説明

シュープレス用ベルト

【課題】 より一層優れた耐摩耗性、屈曲疲労性、耐クラック性、耐圧縮疲労性等を備えるシュープレス用ベルトを提供する。
【解決手段】 ポリウレタンと基体とからなるシュープレス用ベルトにおいて、該ポリウレタンが、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有し、かつ、JIS A硬度で93°〜96°であることを特徴とするシュープレス用ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙用シュープレスに利用されるシュープレス用ベルト、特に、クローズドタイプのシュープレスに利用されるシュープレス用ベルトに関する。更に詳しくは、特定の組成及び硬度のポリウレタンからなる樹脂層を有し、耐クラック性、耐摩耗性、耐屈曲疲労性等の物性に優れたシュープレス用ベルトである。
【背景技術】
【0002】
シュープレス工程では、図1に示すように、プレスロール101とシュー102との間に、ループ状のシュープレス用ベルト1を介在させたシュープレス機構100を用い、プレスロール101とシュー102とで形成されるプレス部において、プレスロール101とシュープレス用ベルト1との間に湿紙(図示せず)を通過させて脱水を行なっている。
【0003】
また、シュープレス用ベルト1は、図2に断面図にて示すように、基材3の両面に樹脂層5,6を一体に設けて構成され、更にプレスロール側の樹脂層5の表面には多数の凹溝7が形成されており、上記のプレス時に湿紙から絞り出された水を凹溝7に保持し、更には保持した水をベルト自身の回転によりプレス部の外に移送するようになっている。そのため、プレスロール側の樹脂層5に設けられた突部8は、プレスロール101による垂直方向の押圧力や、シュープレス領域におけるベルトの摩擦、屈曲疲労によって生ずる摩耗性、屈曲疲労性、クラック性、圧縮疲労性等の機械的特性を改善することが要求されている。
【0004】
このような理由から、シュープレス用ベルト1の樹脂層5,6を形成する材料として、耐クラック性に優れるポリウレタンが広く使用されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−247086号公報
【特許文献2】特開平2004−52204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年、紙の生産性向上に起因した運転速度の高速化や、プレス部の高圧化等に伴い、シュープレス用ベルト1の使用環境は益々苛酷なものとなってきており、上記したような各種特性のより一層の改善が求められている。
【0006】
従って、本発明は、より一層優れた耐摩耗性、屈曲疲労性、耐クラック性、耐圧縮疲労性等を備えるシュープレス用ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のシュープレス用ベルトは、ポリウレタンと基体とからなるシュープレス用ベルトにおいて、該ポリウレタンが、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有し、かつ、JIS A硬度で93°〜96°であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシュープレス用ベルトは、樹脂層を形成するポリウレタンが、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有し、かつ、JIS A硬度で93°〜96°であることから、耐摩耗性、屈曲疲労性、耐クラック性、耐圧縮疲労性等の機械的特性が従来よりも優れ、苛酷な条件での使用にも十分に耐え得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
本発明のシュープレス用ベルトは、例えば図2に示すように、基材3の両面に樹脂層5,6を一体に形成し、更に、ロールプレス側の樹脂層5に多数の凹溝7を設けたものであり、樹脂層5,6を、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有し、JIS A硬度(以下「硬度」という)93°〜96°のポリウレタンで形成する。
【0011】
非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有する硬度93°〜96°のポリウレタンとするには、ウレタンプレポリマーと、硬化剤と、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物とを、硬化時に硬度93°〜96°となるように配合比を調整したもの(以下「非反応性ポリジメチルシロキサン液状物含有硬度93°〜96°品」という)を用いる。また、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有せず、硬度98°となるようにウレタンプレポリマーと硬化剤との配合比を調整したもの(以下「非反応性ポリジメチルシロキサン液状物未含有硬度98°品」という)と、ウレタンプレポリマーと、硬化剤と、非反応性のシリコーンオイル液状物とを、硬化時に硬度90°〜93°となるように配合比を調整したもの(以下「非反応性ポリジメチルシロキサン液状物含有硬度90°〜93°品」という)とを混合して用いることもできる。
【0012】
ウレタンプレポリマーは、有機ジイソシアネートとポリオールとを、公知の方法を用いて反応させることによって調製することができる。好適な有機ジイソシアネートの例を挙げれば、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、トリデンジイソシアネート(TODI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4'−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、トルエン−2,4−ジイソシアネート(2,4−TDI)、トルエン−2,6−ジイソシアネート(2,6−TDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、ジフェニル−4,4'−ジイソシアネート、ジベンジル−4,4'−ジイソシアネート、スチルベン−4,4'−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4'−ジイソシアネート、1,3−及び1,4−キシレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシルジイソシアネート、1,4−シクロヘキシルジイソシアネート(CHDI)、1,1'−メチレン−ビス(4−イソシアナトシクロヘキサン)の3つの幾何異性体(まとめて、H12MDIと省略される)、及びこれらの混合物等がある。
【0013】
長鎖の高分子量ポリオール、例えば250を超える分子量(MW)を有するものは一般にプレポリマーを形成させるために使用される。長鎖の高分子量ポリオールが樹脂に可撓性とエラストマー的性質を与える。高分子量ポリオール、典型的にはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、または炭化水素ポリオールで少なくとも250の数平均分子量を有するものが、プレポリマーを調製するのに使用されることが多い。約500〜約6000の分子量が好ましいが、分子量が約650〜約3000の範囲にあれば、最も好ましい。しかしながら、高分子量ポリオールの分子量は、高い方では10,000程度、低い方では250程度のものでもよい。さらに、分子量が60〜250の範囲の低分子量グリコール及びトリオールが含まれていてもよい。
【0014】
好適なポリアルキレンエーテルポリオールは一般式「HO(RO)H」で表すことができるが、ここでRはアルキレンラジカル、nはそのポリエーテルポリオールが少なくとも250の数平均分子量を有するような整数である。これらのポリアルキレンエーテルポリオールは、よく知られているポリウレタン製品成分であって、環状エーテル例えばアルキレンオキシドと、グリコール、ジヒドロキシエーテル等とを公知の方法で重合させることによって調製することができる。平均のヒドロキシル官能基数は、約2から約8まで、好ましくは約2から約3まで、より好ましくは約2から約2.5までの範囲である。
【0015】
ポリエステルポリオールは典型的には、二塩基酸(通常はアジピン酸であるが、他の成分例えばグルタル酸、コハク酸、アゼライン酸、セバチン酸または無水フタル酸等が存在していてもよい)を、ジオール例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等と反応させることによって調製される。鎖を分岐させたり、究極的に架橋させたりするつもりならば、ポリオール、例えばグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等も使用することができる。二塩基酸の代わりにジエステルを使用することも可能である。ポリエステルポリオールのいくつかでは、それを製造するのにカプロラクトンや、二量化不飽和脂肪酸を使用することもできる。
【0016】
炭化水素ポリオールは、エチレン性不飽和モノマー、例えばエチレン、イソブチレン及び1,3−ブタジエン等から調製することができる。例を挙げれば、ポリブタジエンポリオールである、アトケム(Atochem)社製「ポリ−bdR−45HT(Poly−bd R−45HT)」及びアモコ社(Amoco Corp.)社製「ダイフォール(DIFOL)」;及びシェル・ケミカル(Shell Chemical Co.)社製「クレイトン(Kraton)Lポリオール」等がある。
【0017】
ポリカーボネートポリオールも使用可能であり、それらは、グリコール(例えば、1,6−ヘキシレングリコール)と有機カーボネート(例えば、ジフェニルカーボネート、ジエチルカーボネート、またはエチレンカーボネート)とを反応させることによって調製することができる。
【0018】
プレポリマーと共に使用する硬化剤または鎖延長剤は、通常使用されよく知られている、幅広い各種の有機ジアミンまたはポリオール原料から選択することが可能である。好ましい原料は、低融点の固体または液体のいずれかである。特に好ましいのは、ジアミン、ポリオール、またはそれらのブレンド物で融点が140℃未満のものである。それらのジアミンまたはポリオールは一般に、当業界においてポリウレタンのための硬化剤として現在使用されているものである。硬化剤は一般に、必要とされる反応性、特定の用途で必要な性質、必要とされる加工条件、及び所望のポットライフ等を基準に選択される。硬化剤と組み合わせて公知の触媒を使用してもよい。
【0019】
硬化剤としては水、脂肪族ジオール、芳香族ジアミン等が用いられる。脂肪族ジオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が好適に用いられる。また、芳香族ジアミンとしては、例えばジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)、3,3´−ジクロロ4,4´−ジアミノジフェニルメタン(MBOCA)等が好適に用いられる。中でも、DMTDA、MBOCAが好ましい。また、DMTDAはジメチルチオ基及びアミノ基の置換位置による各種異性体が存在するが、これら異性体混合物の形で使用することができ、米国アルベマール(Albemarle Corporation)社製の「エタキュア(ETHACURE)300」として入手可能である。
【0020】
上記ウレタンプレポリマーと硬化剤との使用割合は、硬度に応じて調整されるが、硬化剤の活性水素基とウレタンプレポリマーのイソシアネート基との当量比が0.9〜1.10となるようにすることが好ましい。
【0021】
非反応性ポリジメチルシロキサン液状物としては、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーンエラストマー等のシロキサンを含む高分子化合物が好ましい。このようなシリコーン類は、ワッカー・シリコーンズ(Wacker Silicones Corporation)社から「シリコーン・フルイズ(Silicone Fluids)SWS−101」の商品名で市販されているシリコーン流体の系統に属しているもの、あるいは信越化学社製「KF96」等が挙げられる。
【0022】
上記非反応性ポリジメチルシロキサン液状物は、それらを含む物品の摩擦特性を大きく損なうことなく、その物品の耐摩耗性を改良するのに効果があるのならば、どのような粘度(本明細書では、鎖長の目安として採用する)のものであってもよい。従って、その粘度は200,000cst、またはそれ以上に高くてもよいが、5,000〜100,000cstの範囲にあるのが好ましい。
【0023】
また、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物は、ウレタンプレポリマーと硬化剤との合計量に対し、0.5〜25質量%の割合で配合される。
【0024】
シュープレス用ベルトとするには、従来と同様に、上記の非反応性ポリジメチルシロキサン液状物含有硬度93°〜96°品、あるいは非反応性ポリジメチルシロキサン液状物含有硬度93°品と非反応性ポリジメチルシロキサン液状物未含有硬度98°品との混合物を基体に塗布、含浸させ、加熱して硬化させた後、表面を研磨して所定の厚さとし、その後、図2に示すように一方の表面に凹溝を形成すればよい。硬化条件は、使用する品種により適宜選択されるが、加熱温度は20〜150℃、好ましくは90〜140℃であり、30分以上加熱すればよい。
【0025】
尚、基材として、例えば、ポリアミド、ポリエステル、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、高強度ポリエチレン等からなるフィルムや編物、狭い幅の帯状体をスパイラルに巻いたもの等を用いることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0027】
[実施例1〜8及び比較例1〜12]
何れも市販品である、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有する硬度93°品(ユニローヤル製アジプレンエクストリーム「E493」)、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有しない硬度93°品(ユニローヤル製アジプレンLF930A)、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有しない硬度95°品(ユニローヤル製アジプレンLF950A)、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有しない硬度98°品(ユニローヤル製アジプレンLF600D)を用い、下記表に示す如く混合したものをポリエステル織物からなる基材の両面に塗布し、加熱硬化させた後、一方の表面に凹溝(幅0.5〜4mm、深さ0.5〜5mm)及び隣接する排水溝とのランド部間隔1〜4mm、好ましくは凹溝(幅1〜2mm、深さ1〜2mm)及び隣接する排水溝とのランド部間隔2〜3mm、を形成してベルトサンプルを作製した。尚、比較例1〜12のポリウレタンは、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を全く含まない構成である。
【0028】
そして、各ベルトサンプルについて(1)硬度、(2)クラック発生回数、(3)摩耗量及び(4)加圧下VV低下率を測定した。測定方法はそれぞれ以下のとおりであり、結果を同表に併記した。
・ 硬度
JIS Aデュロメータを用い、硬度を測定した。
(2)クラック発生回数
図3に示すように、ベルトサンプル51の両端をクランプハンド52,52で挟持し、クランプハンド52,52を連動させて図中左右方向に往復移動させた。このとき、ベルトサンプル51に加わる張力を3kg/cm、往復速度を40cm/秒とした。また、ベルトサンプル51を回転ロール53とプレスシュー54とにより挟持し、プレスシュー54を回転ロール方向に移動させ、ベルトサンプル51を36kg/cmで加圧した。尚、往復運動中にプレスシュー側からベルトサンプル51に潤滑油を散布し、発熱を抑えた。ベルトサンプル51をこのように往復運動させ、ベルトサンプル51の回転ロール側の面にクラックが生じるまでの往復回数を測定した。
(3)摩耗量
図4に示す装置を用い、ベルトサンプル51をプレスボード55の下部に取り付け、その下の面(測定対象面)に、外周に摩擦子57を備える回転ロール56を押し付けながら回転させた。このとき、回転ロール57による圧力を3kg/cm、回転ロール56の回転速度100m/分とし、10分間回転させた。回転後に、ベルトサンプル51の厚み減少量を測定した。
(4)加圧下VV低下率
ベルトサンプルを2本用意し、一方のベルトサンプルの凹溝に未硬化(硬化前)のシリコーン樹脂を充填し、ヘラでベルト溝側を平滑に掻き取った後、無加圧で硬硬化させる。 別のベルトサンプルの凹溝にも未硬化(硬化前)のシリコーン樹脂を充填し、ヘラでベルト溝側を平滑に掻き取った後、40kgの平板で加圧したまま硬化させる。硬化後、各々のベルトサンプルの凹溝から樹脂を取り出し、溝寸法(溝部幅、溝高さ、溝長さ)を顕微鏡下で測定し、次式から加圧下VV低下率を算出する。
〔(無加圧時VV−加圧時VV)/無加圧時VV〕×100%
【0029】
【表1】

【0030】
表に示すように、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有し、硬度93°〜96°のポリウレタンからなるベルトサンプルは、他のベルトサンプルに比べて耐クラック性、耐摩耗性が良好で、凹溝の変形も少ないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】シュープレス機構を示す概略構成図である。
【図2】シュープレス用ベルトを示す断面図である。
【図3】クラック発生回数の測定に用いた装置を示す概略図である。
【図4】摩耗量の測定に用いた装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0032】
1 シュープレス用ベルト
3 基材
5 樹脂層
6 樹脂層
7 凹溝
8 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンと基体とからなるシュープレス用ベルトにおいて、該ポリウレタンが、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有し、かつ、JIS A硬度で93°〜96°であることを特徴とするシュープレス用ベルト。
【請求項2】
前記ポリウレタンが、JIS A硬度90°〜93°で、かつ、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有するポリウレタンと、JIS A硬度98°で、かつ、非反応性ポリジメチルシロキサン液状物を含有しないポリウレタンとの混合物であることを特徴とする請求項1記載のシュープレス用ベルト。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−144139(P2006−144139A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332179(P2004−332179)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】