説明

シラノール基を有するトリアリールアミン誘導体

【課題】様々な有機溶媒や樹脂との相溶性に優れ、無機材料表面に対してケイ素−酸素結合を形成することができ、容易に精製できるトリアリールアミン誘導体、その製造方法、その中間生成物、当該トリアリールアミン誘導体を無機材料表面に結合させてなる無機複合材料、並びに当該無機複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されるシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体。


(一般式(1)中、R、R、R、R、R11、R14中、少なくとも一つはSiR1617OH(式中、R16、R17はそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の一価炭化水素基を示す。)で表される置換基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正孔輸送材料として有用な、シラノール基を有する新規なトリアリールアミン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
トリアリールアミン誘導体は、電子写真用感光体の光導電材料として用いられる。例えば、特許文献1には、トリフェニルアミン化合物を色素増感剤として用いる感光体が記載されている。特許文献2には、トリアリールアミン誘導体を電荷輸送材料として用いる感光体が記載されている。
【0003】
特許文献3に記載のトリアリールアミン誘導体は、正孔輸送材料として優れ、有機ELや有機薄膜太陽電池に応用されている。湿式プロセスによるこのようなデバイスの製造においては、正孔輸送材料は適当なバインダー樹脂とともに有機溶剤に溶解させ塗布して用いられる。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化樹脂が検討されている。
【0004】
一方、特許文献4には、熱可塑性樹脂に熱硬化性ポリシロキサン樹脂を分散させた樹脂を電荷輸送材料構成物質とする方法が記載されている。ポリシロキサンは、透明性、耐絶縁破壊、光安定性、低表面張力等、他の樹脂には見られない特徴を有しているが、有機化合物との相溶性が乏しいため、ケイ素系樹脂単独で電荷輸送材料構成樹脂として使用することができないという問題があった。
【0005】
これらの問題を改善するため、特許文献5、特許文献6には、トリアリールアミン骨格にアルコキシシリル基を導入した化合物が記載されている。これらはポリシロキサン等のケイ素系樹脂に対する相溶性に優れており、結晶の析出やピンホールが発生しない均質な有機薄膜を形成することができる。
【0006】
有機電界発光素子を作成する場合、通常、正孔輸送材料は無機材料上に積層させた構造をとる。アルコキシシリル基が加水分解することで無機材料表面に対してケイ素−酸素結合を形成し、界面における電荷の移動効率が向上すると考えられる。
【0007】
しかしながら、特許文献5や特許文献6に記載されているアルコキシシリル基は、加水分解する際にVOC(揮発性有機成分)を生じるため環境的負荷が伴う。また、アルコキシシランの加水分解を行う際には通常、反応を促進する触媒が用いられるが、これはシラノールを縮合させる触媒にもなるため、反応液がシロキサン化合物との混合物となってしまい、性能が低下する可能性がある。更に、正孔輸送材料として使用するためには高純度に精製する必要があるが、これらのアルコキシシランは沸点が高いため、蒸留による精製が困難である。カラムクロマトグラフィーを用いて精製しようとした場合、カラム中で加水分解し吸着されやすいという問題があった。
【0008】
そのため、正孔輸送材料としてより好適な特性を備えるトリアリールアミン誘導体の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3180730号公報
【特許文献2】特開昭58−65440号公報
【特許文献3】特公平7−110940号公報
【特許文献4】特開平4−346356号公報
【特許文献5】特許第3614222号公報
【特許文献6】特許第4392869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、様々な有機溶媒や樹脂との相溶性に優れ、無機材料表面に対してケイ素−酸素結合を形成することができ、容易に精製できるトリアリールアミン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討を行った結果、特定の位置にシラノール基を有する新規なトリアリールアミン誘導体が、様々な有機溶媒や樹脂との相溶性に優れ、容易に精製できることを見出した。また、この新規トリアリールアミン誘導体を、簡便な方法で無機材料表面に結合させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
従って、本発明は、一実施の形態によれば、下記一般式(1)で表される、シラノール基を有するトリアリールアミン誘導体を提供する。
【化1】

[一般式(1)中、R〜R15は、それぞれ独立に、一般式(2)で表されるジアリー
ルアミノ基、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の1価炭化水素基(置換基として一般式(2)で表されるジアリールアミノ基が含まれていてもよい。)、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、ハロゲン原子、水素原子、アミノ基から選択される置換基を表す。ただし、R、R、R、R、R11、R14中、少なくとも一つはSiR1617OH(式中、R16、R17はそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の一価炭化水素基を示す。)で表される置換基を含む。]
【化2】

(一般式(2)中、R21、R23,R25、R26、R28、R30はそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の1価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、ハロゲン原子、水素原子、アミノ基から選択される置換基を表す。R22、R24、R27、R29はそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の1価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、ハロゲン原子、水素原子、アミノ基、SiR1617OHで表される置換基から選択される置換基を表す。ただし、R25、R26が存在せず、窒素原子に対してオルト位の炭素が結合してカルバゾール環構造を形成してもよい。)
【0013】
上記一般式(1)において、R16及びR17の一方もしくは両方が、炭素数3〜20の分岐、もしくは環状の一価炭化水素基であることが好ましい。
【0014】
本発明は、別の態様においては、上記一般式(1)で表される、シラノール基を有するトリアリールアミン誘導体の製造方法であって、下記一般式(3)で表される化合物と、金属又は有機金属を反応させる工程と、前記工程で得られた反応生成物と、ケイ素試剤とを反応させる工程とを含む。
【化3】

(一般式(3)中、R1a〜R15aは、それぞれ、一般式(1)のR〜R15と同一である。ただし、R〜R15にSiR1617OHが存在する場合、対応するR1a〜R15aでは、SiR1617OHに替えてハロゲン原子を含む。)
【0015】
本発明は、また別の態様においては、下記一般式(4)で表される中間生成物であって、上記一般式(1)で表される、シラノール基を有するトリアリールアミン誘導体の中間生成物を提供する。
【化4】

(一般式(4)中、R1b〜R15bは、それぞれ、一般式(1)のR〜R15と同一である。ただし、R〜R15にSiR1617OHで表される置換基が存在する場合、対応するR1b〜R15bでは、SiR1617OHに替えて、SiR1617X(X=Cl又はH)を含む。)
【0016】
本発明は、また別の態様においては、上記一般式(1)で表されるシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体を、無機材料の表面に結合させてなる無機複合材料を提供する。前記無機材料が、透明導電性酸化物であることが好ましい。
【0017】
本発明は、さらにまた別の態様においては、無機複合材料の製造方法であって、上記一般式(1)で表されるシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体を無機材料と接触させる工程を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、新規なシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体が提供される。本発明のトリアリールアミン誘導体は、様々な有機溶媒や樹脂との相溶性に優れており、精製が容易であるという特性を備える。このため、本発明のトリアリールアミン誘導体は、正孔輸送材料や正孔注入材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施の形態を挙げて詳細に説明する。以下の説明は、本発明を限定するものではない。
【0020】
本発明の一実施形態による、シラノール基を有するトリアリールアミン誘導体は、上記一般式(1)で表される。一般式(1)において、R〜R15は、それぞれ独立に、一般式(2)で表されるジアリールアミノ基、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の1価炭化水素基(置換基として一般式(2)で表されるジアリールアミノ基が含まれていてもよい。)、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、ハロゲン原子、水素原子、アミノ基から選択される置換基を表す。ただし、R、R、R、R、R11、R14中、少なくとも一つはSiR1617OH(式中、R16、R17はそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の一価炭化水素基を示す。)で表される置換基を含む。
【0021】
上記一般式(1)におけるR〜R15を構成するジアリールアミノ基は、上記一般式(2)で表される。一般式(2)中、R21〜R30はそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の1価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、ハロゲン原子、水素原子、アミノ基、SiR1617OHで表される置換基から選択される置換基を表す。ただし、R25、R26が存在せず、窒素原子に対してオルト位の炭素が結合してカルバゾール環構造を形成してもよい。
【0022】
21〜R30を構成する炭素数1〜20の1価炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖のアルキル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の分岐のアルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、4−フェニルブチル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0023】
また、R21〜R30を構成する炭素数1〜20のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。また、R21〜R30を構成する炭素数6〜20のアリーロキシ基の例としては、フェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。さらに、R21〜R30を構成する置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、水素原子、アミノ基等の他、SiR1617OHが挙げられる。ただし、SiR1617OHは、窒素原子に対してm位である、R22、R24、R27、R29の置換基のいずれかを構成するものである。
【0024】
SiR1617OHにおいて、R16及びR17としては、それぞれ独立に、炭素数1〜20、好ましくは炭素数3〜20、更に好ましくは炭素数3〜10の直鎖、分岐、もしくは環状の一価炭化水素基が挙げられ、上記R21〜R30における一価炭化水素基と同様のものを用いることができる。特に、炭素数3〜20の分岐もしくは環状のアルキル基、アリール基、アラルキル基等の嵩高い置換基が好ましい。シラノール間の脱水縮合による二量化を抑制する観点からである。
【0025】
SiR1617OHで表される置換基の具体例としては、ジメチルシラノール、ジエチルシラノール、ジイソプロピルシラノール、ジ−sec−ブチルシラノール、ジシクロペンチルシラノール、ジシクロヘキシルシラノール、tert−ブチルメチルシラノール、ジフェニルシラノール、メチルフェニルシラノール等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0026】
一般式(2)のジアリールアミノ基はまた、窒素原子に対してオルト位の炭素が結合してカルバゾール環構造を形成していてもよい。このとき、R25、R26は存在しない。
【0027】
上記一般式(2)で表されるジアリールアミノ基の具体例としては、ジフェニルアミノ基、p−トリルフェニルアミノ基、m−トリルフェニルアミノ基、o−トリルフェニルアミノ基、ジ−p−トリルアミノ基、ジ−m−トリルアミノ基、p−メトキシフェニルフェニルアミノ基、m−メトキシフェニルフェニルアミノ基、o−メトキシフェニルフェニルアミノ基、カルバゾリル基、3−メトキシカルバゾリル基等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0028】
次に、上記一般式(1)におけるR〜R15を構成する炭素数1〜20の直鎖、分岐、環状の1価炭化水素基の例としては、上記R21〜R30について述べたのと同様の1価炭化水素基が挙げられる。
【0029】
〜R15を構成する炭素数1〜20の直鎖、分岐、環状の1価炭化水素基は、一般式(2)で表されるジアリールアミノ基を含んでいてもよい。
【0030】
また、R〜R15を構成する炭素数1〜20のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる
。R〜R15を構成する炭素数6〜20のアリーロキシ基の例としては、フェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。
【0031】
さらに、R〜R15を構成する置換基として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、水素原子、アミノ基等が挙げられる。
【0032】
なお、一般式(1)において、R、R、R、R、R11、R14中、少なくとも一つは、上記SiR1617OHで表される置換基を含む。これは、本実施形態によるトリアリールアミン誘導体を光伝導材料として用いる場合に、SiR1617OH基が、無機材料表面に対してケイ素−酸素結合を形成することが出来るためである。本実施形態においては、R、R、R、R、R11、R14中、少なくとも一つが、SiR1617OHで表される置換基であってもよい。あるいは、R、R、R、R、R11、R14中、少なくとも一つが一般式(2)で表される置換基であり、あるいは一般式(2)で表される置換基を有し、かつ、一般式(2)中、R22、R24、R27、R29のいずれかとして、SiR1617OHで表される置換基を含んでもよい。
【0033】
好ましくは、一般式(1)で表される化合物中に、一つまたは二つの上記SiR1617OHで表される置換基を含む。これは、前記置換基が二つを超えると、嵩高さが増して、単位面積当たりの無機材料表面に対する吸着量が少なくなる場合があるからである。
【0034】
一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体化合物のうち、特に好ましい化合物としては、下記のものが挙げられる。
【0035】
【化5】

【0036】
次に、本発明の別の実施形態である、上記一般式(1)で表されるシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体の製造方法について説明する。上記トリアリールアミン誘導体は、上記一般式(3)で表される化合物と、金属又は有機金属とを反応させる工程と、かかる工程で得られる反応生成物にケイ素試剤を反応させる工程とを含んでなる方法により得られる。
【0037】
出発物質は、上記一般式(3)で表される。一般式(3)において、R1a〜R15aは、それぞれ、一般式(1)で定義したR〜R15と同一である。ただし、目的物質である一般式(1)で表される化合物において、R〜R15のいずれかにSiR1617OHで表される基が存在する場合、対応するR1a〜R15aでは、SiR1617OHで表される置換基に替えて、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を含む。
すなわち、R1a、R4a、R6a、R9a、R11a、R14aの少なくとも一つがハロゲン原子を含む。ここで、R1a、R4a、R6a、R9a、R11a、R14aの少なくとも一つがハロゲン原子である場合がある。あるいは、目的物質である一般式(1)で表される化合物が上記一般式(2)で表される置換基を有する場合であって、かつ、一般式(2)中の置換基R22、R24、R27、R29のいずれかがSiR1617OHである場合、出発物質である一般式(3)の化合物においては、対応するジアリール
アミノ基の、R22、R24、R27、R29に対応する置換基のいずれかがハロゲン原子である。
【0038】
出発物質となる一般式(3)の化合物は、ジフェニルアミンとアリールハライドとのウルマン縮合反応により得ることができる。
【0039】
上記一般式(3)で表される化合物と、金属又は有機金属とを反応させる工程において、反応させる金属の例としては、金属リチウム、金属マグネシウム等が挙げられる。また、有機金属の例としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、メチルマグネシウムクロリド、メチルマグネシウムブロミド等が挙げられる。
【0040】
この場合、金属又は有機金属の使用量は、一般式(3)の化合物に対して、1〜10モルが好ましく、1〜1.5モルがより好ましい。上記反応の反応温度は、反応に有機リチウム試薬を用いる場合には、−100℃〜100℃が好ましく、−80℃〜−30℃がより好ましい。いっぽう、反応に金属や有機マグネシウム試薬を用いる場合、上記反応の反応温度は、0℃〜200℃が好ましく、20〜100℃がより好ましい。反応時間は、30分〜50時間が好ましく、1時間〜20時間がより好ましい。溶媒は、エーテル系溶媒や炭化水素系溶媒が好ましい。溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ヘキサン、ペンタン、トルエン、キシレン又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0041】
次に、上記工程で得られる反応生成物にケイ素試剤を反応させる工程を行う。かかる工程では、反応生成物をケイ素試剤と反応させることにより、一般式(1)で表される化合物を調製する。ケイ素試剤は、一般式(1)で表される化合物における、SiR1617OHで表される置換基を導入するものである。ケイ素試剤は、R1617SiY(式中、R16、R17は、一般式(1)で定義したR16、R17と同一であり、YはCl又はOR18(R18は、炭素数1〜10の、直鎖もしくは分枝状アルキル基)であり、a=1又は2、a+b=2である)で表すことができる。よって、所望のR16、R17の構造を有するケイ素試剤を用いることができる。
【0042】
ケイ素試剤の具体例としては、ジイソプロピルクロロシラン、ジイソプロピルジクロロシラン、ジ−sec−ブチルクロロシラン、ジシクロペンチルジクロロシラン、ジシクロヘキシルジクロロシラン、tert−ブチルメチルクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルフェニルクロロシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジ−sec−ブチルメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、tert−ブチルメチルメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルメトキシシラン等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0043】
ケイ素試剤の使用量は、一般式(3)の化合物1モルに対して、1〜10モルが好ましく、1〜2モルがより好ましい。上記反応の反応温度は、−100℃〜100℃が好ましく、0℃〜20℃がより好ましい。本工程における反応時間は、30分〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましい。反応温度及び時間は、当業者が適宜これを決定することができる。溶媒としては、エーテル系溶媒や炭化水素系溶媒が好ましい。溶媒としては、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ヘキサン、ペンタン、トルエン、キシレン又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0044】
上記のケイ素試剤との反応後、得られた中間生成物を更に反応させてシラノールに変換する。中間生成物は、上記一般式(4)で表される。一般式(4)中、R1b〜R15bは、それぞれ、一般式(1)のR〜R15と同一である。ただし、R〜R15にSi
1617OHで表される置換基が存在する場合、対応するR1b〜R15bでは、SiR1617OHに替えて、SiR1617X(X=Cl又はH)を含む。すなわち、R1b、R4b、R6b、R9b、R11b、R14bの少なくとも一つがSiR1617Xである場合がある。あるいは、目的物質である一般式(1)で表される化合物が上記一般式(2)で表される置換基を有する場合であって、かつ、一般式(2)中の置換基R22、R24、R27、R29のいずれかがSiR1617OHである場合、中間生成物である一般式(4)の化合物においては、対応するジアリールアミノ基の、R22、R24、R27、R29に対応する置換基のいずれかがSiR1617Xである。
【0045】
一般式(4)で表される中間生成物はHPLC、シリカゲルクロマトグラフィー等の方法で、反応混合物から単離して、次工程を時間的、場所的に隔てて行うために使用することもできる。あるいは、中間生成物を含む反応混合物をそのまま次工程に使用することもできる。
【0046】
一般式(3)の化合物に、ジイソプロピルジクロロシラン、ジシクロペンチルジクロロシラン、ジシクロヘキシルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のケイ素試剤を用いる場合に、一般式(4)で表される中間生成物として、クロロシラン、エステルシランが得られる。中間生成物がクロロシラン、エステルシランの場合、反応液に水を加えて加水分解することでシラノールを得ることができる。
【0047】
一般式(3)の化合物に、ジイソプロピルクロロシラン、ジ−sec−ブチルクロロシラン、tert−ブチルメチルクロロシラン、メチルフェニルクロロシラン、ジ−sec−ブチルメトキシシラン、tert−ブチルメチルメトキシシラン、メチルフェニルメトキシシラン等のケイ素試剤を用いる場合に、一般式(4)で表される中間生成物として、ヒドロシランが得られる。中間生成物としてヒドロシランが生成する場合、金属触媒又は塩基性触媒の存在下に水を作用させて酸化させることでシラノールを得ることができる。このときの金属触媒の例としては、活性炭担持パラジウム、酢酸パラジウム、活性炭担持ルテニウム、トリルテニウムドデカカルボニルが、塩基性触媒の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド等が挙げられる。これら触媒の使用量は、一般式(3)の化合物に対して、0.0001〜10モル、特に0.001〜1モルが好ましい。シラノール生成反応の反応温度は、−0℃〜200℃、特に0℃〜100℃が好ましく、反応時間は30分〜30時間、特に1時間〜20時間が好ましい。溶媒は、エーテル系溶媒や炭化水素系溶媒やアルコール系溶媒が好ましく、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ヘキサン、ペンタン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0048】
上記のようにして得られたシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体は、さらに精製することができる。精製方法としては、HPLC、シリカゲルクロマトグラフィーなどが挙げられるが、これらには限定されない。本実施形態によるトリアリールアミン誘導体は、特に精製が容易であるという利点がある。
【0049】
本発明は、別の実施形態によれば、上記一般式(1)で表されるシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体を、無機材料の表面に結合させてなる無機複合材料である。以下、この無機複合材料について説明する。
【0050】
本実施形態による無機材料の種類は限定されないが、例えばシリコン、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、鉄、ニッケル、銅、コバルト、クロム、モリブデン、ルテニウム
、銀、真鍮、ステンレススチール等の金属、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化インジウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化インジウムスズ、酸化アルミニウム亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化インジウムガリウム亜鉛、フッ素ドープ酸化スズ等の金属酸化物、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス等が挙げられる。なかでも酸化インジウムスズ、酸化インジウム亜鉛、酸化アルミニウム亜鉛、酸化亜鉛、酸化インジウムガリウム亜鉛、フッ素ドープ酸化スズ等の透明導電性酸化物が好ましく、酸化インジウムスズが特に好ましい。
【0051】
無機材料は、固体材料であればよく、その形状は限定されない。特には、板状、球状、盤状、粒子状、多孔質状などの、いずれの形状であってもよく、またこれらの例示した形状には限定されない。固体材料の表面形状についても限定されず、平面状、曲面状、マイクロ構造、ナノ構造等いずれであってもよく、またこれらの例示した形状には限定されない。なお、多孔質状の無機材料において、表面とは、BET法比表面積測定法により測定される、分子が物理吸着できる箇所をいう。
【0052】
本実施形態による無機複合材料は、上記一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体のシラノール基と、無機材料の表面に存在する反応性基を反応させて共有結合を形成させたものである。すなわち、シラノール基を有するトリアリールアミン誘導体が、無機材料表面に、Si−O結合を介して共有結合した無機複合材料である。
【0053】
無機材料表面の反応性基の種類は上記一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体のシラノール基と反応することができる限りにおいて限定されない。例えば、反応性基としては、メルカプト基、アミノ基、水酸基、炭素数1〜10のアルコキシ基、イソシアナート基等が挙げられるが、水酸基であることが好ましい。
【0054】
本実施形態による無機複合材料は、無機材料の表面全体にトリアリールアミン誘導体が結合されているものでもよく、無機材料の表面の一部分のみに結合されたものであってもよい。
【0055】
本実施形態による、シラノール基を有するトリアリールアミン誘導体を無機材料の表面に結合させてなる無機複合材料は、有機電界発光素子の製造において有利に用いることができる。かかる無機複合材料においては、無機材料の表面にケイ素−酸素結合が形成されており、界面における電荷の移動効率が向上している点で、特に有用である。
【0056】
次に、本実施形態に係る無機複合材料を、製造方法の観点から説明する。無機複合材料の製造方法は、無機材料を親水化処理する工程と、上記一般式(1)で表されるシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体を無機材料と接触させる工程と、任意選択的に、トリアリールアミン誘導体と無機材料との間に結合を形成させる工程とを含む。
【0057】
出発物質となる無機材料の種類及び形状については、上記のとおりである。無機材料が表面に反応性基、典型的には水酸基を有する場合は、無機材料に対して何ら前処理をすることなく、そのまま、トリアリールアミン誘導体と接触させる工程に使用することができる。しかし、無機材料表面に水酸基がない場合、もしくは少ない場合には、無機材料表面に対し、親水化処理を行う工程を実施することが好ましい。反応点を増加させるためである。親水化処理としては、一般に知られている処理を用いることができる。例えば、酸素プラズマ処理、コロナ処理、UVオゾン処理等の乾式処理やピラニア溶液(硫酸−過酸化水素水)を用いた湿式処理によって無機材料表面を酸化的に親水化処理し、表面水酸基の数を増やすことができる。あるいは、熱酸化法、CVD法、スパッタ法などにより、酸化ケイ素等の無機薄膜層を表面に設けることによって反応点を増加させることもできる。こ
のように、無機材料を親水化処理する工程は、任意選択的な前処理工程ということができ、無機複合材料の製造方法においては、かかる工程を含まないこともある。
【0058】
一般式(1)で表されるシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体を無機材料と接触させる工程は、任意の方法で実施することができる。例えば、接触させる工程の一例として、一般式(1)の化合物の溶液を用いる溶液法が挙げられる。溶液法においては、接触させる工程は、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の溶液を調製する工程と、(a)溶液に無機材料を浸漬して表面に塗布する工程、(b)溶液をスピンコートやスプレーコート等の技術により無機材料表面に塗布する工程、(c)マイクロコンタクトプリント等の技術により無機材料表面に転写する工程から選択される工程とを含む。なお、上記(a)、(b)、(c)以外にも、溶液を無機材料表面に接触させる、通常の方法を採用することもできる。トリアリールアミン誘導体の溶液の調製においては、例えばトルエン、キシレン、メシチレン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル等の溶媒に、0.001〜100mM、好ましくは0.01〜10mMとなるように、トリアリールアミン誘導体を溶解させることが好ましい。無機材料表面の活性基、特には水酸基と、十分に反応させる濃度とするためである。
【0059】
別法として、一般式(1)のトリアリールアミン誘導体の蒸気と無機材料とを接触させる気相法が挙げられる。気相法においては、反応室内に一般式(1)で表される化合物を揮発させる工程と、無機材料を共存させて、一般式(1)で表される化合物を気相で表面に吸着させる工程とを含む方法等が挙げられる。気相法においては、反応室におけるトリアリールアミン誘導体の蒸気圧が10−6〜10−2Paとなる条件とすることが好ましい。
【0060】
溶液法においても、気相法においても、接触させる温度は任意であり、無機材料の性質や一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の性質に応じて選択される。例えば、0〜300℃の範囲が好ましいがこの範囲には限定されない。また、圧力は任意であるが、溶液法では特には、常圧下または加圧下が好ましい。一方、気相法の場合には特には、減圧下で行うことが好ましい。
【0061】
結合を形成させる工程は、接触させる工程と同時に行うこともできるし、接触させる工程の後に結合を形成させる工程を別途実施することもできる。結合を形成させる工程を、接触させる工程の後に行う場合には、結合を形成させる温度は任意であり、無機材料の性質や一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の性質に応じて選択されるが、0〜300℃が好ましい。例えば、溶液法により、常温で接触させる工程を実施する場合には、溶媒を揮発させた後、トリアリールアミン誘導体を接触させた無機材料を20〜250℃に、好ましくは40〜200℃において、1〜120分間程度加熱することにより、結合を形成させる工程を実施することができる。加熱は、通常使用されるヒータやホットプレートによって実施することができる。
【0062】
本発明の式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体は、触媒を使用しないで無機材料と結合させることができる点で特に有利であり、かかる無触媒下で結合を形成させることが簡便で好ましい。しかし、結合を形成させる工程では、必要に応じて、触媒を用いることもできる。触媒を使用する場合は、接触させる工程の後に触媒を作用させて結合を形成させることもできるし、接触工程において触媒を共存させて結合形成工程を同時に行うことも可能である。酸性あるいは塩基性を示す様々な物質を触媒として使用することができ、具体例としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のブレンステッド酸、四塩化チタン、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化スズ、塩化亜鉛、ジブチルスズジラウレート、チタンテトライソプロポキシド、三塩化ホ
ウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、イットリウムトリフレート、イッテルビウムトリフレート、トリメチルシリルトリフレート、tert−ブチルジメチルシリルトリフレート等のルイス酸、活性白土、陽イオン交換樹脂等の固体酸、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムtert−ブトキシド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等のアルカリ土類金属塩、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化スカンジウム等の金属酸化物、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン、ヘキサメチレンテトラミン、グアニジン等の窒素化合物、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、トリエチルアミントリフルオロメタンスルホン酸塩、ピリジン塩酸塩、トリブチルホスフォニウムテトラフルオロボレート、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等のオニウム塩等が挙げられる。触媒の使用量は任意であり、結合形成速度に応じて決定することができるが、式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体に対するモル比が、0.0001〜10の比率となるように添加することが好ましい。
【0063】
接触させる工程と、任意選択的に行なわれる結合を形成させる工程とに次いで、必要に応じて、後処理工程を実施することもできる。後処理工程としては、得られた無機複合材料を超音波処理して、未結合のトリアリールアミン誘導体を除去する工程を含んでもよい。その他、例えばエタノールやトルエン等任意の溶媒を用いた洗浄、加熱による揮発成分の除去、減圧下での乾燥や揮発成分の除去及びこれらの複数の組み合わせ等の工程を含んでもよい。
【0064】
上記製造方法によれば、有機電界発光素子の製造において有利に用いることができる無機複合材料を簡便に製造することができる点で有利である。
【0065】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0066】
[m−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)フェニルジフェニルアミン[化合物(1−1)]の合成]
窒素雰囲気下、m−ブロモトリフェニルアミン976.0mg(3.01mmol)をテトラヒドロフラン溶媒中、−78℃で1.67mMのn−ブチルリチウム2.0ml(3.34mmol)を加えて30分攪拌後、ジイソプロピルジクロロシラン881.3mg(4.79mmol)を加えて徐々に昇温し、終夜で攪拌した。得られた溶液に、水とトルエンを加えた後、分液操作により有機層を抽出した。得られた溶液を硫酸マグネシウムにより乾燥し、ロータリーエバポレーターにて減圧濃縮した後、HPLCにより精製して黄色液体950.6mg(2.53mmol)を収率84.1%で得た。この液体のGC−MSスペクトルを測定した結果、m−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)フェニルジフェニルアミンであることが確認された。
GC−MS m/z:375 (M)
【実施例2】
【0067】
[N,N’−ビス(m−ジイソプロピルヒドロキシシリルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン[化合物(1−10)]の合成]
窒素雰囲気下、N,N’−ビス(m−ブロモフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン654.2mg(1.01mmol)をテトラヒドロフラン溶媒中、−78℃で1.65mMのn−ブチルリチウム1.5ml(2.48mmol)を加えて30分攪拌後、ジイソプロピルジクロロシラン743.9mg(4.04mmol)を加えて徐々に昇温し、終夜で攪拌した。得られた溶液に、水とトルエンを加えた後、分液操作により有機層を抽出した。得られた溶液を硫酸マグネシウムにより乾燥し、ロータリーエバポレーターにて減圧濃縮した後、HPLC及びGPCにより精製して無色液体365.9mg(0.49mmol)を収率48.4%で得た。この液体のMALDI−TOFMSスペクトルを測定した結果、N,N’−ビス(m−ジイソプロピルヒドロキシシリルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジンであることが確認された。
H - NMR(600 MHz, d in CDCl3) : 0.91 (d,J=7.3 Hz, 12H), 1.00 (d,J=7.3 Hz,12H), 1.12(sept,J=7.3Hz,2H), 6.98 (t,J=6.9Hz, 2H) , 7.05−7.15(m,10H),
7.17− 7.27 (m,10H), 7.29(s,2H),7.41(d, J=7.
8Hz, 4H)
MALDI−TOFMS m/z:749 (M)
【実施例3】
【0068】
m−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)フェニルジフェニルアミン[化合物(1−1)]を表面に結合させたガラスの製造
実施例1で合成したm−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)フェニルジフェニルアミンをアセトニトリルと混合して、無色透明の1mMアセトニトリル溶液を調製した。表面を10分間UVオゾン処理したスライドガラスをこの溶液に3分間浸漬した後引き上げて、溶媒を揮発させた。次いで、このスライドガラスを180℃のホットプレート上で5分間加熱した後、室温に冷却し、0.25mmol/L 硫酸/エタノール中で15分間超音波洗浄して基板と結合していない化合物1−1を除去した。エタノール中で5分間さらに超音波洗浄し、室温で窒素を吹き付けて乾燥させた。
【0069】
得られた試料表面のX線光電子分光(XPS)測定の結果を表1に示す。表1において未処理ガラスとは、表面をUVオゾン処理したスライドガラスであって、化合物1−1を表面に結合させる処理を行っていないガラスのことである。未処理ガラスと比較すると、実施例3で製造したガラス表面では化合物1−1に由来する窒素、炭素の比率が増加しており、ガラス表面に化合物1−1が結合したことがわかる。実施例3で製造したガラス表面のケイ素は未処理ガラス表面表面のケイ素と比較して減少している。これは、未処理ガラス表面にガラス由来のケイ素が多量存在するためである。
【0070】
【表1】

【実施例4】
【0071】
m−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)フェニルジフェニルアミン[化合物(1−1)]を表面に結合させたITO膜付きガラスの製造
実施例1で合成したm−(ヒドロキシジイソプロピルシリル)フェニルジフェニルアミンをアセトニトリルと混合して、無色透明の1mMアセトニトリル溶液を調製した。表面を10分間UVオゾン処理したITO(酸化インジウムスズ)膜付きガラスをこの溶液に
3分間浸漬した後引き上げて、溶媒を揮発させた。次いで、このITO膜付きガラスを180℃のホットプレート上で10分間加熱した後、室温に冷却し、0.25mmol/L 硫酸/エタノール中で15分間超音波洗浄して基板と結合していない化合物1−1を除去した。エタノール中で5分間さらに超音波洗浄し、室温で窒素を吹き付けて乾燥させた。得られた試料表面のXPS測定の結果を表2に示す。
【0072】
表2において未処理ITOガラスとは、表面をUVオゾン処理したITO膜付きガラスであって、化合物1−1を表面に結合させる処理を行っていないITOガラスのことのことである。未処理ITOガラスと比較すると、実施例4で製造した試料表面では化合物1−1に由来する窒素、炭素、ケイ素の比率が増加しており、ITOに由来するインジウムは減少している。よって、実施例4では、ITO膜表面に化合物1−1が結合したことがわかる。
【0073】
【表2】

【実施例5】
【0074】
N,N’−ビス(m−ジイソプロピルヒドロキシシリルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン[化合物(1−10)]を表面に結合させたITOガラスの製造
実施例2で合成したN,N’−ビス(m−ジイソプロピルヒドロキシシリルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジンをアセトニトリルと混合して、無色透明の0.5mMアセトニトリル溶液を調製した。ITO(酸化インジウムスズ)膜表面を10分間UVオゾン処理したITO膜付きガラスをこの溶液に5分間浸漬した後引き上げて、溶媒を揮発させた。次いで、このITO膜付きガラスを180℃のホットプレート上で30分間加熱した後、室温に冷却し、0.25mmol/L 硫酸/エタノール中で15分間超音波洗浄して基板と結合していない化合物を除去した。エタノール中で5分間さらに超音波洗浄し、室温で窒素を吹き付けて乾燥させた。
【0075】
得られたITO膜付きガラス表面のXPS測定の結果を表3に示す。表3において未処理ITOガラスとは、ITO膜表面をUVオゾン処理したITO膜付きガラスであって、化合物1−10を表面に結合させる処理を行っていないITOガラスのことである。未処理ITOガラスと比較すると、実施例5で製造したITO膜付きガラス表面では、化合物1−10に由来する窒素、炭素、ケイ素が増加しており、ITOに由来するインジウムは減少している。よって、実施例5では、ITO膜表面に化合物1−10が結合したことがわかる。
【0076】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によるシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体は、電子写真用感光体や有機電界発光素子の正孔輸送材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、シラノール基を有するトリアリールアミン誘導体。
【化1】

[一般式(1)中、R〜R15は、それぞれ独立に、一般式(2)で表されるジアリー
ルアミノ基、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の1価炭化水素基(置換基として一般式(2)で表されるジアリールアミノ基が含まれていてもよい。)、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、ハロゲン原子、水素原子、アミノ基から選択される置換基を表す。ただし、R、R、R、R、R11、R14中、少なくとも一つはSiR1617OH(式中、R16、R17はそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の一価炭化水素基を含む。)で表される置換基を含む。]
【化2】

(一般式(2)中、R21、R23,R25、R26、R28、R30はそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の1価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、ハロゲン原子、水素原子、アミノ基から選択される置換基を表す。R22、R24、R27、R29はそれぞれ独立に、炭素数1〜20の直鎖、分岐、もしくは環状の1価炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、ハロゲン原子、水素原子、アミノ基、SiR1617OHで表される置換基から選択される置換基を表す。ただし、R25、R26が存在せず、窒素原子に対してオルト位の炭素が結合してカルバゾール環構造を形成してもよい。)
【請求項2】
上記一般式(1)において、R16及びR17の一方もしくは両方が炭素数3〜20の分岐、もしくは環状の一価炭化水素基である請求項1記載のシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体。
【請求項3】
下記一般式(3)で表される化合物と、金属又は有機金属を反応させる工程と、
前記工程で得られた反応生成物と、ケイ素試剤とを反応させる工程と
を含む、請求項1に記載のシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体の製造方法。
【化3】

(一般式(3)中、R1a〜R15aは、それぞれ、一般式(1)のR〜R15と同一である。ただし、R〜R15にSiR1617OHで表される置換基が存在する場合、対応するR1a〜R15aでは、SiR1617OHに替えてハロゲン原子を含む。)
【請求項4】
下記一般式(4)で表される、請求項1に記載のシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体の中間生成物。
【化4】

(一般式(4)中、R1b〜R15bは、それぞれ、一般式(1)のR〜R15と同一である。ただし、R〜R15にSiR1617OHで表される置換基が存在する場合、対応するR1b〜R15bでは、SiR1617OHに替えて、SiR1617X(X=Cl又はH)を含む。)
【請求項5】
請求項1または2に記載のシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体を、無機材料の表面に結合させてなる無機複合材料。
【請求項6】
前記無機材料が、透明導電性酸化物である、請求項5に記載の無機複合材料。
【請求項7】
請求項5に記載の無機複合材料の製造方法であって、
請求項1に記載のシラノール基を有するトリアリールアミン誘導体を無機材料と接触させる工程を含む、方法。

【公開番号】特開2013−40158(P2013−40158A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252662(P2011−252662)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】