説明

ショ糖ベンゾエート組成物及びショ糖ベンゾエート組成物の製造方法

【課題】加熱しても着色しないショ糖ベンゾエート組成物、及び該ショ糖ベンゾエート組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】ショ糖ベンゾエートにカルボン酸塩を配合してなるショ糖ベンゾエート組成物、好ましくはカルボン酸塩がショ糖ベンゾエートに対して0.001重量%以上1重量%以下であるショ糖ベンゾエート組成物、及びショ糖ベンゾエートとカルボン酸塩を有機溶剤及び/又は水に溶解混合する工程と、該混合溶液から有機溶剤及び/または水を除去する工程を含むことを特徴とするショ糖ベンゾエートの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はショ糖ベンゾエート組成物及びその製造方法に関するものである。具体的には加熱時に着色が少ないショ糖ベンゾエート組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショ糖ベンゾエートは各種産業用の可塑剤又は分散剤として利用されてきており、具体的には鏡面光沢美爪料の皮膜形成材等としてとして有用であることが知られている(特許文献1)。また、近年では感熱転写用受像シートなどの樹脂添加剤としても使用されている(特許文献2)。これらの用途における製造工程において、ショ糖ベンゾエートは加熱されることによって着色することが問題となっており、特に平均エステル化度が低い場合の着色は顕著なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−89389号公報
【特許文献2】特開平6−255274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、加熱しても着色しないショ糖ベンゾエート組成物、及び該ショ糖ベンゾエート組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、ショ糖ベンゾエートにカルボン酸塩を配合することにより、加熱しても着色しないショ糖ベンゾエート組成物が得られる事を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ショ糖ベンゾエートにカルボン酸塩を配合してなるショ糖ベンゾエート組成物を第一の要旨とする。
前記ショ糖ベンゾエート組成物においてカルボン酸塩がショ糖ベンゾエートに対して0.001重量%以上1重量%以下であることが好ましい。
また、前記カルボン酸塩が飽和カルボン酸塩、不飽和カルボン酸塩、ヒドロキシ酸塩、及びポリカルボン酸塩から選択された1種又は2種以上である事が好ましい。
さらに、前記カルボン酸塩は2価以上のポリカルボン酸のアルカリ金属塩であることが好ましい。
また、前記ショ糖ベンゾエートの平均エステル化度が6.5以下であることが好ましい。
ショ糖ベンゾエート組成物を製造する方法であって、ショ糖ベンゾエート及びカルボン酸塩を有機溶剤及び/または水に溶解する工程と、該混合溶液から有機溶剤及び/または水を除去する工程を含有することを特徴とする組成物のショ糖ベンゾエート製造方法を第2の要旨とする。
【発明を実施するための形態】
【0006】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明の組成物はショ糖ベンゾエートにカルボン酸塩を配合してなることを特徴とする。
ショ糖ベンゾエートは一般的にショ糖と塩化ベンゾイルのエステル化反応により製造されるものであり、ショ糖が8つの水酸基を有することから、平均エステル化度は0を越えて8以下のものが存在する。本発明の組成物に用いるショ糖ベンゾエートの平均エステル化度としては特に制限されるものではなく、前記のいずれの平均エステル化度のものも使用できる。
加熱による着色は平均エステル化度が低い場合に特に顕著に生じるため、本発明におけるショ糖ベンゾエートの平均エステル化度は6.5以下である事が好ましく、5.7以下がより好ましい。
本発明に使用されるショ糖ベンゾエートの製造方法は公知であり、特開昭52−95625に記載されている製造方法で製造することができる。また、一般に市販されているものを使用することができ、具体的には第一工業製薬製「モノペットSB」(登録商標)を使用することができる。
【0007】
本発明に使用されるカルボン酸塩については特に制限はされないが、飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸、ヒドロキシ酸、ポリカルボン酸等のカルボン酸とアルカリ金属、アルカリ土類金属との塩が好ましい。これら以外のカルボン酸、例えば芳香族カルボン酸については着色防止効果が小さくなる傾向にある。
前記カルボン酸は具体的には、飽和カルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、オレイル酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸等が挙げられる。ヒドロキシ酸としては、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられる。ポリカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸等が挙げられる。
前記カルボン酸塩におけるカルボン酸として特に好ましいのはヒドロキシ酸及び/又はポリカルボン酸とアルカリ金属からなるカルボン酸塩である。
具体的にはヒドロキシ酸としては、リンゴ酸、クエン酸、ポリカルボン酸としてはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸が特に好ましい。
前記カルボン酸塩における金属塩としては、アルカリ金属が特に好ましい。アルカリ土類金属等の多価金属を配合した場合、ショ糖ベンゾエート組成物に濁りが生じる場合がある。
本発明におけるショ糖ベンゾエートに対するカルボン酸塩の配合量は特に制限されるものではないが、0.001重量%以上1重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01重量%以上0.1重量%以下である。配合量が0.001重量%未満であれば着色防止性能が不十分であり、1重量%を超える場合は透明なショ糖ベンゾエートを得られにくくなる。
【0008】
本発明におけるショ糖ベンゾエート組成物の製造方法は、特に限定されないが、ショ糖ベンゾエートとカルボン酸塩を粉体の状態で混合した後、有機溶剤及び/又は水に溶解させる製造方法や、溶融させた、又は有機溶剤並びに/若しくは水に溶解させたショ糖ベンゾエートに、カルボン酸塩を粉体のまま、又は有機溶剤並びに/若しくは水に溶解させて混合する製造方法がある。前記製造方法において、有機溶剤及び/又は水を使用した場合は、適宜、加熱や減圧により溶媒除去を行う。
本発明の製造方法としては、ショ糖ベンゾエートとカルボン酸塩を有機溶剤及び/又は水に溶解混合し、該混合溶液から有機溶剤及び/または水を除去する方法が好ましい。ショ糖ベンゾエートとカルボン酸塩を有機溶剤及び/又は水に溶解混合する方法としては、ショ糖ベンゾエートとカルボン酸塩を粉体の状態で混合した後、有機溶剤及び/又は水に溶解させ混合する方法、溶融したショ糖ベンゾエートにカルボン酸塩を有機溶剤及び/又は水に溶解させ添加し混合する方法、有機溶剤及び/又は水に溶解したショ糖ベンゾエートにカルボン酸塩をそのまま添加し混合する方法、有機溶剤及び/又は水に溶解したショ糖ベンゾエートにカルボン酸塩を有機溶剤及び/又は水に溶解させ添加し混合する方法が挙げられる。
有機溶剤及び/又は水の除去の方法としては特に限定はされないが、通常、加熱および減圧条件下で行われる。加熱、減圧条件としては適宜設定されるものであるが通常90〜200℃、減圧条件は1〜200mmHgである。
本発明におけるショ糖ベンゾエート組成物の製造方法において、より好ましくは、ショ糖ベンゾエートの製造工程におけるエステル化反応終了後にショ糖ベンゾエートと有機溶媒の混合物から有機溶媒を除去する前に、該混合物にカルボン酸塩を粉体のまま、又は有機溶剤並びに/若しくは水に溶解させてから添加することが好ましい。有機溶剤の除去は、通常、前記と同様の加熱および減圧条件化で行うことができる。このように有機溶剤の除去の前にカルボン酸塩を添加することにより、加熱による着色を防止することができ、後の精製工程を簡便におこなうことができる。
【0009】
前記有機溶剤としては、特に限定されないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、クロロトルエン、二塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエチレン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、3級ブタノール等が挙げられる。
【0010】
本発明の組成物には効果を妨げない範囲で他の添加物を配合することが出来る。具体的には、ジブチルヒドロキシトルエンやペンタエリスリトールテトラキス〔3-(3,5-ジ-t-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などの各種酸化防止剤や腐敗防止剤などが挙げられる。これらの配合量は特に限定されないが、本発明の効果を妨げない範囲で添加することができる。
【実施例】
【0011】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中、部及び%は特に断らない限り重量基準である。
<ショ糖ベンゾエートの調整>
市販のショ糖ベンゾエート(製品名:モノペットSB(登録商標)、第一工業製薬株式会社製)をカラムにて高エステル化度のものを除去し、平均置換度5.7のショ糖ベンゾエートを得た。
<1.配合品の着色評価(1)>
前記ショ糖ベンゾエート(AHAP<10)を120℃で溶融し、速やかに下記表1に記載の各種カルボン酸塩を表1に示す量を添加した。このショ糖ベンゾエート組成物を120℃、16時間加熱継続した。加熱処理後、トルエンに再溶解し50%とし下記の基準にて色相及び外観評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
<色相評価基準>
◎ :AHPA20未満
○ :AHPA20以上50以下
× :AHPA50を超えた場合
<外観評価>
透明性(透明又は微濁)を目視で判定した。
【0012】
【表1】

溶融混合により製造したショ糖ベンゾエートにおいて、表1に示すとおり、各種カルボン酸塩を添加しない場合は、加熱により色相が悪化したが(比較例1)、各種カルボン酸塩を添加した実施例1〜4は色相に変化は無かった。
<2.配合品の着色評価(2)>
ショ糖ベンゾエート(平均エステル化度5.5)の50%トルエン溶液(APHA <10)に表2記載各種カルボン酸塩を10%水溶液として表2に示す量を添加混合し、130℃、15mmHg以下にて脱溶媒し、残存トルエン量が0.1%以下となったところで終了した。得られたショ糖ベンゾエートを再びトルエンに再溶解し50%とし上記の基準にて色相及び外観評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0013】
【表2】

有機溶剤及び水に溶解する方法により製造したショ糖ベンゾエートにおいて、表2に示すとおり、各種カルボン酸塩を添加しない場合は、加熱により色相が悪化したが(比較例2)、各種カルボン酸塩を添加した実施例5〜10は色相に変化は無かった。
<3.有機溶剤回収時の着色評価>
〔ショ糖ベンゾエートの製造〕
攪拌棒、温度計、冷却コンデンサー、滴下漏斗、pHメーターに接続したpH電極を備えた1lの5つ口フラスコにショ糖34.2部と水70部を仕込み溶解した後、水浴で10℃以下に冷却しながら塩化ベンゾイル80部を含むシクロヘキサノン100部を徐々に加え均一に溶かした。20℃以下の温度を保ちながら、48%苛性ソーダ水溶液48.5部を滴下漏斗よりpHが10〜11に保たれるような速度で加えた。通常1時間以内で滴下は終了した。その後水浴を取り去り、20〜30℃の室温で1時間攪拌を続け熟成して反応を完結させた。その後、若干量の炭酸ソーダを加え加熱して微量に残っている塩化ベンゾイルを安息香酸ソーダに変換した。
〔着色評価〕
前記反応混合物に下記表3に記載の各種カルボン酸塩を10%水溶液として表3に記載の量で添加混合し、150℃減圧下(5mmHg)にて脱溶媒し、残存溶剤(シクロへキサノン)0.05%以下となったところで終了した。得られたショ糖ベンゾエートを再びトルエンに再溶解し50%とし上記の基準にて色相及び外観評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0014】
【表3】

ショ糖ベンゾエートの製造工程における溶剤回収時にカルボン酸塩を添加する製造方法において、表3に示すとおり、各種カルボン酸塩を添加しない場合は、加熱により色相が悪化したが(比較例3)、各種カルボン酸塩を添加した実施例11〜14は色相に変化は無かった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明のショ糖ベンゾエートは各種産業用の可塑剤又は分散剤として使用でき、具体的には鏡面光沢美爪料の皮膜形成材等や感熱転写用受像シートなどの樹脂添加剤として使用することが出来る。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショ糖ベンゾエートにカルボン酸塩を配合してなるショ糖ベンゾエート組成物。
【請求項2】
前記カルボン酸塩がショ糖ベンゾエートに対して0.001重量%以上1重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のショ糖ベンゾエート組成物。
【請求項3】
前記カルボン酸塩が飽和カルボン酸塩、不飽和カルボン酸塩、ヒドロキシ酸塩、及びポリカルボン酸塩から選択された1種又は2種以上である事を特徴とする請求項1または2に記載のショ糖ベンゾエート組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸塩が2価以上のポリカルボン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1ないし3に記載のショ糖ベンゾエート組成物。
【請求項5】
前記ショ糖ベンゾエートの平均エステル化度が6.5以下であることを特徴とする請求項1ないし4に記載のショ糖ベンゾエート組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5に記載のショ糖ベンゾエート組成物を製造する方法であって、ショ糖ベンゾエートとカルボン酸塩を有機溶剤及び/又は水に溶解混合する工程と、該混合溶液から有機溶剤及び/または水を除去する工程を含有することを特徴とするショ糖ベンゾエート組成物の製造方法。

【公開番号】特開2013−1687(P2013−1687A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136058(P2011−136058)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】