説明

シベレスタットナトリウム塩又はその水和物を含有する注射用製剤

【課題】シベレスタットナトリウム塩又はその水和物を含有する注射用製剤について、低温における溶解液への溶解性を向上させ、及び/又は輸液と配合した際に長時間保存下においても配合変化を伴わず、澄明な溶液状態を維持しうる製剤を提供すること。
【解決手段】シベレスタットナトリウム塩及びその水和物、及び炭酸水素塩を含有する注射用製剤は、低温における溶解液に対する溶解性が向上した製剤であり、さらに輸液との配合下、長時間を経ても配合変化を伴わず澄明な溶液状態を維持する製剤であって、医療現場において非常に取り扱い易い製剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I):
【0002】
【化1】

【0003】
で示されるシベレスタットナトリウム塩又はその水和物(以下、本発明対象化合物ということがある。)、及び炭酸水素塩を含有する注射用製剤に関する。詳しくは、低温においても優れた溶解性を示し、さらに輸液との配合下、長時間を経ても配合変化を伴わず澄明な溶液状態を維持しうる注射用製剤に関する。
【背景技術】
【0004】
本発明対象化合物はエラスターゼ阻害活性を有し、全身性炎症反応症候群に伴う急性肺障害を改善する治療剤として用いられている極めて有用な化合物である。本発明対象化合物の投与対象となる重篤な状態にある急性肺障害患者は早急に処置を受ける必要があるため、用いられる治療剤の製剤形態としては注射剤が適しており、日本においては、1バイアル中に100mgのシベレスタットナトリウム水和物と、200mgのD−マンニトール及びpH調節剤を含む注射用凍結乾燥製剤が「注射用エラスポール100」の名称で販売されている。
【0005】
注射剤には幾つかの剤形があるが、最も頻用される剤形は注射用液状製剤と注射用凍結乾燥製剤である。注射用液状製剤は、注射剤成分が予め注射可能な液状の媒体に溶解された状態で提供され、用時にはそのまま、あるいは適当な輸液などに希釈後、注射液として投与される。一方、注射用凍結乾燥製剤は、注射剤成分が凍結乾燥体という固体の状態で提供され、用時に溶解液を用いて一旦溶解し、その溶液をそのまま、あるいは適当な輸液などに希釈後、注射液として投与される。
【0006】
仮に、注射用凍結乾燥製剤を溶解液に溶解するのに時間を要したり、あるいは溶解はしたもののその溶液を輸液と混合した際に白濁、析出、沈殿などの配合変化を起こした場合は、速やかに患者に投与することができず、患者の容体が一刻を争う場合には深刻な事態を招きかねない。注射用液状製剤の場合には、溶解液による溶解という工程が必要ないので溶解に時間を要するということはないが、輸液との混合による白濁、析出、沈殿などの配合変化の問題は注射用凍結乾燥製剤の場合と同様に懸念すべき事項である。
【0007】
上記のとおり、本発明対象化合物は急性肺障害患者に投与される薬物であるため、その注射用凍結乾燥製剤は、水(例えば、精製水、注射用蒸留水、及び滅菌水など)、生理食塩水、及びブドウ糖液などの溶解液に容易且つ速やかに溶解可能で、さらには、その調製した溶液は任意の輸液と混合しても配合変化を起こさず、澄明な溶液状態の注射液を調製しうるものであることが求められている。
【0008】
現在販売されている本発明対象化合物の注射用凍結乾燥製剤は、これまで通常、例えば室温が約15℃以上約35℃以下で取り扱われる場合は何ら問題なく取り扱いやすい製剤であったが、冬場の医療現場など、室温が約15℃以下となる条件下においては溶解液に対する溶解性が低下することがあり、加えて輸液の配合に際しては混合後pH値が約6以下になると析出し白濁や沈殿などの配合変化を生じることもあるなど、解決すべき課題を有していた。
【0009】
本発明対象化合物は公知の化合物であり、これまでにも本発明対象化合物に関連する多数の文献が報告されている。
【0010】
例えば、特開平3−20253号公報には、本発明対象化合物のカルボン酸体(フリー体)である下記式(II):
【0011】
【化2】

【0012】
で示される化合物が実施例2(63)に記載されている(特許文献1参照)。
【0013】
また、特開平5−194366号公報には、そのナトリウム塩・4水和物に相当する化合物が実施例3に記載され、その製造方法などについても記載されている(特許文献2参照)。
【0014】
さらに、特開2002−80361号公報には、リン酸三ナトリウム、その水和物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種のpH調整剤を含有する、N−[o−(p−ピバロイルオキシベンゼンスルホニルアミノ)ベンゾイル]グリシン・モノナトリウム塩・4水和物の溶液、及びそれを用いた製剤が記載されている(特許文献3参照)。
【0015】
またさらに、国際公開第2002/007724号パンフレットには、水及びエタノールの混合溶媒に溶解させたN−[o−(p−ピバロイルオキシベンゼンスルホニルアミノ)ベンゾイル]グリシン・モノナトリウム塩・4水和物を凍結乾燥する凍結乾燥製剤の製造方法、及びその方法により高用量の凍結乾燥製剤が得られることが記載されている(特許文献4参照)。
【0016】
そして、中国特許出願公開第1457772号明細書には、活性成分シベレスタットと充填支持剤、可溶化剤及びpH調整剤により作製された無菌注射用凍結乾燥粉末を特徴とする、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群を治療する注射剤が記載されている(特許文献5参照)。
【0017】
しかしながら、これらの先行技術文献には本発明対象化合物に関する記載があるものの、本発明対象化合物を有効成分とする注射用製剤の低温下での溶解液に対する溶解性や、輸液との配合変化については記載も示唆も一切ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平3−20253号公報
【特許文献2】特開平5−194366号公報
【特許文献3】特開2002−80361号公報
【特許文献4】国際公開第2002/007724号パンフレット
【特許文献5】中国特許出願公開第1457772号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来用いられてきた本発明対象化合物の注射用凍結乾燥製剤には、低温下、例えば、冬場(室温が約15℃以下)の医療従事において、溶解液に対する溶解性が低下することがある、加えて輸液との配合処方に際してpH値が約6以下となった場合に白濁、析出、及び/又は沈殿が生じることがあるという問題点があった。
【0020】
本発明の課題は、低温下での溶解性が改善され、及び/又は輸液との配合変化を起こさず、澄明な注射液を調製しうる注射用製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、本発明対象化合物及び炭酸水素塩を含有する注射用製剤が目的を達成することを見出した。
【0022】
すなわち、本発明は、
(1) シベレスタットナトリウム塩又はその水和物、及び炭酸水素塩を含有する注射用製剤、
(2) 炭酸水素塩を、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して0.25モル量以上含有する前記(1)記載の製剤、
(3) 炭酸水素塩が、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して0.25〜10モル量の炭酸水素ナトリウムである、前記(2)記載の製剤、
(4) 炭酸水素塩が、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して0.25〜0.95モル量の炭酸水素ナトリウムである、前記(3)記載の製剤、
(5) 炭酸水素塩が、炭酸水素ナトリウム及び/又は炭酸水素カリウムである前記(1)記載の製剤、
(6) 炭酸水素塩が、炭酸水素ナトリウムである前記(5)記載の製剤、
(7) さらにpH調整剤を含有し、所望によって賦形剤及び/又は無機塩を含有していてもよい前記(5)記載の製剤、
(8) pH調整剤が水酸化ナトリウムである前記(7)記載の製剤、
(9) 賦形剤がマンニトールである前記(7)記載の製剤、
(10) 無機塩が塩化ナトリウムである前記(7)記載の製剤、
(11) 注射用凍結乾燥製剤である前記(1)記載の製剤、
(12) 低温可溶性である前記(11)記載の製剤、
(13) 低温が5℃〜15℃である前記(12)記載の製剤、
(14) 溶解液が水、生理食塩水、及び/又はブドウ糖液である前記(12)記載の製剤、
(15) 注射用液状製剤である前記(1)記載の製剤、
(16) 注射用凍結乾燥製剤を溶解液で溶解した溶液である前記(15)記載の製剤、
(17) 注射用凍結乾燥製剤を溶解液で溶解した溶液を低pH輸液に希釈した溶液である前記(15)記載の製剤、
(18) 低pH輸液が、ソリタT3号、ソリタT2号、ソリタT1号、KNMG3号、フィジオゾール3号、アクチット注、及び/又はヴィーン3G注である前記(17)記載の製剤、
(19) 注射用凍結乾燥製剤を製造する溶液である前記(15)記載の製剤、
(20) 注射用凍結乾燥製剤を製造する溶液の溶媒が水である前記(19)記載の製剤、
(21) シベレスタットナトリウム塩又はその水和物、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して0.25〜0.95モル量の炭酸水素ナトリウム、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して4.3〜7.3モル量のマンニトール、及びシベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して0.27〜0.9モル量の塩化ナトリウムを含有する注射用凍結乾燥製剤、
(22) シベレスタットナトリウム塩又はその水和物、及び炭酸水素塩を含有する注射用凍結乾燥製剤であって、溶解液との混合後の液状製剤が低温で澄明な溶液状態を維持しうる製剤、
(23) シベレスタットナトリウム塩又はその水和物、及び炭酸水素塩を含有する注射用液状製剤であって、低pH輸液との配合後の液状製剤が澄明な溶液状態を維持しうる製剤、
(24) シベレスタットナトリウム塩又はその水和物を含有する注射用凍結乾燥製剤であって、溶解液との混合後に低温で澄明な溶液状態を維持しうる製剤を製造するために、注射用凍結乾燥製剤を製造する溶液に炭酸水素塩を使用(添加)する方法、
(25) シベレスタットナトリウム塩又はその水和物を含有する注射用液状製剤であって、低pH輸液との配合後に澄明な溶液状態を維持しうる製剤を製造するために、注射用凍結乾燥製剤を製造する溶液に炭酸水素塩を使用(添加)する方法、
(26) シベレスタットナトリウム水和物及び炭酸水素塩を含有する溶液を用いて製造された注射用凍結乾燥製剤、
(27) 炭酸水素塩が、炭酸水素ナトリウム及び/又は炭酸水素カリウムである前記(26)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(28) 炭酸水素塩がシベレスタットナトリウム水和物1モルに対して0.25モル〜1.2モル量の炭酸水素ナトリウムである、前記(27)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(29) 炭酸水素塩がシベレスタットナトリウム水和物1モルに対して0.5モル〜0.95モル量の炭酸水素ナトリウムである、前記(27)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(30) 炭酸水素塩がシベレスタットナトリウム水和物1モルに対して0.25モル〜1.2モル量の炭酸水素カリウムである、前記(27)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(31) 炭酸水素塩がシベレスタットナトリウム水和物1モルに対して0.5モル〜0.95モル量の炭酸水素カリウムである、前記(27)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(32) さらに賦形剤を含有する溶液を用いて製造された前記(26)〜(31)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(33) 賦形剤が、糖アルコールである前記(32)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(34) 糖アルコールが、マンニトール、キシリトール、及び/又はソルビトールである前記(33)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(35) さらに無機塩を含有する溶液を用いて製造された前記(26)〜(34)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(36) 無機塩が塩化ナトリウムである前記(35)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(37) シベレスタットナトリウム水和物、炭酸水素塩、マンニトール、及び塩化ナトリウムを含有する溶液を用いて製造された注射用凍結乾燥製剤、
(38) 炭酸水素塩が、炭酸水素ナトリウム及び/又は炭酸水素カリウムである前記(37)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(39) 溶液のpH値が7.5〜8.5である前記(26)〜(38)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(40) 溶液の溶媒が水である前記(41)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(41) 溶液のpH値がpH調整剤で調整される前記(39)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(42) pH調整剤が水酸化アルカリ金属及び/又は水酸化アルカリ土類金属である前記(41)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(43) 水酸化アルカリ金属が水酸化ナトリウムである前記(42)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(44) 凍結乾燥製剤を水に溶解したときの溶液のpH値が7.5〜8.5である前記(26)〜(38)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(45) シベレスタットナトリウム水和物100mgを含有する溶液を用いて製造された凍結乾燥製剤あたり、低温において、5mL〜10mLの溶解液で溶解したときに、澄明な溶液になる前記(26)〜(38)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(46) 低温が5℃〜15℃である前記(45)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(47) 溶解液が水、生理食塩水、及び/又はブドウ糖液である前記(45)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(48) シベレスタットナトリウム水和物100mgを含有する溶液を用いて製造された注射用凍結乾燥製剤あたり水10mLで溶解した溶液に、60mL〜85mLの低pH輸液を配合したときに、澄明な溶液になる前記(26)〜(38)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(49) 低pH輸液が、ソリタT3号、ソリタT2号、ソリタT1号、KNMG3号、フィジオゾール3号、アクチット注、及び/又はヴィーン3G注である前記(48)記載の注射用凍結乾燥製剤、
(50) 炭酸水素ナトリウム及び/又は炭酸水素カリウムを含有するシベレスタットナトリウム水和物の水溶液、
(51) 水溶液のpH値が7.5〜8.5である前記(50)記載の水溶液、及び
(52) 前記(50)記載の水溶液を用いて製造された製剤などに関する。
【発明の効果】
【0023】
シベレスタットナトリウム塩又はその水和物、及び炭酸水素塩を含有する注射用製剤(以下、「本発明の注射用製剤」と略記する場合がある。)は、溶解液に対してこれまでにない極めて優れた溶解性、特に低温、とりわけ約15℃以下において優れた溶解性を有し、及び/又は、輸液、特に低pH輸液(pH値が約7以下である輸液:例えば、ソリタT3号、ソリタT2号、ソリタT1号、KNMG3号、フィジオゾール3号、アクチット注、及びヴィーン3G注など)と配合した際に、さらには混合後長時間を経ても白濁、析出、沈殿などの配合変化を伴わず澄明な溶液状態を維持しうるという特徴を有している。
【0024】
言い換えれば、本発明の注射用製剤は、室温が約15℃〜約35℃である場合はもちろんのこと、室温が約5℃〜約15℃である場合でも、例えば、冬場などにおいて医療行為を実施する場合でも、溶解液に溶解し易く、非常に取り扱い易い製剤である。また、本発明の注射用製剤は、上記の低pH輸液以外の輸液との配合においては、問題なく配合変化を伴わず澄明な溶液状態を維持することはもちろんのこと、さらには低pH輸液との配合においても、配合変化を伴わず澄明な溶液状態を維持し、非常に取り扱い易い製剤である。
【0025】
したがって、本発明の注射用製剤は、低温においても重篤な状態にある急性肺障害患者を早急に処置する際に、速やかに澄明な溶液状態の注射液に調製できて速やかに患者に投与できたり、あるいは長時間おいても配合変化を起こさないため注射液の状態で保存できたりする特徴を有する、医療現場において非常に取り扱い易い製剤である。
【0026】
さらに、本発明の注射用製剤(特に、注射用凍結乾燥製剤)は、溶解液との溶解時においてシベレスタットの安定性が優れるという特徴を有している。具体的には、溶解液で溶解した時にシベレスタットの分解を抑えて純度の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明対象化合物は、公知の方法、例えば、前記特許文献1や、特開平9−40692号公報に記載の方法、及びコンプレヘンシブ・オーガニック・トランスフォーメーションズ(第2版)(Comprehensive Organic Transformations : A Guide to Functional Group Preparations, 2nd Ed.)(Richard C. Larock著、John Wiley & Sons Inc.(1999))に記載された方法などを適宜改良し、組み合わせることによって製造することができる。また、製造された本発明対象化合物は、通常の精製手段、例えば、常圧下又は減圧下における蒸留、シリカゲル又はケイ酸マグネシウムを用いた高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、あるいはカラムクロマトグラフィー又は洗浄、再結晶などの方法により精製することができる。また、前記の式(II)で示された本発明対象化合物のカルボン酸体(フリー体)、即ちシベレスタットも、前記本発明対象化合物の製造方法に準じて製造し、精製することができる。
【0029】
本発明において、本発明対象化合物は、結晶でも、アモルファスでも、又はいかなる形態の固体(例えば、結晶とアモルファスの任意の割合の混合物など)であってもよいし、あるいは本発明対象化合物と実質的に同等のものであってもよい。本発明対象化合物と実質的に同等のものとしては、例えば、前記の式(II)で示された本発明対象化合物のカルボン酸体(フリー体)の水溶液に対して、例えば、1当量以上のナトリウム供与体(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウムなど)を添加したもの、前記の式(II)で示された本発明対象化合物のカルボン酸体(フリー体)に対して、例えば、1当量以上の水酸化ナトリウム水溶液などを添加したもの、あるいは前記の式(II)で示された本発明対象化合物のカルボン酸体(フリー体)の1ナトリウム塩に水を添加したものなどが挙げられる。
【0030】
本発明において、注射用製剤には、注射用凍結乾燥製剤と注射用液状製剤が含まれる。
【0031】
シベレスタットナトリウム塩又はその水和物、及び炭酸水素塩を含有する注射用製剤、すなわち本発明の注射用製剤が注射用凍結乾燥製剤である場合、以下単に、「本発明の注射用凍結乾燥製剤」と略記する場合がある。また同様に、本発明の注射用製剤が注射用液状製剤である場合、以下単に、「本発明の注射用液状製剤」と略記する場合がある。
【0032】
本発明において、注射液とは、そのまま生体に注射することが可能な液状の組成物を意味する。
【0033】
本発明において、注射用液状製剤とは、注射剤成分が予め注射可能な液状の媒体に溶解された状態で提供される製剤を意味し、用時にはそのまま注射液として、あるいは所望により適当な輸液などに希釈後、注射液として投与される。注射用液状製剤は、一般に液状製剤として用いられるものであれば特に限定されない。具体的には、(a)本発明対象化合物及び炭酸水素塩などを含有する注射用凍結乾燥製剤を製造する際に調整された溶液の状態で提供される製剤、(b)本発明対象化合物及び炭酸水素塩などを含有する注射用凍結乾燥製剤が溶解液に溶解された状態で提供される製剤、及び(c)本発明対象化合物及び炭酸水素塩などを含有する注射用凍結乾燥製剤を溶解液で溶解し、その溶液が輸液で希釈された状態で提供される製剤などが挙げられる。
【0034】
本発明の注射用液状製剤の溶媒としては、一般に注射用製剤として用いられるものであれば特に限定されない。本発明において、好ましい本発明の注射用液状製剤の溶媒としては、水(例えば、注射用蒸留水、滅菌水、及び精製水など)、水及び有機溶媒(例えば、エタノールなど)の混合溶媒などである。より好ましくは、水である。
【0035】
本発明において、注射用凍結乾燥製剤とは、注射剤成分が凍結乾燥体という固体の状態で提供される製剤を意味し、用時には溶解液を用いて一旦溶解し、その溶液をそのまま注射液として、あるいは所望により適当な輸液などに希釈後、注射液として投与される。すなわち、注射用凍結乾燥製剤に任意の溶解液を添加して溶解したものは、注射用液状製剤と実質的に同等のものであるということができる。
【0036】
本発明の溶解液とは、注射用凍結乾燥製剤の容器(例えば、バイアル等)内に、シリンジ等を用いて凍結乾燥体の溶解のために少量(概ね10mL以下)加えられる液状の媒体を指し、具体的には、水(例えば、精製水、注射用蒸留水、及び滅菌水など)、生理食塩水、及び/又はブドウ糖液などが挙げられる。
【0037】
本発明の注射用製剤は、低pHではない輸液との配合において配合変化を起こさないことはもちろんのこと、低pH輸液との配合においても優れた溶解性を示す。すなわち、この「低pH輸液溶解性」とは、低pH輸液と混合しても配合変化を起こさず澄明な溶液状態であり、かつその状態を長時間維持しうることを意味する。詳しくは、本発明の注射用製剤が注射用液状製剤である場合には、その製剤が各種の低pH輸液と混合された際に配合変化を起こさず澄明な溶液状態であり、かつその状態を長時間、好ましくは6時間〜24時間維持しうることを意味し、本発明の注射用製剤が注射用凍結乾燥製剤である場合には、その製剤に溶解液を添加して調製した溶液が各種の低pH輸液と混合された際に配合変化を起こさず澄明な溶液状態であり、かつその状態を長時間、好ましくは6時間〜24時間維持しうることを意味する。ここで、低pH輸液とは、pHが約7以下、好ましくは約6以下の輸液を指し、具体的には、アクチット注、ヴィーン3G注、キリット注5%、グリセオール注、KN1号、ソリタT1号、ソルデム1、KN3号、KNMG3号、ソリタT3号、ソルデム3A、フィジオゾール3号、ソリタT2号、低分子デキストラン糖注、及びマルトス−10などが挙げられる。
【0038】
本発明の注射用凍結乾燥製剤は低温可溶性でもある。この「低温可溶性」とは、低温下において溶解液に対して優れた溶解性を示すことを意味する。本発明の注射用凍結乾燥製剤は低温可溶性であるので、低温下、好ましくは約5℃以上約15℃以下で溶解液を添加した場合にも速やかに溶解可能で、容易に溶液を調製することができる。
【0039】
本発明において、シベレスタットナトリウム塩の水和物としては、シベレスタットナトリウム塩の分子に任意の数の水分子が水和したものであれば特に限定されない。シベレスタットナトリウム塩の水和物としては、例えば、シベレスタットナトリウム塩1水和物、シベレスタットナトリウム塩2水和物、シベレスタットナトリウム塩3水和物、シベレスタットナトリウム塩4水和物、及びシベレスタットナトリウム塩5水和物が好ましく、シベレスタットナトリウム塩4水和物が特に好ましい。
【0040】
本発明において、炭酸水素塩としては、一般に注射用製剤として用いられるものであれば特に限定されない。炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素アルカリ金属塩が好ましく、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、及びこれらの任意の割合の混合物が特に好ましい。炭酸水素塩は、無水物に限定されず、水和物として添加しても構わない。
【0041】
炭酸水素塩の含有量としては、本発明の作用効果を発揮しうる範囲であれば特に限定されない。炭酸水素塩の含有量の下限は、通常、上述した低pH輸液溶解性及び/又は低温可溶性の作用効果を有効に発揮させる観点から、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して、約0.25モル以上、さらに約0.26モル以上、さらに約0.3モル以上、さらに約0.4モル以上、特に約0.5モル以上が好ましい。また、炭酸水素塩の含有量の上限は、通常、上記の作用効果に加えて注射用凍結乾燥製剤の製剤化のし易さの観点から、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して、約10モル以下、さらに約6モル以下、さらに約4モル以下、さらに約2モル以下、さらに約1.5モル以下、さらに約1.2モル以下、さらに約1.06モル以下、さらに約1.0モル以下、さらに約0.98モル以下、さらに約0.97モル以下、さらに約0.96モル以下、特に約0.95モル以下が好ましい。
【0042】
具体的には、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して、約0.25モル〜約10モルの割合である含有量が好ましい。さらに好ましい炭酸水素塩の含有量は、約0.25モル〜約6モル、約0.25モル〜約4モル、約0.25モル〜約2モル、約0.25モル〜約1.5モル、約0.25モル〜約1.2モル、約0.25モル〜約1.2モル、約0.26モル〜約1.06モル、約0.25モル〜約0.95モル、約0.26モル〜約0.95モルである。最も好ましい炭酸水素塩の含有量の範囲は、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して、約0.5モル〜約0.95モルの割合である。
【0043】
本発明の注射用製剤には、必要に応じて、賦形剤、pH調整剤、及び/又は無機塩などの群から選択される1つ以上の成分を含有してもよい。また、その他にも、必要に応じて、安定剤、無痛化剤、緩衝剤、及び/又は保存剤などの群から選択される1つ以上の成分を含有してもよい。
【0044】
本発明の注射用製剤において、必要により用いられる賦形剤としては、一般に注射用製剤の賦形剤として用いられるものであれば特に限定されない。好ましい賦形剤としては、例えば、ブドウ糖(グルコース)、フルクトース、及びこれらの任意の割合の混合物などの単糖類、例えば、乳糖(ラクトース)、麦芽糖(マルトース)、及びこれらの任意の割合の混合物などの二糖類、例えば、グリセロールなどの多価アルコール類、例えば、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、及びこれらの任意の割合の混合物などの糖アルコール、例えば、デキストラン40、デキストラン80、及びこれらの任意の割合の混合物などのデキストラン類、並びにこれらの賦形剤の混合物などである。より好ましくは、マンニトール、ブドウ糖、乳糖、マルトース、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、デキストラン、及びこれらの任意の割合の混合物などであり、さらに好ましくは、例えば、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、及びこれらの任意の割合の混合物などの糖アルコールなどであり、特に、マンニトールが好ましい。賦形剤は、無水物に限定されず、水和物として添加しても構わない。
【0045】
賦形剤の含有量は、特に限定されない。賦形剤の含有量は、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して、約0.3モル〜約29モルの割合が好ましい。より好ましくは、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して、約0.6モル〜約23モルの割合であり、さらに好ましくは、約1.45モル〜約14.5モルの割合であり、とりわけ好ましくは、約2.9モル〜約8.7モルの割合であり、特に好ましくは、約4.3モル〜約7.3モルの割合である。上記含有量の範囲であると、注射用凍結乾燥製剤としたときにケーキ状凍結乾燥物の調製が容易になる。
【0046】
本発明の注射用製剤において、必要により用いられる無機塩としては、一般に注射用製剤として用いられるものであれば特に限定されない。無機塩としては、例えば、塩化アルカリ金属塩、塩化アルカリ土類金属塩、臭化アルカリ金属塩、臭化アルカリ土類金属塩、硫酸アルカリ金属塩、硫酸アルカリ土類金属塩、及びこれらの任意の割合の混合物などである。好ましくは、例えば、塩化アルカリ金属塩、塩化アルカリ土類金属塩、及びこれらの任意の割合の混合物などであり、より好ましくは、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びこれらの任意の割合の混合物であり、特に、塩化ナトリウムが好ましい。無機塩は、無水物に限定されず、水和物として添加しても構わない。
【0047】
無機塩の含有量は、特に限定されない。無機塩の含有量は、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して、約0.045モル〜約4.5モルの割合が好ましい。より好ましくは、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して、約0.068モル〜約3.6モルの割合であり、さらに好ましくは、約0.09モル〜約2.7モルの割合であり、とりわけ好ましくは、約0.18モル〜約1.8モルの割合であり、特に好ましくは、約0.27モル〜約0.9モルの割合である。
【0048】
本発明の注射用製剤において、必要により用いられるpH調整剤としては、一般に注射用製剤として用いられるものであれば特に限定されない。好ましいpH調整剤としては、例えば、水酸化アルカリ金属、水酸化アルカリ土類金属、及びこれらの任意の割合の混合物などの無機塩基である。より好ましくは、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びこれらの任意の割合の混合物などの無機塩基などであり、特に、水酸化ナトリウムが好ましい。これらのpH調整剤は、塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などの1価のアルカリ金属塩、カルシウム塩などの2価のアルカリ土類金属塩など)やその水和物として添加してもよく、また、水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液など)として添加してもよい。
【0049】
本発明の注射用製剤が注射用液状製剤である場合、そのpH値は、7.0〜8.5であることが好ましい。より好ましくは、7.5〜8.5である。
【0050】
本発明の注射用製剤が注射用凍結乾燥製剤である場合、それを溶解液で溶解した溶液のpH値としては、7.0〜8.5であることが好ましい。より好ましくは、7.5〜8.5である。
【0051】
本発明の注射用液状製剤を調製する方法としては、前記の炭酸水素塩(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなど)などを添加したり、混合したりする操作は、実施例に示す方法及び通常の製剤学的手法によって行われる。また、必要に応じて、賦形剤(例えば、マンニトール、ブドウ糖、乳糖、マルトース、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、及びデキストランなど)、pH調整剤(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウムなど)、無機塩(例えば、塩化ナトリウムなど)、安定剤、無痛化剤、緩衝剤、及び保存剤などをさらに添加したり、混合したりする操作は、下記の方法を適宜組み合わせた方法、実施例に示す方法、及び通常の製剤学的手法によって行われる。
【0052】
本発明の注射用液状製剤を調製する方法としては、例えば、本発明対象化合物と炭酸水素塩をそれぞれ秤量し、混合したあとで水に溶解する方法、本発明対象化合物を含有する水溶液に、秤量した炭酸水素塩を溶解する方法、炭酸水素塩を含有する水溶液に、秤量した本発明対象化合物を溶解する方法などが挙げられる。また、本発明対象化合物を含有する水溶液と炭酸水素塩を含有する水溶液をそれぞれ調製しておいてから、これらの水溶液を混合して調製する方法もある。これら以外の調製する方法においても、本発明対象化合物及び炭酸水素塩の2成分を含有する注射用液状製剤なら、どのような操作による方法でもよい。
【0053】
また、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらにpH調整剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法としては、例えば、本発明対象化合物、炭酸水素塩、及びpH調整剤をそれぞれ秤量し、混合したあとで水に溶解する方法、本発明対象化合物を含有する水溶液に秤量した炭酸水素塩及びpH調整剤を溶解する方法、本発明対象化合物及び炭酸水素塩を含有する水溶液に秤量したpH調整剤を溶解する方法、本発明対象化合物及びpH調整剤を含有する水溶液に秤量した炭酸水素塩を溶解する方法、炭酸水素塩を含有する水溶液に秤量した本発明対象化合物及びpH調整剤を溶解する方法、炭酸水素塩及びpH調整剤を含有する水溶液に秤量した本発明対象化合物を溶解する方法、pH調整剤を含有する水溶液に秤量した本発明対象化合物及び炭酸水素塩を溶解する方法などが挙げられる。また、本発明対象化合物を含有する水溶液、炭酸水素塩を含有する水溶液、及びpH調整剤を含有する水溶液をそれぞれ調製しておいてから、これらの水溶液を混合して調製する方法もある。これら以外の調製する方法においても、本発明対象化合物、炭酸水素塩、及びpH調整剤の3成分を含有する注射用液状製剤なら、どのような操作による方法でもよい。
【0054】
また、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらに無機塩を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法としては、例えば、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらにpH調整剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法と同様にしてpH調整剤の代わりに無機塩を用いて調製する方法などが挙げられる。これら以外の調製する方法においても、本発明対象化合物、炭酸水素塩、及び無機塩の3成分を含有する注射用液状製剤なら、どのような操作による方法でもよい。
【0055】
また、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらに賦形剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法としては、例えば、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらにpH調整剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法と同様にしてpH調整剤の代わりに賦形剤を用いて調製する方法が挙げられる。これら以外の調製する方法においても、本発明対象化合物、炭酸水素塩、及び賦形剤の3成分を含有する注射用液状製剤なら、どのような操作による方法でもよい。
【0056】
また、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらに安定剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法としては、例えば、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらにpH調整剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法と同様にしてpH調整剤の代わりに安定剤を用いて調製する方法などが挙げられる。これら以外の調製する方法においても、本発明対象化合物、炭酸水素塩、及び安定剤の3成分を含有する注射用液状製剤なら、どのような操作による方法でもよい。
【0057】
また、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらに無痛化剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法としては、例えば、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらにpH調整剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法と同様にしてpH調整剤の代わりに無痛化剤を用いて調製する方法などが挙げられる。これら以外の調製する方法においても、本発明対象化合物、炭酸水素塩、及び無痛化剤の3成分を含有する注射用液状製剤なら、どのような操作による方法でもよい。
【0058】
また、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらに緩衝剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法としては、例えば、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらにpH調整剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法と同様にしてpH調整剤の代わりに緩衝剤を用いて調製する方法などが挙げられる。これら以外の調製する方法においても、本発明対象化合物、炭酸水素塩、及び緩衝剤の3成分を含有する注射用液状製剤なら、どのような操作による方法でもよい。
【0059】
また、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらに保存剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法としては、例えば、本発明対象化合物及び炭酸水素塩にさらにpH調整剤を含有する本発明の注射用液状製剤を調製する方法と同様にしてpH調整剤の代わりに保存剤を用いて調製する方法などが挙げられる。これら以外の調製する方法においても、本発明対象化合物、炭酸水素塩、及び保存剤の3成分を含有する注射用液状製剤なら、どのような操作による方法でもよい。
【0060】
本発明の注射用凍結乾燥製剤を製造する溶液を調製する方法としては、上記の本発明の注射用液状製剤を調製する方法を適宜組み合わせて調整する方法、実施例に示す方法、及び通常の製剤学的手法などが挙げられる。
【0061】
本発明において、本発明の注射用凍結乾燥製剤を製造する方法としては、前記の方法により得られた本発明の注射用凍結乾燥製剤を製造する溶液を用いて、通常の製剤学的手法により凍結乾燥して製造できる。
【0062】
本発明の注射用凍結乾燥製剤を溶解する際に用いられる溶剤としては、例えば、溶解液などが挙げられる。溶解液としては、水(例えば、精製水、注射用蒸留水、及び滅菌水など)、生理食塩水、ブドウ糖液(例えば、5%ブドウ糖液)などが挙げられる。この方法により得られた注射液はそのまま投与してもよく、さらに適当な輸液などに希釈した後に注射液として投与してもよい。輸液としては、例えば、アクチット注(興和;規格pH4.3〜6.3;アクチットは興和の登録商標である)及びヴィーン3G注(興和;規格pH4.3〜6.3;ヴィーンは興和の登録商標である)である酢酸維持液など、キリット注5%(大塚製薬工場;規格pH4.5〜7.5;キリットは大塚製薬工場の登録商標である)であるキシリトール注射液など、グリセオール注(中外製薬;規格pH3〜6;グリセオールは中外製薬の登録商標である)である濃グリセリン・果糖注射液など、KN1号(大塚製薬工場;規格pH4〜7.5)、ソリタT1号(味の素;規格pH3.5〜6.5;ソリタは味の素の登録商標である)、及びソルデム1(テルモ;規格pH4.5〜7;ソルデムはテルモの登録商標である)である開始液など、KN3号(大塚製薬工場;規格pH4〜7.5)、KNMG3号(大塚製薬工場;規格pH3.5〜7;KNMGは大塚製薬工場の登録商標である)、ソリタT3号(味の素;規格pH3.5〜6.5;ソリタは味の素の登録商標である)、ソルデム3A(テルモ;規格pH5〜6.5;ソルデムはテルモの登録商標である)及びフィジオゾール3号(大塚製薬工場;規格pH4〜5.2;フィジオゾールは大塚製薬工場の登録商標である)である維持液など、ソリタT2号(味の素;規格pH3.5〜6.5;ソリタは味の素の登録商標である)である脱水補給液など、低分子デキストラン糖注(大塚製薬工場;規格pH3.5〜6.5)であるデキストラン40・ブドウ糖注射液など、及びマルトス−10(大塚製薬工場;規格pH4〜6;マルトスは大塚製薬工場の登録商標である)であるマルトース注射液などが挙げられる。
【0063】
本発明において、本発明の注射用液状製剤を調製する温度は、約0℃以上約35℃以下であり、より好ましくは3℃以上35℃以下であり、さらに好ましくは3℃以上30℃以下であり、とりわけ好ましくは5℃以上30℃以下であり、特に好ましくは5℃以上27℃以下である。
【0064】
本発明において、本発明の注射用液状製剤の保存として、そのもの自体を注射液として保存してもよいし、さらにその注射液を各種の輸液に添加して、希釈した状態の注射液として保存してもよい。
【0065】
本発明において、本発明の注射用液状製剤は、室温が約15℃以上約35℃以下ではもちろんのこと、室温が約5℃以上約15℃以下の温度においても、何ら問題なく澄明な溶液状態を保ったままである。
【0066】
本発明において、本発明の注射用液状製剤を保存する温度は、約0℃以上約35℃以下であり、より好ましくは3℃以上35℃以下であり、さらに好ましくは3℃以上30℃以下であり、とりわけ好ましくは5℃以上30℃以下であり、特に好ましくは5℃以上27℃以下である。
【0067】
本発明において、本発明の注射用液状製剤は、各種の輸液(例えば、ソリタT3号、ソリタT2号、ソリタT1号、KNMG3号、フィジオゾール3号、アクチット注、及びヴィーン3G注など)との配合処方に対して、長時間を経ても澄明な溶液状態を保った製剤である。
【0068】
本発明において、本発明の注射用凍結乾燥製剤を注射液にする調製として、注射用凍結乾燥製剤を溶解液に溶解して得られた溶液を注射液として調製してもよいし、さらにその注射液を各種の輸液に添加して、希釈した状態の溶液を注射液として調製してもよい。
【0069】
本発明において、本発明の注射用凍結乾燥製剤は、室温が約15℃以上約35℃以下ではもちろんのこと、室温が約5℃以上約15℃以下の温度においても、何ら問題なく溶解液(例えば、水、生理食塩水、及びブドウ糖液など)に対して速やかに澄明に溶解しその澄明な溶液状態を維持できる。
【0070】
本発明において、本発明の注射用凍結乾燥製剤を注射液にする調製の温度は、約0℃以上約35℃以下であり、より好ましくは3℃以上35℃以下であり、さらに好ましくは3℃以上30℃以下であり、とりわけ好ましくは5℃以上30℃以下であり、特に好ましくは5℃以上27℃以下である。
【0071】
本発明において、本発明の注射用凍結乾燥製剤は、その製剤を溶解液で溶解した溶液を各種の輸液(例えば、ソリタT3号、ソリタT2号、ソリタT1号、KNMG3号、フィジオゾール3号、アクチット注、及びヴィーン3G注など)と配合した場合、長時間を経ても澄明な溶液状態を保った製剤である。
【0072】
本発明において、本発明の注射用凍結乾燥製剤を注射液に調製した後の保存として、注射用凍結乾燥製剤を溶解液に溶解して得られた溶液を注射液として保存してもよいし、さらにその注射液を各種の輸液に添加して、希釈した状態の溶液を注射液として保存してもよい。
【0073】
本発明において、本発明の注射用凍結乾燥製剤を溶解液で溶解された注射液、あるいは溶解液で溶解された溶液をさらに輸液で希釈された注射液は、室温が約15℃以上約35℃以下ではもちろんのこと、室温が約5℃以上約15℃以下の温度においても、何ら問題なく長時間を経ても澄明な溶液状態を保ったままである。
【0074】
本発明において、本発明の注射用凍結乾燥製剤を注射液に調製した後に保存する温度は、約0℃以上約35℃以下であり、より好ましくは3℃以上35℃以下であり、さらに好ましくは3℃以上30℃以下であり、とりわけ好ましくは5℃以上30℃以下であり、特に好ましくは5℃以上27℃以下である。
【0075】
本発明において、低温とは、0℃以上15℃以下のことを表わす。より好ましくは3℃以上15℃以下であり、特に好ましくは5℃以上15℃以下である。
【0076】
本発明において、本発明の注射用製剤が輸液との配合処方により長時間おいても配合変化を起こさないことにおける長時間とは、3時間〜72時間のことを表わす。より好ましくは6時間〜72時間であり、さらに好ましくは6時間〜48時間であり、とりわけ好ましくは6時間〜36時間であり、特に好ましくは6時間〜24時間である。
【0077】
本発明において、本発明対象化合物及び炭酸水素塩を含有する注射用製剤として、本発明対象化合物、炭酸水素塩、及びpH調整剤の3成分を含有する注射用製剤が好ましく、本発明対象化合物、炭酸水素塩、pH調整剤、及び賦形剤の4成分を含有する注射用製剤がより好ましく、本発明対象化合物、炭酸水素塩、pH調整剤、賦形剤、及び無機塩の5成分を含有する注射用製剤が特に好ましい。
【0078】
本発明において、本発明対象化合物、炭酸水素塩、及び水酸化ナトリウムの3成分を含有する注射用製剤が好ましく、本発明対象化合物、炭酸水素塩、水酸化ナトリウム、及びマンニトールの4成分を含有する注射用製剤がより好ましく、本発明対象化合物、炭酸水素塩、水酸化ナトリウム、マンニトール、及び塩化ナトリウムの5成分を含有する注射用製剤が特に好ましい。
【0079】
本発明において、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物、炭酸水素ナトリウム、マンニトール、及び塩化ナトリウムを含有する注射用凍結乾燥製剤が特に好ましく、各成分の含有量の割合が、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して、炭酸水素ナトリウムが0.25〜0.95モル量、マンニトールが4.3〜7.3モル量、及び塩化ナトリウムが0.27〜0.9モル量の範囲であることが好ましい。
【0080】
本発明の注射用製剤は、本発明対象化合物及び炭酸水素塩を含有するものであるが、ここで「含有する」とは、本発明対象化合物及び炭酸水素塩以外に、本発明の作用効果に悪影響を与えない範囲で他の成分を含んでいてもよいという意味に用いられる。さらに、この「含有する」には、本発明対象化合物及び炭酸水素塩から基本的になるというより限定的な意味をも包含する。ここで「から基本的になる」とは、必須成分である本発明対象化合物及び炭酸水素塩を主成分として含み、本発明の作用効果に悪影響を与えない範囲で他の微量成分を含んでいてもよいという意味に用いられる。上記の「含有する」の意味は、本明細書に記載された注射用製剤の全て、例えば、上述の3成分を含有する注射用製剤、4成分を含有する注射用製剤、及び5成分を含有する注射用製剤等のいずれの場合にも同様に当てはまる。
【0081】
本発明において、炭酸水素塩に由来する炭酸水素イオンはこれまでに知られている分析方法で測定できる。この分析方法は特に限定されない。具体的な分析方法として、例えば、中和滴定法、イオン成分測定方法(イオンクロマトグラフ法)などがある。シベレスタットナトリウム塩又はその水和物を含有する注射用製剤であって、これらいずれかの分析方法にて、炭酸水素イオンが検出された場合、当該製剤は本発明に包含されるものである。
【0082】
本発明において、炭酸水素塩における陽イオン(例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオンなど)はこれまでに知られている分析方法で測定できる。この分析方法は特に限定されない。具体的な分析方法として、例えば、イオン成分測定方法(イオンクロマトグラフ法)などがある。
【0083】
本発明において、所望により用いられる無機塩が、例えば塩化ナトリウムであった場合、塩化ナトリウムにおける塩化物イオン(Cl)はこれまでに知られている分析方法で測定できる。この分析方法は特に限定されない。具体的な分析方法として、例えば、硝酸銀による滴定法(例えば、ファヤンス法(Fajans法)、モール法(Mohr法)など)、イオン電極法、イオン成分測定方法(イオンクロマトグラフ法)、重量分析法などがある。その他、所望により用いられる無機塩における陽イオン(例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなど)及び陰イオン(例えば、臭素イオン(Br)、硫酸イオン(SO2−)など)はこれまでに知られている分析方法で測定できる。この分析方法は特に限定されない。具体的な分析方法として、例えば、イオン成分測定方法(イオンクロマトグラフ法)、重量法、吸光光度法、ガスクロマトグラフ法、放射化分析法、イオン電極法などがある。
【0084】
本発明において、本発明の注射用製剤は、本発明対象化合物を用いて製造された製剤として相応しい医薬品の特徴(例えば、安定性、工業生産性、安全性など)を十分に満たしていた。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0086】
また、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【0087】
本発明の注射用凍結乾燥製剤の製造方法は以下のとおりである。
<実施例1>
約140mLの注射用蒸留水を用いて、本発明対象化合物に相当するシベレスタットナトリウム塩4水和物(4g;7.56mmol)、炭酸水素ナトリウム(400mg;4.76mmol)、及びマンニトール(8g)の混合溶液に1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH7.7とし、澄明な溶液にした。次に、この澄明な溶液に塩化ナトリウム(200mg)を加え、溶解させた。最終的に全量200mLになるように注射用蒸留水を加えた。この全量200mLの溶液を常法により無菌濾過し、5mLずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例2>
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、炭酸水素ナトリウム(168mg;2.00mmol)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例3>
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、炭酸水素ナトリウム(336mg;4.00mmol)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例4>
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、炭酸水素ナトリウム(504mg;6.00mmol)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例5>
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、炭酸水素ナトリウム(672mg;8.00mmol)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例6>
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、炭酸水素カリウム(400mg;4.00mmol)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例7>
約140mLの注射用蒸留水を用いて、本発明対象化合物に相当するシベレスタットナトリウム塩4水和物(4g;7.56mmol)、炭酸水素ナトリウム(400mg;4.76mmol)、及びマンニトール(8g)の混合溶液に1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH7.7とし、澄明な溶液にした。最終的に全量200mLになるように注射用蒸留水を加えた。この全量200mLの溶液を常法により無菌濾過し、5mLずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例8>
約140mLの注射用蒸留水を用いて、本発明対象化合物に相当するシベレスタットナトリウム塩4水和物(4g;7.56mmol)及び炭酸水素ナトリウム(400mg;4.76mmol)の混合溶液に1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH7.7とし、澄明な溶液にした。次に、この澄明な溶液に塩化ナトリウム(200mg)を加え、溶解させた。最終的に全量200mLになるように注射用蒸留水を加えた。この全量200mLの溶液を常法により無菌濾過し、5mLずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例9>
約140mLの注射用蒸留水を用いて、本発明対象化合物に相当するシベレスタットナトリウム塩4水和物(4g;7.56mmol)及び炭酸水素ナトリウム(400mg;4.76mmol)の混合溶液に1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH7.7とし、澄明な溶液にした。最終的に全量200mLになるように注射用蒸留水を加えた。この全量200mLの溶液を常法により無菌濾過し、5mLずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例10>
マンニトール(8g)の代わりに、ブドウ糖(8g)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例11>
マンニトール(8g)の代わりに、乳糖(8g)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例12>
マンニトール(8g)の代わりに、麦芽糖(8g)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例13>
マンニトール(8g)の代わりに、グリセオール(600mg)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例14>
マンニトール(8g)の代わりに、キシリトール(2g)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例15>
マンニトール(8g)の代わりに、ソルビトール(8g)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<実施例16>
マンニトール(8g)の代わりに、デキストラン40(1.2g)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<比較例1>
特許文献2の製剤例記載の方法により得られた注射用凍結乾燥製剤である。本発明対象化合物(10g)、注射用蒸留水(500mL)、塩化ナトリウム(7g)、及び炭酸ナトリウム(無水)(1.5g)を常法により混合した後、溶液を常法により無菌濾過し、5mLずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤100バイアルを得た。
<比較例2>
特許文献3の実施例1(a)及び実施例1(b)記載の方法により得られた注射用凍結乾燥製剤である。
マンニトール(20g)を蒸留水に溶解し、本発明対象化合物(10g)を加えた。混合物をスターラーで撹拌しながら、1N水酸化ナトリウム(0.44g)を加え、蒸留水で全量500mLとして、pH値7.65の澄明な水溶液を得た。次にこの水溶液を常法により無菌濾過し、5mLずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤100バイアルを得た。
<比較例3>
特許文献3中の段落番号0025の箇所に記載の方法にて得られた注射用凍結乾燥製剤である。
マンニトール(8g)を水(150mL)に溶解し、本発明対象化合物(4g)を添加して懸濁した。懸濁液をスターラーで撹拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液(40mg/mL;5.6mL)を加え、水で全量200mLとして澄明な水溶液を得た。次にこの水溶液を常法により無菌濾過し、5mLずつバイアルに充填し、常法により凍結乾燥し、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<比較例4>
炭酸水素ナトリウムの代わりに、一般的に汎用される緩衝剤として酢酸ナトリウムを用いた。
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、酢酸ナトリウム(1080mg)(これまで注射用製剤の添加剤として使用された最大実績用量)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<比較例5>
炭酸水素ナトリウムの代わりに、一般的に汎用される緩衝剤としてリン酸三ナトリウムを用いた。
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、リン酸三ナトリウム(80mg)(これまで注射用製剤の添加剤として使用された最大実績用量)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<比較例6>
炭酸水素ナトリウムの代わりに、一般的に汎用される緩衝剤としてリン酸水素二カリウムを用いた。
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、リン酸水素二カリウム(100mg)(これまで注射用製剤の添加剤として使用された最大実績用量)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<比較例7>
炭酸水素ナトリウムの代わりに、一般的に汎用される緩衝剤としてリン酸水素二ナトリウムを用いた。
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、リン酸水素二ナトリウム(144mg)(水200mLへの最大溶解用量(5℃、24時間放置))を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<比較例8>
炭酸水素ナトリウムの代わりに、一般的に汎用される緩衝剤としてクエン酸1水和物を用いた。
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、クエン酸1水和物(840mg)(水200mLへの最大溶解用量(5℃、24時間放置))を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<比較例9>
炭酸水素ナトリウムの代わりに、一般的に汎用される緩衝剤としてクエン酸ナトリウムを用いた。
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、クエン酸ナトリウム(588mg)(水200mLへの最大溶解用量(5℃、24時間放置))を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<比較例10>
炭酸水素ナトリウムの代わりに、一般的に汎用される緩衝剤としてトロメタモールを用いた。
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、トロメタモール(292mg)(水200mLへの最大溶解用量(5℃、24時間放置))を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
<比較例11>
炭酸水素ナトリウムの代わりに、一般的に汎用される緩衝剤としてHEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)を用いた。
炭酸水素ナトリウム(400mg)の代わりに、HEPES(80mg)(これまで注射用製剤の添加剤として使用された最大実績用量)を用いて、<実施例1>と同様の方法にて、1バイアル中、100mgの本発明対象化合物を含有する注射用凍結乾燥製剤40バイアルを得た。
上記製造方法により得られた<実施例1>〜<実施例16>及び<比較例1>〜<比較例11>における注射用凍結乾燥製剤1バイアルあたりの構成成分を以下の表1及び表2に示す。
表1の調整量(pH7.7)及び表2のpH7.7調整量とは、各実験例における凍結乾燥前の溶液のpH値を7.7になるように添加した量のことを表わす。ここでの本発明対象化合物とは、シベレスタットナトリウム塩4水和物を表わす。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
本発明の注射用液状製剤の製造方法は以下のように製造できる。
【0091】
本発明対象化合物に相当するシベレスタットナトリウム塩4水和物及び炭酸水素ナトリウムを注射用蒸留水で溶解し、次いで水酸化ナトリウム水溶液でpH7.7に調整する。得られた溶液を無菌濾過して、容器(例えば、バイアル及びアンプルなど)へ充填し、容器の封栓を行い、最終滅菌して製造できる。あるいは、上記の<実施例1>〜<実施例16>の注射用凍結乾燥製剤に、水、生理食塩水、及び/又はブドウ糖液などの溶解液を加えて澄明に溶解させて製造できる。さらには、上記の<実施例1>〜<実施例16>の注射用凍結乾燥製剤に、水、生理食塩水、及び/又はブドウ糖液などの溶解液を加えて澄明に溶解させた溶液を輸液に希釈して製造できる。
<試験例1>
低温における注射用製剤の溶解性試験
<実施例1>〜<実施例16>及び<比較例1>〜<比較例11>で得られた各種の注射用凍結乾燥製剤1バイアルに、室温(約25℃)下で、5mLもしくは10mLの生理食塩水、又は5mLの5%ブドウ糖液を加えて澄明に溶解させた。その澄明な溶解液を5℃(冷蔵庫内)又は15℃(恒温器内)に静置保存して、24時間後の外観を確認した。
【0092】
その結果、以下の表3に示したように、<比較例1>〜<比較例2>及び<比較例4>〜<比較例11>に対して、本発明の注射用製剤である<実施例1>〜<実施例16>は、低温(5℃及び15℃)において極めて優れた溶解性を有していることが分かった。なお、外観確認では上記の方法によって得られた溶解液が澄明のままの溶液であるか、もしくは懸濁(例えば、白濁)した溶液、固体が析出した溶液、固体が沈殿した溶液であるかを判断した。
【0093】
以下の表3では、澄明であった実験例や比較例を○印で、懸濁、析出、沈殿した比較例を×印で表記した。溶解性試験を検討していない場合を−印で表記した。澄明であったとは、目視による溶液の外観確認において、その溶液の状態が澄みきっている状態であったことを表わす。一方、懸濁、析出、沈殿したとは、目視による溶液の外観確認において、その溶液に固体が析出して濁ったり、その固体が沈殿したことを表わす。
【0094】
【表3】

【0095】
<試験例2>
低pH輸液との配合試験
低pH輸液であるソリタT2号(味の素)、KNMG3号(大塚製薬工場)、及びフィジオゾール3号(大塚製薬工場)について、<実施例1>〜<実施例16>及び<比較例1>〜<比較例6>で得られた各種の注射用凍結乾燥製剤との配合試験を実施した。各種の注射用凍結乾燥製剤1バイアルあたり10mLの生理食塩水に室温(約22℃〜約28℃)下に溶解した。次にその溶解液2mLと、それぞれの輸液、12.5mLのソリタT2号、16.7mLのKNMG3号、及び12.5mLのフィジオゾール3号とを室温(約22℃〜約28℃)下に配合した。各配合液について室温(約22℃〜約28℃)で静置保存して、配合24時間後の外観を確認した。外観確認方法は前記の試験例1と同様の方法である。以下の表4では、澄明であった実験例や比較例を○印で、懸濁、析出、沈殿した比較例を×印で表記した。
【0096】
<実施例1>〜<実施例16>及び<比較例1>の注射用製剤は配合直後から24時間後において全て澄明な溶液であった。一方で、<比較例2>〜<比較例6>の注射用製剤は配合約1時間後から配合約5時間後までにおいて白濁、析出、沈殿等が確認された。
【0097】
その結果、以下の表4に示したように、<比較例2>〜<比較例6>に対して、本発明の注射用製剤である<実施例1>〜<実施例16>は、低pH輸液との配合において極めて優れた溶解性を有していることが分かった。
【0098】
【表4】

【0099】
以上、上記の試験例1及び試験例2の結果から、本発明の注射用製剤は、低温において溶解液に対し極めて優れた溶解性を示し、及び/又は低pH輸液輸液との配合において極めて優れた溶解性を示すことが分かった。
【0100】
また、上記の表3より<比較例3>の製剤は低温における溶解性試験の結果は良好であり、表4より<比較例1>の製剤は低pH輸液との配合試験の結果は良好であったが、<比較例1>及び<比較例3>の製剤はともに安定性試験(例えば、注射用凍結乾燥製剤を溶解液で溶解した時のpH値の測定試験、純度試験など)において、若干不安定な製剤であった。一方で、本注射用製剤(<実施例1>〜<実施例16>)は全て、この安定性試験において、安定な製剤であった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明における注射用製剤は、重篤な状態にある急性肺障害患者を早急に処置する際に速やかに澄明な溶液状態の注射液に調製できて、速やかに患者に投与できたり、あるいは長時間おいても配合変化を起こさないため注射液の状態で保存できたりする特徴を有する、医療現場において非常に取り扱い易い製剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シベレスタットナトリウム塩又はその水和物、及び炭酸水素塩を含有する注射用製剤。
【請求項2】
炭酸水素塩を、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して0.25モル量以上含有する請求項1記載の製剤。
【請求項3】
炭酸水素塩が、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して0.25〜10モル量の炭酸水素ナトリウムである、請求項2記載の製剤。
【請求項4】
炭酸水素塩が、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して0.25〜0.95モル量の炭酸水素ナトリウムである、請求項3記載の製剤。
【請求項5】
炭酸水素塩が、炭酸水素ナトリウム及び/又は炭酸水素カリウムである請求項1記載の製剤。
【請求項6】
炭酸水素塩が、炭酸水素ナトリウムである請求項5記載の製剤。
【請求項7】
さらにpH調整剤を含有し、所望によって賦形剤及び/又は無機塩を含有していてもよい請求項5記載の製剤。
【請求項8】
pH調整剤が水酸化ナトリウムである請求項7記載の製剤。
【請求項9】
賦形剤がマンニトールである請求項7記載の製剤。
【請求項10】
無機塩が塩化ナトリウムである請求項7記載の製剤。
【請求項11】
注射用凍結乾燥製剤である請求項1記載の製剤。
【請求項12】
低温可溶性である請求項11記載の製剤。
【請求項13】
低温が5℃〜15℃である請求項12記載の製剤。
【請求項14】
溶解液が水、生理食塩水、及び/又はブドウ糖液である請求項12記載の製剤。
【請求項15】
注射用液状製剤である請求項1記載の製剤。
【請求項16】
注射用凍結乾燥製剤を溶解液で溶解した溶液である請求項15記載の製剤。
【請求項17】
注射用凍結乾燥製剤を溶解液で溶解した溶液を低pH輸液に希釈した溶液である請求項15記載の製剤。
【請求項18】
低pH輸液が、ソリタT3号、ソリタT2号、ソリタT1号、KNMG3号、フィジオゾール3号、アクチット注、及び/又はヴィーン3G注である請求項17記載の製剤。
【請求項19】
注射用凍結乾燥製剤を製造する溶液である請求項15記載の製剤。
【請求項20】
注射用凍結乾燥製剤を製造する溶液の溶媒が水である請求項19記載の製剤。
【請求項21】
シベレスタットナトリウム塩又はその水和物、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して0.25〜0.95モル量の炭酸水素ナトリウム、シベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して4.3〜7.3モル量のマンニトール、及びシベレスタットナトリウム塩又はその水和物1モルに対して0.27〜0.9モル量の塩化ナトリウムを含有する注射用凍結乾燥製剤。
【請求項22】
シベレスタットナトリウム塩又はその水和物、及び炭酸水素塩を含有する注射用凍結乾燥製剤であって、溶解液との混合後の液状製剤が低温で澄明な溶液状態を維持しうる製剤。
【請求項23】
シベレスタットナトリウム塩又はその水和物、及び炭酸水素塩を含有する注射用液状製剤であって、低pH輸液との配合後の液状製剤が澄明な溶液状態を維持しうる製剤。
【請求項24】
シベレスタットナトリウム塩又はその水和物を含有する注射用凍結乾燥製剤であって、溶解液との混合後に低温で澄明な溶液状態を維持しうる製剤を製造するために、注射用凍結乾燥製剤を製造する溶液に炭酸水素塩を使用する方法。
【請求項25】
シベレスタットナトリウム塩又はその水和物を含有する注射用液状製剤であって、低pH輸液との配合後に澄明な溶液状態を維持しうる製剤を製造するために、注射用凍結乾燥製剤を製造する溶液に炭酸水素塩を使用する方法。


【公開番号】特開2012−188421(P2012−188421A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−38167(P2012−38167)
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】