説明

ショットコーティング方法、ショットコーティング用ショット材及び前記ショットコーティング用ショット材の製造方法並びにショットコーティング成形物

【課題】光触媒物質の性能を劣化させることなく被加工物に担持させると共に、強度が高く強固に付着する光触媒コーティングを形成する。
【解決手段】金属、セラミックス基材等から成る被処理成品の表面に、光触媒作用を有する無機粉末が固定ないし結合された金属粒体から成るショット材を噴射速度80m/sec以上又は噴射圧力0.3MPa以上で噴射し、被処理成品の表面に、前記光触媒作用を有する無機粉末を担持した金属被膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ショットコーティング(衝撃被膜形成)に関し、特に、光触媒作用を有する無機粉体、あるいはこれに加えて多孔性の無機粉体を金属基材又はセラミックス基材又はこれらの混合体から成る被処理成品の表面に担持させることにより、空気中の有害物質の分解、浄化や、吸湿、有害ガス吸着等を行うことのできるショットコーティング方法、該ショットコーティング方法に使用するショット材、該ショット材の製造方法及び前記ショットコーティング方法によるショットコーティング成形物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、優れた有機物分解機能を持つチタニアを主成分とする光触媒は多くの分野で利用されている。太陽光や蛍光灯などに含まれる紫外線をチタニアに照射すると、チタニア表面に電子及び正孔が発生し、電子は空気中の酸素を還元してスーパーオキサイドイオン(O・−)に、また、正孔はチタニア表面に付着した水分を酸化して水酸基ラジカル(OH・)に変える。これらの活性化学種が、チタニア表面の有機物を分解する。
【0003】
このような光触媒を例えば建材に利用する場合には、チタニア被膜を建材表面に形成し、十分な紫外線を照射させる必要がある。代表的な手法としては、ゾル・ゲル法などによる被膜形成、バインダを利用したチタニア粒子固定化法がある。
【0004】
ゾル・ゲル法は、チタニウムアルコキシドやチタニウムキレートなどの有機系チタンのゾルをガラス、セラミックス基材などの表面にスプレーなどで塗布し、乾燥させてゲルを作り、500℃以上に加熱することで、強固なチタニア被膜を形成する方法である。表面全体にチタニア粒子が存在し、分解力が高く、また高硬度なチタニア被膜を形成することができる。
【0005】
またバインダ法は、チタニア粒子を基材表面にバインダで固定する方法である。バインダとしてはシリカ、シリコーンなどを用いている。加熱温度はバインダの硬化温度で済むため、100℃以下の加熱処理で固定化できる。
【0006】
なお、被処理成品の表面に光触媒物質のコーティングを形成する方法としては、他にブラストによるものがある。この方法は、被処理成品の表面にチタン又はチタン合金の粉体を噴射することで、被処理成品の表面に衝突した際に発生する熱エネルギーにより、チタンを被処理成品に活性化吸着させて拡散浸透させると共に大気中の酸素と反応させて酸化させることで、被処理成品の表面にチタニア被膜を形成する(特許文献1)。
【0007】
また、光触媒コーティングを行うものではないが、被処理成品の表面に被膜となる金属粉体を噴射することにより、衝突の際の衝撃及び衝突の際に発生した熱により被処理成品の表面にこの金属粉体を構成する金属の被膜を形成する方法がある(特許文献2)。
【0008】
この発明の先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2000−61314号公報(第2−4頁)
【特許文献2】特開平10−280165号公報(第2−4頁)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述した従来の光触媒コーティング方法にあっては、以下の問題点があった。
【0010】
ゾル・ゲル法にあっては、チタニアの前駆体であるチタニウムアルコキシドやチタニウムキレートなどの有機系チタンをチタニア被膜に変えるために、500℃以上の加熱を必要とするので、この加熱により酸化チタンの結晶相が光触媒活性の高いアナターゼ型ではなく、光触媒性能の極めて低いルチル型になる。
【0011】
また、前述のようにチタニア被膜を得るために必要な熱処理は、500℃以上という比較的高温で行われるために、処理対象とすることができる成品は耐熱性のあるガラス、セラミックス基材などに限られ、素材に対する汎用性がないという問題があった。
【0012】
一方、バインダ法では、前述のゾル・ゲル法のような高温による熱処理は必要ではないために、耐熱性の低い多くの成品を対象とすることができるが、ここで使用するバインダは被処理成品との接着性が高く、かつ光触媒により分解しない材料を用いることが必要であった。
【0013】
またバインダ法には、被膜の硬度と光触媒性能が両立しないという問題点があった。すなわち、接着性及び被膜の硬度を向上させるためにバインダの量を増やすと、形成された被膜中に担持されるチタニアの量は、バインダの量に対して相対的に少なくなるため、光触媒による分解能力が低下する。
【0014】
一方、チタニアによる分解能を向上させるためにバインダを減らした場合には、チタニア量の相対的な増加により光触媒による分解能力は高まるが、バインダの量が減少した分、接着力が低くなり被膜の硬度が低下する。
【0015】
さらに、光触媒による有機物の分解には、光触媒の表面が有機物と接触することが必要であるが、バインダ法による場合にはバインダ中に埋没してしまう光触媒が発生し、光触媒本来の性能が十分に発揮されない。
【0016】
なお、チタン又はチタン合金を被加工物の表面に噴射することにより光触媒コーティングを行う前掲の特許文献1に記載の発明は、被加工物の表面に衝突した際に発生するチタン粉体と被処理成品の温度上昇により、チタンを被処理成品の表面に拡散浸透させると共に酸化させてチタニア被膜を形成するものであるが、ここで噴射粉体として使用するチタンは融点が高いので、このような発熱により被膜を形成するためには被処理成品も必然的に高融点であることが要求される。
【0017】
また、チタンは比較的高価であると共に、粉体状においては発火のおそれがあるために取り扱いが難しいという問題があり、より簡易にブラスト加工により光触媒コーティングを形成する方法が要望されている。
【0018】
この点において、光触媒作用を有する無機粉体を金属粒体と混合した混合体を被処理成品の表面に噴射して、金属粉体により形成される金属被膜に光触媒作用を有する無機粉体を担持させることも考えられるが、単に異種材料を混合して同時に被処理成品の表面に噴射しても、粉体間に比重差や粒径差がある場合には均一な被膜を形成することができない。
【0019】
すなわち、設定された噴射圧力や噴射速度の圧縮空気に対して大きすぎる(重すぎる)粒子は十分な運動エネルギーを得ることができず、仮に基材に衝突しても融着して被膜を形成するに至らない。一方、細かすぎる(軽すぎる)粒子は、被加工物との衝突により跳ね返る他の粒子との衝突で被加工物への衝突がない。
【0020】
そのため、混合物中、設定された噴射圧力ないしは噴射速度に対して最適な比重及び粒子径を持つ粒体のみが十分な運動エネルギーを以て基材に衝突して被膜を形成し、その他の粒体は被加工物の表面に衝突したとしても被膜を形成するに十分な運動エネルギーが与えられていなかったり、または、被加工物へ衝突することができないので、この方法によりかりに光触媒コーティングが行われたとしても、形成された被膜は、その組成が不均一で、斑の生じたものとなる。
【0021】
そこで、本発明は上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり、比較的簡単な方法により大量の光触媒を、その性能を劣化させることなく被加工物の表面に担持させることができると共に、強度が高く被処理成品に対して強固に付着する光触媒コーティングを形成する方法、該光触媒コーティングが形成された成形物及びこの光触媒コーティングを形成するためのショット材を提供することを目的とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のショットコーティング方法は、金属基材又はセラミックス基材又はこれらの混合体から成る被処理成品の表面に、光触媒作用を有する無機粉体を少なくとも含む粉体状の無機触媒を金属粒体の少なくとも表面に固定ないし結合させて成るショット材を噴射して、前記被処理成品の表面に、前記粉体状の無機触媒を担持させると共に、前記金属粒体による金属被膜を形成することを特徴とする(請求項1)。
【0023】
又、本発明のショットコーティング用ショット材は、実施に応じて、多孔性の無機粉体を含む、光触媒作用を有する無機粉体を少なくとも、例えば金属粒体と粉体状の無機触媒との混合体に対して1wt%以上含有する粉体状の無機触媒を金属粒体の少なくとも表面に固定ないし結合させた例えば平均粒径10〜300μm、好ましくは30〜200μmに形成したことを特徴とする。
【0024】
さらに、本発明ショットコーティング用ショット材の製造方法は、金属粒体と光触媒作用を有する無機粉体を少なくとも含む粉体状の無機触媒とを共にボールミル内において攪拌して粉体状の無機触媒を金属粒体の少なくとも表面に固定ないし結合させて成ることを特徴とする(請求項3)。
【0025】
又、本発明のショットコーティング成形物は、金属基材又はセラミックス基材又はこれらの混合体から成る被処理成品の表面に、光触媒作用を有する無機粉体を少なくとも含む粉体状の無機触媒を金属粒体の少なくとも表面に固定ないし結合させて成るショット材を好ましくは噴射速度80m/sec以上、又は噴射圧力0.3MPa以上で噴射することにより前記粉体状の無機触媒を担持すると共に、前記金属粒体による金属被膜を形成して成ることを特徴とする。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のショット材及びこのショット材を使用したショットコーティング方法につき説明する。
【0027】
〔ショット材〕
本発明のショットコーティング方法において使用されるショット材は、被処理成品の表面に形成される金属被膜と成る金属粒体と、この金属被膜により被処理成品の表面に担持される、粉体状の無機触媒とにより構成されており、この粉体状の無機触媒は、前述の金属粒体の少なくとも表面に固定ないし結合され、両者が一体となった状態において、ブラスト装置により被処理成品の表面に対して噴射されるショット材となる。
【0028】
このショット材を構成する金属粒体としては、被処理成品との衝突によるエネルギーによって被処理成品の表面に溶着し得るものであれば、各種の金属粒体を使用することができる。この金属粒体は、被処理成品よりも低融点であることが好ましく、本実施形態にあってはこの金属粒体の一例として錫、亜鉛を使用する。この金属粒体は、平均粒径10〜300μm、好ましくは30〜200μmとする。
【0029】
この金属粒体の少なくとも表面に固定ないし結合される粉体状の無機触媒は、少なくとも光触媒作用を有する無機粉体を含んでおり、光触媒作用を有する無機粉体のみで構成するものであっても良い。
【0030】
本発明のショットコーティング方法により得られたショットコーティング成形品に光触媒作用による有害物質の分解、浄化等の機能の他、有害物質や悪臭の吸着による除去、水分の吸着による除湿等の機能を付加する場合には、この光触媒作用を有する無機粉体と共に、多孔性の無機粉体を前述の粉体状の無機触媒として加えても良い。
【0031】
前述の光触媒作用を有する無機粉体としては、既知の各種の光触媒作用を有する無機化合物の粉体を使用することができ、例えば、光触媒シリカゲル、チタニア架橋粘土等であり、本実施形態にあっては一例としてアナターゼ型酸化チタンの粉体を使用している。
【0032】
また、前述の多孔性の無機粉体としては、吸着性を有する既知の多孔性物質を使用することができ、例えばゼオライト、セピオライト、珪藻土などの粉体を使用することができる。
【0033】
これらの、粉体状の無機触媒として使用される粉体は、いずれもその粒径が金属粒体よりも小さいことが好ましく、一例としてその粒径の範囲は、0.1〜100μm、好ましくは0.1〜20μmである。
【0034】
前述のように、光触媒作用を有する無機粉体、必要に応じて多孔性の無機粉体を含む粉体状の無機触媒は、前述の金属粒体の少なくとも表面に固定ないし結合されて、両者が一体となってブラスト装置によって噴射されるショット材となる。
【0035】
この金属粒体と粉体状の無機触媒との固定ないし結合は、ブラスト装置による噴射の際に両者が一体化して同時に噴射され、かつ、同時に被処理成品の表面に衝突するものであれば如何なる結合状態であっても良く、このように結合状態が維持されるものであれば、粉末状の無機触媒は金属粒体の表面に付着した状態で結合したものであっても良く、またはその一部又は全部が内部に埋没した状態であっても良い。もっとも、金属粒体により形成された金属被膜中に粉末状の無機触媒が担持されやすくするためには、粉末状の無機触媒は金属粒体の表面ないしは表面付近において結合していることが好ましい。
【0036】
このような金属粒体と粉末状の無機触媒との固定ないし結合は、一例としてボールミルによって行うことができる。
【0037】
このボールミルは、例えば球状のメジア(ボール)が充填された円筒状の攪拌容器を、その軸線を中心として回転することにより、該攪拌容器内にボールと共に投入された物質をボール間の衝突による衝撃と共に攪拌し得るように構成されたものであり、本実施形態にあっては、内径90mmのプラスチック製の円筒状攪拌容器内に、直径10mmのアルミナボール、又は直径5mmのジルコニアボールを投入すると共に前述の金属粒体と粉体状の無機触媒とを投入して、攪拌・押し付け固定して結合させている。
【0038】
ボールミルに対して投入される各材料の混合比は、例えば、粉体状の無機触媒が光触媒作用を有する無機粉体のみから成る場合には、光触媒作用を有する無機粉体1重量部に対して金属粉体1〜100重量部である。
【0039】
粉体状の無機触媒が、前述の光触媒作用を有する無機粉体の他、多孔性の無機粉体を含む場合には、光触媒作用を有する無機粉体1重量部に対して0.1〜5重量部の多孔性の無機粉体(1:0.1〜5)を添加する。
【0040】
なお、前述のボールは、金属粒体と粉体状の無機触媒との混合体1重量部に対して3〜5重量部(1:3〜5)加え、攪拌容器の回転速度を80〜100rpmとして、1〜48時間、好ましくは2〜8時間攪拌する。
【0041】
〔ショットコーティング方法〕
以上のようにして得られたショット材は、既知のブラスト装置によりセラミックスや金属材料又はこれらの混合体から成る被処理成品の表面に噴射され、被処理成品の表面に前述の金属粉体による金属被膜が形成されると共に、この金属被膜によって前述の光触媒作用を有する無機粉体や、多孔性の無機粉体から成る粉体状の無機触媒が被処理成品の表面に担持される。
【0042】
このブラスト装置によるショット材の噴射は、好ましくは噴射速度80m/sec以上、又は噴射圧力0.3MPa以上で行う。
【0043】
このようなブラスト処理により、金属基材又はセラミックス基材又これらの混合体から成る基材の被処理成品表面に、粉体状の無機触媒と結合した金属粒体から成るショット材を高速の噴射速度で噴射すると、ショット材の被処理成品の表面への衝突前後の速度変化により、エネルギー不変の法則を考慮すると、熱エネルギーが生じる。このエネルギー変換は、ショット材が衝突した変形部分のみで行われるので、前記ショット材及び被処理成品の表面付近に局部的に温度上昇が起こる。
【0044】
また、温度上昇はショット材の衝突前の速度に影響するので、ショット材の噴射を前述のように80m/sec以上、又は0.3MPa以上の高速にて行うと、ショット材及び被処理成品の表面温度を微少粒子の衝突面における瞬間的且つ局部的な上昇をもたらすことができる。この時ショット材が被処理成品の表面で加熱されるために、ショット材の核を成す金属粒体が軟化変形し、被処理成品の表面に融着する。
【0045】
これにより、強度が高く、しかも被処理成品の表面に強固に付着した被膜が形成されるものと考えられる。また、この金属粉体の表面に付着していた粉体状の無機触媒がこの金属被膜によって被処理成品の表面に担持される。
【0046】
したがって、本発明のショットコーティング方法及びショットコーティング成形物は、従来の光触媒コーティング(ゾル・ゲル法やバインダ法)とは異なり、ブラスト処理により、粉体状の無機触媒と結合した金属粒体から成る特殊なショット材を被処理成品の表面に衝突させたときの、ショット材及び被処理成品の局部的及び極めて短時間の温度上昇により、ショット材の核を成す金属粒体の金属による被膜を形成し、この金属被膜によって前記金属粉体に固定ないし結合されていた粉体状の無機触媒が被処理成品の表面に担持される。
【0047】
なお、本発明の方法において使用されるショット材は、衝突時の温度上昇を利用して金属粒体を軟化塑性変形し、被処理成品の表面に融着させて金属被膜を形成すると共に、金属粉体と固定ないし結合されていた粉体状の無機触媒をこの金属被膜を介して被処理成品の表面に担持させることを目的とするものであるため、ショット材中の金属粉体が前記熱エネルギーで瞬時に加熱されるためにはショット材に対して十分な運動エネルギーが与えられる必要がある。
【0048】
前述の発明が解決しようとする課題の欄においても記載したように、大きすぎるショット材は重量が増大し、高圧の噴射流体によっても十分な運動エネルギーが与えられず、被処理成品の表面に衝突しても溶融して被膜を形成する程に加熱されない。その一方で、小さすぎるショット材は軽量であり高圧の噴射流体により高い運動エネルギーが与えられるものの、その軽量であるが故に他のショット材との衝突あるいは噴射媒体としての高圧噴射流体の流れにより被処理成品に対して衝突できない。
【0049】
このように、被処理成品の表面に被膜を形成するに十分な運動エネルギーをショット材に与えると共に、被処理成品の表面に対する衝突を得るに好適なショット材とすべく、ショット材の粒径は、10〜300μm、好ましくは30〜200μmである。
【0050】
〔試験例〕
1.ショット材の製造試験
【0051】
(実施例1)
ショット材の核を成す金属粒体として、200〜350メッシュ(40〜75μm)の錫粒体を用い、この錫粒体と固定ないし結合される粉体状の無機触媒として、酸化チタン粉体(石原産業製ST−01;粒径0.1〜2μm)を使用した。両者の配合比は、錫粒体:酸化チタン粉体を重量比で20:1とした。
【0052】
以上の配合比で混合することにより得られた混合物100gを、直径5mmのジルコニアボール500gと共に内径90mmのプラスチック製の円筒状攪拌容器内に投入して、毎分86回転で2時間攪拌するボールミル処理を行った。
【0053】
(実施例2)
錫粒体と酸化チタン粉体の配合比を10:1とした点を除き、他は前述の実施例1と同様である。
【0054】
(実施例3)
錫粒体と酸化チタン粉体の配合比を5:1とした点を除き、他は前述の実施例1と同様である。
【0055】
(実施例4)
ショット材の核を成す金属粉体として、80〜150メッシュ(100〜200μm)の亜鉛粒体を用い、この亜鉛粒体と固定ないし結合される体状の無機触媒として、酸化チタン粉体(石原産業製ST−01;0.1〜2μm)を使用した。両粉体の配合比は、亜鉛粉体:酸化チタン粉体を重量比で20:1とした。
【0056】
以上の配合比で得られた混合物に対し、実施例1と同一条件でボールミル処理を行った。
【0057】
(実施例5)
亜鉛粒体と酸化チタン粉体の配合比を10:1とした点を除き、他は前述の実施例4と同様である。
【0058】
(実施例6)
亜鉛粒体と酸化チタン粉体の配合比を5:1とした点を除き、他は前述の実施例4と同様である。
【0059】
(実施例7)
ショット材の核を成す金属粒体として、200〜350メッシュ(40〜75μm)の錫粉体を用い、この錫粉体と固定ないし結合させる粉体状の無機触媒として、光触媒作用を有する無機粉体である酸化チタン粉体(石原産業製ST−01;0.1〜2μm)と、多孔性の無機粉体であるゼオライト粉体(板谷産ゼオライトSGW;0.1〜100μm)を使用した。これら三種の配合比は、錫粒体:酸化チタン粉体:ゼオライト粉体を重量比で39:2:1とした。
【0060】
以上の配合比で得られた混合物に対し、実施例1と同一条件でボールミル処理を行った。
【0061】
(実施例8)
錫粒体、酸化チタン粉体及びゼオライト粉体の配合比を38:2:2とした点を除き、他は前述の実施例7と同様である。
【0062】
(実施例9)
錫粒体、酸化チタン粉体及びゼオライト粉体の配合比を36:2:4とした点を除き、他は前述の実施例7と同様である。
【0063】
(実施例10)
ショット材の核を成す金属粉体として、80〜150メッシュ(100〜200μm)の亜鉛粉体を用い、この亜鉛粉体と固定ないし結合される粉体状の触媒として、光触媒作用を有する無機粉体である酸化チタン粉体(石原産業製ST−01;0.1〜2μm)と、多孔性の無機粉体であるゼオライト粉体(板谷産ゼオライトSGW;0.1〜100μm)を使用した。これら三種の配合比は、亜鉛粒体:酸化チタン粉体:ゼオライト粉体を重量比で39:2:1とした。
【0064】
以上の配合比で得られた混合物に対し、実施例1と同一条件でボールミル処理を行った。
【0065】
(実施例11)
亜鉛粒体、酸化チタン粉体及びゼオライト粉体の配合比を38:2:2とした点を除き、他は前述の実施例10と同様である。
【0066】
(実施例12)
亜鉛粒体、酸化チタン粉体及びゼオライト粉体の配合比を36:2:4とした点を除き、他は前述の実施例10と同様である。
【0067】
(比較例1)
ショット材の核を成す金属粒体と、酸化チタン粉体を重量比で100:1の割合で配合し、他の条件を前述の実施例1と同一として酸化チタンの含有量が0.99wt%のショット材を得た。
【0068】
(比較例2)
200〜350メッシュ(40〜75μm)の錫粒体と、酸化チタン粉体(石原産業製ST−01;0.1〜2μm)を、重量比で10:1となるように混合した(ボールミル処理は行わない)。
【0069】
ボールミル処理により、実施例1〜12及び比較例1にあっては、それぞれショット材の核となる金属粉体の表面に、前述の粉体状の無機触媒として使用した酸化チタン粉体、又はこの酸化チタン粉体と共にゼオライト粉体がボールとの衝突の際の衝撃により押圧されて強固に付着しており、両者が一体に固定ないし結合したショット材が得られた。このように、ボールミルを使用することにより、金属粉体の表面に粉体状の触媒が付着したショット材を容易に製造することができた。
【0070】
〔ショットコーティング試験〕
以上の実施例1〜12及び比較例1において得られたショット材、及び比較例2により得られた錫粒体と酸化チタン粉体との混合体を、それぞれエアー式のブラスト装置により噴射圧力0.4MPaで被処理成品である無釉外装タイルの表面に噴射してショットコーティングを行い、ショットコーティング成形品を得た。その結果を表1に示す。
【0071】
【表1】



以上のように、上記実施例1〜12のいずれにより得られたいずれのショット材によってショットコーティングを行った場合においても、粉体状の無機触媒が担持された良好な状態の被膜が被処理成品の表面に形成されていることが確認できた。
【0072】
比較例2に示すように、金属粒体と粉体状の触媒とを単に混合しただけの混合物をブラスト装置により噴射する場合、噴射圧力等の噴射条件を金属粒体に適したものとして設定すると、金属粒体に対して粒径が小さく、従って軽量である粉体状の無機触媒は、被処理成品表面において噴射流体(圧縮空気)の流れに乗って被処理成品と衝突することがない。そのため、このような混合体によりショットコーティングを行う場合には、被加工物の表面に形成される被膜は斑状となる。
【0073】
しかし、本発明のショット材を使用する場合には、ボールミル処理により金属粒体の表面に粉体状の無機触媒が付着して形成されているものであるために、粉体状の無機触媒は、金属粒体と共に被処理成品の表面に衝突するので、被処理成品へ確実に衝突し組織が均一で斑等の生じない良好な被膜を形成することができた。
【0074】
〔NOx除去試験〕
前述の実施例1〜6及び比較例1記載のショット材を使用して得られたショットコーティング成形物(いずれも被処理成品は無釉外装タイル)を使用して、窒素酸化物(NOx)の除去試験を行った結果を表2に示す。
【0075】
本試験例では、幅75mmのアクリル製反応容器に、上記実施例1〜6及び比較例1のショット材を使用してショットコーティングされた無釉外装タイル及び比較例2の混合粉体を使用してショットコーティングされた無釉外装タイル(いずも幅75mm、長さ60mm)を試験片として入れ、上部をガラス板で蓋をし、ガラス板と試験片の間隙を5mmとした。相対湿度50%に調整したNOガス濃度1ppmの模擬汚染空気を0.5L/分で流し、ブラックライトブルーランプあるいは白色蛍光灯を用いて、365nmの紫外線強度がブラックライトブルーランプにあっては1mW/cm、白色蛍光灯にあっては30μW/cmとなるように紫外線を照射し、反応容器出口の窒素酸化物濃度を経時的に測定することによりNOx除去率を求めた。なお、表2は、30分間照射後の結果である。
【0076】
【表2】



以上のように、本発明のショット材を使用して得られたコーティング成形物には、高い光触媒性能があることが確認できた。
【0077】
なお、光触媒作用を有する無機触媒の含有量が1wt%未満であるショット材を使用して得られたショットコーティング成形物にあっては、比較例1に示すように酸化チタンが殆ど付着しておらず、光触媒によるNOxの除去効果は殆ど得られなかった。従って、本発明のショットコーティング方法に使用するショット材は、光触媒作用を有する無機粉末の含有量が1wt%以上であるものを使用することが好ましい。
【0078】
〔アンモニア除去試験〕
前述の実施例1及び実施例7〜9のショット材を使用して得られたコーティング成形物(いずれも被処理成品は無釉外装タイル)を使用して、アンモニア除去試験を行った結果を表2に示す。
【0079】
本例にあっては、内容積6Lのポリカーボネート製反応容器に試験体及びろ紙を入れ、ろ紙上に試薬特級アンモニア水の5倍希釈水溶液50μLを滴下し、直ちに密閉した。1時間経過後、検知管により容器内ガス濃度を測定し、アンモニア吸着性能を評価した。結果を表3に示す。
【0080】
【表3】



以上のように、本発明のショット材を使用してショットコーティングすることにより得られたショットコーティング成形品は、光触媒作用を有するだけでなく、有害ガスや悪臭等の吸着作用をも有することが確認できた。
【0081】
【発明の効果】
以上説明した本発明の構成により、形成された被膜の強度が高く、かつ、被処理成品に対する付着強度が高いだけでなく、斑等の生じていない組織が均一な光触媒コーティングをブラスト法という比較的簡易な方法により形成することができるショット材を提供することができた。
【0082】
従って、このショット材を使用したショットコーティングにより比較的容易に空気中の有害物質の分解や浄化、防汚効果等の光触媒作用を発揮するショットコーティング成形品を得ることができた。
【0083】
また、粉末状の無機触媒として、光触媒作用を有する無機粉末の他、多孔性の無機粉末を含有するショット材にあっては、このショット材を使用して得られたショットコーティング成形物に、光触媒作用による分解・浄化作用の他、有害ガス、悪臭の吸着による除去、除湿等の効果を付与することができた。
【0084】
さらに、ボールミルを使用して形成された本発明のショット材にあっては、ショットの核を成す金属粒体と、光触媒作用を有する無機粉末、多孔性の無機粉末等の無機触媒を比較的容易に固定ないし結合させることができ、また、前述の光触媒作用を有する無機粉末の含有量が1wt%以上であるショット材にあっては、このショット材を使用して形成されたショットコーティング成形品に、良好な光触媒作用を発揮させるに必要な量の光触媒を担持させることができた。
【0085】
加えて、平均粒径を10〜300μm、好ましくは30〜200μmとしたショット材は、被膜を形成するに必要な運動エネルギーが、高圧噴射流体例えば噴射速度80m/sec以上又は噴射圧力0.3MPa以上の高圧噴射流体により付与されると共に、この噴射条件において被処理成品に対する確実な衝突を確保し得る光触媒コーティングを好適に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材又はセラミックス基材又はこれらの混合体から成る被処理成品の表面に、光触媒作用を有する無機粉体を少なくとも含む粉体状の無機触媒を金属粒体の少なくとも表面に固定ないし結合させて成るショット材を噴射して、前記被処理成品の表面に、前記粉体状の無機触媒を担持させると共に、前記金属粒体による金属被膜を形成することを特徴とするショットコーティング方法。
【請求項2】
金属基材、セラミックス基材又はこれらの混合体から成る被処理成品の表面にショット材を噴射して、前記被処理成品の表面に前記ショット材を構成する物質から成る被膜形成に用いられるショット材であって、
前記ショット材は、光触媒作用を有する無機粉体を少なくとも含む粉体状の無機触媒を金属粒体の少なくとも表面に固定ないし結合させて成ることを特徴とするショットコーティング用ショット材。
【請求項3】
金属粒体と光触媒作用を有する無機粉体を少なくとも含む粉体状の無機触媒とを共にボールミル内において攪拌して粉体状の無機触媒を金属粒体の少なくとも表面に固定ないし結合させて成ることを特徴とするショットコーティング用ショット材の製造方法。
【請求項4】
金属基材又はセラミックス基材又はこれらの混合体から成る被処理成品の表面に、光触媒作用を有する無機粉体を少なくとも含む粉体状の無機触媒を金属粒体の少なくとも表面に固定ないし結合させて成るショット材を噴射することにより前記粉体状の無機触媒を担持すると共に、前記金属粒体による金属被膜を形成して成るショットコーティング成形物。
【請求項5】
前記粉体状の無機触媒が、多孔性の無機粉体を含むことを特徴とする請求項1記載のショットコーティング方法、請求項2記載のショットコーティング用ショット材、請求項3記載のショットコーティング用ショット材の製造方法又は請求項4記載のショットコーティング成形物。
【請求項6】
前記光触媒作用を有する無機粉体を1wt%以上含有することを特徴とする請求項1記載のショットコーティング方法、請求項2記載のショットコーティング用ショット材、請求項3記載のショットコーティング用ショット材の製造方法又は請求項4記載のショットコーティング成形物。
【請求項7】
前記ショット材の平均粒径が10〜300μm、好ましくは30〜200μmであることを特徴とする請求項1記載のショットコーティング方法又は請求項4記載のショットコーティング成形物。
【請求項8】
前記ショット材を、噴射速度80m/sec以上、又は噴射圧力0.3MPa以上で噴射することを特徴とする請求項1記載のショットコーティング方法又は請求項4記載のショットコーティング成形物。

【公開番号】特開2004−256379(P2004−256379A)
【公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−52010(P2003−52010)
【出願日】平成15年2月27日(2003.2.27)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【復代理人】
【識別番号】100081695
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 正明
【出願人】(000154082)株式会社不二機販 (25)
【Fターム(参考)】