説明

シランカップリング剤溶液の製造方法、シランカップリング剤溶液、それを用いた基材の表面処理方法、ならびにそれを用いた位相差板の製造方法

【課題】 密着性に優れるシランカップリング剤溶液の製造方法、シランカップリング剤溶液を提供する。
【解決手段】 まず、有機ケイ素化合物を水と混合して、有機ケイ素化合物水溶液を調製する。そして、有機ケイ素化合物水溶液をアルコールと混合することによりシランカップリング剤溶液を製造する。このような製造方法によれば、従来と比べて、高いシラノール化率を実現でき、これに伴って優れた密着性を実現するシランカップリング剤を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランカップリング剤溶液の製造方法、シランカップリング剤溶液、それを用いた基材の表面処理方法、ならびにそれを用いた位相差板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シランカップリング剤は、例えば、無機材料と有機材料のように、相互になじみの悪い材質から形成される層を積層する際に、前記両者の密着性を向上させる試薬として広く一般に使用されている。シランカップリング剤によれば、接着剤等とは異なり、以下に示すような化学結合によって、前記両者の密着性を向上させることができる。具体例として、ガラス板上にポリマー層を形成する場合を説明する。まず、前記ガラス板表面に、一端にシラノール基を有するシランカップリング剤を接触させる。これによって、前記シラノール基と、前記ガラス板の反応官能基(例えば、水酸基)とが化学反応により結合し、前記ガラス板上にシランカップリング剤の一端が結合した層(表面改質層)が形成される。そして、前記表面改質層の上にポリマー層を形成すると、前記表面改質層の表面、すなわち、シランカップリング剤の他端の反応官能基と、前記ポリマーの反応官能基とが、化学反応により結合する。このように、シランカップリング剤によれば、ガラス板と表面改質層、前記表面改質層とポリマーとがそれぞれ化学結合することで、ガラス板とポリマー層との密着性が向上するのである。
【0003】
しかしながら、このような従来のシランカップリング剤を使用しても、密着性が不十分な場合があるため、さらなる密着性の向上が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、より一層密着性に優れるシランカップリング剤溶液の製造方法、シランカップリング剤溶液を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、有機ケイ素化合物と水とを混合する工程、および、前記有機ケイ素化合物と水との混合液にアルコールを混合する工程を含むシランカップリング剤溶液の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
シランカップリング剤の主成分である有機ケイ素化合物は、前述のように、一般にシラノール基を介して他の部材の反応官能基と化学結合する。このシラノール基は水溶液中で形成されることから、通常、シランカップリング剤は、有機ケイ素化合物を水溶液と混合することによって調製される。しかしながら、このようにして調製したシランカップリング剤水溶液を、例えば、表面に水酸基を有する基板に塗布すると、前記水溶液が前記基板表面ではじかれ、シランカップリング剤水溶液を均一に塗布できない場合がある。このため、従来は、シランカップリング剤を、水とアルコールとの混合液に溶解して使用している。しかし、水とアルコールとの混合液を使用した場合、シランカップリング剤を水溶液に溶解した場合に比べて、密着性が低下するという問題が生じた。そこで、本発明者等は、密着性低下の原因を解明すべく、研究を重ねた結果、シランカップリング剤を水とアルコールとの混合液に添加すると、シラノール基の形成が抑制され、シラノール化率が低下することを突き止めた。そして、シランカップリング剤溶液のシラノール化率の向上を目的として、さらに研究を行った結果、シランカップリング剤に対する水とアルコールの混合順序が重要であることを見出し、本発明に到達したのである。
【0007】
つまり、本発明のように、まず、有機ケイ素化合物を水と混合して十分にシラノール基を形成させた後、さらにアルコールを混合すれば、そのメカニズムは不明ではあるが、高いシラノール化率を実現でき、かつ、均一な塗工も可能となる。このため、本発明によれば、従来と比べて、優れた密着性を実現するシランカップリング剤溶液を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のシランカップリング剤溶液の製造方法について説明する。まず、前述のように、有機ケイ素化合物を水と混合して、有機ケイ素化合物水溶液を調製する。この水との混合によって、末端のシリル基に加水分解反応が起こり、シラノール基が形成される。
【0009】
前記有機ケイ素化合物としては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物を使用できる。
【0010】
【化4】

【0011】
前記一般式(I)において、Xは、例えば、ハロアルキル基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アミノ基、イソシアナト基、ウレイド基、下記一般式(a)で示される基または下記一般式(b)で示される基を示し、
1、R2およびR3は、例えば、水素原子、アルコキシ基またはアルキル基を示し、これらの少なくとも1つは、アルコキシ基である。これらR1、R2およびR3は同一であってもよいし、異なっていてもよいが、全てがアルコキシ基であることが好ましい。nは、例えば、1から10の整数、好ましくは1から5の整数を示す。
【0012】
【化5】

【0013】
なお、前記一般式(a)において、Y1、Y2、Y3およびZ1は任意の置換基であり、前記一般式(b)において、Y4、Y5、Y6およびZ2は任意の置換基である。
【0014】
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等があげられ、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。なお、R1、R2およびR3は、アルコキシ基の他に、例えば、加水分解反応によって水酸基となるものであってもよく、この場合、R1、R2およびR3の少なくとも1つ、または全部が加水分解反応によって水酸基となる基であってもよい。
【0015】
前記一般式(I)において、Xが前記一般式(a)である場合、Y1、Y2およびY3としては、それぞれ、例えば、水素原子、アルキル基およびアリール基等があげられ、これらは同一であってもよいし、異なっていてもよく、また、Z1としては、例えば、結合手、下記化学式(1)、下記化学式(2)および下記化学式(3)等があげられる。
【0016】
【化6】

【0017】
前記一般式(I)において、Xが前記一般式(b)である場合、Y4、Y5およびY6としては、それぞれ、例えば、水素原子、アルキル基およびアリール基等があげられ、これらは同一であってもよいし、異なっていてもよく、Z2としては、例えば、結合手、前記化学式(1)、前記化学式(2)および前記化学式(3)等があげられる。
【0018】
前記一般式(I)において、前記アルキル基、ハロアルキル基およびアルキルスルファニル基等の「アルキル」部分は、例えば、1から6個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルキルを示し、具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル等があげられる。中でも、1から4個の炭素原子を有するものが好ましく、メチルがより好ましい。
【0019】
前記ハロアルキル基における「ハロゲン」としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等があげられ、前記ハロアルキル基としては、例えば、クロロメチル基、フルオロメチル基、ヨウ化メチル基、トリフルオロメチル基、クロロエチル基、フルオロエチル基、ヨウ化エチル基、クロロプロピル基等があげられる。
【0020】
前記アリール基としては、例えば、6から20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基があげられ、中でもフェニル基、ナフチル基、アントラニル基等が好ましい。
【0021】
また、前記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等があげられ、中でもγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらは、1種類で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
また、前記有機ケイ素化合物は、不飽和炭化水素基を有することが好ましい。前記不飽和炭化水素基を有する有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニル基を含む有機ケイ素化合物があげられ、具体例としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等があげられる。
【0023】
前記有機ケイ素化合物(A)と水(B)との混合比(重量比A:B)は、例えば、1:50〜10:1であることが好ましく、より好ましくは1:20〜8:1であり、さらに好ましくは1:10〜5:1である。
【0024】
前記有機ケイ素化合物と水との混合方法は、特に限定されず、例えば、水を撹拌しながら、前記有機ケイ素化合物を滴下する方法があげられる。
【0025】
また、前記有機ケイ素化合物と水とを混合する工程において、さらに、酸、アルカリ等の触媒等を混合してもよい。このような触媒を混合することによって、前記有機ケイ素化合物の加水分解をさらに促進し、また、加水分解によって形成されるシラノール基のシランカップリング剤溶液における安定性をさらに向上できる。前記触媒としては、例えば、酢酸、ギ酸、塩酸、無水酢酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバリン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等があげられ、好ましくは無水酢酸、酢酸、シュウ酸である。これらの触媒は、例えば、予め水と混合した後に、有機ケイ素化合物と混合してもよいし、水とは別個に添加してもよい。
【0026】
前記有機ケイ素化合物(A)と前記触媒(D)との重量比(A:D)は、例えば、100:1〜1:10であることが好ましく、より好ましくは50:1〜1:8であり、さらに好ましくは20:1〜1:5である。この際、前記水(B)と触媒(D)との重量比(B:D)は、例えば、1000:1〜1:2であり、好ましくは500:1〜1:1.5であり、より好ましくは100:1〜1:1である。
【0027】
続いて、前記有機ケイ素化合物水溶液を、アルコールと混合する。前記アルコールとしては、例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等があげられ、好ましくはイソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノールである。前記アルコールは、1種類で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
前記アルコール(C)は、前記有機ケイ素化合物(A)との重量比(A:C)が、例えば、1:10〜1:1000となるように添加することが好ましく、より好ましくは1:20〜1:500であり、さらに好ましくは1:30〜1:200である。この際、前記水(B)とアルコール(C)との重量比(B:C)は、例えば、1:1〜1:1000であり、好ましくは1:2〜1:500であり、より好ましくは1:5〜1:100である。
【0029】
このようにして、本発明のシランカップリング剤溶液を得ることができる。本発明のシランカップリング剤溶液は、前述のような製造方法により、そのシラノール化率(%)を、例えば、40%〜100%とすることができ、好ましくは60%〜100%であり、より好ましくは80%〜100%である。従来の製造方法では、シラノール化率が、例えば、1%〜20%程度であるが、本発明によれば、このように高いシラノール化率を実現することができる。
【0030】
前記シラノール化率(%)は、例えば、有機ケイ素化合物の末端シリル基における加水分解反応によって生成した加水分解物の量から算出できる。具体的には、有機ケイ素化合物が、例えば、その末端にアルコキシシリル基を有する場合、加水分解によってアルコールが生成される。したがって、まず、シランカップリング剤溶液中のアルコール生成量(S1)を、例えば、ガスクロマトグラフィーにより定量する。一方、シランカップリング剤溶液中の有機ケイ素化合物量から、理論上のアルコール生成量(S0)を算出する。そして、測定したアルコール生成量(S1)と理論上のアルコール生成量(S0)とを用いて、下記式より、アルコール生成率(%)を算出し、これをシラノール化率とする。例えば、有機ケイ素化合物の末端がメトキシ基の場合、生成されるアルコールはメタノールであり、エトキシ基の場合には、エタノールとなる。
シラノール化率(アルコール生成率)(%)=(S1/S0)×100
【0031】
なお、前記理論上のアルコール生成量(S0)は、例えば、以下のようにして算出する。まず、シランカップリング剤溶液に溶解させた有機ケイ素化合物の重量(x(g))を測定する。そして、前記有機ケイ素化合物の重量(x(g))、有機ケイ素化合物の分子量(MSi)、有機ケイ素化合物中のアルコキシ基の分子量(MR0)、および有機ケイ素化合物中のアルコキシ基の数(y(1〜3))を用いて、下記式より理論上のアルコール生成量(S0)を算出する。
理論上のアルコール生成量(S0)=(x/MSi)×y×(MR0+1)
【0032】
本発明のシランカップリング剤溶液は、触媒として酸を加えた場合、そのpHは、例えば、pH1〜pH6であり、好ましくはpH2〜pH5.5であり、より好ましくはpH3〜pH5である。触媒としてアルカリを加えた場合、そのpHは、例えば、pH8〜pH14であり、好ましくはpH8.5〜pH13であり、より好ましくはpH9〜pH12である。この中でも、シラノール基の安定性の面から、弱酸性領域(例えば、pH3〜pH5)にすることが特に好ましい。
【0033】
本発明のシランカップリング剤溶液における有機ケイ素化合物濃度は、特に制限されないが、例えば、0.01重量%〜10重量%であり、好ましくは0.05量%〜7重量%であり、より好ましくは0.1重量%〜5重量%である。
【0034】
つぎに、本発明の基材表面処理方法は、本発明のシランカップリング剤溶液を用いた基材の表面処理方法であって、前記基材に前記シランカップリング剤溶液を接触させ、その後、前記シランカップリング剤溶液を乾燥させて、前記基材上に表面改質層を形成することを含む。本発明によれば、前述の本発明のシランカップリング剤溶液を使用するため、形成された表面改質層上に他の層を形成すれば、従来よりも優れた密着性を実現できる。
【0035】
前記シランカップリング剤溶液の接触方法は、特に制限されないが、例えば、前記基材をシランカップリング剤溶液に浸漬する方法や、前記基材表面上にシランカップリング剤溶液を塗工する方法等があげられる。前記塗工方法も特に限定されず、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤバーコート法、ディップコート法、エクストルージョン法、カーテンコート法、スプレコート法等の従来公知の方法が採用でき、この中でも、塗工効率の点からスピンコート法、エクストルージョンコート法が好ましい。
【0036】
前記乾燥方法は、特に限定されず、例えば、自然乾燥や加熱乾燥等の乾燥があげられる。乾燥温度は、例えば、20℃〜200℃であり、好ましくは50℃〜180℃であり、より好ましくは80℃〜150℃である。乾燥時間は、例えば、1分〜30分であり、好ましくは1分〜20分であり、より好ましくは1分〜10分である。また、前記基材と前記表面改質層との親和性がより高くなることから、前記乾燥後、さらに加熱することが特に好ましい。加熱温度は特に限定されず、例えば、50℃〜200℃であり、好ましくは80℃〜180℃であり、より好ましくは100℃〜150℃である。また、前記加熱温度を段階的に上昇させながら加熱してもよい。加熱時間も特に限定されず、例えば、1分〜30分であり、好ましくは1分〜20分であり、より好ましくは1分〜10分である。なお、前記乾燥と加熱とは、別々に行ってもよいし、同時に行ってもよい。
【0037】
前記基材の材質は、特に限定されず、例えば、種々の有機高分子化合物や、ガラス等の無機材料等が使用できる。また、前記表面改質層との密着性がより高くなることから、その表面に親水基(例えば、水酸基等)を含む基材を使用することが好ましい。一方、表面に親水基を含まない基材であっても、例えば、基材の表面にケン化処理等の親水化処理を施すことによって、前記表面上に親水基を付与できる。なお、使用できる基材の具体例については、後述する。
【0038】
前記シランカップリング剤溶液の塗工量は、特に制限されず、例えば、有機ケイ素化合物の濃度等によって適宜決定できる。
【0039】
前記表面改質層の厚みは、例えば、1nm〜30nmであり、好ましくは3nm〜25nmであり、より好ましくは5nm〜20nmである。
【0040】
本発明において、表面改質層を介した、基材と前記基材の他の層との密着性は、例えば、JIS K 5400−1990に基づく碁盤目剥離試験で評価できる。具体的には、剥離の仕方により、10、8、6、4、2、0の6段階の評価に分類されており、10であれば密着性が最もよく、0であれば最も悪い(剥離した)と判断できる。前記密着性は、例えば、4〜10であり、好ましくは6〜10であり、より好ましくは8〜10である。
【0041】
つぎに、本発明の表面処理方法を用いた積層位相差板の製造方法について説明する。
【0042】
本発明の位相差板の製造方法は、基材上に位相差層が積層された積層位相差板の製造方法であって、前記本発明の基材の表面処理方法を含むことを特徴とし、例えば、前記表面処理方法により前記基材上に表面改質層を形成する工程と、前記表面改質層上に位相差層を形成する工程とを含む製造方法である。以下に、本発明の位相差板の製造方法の一例について説明する。
【0043】
まず、前述のような本発明の基材の表面処理方法により、基材上に表面改質層を形成する。前記基材の材質としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロースおよびトリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンおよびアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系およびノルボルネン等の構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンおよび芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマーおよびエポキシ系ポリマー等があげられる。これらは、1種類で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
また、前記基材としては、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムもあげられる。このポリマー材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基およびシアノ基を有する熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物が使用できる。具体例としては、イソブテンとN−メチルマレイミドとからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物があげられる。なお、前記ポリマーフィルムは、例えば、前記樹脂組成物の押出成形物であってもよい。
【0045】
前記基材は、シランカップリング剤溶液の接触面が、配向規制力を有することが好ましい。配向規制力を付与する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜用いることができ、例えば、ラビング処理や、基材の延伸等があげられる。
【0046】
前記表面改質層の厚みは、前記基材と後述する位相差層との密着性を保ち、かつ、前記基材の配向規制力が維持されていれば特に限定されず、例えば、1nm〜30nmであり、好ましくは3nm〜25nmであり、より好ましくは5nm〜20nmである。
【0047】
つぎに、前記表面改質層上に液晶性化合物を塗工して、液晶性化合物含有層を形成する。これは、例えば、以下に示す液晶性化合物を含む塗工液を調製し、それを前記表面改質層表面に塗布すること等により行うことができる。
【0048】
前記液晶性化合物は、特に制限されず、例えば、前記基材の配向規制力に応じて配向し、かつ形成された層が複屈折を発現する材料が好ましく、従来公知の材料が使用できる。前記液晶性化合物としては、例えば、液晶性ポリマー、液晶性モノマー、液晶プレポリマー等が使用できる。また、例えば、棒状液晶化合物、平板状液晶化合物等を使用してもよい。これらは、1種類で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。具体例としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類等や、それらのポリマーがあげられる。また、前記液晶性化合物は、液晶相がネマチック相である液晶材料(ネマチック液晶)が好ましい。
【0049】
前記液晶性化合物は、例えば、前記液晶性化合物をコレステリック構造に配向させるカイラル剤と併用してもよい。例えば、前記液晶性化合物がネマチック相を示す場合、前記カイラル剤によって液晶材料にねじりが付与され、最終的にコレステリック構造にできるからである。
【0050】
また、前記液晶性化合物が液晶性モノマーの場合、例えば、重合性モノマーや架橋性モノマーであることが好ましい。これは、後述するように液晶性化合物を配向させた後、これらを重合または架橋させることによって、液晶性モノマー等の配向状態を固定できるためである。液晶性モノマーを配向させた後に、例えば、液晶性モノマー間や、液晶性モノマーとカイラル剤との間を重合や架橋させれば、それによって前記配向状態を固定することができる。そして、このように重合等によりポリマーが形成されることとなるが、形成されたポリマーは非液晶性となる。このため、形成された位相差層は、コレステリック液晶相のような配向構造をとるが、液晶性を示さないため(ポリマー自体は非液晶分子となる)、例えば、液晶分子に特有の温度変化による液晶相、ガラス相、結晶相への変化が起きることもない。したがって、前記位相差層は温度変化に影響されない、極めて安定性に優れた位相差層となる。
【0051】
前記塗工液は、例えば、液晶性化合物を溶媒に分散または溶解することによって調製できる。前記溶媒は特に限定されないが、前記液晶性化合物を溶解しやすく、前記表面改質層や基材を浸食しにくいものが好ましい。前記溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトンや、酢酸エチル等のエステルや、トルエン等の炭化水素等があげられる。
【0052】
また、前記塗工液は、例えば、形成する位相差層の機能を阻害しない範囲で、さらに、レベリング剤、粘度調整剤等を適宜含んでいてもよい。また、前述のように液晶性化合物が液晶性モノマーや液晶性プレポリマーを含む場合には、さらに光重合開始剤や架橋剤を含むことが好ましい。前記光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、チバスペシャリティーケミカルズ社製Irgacure907、Irgacure369、Irgacure184(いずれも商品名)やこれらの混合物等が好ましい。前記重合開始剤や架橋剤の添加量も特に限定されず、液晶性化合物に対し、例えば、0.1重量%〜10重量%、好ましくは1重量%〜5重量%である。
【0053】
前記塗工液を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延製膜法、バーコート法、グラビア印刷法等があげられる。
【0054】
次に、前記基材表面の配向規制力に応じて前記液晶性化合物含有層の液晶性化合物を配向させる。これは、一般に、使用した液晶性化合物の種類に応じて、液晶相を示す温度(液晶温度)で処理することによって行える。このような温度処理を行えば、液晶性化合物が液晶状態をとり、前記基材表面の配向規制力に応じて前記液晶性化合物が配向する。これによって、前記液晶性化合物含有層に複屈折が生じ、位相差層となるのである。
【0055】
温度処理の方法は、特に制限されず、例えば、前記液晶性化合物含有層をその液晶温度にまで加熱する方法や、一度液晶温度を超える温度に加熱した後、液晶温度にまで冷却する方法等があげられる。前記液晶温度は、含まれる液晶性化合物の種類等によって適宜決定されるが、例えば、20℃〜150℃であり、好ましくは20℃〜120℃であり、特に好ましくは20℃〜100℃である。また、処理時間としては、特に限定されず、例えば、10秒〜500秒、好ましくは30秒〜300秒である。
【0056】
さらに、液晶性化合物が前述のような液晶性モノマーである場合には、前記液晶性化合物含有層に重合処理または架橋処理を施すことが好ましい。これによって、例えば、前記液晶性モノマー間、液晶性モノマーとカイラル剤との間で重合または架橋が生じ、液晶性化合物の配向状態が固定される。なお、液晶性モノマーが重合または架橋して形成されるポリマーは「非液晶性」であるが、あくまでも、構成材料として液晶性化合物を使用することから、基材上に形成する層を液晶性化合物含有層と呼び、前記層自体の液晶性は問わない。重合または架橋の方法は、特に制限されず、開始剤の種類に応じて、光重合等を行うことができる。この際、照射光は特に限定されず、例えば、紫外線が好ましく、前記紫外線の波長は、200nm〜400nmが好ましい。前記照射光の光強度、照射時間および積算光量は、前記配向状態の重合や架橋が十分に行われる程度であれば特に限定されない。
【0057】
一方、前記液晶性化合物が液晶性ポリマーである場合には、一般に、液晶性ポリマーを配向させた後に、前記液晶性化合物含有層をその液晶温度未満に冷却することによって、前記配向状態を固定化できる。冷却方法は、何ら制限されず、例えば、単に室温条件下で放置しても良いし、適切な冷却器を用いて急冷しても良い。
【0058】
このようにして、基材上に表面改質層を介して位相差層が積層された積層位相差板が得られる。この積層位相差板は、前記表面改質層により基材と位相差層との密着性に優れるため、各種光学フィルムや画像表示装置等に極めて有用である。また、この積層位相差板における、基材と位相差層との密着性は、JIS K 5400−1990に基づく基盤目剥離試験によれば、例えば4〜10であり、好ましくは6〜10である。
【0059】
つぎに、本発明の光学フィルムは、本発明の積層位相差板を含むことを特徴とする。本発明の光学フィルムは、本発明の積層位相差板を含んでいればよく、その他の構成や構造は何ら制限されない。例えば、偏光子、他の屈折率構造を有する位相差フィルム、液晶フィルム、光拡散フィルム、回折フィルム等を他の光学層として、さらに含んでいてもよい。前記光学層として偏光子を含む場合には、さらに透明保護フィルムを含むことが好ましく、前記透明保護フィルムが、前記積層位相差板と前記偏光子との間に配置されていることがより好ましい。
【0060】
前記偏光子としては特に限定されず、従来公知の偏光フィルムが使用できる。具体的には、例えば、従来公知の方法により、各種フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて染色し、架橋、延伸、乾燥することによって調製したもの等が使用できる。この中でも、自然光を入射させると直線偏光を透過するフィルムが好ましく、光透過率や偏光度に優れるフィルムがより好ましい。前記二色性物質を吸着させる各種フィルムとしては、例えば、PVA系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム、セルロース系フィルム等の親水性高分子フィルム等があげられ、これらの他にも、例えば、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルム等も使用できる。これらの中でも、好ましくはPVA系フィルムである。また、前記偏光フィルムの厚みは、例えば、1μm〜80μmの範囲であるが、これには限定されない。
【0061】
前記透明保護フィルムとしては、特に限定されず、従来公知の透明フィルムを使用できるが、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好ましい。このような透明保護フィルムの材質の具体例としては、トリアセチルセルロール等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等があげられる。また、前記透明保護フィルムとしては、前記アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等があげられる。この中でも、偏光特性や耐久性の点から、表面をアルカリ等でケン化処理したTACフィルムが好ましい。
【0062】
また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムがあげられる。このポリマー材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基とを有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有す熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用できる。具体例としては、イソブテンとN−メチルマレイミドとからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物があげられる。なお、前記ポリマーフィルムは、例えば、前記樹脂組成物の押出成形物であってもよい。
【0063】
前記透明保護フィルムの厚みは、特に限定されず、位相差や保護強度等に応じて適宜決定でき、例えば、5mm以下であり、好ましくは1mm以下であり、より好ましくは1μm〜500μmであり、特に好ましくは5μm〜150μmである。
【0064】
積層位相差板と他の光学層、前記偏光子と透明保護フィルム等の積層方法は特に限定されず、従来公知の方法によって行うことができ、一般には、粘着剤や接着剤等が使用できる。これらの種類は、前記偏光子や透明保護フィルムの材質等によって適宜決定でき、前記接着剤としては、例えば、アクリル系、ビニルアルコール系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系等のポリマー製接着剤や、ゴム系接着剤等が使用できる。これらの中でも、例えば、吸湿性や耐熱性に優れる材料が好ましい。
【0065】
本発明の光学フィルムにおいて、各構成部材は、例えば、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤による処理等によって紫外線吸収能を持たせたものなどでもよい。
【0066】
本発明の画像表示装置は、前記本発明の光学フィルムを含むことを特徴とし、その他の構成、構造は何ら制限されない。前記画像表示装置としては、例えば、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、FED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)等があげられる。
【0067】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。
【実施例1】
【0068】
(シランカップリング剤溶液の調製)
まず、純水と無水酢酸とを、重量比1.88:1となるように混合した。この水溶液を撹拌速度300rpmで撹拌しながら、滴下速度10ml/minで3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名KBM5103;信越化学社製)を添加した。なお、前記水溶液と3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランとの重量比は、2.88:0.2とした。さらに、前記水溶液を10分間撹拌することで有機ケイ素化合物水溶液を調製した。つぎに、有機ケイ素化合物濃度が1重量%となるように、前記有機ケイ素化合物水溶液にイソプロピルアルコールを添加して、さらに1分間撹拌し、シランカップリング剤溶液を調製した。なお、最終的に得られたシランカップリング剤溶液の成分組成(重量比)は、「3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン:純水:無水酢酸:イソプロピルアルコール=0.2:1.88:1:16.92」である。
【0069】
(液晶性化合物含有塗工液の調製)
下記化学式で示される紫外線重合性ネマチック液晶性化合物1gと光重合開始剤(商品名Irgacure907;チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.03gとを混合し、さらに固形分が20重量%となるようにトルエンを混合した。そして、この混合液を10分間撹拌して塗工液とした。
【0070】
【化7】

【0071】
(積層位相差板の作製)
トリアセチルセルロース(TAC)フィルムをケン化して、さらにラビング処理を施した。このTACフィルムのラビング処理面に、前記シランカップリング剤溶液をバーコータ(#3)を用いて塗工し、120℃のオーブン中で5分間乾燥させて表面改質層を形成した(厚み10nm)。つぎに、前記表面改質層上に、前記塗工液をバーコータ(#7)を用いて塗工し、90℃で2分間乾燥させた後、室温に冷却して液晶性化合物含有層を形成した。そして、前記液晶性化合物含有層に紫外線を照射して(積算光量で200mJ/cm2)位相差層を形成し、基材上に表面改質層を介して位相差層が積層された積層位相差板を得た。
【実施例2】
【0072】
シランカップリング剤溶液をバーコータ(#5)を用いて塗工した(厚み15nm)以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
【実施例3】
【0073】
有機ケイ素化合物濃度が0.5重量%となるようにイソプロピルアルコールを添加した以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。なお、最終的に得られたシランカップリング剤溶液の成分組成(重量比)は、「3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン:純水:無水酢酸:イソプロピルアルコール=0.2:1.88:1:36.92」である。
【0074】
(比較例1)
TACフィルム上に表面改質層を形成しない以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
【0075】
(比較例2)
シランカップリング剤溶液を調製するにあたって、各成分の混合順序を変更した以外は実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。具体的には、まず、イソプロピルアルコールと純水と無水酢酸とを混合してから、得られた混合物と3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランとを混合した。
【0076】
(配向性)
各積層位相差板について、配向性を評価した。まず、2枚の市販の偏光板(商品名NPF;日東電工社製)を直交になるようにクロスニコル配置し、その間に前記積層位相板を挿入した。そして、挿入した積層位相差板を、法線を中心にして回転させ、回転角90度ごとに暗転するか否かを目視観察し、その配向性を評価した。
【0077】
(密着性)
各積層位相差板における位相差層とTACフィルムとの密着性の評価は、前述のようなJIS K 5400−1990に基づく基盤目剥離試験により行った。
【0078】
(表面改質層の厚み)
前記各積層位相差板における表面改質層の厚みは、断面透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した。
【0079】
(シラノール化率)
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランは、末端にトリメトキシシランを有するため、加水分解反応が起こると、その反応によりシランカップリング剤溶液中にメタノールが発生する。その原理を用いてシラノール化率(%)を決定した。具体的には、前記溶液中に生成したメタノールの量をガスクロマトグラフィーにより定量し、それにより得られたメタノール生成量(S1)と、理論上のメタノール生成量(S0)とを用いて、下記式よりメタノール生成率を算出し、これをシラノール化率とした。なお、理論上のメタノール生成量(S0)の算出方法は、前述の通りである。
シラノール化率(メタノール生成率)(%)=(S1/S0)×100
これらの評価結果を下記表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
すべての実施例におけるシラノール化率は、すべて90%と極めて高く、これに伴い基材と位相差層との密着性の評価も10若しくは8と極めて高かった。これは、まず初めに3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを水に溶解させれば、一度形成されたシラノール基は、その後イソプロピルアルコールを添加してもすぐには反応し難いことを示すものといえる。また、比較例2では、密着性の評価が0と極めて低く不十分であった。これは、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを、初めにイソプロピルアルコール水溶液と混合したため、十分にシラノール基が生成されず、その結果、形成した表面改質層とTACフィルム若しくは位相差層との間に、十分な化学結合が形成できなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の製造方法により得られたシランカップリング剤溶液によれば、層と層との密着性が優れる。このため、本発明の製造方法を、基材上に位相差層を積層した積層位相差板の製法に利用すれば、例えば、取り扱い時にその界面から剥がれることなく、産業上極めて有用な積層位相差板を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤溶液の製造方法であって、有機ケイ素化合物と水とを混合する工程、および、前記有機ケイ素化合物と水との混合液にアルコールを混合する工程を含む製造方法。
【請求項2】
前記有機ケイ素化合物が、下記一般式(I)で表される化合物を含む請求項1に記載の製造方法。
【化1】

前記一般式(I)において、Xは、ハロアルキル基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アミノ基、イソシアナト基、ウレイド基、下記一般式(a)で示される基および下記一般式(b)で示される基からなる群から選択される基を示し、
1、R2およびR3は、水素原子、アルコキシ基またはアルキル基を示し、これらは同一であってもよいし、異なっていてもよく、これらの少なくとも1つは、アルコキシ基を示し、nは、1から10の整数を示す。
【化2】

なお、前記一般式(a)において、Y1、Y2、Y3およびZ1は、それぞれ、任意の置換基であり、前記一般式(b)において、Y4、Y5、Y6およびZ2は、それぞれ、任意の置換基である。
【請求項3】
前記一般式(I)において、Xが、前記一般式(a)で示される基および前記一般式(b)で示される基のいずれか一方を示す請求項2に記載の製造方法。
前記一般式(a)において、Y1、Y2およびY3は、それぞれ、水素原子、アルキル基およびアリール基からなる群から選択される原子または基を示し、これらは同一であってもよいし、異なっていてもよく、Z1は、結合手、下記化学式(1)、下記化学式(2)および下記化学式(3)なる群から選択される基を示し、
【化3】

前記一般式(b)において、Y4、Y5およびY6は、それぞれ、水素原子、アルキル基およびアリール基からなる群から選択される原子または基を示し、これらは同一であってもよいし、異なっていてもよく、前記一般式(b)において、Z2は、結合手、前記化学式(1)、前記化学式(2)および前記化学式(3)からなる群から選択される基を示す。
【請求項4】
前記有機ケイ素化合物が、不飽和炭化水素基を有する請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機ケイ素化合物(A)と水(B)との重量比(A:B)が、1:50〜10:1である請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルコールが、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテルおよびエチレングリコールモノエチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機ケイ素化合物(A)とアルコール(C)との重量比(A:C)が、1:10〜1:1000である請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記有機ケイ素化合物と水とを混合する工程において、さらに、無水酢酸、酢酸およびシュウ酸からなる群から選択される少なくとも1つを混合する工程を含む請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の製造方法により得られるシランカップリング剤溶液。
【請求項10】
シラノール化率(%)が、40%〜100%である請求項9に記載のシランカップリング剤溶液。
【請求項11】
シランカップリング剤溶液を用いた基材の表面処理方法であって、前記シランカップリング剤溶液が、請求項9または10に記載のシランカップリング剤溶液であり、前記基材に前記シランカップリング剤溶液を接触させた後、前記シランカップリング剤溶液を乾燥させて、前記基材上に表面改質層を形成することを含む方法。
【請求項12】
前記基材の材質が、有機高分子化合物または無機高分子化合物である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記基材が、その表面に親水基を含む基材である請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
基材上に位相差層が積層された積層位相差板の製造方法であって、
請求項11から13のいずれかに記載の方法により基材上に表面改質層を形成する工程と、前記表面改質層上に位相差層を形成する工程とを含む製造方法。
【請求項15】
前記基材の表面改質層を形成する面が、配向規制力を有する請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記表面改質層を形成する工程に先立って、前記基材の表面をラビング処理する工程を含む請求項14または15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記位相差層を形成する工程が、前記表面改質層上に液晶性化合物を塗工して液晶性化合物含有層を形成する工程と、前記液晶性化合物含有層を前記液晶性化合物が液晶状態を示す温度で処理することにより、前記液晶性化合物を配向させる工程とを含む請求項14から16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
前記液晶性化合物が、重合性液晶性モノマーおよび液晶性ポリマーの少なくとも一方を含む請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記液晶性化合物が、ネマチック液晶性化合物を含む請求項17または18に記載の製造方法。
【請求項20】
基材上に位相差層が積層された位相差板であって、請求項14から19のいずれかに記載の製造方法により得られる積層位相差板。
【請求項21】
前記表面改質層の厚みが、1nm〜30nmである請求項20に記載の位相差板。
【請求項22】
位相差板を含む光学フィルムであって、前記位相差板が、請求項20または21に記載の位相差板である光学フィルム。
【請求項23】
さらに、偏光子を含む請求項22に記載の光学フィルム。
【請求項24】
光学フィルムを含む画像表示装置であって、前記光学フィルムが、請求項22または23に記載の光学フィルムである画像表示装置。


【公開番号】特開2006−45189(P2006−45189A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62838(P2005−62838)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】