説明

シュリンクフィルム

【課題】優れたシール性を有していると共に機械的強度にも優れたシュリンクフィルムを提供する。
【解決手段】シュリンクフィルムは、ポリエチレン系樹脂100重量部と薄片化黒鉛0.01〜1重量部とを含み、又は、ポリエチレン系樹脂100重量部と薄片化黒鉛0.01〜1重量部とを含有する中間層と、この中間層の両面に積層一体化され且つポリプロピレン系樹脂を含有する表面層とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュリンクフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工業材料、建築部材、床材などの各種部材を包装するためにシュリンクフィルムが多く用いられている。これらの各種部材をシュリンクフィルムで包装する方法としては、例えば、先ず、自動包装器でシュリンクフィルムを凸円弧状に湾曲させて互いに対向する端縁部同士を加熱してシールし筒状とした上でこの筒状のシュリンクフィルム内に被包装物を挿入する。
【0003】
次に、被包装物の前後においてシュリンクフィルムを溶断シールした後、シュリンクフィルムで覆われた被包装物を熱風トンネルに供給してシュリンクフィルムを加熱、収縮させることによって、被包装物をシュリンクフィルムで包装する三方ピローシュリンク包装方法などがある。
【0004】
従って、シュリンクフィルムは、シール性に優れていることが要求されていると共に、被包装物の輸送中又は保管中における外力によっても破断しない程度の機械的強度も要求されている。
【0005】
このようなシュリンクフィルムとしては、例えば、特許文献1に、密度0.915〜0.930g/cm3、MI0.2〜2.0g/10分である高圧法により製造される長鎖分岐を有する低密度ポリエチレン(A)20〜90重量部、密度0.865〜0.925g/cm3、MI0.5〜4.0g/10分であるエチレン−αオレフィン共重合体(B)10〜80重量部からなる樹脂組成物を主成分とする芯層、及び、密度0.910〜0.930g/cm3、MI1.0〜3.0g/10分である直鎖状低密度ポリエチレン(C)を主成分とする両表面層を有する少なくとも3層以上の構成であり、20〜60kGyの電子線照射により架橋せしめ、縦横同時に3〜6倍の延伸加工を行うことによって得られるポリエチレン系架橋シュリンクフィルムが提案されている。
【0006】
しかしながら、上記シュリンクフィルムは、電子線架橋することによって機械的強度の向上を図っているものの、シール強度が低下しており、被包装物の保管又は輸送中にシール部に剥離が生じ、包装物の包装が不十分となるという問題点を生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2010−167762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れたシール性を有していると共に機械的強度にも優れたシュリンクフィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシュリンクフィルムは、ポリエチレン系樹脂100重量部と薄片化黒鉛0.01〜1重量部とを含むことを特徴とする。
【0010】
シュリンクフィルムを構成しているポリエチレン系樹脂は、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン系樹脂、中密度ポリエチレン系樹脂、高密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状中密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状高密度ポリエチレン系樹脂などが挙げられ、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。なお、ポリエチレン系樹脂は単独で用いられても併用されてもよい
【0011】
そして、ポリエチレン系樹脂中には、シュリンクフィルムのシール性及び機械的強度を向上させるために薄片化黒鉛が含有されている。この薄片化黒鉛は、複数のグラフェンシートの積層体である。薄片化黒鉛は、黒鉛化合物を剥離処理して得られるものであり、原料となる黒鉛化合物よりも厚みの薄いグラフェンシートの積層体、即ち、原料となる黒鉛化合物のグラフェンシートの積層数よりも少ない積層数を有するグラフェンシートの積層体である。本発明において、グラフェンシートとは炭素六角網平面からなる1枚のシート状物をいう。
【0012】
なお、黒鉛化合物としては、黒鉛、膨張化黒鉛の何れであってもよいが、グラフェンシート間から剥離し易いので、膨張化黒鉛が好ましい。なお、黒鉛に官能基が化学的に結合してしても、或いは、黒鉛に官能基が弱い相互作用により疑似的に結合していてもよい。なお、本発明において、膨張化黒鉛とは、原料となる黒鉛に層間物質が挿入され、グラフェンシート間の間隔が広げられたものをいう。
【0013】
薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、原料となる黒鉛化合物の積層数よりも少なければよいが、2〜200層である。薄片化黒鉛は、薄いグラフェンシートが複数枚、積層されており、アスペクト比が比較的大きい鱗片状の形態を有する。
【0014】
薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、150層以下が好ましく、60層以下がより好ましく、30層以下が更に好ましく、10層以下が特に好ましく、5層以下が最も好ましい。なお、薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができ、各薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数の相加平均値をいう。
【0015】
更に、薄片化黒鉛のアスペクト比は20以上が好ましく、50以上がより好ましく、100以上が特に好ましく、200以上が最も好ましいが、高すぎると、薄片化黒鉛の割れが発生することがあるので、5000以下が好ましい。なお、薄片化黒鉛のアスペクト比は、各薄片化黒鉛についてグラフェンシートの面方向における最大寸法を厚みで除したアスペクト比を算出し、各薄片化黒鉛のアスペクト比の相加平均値をいう。
【0016】
ここで、薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの面方向における最大寸法とは、薄片化黒鉛の面積が最も大きくなる方向から見た時の薄片化黒鉛の最大寸法をいう。薄片化黒鉛の厚みとは、薄片化黒鉛の面積が最も大きくなる方向から見た時の薄片化黒鉛の表面に対して直交する方向の薄片化黒鉛の最大寸法をいう。
【0017】
なお、薄片化黒鉛にてグラフェンシートの面方向における最大寸法は、FE−SEMを用いて測定することができる。又、薄片化黒鉛の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)又はFE−SEMを用いて測定することができる。
【0018】
薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、原料となる黒鉛化合物の積層数よりも少なければよいが、通常200〜2層である。薄片化黒鉛は、薄いグラフェンシートが複数枚、積層されており、アスペクト比が比較的大きい鱗片状の形態を有する。なお、薄片化黒鉛のアスペクト比とは、薄片化黒鉛のグラフェンシートの面方向における最大寸法を薄片化黒鉛の厚みで除した値をいう。薄片化黒鉛のアスペクト比が低すぎると、グラフェンシートの積層方向に交差する方向に加わった外力に対する補強効果が充分でないことがある。一方で、薄片化黒鉛のアスペクト比が高すぎても、補強効果の向上は望めないことがある。従って、薄片化黒鉛のアスペクト比の好ましい下限は50であり、好ましい上限は5000である。
【0019】
シュリンクフィルム中における薄片化黒鉛の含有量は、少ないと、シュリンクフィルムの機械的強度及びシール性が低下し、多いと、シュリンクフィルムのシール性が却って低下するので、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して0.01〜1重量部に限定され、0.02〜0.5重量部が好ましい。
【0020】
更に、本発明のシュリンクフィルムでは、シュリンクフィルムに必要とする機械的強度を付与するために要する薄片化黒鉛の含有量を低く抑えながら、ポリエチレン系樹脂の有する透明性を維持しており、本発明のシュリンクフィルムは、優れた透明性を有している。
【0021】
そして、薄片化黒鉛は優れた熱電導性を有しており、シュリンクフィルムを熱融着によってシールする際に、シュリンクフィルムに加えられた熱が薄片化黒鉛を介してシュリンクフィルムの内部に十分に伝達され、シュリンクフィルム全体を確実に加熱させることができるので、シュリンクフィルムをシール及び収縮させる際に要する加熱をより低い温度にて短時間のうちに行うことができ、本発明のシュリンクフィルムは優れたシール性及び加熱収縮性を有している。
【0022】
次に、シュリンクフィルム中に含有されている薄片化黒鉛の製造方法について説明する。薄片化黒鉛は、黒鉛化合物を剥離処理して製造され、薄片化黒鉛の製造方法としては特に限定されないが、下記の方法によって薄片化黒鉛を製造することが好ましい。
【0023】
具体的には、図1に示すように、黒鉛または膨張化黒鉛からなるシート1を用意する。このシート1に、図1に示すように、複数本のスリット1a、1bを形成する。シート1は、模式的に示すように、複数のグラフェンシートGの積層体である。このグラフェンシートGの面方向に垂直方向である、シート1の厚み方向に貫通する、上記複数本のスリット1a、1bを形成する。スリット1a、1bの形成は、機械的切削加工、或いは、レーザー光の照射などによって行い得る。なお、スリットの数は特に限定されない。
【0024】
次に、スリット1a、1bに、電極2の一部を挿入する。電極2は、スリット1a、1bにそれぞれ挿入される挿入片2a、2bと、挿入片2a、2bを連結している連結部2cとを有する。電極2は、本実施形態では、Ptからなるが、適宜の金属により形成することができる。
【0025】
上記電極2の挿入片2a、2bをスリット1a、1bに挿入する。その結果、図2に示すようにシート1に電極2の一部が挿入された構造を得ることができる。この構造を図3に示すように、電解質水溶液中に浸漬する。
【0026】
上記電解質溶液6としては、硝酸水溶液、硫酸水溶液などを用いることができる。それによって、硝酸イオンや硫酸イオンなどをグラフェンシート間に挿入することができる。
【0027】
上記電解質溶液6に浸漬されたシート1を作用極とし、電解質溶液6中にPtなどの金属からなる対極7と、Ag/AgClからなる参照極8とを浸漬し、対極7とシート1との間に直流電圧を印可して電気化学処理を行う。それによって、シート1のグラフェンシート間に電解質溶液6中の電解質イオンがインターカレートされる。また、シート1のグラフェンシート間の隙間が広がることとなる。
【0028】
上記電気化学的処理に際しては、対極7とシート1との間に、好ましくは0.3〜10Vの直流電圧を1時間以上で且つ500時間未満に亘って印加する。直流電圧の範囲が、この範囲内にあれば、黒鉛化合物のグラフェンシート間に硝酸イオンや硫酸イオンなどの電解質イオンをより確実にインターカレートすることができ、膨張化黒鉛をより確実に得ることができる。なお、直流電圧印加時間が、1時間以上であればよいが、長すぎると、膨張化黒鉛の生産性が低下し且つ電解質イオンをインターカレートする効果も飽和する。従って、直流電圧の印加時間は500時間未満とすればよい。
【0029】
電解質溶液6の濃度は特に限定されないが、水溶液の場合は、10〜80重量%が好ましい。この範囲内であれば、電解質イオンをより一層確実にグラフェンシート間にインターカレートすることができる。
【0030】
又、上記電気化学処理に際しての電解質溶液6の温度は特に限定されないが、水溶液の場合は5〜100℃程度の温度とすればよい。
【0031】
より好ましくは、黒鉛化合物からなる上記シート1にスリット1a、1bを形成するに先立ち、より密度の低いシート1を用意することが好ましい。このようなより密度が低いシート1を用意するには、例えば以下の方法を用いることができる。先ず、黒鉛化合物の原料粉末を予備的にシート成型して予備成型シートを得る。図4に示すように、予備成型シート11を、ロール12、13間に供給して圧延する。それによって、予備成型シート11よりも厚みの薄いシート1を得ることができる。この場合、圧延倍率を調整することにより、シート1の密度を調整することができる。即ち、圧延倍率を低くすることにより、相対的に密度の低いシート状の黒鉛化合物を得ることができる。
【0032】
上記のようにして、黒鉛化合物からなる密度が低いシート1を用いた場合、層間物質としての電解質イオンが黒鉛化合物のグラフェンシート間により均一にインターカレートされ、グラフェン間の層間をより確実に広げることができる。
【0033】
上述のようにして得られた膨張化黒鉛は、硝酸イオンなどがインターカレートされてグラフェンシートの主面同士がなす角度の均一性や各グラフェンシート間での層間物質の挿入量の均一性に優れている。従って、得られた膨張化黒鉛に剥離力を加えることにより、膨張化黒鉛のグラフェンシート同士を容易に剥離することができる。膨張化黒鉛のグラフェンシート間での層間物質の挿入量にばらつきがある場合、特に熱による剥離力を加えたときはグラフェンシート同士を剥離し得ない部分が存在する。これに対して、上述のようにして得られた膨張化黒鉛は、グラフェンシート間での層間物質の挿入量の均一性に優れているため、グラフェンシート同士を剥離するための剥離力を加えた場合、殆どのグラフェンシート間において、グラフェンシートを他のグラフェンシートから確実に剥離することができる。よって、上述の製造方法によって得られた膨張化黒鉛にグラフェンシート同士を剥離させる剥離力を加えることによって薄片化黒鉛を容易に得ることができる。グラフェンシートの主面とは、グラフェンシートのうち、最も大きな面積を有する面をいう。
【0034】
なお、膨張化黒鉛から薄片化黒鉛を得るための剥離工程は、加熱、機械的剥離力、超音波などからなる群から選択された一種のエネルギー付加工程を実施することにより行うことができる。
【0035】
一例を挙げると、膨張化黒鉛を300〜1200℃に加熱することにより、好ましくは300〜600℃に加熱することにより、膨張化黒鉛から薄片化黒鉛を得ることができる。
【0036】
なお、上記シュリンクフィルムには、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料などの添加剤が添加されていてもよい。
【0037】
更に、本発明のシュリンクフィルムの厚さは、薄いと、シュリンクフィルムの機械的強度が低下することがあり、厚いと、シュリンクフィルムの溶断シールが困難となることがあるので、300〜400μmが好ましい。
【0038】
次に、本発明のシュリンクフィルムの製造方法について説明する。シュリンクフィルムの製造方法は、公知の方法が用いられ、例えば、(1)ポリエチレン系樹脂及び薄片化黒鉛、並びに、その他の添加剤を押出機に供給して溶融混練し、押出機の先端に取り付けたサーキュラダイから円筒状体を押出し、この円筒状体の中心部から圧縮空気を送って一定の大きさまで膨張させると共に、円筒状体の外面に冷却空気を吹き付けて冷却した後、円筒状体を所定箇所から切断して展開することによってポリエチレン系樹脂フィルムをインフレーションフィルム成形方法によって製造し、このポリエチレン系樹脂フィルムを縦横に一軸又は二軸延伸することによってシュリンクフィルムを製造する方法、(2)ポリエチレン系樹脂及び薄片化黒鉛、並びに、その他の添加剤を押出機に供給して溶融混練し、押出機の先端に取り付けたTダイから押出してポリエチレン系樹脂フィルムをTダイ法によって製造し、このポリエチレン系樹脂フィルムを縦横に一軸延伸又は二軸延伸することによってシュリンクフィルムを製造する方法などが挙げられ、上記(1)のインフレーションフィルム成形法が用いる方法が好ましい。なお、本発明において、延伸倍率とは、延伸後の寸法を延伸前の寸法で除した値をいう。
【0039】
上述のようにしてシュリンクフィルムを製造するにあたって、薄片化黒鉛はサーキュラダイ又はTダイを通過する際に押出方向に剪断力が加わり、グラフェンシートの主面がシュリンクフィルムの表面に対向した状態に配向させられる。よって、得られるシュリンクフィルムを加熱によって収縮させた場合にあっても、グラフェンシートがシュリンクフィルムを破るようなことはなく、シュリンクフィルムは円滑に収縮する。
【0040】
なお、上記では薄片化黒鉛を押出機に供給した場合を説明したが、薄片化黒鉛の代わりに或いは薄片化黒鉛と共に、膨張化黒鉛を押出機に供給し、押出機内において膨張化黒鉛に剥離力を加えて、膨張化黒鉛のグラフェンシート同士を剥離させて薄片化黒鉛を押出機内にて製造し、この薄片化黒鉛をポリエチレン系樹脂と共にサーキュラダイ又はTダイから押出してシュリンクフィルムを製造してもよい。
【0041】
次に、本発明のシュリンクフィルムの使用要領の一例について説明する。先ず、自動包装機でシュリンクフィルムを凸円弧状に幅方向に湾曲させて互いに対向する端縁部同士を加熱してシールし筒状とした上でこの筒状のシュリンクフィルム内に被包装物を挿入する。この状態では被包装物は筒状のシュリンクフィルムによってゆとりをもって包装された状態となっている。
【0042】
しかる後、被包装物の前後においてシュリンクフィルムを溶断シールした後、シュリンクフィルムで覆われた被包装物を熱風トンネルに供給してシュリンクフィルムを加熱、収縮させることによって、被包装物をシュリンクフィルムで包装することができる。
【0043】
上述のように、シュリンクフィルムをヒートシールする場合、本発明のシュリンクフィルムは、架橋させる必要がないため、シュリンクフィルムはポリエチレン系樹脂の本来有する優れた熱融着性を維持していると共に、薄片化黒鉛の有する優れた熱電導性によってシュリンクフィルムの表面に加えられた熱を薄片化黒鉛を介してシュリンクフィルムの内部にまで確実に伝達させてシュリンクフィルム全体を確実に加熱、溶融することができる。よって、本発明のシュリンクフィルムは優れたシール性を有しており、シール部分は強固に熱融着一体化していると共に、シュリンクフィルムをシールする際に要する熱量の低減及び時間短縮も図ることができ、包装効率及び低コスト化を図ることができる。
【0044】
更に、上述のように、シュリンクフィルムに加えた熱をシュリンクフィルム全体に円滑に伝達させてシュリンクフィルム全体を均一に且つ確実に加熱させることができるので、シュリンクフィルムを加熱することによってシュリンクフィルム全体を均一に且つ確実に熱収縮させることができる。そして、シュリンクフィルムは、架橋させる必要がないため、熱収縮率にも優れており、被包装物を確実に包装することができる。
【0045】
上記ではシュリンクフィルムが単層である場合を説明したが複層のシュリンクフィルムであってもよい。具体的には、図5に示したように、複層のシュリンクフィルムAは、ポリエチレン系樹脂100重量部と薄片化黒鉛0.01〜1重量部とを含有する中間層A1と、この中間層A1の両面に積層一体化され且つポリプロピレン系樹脂を含有する表面層A2、A2とを備えている。なお、中間層A1を構成しているポリエチレン系樹脂及び薄片化黒鉛は単層のシュリンクフィルムの場合と同様であるので説明を省略する。
【0046】
シュリンクフィルムの中間層A1にはシュリンクフィルムのシール性及び機械的強度を向上させるために薄片化黒鉛が含有されており、中間層A1中における薄片化黒鉛の含有量は、少ないと、シュリンクフィルムの機械的強度及びシール性が低下し、多いと、シュリンクフィルムのシール性が却って低下するので、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して0.01〜1重量部に限定され、0.02〜0.5重量部が好ましい。
【0047】
更に、シュリンクフィルムに必要とする機械的強度を付与するために要する薄片化黒鉛の含有量を低く抑えることができ、ポリエチレン系樹脂の有する透明性を維持しており、本発明のシュリンクフィルムは、優れた透明性を有している。
【0048】
中間層A1の両面にはポリプロピレン系樹脂を含有する表面層A2、A2が積層一体化されている。なお、中間層A1の両面に積層一体化される表面層A2、A2は互いに同一であっても相違していてもよい。
【0049】
表面層A2を構成しているポリプロピレン系樹脂は、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体などが挙げられ、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体が好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよいがランダム共重合体が好ましい。
【0050】
なお、プロピレンと共重合されるオレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィンが好ましい。
【0051】
表面層A2には薄片化黒鉛が含有されていてもよい。表面層A2にも薄片化黒鉛を含有させることによって、シュリンクフィルムの機械的強度を向上させることができ好ましい。
【0052】
更に、上述のように、薄片化黒鉛は優れた熱電導性を有しており、シュリンクフィルムを熱融着によってシールする際に、シュリンクフィルムの最外層を構成している表面層A2、A2に加えられた熱が薄片化黒鉛を介してシュリンクフィルムの内部に十分に伝達され、シュリンクフィルム全体をより確実に溶融させることができるので、シュリンクフィルムを収縮させる際に要する加熱をより低い温度にて短時間のうちに行うことができ、本発明のシュリンクフィルムはより優れたシール性を有している。
【0053】
表面層A2中における薄片化黒鉛の含有量は、少ないと、シュリンクフィルムの機械的強度又はシール性の何れか一方或いは双方が低下することがあり、多いと、シュリンクフィルムのシール性が却って低下するので、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して0.01〜1重量部が好ましく、0.06〜0.5重量部がより好ましい。
【0054】
更に、シュリンクフィルムに必要とする機械的強度を付与するために要する薄片化黒鉛の含有量を低く抑えながら、ポリプロピレン系樹脂の有する透明性を維持することができ、本発明のシュリンクフィルムは、優れた透明性を有している。
【0055】
次に、複層のシュリンクフィルムの製造方法について説明する。複層のシュリンクフィルムAの製膜方法としては、特に限定されず、例えば、3機の押出機が接続具を介して一のサーキュラダイに接続されてなる製膜装置を用意し、この製膜装置の3機の押出機に、それぞれ中間層A1、表面層A2、A2用の樹脂組成物を供給し、各押出機内で溶融混練させた後、溶融状態の樹脂組成物をサーキュラダイに供給して、サーキュラダイから円筒状に共押出製膜すると共に、サーキュラダイの中心部から圧縮空気を供給して、共押出された樹脂組成物を周方向に延伸して長尺の円筒状フィルムを製膜し、この円筒状フィルムを切り開いて積層フィルムを製造し、この積層フィルムを縦横に一軸延伸又は二軸延伸することによってシュリンクフィルムを製造することができる。
【0056】
なお、上記では薄片化黒鉛を押出機に供給した場合を説明したが、薄片化黒鉛の代わりに或いは薄片化黒鉛と共に、膨張化黒鉛を押出機に供給し、押出機内において膨張化黒鉛に剥離力を加えて、膨張化黒鉛のグラフェンシート同士を剥離させて薄片化黒鉛を押出機内にて製造し、この薄片化黒鉛をポリエチレン系樹脂と共にサーキュラダイ又はTダイから押出してシュリンクフィルムを製造してもよい。
【0057】
複層のシュリンクフィルムも単層のシュリンクフィルムと同様の要領でもって被包装物を包装することができる。上述のように、シュリンクフィルムをヒートシールする場合、本発明のシュリンクフィルムは、その中間層A1及び表面層A2、A2を架橋させる必要がないため、シュリンクフィルムはポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の本来有する優れた熱融着性を維持していると共に、薄片化黒鉛の有する優れた熱電導性によってシュリンクフィルムの表面に加えられた熱が薄片化黒鉛を介してシュリンクフィルムの内部にまで確実に伝達されてシュリンクフィルム全体を確実に加熱、溶融することができる。よって、本発明のシュリンクフィルムは優れたシール性を有しており、シール部分は強固に熱融着一体化していると共に、シュリンクフィルムをシールする際に要する熱量の低減及び時間短縮も図ることができ、包装効率及び低コスト化を図ることができる。
【0058】
更に、上述のように、シュリンクフィルムに加えた熱をシュリンクフィルム全体に円滑に伝達させてシュリンクフィルム全体を均一に且つ確実に加熱させることができるので、シュリンクフィルムを加熱することによってシュリンクフィルム全体を均一に且つ確実に熱収縮させることができる。そして、シュリンクフィルムは、架橋させる必要がないため、熱収縮率にも優れており、被包装物を確実に包装することができる。
【0059】
特に、シュリンクフィルムの表面層A2にも薄片化黒鉛が含有されている場合には、薄片化黒鉛の有する優れた熱電導性によってシュリンクフィルムの表面層A2に加えられた熱が薄片化黒鉛を介してシュリンクフィルムの内部にまでより確実に伝達されてシュリンクフィルム全体をより確実に加熱、溶融することができる。よって、本発明のシュリンクフィルムはより優れたシール性を有しており、シール部分は強固に熱融着一体化していると共に、シュリンクフィルムをシールする際に要する熱量の低減及び時間短縮もより効率的に図ることができ、包装効率及び低コスト化をより確実に図ることができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明のシュリンクフィルムは、ポリエチレン系樹脂100重量部と薄片化黒鉛0.01〜1重量部とを含むので、優れた機械的強度を有していると共に、ヒートシール性及び加熱収縮性にも優れており、よって、本発明のシュリンクフィルムを用いて被包装物を容易に包装することができ、包装後の被包装物を保護することができる。
【0061】
又、本発明のシュリンクフィルムは、ポリエチレン系樹脂100重量部と薄片化黒鉛0.01〜1重量部とを含有する中間層と、この中間層の両面に積層一体化され且つポリプロピレン系樹脂を含有する表面層とを備えているので、ヒートシール性及び加熱収縮性にも優れており、よって、本発明のシュリンクフィルムを用いて被包装物を容易に包装することができる。
【0062】
そして、上記複層のシュリンクフィルムは、ポリプロピレン系樹脂を含有する表面層を更に備えているので、より機械的強度に優れており、包装後の被包装物をより強固に保護することができる。
【0063】
更に、上記複層のシュリンクフィルムにおいて、表面層がポリプロピレン系樹脂100重量部に対して薄片化黒鉛0.01〜1重量部を含有している場合には、より優れた機械的強度を有していると共に、ヒートシール性及び加熱収縮性にもより優れており、被包装物をより効率的に且つ確実に包装、保護することできる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】電極を黒鉛に挿入する工程を説明するための模式的斜視図である。
【図2】電極が黒鉛に挿入された状態を示す模式的斜視図である。
【図3】電気化学的処理を行う工程を説明するための模式図である。
【図4】原料となる黒鉛からなるシートを圧延し、シート状の黒鉛を得る工程を示した模式図である。
【図5】本発明のシュリンクフィルムの一例を示した断面図である。
【図6】黒鉛シートに電気化学処理で電圧を印加する際の電圧印加パターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1〜3、比較例1、2)
黒鉛粉末を予備的にシート成型して予備成型シートを製造した。この予備成型シートを図4に示すようにロール12、13間に供給して圧延し密度が密度0.7g/cm3、厚み1mmの低密度黒鉛シートを用意した。
【0067】
上記のようにして得られた密度0.7g/cm3の黒鉛シートを一辺が3cmの平面正方形状に切断し、電極材料としての黒鉛シートを得た。この黒鉛シートに、図2に示したように、2本のスリットを、スリットの長さが1cm、幅が1cmとなるようにカッターナイフにより切削し、形成した。上記2本のスリットが形成された黒鉛シートに、図2に示したPtからなる電極2を挿入した。このようにして用意した黒鉛シートを作用極(陽極)として、Ptからなる対照極(陰極)及び、Ag/AgClからなる参照極とともに60重量%濃度の硝酸水溶液中に浸漬し、直流電圧を印加し電気化学処理を行った。電気化学処理に際しては、図6に示す電圧を2時間印加した。このようにして、陽極に作用極として用いた黒鉛を膨張化黒鉛とした。
【0068】
得られた膨張化黒鉛を一辺が1cmの平面正方形状に切断して切断片を製造し、切断片をカーボンるつぼに入れて電磁誘導加熱処理を行った。誘導加熱装置はSKメディカル社から商品名「MU1700D」にて市販されている装置を用い、アルゴンガス雰囲気下で最高到達温度550度となるように10Aの電流量で行った。電磁誘導加熱により膨張化黒鉛を薄片化して薄片化黒鉛を得た。
【0069】
3機の押出機が接続具を介して一のサーキュラダイに接続されてなる製膜装置を用意し、この製膜装置の第1押出機を中間層A1用の押出機として、表1に示した所定量の直鎖状低密度ポリエチレン(ダウ・ケミカル社製 商品名「2045G」、α−オレフィン成分:α−オクテン、メルトフローレイト:1.0g/10分)100重量部、プロピレン−エチレンランダム共重合体(サンアローマー社製 商品名「PC630A」、密度:0.900g/cm3、メルトフローレイト:5.7g/10分)及び上記薄片化黒鉛を含む樹脂組成物を供給し、第2押出機を第一の表面層A2用の押出機として、表1に示した所定量のプロピレン−エチレンランダム共重合体(サンアローマー社製 商品名「PC630A」、密度:0.900g/cm3、メルトフローレイト:5.7g/10分)及び上記薄片化黒鉛を含む樹脂組成物を供給し、第3押出機を第二の表面層A2用の押出機として、表1に示した所定量のプロピレン−エチレンランダム共重合体(サンアローマー社製 商品名「PC630A」、密度:0.900g/cm3、メルトフローレイト:5.7g/10分)及び上記薄片化黒鉛を含む樹脂組成物を供給して、それぞれの押出機内で溶融混練した後、第1〜3押出機から溶融状態の樹脂組成物をサーキュラダイに供給して、第一の表面層A2、中間層A1及び第二の表面層A2がこの順に積層一体化された状態となるようにサーキュラダイから円筒状に共押出製膜し、サーキュラダイの中心部から圧縮空気を供給すると共に円筒状体の外面に冷却空気を吹き付けて冷却した後、共押出された樹脂組成物を周方向に延伸して長尺の円筒状フィルムを製膜し、この円筒状フィルムを切り開いて巻き取ることにより、第一の表面層A2、中間層A1及び第二の表面層A2の厚さ比が、1/4/1で且つ総厚さが350μmの積層フィルムを製造した。なお、積層フィルムの第一の表面層A2、中間層A1及び第二の表面層A2は全て架橋されていなかった。
【0070】
得られた積層フィルムを縦横に、即ち、押出方向及び押出方向に直交する方向にそれぞれ5倍の延伸倍率でもって二軸延伸して厚みが15μmのシュリンクフィルムを得た。
【0071】
実施例1〜3及び比較例1、2で得られたシュリンクフィルムは再度、押出機に供給して溶融混練しストランド状に押し出した後にストランドを所定間隔毎に切断することによってペレット化することができ、リサイクル性を有していた。
【0072】
(比較例3)
3機の押出機が接続具を介して一のサーキュラダイに接続されてなる製膜装置を用意し、この製膜装置の第1押出機を中間層A1用の押出機として、直鎖状低密度ポリエチレン(ダウ・ケミカル社製 商品名「2045G」、α−オレフィン成分:α−オクテン、メルトフローレイト:1.0g/10分)を供給し、第2押出機を第一の表面層A2用の押出機として、直鎖状低密度ポリエチレン(ダウ・ケミカル社製 商品名「2045G」、α−オレフィン成分:α−オクテン、メルトフローレイト:1.0g/10分)を供給し、第3押出機を第二の表面層A2用の押出機として、直鎖状低密度ポリエチレン(ダウ・ケミカル社製 商品名「2045G」、α−オレフィン成分:α−オクテン、メルトフローレイト:1.0g/10分)を供給して、それぞれの押出機内で溶融混練した後、第1〜3押出機から溶融状態の樹脂組成物をサーキュラダイに供給して、第一の表面層A2、中間層A1、第二の表面層A2がこの順に積層一体化された状態となるようにサーキュラダイから円筒状に共押出製膜し、サーキュラダイの中心部から圧縮空気を供給すると共に円筒状体の外面に冷却空気を吹き付けて冷却した後、共押出された樹脂組成物を周方向に延伸して長尺の円筒状フィルムを製膜し、この円筒状フィルムを切り開いて巻き取ることにより、第一の表面層A2、中間層A1及び第二の表面層A2の厚さ比が、1/4/1で且つ総厚さが350μmの積層フィルムを製造した。
【0073】
得られた積層フィルムに電子線を照射して中間層A1及び表面層A2、A2を架橋させた後、積層フィルムを縦横に、即ち、押出方向及び押出方向に直交する方向にそれぞれ5倍の延伸倍率でもって二軸延伸して厚みが15μmのシュリンクフィルムを得た。
【0074】
得られたシュリンクフィルムは再度、押出機に供給して溶融混練しストランド状に押し出しそうとしたが、押出すことができず、リサイクルすることができなかった。
【0075】
得られたシュリンクフィルムの引張破断強度、加熱収縮率及びヒートシール強度を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0076】
(引張破断強度)
シュリンクフィルムの引張破断強度をJIS K7127に準拠して測定した。
【0077】
(加熱収縮率)
シュリンクフィルムの加熱収縮率をJIS Z1709に基づいて100℃の条件下にて測定した。
【0078】
(ヒートシール性)
シュリンクフィルムのヒートシール性をJIS Z1707に準拠して測定し、下記基準に基づいて評価した。
◎・・15N以上であった。
○・・12N以上で且つ15N未満であった。
△・・9N以上で且つ12N未満であった。
×・・9N未満であった。
【0079】
【表1】

【符号の説明】
【0080】
1 シート
1a、1b スリット
2a 挿入片
2c 連結部
2 電極
6 電解質溶液
7 対極
8 参照極
11 予備成型シート
12 ロール
A シュリンクフィルム
A1 中間層
A1 表面層
A2 表面層
G グラフェンシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂100重量部と薄片化黒鉛0.01〜1重量部とを含むことを特徴とするシュリンクフィルム。
【請求項2】
ポリエチレン系樹脂100重量部と薄片化黒鉛0.01〜1重量部とを含有する中間層と、この中間層の両面に積層一体化され且つポリプロピレン系樹脂を含有する表面層とを備えていることを特徴とするシュリンクフィルム。
【請求項3】
ポリエチレン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1に記載のシュリンクフィルム。
【請求項4】
表面層は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して薄片化黒鉛0.01〜1重量部を含有していることを特徴とする請求項2に記載のシュリンクフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−192954(P2012−192954A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58221(P2011−58221)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】