説明

シナリオ作成装置、シナリオ作成プログラムおよびその記録媒体

【課題】救急救命シミュレーションシステムで用いられるシナリオとして、所望する条件に応じたシナリオを容易に作成する。
【解決手段】予め作成されている基本シナリオの少なくとも一部の条件をシナリオ作成指示者から指示された、所定時間あたりの所定エリアに到着する傷病者数の最大値を優先順位を決定可能な所定時間あたりの傷病者数の想定値で除算した値である混雑度、死亡者数を最小にするための優先順位および処置内容の最適解を算出し、最適順に決定した場合と順序の前後関係が不一致である傷病者組数の総傷病者組数に対する割合である処置順逆転率等、当該条件に関連するパラメータの設定値に応じて変更するシナリオ編集部211を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の傷病者に対して各傷病者の症状等を考慮し、限られた医療資源を有効に用いた最善の処置(例えば、搬送、治療、治療の優先順位の決定等)を行うための訓練を行う救急救命シミュレーションシステムで用いられるシナリオを作成するシナリオ作成装置、シナリオ作成プログラムおよびその記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各地域の拠点病院やDMAT(Disaster Medical Assistant Team)などを中心に、大事故や災害時の救命救急活動の訓練を目的として、傷病者の搬送・治療のプロセスをシミュレートするトリアージ訓練が行われている。また、大事故や災害時の救命救急活動に限らず、多数の傷病者が来院する一般病院の救急外来等においてもトリアージの重要性が指摘されている。
【0003】
トリアージとは、多数の傷病者が同時に発生した場合に、より多くの傷病者を救命するための適切な処置や搬送を行うために、傷病者を重症度と緊急度とに応じて分類して傷病者の治療優先順位を決定する手法である。例えば、START(Simple Triage And Rapid Treatment)法に基づくトリアージでは、傷病者を緑,黄,赤,黒の4段階に分類する。緑は救急での搬送の必要がない軽症な傷病者、黄は生命に関わる重篤な状態ではないが搬送が必要な傷病者、赤は生命に関わる重篤な状態で救命の可能性がある傷病者、黒は死亡もしくは現状では救命不可能とされる傷病者である。治療の優先度は高い順に赤,黄,緑,黒である。判定結果は傷病者に紙製のタグなどを装着することで表示される。
【0004】
ところで、大事故や災害等の発生時に迅速かつ正確にトリアージを行うためには、医療従事者に対して平常時にトリアージ訓練を実施しておく必要がある。
【0005】
従来のトリアージ訓練では、多数の模擬傷病者による実地訓練が行われることもあるが、コスト面などの制約からエマルゴ・トレーニング・システム(非特許文献1参照)などの机上シミュレーション濱習が行われる場合が多い。エマルゴ・トレーニング・システムでは、複数のホワイトボードを災害現場や病院などのエリアに見立て、エリア上に配置した傷病者や医療従事者、医療資源などを表すマグネット付きの札を一定のルールに基づいてホワイトボード上で移動させながらシミュレーションを行う。
【0006】
しかしながら、非特許文献1等の従来の机上シミュレーションでは、大規模な災害を想定した訓練を実施可能であるが、机上シミュレーションであるという性質上、傷病者の容態変化を再現することが困難であり、各傷病者の症状や脈拍、呼吸数、血中酸素濃度などの生体情報(バイタルサイン)の時間的変化を訓練にリアルタイムに反映させることができないという問題がある。
【0007】
また、訓練の時間的なログ(履歴)を取ることが出来ないので、訓練結果を再現したり、検証したりすることが困難であり、訓練結果を訓練参加者の資質向上のための教育に利用することが難しいという問題がある。
【0008】
そこで、本願出願人は、コンピュータ上で動作するトリアージ訓練シミュレータ(救命救急シミュレーションシステム)を開発し、訓練実施者が記述した傷病者の病状変化シナリオに沿ったトリアージ訓練を複数のコンピュータを用いて実施できるようにした(特許文献1参照)。
【0009】
災害時に傷病者の処置順決定が最も重要になる場面は、プレホスピタルと呼ばれる災害現場から病院での初期治療までである。プレホスピタルでは特に医療従事者の人数、同時処置可能な傷病者数、救急車の台数などの医療資源が制限されるため、傷病者の生体情報に基づいて傷病者の治療・搬送順を変更することにより、より多くの傷病者を救命できると考えられる。
【0010】
そこで、上記シミュレータでは、プレホスピタルにおける医療資源を制限し、傷病者の処置順に着目したシミュレーションが行えるようにしている。具体的には、上記シミュレータでは、処置台や救急車などの医療資源や傷病者の生体情報をコンピュータ画面上に表示する。これにより、医療従事者(訓練参加者)が、コンピュータ画面上に表示された傷病者の生体情報や医療資源の情報に基づいて傷病者の処置順を判断してコンピュータを操作することで処置を選択実行できるようになっている。各傷病者にはトリアージを実施する場所であるトリアージポストへの到着時刻、処置時間、死期等を記述した訓練シナリオ(シミュレーションシナリオ)が設定されており、死期に至るまでに処置を施さないと死亡してしまうようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−164973号公報(平成23年8月25日公開)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Emergo Train System、[online]、[平成22年2月1日検索]、インターネット<URL: http://www.emergotrain.com/>.
【非特許文献2】M.Kendall著、「A New Measure of Rank Correlation.」、Biometrika、Vol.30, No.1/2、pp.81-89、1938年
【非特許文献3】J. Kennedy and R.C. Eberhart著、「Particle Swarm Optimization」、 In Proceedings of 1995 IEEEInternational Conference on Neural Networks、 Vol. 4、 pp.1942-1948、 1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上記シミュレータによる訓練の効果を高めるためには、訓練の繰り返しと共に向上する訓練参加者の技術レベルに応じて訓練(訓練シナリオ)の難易度を設定することが求められる。
【0014】
また、訓練の習熟度を高めるために、同程度の難易度であって、設定条件の異なる訓練を繰り返し行うことが求められる場合がある。そのような場合には、同程度の難易度で、かつ設定条件が異なる複数の訓練シナリオを準備する必要がある。
【0015】
また、訓練参加者の技術レベルを評価するためには、類似難易度の訓練シナリオに対する異なるプレーヤーの訓練評価結果を比較することが求められる。
【0016】
しかしながら、特許文献1の技術では、難易度の明確な定義がなされておらず、シミュレーションの難易度を設定することが困難であるという問題がある。
【0017】
また、訓練シナリオは、訓練に関する詳しい知識を持ったコーディネーター(訓練実施者)がプレーヤー(訓練参加者)の日常業務内容や勤務地域等の特性に合わせて発生し得る事故・災害等を想定し、傷病者の数や各傷病者の病状変化シナリオなどを手作業で入力して設定しているため、1つの訓練シナリオを作成するための労力が非常に大きいという問題もある。
【0018】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、所望する条件に応じた訓練シナリオを容易に作成することのできるシナリオ作成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のシナリオ作成装置は、上記の課題を解決するために、複数の傷病者に対して各傷病者の症状に応じた処置を行うためのシミュレーションを行うシミュレーションシステムにおいて用いられる上記シミュレーションのシナリオを作成するシナリオ作成装置であって、上記シナリオには、上記シミュレーションにおいて利用可能な医療資源の設定情報を示す医療資源シナリオと、各傷病者の経過時間に応じた症状の変化を示す症状シナリオ、各傷病者に対する処置内容と当該処置内容に応じた処置を施した後の経過時間に応じた傷病者の症状の変化とを関連付けた症状改善シナリオ、および各傷病者が上記シミュレーション上の所定エリアに到着する時刻を示す到着時刻情報を含む傷病者シナリオとが含まれており、上記シミュレーションでは、当該シミュレーションに参加する1または複数の参加者は、上記所定エリアまたは傷病者に対する処置を行う複数の処置エリアのうちのいずれかの処置エリアに配属され、配属されたエリアに到着した傷病者の症状に応じて当該傷病者に対する処置内容および当該エリアに到着した各傷病者に対する処置の優先順位の少なくとも一方を決定するようになっており、予め作成されている基本シナリオの少なくとも一部の条件をシナリオ作成指示者から指示された上記条件に関連する1または複数のパラメータの設定値に応じて変更するシナリオ編集部を備えていることを特徴ととしている。
【0020】
上記の構成によれば、上記シナリオ編集部が、予め作成されている基本シナリオの少なくとも一部の条件をシナリオ作成指示者から指示された上記条件に関連するパラメータの設定値に応じて変更することにより、上記設定値に応じたシナリオを自動的に作成する。これにより、従来のようにコーディネーター(訓練実施者)がシナリオの各構成内容を手作業で入力して設定する場合に比べて、所望する条件に応じたシナリオを容易に作成することができる。
【0021】
また、上記パラメータには、所定時間あたりの上記所定エリアに到着する傷病者数の最大値を上記所定エリアにおいて上記優先順位を決定可能な所定時間あたりの傷病者数の想定値で除算した値である混雑度に関するシナリオ作成指示者の要望値である要望混雑度が含まれており、上記シナリオ編集部は、上記要望混雑度に応じて、上記基本シナリオにおける少なくとも一部の傷病者についての上記到着時刻情報を変更することにより上記最大値を変更するか、あるいは、上記基本シナリオにおける上記医療資源の設定情報のうち上記優先順位を決定可能な参加者の数を変更することで上記想定値を変更することにより、上記基本シナリオの混雑度を変更する構成としてもよい。なお、上記想定値は、例えば、医師1人あたりが所定時間あたりに傷病者を重症度に応じて予め定められた複数のカテゴリに分類する処理を行うことのできる人数の平均値に関する既知の実験データ等に基づいて設定される。
【0022】
上記の構成によれば、シナリオ編集部が、シナリオ作成指示者の指定した要望混雑度になるように、基本シナリオにおける少なくとも一部の傷病者についての到着時刻情報または基本シナリオにおける医療資源の設定情報のうち優先順位を決定可能な参加者の数を変更する。これにより、シナリオ作成指示者の所望する難易度(要望混雑度)に応じたシナリオを容易に作成することができる。
【0023】
また、上記症状シナリオには、少なくとも一部の傷病者について、当該傷病者の死亡時刻を示す情報が含まれており、上記症状改善シナリオには、上記症状シナリオにおいて死亡時刻が示されている傷病者に対して所定の処置を行った場合の死亡時刻の変化を示す情報が含まれており、上記シナリオ編集部は、死亡者数を最小にするための上記優先順位および各傷病者に対する処置内容の最適解を算出し、上記優先順位を各傷病者の上記所定エリアへの到着順に決定した場合と上記最適解に応じた順である最適順に決定した場合とで順序の前後関係が不一致である傷病者組数の総傷病者組数に対する割合である処置順逆転率を算出する処置順逆転率算出部を備えており、上記パラメータには、上記処置順逆転率に関するシナリオ作成指示者の要望値である要望処置順逆転率が含まれており、上記シナリオ編集部は、上記処置順逆転率を上記要望処置順逆転率に近づけるように上記基本シナリオにおける少なくとも一部の傷病者の上記所定エリアへの到着順序を変更する構成としてもよい。
【0024】
上記の構成によれば、シナリオ編集部は、死亡者数を最小にするための上記優先順位および各傷病者に対する処置内容の最適解を算出し、上記優先順位を各傷病者の上記所定エリアへの到着順に決定した場合と上記最適解に応じた順である最適順に決定した場合とで順序の前後関係が不一致である傷病者組数の総傷病者組数に対する割合である処置順逆転率を算出し、上記処置順逆転率を上記要望処置順逆転率に近づけるように上記基本シナリオにおける少なくとも一部の傷病者の上記所定エリアへの到着順序を変更する。これにより、シナリオ作成指示者の所望する難易度(要望処置順逆転率)に応じたシナリオを容易に作成することができる。
【0025】
また、上記シナリオ編集部は、上記優先順位を各傷病者の上記所定エリアへの到着順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である到着順救命率と、上記優先順位を上記最適順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である最適順救命率との差である救命率差を算出し、上記パラメータには、上記救命率差に関するシナリオ作成指示者の要望値である要望救命率差が含まれており、上記シナリオ編集部は、上記処置順逆転率を上記要望処置順逆転率に近づけ、かつ上記救命率差を上記要望救命率差に近づけるように上記基本シナリオにおける少なくとも一部の傷病者の上記所定エリアへの到着順序を変更する構成としてもよい。例えば、上記シナリオ編集部は、上記優先順位を決定する全ての傷病者組について上記到着順序を入れ替えた場合の上記処置順逆転率および上記救命率差を算出し、上記処置順逆転率と上記要望処置順逆転率との差が小さくなり、かつ上記救命率差と上記要望救命率差との差が広がらない到着順序になるように上記全ての傷病者組のうちの少なくとも一部の到着順序を入れ替える処理を所定回数繰り返す構成としてもよい。
【0026】
上記の構成によれば、シナリオ編集部は、上記優先順位を各傷病者の上記所定エリアへの到着順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である到着順救命率と、上記優先順位を上記最適順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である最適順救命率との差である救命率差を算出し、上記処置順逆転率を上記要望処置順逆転率に近づけ、かつ上記救命率差を上記要望救命率差に近づけるように上記基本シナリオにおける少なくとも一部の傷病者の上記所定エリアへの到着順序を変更する。これにより、シナリオ作成指示者の所望する難易度(要望処置順逆転率および要望救命率差)に応じたシナリオを容易に作成することができる。
【0027】
また、上記症状シナリオには、少なくとも一部の傷病者について、当該傷病者の死亡時刻を示す情報が含まれており、上記症状改善シナリオには、上記症状シナリオにおいて死亡時刻が示されている傷病者に対して所定の処置を行った場合の死亡時刻の変化を示す情報が含まれており、上記シナリオ編集部は、死亡者数を最小にするための上記優先順位および各傷病者に対する処置内容の最適解を算出し、上記優先順位を各傷病者の上記所定エリアへの到着順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である到着順救命率と、上記優先順位を上記最適解に応じた順である最適順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である最適順救命率との差である救命率差を算出し、上記パラメータには、上記救命率差に関するシナリオ作成指示者の要望値である要望救命率差が含まれており、上記シナリオ編集部は、上記救命率差を上記要望救命率差に近づけるように、上記症状シナリオにおける上記死亡時刻を示す情報、または上記症状改善シナリオにおける上記死亡時刻の変化を示す情報のうちの少なくとも一方を変更する構成としてもよい。
【0028】
上記の構成によれば、死亡者数を最小にするための上記優先順位および各傷病者に対する処置内容の最適解を算出し、
上記優先順位を各傷病者の上記所定エリアへの到着順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である到着順救命率と、上記優先順位を上記最適解に応じた順である最適順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である最適順救命率との差である救命率差を算出し、上記救命率差を上記要望救命率差に近づけるように、上記症状シナリオにおける上記死亡時刻を示す情報、または上記症状改善シナリオにおける上記死亡時刻の変化を示す情報のうちの少なくとも一方を変更する。これにより、シナリオ作成指示者の所望する難易度(要望救命率差)に応じたシナリオを容易に作成することができる。
【0029】
また、上記シナリオ編集部は、各傷病者を1つの粒子とみなして死亡者数を含む目的関数の値を最小にするための粒子群最適化演算を行うことにより上記最適解を算出する構成としてもよい。
【0030】
上記の構成によれば、死亡者数を最小にするための上記優先順位および各傷病者に対する処置内容の最適解を精度よく算出することができる。
【0031】
また、上記最適解に対応する死亡者数に対する、上記シナリオを用いたシミュレーションを実施した結果における死亡者数の相対値を上記シミュレーションを実行した結果の評価値として算出する評価処理部を備えている構成としてもよい。
【0032】
上記の構成によれば、シミュレーション結果を定量的に評価するための評価値を算出することができる。
【0033】
なお、上記シナリオ作成装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記シナリオ編集部として動作させることにより、上記シナリオ作成装置をコンピュータにて実現させるプログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明のシナリオ作成装置によれば、所望する難易度に応じたシナリオを容易に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態にかかるシミュレーションシステムにおいて行われるシミュレーションの概要を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるシミュレーションシステムの概略構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示したシミュレーションシステムに備えられる各装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図2に示したシミュレーションシステムで用いられるシナリオに含まれる傷病者シナリオにおける各傷病者の症状に関する設定項目の一例を示す説明図である。
【図5】図2に示したシミュレーションシステムで用いられるシナリオに含まれる傷病者シナリオにおける傷病者の生体情報の経過時間に応じた変換の例を示す説明図である。
【図6】図2のシミュレーションシステムにおける実施者用端末の表示部に表示される表示画面の一例を示す説明図である。
【図7】図2のシミュレーションシステムにおける参加者用端末の表示部に表示される表示画面の一例を示す説明図である。
【図8】図2のシミュレーションシステムにおける参加者用端末の表示部の一部に表示される画像の一例を示す説明図である。
【図9】図2のシミュレーションシステムにおける参加者用端末の表示部に表示される表示画面の一例を示す説明図である。
【図10】図2のシミュレーションシステムにおける参加者用端末の表示部の一部に表示される画像の一例を示す説明図である。
【図11】図2のシミュレーションシステムにおける参加者用端末の表示部の一部に表示される画像の一例を示す説明図である。
【図12】(a)〜(c)は、図2のシミュレーションシステムにおいて実施されるシミュレーションにおける傷病者の治療経路を示す説明図である。
【図13】図2のシミュレーションシステムで用いられるシナリオにおける制約条件を示す記号と当該記号の意味とを示す説明図である。
【図14】図2のシミュレーションシステムにおいて、シナリオに対する最適解を算出する際、傷病者の死期を考慮して傷病者全体の救命率を向上させるための傷病者に対する最適な処置順序を決定するための演算のアルゴリズムを示す説明図である。
【図15】図2のシミュレーションシステムにおいて、シナリオに対する最適解を算出するために粒子群最適化演算を行う際の粒子と粒子群の構成内容を示す説明図である。
【図16】図2のシミュレーションシステムにおいて、シナリオに対する最適解を算出するために粒子群最適化演算を行う際の、解空間の移動による治療経路の変化を滑らかにするための処理を示す説明図である。
【図17】図2のシミュレーションシステムにおいて、シナリオに対する最適解を算出するために粒子群最適化演算を行う際の、傷病者の各エリアでの処置順の取得方法を示す説明図である。
【図18】図2のシミュレーションシステムにおいて、シナリオに対する最適解を算出する際に行う粒子群最適化演算の変形例を示すフローチャートである。
【図19】図18に示した処理で行われる交叉演算の方法を示す説明図である。
【図20】図2のシミュレーションシステムにおけるシナリオの難易度調整方法(シナリオ作成方法)の概要を示す説明図である。
【図21】図2のシミュレーションシステムにおけるシナリオの混雑度の調整方法を示す説明図である。
【図22】図2のシミュレーションシステムにおけるシナリオの処置順逆転率の調整方法を示す説明図である。
【図23】図22に示したシナリオの処置順逆転率の調整方法において、傷病者の到着順の入れ替えを行った場合の処置順逆転率の変化量および救命率差の変化量の傷病者組毎の算出結果の一例を示す説明図である。
【図24】図2のシミュレーションシステムにおいて作成したシナリオの評価実験における設定条件を示す説明図である。
【図25】図2のシミュレーションシステムにおいて作成したシナリオの評価実験における設定条件を示す説明図である。
【図26】図2のシミュレーションシステムにおいて作成したシナリオの評価実験において行った粒子群最適化演算におけるパラメータ設定を示す説明図である。
【図27】図2のシミュレーションシステムにおいてランダムに生成した初期シナリオに対して処置順逆転率および救命率差を調整した時の調整誤差を示す説明図である。
【図28】図2のシミュレーションシステムにおいてランダムに傷病者の到着時刻および死期を変更してシナリオを生成するランダムシナリオ生成処理の場合と、本発明の一実施形態にかかる難易度の調整処理によってシナリオを生成した場合との比較結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の一実施形態について説明する。
【0037】
(1. シミュレーションシステム)
(1−1. シミュレーションシステムの概要)
図1は、本実施形態にかかるシミュレーション例における設定条件の概要を示す説明図である。図1に示すように、このシミュレーションでは、対策本部が災害現場および病院への医療資源の配置を指揮するようになっている。ただし、医療資源の初期配置については訓練シナリオ毎に設定されている。医療資源には、(i)医師、看護士、救命救急士、病院の事務員等の人材、(ii)救急車、救急ヘリコプタ等の救急搬送手段、(iii)手術室、レントゲン室、診察室、病室等の各種設備、(iV)医薬品、治療器具、治療装置、担架やストレッチャー、車椅子などの搬送器具等の資材などが含まれる。
【0038】
災害現場では、トリアージポスト(1次トリアージポスト、所定エリア)が設置され、このトリアージポストにおいて救出された傷病者に対する1次トリアージが行われる。本実施形態では、1次トリアージとして、START(Simple Triage And Rapid treatment)法に基づくトリアージを行う。START法では、各傷病者が重症度の低い順に緑、黄、赤、黒の4段階のカテゴリに分類される。緑は救急での搬送は不要な傷病者、黄は重篤な状態ではないが早期の処置が必要な傷病者、赤は生命にかかわる重篤状態で緊急の処置が必要な傷病者、黒は死亡もしくは現状の医療資源では救命困難な傷病者である。1次トリアージを受けた傷病者は、救命の優先度が高い赤のカテゴリに分類された傷病者から順に病院や救急センターなどの医療機関(処置エリア)あるいは災害現場付近の救護所(処置エリア)に搬送される。
【0039】
本実施形態では、トリアージポストにおいて1次トリアージを行う際、傷病者の脈拍数や血中酸素濃度などの生体情報(バイタルサイン)を検出して所定の送信先に送信する機能を有するICタグ(生体情報検出装置)を各傷病者に装着することにより、その後の各傷病者の生体情報をコンピュータ等によって構成されるトリアージシステム上でリアルタイムに監視できる状況を想定している。上記のICタグおよびトリアージシステムとしては、例えば本願発明者らが出願した特願2009-196450(平成21年8月27日出願)において提案しているものが挙げられる。なお、本実施形態では、上記のICタグを各傷病者に装着することにより各傷病者の生体情報をリアルタイムに監視できる状況を想定しているが、これに限るものではない。例えば、各傷病者にトリアージ結果に応じた紙製のタグを装着する環境を想定したシミュレーションであってもよい。
【0040】
また、傷病者から検出される生体情報の項目は上述した項目に限るものではなく、例えば上述した項目に加えて呼吸数や血圧などの情報が検出されて上記トリアージシステムに入力されるものとしてもよい。また、傷病者の生体情報を検出する手段についてもICタグに限るものではなく、従来から公知の種々の生体情報検出装置によって検出される生体情報を上記トリアージシステムに入力するようにしてもよい。また、傷病者のカテゴリ分類結果やシミュレーションにおいて実施される処置等に応じて各傷病者から検出する生体情報の項目を変更するようにしてもよい。
【0041】
病院の救急受付では、災害現場から搬送されてきた傷病者に対して治療の優先順位を決める2次トリアージが行われる。例えば、同じカテゴリに分類された傷病者同士に対して重症度や緊急度、および医療資源の配置・利用状況などを考慮して治療の優先順位および病院内における搬送先が決定され、各傷病者は2次トリアージの結果に応じた搬送先に搬送される。
【0042】
本実施形態におけるシミュレーションでは、治療班として赤初期治療班、黄初期治療班、緑初期治療班、および黒エリア班が設けられており、各傷病者は2次トリアージの分類結果に応じた治療班に対応する搬送先へ搬送される。そして、各治療班によって初期治療が行われた傷病者は、必要に応じてICU(集中治療室)、OP室(手術室)、一般病室、あるいは他の医療施設等へ搬送されて治療あるいは経過観察が行われる。
【0043】
(1−2. シミュレーションシステム1の概略構成)
図2は、本実施形態にかかるシミュレーションシステム(救命救急シミュレーションシステム)1の概略構成を示すブロック図である。図2に示すように、シミュレーションシステム1は、サーバー装置10と、サーバー装置10に対してネットワークを介して通信可能に接続された実施者用端末(シナリオ作成装置)20および多数の参加者用端末30とによって構成されている。なお、参加者用端末30の数は特に限定されるものではなく、1台であっても複数台であってもよい。
【0044】
実施者用端末20は、シミュレーションの設定条件を決定するシミュレーション実施者(司会者;シナリオ作成指示者)からの指示入力に応じて、訓練シナリオ(シミュレーションシナリオ)の設定を行う。訓練シナリオには、(i)傷病者の数、各傷病者がシミュレーションに最初の登場する時刻(例えば各傷病者の1次トリアージポストへの到着時刻(到着時刻情報))、各傷病者の症状、各傷病者の時間経過に応じた症状の変化を示す症状シナリオ(傷病者シナリオ、傷病者情報)、各時刻において医療処置が施された場合の経過時間に応じた症状の変化を処置内容毎に示す症状改善シナリオ(傷病者シナリオ、傷病者情報)、(ii)各医療資源の種類、個数、および初期配置などを示す情報である医療資源シナリオ(資源情報)、(iii)各処置(例えば生体情報検出装置の装着処置、診察処理、治療処置、移動処置、搬送処置等)の所要時間や各処置を実行可能な条件などを示す処置シナリオ(処置情報)、(iv)シミュレーション上における時間の経過速度の設定条件などの情報である初期設定シナリオ(初期設定情報)、および(v)各参加者用端末30に対応する参加者のシミュレーション中の役割や各参加者用端末30に表示させる基本画面の情報などを含む端末シナリオ(端末情報)などが含まれる。なお、傷病者シナリオにおける症状の変化パターンについては必ずしも全ての傷病者について設定する必要はなく、症状が時間経過にかかわらずシミュレーション期間を通して略一定である傷病者については初期の症状のみを設定するようにしてもよい。
【0045】
また、実施者用端末20は、シミュレーション実施者(シナリオ作成指示者)からのシミュレーションの難易度に関するパラメータ(設定値)の入力を受け付け、当該パラメータに応じて予め設定されている訓練シナリオ(基本シナリオ)の内容を変更し、シミュレーション実施者(シナリオ作成指示者)の指示に応じた難易度の訓練シナリオを作成する機能を有している。難易度に応じた訓練シナリオの作成方法の詳細については後述する。
【0046】
なお、本実施形態では、シミュレーション実施者が実施者用端末20を用いて訓練シナリオを作成するものとしているが、これに限るものではない。例えば、シミュレーションシステム1に接続された任意の装置に訓練シナリオを作成するために必要なデータを含むファイルを記憶させておき、シミュレーションシステム1に接続された任意の装置から上記ファイルにアクセスして訓練シナリオを作成してもよい。また、訓練シナリオを作成するために必要なデータが格納されたファイルを記録媒体に格納しておき、任意の情報処理装置を用いて上記記録媒体から上記ファイルを読み出し、当該情報処理装置を用いて訓練シナリオを作成するようにしてもよい。
【0047】
また、実施者用端末20は、シミュレーション実施者からの指示入力に応じて、シミュレーション実施中にサーバー装置10に記憶させている当該シミュレーションにおいて利用中の訓練シナリオに関する設定条件の変更を行うこともできるようになっている。これにより、例えば、医療資源の追加や補充、アクシデントの発生などをシミュレーションに適宜反映させることができるようになっている。
【0048】
また、実施者用端末20は、シミュレーション実施者からの指示入力に応じて、シミュレーションの開始指示、一時停止、および終了の指示を行う機能を有している。シミュレーションを一時停止した場合には、シミュレーションシステム上の全端末において表示画面がロックされて操作不可になる。
【0049】
サーバー装置10は、実施者用端末20を介して設定された訓練シナリオを記憶するとともに、各参加者用端末30に対して、当該参加者用端末30に対応する基本画面の情報、および訓練シナリオにおける各設定情報のうち当該参加者用端末30に関連する設定情報を送信する。これにより、各参加者用端末30には当該参加者用端末30に応じた基本画面が表示され、さらにこの基本画面上に当該参加者用端末30に関連する設定情報に応じた画像が表示させる。また、サーバー装置10は、訓練シナリオにおける各設定内容、各参加者用端末30から入力される操作情報、およびシミュレーション開始からの経過時間(時刻情報)等に基づいてシミュレーション上の現時刻における傷病者の症状および位置、医療資源の配置や利用状況を示す現況情報を生成する。そして、生成したこれら各情報を関連する参加者用端末30に送信するとともに、傷病者情報記憶部107および資源情報記憶部108の記憶されている情報を更新する。なお、ある参加者用端末30における操作が他の参加者用端末30に対応するシミュレーション上の状況に影響を与える場合にはその影響を反映させるための情報を当該参加者用端末30に送信して表示内容を変更させる。これにより、各参加者用端末30を介して参加者から入力される操作情報がサーバー装置10に送信され、この操作情報に対応する処置による傷病者の症状および位置の変化や医療資源の配置状況および利用状況の変化が各参加者用端末30の表示に反映される。
【0050】
また、サーバー装置10は、実施者用端末20および各参加者用端末30と定期的に通信を行い、これら各装置のシミュレーション上の時刻を、設定された経過速度に応じて進行させるとともに、これら各装置のシミュレーション上の時刻を同期させる。
【0051】
また、サーバー装置10は、訓練シナリオ、および、各参加者用端末30における操作内容、傷病者情報、資源情報、設定情報の履歴(ログ)をログ記憶部111に記憶させる。
【0052】
参加者用端末30は、サーバー装置10から送信される各情報(傷病者情報、資源情報、設定情報、および端末情報など)に応じた画像を表示するとともに、参加者からの操作入力を受け付けてそれに対応する操作情報をサーバー装置10に送信する。なお、参加者用端末30は、シミュレーションに参加する参加者毎に備えられていてもよく、複数の参加者毎に備えられていてもよい。つまり、1台の参加者用端末30を複数の参加者によって共有してもよい。複数の参加者によって1台の参加者用端末30を共用する場合には、同じ班に属する参加者同士で共用することが好ましい。
【0053】
また、シミュレーションに参加する参加者の数は特に限定されるものではなく、1人であってもよく、複数であってもよい。
【0054】
また、本実施形態では、各参加者を、災害現場付近に設けられた1次トリアージポスト、災害現場付近に設けられた救護所、病院前に設けられた2次トリアージポスト、病院内の赤初期治療班、黄初期治療班、緑初期治療班、および黒エリアのいずれかのエリアに配属するようになっているが、これに限らず、これらの一部に参加者を配属しないようにしてもよい。
【0055】
(1−3. 実施者用端末20の構成)
図3は、シミュレーションシステム1に備えられる各装置の構成を示すブロック図である。図3に示すように、実施者用端末20は、実施者用端末制御部201、送受信部202、表示部203、操作入力部204、音声出力部205、傷病者情報生成部206、資源情報生成部207、初期設定情報生成部208、端末情報生成部209、基本シナリオ記憶部210、シナリオ編集部(シナリオ作成装置)211、および評価処理部212を備えている。
【0056】
実施者用端末制御部201は実施者用端末20の各部の動作を制御するものである。
【0057】
送受信部202は実施者用端末制御部201の指示に応じてサーバー装置10との間で各種データの送受信を行うものである。
【0058】
表示部203は実施者用端末制御部201の指示に応じた画像を表示する表示手段である。例えば、表示部203は、シミュレーション実施者が訓練シナリオに関する各種設定やシミュレーションの開始、一時停止、終了指示を行うための操作入力を行う際のインターフェース画面などを表示する。
【0059】
操作入力部(実施者用操作入力部)204はシミュレーション実施者からの各種指示入力を受け付けて実施者用端末制御部201に伝達する。なお、操作入力部204は、例えば、マウスやキーボード等で構成されていてもよく、表示部203と一体化されたタッチパネルとして構成されていてもよい。
【0060】
音声出力部205は、実施者用端末制御部201の指示に応じた音声を出力するものである。
【0061】
傷病者情報生成部206は、操作入力部204を介して入力されるシミュレーション実施者からの指示に応じて傷病者シナリオ(傷病者情報)を生成する。傷病者シナリオには、傷病者の数、各傷病者の症状、各傷病者がシミュレーションに最初の登場する時刻(例えば各傷病者の1次トリアージポストへの到着時刻)、各傷病者の生体情報の変化(時間経過に応じた症状の変化および各時刻において医療処置が施された場合の症状の変化パターン)を示す情報などが含まれる。
【0062】
なお、本実施形態では、各傷病者がシミュレーションにおいて最初に出現するエリアを1次トリアージポストに設定しているが、これに限るものではなく、参加者が配属されているエリアあるいは参加者が配属されているエリアの組み合わせに応じて適宜設定すればよい。
【0063】
例えば、1次トリアージポストおよび災害現場付近の救護所に参加者を配属しない場合には、1次トリアージポストおよび救護所を省略して各傷病者がシミュレーションにおいて最初に登場するエリアを2次トリアージポストとし、各傷病者の2次トリアージポストへの到着時刻を傷病者シナリオに含めるようにしてもよい。
【0064】
また、1次トリアージポストに参加者を配属せず、災害現場付近の救護所および2次トリアージポストに参加者を配属している場合には、各傷病者が最初に出現するエリアを救護所または2次トリアージポストとし、傷病者シナリオに各傷病者の救護所または2次トリアージポストへの到着時刻を傷病者シナリオに含めるようにしてもよい。
【0065】
また、災害現場付近に設けられた1次トリアージポスト、災害現場付近に設けられた救護所、病院前に設けられた2次トリアージポスト、病院内の赤初期治療班、黄初期治療班、緑初期治療班、および黒エリアのうちのいずれかのエリアにのみ参加者が配属している場合には、各傷病者が最初に出現するエリアを参加者が配属されているエリアとし、各傷病者の当該エリアへの到着時刻を傷病者シナリオに含めるようにしてもよい。
【0066】
図4は、傷病者シナリオにおける各傷病者の症状に関する設定項目の一例を示す説明図である。この図に示すように、各傷病者について、「個人情報」、「到着時刻」、「症状」、「必要処置」、「容態悪化時刻」、および「生体情報」が設定される。
【0067】
「個人情報」には、氏名(あるいは各傷病者を識別するための個人ID)、年齢、および性別が含まれる。「到着時刻」には、傷病者が1次トリアージポストに到着し、シミュレーション参加者が当該傷病者に対する操作を実行可能になる時刻が設定される。「症状」には、傷病者の外見、外傷部位、および外見写真が設定される。外見写真は、例えば予め用意された複数の写真データの中から選択される。「必要処置」には、必要処置毎の制限時間が設定される。「容態悪化時刻」には、傷病者の容態が悪化する時刻が設定される。「生体情報」には、循環(安定/不安定から選択)、意識レベル(清明/1桁/2桁/3桁から選択)、会話(可能/不可能から選択)、RR(Respiratory Rate;1分当たりの呼吸数(回/分))、CRT(Capillary Refill Time;毛細血管再補充時間(秒))、およびHR(Heart Rate;1分当たりの心拍数(回/分))の項目が設定される。なお、容態悪化前の生体情報は、必須設定項目であり、各傷病者について設定される。容態悪化後の生体情報は、容態が悪化する傷病者について設定される。容態が悪化する傷病者について容態悪化時刻も設定される。全治療完了後の状態については、より現実的な生体情報の変化を再現したい場合に必要に応じて設定される。なお、生体情報の設定項目は上記の例に限るものではなく、例えば自力歩行の可否など、他の設定項目を加えてもよい。
【0068】
各傷病者の生体情報の変化は、経過時間とそれまでに行われた治療処置に依存した条件分岐により再現される。条件判定の時刻および条件毎の生体情報は予め指定する。
【0069】
図5は、傷病者の生体情報の経過時間に応じた変化の例を示す説明図である。選択可能な処置の集合をT=t,t,・・・,tとする。傷病者pにはm個の必要処置が存在し、それぞれの必要処置t∈Tに対して制限時刻dが与えられる(1≦i≦m≦m)。必要処置と対応する制限時刻の組をT=(t,d)とし、それらの集合をT={T,T,・・・,Tmp}とする。傷病者pに処置tが行われた場合、TからTを削除する。dminをTの各要素Tの制限時刻の中で災害発生時刻に最も近い時刻とすれば、dmin<現在時刻となった場合にpは死亡する。なお、傷病者pが死亡した場合、傷病者pのアイコンは画面上から削除される。また、傷病者pに容態悪化後の生体情報が与えられている場合は、現在時刻が容態悪化時刻になったときにTp≠φであれば容態悪化後の生体情報に変化する。Tp=φとなった場合、治療済み生体情報に遷移する。なお、必要治療がない傷病者も配置することができる。
【0070】
なお、シミュレーション実施者が各傷病者に関するシナリオを1つ1つ入力するようにしてもよく、多数の傷病者に関するシナリオの例を記憶したデータベースを予め用意しておき、実施者用端末制御部201がこのデータベースに記憶されている傷病者に関するシナリオのリストを表示部203に表示させ、シミュレーション実施者が表示されたリストの中からシミュレーションに用いる傷病者のシナリオを抽出するようにしてもよい。また、データベースから抽出した傷病者に関するシナリオをシミュレーション実施者が適宜変更できるようにしてもよい。
【0071】
また、傷病者の症状と経過時間に応じた生体情報の変化との関係については医療関係者によって比較的多くのデータが蓄積されているので、上記データベースをこれらのデータに基づいて作成してもよい。例えば、過去に生じた災害や事故等において傷病者から実際に収集された生体情報等を用いて上記データベースを作成してもよい。
【0072】
また、データベースに記憶されている各傷病者に関するシナリオを、想定される災害の種別や発生場所等に応じてグループ分けしておき、シミュレーション実施者が災害の種別、災害の発生場所、傷病者数等の条件を指定することにより、実施者用端末制御部201がデータベースに記憶されている傷病者に関するシナリオの中から指定された条件に応じた傷病者のシナリオを自動的に抽出するようにしてもよい。
【0073】
資源情報生成部207は、操作入力部204を介して入力されるシミュレーション実施者からの指示に応じてシミュレーションに用いる資源情報(各エリアに配置される資源情報)を生成する。資源情報には、例えば、(i)シミュレーションに参加する医師や看護士等の人材の個人名あるいはID、所属部署、専門分野、役職などの人員情報、(ii)救急車や救急ヘリコプタなどの災害現場から病院までの搬送手段の数量や配置に関する情報、(iii)手術室、処置室(治療室)、レントゲン室などの病院内の施設情報、(iv)病院内に備えられる各種医療設備、各種医療器具、担架やストレッチャー、車椅子等の各種搬送器具などの資材の数量や配置に関する情報等が含まれる。これらの資源情報を調整することにより、より現実的なシミュレーションを行うことができる。また、これらの資源情報を調整することにより、各エリアでの傷病者に対する処置能力を変更し、シナリオの難易度を調節できる。
【0074】
なお、シミュレーション実施者が各医療資源に関する資源情報を1つ1つ入力するようにしてもよく、シミュレーションにおいて利用されることが想定される一般的な資源情報のリストを記憶したデータベースを予め用意しておき、シミュレーションを実施する病院や組織等の実状に応じた資源情報をシミュレーション実施者がこのデータベースから抽出し、適宜修正を施すことによって資源情報を生成するようにしてもよい。
【0075】
初期設定情報生成部208は、操作入力部204を介して入力されるシミュレーション実施者からの指示に応じてシミュレーションにおける初期設定情報を生成する。初期設定情報には、シミュレーションに用いる各医療資源(人材、搬送手段、医療設備、医療装置、医療器具、搬送器具等)およびそれら各医療資源の初期配置、各種処置(治療、搬送、移動等)に要する時間、各処置を実行可能な人材の種別(例えば、ある処置については医師しか実行できないなど)、各種処置に要する医療資源の種類や量、シミュレーション開始時のシミュレーション中の時刻、シミュレーション中における時間の経過速度(例えば、実際の時間の経過速度に対してシミュレーションにおける時間の経過速度を1倍速、2倍速、3倍速、6倍速のいずれかに設定)などの設定情報が含まれる。
【0076】
端末情報生成部209は、シミュレーションに用いる各参加者用端末30の端末IDと、各参加者用端末30を利用する参加者のシミュレーション中の役割とを対応付けた端末情報を生成する。また、端末情報生成部209は、参加者のシミュレーション中の役割あるいは配置位置に応じた基本表示画面を、参加者用端末30毎、参加者の配置位置毎、あるいは参加者が属する班毎に生成し、各参加者用端末30の端末IDと各参加者用端末30に対応する基本表示画面とを対応付けて端末情報に加える。なお、1つの参加者用端末30を同じ班に属する複数の参加者によって共用するようにしてもよく、その場合にはシミュレーションに用いる各参加者用端末30の端末IDと、各参加者用端末30に対応する班とを対応付けた端末情報を生成すればよい。
【0077】
基本シナリオ記憶部210は、上記各部によって傷病者シナリオ、資源情報、初期設定情報、および端末情報が設定されたシミュレーションシナリオ(基本シナリオ)を記憶する。なお、送受信部202を介して外部から取得し基本シナリオを基本シナリオ記憶部210に記憶させてもよく、各種記録媒体に記録されている基本シナリオを読み出して基本シナリオ記憶部210に記憶させてもよい。また、基本シナリオ記憶部210に複数の基本シナリオを記憶させておき、シミュレーション実施者がそれら複数の基本シナリオの中から訓練シナリオとしてシミュレーションに用いる基本シナリオを選択したり、訓練シナリオを作成するために用いる基本シナリオを選択したりするようにしてもよい。
【0078】
シナリオ編集部211は、操作入力部204を介してシミュレーション実施者からの基本シナリオの少なくとも一部の条件(例えば難易度に関する条件)に関するパラメータの設定値の入力を受け付け、当該設定値に応じて基本シナリオ記憶部210に記憶している基本シナリオの内容を自動的に変更し、シミュレーション実施者(シナリオ作成指示者)の指示に応じた訓練シナリオを作成する。上記設定値に応じた訓練シナリオの作成方法(基本シナリオの変更方法)の詳細については後述する。
【0079】
評価処理部212は、サーバー装置10のログ記憶部111に蓄積されたシミュレーション結果と、当該シミュレーションに適用した訓練シナリオを作成する際に算出した当該訓練シナリオについての最適解とに基づいて、シミュレーション結果の評価値を算出する。評価値の算出方法については後述する。
【0080】
実施者用端末制御部201は、シナリオ編集部211が難易度に応じて作成した訓練シナリオを、送受信部202を制御してサーバー装置10に送信させる。これにより、訓練シナリオがサーバー装置10に記憶され、シミュレーションを開始可能な状態になる。その後、操作入力部204を介してシミュレーション実施者からシミュレーションの開始指示が入力されると、実施者用端末制御部201は、送受信部202を制御してシミュレーションの開始指示をサーバー装置10に送信する。また、シミュレーションの実施中に操作入力部204を介してシミュレーションの一次停止指示、終了指示、各種設定の変更などの指示入力が行われると、実施者用端末制御部201は、この指示入力に応じた情報を送受信部202からサーバー装置10に送信させる。
【0081】
図6は、表示部203に表示されるインターフェース画面の一例を示す説明図である。この図に示す例では、表示領域A1,A2にシミュレーションの時刻が表示され、表示領域A3にシミュレーションの開始、停止、時間の経過速度の選択、選択した各指示内容のサーバー装置10への送信指示、および新たなシミュレーションシナリオの作成を開始するためのボタンが表示されている。また、表示領域A4,A5にはシミュレーションに用いる医療資源を設定するための画像が表示されている。具体的には、表示領域A4にはシミュレーションに参加する医師や看護士等の人材に関する情報を設定するための画像が表示され、表示領域A5には注射器等の医療器具に関する情報を設定するための画像が表示されている。また、表示領域A6にはシミュレーションにおける各傷病者の傷病者情報を設定するための画像が表示されている。
【0082】
なお、訓練シナリオにおいて設定する条件として、上述した各条件に加えて、地理的制約や医療行為に関する制約などを設定してもよい。地理的制約としては、各エリア間の移動時間が挙げられる。現実の災害現場や病院の位置関係を移動時間に反映することにより、より現実的なシミュレーションを行うことができる。医療行為に関する制約としては、各種治療の所要時間や問診時間、病院搬送での申し送り時間などが挙げられる。これらは処置にあたる医療従事者の処置能力を表し、医学的根拠を基に設定することが好ましい。
【0083】
(1−4. サーバー装置10の構成)
サーバー装置10は、サーバー制御部101、送受信部102、同期処理部103、操作情報取得部104、傷病者情報解析部105、資源情報解析部106、傷病者情報記憶部107、資源情報記憶部108、設定情報記憶部109、端末情報記憶部110、およびログ記憶部111を備えている。
【0084】
サーバー制御部101はサーバー装置10の各部の動作を制御するものである。
【0085】
送受信部102は、実施者用端末20および各参加者用端末30との間で各種情報の送受信を行う。
【0086】
同期処理部103は、実施者用端末20から受信したシミュレーション中におけるシミュレーションの開始時刻(例えば災害の発生時刻)および時間の経過速度に関する情報に基づいて、サーバー装置10自身、実施者用端末20、および各参加者用端末30におけるシミュレーション中の時刻を同期させる。具体的には、同期処理部103がシミュレーション上の時刻を示す時刻情報を定期的あるいは継続的に生成し、サーバー制御部101がこの時刻情報を送受信部102から実施者用端末20および各参加者用端末30に送信させることにより、これら各装置のシミュレーション上の時刻を同期させる。
【0087】
操作情報取得部104は、送受信部102が各参加者用端末30から受信した情報の中から各参加者の操作内容を示す操作情報を抽出する。
【0088】
傷病者情報記憶部107、資源情報記憶部108、設定情報記憶部109、および端末情報記憶部110は、それぞれ、送受信部102が実施者用端末20から受信した傷病者情報、資源情報、初期設定情報、および端末情報を記憶する。
【0089】
また、サーバー制御部101は、参加者用端末30から傷病者の生体情報、あるいはトリアージ判定に関する判定結果などを受信したときに、これらの情報を傷病者情報に加える。
【0090】
傷病者情報解析部105は、操作情報取得部104の取得した各参加者の操作内容(処置内容)と、傷病者情報記憶部107に記憶している傷病者情報とに基づいて、現時刻における傷病者の症状および位置、およびその後の傷病者の経過時間に応じた症状の変化を解析する。そして、サーバー制御部101は、送受信部102からその傷病者に関連する参加者用端末30に対して解析結果に応じた傷病者情報を送信させ、当該参加者用端末30の表示部303に表示される傷病者情報を更新させる。また、サーバー制御部101は、傷病者情報記憶部107に記憶している傷病者情報に現時刻における傷病者の症状および位置の情報を加えるとともに、傷病者情報記憶部107に記憶している傷病者情報を解析結果に応じて適宜更新する。
【0091】
なお、傷病者の搬送や治療等によって操作入力が行われた参加者用端末30とは異なる参加者用端末30において当該傷病者に関する情報を表示する必要が生じた場合、あるいは当該傷病者に関する表示内容を変更する必要が生じた場合、サーバー制御部101は、端末情報記憶部110に記憶している端末情報に基づいて当該参加者用端末30を特定し、当該参加者用端末30に対してそれを表示させるための情報を送信する。
【0092】
また、傷病者情報解析部105は、傷病者情報記憶部107に記憶している傷病者情報に基づいて、各傷病者の症状シナリオ、症状改善シナリオ、および症状悪化シナリオを解析し、各傷病者の容態が急変する時刻あるいは緊急の処置が必要な状態になる時刻である容態急変時刻を算出する。そして、容態が急変する時刻あるいは緊急の処置が必要な状態になる時刻に達した傷病者が存在する場合に、この傷病者に関連する参加者用端末30に対して容態急変あるいは緊急の処置が必要な状態になった傷病者を特定するための情報、および容態急変あるいは緊急の処置が必要な状態になったことを示す容態急変情報を送信する。
【0093】
なお、容態急変あるいは緊急の処置が必要な状態であることを判定するための各生体情報あるいは各生体情報の所定時間あたりの変化量等についての閾値は、例えば、初期設定条件として予め設定しておけばよい。また、症状や傷病者の年齢、体重、性別、病歴等の条件に応じて上記閾値を異ならせてもよい。また、症状や傷病者の年齢、体重、性別、病歴等の条件に応じて上記閾値を設定するための設定アルゴリズムを予め規定しておき、傷病者情報解析部105が傷病者毎に上記閾値を設定するようにしてもよい。
【0094】
資源情報解析部106は、操作情報取得部104の取得した各参加者の操作内容(処置内容)と、資源情報記憶部108に記憶している資源情報、および設定情報記憶部109に記憶している初期設定情報とに基づいて、シミュレーション上の現時刻における各医療資源の配置状況および利用状況を解析する。そして、サーバー制御部101は、その資源情報に関連する参加者用端末30に対して資源情報解析部106の解析結果に応じた資源情報を送信し、当該参加者用端末30の表示部303に表示される資源情報を更新させる。また、サーバー制御部101は、資源情報記憶部108に記憶している資源情報を解析結果に応じて更新する。
【0095】
なお、医療資源の搬送や消費等によって操作入力が行われた参加者用端末30とは異なる参加者用端末30においてその医療資源に関する情報を表示する必要が生じた場合、あるいは表示内容を変更する必要が生じた場合、サーバー制御部101は、端末情報記憶部110に記憶している端末情報に基づいて当該参加者用端末30を特定し、当該参加者用端末30に対してそれを表示させるための情報を送信する。
【0096】
例えば、参加者の操作内容が傷病者に対する治療処置であった場合、初期設定情報に基づいてその治療処置に要する治療時間、設備、資材等が解析される。そして、治療処置が終了する時間になるまではその治療処置にかかわっている医師や看護士等が他の処置を行えないことを示す資源情報が対応する参加者用端末30に送信され、当該参加者用端末30にはこれらの医師や看護士等が他の処置を行えないことを示す画像が表示される。また、治療処置が終了する時間になるまではその治療処置に用いている設備、資材等の医療資源を他の処置に用いることができないことを示す資源情報が対応する参加者用端末30に送信され、当該参加者用端末30には上記医療資源が他の処置に利用できないことを示す画像が参加者用端末30に表示される。また、治療処置によって医薬品等の医療資源が消費された場合には当該医療資源に関連する参加者用端末30における当該医療資材の残量等の表示が更新される。
【0097】
また、サーバー制御部101は、各参加者用端末30から受信した操作内容と当該操作が行われた時刻、および当該操作による傷病者情報および資源情報の変化をログ情報(履歴情報)としてログ記憶部111に記憶させる。
【0098】
また、サーバー制御部101は、実施者用端末20からシミュレーションの開始指示、一時停止指示、あるいは終了指示を受信すると、受信した指示に応じて各参加者用端末30にシミュレーション開始信号、一時停止信号、あるいはシミュレーション終了信号を送信する。
【0099】
また、サーバー制御部101は、シミュレーションを開始する際、あるいはシミュレーションの開始前に、各参加者用端末30に当該参加者用端末に対応する端末情報を送信する。これにより、各参加者用端末30には、シミュレーションを開始する際に、当該参加者用端末に対応する基本表示画面、および各医療資源の初期配置状態に応じた画像が表示される。
【0100】
(1−5. 参加者用端末30の構成)
参加者用端末30は、参加者用端末制御部301、送受信部302、表示部303、音声出力部304、操作入力部305、端末情報記憶部306、および時刻情報記憶部307を備えている。
【0101】
参加者用端末制御部301は、参加者用端末30の各部の動作を制御する。
【0102】
送受信部(端末側送受信部)302は、参加者用端末制御部301の指示に応じてサーバー装置10との間で各種データの送受信を行う。
【0103】
表示部303は、参加者用端末制御部301の指示に応じた画像を表示する。
【0104】
音声出力部304は、参加者用端末制御部301の指示に応じて音声出力を行う。例えば、サーバー装置10から容態急変情報を受信したときに容態急変を示す警告音を出力する。
【0105】
操作入力部305は、参加者からの操作入力を受け付ける。なお、操作入力部305は例えばマウスやキーボード等で構成されていてもよく、表示部303と一定化されたタッチパネルとして構成されていてもよい。
【0106】
端末情報記憶部306は、サーバー装置10から受信した当該参加者用端末30についての端末情報を記憶する。この端末情報には、基本表示画面、各医療資源の初期配置状態、各医療資源についての制限情報(例えば、各参加者の実行可能な処置および実行できない処置を示す処置実行可否情報など)が含まれる。
【0107】
時刻情報記憶部307は、サーバー装置10から定期的あるいは継続的に送信される時刻情報を記憶する。参加者用端末制御部301は、送受信部302が新たな時刻情報を受信する毎に時刻情報記憶部307に記憶させている時刻情報を更新する。
【0108】
図7は、対策本部班および黒エリア班に属する参加者の参加者用端末30に備えられる表示部303に表示される画像の一例を示す説明図である。この図に示す例では、医師等の人材の配置場所毎の表示エリア(集合エリア、現場派遣エリア、トリアージポストエリア、赤治療室エリア、黄治療室エリア、緑治療室エリア、搬入所エリア、および死亡判定・死体安置エリア)が表示されており、これら各表示エリア内に当該表示エリアに対応する配置場所に配置されている人材のアイコンが表示されている。
【0109】
そして、対策本部から移動指示を行う人材のアイコンをドラッグして移動先の配置場所に対応する表示エリアにドロップすると、図7における赤治療室エリアに示すように、移動先の配置場所に対応する表示エリア内に、この人材のアイコンと、この人材が移動中であること(あるいは他の処置を実施できない状態であること)を示す画像と、移動完了時刻(あるいは次の処置を実行可能になる時刻)とが表示される。なお、対策本部から各人材に対応する参加者への移動指示は、例えば口頭、電話、無線、院内放送、ネットワークを各種情報伝達手段等を用いて行えばよい。なお、移動指示を受けた人材に対応する参加者の参加者用端末30に対して、サーバー装置10が移動先に応じた基本表示画面、傷病者情報、資源情報、設定情報などを送信し、この参加者用端末30の表示を変更させるようにしてもよい。
【0110】
また、図7に示す例では、対策本部で管理している注射器、注射針、医薬品などの各医療資材を示すアイコンと、これら各医療資源の個数と、これら各医療資源を他の配置場所に搬送させるための送信ボタンとが表示されている。そして、参加者は、搬送させる医療資源の個数を指定して当該医療資源に対応する送信ボタンをドラッグし、搬送先の表示エリアにドロップすることにより、医療資源の搬送に関する操作入力を行う。参加者用端末30に対して操作入力が行われると、参加者用端末制御部301は、操作入力が行われた時刻を時刻情報記憶部307に記憶されている時刻情報に基づいて特定し、操作入力の内容と操作入力が行われた時刻とを含む操作情報を生成して送受信部302からサーバー装置10に送信させる。あるいは、参加者用端末制御部301が操作入力の内容を示す操作情報を生成して送受信部302からサーバー装置10に送信させ、サーバー装置10がこの操作情報を受信した時刻に基づいて操作入力が行われた時刻を算出するようにしてもよい。これにより、サーバー装置10において操作情報に基づく資源情報の変化に関する解析が行われ、解析結果に応じて更新された資源情報が関連する参加者用端末30に送信される。その結果、搬送元に対応する参加者用端末30における当該医療資源の個数が減少し、搬送先に対応する参加者用端末30における当該医療資源の個数が増加する。なお、対策本部から各医療資源の搬送処理を行う人材に対応する参加者への搬送指示は、例えば口頭、電話、無線、院内放送、ネットワークを各種情報伝達手段等を用いて行えばよい。
【0111】
また、図7に示したように、参加者用端末30の表示部303には、サーバー装置10から送信される時刻情報に応じた時刻を示す画像が表示される。
【0112】
なお、図7の例では、黒エリア班に属する参加者の参加者用端末30に、対策本部班に属する参加者の参加者用端末30と同様の画像が表示されるようになっている。ただし、黒エリア班の参加者の実行可能な操作は端末情報によって制限されており、黒エリア班に割り当てられた処置(例えば、死亡判定、死体安置場への移送など)に対応する操作以外は入力できないようになっている。なお、黒エリア班に属する参加者に対応する基本表示画面を生成しておき、黒エリア班に属する参加者の参加者用端末30にこの黒エリア班用の基本表示画面を表示させるようにしてもよい。
【0113】
図8は、第1トリアージ班に属する参加者の参加者用端末30における表示部303の一部に表示される画像の例を示している。第1トリアージ班に属する参加者の参加者用端末30の基本表示画面(図示せず)において1次トリアージを行う傷病者を選択すると、その時刻における傷病者の症状データ(図示せず)と、図8に示す1次トリアージの判定を支援する判定支援画像とが表示される。1次トリアージを行う参加者は、この判定支援画像に基づいてSTART法における各項目の判定を順次行う。具体的には、判定項目の下のランプが1項目づつ点滅して判定対象の項目が示され、参加者は判定対象の項目について○(OK)、×(NG)のいずれかを入力する。判定済みの項目の下のランプは点灯状態になり、未判定の項目の下のランプは消灯状態になる。そして、全ての項目の判定が終わると、各項目についての判定結果に応じてカテゴリ判定が自動的に行われ、各項目の下のランプがカテゴリ判定結果に応じた色で点灯する。あるいは、カテゴリの判定結果を文字や記号等で表示してもよい。また、カテゴリの判定結果、および各項目についての判定結果は参加者用端末30に対する操作情報としてサーバー装置10に順次送信され、それに応じて傷病者情報が更新される。
【0114】
また、第1トリアージ班の参加者(第1トリアージポストに配属された参加者)は、傷病者に対してICタグ(生体情報検出装置)を装着する処置に対応する操作入力を行う。これにより、この操作入力に応じた操作情報がサーバー装置10に送信され、サーバー装置10の傷病者情報解析部105がこのICタグによって検出される生体情報をシミュレーション上の時刻と傷病者情報とに応じて定期的あるいは継続的に算出し、算出結果に応じて参加者用端末30に送信する傷病者の現況情報を更新する。
【0115】
なお、本実施形態にかかるシミュレーションでは、1次トリアージの判定結果に応じて傷病者がいずれかの治療班あるいは黒エリアに自動的に搬送されるものとしている。ただし、傷病者の搬送を行う人材も参加者としてシミュレーションに参加する場合には、1次トリアージ後、これらの参加者の操作入力に応じて傷病者が搬送されるものとしてもよい。つまり、シミュレーションの規模や参加人数等に応じて、参加者による操作入力を必要とする処置と、サーバー制御部101が自動的に行う処置とを適宜設定すればよい。
【0116】
図9は、赤初期治療班に属する参加者(赤初期治療エリアに配属された参加者)の参加者用端末30に備えられる表示部303に表示される表示画面の一例を示す説明図である。
【0117】
図9の例では、赤初期治療班には第1治療台(第1治療室)および第2治療台(第2治療室)が配置されており、これら各治療台が別々の表示エリアに表示されている。また、シミュレーション上の時刻を示す画像、搬送されてきた傷病者の搬入所を示す表示エリア、第1治療室または第2治療室への入室待ちの傷病者を示す画像、第1治療室または第2治療室への入室待機中である人材あるいは資材を表示する表示エリア、手術待機中の人材あるいは資材を表示する表示エリア、他の配置場所へ転送待機中である人材あるいは資材を表示する表示エリアなどが表示されている。
【0118】
参加者である医師や看護士は、自身に対応するアイコンを所望する移動先にドラッグ&ドロップすることで自身の移動に関する操作入力を行う。また、傷病者のアイコンをドラッグ&ドロップすることでこの傷病者の治療台(治療室)への移送、および治療台から他の搬送先への移送に関する操作入力が行われる。また、表示部303には想定される治療内容を示すアイコンが表示され、傷病者に対して行う治療内容のアイコンをドラッグしてその傷病者のアイコン上でドロップすることにより、この傷病者に対する治療内容が操作入力される。参加者用端末制御部301は、これらの操作内容を示す操作情報を生成して送受信部302からサーバー装置10に送信する。
【0119】
また、参加者用端末制御部301からサーバー装置10に操作情報を送信すると、この操作情報に対応する処置の結果を反映した現況情報(傷病者情報および資源情報)がサーバー装置10から返信される。参加者用端末制御部301は、サーバー装置10から受信したこれらの情報に基づいて、図9に示したように、その操作内容に対応する処置が完了するまでの時間を表示するとともに、その処置が完了するまではこの処置に対応する医師や看護士に関する他の操作入力を不可とする。
【0120】
また、治療開始時には、第2治療台の表示エリアに示しているように、治療を行う傷病者に関してその時点で把握されている情報が表示される。この情報は、それ以前の処置によって取得あるいは生成された情報(例えば1次トリアージにおける各項目の判定結果、診察処置によって把握した症状など)、およびその時刻において傷病者から検出されている生体情報などである。傷病者の治療を行う医師に対応する参加者は、この情報に基づいて治療内容を判断して治療内容に関する操作入力を行う。また、傷病者のアイコンを選択すると、図10に示すように、この傷病者についてのその時点で把握されている生体情報(例えば、心拍数、呼吸数、血中酸素濃度(SpO))が表示される。
【0121】
また、サーバー装置10から傷病者の容態急変を示す容態急変情報を受信した場合、図11に示すように、傷病者の容態急変を示す画像が表示部303におけるその傷病者のアイコンの近傍に表示されるとともに、音声出力部304から容態急変を示す音声あるいは警告音が出力される。
【0122】
(2. トリアージ訓練のモデル化)
(2−1. モデル化の概要)
本実施形態では、災害医療シミュレーションをジョブスケジューリング問題の一種であるIPPS(Integrated Process Planning and Scheduling)問題に帰着させて定式化する。
【0123】
すなわち、各エリアで傷病者に処置を行う医療資源(トリアージポスト、治療台、救急車等)を機械とみなすと、傷病者は機械で実行されるジョブと考えられる。また、傷病者に対して各エリアで施す必要のある処置群はジョブを構成するタスク群、各処置のデッドラインは各タスクのデッドラインに当たると考えられる。このため、本シミュレータにおける災害医療シミュレーションは、ジョブスケジューリング問題と見なすことができる。
【0124】
シミュレーションではデッドラインを超えない範囲で各処置を実行するエリアや医療資源を自由に選択できる。例えば、ある傷病者を治療する場合、現場で全ての治療を完了することもできるし、現場では一切の治療をせず即座に救急車で病院への搬送を行った後に治療することもできる。このように、傷病者を救命する手順には複数の選択肢が存在するため、本実施形態にかかる災害医療シミュレーションは、ジョブスケジューリング問題の中でもジョブを完了するプロセスプランが複数存在するIPPS問題と見なせる。したがって、死亡する傷病者数の最小化をIPPS問題の目的関数にすれば災害医療シミュレーションはIPPS問題に帰着できる。
【0125】
(2−2. 分岐付き治療計画問題のモデル化)
本実施形態にかかる災害医療シミュレーションをモデル化について、より具体的に説明する。なお、ここでは、上述したシミュレータと同様、災害現場付近のトリアージポスト(1次トリアージポスト)と救護所、搬送先の病院前トリアージポスト、カテゴリごとの初期治療室(赤、黄、緑の初期治療室)の6エリアを対象例として説明するが、モデル化の対象はこれに限るものではない。また、ここでは、導出すべき傷病者の処置順および治療経路以外の条件(治療台、救急車の台数、各治療台での治療速度など)については予め設定しておき、変動しないものとする。また、ここでは、傷病者の救出順(1次トリアージポストへの到着順)は予め与えられ、災害現場付近のトリアージポスト(1次トリアージポスト)では救出順に傷病者のトリアージを行うものとする。
【0126】
災害医療シミュレーションではエリアごとに以下の処置を行うことができる。
災害現場付近のトリアージポスト(1次トリアージポスト):1次トリアージ、救護所への搬送。
救護所:治療,救急車での病院搬送。
病院前トリアージポスト(2次トリアージポスト):2次トリアージ、カテゴリに応じた初期治療室への搬送。
赤・黄・緑初期治療室:治療。
【0127】
傷病者に対する治療は災害現場付近の救護所および各カテゴリの初期治療室において実施可能であり、対象例では傷病者の治療経路は図12(a)〜図12(c)の3通りに限定される。1つ目は災害現場付近の救護所で必要治療の全てを行う(図12(a)の実線矢印)。2つ目は災害現場付近の救護所では延命治療のみを行い、病院搬送後に初期治療室で残りの必要治療を行う(図12(b)の実線矢印)。3つ目は災害現場では治療を行わず、病院搬送後に初期治療室で必要治療の全てを行う方法である(図12(c)の実線矢印)。
【0128】
治療経路が複数存在することを以下のようにモデル化する。すなわち、各エリアで行われる処置(タスク)をタスク集合Cとし、任意のタスクc,c∈C間に順序関係s[c,c]を定義する。順序関係s[c,c]とは,タスクの処理順序を表すバイナリ変数であり,c完了後にcでの処理が可能となる場合をc<cと表記すれば、下記式で表される。
【0129】
【数1】

【0130】
タスクc,c間に順序関係s[c,c]を指定することにより、図12(a)〜図12(c)のようなそれぞれの治療経路rを定義する。c<cとなるcが存在しないタスクcを開始タスク,c<cとなるcが存在しないタスクcを終了タスクと呼ぶ。治療経路rはいずれか1つの開始タスクからいずれか1つの終了タスクまで順序関係に従って到達するタスクの並びを表す。すなわち、r={c,c,・・・,c|r||s[c,ci+1]=1,∀=1,2,・・・,|r|−1}である。cは開始タスク、c|r|は終了タスクでなければならない。トリアージポストや治療台、救急車などのタスクを実行する医療資源は、機械集合Mとそれぞれの機械m∈Mで実行可能なタスクc∈Cを定義し、モデル化する。
【0131】
本モデルでは各傷病者の死期が分かるものとするため、黒カテゴリの傷病者は処置の対象とならない。したがって、黒カテゴリの傷病者は扱わない。延命治療を行った場合は死期が規定の時間だけ延長される。本モデルではn人の傷病者をn個のジョブとして扱い、治療経路や使用する機械(治療台、救急車など)によって変化する処置時間をモデル化するため、治療経路rにおけるタスクc,・・・,c|r|それぞれに対して,傷病者iのタスクcを機械mで処置した場合の処置時間t[c,m]およびデッドラインd[c,m]を定義する。各傷病者について治療経路、タスクごとに決められたデッドラインを違反した場合、傷病者は死亡する。
【0132】
(2−3. 分岐付きジョブスケジューリング問題の定式化)
(2−3−1. 問題の入出力)
(問題の入力)
問題の入力としては、大別すると、(i)災害医療環境シナリオ、および(ii)傷病者シナリオの2種類が存在する。
【0133】
災害医療環境シナリオの入力としては、タスク集合C、機械集合M、各機械で実行可能なタスクの集合C、タスクの順序関係集合S、および治療経路集合Rが与えられる。
【0134】
傷病者シナリオについては,ジョブの集合Jと、デッドラインd[c,m]の集合Dと、処置時間t[c,m]の集合Tとが与えられる。デッドラインd[c,m]の集合Dと処置時間t[c,m]の集合Tとは、治療経路r、タスクc、ジョブi、および機械m毎に与えられる。また、各ジョブiには開始タスクを実行可能になる時刻a[i]が与えられる。
【0135】
(問題の出力)
(i)最大救命率、(ii)最大救命率を得るための各ジョブiの治療経路r[i]∈R、および(iii)各ジョブiにおける各タスクcの開始時刻T[c]を出力する。図13は、制約条件に用いる記号と各記号の意味とを示している。
【0136】
(2−3−2. 制約条件)
図13は、制約条件に用いるパラメータを示す記号とそれら各記号の意味とを示している。傷病者iのタスクcを機械mで実行する場合の終了時刻をT[c,m]とする。なお、問題の出力である開始時刻は終了時刻から実行時間を引くことで算出可能である。また、機械mにおいて傷病者iのタスクcが傷病者jのタスクcよりも先に実行される場合に1、そうでない場合に0となるバイナリ変数Y[i,j,c,c]、およびジョブiにおいて治療経路rが選択されている場合に1、そうでない場合に0となるバイナリ変数X[i]を定義する。
【0137】
制約条件は(i)タスク実行順制約、(ii)割り込み禁止制約の2つである。タスク実行順制約は、タスクの実行順を入れ替えることができず、タスクが完了してからでなければ次のタスクが実行できないことを表す。ただし、開始タスク(h=1)の場合はそれに先行するタスクが存在しないため、時刻0をシミュレーション開始時刻とすればそのタスクの終了時刻がタスクの実行時間以降である必要がある。
【0138】
【数2】

【0139】
割り込み禁止制約は、同じ機械では同時にひとつのタスクのみ行い、割り込みを禁止することを表す。
【0140】
【数3】

【0141】
ただし、機械mが救急車である場合は、機械が次のタスク(傷病者搬送)を実行可能になるまでの時間はジョブが次のタスクを実行可能になるまでの時間と異なるため、下記式に従う。
【0142】
【数4】

【0143】
すなわち、救急車が次の傷病者搬送を実行可能になる時間は往復の時間が必要なため片道搬送時間t[c,m]の2倍に加えて、傷病者引き継ぎのために申し送り時間αが必要となる。
【0144】
(3. トリアージの有効性を考慮した難易度の定義)
(3−1. トリアージの有効性の考察)
トリアージの有効性を考慮して難易度を定義するため、トリアージによって救命率が向上する場合を考える。軽症な傷病者が処置を待っている状況で重症な傷病者が搬送されてきた場合、トリアージを行わずに処置を行うと、その処置順は到着順(FCFS;First Come First Served)になる。この場合、重症な傷病者は処置を待つ間に死亡してしまう可能性がある。これに対して、適切にトリアージを行うことにより、軽症な傷病者よりも重症な傷病者の処置を優先的に行うことで重症・軽症な傷病者の双方を救命できる可能性が高まる。
【0145】
本実施形態では、適切にトリアージを行わなければ救命率を向上できないシナリオはトリアージの有効性が高いシナリオであり、難易度が高いと見なす。このため、難易度を定義するにはトリアージの有効性を定量化する必要がある。
【0146】
傷病者が多数発生した場合にトリアージが有効になる理由は、傷病者の処置優先度を決定しその優先度に従って処置を行うことで救命率を向上できるからである。すなわち、トリアージポストに搬送されてきた傷病者に対してトリアージを行うことで傷病者の処置順が到着順とは異なる順に設定され、その結果救命される傷病者数が増加する。したがって、まず、トリアージの有効性がある状況かどうかを示す指標として(i)処置を待つ傷病者数を定義する。さらに、トリアージによって変化する救命率を定量化するため、本実施形態では到着順(FCFS)と適切にトリアージを行った時の処置順(最適順)を比較した時の(ii)処置順の違い、および(iii)その処置順変更によって生じる救命率の向上度合いに対応する2つの指標を難易度として定義する。
【0147】
(3−2. 難易度の定義)
(3−2−1. 混雑度)
処置cについて処置待ちとなる傷病者数を処置cの混雑度Q(c)とし、下記式(1)で定義する。
【0148】
【数5】

【0149】
ここで、s(c)は処置cにおける単位時間あたりの平均処置人数、λ(c)は処置cにおける単位時間あたりの最大到着人数である。単位時間あたりの最大到着傷病者数λ(c)は、処置cを治療経路候補に含む傷病者pについて、各傷病者pが処置cを実行するように治療経路を決定した場合の単位時間あたりの到着傷病者数とする。この理由は、各医療資源の単位時間あたりの到着傷病者数はスケジュールで選択した各傷病者の治療経路に依存して変わるからである。最大到着傷病者数を用いることで、スケジュールに依存しない形で混雑度を算出できる。混雑度が大きいほどその医療資源で処置待ちの傷病者が多く発生する。
【0150】
(3−2−2. 処置順逆転率)
処置cにおける処置順逆転率K(c)は到着順でのスケジュールSFCFSと最適順でのスケジュールSOPTの差違をKendall tau distance(非特許文献2参照)により定量化したものである。Kendall tau distanceは2つの順位の不一致度を表す指標であり,0から1の値を取り、0に近いほど順位が一致しており、逆に1に近いほど順位が一致しないことを表す。
【0151】
あるスケジュールSにおける処置cを実行する治療経路を選択した傷病者集合をP(S,c)とし,スケジュールSおよび処置cにおける傷病者i∈P(S,c)の処置順をO(S,c)(i)とすれば、処置順逆転率K(c)は以下の式(2)で定義される。
【0152】
【数6】

【0153】
処置順逆転率K(c)は処置cにおける総傷病者組数に対する処置順の前後関係が不一致な傷病者組数の割合を意味する。ただし、処置cに到達する前にSFCFSまたはSOPTのどちらか一方のみで傷病者pが死亡した場合、傷病者pを除いた傷病者の処置順に対して処置順逆転率を算出するものとする。
【0154】
(3−2−3. 救命率差)
最適順でのスケジュールSOPTにおける総傷病者数に対する非死亡者数の割合である到着順救命率l(SOPT)から到着順スケジュールSFCFSにおける総傷病者数に対する非死亡者数の割合である最適順救命率l(SFCFS)を引いた値を救命率差Lと定義する(式(3))。l(SOPT)≧l(SFCFS)であり、救命率差は0から1の値を取る。
【0155】
【数7】

【0156】
(4.最適処置順の導出方法)
上述したように、難易度の定義はFCFSスケジュールと最適スケジュールとの違いに基づいているため、難易度評価を行うためにはシナリオから最適スケジュールを導出する必要がある。
【0157】
最適処置順の近似解導出法はいくつかの方法が考えられるが、ここでは死期に基づく貪欲法(FDFS;First Deadline First Served)と本実施形態にかかるシミュレーションで提供する粒子群最適化法(PSO;Particle Swarm Optimization)について述べる。
【0158】
FDFSでは、医療資源が空いた時点で処置を待っている傷病者に対して死期に基づいて処置順を決定する。このため、医療従事者が実際に得られる情報と同じ情報に基づいて処置順を決定する。したがって、FDFSでは、医療従事者が下す判断に近い結果が得られると考えられる。
【0159】
FDFSでは、シナリオと治療経路が与えられれば必ず一つの決まった解が出力される決定的アルゴリズムであるため、短時間で解が求まるという長所がある。一方、医療資源が空いた時点で処置を待っている傷病者の情報しか利用しないため,その後到着する傷病者の状況によっては全体の救命率を最大化できない可能性がある。
【0160】
PSOでは、傷病者数の増加に従って解の導出時間が増加するが、FDFSと異なり医療資源が空いたとしても後で到着する傷病者を先に処置するという可能性を考慮して最適解の探索を行うため、任意のシナリオに対して良い近似解を導出できる。このような理由から本実施形態ではPSOを用いて最適処置順を導出する。
【0161】
(4−1. 死期に基づく貪欲法)
死期に基づく貪欲法(FDFS)では、医療資源に空きができた時刻に、処置を待っている傷病者の中で最も死期が近い傷病者に対して処置を行う。ただし、トリアージの概念に基づいて救命率を最大化するため、処置待ち傷病者のうち最も死期が近い傷病者iの救命を諦めることで、その時点での処置待ち傷病者全体の救命率が向上する場合のみ、傷病者iの救命を諦め、2番目に死期が近い傷病者を次に処置する。このFDFSを改良した貪欲法をFDFS+と呼ぶ。FDFS+のアルゴリズムを図14に示す。
【0162】
(4−2. 粒子群最適化に基づく最適処置順導出法)
(4−2−1. 粒子群最適化の概要)
粒子群最適化法(PSO)とは、社会性生物の習性を基にした最適化手法であり、Kennedyらによって提案された(非特許文献3参照)。鳥や魚のような群れを成す生物では、餌を探す場合などにどちらに向かって移動するかを決定する際、個体自身の情報だけでなく群れの情報を共有して効率的に探索していると考えられている。粒子群最適化ではこの特徴に着目し、個体の進行方向、個体が発見した最良点、群れ全体での最良点を考慮した移動を最適解の探索方針に取り入れ、効率的に解空間の探索を行う。探索方向と探索点は下記式に従って更新される。
【0163】
【数8】

【0164】
は個体iのt回目の探索点、pは個体iが過去に発見した最良点であり、pは群れ全体における最良点を示している。RおよびRは各探索において0から1の間で決定される乱数である。clocalおよびcglobalは重み付け定数であり、個の最良点と群れ全体の最良点の優先度をコントロールするために用いる。wは慣性重みと呼ばれるパラメータであり、値が大きければ探索範囲が広がり大域的な探索が可能となり、値が小さければ探索点周辺を小さく動いて局所的な探索を行う。下記式(6)に従ってwを探索回数tに応じて変化させることにより、効率的で精度の高い探索が可能になる。
【0165】
【数9】

【0166】
maxおよびwminはそれぞれwの最大値および最小値を示し、Tmaxは最大探索回数を示している。各探索の流れは、まず全ての個体の初期探索点と初期速度をランダムに生成する。探索点における目的関数の値を算出し、その値を各個体iのpとし、最良点の中で最も優れた点をpとする。以降は次の手順を繰り返す。すなわち、式(4)によって決定された進行方向に従って式(5)で探索点を決定し、目的関数の値を算出する。その値がpt−1における目的関数の値より優れていればpをxに更新し、そうでなければpをpt−1とする。全ての個体が探索を終了し、最も優れた目的関数の値を算出したpをpとする。探索を繰り返すにつれて群れは最良点に近づき、探索範囲が狭くなっていくためより詳細な探索で最良点を発見できる。
【0167】
(4−2−2. 目的関数)
目的関数は単純減少関数とし、値が減少するほど救命率の向上に寄与するように定義する。本実施形態では、目的関数に(i)死亡率,(ii)稼働率,(iii)死期と救命時刻との差の3つの関数の和を用い、各関数の重みをパラメータで調節する。死亡率は全傷病者のうち死亡した傷病者の割合であり、対象とする分岐付きスケジューリング問題では救命率の最大化、言い換えれば死亡率の最小化を行う。しかし、目的関数を死亡率のみとすると解空間が平坦となり、粒子の移動方向が定まりにくくなる。このため、本実施形態では、目的関数に稼働率、および死期と救命時刻との差を加える。
【0168】
稼働率はシミュレーション開始から最後の傷病者の処置が完了するまでの時間をシミュレーション時間とすると、シミュレーション時間に対する各機械(医療資源)での処置時間の割合の平均値である。稼働率が向上すれば単位時間当たりの処置効率が向上し、より多くの傷病者を救命可能になると考えられる。
【0169】
死期と救命時刻との差はシミュレーション時間に対する傷病者の死期と救命時刻の差との平均値である。死期と救命時刻との差がより小さい値であれば、死期までに余裕がある場合にはできるだけ待機してから治療を行う傾向が生じるため、待機することで生じる時間を他の処置に割り当てる可能性を探るための指標となる。なお、死亡した傷病者については死期と救命時刻の差をシミュレーション時間とし、死期が無限大である傷病者は0とする。以下では3つの関数についてそれぞれ述べる。
【0170】
(死亡率)
を傷病者i(1≦i≦n)が死亡した場合は1、救命した場合は0とすれば、死亡率(death_rate)は以下の式(7)で表される。
【0171】
【数10】

【0172】
は傷病者の各エリアでの処置終了時刻がその時点における直前のデッドラインを満たしているか確認することで求める。
【0173】
(稼働率)
稼働率(utilization_rate)は、各機械m∈Mについて機械mを処置に用いた総時間をTmとすれば、以下の式(8)で定義される。Endはシミュレーション時間を表す。
【0174】
【数11】

【0175】
(死期と救命時刻との差)
を傷病者iの死期と死亡時刻の差とすると、死期と救命時刻の差(margin)は以下の式(9)で定義される。
【0176】
【数12】

【0177】
以上の式(7)〜(9)で定義される値の重み付き和を目的関数とし、式(10)で定義する。
【0178】
【数13】

【0179】
(4−2−3.分岐付きジョブスケジューリング問題への粒子群最適化の適用方法)
粒子群最適化で用いられる1つの粒子は傷病者i(1≦i≦n)を表し、n個の粒子の集合を粒子群と定義する。この粒子群を用いてシミュレーション全体の治療スケジュールを表す。図15は、本実施形態において対象とする災害医療シミュレーションにおける粒子と粒子群の構成内容を示す説明図である。
【0180】
1つの次元が各傷病者に行われる処置を表しており、救護所での治療、救急車による病院搬送、病院前トリアージ、病院の初期治療室での治療をそれぞれ意味する。さらに治療経路を表す次元を含めて粒子には5つの次元が存在する。したがって、1つの粒子は5次元の解空間を移動し、目的関数の値を最適化する。各次元の座標を用いて各傷病者の治療経路と治療スケジュールを求める。
【0181】
傷病者iを表す粒子が各次元d(j=1,・・・,5)に保持するインスタンスは座標p[d],速度v[d]を保持し、さらに次元dで行うべきタスクに使用する医療資源(機械)のid m_id[d]及び治療経路care[d]、次元dでの処理時間treat_t[d]を保持する。これらの値から次元dにおける傷病者iの処置順と処理時間が決定され、それによって次元dにおける傷病者iのタスク開始時刻s_time[d]ならびに終了時刻e_time[d]が算出される。
【0182】
治療経路の決定にはその傷病者を表す粒子の第1次元の座標を用いる。粒子群最適化では解空間の連続性が保たれていなければ局所最適解に陥りやすく、良い解候補の周辺を探索してもさらに良い解を得られる可能性が低くなる。よって解空間の連続性が保たれるように座標を用いた治療経路の決定を行う。3つの治療経路のうち、治療の緊急度は救護所で全治療を行う場合が最も高く、延命治療の後に病院で残りの必要治療を行う場合、病院搬送後に全ての必要治療を行う場合の順で緊急度が下がる。解空間を粒子が移動するに当たって、周辺を探索した場合に急に緊急度が変化し、結果が変わることは粒子群最適化の特性上望ましくない。このため、正弦関数を用いることで解空間の移動による治療経路の変化を滑らかにする。
【0183】
図16は、x軸が第1次元の座標、y軸がsin(x)の値である。y>sin(π/4)の場合には救護所で全ての治療を行い、−sin(π/4)<y≦sin(π/4)の場合には救護所で延命治療を行った後に病院で残りの必要治療を行い、y≦−sin(π/4)の場合には病院搬送後に全治療を行う。各治療経路の決定範囲は等しく割り振られている。
【0184】
図17は、傷病者の各エリアでの処置順の取得法を示す説明図である。まず、第1次元以外の次元毎に粒子群の粒子の座標を昇順にソートする(図17の(i))。次に、得られた次元毎の列から、各エリアの処置ごとの傷病者の処置順を取得する(図17の(ii))。その後、エリアごとのソートで得られた順番に傷病者iの処置開始時刻s_timeと処置終了時刻e_tiimeを得ることでスケジュールが決定する。各エリアの処置で複数の医療資源が利用可能な場合は直近の利用可能な医療資源を使用する。s_timeは制約条件を満たすように開始タスクなら実行可能時刻以降、開始タスク以外なら前タスクのe_time以降で処置に使用する医療資源が使用可能となる直近の時刻とする。処置を開始する時点で既に死亡が確認された傷病者についてはそれ以降の処置を一切行わない。
【0185】
(4−2−4. 粒子群最適化への遺伝的アルゴリズムの適用)
図18は粒子群最適化の改良型アルゴリズム(遺伝的アルゴリズム)のフローチャートを示す。
【0186】
まず、実施者用端末20のシナリオ編集部211は、シミュレーションに用いるシナリオおよびパラメータ(混雑度、処置順逆転率、および救命率差)の入力を受け付ける(S1)。シナリオの入力方法は特に限定されるものではないが、例えば、基本シナリオ記憶部210に記憶している基本シナリオのリストを表示部203に表示させ、表示されたリストの中からユーザが操作入力部204を用いて所望する基本シナリオを選択する。パラメータについては、ユーザが操作入力部204を介して所望するパラメータを入力する。
【0187】
次に、シナリオ編集部211は、入力されたシナリオに基づいてN個の粒子群を生成し(S2)、変数x,yをx=1,y=1に初期化する(S3)。
【0188】
次に、シナリオ編集部211は、xの値が予め設定された探索回数T以下であるか否かを判断する(S4)。
【0189】
S4においてx≦Tであると判断した場合、シナリオ編集部211は、yの値が粒子群数N以下であるか否かを判断する(S5)。
【0190】
S5においてy≦Nであると判断した場合、シナリオ編集部211は、目的関数(上記式(10))の値を算出し、算出した値が最良値であれば当該粒子群の最良値pを更新し(S6)、yの値をインクリメント(y=y+1)し(S7)、S4の処理に戻る。
【0191】
一方、S5においてy≦Nではないと判断した場合、シナリオ編集部211は、y=1に設定するとともに、xの値をインクリメント(x=x+1)する(S8)。また、シナリオ編集部211は、N個の粒子群での最良値が過去最良(S1でシナリオおよびパラメータの入力を受け付けた後に算出した中で最良)であれば群れ全体の最良値pを当該最良値に更新する(S9)。
【0192】
その後、遺伝的アルゴリズムを確率に従って実行し(S10)、S4の処理に戻る。なお、S4においてx≦Tではないと判断した場合には、シナリオ編集部211は、処理を終了する。
【0193】
遺伝的アルゴリズムでは、突然変異演算、交叉演算、交換演算の3つの演算を粒子群の集合全体の探索が完了した際に与えられた確率に従って実行する。これにより、局所最適解に陥った場合に脱出しにくいという粒子群最適化の欠点を補うことができる。
【0194】
突然変異演算は、N個の粒子群の中から1つの粒子群を確率Pでランダムに選択し、そこに属する全ての粒子の治療経路に対応する次元(第1次元)の座標をランダムに移動させる。これにより、確率Pでランダムに選択された1つの粒子群において、治療経路がランダムに変更されることになる。治療経路の変更による救命率への影響は大きく、できる限り多くの可能性を探るため第1次元の座標のみ移動させる。
【0195】
交叉演算は、図19に示すように、N個の粒子群の中から2つの粒子群を確率Pでランダムに選択し、選択した各粒子群を二分する切断点となる粒子をランダムに決定し、一方の粒子群を切断点で分割して得られる2つの分割粒子群の一方と、他方の粒子群を切断点で分割して得られる2つの分割粒子群の一方とを入れ替える。
【0196】
交換演算は、N個の粒子群の中から2つの粒子群をランダムに選択し、一方の粒子群に含まれる粒子(傷病者の人数分だけ存在する)の位置および速度を、他方の粒子群に含まれる粒子(傷病者の人数分だけ存在する)の位置および速度と確率Pで交換する。すなわち、m人の傷病者がいる場合、各粒子群にはm個の粒子が含まれる。そして、一方の粒子群に含まれるm個の粒子について、他方の粒子群に含まれる当該粒子に対応する粒子と位置および速度の交換を行うかの判定を確率Pに基づいて行う。
【0197】
なお、粒子群最適化ではN個の粒子群に対する群れ全体の最良値の算出処理をT回行い、過去最良の最良値が算出される毎に採用する最良値を更新する。突然変異、交叉、および交換の各演算処理は、N個の粒子群についての群れ全体の最良値の算出処理が1回終わる毎に実行される。
【0198】
(5. 難易度の調整)
(5−1. 難易度調整方法の概要)
図20は、本実施形態における難易度調整方法の概要を示す説明図である。この図に示すように、本実施形態では、シミュレーション実施者が実施者用端末20に入力した難易度に関する要望値である要望難易度に基づいて、実施者用端末20のシナリオ編集部211が初期シナリオ(基本シナリオ)における混雑度、処置順逆転率、および救命率差をこの順で調整する。
【0199】
本実施形態では、シナリオ編集部211が、難易度の調整を、傷病者の到着時刻(1次トリアージポストへの到着時刻)および死期を変更することによって行う場合について主に説明する。
【0200】
初期シナリオ(基本シナリオ)では、傷病者の死期は、当該傷病者の症状に応じて医学的に現実的な範囲で設定されている。このため、死期の調整は一定の制限範囲内で行う。一方、到着時刻はあらゆる状況が考えられるため、自由に調整できるものとする。
【0201】
混雑度は単位時間辺りの最大到着人数(1次トリアージポストへの傷病者の単位時間あたりの到着人数)と平均処置人数(1次トリアージポストにおいてトリアージを実施可能な単位時間あたりの傷病者数の想定値)により定義される。混雑度の調整には単位時間あたりの到着人数または医療資源の設定(単位時間あたりの平均処置人数)を変化させればよい。本実施形態では、簡単のために、医療資源の単位時間あたりの平均処置人数は初期シナリオから変更しないものとするが、本実施形態にかかる重要度の調整方法は医療資源の設定と到着人数の両方を調整する場合にも容易に拡張できる。
【0202】
まず、シナリオ編集部211は、初期シナリオにおける傷病者の到着間隔を、所望の混雑度を満たすように拡大あるいは縮小することにより、混雑度の調整を行う。
【0203】
次に、シナリオ編集部211は、処置順逆転率を調整する。処置順逆転率を調整するためにはFCFSの場合の処置順、すなわち傷病者の1次トリアージポストへの到着順を変更する必要があるが、到着順を変更することによって救命率差が変動する可能性がある。このため、シナリオ編集部211は、全ての開始タスクを実行する傷病者の組に対して、到着順(到着順序)の入れ替えによって生じる処置順逆転率と救命率差の変動値をそれぞれ算出し、処置順逆転率および救命率差が要望難易度に近づく候補の中からランダムに入れ替え候補を選ぶ。この操作を処置順逆転率が要求値になるまで繰り返す。このとき、次に入れ替える候補が見つからない場合は最初から到着順の調整をやり直す。到着順の調整を一定回数繰り返しても所望の処置順逆転率を達成できなかった場合、それまでの調整結果で所望の処置順逆転率に最も近い到着順を採用する。
【0204】
最後に、シナリオ編集部211は、混雑度および処置順逆転率の調整が完了したシナリオに対して、救命率差が要求難易度を満足していない場合は救命率差の調整を行う。混雑度および処置順逆転率を調整結果のまま固定するため、救命率差の調整では傷病者の死期を調整する。その際、調整可能な死期の範囲を初期シナリオで与えられた死期の一定割合に制限し、医学的に非現実的な傷病者シナリオにならないようにする。死期の調整により所望の救命率差を達成できない場合は、処置順逆転率の調整に戻って同様の処理を繰り返す。この理由は与えられた初期シナリオからの調整ではそもそも実現不可能な要求難易度であるか処置順逆転率の調整結果が間違っていたかのどちらかが原因であり、その区別が困難なためである。要求難易度を完全に満足するシナリオが見つからない場合、処置順逆転率は満足するが救命率差が要件を満たさない場合やその逆もあり得る。その際、最も要求難易度に近いシナリオを決定するため処置順逆転率と救命率差それぞれに対して均等に誤差許容重みを与え、その重み付き和について最も要求難易度に近いシナリオを決定する。
【0205】
(5−2. 難易度の調整方法)
(5−2−1. 混雑度の調整)
図21は混雑度の調整方法を示す説明図である。調整前のシナリオの混雑度をQ(c)、シミュレーション実施者が入力した要望混雑度(要望難易度)をQ’(c)、調整前の到着間隔をλ(c)、調整後の到着間隔をλ´(c)とすると、シナリオ編集部211は、下記式(11)に示すように、到着後の到着間隔λ´(c)が調整前の到着間隔λ(c)のQ’(c)/Q(c)倍になるように調整する。
【0206】
【数14】

【0207】
具体的には、傷病者i,jの到着間隔をIij、最も到着が早い傷病者の到着時刻をa(pmin)、その他の各傷病者の到着時刻をa(p)とすると、最も到着が早い傷病者の到着時刻を基準としてその他の傷病者の到着時刻を下記式(12)に基づいて変更する。これにより、a(pmin)を基準として要望混雑度を満足できる。
【0208】
【数15】

【0209】
(5−2−2. 処置順逆転率の調整)
調整前のシナリオの処置順逆転率をK(c)、シミュレーション実施者が入力した要望処置順逆転率(要望難易度)をK´(c)とすると、シナリオ編集部211は、処置順の不一致数を下記式(13)で算出される値だけ増加させる。
【0210】
【数16】

【0211】
上述したように、到着順を変更すると救命率差が変動する可能性があるため、処置順逆転率の調整は救命率差を考慮しながら傷病者の到着順を調整することにより行う。
【0212】
まず、シナリオ編集部211は、処置cを実行する全ての傷病者組i,jに対して入れ替えを行った場合のFCFSに応じた処置順および救命率を計算する。傷病者組のうちFCFSでの処置順が先の傷病者をi,後の傷病者をjとすると、入れ替えはjの到着時刻をiより先に変更することで実現する。このとき、最適処置順はPSOにより導出するため、意図した調整結果にならない可能性があるが、救命率が悪化しない範囲であれば到着順調整を行っても処置順の最適性は保たれる。
【0213】
そこで、処置順逆転率の調整では、シナリオ編集部211は、到着順の入れ替えを行った場合におけるFCFSでの処置順およびFCFSで処置した場合の救命率を算出し、さらに、PSOによって最適処置順および最適処置順で処置した場合の救命率を算出する。そして、シナリオ編集部211は、これらの算出結果に基づいて処置順逆転率の変化量Cdiffi,j(c)および救命率差の変化量Ldiffi,j(c)を算出する。
【0214】
そして、シナリオ編集部211は、処置順逆転率が要望処置順逆転率(要望難易度)に近づき、かつ救命率差と要望救命率差(要望難易度)との差が広がらないような入れ替え組i,jの中からランダムに一組を選択し、到着時刻を調整することで入れ替えを実行する。入れ替え候補が見つからない場合、シナリオ編集部211は、到着順調整処理を最初からやり直す。所定回数繰り返しても要求難易度を満たせない場合、シナリオ編集部211は、それまでに見つかった最も良い解を採用し、救命率差の調整に用いる。
【0215】
図22は、処置順逆転率の調整処理(到着順調整処理)の概要を示す説明図である。この図に示す例では、到着順調整前には傷病者がA,B,Cの順で到着しており、FCFSスケジュールではA,B,Cの順で処置が行われ、最適スケジュールではA,C,Bの順で処置を行われる。
【0216】
到着順調整処理では、シナリオ編集部211は、図23に示すように、到着順の調整(入れ替え)を行った場合の処置順逆転率の変化量Cdiffi,j(c)および救命率差の変化量Ldiffi,j(c)をそれぞれの傷病者組に対して計算する。
【0217】
仮に処置順逆転率を0.25増加させ、救命率差を0.1増加させたいとすると、図23の例では、傷病者組A,Bの入れ替えは処置順逆転率が悪化するため条件を満たさない。また、傷病者組A,Cの入れ替えも処置順逆転率が要望値に近づくが、救命率差が悪化するため条件を満たさない。一方、傷病者組B,Cの入れ替えは処置順逆転率が要望値に近づき、救命率差は変わらないので条件を満たす。このため、図23の例では傷病者組B,Cのみが入れ替えが選択される。なお、条件を満たす対象が複数ある場合にはランダムに選ぶが、図23の例ではは1組だけであるため、傷病者Cの到着時刻を傷病者Bの到着時刻よりも前に変更する。
【0218】
到着順調整後には、FCFSスケジュールでは処置順がA,C,Bの順になり、処置順逆転率が0.2変化するため、シナリオ編集部211は、さらに調整を続け、処置順逆転率を0.05増加させ、救命率差を0.1増加させる傷病者組が無いかを繰り返し調べる。
【0219】
(5−2−3. 救命率差調整)
処置順逆転率の調整を行った後、救命率差と要望救命率差に違いがある場合には、シナリオ編集部211は、死期の調整(救命率差の調整)を行う。なお、処置順逆転率調整後の救命率差が要望救命率である場合には救命率差の調整を行わなくてもよい。
【0220】
(最適スケジュールでの救命率)≧(FCFSスケジュールでの救命率)であるため、シナリオ編集部211は、救命率差を大きくしたい場合はFCFSでの死亡者数を増やし、小さくしたい場合はFCFSでの死亡者数を減らすように傷病者の死期を調整する。なお、最適スケジュールでの救命率を変化させて救命率差を調整してもよいが、調整後にその都度意図した傷病者が死亡しているか生存しているかを確認しなければならないので手間がかかる。このため、ここでは、シナリオ編集部211は、決定的アルゴリズムであるFCFSにおける救命率を変化させることで救命率差を調整する。
【0221】
救命率差を増加させる場合、スケジュールSにおける傷病者iの救命完了時刻をf(i)、死亡する場合はp(i)=dead、救命できる場合はp(i)=aliveとすると、FCFSスケジュールでの死亡者数を増加させるために、シナリオ編集部211は、下記式(14)の操作により、死期をFCFSスケジュールの救命完了時刻の直前に設定する。なお、死期の調整範囲は予め定められており、死期を範囲外に調整する必要がある傷病者は対象に含めない。
【0222】
【数17】

【0223】
この調整により、傷病者はFCFSスケジュールでは死亡することになる。死期の調整は最小にしたいので、シナリオ編集部211は、調整対象となる傷病者として、救命可能傷病者の中で調整範囲が最も小さい傷病者を選択する。
【0224】
救命率差を減少させる場合、シナリオ編集部211は、傷病者iが完了できなかった処置の中で最も先に行う予定であった処置をc、処置cの治療時間をt(c)とすると、FCFSスケジュールでの死亡者数を減少させるために、下記式(15)の操作を行う。
【0225】
【数18】

【0226】
シナリオ編集部211は、FCFSスケジュールで死亡した傷病者に対して死期を救命完了予定時刻に設定することで、FCFSスケジュールでその傷病者が救命完了するまで生存させておくことができる。FCFSスケジュールでは死亡した傷病者に対しても死期が延びた場合の処置順を決定できるため、救命完了予定時刻を計算できる。シナリオ編集部211は、調整対象となる傷病者として、死亡傷病者の中で治療時間が最も短く、かつ調整範囲が定められた範囲内である傷病者を選択する。これは、死亡傷病者を生存させることにより、他の生存していた傷病者が死亡する可能性があるものの、治療時間の短い傷病者ならばその可能性が低いからである。
【0227】
なお、これらの調整により、FCFSスケジュールによる傷病者の死亡数が増減する結果、その他の傷病者の救命・死亡が調整前と変わる可能性がある。このため、複数の傷病者の調整を同時に行うと、要望した数の傷病者を救命・死亡できるとは限らない。そこで、シナリオ編集部211は、救命率差を調整する度にFCFSおよびPSOそれぞれにおいて処置スケジュールを求め、救命率差が調整目標通りになっているかを確認し、救命率差が要望救命率差(要望難易度)に一致していなければ2番目に死期の調整範囲が少ない傷病者を選択し、再度調整を行う。その際、PSOでは調整した処置順を固定する制約を付加して調整済み処置以降のスケジュールを導出することにより、調整した処置順逆転率が保たれるようにする。
【0228】
死期調整を行える傷病者候補が存在しない場合は、処置順調整での入れ替えにより別のより良い調整方法がある可能性を考慮し、シナリオ編集部211は、処置順逆転率の調整からやり直す。処置順逆転率および救命率差の調整を所定回数繰り返しても要求難易度を満足するシナリオが見つからない場合、シナリオ編集部211は、それまで見つかったシナリオの中で最も要求難易度に近いシナリオを出力する。
【0229】
(6. 性能評価)
(6−1. 評価環境)
本実施形態にかかる難易度の調整方法の性能を評価するため、ランダムに与えた初期シナリオに対して処置順逆転率および救命率差についてそれぞれ要望難易度(要望処置順逆転率および要望救命率差)を変化させた時の難易度誤差を算出した。なお、混雑度については必ず要望難易度を達成できるため評価の対象とはせず、全ての評価実験において要求混雑度は5.0とした。
【0230】
評価に用いた訓練設定は上述した図12と同様であり、傷病者は災害現場トリアージポスト(1次トリアージポスト)に到着時刻になると出現する。
【0231】
調整可能なパラメータは傷病者の到着時刻および死期であり、これらのパラメータ変更によって調整可能な処置は災害現場のトリアージポストおよび災害現場の治療エリアに限定されるため、混雑度の調整は傷病者が到着する災害現場のトリアージポストのみとし、処置順逆転率の調整は災害現場の治療エリアに関してのみ行った。
【0232】
図24および図25は、それぞれ、評価に用いた訓練シナリオおよび初期シナリオの設定を示す説明図である。また、図26は、評価に用いたPSOのパラメータ設定を示す説明図である。なお、評価実験に用いた計算機のスペックは、CPU:Intel Xeon 2.66GHz、メモリ:23.6GBである。
【0233】
また、本実施形態にかかる難易度の調整効率を確認するため、図24〜図26と同様の環境でランダムに傷病者の到着時刻および死期を変更してシナリオを生成するランダムシナリオ生成処理と、本実施形態にかかる難易度の調整処理とを行い、シナリオ生成時間および生成されたシナリオの誤差を算出した。
【0234】
(6−2. 評価結果)
(6−2−1. 要望難易度とシナリオ調整誤差)
図27は、ランダムに生成したある単一の初期シナリオに対して処置順逆転率および救命率差を変化させた時の調整誤差を示している。図27の左のグラフは要望処置逆転率に対する処置順逆転率の誤差を示しており、右のグラフは要望救命率に対する救命率差の誤差を示している。
【0235】
図27の左のグラフに示したように、処理順逆転率の誤差は、要望処置順逆転率が0.4〜0.5付近で小さくなっている。これは、初期シナリオの処置順逆転率が0.3であり、少ない調整で所望の処置順逆転率を達成できたためである。また、要望救命率差が0.0以外の場合に要望処置順逆転率0において処置順逆転率の誤差が大きくなっている。これは、(i)処置順逆転率が0の場合、処置順は完全に初期シナリオと一致していなければならず、救命率差は必ず0になり、また、(ii)処置順逆転率の調整では処置順逆転率と救命率差がどちらも要求難易度に近づくような入れ替えを繰り返すため、要望処置順逆転率が0の場合には逆転率調整の途中でそれ以上入れ替えを行う候補が見つからず、逆転率の調整を諦めるためである。このような理由から、要望処置順逆転率が0かつ救命率差が0より大きい場合に処置順逆転率の誤差が大きくなる。
【0236】
また、要望救命率差が1の場合に誤差が大きくなっているのは、要望処置順逆転率が1の場合には処置順を初期シナリオに対して完全に不一致にしなければならず、与えられた初期シナリオの傷病者の治療時間や死期に依存して達成可能な救命率差が限定され、要望逆転率が0の場合と同様に逆転率調整可能な候補が見つからず、要望救命率差によっては逆転率誤差が大きくなる場合があるためである。
【0237】
また、図27の右のグラフに示したように、要望救命率差が0.4以上の場合は救命率差の上昇分だけ救命率差の誤差が増加している。このことから、与えられた初期シナリオに対しては、到着時刻および死期の調整を行っても救命率差の最大値は0.3であることがわかる。
【0238】
(6−2−2. ランダム生成法との比較)
図28は、ランダムに傷病者の到着時刻および死期を変更してシナリオを生成するランダムシナリオ生成処理(ランダム生成)の場合と、本実施形態にかかる難易度の調整処理によってシナリオを生成した場合との比較結果を示している。なお、初期シナリオはランダムに与え、要求難易度は混雑度5.0,処置順逆転率は0.2,救命率差は0.3とした。
【0239】
図28に示したように、本実施形態にかかる難易度の調整処理により、963秒で要望難易度(要望処置順逆転率および要望救命率差)を完全に満足するシナリオを生成できた。これに対して、ランダム生成ではほぼ同じ時間でシナリオを生成できたものの、要望難易度(要望処置順逆転率および要望救命率差)に対する処置順逆転率および救命率差の誤差が10%程度生じた。
【0240】
(7. 難易度調整方法の変形例)
本実施形態では、シナリオの難易度の調整を傷病者の1次トリアージポストへの到着時刻および死期を変更することによって行う場合について説明したが、難易度の調整方法はこれに限るものではない。例えば、到着時刻および死期に加えて、あるいは到着時刻および死期の少なくとも一方に代えて、難易度に影響を及ぼす他のパラメータを変更するようにしてもよい。
【0241】
例えば、傷病者の容態が変化する時刻である容態変化時刻を変更することにより、難易度を調整してもよい。具体的には、図5に示したグラフにおけるシミュレーションの開始から容態変化時刻までの容態が安定している期間の長さを増減することによって難易度を調整してもよい。
【0242】
また、医師、看護士、救急車、医療器具等の医療資源の設定値を変更することで難易度を調整してもよい。
【0243】
また、複数の条件を変更する場合、それら各条件に重み付けを行って組み合わせるようにしてもよい。
【0244】
(8. シミュレーション結果の評価)
評価処理部212は、訓練シナリオ作成時にシナリオ編集部211が算出した当該訓練シナリオについての最適解に対応する死亡者数に対する、当該訓練シナリオを用いて実際にシミュレーションを行った結果における死亡者数の相対値(例えばシミュレーション結果の死亡者数を最適解の死亡者数で除算した値)を当該シミュレーション結果の評価値として算出する。これにより、シミュレーション結果を定量的に評価するための評価値を算出することができる。
【0245】
(9. むすび)
以上のように、本実施形態にかかるシミュレーションシステム1に備えられる実施者用端末(シナリオ作成装置)20は、予め作成されている基本シナリオの少なくとも一部の条件をシミュレーション実施者(シナリオ作成指示者)から指示された上記条件に関連する1または複数のパラメータの設定値に応じて変更することにより、上記設定値に応じた訓練シナリオを作成するシナリオ編集部211を備えている。
【0246】
これにより、従来のようにシミュレーション実施者が訓練シナリオの各構成内容を手作業で入力して設定する場合に比べて、所望する条件に応じた訓練シナリオを容易に作成することができる。
【0247】
また、本実施形態では、実施者用端末(シナリオ作成装置)20が、上記パラメータの設定値として、シナリオの難易度に関するパラメータ(混雑度、処置順逆転率、および救命率差)の設定値をシミュレーション実施者から受け付け、これらの設定値に基づいてシナリオ編集部211が基本シナリオを変更することにより、訓練シナリオを作成する。
【0248】
これにより、所望する難易度に応じた訓練シナリオを容易に作成することができる。また、作成した複数の訓練シナリオの難易度を共通の基準に基づいて比較することができる。
【0249】
なお、本実施形態では、訓練シナリオの難易度に関するパラメータの設定値として、シミュレーション実施者(シナリオ作成指示者)が混雑度、処置順逆転率、および救命率差の設定値を指定する構成について説明したが、これに限るものではない。例えば、混雑度、処置順逆転率、および救命率差のうちのいずれか1つ、または2つを指定する構成としてもよい。また、難易度に関するパラメータは、混雑度、処置順逆転率、および救命率差に限るものではない。例えば、上記パラメータとして、混雑度、処置順逆転率、および救命率差に加えて、あるいは混雑度、処置順逆転率、および救命率差のうちの1つ以上に代えて、適切な処置を行わなかった場合に容態が急変する傷病者の数である急変患者数を用いてもよい。
【0250】
また、本実施形態では、シナリオ編集部211が実施者用端末20に備えられている構成について説明したが、これに限るものではない。例えば、シナリオ編集部211を実施者用端末20とは異なる他の装置に備え、当該他の装置においてシナリオ編集部211が作成した訓練シナリオを実施者用端末20に供給することにより、当該訓練シナリオを用いたシミュレーションを実施できるようにしてもよい。
【0251】
また、シミュレーションに参加する参加者の数は特に限定されるものではなく、1人であってもよく、複数であってもよい。例えば、参加者がサーバー装置10にアクセスし、自身が配属されるエリアを任意に選択してシミュレーションを開始できるようにしてもよい。あるいは、サーバー装置10が参加者を配属するエリアを所定の基準に基づいて割り当てる構成としてもよく、サーバー装置10が参加者を配属するエリアをランダムに設定する構成としてもよい。
【0252】
また、参加者が配属されていないエリア(例えば、災害現場付近に設けられた1次トリアージポスト、災害現場付近に設けられた救護所、病院前に設けられた2次トリアージポスト、病院内の赤初期治療班、黄初期治療班、緑初期治療班、および黒エリアのいずれかのエリア)における傷病者に対する処置内容の決定および/またはトリアージ(治療の優先順位の決定)を、サーバー装置10のサーバー制御部101が自動的に行うようにしてもよい。
【0253】
また、上記実施形態において実施者用端末(シナリオ作成装置)20に備えられる各ブロック(特にシナリオ編集部211および評価処理部212)のうちの一部または全部を、CPU等のプロセッサを用いてソフトウェアによって実現してもよい。この場合、実施者用端末20は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである実施者用端末20の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、実施者用端末20に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによって達成される。
【0254】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0255】
また、実施者用端末20を通信ネットワークと接続可能に構成し、通信ネットワークを介して上記プログラムコードを供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【0256】
また、実施者用端末20の各ブロックは、ソフトウェアを用いて実現されるものに限らず、ハードウェアロジックによって構成されるものであってもよく、処理の一部を行うハードウェアと当該ハードウェアの制御や残余の処理を行うソフトウェアを実行する演算手段とを組み合わせたものであってもよい。
【0257】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0258】
本発明は、複数の傷病者に対して各傷病者の症状等を考慮し、限られた医療資源を有効に用いた最善の処置を行うための訓練を行う救急救命シミュレーションシステムで用いられるシナリオを作成するシナリオ作成装置に適用できる。
【符号の説明】
【0259】
1 シミュレーションシステム
10 サーバー装置
20 実施者用端末(シナリオ作成装置)
30 参加者用端末
201 実施者用端末制御部
202 送受信部
203 表示部
204 操作入力部
205 音声出力部
206 傷病者情報生成部
207 資源情報生成部
208 初期設定情報生成部
209 端末情報生成部
210 基本シナリオ記憶部
211 シナリオ編集部(シナリオ作成装置)
212 評価処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の傷病者に対して各傷病者の症状に応じた処置を行うためのシミュレーションを行うシミュレーションシステムにおいて用いられる上記シミュレーションのシナリオを作成するシナリオ作成装置であって、
上記シナリオには、
上記シミュレーションにおいて利用可能な医療資源の設定情報を示す医療資源シナリオと、
各傷病者の経過時間に応じた症状の変化を示す症状シナリオ、各傷病者に対する処置内容と当該処置内容に応じた処置を施した後の経過時間に応じた傷病者の症状の変化とを関連付けた症状改善シナリオ、および各傷病者が上記シミュレーション上の所定エリアに到着する時刻を示す到着時刻情報を含む傷病者シナリオとが含まれており、
上記シミュレーションでは、当該シミュレーションに参加する1または複数の参加者は、上記所定エリアまたは傷病者に対する処置を行う複数の処置エリアのうちのいずれかの処置エリアに配属され、配属されたエリアに到着した傷病者の症状に応じて当該傷病者に対する処置内容および当該エリアに到着した各傷病者に対する処置の優先順位の少なくとも一方を決定するようになっており、
予め作成されている基本シナリオの少なくとも一部の条件をシナリオ作成指示者から指示された上記条件に関連する1または複数のパラメータの設定値に応じて変更するシナリオ編集部を備えていることを特徴とするシナリオ作成装置。
【請求項2】
上記パラメータには、所定時間あたりの上記所定エリアに到着する傷病者数の最大値を上記所定エリアにおいて上記優先順位を決定可能な所定時間あたりの傷病者数の想定値で除算した値である混雑度に関するシナリオ作成指示者の要望値である要望混雑度が含まれており、
上記シナリオ編集部は、上記要望混雑度に応じて、上記基本シナリオにおける少なくとも一部の傷病者についての上記到着時刻情報を変更することにより上記最大値を変更するか、あるいは、上記基本シナリオにおける上記医療資源の設定情報のうち上記優先順位を決定可能な参加者の数を変更することで上記想定値を変更することにより、上記基本シナリオの混雑度を変更することを特徴とする請求項1に記載のシナリオ作成装置。
【請求項3】
上記症状シナリオには、少なくとも一部の傷病者について、当該傷病者の死亡時刻を示す情報が含まれており、
上記症状改善シナリオには、上記症状シナリオにおいて死亡時刻が示されている傷病者に対して所定の処置を行った場合の死亡時刻の変化を示す情報が含まれており、
上記シナリオ編集部は、死亡者数を最小にするための上記優先順位および各傷病者に対する処置内容の最適解を算出し、上記優先順位を各傷病者の上記所定エリアへの到着順に決定した場合と上記最適解に応じた順である最適順に決定した場合とで順序の前後関係が不一致である傷病者組数の総傷病者組数に対する割合である処置順逆転率を算出し、
上記パラメータには、上記処置順逆転率に関するシナリオ作成指示者の要望値である要望処置順逆転率が含まれており、
上記シナリオ編集部は、上記処置順逆転率を上記要望処置順逆転率に近づけるように上記基本シナリオにおける少なくとも一部の傷病者の上記所定エリアへの到着順序を変更することを特徴とする請求項1または2に記載のシナリオ作成装置。
【請求項4】
上記シナリオ編集部は、
上記優先順位を各傷病者の上記所定エリアへの到着順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である到着順救命率と、上記優先順位を上記最適順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である最適順救命率との差である救命率差を算出し、
上記パラメータには、上記救命率差に関するシナリオ作成指示者の要望値である要望救命率差が含まれており、
上記シナリオ編集部は、上記処置順逆転率を上記要望処置順逆転率に近づけ、かつ上記救命率差を上記要望救命率差に近づけるように上記基本シナリオにおける少なくとも一部の傷病者の上記所定エリアへの到着順序を変更することを特徴とする請求項3に記載のシナリオ作成装置。
【請求項5】
上記シナリオ編集部は、上記優先順位を決定する全ての傷病者組について上記到着順序を入れ替えた場合の上記処置順逆転率および上記救命率差を算出し、
上記処置順逆転率と上記要望処置順逆転率との差が小さくなり、かつ上記救命率差と上記要望救命率差との差が広がらない到着順序になるように上記全ての傷病者組のうちの少なくとも一部の到着順序を入れ替える処理を所定回数繰り返すことを特徴とする請求項4に記載のシナリオ作成装置。
【請求項6】
上記症状シナリオには、少なくとも一部の傷病者について、当該傷病者の死亡時刻を示す情報が含まれており、
上記症状改善シナリオには、上記症状シナリオにおいて死亡時刻が示されている傷病者に対して所定の処置を行った場合の死亡時刻の変化を示す情報が含まれており、
上記シナリオ編集部は、
死亡者数を最小にするための上記優先順位および各傷病者に対する処置内容の最適解を算出し、
上記優先順位を各傷病者の上記所定エリアへの到着順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である到着順救命率と、上記優先順位を上記最適解に応じた順である最適順に決定した場合の総傷病者数に対する非死亡者数の割合である最適順救命率との差である救命率差を算出し、
上記パラメータには、上記救命率差に関するシナリオ作成指示者の要望値である要望救命率差が含まれており、
上記シナリオ編集部は、上記救命率差を上記要望救命率差に近づけるように、上記症状シナリオにおける上記死亡時刻を示す情報、または上記症状改善シナリオにおける上記死亡時刻の変化を示す情報のうちの少なくとも一方を変更することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のシナリオ作成装置。
【請求項7】
上記シナリオ編集部は、
各傷病者を1つの粒子とみなして死亡者数を含む目的関数の値を最小にするための粒子群最適化演算を行うことにより上記最適解を算出することを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載のシナリオ作成装置。
【請求項8】
上記最適解に対応する死亡者数に対する、上記シナリオを用いたシミュレーションを実施した結果における死亡者数の相対値を上記シミュレーションを実行した結果の評価値として算出する評価処理部を備えていることを特徴とする請求項3から7のいずれか1項に記載のシナリオ作成装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のシナリオ作成装置を動作させるプログラムであって、コンピュータを上記シナリオ編集部として機能させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2013−109591(P2013−109591A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254297(P2011−254297)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)