説明

シミ改善効果及び/または美白効果を発揮する有効成分のスクリーニング方法

【課題】簡便に、短時間でかつ廉価にシミ改善効果および美白効果を有する有効成分をスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】メラノサイトの増殖および/または活性化を抑制してシミ改善効果または美白効果を有する有効成分のスクリーニング方法であって、メラノサイトを被験成分と接触させ、メラノサイトのチロシナーゼ活性および細胞活性を測定する工程を含み、前記メラノサイトに複数のメラノサイト活性化因子を添加してメラノサイトを刺激を与え増殖および/または活性化を促進する、スクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミ改善効果及び/または美白効果を発揮する有効成分のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
局所的なメラノサイトの増殖および/または活性化の亢進によるメラニン色素の生成や局所的な沈着によって、ヒト等の脊椎動物の皮膚が黒化したり、いわゆるシミが皮膚に生じる。このメラノサイトの増殖、活性化に関わる因子(以下、「メラノサイト活性化因子」という)については多くの研究がなされている。例えば、エンドセリン−1(以下「ET−1」ともいう)、幹細胞増殖因子(以下「SCF」ともいう)、メラノサイト刺激ホルモン(以下「α−MSH」ともいう)、ヒスタミン、プロスタグランジンE2(以下「PGE2」ともいう)などのメラノサイト活性化因子が知られている。
【0003】
これら因子はメラノサイトの細胞膜表面に存在する受容体に結合し、細胞内の情報伝達経路を活性化し、メラノサイトの増殖および/または活性化を誘導する。例えば、ET−1はプロテインカイネース経路を活性化し、SCFはチロシンカイネース経路を活性化し、α−MSH、ヒスタミンおよびPGE2はアデニルサイクラーゼ経路を活性化することが知られている。
【0004】
従来より、シミ改善効果または美白効果を謳う様々な化粧料が使用されている。このような化粧料にはメラノサイトの増殖および/または活性化を抑制する有効成分が含まれている。このメラノサイトの増殖および/または活性化を抑制する有効成分の探索のために、増殖および/または活性化したメラノサイトに対する抑制作用を有する素材のスクリーニング方法が開発されている(例えば、特許文献1〜6参照)。
【特許文献1】特開2007−209208号公報
【特許文献2】特開2006−56902号公報
【特許文献3】特開2004−191106号公報
【特許文献4】特開2003−194809号公報
【特許文献5】特開2001−56331号公報
【特許文献6】特開平7−167860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
皮膚の黒化およびシミの発生のメカニズムに関して、前記情報伝達経路がそれぞれ単独で皮膚を黒化させたりシミを発生させるのではなく、それぞれの情報伝達経路が互いに関連しあってメラノサイトの増殖および/または活性化を制御することで皮膚が黒化したりシミが発生する。言い換えると、実際のメラノサイトは、メラノサイトの増殖、活性化に関わる複数のメラノサイト活性化因子により活性化され、細胞内の複数の情報伝達経路が互いに作用し合ってシミが発生したり、肌が黒化すると考えられる。
【0006】
前記特許文献に記載のスクリーニング方法では、1種類のメラノサイト活性化因子をメラノサイトと共存させ、活性化したメラノサイトに対する抑制作用を有する素材を探索するものである。したがって、複数のメラノサイト活性化因子が関係する実際のメラノサイトとはかけ離れた系でのスクリーニング方法と言わざるを得ない。また、これらのメラノサイト活性化因子に対する有効素材のスクリーニングを各因子に対して別個に行うと、多大な時間とコストを要する。
【0007】
本発明は、簡便に、短時間でかつ廉価にシミ改善効果および/または美白効果を発揮する有効成分をスクリーニングする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、メラノサイトの増殖、活性化に関わるメラノサイト活性化因子の複数を組み合わせて用いることにより非常に低濃度で安定的にメラノサイトが活性化することを見出した。また、複数のメラノサイト活性化因子で刺激したメラノサイトに対して、各種メラノサイト活性化因子の阻害剤単独を作用させても有効素材として評価可能であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0009】
本発明は、メラノサイトの増殖および/または活性化を抑制することによりシミ改善効果及び/または美白効果を発揮する有効成分のスクリーニング方法であって、メラノサイトを被験成分と接触させ、メラノサイトのチロシナーゼ活性および細胞活性を測定し、チロシナーゼ活性を減少させる被験成分を前記有効成分として選定する工程を含み、前記メラノサイトに複数のメラノサイト活性化因子を添加してメラノサイトに刺激を与え増殖および/または活性化を促進する、スクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便に、短時間でかつ廉価にシミ改善効果および/または美白効果を発揮する有効成分をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のスクリーニング方法は、メラノサイトの増殖および/または活性化を抑制することによりシミ改善効果および/または美白効果を発揮する有効成分のスクリーニング方法であって、メラノサイトを被験成分と接触させ、メラノサイトのチロシナーゼ活性および細胞活性を測定し、チロシナーゼ活性を減少させる被験成分を前記有効成分として選定する工程を含み、前記メラノサイトに複数のメラノサイト活性化因子を添加してメラノサイトに刺激を与え増殖および/または活性化を促進することを特徴とする。メラノサイトに複数のメラノサイト活性化因子を添加することで、実際のシミ部位のメラノサイトと類似な状態を再現することができる。
【0012】
本発明における「メラノサイト」とは、メラニンを産出する色素細胞である。哺乳類において、メラノサイトは表皮基底層および毛根に多く存在し、真皮、消化管などの上皮にも少数存在する。本発明に用いることができるメラノサイトは特に制限はないが、ヒト、マウスなどの哺乳類由来のメラノサイトであることが好ましい。
【0013】
本発明における「シミ改善効果」とは、慢性的なシミの色調を薄くしたり、大きさを小さくすることにより目立たなくすることをいう。また、「美白効果」とは、日焼け等によるシミを防ぐ作用のことをいい、具体的には例えば、紫外線を肌に照射すること等によるメラニン色素の沈着を抑制する作用などを指す。これらは、活性化されたメラノサイトに対するチロシナーゼ活性の低下作用、またはメラニン生成量の低下作用も含まれる。
【0014】
本発明のスクリーニング方法において、チロシナーゼ活性および細胞活性を測定する。これらチロシナーゼ活性および細胞活性と、シミ改善効果及び美白効果の関連性について説明する。
複数のメラノサイト活性化因子を添加することにより、メラノサイトのチロシナーゼ活性の上昇と、細胞増殖による細胞数の増加が起こる。被験物質を添加してチロシナーゼ活性および細胞増殖が抑制された場合、当該被験物質をシミ改善効果を発揮する有効成分としてスクリーニングすることができる。また、メラノサイト活性化因子を添加せずに培養したメラノサイトと比較して細胞活性が低下した場合、当該被験物質は細胞毒性として作用したと判断することができる。
さらに、紫外線による色素沈着の形成にも、メラノサイト活性化因子が関与している。したがって、チロシナーゼ活性および細胞増殖が抑制された場合、美白効果を発揮する有効成分としてもスクリーニングすることができる。
【0015】
本発明のスクリーニング方法において、メラノサイトを複数のメラノサイト活性化因子で刺激し、メラノサイトの増殖および/または活性化を促進する。本発明に用いられるメラノサイト活性化因子としては特に制限はないが、ET−1、SCF、α−MSH、ヒスタミンおよびPGE2であることが好ましい。
また、本発明において、好ましくは少なくとも3種、より好ましくは少なくとも5種のメラノサイト活性化因子を用いてメラノサイトを刺激する。さらに、ET−1、SCF、α−MSH、ヒスタミンおよびPGE2の各1種でメラノサイトを刺激するのが好ましい。
【0016】
本発明に用いられるメラノサイト活性化因子は通常の方法により調製することができる。また、市販のものを用いることもできる。
【0017】
本発明のスクリーニング方法におけるメラノサイトの刺激は、メラノサイトに被験細胞を接触させる前、同時、または後のいずれであってもよい。
【0018】
メラノサイトに添加する複数のメラノサイト活性化因子の添加量について特に制限はないが、反応系における終濃度がそれぞれ10×10-6mol/m3以下が好ましく、10×10-9〜10×10-6mol/m3がより好ましく、10×10-8〜10×10-7mol/m3がさらに好ましい。
【0019】
本発明のスクリーニング方法は以下のように実施することができる。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
【0020】
(メラノサイトの採取、培養)
本発明に用いるメラノサイトとして、メラノサイトを含む表皮細胞を生体から通常の方法で採取することができる。採取した、メラノサイトを含む表皮細胞を適当な培地を用いて培養する。あるいは、市販されているメラノサイトを用いることもできる。培養条件に特に制限はないが、35〜39℃で24〜180時間培養することが好ましい。
【0021】
(メラノサイトの活性化)
メラノサイトに、ET−1、SCF、α−MSH、ヒスタミンおよびPGE2等から選ばれる、複数のメラノサイト活性化因子を添加し刺激を与え、メラノサイトの増殖および/または活性化を促進する。メラノサイト活性化因子の好ましい添加量は前述の通りである。
【0022】
(被験成分の添加)
メラノサイトを含む培地に被験成分(メラノサイト活性化因子阻害剤)を添加する。被験成分の添加量に特に制限はないが、培地における終濃度で10×10-7〜10×10-3mol/m3または0.0001〜1質量%が好ましく、10×10-7〜10×10-4mol/m3または0.001〜0.5質量%がより好ましい。
本発明のスクリーニング方法に用いることのできる被検物質としては、特に制限はなく、低分子化合物、天然有機化合物、各種ペプチド等を挙げることができる。また、植物、動物または海洋生物由来の天然成分または抽出物を被験物質として用いることもできる。
【0023】
(メラノサイトのインキュベーション)
その後、培地交換を行いながら、メラノサイトを適当な条件でインキュベーションする。インキュベーション条件に特に制限はないが、35〜39℃で24〜180時間培養することが好ましい。
【0024】
(チロシナーゼ活性および細胞活性の測定)
培養後、メラノサイトのチロシナーゼ活性および細胞活性を測定する。その結果、チロシナーゼ活性を減少させる被験成分をシミ改善効果および美白効果を有する有効成分として選定することができる。
【0025】
本発明における「細胞活性」とは細胞増殖活性や呼吸活性を意味する。細胞活性の測定方法については特に制限はなく、通常の方法により測定することができるが、alamar Blue法、WST法、MTT法またはBrdU法により測定することが好ましく、具体的には以下のように測定することがより好ましい。
メラノサイトを培養後、各測定方法のプロトコルに従い試薬類を添加後、所定の時間培養を行う。その後所定の測定方法、測定機器により細胞活性、細胞増殖能を測定する。
【0026】
また、「チロシナーゼ」とは、チロシンを酸化してメラニンを生ずる酵素である。チロシナーゼ活性の測定方法については特に制限はなく、通常の方法により測定することができるが、メラニン定量法、チロシナーゼ活性測定法またはドーパオキシターゼ活性測定法により測定することが好ましく、具体的には以下のように測定することがより好ましい。
メラノサイトを培養後、各測定方法のプロトコルに従い、試薬類を添加後、所定の時間培養を行う。その後所定の測定方法、測定機器によりメラニン量、チロシナーゼ活性、ドーパオキシターゼ活性を測定する。
【0027】
本発明のスクリーニング方法においては、ケラチノサイトをメラノサイトと共存させることができる。さらには、ケラチノサイトとメラノサイト共培養して得られる皮膚モデルなどを用いることができる。
「ケラチノサイト」とは、外界に直接暴露する上皮組織の上皮細胞のうち、角質化能力を持つ細胞をいう。本発明に用いることができるケラチノサイトは特に制限はないが、ヒト、マウスなどの哺乳類由来のケラチノサイトであることが好ましい。本発明に用いることができるケラチノサイトは通常の方法により調製することができる。また、市販のものを用いることもできる。
【0028】
本発明のスクリーニング方法はin vitroで行うことが好ましいが、in vivoで実施することもできる。
【0029】
また、本発明のスクリーニング方法で選定された有効成分を外用剤組成物に用いることが出来る。
その際、外用剤組成物における前記有効成分の含有量は特に制限はないが、組成物の
0.0001〜10質量%であることが好ましく、0.001〜5質量%であることがより好ましい。
【0030】
また、本発明のスクリーニング方法で選定された有効成分を含む外用剤組成物は、その使用形態において薬用皮膚外用剤と化粧料に大別することができるが、特にシミ改善用化粧料、美白用化粧料などの皮膚化粧料として用いるのが好ましい。
【0031】
本発明のスクリーニング方法で選定された有効成分を含む外用剤組成物を皮膚化粧料として使用する場合は、複数のメラノサイト活性化因子により刺激されたメラノサイトの、増殖および/または活性化を抑制する有効成分の他に、化粧料成分として一般に使用されている成分(油分、界面活性剤、保湿剤、しわ改善剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素、香料等)を任意に組合せて含有させることができる。
皮膚化粧料の形態としては、種々の形態、例えば油中水型又は水中油型の乳化化粧料、クリーム、化粧乳液、化粧水、油性化粧料、口紅、ファンデーション、入浴剤、皮膚洗浄剤、爪手入れ剤等が挙げられる。
【0032】
薬用皮膚外用剤としては、例えば各種軟膏剤を挙げることができる。軟膏剤としては、油性基剤をベースとするもの、水中油型又は油中水型の乳化系基剤をベースとするもののいずれであってもよい。油性基剤としては、例えば植物油、動物油、合成油、脂肪酸及び天然又は合成のグリセライド等が挙げられる。薬用皮膚外用剤には、複数のメラノサイト活性化因子により刺激されたメラノサイトの、増殖および/または活性化を抑制する有効成分の他に、例えば鎮痛消炎剤、鎮痒剤、殺菌消毒剤、収斂剤、皮膚軟化剤、ホルモン剤等を必要に応じて使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
(試験例1)
96穴プレートにヒト表皮由来メラノサイトの分散液100μlを5×10cell/wellの細胞密度となるように各穴に播種した。培地はMedium254にPMAを除くHMGS(Human Melanocyte Growth Supplement)(いずれもCascade Biologics 社)を添加したものを用いた。
24時間の培養後、表1に示すように、各種メラノサイト活性化因子ET−1(Sigma社製)、SCF(Sigma社製)、α−MSH(Sigma社製)、ヒスタミン(Sigma社製)、PGE2(Sigma社製)を添加した。最終的に、培地量は200μl/wellで、37℃、5%COの条件下で培養を行った。3日後に培地100μlを除去後、新たな培地(前記活性化因子含有)100μlを添加し、更に4日間培養した。
なお、培地には、以下の添加物も添加されている。
bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子) 3ng/ml
BPE(ウシ脳下垂体抽出液) 0.2体積%
FBS(ウシ胎児血清) 0.5体積%
ハイドロコーチゾン 5×10-4mol/m3
インスリン 5μg/ml
トランスフェリン 5μg/ml
ヘパリン 5μg/ml
【0035】
【表1】

【0036】
培養終了後、メラノサイトをCa2+およびMg2+を除去したPhosphate−buffered saline(PBS)で洗浄し、抽出バッファー(0.1M Tris−HCL(pH7.2)、1%Nonidet P−40、0.01%SDS、100μM PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオライド)、1μg/mlアプロチニン)を20μl/well、Assay buffer(4%ジメチルホルムアミドを含有する100mM Sodium phosphate−buffered(pH7.1))を20μL/well添加し、0℃、3時間で細胞を可溶化し、チロシナーゼ抽出溶液として酵素活性測定(ドーパオキシターゼ活性測定)に用いた。
【0037】
ドーパオキシターゼ活性測定は、MBTH法(例えば、Winder A.J.,Harris H.,Eur.J.Biochem.,198,317−326,1991参照)を参考に、以下のように行った。
可溶化した細胞溶液(前記チロシナーゼ抽出溶液)の各wellに、Assay bufferを80μL/well、20.7mM MBTH(3−メチル−2−ベンゾチアゾリノン ヒドラゾン)溶液を60μL、基質として5mM L−ドーパ(L−ジヒドロキシフェニルアラニン)溶液を40μl、それぞれ加え、37℃30〜60分反応させた後、その呈色反応を490nmの吸光度で測定した。その結果を図1に示す。
【0038】
その結果、複数のメラノサイト活性化因子を組み合わせて添加することにより、ドーパオキシターゼ活性が増加することを確認した。中でもET−1、SCF、α−MSH、ヒスタミン、PGE2すべてを添加した場合が、最もドーパオキシターゼ活性が増加することを確認した。
【0039】
更に、ET−1、SCF、α−MSH、ヒスタミン、PGE2すべてをそれぞれ10×10-7mol/m3添加した場合でも、10×10-6mol/m3添加した場合と同等のドーパオキシターゼ活性が認められた。このことから、それぞれの因子が10×10-7mol/m3という低濃度でも、5種添加することにより高いドーパオキシターゼ活性が認められることを確認した。
【0040】
これらのことから、シミ関連メラノサイト活性化因子を、複数作用させることにより、より実際のメラノサイトに近い系でシミ改善作用を有する素材をスクリーニング可能な方法を確立した。また、メラノサイト活性化因子を低濃度添加した場合であっても、実際のメラノサイトに近い系を再現することができることがわかった。
【0041】
なお、「ドーパ(ジヒドロキシフェニルアラニン)」とは、メラニン生合成の過程に生成する物質であり、メラニン合成の出発物質チロシンを酵素チロシナーゼが酸化しドーパが生成する。
シミ部位において、ET−1およびSCF等のメラノサイト活性化因子が正常部位よりも高い濃度で発現していることが報告されている(Kadono S,et al.,J.Invest.Dermatol.,2001,116,pp.571-577;Hattori H,et al.,J.Invest.Dermatol.,2004,125,pp.1256-1265等参照)。メラノサイト活性化因子が共存すると、メラノサイトが活性化され、ドーパオキシターゼ活性の上昇およびメラノサイトの増殖が起こり、色素が沈着しシミが形成される。したがって、高いドーパオキシターゼ活性を有する評価系が、実際のシミ部位のメラノサイトに近い系を再現していることを意味する。
【0042】
(試験例2)
皮膚のモデルとして、メラノサイトおよびケラチノサイトを含むMEL−300(クラボウ社製)のAsian donorを用いた。培地はEPI−100MM(クラボウ社製)を用い各種メラノサイト活性化因子を表2に示す濃度となるように添加して培養を行った。メラノサイト活性化因子5μMを含むストック溶液を終濃度が10×10-7mol/m3〜10×10-5mol/m3となるようにEPI−100MMに添加し、以下の条件で培養した。
【0043】
【表2】

【0044】
上記で調製したメラノサイト活性化因子入り培地5mLを6穴プレートに添加し、2枚重ねたステンレスワッシャー上に皮膚モデルを下面に気泡が入らないように設置し、37℃、5%COの条件下で培養した。培地交換は2〜3日ごとに3回行った。培地交換は、well内の培地を吸引除去し、新たに調製したメラノサイト活性化因子を所定量含む培地を5mL添加後、上記の培養条件で培養を継続した。
13日間培養終了後、培地を吸引除去し、培地で10倍希釈したAlamarBlue溶液2mlで皮膚モデルを2〜3時間培養し、培地200μlを96穴プレートに移し蛍光強度(励起波長;544nm、蛍光波長;590nm)を測定した(結果は図示せず)。
AlamarBlue測定後、皮膚モデルをPBS(−)にて十分洗浄後、写真撮影を行った。その結果を図2に示す。皮膚組織をエッペンドルフチューブに移し、PBS(−)にて3回洗浄(以降、洗浄液の除去には、遠心分離後組織を沈降させ、洗浄液を除去)した。続いて、氷冷5%トリクロロ酢酸で3回洗浄、エタノール:ジエチルエーテル(3:1)で2回洗浄、ジエチルエーテルで1回洗浄した後に50℃で2時間乾燥させた。2N水酸化ナトリウムを200μL添加し、100℃で10分放置して組織を溶解した。室温に放冷後、溶液を96穴プレートに100μl移し、マイクロプレートリーダーにて吸光度(405nm)を測定した。メラニン量は市販の合成メラニンで作成した検量線にて算出した(1mg/mlのメラニン含有2N水酸化ナトリウム溶液を2倍希釈を繰り返し7点作成した)。その結果を図3に示す。なお、図3に示す結果は、吸光度の値で示した。
図2および図3に示すように、ET−1またはα−MSHのみを10×10-7〜10×10-5mol/m3添加した試料1−2、1−4、2−1、2−2、2−5および2−6にいては、明らかな黒化は見られなかった。SCFは10×10-5mol/m3添加で、黒化が確認できた(試料2−4)。ET−1、SCFおよびα−MSH(10×10-6mol/m3)の組み合わせを検討した結果、ET−1とSCFの組み合わせのみで極めて強く黒化することを確認した(試料1−5)。さらに、ET−1、SCF、α−MSHすべて添加した場合、更に黒化が増すことを確認した(試料1−8および試料2−8)。
【0045】
さらに、図3に示すように、メラニン量においても前述と同様な結果であることを確認した。
また、試料1−5と試料2−7との比較から、ET−1とSCFを組み合わせた場合、それぞれ10×10-7mol/m3という低濃度において、それぞれ10×10-6mol/m3と同程度の黒化度とメラニン量を示すことを確認した。さらに、試料1−8と試料2−8との比較から、ET−1とSCFとα−MSHを10×10-7mol/m3で組み合わせた場合より強い黒化度とメラニン量の増加を確認した。
以上の結果から、メラノサイトおよびケラチノサイトを含む皮膚モデルを用いた系では、より皮膚に近い状態が再現できる。前述のように、メラノサイト活性化因子の1種のみを用いた場合、10-5mol/m3という、生体内での発現量とはかけ離れた量の濃度で加えても、黒化が明確でないことは非常に驚くべき結果である。これは、単独のメラノサイト活性化因子による活性化では目視でわかるほどの黒化は起こらす、目に見える実際のシミの状態とは大きく異なることを示唆している。一方、ET−1およびSCFを組み合わせて用いた場合、極めて強い黒化を示していた。これは、実際のシミにおいても、複数のメラノサイト活性化因子の相乗効果で、明確な黒化を引き起していることを示唆している。
さらに、ET−1、SCFにα−MSHを加えることにより更に黒化が促進されることから、よりシミに近い状態を再現しているものと考えられる。また、メラノサイト活性化因子の濃度をそれぞれ10×10-5mol/m3に設定しても黒化が促進されていたことから、生体内ではもっと少ない量でより多種の因子が関与している可能性も示唆される。
【0046】
(実施例)
96穴プレートにヒト表皮細胞由来のメラノサイト100μlを5×10cell/wellの細胞密度となるように各穴に播種した。培地はMedium254にPMAを除くHMGS(Human Melanocyte Growth Supplement)(いずれもCascade Biologics社)を添加したものを用いた。
24時間の培養後、各種メラノサイト活性化因子ET−1、SCF、α−MSH、ヒスタミン、PGE2を、それぞれ培地中終濃度で10×10-7mol/m3になるように添加した。
【0047】
また、表3に示すように、各種被験成分を添加した。最終的に培地量は200μl/wellで、37℃、5%COの条件下で培養を行った。3日後に培地100μlを除去後、新たな培地(メラノサイト活性化因子および被験成分含有)100μlを添加し、更に4日間培養した。
【0048】
【表3】

【0049】
培養終了後、メラノサイトをCa2+およびMg2+を除去したPhosphate−buffered saline(PBS)で洗浄し、抽出バッファー(0.1M Tris−HCL(pH7.2)、1%Nonidet P−40、0.01%SDS、100μM PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオライド)、1μg/mlアプロチニン)を20μl/well、Assay buffer(4%ジメチルホルムアミドを含有する100mM Sodium phosphate−buffered(pH7.1))を20μL/well添加し、0℃、3時間で細胞を可溶化し、ドーパオキシターゼ活性の測定を行った。ドーパオキシターゼ活性の測定は、試験例1と同様に行った。
【0050】
ET−1、SCF、α−MSH、ヒスタミン、PGE2すべてを10×10-7mol/m3添加して培養したヒトメラノサイトに対する各種被験成分の影響を示した結果を図4に示す。
被験成分を添加しなかった比較例に対し、ET−1作用抑制効果が知られているカミツレエキス、SCF作用抑制効果が知られているキキョウエキス、α−MSH作用抑制効果が知られているクジンエキス、ヒスタミン作用抑制効果が知られているシラカバエキス、およびチロシナーゼ阻害作用が知られているアスコルビン酸2−グルコシドまたはアルブチンを添加した実施例1〜6において、吸光度が減少しており、いずれについてもドーパオキシターゼ活性抑制効果が認められた。
この結果から、本発明のスクリーニング方法により、それぞれ単独のメラノサイト活性化因子に対する抑制剤だけではなく、プロテインカイネース経路、チロシンカイネース経路およびアデニルサイクラーゼ経路など、シミの発生に関わる様々な情報伝達経路を総合的に抑制する素材も検出可能であった。このことより、本発明のスクリーニング方法によれば、シミの発生のメカニズムに作用する素材を網羅的にスクリーニングできることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】試験例1の結果を示すグラフである。
【図2】試験例2の結果を示す図面代用写真である。
【図3】試験例2の結果を示すグラフである。
【図4】実施例の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラノサイトの増殖および/または活性化を抑制することによりシミ改善効果及び/または美白効果を発揮する有効成分のスクリーニング方法であって、メラノサイトを被験成分と接触させ、メラノサイトのチロシナーゼ活性および細胞活性を測定し、チロシナーゼ活性を減少させる被験成分を前記有効成分として選定する工程を含み、前記メラノサイトに複数のメラノサイト活性化因子を添加してメラノサイトに刺激を与え増殖および/または活性化を促進する、スクリーニング方法。
【請求項2】
前記メラノサイト活性化因子がエンドセリン−1(ET−1)、幹細胞増殖因子(SCF)、αメラノサイト刺激ホルモン(α−MSH)、ヒスタミンおよびプロスタグランジンE2(PGE2)からなる群から選ばれる、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
各メラノサイト活性化因子の添加量が10×10-6mol/m3以下である、請求項1または2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記メラノサイト活性化因子を少なくとも3種以上用いる、請求項1〜3のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記メラノサイト活性化因子を少なくとも5種以上用いる、請求項1〜4のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記メラノサイトにケラチノサイトを共存させる、請求項1〜5のいずれかに記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−81913(P2010−81913A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257549(P2008−257549)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】