説明

シミュレーション方法及びシミュレーション装置

【課題】氷上路面における摩擦係数の実測との誤差を小さくする。
【解決手段】本発明に係るシミュレーション方法は、タイヤを有限個の要素10に分割することによってタイヤモデル1を生成する工程Aと、氷上路面の路面モデルを生成する工程Bと、接触圧及び滑り速度を含む使用条件を設定する工程Cと、使用条件とタイヤモデル1と路面モデルとを用いたシミュレーションによって、評価値を算出する工程Dとを有し、工程Cにおいて、路面モデルにおいて設定される氷上路面とタイヤを構成するゴムとの間の摩擦係数は、氷上路面とタイヤとの間の接触圧及び滑り速度に基づいて変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法及びシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、氷とゴムとの接触に関連するシミュレーション方法、例えば、氷上路面とゴムブロックとの接触面積を算出するシミュレーション方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかるシミュレーション方法において、氷上路面とゴムブロックとの接触をモデル化する際の入力情報の1つとして摩擦係数μがある。
【0004】
例えば、特許文献1に記載されているシミュレーション方法では、乾燥路面や水上路面や氷上路面といった路面状況において入力される摩擦係数μが変化するように規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2006-56380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、出願人は、上述のシミュレーション方法について、以下のような問題点を発見した。
【0007】
すなわち、上述のシミュレーション方法において、上述の摩擦係数μに誤差があると、シミュレーション結果の精度が悪化してしまうため、実測との誤差の少ない摩擦係数μの入力が求められる。
【0008】
特に、氷上路面では、摩擦係数μ自体が、他の路面状況における摩擦係数μと比較して小さいため、摩擦係数μの実測との誤差が、シミュレーション結果に与える影響も大きい。
【0009】
しかしながら、氷上路面における摩擦係数μは、実際には、使用条件(例えば、接触圧及び滑り速度)によって変化するにも関わらず、上述のシミュレーション方法では、定数として扱われ、使用条件(例えば、接触圧及び滑り速度)による摩擦係数μの変化の影響については検討されていなかった。
【0010】
そこで、本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、氷上路面における摩擦係数の実測との誤差を小さくすることができるシミュレーション方法及びシミュレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の特徴は、シミュレーション方法であって、 タイヤを有限個の要素に分割することによってタイヤモデルを生成する工程Aと、氷上路面の路面モデルを生成する工程Bと、前記氷上路面と前記タイヤを構成するゴムとの間の摩擦係数と、該氷上路面と該タイヤとの間の接触圧及び滑り速度とを含む使用条件を設定する工程Cと、設定された前記使用条件と前記タイヤモデルと前記路面モデルとを用いたシミュレーションによって、評価値を算出する工程Dとを有し、前記工程Cにおいて、前記摩擦係数は、前記接触圧及び前記滑り速度に基づいて変化することを要旨とする。
【0012】
本発明の第1の特徴は、シミュレーション装置であって、上述のシミュレーション方法を実行することを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、氷上路面における摩擦係数の実測との誤差を小さくすることができるシミュレーション方法及びシミュレーション装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション方法について示すフローチャートである。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション方法で用いられるタイヤモデルの一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション方法で用いられるタイヤモデルの一例を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション方法を実行するためのコンピュータ装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション方法)
図1乃至図4を参照して、本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション方法について説明する。
【0016】
図1に示すように、ステップS101において、タイヤを有限個の要素10に分割することによってタイヤモデル1を生成する。図2に、タイヤモデル1の斜視図を示し、図3に、タイヤモデル1の断面図を示す。
【0017】
例えば、タイヤモデル1は、有限要素法(FEM:Fenite Element Method)に対応した要素分割、すなわち、メッシュ分割によってタイヤを複数の要素に分割することによって、コンピュータ装置によって取り扱い可能な形式に数値化されたものである。
【0018】
具体的には、タイヤモデル1を生成する際には、タイヤモデル1を構成する要素10の各々に対して、節点座標値や形状や材料定数(例えば、密度や弾性率や減衰係数や損失係数(tanσ)等)を設定する。
【0019】
例えば、タイヤモデル1において、トレッド部1Aやサイド部1Bや内部ゴム部等のゴム部材やビードワイヤ1C等は、ソリッド要素としてモデル化されてもよいし、ベルト部1Dやプライ部1E等の補強部材は、シェル要素や膜要素やリバー要素としてモデル化されてもよい。
【0020】
ゴム部材の材料モデルは、Mooney-Rivlinz材料やOgden材料等の超弾性体や粘性を考慮した粘弾性体としてモデル化されてもよい。ここで、 粘性としては、線形粘弾性やProny級数を使ったモデルが利用可能である。
【0021】
補強部材は、異方性を持った材料モデルとしてモデル化されてもよいし、線形弾性体としてモデル化されてもよい。また、補強部材は、引張側と圧縮側とで剛性が異なる場合、非線形弾性体としてモデル化されてもよい。
【0022】
また、ビードワイヤ1Cの全体について、まとめてモデル化してもよいし、ビードワイヤ1Cのそれぞれについて、モデル化してもよい。また、ビードワイヤ1Cは、予め解析されたビードワイヤ1C単体の剛性に基づいて、異方性弾性体としてモデル化されてもよい。さらに、ビードワイヤ1Cは、弾塑性体としてモデル化されてもよい。
【0023】
タイヤモデル1は、周方向に沿って均一の要素が並ぶようにモデル化されてもよいし、実物のタイヤのように、各部材の小さな重なりや厚みの変化や剛性の変化を考慮して、周方向に不均一な要素が並ぶようにモデル化されてもよい。
【0024】
また、タイヤモデル1の形状は、CADの図面データや製造金型の形状データや実際のタイヤの形状データ等に基づいて設定されてもよい。ここで、製造金型の形状データに基づいてタイヤモデル1の形状を設定する場合は、熱収縮や残留応力による形状変化を考慮することが望ましい。
【0025】
ステップS102において、氷上路面の路面モデルを生成する。例えば、路面モデルは、有限要素法に対応した要素分割、すなわち、メッシュ分割によって氷上路面を複数の要素に分割することによって、コンピュータ装置によって取り扱い可能な形式に数値化されたものである。
【0026】
具体的には、路面モデルを生成する際に、路面モデルを構成する要素の各々に対して、路面状態(例えば、形状や温度等)を設定する。また、路面モデルを生成する際に、路面モデルを構成する要素の各々に対して、氷上路面とタイヤを構成するゴムとの間の摩擦係数μを設定する。
【0027】
例えば、路面モデルとしては、路面が平滑な平面を持つ場合は、路面全体を1個以上の要素を用い、路面に凹凸のある場合は、かかる凹凸を表現できるように複数の要素を用いる。
【0028】
かかる要素としては、3角形や4角形のシェル要素や、4面体やプリズム形(5面体)や6面体のソリッド要素を使うことができる。また、材料モデルとしては、剛体や弾性体や弾塑性体を使うことができる。
【0029】
ステップS103において、使用条件を設定する。かかる使用条件には、例えば、氷上路面とタイヤとの間の接触圧及び滑り速度等が含まれる。
【0030】
ここで、路面モデルに設定されている摩擦係数μは、かかる接触圧及び滑り速度に基づいて変化するように規定されている。例えば、摩擦係数μは、接触圧が高くなると小さくなり、滑り速度が高くなると小さくなるように規定されている。
【0031】
ステップS104において、ステップS101において生成されたタイヤモデル1と、ステップS102において生成された路面モデルと、ステップS103において設定された使用条件とを用いたシミュレーションによって、タイヤの挙動を予測するために用いられる評価値を算出する。
【0032】

例えば、評価値として、タイヤの発生する力や接地面での圧力やせん断力や各部での変形量や歪や応力や、これらの分布について算出する。
【0033】
なお、図4に示すように、本実施形態に係るシミュレーション方法を実行するシミュレーション装置は、コンピュータ装置によって実現されてもよいし、かかるコンピュータ装置のプロセッサによって実行されるソフトウェアモジュールによって実施されてもよいし、両者の組み合わせによって実施されてもよい。
【0034】
ソフトウェアモジュールは、RAM(Random Access Memory)や、フラッシュメモリや、ROM(Read Only Memory)や、EPROM(Erasable Programmable ROM)や、EEPROM(Electronically Erasable and Programmable ROM)や、レジスタや、ハードディスクや、リムーバブルディスクや、CD-ROMといった任意形式の記憶媒体内に設けられていてもよい。
【0035】
本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション方法によれば、氷上路面の路面モデルにおける摩擦係数μを、氷上路面とタイヤとの間の接触圧及び滑り速度に基づいて変化させることによって、実測との誤差を低減させることができ、より精度の高いシミュレーション結果を得ることができる。
【0036】
(比較評価)
次に、本発明の効果を更に明確にするために、氷温−2℃で実際に行った氷とゴムとの間の試験において測定された接地面積を基準として、従来のシミュレーション方法により得られた接地面積及び本発明に係るシミュレーション方法により得られた接地面積を表1に示す。
【表1】

【0037】
表1に示すように、実際の試験で測定された接地面積を「100」とした場合、従来のシミュレーション方法により得られた接地面積は「95」となり、本発明に係るシミュレーション方法により得られた接地面積は「99」となる。
【0038】
すなわち、本発明に係るシミュレーション方法により得られた接地面積のほうが、従来のシミュレーション方法により得られた接地面積よりも、実際の試験で測定された接地面積に近いことが確認された。
【0039】
以上、上述の実施形態を用いて本発明について詳細に説明したが、当業者にとっては、本発明が本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではないということは明らかである。本発明は、特許請求の範囲の記載により定まる本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施することができる。従って、本明細書の記載は、例示説明を目的とするものであり、本発明に対して何ら制限的な意味を有するものではない。
【符号の説明】
【0040】
1…タイヤモデル、10…要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを有限個の要素に分割することによってタイヤモデルを生成する工程Aと、
氷上路面の路面モデルを生成する工程Bと、
前記氷上路面と前記タイヤとの間の接触圧及び滑り速度を含む使用条件を設定する工程Cと、
設定された前記使用条件と前記タイヤモデルと前記路面モデルとを用いたシミュレーションによって、評価値を算出する工程Dとを有し、
前記工程Cにおいて、前記路面モデルに設定されている摩擦係数は、前記接触圧及び前記滑り速度に基づいて変化することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシミュレーション方法を実行することを特徴とするシミュレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−67357(P2013−67357A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209305(P2011−209305)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】