説明

シャープペンシル

【課題】スライダー内における筆記芯の折損に対するメンテナンスを可能にすると共に、メンテナンス後におけるスライダーの嵌合度合いが不足していても、正常化させることができるシャープペンシルを提供すること。
【解決手段】ノック操作に伴うノック棒31の第1移動位置から第2移動位置の間において、スライダー8に形成された段部8aが口先部材2の内壁面2aに当接する。したがって、スライダーの再装着にあたり中継パイプ7へのスライダーの嵌合度合いが不足していても、この時点においてスライダー8の中継パイプ7への嵌合状態を正常化させることができる。また、前記ノック棒の第2移動位置において、前記チャックの先端部が前記リング状の締め具から前方に突出するように動作する。これにより、筆記芯の繰り出し動作がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はノック式のシャープペンシルに関し、特に筆記芯(替え芯)を把持するチャック部分において筆記芯が折損した場合のメンテナンスが容易になし得るように配慮したシャープペンシルに関する。
【背景技術】
【0002】
ノック式のシャープペンシルは、軸筒内に筆記芯を把持するチャックが収容され、例えば軸筒の後端部に配置されたノック部をノック操作することで、前記チャックが前後に移動し、当該チャックの外側に配置されたリング状の締め具等との作用により、筆記芯が軸筒の前端部から順次繰り出されるように動作する。
このようなチャックを備えたシャープペンシルにおいては、何等かの要因により軸筒内におけるチャックの直前において筆記芯が折損する場合があり、折損した残芯がノック操作によって機構内部に悪影響を及ぼすという問題が発生する。
【0003】
一方、この種のシャープペンシルにおいては、筆記の進行と共に筆記芯が偏減りするために、描線の太さが変化するという問題を抱えており、本件出願人は筆記芯に加わる筆記圧を利用して、筆記芯を除々に一方向に回転させることができる回転駆動機構を備えたシャープペンシルについて先に提案しており、これは特許文献1および2などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2007/142135号公報
【特許文献2】特開2011−116028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記した従来のノック式のシャープペンシルであっても、特許文献1,2として挙げた筆記芯の回転駆動機構を備えたシャープペンシルであっても、頻度は低いもののチャックの直前において筆記芯が折損する問題が発生する。
この折損した残芯は前記したとおりノック操作によって機構内部に悪影響を及ぼすことになるため、これを取り除くためのメンテナンスが必要となる。
【0006】
このメンテナンスを可能にするには、チャックの直前に配置されるスライダーと称する部品を取り外すことができるように構成することが好ましく、メンテナンス後にはこれを再装着する操作が必要となる。
このスライダーの再装着にあたっては、スライダーを軸本体に嵌合により取り付けることができるものの、利用者は確実な嵌合操作をしないまま、前記スライダーを覆う口金もしくは樹脂製の口プラと称する口先部材を軸筒にねじ込む操作を行う場合がある。
この状態でノック操作により筆記芯を繰り出す操作を行った場合には、芯がスライダーの一部に当たり、チャックの直前において再度筆記芯を折損させる問題が繰り返されることになる。
【0007】
この発明は、前記した問題点に着目してなされたものであり、チャックの直前に配置されるスライダーが軸本体に着脱可能に嵌合される構成を採用すると共に、メンテナンス後において、軸本体へのスライダーの嵌合度合いがたとえ不足していても、ノック操作によりスライダーの嵌合状態を正常化させることができるシャープペンシルを提供することを課題とするものである。
【0008】
加えて、この発明は前記特許文献2に開示されているように筆記圧によって筆記芯を回転駆動させることができるユニット化された回転駆動機構を備えたシャープペンシルに好適に採用することができ、同様にノック操作によりスライダーの嵌合状態を正常化させることが可能なシャープペンシルを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかるシャープペンシルは、ノック操作によって軸方向に前進移動するノック棒と、前記ノック棒の軸方向の前進移動に伴って、前進移動される中継部材と、前記中継部材の前端部に対して着脱可能に嵌合されて取り付けられたスライダーと、前記スライダーを覆い軸筒の前端部に着脱可能に取り付けられた口先部材とが具備され、前記ノック操作による前記中継部材の前進移動に伴って、前記スライダーに形成された段部が、前記口先部材の内壁面に当接するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
この場合、好ましい実施の形態においては、ノック操作による前記ノック棒の軸方向の第1移動位置において、ノック棒に形成された第1当接部に後端部が当接する軸方向に移動可能な芯ケースが具備され、ノック操作による前記ノック棒の軸方向の第1移動位置よりもさらに前方の第2移動位置において、ノック棒に形成された第2当接部に前記中継部材の後端部が当接するように構成され、前記芯ケースの前端部には筆記芯を把持するチャックが配置されると共に、前記中継部材の前端部には前記チャックの周囲を覆うリング状の締め具が配置され、前記ノック棒の第1移動位置から第2移動位置の間において、前記スライダーの一部が前記口先部材内の一部に当接すると共に、前記ノック棒の第2移動位置において、前記チャックの先端部が前記リング状の締め具から前方に突出するように構成される。
【0011】
また、前記中継部材の前端部に対して着脱可能に嵌合されるスライダーの一部には、当該スライダーの前方に向かう矢印マークが形成されていることことが望ましい。
【0012】
さらにこの発明は、前記中継部材が中継パイプと当該中継パイプの後端部に接続された回転駆動機構とにより構成されたシャープペンシルに好適に採用することができ、前記中継パイプの前端部内周面に前記リング状の締め具が配置されると共に、前記中継パイプの前端部外周面に前記スライダーが着脱可能に嵌合されるように構成され、前記回転駆動機構は、筆記芯に加わる筆記圧による前記中継パイプの前後動を回転運動に変換し、前記中継パイプを介して前記筆記芯を一方向に回転駆動させるように構成される。
【発明の効果】
【0013】
前記したこの発明にかかるシャープペンシルによると、中継部材の前端部にスライダーが着脱可能に嵌合されることで取り付けられているので、筆記芯がチャックの直前において折損した場合においても、残芯を取り除くメンテナンス作業を容易に実行することができる。
そして、前記中継部材の前端部にスライダーを再装着する際に、確実な嵌合操作がなされない場合であっても、ノック操作によるノック棒の前進動作に連動して中継部材が前進移動されるので、スライダーに形成された段部が口先部材の内壁面に当接し、中継部材に対するスライダーの嵌合状態を正常化させることができる。
【0014】
加えて、ノック操作によるノック棒のさらなる前進動作に連動して、前記チャックの先端部がリング状の締め具から前方に突出するように動作するので、チャックに把持された筆記芯の正常な繰り出し動作を保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明にかかるシャープペンシルの外観構成を示した斜視図である。
【図2】図1に示すシャープペンシルの前半部を示した断面図である。
【図3】同じく後半部を示した断面図である。
【図4】ノック操作に基づく内部の動きを順を追って説明する断面図である。
【図5】図4に続いてノック操作に基づく内部の動きを説明する断面図である。
【図6】図5(C)の状態における前後の各端部を拡大して示した断面図である。
【図7】図5(D)の状態における前後の各端部を拡大して示した断面図である。
【図8】口先部材を外した状態のスライダー部分の構成を拡大して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明にかかるシャープペンシルについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。なお、以下に示す各図においては同一部分を同一符号で示しているが、紙面の都合により一部の図面においては、代表的な部分に符号を付け、その詳細な構成はその他の図面に付した符号を引用して説明する場合もある。
【0017】
先ず、図1〜図3はシャープペンシルの全体構成を説明するものであり、軸筒を構成する先軸1の先端部には、口先部材2が螺合されることで、先軸1に対して着脱可能に取り付けられている。そして、前記先軸1および後述する後軸の軸芯に沿って筒状の芯ケース3が収容されており、この芯ケース3の先端部には短軸の芯ケース継手4が取り付けられ、前記芯ケース継手4を介して真ちゅう製のチャック5が連結されている。
【0018】
前記チャック5内には、その軸芯に沿って図示せぬ筆記芯の通孔が形成され、また先端部が複数に分割されて、分割された先端部は真ちゅうによりリング状に形成された締め具6内に遊嵌されている。またリング状の前記締め具6は前記チャック5の周囲を覆うようにして配置された中継パイプ7の先端部内面に装着されている。
なお、この中継パイプ7の後端部は筆記圧を利用して筆記芯(替え芯)を回転させる後述する回転駆動機構に接続されている。
【0019】
前記中継パイプ7の前端部には、前記した口先部材2内に収容されてその前端部が口先部材2より突出される円筒状のスライダー8が中継パイプ7に対して嵌合されることで着脱可能に取り付けられ、さらにスライダー8の前端部には、筆記芯を案内する先端パイプ9がパイプ保持具10を介して取り付けられている。
また、前記スライダー8の内周面におけるパイプ保持具10の直後には、軸芯部分に通孔を形成したゴム製の保持チャック12が収容されている。
【0020】
前記した構成により、芯ケース3に続くチャック5内に形成された通孔、および前記保持チャック12の軸芯に形成された通孔を介して、先端パイプ9に至る直線状の芯挿通孔が形成されており、この直線状の芯挿通孔内に図示せぬ筆記芯が挿通される。そして、前記した中継パイプ7と芯ケース継手4との間には、コイル状のチャックスプリング13が配置されている。
【0021】
すなわち、前記チャックスプリング13は、その前端部が中継パイプ7の内周面に形成された環状の段部に当接し、チャックスプリング13の後端部は前記芯ケース継手4の前端面に当接した状態で収容されている。したがって、前記チャックスプリング13の作用により、前記チャック5は中継パイプ7内を後退してその先端部がリング状の締め具6内に収容される方向に、すなわち筆記芯を把持する方向に付勢されている。
【0022】
軸筒を構成する前記した先軸2には例えばゴムなどの弾性素材により形成されたグリップ部材14が先軸2を取り巻くようにして装着されている。このグリップ部材14を先軸2に装着するにあたっては、先に飾りリングとして機能する透明な樹脂素材により形成された透明リング15が先軸2の先端部側から装着される。
この透明リング15は、先軸に一体に成形された環状の鍔部1aによって位置決めされ、続いて前記グリップ部材14が同方向から先軸2を取り巻くようにして装着される。その後に、前記した口先部材2が先軸1の前端部に螺合されることで、前記透明リング15およびグリップ部材14が軸方向に抜け出ることなく、前記先軸1に取り付けられる。
【0023】
前記した飾りリングとして機能する透明リング15は、予め先軸1に巻回されるようにして貼り付けられている加飾シール16を覆い、このシール16の周面が視認できるように構成されている。
この加飾シール16には、金もしくは銀色などの光沢のある印刷が施され、その適宜の位置には印刷が施されない透明部分が形成されている。そして、この透明部分および透明な樹脂素材により成形された前記先軸1を透視して、内部の中継パイプ7の一部が視認できるように構成されている。
これにより、後述する回転駆動機構によって中継パイプ7が回転駆動される様子を、透明リング15を介して確認することができる。
【0024】
前記した先軸1の後端部には、軸筒を構成する後軸18の前端部内面が嵌合されて取り付けられており、この後軸18の前半部分には図3に示されているように、ユニット化された回転駆動機構21が収容されている。
この回転駆動機構21には前記したとおり中継パイプ7の後端部が接続されており、この中継パイプ7は筆記動作に基づく筆記芯の後退および前進動作(クッション動作)を前記チャック5を介して受けて、回転駆動機構21に伝達させると共に、クッション動作によって生ずる前記回転駆動機構21による回転運動を、前記中継パイプ7を介して前記チャック5に伝達させるように作用する。
これにより、チャック5に把持された図示せぬ筆記芯は、筆記動作に伴い前記回転駆動機構21による回転運動を受けることになる。
【0025】
なお、前記回転駆動機構21は、その前端部において前記先軸1との間に介在された軸スプリング22によって後方に付勢されている。また回転駆動機構21の後端部は前記後軸18内の縮径により形成された段部18aに、前記軸スプリング22の付勢力により当接している。
すなわち、この実施の形態においては、ユニット化された前記回転駆動機構21は後軸18内の段部18aに当接することによる摩擦により回動が規制され、前記したクッション動作によって生ずる前記回転駆動機構21による回転運動を、前記チャック5側に伝達させるように作用する。
【0026】
前記回転駆動機構21には円筒状に形成された回転子24が具備されており、前記した中継パイプ7は、回転駆動機構21の前端部において、前記回転子24の内周面に嵌合することで結合されている。
【0027】
前記回転子24は、その前端部付近が若干径を太くした太径部になされ、その太径部の一端面(後端面)には第1のカム面24aが形成されており、太径部の他端面(前端面)には第2のカム面24bが形成されている。一方、前記回転子24の後端部側を覆うようにして円筒状の上カム形成部材25が、前記回転子24を回動可能に支持するように配置されており、前記上カム形成部材25の前端部外周には、円筒状の下カム形成部材26が、上カム形成部材25に嵌合されて取り付けられている。
【0028】
そして、前記回転子24における第1のカム面24aに対峙する上カム形成部材25の前端面に、第1の固定カム面25aが形成されている。また、前記回転子24における第2のカム面24bに対峙する下カム形成部材26の前端部内面に、第2の固定カム面26aが形成されている。
【0029】
前記した上カム形成部材25の後端部側には、シリンダー部材27が上カム形成部材25に対して嵌め込まれており、このシリンダー部材27内には円筒状に形成され軸方向に移動可能なトルクキャンセラー28が配置され、当該トルクキャンセラー28の内周面前端部と前記シリンダー部材27の内周面後端部との間にはコイル状のクッションスプリング29が装着されている。
前記クッションスプリング29は、トルクキャンセラー28を前方に付勢するように作用し、この付勢力を受けた前記トルクキャンセラー28に押されて前記回転子24は前方に向かうように作用する。
【0030】
以上のとおり前記した回転駆動機構21は、その中央部が前記芯ケース3を通す空間部になされて芯ケース3とは隔離されており、回転駆動機構21は前記した符号25〜29で示す各部材によりユニット化されている。
【0031】
前記した後軸18の後半部分、すなわち回転駆動機構21の後部側にはノック棒31が軸方向に摺動可能に装着されている。このノック棒31の前端部は環状の楔形突出部31aになされており、この楔形突出部31aが後軸18内に形成された環状突起18bを乗り越えて取り付けられている。
そして、環状突起18bとノック棒31との間にはコイル状のノック棒スプリング32が配置され、このスプリング32によって、前記ノック棒31を後軸18の後端部側に向けて付勢するように構成されている。
【0032】
また、ノック棒31の中央よりも若干後端部寄りには、筆記芯の補給孔31cを備えた当接部31bが形成されており、さらにこのノック棒31の後端部には、消しゴム33が着脱可能に装着されると共に、前記消しゴム33を覆うノックカバー34がノック棒31の後端部の周面に着脱可能に取り付けられている。
【0033】
なお、前記ノック棒31の当接部31bと、前記した芯ケース3の後端部とは所定の間隔をもって対峙した構成にされている。この構成によると、筆記による前記したクッション動作によりチャック5および芯ケース3が若干後退しても、芯ケース3の後端部が前記ノック棒31の当接部31bに衝突することはなく、前記回転駆動機構21による回転動作に障害を与えるのを防止することができる。
【0034】
前記ノック棒31に対して着脱可能に取り付けられた前記ノックカバー34には、このノックカバー34の側壁面に円盤状の突起部34aが一体に形成されている。そして、円盤状突起部34aの円盤面には、円形状にして中央部が若干凸面状になされ前記ノックカバー34とは異色の樹脂盛りシール35が装着されている。なお、前記後軸18の後端部における周方向の一部には、軸方向に切欠き溝18cが形成されており、前記円盤状突起部34aが前記切欠き溝18cに沿って配置されることで、前記ノックカバー34のノック操作が可能となるように構成されている。
前記ノックカバー34に形成された円盤状突起部34aは、前記樹脂盛りシール35により飾りの機能を果たすと共に、シャープペンシルの転がり止めとしての機能も果たすものとなる。
【0035】
以上のように構成されたシャープペンシルにおける前記した回転駆動機構21によると、チャック5が筆記芯を把持した状態で、前記回転子24は中継パイプ7を介してチャック5と共に軸芯を中心にして回転可能になされている。そして、シャープペンシルが筆記状態以外の場合においては、回転駆動機構21内に配置された前記クッションスプリング29の作用により、前記トルクキャンセラー28を介して回転子24は前方に付勢されている。
【0036】
一方、シャープペンシルを使用した場合、すなわち先端パイプ9から突出している筆記芯に筆記圧が加わった場合には、前記チャック5は前記クッションスプリング29の付勢力に抗して後退し、これに伴って回転子24も軸方向に僅かに後退する。したがって、回転子24に形成された第1のカム面24aは前記第1の固定カム面25aに接合して噛み合い状態になされる。
【0037】
前記第1のカム面24aは周方向に沿って連続的に鋸歯状になされており、また前記第1の固定カム面25aも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされており、そのピッチは互いに同一となるように形成されている。
そして、対峙した状態の第1カム面24aと固定カム面25aは、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されており、前記したように第1のカム面24aが第1の固定カム面25aに接合して噛み合い状態になされることによって、回転子24は第1カム面24aの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を受ける。
【0038】
一方、前記第2のカム面24bも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされており、また前記第2の固定カム面26aも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされており、そのピッチは互いに同一となるように形成されている。
そして、前記したように第1のカム面24aが第1の固定カム面25aに接合して噛み合い状態になされた状態においては、対峙した状態の第2カム面24bと第2の固定カム面26aは、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0039】
したがって一画の筆記が終わり、筆記芯に対する筆記圧が解かれた場合には、前記したクッションスプリング29の作用により回転子24は軸方向に僅かに前進し、回転子24に形成された第2カム面24bが、第2の固定カム面26aに噛み合う。これにより回転子24は第2カム面24bの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する同方向の回転駆動を再び受ける。
【0040】
以上のとおり、前記したシャープペンシルによると、筆記圧を受けることによる回転子24の軸方向への往復運動に伴って、回転子24は第1カム面24aおよび第2カム面24bの一歯(1ピッチ)に相当する回転駆動を受け、前記した中継パイプ7およびチャック5を介してこれに把持された筆記芯も同様に一方向に回転駆動される。
したがって、筆記芯は自身が受ける回転運動と筆記による摩耗とにより、先端部が常に円錐形状になされる。それ故、書き進むにしたがって筆記芯が偏摩耗するのを防止させることができ、安定した線幅による筆記が可能となる。
【0041】
なお、前記した回転駆動機構21においては、回転子24とクッションスプリング29との間に、トルクキャンセラー28が介在されている。このトルクキャンセラー28は前記回転子24の後端部との間ですべりを発生させて、回転子26の回転運動がクッションスプリング29側に伝達されるのを阻止するように作用する。これにより、スプリング29の捩じれ戻り(バネトルク)が発生することで、回転子24の回転動作に障害を与えるという問題を解消させることができる。
【0042】
また、この構成によるシャープペンシルにおいては、ノックカバー34をノック操作することで、ノック棒の当接部31bが芯ケース3を前方に押し出し、中継パイプ7に取り付けられたスライダー8の一部が口先部材2内に当接して、その前進が阻まれる。このため、チャック5の先端部が締め具6から相対的に突出してチャック5による筆記芯の把持状態が解除される。そして、前記ノック操作の解除により、チャックスプリング13の作用により芯ケース3およびチャック5は軸筒内において後退する。
【0043】
この時、筆記芯は保持チャック12に形成された通孔内において摩擦により保持されており、この状態でチャック5が後退してその先端部が前記締め具6内に収容されることで、筆記芯を再び把持状態にする。すなわち、ノックカバー34のノック操作の繰り返しによりチャック5が前後動し、これにより筆記芯の解除と把持が行われ、筆記芯はチャック5から順次前方に繰り出されるように作用する。
【0044】
ところで、前記した構成のシャープペンシルにおいては、冒頭において説明したとおり、チャック5の直前において筆記芯が折損する問題が発生し、この折損による残芯を取り除くためのメンテナンスが必要になる。このメンテナンスを可能にするために、この実施の形態においては、前記したとおりチャック5の直前に配置されたスライダー8が、中継パイプ7に対して着脱可能に嵌合した状態で取り付けられている。
【0045】
したがって、折損による残芯を取り除くメンテナンスを実行するにあたっては、先ず先軸1に螺着されている口先部材2を取り外し、続いて中継パイプ7の先端部に嵌合されている前記スライダー8を取り外すことによって、スライダー8内の残芯を容易に取り除くことができる。
このメンテナンスの操作後においては、スライダー8を中継パイプ7の先端部に嵌合させて再装着し、続いて口先部材2を先軸1に螺着させることになる。
【0046】
この場合、利用者によってはスライダー8を中継パイプ7の先端部に嵌合させる際に、確実な嵌合操作をしないまま、スライダー8を覆う口先部材2を先軸1にねじ込む操作を行う場合がある。このために前記したとおり、ノック操作により筆記芯を繰り出す際に、芯がスライダー8の一部に当たり、チャックの直前において再度筆記芯を折損させる問題が繰り返されることになる。
【0047】
そこで、この実施の形態においては、中継パイプ7へのスライダー8の嵌合度合いがたとえ不足していても、最初のノック操作によりスライダーの嵌合状態を正常化させることができるように構成されている。その嵌合状態の正常化動作およびこれに続く筆記芯の繰り出し動作について、図4〜図7に基づいて説明する。
【0048】
図4(A),(B)および図5(C),(D)は、ノックカバー34の一度のノック操作による一連の動作を順を追って説明するものであり、図4(A)はノックカバー34のノック操作がなされない状態、すなわち、図2および図3に示した状態を示している。
図4(B)は、ノックカバー34のノック操作がなされた初期の状態、すなわちノック棒31が軸方向の第1移動位置に達した状態を示しており、この状態においては、ノック棒31に形成された第1当接部としての前記した当接部31bが、軸方向に移動可能な芯ケース3の後端部に当接する。
【0049】
図5(C)はノック操作が進み、ノック棒31が芯ケース3を若干前方に押し出した状態を示しており、この状態においては、前記したチャックスプリング13に比較して、軸スプリング22のばね定数(K=P/δ)が小さいので、軸スプリング22が若干縮小すると共に、ユニット化された回転駆動機構21が僅かに前進する。
この状態においては、図6にシャープペンシルの前後の各端部を拡大して示したとおり、スライダー8において、外径が異なることにより形成された段部8aが口先部材2の縮径された内壁面2aに当接する。
【0050】
したがって、前記したように中継パイプ7へのスライダー8の嵌合度合いが不足している場合には、この時点において中継パイプ7へのスライダー8の嵌合状態を正常化させることができる。
すなわち、中継パイプ7へのスライダー8の嵌合状態の正常化は、ノック棒31の第1移動位置〔図4(B)〕から次に説明する第2移動位置〔図5(D)〕への移動の間において実行されることになる。
【0051】
次に図5(D)は、ノック操作がさらに進みノック棒31が軸方向の第2移動位置に達した状態を示しており、この状態においては、ノック棒31に形成された第2当接部としての前記した楔形突出部31aの先端部が、中継部材としてのユニット化された回転駆動機構21の後端部、すなわちシリンダー部材27の後端部に当接する。
【0052】
この状態においては、図7に示すようにノック棒31に形成された第1当接部としての前記した当接部31bが、芯ケース3の後端部をさらに前方に押し出す。この時、スライダー8および中継部材としての中継パイプ7は前進しないので、チャック5は締め具6内から前方に突出し、同時にチャックスプリング13は圧縮状態になされる。
これにより、チャック5に把持されていた筆記芯は、チャック5の突出動作により前方に繰り出される。
【0053】
なお、この実施の形態においては、図6に示すように前記したスライダー8の前端部には、筆記芯を案内する先端パイプ9がパイプ保持具10を介して取り付けられている。そして、先端パイプ9の直後におけるスライダー8の内面には、前記先端パイプ9に形成された芯挿通孔と同心円状の環状の突起部8bが形成されている。
すなわち、従来のこの種のシャープペンシルにおいては、前記突起部8bは施されておらず、この環状の突起部8bを施すことにより、次に説明する作用効果を享受することができる。
【0054】
これは、チャック5の直前において筆記芯が折損してスライダー8内の空間部8s内に残芯として存在する場合、ノック操作によるチャック5の前進動作により、前記残芯が中継して先端パイプ9およびパイプ保持具10を押し出すように作用する場合があり、時には先端パイプ9が前方に抜け出て筆記が不可能になる場合も発生する。
このような問題を避けるには、前記したようにスライダー8内に環状の突起部8bを形成することは極めて有効であり、この環状の突起部8bの存在により、空間部8s内の残芯が中継して先端パイプ9を押し出し、筆記を不能にするという問題を解消することができる。
【0055】
次に図8は、口先部材2を外した状態のスライダー8部分を拡大して示したものであり、スライダー8の後端部における前記した中継パイプ7への嵌合部には、スライダー8の前方に向かう矢印マーク8cが、スライダーの後端部から切り込まれるようにして形成されている。
この矢印マーク8cは、スライダー8を前方に引き抜くことが可能であることを利用者に対して積極的に知らせるものであり、これにより利用者はスライダー8を中継パイプ7から取り外し、スライダー内の残芯を排除する前記したメンテナンスを実行することができる。
【0056】
また前記矢印マーク8cは、スライダー8の円筒状の後端部において切り込まれるようにして形成されることで、スライダー8における中継パイプ7への嵌合部に弾力性を与えることができ、中継パイプ7への嵌合操作が円滑に行えるように作用する。
【0057】
以上説明した実施の形態は、筆記動作に伴い筆記芯を回転駆動させることができる回転駆動機構21を具備したシャープペンシルに基づくものであるが、この発明は回転駆動機構21を備えないシャープペンシルにも適用することができる。
この場合には、前記した中継パイプ7および回転駆動機構21に代えて、例えば一本のパイプ状の中継部材を利用し、ノック操作時においてノック棒31に形成された第2当接部としての前記した楔形突出部31aの先端部が、前記中継部材の後端部に当接するように構成される。
【符号の説明】
【0058】
1 先軸(軸筒)
2 口先部材
2a 内壁面
3 芯ケース
4 芯ケース継手
5 チャック
6 締め具
7 中継パイプ
8 スライダー
8a 段部
8b 環状突起部
8c 矢印マーク
8s 空間部
9 先端パイプ
10 パイプ保持具
12 保持チャック
13 チャックスプリング
14 グリップ部材
17 中継パイプ
18 後軸(軸筒)
21 回転駆動機構
22 軸スプリング
24 回転子
25 上カム形成部材
26 下カム形成部材
27 シリンダー部材
28 トルクキャンセラー
29 クッションスプリング
31 ノック棒
31a 楔形突出部(第2当接部)
31b 当接部(第1当接部)
32 ノック棒スプリング
34 ノックカバー
35 樹脂盛りシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノック操作によって軸方向に前進移動するノック棒と、前記ノック棒の軸方向の前進移動に伴って、前進移動される中継部材と、前記中継部材の前端部に対して着脱可能に嵌合されて取り付けられたスライダーと、前記スライダーを覆い軸筒の前端部に着脱可能に取り付けられた口先部材とが具備され、
前記ノック操作による前記中継部材の前進移動に伴って、前記スライダーに形成された段部が、前記口先部材の内壁面に当接するように構成されていることを特徴とするシャープペンシル。
【請求項2】
ノック操作による前記ノック棒の軸方向の第1移動位置において、ノック棒に形成された第1当接部に後端部が当接する軸方向に移動可能な芯ケースが具備され、ノック操作による前記ノック棒の軸方向の第1移動位置よりもさらに前方の第2移動位置において、ノック棒に形成された第2当接部に前記中継部材の後端部が当接するように構成され、
前記芯ケースの前端部には筆記芯を把持するチャックが配置されると共に、前記中継部材の前端部には前記チャックの周囲を覆うリング状の締め具が配置され、
前記ノック棒の第1移動位置から第2移動位置の間において、前記スライダーの一部が前記口先部材内の一部に当接すると共に、前記ノック棒の第2移動位置において、前記チャックの先端部が前記リング状の締め具から前方に突出するように動作することを特徴とする請求項1に記載されたシャープペンシル。
【請求項3】
前記中継部材の前端部に対して着脱可能に嵌合されて取り付けられたスライダーの一部には、当該スライダーの前方に向かう矢印マークが形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたシャープペンシル。
【請求項4】
前記中継部材が、中継パイプと当該中継パイプの後端部に接続された回転駆動機構とにより構成され、前記中継パイプの前端部内周面に前記リング状の締め具が配置されると共に、前記中継パイプの前端部外周面に前記スライダーが着脱可能に嵌合されるように構成され、
前記回転駆動機構は、筆記芯に加わる筆記圧による前記中継パイプの前後動を回転運動に変換し、前記中継パイプを介して前記筆記芯を一方向に回転駆動させるように構成されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載されたシャープペンシル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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