説明

ショベル及びその制御方法

【課題】別個に加熱装置を用いることなく効率的に且つ迅速にバッテリを暖めることができるハイブリッド式建設機械の暖機方法を提供することを課題とする。
【解決手段】バッテリ19の温度が予め設定された温度より低いときにエンジン11を作動させて暖機運転を行なう。同時に、アシストモータ12を作動させてバッテリ19を充放電させることにより、バッテリ19の内部発熱を利用してバッテリ19の温度を上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建設機械の暖機方法に係り、特に蓄電器からの電力により電動発電機を駆動してエンジンをアシストするハイブリッド式建設機械の暖機方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械は油圧駆動のものが多い。油圧駆動式建設機械の一例として、例えば油圧ショベルがある。油圧ショベルでは、一般的に、ショベルの駆動、上部旋回体の旋回、及び下部走行体の走行を、油圧アクチュエータ(油圧シリンダ、油圧モータ)を用いて行っている。油圧アクチュエータに供給する油圧は、エンジンを駆動源とする油圧ポンプにより発生することが多い。この場合、油圧アクチュエータの出力はエンジンの出力によって決まる。
【0003】
油圧ショベルの作業は、エンジンの能力に対して常に100%の能力を必要とする作業ばかりではなく、例えば、90%、80%の能力を出せば済むような作業が多い。そこで、油圧ショベルの動作モードを作業負荷によって変えることにより、異なる作業負荷の各々において最適なエンジン出力制御を行ない、エンジンを効率的に駆動して燃費を向上することが行なわれている。
【0004】
例えば、エンジンの最大出力に相当する負荷作業を行う「高負荷モード」と、通常の負荷作業を行う「通常負荷モード」と、軽負荷作業を行う「低負荷モード」というように異なる作業モードを設定可能にする。そして、各作業モードにおいて、油圧アクチュエータを駆動するために油圧ポンプが必要とする駆動トルクがエンジンの出力トルクに等しくなるように等馬力制御を行い、エンジンの出力を有効に活用して燃費の向上を図る。
【0005】
一般的に、油圧ショベルには、「高負荷モード」における出力に等しい最大出力を有するエンジンが搭載される。しかし、「高負荷モード」での運転は「通常負荷モード」での運転よりはるかに少ない。このため、油圧ショベルを「通常負荷モード」で運転しているときには、エンジンの出力には余裕がある。言い換えれば、「通常負荷モード」での運転に対して余分な出力を有する大きなエンジンが搭載されていることとなる。
【0006】
近年、上述の油圧ショベルを含む油圧駆動式建設機械においてエンジンを小型化して燃料消費量を低減させるという要望がある。単純にエンジンを小型化すれば、「高負荷モード」での運転時に十分な油圧出力を得ることができない。そこで、エンジンと、エンジンにより駆動する発電機と、発電機により充電されるバッテリと、バッテリの電力により駆動する電動機とを備えたいわゆるハイブリッド式建設機械が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−103112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ハイブリッド式建設機械が行う作業は主に屋外で行う作業であり、ハイブリッド式建設機械は様々な環境下で運転される。例えば、寒冷地においてハイブリッド式建設機械を運転する際には、始動時にエンジンが冷えているのでエンジンがある程度暖まるまで暖機運転が行われる。
【0009】
ハイブリッド式建設機械では、作業用の動力(すなわち油圧ポンプを駆動する動力)をエンジンから得るだけでなく、アシストモータ(電動機)からも得ている。アシストモータは蓄電器(バッテリ)からの電力で駆動される。ここで、エンジンの暖機運転が必要であるような低温環境においては、蓄電器の内部抵抗が大きくなり、低温状態では放電電流が低下して蓄電器から十分な電力を得ることができないおそれがある。
【0010】
また、低温環境において蓄電器を充電する際、蓄電器の内部抵抗が大きいために、十分な充電電流を蓄電器に供給しようとすると充電電圧を非常に高くしなければならないという事態が生じる。例えば蓄電器としてキャパシタを用いた場合、充電電流を小さくして損失を少なくするために、通常の温度において一般的に充電電圧が200V以上の高電圧になるように制御している。ところが、低温環境において内部抵抗が非常に大きくなった蓄電器に十分な充電電流を供給しようとすると、内部抵抗が大きいために充電電圧が最大値を超えて過大となり、制御不能となるおそれがある。
【0011】
以上のような問題が生じるおそれがあるため、ハイブリッド式建設機械を低温環境において運転するために暖機運転する際には、エンジンの暖機運転を行うだけでなく蓄電器も暖めて内部抵抗を下げておくことが好ましい。すなわち、エンジンの暖機運転が必要であるような低温環境においてハイブリッド式建設機械を運転するには、蓄電器の暖機運転も行って蓄電器を予め暖めておくことが好ましいが、蓄電器を温めるために特別な加熱装置を設けると、余分なコストがかかり、実用的ではない。
【0012】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、別個に加熱装置を用いることなく効率的に且つ迅速に蓄電器を暖めることができるハイブリッド式建設機械の暖機方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、ハイブリッド式建設機械の暖機方法であって、蓄電器の温度が予め設定された温度より低いときにエンジンを作動させて暖機運転を行なうと共に、電動発電機を作動させて前記蓄電器を充放電させることにより、前記蓄電器を発熱させることを特徴とするハイブリッド式建設機械の暖機方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蓄電器の温度が低いときに蓄電器を強制的に充放電させることで、内部発熱により蓄電器を暖めることができる。このため、別個に加熱装置を用いることなく効率的に且つ迅速に蓄電器を暖めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ハイブリッド式油圧ショベルの側面図である。
【図2】図1に示すハイブリッド式油圧ショベルの駆動系の構成を表すブロック図である。
【図3】蓄電系の構成を示すブロック図である。
【図4】図1に示すハイブリッド式油圧ショベルの動力系をモデル化して示す図である。
【図5】バッテリ暖機処理のフローチャートである。
【図6】バッテリ暖機処理が行なわれている際のバッテリの充電率とバッテリに流れる電流の変化とを示すグラフである。
【図7】バッテリ暖機処理を10分間行なった際のバッテリの充電率の変化及び温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による暖機方法は、ハイブリッド式建設機械に設けられたバッテリ等の蓄電器を暖めるために行なわれる。ハイブリッド式建設機械としては、バッテリからの電力により駆動するアシストモータでエンジンをアシストしながら油圧ポンプを駆動し、油圧ポンプで発生した油圧で作業を行なう油圧式建設機械であればどのような建設機械であってもよい。そのようなハイブリッド式建設機械として、例えば、パワーショベル、リフティングマグネット、クレーン、ホイルローダなどが挙げられる。
【0017】
まず、本発明が適用されるハイブリッド式建設機械の一例としてハイブリッド式油圧ショベルについて説明する。
【0018】
図1はハイブリッド式油圧ショベルの側面図である。ハイブリッド式油圧ショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3からブーム4が延在し、ブーム4の先端にアーム5が接続される。さらに、アーム5の先端にバケット6が接続される。ブーム4、アーム5及びバケット6は、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。また、上部旋回体3には、キャビン10及び動力源(図示せず)が搭載される。
【0019】
図2は、図1に示すハイブリッド式油圧ショベルの駆動系の構成を表すブロック図である。図2において、機械的動力系は二重線、高圧油圧ラインは実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御系は一点鎖線でそれぞれ示されている。
【0020】
機械式駆動部としてのエンジン11と、アシスト駆動部としての電動発電機12は、ともに増力機としての減速機13の入力軸に接続されている。減速機13の出力軸には、メインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されている。メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。ここで、減速機を用いず、エンジン11と電動発電機12とを直接接続するようにしてもよい。
【0021】
コントロールバルブ17は、油圧系の制御を行う制御装置である。コントロールバルブ17には、下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9が高圧油圧ラインを介して接続される。
【0022】
電動発電機12には、インバータ18を介して蓄電器を含む蓄電系120が接続されている。蓄電系120には、インバータ20を介して旋回用電動機21が接続されている。旋回用電動機21はハイブリッド式油圧ショベルにおける電気負荷である。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回減速機24が接続される。パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続される。操作装置26には、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及びレバー操作検出部としての圧力センサ29がそれぞれ接続される。圧力センサ29は、電気系の駆動制御を行うコントローラ30に接続されている。
【0023】
以上の構成を有するハイブリッド式油圧ショベルは、エンジン11、電動発電機12、及び旋回用電動機21を動力源とするハイブリッド式建設機械である。これらの動力源は、図1に示す上部旋回体3に搭載される。以下、各部について説明する。
【0024】
エンジン11は、例えば、ディーゼルエンジンで構成される内燃機関であり、その出力軸は減速機13の一方の入力軸に接続される。エンジン11は、建設機械の運転中は常時運転される。
【0025】
電動発電機12は、力行運転及び発電運転の双方が可能な電動機であればよい。ここでは、電動発電機12として、インバータ18によって駆動される電動発電機を示す。この電動発電機12は、例えば、磁石がロータ内部に埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnetic)モータで構成することができる。電動発電機12の回転軸は減速機13の他方の入力軸に接続される。なお、本実施形態では力行運転及び発電運転の双方が可能な電動発電機12を用いているが、力行運転を行なう電動機と発電運転を行なう発電機とを減速機を介してエンジン11に接続することとしてもよい。
【0026】
減速機13は、2つの入力軸と1つの出力軸を有する。2つの入力軸には、エンジン11の駆動軸と電動発電機12の駆動軸がそれぞれ接続される。また、出力軸にはメインポンプ14の駆動軸が接続される。電動発電機12の力行運転と発電運転の切り替えは、コントローラ30により、エンジン11の負荷等に応じて行われる。
【0027】
メインポンプ14は、コントロールバルブ17に供給するための油圧を発生する油圧ポンプである。メインポンプ14で発生した油圧は、コントロールバルブ17を介して油圧負荷である油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9の各々を駆動するために供給される。パイロットポンプ15は、油圧操作系に必要なパイロット圧を発生するポンプである。
【0028】
コントロールバルブ17は、高圧油圧ラインを介して接続される下部走行体1用の油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9の各々に供給する油圧を運転者の操作入力に応じて制御することにより、これらを油圧駆動制御する油圧制御装置である。
【0029】
インバータ18は、上述の如く電動発電機12と蓄電系120との間に設けられ、コントローラ30からの指令に基づき、電動発電機12の運転制御を行う。これにより、インバータ18が電動発電機12の力行を運転制御している際には、必要な電力を蓄電系120から電動発電機12に供給する。また、電動発電機12の発電運転を制御している際には、電動発電機12により発電された電力を蓄電系120に供給する。
【0030】
蓄電器を含む蓄電系120は、インバータ18とインバータ20との間に配設されている。これにより、電動発電機12と旋回用電動機21の少なくともどちらか一方が力行運転を行っている際には、力行運転に必要な電力を供給するとともに、また、少なくともどちらか一方が発電運転又は回生運転を行っている際には、発電運転又は回生運転によって発生した電力を電気エネルギとして蓄積するための電源である。
【0031】
図3は蓄電系120のブロック図である。蓄電系120は、変動電圧蓄電部としてバッテリ19を有している。本実施形態ではバッテリ19としてキャパシタ(電気二重層コンデンサ)を用いることとするが、キャパシタに限定されず、繰り返し充放電可能な電池であればどのような電池であってもよい。バッテリ19は、昇降圧用コンバータ58を介して一定電圧蓄電部である直流母線110に接続されている。インバータ18,20は直流母線11に接続される。
【0032】
インバータ20は、上述の如く旋回用電動機21とバッテリ19との間に設けられ、コントローラ30からの指令に基づき、旋回用電動機21に対して運転制御を行う。これにより、旋回用電動機21が力行運転している際には、必要な電力が蓄電系120から旋回用電動機21に供給される。また、旋回用電動機21が回生運転をしている際には、旋回用電動機21により発電された電力が蓄電系120に供給されてバッテリ19が充電される。ここで、図2では電動機を旋回用電動機21として使用しているが、旋回用以外にも使用することが可能であり、さらに、蓄電系120に複数の電動機を接続して制御することも可能である。
【0033】
旋回用電動機21は、力行運転及び回生運転の双方が可能な電動機であればよく、上部旋回体3の旋回機構2を駆動するために設けられている。力行運転の際には、旋回用電動機21の回転駆動力の回転力が減速機24にて増幅され、上部旋回体3は加減速制御されながら回転運動を行う。また、上部旋回体3の慣性回転により、減速機24にて回転数が増大されて旋回用電動機21に伝達され、回生電力を発生させることができる。ここでは、旋回用電動機21として、PWM(Pulse Width Modulation)制御信号によりインバータ20によって交流駆動される電動機を示す。この旋回用電動機21は、例えば、磁石埋込型のIPMモータで構成することができる。
【0034】
操作装置26は、ハイブリッド式油圧ショベルの運転者が、旋回用電動機21、下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びバケット6を操作するための入力装置であり、レバー26A及び26Bとペダル26Cを含む。レバー26Aは、旋回用電動機21及びアーム5を操作するためのレバーであり、上部旋回体3の運転席近傍に設けられる。レバー26Bは、ブーム4及びバケット6を操作するためのレバーであり、運転席近傍に設けられる。また、ペダル26Cは、下部走行体1を操作するための一対のペダルであり、運転席の足下に設けられる。
【0035】
操作装置26は、パイロットライン25を通じて供給される油圧(1次側の油圧)を運転者の操作量に応じた油圧(2次側の油圧)に変換して出力する。操作装置26から出力される2次側の油圧は、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17に供給されるとともに、圧力センサ29によって検出される。
【0036】
レバー26A及び26Bとペダル26Cの各々が操作されると、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17が駆動され、これにより、油圧モータ1A、1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9内の油圧が制御されることによって、下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びバケット6が駆動される。
【0037】
なお、油圧ライン27は、油圧モータ1A及び1Bを操作するために2本ずつ(すなわち合計4本)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9をそれぞれ操作するために2本ずつ(すなわち合計6本)設けられるため、実際には全部で8本あるが、説明の便宜上、1本にまとめて表す。
【0038】
レバー操作検出部としての圧力センサ29では、レバー26Aの旋回操作による、油圧ライン28内の油圧の変化が圧力センサ29で検出される。圧力センサ29は、油圧ライン28内の油圧を表す電気信号を出力する。この電気信号は、コントローラ30に入力される。これにより、レバー26Aの旋回操作量を的確に把握することができる。また、本実施の形態では、レバー操作検出部として圧力センサを用いたが、レバー26Aの旋回操作量をそのまま電気信号で読み取るセンサを用いてもよい。
【0039】
コントローラ30は、ハイブリッド式油圧ショベルの駆動制御を行う制御装置であり、エンジン制御部32,及び駆動制御装置40を含む。エンジン制御部32はエンジン運転時の目標回転数の設定や、回転数を維持するための燃料噴射量の制御を行なう。
【0040】
駆動制御装置40は圧力センサ29,インバータ18,20及びレゾルバ28等からの信号に基づいて旋回用電動機21、電動発電機12及びメインポンプ14の出力制御を行なう。
【0041】
次に、上述のハイブリッド式油圧ショベルの駆動制御について説明する。
【0042】
図4は上述のハイブリッド式油圧ショベルの動力系をモデル化して示す図である。図4のモデル図において、油圧負荷54は油圧により駆動される構成部品に相当し、上述のブームシリンダ7、アームシリンダ8、パケットシリンダ9、油圧モータ1A,1Bを含む。油圧負荷54には、油圧ポンプであるメインポンプ14で発生した油圧が供給される。エンジン11は油圧ポンプであるメインポンプ14に動力を供給して駆動する。すなわち、エンジン11が発生した動力はメインポンプ14により油圧に変換されて油圧負荷54に供給される。
【0043】
電気負荷56は電動モータや電動アクチュエータ等のように電力で駆動される構成部品に相当し、上述の旋回用電動機21を含む。電気負荷56にはバッテリ19からコンバータ58を介して電力が供給され駆動される。電気負荷56が駆動されている場合を力行運転と称する。電気負荷56は、例えば電動機兼発電機のように回生電力を発生することができるもので、発生した回生電力は蓄電系120の直流母線110に供給され、コンバータ58を介してバッテリ19に蓄積されるか、あるいはインバータ120を介してアシストモータ12に供給されてアシストモータ12を駆動する電力となる。
【0044】
蓄電系120のバッテリ19は、上述のように電気負荷56からの回生電力により充電される。また、アシストモータ12がエンジン11からの動力を受けて発電機として機能した場合、アシストモータ12が発生した電力を蓄電系120のバッテリ19に供給して充電することもできる。本実施形態ではバッテリ19としてキャパシタ(電気二重層コンデンサ)を用いることとする。
【0045】
以上のような構成のハイブリッド式油圧ショベルを、寒冷地において例えば−30℃の低温環境で運転する際には、通常の運転を行なう前に暖機運転を行なう必要がある。エンジン11の暖機運転は、エンジン11を無負荷状態で所定の時間運転することが一般的である。暖機運転時には、早く暖まるようにエンジン11の回転数を通常より高く設定する。すなわち、エンジン11を始動してから暖機運転をしている間は、暖機後の通常の回転数より高い回転数でエンジン11を運転し、エンジン11の温度が通常運転の温度に迅速に上昇するように制御する。
【0046】
エンジン11の暖機運転が終了したら、エンジン11によりメインポンプ14を駆動して油圧駆動系の暖機運転が行なわれる。油圧駆動系の暖機運転が終了したら、通常の作業モードに移行することができる。しかし、バッテリ19が冷えた状態であると、バッテリ19の内部抵抗が大きくなっており、コンバータ58は直流母線110の電圧を一定に保つように制御を行なうため、充放電電流が小さくなってしまう。このような状態で通常の作業を行なうと、アシストモータ12によるアシストが不十分となったり、電気負荷56への電力供給が不十分となり、操作者が意図したような作業が行なえなくなるおそれがある。また、バッテリ19を充電する際に、バッテリ19の内部抵抗が高いために充電電圧が過度に大きくなり、制御不能となるおそれもある。
【0047】
そこで、エンジン11の暖機運転及び油圧駆動系の暖機運転を行なうと同時に、バッテリ19の暖機も行なうことが好ましい。本実施形態では、バッテリ19の内部発熱を利用することでバッテリ19の暖機を行なう。すなわち、バッテリ19の温度が低いときに、バッテリ19を強制的に充放電させることにより内部発熱させ、温度を上昇させて内部抵抗の低減を図る。
【0048】
図5は本実施形態によるバッテリ暖機処理のフローチャートである。図5に示すバッテリ暖機処理は、ハイブリッド式油圧ショベルの運転を開始する際に実行される。
【0049】
まず、ステップS1において、バッテリ19を構成するキャパシタの温度が暖機設定値Tw以上であるか、暖機設定値Twより低いかが判定される。
【0050】
暖機設定値Twは、キャパシタの内部抵抗に基づいて予め設定される温度であり、実用上差し支えのないような充放電電流とすることができるような温度である。バッテリ19を構成するキャパシタは、暖機後の通常の運転において充放電を繰り返すと温度上昇するものであるから、バッテリ19の暖機運転が終了した時点において、バッテリ19(キャパシタ)は完全に暖まっている必要はなく、実用上差し支えのない程度(運転操作に支障をきたさない程度)まで暖まっていればよい。
【0051】
なお、上述のように、バッテリ19を構成するキャパシタは、暖機後の通常の運転において充放電を繰り返すと温度上昇するため、通常の運転時には温度上昇を抑制するために冷却する必要がある。バッテリ19の冷却システムが設けられている場合は、バッテリ19の暖機時には冷却システムが作動しないように停止しておくことが好ましい。
【0052】
ステップS1で用いるバッテリ19の温度としては実測値を用いる。バッテリ19を構成するキャパシタは、通常、多数のキャパシタが3次元マトリックス状に整列して配置されたキャパシタユニットである。したがって、キャパシタユニットは温度分布を有しているため、キャパシタユニットの中の例えば4個のキャパシタにサーミスタ等の温度センサを取り付けて温度を検出し、4箇所の温度の平均をとってキャパシタユニットの温度とする。キャパシタユニットの内部(中央部分)に位置するキャパシタの温度は、キャパシタユニットの外側部分に位置するキャパシタの温度より高くなるので、これらの平均の温度がとれるように、温度センサを取り付けるキャパシタを適宜選定すればよい。あるいは、キャパシタユニットの所定の位置における温度と、キャパシタユニットの平均温度との関係を予め調べておき、所定の位置における温度を検出して平均温度に換算してもよい。所定の位置として、例えばキャパシタユニットの外面の中央部分や、キャパシタユニットの電極端子などを選定してもよい。
【0053】
ステップS1において、バッテリ19の温度が暖機設定値Twより低いと判定されたら、処理はステップS2に進む。ステップS2では、バッテリ19の現在の目標充電率(目標SOC)が高SOCに設定されているか、低SOCに設定されているかが判定される。
【0054】
高SOCとは、通常の運転においてバッテリ19が十分放電可能であり充電も可能であるように設定される目標充電率である。一方、低SOCとは、通常の運転において設定される目標充電率(高SOC)よりも低い充電率である。
【0055】
ステップS2において、現在の目標充電率が高SOCに設定されていると判定されると、処理はステップS3に進む。ステップS3では、現在の目標充電率を低SOCに設定する。すなわち、ステップS3において、現在の目標充電率を高SOCから低SOCに切り換える。
【0056】
一方、ステップS2において、現在の目標充電率が低SOCに設定されていると判定されると、処理はステップS4に進む。ステップS4では、現在の目標充電率を高SOCに設定する。すなわち、ステップS4において、現在の目標充電率を低SOCから高SOCに切り換える。
【0057】
ステップS3又はステップS4の処理が終了すると、処理はステップS5に進む。ステップS5において、予め設定された時間(例えば10秒間)だけ待機し、その後処理はステップS1に戻る。
【0058】
ここで、ステップS1〜S5の処理について更に詳しく説明する。ステップS1においてバッテリ19の温度が暖機設定値Twより低いと判定されたときは、バッテリ19の温度が低く(低温での始動時)、暖機が必要であることを意味する。そして、ステップS2においてバッテリ19の現在の目標充電率(目標SOC)が高SOCに設定されていると判定されたときは、ステップS3において目標充電率が高SOCから低SOCに変更される。バッテリ19の現在の充電率は現在の目標充電率(すなわち高SOC)に近い値になっているはずであるから、目標充電率が低SOCに変更されると、現在の充電率は目標充電率(低SOC)より高くなり、バッテリ19が放電するように制御が行なわれる。
【0059】
バッテリ19を放電させるには、アシストモータ12を駆動するか、電気負荷56を駆動すればよい。本実施形態ではバッテリ19からの放電電流でアシストモータ12を駆動することとする。このように、ステップS1からステップS2を経てステップS3に進んだ場合、バッテリ19から放電してアシストモータ12が駆動され、ステップS5においてその状態が予め設定された時間(例えば、10秒間)維持される。すなわち、バッテリ19からの放電が10秒間行なわれる。
【0060】
その後、処理はステップS1に戻り、そしてステップS2に進むと、今度は、バッテリ19の現在の目標充電率(目標SOC)は低SOCに設定されていると判定される。したがって、処理はステップS4に進み、現在の目標充電率が低SOCから高SOCに変更される。バッテリ19の現在の充電率は現在の目標充電率(すなわち低SOC)に近い値になっているはずであるから、目標充電率が高SOCに変更されると、現在の充電率は目標充電率(高SOC)より低くなり、バッテリ19を充電するように制御が行なわれる。
【0061】
バッテリ19を充電するには、アシストモータ12をエンジン11の駆動により発電させるか、電気負荷56が回生運転を行なえばよい。本実施形態ではアシストモータ12を発電機として機能させて発電することでバッテリ19に充電電流を供給することとする。このように、ステップS1からステップS2を経てステップS4に進んだ場合、アシストモータ12が発電してバッテリ19が充電され、ステップS5においてその状態が予め設定された時間(例えば、10秒間)維持される。すなわち、バッテリ19への充電が10秒間行なわれる。
【0062】
以上の処理を繰り返すことで、バッテリ19の放電と充電が10秒間ずつ繰り返される。図6はバッテリ暖機処理が行なわれている際のバッテリ19の充電率とバッテリ19に流れる電流の変化とを示すグラフである。図6において、目標充電率(実線で示す目標SOC)が10秒ごとに高SOCと低SOCに交互に切り換えられ、それに伴いバッテリ19の現在の充電率(点線で示す実SOC)が増減することがわかる。そして、バッテリ19に流れる電流が10秒ごとに充電電流と放電電流となることがわかる。
【0063】
図7は上述のステップS1〜S5の処理を10分間繰り返した際の充電率の変化及びバッテリ19の温度変化を示すグラフである。実線で示す目標充電率(目標SOC)と点線で示す現在の充電率(実SOC)とが図6に示すように繰り返し変化すると、バッテリ19の温度は徐々に上昇していくことがわかる。バッテリ19が充放電を繰り返すことで充放電電流がキャパシタ19に流れて内部発熱し、これによりバッテリ19の温度が上昇するのである。
【0064】
バッテリ19の暖機が行なわれるときは、エンジン11も冷えているので暖機運転される。エンジン11の暖機運転時間は通常10分程度であり、この間にバッテリ19の温度も十分上昇して暖機が終了し、通常に近い運転を行なうことができるようになる。
【0065】
なお、低温環境でないときは、始動時にバッテリ暖機制御が開始されると、ステップS1においてバッテリの温度が暖機設定値Tw以上であると判定され、処理はステップS4に進む。このとき、目標充電率は通常の設定である高SOCに設定されているので、ステップS4では通常の設定である高SOCの設定が維持される。すなわち、低温環境での始動ではなく、直ちに通常の運転を開始することができる場合は、目標充電率を低SOCに変更してバッテリ19を暖機する処理は行なわれず、最初から通常の高SOCに設定されて運転が行なわれる。
【0066】
以上のように、本実施形態による暖機方法では、バッテリ19の温度が予め設定された温度より低いときにエンジン11を作動させて暖機運転を行なうと共に、アシストモータ12を作動させてバッテリ19を充放電させることにより、バッテリ19を発熱させて暖機する。したがって、バッテリ19の温度が低いときにバッテリ19を強制的に充放電させることで、内部発熱によりバッテリ19を暖めることができる。このため、ヒータ等の加熱装置を用いることなく効率的に且つ迅速にバッテリ19を暖めて内部抵抗を低減し、通常の運転ができるような温度にすることができる。
【0067】
バッテリ19の暖機時に放電させる際は、放電でアシストモータ12を運転して動力をエンジン11に戻すため、放電エネルギを無駄に消費することはない。また、バッテリ19の内部発熱を利用してバッテリ19を内部から暖めるので、内部抵抗を効率的に上昇させることができるという効果もある。
【0068】
本実施形態によるバッテリ暖機処理では、目標充電率を変化さることでバッテリの充放電を繰り返し行なわせるだけであり、暖機専用の運転制御を行なうわけではないので、バッテリ暖機処理中に通常の運転操作が行なわれた場合でも、その運転操作に基づいた運転を直ちに行なうことができる。
【0069】
また、バッテリ暖機処理とエンジン暖機処理とを同時行なう場合、暖機処理においてエンジンの回転数を高く設定するので、バッテリの入出力も大きくすることができる。また、暖機処理中にエンジンの回転数を高くするので出力を大きくでき、暖機処理中に通常の運転を行なった場合でも、操作の違和感を抑制することができる。
【0070】
なお、上述の実施形態ではパラレル方式のハイブリッド式建設機械を例にとって説明したが、本発明による暖機方法はいわゆるシリーズ方式のハイブリッド式建設機械に適用することもできる。
【符号の説明】
【0071】
1 下部走行体
1A、1B 走行機構
2 旋回機構
3 上部旋回体
4 ブーム
5 アーム
6 バケット
7 ブームシリンダ
8 アームシリンダ
9 バケットシリンダ
10 キャビン
11 エンジン
12 電動発電機
13 減速機
14 メインポンプ
15 パイロットポンプ
16 高圧油圧ライン
17 コントロールバルブ
18 インバータ
19 バッテリ
20 インバータ
21 旋回用電動機
23 メカニカルブレーキ
24 旋回減速機
25 パイロットライン
26 操作装置
26A、26B レバー
26C ペダル
27 油圧ライン
28 油圧ライン
29 圧力センサ
30 コントローラ
32 エンジン制御部
40 駆動制御装置
54 油圧負荷
56 電気負荷
58 コンバータ
110 直流母線
120 蓄電系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド式建設機械の暖機方法であって、
蓄電器の温度が予め設定された温度より低いときにエンジンを作動させて暖機運転を行なうと共に、電動発電機を作動させて前記蓄電器を充放電させることにより、前記蓄電器を発熱させることを特徴とするハイブリッド式建設機械の暖機方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−52866(P2013−52866A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−234668(P2012−234668)
【出願日】平成24年10月24日(2012.10.24)
【分割の表示】特願2008−306732(P2008−306732)の分割
【原出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】