説明

シューケース用乳化油脂組成物およびこれを用いたシューケース

【課題】本発明の課題は、風味が良く、安定した容積・形状のシューケースを製造することが出来るシューケース用乳化油脂組成物を提供することにある。
【解決手段】オクテニルコハク酸でん粉を0.2〜8質量%含有する、シューケース用乳化油脂組成物を用いることで、安定した容積・形状のシューケースを製造することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な風味と安定した形状のシューケースを製造することの出来るシューケース用乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的にシューケースを調製する場合は、専用の油脂組成物を使用する場合が多い。特許文献1には、「乳化剤やカゼインのナトリウム塩を使用せずとも、容積、保型性が良好で、ソフトな食感のシューケースを製造することができるシュー用油脂組成物」に関する記述があり、課題の解決手段として、「ヨウ素価52〜70のパーム分別軟部油を70質量%以上含む油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂を50〜80質量%、及び、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を、固形分として0.1〜12質量%含有するシュー用油脂組成物。」と記載されている。
オクテニルコハク酸でん粉を使用する油中水型乳化物については、特許文献2が存在する。ここでは、「菓子・パン類などの製造工程中における風味の損失を抑制し良好な風味の焼き残りを可能にする油中水型乳化物を提供する事を目的」としてオクテニルコハク酸でん粉を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−295414号公報
【特許文献2】特開2009−124970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、風味が良く、安定した容積・形状のシューケースを製造することが出来るシューケース用乳化油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
特許文献1の方法は、「乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料」を使用する必要がある。この乳原料については、「通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクとは組成が大きく異なり、リン脂質を多量に含有しているという特徴がある。」との記載があり、かなり特殊な原材料を使用する必要があることがうかがえる。そのため、実施する上での汎用性は低い。
特許文献2に記載されている、オクテニルコハク酸でん粉を添加した油中水型乳化物については、それをシューケース用乳化油脂組成物として使用した場合の効果については何ら開示されていない。
【0006】
本発明者らは、上記の課題を、より簡易に調達可能な原材料により解決することができないか、鋭意研究を重ねた。その結果、一定の乳化力とボディを併せ持つ素材をシューケース用乳化油脂組成物に配合することが必要であることを見出した。そして、その素材として、オクテニルコハク酸でん粉が特に好適であることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は
(1)オクテニルコハク酸でん粉を0.2〜8質量%含有することを特徴とする、シューケース用乳化油脂組成物。
(2)オクテニルコハク酸でん粉がワキシーコーン由来である、(1)記載のシューケース用乳化油脂組成物。
(3)カゼインナトリウムの含有量が8重量%以下である、(1)〜(2)いずれか1に記載のシューケース用乳化油脂組成物。
(4)(1)〜(3)いずれか1に記載のシューケース用乳化油脂組成物を使用したシューケース。
に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、風味が良く、安定した容積・形状のシューケースを製造することが出来るシューケース用乳化油脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
オクテニルコハク酸でん粉とは、加工でん粉の一種であり、でん粉をオクテニルコハク酸でエステル化したものであり、市販の製品を使用することが可能である。
でん粉の由来は、ワキシーコーンであることが、粘度付与効果などの点から望ましい。
【0010】
本発明においては、シューケース用乳化油脂組成物にオクテニルコハク酸でん粉を0.2〜8質量%含有させることが必要であり、より望ましくは0.2〜5重量%であり、更に望ましくは0.5〜4重量%である。オクテニルコハク酸でん粉の量が少なすぎると、シューケースの容積が小さくなる場合があり、多すぎると、特有の臭気が付与される場合がある。
【0011】
本発明で言う「シューケース用乳化油脂組成物」とは、シューケースの製造用に特に適した乳化油脂組成物であり、油中水型であることが保存性等の点から望ましい。
シューケース用乳化油脂組成物においてはカゼインナトリウムを原材料の1つとして使用することが一般的であるが、カゼインナトリウムは比較的コストが高く、低コストのシューケース用乳化油脂組成物を供給する上では、できるだけ少なくすることが望ましい。また、カゼインナトリウムには独特の風味があり、その風味が好まれない場合もある。
本願発明においては、上記の理由からカゼインナトリウムの量は出来るだけ少ない方が望ましく、その量は望ましくは8重量%以下であり、より望ましくは6重量%以下であり、実質的にカゼインナトリウムを含まないことが最も望ましい。
【0012】
本発明のシューケース用乳化油脂組成物に使用される油脂としては、食用油脂が使用され、例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油などの各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別およびエステル交換から選択される一または二以上の処理を施した加工油脂があげられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、または二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0013】
本発明における、上記油脂の使用量は、本発明のシューケース用乳化油脂組成物中、好ましくは50〜94.5重量%、さらに好ましくは70〜85重量%である。また、水の使用量は、本発明のシューケース用乳化油脂組成物中、好ましくは5〜49.5重量%、さらに好ましくは15〜30重量%である。
【0014】
さらに本発明のシューケース用乳化油脂組成物には、上記原料以外に、通常のシューケース用油脂に使用される各種の食品素材や食品添加物を、本発明の効果を妨げない範囲で、適宜使用することが出来る。例えば、水、増粘多糖類、リン酸塩、食塩、乳酸、乳化剤、甘味料、着香料、着色料、酸化防止剤などを含有させることができる。
【0015】
本発明のシューケース用乳化油脂組成物の製造法を以下に記載する。
油脂および、油溶性の原料を混合し油相とし、一方、水および水溶性の原料を混合し水相とする。
油相は、まず、加熱溶解した食用油脂に、必要により乳化剤、着香料、着色料、酸化防止剤などを混合し調製する。
【0016】
一方、水相は、水を加温し、オクテニルコハク酸でん粉を規定量添加し、そして必要により乳化剤、リン酸塩、食塩、着香料、着色料などを添加、混合し調製する。そして、上記の油相へ水相を添加して混合し、乳化させた後、油中水型乳化油脂組成物の製造装置に供し、急冷混和して、可塑性を有する本発明のシューケース用乳化油脂組成物を得る。
【0017】
このようにして得られた本発明のシューケース用乳化油脂組成物をシューケースの製造に用いる。本発明のシューケースの配合は特に限定されるものではないが、小麦粉100重量部に対し、本発明のシューケース用乳化油脂組成物を70〜150重量部、好ましくは100〜140重量部、水を100〜250重量部、好ましくは120〜200重量部、全卵を150〜300重量部、好ましくは200〜280重量部から構成される配合が好ましい。
本発明のシューケースの配合において、上記シューケース用乳化油脂組成物の配合量が少なすぎると、シューケースのボリュームが小さくなる場合がある。また、上記シューケース用乳化油脂組成物の配合量が多すぎると、シューケースが油性感の強いものとなる場合がある。
【0018】
本発明のシューケースは、例えば以下のようにして製造することができる。
本発明のシューケース用乳化油脂組成物を、水とともに加熱煮沸し、この中に小麦粉を添加して捏和し、一般のシューケースと同様にシューケースを形成するに適した糊化状態にした後、液卵をミキシングしながら数回に分けて加え、シューケース生地を十分に乳化し、必要な場合は膨張剤、着色料、着香料、防腐剤などを添加した後、さらに液卵を加えて硬さを調整してシューケース生地を得る。得られたシューケース生地を、丸形の口金をつけた絞り袋に入れ、オーブンシートを敷いた天板に直径3cm程に絞り出し、オーブンにより焼成することでシューケースを得る。
【0019】
以下に実施例を示す。
【実施例】
【0020】
検討1 シューケース用乳化油脂組成物の調製
実施例1〜2、比較例1〜2
「シューケース用乳化油脂組成物調製法」に従い、表1各配合のシューケース用乳化油脂組成物を調製した。
【0021】
「シューケース用乳化油脂組成物調製法」
1.食用油脂を60〜70℃で融解し、そこへ乳化剤を添加することで油相を調製する。
2.水へ、水相原料に分類される原料を添加、溶解する。
3.攪拌中の油相へ水相を添加し、混合する。ここで得られる混合液を調合液と称する。
4.調合液を油中水型乳化油脂組成物製造装置(コンビネーター)へ供し、油中水型乳化油脂組成物を得る。
5.ダンボールケースへ充填し、3〜7℃にて冷蔵する。
【0022】
表1 シューケース用乳化油脂組成物の配合

・単位は重量%である。
・食用油脂はラードを使用した。
・オクテニルコハク酸でん粉は日澱化學株式会社製「乳華」を使用した。でん粉の由来はワキシーコーンである。
【0023】
検討2 シューケースの調製
実施例3〜4、比較例3〜4
「シューケースの調製法」に従い、各シューケース用油脂組成物によりシューケースを調製した。
使用するシューケース用油脂組成物は表3にまとめた。
得られたシューケースの容積、風味、保形性を、以下の「容積評価方法」、「風味評価法」、「保形性評価法」により評価した。
結果を表4にまとめた。
【0024】
「シューケースの調製法」
1.シューケース用油脂組成物700gと水700gとをミキサーボウルに計量し、ガスコンロにかける。
2.シューケース用油脂組成物が融解し、沸騰が始まった段階でミキサーボウルをミキサーにセットし、これに小麦粉500gを一気に投入し、低速30秒、中速90秒ミキシングする。
3.低速攪拌をしながら全卵1000gを4回に分け投入し、最後に炭酸水素アンモニウム7.5gと全卵100gの混合物を添加し、低速30秒、高速90秒攪拌し、均一なシュー生地とする。
4.絞り袋にシュー生地を充填し、ベーキングシートを敷いた焼成板に20g絞り、上面195℃、下面220℃に設定したオーブンで23分焼成する。
配合を表2にまとめた。
【0025】
表2 シューケースの配合

・小麦粉は薄力粉と強力粉の等量混合物を使用した。
【0026】
表3 各検討において使用したシューケース用油脂組成物

【0027】
「容積評価方法」
シューケースの容積は、ASTEX 3D Laser Scannerを用いて測定した。
【0028】
「風味評価法」
シューケースの風味は、比較例3との比較において、パネラー5名による5段階評価の平均により評価した。
比較例3の点数を3とし、風味が勝るものを4、風味が大きく勝るものを5とし、また、風味が劣るものを2、風味が大きく劣るものを1とした。
平均が4以上を合格とした。
【0029】
「保形性評価法」
シュー生地の保形性を、シューケースの形状により評価を行った。
比較例3との比較により、以下の基準により評価を行った。
×:比較例3より底面が広がり、高さが出ず扁平な形状を示すもの
△:比較例3と底面は同等だが、やや扁平な形状を示すもの
○:比較例3と底面は同等だが、高さが出ており、形状が良好なもの
○を合格とした。
【0030】
表4 評価結果

・シューケースの容積の単位はcmである。
【0031】
「結果と考察」
オクテニルコハク酸でん粉もカゼインナトリムも配合しないシューケース用油脂組成物を使用したシューケース(比較例3)は、シューケースの容積やシュー生地の保形成が劣った。
これに対し、オクテニルコハク酸でん粉やカゼインナトリムを配合したシューケース用油脂組成物を使用したシューケース(実施例3,4、比較例4)では、シューケースの容積は改善した。
【0032】
シューケースの風味については、オクテニルコハク酸でん粉を使用することで、カゼインナトリムを使用したもので感じられる独特の風味がなく、より良好であった。
以上を総合的に判断すると、オクテニルコハク酸でん粉を0.2〜8重量%配合したシューケース用油脂組成物を使用したシューケースは、シューケースの容積はカゼインナトリウムを使用した従来品と同等であり、良好であった。また、シュー生地の保形成も同等で良好あった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、カゼインナトリウムの使用を極力押さえかつ、容積が大きく、風味良好なシューケースを製造することが出来ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクテニルコハク酸でん粉を0.2〜8質量%含有することを特徴とする、シューケース用乳化油脂組成物。
【請求項2】
オクテニルコハク酸でん粉がワキシーコーン由来である、請求項1記載のシューケース用乳化油脂組成物。
【請求項3】
カゼインナトリウムの含有量が8重量%以下である、請求項1〜2いずれか1項に記載のシューケース用乳化油脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載のシューケース用乳化油脂組成物を使用したシューケース。

【公開番号】特開2012−152132(P2012−152132A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13735(P2011−13735)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】