpm、500rpm、及び700rpmに変化させて、酸素容量移動速度、及びDfcyの生産量を比較した。前培養条件は前掲の表2の条件の通りである。本培養条件は前掲の表3の通りであり、但し窒素源としてはNaNOを1.0%(w/v)添加し、(NHSOは非添加とした。pH制御は行わなかった。通気は空気を0.67vvmとし、64時間培養した。
結果を以下の表5に示す。
【表5】

表5より、酸素容量移動速度が高いほどDfcy生産量が多くなることが分かる。また、攪拌速度300rpm、500rpm、及び700rpmのときの64時間培養後の菌体の光学顕微鏡写真を図1に示す。攪拌速度が700rpmのときに菌体がせん断されている。攪拌速度を余りに大きくすると菌体がせん断されて、酸素容量移動速度の増大に見合うようにはDfcy生産量が増大しないことも分かる。
表4及び表5から、酸素容量移動速度を8mmol・l-1・h-1以上にすることによりDfcyを高生産できることが示された。また、酸素容量移動速度を高くする方法としては、酸素通気や攪拌速度上昇などの方法があるが、攪拌速度は菌体がせん断されない範囲に設定することが必要であることも示された。
【0025】
実施例3
無機窒素源の種類がDfcy生産に与える影響の検討
培養液中の窒素源の種類がDfcyの生産性に与える影響について検証した。即ち、窒素源として硝酸ナトリウムを用いた場合と、硫酸アンモニウムを用いた場合とで、Dfcyの生産量を比較した。前培養条件は前掲の表2の条件の通りである。本培養条件は前掲の表3の通りであり、培地のpHは、硫酸アンモニウムを使用した場合のみ4.0以下にならないように12.5%アンモニア水を添加して制御した。通気及び攪拌速度は、培養開始後16時間までは空気を0.67vvm及び300rpmとし、その後は酸素を0.5vvm及び450rpmとした。合計64時間培養した。
結果を以下の表6に示す。
【表6】

【0026】
表6に示すように、N源として硝酸ナトリウムを添加した場合よりも、硫酸アンモニウムをN源として添加した方が、Dfcyの生産性が高いことが示された。
【0027】
実施例4
生産されるシデロフォアの種類
鉄制限培地及び鉄添加培地を用いて、以下に示す条件で、アスペルギルス・オリゼ1013株(FERM P−16528)を培養し、培養上清に最終濃度(500ppm)のFeCl溶液を添加した場合と、添加しない場合とについてHPLC分析を行い、シデロフォアを検出した。
<培養条件>
前培養条件は前掲の表2の条件の通りである。本培養条件は前掲の表3の通りであり、培地のpHは、硫酸アンモニウムを使用した場合のみ4.0以下にならないように12.5%アンモニア水を添加して制御した。通気及び攪拌速度は、培養開始後16時間までは空気を0.67vvm及び300rpmとし、その後は硫酸アンモニウムを使用した場合のみ酸素を0.5vvm及び450rpmとした。合計64時間培養した。
<HPLC分析条件>
培養上清100μlに10μlの0.2M クエン酸バッファー(pH4.0)、10μlの3000ppm FeCl溶液を添加し、シデロフォアに鉄をキレートさせた。
これをHPLC(SHIMADZU社製;Prominence)を用いた逆相クロマト分析に供し、シデロフォアに特異的な吸収波長である波長430nmを指標にFcyやその他のシデロフォアを同定した。各シデロフォアはピーク面積比にて生産量を比較した。
結果を以下の表7に示す。
【表7】


なお、培養上清に鉄を添加しなかった場合にはDfcyやその他のシデロフォアA、Bのいずれのピークも検出されなかった。
結果を図2に示す。鉄制限培養して得た培養液の上清にFeCl溶液を添加して初めて検出されるピークがシデロフォアのピークであると考えられることから、1013株はDfcyの他に2種のシデロフォアを生産していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の製造方法は、鉄補給用の医薬品や健康食品などとして有用なシデロフォアを効率的に生産するために好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例2で培養した菌体の光学顕微鏡写真である。
【図2】実施例4のHPLCチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス属糸状菌を、酸素容量移動速度を8mmol・l-1・h-1以上とした培養液中で培養する培養工程と、培養物からシデロフォアを回収する回収工程とを含むシデロフォアの製造方法。
【請求項2】
培養液中の無機窒素源がアンモニウム塩である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アスペルギルス属糸状菌を、無機窒素源がアンモニウム塩である培養液中で培養する培養工程と、培養物からシデロフォアを回収する回収工程とを含むシデロフォアの製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−28030(P2009−28030A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121482(P2008−121482)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】