説明

シャント狭窄検出装置

【課題】透析患者のシャント狭窄の度合いを精度よく検出すること。
【解決手段】シャント狭窄検出装置10において、演算部15は、血液透析患者のシャント形成部位から、シャント音を測定し(ステップS1)、血液透析患者における血管の疑似狭窄形成部位から、狭窄度合いを変えつつ測定された血流音を取得し(ステップS2)、測定されたシャント音を、取得された血流音と比較することにより(ステップS3)、血流音においてシャント音に近似する近似音を検出し(ステップS4)、検出された近似音に対応する疑似狭窄形成部位の狭窄度合いを、シャントの狭窄度合いとして判定する(ステップS5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析において用いられるシャント狭窄検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析は、一般的な透析療法の一つであり、腎機能が低下した状態にある患者の動脈から血液を体外に取り出して透析装置に導入し、透析装置によりこの血液を浄化して、浄化後の血液を患者の静脈に戻す。血液透析において一定量以上の安定した血流を確保するために、動脈と静脈とをバイパスさせる血管結合部、いわゆるシャントを形成する必要があるが、このシャントが血栓形成等の原因により狭窄することがある。
【0003】
シャントの狭窄を検出する装置としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。この装置では、シャント形成部位近傍に装着されたマイクによりシャント音を集音し、シャント音の検出値を予め設定された下限値と比較し、検出値が下限値を下回って許容範囲から外れた場合に、警報を発する。
【0004】
なお、シャントは、「狭窄」することもあれば「閉塞」することもある。「狭窄」が進行した状態が「閉塞」であることから、「閉塞」と「狭窄」とが明確に区別されることもあるが、本願では、「閉塞」が「狭窄」の一部に含まれるものと定義して説明する。
【特許文献1】特開平5−115547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の装置においては、シャント音が正常か否かのみを判断し得るものであるため、シャント音が、完全に正常か、完全ではないものの許容範囲内か、許容範囲外にあるだけでなく特に緊急性が高いか等、シャント狭窄の度合いまで検出することはできない。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、シャント狭窄の度合いを精度よく検出することができるシャント狭窄検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシャント狭窄検出装置は、血液透析患者のシャント形成部位から、シャント音を測定するシャント音測定手段と、前記血液透析患者における血管の疑似狭窄形成部位から、狭窄度合いを変えつつ測定された血流音を取得する取得手段と、測定された前記シャント音を取得された前記血流音と比較することにより、前記血流音において前記シャント音に近似する近似音を検出する検出手段と、検出された前記近似音に対応する前記疑似狭窄形成部位の狭窄度合いを、前記シャントの狭窄度合いとして判定する判定手段と、を有する構成を採る。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シャント狭窄の度合いを精度よく検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施の形態に係るシャント狭窄検出装置の構成を示すブロック図である。
【0011】
図1のシャント狭窄検出装置10は、血圧測定部11、乱流音測定部12、シャント音測定部13、メモリ14、演算部15及び表示部16を有する。血圧測定部11にはカフ17が、乱流音測定部12にはマイク18が、シャント音測定部13にはマイク19が、それぞれ接続されている。
【0012】
マイク19は、シャントが形成されている方の透析患者の腕に装着され、当該シャント形成部位におけるシャント音を集音し、当該シャント音を表す電気信号(以下「シャント音信号」という。)をシャント音測定部13に供給する。
【0013】
シャント音測定部13は、増幅器、フィルタ及びA/D(アナログディジタル)変換器(いずれも図示せず)を有しており、マイク19から供給されるシャント音信号に対し、増幅、高域雑音除去及びA/D変換といった信号処理を施し、信号処理後のディジタルデータをシャント音波形データとして演算部15に供給する。
【0014】
カフ17は、内部に膨縮可能な空気袋(図示せず)を有しており、シャントが形成されていない方の透析患者の腕に巻着し空気袋を膨張させることにより、カフ17の装着部位を圧迫する。これにより、血管の疑似狭窄がカフ17の装着部位(以下「疑似狭窄形成部位」という。)に形成される。
【0015】
カフ圧可変手段としての血圧測定部11は、カフ17を用いて従来と同様のオシロメトリック法により血圧測定を行うよう構成されている。すなわち、血圧測定部11は、ポンプ、排気弁及び圧力センサ(いずれも図示せず)を有する。血圧測定部11は、透析患者に巻着されたカフ17の空気袋内に、ポンプにより給気することによって、カフ17の空気袋を膨張させる。血圧測定部11は、空気袋の空気圧(以下「カフ圧」という。)が一定値に達すると、給気を停止すると共に、排気弁を開くことによって空気袋からの排気を開始する。排気中、血圧測定部11は、脈波振幅の増減を監視し、脈波振幅の増加中の所定タイミングにおけるカフ圧を最高血圧として測定し、脈波振幅の減少中の所定タイミングにおけるカフ圧を最低血圧として測定する。
【0016】
マイク18は、疑似狭窄形成部位に装着され、血圧測定部11によってカフ17を用いた血圧測定が行われている間に、疑似狭窄部又はその近傍部における血流音(以下「乱流音」という。)を集音し、当該乱流音を表す電気信号(以下「乱流音信号」という。)を乱流音測定部12に供給する。
【0017】
血流音測定手段としての乱流音測定部12は、増幅器、フィルタ及びA/D変換器(いずれも図示せず)を有しており、マイク18から供給される乱流音信号に対し、増幅、高域雑音除去及びA/D変換といった信号処理を施すことにより乱流音波形データを生成する。乱流音測定部12は、生成された乱流音波形データにおいて、少なくとも所定期間に相当する部分を、メモリ14(例えばハードディスク等)に記憶させる。ここで、上記所定期間は、血圧測定部11により監視されるカフ圧が最高血圧を呈するタイミングから最低血圧を呈するタイミングまでの期間を含む。
【0018】
ここで、上記の期間における乱流音について、図2を参照しながら説明する。図2は、血圧測定の際に測定される乱流音100、カフ圧103及び心電図104の各波形を示す図である。
【0019】
血圧測定において排気によりカフ圧103の減圧を開始してからカフ圧103が最高血圧を呈するまでの期間は、圧迫により血管が完全に狭窄する。よって、カフ圧103が最高血圧を呈するタイミングでは、疑似狭窄度合いは最大である。一方、カフ圧103が最低血圧を呈するタイミング以降の期間は、血管が圧迫から完全に解放される。よって、カフ圧103が最低血圧を呈するタイミングでは、疑似狭窄度合いは最小である。すなわち、メモリ14に記憶される乱流音波形データは、図2における乱流音101から乱流音102までを少なくとも表す乱流音波形データである。乱流音101及び乱流音102は、それぞれの拡大図を図3及び図4に示すように、異なる波形を有する。これは、乱流音の周波数成分やその強度が疑似狭窄度合いに応じて変化するためである。
【0020】
取得手段及び判定手段としての演算部15は、演算処理装置と記憶装置と(いずれも図示せず)からなるものであり、記憶装置に予め記憶されたシャント狭窄検出プログラムを演算処理装置で実行することにより、シャント狭窄度合いを判定する機能を実現し、判定されたシャント狭窄度合いを表示部16(例えば液晶表示装置等)に表示させる。
【0021】
なお、シャント狭窄度合いの通知方法は、画面表示に限定されるものではなく、音声出力によるものであってもよい。
【0022】
シャント狭窄度合いの判定機能は、図5に示す動作によって実現される。図5は、演算部15において実行されるシャント狭窄度合い判定動作を示すフロー図である。
【0023】
まず、ステップS1では、シャント音波形データをシャント音測定部13から受信する。そして、ステップS2では、シャント音測定前の血圧測定時に生成されてメモリ14に記憶された乱流音波形データをメモリ14から読み出す。そして、ステップS3では、受信したシャント音波形データと、読み出した乱流音波形データとの相関を算出することにより、これらのデータを比較する。ステップS4では、シャント音波形データと比較された乱流音波形データにおいて、シャント音波形データとの間で最も高い相関を呈した部分を判定する。この部分は、測定されたシャント音に近似する音(以下「近似音」という。)を表す部分、つまり近似音波形データである。このようにしてステップS4では近似音を検出する。そして、ステップS5では、近似音波形データとして判定された部分の乱流音波形データが対応する疑似狭窄度合いを、シャント狭窄度合いとして判定する。
【0024】
よって、カフ圧が最高血圧を呈するタイミングにおける乱流音波形データが近似音波形データとして判定された場合は、疑似狭窄度合いが最大であるため、シャント狭窄度合いも最大となる一方、カフ圧が最低血圧を呈するタイミングにおける乱流音波形データが近似音波形データとして判定された場合は、疑似狭窄度合いが最小であるため、シャント狭窄度合いも最小となる。シャント狭窄度合いは、狭窄度合いの大小をランク化(例えば、Aランク、Bランク等)したものであってもよいし、数値化(例えば0%、30%等)したものであってもよい。
【0025】
このようにして、シャント狭窄度合いの判定機能が実現される。
【0026】
以上のように、本実施の形態によれば、透析患者のシャント形成部位と異なる部位に疑似狭窄を形成し、疑似狭窄形成部位からその狭窄度合いを変えつつ測定された乱流音を採音しておき、測定したシャント音をその乱流音と比較することにより、シャント音に近似する音を乱流音において検出し、近似音に対応する疑似狭窄度合いをシャント狭窄度合いとして判定するため、透析患者のシャント狭窄度合いを精度よく判定することができる。
【0027】
また、本実施の形態では、カフで圧迫することにより透析患者に血管の疑似狭窄を生じさせ、その狭窄度合いの可変中に乱流音の測定を行う、すなわち、乱流音の測定手法を、一般的な血圧測定手法に適合させているため、透析患者の血圧を測定する場合には、血圧測定と同時にシャント狭窄度合い判定を行うことができる。さらに、血液透析を行う場合には、事前に血圧測定を行うことが一般的であるため、血液透析の前に必ずシャント狭窄度合い判定を行うことができる。
【0028】
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記装置の構成についての説明は一例であり、本発明の範囲においてこれらの例に対する様々な変更や追加が可能であることは明らかである。例えば、本実施の形態では、シャント狭窄検出装置に血圧測定部が設けられているが、血圧測定部はシャント狭窄検出装置と別体でもよい。また、本実施の形態では、シャント狭窄検出装置において、オシロメトリック法により血圧測定を行う構成を採用しているが、コロトコフ音法により血圧測定を行う構成を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態に係るシャント狭窄検出装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の一実施の形態に係る乱流音、カフ圧及び心電図の各波形を示す図
【図3】図2における最高血圧時の乱流音の波形の拡大図
【図4】図2における最低血圧時の乱流音の波形の拡大図
【図5】本発明の一実施の形態に係るシャント狭窄度合い判定動作を説明するためのフロー図
【符号の説明】
【0030】
10 シャント狭窄検出装置
11 血圧測定部
12 乱流音測定部
13 シャント音測定部
15 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液透析患者のシャント形成部位から、シャント音を測定するシャント音測定手段と、
前記血液透析患者における血管の疑似狭窄形成部位から、狭窄度合いを変えつつ測定された血流音を取得する取得手段と、
測定された前記シャント音を取得された前記血流音と比較することにより、前記血流音において前記シャント音に近似する近似音を検出し、前記近似音に対応する前記疑似狭窄形成部位の狭窄度合いを、前記シャントの狭窄度合いとして判定する判定手段と、
を有することを特徴とするシャント狭窄検出装置。
【請求項2】
前記疑似狭窄形成部位に巻着されたカフのカフ圧を可変することにより、前記疑似狭窄形成部位の狭窄度合いを可変するカフ圧可変手段と、
前記疑似狭窄形成部位の狭窄度合いの可変中に、前記疑似狭窄形成部位から血流音を測定する血流音測定手段と、
をさらに有することを特徴とする請求項1記載のシャント狭窄検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−233002(P2009−233002A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81215(P2008−81215)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000112602)フクダ電子株式会社 (196)
【Fターム(参考)】