シュードモナス・エルギノーサ(PseudomonasAeruginosa)感染の治療のための抗生物質と抗体療法との組み合わせ
本発明は、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)感染に関連する菌血症を治療するかまたはその発症を予防する、改善された薬学的組成物および方法を提供し、該方法は、抗生物質および抗PcrV抗体を投与する段階を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、参照によって本明細書に組み込まれる2009年2月4日に出願した米国特許仮出願第61/149,957号の恩典を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(P.エルギノーサ(P. aeruginosa))は、健康な人々において疾病を引き起こすことはまれだが、重篤な病気または免疫不全の個体にとっては重大な問題である、日和見病原体である。感染は、嚢胞性線維症(CF)を有する個体において重要な問題であり、P.エルギノーサは、細菌による再発性および慢性の気道感染に起因する肺機能の進行性喪失の原因病原体である。P.エルギノーサ感染による危険性がある他の個体は、人工呼吸器を付けている患者、好中球減少性の癌患者、および熱傷患者を含む。
【0003】
P.エルギノーサが細胞毒素を産生するメカニズムの1つは、III型分泌装置(TTSS)である。TTSSは、宿主免疫系を阻害するという点において、重要な病原性因子決定要素である。活性化されると、TTSS装置は、毒素を宿主細胞の細胞質内に移動させ、細胞円形化、リフティング(lifting)、および壊死による細胞死をもたらす。
【0004】
インジェクトソーム(injectosome)は、20個を超えるタンパク質で構成され、細菌膜を貫通し、これらの毒素の分泌を担う。それは、細菌の細胞表面から針状の突起を形成する。PcrVは、この針状複合体の先端部に存在する。このタンパク質は、P.エルギノーサTTSSのV抗原としても知られ、PcrV欠損変異体は毒素分泌ができないという観察から明らかである通り、宿主細胞細胞質の機能的中毒にとって重要である。P.エルギノーサのTTSS病原性装置を無能力にする1つのアプローチは、細菌の細胞表面上に存在し、かつ毒素分泌に関与するV抗原などのタンパク質に結合する、特異的タンパク質の使用である。Mab166は、PcrVに特異的に結合するモノクローナル抗体であり、急性P.エルギノーサ肺感染マウスモデルにおける敗血症の発症に対して防御能を有するとして同定された(Frank et al., J. Infect. Dis., 186:64-73, 2002(非特許文献1))。その後の研究において、モノクローナル抗PcrV抗体およびポリクローナル抗PcrV抗体は、種々の動物モデル、例えば、熱傷および急性気道感染において、予防免疫または治療免疫のいずれかによってP.エルギノーサ感染に対する有効性を示している(Faure et al., J. Immune Therapies and Vaccines 1:2, 2003(非特許文献2); Neely et al., Burns 31 :153-158, 2005(非特許文献3); Sawa et al., Nature Med. 5:392-398, 1999(非特許文献4))。
【0005】
以前の研究は、ラット、ウサギ、および急性感染のマウスモデルに投与した場合、Mab166またはポリクローナル抗PcrV抗体がP.エルギノーサの致死効果を抑えるのに有効であることを示している(前記Faure et al., 2003(非特許文献2); Imamura, et al., Eur Respir J 29:965-968, 2007(非特許文献5); および前記Frank, et al., 2002(非特許文献1))。TTSSは、マクロファージ壊死を引き起こし(Dacheux et al., Infect. and Immun. 68:2916-2924, 2000(非特許文献6)); この病原性システムを抑制することは、細菌クリアランスを促進する免疫細胞活性を保護する。
【0006】
抗生物質は、P.エルギノーサ感染に対する現在の標準治療法である。しかしながら、感染と戦うための従来の抗生物質治療の有効性は、急速に低下している。よって、現在の治療に取って代わるかまたは現在の治療の有効性を増強する、新規治療を作り出す差し迫った必要性が存在する。本発明は、この必要性に応えるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Frank et al., J. Infect. Dis., 186:64-73, 2002
【非特許文献2】Faure et al., J. Immune Therapies and Vaccines 1:2, 2003
【非特許文献3】Neely et al., Burns 31 :153-158, 2005
【非特許文献4】Sawa et al., Nature Med. 5:392-398, 1999
【非特許文献5】Imamura, et al., Eur Respir J 29:965-968, 2007
【非特許文献6】Dacheux et al., Infect. and Immun. 68:2916-2924, 2000
【発明の概要】
【0008】
発明の簡単な概要
本発明は、抗生物質と抗PcrV抗体との組み合わせの投与がP.エルギノーサに感染した患者を有効に治療するために用いられうるという発見に基づく。
【0009】
1つの局面において、本発明は、P.エルギノーサの抗生物質耐性株に感染した対象において菌血症を治療するかまたは菌血症の発症を予防する方法であって、P.エルギノーサTTSSのアンタゴニストである抗PcrV抗体と該抗生物質との組み合わせの治療的有効量を投与する段階を含む、方法を提供する。いくつかの態様において、患者は、インビトロアッセイ法で抗生物質に対して耐性を示す抗生物質耐性株に感染している。いくつかの態様において、患者は、抗生物質に対してインビボで耐性を有するP.エルギノーサ株に感染している。いくつかの態様において、抗生物質は、その最大耐量(MTD)で投与されている。いくつかの態様において、抗体は注射により投与され、かつ抗生物質は吸入により投与される。いくつかの態様において、抗生物質は、トブラマイシンなどのアミノグリコシドである。いくつかの態様において、抗生物質は、モノバクタム系アズトレオナムリシンである。いくつかの態様において、抗生物質は、テトラサイクリンなどTTSSの発現を誘導する。いくつかの態様において、抗生物質は、ピペラシリンである。当技術分野において、投与用のピペラシリンは通常タゾバクタムを含むということが理解されている。いくつかの態様において、方法は、血液中の細菌のレベルを測定する段階を含んでもよい。これは、血液を培養して存在しうる細菌を増殖させる段階、または免疫アッセイ法などのアッセイ法を用いて1つまたは複数のP.エルギノーサ抗原を検出する段階、または増幅反応などのアッセイ法を用いてP.エルギノーサ核酸を検出する段階など、当技術分野において公知の多数の方法により達成されうる。
【0010】
本発明はまた、抗生物質耐性P.エルギノーサ株に感染した対象を治療する場合に、該株の抗生物質に対する感受性を効果的に増強する方法であって、抗生物質、およびP.エルギノーサTTSSのアンタゴニストである抗PcrV抗体を、該対象に投与する段階を含む、方法も提供する。
【0011】
本発明の方法は、P.エルギノーサ感染を有する任意の対象を治療するために用いられうる。多くの場合、対象は、嚢胞性線維症を有するか、人工呼吸器を付けているか、好中球減少症の癌患者であるか、または熱傷患者である。対象は、ヒトである必要はないが、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、霊長類、または任意の他の動物などの動物であることもできる。
【0012】
P.エルギノーサに感染した対象の組み合わせ治療のための本発明の方法は、PcrVを中和する任意の抗体を使用することができるが、いくつかの態様において、PcrVへの結合についてMab166と競合する抗PcrV抗体を用いる。
【0013】
本発明はまた、本明細書において記載の通り、対象を治療するため抗生物質と組み合わせて用いるために製剤化された、抗PcrV抗体を含む薬学的組成物を提供する。よって、いくつかの態様において、本発明は、P.エルギノーサの抗生物質耐性株に感染しかつ抗生物質による治療を受けている対象における菌血症の治療または予防に用いるための、薬学的組成物であって、抗生物質で治療した該患者において菌血症を治療または予防する量の抗PcrV抗体を含む薬学的組成物を提供する。抗生物質は、トブラマイシンなどのアミノグリコシドであってもよい。いくつかの態様において、抗生物質は、III型分泌装置を誘導する。いくつかの態様において、抗PcrV抗体を含む薬学的組成物は、組成物が患者に投与される場合に血液中の細菌のレベルが低減するように、製剤化される。いくつかの態様において、P.エルギノーサ株は、インビボで抗生物質に対して耐性を有する。
【0014】
本発明はまた、III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、対象における抗生物質耐性P.エルギノーサ感染の治療または予防に抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物も提供する。いくつかの態様において、抗生物質は、その最大耐量において抗体の投与無しで投与される場合に無効である。いくつかの態様において、抗生物質が対象に単独で投与される場合の抗生物質の最大耐量と比較して、該対象が、(抗PcrV抗体を含む薬学的組成物と共に投与される場合の)抗生物質用量に対する増大した毒性を有さない。いくつかの態様において、抗生物質は、III型分泌装置の発現を誘導する。いくつかの態様において、抗生物質は、テトラサイクリン、ミノサイクリン、エオキシサイクリン(eoxycycline)、デメクロサイクリンまたはオキシテトラサイクリンである。
【0015】
本発明は、III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、P.エルギノーサ肺感染を有する対象の治療において抗生物質と共に用いるための薬学的組成物であって、薬学的組成物が、静脈内投与、筋肉内投与または皮下投与のために製剤化され、かつ抗生物質が、肺内への投与のために製剤化される、薬学的組成物をさらに提供する。いくつかの態様において、抗PcrV抗体薬学的組成物と一緒に用いられる抗生物質は、吸入により投与されるように製剤化される。いくつかの態様において、抗生物質は、トブラマイシンである。他の態様において、抗生物質は、アズトレオナムである。いくつかの態様において、該量の抗PcrV抗体および該量の抗生物質は、P.エルギノーサ菌血症を予防または治療する。
【0016】
本発明は、III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、肺以外の組織にP.エルギノーサ感染を有する対象における菌血症の治療または予防に抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物であって、静脈内投与のために製剤化される薬学的組成物をさらに提供する。いくつかの態様において、組織は、膀胱組織または尿路組織である。
【0017】
本発明は、III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、P.エルギノーサの抗生物質耐性株に感染した対象における該抗生物質耐性株の感受性を増強するために抗生物質と共に用いるための薬学的組成物をさらに提供する。いくつかの態様において、抗生物質は、ピペラシリンである。
【0018】
本明細書に記載の任意の使用のための薬学的組成物は、嚢胞性線維症を有するか、人工呼吸器を付けているか、好中球減少性の癌患者であるか、または熱傷患者である患者への投与のために製剤化されてもよい。さらに、薬学的組成物は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与または吸入による投与のために製剤化される抗PcrV抗体を含んでもよい。
【0019】
さらに、本明細書に記載の任意の使用において、薬学的組成物が患者に投与される場合に、抗生物質は、静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、もしくは皮下投与のために、または吸入による投与のために製剤化されてもよい。
【0020】
方法および薬学的組成物は、本明細書において記載の任意の抗PcrV抗体を使用することができる。よって、抗生物質と組み合わせる抗PcrV抗体の患者の治療のための使用は、下記の態様に記載の抗体を用いることができる。
【0021】
いくつかの態様において、本発明の方法および薬学的製剤における使用のための抗PcrV抗体は、PcrVに選択的に結合し、かつFWGTPを含むCDR3を含むVL領域を含む。典型的な態様において、そのような抗体は、ヒト生殖系列Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有するVL領域Vセグメントを有する。FR4領域は典型的には、ヒト生殖系列JセグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を有する。
【0022】
いくつかの態様において、本発明の方法における使用のための抗PcrV抗体は、FWGTPを含むCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒトJK2生殖系列遺伝子セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性またはJL2生殖系列配列に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列のVκI配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列Vλ配列に対して少なくとも80%の同一性を含む。いくつかの態様において、VL領域CDR3は、配列
を有する。いくつかの態様において、抗体は、配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒトJH3セグメントまたはヒトJH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒトVH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒトVH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域をさらに含む。いくつかの態様において、VH領域は、X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3を含む。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、PcrVに結合し、かつX1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域を含む、本発明における使用のための抗PcrV抗体を提供する。
【0024】
いくつかの態様において、本発明は、PcrVに結合し、かつX1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域と;FW(S/G)TPを含むCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒト生殖系列JK2遺伝子セグメントのFR4領域に対してまたはヒト生殖系列JL2セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12配列に対して少なくとも80%の同一性、またはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ2 2cセグメントもしくはVλ3 3lセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VL領域とを含む、本発明における使用のための抗PcrV抗体を提供する。いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体のVH領域のFR4は、X2がTまたはMである、配列
を有する。
【0025】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、配列Q(H/Q)FW(G/S)TPYTを有する軽鎖CDR3を有する。いくつかの態様において、VL領域のFR4は、配列
を有する。
【0026】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、VH領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VH3-30.3セグメントに対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ重鎖領域CDR1が配列X3X4X5X6Hを含み、X3がS、T、またはNであり、X4がYまたはAであり、X5がA、G、またはPであり、かつX6がM、I、またはLであり、かつ重鎖領域CDR2が配列
を含み、X7がV、F、またはNであり、X8がSまたはWであり、X9がDまたはNであり、X10がS、K、RまたはYであり、X11がN、S、DまたはEであり、X12がK、I、またはEであり、X13がY、S、DまたはWであり、かつX14がDまたはSである、抗体である。いくつかの態様において、抗体は、VH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する。いくつかの態様において、CDR1は、TAGMH、SYGIH、SYGMH、SYPLH、またはNYPMHである。いくつかの態様において、CDR2は、
である。いくつかの態様において、CDR1は、TAGMH、SYGIH、SYGMH、SYPLH、またはNYPMHであり;かつCDR2は、
である。
【0027】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、VH領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性、または少なくとも90%の同一性を有し、かつCDR1は配列DHAISを有し、かつCDR2は配列
を有する、抗体である。
【0028】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、CDR3配列NRGDIYYDFTYAFDI、CDR1配列DHAISおよびCDR2配列
を有するVH領域を含む。
【0029】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列のVHセグメント領域を含み;かつ重鎖CDR3は、X1がI、Q、Y、またはSである
;または
を含む。例えば、VH領域は、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0030】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列のVκI L12配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも80%もしくは少なくとも90%の同一性;またはヒト生殖系列のVλ3 3l配列に対してもしくはVλ2 2c配列に対して少なくとも80%もしくは少なくとも90%の同一性を含む、抗体である。いくつかの態様において、VL領域Vセグメントは、ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも80%または少なくとも90%の同一性を有し、かつCDR1は配列RASX15X16X17X18X19X20X21Aを有し、X15がQまたがEであり、X16がSまたがGであり、X17がIまたがVであり、X18がSまたがDであり、X19がS、R、またがTであり、X20がWまたがYであり、かつX21XがLまたはVであり; かつCDR2は配列X21ASX22LX23Sを有し、X21がDまたがAであり、X22がS、A、またがTであり、かつX23がE、Q、またがKである。いくつかの態様において、CDR1は、配列
を有するか;またはCDR2は、配列
を有する。いくつかの態様において、CDR1は、配列
を有し;かつCDR2は、配列
を有する。
【0031】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKIII L2配列に対して少なくとも80%または少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有し、かつCDR1が配列
を有するか;またはCDR2が配列
を有する、抗体である。いくつかの態様において、CDR1は配列
を有し;かつCDR2は配列
を有する。
【0032】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、ヒト生殖系列VλL3 3lセグメントに対して少なくとも80%または少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するVL領域Vセグメントを有し、かつCDR1は配列
を有するか;またはCDR2は配列
を有する。いくつかの態様において、CDR1は、配列
を有し;かつCDR2は、配列
を有する。
【0033】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、ヒト生殖系列VλL2 2cセグメントに対して少なくとも80%または少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するVL領域Vセグメントを有し、かつCDR1は、配列
を有し、かつCDR2は、配列
を有する。いくつかの態様において、CDR1は、配列
を有し;かつCDR2は、配列(E/D)VT(K/N)RPSを有する。
【0034】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列のVセグメントを含む領域を有し、かつ配列
を含む軽鎖CDR3を有する。例えば、VL領域は、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0035】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、VH領域と、SEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、VL領域とを含む。従って、いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、SEQ ID NO: 1のVH領域およびSEQ ID NO: 2のVL領域、またはSEQ ID NO: 3のVH領域およびSEQ ID NO: 4のVL領域、またはSEQ ID NO: 5のVH領域およびSEQ ID NO: 6のVL領域、またはSEQ ID NO: 7のVH領域およびSEQ ID NO: 8のVL領域、またはSEQ ID NO: 11のVH領域およびSEQ ID NO: 12のVL領域、またはSEQ ID NO: 9のVH領域およびSEQ ID NO: 10のVL領域、またはSEQ ID NO: 13のVH領域およびSEQ ID NO: 10のVL領域、またはSEQ ID NO: 13のVH領域およびSEQ ID NO: 4のVL領域、またはSEQ ID NO: 13のVH領域およびSEQ ID NO: 37のVL領域、またはSEQ ID NO: 21のVH領域およびSEQ ID NO: 18のVL領域、またはSEQ ID NO: 17のVH領域およびSEQ ID NO: 18のVL領域、またはSEQ ID NO: 26のVH領域およびSEQ ID NO: 24のVL領域、またはSEQ ID NO: 25のVH領域およびSEQ ID NO: 24のVL領域、またはSEQ ID NO: 23のVH領域およびSEQ ID NO: 24のVL領域、またはSEQ ID NO: 35のVH領域およびSEQ ID NO: 36のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 20のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 28のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 30のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 34のVL領域、またはSEQ ID NO: 3のVH領域およびSEQ ID NO: 32のVL領域を含む。
【0036】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、図8に示されている重鎖および/または図9に示されている軽鎖を含むか:または図8または図9にそれぞれに示されている重鎖もしくは軽鎖の1つに由来する少なくとも1個のCDR、多くの場合少なくとも2個のCDR、およびいくつかの態様において少なくとも3個のCDRを含む。多くの態様において、CDR1および/またはCDR2配列は生殖系列の配列ではない。
【0037】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、約10 nMまたはそれ未満の親和性を有するFabまたはFab'である。いくつかの態様において、抗体は、Mab166のFabまたはFab 'の親和性と等しいまたはより優れた親和性を有する。
【0038】
P.エルギノーサTTSSの活性を阻害する場合の本発明における使用のための抗体、例えばFabの力価は典型的には、Mab166 Fabと同等である(細胞に基づくアッセイ法で活性の2倍以内)。いくつかの態様において、抗体は、P.エルギノーサによる細胞障害の予防において、Mab166より強力である。
【0039】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、PcrVへの結合についてMab166と競合する。
【0040】
いくつかの態様において、抗体はヒンジ領域を含む。
【0041】
他の態様において、抗体はIgGまたはIgAである。
【0042】
いくつかの態様において、抗体はペグ化、例えばジペグ化またはモノペグ化されている。
【0043】
いくつかの態様において、VH領域もしくはVL領域のアミノ酸配列、またはVH領域とVL領域との両方のアミノ酸配列は、N末端にメチオニンを含む。
【0044】
抗体は、任意の投与の経路を用いて患者に投与されうるが、多くの場合、静脈内投与されるか、筋肉内投与されるか、皮下投与されるか、または吸入により投与される。
【0045】
抗生物質もまた、当技術分野において公知である任意の投与の経路を用いて、対象に投与されうる。典型的には、抗生物質は、静脈内に投与されるか、筋肉内に投与されるか、または吸入により投与される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】A.対照群および3つの処置群(Mab166のみ; 抗生物質のみ; Mab166および抗生物質)におけるマウスの体温。B. Aで調べた同じ群のマウスの生存曲線。
【図2】A. 感染後の別々の時点での対照群および処置群(Mab166;トブラマイシン; Mab166およびトブラマイシン)のマウスの肺の乾湿重量比。B. 感染後の別々の時点での対照群および処置群のマウスの過剰な肺水分量(ELW)。
【図3】Mab166/トブラマイシン組み合わせ療法が感染動物の肺で好中球を保護することを示すデータを提供する。細胞サイトスピンおよび染色の後の気管支肺胞洗浄液由来の顕微鏡視野(200×)あたりの好中球数をグラフに示す。
【図4】A. P.エルギノーサ点滴注入後8時間および24時間の対照群および処置群(Mab166;トブラマイシン; Mab166およびトブラマイシン)のマウスの肺内の総P.エルギノーサCFU。B. P.エルギノーサ点滴注入後8時間および24時間の対照群および処置群のマウスの血液中の総P.エルギノーサCFU。C. P.エルギノーサ点滴注入後8時間および24時間の対照群および処置群のマウスの脾臓内の総P.エルギノーサCFU。
【図5】対照群および処置群(Mab166;トブラマイシン; Mab166およびトブラマイシン)における、P.エルギノーサ点滴注入後8時間および24時間のマウス血漿中のMPO濃度。
【図6】4つの処置群の体温: 対照;ピペラシリン; Mab166; ならびにMab166およびピペラシリン。ピペラシリンは、タゾバクタム(ペニシリナーゼ阻害剤)と組み合わせて投与される。
【図7】生存曲線: 対照;ピペラシリン; Mab166; ならびにMab166およびピペラシリン。ピペラシリンは、タゾバクタムと組み合わせて投与される。
【図8】抗PcrV抗体のVH領域の配列を示す。CDR配列に下線を引く。VH1配列をヒト生殖系列配列VH1-18に対して整列させる。VH3-サブクラスをヒト生殖系列配列VH3-30.3対して整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列のJH3またはJH6いずれかに対して整列させる。図8に示すVHセグメントは、CDR3配列までの配列に対応する。
【図9】抗PcrV抗体のVL領域の配列を示す。CDR配列に下線を引く。Vκ-サブクラス抗体をヒト生殖系列配列VKI L12に整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列JK2に対して整列させる。Vλ-サブクラス抗体をヒト生殖系列配列Vl3 3lに対して整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列JL2に対して整列させる。
【図10】致死量のPA103による攻撃誘発時に様々な用量のPcrVに対する抗体で処置したマウスの生存の時間経過を示すデータを提供する。Mab166およびFabの断片を、気管内経路を介して1.5×106の細菌と一緒に共注入した(1群当たり5マウス、Mab166 Fab群に対して4マウス)。対照は、PcrVまたは任意のP. エルギノーサタンパク質への結合を伴わない非特異的Fabである。マウスを以下の抗体用量で処置した:A) 10μg、B) 5μg、C) 2.5μg、D) 1.25μg、*Fab 1A8対Mab166Fabに対してP=0.01、E) 0.625μg *1A8対Mab166 Fabに対してP=0.002、F) 0.3125μg、G) 0.16μg、H) 0.08μg。処置群間の差異に対するP値をMantel-Coxログランク検定により求めた。
【図11】抗PcrV抗体で処置したマウスの体温解析を示すデータを提供する。直腸の温度を48時間または死亡まで示す。抗体用量:A) 10μg、B) 5μg、C) 2.5μg、D) 1.25μg E) 0.625μg F) 0.3125μg、G) 0.16μg、H) 0.08μg。
【図12】抗PcrV抗体により感染させたマウスの肺からのP. エルギノーサのクリアランスを示すデータを提供する。Mab166 IgG、Mab166 FabまたはヒトFab 1A8と一緒に共注入した1.5×106 cfu PA 103を用いて(μgで)示した用量で、マウスを感染させた。グラフは、48 hで生き残っている個々のマウスから単離された肺のcfu/肺を示す。この時点で死んでいるマウスの数を図の上部に示す。各群における生き残っているマウスの中央値cfu/肺をバーを用いて示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
発明の詳細な説明
定義
本明細書において用いられる「相乗効果」は、最終結果が別々に取得された組み合わせの各部分の合計によって得られる効果より優れている、組み合わせにおける効果を指す。
【0048】
「菌血症」または「敗血症」は、血流中の生細菌の存在を指す。典型的には、菌血症または敗血症では、細菌を患者の血液の試料から培養できるほど十分な数存在する。
【0049】
「最大耐量」または「MTD」は、許容できない副作用を引き起こさない、薬物または治療の最高用量を指す。
【0050】
本明細書において用いられる「抗体」は、結合タンパク質として機能的に定義され、かつ抗体を産生する動物の免疫グロブリンをコードする遺伝子のフレームワーク領域に由来するとして当業者に認識されるアミノ酸配列を含むと構造的に定義される、タンパク質を指す。抗体は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的にコードされる1つまたは複数のポリペプチドからなることができる。認識される免疫グロブリン遺伝子は、κ、λ、α、γ、δ、εおよびμの定常領域遺伝子、ならびに種々の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖は、κまたはλのいずれかに分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεに分類され、かつ順番にそれぞれ免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを定義する。
【0051】
典型的な免疫グロブリン(抗体)構造ユニットは、四量体を含むことが公知である。四量体はそれぞれ、同一の2組のポリペプチド鎖で構成され、各組とも1つの「軽」鎖(約25 kD)および1つの「重」鎖(約50 kD)を有する。各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与する約100個から110個またはそれより多いアミノ酸の可変領域を定義する。可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)という用語はそれぞれこれらの軽鎖および重鎖を指す。
【0052】
本明細書において用いられる抗体という用語は、結合特異性を保持する抗体断片を含む。例えば、多数の十分に特徴付けられた抗体断片がある。従って、例えばペプシンは、ヒンジ領域内のジスルフィド結合に対してC末端の抗体を消化し、F(ab)'2、それ自体がジスルフィド結合によりVH-CH1(Fd)に連結されている軽鎖であるFabの二量体を生じる。F(ab)'2は、ヒンジ領域内のジスルフィド結合を切断し、その結果、(Fab')2二量体をFab'一量体に変換する穏やかな条件下で、減少する場合がある。Fab'一量体は本質的には、ヒンジ領域の全体または一部を伴うFabである(他の抗体断片のより詳細な記載についてはFundamental Immunology, W.E. Paul, ed., Raven Press, N.Y. (1993)参照)。様々な抗体断片が、完全な抗体の消化の面から定義される一方で、当業者は、断片が化学的にまたは組換えDNA方法論の使用によりデノボ合成されうることを理解すると考えられる。従って、「抗体」という用語はまた、全抗体の改変または組換えDNA方法論を用いた合成のいずれかにより生じる抗体断片を含む。
【0053】
本発明の抗体は、可変重鎖領域および可変軽鎖領域が互いに連結され(直接にまたはペプチドリンカーを介して連続したポリペプチドを形成する、一本鎖Fv抗体(sFvまたはscFv)などの一本鎖抗体(一本鎖ポリペプチドとして存在する抗体)を含む、VH-VL二量体、VH二量体、またはVL二量体などの二量体を含む。一本鎖Fv抗体は、共有結合されたVH-VLヘテロ二量体であり、直接的に結合されるかまたはペプチドコードリンカーにより結合されるVHコード配列およびVLコード配列を含む核酸から発現させてもよい(例えば、Huston, et al. Proc. Nat. Acad. Sci USA, 85:5879-5883, 1988)。VHおよびVLは一本鎖ポリペプチドとしてお互いに連結される一方で、VHドメインおよびVLドメインは非共有結合的に結合する。あるいは、抗体は、ジスルフィド安定化Fv(dsFv)などの別の断片であることができる。組換え技術を用いてなど、他の断片もまた作成されることができる。抗体V領域に由来する天然には凝集するが化学的に分離される軽鎖ポリペプチドおよび重鎖ポリペプチドを抗原結合部位の構造に実質的に類似する3次元構造に折りたたんだ分子に変換する、scFv抗体および多数の他の構造体は、当業者に公知である(例えば、米国特許第5,091,513号、同第5,132,405号、および同第4,956,778号参照)。いくつかの態様において、抗体は、ファージ上に示される抗体、または鎖を可溶性タンパク質、例えばscFv、Fv、Fab、(Fab')2として分泌するベクターを用いる組換え技術により産生される抗体、または鎖を可溶性タンパク質として分泌するベクターを用いる組換え技術により産生される抗体を含む。本発明における使用のための抗体はまた、ジ抗体(diantibody)およびミニ抗体も含みうる。さらに、本発明の抗体は、ラクダ科の動物に由来する抗体などの重鎖二量体を含む。ラクダ科の動物における重鎖二量体IgGのVH領域は、軽鎖による疎水性相互作用を作る必要がないため、通常は軽鎖と接触する重鎖内の領域が、ラクダ科の動物では親水性アミノ酸残基に変更される。重鎖二量体IgGのVHドメインはVHHドメインと呼ばれる。本発明の抗体は、単一ドメイン抗体(dAb)およびナノボディを含む(例えば、Cortez-Retamozo, et al., Cancer Res. 64:2853-2857, 2004参照)。
【0054】
本明細書において用いられる「V領域」は、CDR3およびフレームワーク4を含む、フレームワーク1、CDR1、フレームワーク2、CDR2、ならびにフレームワーク3のセグメントを含む抗体可変領域ドメインを指し、それらのセグメントは、B細胞分化の過程で重鎖V領域遺伝子および軽鎖V領域遺伝子の再構成の結果としてVセグメントに加えられる。本明細書において用いられる「Vセグメント」は、V遺伝子によりコードされるV領域(重鎖または軽鎖)の領域を指す。重鎖可変領域のVセグメントは、FR1-CDR1-FR2-CDR2およびFR3をコードする。本発明の意図に関して、軽鎖可変領域のVセグメントは、FR3を経てCDR3まで及ぶと定義される。
【0055】
本明細書において用いられる「Jセグメント」という用語は、CDR3およびFR4のC末端部分を含むコードされた可変領域のサブ配列を指す。内在性のJセグメントは、免疫グロブリンJ遺伝子によりコードされる。
【0056】
本明細書において用いられる「相補性決定領域(CDR)」は、軽鎖可変領域および重鎖可変領域により確立される、4つの「フレームワーク」領域の間に割って入る各鎖における3つの超可変領域を指す。CDRは主に、抗原のエピトープへの結合に関与する。各鎖のCDRは典型的には、N末端から順に番号を付けられたCDR1、CDR2、およびCDR3を指し、さらに典型的には個々のCDRが位置している鎖により同定される。従って、例えばVHCDR3は、見出される抗体の重鎖の可変ドメイン中に位置するのに対し、VLCDR1は、見出される抗体の軽鎖の可変ドメインのCDR1である。
【0057】
種々の軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域は、構成物軽鎖および構成物重鎖のフレームワーク領域の組み合わせであり、三次元空間においてCDRの位置を特定しかつ整列させるのに役立つ。
【0058】
CDRおよびフレームワーク領域のアミノ酸配列は、当技術分野において周知の様々な定義、例えば、Kabat, Chothia, international ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)、およびAbMを用いて決定されうる (例えば、上記Johnson et al.,; ChothiaおよびLesk, 1987, Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins. J. Mol. Biol. 196, 901-917; Chothia C. et al., 1989, Conformations of immunoglobulin hypervariable regions. Nature 342, 877-883; Chothia C. et al., 1992, structural repertoire of the human VH segments J. Mol. Biol. 227, 799-817; Al-Lazikani et al., J.Mol.Biol 1997, 273(4)参照)。抗原結合部位の定義はまた、以下にも記載される:Ruiz et al., IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res., 28, 219-221 (2000); およびLefranc,M.-P. IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res. Jan l;29(l):207-9 (2001); MacCallum et al, Antibody-antigen interactions: Contact analysis and binding site topography, J. MoI. Biol., 262 (5), 732-745 (1996); およびMartin et al, Proc. Natl Acad. Sci USA, 86, 9268-9272 (1989); Martin, et al, Methods Enzymol., 203, 121-153, (1991); Pedersen et al, Immunomethods, 1, 126, (1992); およびRees et al, In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction. Oxford University Press, Oxford, 141-172 1996)。
【0059】
「エピトープ」または「抗原決定基」は、抗体が結合する抗原の部位を指す。エピトープは、連続的なアミノ酸と、またはタンパク質の三次折りたたみ(tertiary folding)により近接して並ぶ非連続的なアミノ酸との両方から形成されうる。連続的なアミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒への曝露に対して保持されるのに対し、三次折りたたみにより形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒による処理によって失われる。エピトープは、特有の空間立体構造内に典型的には少なくとも3アミノ酸、およびより通常は少なくとも5または8〜10アミノ酸を含む。エピトープの空間立体構造を決定する方法は、例えばX線結晶学および二次元核磁気共鳴を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed (1996) 参照。
【0060】
本発明の文脈で用いられる「結合特異性決定基」または「BSD」という用語は、抗体の結合特異性を決定するために必要な、CDR領域内で最小の連続的なアミノ酸配列または非連続的なアミノ酸配列を指す。本発明において、最小の結合特異性決定基は、抗体の重鎖および軽鎖のCDR3配列の一部分または全長内に存在する。
【0061】
本明細書において用いられる「PcrV拮抗性抗体」、または「PcrV抗体アンタゴニスト」もしくは「アンタゴニストPcrV抗体」、または「シュードモナス・エルギノーサIII型分泌システム(TTSS)の抗PcrV抗体アンタゴニスト」という用語は、互換的に用いられ、PcrVに結合しかつTTSSを阻害する抗体を指す。阻害は、TTSSを通じた分泌が、抗体アンタゴニストに曝露しなかった場合の分泌と比べて、少なくとも約10%減少、例えば少なくとも約25%、50%、75%減少、または完全に阻害された場合に起こる。「抗PcrV抗体」および「PcrV抗体」という用語は、特に指定がない限り、同意語として用いられる。
【0062】
「平衡解離定数(KD)」という用語は、結合速度定数(ka、時間-1、M-1)で割った解離速度定数(kd、時間-1)を指す。平衡解離定数は、当技術分野において公知の任意の方法を用いて測定されうる。本発明の抗体は、高親和性抗体である。そのような抗体は、500 nMより優れた親和性を有し、多くの場合50 nMまたは10 nMより優れた親和性を有する。従って、いくつかの態様において本発明の抗体は、500 nMから100 pMの範囲の、または50もしくは25 nMから100 pMの範囲の、または50もしくは25 nMから50 pMの範囲の、または50 nMもしくは25 nMから1 pM範囲の親和性を有する。
【0063】
本明細書において用いられる「ヒト化抗体」は、ドナー抗体由来のCDRがヒトフレームワーク配列に移植されている免疫グロブリン分子を指す。ヒト化抗体はまた、フレームワーク配列内にドナー起源の残基を含んでもよい。ヒト化抗体はまた、ヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分を含むこともできる。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体内ならびに移入されるCDR配列内およびフレームワーク配列内のいずれにおいても見出されない残基を含んでもよい。ヒト化は、当技術分野において公知の方法を用いて行うことができ(例えば、Jones et al., Nature 321:522-525; 1986; Riechmann et al., Nature 332:323-327, 1988; Verhoeyen et al, Science 239:1534-1536, 1988); Presta, Curr. Op. Struct. Biol 2:593-596, 1992; 米国特許第4,816,567号)、「超ヒト化(superhumanizing)」抗体(Tan et al., J. Immunol. 169: 1119, 2002)および「表面再構成(resurfacing)」(例えば、Staelens et al., Mol. Immunol. 43: 1243, 2006; およびRoguska et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 91: 969, 1994)などの技術を含む。
【0064】
本発明の文脈において「ヒューマニア化(humaneered)」抗体は、参照抗体の結合特異性を有する、遺伝子操作された(engineered)ヒト抗体を指す。本発明における使用のための「ヒューマニア化」抗体は、ドナー免疫グロブリンに由来する最小配列を含む免疫グロブリン分子を有する。典型的には、抗体は、参照抗体の重鎖のCDR3領域由来の結合特異性決定基(BSD)をコードするDNA配列にヒトVHセグメント配列を連結し、参照抗体由来の軽鎖CDR3 BSDにヒトVLセグメント配列を連結することにより「ヒューマニア化」する。「BSD」は、CDR3-FR4領域、または結合特異性を媒介するこの領域の一部分を指す。従って結合特異性決定基は、CDR3-FR4、CDR3、CDR3の最小必須の結合特異性決定基(抗体のV領域中に存在する場合に結合特異性を付与するCDR3より小さな任意の領域を指す)、Dセグメント(重鎖領域に関して)、または参照抗体の結合特異性を付与するCDR3-FR4の他の領域であることができる。ヒューマニア化のための方法は、米国特許出願公開第20050255552号および米国特許出願公開第20060134098号で提供される。
【0065】
「ハイブリッド」という用語は、核酸またはタンパク質の部分に関連して用いられる場合、核酸またはタンパク質が本来は互いに同様の関連性において普通は見られない2つまたはそれ以上のサブ配列を含むことを意味する。例えば、核酸は典型的には、組換えで作製され、例えば新しい機能的な核酸を作るよう並べられた無関係の遺伝子に由来する、2つまたはそれ以上の配列を有する。同様に、ハイブリッドタンパク質は、本来は互いに同様の関連性において普通は見られない2つまたはそれ以上のサブ配列を指す。
【0066】
「組換え」という用語は、例えば細胞、または核酸、タンパク質、もしくはベクターに関連して用いられる場合、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが異種の核酸もしくはタンパク質の導入、または天然の核酸またはタンパク質の変更により改変されていること、または細胞がそのように改変されている細胞に由来することを意味する。従って、例えば組換え細胞は、発現下でまたは全く発現しない条件下で、細胞の天然の(非組換えの)形態の範囲内では見られない遺伝子を発現するか、または普通なら異常に発現される天然の遺伝子を発現する。本明細書における「組換え核酸」という用語は、一般には、例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いる核酸の操作により、元々はインビトロで形成された、本来普通は見出されない形の核酸を意味する。このようにして、種々の配列の機能的な連結が達成される。従って、直線形態の単離された核酸と、または普通は連結しないDNA分子を連結させることによりインビトロで形成される発現ベクターとの両方とも、本発明の意図に関して、組換え体であると考えられる。組換え核酸が作製され、宿主細胞または宿主生物内に再導入された後は、組換え核酸は非組換えにより、すなわちインビトロ操作よりはむしろ宿主細胞のインビボ細胞機構を用いて複製される。しかしながらそのような核酸は、本発明の意図に関して、組換えで産生された後に続いて非組換えで複製されるが、依然として組換え体であると考えられることが理解される。同様に、「組換えタンパク質」は、組換え技術を用いて、すなわち上記に示す通り組換え核酸の発現によって作製されるタンパク質である。
【0067】
抗体に「特異的に(または選択的に)結合する」または「特異的に(または選択的に)免疫反応性を示す」という語句は、タンパク質またはペプチドを指す場合、抗体が関心対象のタンパク質に結合する結合反応を指す。本発明の文脈において、抗体は典型的には、500 nMまたはそれ未満の親和性でPcrVに結合し、他の抗原に対しては5000 nMまたはそれを超える親和性を有する。
【0068】
「同一の」またはパーセント「同一性」という用語は、2つまたはそれ以上のポリペプチド(または核酸)配列の文脈において、下記のデフォルトパラメーターによるBLASTまたはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを用いて、または手動整列化および目視による検査により測定された場合に(例えば、NCBIウェブサイトを参照)、同一であるか、または同一であるアミノ酸残基の特定のパーセンテージのアミノ酸配列(もしくはヌクレオチド) (すなわち、比較ウィンドウ(comparison window)または指定された領域に対して最大限一致するよう比較し整列させた場合、特定の領域に対して約60%の同一性、好ましくは70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性、またはより高い同一性)を有する、2つまたはそれ以上の配列またはサブ配列を指す。次いで、そのような配列を、「実質的に同一である」と言う。「実質的に同一である」配列はまた、欠失および/または付加を有する配列、ならびに置換を有する配列、ならびに天然に存在する変異体、例えば多型変異体または対立遺伝子変異体およびヒトが作製した変異体も含む。下記の通り、好ましいアルゴリズムはギャップなど明らかにすることができる。好ましくは、タンパク質配列同一性は、長さが少なくとも約25アミノ酸である領域にわたって、またはより好ましくは長さが50-100アミノ酸である領域にわたって、または1つのタンパク質の長さにわたって存在する。
【0069】
本明細書において用いられる「比較ウィンドウ」は、典型的には20個から600個、一般的には約50個から約200個、より一般的には約100個から約150個からなる群より選択される数の連続した位置の1つのセグメントに対する参照を含み、ここで配列は、2つの配列を最適に整列させた後に、同一数の連続した位置の参照配列と比較されてもよい。比較のための配列の整列の方法は、当技術分野において周知である。比較のための配列の最適な整列は、例えばSmithおよびWaterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局所的相同性アルゴリズムにより、NeedlemanおよびWunsch, J. MoI. Biol 48:443 (1970)の相同性整列化アルゴリズムにより、PearsonおよびLipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の類似度の検索法により、これらのアルゴリズムのコンピュータ処理による実行により(the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIにおけるGAP, BESTFIT, FASTA, およびTFASTA)、または手動整列化および目視による検査(例えばCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds. 1995 supplement)参照)により、実行されうる。
【0070】
パーセント配列同一性および配列類似性を判定するのに適しているアルゴリズムの好ましい例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムを含み、それらはAltschul et al., Nuc. Acids Res. 25:3389-3402 (1977) およびAltschul et al., J. MoI. Biol. 215:403-410 (1990) に記載されている。BLASTおよびBLAST 2.0は、本明細書において記載されるパラメーターと共に用いられ、本発明の核酸およびタンパク質のパーセント配列同一性を判定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列のための)は、デフォルトとして、11の文字の長さ(W)、10の期待値(E)、M=5、N=-4および両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列に関し、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、3の文字の長さ、および10の期待値(E)を用い、かつBLOSUM62スコアリングマトリックス(HenikoffおよびHenikoff, Proc. Natl Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)) は、50のアライメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=-4および両鎖の比較を用いる。
【0071】
「単離される」、「精製される」または「生物学的に純粋」という用語は、その天然の状態で見られる、通常は伴う構成要素を実質的にまたは本質的に含んでいない物質を指す。純度および均一性は典型的には、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーなどの化学的分析技術用いて判定される。調製物中に存在する優勢種であるタンパク質は、実質的に精製されている。「精製」という用語はいくつかの態様において、タンパク質が電気泳動ゲル中で本質的に1つのバンドを生じることを意味する。好ましくは、タンパク質が少なくとも85%純粋、より好ましくは少なくとも95%純粋、および最も好ましくは少なくとも99%であることを意味する。
【0072】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。該用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに改変された残基を含む天然に存在するアミノ酸ポリマー、および非天然のアミノ酸ポリマーに適用する。
【0073】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号によりコードされるアミノ酸、ならびに後に修飾されるそれらのアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸と同様の基本化学構造、例えば、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスフホニウムなどのR基に結合するα炭素を有する化合物を指す。そのような類似体は、修飾R基(例えばノルロイシン)または修飾ペプチド骨格を有してもよいが、天然に存在するアミノ酸と同様の基本化学構造を保持する。アミノ酸模倣体は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化合物を指す。
【0074】
アミノ酸は本明細書において、一般に知られる3文字記号、またはIUPAC-IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)が推奨する1文字記号のいずれかにより称されてもよい。同様にヌクレオチドは、それらの一般に認められた1文字コードにより称されてもよい。
【0075】
「保存的に改変された変異体」は、アミノ酸配列と核酸配列との両方に適用する。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体は、核酸が、本質的に同一のまたは関連する、例えば天然に連続した配列と同一のもしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする、または核酸がアミノ酸配列をコードしない、変異体を指す。遺伝暗号の縮重のため、多くのタンパク質は数多くの機能的に同一の核酸によりコードされる。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全て、アミノ酸アラニンをコードする。従って、コドンによりアラニンが特定される全ての位置で、コドンは、コードされるポリペプチドを変更することなく記載される別の対応するコドンに変更されうる。そのような核酸の変異は、「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異体の一種である。本明細書において、ポリペプチドをコードする全ての核酸配列はまた、核酸のサイレント変異も表す。当業者は、ある文脈において核酸中の各コドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)が機能的に同一である分子を生じるよう改変されうることを認識している。従って、ポリペプチドをコードする核酸のサイレント変異は多くの場合、実際のプローブ配列ではなく、発現産物について表わされた配列に潜在的に含まれる。
【0076】
アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされる配列内の単一アミノ酸またはわずかな比率のアミノ酸を置換、付加または欠失する、核酸配列、ペプチド配列、ポリペプチド配列またはタンパク質配列に対する置換体、欠失体または付加体のそれぞれが、変更が化学的に類似のアミノ酸によるアミノ酸の置換をもたらす、「保存的に改変された変異体」であることを認識している。保存的な置換の表および機能的に類似のアミノ酸を提供するBLOSUMなどの置換マトリックスは、当技術分野において周知である。そのような保存的に改変された変異体は、多型の変異体、種間相同体、および本発明のアレルを除外するものではなく、多型の変異体、種間相同体、および本発明のアレルに加えられるものである。典型的な相互に保存的な置換は以下を含む:(1)アラニン(A)、グリシン(G); (2) アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E); (3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q); (4)アルギニン(R)、リシン(K); (5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V); (6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W); (7)セリン(S)、スレオニン(T);および(8)システイン(C)、メチオニン(M) (例えば、Creighton, Proteins (1984)参照)。
【0077】
序論
本発明は、抗生物質、例えば、トブラマイシンなどのアミノグリコシド、またはピペラシリンなどのペニシリンが、アンタゴニスト抗PcrV抗体と組み合わせて投与される場合に、P.エルギノーサ感染に対して驚くほど有効な治療計画をもたらすという、驚くべき発見に基づく。いくつかの態様において、抗生物質は、抗PcrV抗体治療用量がさらなる宿主毒性を引き起こさない限りは、そのMTDで投与される。さらなる態様において、抗生物質は有効用量未満で投与され、かつ抗体との組み合わせの治療効果は単純な相加より優れている。
【0078】
いくつかの態様において、抗生物質、例えばトブラマイシンなどのアミノグリコシドと抗体との組み合わせは、血流内への細菌の播種を減少させるという驚くべき効果を有する。従って、いくつかの局面において、本発明は、菌血症を治療または予防する方法を提供する。抗生物質/PcrV抗体の組み合わせが菌血症を治療または予防する能力は、「実施例」の欄で提供される実施例で用いられる通りに、動物モデル、例えばP.エルギノーサ感染のマウスモデルでにおいて測定されうる。
【0079】
さらに、本発明の抗生物質/PcrV抗体の組み合わせ療法は、P.エルギノーサ株がインビトロ耐性を示す抗生物質に対する、P.エルギノーサのインビボでの感受性を増大させる。よって、いくつかの態様において、PcrV抗体と抗生物質との組み合わせは、抗生物質に対していくらかの耐性を有するP.エルギノーサ株に感染した対象に投与される。抗生物質感受性は、例えば、拡散アッセイ法または液体希釈感受性アッセイ法などの当技術分野において周知のアッセイ法を用いて評価されうる。あるいは、抗生物質による治療を受け、かつ臨床的改善を示していない、P.エルギノーサ感染を有する対象は、抗生物質に対してインビボ耐性を有していると見なすことができるか、またはインビボで抗生物質に対して耐性を有する株に感染していると考えられる。従って、抗生物質に対して耐性を有さないP.エルギノーサの株に感染した患者に通常有用でありうる抗生物質の用量は、抗生物質に対して耐性を有するP.エルギノーサの株に感染した患者に有効ではない(sub-efficacious)場合がある。
【0080】
抗生物質に対して「耐性を有する」または「ある程度の耐性を有する」株は、抗生物質治療が細菌の増殖に対して全く効果を示さないほど抗生物質に対して完全に耐性である必要はない。本発明の文脈において、抗生物質に対して「耐性を有する」または「ある程度の耐性を有する」株は典型的には、the Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI)ガイドラインに従って、抗生物質耐性を示す株を指す(例えば、2008/12/30発行のpublication M02-A10、2008/12/30発行のM07-A8、およびM100-S19参照)。
【0081】
患者を治療する方法
本発明は、アンタゴニストPcrV抗体を抗生物質、例えばトブラマイシンなどのアミノグリコシドまたはピペラシリンと組み合わせて投与する段階により、P.エルギノーサ感染を有するかまたはP.エルギノーサ感染を有する危険性がある患者を治療する方法を提供する。いくつかの態様において、抗体および抗生物質、例えばトブラマイシンまたはピペラシリンは、有効量未満で投与される。いくつかの態様において、治療を受ける患者は、嚢胞性線維症を有するか、人工呼吸器関連肺炎(VAP)であるか、好中球減少症の癌患者であるか、または熱傷患者である。
【0082】
本発明の方法は、疾患の治療に適した投与計画を用いて、P.エルギノーサ感染患者に対して薬学的組成物としての抗生物質とPcrV抗体との組み合わせを治療的有効量で投与する段階を含む。抗生物質の投与は、当技術分野において周知である。抗体組成物は、種々の薬物送達システムにおける使用のために製剤化されうる。
【0083】
PcrV抗体は、注射用無菌等張水溶液などの患者への注入に適した溶液の状態で提供される。1つまたは複数の生理的に許容可能な賦形剤もしくは担体もまた、適切な製剤のために組成物中に含まれうる。本発明における使用に適した製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, PA, 17th ed. (1985)で見出される。薬物送達のための方法の簡単な総説については、Langer, Science 249: 1527-1533 (1990)を参照のこと。抗体は、許容可能な担体中に適切な濃度で溶解または懸濁される。いくつかの態様において、担体は、水溶性であり、例えば、水、生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水などである。組成物は、pH調節剤、緩衝剤および浸透圧調節剤などの近似的生理条件に必要とされる補助的な薬学的物質を含んでもよい。
【0084】
抗生物質および抗PcrV抗体は、P.エルギノーサ感染を有する患者に、疾患または疾患およびその合併症の症状を治癒するのにまたは少なくとも部分的に抑えるのに十分な量で投与される。このことを成し遂げるのに適切な量は、「治療的有効量」として定義される。治療的有効量は、治療に対する患者の反応をモニターする段階により判定される。治療的有効量を示す典型的なベンチマークは、患者における感染の症状の緩解、または患者におけるP.エルギノーサのレベルの低減を含む。この使用に有効な量は、疾患の重傷度、および年齢、体重、性別、投与経路などの他の要因を含む患者の一般的な健康状態に依存すると考えられる。抗体および抗生物質の単回投与または複数回投与は、患者が必要としかつ耐えられるような用量および頻度に応じて投与されてもよい。任意の事象において、方法は、患者を有効に治療するのに十分な量のPcrV抗体および抗生物質を提供する。
【0085】
いくつかの態様において、抗体は、抗生物質で治療されているが、抗生物質が臨床的に有効ではない患者に対して、抗生物質と共に投与される。本発明の文脈において、臨床的有効性は、感染患者由来の試料、例えば血液または痰中の細菌の数を減少させる能力を指す。よって、患者由来の試料が、試料中に存在する細菌の数とほぼ同数を示すかまたは該細菌の数における増加を示す場合には、抗生物質は臨床的に有効ではない。
【0086】
いくつかの態様において、抗体/抗生物質の組み合わせは、抗生物質の最大耐量が臨床的に有効ではなかった患者に対して投与される。最大耐量は、臨床的に判定され、かつ許容できない副作用を引き起こさない最高用量である。
【0087】
いくつかの態様において、抗生物質と抗PcrV抗体との組み合わせは、同じ抗生物質を単独で投与した場合と比べて、対象に投与する場合に増大した毒性を有さない。よって、例えば、患者は、抗生物質で治療され、かつ抗生物質による有害な副作用を経験する場合があるが、組み合わせは、有害な副作用に関連する抗生物質の毒性を増大させない。いくつかの態様において、抗体および抗生物質は、相補的な毒性を有する場合があり、ここで抗体など一方の作用物質の毒性は、他方の作用物質、例えば抗PcrV抗体の副作用により悪化しない。抗生物質の様々な毒性効果は、公知である。
【0088】
いくつかの態様において、抗体/抗生物質の組み合わせは、P.エルギノーサ感染の危険性がある患者に投与される。そのような患者は、例えば、別の患者がP.エルギノーサ感染を有している集中治療室などに入院中の患者; 4日間またはそれより長く人工呼吸器を付けている患者; または患者がP.エルギノーサに感染する可能性が高い、例えば、患者がP.エルギノーサに感染した個体に曝露される、嚢胞性線維症などの疾患を伴う患者を含む。
【0089】
抗体および抗生物質はまた、P.エルギノーサ感染を治療するための他の療法と組み合わせて投与されてもよい。本発明の組み合わせ治療では、抗体は、抗生物質の前または後に、例えば同日内にまたは同じ週のうちにまたは同時に、投与されうる。いくつかの態様において、抗体は、抗生物質単独による1回または複数回の初期治療の後に、抗生物質と同時に投与される。
【0090】
抗体は、静脈内経路、皮下経路、筋肉内経路、気管内経路または腹腔内経路を含むがこれに限定されない任意の適切な経路を通じて、注射または注入により投与されうる。いくつかの態様において、抗体は吸入により投与されてもよい。例示的な態様において、抗体は、注射用の滅菌等張水性生理食塩水中に10 mg/ml、4℃で保存されてもよく、患者への投与の前に100 mlまたは200 mlのいずれかの注射用0.9%塩化ナトリウムで希釈される。抗体は、0.2 mg/kgから10 mg/kgの間の用量で1時間にわたって静脈内注入により投与される。他の態様において、抗体は、15分から2時間の期間にわたって静脈内注入により投与される。さらに他の態様において、投与手法は、皮下ボーラス注射による。
【0091】
抗体の用量は、患者に対して有効な治療を提供するために選択され、0.1 mg/kg体重未満から25 mg/kg体重までの範囲、または患者1人あたり1 mg〜2 gの範囲である。好ましくは、用量は、1〜10 mg/kgまたはおよそ50 mg〜1000 mg/患者の範囲である。用量は、抗体の薬物動態(例えば、循環血液中の抗体の半減期)および薬力学的反応(例えば、抗体の治療効果の持続期間)によって、1日あたり1回から3ヶ月毎に1回までの範囲において、適切な頻度で繰り返されてもよい。いくつかの態様において、約7日から約25日の間のインビボ半減期で、抗体投与は、1週間あたり1回から3ヶ月毎に1回の間で繰り返される。他の態様において、抗体は1月あたりおよそ1回投与される。
【0092】
さらなる態様において、抗体はペグ化される。例えば、本発明の抗体は、例えば本明細書において記載の方法を用いてペグ化され、P.エルギノーサに感染した患者へ投与されてもよい。さらなる例として、ペグ化された抗体は、Fab'断片などの抗体断片であってもよい。
【0093】
抗生物質を投与する方法は、当技術分野において周知である。例えば、抗生物質は通常、経口的に投与されるか、あるいは注射により、例えば静脈内に、皮下に、筋肉内に、非経口的に、気管内にまたは脊髄経路もしくは表皮経路を用いて投与される。いくつかの態様において、例えばトブラマイシンなどのアミノグリコシが投与される特定の態様において、抗生物質は、吸入による投与のためにエアロゾル化されうる。
【0094】
抗生物質
いくつかの態様において、抗PcrV抗体と組み合わせて投与される抗生物質は、トブラマイシンなどのアミノグリコシド抗生物質である。アミノグリコシド抗生物質は、合成抗生物質とストレプトマイセス(Streptomyces)種およびミクロモノスポラ(Micromonospora)種から単離された天然抗生物質との両方を指す。これらの抗生物質は、ゲンタマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、アミカシン、アルベカシン、アジスロマイシン、ストレプトマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、およびアプラマイシンを含む。アミノグリコシドの主な不利点の1つは、それらがかなり重篤な副作用を誘導しうることである。本発明は、抗生物質単独で投与する場合より低用量で抗生物質を投与することができる、そのような抗生物質を用いる治療方法を提供する。
【0095】
いくつかの態様において、P.エルギノーサ感染を治療する方法は、抗生物質、例えば、セフタジジム、セフェピム、セフピロム、セフロキシム、セフトリアキソン、セフォタキシムなどのセファロスポリン;またはシプロフロキサシンなどのフルオロキノロン、もしくはレボフロキサシンなどのキノロン;またはペニシリン、ピペラシリンもしくはチカルシリン、アズロシリンなどのウレイドペニシリン;またはメロペネム、イミペネムなどのカルバペネム;またはポリミキシンBおよびコリスチン)などのポリミキシン、ならびにアズトレオナムなどのモノバクタムなどと組み合わせて、抗PcrV抗体を投与する段階を含む。当技術分野において理解されている通り、ピペラシリンなどのウレイドペニシリン抗生物質は典型的には、タゾバクタムなどのペニシリナーゼ阻害剤を含む形態で投与される。用いられうる他の抗生物質は、スルホンアミド、テトラサイクリン、グリシルサイクリン、例えばチゲサイクリン、およびマクロライドを含む。いくつかの態様において、TTSSを誘導する抗生物質、例えばテトラサイクリンが用いられる(Linares et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 103:19484- 19489;2006)。
【0096】
抗PcrV抗体
本発明は、P.エルギノーサ由来のPcrV抗原に対して高親和性で結合し、かつ典型的にはIII型分泌装置の機能的アンタゴニストである抗体と組み合わせて、抗生物質を用いる、P.エルギノーサ感染の治療の方法に関する。本節は、抗体の例、例えば本発明の治療計画で使用されうるヒューマニア化(humaneered)抗体を提供する。
【0097】
本発明における使用のための抗体は典型的には、ヒト生殖系列のVH配列およびVL配列に対して高度な相同性を有する可変領域を含む。重鎖および軽鎖のCDR3配列は、抗PcrVモノクローナル抗体Mab166(Frank et al., J. Infectious Dis. 186: 64-73、2002; および米国特許第6,827,935号)由来の1組の結合特異性決定基(BSD)を含み、かつ本発明の抗体は、PcrVタンパク質上の中和エピトープに対する結合についてMab166と競合する(例えば、米国特許第6,827,935号参照)。
【0098】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、アミノ酸配列
を有する、CDRH3内の最小必須結合特異性決定基を有する。いくつかの態様において、そのような抗体は、XがI、S、またはQである重鎖CDR3配列
を有する。
【0099】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、アミノ酸FWXTP(ここでXはSまたはGのいずれかであってもよい)を有する、CDRL3内の最小必須結合特異性決定基を有する。BSDがCDR3の一部を形成し、付加配列を用いてCDR3を完成しかつFR4配列を付加する、完全なV領域が作製される。典型的には、CDR3のBSDを除く部分および完全なFR4は、ヒト生殖系列配列で構成される。好ましい態様において、BSDを除くCDR3-FR4配列は、ヒト生殖系列配列と各鎖において多くても2アミノ酸だけ異なる。
【0100】
ヒト生殖系列Vセグメントレパートリーは、51個の重鎖Vセグメント、40個のκ軽鎖Vセグメント、および31個のλ軽鎖Vセグメントからなり、合計3,621組の生殖系列V領域を産生する。加えて、これらのVセグメントの多くに安定な対立遺伝子変異体が存在するが、生殖系列レパートリーの構造的多様性へのこれらの変異体の寄与は限られている。全てのヒト生殖系列Vセグメント遺伝子の配列は、公知であり、the MRC Centre for Protein Engineering, Cambridge, United Kingdomにより提供されるV-ベースデータベース(ワールドワイドウェブ上、vbase.mrc-cpe.cam.ac.ukで)(Chothia et al., 1992, J MoI Biol 227:776-798; Tomlinson et al., 1995, EMBO J 14:4628-4638; Cook et al. (1995) Immunol. Today 16: 237-242; およびWilliams et al., 1996, J MoI Biol 264:220-232参照); またはthe international ImMunoGeneTics database(IMGT)中でアクセスされうる。これらの配列は、本発明の抗体のヒト生殖系列セグメントの参照源として用いられうる。
【0101】
本明細書において記載の抗体または抗体断片を、原核生物のまたは真核生物の微生物システム内で、または哺乳類の細胞などの高等真核生物の細胞内で発現させることができる。
【0102】
本発明において用いられる抗体は、任意の形式で存在することができる。例えば、いくつかの態様において、抗体は、定常領域、例えばヒト定常領域を含む完全抗体であることができるか、または完全抗体の断片または誘導体、例えばFab、Fab'、F(ab')2、scFv、Fv、またはナノボディもしくはラクダ類の抗体などの単一ドメイン抗体であることができる。
【0103】
II. 重鎖
抗生物質と組み合わせて用いるための抗PcrV抗体の重鎖は、以下の要素を含む重鎖V領域を含む。
(1) FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3を含むヒト重鎖Vセグメント配列、
(2) アミノ酸配列
を含むCDRH3領域、
(3) ヒト生殖系列J-遺伝子セグメントが寄与するFR4。
相補的なVL領域と共に上記のCDR3-FR4セグメントと組み合わせてPcrVへの結合を支持するVセグメント配列の例を図8に示す。Vセグメントは、ヒトのVH1サブクラスまたはVH3サブクラスに由来であることができる。いくつかの態様において、Vセグメントは、生殖系列セグメントVH3-30.3と高度のアミノ酸配列同一性を有するヒトVH3サブクラスセグメントである。例えば、Vセグメントは、多くても15残基だけ、かつ好ましくは多くても7残基だけVH3-30.3と異なる。
【0104】
本発明の抗体のFR4配列は、ヒトJセグメントにより提供される。1から6まで番号付けられた6つの重鎖JH領域が存在する。従って、FR4配列は、JH1、JH2、JH3、JH4、JH5またはJH6遺伝子セグメントにより提供されうる。典型的には、本発明の抗体のFR4領域は、FR4を提供するヒト生殖系列JセグメントのFR4領域に対して、少なくとも90%、多くの場合少なくとも91%、92%、93%、94%、95% 96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有する。
【0105】
いくつかの態様において、FR4配列は、ヒト生殖系列JH3セグメントにより提供され、配列
を有する。他の態様において、FR4は、ヒト生殖系列JH6セグメントにより提供され、配列
を有する。
【0106】
CDRH3はまた、ヒトJセグメントに由来する配列も含む。典型的には、BSDを除くCDRH3-FR4配列は、多くても2アミノ酸だけヒト生殖系列Jセグメントと異なる。典型的な態様において、CDRH3中のJセグメント配列は、FR4配列に用いられるJセグメントと同じJセグメントに由来する。従って、いくつかの態様において、CDRH3-FR4領域は、BSDおよび完全なヒトJH3生殖系列遺伝子セグメントを含む。CDRH3配列およびFR4配列の例示的な組み合わせを下記に示す、ここでBSDを太字で、ヒト生殖系列Jセグメント残基を下線で示す。
【0107】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、生殖系列セグメントVH3 30.3に対してもしくは生殖系列 VH1-18セグメントに対して、またはSEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35のVセグメント部分などの図8に示すVH領域のVセグメントの1つに対して、少なくとも90%の同一性、または少なくとも91%、92% 93%、94%、95%、965、97%、98%、99%、もしくは100%の同一性を有するVセグメントを含む。
【0108】
いくつかの態様において、VH領域のVセグメントは、図8に示すCDR1および/またはCDR2を有する。例えば、本発明の抗体は、配列
を有するCDR1; または配列
を有するCDR2を有してもよい。いくつかの態様において、VH領域のCDR2は、半ば辺り、例えばCDR2の8位または9位に位置する負に帯電したアミノ酸を有する。
【0109】
特定の態様において、抗体は、図8に示すVH領域Vセグメントの1つに由来するCDR1とCDR2との両方、および
例えば、
を含むCDR3を有する。従って、本発明の抗PcrV抗体は、例えば配列
を有するCDR3-FR4を有してもよい。他の態様において、抗体は、配列
を有するCDR3を含んでもよい。
【0110】
III. 軽鎖
本発明における使用のための抗PcrV抗体の軽鎖は、以下の要素を含む軽鎖V領域を含む。
(1) FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3を含むヒト軽鎖Vセグメント配列、
(2) 配列FWXTP(ここでXはSまたはGであってもよい)を含むCDRL3領域、
(3) ヒト生殖系列J遺伝子セグメントが寄与するFR4。
VL領域は、VλVセグメントまたはVκVセグメントのいずれかを含む。相補的なVH領域と組み合わせて結合を支持するVλ配列およびVκ配列の例を、図9に提供する。Vκセグメントはヒトの生殖系列JK2セグメントの上流にクローニングされ、Vλセグメントは生殖系列 JL2セグメントの上流にクローニングされる。
【0111】
CDRL3配列は、配列に由来するVセグメントおよびJセグメントを含む。典型的な態様において、CDRL3中のJセグメント配列は、FR4に用いられるJセグメントと同じJセグメント由来である。従って、多くても2アミノ酸だけヒトκ生殖系列のVセグメントおよびJセグメント配列と異なってもよい。いくつかの態様において、CDRL3-FR4領域は、BSDおよび完全なヒトJK2生殖系列遺伝子セグメントを含む。例示的なκ鎖のCDRL3-FR4の組み合わせを下記に示す、ここでBSDを太字で、JK2配列を下線で示す。
【0112】
λ鎖の好ましいCDR3-FR4を下記に示し、ここでBSDを太字で、JL2配列を下線で示す。
【0113】
本発明の抗体のFR4配列は、ヒトJセグメントにより提供される。1から5まで名称を付けられた5つのヒトJκ領域セグメント、および1、2、3 および7と名称を付けられた4つのJλ領域セグメントが存在する。従って、FR4配列は、任意のこれらの生殖系配列により提供されうる。典型的には、本発明の抗体のFR4領域は、FR4を提供するヒト生殖系列JセグメントのFR4領域に対して、少なくとも90%、多くの場合少なくとも91%、92%、93%、94%、95% 96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有する。
【0114】
Vκセグメントは典型的には、VKIサブクラスまたはVKIIIサブクラスのVκセグメントである。いくつかの態様において、セグメントは、ヒト生殖系列のVKIサブクラスまたはVKIIIサブクラスに対して少なくとも80%配列の同一性、例えば、ヒト生殖系列のVKI L12配列に対してまたはヒト生殖系列のVKIII L2配列もしくはVKIIIA11配列に対して少なくとも80%の同一性を有する。例えば、Vκセグメントは、VKI L12と多くても18残基だけ、またはVKIII A11もしくはVKIII L2と多くても12残基だけ異なってもよい。他の態様において、本発明の抗体のVL領域Vセグメントは、ヒト生殖系列VKI L12に対して、またはヒト生殖系列VkIII L2配列に対して、またはヒト生殖系列VKIII A11配列に対して、または図9に示すVL領域のκVセグメント配列、例えばSEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、もしくは37のVセグメント配列に対して、少なくとも85%の同一性、または少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%の同一性を有する。
【0115】
いくつかの態様において、VLのVセグメントはヒト生殖系列Vλセグメントに対応する。従って、いくつかの態様において、Vセグメントは、SEQ ID NO: 28、30、32、または34のVセグメント配列などの図9のVL領域のVλVセグメントに対して、少なくとも85%の同一性、または少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%の同一性を有する。
【0116】
いくつかの態様において、VL領域のVセグメントは、図9に示すCDR1および/またはCDR2を有する。例えば、本発明の抗体は、
のCDR1配列、またはCDR2配列
を有してもよい。他の態様において、抗体は、
のCDR1配列、またはCDR2配列
を有してもよい。
【0117】
特定の態様において、本発明の抗PcrV抗体は、図9に示されているVL領域のVセグメントの1つに示される、CDR1およびCDR2の組み合わせ、ならびにFWXTPを含むCDR3配列を有してもよく、ここでXがSまたはGであり、例えばCDR3は
であってもよい。いくつかの態様において、そのような抗PcrV抗体は、
であるFR4領域を含んでもよい。従って、本発明の抗PcrV抗体は、例えば図9に示すVL領域の1つに由来するCDR1とCDR2との両方、および
であるCDR3-FR4領域を含みうる。
【0118】
IV. PcrV抗体の調製
本発明の抗PcrV抗体は、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、または35の任意のVH領域を、SEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36または37の任意のVL領域と組み合わせて含んでもよい。
【0119】
抗体は、III型分泌システムに拮抗する活性を抗体が保持することを確認するために試験されてもよい。アンタゴニスト活性は、細胞毒性試験を含む多くのエンドポイントを用いて測定されうる。例示的なアッセイ法は、例えば米国特許第6,827,935号に記載される。P. エルギノーサ感染を治療するために投与される抗体は、Mab166のIII型分泌経路アンタゴニスト活性の少なくとも75%、好ましくは80%、90%、95%、または100%を好ましくは保持する (米国特許第6,827,935号)。
【0120】
高親和性抗体は、結合活性および親和性を測定するための周知のアッセイ法を用いて同定されてもよい。そのような技術は、ELISA法、ならびに表面プラズモン共鳴またはインターフェロメトリーを用いる結合測定を含む。例えば、親和性は、ForteBio(Mountain View, CA)Octetバイオセンサーも用いるバイオレイヤー(biolayer)インターフェロメトリーにより測定されうる。
【0121】
典型的には本発明の抗体は、Mab166とPcrVへの結合について競合する。Mab166が結合するPcrVの領域は、同定されている(米国特許第6,827,935号)。Mab166に結合するPcrVまたはその断片は、競合的結合アッセイ法で使用されうる。本明細書において記載されるPcrVへの結合について抗体がMab166を阻止するかまたはMab166と競合する能力は、抗体がMab166と同じエピトープに結合するか、またはMab166が結合するエピトープに近接するエピトープ、例えば重複するエピトープに結合することを意味する。他の態様において、本明細書において記載される抗体、例えば表1に示すVH領域とVL領域との組み合わせを含む抗体は、別の抗体がPcrVへの結合において競合するかどうかを評価するための参照抗体として用いられうる。試験抗体の存在下で参照抗体の抗原への結合を、少なくとも30%まで、通常少なくとも約40%、50%、60%または75%まで、大抵は少なくとも約90%まで減少させた場合、試験抗体は、参照抗体の結合を競合的に阻害すると見なされる。ELISAならびにイムノブロットなどの他のアッセイ法を含む多くのアッセイ法が、結合を評価するために使用されうる。
【0122】
いくつかの態様において、抗PcrV抗体は、III型分泌配列を拮抗する必要はない。例えば、PcrVに結合する本発明の抗体は、免疫系の複数の細胞型をリクルートし(recruit)、マクロファージによる食作用、マクロファージまたはNK細胞による抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体カスケードの活性化、および/または好中球による酸化的バーストの発生を刺激し、その結果、細菌、すなわちP. エルギノーサの死を引き起こすことができる。さらに、全ての抗体可変領域は、活性化された好中球により与えられる一重項酸素の酸化還元反応を触媒することができ、オゾン、炎症反応をも刺激する強力な抗菌物質(例えば、Babior et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 100:3031-3034, 2003参照)を含む、細菌に直接的に有害である様々な極めて強力な酸化剤の発生をもたらすことができる(例えば、Wentworth et al., Proc. Natl Acad. Sci USA 97:10930-10935, 2000参照)。実際、補体活性化およびオゾン発生により誘導される炎症は、免疫系のさらなる要素をリクルートし、さらに免疫性を高める可能性を有する。そのような抗体は典型的には、50 nMまたはそれ未満、典型的には約10 nM未満の親和性を有する。
【0123】
抗生物質と組み合わせて用いられる非中和抗PcrV抗体および中和抗PcrV抗体は、強力な治療効果を提供する。
【0124】
ヒト生殖系列配列に近いV領域配列を有する抗体の単離のための方法は、以前に記載されている(米国特許出願第20050255552号および同第20060134098号)。抗体ライブラリーを、哺乳類の細胞、酵母細胞または原核細胞を含む、適した宿主細胞中で発現させてもよい。いくつかの細胞システムにおける発現について、シグナルペプチドは、細胞外培地への直接分泌のためにN末端に導入されうる。抗体は、シグナルペプチドの有無にかかわらず、大腸菌(E. coli)などの細菌細胞から分泌されてもよい。大腸菌から抗体断片をシグナル無しで分泌するための方法は、米国特許出願第20070020685号に記載されている。
【0125】
PcrV結合抗体を作製するために、本発明のVH領域の1つを本発明のVL領域の1つと組み合わせ、適切な発現システム内で多くの形式で発現させる。従って、抗体を、scFv、Fab、Fab'(免疫グロブリンヒンジ配列を含む)、F(ab')2(2個のFab'分子のヒンジ配列間のジスルフィド結合形成により形成される)、全免疫グロブリンもしくは切断型免疫グロブリンとして、または融合タンパク質として、原核宿主細胞または真核宿主細胞において宿主細胞内でまたは分泌により発現させてもよい。メチオニン残基は、例えばシグナル無しの発現システムで産生されるポリペプチドにおいて、N末端に任意で存在してもよい。本明細書において記載のVH領域はそれぞれ、各VL領域と対になり、抗PcrV抗体を生じることができる。例えば、VH3 1080-2Fは、2つの異なるλ軽鎖(1080-2Fおよび1080-11E)と対を形成するライブラリーから同定された。κ鎖1069-3Fは、VH3 1069-3FとおよびVH3 1100-3と対になり同定された。重鎖および軽鎖の例示的な組み合わせを表1に示す。
【0126】
(表1)例示的な抗体の重鎖および軽鎖の組み合わせ
【0127】
多くの態様において、本発明の抗体は、P. エルギノーサ III型分泌システムに拮抗し、典型的にはPcrVへの高親和性結合を示す。抗体と抗原との間の高親和性結合は、抗体の親和性が500もしくは100 nM未満、例えば50 nM未満、または25 nM未満、または10 nM未満、または1 nM未満、例えば約100 pM未満である場合に存在する。本発明の抗体は、例えばELISA、表面プラズモン共鳴アッセイ法またはインターフェロメトリーを用いてFabとしてアッセイする場合、典型的には50 nMまたはそれ未満、多くの場合10 nMまたはそれ未満の親和性を有する。表1はそのような抗体の例を提供する。
【0128】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、細胞毒性試験においてMab166より強力である。
【0129】
抗体は、原核生物発現システムと真核生物発現システムとの両方を含む、多くの発現システムを用いて産生されてもよい。多くのそのようなシステムは、商業的供給者から広く入手可能である。抗体がVH領域とVL領域との両方を含む態様において、VH領域およびVL領域を、単一のベクターを用いて、例えばジシストロニックな発現ユニット内でまたは異なるプロモーターの制御下で、発現させてもよい。他の態様において、VH領域およびVL領域は、異なるベクターを用いて発現させてもよい。本発明の抗体は、N末端のメチオニンの有無にかかわらず発現させてもよい。従って、本明細書において記載のVH領域またはVL領域は任意で、N末端にメチオニンを含んでもよい。
【0130】
本発明の抗体は、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、またはdABを含む、多くの形式で産生されてもよい。本発明の抗体はまた、ヒト定常領域を含むことができる。軽鎖の定常領域は、ヒトのκ定常領域またはλ定常領域であってもよい。重鎖定常領域は、多くの場合γ鎖定常領域、例えばγ-1、γ-2、γ-3、またはγ-4定常領域である。他の態様において、抗体はIgAであってもよい。
【0131】
いくつかの態様において、抗体は、ヒトに投与される場合、「非免疫原性」である。本明細書で用いられる「非免疫原性」という用語は、ヒトに投与される場合、抗PcrV抗体に対して抗体産生を誘発しない本発明のPcrV抗体を指す。抗体は、公知のアッセイ法、例えば実施例5に記載の電気化学発光イムノアッセイ法を用いて免疫原性について評価されうる。そのようなアッセイ法は、患者に投与された抗PcrV抗体と反応し、患者、例えば患者由来の血清試料中に存在する抗体のレベルを検出する。アッセイ法は、例えば抗体を投与されていない個体由来の対照試料と比較して、抗PcrV抗体に対する検出可能な抗体が試料中に存在しない場合、抗体が非免疫原性であることを示すと考えられる。
【0132】
V. 抗体のペグ化
いくつかの態様において、例えば抗体が断片である場合、抗体は、別の分子、例えばポリエチレングリコール(ペグ化)または血清アルブミンに結合され、インビボにおける半減期を延長することができる。抗体断片のペグ化の例は、Knight et al. Platelets 15:409, 2004 (abciximabについて); Pedley et al., Br. J. Cancer 70:1126, 1994 (抗CEA抗体について); Chapman et al., Nature Biotech. 17:780, 1999; およびHumphreys, et al., Protein Eng. Des. 20: 227,2007)で提供される。
【0133】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、Fab'断片の形態である。全長軽鎖は、VL領域のヒトκ定常領域またはヒトλ定常領域への融合により産生される。いずれの定常領域も任意の軽鎖に対して用いることができるが、典型的な態様において、κ定常領域がVκ可変領域と組み合わせて用いられ、かつλ定常領域がVλ可変領域と共に用いられる。
【0134】
Fab'の重鎖は、ヒト重鎖定常領域配列、第1定常(CH1)ドメインおよびヒンジ領域に対する、本発明のVH領域の融合により産生されるFd断片である。重鎖定常領域配列は、任意の免疫グロブリンクラス由来でありうるが、IgG由来である場合が多く、かつIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来であることができる。本発明のFab'抗体はまた、ハイブリッド配列であってもよく、例えばヒンジ配列が1つの免疫グロブリンサブクラス由来で、CH1ドメインが異なるサブクラス由来であってもよい。好ましい態様において、CH1ドメインおよびヒンジ配列を含む重鎖定常領域は、ヒトIgG1由来である。
【0135】
Fab'分子は、公知の方法を用いてペグ化されうる。重鎖のヒンジ領域は、ポリエチレングリコール誘導体への結合に適したシステイン残基を含む。ヒンジ配列は、免疫グロブリン重鎖の完全な天然のヒンジ領域であってもよいか、または1つまたは複数のアミノ酸により切断されてもよい。いくつかの態様において、ヒンジ領域は、改変された配列または合成の配列であってもよい。さらなる態様において、ヒンジは、天然の免疫グロブリンヒンジ配列であり、2個のシステイン残基を含む。
【0136】
いくつかの態様において、Fab'分子は、部位特異的結合によりメトキシポリエチレングリコールのマレイミド誘導体(mPEG-mal)に結合されうる。mPEG-malは、例えば10から40 kDの間の平均分子量を有しうる。PEGは、分岐PEGまたは直鎖PEGであってもよい。いくつかの態様において、mPEG-malは、直鎖分子であり、約30 kDの分子量を有する。1つまたは複数のmPEG-malの分子は、各Fab'分子に結合する。mPEG分子は、チオエーテル結合を介してmPEG-malのマレイミド部分とFab'重鎖のヒンジ領域内の1つまたは複数のシステイン残基との間で結合し、ペグ化Fab'分子を形成する。mPEG-malは、タンパク質上のチオール基へのマレイミド誘導体の結合について当技術分野において公知の方法を用いるチオエーテル形成に適切なバッファー中かつ適切な条件下で結合されうる。
【0137】
Fab'は、ヒンジシステイン基が酸化型である形態で発現システムから産生されてもよい。この場合、Fab'は結合の前に還元工程に供される場合がある。遊離のヒンジチオールの産生に適した還元剤およびヒンジシステインの選択的還元のための方法は、当技術分野において公知であり、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、β-メルカプトエチルアミン(MEA)およびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンなどの非チオール還元剤の使用を含む。いくつかの態様において、還元は、ヒンジシステインが選択的に還元され、ペグ化がヒンジで優先的に起こるような条件下で行われる。典型的には、ペグ化されたFab'は、ヒンジ内の両システイン残基のペグ化のため、2分子のmPEGを含む。いくつかの態様において、ヒンジ領域内に変異を導入し、システイン残基の1つを別のアミノ酸に置換してもよい。mPEG-malを用いたそのような変異の誘導体化は、モノペグ化Fab'の産生をもたらす。
【0138】
例えばPEGがヒンジで導入されない、ペグ化の他の方法もまた、公知である。例えば、上記Humphreys et al.は、Fabの重鎖と軽鎖の間の鎖間のジスルフィド結合の破壊によるヒンジ領域外のシステイン残基のペグ化のための方法を記載する。
【0139】
ペグ化Fab'を精製するための方法は、当技術分野において公知である。そのような方法は、例えばサイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーを含む。
【実施例】
【0140】
実施例1. 抗生物質、抗PcrV抗体の組み合わせ療法のインビボにおける効果
材料と方法:
抗生物質およびMab166の調製
4種類の抗シュードモナス抗生物質を本実施例で用いた:シプロフロキサシン(Bayer HealthCare, NJ)、セフタジジム(GSK, UK)、トブラマイシン(Abraxis, IL)およびピペラシリン(Wyeth, PA)。抗生物質溶液を、使用直前に作った。抗PcrV抗体Mab166を、滅菌PBSで3 mg ml-1の作業濃度に希釈した。
【0141】
マウスにおける細菌の投与と肺損傷の測定
アベルチン(250 mg kg-1;ip)による麻酔の後、50μlの量の細菌の作業保存液(1.5×106CFU)を、27Gの強制栄養針(gavages needle)を用いて気管を通って左肺内に点滴注入し、マウスに接種した。マウスを、ケージに戻す15分間前に覚醒させた。マウスは、接種後30分、活動的でありかつ正常に見えた。直腸温度を、細菌の点滴注入後の最初の12時間については1時間毎に記録し、その後7日間毎日測定した。各マウスの生存時間を記録した。
【0142】
肺損傷(トブラマイシン処置群における)を調べるために、細菌の点滴注入の8時間および24時間後に各群3匹のマウスを安楽死させた。開胸後に、血液試料を、右心室穿刺を用いてクエン酸ナトリウムチューブ中に無菌的に収集した。肺損傷の測定のために、肺を取り除き、重さをはかり、ホモジナイズした。過剰な肺水分(ELW)および乾湿重量比を、以前に記載の通りに計算した(Hijazi, et al. Sem. in Resp. and Crit. Care Med. 21:245-262, 2000)。
【0143】
抗生物質およびPcrV抗体の投与
Mab166(総量100μl中にマウス1匹あたり300 μg)を、P.エルギノーサ点滴注入の1時間前に、尾静脈を通じて投与した。このMab166の準最適(sub-optimal)濃度は、マウス1匹あたり400 μgを用いた以前の研究が完全な防御(100%生存)を示していたことから、選択された。全ての抗生物質を、P.エルギノーサ点滴注入の1時間後に、腹腔内に投与した。各抗生物質4種類の用量をマウスで試験し、3×致死量の細菌である1.5×106 PA103 CFUに感染したマウスにおいて、準最適生存率(40〜60%)をもたらすために必要とされる用量を測定した。抗生物質投与の用量およびタイミングは以下の通りであった:本試験期間中にシプロフロキサシン(100 mg kg-1; Q8H),トブラマイシン (3.3 mg kg-1; Q8H)およびセフタジジム(1000 mg kg-1; Q8H)。
【0144】
細菌の計数
肺を胸腔から無菌的に取り除き、1 mlの滅菌PBS中に置き、かつホモジナイズした。脾臓を無菌的に取り除き、1 mlのPBSでホモジナイズし、かつ血液を右心室穿刺から抜き取った。全ての試料を、滅菌PBSで連続的に希釈し、37℃で一晩インキュベーションする前にP.エルギノーサ単離寒天上に蒔いた。30個から300個の間の細胞数を有するプレートを計数し、3回の計数の平均CFU ml-1を各試料に対し計算した。
【0145】
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)アッセイ法
細菌の計数のために収集した500 μlの血液を10,000 rpmで10分間4℃で遠心分離し、血漿を得た。マウスミエロペルオキシダーゼELISAキット(Cell Science, MA)を用いて、マウス血漿試料のMPO活性を製造者の使用説明書に従って測定した。
【0146】
Mab166力価
上記で得た血漿を用いて、抗原結合ELISAを用いてMab166の力価を測定した。
【0147】
PA103抗生物質感受性
Dade Behring MicroScan Neg Comboプレートを用いて、製造者の使用説明書に従う通常の抗生物質感受性試験により、PA103の抗生物質感受性を測定した。
【0148】
統計
Kaplan-Meierプロットを生存解析に対して作成し、ANOVAを用いて、特定の時点での種々の処置群における肺損傷スコア、細菌CFU活性およびMPO活性を比較した。P≦0.05を有意と見なす。
【0149】
結果
Mab166/抗生物質の組み合わせ療法はマウスの生存を改善する。
尾静脈内に投与した400 μg のMab166は、PBSを注射した対照と比較して、1.5×106CFUのP.エルギノーサPA103に感染したマウスの100%生存をもたらした(データは示さず)。本試験では、抗生物質投与との組み合わせたMab166の投与がマウス生存を改善するかどうか判定するために、準最適の防御が必要であった。従って、P.エルギノーサ点滴注入の1時間前にマウスの尾静脈を通じて注射される、PBS単独および3つの濃度のMab166(100、200および300 μg)を用いて、用量依存的生存曲線を実施した。マウス生存は、Mab166の濃度が増加するにつれて高まり(表2)、300 μg Mab166はおよそ36時間(±5.5 h)の平均生存時間をもたらした。この濃度によって、処置群と対照群との間で決定されるべき生存における明確な差異を可能にしたため、その後全ての試験でこの濃度を選択した。
【0150】
(表2)Mab166用量依存的な急性感染生存時間
aSEM、平均の標準誤差
【0151】
長期的な実験計画を立て、抗シュードモナス抗生物質と組み合わせたMab166の投与がマウス気道感染の急性モデルでマウス生存を改善するかどうかを判定した。各抗生物質を調べるために、動物を4群、対照群(処置無し)および3つの処置群(Mab166単独、抗生物質単独、Mab166と抗生物質との組み合わせ)に分けた。4種類の抗生物質、セフタジジム、シプロフロキサシン、トブラマイシン、およびピペラシリン/タゾバクタムの組み合わせについて、本実験計画を用いて試験した。急性感染株P.エルギノーサPA103を本試験のために用いた。この株の通常の抗生物質耐性試験、およびClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)ガイドラインを用いた結果の解釈は、この試験で用いられるセフタジジム、シプロフロキサシン、およびトブラマイシンの抗生物質に対して感受性であることを示した。株は、ピペラシリンに対して多少の抵抗性を有していた。
【0152】
全ての群でマウスは、P.エルギノーサ点滴注入後に体温の急速な(4時間以内)低下を示した。対照群のマウスの体温は死に至るまで連続的に下がったが、Mab166単独処置群の動物は、死ぬ数時間前に低いながらも体温の維持を示した(図1A)。抗生物質単独処置群またはMab166/抗生物質の組み合わせ処置群のマウスの体温は、最初の低下の後に正常体温近くまで回復した。興味深いことに、Mab166/抗生物質処置群のマウスは、抗生物質単独処置群が示した体温と比べて、より正常に近い、わずかに高い体温を一貫して示した(図1A)。
【0153】
生存曲線は、各実験の対照マウスが常に感染後およそ14時間で死ぬことを示した(図1B、表2)。Mab166単独投与は、未処置の対照群の動物と比べて、マウス生存時間を実質的に延長した(図1B、表2)。抗生物質処置群のマウスは、対照群とMab166処置群との両群と比べて、さらなる生存の高まりを示した(図1B)。生存の改善は、抗生物質依存性であり;シプロフロキサシン、トブラマイシンおよびセフタジジムで処置したマウスは、7日間を通してそれぞれ80%、60%および40%の生存率を示した。この違いは、マウスモデルにおけるこれら様々な分類の抗菌剤それぞれに対する薬物動態および薬力学的反応の相違による可能性がある。しかしながら、Mab166と抗生物質(シプロフロキサシン、トブラマイシンまたはセフタジジム)との組み合わせによって処置された動物は常に、7日間を通して抗生物質処置マウスと比べて優れた生存率を示した(図1B)。組み合わせで処置したマウスは、Mab166/シプロフロキサシンの組み合わせおよびMab166/トブラマイシンの組み合わせで100%の生存率を示す一方で、Mab166/セフタジジムの組み合わせは、この期間を通して80%の生存率であった。全体的には、組み合わせ療法は、対照マウスおよびMab166単独で処置されたマウスと比べて、生存率を最大で100%まで増加させた。次に最も効果的な処置群、抗生物質で処置したマウスと比較して、組み合わせ処置は、7日の観察期間を通して最大で40%まで生存を改善した。
【0154】
Mab166/抗生物質の組み合わせ療法は肺損傷を減少させる。
Mab166/トブラマイシンの組み合わせ処置は、試験した他の処置群と比べて、マウス生存を明らかに増加させた。この生存の改善の原因を判定するために、本発明者らは最初に、以下の各処置群における肺損傷の程度を調べた: 未処置の対照、Mab166、トブラマイシンまたはMab166/トブラマイシン。各群3匹のマウスを、感染後8時間(未処置の対照マウスの死の直前)および24時間(Mab166処置マウスの死の直前)で安楽死させた。トブラマイシン群およびMab166/トブラマイシンの組み合わせ群で生き残ったマウスを、感染後144時間で安楽死させた。
【0155】
乾湿重量比および過剰な肺水分を、各時点で各群のマウスに対して測定した。感染後8時間で、未処置の対照群は、Mab166、トブラマイシンまたはMab166/トブラマイシンで処置したマウスと比べて、より大きな乾湿重量比および過剰な肺水分を示す、最大の肺損傷を示した(図2Aおよび2B)。この時点で、Mab166/トブラマイシン処置群は、対照群、Mab166のみの処置群またはトブラマイシンのみの処置群と比べて、有意に低い肺損傷を示した(図2Aおよび2B)。感染後24時間で、同様の傾向が観察され;組み合わせ療法処置マウスは、Mab166のみの処置群またはトブラマイシンのみの処置群と比べて、肺損傷の有意な低減を示した(図2Aおよび2B)。感染後144時間までには、トブラマイシン処置群およびMab166/トブラマイシン処置群のマウスのみが、解析に使用可能であった。この時点では、これら2つの処置群の間で乾湿比および過剰な肺水分の測定に有意な差は検出されなかった(図2Aおよび2B)。
【0156】
Mab166/トブラマイシンの組み合わせ療法は感染動物の肺内の好中球を保護する。
組み合わせ療法が感染マウスのより良好な生存をもたらすメカニズムを調査するために、BAL(気管支肺胞洗浄、H&E染色によるサイトスピン)液中の好中球の数を感染後8時間のマウスで解析した。Mab166またはトブラマイシン単独処置動物と比べて、Mab166/トブラマイシンの組み合わせ処置動物は、BAL液中の有意に高い(P < 0.05からP < 0.01)数の無傷の好中球(図3)と、より良好な生存とを示した。理論にとらわれないが、これらの結果は、抗体によるTTSS阻害が肺内で好中球の保護をもたらすという仮説と一致する。これらの動物の肺は感染後8時間で最高レベルの免疫細胞(好中球)を有するため、組み合わせ処置がマウスの生存を改善させるという事実は驚くべきものである。高レベルの細胞は、肺に炎症性傷害をもたらし、その結果生存を低減させる可能性がある。結果は、抗生物質と抗体との組み合わせ療法が感染に対する制御された応答を可能にし、そのため単一療法より優れているということが示唆され、特にここでP.エルギノーサは、抗生物質に対して耐性を有するかまたは部分的に耐性を有する。
【0157】
Mab166/トブラマイシンの組み合わせ処置は肺内の細菌数を低減しかつ血液内への細菌の播種を予防する。
組み合わせ療法を投与したマウスの生存の改善の原因をさらに調べるために、対照群、Mab166処置群、トブラマイシン処置群、およびMab166/トブラマイシン処置群のマウス由来の気道試料、血液試料および脾臓試料を平行して収集した。これらの試料を、材料と方法に記載した通りに細菌CFUについて解析した。これらのマウスの肺内で検出された総CFUは、対照マウスと比較して、感染後8時間および24時間の両方でMab166/トブラマイシンの組み合わせ処置試料およびトブラマイシン処置試料の総CFUについて有意に低かった(図4A)。準最適濃度のMab166の投与は、マウスの肺内の細菌数を減少させず、実際にはこの群のマウスCFUの数を8時間から24時間まで有意に(p<0.03)増加させた。しかしながら、肺損傷は、この期間にこのマウス群で増大せず(図2)、細菌数は増加するが、これらのマウスの気道には細菌存在による気道損傷を予防するのに十分な力価のMab166が存在したということが示唆された。
【0158】
脾臓で検出された細菌CFUは、感染後8時間で4群のマウス全体を通して比較的類似していた(1桁未満の数の相違)。しかしながら、感染後24時間までには、脾臓における細菌細胞数は、Mab166のみの処置群(P=0.02)およびトブラマイシン処置群(P=0.038; 図4B)で有意に増加していた。Mab166/トブラマイシン処置群のみが、脾臓で安定的に低い細菌CFUの数値を示し、時間と共に増加しなかった(図4B)。Mab166処置群およびトブラマイシン処置群で脾臓に細菌が広がっていたという観察は、(それぞれの8時間CFUと比べて)感染後24時間のこれら処置群両方のマウスの血液中でP.エルギノーサCFUの有意な(それぞれP=0.01, P=0.0046)増加が検出されたことにより、裏付けられた。Mab166/トブラマイシン処置群は、感染後8時間および24時間の両方で血液中に細菌コロニーの形跡を何ら示さず、細菌の播種がこの処置群の動物では起こらなかったことが示唆された。Mab166/トブラマイシン処置マウスの血液中のMab166力価のその後の解析は、1 ml当たり最大4 μgの抗体濃度が投与7日後に存在していたことを示した。この力価は、Mab166の単回注射(300 μg ml-1)により達成された。
【0159】
Mab166/トブラマイシンの組み合わせ療法は血液中の好中球リクルートメント(recruitment)を低減させる。
組み合わせ療法が血液中のより低い細菌数をもたらし、その結果好中球の乏しいリクルートメントおよび活性をもたらすことを確認するために、本発明者らは、細菌のCFU計数で用いた同じマウスから感染後8時間および24時間で収集した血漿に対して、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)アッセイ法を行った(図5)。他の群と比較して、Mab166/トブラマイシンの組み合わせ処置動物は、8時間および24時間の両方で有意に低い(P=0.04および0.05)MPO活性示し、細菌数がこの組み合わせ処置を受けた動物の血液中ではより低かったという観察を確認した。
【0160】
マウスにおけるP.エルギノーサ気道感染に対するピペラシリンとPcrV抗体との組み合わせ療法。
抗PcrV抗体を、P.エルギノーサ点滴注入1時間前に静脈内に注射した。次いで、気管内への1.5×106 CFUのPA103の点滴注入前に、マウスにアベルチン(250 mg/kg)で麻酔した。P.エルギノーサ点滴注入の1時間後に腹腔内へのピペラシリン(1000 mg/kg, Q8H)注射が始まり、マウスが息が絶えるまで繰り返した。ピペラシリンは、投与の標準的な実施である、タゾバクタム(ペニシリナーゼ阻害剤)と組み合わせて投与された。本実施例において、「ピペラシリン」は、タゾバクタムと組み合わせたピペラシリンを指す。抗PcrV抗体Mab166抗体を、P.エルギノーサ点滴注入の1時間前に300 μgの量で静脈内に投与した。4群の動物(1群あたり5動物)を解析した: 処置を受けなかった対照動物; PcrV抗体だけで処置した動物; ピペラシリンだけで処置した動物; およびPcrV抗体にピペラシリンを加えた組み合わせで処置された動物。
【0161】
体温は4つ全ての処置群で急激に下落したが、Mab166群およびMab166とピペラシリン群は、動物死亡の前に体温の緩やかな回復を示した(図6)。
【0162】
生存曲線(図7)は、各実験で対照マウスが、感染後およそ14時間で一定して死んだことを示した。ピペラシリン処置は、動物生存をわずかに増加させた。Mab166投与は、未処置対照群またはピペラシリン処置群の動物と比べて、マウス生存時間を実質的に延長した。また一方、Mab166およびピペラシリン処置群のマウスは、最大の生存を示した。
【0163】
要約
P.エルギノーサ感染の治療に対する抗生物質とPcrV抗体との組み合わせの効果を調べるために、本発明者らは、P.エルギノーサPA103の、90%の動物を殺すのに必要な致死量の3倍である、1.5×106CFUの圧倒的多数の接種源を用いる、急性感染のマウスモデルを使用した。加えて、本発明者らは、準最適濃度のMab166を用いて、抗菌剤との組み合わせの投与がマウス生存を改善するかどうかを判定した。
【0164】
対照群および3つの治療群:抗生物質、Mab166、またはMab166と抗生物質との組み合わせに、動物を分けた。対照マウスは典型的には、接種後およそ14時間で死んだ。準最適Mab166療法で処置した動物は、およそ36時間まで生存の増加を示したが、これは、抗生物質処置マウスまたはMab166と抗生物質との処置マウスと比べて、実質的に低い生存を意味する。一貫して、Mab166と抗生物質(分類にかかわらず)との組み合わせは、最高の生存を生じ; いくつかの場合、試験群の全てのマウスが感染後168時間(7日)生存した。組み合わせ療法は、抗生物質処置単独と比べ、最大で40%まで動物の生存を改善し、動物生存を促進する抗生物質と抗体との間の相乗効果を示す。
【0165】
組み合わせ療法群で生存が高まった原因を判定するために、本発明者らは、様々な動物群において肺損傷のいくつかの局面を比較した。肺損傷の指標として乾湿重量および過剰な肺水分の測定を用いて、組み合わせ処置群が、他の処置群と比較して、感染後最初の24時間を通じて有意に少ない肺損傷を示した。感染後144時間までには、抗生物質処置群と組み合わせ処置群との両方に存在する肺損傷は、有意に異なっておらず、この局面はこれら2群間で観察された生存の相違の原因となる重要な差ではないことが示唆された。
【0166】
急性P.エルギノーサ感染を有する患者は一様に、気道からの感染の播種のために、多臓器不全で死亡する。ExoU+ P.エルギノーサ株は、より一般的に急性侵襲性感染に関連し、かつより頻繁に血液から単離される。気道からのPA103(ExoU分泌)の広がりが、対照群と処置群の生存の相違に役割を果たすかどうかを判定するために、肺中、血液中および脾臓中の細菌を計数した。対照群およびMab166のみの処置群では、細菌数は、比較的同等であり、抗生物質のみの処置動物または組み合わせ処置動物で検出された細菌数より感染8時間後で有意に高かった。多数の細菌細胞が存在するにもかかわらず、Mab166処置群は、感染8時間後で有意に少ない肺損傷を示し、上皮損傷に対する抗体による保護および菌血症の予防が、感染初期での対照群とMab166処置群との間の動物生存の主要な相違であったことが示唆された。本試験でこれらの動物に投与されるMab166の用量は、準最適用量であり、おそらく、飽和効果と増殖集団中の全P.エルギノーサ細胞の細胞障害効果を抗体が中和できないということとをもたらす(肺内の細菌CFUおよび肺損傷が、感染24時間後のこの処置群で有意に増大していた)。血液中および脾臓中の細菌数もまた、感染24時間後のMab166処置群で劇的に増加した。全体として、これらの観察は、準最適濃度のMab166は、感染の初期に肺損傷を減少させる一方で、ExoU分泌株による圧倒的な感染の場合には、長期的な気道上皮傷害および感染の他の臓器への播種を予防するには不十分であることが示唆された。
【0167】
トブラマイシン処置群について、組み合わせ処置群と比べて、感染の初期に大きな肺損傷をこの群で観察した。さらに、細菌細胞は、この処置群の動物の気道では安定していたが、感染後最初の24時間を通して血液および脾臓では有意に増加した。このような場合には、抗生物質は、感染時に局所的に細菌増殖を減ずることができるが、細菌細胞の別々の臓器および血液への播種を妨げるのには十分ではない。対照的に、Mab166と抗生物質との組み合わせ処置動物は常に、最小の肺損傷、安定的な気道の細菌数を示し、血液中または脾臓中にCFUの形跡は示さなかった。MPO測定は、細菌数が組み合わせ両方を受けた動物の血液中で最低であったという主張を裏付ける。従って、急性侵襲性感染の予防は、組み合わせ処置動物における動物生存の改善に貢献する極めて重要な差であると考えられる。
【0168】
ピペラシリンを用いた結果は、高用量のピペラシリンが生存を極わずかに増加させるが、Mab166処置は生存期間を有意に増加させるということを示す。組み合わせ療法(Mab166およびピペラシリン)は、マウス生存時間を有意に増加させた。通常の抗生物質耐性試験は、PA103はピペラシリンに感受性であることを示したが、マウスの死亡から評価される通り、この株のインビボにおける耐性はより大きいと考えられる。このことは、マウスモデル中でこの抗生物質の薬物動態または薬力学的反応が変化しているためであると推定される。しかしながら、他のより強力な抗生物質による実験と同じように、Mab166とピペラシリンとの組み合わせ投与の保護効果は、これら療法の各々を別々に投与した場合と比べて、高い優位性を示した。
【0169】
P.エルギノーサは、重大な臨床的問題である。この種による血流の感染は、特に問題であり、18%〜62%の範囲にわたる死亡率を有する(Vidal et al., Arch. of Int. Med. 156:2121-2126, 1996)。これらの実施例に記載の試験は、Mab166と抗生物質との組み合わせ療法が強力なExoU分泌P.エルギノーサ株による重篤な急性感染のマウスモデルで結果の改善をもたらすことを示す。これらの結果は、本発明の治療方法の相乗効果が、急性気道感染を有する患者の結果を改善しかつ感染の播種を予防すると考えられることを示す。
【0170】
実施例2. 本発明における使用のための遺伝子操作されたヒト抗PcrV Fab分子の同定
エピトープに焦点をおいた遺伝子操作されたヒト抗体Fabライブラリーを、米国特許出願第20050255552号に記載されている通りに作製した。ヒト免疫グロブリン配列のレパートリーに由来するVセグメント配列を、重鎖および軽鎖のそれぞれについて選択したCDR3-FR4配列の上流にクローニングした。
【0171】
重鎖レパートリーに関して、CDRH3は、以前に同定された抗PcrVモノクローナル抗体(Mab166; Frank et al 2002 J. Infectious Dis. 186: 64-73)に由来する、結合特異性決定基を構成するDセグメント由来配列(NRGDIYYDFTY)を含む。重鎖レパートリーの完全なCDRH3-FR4配列の配列を下記に示す。
VH1ライブラリー1015に関して、用いられるCDR3-FR4の組み合わせは、
であった。VH3ライブラリーに関して、用いられるCDR3-FR4の組み合わせは、CDRH3中のアミノ酸が1つだけ異なっていた。
【0172】
軽鎖レパートリーに関して、FR1-CDRL1-FR2-CDRL2-FR3を含むヒトVκ配列またはヒトVλ配列を選択されたCDRL3-FR4配列の上流に挿入した。CDRL3は、配列
(ここでXはSまたはGであることができる)を有するMab166軽鎖由来の結合特異性決定基を含む。Vκライブラリーに関して、CDRL3およびFR4のC末端残基は、ヒト生殖系列JK2配列
(CDRL3内のJK2残基に下線を引く)によってもたらされた。Vλライブラリーに関して、FR4領域は、JL2生殖系列配列
によってもたらされた。JL2生殖系列配列は、JL3配列と同一である。
【0173】
いくつかの場合、カセットライブラリーを米国特許出願第20060134098号に記載されている通りに構築した(ライブラリー1070)。ライブラリー1080に関して、全長λ鎖を、VHカセットライブラリーと組み合わせてスクリーニングした。
【0174】
重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドを成熟したタンパク質として、すなわちシグナルペプチド無しで発現させ、米国特許出願第20070020685号に記載されている通りに、変異SecY遺伝子を発現させた大腸菌細胞中に分泌させた。従って、N末端メチオニンを伴うペプチドを発現させた。組換えFabのPcrVへの結合を、米国特許出願第20050255552号に記載されている通りにGST-PcrV融合タンパク質でコーティングしたニトロセルロースフィルターを用いるフィルター結合アッセイ法により同定した。結合活性をGST-PcrVでコーティングしたプレートを用いた抗原ELISAにより確認し、親和性をForteBio Octetバイオセンサーを用いたバイオレイヤーインターフェロメトリーにより測定した。
【0175】
例示的な高親和性抗PcrV抗体のV領域の配列を図8および図9に示す。
【0176】
Fabはそれぞれ、PcrVに対して高い親和性を有する。複数のFabが、ForteBio(Mountain View、CA)Octetバイオセンサーを用いるバイオレイヤーインターフェロメトリーにより測定されたMab166 Fabと少なくとも同程度の親和性(約1.4 nM)によって、同定された。
【0177】
記載された通りに同定されたVH領域およびVL領域は、種々の組み合わせで用いられうる。例えば、Vk軽鎖 SEQ ID NO: 12は、SEQ ID NO: 11を含むVHまたはSEQ ID NO: 3を含むVHのいずれかと組み合わせて、PcrVへの高親和性結合を支持する。
【0178】
1070-9E抗体は、米国特許出願公開第20060134098号に記載の方法を用いるV領域カセット交換により得られる高親和性抗体の一例である。この抗体を単離するために、以下の4つのV領域置換カセットを構築した。
(1) 重鎖前部カセット(ヒトVH3 FR1-CDR1-FR2配列からなる)
(2) 重鎖中央部カセット(ヒトVH3 FR2-CDR2-FR3配列からなる)
(1) 軽鎖前部カセット(ヒトVK1 FR1-CDR1-FR2配列からなる)
(2) 軽鎖中央部カセット(ヒトVK1 FR2-CDR2-FR3配列からなる)
各カセットを、Mab166由来の付加V領域配列および選択されたCDR3-FR4領域と共に組み立て、かつシグナル無しのFabの分泌を可能にするために、変異SecY遺伝子を過剰発現するプラスミドで形質転換された大腸菌 TOP10細胞中でFab断片として発現させる。次いで、カセットFabライブラリーを、GST-PcrVをコーティングしたフィルター上でスクリーニングし、PcrVバインダーを同定した。次いで、PcrV結合を支持するFab由来の選択配列を組換え、かつ再スクリーニングし、PcrVへの高親和性結合を支持する完全なヒトVセグメントを同定するために再スクリーニングした。
【0179】
カセット組換えにより単離されたFab 1070-9Eは、バイオレイヤーインターフェロメトリーにより測定された、1.48 nMの組換えPcrVに対する親和性を有する。
【0180】
高親和性抗PcrV Fabはまた、P. エルギノーサ III型分泌システムの強力なアンタゴニストであり、細胞に基づく細胞毒性試験においてP. エルギノーサ株PA103によるP3-X63 Ag8骨髄腫細胞のP. エルギノーサ外毒素媒介殺傷を阻害する。
【0181】
実施例3. ペグ化されたヒューマニア化Fab'
本実施例において、κ鎖のC末端システインと重鎖のシステイン残基C227(成熟タンパク質のN末端から順番に番号付けする)とを含む鎖間ジスルフィド結合により連結されるIgG1サブクラスのヒトFd'重鎖およびヒトκ軽鎖からなるFab'を、ペグ化した。組換えFd'重鎖は、IgG1 CH1ドメインと、還元後にマレイミド基への結合に使用可能である2個のシステイン残基を含むIgG1ヒンジ領域とを含む。従って、発現させた抗体タンパク質は、Fd'重鎖とκ軽鎖とのジスルフィドで連結されたヘテロ二量体であり、合計で452アミノ酸を含む。
【0182】
インビボクリアランスの速度が低下した免疫複合体を作製し、薬物動態プロファイルを改善するために、Fab'をポリエチレングリコール(PEG)に結合させる。ジペグ化Fab'において、ヒンジシステイン残基上の2つの使用可能な反応性チオールおよびマレイミド誘導体化PEG、メトキシポリエチレングリコールマレイミド(mPEG-mal)を用いる、ヒンジ領域での部位特異的付着により、Fab'の各分子を2つの長鎖PEG分子に結合する。mPEG-mal分子をマレイミド部分とヒンジシステイン残基間のチオエーテル連結を介して結合する。
【0183】
ジペグ化Fab'を作製するために、30 kDの平均分子量を有するmPEG-malをNOF Corporationより入手した。大腸菌で発現しかつ分泌されるFab'を、2 mM EDTAを含むクエン酸ナトリウムバッファーpH 6.5中で4 mg/mlの高度で調製した。還元剤(pH 6.5で10 mM MEA)を30分間室温で添加し、反応混合物を10 mMグリシン(pH 3)および2 mM EDTAで事前に平衡化したZeba Desaltカラム(Pierce)を用いて直ちに脱塩した。mPEG-malを1時間室温で添加し、ジペグ化Fab'を、他のペグ化種および未反応Fab'からGE HealthcareのAkta精製システムでHiTrap SPセファロースカラムを用いて分離した。
【0184】
本実施例でペグ化される例示的なジペグ化Fab'は、PcrVに高親和性で結合する(表面プラズモン共鳴解析により測定された0.6 nMの親和性)、P. エルギノーサ III型分泌システムの強力なアンタゴニストである。
【0185】
実施例4 - P. エルギノーサ III型分泌システムに対して強力な中和活性を有する本発明における使用のための抗体およびFab断片の検出のための細胞毒性試験
標的としてP3-X63-Ag8(X63)マウス骨髄腫細胞(ATCC)を用いる、TTSS依存性細胞毒性試験を確立した。細胞を、10%FBS(Hyclone)を含むRPMI 1640(Media Tech)中で培養した。約105個の細胞を、Fabの存在下で0.1 ml培地量の96穴プレートのウェル中で感染多重度(MOI)10でP. エルギノーサ株PA103に感染させた。Fabおよび哺乳類細胞の添加の前に、PA103をMinS培地(Hauser et al. (1998) Infect Immun. 66:1413-1420)中で増殖させ、TTSSの発現を誘導した。種々の濃度の抗PcrV Fabと共に3時間37℃で5%CO2でのインキュベーションの後、細胞を12×75 mmフローサイトメトリーチューブに移し、製造者の使用説明書に従ってヨウ化プロピジウム(Sigma)で染色した。透過性細胞の比率をFACS Caliberフローサイトメーターを用いてフローサイトメトリーにより定量化した。データをPrism4ソフトウエア(Graphpad)を用いて解析した。(細胞毒性は未処理試料中の死細胞に基準化された)。異なるFabの力価の比較のために、50%阻害に必要とされる平均濃度(IC50)を少なくとも3つの独立したアッセイ法から得た。いくつかの例示的なFabの結果を下記の表3に示す。
【0186】
(表3)細胞毒性試験におけるFabの力価
【0187】
試験したFabはそれぞれ、強力なTTSSの中和、および細胞毒性からの哺乳類細胞の保護を示す。
【0188】
いくつかのFabは、このアッセイ法においてMab166 Fabより強力である。従って、本発明の抗PcrV抗体は典型的には、Mab166 Fabと比べて増強された力価を示す。
【0189】
実施例5. ヒューマニア化抗体は肺炎のマウスモデルを用いてインビボ有効性を示す
肺炎のマウスモデルにおける抗体の効果を評価するために、ヒューマニア化Fabを用いてインビボで実験を行った。Fab 1A8は、ヒトIgG1の第1の定常ドメインを含むヒトVH3サブクラス重鎖、およびヒトVKIサブクラス κ軽鎖を有する。Biacoreにより測定されたFab 1A8の親和性は、0.6 nMである。Fab 1A8は、Mab166 Fabより約2倍高い親和性でPcrVに結合する。
【0190】
シュードモナス(Pseudomonas)肺炎の急性致死モデルを用いて、Fab 1A8のインビボ有効性をMab166と比較して評価した。P. エルギノーサ株PA103を1.5×106 cfu/マウスの用量で気管内投与によりマウスの肺に直接滴下注入した接種原は、以前に動物の100%死亡率をもたらすのに十分であることを示した(3×LD90)(Sawa et al., Nat Med. 5:392-8, 1999)。生存および体温を48時間モニターし、この時点で生存しているマウスを肺内の細菌数の測定のために屠殺した。生存データ(図10)は、ヒトFab 1A8とマウスFabとの両方が、高い細胞毒性を有するPA103株によりもたらされる死亡を抑制できることを示した。PA103に感染させ、意味のない対照Fabで処置した対照マウスは、接種の24時間以内に全て死んだ。10 μgのMab166またはFab 1A8によるマウスの処置は、48時間で100%のマウスの生存をもたらした。Fab 1A8は、抗体Fc領域を欠いていることから、抗体エフェクター機能は致死の防止に必要ではない。Fab 1A8は、致死の防止でMab166 Fabより有意に強力であった。Fab 1A8は、1.25 μg/マウスおよび0.625 μg/マウスの用量で致死を有意に予防し、Mab166 Fabで処置されたマウスはこの用量で100%の死亡率を示した(2.5 μg、1.25 μgおよび0.625 μg用量でFab 1A8とMab166 Fabの差はP<0.05)。Fab 1A8の活性は、致死の防止においてMab166 IgGの活性に匹敵する。
【0191】
Fab 1A8はまた、敗血症からの防御を示す体温の回復を誘導するのにも有効であった(図11)。PA103に感染した未処置のマウスは、感染の最初の数時間内に体温の急速な低下を示した。抗体で処置した群における12〜24時間以内の体温の回復は、その後の生存と相関した。投与量1.25 μg/マウスのFab 1A8またはMab166は、体温の急速な回復をもたらし、少なくとも80%のマウスで致死を防止した。しかしながら、この用量のマウスMab166 Fab断片は、体温回復させるには不十分であり、この群のマウスは全て、感染後48時間で死に至った。
【0192】
攻撃誘発後48時間において生存しているマウスを、肺内の残留P. エルギノーサの存在についても解析した。解析したMab166断片およびFab 1A8断片は両方とも、細菌の有意なクリアランスを刺激した(図12)。48時間後、細菌数は、10 μgのFab 1A8で処置した全マウスで1.5×106 cfu/マウスの感染用量より少なくとも1000分の1倍に減少した。この用量のFab 1A8で処置したマウスの80%は、48時間後に肺内に検出可能なP. エルギノーサを示さなかった。より高い残留細菌数は、マウスMab166 Fabで処置したマウスで検出された。ヒトFab 1A8は、この解析において全IgG Mab166に匹敵する力価を有し、このことはFc-エフェクター機能が抗体の細菌クリアランス刺激能に有意に寄与しないことを示す。
【0193】
Mab166最小必須結合特異性決定基を有する第2のヒューマニア化Fabについても肺炎のマウスモデルを用いてインビボで評価した。雌のBalb/cマウス(体重約20 g; Charles River)に1×106個のP. エルギノーサ株PA103を気管内投与により接種した。インキュベーション前に、PA103細菌をYPTブロス中で37℃で一晩増殖させ、新鮮な培地で1:5に希釈し、対数期に到達するまで2時間37℃で増殖させた。培養物を室温で10分間2000×gで遠心分離し、ペレットを約8 mLリン酸緩衝整理食塩水(PBS)で再懸濁した。細菌を600 nmにおいて吸光度により定量し、細菌コロニー形成単位をトリプシンソイ(TS)寒天プレート(Teknova、Half Moon Bay、CA)上のコロニー増殖により検証した。気管内滴下の直前に、抗体Fab 2断片を細菌と予め混合した。感染させたマウスを体温(直腸温度)および生存について48時間モニターした。
【0194】
食塩溶液だけで処置した対照マウスは、細菌の接種の24時間以内に100%死亡率を示した。10 μgのFab 2で処置したマウスは、致死を完全に防止し、Fabで処置したマウスの100%が48時間で生存した。
【0195】
従って、本実施例は、本発明のヒューマニア化抗体がP. エルギノーサに対して強力なインビボ活性を示すことを示す。Fabは、インビボで親のMab166 Fabより強力である。
【0196】
実施例6. ヒューマニア化Fabのヒトにおける免疫原性についての評価
遺伝子操作された抗体ペグ化Fab'断片を安全性、免疫原性および血漿/血清半減期についてヒト対象で評価した。対象は、静脈内(i.v.)注射により1、3、または10mg/kgで単回投与量を受けた。
【0197】
遺伝子操作された抗体は全ての用量レベルで良好な耐容性を示した。血漿中の薬物の濃度をマイクロタイタープレート上に固定化したPcrV抗原を用いるELISAにより測定した。GST-PcrVをマイクロタイタープレート上に一晩 4℃で固定化した。プレートを洗い、全ての非吸収部位をブロック/希釈バッファーの添加により少なくとも60分間ブロックした。プレートを洗った後、分析物を事前にコーティングしたマイクロタイタープレート上に分注し、少なくとも60分間インキュベートした。プレートを洗い、遺伝子操作されたFabに特的なビオチン化抗体を含む溶液を45分間添加した。プレートを洗い、HRP結合溶液を30分間添加した。最終洗浄工程の後、テトラメチルベンジジン(TMB)ペルオキシダーゼ基質溶液を添加し、約6分間インキュベートした。反応をリン酸溶液で停止した。呈色は存在するペグ化Fabの量に比例して展開する。プレートを2枚のフィルター(検出用に450 nm、バックグラウンド用に620 nm)を用いてプレートリーダーで読み取った。濃度を光学密度(OD)対濃度のプロットにより得られた標準曲線に基づいて測定した。較正曲線を4つのパラメーターのロジスティック適合を用いて作成した。ヒト血清におけるこの方法の範囲は、1%血清中で0.200から12.8 ng/mL(100%血清中で20.0 ng/mLから1280 ng/mL)である。
【0198】
ヒト対象における遺伝子操作された抗体の薬物動態プロファイル
【0199】
遺伝子操作された抗体は、約14日の末梢血漿半減期を有した。
【0200】
抗薬物抗体、すなわちヒューマニア化抗体に対して産生される抗体の存在を、注入前、注入後8日目、15日目、29日目および70日目に試験した。抗薬物抗体を電気化学発光アッセイ法(ECLA)を用いて測定した。陽性対照および陰性対照血清を希釈バッファーで1:25に希釈した。対照を同量の0.8%酢酸の添加により1:2にさらに希釈し(結果として2×溶液)、次いで、周囲温度で約15分間インキュベートした。次いで、試料をラベルマスターミックス(Label Master Mix)(0.5 μg/mLの最終作用濃度の抗体-ビオチンおよび抗体-SulfoTag)でさらに1:2に希釈し、結果として最終的に1:100希釈となった。次いで、全ての対照を1時間室温で穏やかに攪拌しインキュベートした。ストレプトアビジンでコーティングした標準的なMA2400 96穴マイクロタイタープレートを希釈バッファーを添加することにより60分間ブロックした。希釈バッファーをプレートウェルから吸引により除去し、対照をプレートに加え、60分間インキュベートした。プレートを吸引し、洗浄し、かつ界面活性剤を含む1×MesoScaleDiscovery(登録商標)(MSD)Read Buffer Tを加えた。プレートを MSD電気化学発光検出器で1分間で読み取った。生じる発光量(RLU)の強度は、存在する抗薬物抗体の量に比例する。
【0201】
いずれの時点でも抗薬物抗体は検出されなかった。従って、本実施例は、ヒトではヒューマニア化抗体の検出可能な免疫原性がないことを実証する。
【0202】
以下に本発明における使用のための抗PcrV抗体V領域の例示的なリストを提供する。
例示的な抗PcrV V領域
λ軽鎖を有する例示的な抗体のV領域:
付加的なVL領域
【0203】
前記の本発明は、理解を明確にするために例示と実施例によって多少詳しく記載されているが、当業者は本発明の教示を踏まえ、ある一定の変更および修正が添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく行われてもよいことを容易に理解すると思われる。
【0204】
本明細書において引用される刊行物、アクセッション番号、特許および特許出願は全て、それぞれが参照により組み込まれると具体的かつ個別に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、参照によって本明細書に組み込まれる2009年2月4日に出願した米国特許仮出願第61/149,957号の恩典を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(P.エルギノーサ(P. aeruginosa))は、健康な人々において疾病を引き起こすことはまれだが、重篤な病気または免疫不全の個体にとっては重大な問題である、日和見病原体である。感染は、嚢胞性線維症(CF)を有する個体において重要な問題であり、P.エルギノーサは、細菌による再発性および慢性の気道感染に起因する肺機能の進行性喪失の原因病原体である。P.エルギノーサ感染による危険性がある他の個体は、人工呼吸器を付けている患者、好中球減少性の癌患者、および熱傷患者を含む。
【0003】
P.エルギノーサが細胞毒素を産生するメカニズムの1つは、III型分泌装置(TTSS)である。TTSSは、宿主免疫系を阻害するという点において、重要な病原性因子決定要素である。活性化されると、TTSS装置は、毒素を宿主細胞の細胞質内に移動させ、細胞円形化、リフティング(lifting)、および壊死による細胞死をもたらす。
【0004】
インジェクトソーム(injectosome)は、20個を超えるタンパク質で構成され、細菌膜を貫通し、これらの毒素の分泌を担う。それは、細菌の細胞表面から針状の突起を形成する。PcrVは、この針状複合体の先端部に存在する。このタンパク質は、P.エルギノーサTTSSのV抗原としても知られ、PcrV欠損変異体は毒素分泌ができないという観察から明らかである通り、宿主細胞細胞質の機能的中毒にとって重要である。P.エルギノーサのTTSS病原性装置を無能力にする1つのアプローチは、細菌の細胞表面上に存在し、かつ毒素分泌に関与するV抗原などのタンパク質に結合する、特異的タンパク質の使用である。Mab166は、PcrVに特異的に結合するモノクローナル抗体であり、急性P.エルギノーサ肺感染マウスモデルにおける敗血症の発症に対して防御能を有するとして同定された(Frank et al., J. Infect. Dis., 186:64-73, 2002(非特許文献1))。その後の研究において、モノクローナル抗PcrV抗体およびポリクローナル抗PcrV抗体は、種々の動物モデル、例えば、熱傷および急性気道感染において、予防免疫または治療免疫のいずれかによってP.エルギノーサ感染に対する有効性を示している(Faure et al., J. Immune Therapies and Vaccines 1:2, 2003(非特許文献2); Neely et al., Burns 31 :153-158, 2005(非特許文献3); Sawa et al., Nature Med. 5:392-398, 1999(非特許文献4))。
【0005】
以前の研究は、ラット、ウサギ、および急性感染のマウスモデルに投与した場合、Mab166またはポリクローナル抗PcrV抗体がP.エルギノーサの致死効果を抑えるのに有効であることを示している(前記Faure et al., 2003(非特許文献2); Imamura, et al., Eur Respir J 29:965-968, 2007(非特許文献5); および前記Frank, et al., 2002(非特許文献1))。TTSSは、マクロファージ壊死を引き起こし(Dacheux et al., Infect. and Immun. 68:2916-2924, 2000(非特許文献6)); この病原性システムを抑制することは、細菌クリアランスを促進する免疫細胞活性を保護する。
【0006】
抗生物質は、P.エルギノーサ感染に対する現在の標準治療法である。しかしながら、感染と戦うための従来の抗生物質治療の有効性は、急速に低下している。よって、現在の治療に取って代わるかまたは現在の治療の有効性を増強する、新規治療を作り出す差し迫った必要性が存在する。本発明は、この必要性に応えるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Frank et al., J. Infect. Dis., 186:64-73, 2002
【非特許文献2】Faure et al., J. Immune Therapies and Vaccines 1:2, 2003
【非特許文献3】Neely et al., Burns 31 :153-158, 2005
【非特許文献4】Sawa et al., Nature Med. 5:392-398, 1999
【非特許文献5】Imamura, et al., Eur Respir J 29:965-968, 2007
【非特許文献6】Dacheux et al., Infect. and Immun. 68:2916-2924, 2000
【発明の概要】
【0008】
発明の簡単な概要
本発明は、抗生物質と抗PcrV抗体との組み合わせの投与がP.エルギノーサに感染した患者を有効に治療するために用いられうるという発見に基づく。
【0009】
1つの局面において、本発明は、P.エルギノーサの抗生物質耐性株に感染した対象において菌血症を治療するかまたは菌血症の発症を予防する方法であって、P.エルギノーサTTSSのアンタゴニストである抗PcrV抗体と該抗生物質との組み合わせの治療的有効量を投与する段階を含む、方法を提供する。いくつかの態様において、患者は、インビトロアッセイ法で抗生物質に対して耐性を示す抗生物質耐性株に感染している。いくつかの態様において、患者は、抗生物質に対してインビボで耐性を有するP.エルギノーサ株に感染している。いくつかの態様において、抗生物質は、その最大耐量(MTD)で投与されている。いくつかの態様において、抗体は注射により投与され、かつ抗生物質は吸入により投与される。いくつかの態様において、抗生物質は、トブラマイシンなどのアミノグリコシドである。いくつかの態様において、抗生物質は、モノバクタム系アズトレオナムリシンである。いくつかの態様において、抗生物質は、テトラサイクリンなどTTSSの発現を誘導する。いくつかの態様において、抗生物質は、ピペラシリンである。当技術分野において、投与用のピペラシリンは通常タゾバクタムを含むということが理解されている。いくつかの態様において、方法は、血液中の細菌のレベルを測定する段階を含んでもよい。これは、血液を培養して存在しうる細菌を増殖させる段階、または免疫アッセイ法などのアッセイ法を用いて1つまたは複数のP.エルギノーサ抗原を検出する段階、または増幅反応などのアッセイ法を用いてP.エルギノーサ核酸を検出する段階など、当技術分野において公知の多数の方法により達成されうる。
【0010】
本発明はまた、抗生物質耐性P.エルギノーサ株に感染した対象を治療する場合に、該株の抗生物質に対する感受性を効果的に増強する方法であって、抗生物質、およびP.エルギノーサTTSSのアンタゴニストである抗PcrV抗体を、該対象に投与する段階を含む、方法も提供する。
【0011】
本発明の方法は、P.エルギノーサ感染を有する任意の対象を治療するために用いられうる。多くの場合、対象は、嚢胞性線維症を有するか、人工呼吸器を付けているか、好中球減少症の癌患者であるか、または熱傷患者である。対象は、ヒトである必要はないが、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、霊長類、または任意の他の動物などの動物であることもできる。
【0012】
P.エルギノーサに感染した対象の組み合わせ治療のための本発明の方法は、PcrVを中和する任意の抗体を使用することができるが、いくつかの態様において、PcrVへの結合についてMab166と競合する抗PcrV抗体を用いる。
【0013】
本発明はまた、本明細書において記載の通り、対象を治療するため抗生物質と組み合わせて用いるために製剤化された、抗PcrV抗体を含む薬学的組成物を提供する。よって、いくつかの態様において、本発明は、P.エルギノーサの抗生物質耐性株に感染しかつ抗生物質による治療を受けている対象における菌血症の治療または予防に用いるための、薬学的組成物であって、抗生物質で治療した該患者において菌血症を治療または予防する量の抗PcrV抗体を含む薬学的組成物を提供する。抗生物質は、トブラマイシンなどのアミノグリコシドであってもよい。いくつかの態様において、抗生物質は、III型分泌装置を誘導する。いくつかの態様において、抗PcrV抗体を含む薬学的組成物は、組成物が患者に投与される場合に血液中の細菌のレベルが低減するように、製剤化される。いくつかの態様において、P.エルギノーサ株は、インビボで抗生物質に対して耐性を有する。
【0014】
本発明はまた、III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、対象における抗生物質耐性P.エルギノーサ感染の治療または予防に抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物も提供する。いくつかの態様において、抗生物質は、その最大耐量において抗体の投与無しで投与される場合に無効である。いくつかの態様において、抗生物質が対象に単独で投与される場合の抗生物質の最大耐量と比較して、該対象が、(抗PcrV抗体を含む薬学的組成物と共に投与される場合の)抗生物質用量に対する増大した毒性を有さない。いくつかの態様において、抗生物質は、III型分泌装置の発現を誘導する。いくつかの態様において、抗生物質は、テトラサイクリン、ミノサイクリン、エオキシサイクリン(eoxycycline)、デメクロサイクリンまたはオキシテトラサイクリンである。
【0015】
本発明は、III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、P.エルギノーサ肺感染を有する対象の治療において抗生物質と共に用いるための薬学的組成物であって、薬学的組成物が、静脈内投与、筋肉内投与または皮下投与のために製剤化され、かつ抗生物質が、肺内への投与のために製剤化される、薬学的組成物をさらに提供する。いくつかの態様において、抗PcrV抗体薬学的組成物と一緒に用いられる抗生物質は、吸入により投与されるように製剤化される。いくつかの態様において、抗生物質は、トブラマイシンである。他の態様において、抗生物質は、アズトレオナムである。いくつかの態様において、該量の抗PcrV抗体および該量の抗生物質は、P.エルギノーサ菌血症を予防または治療する。
【0016】
本発明は、III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、肺以外の組織にP.エルギノーサ感染を有する対象における菌血症の治療または予防に抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物であって、静脈内投与のために製剤化される薬学的組成物をさらに提供する。いくつかの態様において、組織は、膀胱組織または尿路組織である。
【0017】
本発明は、III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、P.エルギノーサの抗生物質耐性株に感染した対象における該抗生物質耐性株の感受性を増強するために抗生物質と共に用いるための薬学的組成物をさらに提供する。いくつかの態様において、抗生物質は、ピペラシリンである。
【0018】
本明細書に記載の任意の使用のための薬学的組成物は、嚢胞性線維症を有するか、人工呼吸器を付けているか、好中球減少性の癌患者であるか、または熱傷患者である患者への投与のために製剤化されてもよい。さらに、薬学的組成物は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与または吸入による投与のために製剤化される抗PcrV抗体を含んでもよい。
【0019】
さらに、本明細書に記載の任意の使用において、薬学的組成物が患者に投与される場合に、抗生物質は、静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、もしくは皮下投与のために、または吸入による投与のために製剤化されてもよい。
【0020】
方法および薬学的組成物は、本明細書において記載の任意の抗PcrV抗体を使用することができる。よって、抗生物質と組み合わせる抗PcrV抗体の患者の治療のための使用は、下記の態様に記載の抗体を用いることができる。
【0021】
いくつかの態様において、本発明の方法および薬学的製剤における使用のための抗PcrV抗体は、PcrVに選択的に結合し、かつFWGTPを含むCDR3を含むVL領域を含む。典型的な態様において、そのような抗体は、ヒト生殖系列Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有するVL領域Vセグメントを有する。FR4領域は典型的には、ヒト生殖系列JセグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を有する。
【0022】
いくつかの態様において、本発明の方法における使用のための抗PcrV抗体は、FWGTPを含むCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒトJK2生殖系列遺伝子セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性またはJL2生殖系列配列に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列のVκI配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列Vλ配列に対して少なくとも80%の同一性を含む。いくつかの態様において、VL領域CDR3は、配列
を有する。いくつかの態様において、抗体は、配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒトJH3セグメントまたはヒトJH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒトVH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒトVH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域をさらに含む。いくつかの態様において、VH領域は、X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3を含む。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、PcrVに結合し、かつX1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域を含む、本発明における使用のための抗PcrV抗体を提供する。
【0024】
いくつかの態様において、本発明は、PcrVに結合し、かつX1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域と;FW(S/G)TPを含むCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒト生殖系列JK2遺伝子セグメントのFR4領域に対してまたはヒト生殖系列JL2セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12配列に対して少なくとも80%の同一性、またはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ2 2cセグメントもしくはVλ3 3lセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VL領域とを含む、本発明における使用のための抗PcrV抗体を提供する。いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体のVH領域のFR4は、X2がTまたはMである、配列
を有する。
【0025】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、配列Q(H/Q)FW(G/S)TPYTを有する軽鎖CDR3を有する。いくつかの態様において、VL領域のFR4は、配列
を有する。
【0026】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、VH領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VH3-30.3セグメントに対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ重鎖領域CDR1が配列X3X4X5X6Hを含み、X3がS、T、またはNであり、X4がYまたはAであり、X5がA、G、またはPであり、かつX6がM、I、またはLであり、かつ重鎖領域CDR2が配列
を含み、X7がV、F、またはNであり、X8がSまたはWであり、X9がDまたはNであり、X10がS、K、RまたはYであり、X11がN、S、DまたはEであり、X12がK、I、またはEであり、X13がY、S、DまたはWであり、かつX14がDまたはSである、抗体である。いくつかの態様において、抗体は、VH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する。いくつかの態様において、CDR1は、TAGMH、SYGIH、SYGMH、SYPLH、またはNYPMHである。いくつかの態様において、CDR2は、
である。いくつかの態様において、CDR1は、TAGMH、SYGIH、SYGMH、SYPLH、またはNYPMHであり;かつCDR2は、
である。
【0027】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、VH領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性、または少なくとも90%の同一性を有し、かつCDR1は配列DHAISを有し、かつCDR2は配列
を有する、抗体である。
【0028】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、CDR3配列NRGDIYYDFTYAFDI、CDR1配列DHAISおよびCDR2配列
を有するVH領域を含む。
【0029】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列のVHセグメント領域を含み;かつ重鎖CDR3は、X1がI、Q、Y、またはSである
;または
を含む。例えば、VH領域は、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0030】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列のVκI L12配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも80%もしくは少なくとも90%の同一性;またはヒト生殖系列のVλ3 3l配列に対してもしくはVλ2 2c配列に対して少なくとも80%もしくは少なくとも90%の同一性を含む、抗体である。いくつかの態様において、VL領域Vセグメントは、ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも80%または少なくとも90%の同一性を有し、かつCDR1は配列RASX15X16X17X18X19X20X21Aを有し、X15がQまたがEであり、X16がSまたがGであり、X17がIまたがVであり、X18がSまたがDであり、X19がS、R、またがTであり、X20がWまたがYであり、かつX21XがLまたはVであり; かつCDR2は配列X21ASX22LX23Sを有し、X21がDまたがAであり、X22がS、A、またがTであり、かつX23がE、Q、またがKである。いくつかの態様において、CDR1は、配列
を有するか;またはCDR2は、配列
を有する。いくつかの態様において、CDR1は、配列
を有し;かつCDR2は、配列
を有する。
【0031】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKIII L2配列に対して少なくとも80%または少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有し、かつCDR1が配列
を有するか;またはCDR2が配列
を有する、抗体である。いくつかの態様において、CDR1は配列
を有し;かつCDR2は配列
を有する。
【0032】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、ヒト生殖系列VλL3 3lセグメントに対して少なくとも80%または少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するVL領域Vセグメントを有し、かつCDR1は配列
を有するか;またはCDR2は配列
を有する。いくつかの態様において、CDR1は、配列
を有し;かつCDR2は、配列
を有する。
【0033】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、ヒト生殖系列VλL2 2cセグメントに対して少なくとも80%または少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するVL領域Vセグメントを有し、かつCDR1は、配列
を有し、かつCDR2は、配列
を有する。いくつかの態様において、CDR1は、配列
を有し;かつCDR2は、配列(E/D)VT(K/N)RPSを有する。
【0034】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列のVセグメントを含む領域を有し、かつ配列
を含む軽鎖CDR3を有する。例えば、VL領域は、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むことができる。
【0035】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、VH領域と、SEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、VL領域とを含む。従って、いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、SEQ ID NO: 1のVH領域およびSEQ ID NO: 2のVL領域、またはSEQ ID NO: 3のVH領域およびSEQ ID NO: 4のVL領域、またはSEQ ID NO: 5のVH領域およびSEQ ID NO: 6のVL領域、またはSEQ ID NO: 7のVH領域およびSEQ ID NO: 8のVL領域、またはSEQ ID NO: 11のVH領域およびSEQ ID NO: 12のVL領域、またはSEQ ID NO: 9のVH領域およびSEQ ID NO: 10のVL領域、またはSEQ ID NO: 13のVH領域およびSEQ ID NO: 10のVL領域、またはSEQ ID NO: 13のVH領域およびSEQ ID NO: 4のVL領域、またはSEQ ID NO: 13のVH領域およびSEQ ID NO: 37のVL領域、またはSEQ ID NO: 21のVH領域およびSEQ ID NO: 18のVL領域、またはSEQ ID NO: 17のVH領域およびSEQ ID NO: 18のVL領域、またはSEQ ID NO: 26のVH領域およびSEQ ID NO: 24のVL領域、またはSEQ ID NO: 25のVH領域およびSEQ ID NO: 24のVL領域、またはSEQ ID NO: 23のVH領域およびSEQ ID NO: 24のVL領域、またはSEQ ID NO: 35のVH領域およびSEQ ID NO: 36のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 20のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 28のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 30のVL領域、またはSEQ ID NO: 29のVH領域およびSEQ ID NO: 34のVL領域、またはSEQ ID NO: 3のVH領域およびSEQ ID NO: 32のVL領域を含む。
【0036】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、図8に示されている重鎖および/または図9に示されている軽鎖を含むか:または図8または図9にそれぞれに示されている重鎖もしくは軽鎖の1つに由来する少なくとも1個のCDR、多くの場合少なくとも2個のCDR、およびいくつかの態様において少なくとも3個のCDRを含む。多くの態様において、CDR1および/またはCDR2配列は生殖系列の配列ではない。
【0037】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、約10 nMまたはそれ未満の親和性を有するFabまたはFab'である。いくつかの態様において、抗体は、Mab166のFabまたはFab 'の親和性と等しいまたはより優れた親和性を有する。
【0038】
P.エルギノーサTTSSの活性を阻害する場合の本発明における使用のための抗体、例えばFabの力価は典型的には、Mab166 Fabと同等である(細胞に基づくアッセイ法で活性の2倍以内)。いくつかの態様において、抗体は、P.エルギノーサによる細胞障害の予防において、Mab166より強力である。
【0039】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗PcrV抗体は、PcrVへの結合についてMab166と競合する。
【0040】
いくつかの態様において、抗体はヒンジ領域を含む。
【0041】
他の態様において、抗体はIgGまたはIgAである。
【0042】
いくつかの態様において、抗体はペグ化、例えばジペグ化またはモノペグ化されている。
【0043】
いくつかの態様において、VH領域もしくはVL領域のアミノ酸配列、またはVH領域とVL領域との両方のアミノ酸配列は、N末端にメチオニンを含む。
【0044】
抗体は、任意の投与の経路を用いて患者に投与されうるが、多くの場合、静脈内投与されるか、筋肉内投与されるか、皮下投与されるか、または吸入により投与される。
【0045】
抗生物質もまた、当技術分野において公知である任意の投与の経路を用いて、対象に投与されうる。典型的には、抗生物質は、静脈内に投与されるか、筋肉内に投与されるか、または吸入により投与される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】A.対照群および3つの処置群(Mab166のみ; 抗生物質のみ; Mab166および抗生物質)におけるマウスの体温。B. Aで調べた同じ群のマウスの生存曲線。
【図2】A. 感染後の別々の時点での対照群および処置群(Mab166;トブラマイシン; Mab166およびトブラマイシン)のマウスの肺の乾湿重量比。B. 感染後の別々の時点での対照群および処置群のマウスの過剰な肺水分量(ELW)。
【図3】Mab166/トブラマイシン組み合わせ療法が感染動物の肺で好中球を保護することを示すデータを提供する。細胞サイトスピンおよび染色の後の気管支肺胞洗浄液由来の顕微鏡視野(200×)あたりの好中球数をグラフに示す。
【図4】A. P.エルギノーサ点滴注入後8時間および24時間の対照群および処置群(Mab166;トブラマイシン; Mab166およびトブラマイシン)のマウスの肺内の総P.エルギノーサCFU。B. P.エルギノーサ点滴注入後8時間および24時間の対照群および処置群のマウスの血液中の総P.エルギノーサCFU。C. P.エルギノーサ点滴注入後8時間および24時間の対照群および処置群のマウスの脾臓内の総P.エルギノーサCFU。
【図5】対照群および処置群(Mab166;トブラマイシン; Mab166およびトブラマイシン)における、P.エルギノーサ点滴注入後8時間および24時間のマウス血漿中のMPO濃度。
【図6】4つの処置群の体温: 対照;ピペラシリン; Mab166; ならびにMab166およびピペラシリン。ピペラシリンは、タゾバクタム(ペニシリナーゼ阻害剤)と組み合わせて投与される。
【図7】生存曲線: 対照;ピペラシリン; Mab166; ならびにMab166およびピペラシリン。ピペラシリンは、タゾバクタムと組み合わせて投与される。
【図8】抗PcrV抗体のVH領域の配列を示す。CDR配列に下線を引く。VH1配列をヒト生殖系列配列VH1-18に対して整列させる。VH3-サブクラスをヒト生殖系列配列VH3-30.3対して整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列のJH3またはJH6いずれかに対して整列させる。図8に示すVHセグメントは、CDR3配列までの配列に対応する。
【図9】抗PcrV抗体のVL領域の配列を示す。CDR配列に下線を引く。Vκ-サブクラス抗体をヒト生殖系列配列VKI L12に整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列JK2に対して整列させる。Vλ-サブクラス抗体をヒト生殖系列配列Vl3 3lに対して整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列JL2に対して整列させる。
【図10】致死量のPA103による攻撃誘発時に様々な用量のPcrVに対する抗体で処置したマウスの生存の時間経過を示すデータを提供する。Mab166およびFabの断片を、気管内経路を介して1.5×106の細菌と一緒に共注入した(1群当たり5マウス、Mab166 Fab群に対して4マウス)。対照は、PcrVまたは任意のP. エルギノーサタンパク質への結合を伴わない非特異的Fabである。マウスを以下の抗体用量で処置した:A) 10μg、B) 5μg、C) 2.5μg、D) 1.25μg、*Fab 1A8対Mab166Fabに対してP=0.01、E) 0.625μg *1A8対Mab166 Fabに対してP=0.002、F) 0.3125μg、G) 0.16μg、H) 0.08μg。処置群間の差異に対するP値をMantel-Coxログランク検定により求めた。
【図11】抗PcrV抗体で処置したマウスの体温解析を示すデータを提供する。直腸の温度を48時間または死亡まで示す。抗体用量:A) 10μg、B) 5μg、C) 2.5μg、D) 1.25μg E) 0.625μg F) 0.3125μg、G) 0.16μg、H) 0.08μg。
【図12】抗PcrV抗体により感染させたマウスの肺からのP. エルギノーサのクリアランスを示すデータを提供する。Mab166 IgG、Mab166 FabまたはヒトFab 1A8と一緒に共注入した1.5×106 cfu PA 103を用いて(μgで)示した用量で、マウスを感染させた。グラフは、48 hで生き残っている個々のマウスから単離された肺のcfu/肺を示す。この時点で死んでいるマウスの数を図の上部に示す。各群における生き残っているマウスの中央値cfu/肺をバーを用いて示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
発明の詳細な説明
定義
本明細書において用いられる「相乗効果」は、最終結果が別々に取得された組み合わせの各部分の合計によって得られる効果より優れている、組み合わせにおける効果を指す。
【0048】
「菌血症」または「敗血症」は、血流中の生細菌の存在を指す。典型的には、菌血症または敗血症では、細菌を患者の血液の試料から培養できるほど十分な数存在する。
【0049】
「最大耐量」または「MTD」は、許容できない副作用を引き起こさない、薬物または治療の最高用量を指す。
【0050】
本明細書において用いられる「抗体」は、結合タンパク質として機能的に定義され、かつ抗体を産生する動物の免疫グロブリンをコードする遺伝子のフレームワーク領域に由来するとして当業者に認識されるアミノ酸配列を含むと構造的に定義される、タンパク質を指す。抗体は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的にコードされる1つまたは複数のポリペプチドからなることができる。認識される免疫グロブリン遺伝子は、κ、λ、α、γ、δ、εおよびμの定常領域遺伝子、ならびに種々の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖は、κまたはλのいずれかに分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεに分類され、かつ順番にそれぞれ免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを定義する。
【0051】
典型的な免疫グロブリン(抗体)構造ユニットは、四量体を含むことが公知である。四量体はそれぞれ、同一の2組のポリペプチド鎖で構成され、各組とも1つの「軽」鎖(約25 kD)および1つの「重」鎖(約50 kD)を有する。各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与する約100個から110個またはそれより多いアミノ酸の可変領域を定義する。可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)という用語はそれぞれこれらの軽鎖および重鎖を指す。
【0052】
本明細書において用いられる抗体という用語は、結合特異性を保持する抗体断片を含む。例えば、多数の十分に特徴付けられた抗体断片がある。従って、例えばペプシンは、ヒンジ領域内のジスルフィド結合に対してC末端の抗体を消化し、F(ab)'2、それ自体がジスルフィド結合によりVH-CH1(Fd)に連結されている軽鎖であるFabの二量体を生じる。F(ab)'2は、ヒンジ領域内のジスルフィド結合を切断し、その結果、(Fab')2二量体をFab'一量体に変換する穏やかな条件下で、減少する場合がある。Fab'一量体は本質的には、ヒンジ領域の全体または一部を伴うFabである(他の抗体断片のより詳細な記載についてはFundamental Immunology, W.E. Paul, ed., Raven Press, N.Y. (1993)参照)。様々な抗体断片が、完全な抗体の消化の面から定義される一方で、当業者は、断片が化学的にまたは組換えDNA方法論の使用によりデノボ合成されうることを理解すると考えられる。従って、「抗体」という用語はまた、全抗体の改変または組換えDNA方法論を用いた合成のいずれかにより生じる抗体断片を含む。
【0053】
本発明の抗体は、可変重鎖領域および可変軽鎖領域が互いに連結され(直接にまたはペプチドリンカーを介して連続したポリペプチドを形成する、一本鎖Fv抗体(sFvまたはscFv)などの一本鎖抗体(一本鎖ポリペプチドとして存在する抗体)を含む、VH-VL二量体、VH二量体、またはVL二量体などの二量体を含む。一本鎖Fv抗体は、共有結合されたVH-VLヘテロ二量体であり、直接的に結合されるかまたはペプチドコードリンカーにより結合されるVHコード配列およびVLコード配列を含む核酸から発現させてもよい(例えば、Huston, et al. Proc. Nat. Acad. Sci USA, 85:5879-5883, 1988)。VHおよびVLは一本鎖ポリペプチドとしてお互いに連結される一方で、VHドメインおよびVLドメインは非共有結合的に結合する。あるいは、抗体は、ジスルフィド安定化Fv(dsFv)などの別の断片であることができる。組換え技術を用いてなど、他の断片もまた作成されることができる。抗体V領域に由来する天然には凝集するが化学的に分離される軽鎖ポリペプチドおよび重鎖ポリペプチドを抗原結合部位の構造に実質的に類似する3次元構造に折りたたんだ分子に変換する、scFv抗体および多数の他の構造体は、当業者に公知である(例えば、米国特許第5,091,513号、同第5,132,405号、および同第4,956,778号参照)。いくつかの態様において、抗体は、ファージ上に示される抗体、または鎖を可溶性タンパク質、例えばscFv、Fv、Fab、(Fab')2として分泌するベクターを用いる組換え技術により産生される抗体、または鎖を可溶性タンパク質として分泌するベクターを用いる組換え技術により産生される抗体を含む。本発明における使用のための抗体はまた、ジ抗体(diantibody)およびミニ抗体も含みうる。さらに、本発明の抗体は、ラクダ科の動物に由来する抗体などの重鎖二量体を含む。ラクダ科の動物における重鎖二量体IgGのVH領域は、軽鎖による疎水性相互作用を作る必要がないため、通常は軽鎖と接触する重鎖内の領域が、ラクダ科の動物では親水性アミノ酸残基に変更される。重鎖二量体IgGのVHドメインはVHHドメインと呼ばれる。本発明の抗体は、単一ドメイン抗体(dAb)およびナノボディを含む(例えば、Cortez-Retamozo, et al., Cancer Res. 64:2853-2857, 2004参照)。
【0054】
本明細書において用いられる「V領域」は、CDR3およびフレームワーク4を含む、フレームワーク1、CDR1、フレームワーク2、CDR2、ならびにフレームワーク3のセグメントを含む抗体可変領域ドメインを指し、それらのセグメントは、B細胞分化の過程で重鎖V領域遺伝子および軽鎖V領域遺伝子の再構成の結果としてVセグメントに加えられる。本明細書において用いられる「Vセグメント」は、V遺伝子によりコードされるV領域(重鎖または軽鎖)の領域を指す。重鎖可変領域のVセグメントは、FR1-CDR1-FR2-CDR2およびFR3をコードする。本発明の意図に関して、軽鎖可変領域のVセグメントは、FR3を経てCDR3まで及ぶと定義される。
【0055】
本明細書において用いられる「Jセグメント」という用語は、CDR3およびFR4のC末端部分を含むコードされた可変領域のサブ配列を指す。内在性のJセグメントは、免疫グロブリンJ遺伝子によりコードされる。
【0056】
本明細書において用いられる「相補性決定領域(CDR)」は、軽鎖可変領域および重鎖可変領域により確立される、4つの「フレームワーク」領域の間に割って入る各鎖における3つの超可変領域を指す。CDRは主に、抗原のエピトープへの結合に関与する。各鎖のCDRは典型的には、N末端から順に番号を付けられたCDR1、CDR2、およびCDR3を指し、さらに典型的には個々のCDRが位置している鎖により同定される。従って、例えばVHCDR3は、見出される抗体の重鎖の可変ドメイン中に位置するのに対し、VLCDR1は、見出される抗体の軽鎖の可変ドメインのCDR1である。
【0057】
種々の軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域は、構成物軽鎖および構成物重鎖のフレームワーク領域の組み合わせであり、三次元空間においてCDRの位置を特定しかつ整列させるのに役立つ。
【0058】
CDRおよびフレームワーク領域のアミノ酸配列は、当技術分野において周知の様々な定義、例えば、Kabat, Chothia, international ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)、およびAbMを用いて決定されうる (例えば、上記Johnson et al.,; ChothiaおよびLesk, 1987, Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins. J. Mol. Biol. 196, 901-917; Chothia C. et al., 1989, Conformations of immunoglobulin hypervariable regions. Nature 342, 877-883; Chothia C. et al., 1992, structural repertoire of the human VH segments J. Mol. Biol. 227, 799-817; Al-Lazikani et al., J.Mol.Biol 1997, 273(4)参照)。抗原結合部位の定義はまた、以下にも記載される:Ruiz et al., IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res., 28, 219-221 (2000); およびLefranc,M.-P. IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res. Jan l;29(l):207-9 (2001); MacCallum et al, Antibody-antigen interactions: Contact analysis and binding site topography, J. MoI. Biol., 262 (5), 732-745 (1996); およびMartin et al, Proc. Natl Acad. Sci USA, 86, 9268-9272 (1989); Martin, et al, Methods Enzymol., 203, 121-153, (1991); Pedersen et al, Immunomethods, 1, 126, (1992); およびRees et al, In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction. Oxford University Press, Oxford, 141-172 1996)。
【0059】
「エピトープ」または「抗原決定基」は、抗体が結合する抗原の部位を指す。エピトープは、連続的なアミノ酸と、またはタンパク質の三次折りたたみ(tertiary folding)により近接して並ぶ非連続的なアミノ酸との両方から形成されうる。連続的なアミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒への曝露に対して保持されるのに対し、三次折りたたみにより形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒による処理によって失われる。エピトープは、特有の空間立体構造内に典型的には少なくとも3アミノ酸、およびより通常は少なくとも5または8〜10アミノ酸を含む。エピトープの空間立体構造を決定する方法は、例えばX線結晶学および二次元核磁気共鳴を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed (1996) 参照。
【0060】
本発明の文脈で用いられる「結合特異性決定基」または「BSD」という用語は、抗体の結合特異性を決定するために必要な、CDR領域内で最小の連続的なアミノ酸配列または非連続的なアミノ酸配列を指す。本発明において、最小の結合特異性決定基は、抗体の重鎖および軽鎖のCDR3配列の一部分または全長内に存在する。
【0061】
本明細書において用いられる「PcrV拮抗性抗体」、または「PcrV抗体アンタゴニスト」もしくは「アンタゴニストPcrV抗体」、または「シュードモナス・エルギノーサIII型分泌システム(TTSS)の抗PcrV抗体アンタゴニスト」という用語は、互換的に用いられ、PcrVに結合しかつTTSSを阻害する抗体を指す。阻害は、TTSSを通じた分泌が、抗体アンタゴニストに曝露しなかった場合の分泌と比べて、少なくとも約10%減少、例えば少なくとも約25%、50%、75%減少、または完全に阻害された場合に起こる。「抗PcrV抗体」および「PcrV抗体」という用語は、特に指定がない限り、同意語として用いられる。
【0062】
「平衡解離定数(KD)」という用語は、結合速度定数(ka、時間-1、M-1)で割った解離速度定数(kd、時間-1)を指す。平衡解離定数は、当技術分野において公知の任意の方法を用いて測定されうる。本発明の抗体は、高親和性抗体である。そのような抗体は、500 nMより優れた親和性を有し、多くの場合50 nMまたは10 nMより優れた親和性を有する。従って、いくつかの態様において本発明の抗体は、500 nMから100 pMの範囲の、または50もしくは25 nMから100 pMの範囲の、または50もしくは25 nMから50 pMの範囲の、または50 nMもしくは25 nMから1 pM範囲の親和性を有する。
【0063】
本明細書において用いられる「ヒト化抗体」は、ドナー抗体由来のCDRがヒトフレームワーク配列に移植されている免疫グロブリン分子を指す。ヒト化抗体はまた、フレームワーク配列内にドナー起源の残基を含んでもよい。ヒト化抗体はまた、ヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分を含むこともできる。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体内ならびに移入されるCDR配列内およびフレームワーク配列内のいずれにおいても見出されない残基を含んでもよい。ヒト化は、当技術分野において公知の方法を用いて行うことができ(例えば、Jones et al., Nature 321:522-525; 1986; Riechmann et al., Nature 332:323-327, 1988; Verhoeyen et al, Science 239:1534-1536, 1988); Presta, Curr. Op. Struct. Biol 2:593-596, 1992; 米国特許第4,816,567号)、「超ヒト化(superhumanizing)」抗体(Tan et al., J. Immunol. 169: 1119, 2002)および「表面再構成(resurfacing)」(例えば、Staelens et al., Mol. Immunol. 43: 1243, 2006; およびRoguska et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 91: 969, 1994)などの技術を含む。
【0064】
本発明の文脈において「ヒューマニア化(humaneered)」抗体は、参照抗体の結合特異性を有する、遺伝子操作された(engineered)ヒト抗体を指す。本発明における使用のための「ヒューマニア化」抗体は、ドナー免疫グロブリンに由来する最小配列を含む免疫グロブリン分子を有する。典型的には、抗体は、参照抗体の重鎖のCDR3領域由来の結合特異性決定基(BSD)をコードするDNA配列にヒトVHセグメント配列を連結し、参照抗体由来の軽鎖CDR3 BSDにヒトVLセグメント配列を連結することにより「ヒューマニア化」する。「BSD」は、CDR3-FR4領域、または結合特異性を媒介するこの領域の一部分を指す。従って結合特異性決定基は、CDR3-FR4、CDR3、CDR3の最小必須の結合特異性決定基(抗体のV領域中に存在する場合に結合特異性を付与するCDR3より小さな任意の領域を指す)、Dセグメント(重鎖領域に関して)、または参照抗体の結合特異性を付与するCDR3-FR4の他の領域であることができる。ヒューマニア化のための方法は、米国特許出願公開第20050255552号および米国特許出願公開第20060134098号で提供される。
【0065】
「ハイブリッド」という用語は、核酸またはタンパク質の部分に関連して用いられる場合、核酸またはタンパク質が本来は互いに同様の関連性において普通は見られない2つまたはそれ以上のサブ配列を含むことを意味する。例えば、核酸は典型的には、組換えで作製され、例えば新しい機能的な核酸を作るよう並べられた無関係の遺伝子に由来する、2つまたはそれ以上の配列を有する。同様に、ハイブリッドタンパク質は、本来は互いに同様の関連性において普通は見られない2つまたはそれ以上のサブ配列を指す。
【0066】
「組換え」という用語は、例えば細胞、または核酸、タンパク質、もしくはベクターに関連して用いられる場合、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが異種の核酸もしくはタンパク質の導入、または天然の核酸またはタンパク質の変更により改変されていること、または細胞がそのように改変されている細胞に由来することを意味する。従って、例えば組換え細胞は、発現下でまたは全く発現しない条件下で、細胞の天然の(非組換えの)形態の範囲内では見られない遺伝子を発現するか、または普通なら異常に発現される天然の遺伝子を発現する。本明細書における「組換え核酸」という用語は、一般には、例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いる核酸の操作により、元々はインビトロで形成された、本来普通は見出されない形の核酸を意味する。このようにして、種々の配列の機能的な連結が達成される。従って、直線形態の単離された核酸と、または普通は連結しないDNA分子を連結させることによりインビトロで形成される発現ベクターとの両方とも、本発明の意図に関して、組換え体であると考えられる。組換え核酸が作製され、宿主細胞または宿主生物内に再導入された後は、組換え核酸は非組換えにより、すなわちインビトロ操作よりはむしろ宿主細胞のインビボ細胞機構を用いて複製される。しかしながらそのような核酸は、本発明の意図に関して、組換えで産生された後に続いて非組換えで複製されるが、依然として組換え体であると考えられることが理解される。同様に、「組換えタンパク質」は、組換え技術を用いて、すなわち上記に示す通り組換え核酸の発現によって作製されるタンパク質である。
【0067】
抗体に「特異的に(または選択的に)結合する」または「特異的に(または選択的に)免疫反応性を示す」という語句は、タンパク質またはペプチドを指す場合、抗体が関心対象のタンパク質に結合する結合反応を指す。本発明の文脈において、抗体は典型的には、500 nMまたはそれ未満の親和性でPcrVに結合し、他の抗原に対しては5000 nMまたはそれを超える親和性を有する。
【0068】
「同一の」またはパーセント「同一性」という用語は、2つまたはそれ以上のポリペプチド(または核酸)配列の文脈において、下記のデフォルトパラメーターによるBLASTまたはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを用いて、または手動整列化および目視による検査により測定された場合に(例えば、NCBIウェブサイトを参照)、同一であるか、または同一であるアミノ酸残基の特定のパーセンテージのアミノ酸配列(もしくはヌクレオチド) (すなわち、比較ウィンドウ(comparison window)または指定された領域に対して最大限一致するよう比較し整列させた場合、特定の領域に対して約60%の同一性、好ましくは70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性、またはより高い同一性)を有する、2つまたはそれ以上の配列またはサブ配列を指す。次いで、そのような配列を、「実質的に同一である」と言う。「実質的に同一である」配列はまた、欠失および/または付加を有する配列、ならびに置換を有する配列、ならびに天然に存在する変異体、例えば多型変異体または対立遺伝子変異体およびヒトが作製した変異体も含む。下記の通り、好ましいアルゴリズムはギャップなど明らかにすることができる。好ましくは、タンパク質配列同一性は、長さが少なくとも約25アミノ酸である領域にわたって、またはより好ましくは長さが50-100アミノ酸である領域にわたって、または1つのタンパク質の長さにわたって存在する。
【0069】
本明細書において用いられる「比較ウィンドウ」は、典型的には20個から600個、一般的には約50個から約200個、より一般的には約100個から約150個からなる群より選択される数の連続した位置の1つのセグメントに対する参照を含み、ここで配列は、2つの配列を最適に整列させた後に、同一数の連続した位置の参照配列と比較されてもよい。比較のための配列の整列の方法は、当技術分野において周知である。比較のための配列の最適な整列は、例えばSmithおよびWaterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局所的相同性アルゴリズムにより、NeedlemanおよびWunsch, J. MoI. Biol 48:443 (1970)の相同性整列化アルゴリズムにより、PearsonおよびLipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の類似度の検索法により、これらのアルゴリズムのコンピュータ処理による実行により(the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIにおけるGAP, BESTFIT, FASTA, およびTFASTA)、または手動整列化および目視による検査(例えばCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds. 1995 supplement)参照)により、実行されうる。
【0070】
パーセント配列同一性および配列類似性を判定するのに適しているアルゴリズムの好ましい例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムを含み、それらはAltschul et al., Nuc. Acids Res. 25:3389-3402 (1977) およびAltschul et al., J. MoI. Biol. 215:403-410 (1990) に記載されている。BLASTおよびBLAST 2.0は、本明細書において記載されるパラメーターと共に用いられ、本発明の核酸およびタンパク質のパーセント配列同一性を判定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列のための)は、デフォルトとして、11の文字の長さ(W)、10の期待値(E)、M=5、N=-4および両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列に関し、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、3の文字の長さ、および10の期待値(E)を用い、かつBLOSUM62スコアリングマトリックス(HenikoffおよびHenikoff, Proc. Natl Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)) は、50のアライメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=-4および両鎖の比較を用いる。
【0071】
「単離される」、「精製される」または「生物学的に純粋」という用語は、その天然の状態で見られる、通常は伴う構成要素を実質的にまたは本質的に含んでいない物質を指す。純度および均一性は典型的には、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーなどの化学的分析技術用いて判定される。調製物中に存在する優勢種であるタンパク質は、実質的に精製されている。「精製」という用語はいくつかの態様において、タンパク質が電気泳動ゲル中で本質的に1つのバンドを生じることを意味する。好ましくは、タンパク質が少なくとも85%純粋、より好ましくは少なくとも95%純粋、および最も好ましくは少なくとも99%であることを意味する。
【0072】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。該用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに改変された残基を含む天然に存在するアミノ酸ポリマー、および非天然のアミノ酸ポリマーに適用する。
【0073】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号によりコードされるアミノ酸、ならびに後に修飾されるそれらのアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸と同様の基本化学構造、例えば、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスフホニウムなどのR基に結合するα炭素を有する化合物を指す。そのような類似体は、修飾R基(例えばノルロイシン)または修飾ペプチド骨格を有してもよいが、天然に存在するアミノ酸と同様の基本化学構造を保持する。アミノ酸模倣体は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化合物を指す。
【0074】
アミノ酸は本明細書において、一般に知られる3文字記号、またはIUPAC-IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)が推奨する1文字記号のいずれかにより称されてもよい。同様にヌクレオチドは、それらの一般に認められた1文字コードにより称されてもよい。
【0075】
「保存的に改変された変異体」は、アミノ酸配列と核酸配列との両方に適用する。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体は、核酸が、本質的に同一のまたは関連する、例えば天然に連続した配列と同一のもしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする、または核酸がアミノ酸配列をコードしない、変異体を指す。遺伝暗号の縮重のため、多くのタンパク質は数多くの機能的に同一の核酸によりコードされる。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全て、アミノ酸アラニンをコードする。従って、コドンによりアラニンが特定される全ての位置で、コドンは、コードされるポリペプチドを変更することなく記載される別の対応するコドンに変更されうる。そのような核酸の変異は、「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異体の一種である。本明細書において、ポリペプチドをコードする全ての核酸配列はまた、核酸のサイレント変異も表す。当業者は、ある文脈において核酸中の各コドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)が機能的に同一である分子を生じるよう改変されうることを認識している。従って、ポリペプチドをコードする核酸のサイレント変異は多くの場合、実際のプローブ配列ではなく、発現産物について表わされた配列に潜在的に含まれる。
【0076】
アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされる配列内の単一アミノ酸またはわずかな比率のアミノ酸を置換、付加または欠失する、核酸配列、ペプチド配列、ポリペプチド配列またはタンパク質配列に対する置換体、欠失体または付加体のそれぞれが、変更が化学的に類似のアミノ酸によるアミノ酸の置換をもたらす、「保存的に改変された変異体」であることを認識している。保存的な置換の表および機能的に類似のアミノ酸を提供するBLOSUMなどの置換マトリックスは、当技術分野において周知である。そのような保存的に改変された変異体は、多型の変異体、種間相同体、および本発明のアレルを除外するものではなく、多型の変異体、種間相同体、および本発明のアレルに加えられるものである。典型的な相互に保存的な置換は以下を含む:(1)アラニン(A)、グリシン(G); (2) アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E); (3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q); (4)アルギニン(R)、リシン(K); (5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V); (6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W); (7)セリン(S)、スレオニン(T);および(8)システイン(C)、メチオニン(M) (例えば、Creighton, Proteins (1984)参照)。
【0077】
序論
本発明は、抗生物質、例えば、トブラマイシンなどのアミノグリコシド、またはピペラシリンなどのペニシリンが、アンタゴニスト抗PcrV抗体と組み合わせて投与される場合に、P.エルギノーサ感染に対して驚くほど有効な治療計画をもたらすという、驚くべき発見に基づく。いくつかの態様において、抗生物質は、抗PcrV抗体治療用量がさらなる宿主毒性を引き起こさない限りは、そのMTDで投与される。さらなる態様において、抗生物質は有効用量未満で投与され、かつ抗体との組み合わせの治療効果は単純な相加より優れている。
【0078】
いくつかの態様において、抗生物質、例えばトブラマイシンなどのアミノグリコシドと抗体との組み合わせは、血流内への細菌の播種を減少させるという驚くべき効果を有する。従って、いくつかの局面において、本発明は、菌血症を治療または予防する方法を提供する。抗生物質/PcrV抗体の組み合わせが菌血症を治療または予防する能力は、「実施例」の欄で提供される実施例で用いられる通りに、動物モデル、例えばP.エルギノーサ感染のマウスモデルでにおいて測定されうる。
【0079】
さらに、本発明の抗生物質/PcrV抗体の組み合わせ療法は、P.エルギノーサ株がインビトロ耐性を示す抗生物質に対する、P.エルギノーサのインビボでの感受性を増大させる。よって、いくつかの態様において、PcrV抗体と抗生物質との組み合わせは、抗生物質に対していくらかの耐性を有するP.エルギノーサ株に感染した対象に投与される。抗生物質感受性は、例えば、拡散アッセイ法または液体希釈感受性アッセイ法などの当技術分野において周知のアッセイ法を用いて評価されうる。あるいは、抗生物質による治療を受け、かつ臨床的改善を示していない、P.エルギノーサ感染を有する対象は、抗生物質に対してインビボ耐性を有していると見なすことができるか、またはインビボで抗生物質に対して耐性を有する株に感染していると考えられる。従って、抗生物質に対して耐性を有さないP.エルギノーサの株に感染した患者に通常有用でありうる抗生物質の用量は、抗生物質に対して耐性を有するP.エルギノーサの株に感染した患者に有効ではない(sub-efficacious)場合がある。
【0080】
抗生物質に対して「耐性を有する」または「ある程度の耐性を有する」株は、抗生物質治療が細菌の増殖に対して全く効果を示さないほど抗生物質に対して完全に耐性である必要はない。本発明の文脈において、抗生物質に対して「耐性を有する」または「ある程度の耐性を有する」株は典型的には、the Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI)ガイドラインに従って、抗生物質耐性を示す株を指す(例えば、2008/12/30発行のpublication M02-A10、2008/12/30発行のM07-A8、およびM100-S19参照)。
【0081】
患者を治療する方法
本発明は、アンタゴニストPcrV抗体を抗生物質、例えばトブラマイシンなどのアミノグリコシドまたはピペラシリンと組み合わせて投与する段階により、P.エルギノーサ感染を有するかまたはP.エルギノーサ感染を有する危険性がある患者を治療する方法を提供する。いくつかの態様において、抗体および抗生物質、例えばトブラマイシンまたはピペラシリンは、有効量未満で投与される。いくつかの態様において、治療を受ける患者は、嚢胞性線維症を有するか、人工呼吸器関連肺炎(VAP)であるか、好中球減少症の癌患者であるか、または熱傷患者である。
【0082】
本発明の方法は、疾患の治療に適した投与計画を用いて、P.エルギノーサ感染患者に対して薬学的組成物としての抗生物質とPcrV抗体との組み合わせを治療的有効量で投与する段階を含む。抗生物質の投与は、当技術分野において周知である。抗体組成物は、種々の薬物送達システムにおける使用のために製剤化されうる。
【0083】
PcrV抗体は、注射用無菌等張水溶液などの患者への注入に適した溶液の状態で提供される。1つまたは複数の生理的に許容可能な賦形剤もしくは担体もまた、適切な製剤のために組成物中に含まれうる。本発明における使用に適した製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, PA, 17th ed. (1985)で見出される。薬物送達のための方法の簡単な総説については、Langer, Science 249: 1527-1533 (1990)を参照のこと。抗体は、許容可能な担体中に適切な濃度で溶解または懸濁される。いくつかの態様において、担体は、水溶性であり、例えば、水、生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水などである。組成物は、pH調節剤、緩衝剤および浸透圧調節剤などの近似的生理条件に必要とされる補助的な薬学的物質を含んでもよい。
【0084】
抗生物質および抗PcrV抗体は、P.エルギノーサ感染を有する患者に、疾患または疾患およびその合併症の症状を治癒するのにまたは少なくとも部分的に抑えるのに十分な量で投与される。このことを成し遂げるのに適切な量は、「治療的有効量」として定義される。治療的有効量は、治療に対する患者の反応をモニターする段階により判定される。治療的有効量を示す典型的なベンチマークは、患者における感染の症状の緩解、または患者におけるP.エルギノーサのレベルの低減を含む。この使用に有効な量は、疾患の重傷度、および年齢、体重、性別、投与経路などの他の要因を含む患者の一般的な健康状態に依存すると考えられる。抗体および抗生物質の単回投与または複数回投与は、患者が必要としかつ耐えられるような用量および頻度に応じて投与されてもよい。任意の事象において、方法は、患者を有効に治療するのに十分な量のPcrV抗体および抗生物質を提供する。
【0085】
いくつかの態様において、抗体は、抗生物質で治療されているが、抗生物質が臨床的に有効ではない患者に対して、抗生物質と共に投与される。本発明の文脈において、臨床的有効性は、感染患者由来の試料、例えば血液または痰中の細菌の数を減少させる能力を指す。よって、患者由来の試料が、試料中に存在する細菌の数とほぼ同数を示すかまたは該細菌の数における増加を示す場合には、抗生物質は臨床的に有効ではない。
【0086】
いくつかの態様において、抗体/抗生物質の組み合わせは、抗生物質の最大耐量が臨床的に有効ではなかった患者に対して投与される。最大耐量は、臨床的に判定され、かつ許容できない副作用を引き起こさない最高用量である。
【0087】
いくつかの態様において、抗生物質と抗PcrV抗体との組み合わせは、同じ抗生物質を単独で投与した場合と比べて、対象に投与する場合に増大した毒性を有さない。よって、例えば、患者は、抗生物質で治療され、かつ抗生物質による有害な副作用を経験する場合があるが、組み合わせは、有害な副作用に関連する抗生物質の毒性を増大させない。いくつかの態様において、抗体および抗生物質は、相補的な毒性を有する場合があり、ここで抗体など一方の作用物質の毒性は、他方の作用物質、例えば抗PcrV抗体の副作用により悪化しない。抗生物質の様々な毒性効果は、公知である。
【0088】
いくつかの態様において、抗体/抗生物質の組み合わせは、P.エルギノーサ感染の危険性がある患者に投与される。そのような患者は、例えば、別の患者がP.エルギノーサ感染を有している集中治療室などに入院中の患者; 4日間またはそれより長く人工呼吸器を付けている患者; または患者がP.エルギノーサに感染する可能性が高い、例えば、患者がP.エルギノーサに感染した個体に曝露される、嚢胞性線維症などの疾患を伴う患者を含む。
【0089】
抗体および抗生物質はまた、P.エルギノーサ感染を治療するための他の療法と組み合わせて投与されてもよい。本発明の組み合わせ治療では、抗体は、抗生物質の前または後に、例えば同日内にまたは同じ週のうちにまたは同時に、投与されうる。いくつかの態様において、抗体は、抗生物質単独による1回または複数回の初期治療の後に、抗生物質と同時に投与される。
【0090】
抗体は、静脈内経路、皮下経路、筋肉内経路、気管内経路または腹腔内経路を含むがこれに限定されない任意の適切な経路を通じて、注射または注入により投与されうる。いくつかの態様において、抗体は吸入により投与されてもよい。例示的な態様において、抗体は、注射用の滅菌等張水性生理食塩水中に10 mg/ml、4℃で保存されてもよく、患者への投与の前に100 mlまたは200 mlのいずれかの注射用0.9%塩化ナトリウムで希釈される。抗体は、0.2 mg/kgから10 mg/kgの間の用量で1時間にわたって静脈内注入により投与される。他の態様において、抗体は、15分から2時間の期間にわたって静脈内注入により投与される。さらに他の態様において、投与手法は、皮下ボーラス注射による。
【0091】
抗体の用量は、患者に対して有効な治療を提供するために選択され、0.1 mg/kg体重未満から25 mg/kg体重までの範囲、または患者1人あたり1 mg〜2 gの範囲である。好ましくは、用量は、1〜10 mg/kgまたはおよそ50 mg〜1000 mg/患者の範囲である。用量は、抗体の薬物動態(例えば、循環血液中の抗体の半減期)および薬力学的反応(例えば、抗体の治療効果の持続期間)によって、1日あたり1回から3ヶ月毎に1回までの範囲において、適切な頻度で繰り返されてもよい。いくつかの態様において、約7日から約25日の間のインビボ半減期で、抗体投与は、1週間あたり1回から3ヶ月毎に1回の間で繰り返される。他の態様において、抗体は1月あたりおよそ1回投与される。
【0092】
さらなる態様において、抗体はペグ化される。例えば、本発明の抗体は、例えば本明細書において記載の方法を用いてペグ化され、P.エルギノーサに感染した患者へ投与されてもよい。さらなる例として、ペグ化された抗体は、Fab'断片などの抗体断片であってもよい。
【0093】
抗生物質を投与する方法は、当技術分野において周知である。例えば、抗生物質は通常、経口的に投与されるか、あるいは注射により、例えば静脈内に、皮下に、筋肉内に、非経口的に、気管内にまたは脊髄経路もしくは表皮経路を用いて投与される。いくつかの態様において、例えばトブラマイシンなどのアミノグリコシが投与される特定の態様において、抗生物質は、吸入による投与のためにエアロゾル化されうる。
【0094】
抗生物質
いくつかの態様において、抗PcrV抗体と組み合わせて投与される抗生物質は、トブラマイシンなどのアミノグリコシド抗生物質である。アミノグリコシド抗生物質は、合成抗生物質とストレプトマイセス(Streptomyces)種およびミクロモノスポラ(Micromonospora)種から単離された天然抗生物質との両方を指す。これらの抗生物質は、ゲンタマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、アミカシン、アルベカシン、アジスロマイシン、ストレプトマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、およびアプラマイシンを含む。アミノグリコシドの主な不利点の1つは、それらがかなり重篤な副作用を誘導しうることである。本発明は、抗生物質単独で投与する場合より低用量で抗生物質を投与することができる、そのような抗生物質を用いる治療方法を提供する。
【0095】
いくつかの態様において、P.エルギノーサ感染を治療する方法は、抗生物質、例えば、セフタジジム、セフェピム、セフピロム、セフロキシム、セフトリアキソン、セフォタキシムなどのセファロスポリン;またはシプロフロキサシンなどのフルオロキノロン、もしくはレボフロキサシンなどのキノロン;またはペニシリン、ピペラシリンもしくはチカルシリン、アズロシリンなどのウレイドペニシリン;またはメロペネム、イミペネムなどのカルバペネム;またはポリミキシンBおよびコリスチン)などのポリミキシン、ならびにアズトレオナムなどのモノバクタムなどと組み合わせて、抗PcrV抗体を投与する段階を含む。当技術分野において理解されている通り、ピペラシリンなどのウレイドペニシリン抗生物質は典型的には、タゾバクタムなどのペニシリナーゼ阻害剤を含む形態で投与される。用いられうる他の抗生物質は、スルホンアミド、テトラサイクリン、グリシルサイクリン、例えばチゲサイクリン、およびマクロライドを含む。いくつかの態様において、TTSSを誘導する抗生物質、例えばテトラサイクリンが用いられる(Linares et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 103:19484- 19489;2006)。
【0096】
抗PcrV抗体
本発明は、P.エルギノーサ由来のPcrV抗原に対して高親和性で結合し、かつ典型的にはIII型分泌装置の機能的アンタゴニストである抗体と組み合わせて、抗生物質を用いる、P.エルギノーサ感染の治療の方法に関する。本節は、抗体の例、例えば本発明の治療計画で使用されうるヒューマニア化(humaneered)抗体を提供する。
【0097】
本発明における使用のための抗体は典型的には、ヒト生殖系列のVH配列およびVL配列に対して高度な相同性を有する可変領域を含む。重鎖および軽鎖のCDR3配列は、抗PcrVモノクローナル抗体Mab166(Frank et al., J. Infectious Dis. 186: 64-73、2002; および米国特許第6,827,935号)由来の1組の結合特異性決定基(BSD)を含み、かつ本発明の抗体は、PcrVタンパク質上の中和エピトープに対する結合についてMab166と競合する(例えば、米国特許第6,827,935号参照)。
【0098】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、アミノ酸配列
を有する、CDRH3内の最小必須結合特異性決定基を有する。いくつかの態様において、そのような抗体は、XがI、S、またはQである重鎖CDR3配列
を有する。
【0099】
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、アミノ酸FWXTP(ここでXはSまたはGのいずれかであってもよい)を有する、CDRL3内の最小必須結合特異性決定基を有する。BSDがCDR3の一部を形成し、付加配列を用いてCDR3を完成しかつFR4配列を付加する、完全なV領域が作製される。典型的には、CDR3のBSDを除く部分および完全なFR4は、ヒト生殖系列配列で構成される。好ましい態様において、BSDを除くCDR3-FR4配列は、ヒト生殖系列配列と各鎖において多くても2アミノ酸だけ異なる。
【0100】
ヒト生殖系列Vセグメントレパートリーは、51個の重鎖Vセグメント、40個のκ軽鎖Vセグメント、および31個のλ軽鎖Vセグメントからなり、合計3,621組の生殖系列V領域を産生する。加えて、これらのVセグメントの多くに安定な対立遺伝子変異体が存在するが、生殖系列レパートリーの構造的多様性へのこれらの変異体の寄与は限られている。全てのヒト生殖系列Vセグメント遺伝子の配列は、公知であり、the MRC Centre for Protein Engineering, Cambridge, United Kingdomにより提供されるV-ベースデータベース(ワールドワイドウェブ上、vbase.mrc-cpe.cam.ac.ukで)(Chothia et al., 1992, J MoI Biol 227:776-798; Tomlinson et al., 1995, EMBO J 14:4628-4638; Cook et al. (1995) Immunol. Today 16: 237-242; およびWilliams et al., 1996, J MoI Biol 264:220-232参照); またはthe international ImMunoGeneTics database(IMGT)中でアクセスされうる。これらの配列は、本発明の抗体のヒト生殖系列セグメントの参照源として用いられうる。
【0101】
本明細書において記載の抗体または抗体断片を、原核生物のまたは真核生物の微生物システム内で、または哺乳類の細胞などの高等真核生物の細胞内で発現させることができる。
【0102】
本発明において用いられる抗体は、任意の形式で存在することができる。例えば、いくつかの態様において、抗体は、定常領域、例えばヒト定常領域を含む完全抗体であることができるか、または完全抗体の断片または誘導体、例えばFab、Fab'、F(ab')2、scFv、Fv、またはナノボディもしくはラクダ類の抗体などの単一ドメイン抗体であることができる。
【0103】
II. 重鎖
抗生物質と組み合わせて用いるための抗PcrV抗体の重鎖は、以下の要素を含む重鎖V領域を含む。
(1) FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3を含むヒト重鎖Vセグメント配列、
(2) アミノ酸配列
を含むCDRH3領域、
(3) ヒト生殖系列J-遺伝子セグメントが寄与するFR4。
相補的なVL領域と共に上記のCDR3-FR4セグメントと組み合わせてPcrVへの結合を支持するVセグメント配列の例を図8に示す。Vセグメントは、ヒトのVH1サブクラスまたはVH3サブクラスに由来であることができる。いくつかの態様において、Vセグメントは、生殖系列セグメントVH3-30.3と高度のアミノ酸配列同一性を有するヒトVH3サブクラスセグメントである。例えば、Vセグメントは、多くても15残基だけ、かつ好ましくは多くても7残基だけVH3-30.3と異なる。
【0104】
本発明の抗体のFR4配列は、ヒトJセグメントにより提供される。1から6まで番号付けられた6つの重鎖JH領域が存在する。従って、FR4配列は、JH1、JH2、JH3、JH4、JH5またはJH6遺伝子セグメントにより提供されうる。典型的には、本発明の抗体のFR4領域は、FR4を提供するヒト生殖系列JセグメントのFR4領域に対して、少なくとも90%、多くの場合少なくとも91%、92%、93%、94%、95% 96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有する。
【0105】
いくつかの態様において、FR4配列は、ヒト生殖系列JH3セグメントにより提供され、配列
を有する。他の態様において、FR4は、ヒト生殖系列JH6セグメントにより提供され、配列
を有する。
【0106】
CDRH3はまた、ヒトJセグメントに由来する配列も含む。典型的には、BSDを除くCDRH3-FR4配列は、多くても2アミノ酸だけヒト生殖系列Jセグメントと異なる。典型的な態様において、CDRH3中のJセグメント配列は、FR4配列に用いられるJセグメントと同じJセグメントに由来する。従って、いくつかの態様において、CDRH3-FR4領域は、BSDおよび完全なヒトJH3生殖系列遺伝子セグメントを含む。CDRH3配列およびFR4配列の例示的な組み合わせを下記に示す、ここでBSDを太字で、ヒト生殖系列Jセグメント残基を下線で示す。
【0107】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、生殖系列セグメントVH3 30.3に対してもしくは生殖系列 VH1-18セグメントに対して、またはSEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35のVセグメント部分などの図8に示すVH領域のVセグメントの1つに対して、少なくとも90%の同一性、または少なくとも91%、92% 93%、94%、95%、965、97%、98%、99%、もしくは100%の同一性を有するVセグメントを含む。
【0108】
いくつかの態様において、VH領域のVセグメントは、図8に示すCDR1および/またはCDR2を有する。例えば、本発明の抗体は、配列
を有するCDR1; または配列
を有するCDR2を有してもよい。いくつかの態様において、VH領域のCDR2は、半ば辺り、例えばCDR2の8位または9位に位置する負に帯電したアミノ酸を有する。
【0109】
特定の態様において、抗体は、図8に示すVH領域Vセグメントの1つに由来するCDR1とCDR2との両方、および
例えば、
を含むCDR3を有する。従って、本発明の抗PcrV抗体は、例えば配列
を有するCDR3-FR4を有してもよい。他の態様において、抗体は、配列
を有するCDR3を含んでもよい。
【0110】
III. 軽鎖
本発明における使用のための抗PcrV抗体の軽鎖は、以下の要素を含む軽鎖V領域を含む。
(1) FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3を含むヒト軽鎖Vセグメント配列、
(2) 配列FWXTP(ここでXはSまたはGであってもよい)を含むCDRL3領域、
(3) ヒト生殖系列J遺伝子セグメントが寄与するFR4。
VL領域は、VλVセグメントまたはVκVセグメントのいずれかを含む。相補的なVH領域と組み合わせて結合を支持するVλ配列およびVκ配列の例を、図9に提供する。Vκセグメントはヒトの生殖系列JK2セグメントの上流にクローニングされ、Vλセグメントは生殖系列 JL2セグメントの上流にクローニングされる。
【0111】
CDRL3配列は、配列に由来するVセグメントおよびJセグメントを含む。典型的な態様において、CDRL3中のJセグメント配列は、FR4に用いられるJセグメントと同じJセグメント由来である。従って、多くても2アミノ酸だけヒトκ生殖系列のVセグメントおよびJセグメント配列と異なってもよい。いくつかの態様において、CDRL3-FR4領域は、BSDおよび完全なヒトJK2生殖系列遺伝子セグメントを含む。例示的なκ鎖のCDRL3-FR4の組み合わせを下記に示す、ここでBSDを太字で、JK2配列を下線で示す。
【0112】
λ鎖の好ましいCDR3-FR4を下記に示し、ここでBSDを太字で、JL2配列を下線で示す。
【0113】
本発明の抗体のFR4配列は、ヒトJセグメントにより提供される。1から5まで名称を付けられた5つのヒトJκ領域セグメント、および1、2、3 および7と名称を付けられた4つのJλ領域セグメントが存在する。従って、FR4配列は、任意のこれらの生殖系配列により提供されうる。典型的には、本発明の抗体のFR4領域は、FR4を提供するヒト生殖系列JセグメントのFR4領域に対して、少なくとも90%、多くの場合少なくとも91%、92%、93%、94%、95% 96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有する。
【0114】
Vκセグメントは典型的には、VKIサブクラスまたはVKIIIサブクラスのVκセグメントである。いくつかの態様において、セグメントは、ヒト生殖系列のVKIサブクラスまたはVKIIIサブクラスに対して少なくとも80%配列の同一性、例えば、ヒト生殖系列のVKI L12配列に対してまたはヒト生殖系列のVKIII L2配列もしくはVKIIIA11配列に対して少なくとも80%の同一性を有する。例えば、Vκセグメントは、VKI L12と多くても18残基だけ、またはVKIII A11もしくはVKIII L2と多くても12残基だけ異なってもよい。他の態様において、本発明の抗体のVL領域Vセグメントは、ヒト生殖系列VKI L12に対して、またはヒト生殖系列VkIII L2配列に対して、またはヒト生殖系列VKIII A11配列に対して、または図9に示すVL領域のκVセグメント配列、例えばSEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、もしくは37のVセグメント配列に対して、少なくとも85%の同一性、または少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%の同一性を有する。
【0115】
いくつかの態様において、VLのVセグメントはヒト生殖系列Vλセグメントに対応する。従って、いくつかの態様において、Vセグメントは、SEQ ID NO: 28、30、32、または34のVセグメント配列などの図9のVL領域のVλVセグメントに対して、少なくとも85%の同一性、または少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%の同一性を有する。
【0116】
いくつかの態様において、VL領域のVセグメントは、図9に示すCDR1および/またはCDR2を有する。例えば、本発明の抗体は、
のCDR1配列、またはCDR2配列
を有してもよい。他の態様において、抗体は、
のCDR1配列、またはCDR2配列
を有してもよい。
【0117】
特定の態様において、本発明の抗PcrV抗体は、図9に示されているVL領域のVセグメントの1つに示される、CDR1およびCDR2の組み合わせ、ならびにFWXTPを含むCDR3配列を有してもよく、ここでXがSまたはGであり、例えばCDR3は
であってもよい。いくつかの態様において、そのような抗PcrV抗体は、
であるFR4領域を含んでもよい。従って、本発明の抗PcrV抗体は、例えば図9に示すVL領域の1つに由来するCDR1とCDR2との両方、および
であるCDR3-FR4領域を含みうる。
【0118】
IV. PcrV抗体の調製
本発明の抗PcrV抗体は、SEQ ID NO: 1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、または35の任意のVH領域を、SEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36または37の任意のVL領域と組み合わせて含んでもよい。
【0119】
抗体は、III型分泌システムに拮抗する活性を抗体が保持することを確認するために試験されてもよい。アンタゴニスト活性は、細胞毒性試験を含む多くのエンドポイントを用いて測定されうる。例示的なアッセイ法は、例えば米国特許第6,827,935号に記載される。P. エルギノーサ感染を治療するために投与される抗体は、Mab166のIII型分泌経路アンタゴニスト活性の少なくとも75%、好ましくは80%、90%、95%、または100%を好ましくは保持する (米国特許第6,827,935号)。
【0120】
高親和性抗体は、結合活性および親和性を測定するための周知のアッセイ法を用いて同定されてもよい。そのような技術は、ELISA法、ならびに表面プラズモン共鳴またはインターフェロメトリーを用いる結合測定を含む。例えば、親和性は、ForteBio(Mountain View, CA)Octetバイオセンサーも用いるバイオレイヤー(biolayer)インターフェロメトリーにより測定されうる。
【0121】
典型的には本発明の抗体は、Mab166とPcrVへの結合について競合する。Mab166が結合するPcrVの領域は、同定されている(米国特許第6,827,935号)。Mab166に結合するPcrVまたはその断片は、競合的結合アッセイ法で使用されうる。本明細書において記載されるPcrVへの結合について抗体がMab166を阻止するかまたはMab166と競合する能力は、抗体がMab166と同じエピトープに結合するか、またはMab166が結合するエピトープに近接するエピトープ、例えば重複するエピトープに結合することを意味する。他の態様において、本明細書において記載される抗体、例えば表1に示すVH領域とVL領域との組み合わせを含む抗体は、別の抗体がPcrVへの結合において競合するかどうかを評価するための参照抗体として用いられうる。試験抗体の存在下で参照抗体の抗原への結合を、少なくとも30%まで、通常少なくとも約40%、50%、60%または75%まで、大抵は少なくとも約90%まで減少させた場合、試験抗体は、参照抗体の結合を競合的に阻害すると見なされる。ELISAならびにイムノブロットなどの他のアッセイ法を含む多くのアッセイ法が、結合を評価するために使用されうる。
【0122】
いくつかの態様において、抗PcrV抗体は、III型分泌配列を拮抗する必要はない。例えば、PcrVに結合する本発明の抗体は、免疫系の複数の細胞型をリクルートし(recruit)、マクロファージによる食作用、マクロファージまたはNK細胞による抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体カスケードの活性化、および/または好中球による酸化的バーストの発生を刺激し、その結果、細菌、すなわちP. エルギノーサの死を引き起こすことができる。さらに、全ての抗体可変領域は、活性化された好中球により与えられる一重項酸素の酸化還元反応を触媒することができ、オゾン、炎症反応をも刺激する強力な抗菌物質(例えば、Babior et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 100:3031-3034, 2003参照)を含む、細菌に直接的に有害である様々な極めて強力な酸化剤の発生をもたらすことができる(例えば、Wentworth et al., Proc. Natl Acad. Sci USA 97:10930-10935, 2000参照)。実際、補体活性化およびオゾン発生により誘導される炎症は、免疫系のさらなる要素をリクルートし、さらに免疫性を高める可能性を有する。そのような抗体は典型的には、50 nMまたはそれ未満、典型的には約10 nM未満の親和性を有する。
【0123】
抗生物質と組み合わせて用いられる非中和抗PcrV抗体および中和抗PcrV抗体は、強力な治療効果を提供する。
【0124】
ヒト生殖系列配列に近いV領域配列を有する抗体の単離のための方法は、以前に記載されている(米国特許出願第20050255552号および同第20060134098号)。抗体ライブラリーを、哺乳類の細胞、酵母細胞または原核細胞を含む、適した宿主細胞中で発現させてもよい。いくつかの細胞システムにおける発現について、シグナルペプチドは、細胞外培地への直接分泌のためにN末端に導入されうる。抗体は、シグナルペプチドの有無にかかわらず、大腸菌(E. coli)などの細菌細胞から分泌されてもよい。大腸菌から抗体断片をシグナル無しで分泌するための方法は、米国特許出願第20070020685号に記載されている。
【0125】
PcrV結合抗体を作製するために、本発明のVH領域の1つを本発明のVL領域の1つと組み合わせ、適切な発現システム内で多くの形式で発現させる。従って、抗体を、scFv、Fab、Fab'(免疫グロブリンヒンジ配列を含む)、F(ab')2(2個のFab'分子のヒンジ配列間のジスルフィド結合形成により形成される)、全免疫グロブリンもしくは切断型免疫グロブリンとして、または融合タンパク質として、原核宿主細胞または真核宿主細胞において宿主細胞内でまたは分泌により発現させてもよい。メチオニン残基は、例えばシグナル無しの発現システムで産生されるポリペプチドにおいて、N末端に任意で存在してもよい。本明細書において記載のVH領域はそれぞれ、各VL領域と対になり、抗PcrV抗体を生じることができる。例えば、VH3 1080-2Fは、2つの異なるλ軽鎖(1080-2Fおよび1080-11E)と対を形成するライブラリーから同定された。κ鎖1069-3Fは、VH3 1069-3FとおよびVH3 1100-3と対になり同定された。重鎖および軽鎖の例示的な組み合わせを表1に示す。
【0126】
(表1)例示的な抗体の重鎖および軽鎖の組み合わせ
【0127】
多くの態様において、本発明の抗体は、P. エルギノーサ III型分泌システムに拮抗し、典型的にはPcrVへの高親和性結合を示す。抗体と抗原との間の高親和性結合は、抗体の親和性が500もしくは100 nM未満、例えば50 nM未満、または25 nM未満、または10 nM未満、または1 nM未満、例えば約100 pM未満である場合に存在する。本発明の抗体は、例えばELISA、表面プラズモン共鳴アッセイ法またはインターフェロメトリーを用いてFabとしてアッセイする場合、典型的には50 nMまたはそれ未満、多くの場合10 nMまたはそれ未満の親和性を有する。表1はそのような抗体の例を提供する。
【0128】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、細胞毒性試験においてMab166より強力である。
【0129】
抗体は、原核生物発現システムと真核生物発現システムとの両方を含む、多くの発現システムを用いて産生されてもよい。多くのそのようなシステムは、商業的供給者から広く入手可能である。抗体がVH領域とVL領域との両方を含む態様において、VH領域およびVL領域を、単一のベクターを用いて、例えばジシストロニックな発現ユニット内でまたは異なるプロモーターの制御下で、発現させてもよい。他の態様において、VH領域およびVL領域は、異なるベクターを用いて発現させてもよい。本発明の抗体は、N末端のメチオニンの有無にかかわらず発現させてもよい。従って、本明細書において記載のVH領域またはVL領域は任意で、N末端にメチオニンを含んでもよい。
【0130】
本発明の抗体は、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、またはdABを含む、多くの形式で産生されてもよい。本発明の抗体はまた、ヒト定常領域を含むことができる。軽鎖の定常領域は、ヒトのκ定常領域またはλ定常領域であってもよい。重鎖定常領域は、多くの場合γ鎖定常領域、例えばγ-1、γ-2、γ-3、またはγ-4定常領域である。他の態様において、抗体はIgAであってもよい。
【0131】
いくつかの態様において、抗体は、ヒトに投与される場合、「非免疫原性」である。本明細書で用いられる「非免疫原性」という用語は、ヒトに投与される場合、抗PcrV抗体に対して抗体産生を誘発しない本発明のPcrV抗体を指す。抗体は、公知のアッセイ法、例えば実施例5に記載の電気化学発光イムノアッセイ法を用いて免疫原性について評価されうる。そのようなアッセイ法は、患者に投与された抗PcrV抗体と反応し、患者、例えば患者由来の血清試料中に存在する抗体のレベルを検出する。アッセイ法は、例えば抗体を投与されていない個体由来の対照試料と比較して、抗PcrV抗体に対する検出可能な抗体が試料中に存在しない場合、抗体が非免疫原性であることを示すと考えられる。
【0132】
V. 抗体のペグ化
いくつかの態様において、例えば抗体が断片である場合、抗体は、別の分子、例えばポリエチレングリコール(ペグ化)または血清アルブミンに結合され、インビボにおける半減期を延長することができる。抗体断片のペグ化の例は、Knight et al. Platelets 15:409, 2004 (abciximabについて); Pedley et al., Br. J. Cancer 70:1126, 1994 (抗CEA抗体について); Chapman et al., Nature Biotech. 17:780, 1999; およびHumphreys, et al., Protein Eng. Des. 20: 227,2007)で提供される。
【0133】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、Fab'断片の形態である。全長軽鎖は、VL領域のヒトκ定常領域またはヒトλ定常領域への融合により産生される。いずれの定常領域も任意の軽鎖に対して用いることができるが、典型的な態様において、κ定常領域がVκ可変領域と組み合わせて用いられ、かつλ定常領域がVλ可変領域と共に用いられる。
【0134】
Fab'の重鎖は、ヒト重鎖定常領域配列、第1定常(CH1)ドメインおよびヒンジ領域に対する、本発明のVH領域の融合により産生されるFd断片である。重鎖定常領域配列は、任意の免疫グロブリンクラス由来でありうるが、IgG由来である場合が多く、かつIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来であることができる。本発明のFab'抗体はまた、ハイブリッド配列であってもよく、例えばヒンジ配列が1つの免疫グロブリンサブクラス由来で、CH1ドメインが異なるサブクラス由来であってもよい。好ましい態様において、CH1ドメインおよびヒンジ配列を含む重鎖定常領域は、ヒトIgG1由来である。
【0135】
Fab'分子は、公知の方法を用いてペグ化されうる。重鎖のヒンジ領域は、ポリエチレングリコール誘導体への結合に適したシステイン残基を含む。ヒンジ配列は、免疫グロブリン重鎖の完全な天然のヒンジ領域であってもよいか、または1つまたは複数のアミノ酸により切断されてもよい。いくつかの態様において、ヒンジ領域は、改変された配列または合成の配列であってもよい。さらなる態様において、ヒンジは、天然の免疫グロブリンヒンジ配列であり、2個のシステイン残基を含む。
【0136】
いくつかの態様において、Fab'分子は、部位特異的結合によりメトキシポリエチレングリコールのマレイミド誘導体(mPEG-mal)に結合されうる。mPEG-malは、例えば10から40 kDの間の平均分子量を有しうる。PEGは、分岐PEGまたは直鎖PEGであってもよい。いくつかの態様において、mPEG-malは、直鎖分子であり、約30 kDの分子量を有する。1つまたは複数のmPEG-malの分子は、各Fab'分子に結合する。mPEG分子は、チオエーテル結合を介してmPEG-malのマレイミド部分とFab'重鎖のヒンジ領域内の1つまたは複数のシステイン残基との間で結合し、ペグ化Fab'分子を形成する。mPEG-malは、タンパク質上のチオール基へのマレイミド誘導体の結合について当技術分野において公知の方法を用いるチオエーテル形成に適切なバッファー中かつ適切な条件下で結合されうる。
【0137】
Fab'は、ヒンジシステイン基が酸化型である形態で発現システムから産生されてもよい。この場合、Fab'は結合の前に還元工程に供される場合がある。遊離のヒンジチオールの産生に適した還元剤およびヒンジシステインの選択的還元のための方法は、当技術分野において公知であり、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール、β-メルカプトエチルアミン(MEA)およびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンなどの非チオール還元剤の使用を含む。いくつかの態様において、還元は、ヒンジシステインが選択的に還元され、ペグ化がヒンジで優先的に起こるような条件下で行われる。典型的には、ペグ化されたFab'は、ヒンジ内の両システイン残基のペグ化のため、2分子のmPEGを含む。いくつかの態様において、ヒンジ領域内に変異を導入し、システイン残基の1つを別のアミノ酸に置換してもよい。mPEG-malを用いたそのような変異の誘導体化は、モノペグ化Fab'の産生をもたらす。
【0138】
例えばPEGがヒンジで導入されない、ペグ化の他の方法もまた、公知である。例えば、上記Humphreys et al.は、Fabの重鎖と軽鎖の間の鎖間のジスルフィド結合の破壊によるヒンジ領域外のシステイン残基のペグ化のための方法を記載する。
【0139】
ペグ化Fab'を精製するための方法は、当技術分野において公知である。そのような方法は、例えばサイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーを含む。
【実施例】
【0140】
実施例1. 抗生物質、抗PcrV抗体の組み合わせ療法のインビボにおける効果
材料と方法:
抗生物質およびMab166の調製
4種類の抗シュードモナス抗生物質を本実施例で用いた:シプロフロキサシン(Bayer HealthCare, NJ)、セフタジジム(GSK, UK)、トブラマイシン(Abraxis, IL)およびピペラシリン(Wyeth, PA)。抗生物質溶液を、使用直前に作った。抗PcrV抗体Mab166を、滅菌PBSで3 mg ml-1の作業濃度に希釈した。
【0141】
マウスにおける細菌の投与と肺損傷の測定
アベルチン(250 mg kg-1;ip)による麻酔の後、50μlの量の細菌の作業保存液(1.5×106CFU)を、27Gの強制栄養針(gavages needle)を用いて気管を通って左肺内に点滴注入し、マウスに接種した。マウスを、ケージに戻す15分間前に覚醒させた。マウスは、接種後30分、活動的でありかつ正常に見えた。直腸温度を、細菌の点滴注入後の最初の12時間については1時間毎に記録し、その後7日間毎日測定した。各マウスの生存時間を記録した。
【0142】
肺損傷(トブラマイシン処置群における)を調べるために、細菌の点滴注入の8時間および24時間後に各群3匹のマウスを安楽死させた。開胸後に、血液試料を、右心室穿刺を用いてクエン酸ナトリウムチューブ中に無菌的に収集した。肺損傷の測定のために、肺を取り除き、重さをはかり、ホモジナイズした。過剰な肺水分(ELW)および乾湿重量比を、以前に記載の通りに計算した(Hijazi, et al. Sem. in Resp. and Crit. Care Med. 21:245-262, 2000)。
【0143】
抗生物質およびPcrV抗体の投与
Mab166(総量100μl中にマウス1匹あたり300 μg)を、P.エルギノーサ点滴注入の1時間前に、尾静脈を通じて投与した。このMab166の準最適(sub-optimal)濃度は、マウス1匹あたり400 μgを用いた以前の研究が完全な防御(100%生存)を示していたことから、選択された。全ての抗生物質を、P.エルギノーサ点滴注入の1時間後に、腹腔内に投与した。各抗生物質4種類の用量をマウスで試験し、3×致死量の細菌である1.5×106 PA103 CFUに感染したマウスにおいて、準最適生存率(40〜60%)をもたらすために必要とされる用量を測定した。抗生物質投与の用量およびタイミングは以下の通りであった:本試験期間中にシプロフロキサシン(100 mg kg-1; Q8H),トブラマイシン (3.3 mg kg-1; Q8H)およびセフタジジム(1000 mg kg-1; Q8H)。
【0144】
細菌の計数
肺を胸腔から無菌的に取り除き、1 mlの滅菌PBS中に置き、かつホモジナイズした。脾臓を無菌的に取り除き、1 mlのPBSでホモジナイズし、かつ血液を右心室穿刺から抜き取った。全ての試料を、滅菌PBSで連続的に希釈し、37℃で一晩インキュベーションする前にP.エルギノーサ単離寒天上に蒔いた。30個から300個の間の細胞数を有するプレートを計数し、3回の計数の平均CFU ml-1を各試料に対し計算した。
【0145】
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)アッセイ法
細菌の計数のために収集した500 μlの血液を10,000 rpmで10分間4℃で遠心分離し、血漿を得た。マウスミエロペルオキシダーゼELISAキット(Cell Science, MA)を用いて、マウス血漿試料のMPO活性を製造者の使用説明書に従って測定した。
【0146】
Mab166力価
上記で得た血漿を用いて、抗原結合ELISAを用いてMab166の力価を測定した。
【0147】
PA103抗生物質感受性
Dade Behring MicroScan Neg Comboプレートを用いて、製造者の使用説明書に従う通常の抗生物質感受性試験により、PA103の抗生物質感受性を測定した。
【0148】
統計
Kaplan-Meierプロットを生存解析に対して作成し、ANOVAを用いて、特定の時点での種々の処置群における肺損傷スコア、細菌CFU活性およびMPO活性を比較した。P≦0.05を有意と見なす。
【0149】
結果
Mab166/抗生物質の組み合わせ療法はマウスの生存を改善する。
尾静脈内に投与した400 μg のMab166は、PBSを注射した対照と比較して、1.5×106CFUのP.エルギノーサPA103に感染したマウスの100%生存をもたらした(データは示さず)。本試験では、抗生物質投与との組み合わせたMab166の投与がマウス生存を改善するかどうか判定するために、準最適の防御が必要であった。従って、P.エルギノーサ点滴注入の1時間前にマウスの尾静脈を通じて注射される、PBS単独および3つの濃度のMab166(100、200および300 μg)を用いて、用量依存的生存曲線を実施した。マウス生存は、Mab166の濃度が増加するにつれて高まり(表2)、300 μg Mab166はおよそ36時間(±5.5 h)の平均生存時間をもたらした。この濃度によって、処置群と対照群との間で決定されるべき生存における明確な差異を可能にしたため、その後全ての試験でこの濃度を選択した。
【0150】
(表2)Mab166用量依存的な急性感染生存時間
aSEM、平均の標準誤差
【0151】
長期的な実験計画を立て、抗シュードモナス抗生物質と組み合わせたMab166の投与がマウス気道感染の急性モデルでマウス生存を改善するかどうかを判定した。各抗生物質を調べるために、動物を4群、対照群(処置無し)および3つの処置群(Mab166単独、抗生物質単独、Mab166と抗生物質との組み合わせ)に分けた。4種類の抗生物質、セフタジジム、シプロフロキサシン、トブラマイシン、およびピペラシリン/タゾバクタムの組み合わせについて、本実験計画を用いて試験した。急性感染株P.エルギノーサPA103を本試験のために用いた。この株の通常の抗生物質耐性試験、およびClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)ガイドラインを用いた結果の解釈は、この試験で用いられるセフタジジム、シプロフロキサシン、およびトブラマイシンの抗生物質に対して感受性であることを示した。株は、ピペラシリンに対して多少の抵抗性を有していた。
【0152】
全ての群でマウスは、P.エルギノーサ点滴注入後に体温の急速な(4時間以内)低下を示した。対照群のマウスの体温は死に至るまで連続的に下がったが、Mab166単独処置群の動物は、死ぬ数時間前に低いながらも体温の維持を示した(図1A)。抗生物質単独処置群またはMab166/抗生物質の組み合わせ処置群のマウスの体温は、最初の低下の後に正常体温近くまで回復した。興味深いことに、Mab166/抗生物質処置群のマウスは、抗生物質単独処置群が示した体温と比べて、より正常に近い、わずかに高い体温を一貫して示した(図1A)。
【0153】
生存曲線は、各実験の対照マウスが常に感染後およそ14時間で死ぬことを示した(図1B、表2)。Mab166単独投与は、未処置の対照群の動物と比べて、マウス生存時間を実質的に延長した(図1B、表2)。抗生物質処置群のマウスは、対照群とMab166処置群との両群と比べて、さらなる生存の高まりを示した(図1B)。生存の改善は、抗生物質依存性であり;シプロフロキサシン、トブラマイシンおよびセフタジジムで処置したマウスは、7日間を通してそれぞれ80%、60%および40%の生存率を示した。この違いは、マウスモデルにおけるこれら様々な分類の抗菌剤それぞれに対する薬物動態および薬力学的反応の相違による可能性がある。しかしながら、Mab166と抗生物質(シプロフロキサシン、トブラマイシンまたはセフタジジム)との組み合わせによって処置された動物は常に、7日間を通して抗生物質処置マウスと比べて優れた生存率を示した(図1B)。組み合わせで処置したマウスは、Mab166/シプロフロキサシンの組み合わせおよびMab166/トブラマイシンの組み合わせで100%の生存率を示す一方で、Mab166/セフタジジムの組み合わせは、この期間を通して80%の生存率であった。全体的には、組み合わせ療法は、対照マウスおよびMab166単独で処置されたマウスと比べて、生存率を最大で100%まで増加させた。次に最も効果的な処置群、抗生物質で処置したマウスと比較して、組み合わせ処置は、7日の観察期間を通して最大で40%まで生存を改善した。
【0154】
Mab166/抗生物質の組み合わせ療法は肺損傷を減少させる。
Mab166/トブラマイシンの組み合わせ処置は、試験した他の処置群と比べて、マウス生存を明らかに増加させた。この生存の改善の原因を判定するために、本発明者らは最初に、以下の各処置群における肺損傷の程度を調べた: 未処置の対照、Mab166、トブラマイシンまたはMab166/トブラマイシン。各群3匹のマウスを、感染後8時間(未処置の対照マウスの死の直前)および24時間(Mab166処置マウスの死の直前)で安楽死させた。トブラマイシン群およびMab166/トブラマイシンの組み合わせ群で生き残ったマウスを、感染後144時間で安楽死させた。
【0155】
乾湿重量比および過剰な肺水分を、各時点で各群のマウスに対して測定した。感染後8時間で、未処置の対照群は、Mab166、トブラマイシンまたはMab166/トブラマイシンで処置したマウスと比べて、より大きな乾湿重量比および過剰な肺水分を示す、最大の肺損傷を示した(図2Aおよび2B)。この時点で、Mab166/トブラマイシン処置群は、対照群、Mab166のみの処置群またはトブラマイシンのみの処置群と比べて、有意に低い肺損傷を示した(図2Aおよび2B)。感染後24時間で、同様の傾向が観察され;組み合わせ療法処置マウスは、Mab166のみの処置群またはトブラマイシンのみの処置群と比べて、肺損傷の有意な低減を示した(図2Aおよび2B)。感染後144時間までには、トブラマイシン処置群およびMab166/トブラマイシン処置群のマウスのみが、解析に使用可能であった。この時点では、これら2つの処置群の間で乾湿比および過剰な肺水分の測定に有意な差は検出されなかった(図2Aおよび2B)。
【0156】
Mab166/トブラマイシンの組み合わせ療法は感染動物の肺内の好中球を保護する。
組み合わせ療法が感染マウスのより良好な生存をもたらすメカニズムを調査するために、BAL(気管支肺胞洗浄、H&E染色によるサイトスピン)液中の好中球の数を感染後8時間のマウスで解析した。Mab166またはトブラマイシン単独処置動物と比べて、Mab166/トブラマイシンの組み合わせ処置動物は、BAL液中の有意に高い(P < 0.05からP < 0.01)数の無傷の好中球(図3)と、より良好な生存とを示した。理論にとらわれないが、これらの結果は、抗体によるTTSS阻害が肺内で好中球の保護をもたらすという仮説と一致する。これらの動物の肺は感染後8時間で最高レベルの免疫細胞(好中球)を有するため、組み合わせ処置がマウスの生存を改善させるという事実は驚くべきものである。高レベルの細胞は、肺に炎症性傷害をもたらし、その結果生存を低減させる可能性がある。結果は、抗生物質と抗体との組み合わせ療法が感染に対する制御された応答を可能にし、そのため単一療法より優れているということが示唆され、特にここでP.エルギノーサは、抗生物質に対して耐性を有するかまたは部分的に耐性を有する。
【0157】
Mab166/トブラマイシンの組み合わせ処置は肺内の細菌数を低減しかつ血液内への細菌の播種を予防する。
組み合わせ療法を投与したマウスの生存の改善の原因をさらに調べるために、対照群、Mab166処置群、トブラマイシン処置群、およびMab166/トブラマイシン処置群のマウス由来の気道試料、血液試料および脾臓試料を平行して収集した。これらの試料を、材料と方法に記載した通りに細菌CFUについて解析した。これらのマウスの肺内で検出された総CFUは、対照マウスと比較して、感染後8時間および24時間の両方でMab166/トブラマイシンの組み合わせ処置試料およびトブラマイシン処置試料の総CFUについて有意に低かった(図4A)。準最適濃度のMab166の投与は、マウスの肺内の細菌数を減少させず、実際にはこの群のマウスCFUの数を8時間から24時間まで有意に(p<0.03)増加させた。しかしながら、肺損傷は、この期間にこのマウス群で増大せず(図2)、細菌数は増加するが、これらのマウスの気道には細菌存在による気道損傷を予防するのに十分な力価のMab166が存在したということが示唆された。
【0158】
脾臓で検出された細菌CFUは、感染後8時間で4群のマウス全体を通して比較的類似していた(1桁未満の数の相違)。しかしながら、感染後24時間までには、脾臓における細菌細胞数は、Mab166のみの処置群(P=0.02)およびトブラマイシン処置群(P=0.038; 図4B)で有意に増加していた。Mab166/トブラマイシン処置群のみが、脾臓で安定的に低い細菌CFUの数値を示し、時間と共に増加しなかった(図4B)。Mab166処置群およびトブラマイシン処置群で脾臓に細菌が広がっていたという観察は、(それぞれの8時間CFUと比べて)感染後24時間のこれら処置群両方のマウスの血液中でP.エルギノーサCFUの有意な(それぞれP=0.01, P=0.0046)増加が検出されたことにより、裏付けられた。Mab166/トブラマイシン処置群は、感染後8時間および24時間の両方で血液中に細菌コロニーの形跡を何ら示さず、細菌の播種がこの処置群の動物では起こらなかったことが示唆された。Mab166/トブラマイシン処置マウスの血液中のMab166力価のその後の解析は、1 ml当たり最大4 μgの抗体濃度が投与7日後に存在していたことを示した。この力価は、Mab166の単回注射(300 μg ml-1)により達成された。
【0159】
Mab166/トブラマイシンの組み合わせ療法は血液中の好中球リクルートメント(recruitment)を低減させる。
組み合わせ療法が血液中のより低い細菌数をもたらし、その結果好中球の乏しいリクルートメントおよび活性をもたらすことを確認するために、本発明者らは、細菌のCFU計数で用いた同じマウスから感染後8時間および24時間で収集した血漿に対して、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)アッセイ法を行った(図5)。他の群と比較して、Mab166/トブラマイシンの組み合わせ処置動物は、8時間および24時間の両方で有意に低い(P=0.04および0.05)MPO活性示し、細菌数がこの組み合わせ処置を受けた動物の血液中ではより低かったという観察を確認した。
【0160】
マウスにおけるP.エルギノーサ気道感染に対するピペラシリンとPcrV抗体との組み合わせ療法。
抗PcrV抗体を、P.エルギノーサ点滴注入1時間前に静脈内に注射した。次いで、気管内への1.5×106 CFUのPA103の点滴注入前に、マウスにアベルチン(250 mg/kg)で麻酔した。P.エルギノーサ点滴注入の1時間後に腹腔内へのピペラシリン(1000 mg/kg, Q8H)注射が始まり、マウスが息が絶えるまで繰り返した。ピペラシリンは、投与の標準的な実施である、タゾバクタム(ペニシリナーゼ阻害剤)と組み合わせて投与された。本実施例において、「ピペラシリン」は、タゾバクタムと組み合わせたピペラシリンを指す。抗PcrV抗体Mab166抗体を、P.エルギノーサ点滴注入の1時間前に300 μgの量で静脈内に投与した。4群の動物(1群あたり5動物)を解析した: 処置を受けなかった対照動物; PcrV抗体だけで処置した動物; ピペラシリンだけで処置した動物; およびPcrV抗体にピペラシリンを加えた組み合わせで処置された動物。
【0161】
体温は4つ全ての処置群で急激に下落したが、Mab166群およびMab166とピペラシリン群は、動物死亡の前に体温の緩やかな回復を示した(図6)。
【0162】
生存曲線(図7)は、各実験で対照マウスが、感染後およそ14時間で一定して死んだことを示した。ピペラシリン処置は、動物生存をわずかに増加させた。Mab166投与は、未処置対照群またはピペラシリン処置群の動物と比べて、マウス生存時間を実質的に延長した。また一方、Mab166およびピペラシリン処置群のマウスは、最大の生存を示した。
【0163】
要約
P.エルギノーサ感染の治療に対する抗生物質とPcrV抗体との組み合わせの効果を調べるために、本発明者らは、P.エルギノーサPA103の、90%の動物を殺すのに必要な致死量の3倍である、1.5×106CFUの圧倒的多数の接種源を用いる、急性感染のマウスモデルを使用した。加えて、本発明者らは、準最適濃度のMab166を用いて、抗菌剤との組み合わせの投与がマウス生存を改善するかどうかを判定した。
【0164】
対照群および3つの治療群:抗生物質、Mab166、またはMab166と抗生物質との組み合わせに、動物を分けた。対照マウスは典型的には、接種後およそ14時間で死んだ。準最適Mab166療法で処置した動物は、およそ36時間まで生存の増加を示したが、これは、抗生物質処置マウスまたはMab166と抗生物質との処置マウスと比べて、実質的に低い生存を意味する。一貫して、Mab166と抗生物質(分類にかかわらず)との組み合わせは、最高の生存を生じ; いくつかの場合、試験群の全てのマウスが感染後168時間(7日)生存した。組み合わせ療法は、抗生物質処置単独と比べ、最大で40%まで動物の生存を改善し、動物生存を促進する抗生物質と抗体との間の相乗効果を示す。
【0165】
組み合わせ療法群で生存が高まった原因を判定するために、本発明者らは、様々な動物群において肺損傷のいくつかの局面を比較した。肺損傷の指標として乾湿重量および過剰な肺水分の測定を用いて、組み合わせ処置群が、他の処置群と比較して、感染後最初の24時間を通じて有意に少ない肺損傷を示した。感染後144時間までには、抗生物質処置群と組み合わせ処置群との両方に存在する肺損傷は、有意に異なっておらず、この局面はこれら2群間で観察された生存の相違の原因となる重要な差ではないことが示唆された。
【0166】
急性P.エルギノーサ感染を有する患者は一様に、気道からの感染の播種のために、多臓器不全で死亡する。ExoU+ P.エルギノーサ株は、より一般的に急性侵襲性感染に関連し、かつより頻繁に血液から単離される。気道からのPA103(ExoU分泌)の広がりが、対照群と処置群の生存の相違に役割を果たすかどうかを判定するために、肺中、血液中および脾臓中の細菌を計数した。対照群およびMab166のみの処置群では、細菌数は、比較的同等であり、抗生物質のみの処置動物または組み合わせ処置動物で検出された細菌数より感染8時間後で有意に高かった。多数の細菌細胞が存在するにもかかわらず、Mab166処置群は、感染8時間後で有意に少ない肺損傷を示し、上皮損傷に対する抗体による保護および菌血症の予防が、感染初期での対照群とMab166処置群との間の動物生存の主要な相違であったことが示唆された。本試験でこれらの動物に投与されるMab166の用量は、準最適用量であり、おそらく、飽和効果と増殖集団中の全P.エルギノーサ細胞の細胞障害効果を抗体が中和できないということとをもたらす(肺内の細菌CFUおよび肺損傷が、感染24時間後のこの処置群で有意に増大していた)。血液中および脾臓中の細菌数もまた、感染24時間後のMab166処置群で劇的に増加した。全体として、これらの観察は、準最適濃度のMab166は、感染の初期に肺損傷を減少させる一方で、ExoU分泌株による圧倒的な感染の場合には、長期的な気道上皮傷害および感染の他の臓器への播種を予防するには不十分であることが示唆された。
【0167】
トブラマイシン処置群について、組み合わせ処置群と比べて、感染の初期に大きな肺損傷をこの群で観察した。さらに、細菌細胞は、この処置群の動物の気道では安定していたが、感染後最初の24時間を通して血液および脾臓では有意に増加した。このような場合には、抗生物質は、感染時に局所的に細菌増殖を減ずることができるが、細菌細胞の別々の臓器および血液への播種を妨げるのには十分ではない。対照的に、Mab166と抗生物質との組み合わせ処置動物は常に、最小の肺損傷、安定的な気道の細菌数を示し、血液中または脾臓中にCFUの形跡は示さなかった。MPO測定は、細菌数が組み合わせ両方を受けた動物の血液中で最低であったという主張を裏付ける。従って、急性侵襲性感染の予防は、組み合わせ処置動物における動物生存の改善に貢献する極めて重要な差であると考えられる。
【0168】
ピペラシリンを用いた結果は、高用量のピペラシリンが生存を極わずかに増加させるが、Mab166処置は生存期間を有意に増加させるということを示す。組み合わせ療法(Mab166およびピペラシリン)は、マウス生存時間を有意に増加させた。通常の抗生物質耐性試験は、PA103はピペラシリンに感受性であることを示したが、マウスの死亡から評価される通り、この株のインビボにおける耐性はより大きいと考えられる。このことは、マウスモデル中でこの抗生物質の薬物動態または薬力学的反応が変化しているためであると推定される。しかしながら、他のより強力な抗生物質による実験と同じように、Mab166とピペラシリンとの組み合わせ投与の保護効果は、これら療法の各々を別々に投与した場合と比べて、高い優位性を示した。
【0169】
P.エルギノーサは、重大な臨床的問題である。この種による血流の感染は、特に問題であり、18%〜62%の範囲にわたる死亡率を有する(Vidal et al., Arch. of Int. Med. 156:2121-2126, 1996)。これらの実施例に記載の試験は、Mab166と抗生物質との組み合わせ療法が強力なExoU分泌P.エルギノーサ株による重篤な急性感染のマウスモデルで結果の改善をもたらすことを示す。これらの結果は、本発明の治療方法の相乗効果が、急性気道感染を有する患者の結果を改善しかつ感染の播種を予防すると考えられることを示す。
【0170】
実施例2. 本発明における使用のための遺伝子操作されたヒト抗PcrV Fab分子の同定
エピトープに焦点をおいた遺伝子操作されたヒト抗体Fabライブラリーを、米国特許出願第20050255552号に記載されている通りに作製した。ヒト免疫グロブリン配列のレパートリーに由来するVセグメント配列を、重鎖および軽鎖のそれぞれについて選択したCDR3-FR4配列の上流にクローニングした。
【0171】
重鎖レパートリーに関して、CDRH3は、以前に同定された抗PcrVモノクローナル抗体(Mab166; Frank et al 2002 J. Infectious Dis. 186: 64-73)に由来する、結合特異性決定基を構成するDセグメント由来配列(NRGDIYYDFTY)を含む。重鎖レパートリーの完全なCDRH3-FR4配列の配列を下記に示す。
VH1ライブラリー1015に関して、用いられるCDR3-FR4の組み合わせは、
であった。VH3ライブラリーに関して、用いられるCDR3-FR4の組み合わせは、CDRH3中のアミノ酸が1つだけ異なっていた。
【0172】
軽鎖レパートリーに関して、FR1-CDRL1-FR2-CDRL2-FR3を含むヒトVκ配列またはヒトVλ配列を選択されたCDRL3-FR4配列の上流に挿入した。CDRL3は、配列
(ここでXはSまたはGであることができる)を有するMab166軽鎖由来の結合特異性決定基を含む。Vκライブラリーに関して、CDRL3およびFR4のC末端残基は、ヒト生殖系列JK2配列
(CDRL3内のJK2残基に下線を引く)によってもたらされた。Vλライブラリーに関して、FR4領域は、JL2生殖系列配列
によってもたらされた。JL2生殖系列配列は、JL3配列と同一である。
【0173】
いくつかの場合、カセットライブラリーを米国特許出願第20060134098号に記載されている通りに構築した(ライブラリー1070)。ライブラリー1080に関して、全長λ鎖を、VHカセットライブラリーと組み合わせてスクリーニングした。
【0174】
重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドを成熟したタンパク質として、すなわちシグナルペプチド無しで発現させ、米国特許出願第20070020685号に記載されている通りに、変異SecY遺伝子を発現させた大腸菌細胞中に分泌させた。従って、N末端メチオニンを伴うペプチドを発現させた。組換えFabのPcrVへの結合を、米国特許出願第20050255552号に記載されている通りにGST-PcrV融合タンパク質でコーティングしたニトロセルロースフィルターを用いるフィルター結合アッセイ法により同定した。結合活性をGST-PcrVでコーティングしたプレートを用いた抗原ELISAにより確認し、親和性をForteBio Octetバイオセンサーを用いたバイオレイヤーインターフェロメトリーにより測定した。
【0175】
例示的な高親和性抗PcrV抗体のV領域の配列を図8および図9に示す。
【0176】
Fabはそれぞれ、PcrVに対して高い親和性を有する。複数のFabが、ForteBio(Mountain View、CA)Octetバイオセンサーを用いるバイオレイヤーインターフェロメトリーにより測定されたMab166 Fabと少なくとも同程度の親和性(約1.4 nM)によって、同定された。
【0177】
記載された通りに同定されたVH領域およびVL領域は、種々の組み合わせで用いられうる。例えば、Vk軽鎖 SEQ ID NO: 12は、SEQ ID NO: 11を含むVHまたはSEQ ID NO: 3を含むVHのいずれかと組み合わせて、PcrVへの高親和性結合を支持する。
【0178】
1070-9E抗体は、米国特許出願公開第20060134098号に記載の方法を用いるV領域カセット交換により得られる高親和性抗体の一例である。この抗体を単離するために、以下の4つのV領域置換カセットを構築した。
(1) 重鎖前部カセット(ヒトVH3 FR1-CDR1-FR2配列からなる)
(2) 重鎖中央部カセット(ヒトVH3 FR2-CDR2-FR3配列からなる)
(1) 軽鎖前部カセット(ヒトVK1 FR1-CDR1-FR2配列からなる)
(2) 軽鎖中央部カセット(ヒトVK1 FR2-CDR2-FR3配列からなる)
各カセットを、Mab166由来の付加V領域配列および選択されたCDR3-FR4領域と共に組み立て、かつシグナル無しのFabの分泌を可能にするために、変異SecY遺伝子を過剰発現するプラスミドで形質転換された大腸菌 TOP10細胞中でFab断片として発現させる。次いで、カセットFabライブラリーを、GST-PcrVをコーティングしたフィルター上でスクリーニングし、PcrVバインダーを同定した。次いで、PcrV結合を支持するFab由来の選択配列を組換え、かつ再スクリーニングし、PcrVへの高親和性結合を支持する完全なヒトVセグメントを同定するために再スクリーニングした。
【0179】
カセット組換えにより単離されたFab 1070-9Eは、バイオレイヤーインターフェロメトリーにより測定された、1.48 nMの組換えPcrVに対する親和性を有する。
【0180】
高親和性抗PcrV Fabはまた、P. エルギノーサ III型分泌システムの強力なアンタゴニストであり、細胞に基づく細胞毒性試験においてP. エルギノーサ株PA103によるP3-X63 Ag8骨髄腫細胞のP. エルギノーサ外毒素媒介殺傷を阻害する。
【0181】
実施例3. ペグ化されたヒューマニア化Fab'
本実施例において、κ鎖のC末端システインと重鎖のシステイン残基C227(成熟タンパク質のN末端から順番に番号付けする)とを含む鎖間ジスルフィド結合により連結されるIgG1サブクラスのヒトFd'重鎖およびヒトκ軽鎖からなるFab'を、ペグ化した。組換えFd'重鎖は、IgG1 CH1ドメインと、還元後にマレイミド基への結合に使用可能である2個のシステイン残基を含むIgG1ヒンジ領域とを含む。従って、発現させた抗体タンパク質は、Fd'重鎖とκ軽鎖とのジスルフィドで連結されたヘテロ二量体であり、合計で452アミノ酸を含む。
【0182】
インビボクリアランスの速度が低下した免疫複合体を作製し、薬物動態プロファイルを改善するために、Fab'をポリエチレングリコール(PEG)に結合させる。ジペグ化Fab'において、ヒンジシステイン残基上の2つの使用可能な反応性チオールおよびマレイミド誘導体化PEG、メトキシポリエチレングリコールマレイミド(mPEG-mal)を用いる、ヒンジ領域での部位特異的付着により、Fab'の各分子を2つの長鎖PEG分子に結合する。mPEG-mal分子をマレイミド部分とヒンジシステイン残基間のチオエーテル連結を介して結合する。
【0183】
ジペグ化Fab'を作製するために、30 kDの平均分子量を有するmPEG-malをNOF Corporationより入手した。大腸菌で発現しかつ分泌されるFab'を、2 mM EDTAを含むクエン酸ナトリウムバッファーpH 6.5中で4 mg/mlの高度で調製した。還元剤(pH 6.5で10 mM MEA)を30分間室温で添加し、反応混合物を10 mMグリシン(pH 3)および2 mM EDTAで事前に平衡化したZeba Desaltカラム(Pierce)を用いて直ちに脱塩した。mPEG-malを1時間室温で添加し、ジペグ化Fab'を、他のペグ化種および未反応Fab'からGE HealthcareのAkta精製システムでHiTrap SPセファロースカラムを用いて分離した。
【0184】
本実施例でペグ化される例示的なジペグ化Fab'は、PcrVに高親和性で結合する(表面プラズモン共鳴解析により測定された0.6 nMの親和性)、P. エルギノーサ III型分泌システムの強力なアンタゴニストである。
【0185】
実施例4 - P. エルギノーサ III型分泌システムに対して強力な中和活性を有する本発明における使用のための抗体およびFab断片の検出のための細胞毒性試験
標的としてP3-X63-Ag8(X63)マウス骨髄腫細胞(ATCC)を用いる、TTSS依存性細胞毒性試験を確立した。細胞を、10%FBS(Hyclone)を含むRPMI 1640(Media Tech)中で培養した。約105個の細胞を、Fabの存在下で0.1 ml培地量の96穴プレートのウェル中で感染多重度(MOI)10でP. エルギノーサ株PA103に感染させた。Fabおよび哺乳類細胞の添加の前に、PA103をMinS培地(Hauser et al. (1998) Infect Immun. 66:1413-1420)中で増殖させ、TTSSの発現を誘導した。種々の濃度の抗PcrV Fabと共に3時間37℃で5%CO2でのインキュベーションの後、細胞を12×75 mmフローサイトメトリーチューブに移し、製造者の使用説明書に従ってヨウ化プロピジウム(Sigma)で染色した。透過性細胞の比率をFACS Caliberフローサイトメーターを用いてフローサイトメトリーにより定量化した。データをPrism4ソフトウエア(Graphpad)を用いて解析した。(細胞毒性は未処理試料中の死細胞に基準化された)。異なるFabの力価の比較のために、50%阻害に必要とされる平均濃度(IC50)を少なくとも3つの独立したアッセイ法から得た。いくつかの例示的なFabの結果を下記の表3に示す。
【0186】
(表3)細胞毒性試験におけるFabの力価
【0187】
試験したFabはそれぞれ、強力なTTSSの中和、および細胞毒性からの哺乳類細胞の保護を示す。
【0188】
いくつかのFabは、このアッセイ法においてMab166 Fabより強力である。従って、本発明の抗PcrV抗体は典型的には、Mab166 Fabと比べて増強された力価を示す。
【0189】
実施例5. ヒューマニア化抗体は肺炎のマウスモデルを用いてインビボ有効性を示す
肺炎のマウスモデルにおける抗体の効果を評価するために、ヒューマニア化Fabを用いてインビボで実験を行った。Fab 1A8は、ヒトIgG1の第1の定常ドメインを含むヒトVH3サブクラス重鎖、およびヒトVKIサブクラス κ軽鎖を有する。Biacoreにより測定されたFab 1A8の親和性は、0.6 nMである。Fab 1A8は、Mab166 Fabより約2倍高い親和性でPcrVに結合する。
【0190】
シュードモナス(Pseudomonas)肺炎の急性致死モデルを用いて、Fab 1A8のインビボ有効性をMab166と比較して評価した。P. エルギノーサ株PA103を1.5×106 cfu/マウスの用量で気管内投与によりマウスの肺に直接滴下注入した接種原は、以前に動物の100%死亡率をもたらすのに十分であることを示した(3×LD90)(Sawa et al., Nat Med. 5:392-8, 1999)。生存および体温を48時間モニターし、この時点で生存しているマウスを肺内の細菌数の測定のために屠殺した。生存データ(図10)は、ヒトFab 1A8とマウスFabとの両方が、高い細胞毒性を有するPA103株によりもたらされる死亡を抑制できることを示した。PA103に感染させ、意味のない対照Fabで処置した対照マウスは、接種の24時間以内に全て死んだ。10 μgのMab166またはFab 1A8によるマウスの処置は、48時間で100%のマウスの生存をもたらした。Fab 1A8は、抗体Fc領域を欠いていることから、抗体エフェクター機能は致死の防止に必要ではない。Fab 1A8は、致死の防止でMab166 Fabより有意に強力であった。Fab 1A8は、1.25 μg/マウスおよび0.625 μg/マウスの用量で致死を有意に予防し、Mab166 Fabで処置されたマウスはこの用量で100%の死亡率を示した(2.5 μg、1.25 μgおよび0.625 μg用量でFab 1A8とMab166 Fabの差はP<0.05)。Fab 1A8の活性は、致死の防止においてMab166 IgGの活性に匹敵する。
【0191】
Fab 1A8はまた、敗血症からの防御を示す体温の回復を誘導するのにも有効であった(図11)。PA103に感染した未処置のマウスは、感染の最初の数時間内に体温の急速な低下を示した。抗体で処置した群における12〜24時間以内の体温の回復は、その後の生存と相関した。投与量1.25 μg/マウスのFab 1A8またはMab166は、体温の急速な回復をもたらし、少なくとも80%のマウスで致死を防止した。しかしながら、この用量のマウスMab166 Fab断片は、体温回復させるには不十分であり、この群のマウスは全て、感染後48時間で死に至った。
【0192】
攻撃誘発後48時間において生存しているマウスを、肺内の残留P. エルギノーサの存在についても解析した。解析したMab166断片およびFab 1A8断片は両方とも、細菌の有意なクリアランスを刺激した(図12)。48時間後、細菌数は、10 μgのFab 1A8で処置した全マウスで1.5×106 cfu/マウスの感染用量より少なくとも1000分の1倍に減少した。この用量のFab 1A8で処置したマウスの80%は、48時間後に肺内に検出可能なP. エルギノーサを示さなかった。より高い残留細菌数は、マウスMab166 Fabで処置したマウスで検出された。ヒトFab 1A8は、この解析において全IgG Mab166に匹敵する力価を有し、このことはFc-エフェクター機能が抗体の細菌クリアランス刺激能に有意に寄与しないことを示す。
【0193】
Mab166最小必須結合特異性決定基を有する第2のヒューマニア化Fabについても肺炎のマウスモデルを用いてインビボで評価した。雌のBalb/cマウス(体重約20 g; Charles River)に1×106個のP. エルギノーサ株PA103を気管内投与により接種した。インキュベーション前に、PA103細菌をYPTブロス中で37℃で一晩増殖させ、新鮮な培地で1:5に希釈し、対数期に到達するまで2時間37℃で増殖させた。培養物を室温で10分間2000×gで遠心分離し、ペレットを約8 mLリン酸緩衝整理食塩水(PBS)で再懸濁した。細菌を600 nmにおいて吸光度により定量し、細菌コロニー形成単位をトリプシンソイ(TS)寒天プレート(Teknova、Half Moon Bay、CA)上のコロニー増殖により検証した。気管内滴下の直前に、抗体Fab 2断片を細菌と予め混合した。感染させたマウスを体温(直腸温度)および生存について48時間モニターした。
【0194】
食塩溶液だけで処置した対照マウスは、細菌の接種の24時間以内に100%死亡率を示した。10 μgのFab 2で処置したマウスは、致死を完全に防止し、Fabで処置したマウスの100%が48時間で生存した。
【0195】
従って、本実施例は、本発明のヒューマニア化抗体がP. エルギノーサに対して強力なインビボ活性を示すことを示す。Fabは、インビボで親のMab166 Fabより強力である。
【0196】
実施例6. ヒューマニア化Fabのヒトにおける免疫原性についての評価
遺伝子操作された抗体ペグ化Fab'断片を安全性、免疫原性および血漿/血清半減期についてヒト対象で評価した。対象は、静脈内(i.v.)注射により1、3、または10mg/kgで単回投与量を受けた。
【0197】
遺伝子操作された抗体は全ての用量レベルで良好な耐容性を示した。血漿中の薬物の濃度をマイクロタイタープレート上に固定化したPcrV抗原を用いるELISAにより測定した。GST-PcrVをマイクロタイタープレート上に一晩 4℃で固定化した。プレートを洗い、全ての非吸収部位をブロック/希釈バッファーの添加により少なくとも60分間ブロックした。プレートを洗った後、分析物を事前にコーティングしたマイクロタイタープレート上に分注し、少なくとも60分間インキュベートした。プレートを洗い、遺伝子操作されたFabに特的なビオチン化抗体を含む溶液を45分間添加した。プレートを洗い、HRP結合溶液を30分間添加した。最終洗浄工程の後、テトラメチルベンジジン(TMB)ペルオキシダーゼ基質溶液を添加し、約6分間インキュベートした。反応をリン酸溶液で停止した。呈色は存在するペグ化Fabの量に比例して展開する。プレートを2枚のフィルター(検出用に450 nm、バックグラウンド用に620 nm)を用いてプレートリーダーで読み取った。濃度を光学密度(OD)対濃度のプロットにより得られた標準曲線に基づいて測定した。較正曲線を4つのパラメーターのロジスティック適合を用いて作成した。ヒト血清におけるこの方法の範囲は、1%血清中で0.200から12.8 ng/mL(100%血清中で20.0 ng/mLから1280 ng/mL)である。
【0198】
ヒト対象における遺伝子操作された抗体の薬物動態プロファイル
【0199】
遺伝子操作された抗体は、約14日の末梢血漿半減期を有した。
【0200】
抗薬物抗体、すなわちヒューマニア化抗体に対して産生される抗体の存在を、注入前、注入後8日目、15日目、29日目および70日目に試験した。抗薬物抗体を電気化学発光アッセイ法(ECLA)を用いて測定した。陽性対照および陰性対照血清を希釈バッファーで1:25に希釈した。対照を同量の0.8%酢酸の添加により1:2にさらに希釈し(結果として2×溶液)、次いで、周囲温度で約15分間インキュベートした。次いで、試料をラベルマスターミックス(Label Master Mix)(0.5 μg/mLの最終作用濃度の抗体-ビオチンおよび抗体-SulfoTag)でさらに1:2に希釈し、結果として最終的に1:100希釈となった。次いで、全ての対照を1時間室温で穏やかに攪拌しインキュベートした。ストレプトアビジンでコーティングした標準的なMA2400 96穴マイクロタイタープレートを希釈バッファーを添加することにより60分間ブロックした。希釈バッファーをプレートウェルから吸引により除去し、対照をプレートに加え、60分間インキュベートした。プレートを吸引し、洗浄し、かつ界面活性剤を含む1×MesoScaleDiscovery(登録商標)(MSD)Read Buffer Tを加えた。プレートを MSD電気化学発光検出器で1分間で読み取った。生じる発光量(RLU)の強度は、存在する抗薬物抗体の量に比例する。
【0201】
いずれの時点でも抗薬物抗体は検出されなかった。従って、本実施例は、ヒトではヒューマニア化抗体の検出可能な免疫原性がないことを実証する。
【0202】
以下に本発明における使用のための抗PcrV抗体V領域の例示的なリストを提供する。
例示的な抗PcrV V領域
λ軽鎖を有する例示的な抗体のV領域:
付加的なVL領域
【0203】
前記の本発明は、理解を明確にするために例示と実施例によって多少詳しく記載されているが、当業者は本発明の教示を踏まえ、ある一定の変更および修正が添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく行われてもよいことを容易に理解すると思われる。
【0204】
本明細書において引用される刊行物、アクセッション番号、特許および特許出願は全て、それぞれが参照により組み込まれると具体的かつ個別に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュードモナス・エルギノーサ(Psedomonas aeruginosa)の抗生物質耐性株に感染した対象において菌血症を治療するかまたは菌血症の発症を予防する方法であって、
シュードモナス・エルギノーサIII型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体と、シュードモナス・エルギノーサの該株が耐性を有する該抗生物質との組み合わせの治療的有効量を投与する段階を含む、方法。
【請求項2】
前記抗生物質がアミノグリコシドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記抗生物質がトブラマイシンである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記抗生物質が前記III型分泌装置を誘導する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
血液中の細菌のレベルを測定する段階をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記シュードモナス・エルギノーサ株が、インビボで前記抗生物質に対して耐性を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
対象における抗生物質耐性シュードモナス・エルギノーサ感染を治療または予防する方法であって、
III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体と抗生物質との組み合わせの治療的有効量を投与する段階を含む、方法。
【請求項8】
前記抗生物質が、その最大耐量において前記抗体の投与無しで投与される場合に無効である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記抗生物質および前記抗PcrV抗体の投与が、前記対象に単独で投与した場合の最大耐量の該抗生物質と比べて、該対象に対する増大した毒性を有さない、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記抗生物質が前記III型分泌装置の発現を誘導する、請求項7〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記抗生物質が、テトラサイクリン、ミノサイクリン、エオキシサイクリン(eoxycycline)、デメクロサイクリンまたはオキシテトラサイクリンである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
シュードモナス・エルギノーサ肺感染を有する対象を治療する方法であって、
抗PcrV抗体を静脈内に、筋肉内にまたは皮下に投与する段階、および
抗生物質を肺内に投与する段階
を含む、方法。
【請求項13】
前記抗生物質が吸入により投与される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記抗生物質がトブラマイシンである、請求項12または請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記抗生物質がアズトレオナムである、請求項12または請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記抗PcrV抗体および前記抗生物質を投与する段階が、シュードモナス・エルギノーサ菌血症を予防または治療する、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
肺以外の組織においてシュードモナス・エルギノーサに感染した対象における菌血症を治療または予防する方法であって、
抗PcrV抗体を静脈内に投与し、かつ抗生物質を投与する段階を含む、方法。
【請求項18】
前記組織が膀胱組織または尿路組織である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
抗生物質耐性シュードモナス・エルギノーサ株に感染した対象を治療する場合に、該株の該抗生物質に対する感受性を増強する方法であって、
該抗生物質、およびシュードモナス・エルギノーサIII型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体を、該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項20】
前記抗生物質がピペラシリンである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記対象が、嚢胞性線維症を有するか、人工呼吸器を付けているか、好中球減少症の癌患者であるか、または熱傷患者である、請求項1〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
前記抗体が、静脈内に投与されるか、筋肉内に投与されるか、皮下に投与されるか、または吸入により投与される、請求項1〜11および19〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
前記抗生物質が、静脈内に投与されるか、筋肉内に投与されるか、または吸入により投与される、請求項1〜11および19〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
前記抗PcrV抗体が、PcrVへの結合についてMab166と競合する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記抗PcrV抗体が、FWGTPを含むCDR3を含むVL領域を含み、該抗PcrV抗体が、PcrVに選択的に結合する、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記抗体が、配列
を含むCDR3を有するVH領域を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記VL領域セグメントが、ヒト生殖系列Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有する、請求項25または26記載の方法。
【請求項28】
前記VL領域が、ヒト生殖系列のJκ1セグメント、Jκ2セグメント、Jκ3セグメント、Jκ4セグメント、もしくはJκ5セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性、またはヒト生殖系列のJλ1セグメント、Jλ2セグメント、Jλ3セグメント、もしくはJλ7セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を有するFR4を含む、請求項25〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
前記VL領域が、ヒトJK2生殖系列遺伝子セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性、またはJL2生殖系列配列に対して少なくとも90%の同一性を有するFR4;およびヒト生殖系列のVκI配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列Vλ配列に対して少なくとも80%の同一性を有するVセグメントを含む、請求項25〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
前記VL領域CDR3が、配列
を有する、請求項25〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
前記抗PcrV抗体が、
配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒトJH3セグメントまたはヒトJH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒトVH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒトVH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域
を含む、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
前記VH領域が、X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記抗体が、
X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域
を含む、請求項31記載の方法。
【請求項34】
前記抗体が、
X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、前記ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域または前記ヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたは前記ヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域と;
FW(S/G)TPを含むCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒト生殖系列JK2遺伝子セグメントのFR4領域に対してまたはヒト生殖系列JL2セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12配列に対して少なくとも80%の同一性、またはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ2 2cセグメントもしくはVλ3 3lセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VL領域と
を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記VH領域の前記FR4が、X2がTまたはMである配列
を有する、請求項34記載の方法。
【請求項36】
軽鎖CDR3が、配列
を有する、請求項33〜35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
前記VL領域の前記FR4が、配列
を有する、請求項33〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
前記抗PcrV抗体が、ヒト生殖系列VH3-30.3セグメントに対して少なくとも80%の同一性を有するVH領域Vセグメントを含み、かつ重鎖領域CDR1が配列X3X4X5X6Hを含み、X3がS、T、またはNであり、X4がYまたはAであり、X5がA、G、またはPであり、かつX6がM、I、またはLであり、かつ重鎖領域CDR2が配列
を含み、X7がV、F、またはNであり、X8がSまたはWであり、X9がDまたはNであり、X10がS、K、RまたはYであり、X11がN、S、DまたはEであり、X12がK、I、またはEであり、X13がY、S、DまたはWであり、かつX14がDまたはSである、請求項31〜37のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
前記VH領域Vセグメントが、VH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記CDR1が、
であるか;または前記CDR2が、
である、請求項38または請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記CDR1が、
であり;かつ前記CDR2が、
である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記VH領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ前記CDR1が配列DHAISを有し、かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項31〜37のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
前記VH領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記抗PcrV抗体が、CDR3配列
、CDR1配列DHAIS、およびCDR2配列
を有するVH領域を含む、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項45】
前記VH領域の前記Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列の前記Vセグメント領域を含む、請求項31〜37のいずれか一項記載の方法。
【請求項47】
前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項46記載の方法。
【請求項48】
VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列のVκI L12配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも90%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ3 3l配列に対してもしくはVλ2 2c配列に対して少なくとも90%の同一性を含む、請求項25〜30および34のいずれか一項記載の方法。
【請求項49】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が配列
を有し、X15がQまたはEであり、X16がSまたはGであり、X17がIまたはVであり、X18がSまたはDであり、X19がS、R、またはTであり、X20がWまたはYであり、かつX21がLまたはVであり、かつ前記CDR2が配列X21ASX22LX23Sを有し、X21がDまたはAであり、X22がS、A、またはTであり、かつX23がE、Q、またはKである、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記CDR1が、配列
を有するか;または前記CDR2が、配列
を有する、請求項49または請求項50記載の方法。
【請求項52】
前記CDR1が、配列
を有し;かつ前記CDR2が、配列
を有する、請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKIII L2配列に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が、配列
を有し、かつ前記CDR2が、配列
を有する、請求項25〜30および34のいずれか一項記載の方法。
【請求項54】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VKIII L2セグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項53記載の方法。
【請求項55】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ3 3lセグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が、配列
を有し、かつ前記CDR2が、配列
を有する、請求項25〜30および34のいずれか一項記載の方法。
【請求項56】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列Vλ3 3lセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項55記載の方法。
【請求項57】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ2 2cセグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が配列
を有し、かつ前記CDR2が配列(E/D)VT(K/N)RPSを有する、請求項25〜30および34のいずれか一項記載の方法。
【請求項58】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列Vλ2 2cセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項57記載の方法。
【請求項59】
前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列の前記Vセグメントを含む、請求項48〜58のいずれか一項記載の方法。
【請求項60】
前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項59記載の方法。
【請求項61】
前記抗PcrV抗体の前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;かつ前記抗PcrV抗体の前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項62】
前記抗PcrV抗体がFab'断片である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項63】
前記抗体がIgGである、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項64】
前記抗体がペグ化されている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項65】
前記抗体がジペグ化されている、請求項64記載の方法。
【請求項66】
前記VH領域もしくは前記VL領域のアミノ酸配列、または該VH領域と該VL領域との両方のアミノ酸配列が、N末端にメチオニンを含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項67】
シュードモナス・エルギノーサの抗生物質耐性株に感染しかつ該株が耐性を有する該抗生物質による治療を受けている対象における菌血症の治療または予防に用いるための、薬学的組成物であって、
患者において菌血症を治療または予防する量の抗PcrV抗体を含む、薬学的組成物。
【請求項68】
前記抗生物質がアミノグリコシドである、請求項67記載の薬学的組成物。
【請求項69】
前記抗生物質がトブラマイシンである、請求項68記載の薬学的組成物。
【請求項70】
前記抗生物質がIII型分泌装置を誘導する、請求項67記載の薬学的組成物。
【請求項71】
前記薬学的組成物の製剤が、血液中の細菌のレベルを低減させる、請求項67記載の薬学的組成物。
【請求項72】
前記シュードモナス・エルギノーサ株が、インビボで前記抗生物質に対して耐性を有する、請求項67記載の薬学的組成物。
【請求項73】
III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、対象における抗生物質耐性シュードモナス・エルギノーサ感染の治療または予防に抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物。
【請求項74】
抗生物質が、その最大耐量において前記抗体の投与無しで投与される場合に無効である、該抗生物質と共に用いるための請求項73記載の薬学的組成物。
【請求項75】
前記対象が、該対象に単独で投与される場合の最大耐量の前記抗生物質と比べて、該抗生物質に対する増大した毒性を有さない、請求項73記載の薬学的組成物。
【請求項76】
前記抗生物質が前記III型分泌装置の発現を誘導する、請求項73記載の薬学的組成物。
【請求項77】
前記抗生物質が、テトラサイクリン、ミノサイクリン、エオキシサイクリン、デメクロサイクリンまたはオキシテトラサイクリンである、請求項76記載の薬学的組成物。
【請求項78】
III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、シュードモナス・エルギノーサ肺感染を有する対象の治療に抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物であって、
該薬学的組成物が、静脈内投与、筋肉内投与、または皮下投与のために製剤化され、かつ該抗生物質が、肺内への投与のために製剤化される、薬学的組成物。
【請求項79】
前記抗生物質が、吸入により投与されるように製剤化される、請求項78記載の薬学的組成物。
【請求項80】
前記抗生物質がトブラマイシンである、請求項78記載の薬学的組成物。
【請求項81】
前記抗生物質がアズトレオナムである、請求項78記載の薬学的組成物。
【請求項82】
前記薬学的組成物中の前記抗PcrV抗体の量および前記抗生物質の量が、シュードモナス・エルギノーサ菌血症を予防または治療する、請求項78記載の薬学的組成物。
【請求項83】
III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、肺以外の組織にシュードモナス・エルギノーサ感染を有する対象における菌血症の治療または予防に抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物であって、
静脈内投与のために製剤化される、薬学的組成物。
【請求項84】
前記組織が膀胱組織または尿路組織である、請求項83記載の薬学的組成物。
【請求項85】
III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、シュードモナス・エルギノーサの抗生物質耐性株に感染した対象における該抗生物質耐性株の感受性を増強するために抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物。
【請求項86】
前記抗生物質がピペラシリンである、請求項85記載の薬学的組成物。
【請求項87】
前記対象が、嚢胞性線維症を有するか、人工呼吸器を付けているか、好中球減少症の癌患者であるか、または熱傷患者である、請求項67〜86のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項88】
前記抗体が、静脈内に投与されるか、筋肉内に投与されるか、皮下に投与されるか、または吸入により投与される、請求項67〜77および85〜88のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項89】
前記抗生物質が、静脈内に投与されるか、筋肉内に投与されるか、または吸入により投与される、請求項67〜77および85〜88のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項90】
前記抗PcrV抗体が、PcrVへの結合についてMab166と競合する、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項91】
前記抗PcrV抗体が、FWGTPを含むCDR3を含むVL領域を含み、該抗PcrV抗体が、PcrVに選択的に結合する、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項92】
前記抗PcrV抗体が、配列
を含むCDR3を有するVH領域を含む、請求項91記載の薬学的組成物。
【請求項93】
VL領域セグメントが、ヒト生殖系列Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有する、請求項91または92記載の薬学的組成物。
【請求項94】
前記VL領域が、ヒト生殖系列のJκ1セグメント、Jκ2セグメント、Jκ3セグメント、Jκ4セグメント、もしくはJκ5セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性、またはヒト生殖系列のJλ1セグメント、Jλ2セグメント、Jλ3セグメント、もしくはJλ7セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を有するFR4を含む、請求項91〜93のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項95】
前記VL領域が、ヒトJK2生殖系列遺伝子セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性、またはJL2生殖系列配列に対して少なくとも90%の同一性を有するFR4;およびヒト生殖系列のVκI配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列Vλ配列に対して少なくとも80%の同一性を有するVセグメントを含む、請求項91〜93のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項96】
VL領域CDR3が、配列
を有する、請求項91〜95のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項97】
前記抗PcrV抗体が、
配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒトJH3セグメントまたはヒトJH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒトVH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒトVH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域
を含む、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項98】
前記VH領域が、X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3を含む、請求項97記載の薬学的組成物。
【請求項99】
前記抗体が、
X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域
を含む、請求項98記載の薬学的組成物。
【請求項100】
前記抗体が、
X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域と;
FW(S/G)TPを含むCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒト生殖系列JK2遺伝子セグメントのFR4領域に対してまたはヒト生殖系列JL2セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12配列に対して少なくとも80%の同一性、またはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ2 2cセグメントもしくはVλ3 3lセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VL領域と
を含む、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項101】
前記VH領域の前記FR4が、X2がTまたはMである配列
を有する、請求項100記載の薬学的組成物。
【請求項102】
軽鎖CDR3が、配列
を有する、請求項99〜101のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項103】
前記VL領域の前記FR4が、配列
を有する、請求項99〜102のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項104】
前記抗PcrV抗体が、前記ヒト生殖系列VH3-30.3セグメントに対して少なくとも80%の同一性を有するVH領域Vセグメントを含み、かつ重鎖領域CDR1が配列X3X4X5X6Hを含み、X3がS、T、またはNであり、X4がYまたはAであり、X5がA、G、またはPであり、かつX6がM、I、またはLであり、かつ重鎖領域CDR2が配列
を含み、X7がV、F、またはNであり、X8がSまたはWであり、X9がDまたはNであり、X10がS、K、RまたはYであり、X11がN、S、DまたはEであり、X12がK、I、またはEであり、X13がY、S、DまたはWであり、かつX14がDまたはSである、請求項99〜103のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項105】
前記VH領域Vセグメントが、VH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項104記載の薬学的組成物。
【請求項106】
前記CDR1が、
であるか;または前記CDR2が、
である、請求項104または請求項105記載の薬学的組成物。
【請求項107】
前記CDR1が、
であり;かつ前記CDR2が、
である、請求項106記載の薬学的組成物。
【請求項108】
前記VH領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ前記CDR1が配列DHAISを有し、かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項99〜103のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項109】
前記VH領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項108記載の薬学的組成物。
【請求項110】
前記抗PcrV抗体が、CDR3配列
、CDR1配列DHAIS、およびCDR2配列
を有するVH領域を含む、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項111】
前記VH領域の前記Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、請求項110記載の薬学的組成物。
【請求項112】
前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列の前記Vセグメント領域を含む、請求項100〜103のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項113】
前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項112記載の薬学的組成物。
【請求項114】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列のVκI L12配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも90%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ3 3l配列に対してもしくはVλ2 2c配列に対して少なくとも90%の同一性を含む、請求項91〜96および100のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項115】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が配列
を有し、X15がQまたはEであり、X16がSまたはGであり、X17がIまたはVであり、X18がSまたはDであり、X19がS、R、またはTであり、X20がWまたはYであり、かつX21がLまたはVであり、かつ前記CDR2が配列X21ASX22LX23Sを有し、X21がDまたはAであり、X22がS、A、またはTであり、かつX23がE、Q、またはKである、請求項114記載の薬学的組成物。
【請求項116】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項114記載の薬学的組成物。
【請求項117】
前記CDR1が配列
を有するか;または前記CDR2が配列
を有する、請求項115記載の薬学的組成物。
【請求項118】
前記CDR1が配列
を有し;かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項117記載の薬学的組成物。
【請求項119】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKIII L2配列に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が配列
を有し、かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項91〜96および100のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項120】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKIII L2セグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項119記載の薬学的組成物。
【請求項121】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ3 3lセグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が、配列
を有し、かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項91〜96および100のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項122】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列Vλ3 3lセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項121記載の薬学的組成物。
【請求項123】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ2 2cセグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が配列
を有し、かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項91〜96および100のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項124】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列Vλ2 2cセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項123記載の薬学的組成物。
【請求項125】
前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列の前記Vセグメントを含む、請求項114〜124のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項126】
前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項125記載の薬学的組成物。
【請求項127】
前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;かつ前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項128】
前記抗PcrV抗体がFab'断片である、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項129】
前記抗体がIgGである、請求項1〜127のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項130】
前記抗体がペグ化されている、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項131】
前記抗体がジペグ化されている、請求項130記載の薬学的組成物。
【請求項132】
前記抗PcrV抗体VH領域もしくは前記VL領域のアミノ酸配列、または該VH領域と該VL領域との両方のアミノ酸配列が、N末端にメチオニンを含む、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項1】
シュードモナス・エルギノーサ(Psedomonas aeruginosa)の抗生物質耐性株に感染した対象において菌血症を治療するかまたは菌血症の発症を予防する方法であって、
シュードモナス・エルギノーサIII型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体と、シュードモナス・エルギノーサの該株が耐性を有する該抗生物質との組み合わせの治療的有効量を投与する段階を含む、方法。
【請求項2】
前記抗生物質がアミノグリコシドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記抗生物質がトブラマイシンである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記抗生物質が前記III型分泌装置を誘導する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
血液中の細菌のレベルを測定する段階をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記シュードモナス・エルギノーサ株が、インビボで前記抗生物質に対して耐性を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
対象における抗生物質耐性シュードモナス・エルギノーサ感染を治療または予防する方法であって、
III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体と抗生物質との組み合わせの治療的有効量を投与する段階を含む、方法。
【請求項8】
前記抗生物質が、その最大耐量において前記抗体の投与無しで投与される場合に無効である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記抗生物質および前記抗PcrV抗体の投与が、前記対象に単独で投与した場合の最大耐量の該抗生物質と比べて、該対象に対する増大した毒性を有さない、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記抗生物質が前記III型分泌装置の発現を誘導する、請求項7〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記抗生物質が、テトラサイクリン、ミノサイクリン、エオキシサイクリン(eoxycycline)、デメクロサイクリンまたはオキシテトラサイクリンである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
シュードモナス・エルギノーサ肺感染を有する対象を治療する方法であって、
抗PcrV抗体を静脈内に、筋肉内にまたは皮下に投与する段階、および
抗生物質を肺内に投与する段階
を含む、方法。
【請求項13】
前記抗生物質が吸入により投与される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記抗生物質がトブラマイシンである、請求項12または請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記抗生物質がアズトレオナムである、請求項12または請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記抗PcrV抗体および前記抗生物質を投与する段階が、シュードモナス・エルギノーサ菌血症を予防または治療する、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
肺以外の組織においてシュードモナス・エルギノーサに感染した対象における菌血症を治療または予防する方法であって、
抗PcrV抗体を静脈内に投与し、かつ抗生物質を投与する段階を含む、方法。
【請求項18】
前記組織が膀胱組織または尿路組織である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
抗生物質耐性シュードモナス・エルギノーサ株に感染した対象を治療する場合に、該株の該抗生物質に対する感受性を増強する方法であって、
該抗生物質、およびシュードモナス・エルギノーサIII型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体を、該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項20】
前記抗生物質がピペラシリンである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記対象が、嚢胞性線維症を有するか、人工呼吸器を付けているか、好中球減少症の癌患者であるか、または熱傷患者である、請求項1〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
前記抗体が、静脈内に投与されるか、筋肉内に投与されるか、皮下に投与されるか、または吸入により投与される、請求項1〜11および19〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
前記抗生物質が、静脈内に投与されるか、筋肉内に投与されるか、または吸入により投与される、請求項1〜11および19〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
前記抗PcrV抗体が、PcrVへの結合についてMab166と競合する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記抗PcrV抗体が、FWGTPを含むCDR3を含むVL領域を含み、該抗PcrV抗体が、PcrVに選択的に結合する、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記抗体が、配列
を含むCDR3を有するVH領域を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記VL領域セグメントが、ヒト生殖系列Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有する、請求項25または26記載の方法。
【請求項28】
前記VL領域が、ヒト生殖系列のJκ1セグメント、Jκ2セグメント、Jκ3セグメント、Jκ4セグメント、もしくはJκ5セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性、またはヒト生殖系列のJλ1セグメント、Jλ2セグメント、Jλ3セグメント、もしくはJλ7セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を有するFR4を含む、請求項25〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
前記VL領域が、ヒトJK2生殖系列遺伝子セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性、またはJL2生殖系列配列に対して少なくとも90%の同一性を有するFR4;およびヒト生殖系列のVκI配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列Vλ配列に対して少なくとも80%の同一性を有するVセグメントを含む、請求項25〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
前記VL領域CDR3が、配列
を有する、請求項25〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
前記抗PcrV抗体が、
配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒトJH3セグメントまたはヒトJH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒトVH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒトVH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域
を含む、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
前記VH領域が、X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記抗体が、
X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域
を含む、請求項31記載の方法。
【請求項34】
前記抗体が、
X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、前記ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域または前記ヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたは前記ヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域と;
FW(S/G)TPを含むCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒト生殖系列JK2遺伝子セグメントのFR4領域に対してまたはヒト生殖系列JL2セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12配列に対して少なくとも80%の同一性、またはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ2 2cセグメントもしくはVλ3 3lセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VL領域と
を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記VH領域の前記FR4が、X2がTまたはMである配列
を有する、請求項34記載の方法。
【請求項36】
軽鎖CDR3が、配列
を有する、請求項33〜35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
前記VL領域の前記FR4が、配列
を有する、請求項33〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
前記抗PcrV抗体が、ヒト生殖系列VH3-30.3セグメントに対して少なくとも80%の同一性を有するVH領域Vセグメントを含み、かつ重鎖領域CDR1が配列X3X4X5X6Hを含み、X3がS、T、またはNであり、X4がYまたはAであり、X5がA、G、またはPであり、かつX6がM、I、またはLであり、かつ重鎖領域CDR2が配列
を含み、X7がV、F、またはNであり、X8がSまたはWであり、X9がDまたはNであり、X10がS、K、RまたはYであり、X11がN、S、DまたはEであり、X12がK、I、またはEであり、X13がY、S、DまたはWであり、かつX14がDまたはSである、請求項31〜37のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
前記VH領域Vセグメントが、VH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記CDR1が、
であるか;または前記CDR2が、
である、請求項38または請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記CDR1が、
であり;かつ前記CDR2が、
である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記VH領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ前記CDR1が配列DHAISを有し、かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項31〜37のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
前記VH領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記抗PcrV抗体が、CDR3配列
、CDR1配列DHAIS、およびCDR2配列
を有するVH領域を含む、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項45】
前記VH領域の前記Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列の前記Vセグメント領域を含む、請求項31〜37のいずれか一項記載の方法。
【請求項47】
前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項46記載の方法。
【請求項48】
VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列のVκI L12配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも90%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ3 3l配列に対してもしくはVλ2 2c配列に対して少なくとも90%の同一性を含む、請求項25〜30および34のいずれか一項記載の方法。
【請求項49】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が配列
を有し、X15がQまたはEであり、X16がSまたはGであり、X17がIまたはVであり、X18がSまたはDであり、X19がS、R、またはTであり、X20がWまたはYであり、かつX21がLまたはVであり、かつ前記CDR2が配列X21ASX22LX23Sを有し、X21がDまたはAであり、X22がS、A、またはTであり、かつX23がE、Q、またはKである、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記CDR1が、配列
を有するか;または前記CDR2が、配列
を有する、請求項49または請求項50記載の方法。
【請求項52】
前記CDR1が、配列
を有し;かつ前記CDR2が、配列
を有する、請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKIII L2配列に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が、配列
を有し、かつ前記CDR2が、配列
を有する、請求項25〜30および34のいずれか一項記載の方法。
【請求項54】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VKIII L2セグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項53記載の方法。
【請求項55】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ3 3lセグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が、配列
を有し、かつ前記CDR2が、配列
を有する、請求項25〜30および34のいずれか一項記載の方法。
【請求項56】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列Vλ3 3lセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項55記載の方法。
【請求項57】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ2 2cセグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が配列
を有し、かつ前記CDR2が配列(E/D)VT(K/N)RPSを有する、請求項25〜30および34のいずれか一項記載の方法。
【請求項58】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列Vλ2 2cセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項57記載の方法。
【請求項59】
前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列の前記Vセグメントを含む、請求項48〜58のいずれか一項記載の方法。
【請求項60】
前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項59記載の方法。
【請求項61】
前記抗PcrV抗体の前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;かつ前記抗PcrV抗体の前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項62】
前記抗PcrV抗体がFab'断片である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項63】
前記抗体がIgGである、請求項1〜61のいずれか一項記載の方法。
【請求項64】
前記抗体がペグ化されている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項65】
前記抗体がジペグ化されている、請求項64記載の方法。
【請求項66】
前記VH領域もしくは前記VL領域のアミノ酸配列、または該VH領域と該VL領域との両方のアミノ酸配列が、N末端にメチオニンを含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項67】
シュードモナス・エルギノーサの抗生物質耐性株に感染しかつ該株が耐性を有する該抗生物質による治療を受けている対象における菌血症の治療または予防に用いるための、薬学的組成物であって、
患者において菌血症を治療または予防する量の抗PcrV抗体を含む、薬学的組成物。
【請求項68】
前記抗生物質がアミノグリコシドである、請求項67記載の薬学的組成物。
【請求項69】
前記抗生物質がトブラマイシンである、請求項68記載の薬学的組成物。
【請求項70】
前記抗生物質がIII型分泌装置を誘導する、請求項67記載の薬学的組成物。
【請求項71】
前記薬学的組成物の製剤が、血液中の細菌のレベルを低減させる、請求項67記載の薬学的組成物。
【請求項72】
前記シュードモナス・エルギノーサ株が、インビボで前記抗生物質に対して耐性を有する、請求項67記載の薬学的組成物。
【請求項73】
III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、対象における抗生物質耐性シュードモナス・エルギノーサ感染の治療または予防に抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物。
【請求項74】
抗生物質が、その最大耐量において前記抗体の投与無しで投与される場合に無効である、該抗生物質と共に用いるための請求項73記載の薬学的組成物。
【請求項75】
前記対象が、該対象に単独で投与される場合の最大耐量の前記抗生物質と比べて、該抗生物質に対する増大した毒性を有さない、請求項73記載の薬学的組成物。
【請求項76】
前記抗生物質が前記III型分泌装置の発現を誘導する、請求項73記載の薬学的組成物。
【請求項77】
前記抗生物質が、テトラサイクリン、ミノサイクリン、エオキシサイクリン、デメクロサイクリンまたはオキシテトラサイクリンである、請求項76記載の薬学的組成物。
【請求項78】
III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、シュードモナス・エルギノーサ肺感染を有する対象の治療に抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物であって、
該薬学的組成物が、静脈内投与、筋肉内投与、または皮下投与のために製剤化され、かつ該抗生物質が、肺内への投与のために製剤化される、薬学的組成物。
【請求項79】
前記抗生物質が、吸入により投与されるように製剤化される、請求項78記載の薬学的組成物。
【請求項80】
前記抗生物質がトブラマイシンである、請求項78記載の薬学的組成物。
【請求項81】
前記抗生物質がアズトレオナムである、請求項78記載の薬学的組成物。
【請求項82】
前記薬学的組成物中の前記抗PcrV抗体の量および前記抗生物質の量が、シュードモナス・エルギノーサ菌血症を予防または治療する、請求項78記載の薬学的組成物。
【請求項83】
III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、肺以外の組織にシュードモナス・エルギノーサ感染を有する対象における菌血症の治療または予防に抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物であって、
静脈内投与のために製剤化される、薬学的組成物。
【請求項84】
前記組織が膀胱組織または尿路組織である、請求項83記載の薬学的組成物。
【請求項85】
III型分泌装置のアンタゴニストである抗PcrV抗体の治療的有効量を含み、シュードモナス・エルギノーサの抗生物質耐性株に感染した対象における該抗生物質耐性株の感受性を増強するために抗生物質と共に用いるための、薬学的組成物。
【請求項86】
前記抗生物質がピペラシリンである、請求項85記載の薬学的組成物。
【請求項87】
前記対象が、嚢胞性線維症を有するか、人工呼吸器を付けているか、好中球減少症の癌患者であるか、または熱傷患者である、請求項67〜86のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項88】
前記抗体が、静脈内に投与されるか、筋肉内に投与されるか、皮下に投与されるか、または吸入により投与される、請求項67〜77および85〜88のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項89】
前記抗生物質が、静脈内に投与されるか、筋肉内に投与されるか、または吸入により投与される、請求項67〜77および85〜88のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項90】
前記抗PcrV抗体が、PcrVへの結合についてMab166と競合する、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項91】
前記抗PcrV抗体が、FWGTPを含むCDR3を含むVL領域を含み、該抗PcrV抗体が、PcrVに選択的に結合する、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項92】
前記抗PcrV抗体が、配列
を含むCDR3を有するVH領域を含む、請求項91記載の薬学的組成物。
【請求項93】
VL領域セグメントが、ヒト生殖系列Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有する、請求項91または92記載の薬学的組成物。
【請求項94】
前記VL領域が、ヒト生殖系列のJκ1セグメント、Jκ2セグメント、Jκ3セグメント、Jκ4セグメント、もしくはJκ5セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性、またはヒト生殖系列のJλ1セグメント、Jλ2セグメント、Jλ3セグメント、もしくはJλ7セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を有するFR4を含む、請求項91〜93のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項95】
前記VL領域が、ヒトJK2生殖系列遺伝子セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性、またはJL2生殖系列配列に対して少なくとも90%の同一性を有するFR4;およびヒト生殖系列のVκI配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列Vλ配列に対して少なくとも80%の同一性を有するVセグメントを含む、請求項91〜93のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項96】
VL領域CDR3が、配列
を有する、請求項91〜95のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項97】
前記抗PcrV抗体が、
配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒトJH3セグメントまたはヒトJH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒトVH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒトVH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域
を含む、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項98】
前記VH領域が、X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3を含む、請求項97記載の薬学的組成物。
【請求項99】
前記抗体が、
X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域
を含む、請求項98記載の薬学的組成物。
【請求項100】
前記抗体が、
X1がI、Q、Y、またはSである配列
を有するCDR3、FR4およびVセグメントを含み、X1がYである場合に該FR4領域が
ではないという条件で、該FR4が、ヒト生殖系列JH3セグメントのFR4領域またはヒト生殖系列JH6セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対してまたはヒト生殖系列VH3-30.3サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VH領域と;
FW(S/G)TPを含むCDR3、FR4およびVセグメントを含み、該FR4が、ヒト生殖系列JK2遺伝子セグメントのFR4領域に対してまたはヒト生殖系列JL2セグメントのFR4領域に対して少なくとも90%の同一性を含み、かつ該Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12配列に対して少なくとも80%の同一性、またはVκIII配列に対して少なくとも80%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ2 2cセグメントもしくはVλ3 3lセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、VL領域と
を含む、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項101】
前記VH領域の前記FR4が、X2がTまたはMである配列
を有する、請求項100記載の薬学的組成物。
【請求項102】
軽鎖CDR3が、配列
を有する、請求項99〜101のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項103】
前記VL領域の前記FR4が、配列
を有する、請求項99〜102のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項104】
前記抗PcrV抗体が、前記ヒト生殖系列VH3-30.3セグメントに対して少なくとも80%の同一性を有するVH領域Vセグメントを含み、かつ重鎖領域CDR1が配列X3X4X5X6Hを含み、X3がS、T、またはNであり、X4がYまたはAであり、X5がA、G、またはPであり、かつX6がM、I、またはLであり、かつ重鎖領域CDR2が配列
を含み、X7がV、F、またはNであり、X8がSまたはWであり、X9がDまたはNであり、X10がS、K、RまたはYであり、X11がN、S、DまたはEであり、X12がK、I、またはEであり、X13がY、S、DまたはWであり、かつX14がDまたはSである、請求項99〜103のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項105】
前記VH領域Vセグメントが、VH3-30.3 Vセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項104記載の薬学的組成物。
【請求項106】
前記CDR1が、
であるか;または前記CDR2が、
である、請求項104または請求項105記載の薬学的組成物。
【請求項107】
前記CDR1が、
であり;かつ前記CDR2が、
である、請求項106記載の薬学的組成物。
【請求項108】
前記VH領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を有し、かつ前記CDR1が配列DHAISを有し、かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項99〜103のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項109】
前記VH領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項108記載の薬学的組成物。
【請求項110】
前記抗PcrV抗体が、CDR3配列
、CDR1配列DHAIS、およびCDR2配列
を有するVH領域を含む、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項111】
前記VH領域の前記Vセグメントが、前記ヒト生殖系列VH1-18サブクラスVセグメントに対して少なくとも80%の同一性を含む、請求項110記載の薬学的組成物。
【請求項112】
前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列の前記Vセグメント領域を含む、請求項100〜103のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項113】
前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項112記載の薬学的組成物。
【請求項114】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列のVκI L12配列もしくはVκIII配列に対して少なくとも90%の同一性、またはヒト生殖系列のVλ3 3l配列に対してもしくはVλ2 2c配列に対して少なくとも90%の同一性を含む、請求項91〜96および100のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項115】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が配列
を有し、X15がQまたはEであり、X16がSまたはGであり、X17がIまたはVであり、X18がSまたはDであり、X19がS、R、またはTであり、X20がWまたはYであり、かつX21がLまたはVであり、かつ前記CDR2が配列X21ASX22LX23Sを有し、X21がDまたはAであり、X22がS、A、またはTであり、かつX23がE、Q、またはKである、請求項114記載の薬学的組成物。
【請求項116】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKI L12セグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項114記載の薬学的組成物。
【請求項117】
前記CDR1が配列
を有するか;または前記CDR2が配列
を有する、請求項115記載の薬学的組成物。
【請求項118】
前記CDR1が配列
を有し;かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項117記載の薬学的組成物。
【請求項119】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKIII L2配列に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が配列
を有し、かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項91〜96および100のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項120】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列VKIII L2セグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項119記載の薬学的組成物。
【請求項121】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ3 3lセグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が、配列
を有し、かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項91〜96および100のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項122】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列Vλ3 3lセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項121記載の薬学的組成物。
【請求項123】
前記VL領域Vセグメントが、ヒト生殖系列Vλ2 2cセグメントに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ前記CDR1が配列
を有し、かつ前記CDR2が配列
を有する、請求項91〜96および100のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項124】
前記VL領域Vセグメントが、前記ヒト生殖系列Vλ2 2cセグメントに対して少なくとも90%の同一性を有する、請求項123記載の薬学的組成物。
【請求項125】
前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列の前記Vセグメントを含む、請求項114〜124のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項126】
前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項125記載の薬学的組成物。
【請求項127】
前記VH領域が、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、26、27、29、および35からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み;かつ前記VL領域が、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、28、30、32、34、36、および37からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項67〜89のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項128】
前記抗PcrV抗体がFab'断片である、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項129】
前記抗体がIgGである、請求項1〜127のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項130】
前記抗体がペグ化されている、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項131】
前記抗体がジペグ化されている、請求項130記載の薬学的組成物。
【請求項132】
前記抗PcrV抗体VH領域もしくは前記VL領域のアミノ酸配列、または該VH領域と該VL領域との両方のアミノ酸配列が、N末端にメチオニンを含む、前記請求項のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2012−516897(P2012−516897A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549261(P2011−549261)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/023214
【国際公開番号】WO2010/091189
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(506249211)カロバイオス ファーマシューティカルズ インコーポレイティッド (12)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/023214
【国際公開番号】WO2010/091189
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(506249211)カロバイオス ファーマシューティカルズ インコーポレイティッド (12)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】
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