説明

ショートアーク型放電ランプ

【課題】内部に一対の電極が対向配置された発光部と、該発光部の両端に連設された封止部とからなる発光管を有し、前記電極の軸部の基端部にはガラス製の保持用筒体が嵌合され、前記電極軸部が該保持用筒体とともに前記封止部内に埋設されてなるショートアーク型放電ランプにおいて、投入電力の変化によって熱サイクルが生じる場合にあっても、電極軸部と封止部ガラスの熱膨張量の差異に基づく電極軸部の曲がりを防止する構造を提供せんとするものである。
【解決手段】前記電極軸部と前記保持用筒体との間に、窒化ホウ素層が介在していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ショートアーク型放電ランプに関するものであり、特に、プロジェクター装置などの光源として用いられるショートアーク型放電ランプに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクター装置用や露光装置用の光源装置として、小型のショートアーク型放電ランプが知られている。
従来技術にかかるショートアーク型放電ランプを図4に示す。
ショートアーク型放電ランプ1は、石英ガラスからなり、略球形の発光部3の両端に枝状の封止部4が連続して形成された発光管2を備え、前記発光部3の内部に一対の電極5が対向配置されて構成される。そして、前記発光部3の内部には、発光物質として水銀が封入されている。
前記電極5は、材質としてはタングステンからなり、先端に形成された頭部5aと、外側に向かって延びる細長い軸部5bとを備える。該電極軸部5bの端部は封止部4に埋設された金属箔6に接続されている。
【0003】
電極軸部5bを封止するに当たって、図5に示すように、該電極軸部5bには石英ガラスからなる保持用筒体7が被嵌され、前記電極軸部5bは該保持用筒体7とともに封止部4内に埋設される。
【0004】
ところで、前記用途に用いられるショートアーク型放電ランプでは、水銀が多量に封入されており、点灯時の発光管の内部の圧力が非常に高まると同時に、発光管の温度が非常に高くなる。
点灯時の高温、高圧により、封止部を構成する石英ガラスと、電極軸部を構成する金属との間の熱膨張係数の差異に由来し、封止部に電極軸部の曲がりなど不具合が生じることがある。このような問題を解決するため、様々な改良が試みられている。
【0005】
例えば、特開2010−129366号公報(特許文献1)には、封止部の電極根元部分のガラスの変質に由来して体積膨張が生じ、電極が偏倚することを防止するために、電極軸部の周囲の封止部ガラスに管状の結晶化層を形成することが開示されている。
しかしながらこの技術では、電極軸部の全周に亘って環状の結晶化相を形成する必要があり、そのための手段として、例えば発光管を加熱することで行うことが検討されている。しかしながらこの手段では、発光管の昇温制御が難しく、均整の取れた環状の結晶化相を形成することが難しいという問題点がある。
【0006】
また、上記技術分野におけるプロジェクター装置としては、特開2010−244705号公報(特許文献2)に開示されるように、近時、画面に応じてランプ電流を下げ、コントラストを上げて使用するディミング機能を用いた「明るさ調整モード」や、更に電力を下げて使用する「スーパーエコモード」の使用ニーズが高まっている。
このような状況の下、小電力時のランプ電力は更に絞られ、具体的には定格消費電力の40〜70%まで小さくすることが要求され、ランプの駆動条件が従来とは大きく変わってきている。
このような、明るさ調整モードや更に電力を下げて使用するスーパーエコモードで点灯すると、電極の偏芯という問題が、より顕著に生じる。
これは、明るさ調整モードやスーパーエコモード等のような点灯方法では、電力を、高、低、高、低・・と切り替えて点灯するため、電極の温度は、投入電力に付随して、高、低、高、低・・という昇降サイクルを生じることに由来する。つまり、ある程度高温を維持した状態で電極の伸縮が起こり、しかも、ランプ点灯中に電極の伸縮が生じるため、電極が曲がる確率が大いに増すのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−129366号公報
【特許文献2】特開2010−244705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、内部に一対の電極が対向配置された発光部と、該発光部の両端に連設された封止部とからなる発光管を有し、前記電極の軸部の基端部には保持用筒体が嵌合され、前記電極軸部が該保持用筒体とともに前記封止部内に埋設されてなるショートアーク型放電ランプにおいて、電極軸部と封止部ガラスの熱膨張量の差異に基づく電極軸部の曲がりを防止する構造を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明に係るショートアーク型放電ランプは、前記電極軸部と前記保持用筒体との間には、窒化ホウ素層が介在していることを特徴とする
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ランプに投入された電力量に応じて、電極の温度が、高、低、高、低・・と、時間と共に変化するような場合でも、電極軸部の封止部の埋設部に、窒化ホウ素(BN)を介在させているので、封止部において電極軸部が熱膨張する際、ガラスで妨げられることがなく、自由に伸縮することができ、電極軸部の曲がりを抑制できて、長い使用寿命を有するショートアーク型放電ランプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るショートアーク型放電ランプの断面図。
【図2】図1のランプの封止部要部の拡大断面図。
【図3】本発明のランプの製造方法を示す説明図。
【図4】従来のショートアーク型放電ランプの断面図。
【図5】図4の要部の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明に係るショートアーク型放電ランプを示す断面図である。
発光管2は、石英ガラスからなり、発光部3と、その両端に連設された封止部4とから構成される。前記発光部3の内部に配置されたタングステンからなる電極5は、頭部5aと、軸部5bとからなり、該電極軸部5bの端部は、封止部4に埋設された金属箔6に溶接接続されている。
そして、前記発光部3の内部には、発光物質として水銀が封入されている。上述したプロジェクタ装置等の画像投射用の光源として使用される場合、比較的多量の水銀が封入され、具体的には0.15mg/mm以上、好ましくは0.20mg/mm以上封入されるようになる。
また、前記電極軸部5bには石英ガラス製の保持用筒体7が被嵌されていて、前記電極軸部5bと保持用筒体7との間には、窒化ホウ素(BN)層10が介在している。
【0013】
前記窒化ホウ素層10は、図2に示すように、薄片状の粉末窒化ホウ素により構成されており、層の厚みは1〜500μmの範囲、好ましくは10〜100μmの範囲、更に好ましくは30〜100μmの範囲である。
窒化ホウ素は、一般に、ダイヤモンド構造の立方晶系構造のものと、グラファイト構造の六方晶系構造のものとがあることが知られている。いずれの構造の窒化ホウ素も、硬く、耐熱性が良好な材料である。グラファイト構造を有する六方晶系の窒化ホウ素は、潤滑性、耐摩耗性に優れており、本発明にかかる窒化ホウ素層においては、六方晶系の窒化ホウ素を含んでいる。
このような、窒化ホウ素粉末は、一次粒子の平均径が例えば10〜30μmである。なお、ここでの一次粒子径は、3軸平均径によるものであり、粒子の短軸径をb、長軸径をl、厚みをhとおいたとき(b+l+h)/3で表される粒径である。
【0014】
上述したように、窒化ホウ素層10は、薄片状の窒化ホウ素粉末が、いくつか積み重ねられて層を形成したものである。
窒化ホウ素粉末は、滑りが生じやすいので、粉末が積層されることで、その界面ですべりが生じる。電極軸部5bが伸縮した場合でも、発光管2(保持用筒体7)を構成する石英ガラスに引っ掛かることがなくなり、該電極軸部5bに曲がりが生じなくなる。
仮に、石英ガラスと一部の窒化ホウ素粉末とが融着した場合でも、粉末が幾つか重なって配置されているので、その下層の窒化ホウ素粉末で滑りが生じ、電極軸部5bの伸縮を妨げるものとならない。
また、積層された粉末同士の間に隙間があるので、電極軸部5bが半径方向に膨張、収縮しても、隙間が軸部の膨張による電極体積増加分を許容することができ、封止部4(保持用筒体7)のガラスに余計な応力がかかることもない。
このように、窒化ホウ素の潤滑性及び耐熱性と、粉末を積層して形成したことによる体積吸収特性の両方の作用を得ることで、電極軸部の膨張、伸縮を解消することができる。
【0015】
以下、本発明のショートアーク型放電ランプの製造方法の一例を図3により説明する。
図3において、窒化ホウ素粉末が内部に塗布または充填された中空円筒の保持用筒体7及び電極5を用意する(A)。前記保持用筒体7における窒化ホウ素充填部に、電極軸部5bを差し込み、該電極軸部5bを貫通させる(B)。
保持用筒体7は、材質としては、例えば石英ガラスであり、発光管と同じガラスで構成されるのが好ましい。そして、該保持用筒体7の内径は、電極軸部5bの径に、窒化ホウ素層10の適度な厚みを加えたものを許容可能とするものである。この保持用筒体7に関し、具体的な数値例を挙げると、封止部4の外径が6mm、電極芯棒5bの径が0.4mmである場合、使用する保持用筒体7は、外径がφ1mm、内径がφ0.6mm、長さが1.8mmである。
【0016】
この電極軸部5bの保持用筒体7を貫通した後端を、金属箔6に溶接する(C)。
次いで、電極5、窒化ホウ素充填保持用筒体7、金属箔6および外部リード8が一体となった電極マウントを、封止部4内に挿入する(D)。
そして、発光管2の封止部4の周囲をバーナーで加熱してシュリンクし、気密封止する。小径の石英ガラス製保持用筒体7は溶融の程度によりもよるが、ほぼ発光管2と一体化する。この結果、電極軸部7の周囲に窒化ホウ素層10が形成された状態を得ることができる。
こうして図1に示すようなショートアーク型放電ランプができあがる。
【0017】
なお、上記製造方法は、好ましい製造方法の一例であり、この方法以外の手法で窒化ホウ素層10を形成することも、もちろん可能である。例えば、適宜のバインダと窒化ホウ素粉末を混練して電極軸部5bに塗布し、これを乾燥させて窒化ホウ素層10を形成するという手段によってもよい。
【0018】
本発明の効果を実証するための実験を行った。
本発明のランプとして、下記仕様の、窒化ホウ素層を備えたショートアーク型放電ランプを作製した。
発光部の最大外径、全長 10mm、9mm
封止部の最大外径 6mm
電極の最大径、全長 1.4mm、7.6mm
電極軸部の径 0.4mm
電極間距離 1.0mm
封入水銀密度 0.25mg/mm
定格点灯電圧 80V
定格点灯電力 230W
窒化ホウ素層 厚さ60μm、全長1.8mm
窒化ホウ素粒子の平均粒子径 30μm(三軸平均径)

また、比較例として、窒化ホウ素層を備えていない従来構造のランプを作製した。なお、この比較例は、窒化ホウ素層を備えていない構造以外は、本発明ランプと同様の仕様である。
【0019】
本発明に係るランプを5本、比較例に係るランプを5本、それぞれ作製し、高電力時;電力230W、5分間点灯、低電力時;電力115W、5分間点灯、を1セットとして調光点灯を行った。調光点灯回数が1500回となる時点で、電極の曲がりの有無を観測した。電極に曲がりを生じたか否かの判断は、電極先端の位置が、初期の位置から1.0mm以上ずれた場合に「曲がり有」と判定し、位置ずれが1.0mm未満の場合「曲がり無」と判定した。
<表1>

【0020】
上記のように、本発明にかかるランプはすべて、調光点灯回数1500回後も電極先端の位置ずれは1.0mm未満であり、電極軸部が大きく曲がったものはなかった。
これに対して、従来技術に基づく比較例ランプでは、調光点灯回数1500回後、5本中3本について電極先端が1mm以上曲がり、その結果、アークの状態が不安定になるものもあった。
【0021】
以上説明したように、本発明のショートアーク型放電ランプでは、当該ランプに投入された電力量に応じて、電極の温度が、高、低、高、低・・と、時間と共に変化して熱サイクルを生じる場合でも、電極軸部の封止部の埋設部において、ガラス部材との間に窒化ホウ素層を介在させているので、電極軸部がガラスに引っかかることがなく、自由に伸縮することができ、電極軸部の曲がりを抑制できて、長い使用寿命を有するショートアーク型放電ランプを提供することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 ショートアーク型放電ランプ
2 発光管
3 発光部
4 封止部
5 電極
5a 電極頭部
5b 電極軸部
6 金属箔
7 保持用筒体
8 外部リード
10 窒化ホウ素層





【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に一対の電極が対向配置された発光部と、該発光部の両端に連設された封止部とからなる発光管を有し、前記電極の軸部の基端部にはガラス製の保持用筒体が嵌合され、前記電極軸部が該保持用筒体とともに前記封止部内に埋設されてなるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記電極軸部と前記保持用筒体との間には、窒化ホウ素層が介在していることを特徴とするショートアーク型放電ランプ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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