説明

ショートアーク型キセノンランプ

【課題】波長200〜225nmの紫外線を高い強度で放射することができるショートアーク型キセノンランプを提供する。
【解決手段】発光管と、この発光管内に互いに対向して配置された陽極および陰極とを有し、前記発光管内に5気圧以上のキセノンおよび水銀が封入されてなるショートアーク型キセノンランプにおいて、前記発光管の内容積1cm3 当たりの前記水銀の封入量が0.1〜4.0mg/cm3 であり、当該水銀の封入量をM(mg/cm3 )とし、前記陰極の先端と前記発光管の内表面との最短距離をL(mm)としたとき、0.6<M×L<32を満足することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショートアーク型キセノンランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
波長200〜225nmの紫外線は、いわゆる近紫外線のうち最も高いエネルギーを有し、また、酸素を含む雰囲気中で放射されたときにもオゾンが生成されにくいことから、半導体素子や液晶表示素子等の製造工程において使用される露光処理装置、検査装置等の光源や分光器の光源などの種々の分野において極めて有用な紫外線である。このため、波長200〜225nmの紫外線を高い強度で放射するランプの開発が望まれている。
【0003】
そして、従来、波長250nm以下の紫外線を放射するランプとしては、発光管内にキセノンおび水銀が封入されてなるショートアーク型キセノンランプが知られている(特許文献1。)。
しかしながら、このようなショートアーク型キセノンランプは、波長225〜250nmの紫外線の放射強度が高いものであるが、波長200〜225nmの紫外線の放射強度が十分に高いものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54−86979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、波長200〜225nmの紫外線を高い強度で放射することができるショートアーク型キセノンランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のショートアーク型キセノンランプは、発光管と、この発光管内に互いに対向して配置された陽極および陰極とを有し、前記発光管内に5気圧以上のキセノンおよび水銀が封入されてなるショートアーク型キセノンランプにおいて、
前記発光管の内容積1cm3 当たりの前記水銀の封入量が0.1〜4.0mg/cm3 であり、当該水銀の封入量をM(mg/cm3 )とし、前記陰極の先端と前記発光管の内表面との最短距離をL(mm)としたとき、0.6<M×L<32を満足することを特徴とする。
【0007】
本発明のショートアーク型キセノンランプにおいては、前記発光管における波長200nmの紫外線の透過率が、500℃において50%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のショートアーク型キセノンランプによれば、発光管の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量が特定の範囲にあり、しかも、この水銀の封入量と、陰極の先端と発光管の内表面との最短距離との積が特定の範囲にあるため、波長200〜225nmの紫外線を高い強度で放射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のショートアーク型キセノンランプの一例における構成を発光管を切断して示す説明図である。
【図2】実施例および比較例に係るショートアーク型キセノンランプにおける波長200〜250nmの分光放射照度曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のショートアーク型キセノンランプの実施形態について詳細に説明する。 図1は、本発明のショートアーク型キセノンランプの一例における構成を発光管を切断して示す説明図である。このショートアーク型キセノンランプ(以下、単に「キセノンランプ」ともいう。)1の発光管10は、内部に放電空間を形成する外形が略楕円球状の発光部11と、この発光部11の両端の各々に一体に連設された、管軸に沿って外方に伸びるロッド状の一方の封止部12および他方の封止部13とを有する。この発光管10における発光部11内には、基端部分が一方の封止部12に埋設されて保持された、発光管10の軸方向に伸びる断面円形の棒状の電極軸部25を有する陽極20と、基端部分が他方の封止部13に埋設されて保持された、発光管10の軸方向に伸びる断面円形の棒状の電極軸部35を有する陰極30とが互いに対向するよう配置されている。
【0011】
発光管10における一方の封止部12の内部には、例えばモリブデンよりなる一方の金属箔14が気密に埋設されている。一方の金属箔14の一端には、陽極20における電極軸部25の基端が溶接されて電気的に接続され、当該一方の金属箔14の他端には、一方の封止部12の外端から外方に突出する陽極用外部リード16が溶接されて電気的に接続されており、この陽極用外部リード16は、一方の封止部12の外端部分を覆うよう設けられた口金18に電気的に接続されている。
また、発光管10における他方の封止部13の内部には、例えばモリブデンよりなる他方の金属箔15が気密に埋設されている。他方の金属箔15の一端には、陰極30における電極軸部35の基端が溶接されて電気的に接続され、当該他方の金属箔15の他端には、他方の封止部13の外端から外方に突出する陰極用外部リード17が溶接されて電気的に接続されており、この陰極用外部リード17は、他方の封止部13の外端部分を覆うよう設けられた口金19に電気的に接続されている。
そして、発光管10の発光部11内には、キセノンおよび水銀が封入されている。
【0012】
発光管10は、発光部11における波長200nmの紫外線の透過率が、500℃において50%以上のものであることが好ましい。このような発光管10を構成する材料としては、合成石英ガラス、高純度シリカガラス、透光性アルミナなどを用いることができる。
発光管10の具体的な寸法の一例を示すと、全長が20cmであり、発光部11の軸方向の長さが25mm、最大外径が20mm、最大内径が15mmで、発光部11の内容積が2.7cm3 である。
【0013】
陽極20は、電極軸部25の先端に電極頭部21が一体に形成されて構成されている。この例の陽極20における電極頭部21は、円柱状の胴部分22と、この胴部分22の先端に連続して形成された、先端に向かって小径となる円錐台状の先端部分23と、胴部分22の後端に連続して形成された、後端に向かって小径となる円錐台状の後端部分24とにより構成されている。
陽極20における電極頭部21および電極軸部25を構成する材料としては、タングステンを用いることができる。
【0014】
陰極30は、電極軸部35の先端に、先端に向かって小径となる円錐状の電極頭部31が一体に形成されて構成されている。
陰極30における電極頭部31および電極軸部35を構成する材料としては、トリエーテッドタングステンを用いることができる。
【0015】
発光部11内に封入されるキセノンは、その封入圧が20℃で5気圧以上とされ、好ましくは10〜30気圧とされる。キセノンの封入圧が5気圧未満である場合には、アーク柱におけるキセノンの密度が低くなるため、キセノン−水銀エキシマの生成が少なくなると考えられ、所定の波長帯の連続スペクトルの放射量が少なくなる。
【0016】
また、発光部11内に封入される水銀の封入量は、0.1〜4.0mg/cm3 とされ、好ましくは0.4〜3.5mg/cm3 である。水銀の封入量が0.1mg/cm3 未満である場合には、波長200〜225nmにおいて高い放射強度を有する紫外線を得ることが困難となる。一方、水銀の封入量が4.0mg/cm3 を超える場合には、波長225nmを超える波長域において高い放射強度を有する紫外線を得ることが可能であるが、波長200〜220nmにおける放射強度が著しく低いものとなる。
【0017】
本発明のキセノンランプ1においては、発光部11内に封入される水銀の封入量をM(mg/cm3 )とし、陰極30の先端Pと発光管11の内表面との最短距離をL(mm)としたとき、0.6<M×L<32を満足するものである。
M×Lの値が0.6未満である場合には、水銀の密度が希薄になり、所定の波長帯における連続スペクトルの放射量が少なくなる。一方、M×Lの値が32を超える場合には、水銀の共鳴線の吸収が強くなり、所定における波長帯の連続スペクトルの放射量が少なくなる。
【0018】
このようなキセノンランプ1によれば、発光管10の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量が特定の範囲にあり、しかも、この水銀の封入量と、陰極30の先端Pと発光管10の内表面との最短距離との積が特定の範囲にあるため、波長200〜225nmの紫外線を高い強度で放射することができる。
このような効果が奏されるのは、水銀が特定の範囲の封入量で封入されることにより、キセノン−水銀エキシマによる発光が得られると共に、水銀の封入量と、発光点を構成する陰極30の先端と発光管10の内表面との積を規定することにより、発光管10内で発生したキセノン−水銀エキシマによる発光を効率よく外部に放射することができるためであると考えられる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明のキセノンランプの具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
〈実施例1〉
図1に示す構成に従い、下記の仕様を有するキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプA1」とする。
発光管(10)は、合成石英ガラス製で、全長が20cmであり、発光部(11)の軸方向の長さが25mm、最大外径が20mm(発光部の肉厚が2mm)で、発光部(11)の内容積が2.7cm3 であり、発光部(11)における波長200nmの紫外線の透過率が、500℃において90%のものである。
陽極(20)は、タングステン製で、陰極(30)は、トリエーテッドタングステン製である。
陽極(20)と陰極(30)との離間距離は2.1mm、陰極(30)の先端(P)と発光管(10)の内表面との最短距離(以下、「最短距離L」という。)は7.3mmである。
また、発光管(10)の発光部(11)内には、20℃で20気圧のキセノンおよび発光管(10)の内容積1cm3 当たりの封入量が0.1mg/cm3 (M×L=0.7)となる水銀が封入されている。ランプの入力電力は150Wである。
【0021】
〈実施例2〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から0.8mg/cm3 に変更した(M×L=5.8)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプA2」とする。
【0022】
〈実施例3〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から1.6mg/cm3 に変更した(M×L=11.7)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプA3」とする。
【0023】
〈実施例4〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から2.4mg/cm3 に変更した(M×L=17.5)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプA4」とする。
【0024】
〈実施例5〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から4.3mg/cm3 に変更した(M×L=31.4)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプA5」とする。
【0025】
〈実施例6〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から1.6mg/cm3 に変更し(M×L=11.7)、キセノンの封入圧を20気圧から5気圧に変更したこと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプA6」とする。
【0026】
〈実施例7〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から1.6mg/cm3 に変更し、最短距離Lを7.3mmから5mmに変更した(M×L=8.0)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。ここで、最短距離Lの変更は、発光管として、発光部の軸方向の長さが18mm、最大外径が14mmのものを用いることにより行った。このキセノンランプを「キセノンランプA7」とする。
【0027】
〈実施例8〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から1.6mg/cm3 に変更し、最短距離Lを7.3mmから10mmに変更した(M×L=16.0)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。ここで、最短距離Lの変更は、発光管として、発光部の軸方向の長さが30mm、最大外径が24mmのものを用いることにより行った。このキセノンランプを「キセノンランプA8」とする。
【0028】
〈比較例1〉
水銀を封入しなかったこと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプB1」とする。
【0029】
〈比較例2〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から0.08mg/cm3 に変更した(M×L=0.58)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプB2」とする。
【0030】
〈比較例3〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から7.1mg/cm3 に変更した(M×L=51.8)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプB3」とする。
【0031】
〈比較例4〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から8.0mg/cm3 に変更した(M×L=58.4)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプB4」とする。
【0032】
〈比較例5〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から15.7mg/cm3 に変更した(M×L=114.6)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプB5」とする。
【0033】
〈比較例6〉
最短距離Lを7.3mmから5mmに変更した(M×L=0.5)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。ここで、最短距離Lの変更は、発光管として、発光部の軸方向の長さが18mm、最大外径が14mmのものを用いることにより行った。このキセノンランプを「キセノンランプB6」とする。
【0034】
〈比較例7〉
最短距離Lを7.3mmから10mmに変更し、発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から4.3mg/cm3 に変更した(M×L=47.3)こと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。ここで、最短距離Lの変更は、発光管として、発光部の軸方向の長さが30mm、最大外径が24mmのものを用いることにより行った。このキセノンランプを「キセノンランプB7」とする。
【0035】
〈比較例8〉
発光管(10)の内容積1cm3 当たりの水銀の封入量を0.1mg/cm3 から1.6mg/cm3 に変更し(M×L=11.7)、キセノンの封入圧を20気圧から1気圧に変更したこと以外は、実施例1と同様の仕様のキセノンランプを作製した。このキセノンランプを「キセノンランプB8」とする。
【0036】
〔キセノンランプの評価〕
(1)分光放射照度の測定:
実施例2に係るキセノンランプ(A2)、比較例1に係るキセノンランプ(B1)、比較例2に係るキセノンランプ(B2)および比較例4に係るキセノンランプ(B4)の各々を、窒素ガス雰囲気下において150Wのランプ入力で点灯させ、発光管における発光部の外表面から11cm離間した位置における波長200〜250nmの分光放射照度を測定した。結果を図2に示す。
【0037】
図2において、横軸はキセノンランプの放射光の波長、縦軸は分光放射照度を示し、A2、B1、B2およびB4は、キセノンランプ(A2)、キセノンランプ(B1)、キセノンランプ(B2)およびキセノンランプ(B4)の各々による放射光の分光放射照度曲線を示す。
図2の結果から明らかなように、実施例2に係るキセノンランプ(A2)によれば、波長200〜225nmにおいて放射照度の高い紫外線が得られることが理解される。
これに対して比較例1〜2に係るキセノンランプ(B1)およびキセノンランプ(B2)による紫外線は、波長200〜225nmにおける放射照度が低いものであった。
また、比較例4に係るキセノンランプ(B4)による紫外線は、波長225〜250nmにおける放射照度が高いものであるが、波長200〜220nmにおける放射照度が著しく低いものであった。これは、高い封入量の水銀が封入されていることにより、波長200〜220nmにおいて自己吸収が生じたためであると考えられる。
【0038】
(2)積算放射照度の測定:
実施例1〜8に係るキセノンランプ(A1)〜キセノンランプ(A8)および比較例1〜8に係るキセノンランプ(B1)〜キセノンランプ(B8)の各々を、窒素ガス雰囲気下において150Wのランプ入力で点灯させ、発光管における発光部の外表面から11cm離間した位置における波長200〜220nmの積算放射照度を測定し、実施例3に係るキセノンランプ(A3)の積算放射照度の値を100としたときの相対値を求めた。結果を下記表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜8に係るキセノンランプ(A1)〜キセノンランプ(A8)によれば、波長200〜220nmにおける放射照度が高い紫外線が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1 キセノンランプ
10 発光管
11 発光部
12 一方の封止部
13 他方の封止部
14 一方の金属箔
15 他方の金属箔
16 陽極用外部リード
17 陰極用外部リード
18,19 口金
20 陽極
21 電極頭部
22 胴部分
23 先端部分
24 後端部分
25 電極軸部
30 陰極
31 電極頭部
35 電極軸部
P 陰極の先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管と、この発光管内に互いに対向して配置された陽極および陰極とを有し、前記発光管内に5気圧以上のキセノンおよび水銀が封入されてなるショートアーク型キセノンランプにおいて、
前記発光管の内容積1cm3 当たりの前記水銀の封入量が0.1〜4.0mg/cm3 であり、当該水銀の封入量をM(mg/cm3 )とし、前記陰極の先端と前記発光管の内表面との最短距離をL(mm)としたとき、0.6<M×L<32を満足することを特徴とするショートアーク型キセノンランプ。
【請求項2】
前記発光管における波長200nmの紫外線の透過率が、500℃において50%以上であることを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型キセノンランプ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−174352(P2012−174352A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32113(P2011−32113)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】