ショウジョウバエ由来生理活性ペプチドdRYamide
【課題】新規生理活性ペプチドの提供する。
【解決手段】(1)特定のアミノ酸配列からなるペプチド又はペプチドアミド、(2)特定のアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRY及びC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列からなり、変異前のペプチド(アミド)と同等のショウジョウバエNepYrに対する結合活性を有するペプチド又はペプチドアミド、並びに(3)特定のアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRY及びC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換等されたアミノ酸配列並びに当該SRY及びFFの1又は2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなり、変異前のペプチド(アミド)と同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチド又はペプチドアミドからなる群より選ばれる、単離されたペプチド又はペプチドアミド。
【解決手段】(1)特定のアミノ酸配列からなるペプチド又はペプチドアミド、(2)特定のアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRY及びC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列からなり、変異前のペプチド(アミド)と同等のショウジョウバエNepYrに対する結合活性を有するペプチド又はペプチドアミド、並びに(3)特定のアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRY及びC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換等されたアミノ酸配列並びに当該SRY及びFFの1又は2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなり、変異前のペプチド(アミド)と同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチド又はペプチドアミドからなる群より選ばれる、単離されたペプチド又はペプチドアミド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショウジョウバエ由来生理活性ペプチドdRYamideに関し、害虫駆除薬または医薬の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのGタンパク質共役型受容体(GPCR)に対するリガンド、特に生理活性ペプチドは、幅広い生理現象に関わっていることから医薬品としての応用が進められている。しかし、ショウジョウバエを含む昆虫では未知の生理活性ペプチドの探索はあまり行われていなかった。昆虫における生理活性ペプチドとその受容体に関する最近の知見として、脂質動員ホルモン(AKH)の受容体の発見(非特許文献1)、GPCRとβ−2−アレスチン2との相互作用に基づく、ショウジョウバエ神経ペプチド受容体の同定(非特許文献2)などが知られている。
【0003】
オーファンGPCRに対する内在性リガンドの探索は活発に行われているが、近年、哺乳類での新たな発見に関する報告は減少している。一例として、オーファンGPCRとして知られていた成長ホルモン分泌促進因子受容体(GHS−R)の内在性リガンドとして、ラットおよびヒトのグレリン(Ghrelin)が報告された(非特許文献3)。グレリンは、医薬品への応用開発が進められている。本発明者らは、最近、ネコのグレリンを同定した(非特許文献4)。
【0004】
神経伝達物質であるニューロペプチドY(NPY)および消化管ホルモンであるペプチドYY(PYY)は、構造的に関連するペプチドであり、哺乳類においてY1、Y2、Y4、Y5およびY6が同定され、ヒトにおいてはヒトニューロペプチドY受容体Y1、Y2、Y4およびY5が同定されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】PNAS, 2002, Vol.99, pp.3446-3451
【非特許文献2】Journal of Biological Chemistry, 2003, Vol.278, pp.52172-52178
【非特許文献3】Nature, 1999, Vol.402, pp.656-660
【非特許文献4】Domestic Animal Endocrinology, 2007, Vol.32, pp.93-105
【非特許文献5】Journal of Biological Chemistry, 1992, Vol.267, pp.10935-10938
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
天然に存在する生理活性物質は、これまでに医薬品の有効成分、生活必需品の成分として利用され、人類の健康増進に大いに貢献してきた。したがって、新規生理活性物質の探索は、新規有効成分医薬品ばかりではなく新規効能医薬品の候補を提供するためにも重要であるが、哺乳類での未知の生理活性ペプチドリガンドの発見は減少している。哺乳類ではリガンド未知なオーファン受容体がまだ数多く存在しているにも関わらず、哺乳類新規生理活性ペプチドの発見が減少している理由は、生体内での含量が極端に少ないか、発現する時期が限られている可能性がある。哺乳類オーファン受容体に類似するショウジョウバエオーファン受容体は数多く存在することから、ショウジョウバエで新規生理活性ペプチドを発見すれば、哺乳類でのホモログペプチドの発見につなげていける可能性がある。
一方、ショウジョウバエでの新規生理活性ペプチドの探索は、データベースを利用したものが多いが、ペプチドはアミノ酸配列が短く、予測が困難であった。また、予測したペプチドがどの受容体に作用するかはわからなかった。したがって、本発明の目的は、特定の受容体に結合する新規生理活性ペプチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、オーファン受容体として、哺乳類ニューロペプチドY(NPY)受容体に類似しているショウジョウバエNPY−like receptor(NPY receptor−likeとも称する)に着目し、内在性リガンドを探索した。その結果、ショウジョウバエ新規生理活性ペプチドdRYamide−1およびdRYamide−2をそれぞれ単離し、当該リガンドと相同なアミノ酸配列を有するペプチドが様々な昆虫においても存在することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下のものを提供する。
〔1〕 (1)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはペプチドアミド、
(2)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のショウジョウバエneuropeptideY receptor−like(NepYr)に対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド、および
(3)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列ならびに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド
からなる群より選ばれる、単離されたペプチドまたはペプチドアミド。
〔2〕 (1)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはペプチドアミド、
(2)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド、および
(3)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列ならびに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド
からなる群より選ばれるペプチドまたはペプチドアミドからなる、NepYrに対するリガンド。
〔3〕 前記〔1〕に記載のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する、節足動物の摂食抑制剤。
〔4〕 前記〔1〕に記載のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する、害虫駆除剤。
〔5〕 前記〔1〕に記載のペプチドまたはペプチドアミドに結合する抗体。
〔6〕 前記〔1〕に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
〔7〕 dRYamide前駆体mRNAの発現を特異的に阻害する物質を含有する、節足動物の成長促進剤。
〔8〕 配列番号3の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAを含有する、前記〔7〕記載の成長促進剤。
〔9〕 NepYrの発現または機能を阻害する物質を含有する、昆虫の成長促進剤。
〔10〕 NepYrの発現または機能を阻害する物質が、以下の(i)〜(iii)のいずれかである、前記〔9〕記載の成長促進剤:
(i)NepYrをコードする遺伝子のアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸またはターゲッティングベクター、
(ii)NepYrに対する抗体、当該抗体をコードする核酸、当該NepYrのドミナントネガティブ変異体または当該変異体をコードする核酸、または
(iii)(i)もしくは(ii)の核酸を含む発現ベクター。
〔11〕 RNAi誘導性核酸が、配列番号5の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAである、前記〔10〕記載の成長促進剤。
〔12〕 節足動物が昆虫である、前記〔3〕、〔7〕〜〔11〕のいずれかに記載の剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の単離されたペプチドまたはペプチドアミドは、ショウジョウバエオーファンGPCRであるショウジョウバエNPY−like receptor(NPY receptor−like(NepYr))に結合するリガンドであり、dRYamide−1およびdRYamide−2ファミリーを構成する。dRYamide−1およびdRYamide−2は、多くの昆虫で高度に保存されていた。dRYamide−1またはdRYamide−2を投与したクロキンバエは摂食が抑制されたことから、dRYamideの前駆体もしくはNepYrの発現抑制またはdRYamideとNepYrとの結合阻害によって、昆虫の摂食増進作用または成長促進作用が期待できる。以上の点から、dRYamide−1およびdRYamide−2は昆虫における摂食抑制ペプチドであり、害虫の発育阻害剤としての利用が期待される。また、dRYamide−1およびdRYamide−2が哺乳類NPY受容体に対するスーパーアゴニスト作用またはアンタゴニスト作用を有する場合、肥満、神経性食思不振症の治療などに応用できる可能性がある。さらに、本発明により昆虫の摂食行動を調節できれば、害虫に対する駆虫薬または有用昆虫の効率的育成などを行える可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】マウスニューロペプチドY受容体ファミリーに属する遺伝子およびショウジョウバエGPCRのNPY−like receptorの系統樹である。
【図2】ショウジョウバエペプチド抽出物のゲル濾過の精製を示すチャートである。
【図3】ショウジョウバエペプチド抽出物のイオン交換クロマトグラフィーの精製を示すチャートである。
【図4】NPY−like receptorに結合するリガンドdRYamide−1およびdRYamide−2の前駆体のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。dRYamide−1(配列番号1)およびdRYamide−2(配列番号2)が由来する領域を枠内に示す。
【図5】dRYamide前駆体およびNPY−like receptorのmRNAの発現量を比較したグラフである。
【図6】ショウジョウバエNPY−like receptorのmRNAの各種組織での発現を比較した図である。
【図7】ラジオイムノアッセイによるdRYamide−1およびdRYamide−2のN末端側認識抗体の特異性を調べた結果を示す。
【図8】ショウジョウバエにおけるdRYamide−1およびdRYamide−2の含量を特異的抗体を用いてラジオイムノアッセイで調べた結果を示すグラフである。
【図9】dRYamide−2 N末端特異的抗体を用いて免疫染色を行った結果、ショウジョウバエ中腸におけるdRYamide−2の分布を示す。
【図10】dRYamide−1およびdRYamide−2ならびにマウス由来のペプチドアミドのアミノ酸配列のアラインメントを示す。
【図11】ショウジョウバエにdRYamide−2を投与して吻伸展反射試験を行った結果を示す。
【図12】dRYamide−1のアミド、dRYamide−2のアミドおよびそれらのC末端フリーペプチドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図13】dRYamide−1のアミド、dRYamide−2のアミドおよびその他のペプチドアミドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図14】dRYamide−1のアミド、dRYamide−2のアミドおよびその他のペプチドアミドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図15】dRYamide−1のアミド、dRYamide−2のアミドおよびその他のペプチドアミドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図16】dRYamide−1のアミドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図17】dRYamide−2のアミドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図18】合成したdRYamide−1(C末端フリー体)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図19】合成したdRYamide−2(C末端フリー体)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図20】合成ペプチドFFSRYのアミド(配列番号40)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図21】合成ペプチドFFAVSRYのアミド(配列番号41)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図22】合成ペプチドFFIASRYのアミド(配列番号42)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図23】合成ペプチドFFVASRYのアミド(V、AはDアミノ酸である)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図24】合成ペプチドFFVASRFのアミド(配列番号43)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図25】クルマエビ由来SGFYANRYのアミド(合成ペプチド、配列番号44)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図26】クルマエビ由来SSRFIGGSRYのアミド(合成ペプチド、配列番号45)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図27】dRYamide−2をクルマエビに投与した場合のクルマエビの摂食量への影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列またはアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
【0012】
本明細書において「ポリヌクレオチド」または「遺伝子」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAならびにRNAを包含する趣旨で用いられる。また、その長さによって特に制限されるものではない。したがって、本明細書においてポリヌクレオチドとは、特に言及しない限り、ゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)および該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、ならびにこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該「ポリヌクレオチド」には、特定の塩基配列(配列番号:3または5)で示される「ポリヌクレオチド」だけでなく、これらによりコードされるポリ(ペプチド)と生物学的機能が同等であるポリ(ペプチド)(例えば同族体(ホモログやスプライスバリアントなど)、変異体および誘導体)をコードする「ポリヌクレオチド」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「ポリヌクレオチド」としては、具体的には、ストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:3または5で示されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列からなる「ポリヌクレオチド」を挙げることができる。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。
【0013】
例えばショウジョウバエ由来のポリ(ペプチド)のホモログをコードするポリヌクレオチドとしては、当該ポリ(ペプチド)をコードするショウジョウバエ遺伝子に対応する蚊、カイコ、ハチなどの昆虫類、エビ、カニなどの甲殻類、クモ類、ムカデ類からなる節足動物などの他生物種の遺伝子が例示でき、これらの遺伝子(ホモログ)は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定のショウジョウバエの塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他の生物種の遺伝子とショウジョウバエ遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるショウジョウバエ遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)として他の生物種の遺伝子を選抜することができる。
なお、ポリヌクレオチドまたは遺伝子は、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソンまたはイントロンを含むことができる。
【0014】
単離された本発明のペプチドまたはペプチドアミドは、本発明者らにより見出された下記(i)dRYamide−1(配列番号1)および(ii)dRYamide−2(配列番号2)(これらは、ショウジョウバエに由来するものである)、ならびにそれらと同等の活性を有する変異ペプチドまたは変異ペプチドアミド(iii)および(iv)から構成されるペプチド群である。本発明においては、ペプチドまたはペプチドアミドのいずれも本発明の目的に使用することができるが、生理活性の強さの観点から、ペプチドアミドを使用することが好ましい。
【0015】
(i)dRYamide−1:PVFFVASRY−NH2(配列番号1)
上記アミノ酸配列のC末端はアミド化されていてもいなくてもよい。以下、dRYamide−1ファミリーを代表して、配列番号1で表されるペプチドアミドをdRYamide−1と称する場合がある。
【0016】
(ii)dRYamide−2:NEHFFLGSRY−NH2(配列番号2)
上記アミノ酸配列のC末端はアミド化されていてもいなくてもよい。以下、dRYamide−2ファミリーを代表して、配列番号2で表されるペプチドアミドをdRYamide−2と称する場合がある。
【0017】
(iii)dRYamide−1の変異ペプチドまたは変異ペプチドアミド
配列番号1で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個(好ましくは1〜3個)のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであっても、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のショウジョウバエneuropeptideY receptor−like(NepYr)に対する結合活性を有する限り本発明のペプチドまたはペプチドアミドに含まれる。
あるいは、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個(好ましくは1〜3個)のアミノ酸残基が置換、欠失または付加され、さらに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであっても、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有する限り本発明のペプチドまたはペプチドアミドに含まれる。
ここで「同等のNepYrに対する結合活性を有する」とは、実施例7および図4、13に示す受容体結合試験において、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等の結合親和性を有することをいう。同等の結合親和性としては、EC50が10−12〜10−6M程度の結合親和性が例示される。
【0018】
「アミノ酸残基の置換」としては、例えば保存的アミノ酸置換があげられる。保存的アミノ酸置換とは、特定のアミノ酸を、そのアミノ酸の側鎖と同様の性質の側鎖を有するアミノ酸で置換することをいう。具体的には、保存的アミノ酸置換では、特定のアミノ酸は、そのアミノ酸と同じグループに属する他のアミノ酸により置換される。同様の性質の側鎖を有するアミノ酸のグループは、当該分野で公知である。例えば、このようなアミノ酸のグループとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)があげられる。また、中性側鎖を有するアミノ酸は、さらに、極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン)、および非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)に分類することもできる。また、他のグループとして、例えば、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)、水酸基(アルコール性水酸基、フェノール性水酸基)を含む側鎖を有するアミノ酸(例えば、セリン、トレオニン、チロシン)などもあげることができる。また、ヒスチジンとメチオニンとの置換、グルタミン酸とセリンとの置換などもあげられる。
【0019】
前記SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基の置換としては、「SRY」から「GRY」、「SRF」または「NRY」への置換および「FF」から「YV」、「FV」、「GF」または「FI」への置換があげられるが、これらに限定されない。
【0020】
「アミノ酸残基の欠失」としては、例えば、各配列番号で表されるアミノ酸配列の中から、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個(好ましくは1〜3個)の任意のアミノ酸残基を選択して欠失させることがあげられる。
【0021】
「アミノ酸残基の付加」としては、各配列番号で表されるアミノ酸配列のN末端またはC末端側(好ましくはN末端側)に、1〜5個のアミノ酸残基を付加させることがあげられる。
【0022】
dRYamide−1の変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドの好適な具体例は、表1および表4にリストされている。
【0023】
(iv)dRYamide−2の変異ペプチドまたは変異ペプチドアミド
配列番号2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個(好ましくは1〜3個)のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであっても、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のショウジョウバエneuropeptideY receptor−like(NepYr)に対する結合活性を有する限り本発明のペプチドまたはペプチドアミドに含まれる。
あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個(好ましくは1〜3個)のアミノ酸残基が置換、欠失または付加され、さらに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであっても、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有する限り本発明のペプチドまたはペプチドアミドに含まれる。
ここで「同等のNepYrに対する結合活性を有する」とは、実施例7および図4、13に示す受容体結合試験において、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等の結合親和性を有することをいう。同等の結合親和性としては、EC50が10−12〜10−6M程度の結合親和性が例示される。
【0024】
「アミノ酸残基の置換」、「アミノ酸残基の欠失」および「アミノ酸残基の付加」は、上記(iii)で説明した通りである。
【0025】
dRYamide−2の変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドの好適な具体例は、表1および表4にリストされている。
【0026】
上記アミノ酸はL体、D体およびDL体を包含するものであるが、通常、L体であることが好ましい。D体のアミノ酸を含む好適な例として、表4に記載されている「FFVASRY−NH2」(下線部のアミノ酸残基はD体である)があげられる。本発明のペプチドは、通常のペプチド合成法によって合成され本発明に供することができるが、製造方法、合成方法、調達方法等については、特に限定されない。本発明のペプチドは、通常のペプチド合成装置を用いることにより、当業者であれば容易に合成することができる。また、本発明のペプチドアミドも常法によりペプチドのC末端をアミド化することにより、当業者であれば容易に合成することができる。
【0027】
本発明のペプチドまたはペプチドアミドは、上述したような結合親和性を有することより、NepYr(GenBank Accession No. NM_079801)に対するリガンドとして有用である。
【0028】
摂食抑制剤
本発明のペプチドまたはペプチドアミドは、NepYrに対するリガンドであり、当該受容体に結合することによって、昆虫を始めとする節足動物の摂食行動を抑制することができる。本発明は、本発明のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する節足動物(例、昆虫)の摂食抑制剤を提供する。摂食抑制剤は、ペプチドまたはペプチドアミドのいずれか1種であっても2種以上であってもよい。2種以上含有する場合、その種類は特に限定されない。ペプチドまたはペプチドアミドの配合量は、適宜設定すればよいが、通常、摂食抑制剤中、0.01〜99.5重量%である。
【0029】
本発明における節足動物には、昆虫類、甲殻類、クモ類およびムカデ類が含まれる。
昆虫類としては、カブトムシ、カイコ、ゴミムシ、チョウ、ガ、ハエ、カ、アブ、ハチ、アリ、セミ、カメムシ、バッタ、コオロギ、トンボ、ならびに後述する害虫および益虫として記載されたあらゆる昆虫があげられる。
甲殻類としては、エビ、カニ、オキアミ、フジツボ、ミジンコなどがあげられる。
クモ類としては、アシナガグモ、オナガグモ、コガネグモ、コモリグモ、ジョロウグモ、セアカゴケグモ、セスジアカムネグモ、センショウグモ、タランチュラ(オオツチグモ科)、ドヨウオニグモなど;さらには、イエダニ、マダニ、ツツガムシ、ヒメダニ、ヒゼンダニ、チリダニ、コナダニなどのダニ類があげられる。
ムカデ類としては、ムカデ、ゲジなどがあげられる。
【0030】
本発明の摂食抑制剤は、昆虫を始めとする節足動物を誘引するための誘引剤を含んでいてもよい。前記誘引剤としては、特に制限されないが、例えば、ビール酵母、蛹粉、酒かす、オキアミパウダー、卵黄、キャベツパウダー、キャロットパウダー、チキンエキスパウダー、シーズニングオイル、ストロベリーパウダー、ピーチパウダー、マッシュルームエキス、魚粉、牛(豚)肉粉等が挙げられる。誘引剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。誘引剤の配合量は、適宜設定すればよいが、通常、摂食抑制剤中、0.01〜50重量%である。
【0031】
本発明の摂食抑制剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに必要に応じて、上記以外の成分を配合することができる。例えば、フェニル−β−ナフリルアミン、α−ナフリルアミン、N,N−ジ−第三ブチル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−第三ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,6−第三ブチル−フェノール、2,4−ジ−メチル−6−第三ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤;黄色2号、黄色4号、赤色2号、赤色3号、赤色102号、青色1号、青色2号、緑色201号、緑色202号等の色素;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン、キサンタンガム、デンプン類等の粘度調整剤;リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のpH調整剤;水、エタノール、トウモロコシ油、ゴマ油等の溶剤;香料;などを配合することができる。
【0032】
害虫駆除剤
本発明は、本発明のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する害虫駆除剤を提供する。害虫駆除剤は、ペプチドまたはペプチドアミドのいずれか1種であっても2種以上であってもよい。2種以上含有する場合、その種類は特に限定されない。ペプチドまたはペプチドアミドの配合量は、適宜設定すればよいが、通常、害虫駆除剤中、0.01〜99.5重量%である。
【0033】
本発明の害虫駆除剤は、昆虫を始めとする節足動物を誘引するための誘引剤を含んでいてもよい。前記誘引剤としては、特に制限されないが、例えば、ビール酵母、蛹粉、酒かす、オキアミパウダー、卵黄、キャベツパウダー、キャロットパウダー、チキンエキスパウダー、シーズニングオイル、ストロベリーパウダー、ピーチパウダー、マッシュルームエキス、魚粉、牛(豚)肉粉等が挙げられる。誘引剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。誘引剤の配合量は、適宜設定すればよいが、通常、害虫駆除剤中、0.01〜50重量%である。
【0034】
本発明の害虫駆除剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに必要に応じて、上記以外の成分を配合することができる。例えば、フェニル−β−ナフリルアミン、α−ナフリルアミン、N,N−ジ−第三ブチル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−第三ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,6−第三ブチル−フェノール、2,4−ジ−メチル−6−第三ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤;黄色2号、黄色4号、赤色2号、赤色3号、赤色102号、青色1号、青色2号、緑色201号、緑色202号等の色素;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン、キサンタンガム、デンプン類等の粘度調整剤;安息香酸デナトニウム、トウガラシ粉末等の誤食防止剤;リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のpH調整剤;水、エタノール、トウモロコシ油、ゴマ油等の溶剤;香料;などを配合することができる。
【0035】
本発明の摂食抑制剤または害虫駆除剤は、単独で、または節足動物(例、昆虫)の餌と混合し、節足動物(例、昆虫)の生態系を考慮して、節足動物(例、昆虫)がアクセス可能な態様で節足動物(例、昆虫)に与えることができる。あるいは、害虫駆除剤は、積極的に節足動物(例、昆虫)の体内に導入することも好ましい。
【0036】
抗体
本発明は、本発明のペプチドまたはペプチドアミドに結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、本発明のペプチドまたはペプチドアミドの検出手段、本発明のペプチドまたはペプチドアミドの阻害作用を通じて節足動物(例、昆虫)の食欲の増進作用が期待される。本発明の「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する前記抗体の一部が包含される。
【0037】
前記抗体は、自体公知の方法により製造することができる。以下、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を例にとって、説明する。
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、例えば免疫原(本発明のペプチドまたはペプチドアミド)を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund’s Adjuvant)と共に、哺乳動物、例えばポリクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマまたはウシなど、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギに免疫する。モノクローナル抗体の場合は、同様の方法で、マウス、ラット、ハムスターなどに免疫する。
【0038】
本発明のペプチドまたはペプチドアミドは、そのまま免疫原として用いることも可能であるが、分子量1万以上の高分子化合物との複合体として免疫することが望ましい。従って、免疫原として使用するとき、本発明のペプチドは、自体公知の方法により高分子化合物(例、タンパク質(以下、キャリアタンパク質と記載する場合がある)など)との複合体としてもよい。例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを上記記載の方法に従って合成し、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、チログロブリン(TG)、免疫グロブリン等のキャリアタンパク質との複合体を形成させる。当該複合体は、その後好ましい免疫原として用いることができる。
【0039】
前記ペプチドとキャリアタンパク質との複合体を形成させるなどの目的で、本発明のペプチドには1〜2個、好ましくは1個のアミノ酸を付加することができる。付加されるアミノ酸の位置はペプチドのいずれの位置でもよく、特に限定されないが、ペプチドのN末端またはC末端が好ましく、C末端がより好ましい。
【0040】
複合体の形成においては、本発明のペプチドの抗原性を維持することができる限り、限定なく公知の方法を適用することができる。例えば、本発明のペプチドにシステイン残基を導入し、当該システインの側鎖であるSH基を介して前記高分子化合物(キャリアタンパク質)のアミノ基と結合させることもできる(MBS法)。また、タンパク質のリジン残基のεアミノ基や、αアミノ基などのアミノ基同士を結合させることもできる(グルタルアルデヒド法)。
【0041】
ポリクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。すなわち、免疫原をマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギ、好ましくはヤギ、ウマまたはウサギ、より好ましくはウサギの皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1〜数回注射することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜5回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物から血清を取得する。
【0042】
血清そのものをポリクローナル抗体として用いることも可能であるが、限外ろ過、硫安分画、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムもしくはプロテインA/Gカラム、免疫原を架橋させたカラム等を用いたアフィニティカラムクロマトグラフィーにより、該抗体を単離および/または精製し、得られた精製抗体を用いることも可能である。
【0043】
モノクローナル抗体の製造方法としては、例えば下記の方法が挙げられる。まず上記免疫感作動物から得た該抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、該ハイブリドーマをクローン化する。すなわち、ハイブリドーマの培養上清を検体として、免疫学的手法により、哺乳動物の免疫に用いた本発明のペプチドに対する特異的親和性を示しかつキャリアタンパク質と交差反応性を示さないモノクローナル抗体を産生するクローンを選択する。次いで、当該ハイブリドーマの培養上清などから、自体公知の方法によって抗体を製造することができる。
【0044】
具体的には、下記のようにしてモノクローナル抗体を製造することができる。すなわち、免疫原を、マウス、ラットまたはハムスターの皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内もしくは腹腔内に1〜数回注射するか、または移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜4回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物の脾臓などから抗体産生細胞を取得する。
【0045】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ(融合細胞)の調製は、ケーラーおよびミルシュタインらの方法(Nature,Vol.256,495-497,1975)ならびにそれらに準じる修飾方法に従って行うことができる。すなわち、前述の如く免疫感作された哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄または扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスターまたはウサギ等の哺乳動物、より好ましくはマウスまたはラット由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞との細胞融合により、ハイブリドーマを得る。
【0046】
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63−AG8.653(653;ATCC No.CRL1580)、P3/NSI/1−Ag4−1(NS−1)、P3/X63−Ag8.U1(P3U1)、SP2/0−Ag14(Sp2/0、Sp2)、PAI、F0またはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3−Ag.2.3.が挙げられる。
【0047】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングは、得られたハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート内で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の、前述の免疫感作で用いた本発明のペプチドに対する反応性および前記上清のキャリアタンパク質に対する反応性を、例えばELISA等の免疫測定法によって測定し、比較することによって行うことができる。
【0048】
スクリーニングによりクローン化されたハイブリドーマは、培地(例えば、10%牛胎仔血清を含むDMEM)を用いて培養される。そして、その培養液の遠心上清をモノクローナル抗体溶液とすることができる。また、該ハイブリドーマを、該ハイブリドーマに由来する動物の腹腔に注入することにより、動物に腹水を生成させ、該動物から得られた腹水をモノクローナル抗体溶液とすることができる。モノクローナル抗体は、上述のポリクローナル抗体と同様の方法で、単離および/または精製されることが好ましい。
【0049】
ポリヌクレオチド
本発明は、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドそのものであってもよく、dRYamide−1およびdRYamide−2の前駆体をコードする配列番号3で表される塩基配列全長からなるものであってもよい。また、dRYamide−1およびdRYamide−2が翻訳される限りにおいては、配列番号3で表される塩基配列の一部からなるものであってもよい。ショウジョウバエdRYamide−1およびdRYamide−2は、同一の前駆体(dRYamide前駆体と称する。CG40733、GenBank Accession No. NM_001110912には、dRYamide前駆体の部分塩基配列および部分アミノ酸配列が開示されている)から2つのペプチドが切り出されて生じるものであることがわかった。dRYamide前駆体の全塩基配列(配列番号3)およびアミノ酸配列(配列番号4)は、図4にも記載されている。
本発明のポリヌクレオチドは、発現ベクターに組み込まれていてもよい。発現ベクターとしては、発現させる宿主に応じて、種々の発明ベクターの中から当業者であれば適宜選択して用いることができる。また、本発明で好適に使用される発明ベクターについては、後述する。
【0050】
成長促進剤
dRYamide−1およびdRYamide−2は、摂食抑制作用を有する生理活性ペプチドであり、生体内でのdRYamide−1および/またはdRYamide−2の発現を特異的に阻害する物質は、節足動物(例、昆虫)の食欲を増進し、成長を促進させる作用を有することが期待される。本発明は、dRYamide−1および/またはdRYamide−2の発現を特異的に阻害する物質を含有する、節足動物(例、昆虫)の成長促進剤を提供する。
【0051】
本発明の成長促進剤に有効成分として含まれるdRYamide−1および/またはdRYamide−2の発現を特異的に阻害する物質は、dRYamide前駆体(例えば、配列番号3)の転写過程に作用してその発現を特異的に阻害する物質であれば特に限定されるものではない。かかる阻害物質としては、RNAi誘導性核酸、アンチセンス核酸もしくはリボザイムまたはそれらの発現ベクターが挙げられる。
【0052】
前記RNAi誘導性核酸とは、細胞内に導入されることにより、RNA干渉を誘導し得るポリヌクレオチドをいい、好ましくはRNAまたはRNAとDNAのキメラ分子である。RNA干渉とは、mRNAと同一の塩基配列(またはその部分配列)を含む2本鎖構造のRNAが、当該mRNAの発現を抑制する効果をいう。このRNAi効果を得るには、例えば、少なくとも19の連続する標的mRNAと同一の塩基配列(またはその部分配列)を有する2本鎖構造のRNAを用いることが好ましい。ただし、dRYamide−1またはdRYamide−2の発現阻害作用を有していれば数塩基置換されているものであってもよく、19塩基長よりも短いRNAであってもよい。2本鎖構造は、センス鎖とアンチセンス鎖の異なるストランドで構成されていてもよいし、一つのRNAのステムループ構造によって与えられる2本鎖(shRNA)であってもよい。RNAi誘導性核酸としては、例えばsiRNA、miRNAなどが挙げられる。
【0053】
RNAi誘導性核酸は、転写抑制活性が強いという観点から、siRNAが好ましい。dRYamide−1またはdRYamide−2に対するsiRNAは、dRYamide前駆体のmRNAの任意の部分を標的とすることができる。dRYamide−1またはdRYamide−2に対するsiRNA分子は、RNAi効果を誘導できる限り特に制限されないが、例えば19〜27塩基長、好ましくは21〜25塩基長である。dRYamide−1またはdRYamide−2に対するsiRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二重鎖である。具体的には、dRYamide−1またはdRYamide−2に対するsiRNAは、配列番号3の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖からなるものである。dRYamide−1またはdRYamide−2に対するsiRNAは、センス鎖、アンチセンス鎖の一方または双方の5’末端または3’末端においてオーバーハング(overhang)を有していてもよい。オーバーハングは、センス鎖および/またはアンチセンス鎖の末端における1〜数個(例、1、2または3個)の塩基の付加により形成されるものである。siRNAの設計方法は、当業者に公知であり、siRNAの様々な設計ソフトウエアまたはアルゴリズムを用いて、上記塩基配列から適切なsiRNAの塩基配列を選択することができる。
【0054】
RNAi誘導性核酸は、RNAを構成する天然のヌクレオチドから構成されていてもよいが、ヌクレアーゼ耐性の向上もしくは安定化、相補鎖核酸とのアフィニティーの向上または細胞透過性を高めるために、ヌクレオチドに修飾を施したヌクレオチド誘導体を一部含んでいてもよい。ヌクレオチド誘導体としては、例えば糖部修飾ヌクレオチド、リン酸ジエステル結合修飾ヌクレオチド、塩基修飾ヌクレオチド、ならびに糖部、リン酸ジエステル結合および塩基の少なくとも一つが修飾されたヌクレオチド等があげられる。
【0055】
dRYamide−1またはdRYamide−2に対するアンチセンス核酸は、dRYamide前駆体の転写産物(mRNAまたは初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該転写産物とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該転写産物にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得るポリヌクレオチドをいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。アンチセンス核酸は、天然型のリン酸ジエステル結合を有するものであっても、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’−O−メチル型等の修飾ヌクレオチドであってもよい。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性および細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服できる。アンチセンス核酸の長さは、dRYamide前駆体の転写産物(例、配列番号3の塩基配列に対応するmRNA)と特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、短いもので約15塩基程度、長いもので転写産物の全配列に相補的な配列を含むような配列であってもよい。合成の容易さや抗原性の問題等から、例えば約15塩基以上、好ましくは約15〜約30塩基、より好ましくは約18塩基〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。さらに、アンチセンス核酸は、dRYamide−1またはdRYamide−2の転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAと結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0056】
本明細書において、「相補的である」とは、塩基配列間で約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、更に好ましくは約95%以上、最も好ましくは100%の相補性を有することをいう。本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。
【0057】
前記「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いる。具体的には、リボザイムは、dRYamide−1またはdRYamide−2をコードするmRNAまたは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得る。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる(Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001))。
【0058】
dRYamide−1またはdRYamide−2特異的阻害物質は、発現ベクターとしても提供され得る。かかる発現ベクターは、dRYamide−1またはdRYamide−2特異的阻害物質をコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含む。
【0059】
前記プロモーターは、その制御下にある発現対象の核酸の種類により適宜選択され得るが、基本的には節足動物細胞(例、昆虫細胞)で機能するプロモーターであれば限定なく使用することができ、例えば、ショウジョウバエ熱ショックタンパク質プロモーター、前記熱ショックタンパク質プロモーターと酵母GAL4−UASシステムとを組み合わせたプロモーター、ショウジョウバエアクチンプロモーター等が挙げられる。
【0060】
好適には、本発明の節足動物(例、昆虫)の成長促進剤は、配列番号3の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAを含む。
【0061】
本発明の成長促進剤は、含まれる成分および目的に応じて配合量を適宜設定することができる。通常、成長促進剤中、0.01〜99.5重量%である。
【0062】
本発明の成長促進剤は、節足動物(例、昆虫)を誘引するための誘引剤を含んでいてもよい。前記誘引剤としては、特に制限されないが、例えば、ビール酵母、蛹粉、酒かす、オキアミパウダー、卵黄、キャベツパウダー、キャロットパウダー、チキンエキスパウダー、シーズニングオイル、ストロベリーパウダー、ピーチパウダー、マッシュルームエキス、魚粉、牛(豚)肉粉等が挙げられる。誘引剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。誘引剤の配合量は、適宜設定すればよいが、通常、成長促進剤中、0.01〜50重量%である。
【0063】
本発明の成長促進剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに必要に応じて、上記以外の成分を配合することができる。例えば、フェニル−β−ナフリルアミン、α−ナフリルアミン、N,N−ジ−第三ブチル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−第三ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,6−第三ブチル−フェノール、2,4−ジ−メチル−6−第三ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤;黄色2号、黄色4号、赤色2号、赤色3号、赤色102号、青色1号、青色2号、緑色201号、緑色202号等の色素;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン、キサンタンガム、デンプン類等の粘度調整剤;リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のpH調整剤;水、エタノール、トウモロコシ油、ゴマ油等の溶剤;香料;などを配合することができる。
【0064】
本発明の成長促進剤は、単独で、または節足動物(例、昆虫)の餌と混合し、節足動物(例、昆虫)の生態系を考慮して、節足動物(例、昆虫)がアクセス可能な態様で節足動物(例、昆虫)に与えることができる。
【0065】
生体内でのdRYamide−1および/またはdRYamide−2の作用は、それらの受容体への結合を介して発揮されるものであるから、該受容体の発現または機能を特異的に阻害する物質も、節足動物(例、昆虫)の食欲を増進し、成長を促進させる作用を有することが期待される。本発明は、NPY−like receptorの発現または機能を阻害する物質を含有する、節足動物(例、昆虫)の成長促進剤を提供する。
【0066】
NPY−like receptorは、その塩基配列およびアミノ酸配列は、公知である。例えば、ショウショウバエ由来のNPY−like receptor(NepYr)の塩基配列およびアミノ酸配列はGenBank Accession No. NM_079801.2として登録され、それぞれ配列番号5および配列番号6で示す。上述したように、NPY−like receptorは、ホモログなどを含む概念であり、ショウショウバエ由来のNPY−like receptorに対するホモログは、Homologeneにより同定することができる。
【0067】
NPY−like receptorの発現または機能を阻害する物質は、以下の(i)〜(iii)のいずれかであることが好ましい。
(i)NPY−like receptorをコードする遺伝子のアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸またはターゲッティングベクター、
(ii)NPY−like receptorに対する抗体、当該抗体をコードする核酸、当該NPY−like receptorのドミナントネガティブ変異体または当該変異体をコードする核酸、または
(iii)(i)もしくは(ii)の核酸を含む発現ベクター。
【0068】
NPY−like receptorの発現を阻害する物質がアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸などの核酸分子である場合、本発明の成長促進剤は、当該核酸分子をコードする発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、通常、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である昆虫細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸およびその発現ベクターについては、dRYamideの発現を阻害する物質において説明した通りである。
【0069】
NPY−like receptorの発現を阻害する物質の別の態様は、ターゲティングベクターである。本発明で用いられるターゲティングベクターは、当該NPY−like receptorをコードする遺伝子の相同組換えを誘導し得る遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチド、並びに選択マーカーを含む。第一および第二のポリヌクレオチドは、当該NPY−like receptorをコードする遺伝子を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性および長さを有するポリヌクレオチドである。第一および第二のポリヌクレオチドは、当該遺伝子を含むゲノムDNAにおいて、第一および第二のポリヌクレオチドに対して相同な2つの領域の間に存在するゲノムDNA部分領域が欠失すると、当該遺伝子の機能的欠損がもたらされるように選択される。選択マーカーとしては、ポジティブ選択マーカー(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(BPH)遺伝子、ブラスティシジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子)、ネガティブ選択マーカー(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、ジフテリア毒素Aフラグメント(DTA)遺伝子)などが挙げられる。ターゲティングベクターは、ポジティブ選択マーカー、ネガティブ選択マーカーのいずれか一方、または両方を含むことができる。ターゲティングベクターはまた、2以上のリコンビナーゼ標的配列(例えば、バクテリオファージP1由来のCre/loxPシステムで用いられるloxP配列、酵母由来のFLP/FRTシステムで用いられるFRT配列)を含んでいてもよい。
【0070】
NPY−like receptorの機能を阻害する物質の一態様は、当該NPY−like receptorに対する抗体、当該抗体をコードする核酸(プロモーター活性を有する核酸に機能可能に連結されたもの)、または当該核酸を含む発現ベクターである。当該抗体は、当該NPY−like receptorを認識するものであれば特に制限されず、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製することができる。また、当該抗体は、抗体のフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2)、組換え抗体(例えば、単鎖抗体)であってもよい。
【0071】
NPY−like receptorの機能を阻害する物質の別の一態様は、当該NPY−like receptorのドミナントネガティブ変異体、当該変異体をコードする核酸(プロモーター活性を有する核酸に機能可能に連結されたもの)、当該核酸を含む発現ベクター、低分子有機化合物などが例示される。
【0072】
NPY−like receptorのドミナントネガティブ変異体とは、当該NPY−like receptorに対する変異の導入によりその活性が低減したものをいう。当該ドミナントネガティブ変異体は、天然のNPY−like receptorと競合することで間接的にその活性を阻害することができる。当該ドミナントネガティブ変異体は、当該NPY−like receptorをコードする核酸に変異を導入することによって作製することができる。その変異としては、例えば、ミリストイル化部位、DNA結合部位並びにこれらの部位以外の部位における、当該部位が担う機能の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例えば、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。当該変異は、PCRや公知のキットを用いる自体公知の方法により導入することができる。
【0073】
好適には、本発明の節足動物(例、昆虫)の成長促進剤の有効成分はRNAi誘導性核酸であり、配列番号5の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAを含む。
【0074】
本発明の摂食抑制剤もしくは害虫駆除剤または成長促進剤は、目的に応じて節足動物(例、昆虫)を適宜選択して投与することができる。摂食抑制剤は、害虫を対象とすることが好ましく、成長促進剤は、益虫を対象とすることが好ましい。
【0075】
本発明が対象とする害虫として、鱗翅目害虫、例えばアオムシ、ハスモンヨトウ、アワノメイガ、コナガ、ニカメイチュウ、コブノメイガ、ドクガ等;半翅目害虫、例えば、ツマグロヨコバイ、トビイロウンカ、ヒメトビウンカ、ヤノネカイガラムシ、モモアカアブラムシ、ワタアブラムシ、ニセダイコンアブラムシ、アオカメムシ、オンシツコナジラミ、シラミ、トコジラミ、コロモジラミ、サシガメ等;鞘翅目害虫、例えば、アズキゾウムシ、コクゾウムシ、ニジュウヤホシテントウ、ヒメコガネ、コロラドポテトビートル、イネミズゾウムシ、マツノゴマダラカミキリ、キクイムシ、ハネカクシ等;直翅目害虫、例えば、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、ケラ、バッタ、ヤマトシロアリ、イエシロアリ等;双翅目害虫、例えば、イエバエ、キンバエ、クロバエ、サシバエ、サシチョウバエ、メルラアブ、ツェツェバエ、アブ、ブユ、ヌカカ、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ、アカイエカ、シナハマダラカ、コガタアカイエカ、イエカ、ヤブカ、ヌマカ等;毒グモ、例えば、セアカゴケグモ、タランチュラ等;ダニ類、例えば、イエダニ、マダニ、ツツガムシ、ヒメダニ、ヒゼンダニ、チリダニ、コナダニ等をあげることができる。
【0076】
本発明が対象とする益虫として、ミツバチ、カイコ、カブトムシなどをあげることができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はいかなる意味においてもこれらに限定されるものではない。
【0078】
実施例1:細胞培養、トランスフェクション、NPY−like receptor発現細胞株の調製
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、CHO培地(10%ウシ胎仔血清(FBS)を補足したMEM−alpha、これらの試薬は、Gibco製のものを使用した)中で維持した。
【0079】
哺乳動物NPY receptorファミリー(図1を参照)に類似するショウジョウバエNPY−like receptor(NepYr)のcDNAクローニングは、reverse transcriptase(RT−)PCR法を用いて行った。ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の成虫の全長cDNAを、以下のプライマーセット:
5’-caccttctaccattgacgcgcttg-3’(S:配列番号36)
5’-cggtgcttcttatgtttgcttc-3’(AS:配列番号37)
を用いて増幅した。PCRの条件は、以下の通りであった:
PCR反応液(Takara)
10xPyrobest buffer II 5μl
dNTP mix 4μl
primer S (1μM) 5μl
AS (1μM) 5μl
Pyrobest 0.25μl
H2O 29.75μl
cDNA 1μl
全量 50μl
温度条件
94℃ 2minを1 cycleの後、
98℃10sec、55℃30sec、および72℃ 2minを30 cyclesし、
72℃3minを1 cycleし、4℃に冷却した。
得られた増幅産物をpcDNA3.2/V5/GW/D-TOPO発現ベクター(Invitrogen)にクローニングし、シークエンシングにより配列を確認した。
【0080】
発現ベクターD,CG5811-7-pcDNA3.2/V5/GW/D-TOPOのCHO細胞へのトランスフェクションは、トランスフェクション試薬としてFugene6(Boehringer Mannheim)を用いて、販売業者の指示書に従って行った。抗生物質による選択(1mg/ml G418)およびクローン選択の後、NPY−like receptor発現CHO細胞株を得た。
【0081】
実施例2:ショウジョウバエdRYamide−1およびdRYamide−2の精製
ショウジョウバエの成虫(350g)を10倍容量の脱イオン水を加えて10分間煮沸し、0℃まで冷却した。酢酸を添加し(最終pH3.0)、Kinematica polytronでホモジナイズした後、ホモジネートを遠心分離し、上清を分離してエバポレーターにて3分の1量まで濃縮した。次に2倍量のアセトンを加え、一晩4℃にて攪拌後、遠心し上清をグラスフィルターにて濾過した。エバポレーターにてアセトン除去後、SepPak C18カートリッジ(Waters)を用いて脱塩、濃縮し、0.1%トリフルオロ酢酸でリンスした後、0.1%トリフルオロ酢酸中60%アセトニトリルで各カートリッジから溶出した。溶出液を凍結乾燥させ、出発材料として用いた。前記凍結乾燥物を1M酢酸に溶解し、SP−SephadexC−25(H+型)カラムに吸着させ、1M酢酸で平衡化した。1M酢酸、2Mピリジンおよび2Mピリジン−酢酸(pH5.0)での連続溶出により、SP−I、SP−IIおよびSP−IIIの各フラクションを得た。
【0082】
次に、凍結乾燥した塩基性ペプチドフラクションSP−IIIを、SephadexG−50ゲルろ過カラムにかけ、分画した。各フラクションのリガンド活性を以下のように調べた。
CHO−NPY−like receptorは、各細胞表面にGPCRであるNPY−like receptorが発現し、当該受容体にリガンドが結合すると、細胞内カルシウム濃度が上昇することが期待されるので、細胞内カルシウム濃度の変化を測定することによって、各受容体に結合するリガンド活性を追跡した。
CHO−NPY−like receptorをCHO培地中で維持し、上記で分画したフラクションの一部を各培地に添加し、当該細胞における細胞内カルシウムイオン濃度([Ca2+]i)の変化を、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)システム(Molecular Devices)を用いて既報(Nature, 1999; 402: pp.656-660)に準じて測定した。すなわち、アッセイの12〜15時間前にCHO−NPY−like receptor細胞(5×104細胞)を96ウェルの黒壁マイクロプレート(Corning)に播種した。細胞をFLEX Calcium 4 Assay Kit(Molecular Devices)100μlとともに1時間インキュベートした後、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)に供し、サンプル(フラクション)が蛍光の変化を誘導するか否かを測定した。最大[Ca2+]iの変化を三連で決定した。結果を図2に示す。カルシウムイオン濃度の上昇したフラクションを活性フラクションとしてさらなる精製に供した。
【0083】
プールした活性フラクションを、TSK−GEL CM−25Wカラム(Tosoh)を用いるカルボキシメチル(CM)イオン交換高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。HPLCの条件は、以下の通りである。
溶離液:10%アセトニトリル中、ギ酸アンモニウム10mM−0.6Mの直線勾配
溶出速度:1ml/分(16−136分)
各フラクションについて上述のようにFLEXシステムで細胞内カルシウムイオン濃度の変化を測定し(図3)、活性フラクションをプールし、さらに以下の精製に供した。
【0084】
プールした活性フラクションを、μBondasphereC18カラム(Waters)を用いる逆相(RP)−HPLCに供した。HPLCの条件は、以下の通りである。
溶離液:0.1%トリフルオロ酢酸中(TFA)、10−60%アセトニトリルの直線勾配
溶出速度:1ml/分(80分)
【0085】
さらに、活性フラクションをChemcosorb 3ODS−Hカラム(Chemco)を用いるRP−HPLCに供した。HPLCの条件は、以下の通りである。
溶離液:0.1%トリフルオロ酢酸中(TFA)、10−60%アセトニトリルの直線勾配
溶出速度:0.2ml/分(80分)
吸収ピークに相当するフラクションを集め、各フラクションの一部をFLEXシステムにより測定した。約20pmolの主要活性フラクションの最終精製ペプチドを、プロテインシークエンサー(モデル494、Applied Biosystems)で解析した。また、約1pmolの各活性フラクションを用いて、マトリックス支援レーザー脱着−イオン化飛行時間(MALDI−TOF)質量分析計およびVoyager−DE PRO instrument(Applied Biosystems)により分子量を決定した。
【0086】
その結果、NPY−like receptorに結合するリガンドとしてdRYamide−1およびdRYamide−2を単離し、精製することに成功した。得られたペプチドリガンドの配列を以下に示す。また、得られたペプチドリガンド(アミド体およびC末端フリー体)について、上記受容体結合試験の結果を図4に示す。ペプチドリガンド(アミド体およびC末端フリー体)のEC50は、アミド体が10−11M程度でC末端フリー体が10−6〜10−8M程度であった。
【0087】
dRYamide−1:
PVFFVASRY-NH2(配列番号1、図4の上段枠で示す領域、分子量1084.22)
dRYamide−2:
NEHFFLGSRY-NH2(配列番号2、図4の下段枠で示す領域、分子量1268.33)
【0088】
得られたdRYamide−1およびdRYamide−2のアミノ酸配列に基づいて、他の昆虫のゲノムデータベースを探索し、他の昆虫種に存在するdRYamide−1様ペプチドおよびdRYamide−2様ペプチドをアラインした。結果を表1に示す。dRYamide−1およびdRYamide−2は、各昆虫でよく保存されていることがわかった。
【0089】
【表1】
【0090】
実施例3:dRYamide−1およびdRYamide−2の前駆体のクローニング
dRYamide−1およびdRYamide−2の前駆体の部分配列は、既にデータベース上で公開されており:
dRYamide−1およびdRYamide−2前駆体CG40733(NM_00111912.2)、
公開されている塩基配列に基づいて下記プライマー:
5’-cttcgtccccttgttattattgtct-3’(S:配列番号38)
5’-agtaattggcattcatgtcagagtc-3’(AS:配列番号39)
を設計し、PCRで増幅し、クローニングした。
dRYamide−1およびdRYamide−2は、1つの前駆体から2つのペプチドが切り出されることがわかった。前駆体の塩基配列およびアミノ酸配列をそれぞれ配列番号3および4に示し、さらに前駆体とペプチドとの関係を図4に示す。
【0091】
実施例4:リアルタイムPCRによるショウジョウバエのdRYamide前駆体およびNPY−like receptorのmRNAの発現量の解析
リアルタイムPCRによるショウジョウバエ(オス、メス)の頭部と身体におけるdRYamide前駆体およびNPY−like receptorのmRNAの発現量の解析結果を図5に示す。その結果、dRYamide前駆体mRNAは、オスで高く発現していることがわかった。また、ショウジョウバエの成虫および幼虫の各組織における発現を図6に示す。NPY−like receptorは、成虫の後腸で高く発現しているので、腸管に関する生理作用に関与している可能性がある。
【0092】
実施例5:dRYamide−1およびdRYamide−2のN末端側認識特異抗体
dRYamide−1およびdRYamide−2のN末端側を抗原としてウサギを免疫してポリクローナル抗体を作製し、抗体価および特異性を検討した。dRYamide−1およびdRYamide−2のN末端側認識特異抗体を得た(図7)。
【0093】
次に、前記抗体を用いて、ラジオイムノアッセイによるdRYamide−1およびdRYamide−2のショウジョウバエ(オス、メス)における含量を調べた。結果を図8に示す。dRYamide−1およびdRYamide−2の含量は、オス、メスで差がなかった。
【0094】
実施例6:dRYamide−2のN末端側認識特異抗体を用いた免疫染色
ショウジョウバエの幼虫の組織をPBS中で解剖し、4%ホルムアルデヒドのPBS溶液中で、室温で30分間固定した。固定した組織をPBT(Triton-Xを含有するPBS(中枢神経系に対しては0.3%、腸に対しては0.2%、その他の組織に対しては0.1%))で3回リンスし、次いで、PBTで20分間の洗浄を3回繰り返した。洗浄後の組織を、室温で1時間以上ブロッキング溶液(1% BSAのPBT溶液)とともにインキュベートした後、4℃で一晩一次抗体とともにインキュベートした。
次の日、組織をPBTで3回リンスし、PBTで20分間の洗浄を3回繰り返した後、4℃で一晩、次いで室温で2時間二次抗体(抗ウサギIgG-Cy3:Jackson 711-165-152)とともにインキュベートした。インキュベート後の組織をPBTで3回リンスし、PBTで10分間の洗浄を2回繰り返した後、Vectashieldマウンティングメディウムでスライドに搭載した。
【0095】
結果を図9に示す。図9より、幼虫中腸において広範にdRYamide-2が分布していることがわかった。
【0096】
実施例7:マウスNPYおよびNPFFの精製
実施例2において、ショウジョウバエの成虫の代わりにマウス1000匹分の脳を使用したこと以外は実施例2と同様の方法により、マウス由来のペプチドを精製した。
【0097】
その結果、以下の配列番号17および18で表されるペプチドアミドが精製された。dRYamide−1およびdRYamide−2とのアラインメントを図10に示す。
PVFFVASRY-NH2 (配列番号1) dRYamide-1
NEHFFLGSRY-NH2 (配列番号2) dRYamide-2
SPAFLFQPQRF-NH2 (配列番号17) mouse NPFF
YPSKPDNPGEDAPAEDMARYYSALRHYINLITRQRY-NH2 (配列番号18) mouse NPY
YPAKPEAPGEDASPEELSRYYASLRHYLNLVTRQRY-NH2 (配列番号19) mouse PPY
APLEPMYPGDYATPEQMAQYETQLRRYINTLTRPRY-NH2 (配列番号20) mouse PP
SRAHQHSMETRTPDINPAWYTGRGIRPVGRF-NH2 (配列番号21) mouse PrRP
NPAFLFQPQRF-NH2 (配列番号22) rat NPFF
APLEPMYPGDYATHEQRAQYETQLRRYINTLTRPRY-NH2 (配列番号23) rat PP
YPAKPEAPGEDASPEELSRYYASLRHYLNLVTRQRY-NH2 (配列番号24) rat PYY
YPSKPDNPGEDAPAEDMARYYSALRHYINLITRQRY-NH2 (配列番号25) rat NPY
【0098】
実施例8:受容体結合試験
CHO−NPY−like receptorをCHO培地中で維持し、上記ペプチドアミドもしくはペプチドまたは下記表2に示すペプチドアミドを培地に添加し、当該細胞における細胞内カルシウムイオン濃度([Ca2+]i)の変化を、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)システム(Molecular Devices)を用いて既報(Nature, 1999; 402: pp.656-660)に準じて測定した。すなわち、アッセイの12〜15時間前にCHO−NPY−like receptor細胞(5×104細胞)を96ウェルの黒壁マイクロプレート(Corning)に播種した。細胞をFLEX Calcium 4 Assay Kit(Molecular Devices)100μlとともに1時間インキュベートした後、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)に供し、添加したペプチドまたはペプチドアミドが蛍光の変化を誘導するか否かを測定した。EC50値は、測定機器であるFLEX stationのソフトウエアを用いて決定した。結果を表3および図12〜15に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
実施例9:dRYamide投与による吻伸展反射試験
Journal of Neuroscience, 2005, 25(33): 7507-7516に記載の方法に準じて、吻伸展反射(PER)試験を行った。実験に供したハエは、クロキンバエ(Phormia regina)であり、ハエの背側に10pmolの各種ペプチドアミドを投与し、種々の濃度のショ糖液に対する吻伸展反射を調べ、PER閾値を決定した。
【0102】
結果を図11に示す。クロキンバエの背側にdRYamide−2を10pmol投与することによりPER閾値が高くなった。このことから、ペプチド投与前と比べて、ショ糖濃度が高くないと吻伸展反射をしなくなることがわかり、dRYamide−2投与により摂食行動が抑制されていることを意味する。
【0103】
実施例10:受容体結合試験
CHO−NPY−like receptorをCHO培地中で維持し、下記表4に示すペプチドまたはペプチドアミドを培地に添加し、当該細胞における細胞内カルシウムイオン濃度([Ca2+]i)の変化を、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)システム(Molecular Devices)を用いて既報(Nature, 1999; 402: pp.656-660)に準じて測定した。すなわち、アッセイの12〜15時間前にCHO−NPY−like receptor細胞(5×104細胞)を96ウェルの黒壁マイクロプレート(Corning)に播種した。細胞をFLEX Calcium 4 Assay Kit(Molecular Devices)100μlとともに1時間インキュベートした後、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)に供し、添加したペプチドまたはペプチドアミドが蛍光の変化を誘導するか否かを測定した。EC50値は、測定機器であるFLEX stationのソフトウエアを用いて決定した。結果を表4および図16〜26に示す。
【0104】
【表4】
【0105】
dRYamide-1およびdRYamide-2から共通するアミノ酸配列を取り出して最小のアミノ酸配列「FFSRY」を有するペプチドアミド(配列番号40)を合成して試験したところ、活性を有することがわかった(図20)。
dRYamide-1およびdRYamide-2の解析から、当該ペプチド(アミド)の活性発現には、「FF」配列と「SRY」配列に挟まれた2アミノ酸残基のN末端側には疎水性アミノ酸(V、L、I等)、C末端側には分子量の小さいアミノ酸(A、G等)を配置することも重要と考えられる。この仮説を実証するためのペプチド(アミド)を配列番号42および43で示し、結果を図22および24に示す。図22および24より、上記仮説が成立することがわかった。
一方、N末端側疎水性アミノ酸とC末端側小分子量アミノ酸とを入れ替えた場合(配列番号41)でも、ペプチド(アミド)の活性は維持された(図21)。
さらに、N末端側疎水性アミノ酸とC末端側小分子量アミノ酸をL体からD体に変えた場合(FFVASRY-NH2:下線部はD−アミノ酸を表す)も、ペプチド(アミド)の活性は維持された(図23)。
以上のことから、「FF」配列と「SRY」配列に挟まれた2アミノ酸残基に配置されるアミノ酸は「VA」に代表される疎水性アミノ酸と小分子量アミノ酸の組合せが好適な例としてあげられるが、かかるアミノ酸の組合せに特に限定されるものではなく、天然に存在するアミノ酸のみならず非天然のアミノ酸であってもよいと考えられる。
【0106】
本発明者らは、実施例2に記載の方法に準じて、クルマエビからdRYamideと同様のペプチド(アミド)を2種分離同定した。前記ペプチドのアミノ酸配列を表4ならびに配列番号44および45で示す。クルマエビに由来するペプチドの合成ペプチドアミドを、ショウジョウバエNPY−like receptor発現CHO細胞の培地に添加して受容体結合試験を行ったところ、結合活性を有することがわかった(図25、26)。このことから、甲殻類に由来するペプチド(アミド)は、種を超えてショウジョウバエ受容体に対しても活性を有することが示唆された。
【0107】
実施例11:dRYamide投与によるクルマエビ摂食量への影響
砂を敷いた水槽中で飼育中のクルマエビを用いて、クルマエビの摂食量を調べた。実験に供したクルマエビの平均体重は10gであり、給餌量は体重の1%とした。各群5匹ずつ水温15℃で飼育した。各エビに1nmol/100μL PBS中のdRYamide−2を筋肉内注射した。対照として、100μL PBSを同様に筋肉内注射した。
【0108】
結果を図27に示す。dRYamide−2は投与後3日間、クルマエビの摂食量を減少させることがわかり、dRYamide−2投与により摂食行動が抑制されていることを意味する。ショウジョウバエから分離同定されたdRYamide−2は、種を超えて甲殻類にも作用することが示された。
また、dRYamide−2投与群は、対照群に比べて、砂に潜る「潜砂行動」をより頻繁にする傾向があった(データ示さず)。エビの養殖においては、陸上のいけすで稚エビを育てた後、海に放流するが、魚に捕食されることにより養殖率が低下する。潜砂能力が高くなることによってクルマエビが砂に潜る頻度が高くなり、捕食圧が減少するので、結果として養殖率の上昇が期待できる。dRYamide−2のクルマエビへの投与は、養殖業において有利である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のペプチドまたはペプチドアミドは、害虫の駆除および益虫の繁殖に貢献することができる。また、哺乳動物の新規医薬成分の候補ともなりうる。
以上、本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で様々な修正と変更をなすことは可能である。従って、そのような修正及び変更も、すべて後記の特許請求の範囲で請求される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショウジョウバエ由来生理活性ペプチドdRYamideに関し、害虫駆除薬または医薬の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのGタンパク質共役型受容体(GPCR)に対するリガンド、特に生理活性ペプチドは、幅広い生理現象に関わっていることから医薬品としての応用が進められている。しかし、ショウジョウバエを含む昆虫では未知の生理活性ペプチドの探索はあまり行われていなかった。昆虫における生理活性ペプチドとその受容体に関する最近の知見として、脂質動員ホルモン(AKH)の受容体の発見(非特許文献1)、GPCRとβ−2−アレスチン2との相互作用に基づく、ショウジョウバエ神経ペプチド受容体の同定(非特許文献2)などが知られている。
【0003】
オーファンGPCRに対する内在性リガンドの探索は活発に行われているが、近年、哺乳類での新たな発見に関する報告は減少している。一例として、オーファンGPCRとして知られていた成長ホルモン分泌促進因子受容体(GHS−R)の内在性リガンドとして、ラットおよびヒトのグレリン(Ghrelin)が報告された(非特許文献3)。グレリンは、医薬品への応用開発が進められている。本発明者らは、最近、ネコのグレリンを同定した(非特許文献4)。
【0004】
神経伝達物質であるニューロペプチドY(NPY)および消化管ホルモンであるペプチドYY(PYY)は、構造的に関連するペプチドであり、哺乳類においてY1、Y2、Y4、Y5およびY6が同定され、ヒトにおいてはヒトニューロペプチドY受容体Y1、Y2、Y4およびY5が同定されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】PNAS, 2002, Vol.99, pp.3446-3451
【非特許文献2】Journal of Biological Chemistry, 2003, Vol.278, pp.52172-52178
【非特許文献3】Nature, 1999, Vol.402, pp.656-660
【非特許文献4】Domestic Animal Endocrinology, 2007, Vol.32, pp.93-105
【非特許文献5】Journal of Biological Chemistry, 1992, Vol.267, pp.10935-10938
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
天然に存在する生理活性物質は、これまでに医薬品の有効成分、生活必需品の成分として利用され、人類の健康増進に大いに貢献してきた。したがって、新規生理活性物質の探索は、新規有効成分医薬品ばかりではなく新規効能医薬品の候補を提供するためにも重要であるが、哺乳類での未知の生理活性ペプチドリガンドの発見は減少している。哺乳類ではリガンド未知なオーファン受容体がまだ数多く存在しているにも関わらず、哺乳類新規生理活性ペプチドの発見が減少している理由は、生体内での含量が極端に少ないか、発現する時期が限られている可能性がある。哺乳類オーファン受容体に類似するショウジョウバエオーファン受容体は数多く存在することから、ショウジョウバエで新規生理活性ペプチドを発見すれば、哺乳類でのホモログペプチドの発見につなげていける可能性がある。
一方、ショウジョウバエでの新規生理活性ペプチドの探索は、データベースを利用したものが多いが、ペプチドはアミノ酸配列が短く、予測が困難であった。また、予測したペプチドがどの受容体に作用するかはわからなかった。したがって、本発明の目的は、特定の受容体に結合する新規生理活性ペプチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、オーファン受容体として、哺乳類ニューロペプチドY(NPY)受容体に類似しているショウジョウバエNPY−like receptor(NPY receptor−likeとも称する)に着目し、内在性リガンドを探索した。その結果、ショウジョウバエ新規生理活性ペプチドdRYamide−1およびdRYamide−2をそれぞれ単離し、当該リガンドと相同なアミノ酸配列を有するペプチドが様々な昆虫においても存在することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下のものを提供する。
〔1〕 (1)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはペプチドアミド、
(2)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のショウジョウバエneuropeptideY receptor−like(NepYr)に対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド、および
(3)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列ならびに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド
からなる群より選ばれる、単離されたペプチドまたはペプチドアミド。
〔2〕 (1)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはペプチドアミド、
(2)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド、および
(3)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列ならびに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド
からなる群より選ばれるペプチドまたはペプチドアミドからなる、NepYrに対するリガンド。
〔3〕 前記〔1〕に記載のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する、節足動物の摂食抑制剤。
〔4〕 前記〔1〕に記載のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する、害虫駆除剤。
〔5〕 前記〔1〕に記載のペプチドまたはペプチドアミドに結合する抗体。
〔6〕 前記〔1〕に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
〔7〕 dRYamide前駆体mRNAの発現を特異的に阻害する物質を含有する、節足動物の成長促進剤。
〔8〕 配列番号3の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAを含有する、前記〔7〕記載の成長促進剤。
〔9〕 NepYrの発現または機能を阻害する物質を含有する、昆虫の成長促進剤。
〔10〕 NepYrの発現または機能を阻害する物質が、以下の(i)〜(iii)のいずれかである、前記〔9〕記載の成長促進剤:
(i)NepYrをコードする遺伝子のアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸またはターゲッティングベクター、
(ii)NepYrに対する抗体、当該抗体をコードする核酸、当該NepYrのドミナントネガティブ変異体または当該変異体をコードする核酸、または
(iii)(i)もしくは(ii)の核酸を含む発現ベクター。
〔11〕 RNAi誘導性核酸が、配列番号5の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAである、前記〔10〕記載の成長促進剤。
〔12〕 節足動物が昆虫である、前記〔3〕、〔7〕〜〔11〕のいずれかに記載の剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の単離されたペプチドまたはペプチドアミドは、ショウジョウバエオーファンGPCRであるショウジョウバエNPY−like receptor(NPY receptor−like(NepYr))に結合するリガンドであり、dRYamide−1およびdRYamide−2ファミリーを構成する。dRYamide−1およびdRYamide−2は、多くの昆虫で高度に保存されていた。dRYamide−1またはdRYamide−2を投与したクロキンバエは摂食が抑制されたことから、dRYamideの前駆体もしくはNepYrの発現抑制またはdRYamideとNepYrとの結合阻害によって、昆虫の摂食増進作用または成長促進作用が期待できる。以上の点から、dRYamide−1およびdRYamide−2は昆虫における摂食抑制ペプチドであり、害虫の発育阻害剤としての利用が期待される。また、dRYamide−1およびdRYamide−2が哺乳類NPY受容体に対するスーパーアゴニスト作用またはアンタゴニスト作用を有する場合、肥満、神経性食思不振症の治療などに応用できる可能性がある。さらに、本発明により昆虫の摂食行動を調節できれば、害虫に対する駆虫薬または有用昆虫の効率的育成などを行える可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】マウスニューロペプチドY受容体ファミリーに属する遺伝子およびショウジョウバエGPCRのNPY−like receptorの系統樹である。
【図2】ショウジョウバエペプチド抽出物のゲル濾過の精製を示すチャートである。
【図3】ショウジョウバエペプチド抽出物のイオン交換クロマトグラフィーの精製を示すチャートである。
【図4】NPY−like receptorに結合するリガンドdRYamide−1およびdRYamide−2の前駆体のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。dRYamide−1(配列番号1)およびdRYamide−2(配列番号2)が由来する領域を枠内に示す。
【図5】dRYamide前駆体およびNPY−like receptorのmRNAの発現量を比較したグラフである。
【図6】ショウジョウバエNPY−like receptorのmRNAの各種組織での発現を比較した図である。
【図7】ラジオイムノアッセイによるdRYamide−1およびdRYamide−2のN末端側認識抗体の特異性を調べた結果を示す。
【図8】ショウジョウバエにおけるdRYamide−1およびdRYamide−2の含量を特異的抗体を用いてラジオイムノアッセイで調べた結果を示すグラフである。
【図9】dRYamide−2 N末端特異的抗体を用いて免疫染色を行った結果、ショウジョウバエ中腸におけるdRYamide−2の分布を示す。
【図10】dRYamide−1およびdRYamide−2ならびにマウス由来のペプチドアミドのアミノ酸配列のアラインメントを示す。
【図11】ショウジョウバエにdRYamide−2を投与して吻伸展反射試験を行った結果を示す。
【図12】dRYamide−1のアミド、dRYamide−2のアミドおよびそれらのC末端フリーペプチドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図13】dRYamide−1のアミド、dRYamide−2のアミドおよびその他のペプチドアミドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図14】dRYamide−1のアミド、dRYamide−2のアミドおよびその他のペプチドアミドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図15】dRYamide−1のアミド、dRYamide−2のアミドおよびその他のペプチドアミドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図16】dRYamide−1のアミドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図17】dRYamide−2のアミドとNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図18】合成したdRYamide−1(C末端フリー体)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図19】合成したdRYamide−2(C末端フリー体)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図20】合成ペプチドFFSRYのアミド(配列番号40)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図21】合成ペプチドFFAVSRYのアミド(配列番号41)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図22】合成ペプチドFFIASRYのアミド(配列番号42)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図23】合成ペプチドFFVASRYのアミド(V、AはDアミノ酸である)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図24】合成ペプチドFFVASRFのアミド(配列番号43)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図25】クルマエビ由来SGFYANRYのアミド(合成ペプチド、配列番号44)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図26】クルマエビ由来SSRFIGGSRYのアミド(合成ペプチド、配列番号45)とNPY−like receptorとの結合活性を示すグラフである。
【図27】dRYamide−2をクルマエビに投与した場合のクルマエビの摂食量への影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列またはアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
【0012】
本明細書において「ポリヌクレオチド」または「遺伝子」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAならびにRNAを包含する趣旨で用いられる。また、その長さによって特に制限されるものではない。したがって、本明細書においてポリヌクレオチドとは、特に言及しない限り、ゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)および該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、ならびにこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該「ポリヌクレオチド」には、特定の塩基配列(配列番号:3または5)で示される「ポリヌクレオチド」だけでなく、これらによりコードされるポリ(ペプチド)と生物学的機能が同等であるポリ(ペプチド)(例えば同族体(ホモログやスプライスバリアントなど)、変異体および誘導体)をコードする「ポリヌクレオチド」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「ポリヌクレオチド」としては、具体的には、ストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:3または5で示されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列からなる「ポリヌクレオチド」を挙げることができる。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。
【0013】
例えばショウジョウバエ由来のポリ(ペプチド)のホモログをコードするポリヌクレオチドとしては、当該ポリ(ペプチド)をコードするショウジョウバエ遺伝子に対応する蚊、カイコ、ハチなどの昆虫類、エビ、カニなどの甲殻類、クモ類、ムカデ類からなる節足動物などの他生物種の遺伝子が例示でき、これらの遺伝子(ホモログ)は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定のショウジョウバエの塩基配列をBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得する。そのアクセッション番号をUniGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/)に入力して得られたUniGene Cluster ID(Hs.で示す番号)をHomoloGeneに入力する。結果として得られた他の生物種の遺伝子とショウジョウバエ遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、特定の塩基配列で示されるショウジョウバエ遺伝子に対応する遺伝子(ホモログ)として他の生物種の遺伝子を選抜することができる。
なお、ポリヌクレオチドまたは遺伝子は、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソンまたはイントロンを含むことができる。
【0014】
単離された本発明のペプチドまたはペプチドアミドは、本発明者らにより見出された下記(i)dRYamide−1(配列番号1)および(ii)dRYamide−2(配列番号2)(これらは、ショウジョウバエに由来するものである)、ならびにそれらと同等の活性を有する変異ペプチドまたは変異ペプチドアミド(iii)および(iv)から構成されるペプチド群である。本発明においては、ペプチドまたはペプチドアミドのいずれも本発明の目的に使用することができるが、生理活性の強さの観点から、ペプチドアミドを使用することが好ましい。
【0015】
(i)dRYamide−1:PVFFVASRY−NH2(配列番号1)
上記アミノ酸配列のC末端はアミド化されていてもいなくてもよい。以下、dRYamide−1ファミリーを代表して、配列番号1で表されるペプチドアミドをdRYamide−1と称する場合がある。
【0016】
(ii)dRYamide−2:NEHFFLGSRY−NH2(配列番号2)
上記アミノ酸配列のC末端はアミド化されていてもいなくてもよい。以下、dRYamide−2ファミリーを代表して、配列番号2で表されるペプチドアミドをdRYamide−2と称する場合がある。
【0017】
(iii)dRYamide−1の変異ペプチドまたは変異ペプチドアミド
配列番号1で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個(好ましくは1〜3個)のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであっても、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のショウジョウバエneuropeptideY receptor−like(NepYr)に対する結合活性を有する限り本発明のペプチドまたはペプチドアミドに含まれる。
あるいは、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個(好ましくは1〜3個)のアミノ酸残基が置換、欠失または付加され、さらに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであっても、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有する限り本発明のペプチドまたはペプチドアミドに含まれる。
ここで「同等のNepYrに対する結合活性を有する」とは、実施例7および図4、13に示す受容体結合試験において、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等の結合親和性を有することをいう。同等の結合親和性としては、EC50が10−12〜10−6M程度の結合親和性が例示される。
【0018】
「アミノ酸残基の置換」としては、例えば保存的アミノ酸置換があげられる。保存的アミノ酸置換とは、特定のアミノ酸を、そのアミノ酸の側鎖と同様の性質の側鎖を有するアミノ酸で置換することをいう。具体的には、保存的アミノ酸置換では、特定のアミノ酸は、そのアミノ酸と同じグループに属する他のアミノ酸により置換される。同様の性質の側鎖を有するアミノ酸のグループは、当該分野で公知である。例えば、このようなアミノ酸のグループとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)があげられる。また、中性側鎖を有するアミノ酸は、さらに、極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン)、および非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)に分類することもできる。また、他のグループとして、例えば、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)、水酸基(アルコール性水酸基、フェノール性水酸基)を含む側鎖を有するアミノ酸(例えば、セリン、トレオニン、チロシン)などもあげることができる。また、ヒスチジンとメチオニンとの置換、グルタミン酸とセリンとの置換などもあげられる。
【0019】
前記SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基の置換としては、「SRY」から「GRY」、「SRF」または「NRY」への置換および「FF」から「YV」、「FV」、「GF」または「FI」への置換があげられるが、これらに限定されない。
【0020】
「アミノ酸残基の欠失」としては、例えば、各配列番号で表されるアミノ酸配列の中から、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個(好ましくは1〜3個)の任意のアミノ酸残基を選択して欠失させることがあげられる。
【0021】
「アミノ酸残基の付加」としては、各配列番号で表されるアミノ酸配列のN末端またはC末端側(好ましくはN末端側)に、1〜5個のアミノ酸残基を付加させることがあげられる。
【0022】
dRYamide−1の変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドの好適な具体例は、表1および表4にリストされている。
【0023】
(iv)dRYamide−2の変異ペプチドまたは変異ペプチドアミド
配列番号2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個(好ましくは1〜3個)のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであっても、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のショウジョウバエneuropeptideY receptor−like(NepYr)に対する結合活性を有する限り本発明のペプチドまたはペプチドアミドに含まれる。
あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個(好ましくは1〜3個)のアミノ酸残基が置換、欠失または付加され、さらに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであっても、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有する限り本発明のペプチドまたはペプチドアミドに含まれる。
ここで「同等のNepYrに対する結合活性を有する」とは、実施例7および図4、13に示す受容体結合試験において、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等の結合親和性を有することをいう。同等の結合親和性としては、EC50が10−12〜10−6M程度の結合親和性が例示される。
【0024】
「アミノ酸残基の置換」、「アミノ酸残基の欠失」および「アミノ酸残基の付加」は、上記(iii)で説明した通りである。
【0025】
dRYamide−2の変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドの好適な具体例は、表1および表4にリストされている。
【0026】
上記アミノ酸はL体、D体およびDL体を包含するものであるが、通常、L体であることが好ましい。D体のアミノ酸を含む好適な例として、表4に記載されている「FFVASRY−NH2」(下線部のアミノ酸残基はD体である)があげられる。本発明のペプチドは、通常のペプチド合成法によって合成され本発明に供することができるが、製造方法、合成方法、調達方法等については、特に限定されない。本発明のペプチドは、通常のペプチド合成装置を用いることにより、当業者であれば容易に合成することができる。また、本発明のペプチドアミドも常法によりペプチドのC末端をアミド化することにより、当業者であれば容易に合成することができる。
【0027】
本発明のペプチドまたはペプチドアミドは、上述したような結合親和性を有することより、NepYr(GenBank Accession No. NM_079801)に対するリガンドとして有用である。
【0028】
摂食抑制剤
本発明のペプチドまたはペプチドアミドは、NepYrに対するリガンドであり、当該受容体に結合することによって、昆虫を始めとする節足動物の摂食行動を抑制することができる。本発明は、本発明のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する節足動物(例、昆虫)の摂食抑制剤を提供する。摂食抑制剤は、ペプチドまたはペプチドアミドのいずれか1種であっても2種以上であってもよい。2種以上含有する場合、その種類は特に限定されない。ペプチドまたはペプチドアミドの配合量は、適宜設定すればよいが、通常、摂食抑制剤中、0.01〜99.5重量%である。
【0029】
本発明における節足動物には、昆虫類、甲殻類、クモ類およびムカデ類が含まれる。
昆虫類としては、カブトムシ、カイコ、ゴミムシ、チョウ、ガ、ハエ、カ、アブ、ハチ、アリ、セミ、カメムシ、バッタ、コオロギ、トンボ、ならびに後述する害虫および益虫として記載されたあらゆる昆虫があげられる。
甲殻類としては、エビ、カニ、オキアミ、フジツボ、ミジンコなどがあげられる。
クモ類としては、アシナガグモ、オナガグモ、コガネグモ、コモリグモ、ジョロウグモ、セアカゴケグモ、セスジアカムネグモ、センショウグモ、タランチュラ(オオツチグモ科)、ドヨウオニグモなど;さらには、イエダニ、マダニ、ツツガムシ、ヒメダニ、ヒゼンダニ、チリダニ、コナダニなどのダニ類があげられる。
ムカデ類としては、ムカデ、ゲジなどがあげられる。
【0030】
本発明の摂食抑制剤は、昆虫を始めとする節足動物を誘引するための誘引剤を含んでいてもよい。前記誘引剤としては、特に制限されないが、例えば、ビール酵母、蛹粉、酒かす、オキアミパウダー、卵黄、キャベツパウダー、キャロットパウダー、チキンエキスパウダー、シーズニングオイル、ストロベリーパウダー、ピーチパウダー、マッシュルームエキス、魚粉、牛(豚)肉粉等が挙げられる。誘引剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。誘引剤の配合量は、適宜設定すればよいが、通常、摂食抑制剤中、0.01〜50重量%である。
【0031】
本発明の摂食抑制剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに必要に応じて、上記以外の成分を配合することができる。例えば、フェニル−β−ナフリルアミン、α−ナフリルアミン、N,N−ジ−第三ブチル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−第三ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,6−第三ブチル−フェノール、2,4−ジ−メチル−6−第三ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤;黄色2号、黄色4号、赤色2号、赤色3号、赤色102号、青色1号、青色2号、緑色201号、緑色202号等の色素;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン、キサンタンガム、デンプン類等の粘度調整剤;リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のpH調整剤;水、エタノール、トウモロコシ油、ゴマ油等の溶剤;香料;などを配合することができる。
【0032】
害虫駆除剤
本発明は、本発明のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する害虫駆除剤を提供する。害虫駆除剤は、ペプチドまたはペプチドアミドのいずれか1種であっても2種以上であってもよい。2種以上含有する場合、その種類は特に限定されない。ペプチドまたはペプチドアミドの配合量は、適宜設定すればよいが、通常、害虫駆除剤中、0.01〜99.5重量%である。
【0033】
本発明の害虫駆除剤は、昆虫を始めとする節足動物を誘引するための誘引剤を含んでいてもよい。前記誘引剤としては、特に制限されないが、例えば、ビール酵母、蛹粉、酒かす、オキアミパウダー、卵黄、キャベツパウダー、キャロットパウダー、チキンエキスパウダー、シーズニングオイル、ストロベリーパウダー、ピーチパウダー、マッシュルームエキス、魚粉、牛(豚)肉粉等が挙げられる。誘引剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。誘引剤の配合量は、適宜設定すればよいが、通常、害虫駆除剤中、0.01〜50重量%である。
【0034】
本発明の害虫駆除剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに必要に応じて、上記以外の成分を配合することができる。例えば、フェニル−β−ナフリルアミン、α−ナフリルアミン、N,N−ジ−第三ブチル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−第三ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,6−第三ブチル−フェノール、2,4−ジ−メチル−6−第三ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤;黄色2号、黄色4号、赤色2号、赤色3号、赤色102号、青色1号、青色2号、緑色201号、緑色202号等の色素;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン、キサンタンガム、デンプン類等の粘度調整剤;安息香酸デナトニウム、トウガラシ粉末等の誤食防止剤;リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のpH調整剤;水、エタノール、トウモロコシ油、ゴマ油等の溶剤;香料;などを配合することができる。
【0035】
本発明の摂食抑制剤または害虫駆除剤は、単独で、または節足動物(例、昆虫)の餌と混合し、節足動物(例、昆虫)の生態系を考慮して、節足動物(例、昆虫)がアクセス可能な態様で節足動物(例、昆虫)に与えることができる。あるいは、害虫駆除剤は、積極的に節足動物(例、昆虫)の体内に導入することも好ましい。
【0036】
抗体
本発明は、本発明のペプチドまたはペプチドアミドに結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、本発明のペプチドまたはペプチドアミドの検出手段、本発明のペプチドまたはペプチドアミドの阻害作用を通じて節足動物(例、昆虫)の食欲の増進作用が期待される。本発明の「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する前記抗体の一部が包含される。
【0037】
前記抗体は、自体公知の方法により製造することができる。以下、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を例にとって、説明する。
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、例えば免疫原(本発明のペプチドまたはペプチドアミド)を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund’s Adjuvant)と共に、哺乳動物、例えばポリクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマまたはウシなど、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギに免疫する。モノクローナル抗体の場合は、同様の方法で、マウス、ラット、ハムスターなどに免疫する。
【0038】
本発明のペプチドまたはペプチドアミドは、そのまま免疫原として用いることも可能であるが、分子量1万以上の高分子化合物との複合体として免疫することが望ましい。従って、免疫原として使用するとき、本発明のペプチドは、自体公知の方法により高分子化合物(例、タンパク質(以下、キャリアタンパク質と記載する場合がある)など)との複合体としてもよい。例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを上記記載の方法に従って合成し、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、チログロブリン(TG)、免疫グロブリン等のキャリアタンパク質との複合体を形成させる。当該複合体は、その後好ましい免疫原として用いることができる。
【0039】
前記ペプチドとキャリアタンパク質との複合体を形成させるなどの目的で、本発明のペプチドには1〜2個、好ましくは1個のアミノ酸を付加することができる。付加されるアミノ酸の位置はペプチドのいずれの位置でもよく、特に限定されないが、ペプチドのN末端またはC末端が好ましく、C末端がより好ましい。
【0040】
複合体の形成においては、本発明のペプチドの抗原性を維持することができる限り、限定なく公知の方法を適用することができる。例えば、本発明のペプチドにシステイン残基を導入し、当該システインの側鎖であるSH基を介して前記高分子化合物(キャリアタンパク質)のアミノ基と結合させることもできる(MBS法)。また、タンパク質のリジン残基のεアミノ基や、αアミノ基などのアミノ基同士を結合させることもできる(グルタルアルデヒド法)。
【0041】
ポリクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。すなわち、免疫原をマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギ、好ましくはヤギ、ウマまたはウサギ、より好ましくはウサギの皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1〜数回注射することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜5回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物から血清を取得する。
【0042】
血清そのものをポリクローナル抗体として用いることも可能であるが、限外ろ過、硫安分画、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムもしくはプロテインA/Gカラム、免疫原を架橋させたカラム等を用いたアフィニティカラムクロマトグラフィーにより、該抗体を単離および/または精製し、得られた精製抗体を用いることも可能である。
【0043】
モノクローナル抗体の製造方法としては、例えば下記の方法が挙げられる。まず上記免疫感作動物から得た該抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、該ハイブリドーマをクローン化する。すなわち、ハイブリドーマの培養上清を検体として、免疫学的手法により、哺乳動物の免疫に用いた本発明のペプチドに対する特異的親和性を示しかつキャリアタンパク質と交差反応性を示さないモノクローナル抗体を産生するクローンを選択する。次いで、当該ハイブリドーマの培養上清などから、自体公知の方法によって抗体を製造することができる。
【0044】
具体的には、下記のようにしてモノクローナル抗体を製造することができる。すなわち、免疫原を、マウス、ラットまたはハムスターの皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内もしくは腹腔内に1〜数回注射するか、または移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜4回免疫を行って、最終免疫より約1〜5日後に免疫感作された該哺乳動物の脾臓などから抗体産生細胞を取得する。
【0045】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ(融合細胞)の調製は、ケーラーおよびミルシュタインらの方法(Nature,Vol.256,495-497,1975)ならびにそれらに準じる修飾方法に従って行うことができる。すなわち、前述の如く免疫感作された哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄または扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスターまたはウサギ等の哺乳動物、より好ましくはマウスまたはラット由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞との細胞融合により、ハイブリドーマを得る。
【0046】
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63−AG8.653(653;ATCC No.CRL1580)、P3/NSI/1−Ag4−1(NS−1)、P3/X63−Ag8.U1(P3U1)、SP2/0−Ag14(Sp2/0、Sp2)、PAI、F0またはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3−Ag.2.3.が挙げられる。
【0047】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングは、得られたハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート内で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の、前述の免疫感作で用いた本発明のペプチドに対する反応性および前記上清のキャリアタンパク質に対する反応性を、例えばELISA等の免疫測定法によって測定し、比較することによって行うことができる。
【0048】
スクリーニングによりクローン化されたハイブリドーマは、培地(例えば、10%牛胎仔血清を含むDMEM)を用いて培養される。そして、その培養液の遠心上清をモノクローナル抗体溶液とすることができる。また、該ハイブリドーマを、該ハイブリドーマに由来する動物の腹腔に注入することにより、動物に腹水を生成させ、該動物から得られた腹水をモノクローナル抗体溶液とすることができる。モノクローナル抗体は、上述のポリクローナル抗体と同様の方法で、単離および/または精製されることが好ましい。
【0049】
ポリヌクレオチド
本発明は、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドそのものであってもよく、dRYamide−1およびdRYamide−2の前駆体をコードする配列番号3で表される塩基配列全長からなるものであってもよい。また、dRYamide−1およびdRYamide−2が翻訳される限りにおいては、配列番号3で表される塩基配列の一部からなるものであってもよい。ショウジョウバエdRYamide−1およびdRYamide−2は、同一の前駆体(dRYamide前駆体と称する。CG40733、GenBank Accession No. NM_001110912には、dRYamide前駆体の部分塩基配列および部分アミノ酸配列が開示されている)から2つのペプチドが切り出されて生じるものであることがわかった。dRYamide前駆体の全塩基配列(配列番号3)およびアミノ酸配列(配列番号4)は、図4にも記載されている。
本発明のポリヌクレオチドは、発現ベクターに組み込まれていてもよい。発現ベクターとしては、発現させる宿主に応じて、種々の発明ベクターの中から当業者であれば適宜選択して用いることができる。また、本発明で好適に使用される発明ベクターについては、後述する。
【0050】
成長促進剤
dRYamide−1およびdRYamide−2は、摂食抑制作用を有する生理活性ペプチドであり、生体内でのdRYamide−1および/またはdRYamide−2の発現を特異的に阻害する物質は、節足動物(例、昆虫)の食欲を増進し、成長を促進させる作用を有することが期待される。本発明は、dRYamide−1および/またはdRYamide−2の発現を特異的に阻害する物質を含有する、節足動物(例、昆虫)の成長促進剤を提供する。
【0051】
本発明の成長促進剤に有効成分として含まれるdRYamide−1および/またはdRYamide−2の発現を特異的に阻害する物質は、dRYamide前駆体(例えば、配列番号3)の転写過程に作用してその発現を特異的に阻害する物質であれば特に限定されるものではない。かかる阻害物質としては、RNAi誘導性核酸、アンチセンス核酸もしくはリボザイムまたはそれらの発現ベクターが挙げられる。
【0052】
前記RNAi誘導性核酸とは、細胞内に導入されることにより、RNA干渉を誘導し得るポリヌクレオチドをいい、好ましくはRNAまたはRNAとDNAのキメラ分子である。RNA干渉とは、mRNAと同一の塩基配列(またはその部分配列)を含む2本鎖構造のRNAが、当該mRNAの発現を抑制する効果をいう。このRNAi効果を得るには、例えば、少なくとも19の連続する標的mRNAと同一の塩基配列(またはその部分配列)を有する2本鎖構造のRNAを用いることが好ましい。ただし、dRYamide−1またはdRYamide−2の発現阻害作用を有していれば数塩基置換されているものであってもよく、19塩基長よりも短いRNAであってもよい。2本鎖構造は、センス鎖とアンチセンス鎖の異なるストランドで構成されていてもよいし、一つのRNAのステムループ構造によって与えられる2本鎖(shRNA)であってもよい。RNAi誘導性核酸としては、例えばsiRNA、miRNAなどが挙げられる。
【0053】
RNAi誘導性核酸は、転写抑制活性が強いという観点から、siRNAが好ましい。dRYamide−1またはdRYamide−2に対するsiRNAは、dRYamide前駆体のmRNAの任意の部分を標的とすることができる。dRYamide−1またはdRYamide−2に対するsiRNA分子は、RNAi効果を誘導できる限り特に制限されないが、例えば19〜27塩基長、好ましくは21〜25塩基長である。dRYamide−1またはdRYamide−2に対するsiRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二重鎖である。具体的には、dRYamide−1またはdRYamide−2に対するsiRNAは、配列番号3の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖からなるものである。dRYamide−1またはdRYamide−2に対するsiRNAは、センス鎖、アンチセンス鎖の一方または双方の5’末端または3’末端においてオーバーハング(overhang)を有していてもよい。オーバーハングは、センス鎖および/またはアンチセンス鎖の末端における1〜数個(例、1、2または3個)の塩基の付加により形成されるものである。siRNAの設計方法は、当業者に公知であり、siRNAの様々な設計ソフトウエアまたはアルゴリズムを用いて、上記塩基配列から適切なsiRNAの塩基配列を選択することができる。
【0054】
RNAi誘導性核酸は、RNAを構成する天然のヌクレオチドから構成されていてもよいが、ヌクレアーゼ耐性の向上もしくは安定化、相補鎖核酸とのアフィニティーの向上または細胞透過性を高めるために、ヌクレオチドに修飾を施したヌクレオチド誘導体を一部含んでいてもよい。ヌクレオチド誘導体としては、例えば糖部修飾ヌクレオチド、リン酸ジエステル結合修飾ヌクレオチド、塩基修飾ヌクレオチド、ならびに糖部、リン酸ジエステル結合および塩基の少なくとも一つが修飾されたヌクレオチド等があげられる。
【0055】
dRYamide−1またはdRYamide−2に対するアンチセンス核酸は、dRYamide前駆体の転写産物(mRNAまたは初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該転写産物とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該転写産物にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得るポリヌクレオチドをいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。アンチセンス核酸は、天然型のリン酸ジエステル結合を有するものであっても、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’−O−メチル型等の修飾ヌクレオチドであってもよい。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性および細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服できる。アンチセンス核酸の長さは、dRYamide前駆体の転写産物(例、配列番号3の塩基配列に対応するmRNA)と特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、短いもので約15塩基程度、長いもので転写産物の全配列に相補的な配列を含むような配列であってもよい。合成の容易さや抗原性の問題等から、例えば約15塩基以上、好ましくは約15〜約30塩基、より好ましくは約18塩基〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。さらに、アンチセンス核酸は、dRYamide−1またはdRYamide−2の転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAと結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0056】
本明細書において、「相補的である」とは、塩基配列間で約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、更に好ましくは約95%以上、最も好ましくは100%の相補性を有することをいう。本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。
【0057】
前記「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いる。具体的には、リボザイムは、dRYamide−1またはdRYamide−2をコードするmRNAまたは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得る。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる(Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001))。
【0058】
dRYamide−1またはdRYamide−2特異的阻害物質は、発現ベクターとしても提供され得る。かかる発現ベクターは、dRYamide−1またはdRYamide−2特異的阻害物質をコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含む。
【0059】
前記プロモーターは、その制御下にある発現対象の核酸の種類により適宜選択され得るが、基本的には節足動物細胞(例、昆虫細胞)で機能するプロモーターであれば限定なく使用することができ、例えば、ショウジョウバエ熱ショックタンパク質プロモーター、前記熱ショックタンパク質プロモーターと酵母GAL4−UASシステムとを組み合わせたプロモーター、ショウジョウバエアクチンプロモーター等が挙げられる。
【0060】
好適には、本発明の節足動物(例、昆虫)の成長促進剤は、配列番号3の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAを含む。
【0061】
本発明の成長促進剤は、含まれる成分および目的に応じて配合量を適宜設定することができる。通常、成長促進剤中、0.01〜99.5重量%である。
【0062】
本発明の成長促進剤は、節足動物(例、昆虫)を誘引するための誘引剤を含んでいてもよい。前記誘引剤としては、特に制限されないが、例えば、ビール酵母、蛹粉、酒かす、オキアミパウダー、卵黄、キャベツパウダー、キャロットパウダー、チキンエキスパウダー、シーズニングオイル、ストロベリーパウダー、ピーチパウダー、マッシュルームエキス、魚粉、牛(豚)肉粉等が挙げられる。誘引剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。誘引剤の配合量は、適宜設定すればよいが、通常、成長促進剤中、0.01〜50重量%である。
【0063】
本発明の成長促進剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに必要に応じて、上記以外の成分を配合することができる。例えば、フェニル−β−ナフリルアミン、α−ナフリルアミン、N,N−ジ−第三ブチル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−第三ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,6−第三ブチル−フェノール、2,4−ジ−メチル−6−第三ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化防止剤;黄色2号、黄色4号、赤色2号、赤色3号、赤色102号、青色1号、青色2号、緑色201号、緑色202号等の色素;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン、キサンタンガム、デンプン類等の粘度調整剤;リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のpH調整剤;水、エタノール、トウモロコシ油、ゴマ油等の溶剤;香料;などを配合することができる。
【0064】
本発明の成長促進剤は、単独で、または節足動物(例、昆虫)の餌と混合し、節足動物(例、昆虫)の生態系を考慮して、節足動物(例、昆虫)がアクセス可能な態様で節足動物(例、昆虫)に与えることができる。
【0065】
生体内でのdRYamide−1および/またはdRYamide−2の作用は、それらの受容体への結合を介して発揮されるものであるから、該受容体の発現または機能を特異的に阻害する物質も、節足動物(例、昆虫)の食欲を増進し、成長を促進させる作用を有することが期待される。本発明は、NPY−like receptorの発現または機能を阻害する物質を含有する、節足動物(例、昆虫)の成長促進剤を提供する。
【0066】
NPY−like receptorは、その塩基配列およびアミノ酸配列は、公知である。例えば、ショウショウバエ由来のNPY−like receptor(NepYr)の塩基配列およびアミノ酸配列はGenBank Accession No. NM_079801.2として登録され、それぞれ配列番号5および配列番号6で示す。上述したように、NPY−like receptorは、ホモログなどを含む概念であり、ショウショウバエ由来のNPY−like receptorに対するホモログは、Homologeneにより同定することができる。
【0067】
NPY−like receptorの発現または機能を阻害する物質は、以下の(i)〜(iii)のいずれかであることが好ましい。
(i)NPY−like receptorをコードする遺伝子のアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸またはターゲッティングベクター、
(ii)NPY−like receptorに対する抗体、当該抗体をコードする核酸、当該NPY−like receptorのドミナントネガティブ変異体または当該変異体をコードする核酸、または
(iii)(i)もしくは(ii)の核酸を含む発現ベクター。
【0068】
NPY−like receptorの発現を阻害する物質がアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸などの核酸分子である場合、本発明の成長促進剤は、当該核酸分子をコードする発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、通常、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である昆虫細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸およびその発現ベクターについては、dRYamideの発現を阻害する物質において説明した通りである。
【0069】
NPY−like receptorの発現を阻害する物質の別の態様は、ターゲティングベクターである。本発明で用いられるターゲティングベクターは、当該NPY−like receptorをコードする遺伝子の相同組換えを誘導し得る遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチド、並びに選択マーカーを含む。第一および第二のポリヌクレオチドは、当該NPY−like receptorをコードする遺伝子を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性および長さを有するポリヌクレオチドである。第一および第二のポリヌクレオチドは、当該遺伝子を含むゲノムDNAにおいて、第一および第二のポリヌクレオチドに対して相同な2つの領域の間に存在するゲノムDNA部分領域が欠失すると、当該遺伝子の機能的欠損がもたらされるように選択される。選択マーカーとしては、ポジティブ選択マーカー(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(BPH)遺伝子、ブラスティシジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子)、ネガティブ選択マーカー(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、ジフテリア毒素Aフラグメント(DTA)遺伝子)などが挙げられる。ターゲティングベクターは、ポジティブ選択マーカー、ネガティブ選択マーカーのいずれか一方、または両方を含むことができる。ターゲティングベクターはまた、2以上のリコンビナーゼ標的配列(例えば、バクテリオファージP1由来のCre/loxPシステムで用いられるloxP配列、酵母由来のFLP/FRTシステムで用いられるFRT配列)を含んでいてもよい。
【0070】
NPY−like receptorの機能を阻害する物質の一態様は、当該NPY−like receptorに対する抗体、当該抗体をコードする核酸(プロモーター活性を有する核酸に機能可能に連結されたもの)、または当該核酸を含む発現ベクターである。当該抗体は、当該NPY−like receptorを認識するものであれば特に制限されず、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製することができる。また、当該抗体は、抗体のフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2)、組換え抗体(例えば、単鎖抗体)であってもよい。
【0071】
NPY−like receptorの機能を阻害する物質の別の一態様は、当該NPY−like receptorのドミナントネガティブ変異体、当該変異体をコードする核酸(プロモーター活性を有する核酸に機能可能に連結されたもの)、当該核酸を含む発現ベクター、低分子有機化合物などが例示される。
【0072】
NPY−like receptorのドミナントネガティブ変異体とは、当該NPY−like receptorに対する変異の導入によりその活性が低減したものをいう。当該ドミナントネガティブ変異体は、天然のNPY−like receptorと競合することで間接的にその活性を阻害することができる。当該ドミナントネガティブ変異体は、当該NPY−like receptorをコードする核酸に変異を導入することによって作製することができる。その変異としては、例えば、ミリストイル化部位、DNA結合部位並びにこれらの部位以外の部位における、当該部位が担う機能の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例えば、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。当該変異は、PCRや公知のキットを用いる自体公知の方法により導入することができる。
【0073】
好適には、本発明の節足動物(例、昆虫)の成長促進剤の有効成分はRNAi誘導性核酸であり、配列番号5の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAを含む。
【0074】
本発明の摂食抑制剤もしくは害虫駆除剤または成長促進剤は、目的に応じて節足動物(例、昆虫)を適宜選択して投与することができる。摂食抑制剤は、害虫を対象とすることが好ましく、成長促進剤は、益虫を対象とすることが好ましい。
【0075】
本発明が対象とする害虫として、鱗翅目害虫、例えばアオムシ、ハスモンヨトウ、アワノメイガ、コナガ、ニカメイチュウ、コブノメイガ、ドクガ等;半翅目害虫、例えば、ツマグロヨコバイ、トビイロウンカ、ヒメトビウンカ、ヤノネカイガラムシ、モモアカアブラムシ、ワタアブラムシ、ニセダイコンアブラムシ、アオカメムシ、オンシツコナジラミ、シラミ、トコジラミ、コロモジラミ、サシガメ等;鞘翅目害虫、例えば、アズキゾウムシ、コクゾウムシ、ニジュウヤホシテントウ、ヒメコガネ、コロラドポテトビートル、イネミズゾウムシ、マツノゴマダラカミキリ、キクイムシ、ハネカクシ等;直翅目害虫、例えば、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、ケラ、バッタ、ヤマトシロアリ、イエシロアリ等;双翅目害虫、例えば、イエバエ、キンバエ、クロバエ、サシバエ、サシチョウバエ、メルラアブ、ツェツェバエ、アブ、ブユ、ヌカカ、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ、アカイエカ、シナハマダラカ、コガタアカイエカ、イエカ、ヤブカ、ヌマカ等;毒グモ、例えば、セアカゴケグモ、タランチュラ等;ダニ類、例えば、イエダニ、マダニ、ツツガムシ、ヒメダニ、ヒゼンダニ、チリダニ、コナダニ等をあげることができる。
【0076】
本発明が対象とする益虫として、ミツバチ、カイコ、カブトムシなどをあげることができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はいかなる意味においてもこれらに限定されるものではない。
【0078】
実施例1:細胞培養、トランスフェクション、NPY−like receptor発現細胞株の調製
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、CHO培地(10%ウシ胎仔血清(FBS)を補足したMEM−alpha、これらの試薬は、Gibco製のものを使用した)中で維持した。
【0079】
哺乳動物NPY receptorファミリー(図1を参照)に類似するショウジョウバエNPY−like receptor(NepYr)のcDNAクローニングは、reverse transcriptase(RT−)PCR法を用いて行った。ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の成虫の全長cDNAを、以下のプライマーセット:
5’-caccttctaccattgacgcgcttg-3’(S:配列番号36)
5’-cggtgcttcttatgtttgcttc-3’(AS:配列番号37)
を用いて増幅した。PCRの条件は、以下の通りであった:
PCR反応液(Takara)
10xPyrobest buffer II 5μl
dNTP mix 4μl
primer S (1μM) 5μl
AS (1μM) 5μl
Pyrobest 0.25μl
H2O 29.75μl
cDNA 1μl
全量 50μl
温度条件
94℃ 2minを1 cycleの後、
98℃10sec、55℃30sec、および72℃ 2minを30 cyclesし、
72℃3minを1 cycleし、4℃に冷却した。
得られた増幅産物をpcDNA3.2/V5/GW/D-TOPO発現ベクター(Invitrogen)にクローニングし、シークエンシングにより配列を確認した。
【0080】
発現ベクターD,CG5811-7-pcDNA3.2/V5/GW/D-TOPOのCHO細胞へのトランスフェクションは、トランスフェクション試薬としてFugene6(Boehringer Mannheim)を用いて、販売業者の指示書に従って行った。抗生物質による選択(1mg/ml G418)およびクローン選択の後、NPY−like receptor発現CHO細胞株を得た。
【0081】
実施例2:ショウジョウバエdRYamide−1およびdRYamide−2の精製
ショウジョウバエの成虫(350g)を10倍容量の脱イオン水を加えて10分間煮沸し、0℃まで冷却した。酢酸を添加し(最終pH3.0)、Kinematica polytronでホモジナイズした後、ホモジネートを遠心分離し、上清を分離してエバポレーターにて3分の1量まで濃縮した。次に2倍量のアセトンを加え、一晩4℃にて攪拌後、遠心し上清をグラスフィルターにて濾過した。エバポレーターにてアセトン除去後、SepPak C18カートリッジ(Waters)を用いて脱塩、濃縮し、0.1%トリフルオロ酢酸でリンスした後、0.1%トリフルオロ酢酸中60%アセトニトリルで各カートリッジから溶出した。溶出液を凍結乾燥させ、出発材料として用いた。前記凍結乾燥物を1M酢酸に溶解し、SP−SephadexC−25(H+型)カラムに吸着させ、1M酢酸で平衡化した。1M酢酸、2Mピリジンおよび2Mピリジン−酢酸(pH5.0)での連続溶出により、SP−I、SP−IIおよびSP−IIIの各フラクションを得た。
【0082】
次に、凍結乾燥した塩基性ペプチドフラクションSP−IIIを、SephadexG−50ゲルろ過カラムにかけ、分画した。各フラクションのリガンド活性を以下のように調べた。
CHO−NPY−like receptorは、各細胞表面にGPCRであるNPY−like receptorが発現し、当該受容体にリガンドが結合すると、細胞内カルシウム濃度が上昇することが期待されるので、細胞内カルシウム濃度の変化を測定することによって、各受容体に結合するリガンド活性を追跡した。
CHO−NPY−like receptorをCHO培地中で維持し、上記で分画したフラクションの一部を各培地に添加し、当該細胞における細胞内カルシウムイオン濃度([Ca2+]i)の変化を、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)システム(Molecular Devices)を用いて既報(Nature, 1999; 402: pp.656-660)に準じて測定した。すなわち、アッセイの12〜15時間前にCHO−NPY−like receptor細胞(5×104細胞)を96ウェルの黒壁マイクロプレート(Corning)に播種した。細胞をFLEX Calcium 4 Assay Kit(Molecular Devices)100μlとともに1時間インキュベートした後、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)に供し、サンプル(フラクション)が蛍光の変化を誘導するか否かを測定した。最大[Ca2+]iの変化を三連で決定した。結果を図2に示す。カルシウムイオン濃度の上昇したフラクションを活性フラクションとしてさらなる精製に供した。
【0083】
プールした活性フラクションを、TSK−GEL CM−25Wカラム(Tosoh)を用いるカルボキシメチル(CM)イオン交換高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。HPLCの条件は、以下の通りである。
溶離液:10%アセトニトリル中、ギ酸アンモニウム10mM−0.6Mの直線勾配
溶出速度:1ml/分(16−136分)
各フラクションについて上述のようにFLEXシステムで細胞内カルシウムイオン濃度の変化を測定し(図3)、活性フラクションをプールし、さらに以下の精製に供した。
【0084】
プールした活性フラクションを、μBondasphereC18カラム(Waters)を用いる逆相(RP)−HPLCに供した。HPLCの条件は、以下の通りである。
溶離液:0.1%トリフルオロ酢酸中(TFA)、10−60%アセトニトリルの直線勾配
溶出速度:1ml/分(80分)
【0085】
さらに、活性フラクションをChemcosorb 3ODS−Hカラム(Chemco)を用いるRP−HPLCに供した。HPLCの条件は、以下の通りである。
溶離液:0.1%トリフルオロ酢酸中(TFA)、10−60%アセトニトリルの直線勾配
溶出速度:0.2ml/分(80分)
吸収ピークに相当するフラクションを集め、各フラクションの一部をFLEXシステムにより測定した。約20pmolの主要活性フラクションの最終精製ペプチドを、プロテインシークエンサー(モデル494、Applied Biosystems)で解析した。また、約1pmolの各活性フラクションを用いて、マトリックス支援レーザー脱着−イオン化飛行時間(MALDI−TOF)質量分析計およびVoyager−DE PRO instrument(Applied Biosystems)により分子量を決定した。
【0086】
その結果、NPY−like receptorに結合するリガンドとしてdRYamide−1およびdRYamide−2を単離し、精製することに成功した。得られたペプチドリガンドの配列を以下に示す。また、得られたペプチドリガンド(アミド体およびC末端フリー体)について、上記受容体結合試験の結果を図4に示す。ペプチドリガンド(アミド体およびC末端フリー体)のEC50は、アミド体が10−11M程度でC末端フリー体が10−6〜10−8M程度であった。
【0087】
dRYamide−1:
PVFFVASRY-NH2(配列番号1、図4の上段枠で示す領域、分子量1084.22)
dRYamide−2:
NEHFFLGSRY-NH2(配列番号2、図4の下段枠で示す領域、分子量1268.33)
【0088】
得られたdRYamide−1およびdRYamide−2のアミノ酸配列に基づいて、他の昆虫のゲノムデータベースを探索し、他の昆虫種に存在するdRYamide−1様ペプチドおよびdRYamide−2様ペプチドをアラインした。結果を表1に示す。dRYamide−1およびdRYamide−2は、各昆虫でよく保存されていることがわかった。
【0089】
【表1】
【0090】
実施例3:dRYamide−1およびdRYamide−2の前駆体のクローニング
dRYamide−1およびdRYamide−2の前駆体の部分配列は、既にデータベース上で公開されており:
dRYamide−1およびdRYamide−2前駆体CG40733(NM_00111912.2)、
公開されている塩基配列に基づいて下記プライマー:
5’-cttcgtccccttgttattattgtct-3’(S:配列番号38)
5’-agtaattggcattcatgtcagagtc-3’(AS:配列番号39)
を設計し、PCRで増幅し、クローニングした。
dRYamide−1およびdRYamide−2は、1つの前駆体から2つのペプチドが切り出されることがわかった。前駆体の塩基配列およびアミノ酸配列をそれぞれ配列番号3および4に示し、さらに前駆体とペプチドとの関係を図4に示す。
【0091】
実施例4:リアルタイムPCRによるショウジョウバエのdRYamide前駆体およびNPY−like receptorのmRNAの発現量の解析
リアルタイムPCRによるショウジョウバエ(オス、メス)の頭部と身体におけるdRYamide前駆体およびNPY−like receptorのmRNAの発現量の解析結果を図5に示す。その結果、dRYamide前駆体mRNAは、オスで高く発現していることがわかった。また、ショウジョウバエの成虫および幼虫の各組織における発現を図6に示す。NPY−like receptorは、成虫の後腸で高く発現しているので、腸管に関する生理作用に関与している可能性がある。
【0092】
実施例5:dRYamide−1およびdRYamide−2のN末端側認識特異抗体
dRYamide−1およびdRYamide−2のN末端側を抗原としてウサギを免疫してポリクローナル抗体を作製し、抗体価および特異性を検討した。dRYamide−1およびdRYamide−2のN末端側認識特異抗体を得た(図7)。
【0093】
次に、前記抗体を用いて、ラジオイムノアッセイによるdRYamide−1およびdRYamide−2のショウジョウバエ(オス、メス)における含量を調べた。結果を図8に示す。dRYamide−1およびdRYamide−2の含量は、オス、メスで差がなかった。
【0094】
実施例6:dRYamide−2のN末端側認識特異抗体を用いた免疫染色
ショウジョウバエの幼虫の組織をPBS中で解剖し、4%ホルムアルデヒドのPBS溶液中で、室温で30分間固定した。固定した組織をPBT(Triton-Xを含有するPBS(中枢神経系に対しては0.3%、腸に対しては0.2%、その他の組織に対しては0.1%))で3回リンスし、次いで、PBTで20分間の洗浄を3回繰り返した。洗浄後の組織を、室温で1時間以上ブロッキング溶液(1% BSAのPBT溶液)とともにインキュベートした後、4℃で一晩一次抗体とともにインキュベートした。
次の日、組織をPBTで3回リンスし、PBTで20分間の洗浄を3回繰り返した後、4℃で一晩、次いで室温で2時間二次抗体(抗ウサギIgG-Cy3:Jackson 711-165-152)とともにインキュベートした。インキュベート後の組織をPBTで3回リンスし、PBTで10分間の洗浄を2回繰り返した後、Vectashieldマウンティングメディウムでスライドに搭載した。
【0095】
結果を図9に示す。図9より、幼虫中腸において広範にdRYamide-2が分布していることがわかった。
【0096】
実施例7:マウスNPYおよびNPFFの精製
実施例2において、ショウジョウバエの成虫の代わりにマウス1000匹分の脳を使用したこと以外は実施例2と同様の方法により、マウス由来のペプチドを精製した。
【0097】
その結果、以下の配列番号17および18で表されるペプチドアミドが精製された。dRYamide−1およびdRYamide−2とのアラインメントを図10に示す。
PVFFVASRY-NH2 (配列番号1) dRYamide-1
NEHFFLGSRY-NH2 (配列番号2) dRYamide-2
SPAFLFQPQRF-NH2 (配列番号17) mouse NPFF
YPSKPDNPGEDAPAEDMARYYSALRHYINLITRQRY-NH2 (配列番号18) mouse NPY
YPAKPEAPGEDASPEELSRYYASLRHYLNLVTRQRY-NH2 (配列番号19) mouse PPY
APLEPMYPGDYATPEQMAQYETQLRRYINTLTRPRY-NH2 (配列番号20) mouse PP
SRAHQHSMETRTPDINPAWYTGRGIRPVGRF-NH2 (配列番号21) mouse PrRP
NPAFLFQPQRF-NH2 (配列番号22) rat NPFF
APLEPMYPGDYATHEQRAQYETQLRRYINTLTRPRY-NH2 (配列番号23) rat PP
YPAKPEAPGEDASPEELSRYYASLRHYLNLVTRQRY-NH2 (配列番号24) rat PYY
YPSKPDNPGEDAPAEDMARYYSALRHYINLITRQRY-NH2 (配列番号25) rat NPY
【0098】
実施例8:受容体結合試験
CHO−NPY−like receptorをCHO培地中で維持し、上記ペプチドアミドもしくはペプチドまたは下記表2に示すペプチドアミドを培地に添加し、当該細胞における細胞内カルシウムイオン濃度([Ca2+]i)の変化を、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)システム(Molecular Devices)を用いて既報(Nature, 1999; 402: pp.656-660)に準じて測定した。すなわち、アッセイの12〜15時間前にCHO−NPY−like receptor細胞(5×104細胞)を96ウェルの黒壁マイクロプレート(Corning)に播種した。細胞をFLEX Calcium 4 Assay Kit(Molecular Devices)100μlとともに1時間インキュベートした後、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)に供し、添加したペプチドまたはペプチドアミドが蛍光の変化を誘導するか否かを測定した。EC50値は、測定機器であるFLEX stationのソフトウエアを用いて決定した。結果を表3および図12〜15に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
実施例9:dRYamide投与による吻伸展反射試験
Journal of Neuroscience, 2005, 25(33): 7507-7516に記載の方法に準じて、吻伸展反射(PER)試験を行った。実験に供したハエは、クロキンバエ(Phormia regina)であり、ハエの背側に10pmolの各種ペプチドアミドを投与し、種々の濃度のショ糖液に対する吻伸展反射を調べ、PER閾値を決定した。
【0102】
結果を図11に示す。クロキンバエの背側にdRYamide−2を10pmol投与することによりPER閾値が高くなった。このことから、ペプチド投与前と比べて、ショ糖濃度が高くないと吻伸展反射をしなくなることがわかり、dRYamide−2投与により摂食行動が抑制されていることを意味する。
【0103】
実施例10:受容体結合試験
CHO−NPY−like receptorをCHO培地中で維持し、下記表4に示すペプチドまたはペプチドアミドを培地に添加し、当該細胞における細胞内カルシウムイオン濃度([Ca2+]i)の変化を、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)システム(Molecular Devices)を用いて既報(Nature, 1999; 402: pp.656-660)に準じて測定した。すなわち、アッセイの12〜15時間前にCHO−NPY−like receptor細胞(5×104細胞)を96ウェルの黒壁マイクロプレート(Corning)に播種した。細胞をFLEX Calcium 4 Assay Kit(Molecular Devices)100μlとともに1時間インキュベートした後、蛍光イメージングプレートリーダー(FLEX)に供し、添加したペプチドまたはペプチドアミドが蛍光の変化を誘導するか否かを測定した。EC50値は、測定機器であるFLEX stationのソフトウエアを用いて決定した。結果を表4および図16〜26に示す。
【0104】
【表4】
【0105】
dRYamide-1およびdRYamide-2から共通するアミノ酸配列を取り出して最小のアミノ酸配列「FFSRY」を有するペプチドアミド(配列番号40)を合成して試験したところ、活性を有することがわかった(図20)。
dRYamide-1およびdRYamide-2の解析から、当該ペプチド(アミド)の活性発現には、「FF」配列と「SRY」配列に挟まれた2アミノ酸残基のN末端側には疎水性アミノ酸(V、L、I等)、C末端側には分子量の小さいアミノ酸(A、G等)を配置することも重要と考えられる。この仮説を実証するためのペプチド(アミド)を配列番号42および43で示し、結果を図22および24に示す。図22および24より、上記仮説が成立することがわかった。
一方、N末端側疎水性アミノ酸とC末端側小分子量アミノ酸とを入れ替えた場合(配列番号41)でも、ペプチド(アミド)の活性は維持された(図21)。
さらに、N末端側疎水性アミノ酸とC末端側小分子量アミノ酸をL体からD体に変えた場合(FFVASRY-NH2:下線部はD−アミノ酸を表す)も、ペプチド(アミド)の活性は維持された(図23)。
以上のことから、「FF」配列と「SRY」配列に挟まれた2アミノ酸残基に配置されるアミノ酸は「VA」に代表される疎水性アミノ酸と小分子量アミノ酸の組合せが好適な例としてあげられるが、かかるアミノ酸の組合せに特に限定されるものではなく、天然に存在するアミノ酸のみならず非天然のアミノ酸であってもよいと考えられる。
【0106】
本発明者らは、実施例2に記載の方法に準じて、クルマエビからdRYamideと同様のペプチド(アミド)を2種分離同定した。前記ペプチドのアミノ酸配列を表4ならびに配列番号44および45で示す。クルマエビに由来するペプチドの合成ペプチドアミドを、ショウジョウバエNPY−like receptor発現CHO細胞の培地に添加して受容体結合試験を行ったところ、結合活性を有することがわかった(図25、26)。このことから、甲殻類に由来するペプチド(アミド)は、種を超えてショウジョウバエ受容体に対しても活性を有することが示唆された。
【0107】
実施例11:dRYamide投与によるクルマエビ摂食量への影響
砂を敷いた水槽中で飼育中のクルマエビを用いて、クルマエビの摂食量を調べた。実験に供したクルマエビの平均体重は10gであり、給餌量は体重の1%とした。各群5匹ずつ水温15℃で飼育した。各エビに1nmol/100μL PBS中のdRYamide−2を筋肉内注射した。対照として、100μL PBSを同様に筋肉内注射した。
【0108】
結果を図27に示す。dRYamide−2は投与後3日間、クルマエビの摂食量を減少させることがわかり、dRYamide−2投与により摂食行動が抑制されていることを意味する。ショウジョウバエから分離同定されたdRYamide−2は、種を超えて甲殻類にも作用することが示された。
また、dRYamide−2投与群は、対照群に比べて、砂に潜る「潜砂行動」をより頻繁にする傾向があった(データ示さず)。エビの養殖においては、陸上のいけすで稚エビを育てた後、海に放流するが、魚に捕食されることにより養殖率が低下する。潜砂能力が高くなることによってクルマエビが砂に潜る頻度が高くなり、捕食圧が減少するので、結果として養殖率の上昇が期待できる。dRYamide−2のクルマエビへの投与は、養殖業において有利である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のペプチドまたはペプチドアミドは、害虫の駆除および益虫の繁殖に貢献することができる。また、哺乳動物の新規医薬成分の候補ともなりうる。
以上、本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で様々な修正と変更をなすことは可能である。従って、そのような修正及び変更も、すべて後記の特許請求の範囲で請求される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはペプチドアミド、
(2)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のショウジョウバエneuropeptideY receptor−like(NepYr)に対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド、および
(3)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列ならびに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド
からなる群より選ばれる、単離されたペプチドまたはペプチドアミド。
【請求項2】
(1)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはペプチドアミド、
(2)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド、および
(3)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列ならびに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド
からなる群より選ばれるペプチドまたはペプチドアミドからなる、NepYrに対するリガンド。
【請求項3】
請求項1に記載のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する、節足動物の摂食抑制剤。
【請求項4】
請求項1に記載のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する、害虫駆除剤。
【請求項5】
請求項1に記載のペプチドまたはペプチドアミドに結合する抗体。
【請求項6】
請求項1に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
dRYamide前駆体mRNAの発現を特異的に阻害する物質を含有する、節足動物の成長促進剤。
【請求項8】
配列番号3の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAを含有する、請求項7に記載の成長促進剤。
【請求項9】
NepYrの発現または機能を阻害する物質を含有する、節足動物の成長促進剤。
【請求項10】
NepYrの発現または機能を阻害する物質が、以下の(i)〜(iii)のいずれかである、請求項9に記載の成長促進剤:
(i)NepYrをコードする遺伝子のアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸またはターゲッティングベクター、
(ii)NepYrに対する抗体、当該抗体をコードする核酸、当該NepYrのドミナントネガティブ変異体または当該変異体をコードする核酸、または
(iii)(i)もしくは(ii)の核酸を含む発現ベクター。
【請求項11】
RNAi誘導性核酸が、配列番号5の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAである、請求項10に記載の成長促進剤。
【請求項12】
節足動物が昆虫である、請求項3、7〜11のいずれか1項に記載の剤。
【請求項1】
(1)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはペプチドアミド、
(2)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のショウジョウバエneuropeptideY receptor−like(NepYr)に対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド、および
(3)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列ならびに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド
からなる群より選ばれる、単離されたペプチドまたはペプチドアミド。
【請求項2】
(1)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはペプチドアミド、
(2)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド、および
(3)配列番号1または2で表されるアミノ酸配列において、C末端から3〜1位のSRYおよびC末端から7〜6位のFFを除く1〜5個のアミノ酸残基が置換、欠失または付加されたアミノ酸配列ならびに当該SRYおよびFFの1または2個のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列からなる変異ペプチドまたは変異ペプチドアミドであって、変異前のペプチドまたはペプチドアミドと同等のNepYrに対する結合活性を有するペプチドまたはペプチドアミド
からなる群より選ばれるペプチドまたはペプチドアミドからなる、NepYrに対するリガンド。
【請求項3】
請求項1に記載のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する、節足動物の摂食抑制剤。
【請求項4】
請求項1に記載のペプチドまたはペプチドアミドを少なくとも1種含有する、害虫駆除剤。
【請求項5】
請求項1に記載のペプチドまたはペプチドアミドに結合する抗体。
【請求項6】
請求項1に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
dRYamide前駆体mRNAの発現を特異的に阻害する物質を含有する、節足動物の成長促進剤。
【請求項8】
配列番号3の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAを含有する、請求項7に記載の成長促進剤。
【請求項9】
NepYrの発現または機能を阻害する物質を含有する、節足動物の成長促進剤。
【請求項10】
NepYrの発現または機能を阻害する物質が、以下の(i)〜(iii)のいずれかである、請求項9に記載の成長促進剤:
(i)NepYrをコードする遺伝子のアンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸またはターゲッティングベクター、
(ii)NepYrに対する抗体、当該抗体をコードする核酸、当該NepYrのドミナントネガティブ変異体または当該変異体をコードする核酸、または
(iii)(i)もしくは(ii)の核酸を含む発現ベクター。
【請求項11】
RNAi誘導性核酸が、配列番号5の塩基配列に対応するmRNAにおける19〜25個の連続する塩基配列を含むセンス鎖と、その相補配列を含むアンチセンス鎖の組み合わせからなる二本鎖RNAである、請求項10に記載の成長促進剤。
【請求項12】
節足動物が昆虫である、請求項3、7〜11のいずれか1項に記載の剤。
【図1】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図5】
【図9】
【図10】
【図4】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図5】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−223187(P2012−223187A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−70356(P2012−70356)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】
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