説明

シナリオ生成支援装置およびシナリオ生成装置

【課題】ユーザーの置かれる状況が多様かつ動的に変化する機器のUI設計用のシナリオを生成または生成支援する。
【解決手段】シナリオ生成支援装置は、複数の状況要素、状況要素間の共起確率および状況要素間の遷移確率を記憶する状況要素データベースから、現在の状況と共起確率の高い状況要素および遷移確率の高い状況要素を抽出し、シナリオ作成者に提示して、現在の状況と同時にあるいは続いて出現する状況要素を選択させる。データベースに、状況要素の出現頻度や状況要素のUIへの影響度、状況要素に対するユーザーの対応などの付加情報を格納し、付加情報も考慮して状況要素を抽出することが好ましい。また、この検索条件をユーザーに指定させることも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザーインターフェースを設計する際に用いられるシナリオを生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シナリオを想定してユーザーインターフェース(User Interface; UI)を設計したり評価したりすることは、優れたUIを提供する上で重要である。UIの開発プロセスを定義した規格であるISO 13407 "Human-centred design processes for interactive systems"では、下記の4つのステップが定義されている。
・利用状況の把握と明示
・ユーザーと組織の要求事項の明示
・設計による解決案の作成
・要求事項に対する設計の評価
【0003】
ここでの最初のステップは「利用状況の把握と明示」であり、「利用状況」(context of use)はシナリオのことを表している。シナリオには、ユーザーの置かれた状況、ユーザーの目的、ユーザーの操作内容などが含まれる。より良いシナリオを生成することにより、第2のステップで適確な要求事項の定義が可能となり、ユーザビリティの高いUIを設計することができる。
【0004】
シナリオを用いたシステム設計に関する技術として、特許文献1では、複数のシナリオの各ステップの距離からステップの系列が共通する部分を発見したり、全体の評価値を求めたりしている。特許文献2は、これに対する改良として、シナリオのパターンを定めることで、類似度計算の精度を向上させている。これらは、すでに沢山のシナリオを作成してあることが前提であり、シナリオを新たに作る際の負担は軽減しない。
【0005】
特許文献3は、仮想空間における飛行機のシミュレーターに用いられるシナリオを、経路情報や環境情報を与えることで容易に作れるようにする技術である。ただし、この技術は、与えるパラメーターが飛行機のシミュレーターに特化しており、汎用性に欠ける。また、特許文献4は、旅館検索など、あらかじめ入出力の型が明確に定められたウェブサービスを利用するシナリオの作成を支援する。これも、入出力の型が定められているUIにしか適用できず汎用性に欠ける。
【0006】
特許文献5は、UIの「目的」に関するキーワードと「手段」に関するキーワードを識別し、各キーワードを対応付けることで、シナリオの作成を支援する。これにより、目的、すなわち、ユーザーの本質的な要求と、これを実現するための手段とを適切に整理して把握することを目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−301770号公報
【特許文献2】特開2009−151742号公報
【特許文献3】特開2005−189883号公報
【特許文献4】特開2008−217161号公報
【特許文献5】特開2008−250649号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ISO 13407: "Human-centred design processes for interactive systems"
【非特許文献2】JIS Z 8530:2000 「人間工学−インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、良いシナリオの作成には、知識や経験が必要であり、時間と労力もかかる。特に、車載機やモバイル機器のUIを設計する場合には、デスクトップPCなどの据え置き機器と違い、機器を使うユーザーの置かれる状況が多様かつ動的に変化するため、そのコストは相対的に大きい。状況により、ユーザーができることに違いがあり、適切なUIは状況ごとに異なるため、これらを検証できるように複雑なシナリオを作る必要がある。また、複雑なシナリオに対して、どのようなUIが適切であるか、または不適切であるかを判断する必要がある。
【0010】
特許文献1,2はすでにシナリオが作成されていることを前提として評価を行う技術であり、シナリオを新たに作成する際の負担は軽減しない。特許文献3,4はそれぞれ飛行機シミュレーターやウェブサービスを前提とした技術であり、車載機やモバイル機器のUI設計用のシナリオ作成に適用することは困難である。
【0011】
また、特許文献5の技術では、ユーザーの要求とその実現手段に注目しているため、「(何のために)何をどうする」ということについては支援するものの、「どういう状況で」ということについては考慮していない。そのため、車載機やモバイル機器などのようにユーザーの置かれる状況が多様かつ動的に変化する機器向けのシナリオとしては不十分である。
【0012】
本発明は、ユーザーの置かれる状況が多様かつ動的に変化する機器のUI設計用のシナリオを生成または生成支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明に係るシナリオ生成支援装置は、複数の状況要素、状況要素間の共起確率および状況要素間の遷移確率を記憶する状況要素データベースを備える。状況要素とは状況を構成する要素のことであり、いくつかの状況要素の組み合わせにより状況を定義できるものである。ある状況要素が出現しているときに別の状況要素が同時に出現する確率(共起確率)と、ある状況要素が出現しているときに別の状況要素が続いて出現する確率(遷移確率)も、状況要素データベースに記憶される。
【0014】
本発明のシナリオ生成支援装置はさらに検索手段、候補提示手段、選択手段を備える。検索手段は、ある状況要素を入力として、この状況要素との間で共起確率の高い状況要素および遷移確率の高い状況要素を抽出する。候補提示手段は、抽出された状況要素を、同時に出現する状況要素の候補および続いて出現する状況要素の候補としてシナリオ作成者に提示する。選択手段は、入力された状況要素と同時に出現する状況要素、または、入力された状況要素の次に出現する状況要素の選択をシナリオ作成者から受け付ける。
【0015】
このようにすれば、ある状況要素が与えられているときに、これと同時に出現する状況要素や次に出現する状況要素が自動的にシナリオ作成者に提示され、シナリオ作成者は提示された候補を選択するだけで、共起確率や遷移確率が高い適切なシナリオを生成することができる。候補が自動的に提示されるので、知識や経験に乏しいシナリオ作成者であっても、時間や労力をかけずに適切なシナリオを作成することができる。
【0016】
また、本発明における状況要素データベースは、各状況要素について付加情報として、状況要素の出現頻度、状況要素のユーザーインターフェースへの影響度、状況要素に対するユーザーの対応の少なくともいずれかを記憶していることが好ましい。そして、検索手段は、付加情報を考慮して入力された状況要素と同時にあるいは次に出現する状況要素を抽出することが好ましい。たとえば、検索手段は、共起確率や遷移確率が高く、かつ、出現頻度やUIへの影響度が高い状況要素を抽出する。このようにすれば、付加条件を考慮して候補となる状況要素が抽出されるので、特定の条件に合致した状況要素から構成されるシナリオの生成が容易となる。
【0017】
さらに本発明に係るシナリオ生成支援装置は、付加情報に関する検索条件を入力するために検索条件入力手段を備えて、入力された検索条件に従って検索手段が候補の抽出をすることが好ましい。このようにすれば、種々の条件に合致するシナリオが容易となる。
【0018】
また、本発明に係るシナリオ生成支援装置は、入力された状況要素と同時にまたは次に出現する状況要素が選択手段によって選択された場合は、検索手段によって選択された状況要素を新たな入力として再度検索を行い、検索結果を候補提示手段が提示することが好ましい。たとえば、入力された状況要素と同時に出現する状況要素が選択された場合は、元の状況要素と新たに選択された状況要素の両方を考慮して、共起確率や遷移確率の高い状況要素を再度検索することが好ましい。また、入力された状況要素の次に出現する状況要素が選択された場合は、選択された状況要素に対して共起確率や遷移確率の高い状況要素を再度検索することが好ましい。このようにすれば、状況要素が選択されるたびに新たな候補が提示され、シナリオ作成者は提示される候補を選択していくだけで一連のシナリオを作成することができる。
【0019】
また、上記では検索結果を候補としてシナリオ作成者に提示し、選択はシナリオ作成者に任せてシナリオ作成を行っているが、候補選択を自動的に行うことでシナリオを自動的に生成することも可能である。すなわち、本発明はシナリオ生成装置として捉えることも可能である。本発明に係るシナリオ生成装置は、状況要素データベースと検索手段を有する点は上記と同様である。そして、選択手段が、抽出された状況要素の中から、入力された状況要素と同時に出現する状況要素、及び、入力された状況要素の次に出現する状況要素を選択する。
【0020】
このようにすることでシナリオを自動的に生成することが可能となる。
【0021】
なお、検索手段による検索と選択手段による選択を繰り返すことで、複数の状況要素から構成されるシナリオを生成することが可能である。また、選択手段は入力された状況要素から、シナリオを1つだけ生成しても良いが、候補の選択を変えた複数のシナリオを同時に作成することが好ましい。
【0022】
さらに、本発明に係るシナリオ生成装置においても、状況要素に付加される付加情報を考慮して検索を行ったり、付加情報についての検索条件を入力したりするための検索条件入力手段を備えることも好ましい。
【0023】
本発明は、上記手段の少なくとも一部を含むシナリオ生成支援装置やシナリオ生成装置として捉えることができる。また、これらの処理を行うシナリオ生成支援方法やシナリオ生成方法、さらには、これらの方法を実現するためのプログラムとして捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ユーザーの置かれる状況が多様かつ動的に変化する機器のUI設計用のシナリオを容易に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施形態に係るシナリオ生成支援装置の機能構成を示す図である。
【図2】状況要素データベースが有するデータ項目を説明する図である。
【図3】(A)共起確率表および(B)遷移確率表を説明する図である。
【図4】ユーザビリティ指標の例を説明する図である。
【図5】第1の実施形態におけるシナリオ作成処理時の画面遷移を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係るシナリオ生成装置の機能構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1の実施形態)
第1の実施形態は、シナリオ作成者がUI設計用のシナリオを作成する際に、適切なシナリオを簡単に作成できるように支援するシナリオ生成支援装置である。
【0027】
<システム概要>
システム全体の概要を図1に示す。図1には、シナリオ生成支援装置(101)、システムが前提とする人物(102,107,109,115,116)・事物(103,104)が示されている。シナリオ生成支援装置101は、状況を構成する構成要素である状況要素をデータベース(108)化し、このデータベースを検索(111)してある状況要素と同時あるいは続いて出現する状況要素を検索(111)・提示(112)することで、シナリオ作成者109のシナリオ作成を支援する。
【0028】
シナリオ生成支援装置101は、ハードウェアとしては、CPU、RAMなどの主記憶装置、HDDなどの補助記憶装置、キーボードやマウスなどの入力装置、ディスプレイやスピーカーなどの出力装置などを含む情報処理装置(コンピュータ)である。メモリ上に展開されたOSやアプリケーションプログラムをCPUが実行することで上記の各機能部が実現される。もっとも、シナリオ生成支援装置101は複数のコンピュータがネットワークを介して連携することで実現されても良い。
【0029】
状況要素データベース108を作成する方法には主に2つの方法がある。1つは、外界から得られる様々な事象を集めた事象ログ(105)を解析(106)して、自動的に作成する方法である。事象ログの情報源として、ユーザーからの声を集めるコールセンター(102)、ウェブ上での口コミログ(103)、車載機やモバイル機器に搭載されたセンサー(104)などが考えられる。2つ目の方法は、経験を持ったUIデザイナー(107)が、手作業で状況要素データベースを作成する方法である。さらに、これら2つの方法を組み合わせて状況要素データベースを作成することも考えられる。
【0030】
本実施形態における状況要素データベースには、以下の情報が含まれる。
・状況要素
・状況要素の出現頻度
・状況要素のUIへの影響度
・状況要素間の共起確率
・状況要素に対するユーザーの対応
・状況要素に対するユーザーの感覚器の負荷
・予想される状況の変化
・状況要素間の遷移確率
・ユーザビリティ配慮
これらについての詳細は後述する。
【0031】
シナリオ作成者(109)が、検索条件を入力(110)してデータベースを検索(111)すると、その結果、状況要素候補が提示(112)される。こうして提示された状況要素候補の中から、シナリオ作成者が望ましいものを選択(113)し、シナリオ(114)を作成する。シナリオには対応するユーザビリティ配慮などが含まれる。
【0032】
こうして作成されたシナリオとユーザビリティ配慮を使って、UI設計者(115)がUIを設計したり、UI評価者(116)がUIを評価したりする。データベースからのユーザビリティ配慮の作成方法は後述する。
【0033】
<状況要素データベース>
状況要素データベース108の内容について詳しく説明する。図2に、状況要素データベース108が有するデータの各項目とその内容を示している。
【0034】
[状況要素]
状況要素は、UI設計対象の機器が使われる状況を構成する構成要素である。状況要素は無数に存在するが、大きく分けると以下の4つに分類される。
物理的状況:ユーザーが置かれている環境や使用中の機器に関する状況
社会的状況:ユーザーの行動の背景にありユーザーの行動の指針となる属性・目的・制約条件など
身体・生理的状況:ユーザーの身体に関する状況
感情・情緒的状況:ユーザーの精神に関する状況
【0035】
車載機器を例に取ると、物理的状況としては、車両状態(停車中、走行中(低速/中速/高速)、カーブ中)、自然・天候(朝、昼、夜、晴れ、雨、寒暖)、周囲の人や物(歩行者、自転車、バイク、車)の有無、走行環境(直線、カーブ、ダート道、交通規制有り)、混雑状況)、走行場所(トンネル、合流、駐車場、一般道、高速道路、細街路、スクールゾーン)、アプリケーションの使用状況(オーディオ、カーナビ、エアコン)などが状況要素の一例として考えられる。
【0036】
社会的状況としては、乗車目的(通勤・通学、買い物、送迎、旅行・レジャー)、同乗者の有無や同乗者との関係(配偶者、子供、友人、恋人、同僚)などが状況要素の一例として考えられる。身体/生理的状況としては、運転スキル、機器リテラシー、土地勘、覚醒(眠気)度合い、元気(疲労)度合い、などが状況要素の一例として考えられる。感情・情緒的状況としては、安心、冷静、リラックスなどのポジティブな感情、不安、焦り、緊張などのネガティブな感情などが状況要素の一例として考えられる。
【0037】
なお、ここで挙げた状況要素は例示にすぎず、UI設計に必要と思われるその他の任意の要素を含んでも良い。本発明において、状況要素データベース108に格納される状況要素の数や詳細度は限定されるものではないが、状況要素の数が多いほどシナリオ作成者109にかかる負担が大きいため、シナリオ生成支援装置101が役立つといえる。
【0038】
[状況要素の出現頻度]
状況要素eの出現頻度Feは、ユーザーが車載機やモバイル機器を使用する時間における状況要素の累積出現時間であり、式(1)で表される。
【数1】

ただし、c(t)は、状況要素eの時刻tにおける出現度合いを表し、「0」(出現無し)または「1」(出現有り)の二値を取るboolean関数か、「0」から「1」の浮動
小数点数を取る関数である。浮動小数点数を採用すれば発生度合いを連続値として捉えることができ、たとえば、「雨」という状況要素について小雨であれば小さい値を取り大雨であれば大きい値を取るようにしたりすることが考えられる。s,Tはそれぞれ使用開始時刻、使用時間を表す。
【0039】
[状況要素のUIへの影響度]
状況要素のUIへの影響度は、UIの設計において、その状況要素をどの程度配慮すべきであるかを表す重要度の主観的または統計的な指標であり、「0」から「1」の浮動小数点で表す。この影響度は、主観的指標として、経験のあるUIデザイナー107が手動で設定することができる。また、各種のセンサ104から状況を取得するのと合わせて、ユーザーの心理的負担や機器の操作頻度等も取得できているのであれば、これらを対応付けることで影響度を求めることもできる。
【0040】
[状況要素間の共起確率]
状況要素間の共起確率は、ある状況要素eが出現したときに状況要素eが出現する条件付き確率pij(0≦pij≦1)である。図3Aに示すような共起確率表として構成される。
【0041】
状況要素間の共起確率は、UIデザイナー107が経験に基づく判断で定めたり、事象ログ105から統計的に求めたりする。
【0042】
[状況要素に対するユーザーの対応]
状況要素に対するユーザーの対応は、状況要素が出現した際の、ユーザーの受ける影響や、ユーザーが取るもっともらしい行動である。後述する状況要素に対するユーザーの感覚器の負荷を見積もりやすいように、人間の感覚器ごとに定める。たとえば、「赤信号待ちで停車中」という状況要素に対して、下記の対応が考えられる。
視覚:この先のルートを確認する。信号が青になっていないか頻繁に確認する。
聴覚:青になっても発信しないと、後続車にクラクションを鳴らされるかもしれない。
触覚:ルートを確認するため、ナビ画面をタッチする。後続車のクラクションで、ナビの操作を途中でやめ、あわてて車を発進させることがある。
【0043】
状況要素に対するユーザーの対応は、UIデザイナー107が経験に基づく判断で定めたり事象ログ105から統計的に求めたりする。データベースには、テキスト情報として格納されても良いし、別途定められた「対応」を指す識別子として格納されても良い。
【0044】
[状況要素に対するユーザーの感覚器の負荷]
状況要素に対するユーザーの感覚器の負荷は、状況要素が出現した際にユーザーが取るもっともらしい行動や状況要素自体からの影響で受ける、ユーザーの感覚器の負荷である。感覚としては、人間の五感のうち、特に、視覚、聴覚、触覚を対象とし、対応する各感覚器の負荷を「0」から「1」の浮動小数点数で表す。たとえば、上述の「赤信号待ちで停車中」という状況要素に対して、次のような感覚器負荷が与えられる。
視覚:0.8
聴覚:0.3
触覚:0.6
なお、ここでは「0」から「1」の浮動小数点数として取り扱っているが、UIデザイナーやシナリオ作成者等が認識しやすいように、たとえば「1」から「3」の3段階の整数で取り扱っても構わない。
【0045】
状況要素に対するユーザーの感覚器の負荷は、UIデザイナー107が経験に基づく判断で定めたり事象ログ105から統計的に求めたりする。
【0046】
[予想される状況の変化]
与えられた状況要素に対して、事象ログ105や状況要素に対するユーザーの対応から次に起こると推測されるもっともらしい状況の変化を、予測される状況の変化と呼ぶ。たとえば、「室温が高い」という状況に、「エアコンの強度を上げる」というユーザーの対応を与えると、「室温が適正になる」が予測される状況の変化となる。データベースには、テキスト情報として格納されても良いし、変化後の状況を指す識別子として格納されても良い。
【0047】
[状況要素間の遷移確率]
予想される状況の変化には、「0」から「1」の浮動小数点数で表される、もっともらしさの指標が付与される。これを、状況要素間の遷移確率と呼ぶ。状況要素間の遷移確率は、UIデザイナー107が経験に基づく判断で定めたり事象ログ105から統計的に求めたりする。
【0048】
状況要素間の遷移確率は、ある状況要素eが出現した後に状況要素eが出現する条件付き確率tji(0≦tji≦1)である。図3Bに示されるように遷移確率表として構成される。
【0049】
[ユーザビリティ配慮]
ユーザビリティ配慮は、状況要素に関連してUIに対して施すべき配慮である。ユーザビリティ配慮は、ユーザビリティ指標ごとに記述される。ユーザビリティ指標には、汎用のユーザビリティ指標や、車載機やモバイル機器での利用などを想定してカスタマイズしたユーザビリティ指標を用いる。ユーザビリティ指標の例を図4に示す。データベースには、たとえば、テキスト情報として格納される。
【0050】
<検索>
検索部111は、現在の状況において同時に出現したり、続いて出現したりする確率の高い状況要素を、状況要素データベース108から抽出する。現在の状況が入力されていない場合には、起点となる状況要素が事前に与えられる必要がある。
【0051】
検索部111による検索では、共起確率や遷移確率の高い状況要素を検索するだけでなく、シナリオ作成者109によって指定された条件(検索条件)を満たすような状況要素を検索する。
【0052】
[検索条件入力]
状況要素を検索してシナリオを作成する際の、画面遷移の例を図5に示す。図5には、検索条件を入力するための画面(500)、検索結果を表示する画面(510)、シナリオの詳細を表示する画面(520)、状況要素の詳細を表示する画面(530)の4つが示されている。
【0053】
検索条件入力画面(500)では、現在の状況(502)として状況要素が列挙される。ここでは、「通勤中」「急いでいる」「細街路・スクールゾーン走行中」という3つの状況要素からなる状況が現在の状況であることを示している。本例では検索条件として、出現頻度の重視度合い(503)、UIへの影響度に対する重視度合い(504)、ユーザーの対応に対するキーワード(505)を、シナリオ作成者109が指定することができる。ユーザーの対応に対するキーワード(505)の欄に指定されたキーワードを「ユーザーの対応」に含むことが、検索のフィルタリング条件となる。キーワード検索の手法
やアルゴリズムは公知のものを採用すればよいので、その説明はここでは省略する。また、出現頻度やUIへの影響度に対する重視度合い(503,504)は、検索結果のランキングアルゴリズムを調整するための入力である。これらの要素を重視するようにすれば、単に共起確率や遷移確率の高い状況要素ではなく、出現頻度やUIへの影響度が高い状況要素が検索結果として得られることになる。
【0054】
なお、フィルタリング条件は、ユーザーの対応のみを対象とするのではなく、その他の項目を対象とするものであっても良い。さらに、検索のランキングアルゴリズムの調整も、出現頻度と影響度のみを対象とするのではなく、その他の項目を対象とするものであっても構わない。
【0055】
検索条件入力画面(500)で検索ボタン(505)を押すことで検索が実行され、その結果が検索結果画面(510)に表示される。また、シナリオボタン(506)を押すことで、シナリオ詳細画面(520)が表示され、現在までに作成されたシナリオの詳細を確認できる。
【0056】
[検索処理]
検索部111は、与えられた状況から、共起確率や遷移確率の高い状況要素を求める。この過程において、検索条件入力画面で入力された、出現頻度や影響度をどの程度重視するのかという度合いを反映させたり、与えられたキーワードなどによりフィルタリングしたりする。
【0057】
候補の順位付けでは、各候補に対して式(2)の値を計算し、降順でソートするなどの方法を用いる。
【数2】

は、現在の状況Sと与えられたフィルタリング条件Cに対する状況要素eのランクを表す。ここで、fは状況要素eの特徴ベクトルであり、共起確率表や遷移確率表の列、状況要素のUIへの影響度などが要素となる。
【0058】
関数fはフィルタリングを目的とした項であり、式(3)によって定義される。
【数3】

すなわち、フィルタリング条件を満たすか満たさないかを判定する関数であり、フィルタリング条件を満たす場合は「1」を、満たさない場合は「0」を返す。ただし、関数fは必ずしも「0」か「1」の値を返す必要はなく、あいまい検索として実装してフィルタリング条件への適合性に応じて「0」から「1」の間の浮動小数点数を返す関数としても構わない。
【0059】
関数gは、現在の状況Sと与えられた条件Cに対する状況要素eの特徴iに関するランクを計算する関数であり、「0」から「1」の間の値を取る。また、関数gの拡張として、特徴ベクトルの複数要素を横断的に評価する関数gi1,i2,...,ikを用いても良い。
【0060】
重み付け係数wは、状況要素の特徴iに対する重みであり、特徴iをどの程度重視す
るかによって、0≦w≦1、かつ、Σw=1を満たす範囲で変化させる。wを変化させることで、共起確率や遷移確率の高い状況要素を求めたり、出現頻度や影響度をどの程度重視するかの度合いを反映させたりすることができる。現在の状況と同時に出現する状況要素を検索する場合は共起確率に関連する特徴の重み付け係数を大きくし、現在の状況の次に出現する状況要素を検索する場合は遷移確率に関連する重み付け係数を大きくする。wが出現頻度や影響度について重みを有していれば、単純に共起確率や遷移確率のみに基づいた検索ではなく、出現頻度や影響度を考慮した検索が実行される。このように、重み付け係数wを調整して、検索入力画面で指定された条件での検索を実行できる。
【0061】
検索部111は、検索条件入力画面で指定された検索条件にしたがった条件で、共起確率と遷移確率をそれぞれ重視した検索を行い、現在の状況と同時に出現する状況要素候補および次に出現する状況要素候補を検索する。
【0062】
[候補提示処理]
状況要素候補提示部112は、検索部111によって上位候補として抽出された状況要素をユーザーに提示する。提示の例として、図5に検索結果画面510を示している。ここでは、現在の状況502と同時に出現する確率の高い候補が共起状況候補511として表示される。ここでは、「歩行者有り」と「朝」の2つが提示されているが、任意の個数の候補を提示して良い。
【0063】
また、現在の状況502の次に出現する確率の高い候補が遷移状況候補512として表示される。ここでは、「歩行者飛びだし」と「交差点」の2つが提示されているが、任意の個数の候補を提示して良い。
【0064】
また、共起状況候補や遷移状況候補はリンク(511,512)となっており、そのリンクを選択することで、状況要素詳細画面530が表示され、状況要素の詳細な説明が表示される。
【0065】
[選択処理]
シナリオ作成者109が、共起状況候補の隣にある追加ボタン513を押すと、選択された共起状況要素が、現在の状況において同時に出現する状況要素として追加され、シナリオが更新される。また、遷移状況候補の隣にある追加ボタン514を押すと、選択された遷移状況要素が現在の状況の次に出現する状況要素としてシナリオが更新される。更新されたシナリオは、シナリオ記憶部114に格納される。状況要素の追加は、状況要素詳細画面530の追加ボタン532を押すことによって可能である。
【0066】
なお、共起状況候補が選択・追加された場合は、追加された状況要素も考慮して再度検索処理を実行する。遷移状況候補が選択された場合は、選択された状況要素に基づいて再度検索処理を実行する。このようにすれば、状況要素を選択するたびに自動的に検索が実行されるためシナリオ作成者109の手間が省ける。ただし、状況要素が選択されるたびに、再度検索条件画面501を表示して、検索条件を指定させるようにしても良い。もちろん、図5に示している各種の画面の間では図中矢印で示すような画面遷移が可能であり、シナリオ作成者109は任意のタイミングで検索条件を変更することが可能である。
【0067】
[シナリオ]
シナリオ詳細画面520には、シナリオを構成する状況521が時系列で並べられる。各状況には、対応するユーザーの対応、ユーザーの感覚器の負荷、予想される状況の変化、ユーザビリティ配慮などが表示される(522)。戻るボタン523をシナリオ作成者109が押すことで、元の検索条件画面500に遷移する。
【0068】
シナリオ詳細画面に表示される、対応するユーザーの対応、ユーザーの感覚器の負荷、予想される状況の変化、ユーザビリティ配慮などは、各状況要素についてのエントリを足し合わせることで生成できる。ここで、重複したり矛盾したりする項目は削除すればよい。
【0069】
<本実施形態の効果>
本実施形態に係るシナリオ生成支援装置によれば、知識や経験が乏しいシナリオ作成者であっても、時間と労力をあまりかけることなく、車載機やモバイル機器など状況が多様かつ動的に変化するような機器に対するUI設計のためのシナリオを作成できる。この際、共起確率や遷移確率などを考慮して、同時あるいは続けて出現する状況要素が検索されて候補として提示されるため、シナリオ作成者は提示される候補を選択していくだけでシナリオを作成できる。そして、作成したシナリオについて、シナリオ詳細画面や状況要素詳細画面などで、ユーザーの対応やユーザビリティ配慮などの項目を容易に確認できるので、作成したシナリオが適切なものであるかの判断も用意である。
【0070】
また、共起確率や遷移確率だけでなく、出現頻度やUIに対する影響度などを考慮したり、キーワード検索により検索結果を絞り込んだりすることで、シナリオ作成者が所望するシナリオを容易に作成できる。
【0071】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係るシナリオ生成装置では、シナリオ作成者は条件入力を行うだけで、検索結果(状況要素候補)の選択は装置が自動的に行う。図6に本実施形態に係るシナリオ生成装置の機能ブロック図を示す。第1の実施形態との大きな違いは、検索結果を表示する状況要素候補提示部が省略されている点である。検索条件入力部110および検索部111の機能は第1の実施形態と同様であり、シナリオ作成者109から検索条件の入力を受け付け、その検索条件に従って状況要素候補を状況要素データベース108から検索する。本実施形態における選択部113は、検索部111の検索結果のうちから所定の基準に従って、現在の状況において同時あるいは続いて出現する状況要素を選択して、シナリオを自動的に生成する。
【0072】
状況要素の選択においては、有限個の共起状況要素から1つのステップを構成し、有限個のステップからシナリオを構成し、有限個のシナリオを生成する。たとえば、初期の状況(1つまたは同時出現する複数の状況要素)が与えられた場合に、この状況と同時に出現する状況要素を検索結果の中から、1つまたは複数選択する。このようにして決定された状況を入力として再度検索を行い、次のステップの状況要素を選択し、さらにこの状況要素との共起状況要素を選択していく。この処理を繰り返して、複数ステップからなるシナリオが生成される。共起状況要素や遷移状況要素を各種組み合わせることで、複数のシナリオが生成される。状況要素選択時には、検索処理でのランクが高い状況要素を優先的に採用することで、重要度の高いシナリオを生成することができる。また、検索結果の中からランダムに選択するようにしても構わない。
【0073】
このようにすれば、シナリオ作成者が状況要素を自ら選択することなく、UI設計のためのシナリオが自動的に生成されるため、シナリオ作成者の負担が軽減する。シナリオ作成者は、シナリオ詳細画面や状況要素詳細画面などで、詳細を確認することで自動的に作成されたシナリオが適切なものであるかも判断できる。
【符号の説明】
【0074】
108 状況要素データベース
110 検索条件入力部
111 検索部
112 状況要素候補提示部
113 選択部
114 シナリオ記憶部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の状況要素、状況要素間の共起確率および状況要素間の遷移確率を記憶する状況要素データベースと、
入力された状況要素に対して、共起確率の高い状況要素および遷移確率の高い状況要素を抽出する検索手段と、
検索された共起確率の高い状況要素および遷移確率の高い状況要素を状況要素候補として提示する候補提示手段と、
入力された状況要素と同時に出現する状況要素、または、入力された状況要素の次に出現する状況要素の選択を受け付ける選択手段と、
を備えるシナリオ生成支援装置。
【請求項2】
前記状況要素データベースには、各状況要素に関して、状況要素の出現頻度、状況要素のユーザーインターフェースへの影響度、状況要素に対するユーザーの対応の少なくともいずれかを含む付加情報が格納されており、
前記検索手段は、前記付加情報も考慮して状況要素の抽出を行う、
請求項1に記載のシナリオ生成支援装置。
【請求項3】
前記検索手段が検索する際の前記付加情報についての検索条件を入力するための検索条件入力手段をさらに備えており、
前記検索手段は前記検索条件入力手段によって入力された検索条件にしたがって状況要素の抽出を行う、
請求項2に記載のシナリオ生成支援装置。
【請求項4】
入力された状況要素と同時にまたは次に出現する状況要素が前記選択手段によって選択された場合に、前記検索手段は選択された状況要素を新たな入力として再度検索を行い、検索結果を前記候補提示手段が提示する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシナリオ生成支援装置。
【請求項5】
複数の状況要素、状況要素間の共起確率および状況要素間の遷移確率を記憶する状況要素データベースと、
入力された状況要素に対して、共起確率の高い状況要素および遷移確率の高い状況要素を抽出する検索手段と、
抽出された状況要素の中から、入力された状況要素と同時に出現する状況要素、及び、入力された状況要素の次に出現する状況要素を選択する選択手段と、
を備えるシナリオ生成装置。
【請求項6】
前記状況要素データベースには、各状況要素について付加情報として、状況要素の出現頻度、状況要素のユーザーインターフェースへの影響度、状況要素に対するユーザーの対応の少なくともいずれかが格納されており、
前記検索手段は、前記付加情報も考慮して状況要素の抽出を行う、
請求項5に記載のシナリオ生成装置。
【請求項7】
前記検索手段が検索する際の前記付加情報についての検索条件を入力するための検索条件入力手段をさらに備えており、
前記検索手段は前記検索条件入力手段によって入力された検索条件にしたがって状況要素の抽出を行う、
請求項6に記載のシナリオ生成装置。
【請求項8】
前記検索手段による検索と前記選択手段による選択を繰り返すことで、複数の状況要素
から構成されるシナリオを生成する、
請求項5〜7のいずれか1項に記載のシナリオ生成装置。
【請求項9】
複数の状況要素、状況要素間の共起確率および状況要素間の遷移確率を記憶する状況要素データベースを備える情報処理装置が、
入力された状況要素に対して、共起確率の高い状況要素および遷移確率の高い状況要素を抽出し、
抽出された共起確率の高い状況要素および遷移確率の高い状況要素を状況要素候補として提示し、
入力された状況要素と同時に出現する状況要素、または、入力された状況要素の次に出現する状況要素の選択を受け付ける、
シナリオ生成支援方法。
【請求項10】
複数の状況要素、状況要素間の共起確率および状況要素間の遷移確率を記憶する状況要素データベースを備える情報処理装置が、
入力された状況要素に対して、共起確率の高い状況要素および遷移確率の高い状況要素を抽出し、
抽出された状況要素の中から、入力された状況要素と同時に出現する状況要素、および、入力された状況要素の次に出現する状況要素を選択する、
シナリオ生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−242944(P2011−242944A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113461(P2010−113461)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】