説明

ショウガ抽出物及びショウガ抽出物の製造方法

【課題】 6−ジンゲロールよりも6−ショウガオールが多く含有され、且つ長期間の保存においても6−ジンゲロールと6−ショウガオールの比率が変化しない安定性に優れたショウガ抽出物及びこのショウガ抽出物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 6−ショウガオールの6−ジンゲロールに対する重量比が1.6以上であることを特徴とするショウガ抽出物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショウガ抽出物及びその製造方法に関し、より詳しくは、生のショウガ(Zingiber officinale)から抽出される抽出物において、6−ショウガオールが6−ジンゲロールよりも多く含有され、且つ長期保存安定性に優れるショウガ抽出物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ショウガ(Zingiber officinale)は、従来より、薬味や生薬として使用されてきた。また、ショウガ(Zingiber officinale)から抽出された抽出物は、香辛料や嗜好品、薬剤に添加する等、多くの使用用途が知られている。
【0003】
ショウガ(Zingiber officinale)には辛味成分が含まれており、その辛味成分としてジンゲロールとショウガオールが知られている。生のショウガ(Zingiber officinale)に含まれる辛味成分は、そのほとんどがジンゲロールであり、ショウガオールはごく僅かしか含まれていない。
ジンゲロールには、6−ジンゲロール、8−ジンゲロール、10−ジンゲロール等が含まれるが、その中で6−ジンゲロールが主成分である。
【0004】
一方、ショウガオールは、ジンゲロールが加熱されることによって産生される。あるいは、ショウガ(Zingiber officinale)をすりおろしたり抽出物とすると、ジンゲロールが経時的にショウガオールに変換される。上記したジンゲロールは、6−ショウガオール、8−ショウガオール、10−ショウガオールに夫々変換される。ショウガオールにおいても、6−ジンゲロールから変換された6−ショウガオールが最も多く産生されることとなる。
【0005】
6−ジンゲロール、6−ショウガオールはいずれもショウガ(Zingiber officinale)の辛味成分であるが、その風味は異なっている。
上記したように、6−ジンゲロールは経時的に6−ショウガオールに変換される。そのため、6−ジンゲロールが多い状態のショウガ抽出物を食品に添加した場合、時間経過とともに味が変化してしまう。つまり、長期間にわたって保存すると6−ショウガオールが徐々に増加して味が変化するという、品質の低下を招くこととなる。
【0006】
特許文献1には、ショウガオールがジンゲロールよりも抗炎症作用に優れることが開示されており、ショウガ(Zingiber officinale)の抽出物を100℃以上の温度で加熱することにより、ショウガオールを多く含有するショウガ抽出物を得て沈殿物を除去し、更にエタノールを除去した後に加糖してショウガ加工食品組成物を得る方法が開示されている。具体的には、特許文献1では、生のショウガから得られるショウガ汁(500g)を115℃で2時間加熱して沈殿物を除去し、エタノールを除去した後に加糖してショウガ加工食品組成物が得られる。このようにして得られたショウガ加工食品組成物中の6−ジンゲロールと6−ショウガオールの比は、2.15:1である。
しかし、特許文献1の開示技術を用いても長期間の保存安定性に優れるショウガ抽出物を得ることは困難であった。つまり、特許文献1の開示技術では、6−ジンゲロールが6−ショウガオールよりも多く残存したままであるため、時間経過とともに6−ショウガオールが増加することとなって品質の変化を防ぐことができなかった。
【0007】
ここで、水や溶媒で抽出したショウガ抽出物には、生のショウガからえられたショウガ汁よりも高濃度で6−ジンゲロールと6−ショウガオールが含有されている。
水あるいは溶媒抽出により得られたショウガ抽出物では、上記したように、6−ジンゲロールは6−ショウガオールよりも多く含まれている。6−ジンゲロールが6−ショウガオールよりも多く含まれる状態では、6−ジンゲロールが6−ショウガオールに変換されることとなり、保存中の6−ショウガオール(及び6−ジンゲロール)の量的な安定性を得ることはできなかった。従って、辛味(香味)成分の主成分として6−ジンゲロールと6−ショウガオールを含有するショウガ抽出物において、夫々の成分の量的な安定性が得られない、つまり風味の安定性が得られないことが問題となる。
【0008】
特許文献2には、ショウキョウ(ショウガ(Zingiber officinale)根茎の乾燥物)を使用し、これを70〜95℃の温度で1〜150時間加熱して、ショウキョウに含まれる6−ショウガオールの含有量を増加させることが開示されている。
特許文献2の開示技術を用いると6−ショウガオールの含有量を増加させることが可能となる。しかしながら、特許文献1の開示技術と同様に、6−ジンゲロールが6−ショウガオールよりも多く残存したままであるため、時間経過とともに6−ショウガオールが増加する虞があった。つまり、6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有比が平衡状態でないため、風味が変化するという品質の変化を防ぐことは困難であった。
【0009】
上記したように、特許文献1あるいは特許文献2に開示される技術を用いたとしても、高濃度で6−ジンゲロール及び6−ショウガオールが含有されるショウガ抽出物において、6−ジンゲロール及び6−ショウガオール、特に6−ショウガオールの長期間の保存安定性を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−124786号公報
【特許文献2】特開2008−079562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、6−ジンゲロールよりも6−ショウガオールが多く含有され、且つ長期間の保存においても6−ジンゲロールと6−ショウガオールの比率が変化しない安定性に優れたショウガ抽出物及びこのショウガ抽出物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、6−ショウガオールの6−ジンゲロールに対する重量比が1.6以上であることを特徴とするショウガ抽出物に関する。
【0013】
請求項2に係る発明は、ショウガ抽出物全量に対する前記6−ジンゲロールの含有量が7重量%以下であり、前記6−ショウガオールの含有量が10重量%以上であることを特徴とする請求項1記載のショウガ抽出物に関する。
【0014】
請求項3に係る発明は、25℃で2年間の保存において、前記6−ジンゲロール及び前記6−ショウガオールの変化量が夫々15%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のショウガ抽出物に関する。
【0015】
請求項4に係る発明は、ショウガ抽出物全量に対する糖質の含有量が10重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のショウガ抽出物に関する。
【0016】
請求項5に係る発明は、ショウガ(Zingiber officinale)から抽出した抽出物を、100〜130℃で24〜60時間、加熱する工程を含むことを特徴とするショウガ抽出物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、6−ショウガオールの6−ジンゲロールに対する重量比が1.6以上であることにより、6−ジンゲロールよりも6−ショウガオールの方が多い状態で平衡状態となるため、6−ショウガオールを多く含んだ状態の安定な抽出物とすることができる。
【0018】
請求項2に係る発明によれば、ショウガ抽出物全量に対する前記6−ジンゲロールの含有量が7重量%以下であり、前記6−ショウガオールの含有量が10重量%以上であることにより、6−ジンゲロールが6−ショウガオールへ変換されにくくなり、6−ショウガオールを多く含んだ状態のまま6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有量が変化することがない抽出物とすることができる。そのため、抽出物を長期間にわたって保存した場合にも経時的に6−ショウガオールが増えることがなく、6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有量が安定化して品質、特に風味を維持することができる。
【0019】
請求項3に係る発明によれば、25℃で2年間の保存において、前記6−ジンゲロール及び前記6−ショウガオールの変化量が夫々15%以下であることにより、長期間にわたる保存においても6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有量が略変化しないため、品質劣化のない抽出物とすることができる。そのため、保存中に風味が変化する虞がない。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、ショウガ抽出物全量に対する糖質の含有量が10重量%以下であることにより、様々な食品や製剤に添加可能な汎用性に優れるショウガ抽出物とすることができるとともに、長期間の保存安定性に優れるショウガ抽出物とすることができる。
【0021】
請求項5に係る発明によれば、ショウガ(Zingiber officinale)から抽出した抽出物を、100〜130℃で24〜60時間、加熱する工程を含むことにより、ショウガ抽出物に含有される6−ジンゲロールを6−ショウガオールに変換することができる。つまり、6−ジンゲロールが6−ショウガオールに変換されない程度まで6−ジンゲロールの量を低減することができる。従って、経時的な6−ショウガオールの増加を防ぐことができるため、長期間にわたる保存においても抽出物中の成分量(6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有量及び含有比率)を維持することができて、品質劣化のない抽出物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】配合例1、比較配合例1〜5、参考配合例における加速劣化試験の結果を示す図であり、(a)は6−ジンゲロールの量の経時的な変化を示す図であり、(b)は6−ショウガオールの量の経時的な変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るショウガ抽出物及びこのショウガ抽出物の製造方法について詳細に説明する。
【0024】
本発明に係るショウガ抽出物は、ショウガ属に属するショウガ(Zingiber officinale)から抽出して得られる。尚、ショウガ(Zingiber officinale)の産地や品種等は特に限定されない。
【0025】
ショウガ(Zingiber officinale)は、根茎、茎、葉から構成されるが、抽出原料としては根茎が使用される。根茎の状態は、生のままであっても乾燥された状態であってもよい。
根茎の形態は特に限定されないが、抽出効率を高めるために、すりおろした状態や粉砕した状態、圧搾して絞り汁とした状態とすることが好ましい。
【0026】
ショウガ(Zingiber officinale)抽出物は、公知の方法により抽出される。例えば、溶媒抽出や超臨界抽出等が利用されるが、これらに限定されない。
【0027】
溶媒抽出により抽出する場合、抽出溶媒としては水、有機溶媒が用いられる。また、水と親水性の有機溶媒を任意の混合比で混合した混合溶媒を用いることもできる。
有機溶媒としては、低級アルコール、ヘキサン、アセトン、酢酸エチル等が例示され、いずれも抽出溶媒としては好適である。しかし、後述のように、抽出物は食品や製剤に添加されるため、人体に無害なものであることが好ましく、エタノールが特に好ましく使用される。
抽出操作は、1回又はそれ以上の複数回行なうことが好ましい。抽出操作を繰り返すことで抽出効率を向上させることができる。
【0028】
二酸化炭素を用いた超臨界抽出により抽出することもできる。超臨界抽出により抽出すると、抽出物の酸化を防ぐことができる。
二酸化炭素を超臨界状態とする際の温度や圧力は適宜調節される。
【0029】
上記した溶媒抽出や超臨界抽出等の抽出方法により得られた抽出物には、ジンゲロールが抽出物全量に対して5重量%〜50重量%含有されている。含有されるジンゲロールの主成分は6−ジンゲロールである。また、この抽出物に含有されるショウガオール(6−ショウガオール)は、抽出物全量に対して0.1重量%〜10重量%である。
【0030】
本発明において、上記した抽出方法等により得られた抽出物には加熱処理が施される。抽出物に加熱処理を施すことで、抽出物に含有される6−ジンゲロールの6−ショウガオールへの変換が促進される。
得られた抽出物を密閉容器に封入して加熱する。このときの好適な加熱条件は、液状の抽出物の温度が100〜130℃とされ、この温度を維持したまま24〜60時間加熱する。
上記した条件の範囲で抽出物を加熱することにより、抽出物に含有される6−ジンゲロールが6−ショウガオールに変換されない量まで減少することとなる。つまり、もともと6−ショウガオールよりも含有量の多い6−ジンゲロールが減少し、その含有比が逆転して6−ショウガオールの6−ジンゲロールに対する含有量の比(重量比)が1.6以上となって、6−ショウガオールが多く含有される状態で平衡状態となる。
上記した加熱条件において、より好ましい条件は115〜125℃で40〜50時間である。この条件で抽出物を加熱すると、最も効率的に6−ジンゲロールと6−ショウガオールとの含有量を逆転させることができ、6−ショウガオールを多く含有した状態で安定化することができる。
【0031】
ショウガ(Zingiber officinale)抽出物を加熱すると、6−ショウガオールは、6−ジンゲロール約1重量%に対して約0.5重量%産生される。つまり、6−ジンゲロールが約1重量%減少すると、6−ショウガオールが約0.5重量%増加する。
6−ジンゲロールよりも6−ショウガオールが多い状態で平衡となると、6−ジンゲロールの含有量も6−ショウガオールの含有量も略変化することがない。そうすると、経時的に6−ショウガオールが産生されなくなるため、抽出物の成分比率、即ち、6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有比が変化することなく略一定の状態を維持することができる。
【0032】
加熱処理時の加熱温度が100℃未満であると、6−ショウガオールが十分に産生されない。つまり、加熱後の抽出物中に6−ジンゲロールが多く存在し、6−ショウガオールに経時的に変換されることとなる。また、100℃未満で長時間(例えば60時間)加熱したとしても、6−ジンゲロールが6−ショウガオールに変換される温度に達していないため、含有比の逆転は望めない。
一方、130℃を超えて加熱すると、効率的且つ効果的に6−ショウガオールが産生される。しかし、生成した6−ショウガオールが分解したり、別の化合物に更に変換される可能性がある。また、抽出物が焦げる虞があり、例えば食品に添加した場合に焦げた味を呈することとなり好ましくない。従って、130℃を超える温度で短時間(例えば5時間)の加熱にとどめたとしても、6−ショウガオールが最も多く含有される状態とすることはできず、更に風味も劣化することとなる。
【0033】
上記した抽出物において、6−ショウガオールの6−ジンゲロールに対する含有量の比(重量比)は1.6以上、好ましくは2以上である。つまり、上述の加熱条件で抽出物を加熱することで、6−ショウガオールの量が、6−ジンゲロールの量の1.6倍以上となる。
より具体的には、6−ショウガオールの6−ジンゲロールに対する含有量の比(重量比)が、1.6〜3である。このような含有比まで6−ジンゲロールを6−ショウガオールに変換すると抽出物中に6−ショウガオールを最も多く含んだ状態で平衡状態となり、成分比率が変化しない抽出物とすることができる。
【0034】
加熱処理、つまり100℃〜130℃で24〜60時間の加熱処理を施すことにより、天然のショウガ(Zingiber officinale)では得られない成分含有比のショウガ抽出物を得ることができる。
上記した6−ジンゲロールと6−ショウガオールの重量比において、抽出物全量に対する含有量(重量%)は、6−ジンゲロールは7重量%以下であり、6−ショウガオールは10重量%以上である。より具体的には、6−ジンゲロールは0.1〜7重量%であり、6−ショウガオールは10〜50重量%の範囲で含有される。つまり、ショウガ抽出物中に含有される6−ジンゲロール及び6−ショウガオールの総量は、ショウガ抽出物全量に対して10.1〜57重量%である。
【0035】
加熱処理したショウガ(Zingiber officinale)抽出物は、種々の食品、製剤に添加、配合することができる。
食品としては錠菓、飴(ハードキャンディ)、飲料等が例示され、製剤としては錠剤、エキス剤等の経口剤、軟膏のような非経口剤が例示されるが、これらに限定されない。
【0036】
また、加熱処理したショウガ(Zingiber officinale)抽出物には、糖質等を配合することができる。糖質の含有量は、ショウガ抽出物全量に対して10重量%以下とすることが好ましい。そうすることで、食品や製剤への添加の汎用性に優れる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明に係るショウガ抽出物及びその製造方法に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
生のショウガ(Zingiber officinale)から得られた抽出物を加熱し、加熱後の抽出物中の6−ジンゲロール及び6−ショウガオールの含有量を定量して保存安定性を評価した。
【0039】
<ショウガ抽出物の抽出方法>
ショウガ抽出物の抽出原料として生のショウガ(Zingiber officinale)根茎を使用した。すりおろしたショウガ(Zingiber officinale)根茎120kgを乾燥し、乾燥物20kgを得た。乾燥物を、二酸化炭素を用いた超臨界抽出又は溶媒抽出により抽出し、抽出物1kgを得た。
尚、溶媒抽出により抽出する際、ヘキサンと酢酸エチルの比が3:1の混合液100kgを使用した。乾燥物20kgをヘキサンと酢酸エチルの混合液に投入し撹拌して抽出を行い、抽出物を得た。得られた抽出物を濃縮して、1kgの濃縮抽出物を得た。
【0040】
<抽出物の加熱条件>
得られた抽出物1kgを密閉容器に封入した。抽出物を100℃、120℃、130℃のいずれかの温度まで加熱し、温度を保持したままで24時間、27時間、48時間、60時間のいずれかの時間で加熱処理を施した。
【0041】
<抽出物中のジンゲロール又はショウガオール含有量の定量方法>
加熱処理後の抽出物あるいは加速劣化試験後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。
抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の量は、クロマトグラムのピーク面積から算出した。
HPLC(島津製作所製、LC10AD)の測定条件を表1に示す。尚、検出器として吸光光度検出器(UV−vis検出器)を使用した。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例1)
超臨界抽出法で得られた抽出物を120℃、48時間加熱した。加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。
【0044】
(実施例2)
溶媒抽出法で得られた抽出物(濃縮物)を120℃、27時間加熱した。加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。
【0045】
(実施例3)
超臨界抽出法で得られた抽出物を130℃、24時間加熱した。加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。
【0046】
(実施例4)
溶媒抽出法で得られた抽出物を100℃、60時間加熱した。加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。
【0047】
(実施例5)
溶媒抽出法で得られた抽出物を130℃、60時間加熱した。加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。
【0048】
(比較例)
実施例1と同じ方法により、抽出物を得た。得られた抽出物に対して、表2に示す条件で加熱処理を施した。実施例1と同様に、加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。HPLCの条件は、表1に示す通りである。
【0049】
(参考例)
実施例1と同じ方法により抽出物を得た。得られた抽出物に対して加熱処理は施さずに、抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。HPLCの条件は、表1に示す通りである。
【0050】
表2に加熱条件とともに、実施例、比較例、参考例における加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオールの含有量及び合計(重量%)を示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2より、実施例1〜5及び比較例5では、6−ショウガオールの方が6−ジンゲロールよりも多く含有されることが分かった。一方、比較例1〜4では、6−ショウガオールの方が6−ジンゲロールよりも少ないことが分かった。
参考例の結果より、加熱処理を施していないショウガ抽出物では、6−ジンゲロールの方が6−ショウガオールよりも多く含有されることがわかる。加熱処理を施すことによって抽出物中の6−ショウガオールの量が増加し、加熱処理を施していない状態よりも多く6−ショウガオールが含有されることが確認された。
【0053】
しかし、比較例1〜4の加熱条件では、6−ショウガオールの量は増加するものの、6−ジンゲロールの量は多いままである。
つまり、100℃未満の温度で長時間(24時間以上)の加熱処理、例えば、85℃で24時間(比較例1参照)や90℃で150時間(比較例3参照)の加熱処理を施しても6−ショウガオールの量が6−ジンゲロールの量を上回ることがない。また、100℃以上130℃未満の温度で短時間(5時間未満)の加熱処理、例えば115℃で2時間(比較例4参照)の加熱処理を施しても6−ショウガオールの量が6−ジンゲロールの量を上回ることがない。
比較例1〜4の加熱条件では、6−ジンゲロールの量が6−ショウガオールよりも多いため、6−ジンゲロールが6−ショウガオールに経時的に変換される可能性があることがわかった。
【0054】
表2より、比較例5の加熱条件(150℃で5時間)とすると、6−ショウガオールの量が6−ジンゲロールの量を上回ることとなる。しかし、実施例1では、6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有量の比は約1:2.39、実施例2では約1:2.17であるが、比較例5では約1:1.26であることがわかる。
つまり、比較例5の加熱条件では、6−ショウガオールの量が6−ジンゲロールの量を上回るが、6−ショウガオールの6−ジンゲロールに対する含有量の比は1.6以上とならない。150℃という温度で加熱することにより、生成した6−ショウガオールが分解、もしくは別の化合物に更に変換されたと考えられる。
【0055】
<加速劣化試験>
実施例1、比較例1〜5の抽出物を配合したエマルションに対して加速劣化試験を行い、保存安定性について評価した。
加熱処理後の抽出物を使用し、表3に示す配合比でエマルションを調製した。
エマルションが55℃となるまで加温し、温度を保持したままで40日間若しくは63日間保存した。参考例においては、加熱処理を行わないままエマルションを調製した。
実施例1の抽出物を配合したエマルションを配合例1、比較例1〜5の抽出物を配合したものを比較配合例1〜5、参考例の抽出物を配合したものを参考配合例とした。
尚、55℃での保存は、常温を25℃とした場合に、1週間で常温180日間保存、2週間で常温360日間保存に相当する。
7日間保存、14日間、21日間、28日間、40日間、63日間におけるエマルション中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。HPLCの条件は、表1に示す通りである。
【0056】
【表3】

【0057】
配合例1、比較配合例1〜5、参考配合例における加速劣化試験の結果を図1(a)及び図1(b)に示す。
図1(a)は、6−ジンゲロールの量の経時的な変化を示す図であり、図1(b)は6−ショウガオールの量の経時的な変化を示す図である。
【0058】
配合例1において、40日間保存後の6−ジンゲロールと6−ショウガオールの比は、約1:2.72であった。40日間の保存後の6−ジンゲロールの変化量は、当初の含有量の約14%であり、一方、6−ショウガオールの変化量は、当初の含有量の約3%であった。また、図1(a)からも、6−ジンゲロール、6−ショウガオールの量はともに略変化しないことがわかった。つまり、実施例1の抽出物を使用すると、25℃で2年間保存しても6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有比は変化しないことが確認された。
一方、比較配合例1〜4では、7週間、14週間と保存期間が長くなるにつれて、6−ショウガオールの量が徐々に増加していき、6−ジンゲロールの量が徐々に減少していることがわかる。また、比較配合例5では、比較配合例1〜4程ではないが、経時的に6−ショウガオールの量が増加することが確認された。
【0059】
以上より、実施例1の抽出物を使用した配合例1では、25℃で2年間の長期間にわたる保存においても6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有量に変化がないため、品質、特に味に変化を生じることなく保存安定性に優れることが示唆された。
一方、比較例1〜5の抽出物を配合した比較配合例1〜5では、25℃の保存において経時的に6−ショウガオールの含有量が増加するため、味が変化すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、長期間にわたる品質の維持が必要とされる菓子類や飲料等の食品、薬剤に添加される抽出物あるいは組成物に好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−ショウガオールの6−ジンゲロールに対する重量比が1.6以上であることを特徴とするショウガ抽出物。
【請求項2】
ショウガ抽出物全量に対する前記6−ジンゲロールの含有量が7重量%以下であり、前記6−ショウガオールの含有量が10重量%以上であることを特徴とする請求項1記載のショウガ抽出物。
【請求項3】
25℃で2年間の保存において、前記6−ジンゲロール及び前記6−ショウガオールの変化量が夫々15%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のショウガ抽出物。
【請求項4】
ショウガ抽出物全量に対する糖質の含有量が10重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のショウガ抽出物。
【請求項5】
ショウガ(Zingiber officinale)から抽出した抽出物を、100〜130℃で24〜60時間、加熱する工程を含むことを特徴とするショウガ抽出物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−50377(P2012−50377A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195191(P2010−195191)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【出願人】(390019460)稲畑香料株式会社 (22)
【Fターム(参考)】