説明

シュー間隙自動調整装置を備えたドラムブレーキ装置

【課題】構成部品点数を削減して装置全体のコスト低減が図れるシュー間隙自動調整装置を備えたドラムブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】ブレーキシュー11とストラット本体71との間に第1スプリング80を張設するとともに、ブレーキシュー12とクオドラント72との間に第2スプリング90を張設する。ストラットを介して、ブレーキシューが互いに近寄る方向に付勢される。よって第1スプリング80、第2スプリング90はブレーキシューの一方の隣接部においてシューウエブ間に張設するシューレターンスプリングを代用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドラムブレーキ装置に関し、特にワンショット形のシュー間隙自動調整装置を備えたドラムブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
対向する一対のブレーキシューの一方隣接部間にストラット本体を配設し、そのストラット本体の一端にクオドラントを回動可能で、かつ、ストラット本体の長手方向に可動的に軸支し、そのクオドラントの一端に設けたシュー係合部(突起状腕部)を一方のブレーキシューのシューウェブに設けたクオドラント係合部(クオドラント係合孔)に遊びを有して係合し、ブレーキシューの拡開量が所定の値を超えたときにクオドラントが回動してブレーキシューの間隙を自動的に調整するシュー間隙自動調整装置を備えるとともに、一対のブレーキシューの一方隣接部においてブレーキシュー間にシューリタンスプリングを直接的に張設したドラムブレーキ装置において、ストラット本体と他方のブレーキシュー間にアンチラトルスプリングを張設するとともに、ストラット本体とクオドラント間にクオドラントスプリングを張設したドラムブレーキ装置が広く知られている。
【0003】
また、クオドラントのシュー係合部をクオドラントの一側面に設けた側面突起とし、シューウェブのクオドラント係合部をシューウェブに形成した切欠部としたドラムブレーキ装置が広く知られている。
【0004】
この構造によれば、シューリタンスプリングとアンチラトルスプリングとクオドラントスプリングの3本のスプリングが必要であり、部品コストのみならず、そのスプリングを組付ける工数が増大して装置全体のコストが嵩むという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特許公開昭59−126127号公報
【特許文献2】欧州特許公開0462731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ブレーキシューの一方隣接部にワンショット形のシュー間隙自動調整装置を備えたドラムブレーキ装置において、ブレーキシューの一方隣接部間に直接的にシューリタンスプリングを張設することのないドラムブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、対向する一対のブレーキシューの一方隣接部間にストラット本体を配設し、そのストラット本体の一端にクオドラントを回動可能で、かつ、ストラット本体の長手方向に可動的に軸支し、そのクオドラントに設けたシュー係合部を一方のブレーキシューのシューウェブに設けたクオドラント係合部に遊びを有して係合し、ブレーキシューの拡開量が所定の値を超えたときにクオドラントが回動してブレーキシューの間隙を自動的に調整するシュー間隙自動調整装置を備えたドラムブレーキ装置において、ストラット本体と一方のブレーキシュー間に第1スプリングを張設するとともに、クオドラントと他方のブレーキシュー間に第2スプリングを張設し、両スプリングにより一対のブレーキシューを互いに近づく方向に付勢したドラムブレーキ装置である。
また、上記のドラムブレーキ装置において、クオドラントのシュー係合部をクオドラントの一端に設けた突起状腕部とするとともに、シューウェブのクオドラント係合部をシューウェブに穿設したクオドラント係合孔とし、突起状腕部をクオドラント係合孔に遊びを有して係合したドラムブレーキ装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シュー間隙自動調整装置を構成するスプリングがシューリタンスプリングの機能を兼ねるようにしたので、スプリングの数が削減するとともにその組付け工数が低減し、装置全体のコストが低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
図1および図2に本発明の実施例に係るドラムブレーキ装置を示す。
【0011】
<イ>ドラムブレーキの全体構造
図1にパーキングブレーキ機構を併有し、かつワンショットタイプのシュー間隙自動調整装置を備えたリーディング・トレーリング形(LT形)ドラムブレーキの一例を示す。符号10は車両の不動部にボルトなどで固定されるバックプレートで、一対のブレーキシュー11,12が公知のシューホールド装置14,14により摺動自在に支持されている。
【0012】
シューウェブ11a,12aにシューリム11b,12bを接合し、シューリム11b,12bの外周面にライニング11c,12cを固着して形成されている断面T字形を呈する一対のブレーキシュー11,12は、その一方端(図1の上方端)がサービスブレーキ用のシュー拡張装置であるホイールシリンダ40のピストン(図示せず)に夫々係合し、その他方端(図1の下方端)がバックプレート10に固着したアンカー15に夫々支承されている。
【0013】
ホイールシリンダ40はボルトなどでバックプレート10に固定され、そのピストン(図示せず)が各ブレーキシュー11,12の一方端の拡縮方向に常に共動するように構成されている。
【0014】
符号17は、アンカー15に隣接して両ブレーキシュー11,12の他方端においてシューウェブ11a,12a間に張設したシューリタンスプリングであり、符号70はホイールシリンダ40に隣接して両ブレーキシュー11,12間に横架されたストラットである。
【0015】
パーキングブレーキ用のブレーキレバー30は、他方のブレーキシュー12のシューウェブ12aに重合して配設され、その基端がシューウェブ12aの上方端部にピン31で以って回転可能に軸支されている。また、ブレーキレバー30の自由端(図1の下方端)には図外の遠隔力伝達用ブレーキケーブルが接続される。
【0016】
<ロ>シュー間隙自動調整装置
図2に示すように、ストラット70は板状のストラット本体71とクオドラント72とそのクオドラント72に固設したクオドラントピン73から成り、そのストラット70に第1スプリング80と第2スプリング90を付加してシュー間隙自動調整装置が構成されている。
【0017】
ホイールシリンダ40に隣接してバックプレート10に対して平行に配設されるストラット本体71は、その左方に形成された切欠部71aがブレーキレバー30とシューウェブ12aとを収容し、切欠部71aの底面がブレーキレバー30を支持している。このストラット本体71の中間部には小刻みな調整歯71bが刻設されている。
【0018】
クオドラント72の中間部にクオドラントピン73が固設され、クオドラント72は前記ストラット本体71の右方部71cに回転可能で、かつ、ストラット本体71の長手方向の板面に沿って可動的にクオドラントピン73で以って軸支されており、その扇状腕部72aの外周に刻設された小刻みな調整歯72bが前記ストラット本体71の調整歯71bに噛み合っている。また、カム面を有する突起状腕部72cは、ブレーキシュー11のシューウェブ11aに形成されたクオドラント係合孔11dのブレーキ内方側内面に所定の隙間δを存して遊嵌され、前記カム面がクオドラント係合孔11dのブレーキ外方側内面に当接している。
【0019】
第1スプリング80はシューウェブ11aとストラット本体71との間に張設され、第2スプリング90はシューウェブ12aとクオドラント72に固設したクオドラントピン73との間に張設されている。
この構造により、ストラット70を介してブレーキシュー11,12が互いに近寄る方向に付勢されることになる。よって、第1スプリング80および第2スプリング90はブレーキシュー11,12の一方隣接部においてシューウェブ11a,12a間に張設するシューリタンスプリングを代用し、ブレーキシュー11,12間に通常は数本張設されるシューリタンスプリングのうち、一方隣接部側のシューリタンスプリングを廃止することができる。
【0020】
<ハ>シュー間隙の自動調整作用
サービスブレーキ作動により一対のブレーキシュー11,12が拡張すると、ストラット70は第2スプリング90のばね力によって他方のブレーキシュー12に追従する。
【0021】
ライニング11c,12cが摩耗して、一対のブレーキシュー11,12の拡張量が前記クオドラント72の突起状腕部72cとシューウェブ12のクオドラント係合孔11dとの間の隙間δを超えると、突起状腕部72cに作用する力によってクオドラント72が図2における時計回りに回動しようとする力が発生する。ストラット本体71の調整歯71bとクオドラント72の調整歯72bとは、第1スプリング80および第2スプリング90のばね力によって噛み合っているが、クオドラント72を回動しようとする力が大きくなると、調整歯71b,72bが滑って噛み合い状態が1歯分変化する。このとき、1歯相当分だけシューウェブ11aのクオドラント係合孔11dに当接する突起状腕部72cのカム面の当接点を変位せしめ、該突起状腕部72cが支持するクオドラント係合孔11dのブレーキ外方側内面とブレーキレバー30の内縁を支持するストラット本体71の溝底との距離Lを伸長せしめて、シュー間隙を常にほぼ一定に保つ。言い換えるとストラット70の実質的な有効長を伸長してブレーキシュー11,12とブレーキドラム(図示せず)との隙間を詰めて、シュー間隙を常にほぼ一定に保つ。
【0022】
また、パ―キングブレーキ作動時には、ストラット70がブレーキシュー11と一体に図における右方向に移動し、第2スプリング90が伸びてブレーキシュー12が左方向に移動するだけであるから、シュー間隙の自動調整作用には何ら影響を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るシュー間隙自動調整装置を備えたドラムブレーキ装置の平面図
【図2】図1のII−II断面図
【符号の説明】
【0024】
10 バックプレート
11,12 ブレーキシュー
11a,12a シューウェブ
11b,12b シューリム
11c,12c ライニング
11d クオドラント係合孔
14 シューホールド装置
15 アンカー
17 シューリタンスプリング
30 ブレーキレバー
31 ピン
40 ホイールシリンダ
70 ストラット
71 ストラット本体
71a (ストラット本体の)切欠部
71b (ストラット本体の)調整歯
71c (ストラット本体の)右方部
72 クオドラント
72a (クオドラントの)扇状腕部
72b (クオドラントの)調整歯
72c (クオドラントの)突起状腕部
73 クオドラントピン
80 第1スプリング
90 第2スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対のブレーキシューの一方隣接部間にストラット本体を配設し、該ストラット本体の一端にクオドラントを回動可能で、かつ、前記ストラット本体の長手方向に可動的に軸支し、該クオドラントに設けたシュー係合部を一方のブレーキシューのシューウェブに設けたクオドラント係合部に遊びを有して係合し、ブレーキシューの拡開量が所定の値を超えたときに前記クオドラントが回動してブレーキシューの間隙を自動的に調整するシュー間隙自動調整装置を備えたドラムブレーキ装置において、
前記ストラット本体と前記一方のブレーキシュー間に第1スプリングを張設するとともに、前記クオドラントと他方のブレーキシュー間に第2スプリングを張設し、両スプリングにより前記一対のブレーキシューを互いに近づく方向に付勢したことを特徴とする、 ドラムブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のドラムブレーキ装置において、前記クオドラントのシュー係合部をクオドラントの一端に設けた突起状腕部とするとともに、前記シューウェブのクオドラント係合部を前記シューウェブに穿設したクオドラント係合孔とし、前記突起状腕部を前記クオドラント係合孔に遊びを有して係合したことを特徴とする、ドラムブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−144791(P2010−144791A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321007(P2008−321007)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】