説明

シラン架橋ポリオレフィン組成物及びその成形物

【課題】シラノール縮合触媒として人体や環境に有害な化合物を使用せず、所定の遊離ラジカル発生剤を用いても1ステッププロセスを適用しての成形が可能なシラン架橋ポリオレフィン組成物及びその成形物を提供する。
【解決手段】オレフィン系樹脂と、シラノール縮合触媒と、遊離ラジカル発生剤と、シラン化合物とを含有するシラン架橋ポリオレフィン組成物であって、前記シラノール縮合触媒が、第1属元素若しくは第2属元素を含む塩、又はアルキルベンゼンスルホン酸の塩基性誘導体であり、該シラノール系縮合触媒を前記オレフィン系樹脂100質量部に対して0.1〜1.0質量部含むことを特徴とするシラン架橋ポリオレフィン組成物、及び該シラン架橋ポリオレフィン組成物を成形してなる成形物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラノール縮合触媒を使用して架橋するシラン架橋ポリオレフィン組成物及びその成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋触媒としてシラノール縮合触媒を使用するシラン架橋ポリオレフィン組成物としては種々提案されており、例えば電線やケーブルを被覆する材料に適用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。例えば、特許文献1は、湿分硬化性シラン架橋性組成物を提案しているが、シラノール縮合触媒としてはスルホン酸触媒のみが記載されている。スルホン酸化合物は酸性物質であり、遊離ラジカル発生剤として使用するジクミルパーオキサイド(DCP)と反応してしまうため、それらを同時に添加して成形物を得ることができない。すなわち、2ステッププロセスを採用せざるを得ず、工数が多くなり、生産効率や設備コスト上の問題がある。
一方、特許文献2〜4においては、シラノール縮合触媒として、有害な錫や鉛などを含む金属化合物が用いられていることから、人体や環境に悪影響を及ぼすという懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−509246号公報
【特許文献2】特開平10−1520号公報
【特許文献3】特開2000−248074号公報
【特許文献4】特開平9−92035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の技術に鑑みなされたものであり、シラノール縮合触媒として人体や環境に有害な化合物を使用せず、所定の遊離ラジカル発生剤を用いても1ステッププロセスを適用しての成形が可能なシラン架橋ポリオレフィン組成物及びその成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)オレフィン系樹脂と、シラノール縮合触媒と、遊離ラジカル発生剤と、シラン化合物とを含有するシラン架橋ポリオレフィン組成物であって、
前記シラノール縮合触媒が、第1属元素若しくは第2属元素を含む塩、又はアルキルベンゼンスルホン酸の塩基性誘導体であり、該シラノール系縮合触媒を前記オレフィン系樹脂100質量部に対して0.1〜1.0質量部含むことを特徴とするシラン架橋ポリオレフィン組成物。
【0006】
(2)前記第1属元素若しくは第2属元素を含む塩が、酸性触媒の塩、スルホン酸塩触媒であることを特徴とする前記(1)に記載のシラン架橋ポリオレフィン組成物。
【0007】
(3)前記アルキルベンゼンスルホン酸の塩基性誘導体が、アルキルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミンであることを特徴とする前記(1)に記載のシラン架橋ポリオレフィン組成物。
【0008】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のシラン架橋ポリオレフィン組成物を成形してなる成形物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シラノール縮合触媒として人体や環境に有害な化合物を使用せず、所定の遊離ラジカル発生剤を用いても1ステッププロセスを適用しての成形が可能なシラン架橋ポリオレフィン組成物及びその成形物を提供することができる。
すなわち、錫系触媒など環境に影響を与える触媒以外のものを用いることで環境に配慮したシラン架橋ポリオレフィンを成形することが可能となる。また、酸性触媒の塩又は塩基性触媒を使用することで、ジクミルパーオキサイド(DCP)と同時に添加することが可能になり、1ステッププロセスでの使用、またプリプレグプロセスでの使用が可能となり、使用範囲の拡大が可能となる。さらに、十分な架橋効果があり、当該シラノール縮合触媒を添加したものは、添加しないものに比べて耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<シラン架橋ポリオレフィン組成物>
本発明のシラン架橋ポリオレフィン組成物は、オレフィン系樹脂と、シラノール縮合触媒と、遊離ラジカル発生剤と、シラン化合物とを含有するシラン架橋ポリオレフィン組成物であって、前記シラノール縮合触媒が、第1属元素若しくは第2属元素を含む塩、又はアルキルベンゼンスルホン酸の塩基性誘導体であり、該シラノール系縮合触媒を前記オレフィン系樹脂100質量部に対して0.1〜1.0質量部含むことを特徴としている。
以下に、本発明のシラン架橋ポリオレフィン組成物の各成分について説明する。
【0011】
[オレフィン系樹脂]
ベース樹脂として用いられるオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、オクテン−1、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1などのαオレフィンの単独重合体またはそれらの相互共重合体である。より具体的には、オレフィン系樹脂としては、高、中、低密度・超低密度ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン−1などの単独重合体、プロピレンとエチレン、ブテン−1などの他のαオレフィンとの共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸及び/又はそのアルキルエステル共重合体などを挙げることができる。
【0012】
さらに、オレフィン系樹脂としては、高圧法低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体(EEA)などや、これら単独または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0013】
ポリプロピレン(PP)は、プロピレンの単独重合体、プロピレンを主成分とする他のαオレフィンとのブロック共重合体あるいはランダム共重合体などの公知のポリプロピレン(共)重合体を用いることができる。
【0014】
エチレン−ビニルエステル共重合体は、エチレンを主成分とするプロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオル酢酸ビニルなどのビニルエステル単量体との共重合体である。これらの中では、特にエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が好ましい。
【0015】
上述した、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸および/またはそのアルキルエステル共重合体としては、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体、およびそれらのアミド、イミドなどを挙げることができる。これらの中では、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体などを挙げることができ、特にエチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)が好ましい。
【0016】
[シラノール縮合触媒]
本発明のシラン架橋ポリオレフィン組成物に用いるシラノール縮合触媒は、第1属元素若しくは第2属元素を含む塩、又はアルキルベンゼンスルホン酸の塩基性誘導体である。
これらのシラノール縮合触媒は酸ではないため、ジクミルパーオキサイドなどの遊離ラジカル発生剤とは反応しない。従って、それらを同時添加が可能であるため、1ステッププロセスを適用することができ、生産効率や設備コスト上有利である。また、当該シラノール縮合触媒は、錫などの元素を含んでいないため、人体や環境に対する悪影響を懸念する必要はない。
なお、シラノール縮合触媒を添加した場合、添加しない場合と比較して耐熱性に優れる。
【0017】
第1属元素若しくは第2属元素を含む塩としては、酸性触媒の塩、スルホン酸塩触媒を用いることが好ましい。酸性触媒の塩として好ましいものは、安息香酸ナトリウムが挙げられる。
スルホン酸塩触媒として好ましいものは、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0018】
また、アルキルベンゼンスルホン酸誘導体として好適なものは、アルキルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミンが挙げられる。
【0019】
本発明において、シラノール縮合触媒は、前記オレフィン系樹脂100質量部に対して0.1〜1.0質量部を配合するのであるが、0.3〜0.8質量部を配合することが好ましい。シラノール縮合触媒が0.1質量部未満では十分な架橋度を得にくく、1.0質量部を超えると押出成形時に外観に悪影響を及ぼす。
【0020】
[遊離ラジカル発生剤]
遊離ラジカル発生剤(架橋剤)は、オレフィン系樹脂の分子間をカップリング剤で橋かけを開始させるためのもので、遊離ラジカル発生剤(架橋剤)には、有機過酸化物、アゾ化合物がある。有機過酸化物は過酸化水素HOHの水素原子をアルキル基またはアシル基などの有機基で置換して得られる化合物で、熱によって分解し易く、分解すると遊離基を生成し、これが重合反応を開始したり架橋結合を形成したりするものである。この有機過酸化物には、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート(t-Hexyl peroxybenzoate、1分半減期温度160.3℃)、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(1,1-Bis(t-butyl peroxy)cyclohexane、1分半減期温度153.8℃)、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン(2,2-Bis(4,4-di-butyl peroxy cyclohexyl)propane、1分半減期温度153.8℃)、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン(1,1-Bis(t-butyl peroxy)cyclododecane、1分半減期温度152.9℃)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(t-Hexyl peroxy isopropyl monocarbonate、1分半減期温度155.0℃)、t−ブチルパーオキシラウレート(t-Butyl peroxy laurate、1分半減期温度159.4℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン(2,5-Dimethyl-2,5-di(m-toluoyl peroxy)hexane、1分半減期温度156.0℃)、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(t-Butyl peroxy isopropyl monocarbonate、1分半減期温度158.8℃)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート(t-Butyl peroxy 2-ethylhexyl monocarbonate、1分半減期温度161.4℃)、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(2,5-Di-methyl-2,5-di(benzoyl peroxy)hexane、1分半減期温度158.2℃)、t−ブチルパーオキシアセテート(t-Butyl peroxy acetate、1分半減期温度159.9℃)、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン(2,2-Bis(t-butyl peroxy)butane、1分半減期温度159.9℃)、ジクミルパーオキサイド(Dicumylu peroxcide;DCP、1分半減期温度176.7℃)が挙げられるが、これらのうちで1分半減期温度160〜180℃のものが特に好ましい。過酸化ベンゾイル(塩化ベンゾイルを過酸化水素とアルカリまたは過酸化ナトリウムと反応させて得られる結晶)等がある。また、アゾ化合物は、アゾ基が炭素原子と結合している有機化合物で、アゾ化合物には、アゾビスイソブチロニトリルがある。)
【0021】
本発明において、遊離ラジカル発生剤は、前記オレフィン系樹脂100質量部に対して0.001〜2質量部を配合することが好ましく、0.005〜1質量部を配合することがより好ましい。遊離ラジカル発生剤の配合量が0.001質量部未満であると、架橋を十分達成できず、2質量部を超えると架橋が進みすぎて、外観に影響が出る。
【0022】
[シラン化合物]
シラン化合物は、遊離ラジカル発生剤の存在下でポリオレフィン系樹脂と反応するものである。シラン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ノルマルヘキシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
本発明において、シラン化合物は、前記オレフィン系樹脂100質量部に対して1〜10質量部を配合することが好ましく、3〜6質量部を配合するとがより好ましい。シラン化合物の配合量が1質量部未満であると架橋を十分達成できず、10質量部以上であると材料がベタつき押出加工性に影響が出る。
【0023】
[他の成分]
本発明のシラン架橋ポリオレフィン組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において他の成分を配合してもよい。
他の成分としては、例えば、酸化防止剤、滑剤、難燃剤、無機充填剤等が挙げられる。
【0024】
<成形物>
本発明の成形物は、上述の本発明のシラン架橋ポリオレフィン組成物を成形してなることを特徴としている。
本発明の成形物は、具体的には、電線やケーブルを被覆する材料等として好適に適用し得る。
成形方法としては、押出成形、射出成形、などの各種成形法などを適用することができる。
本発明の成形物は、本発明のシラン架橋ポリオレフィン組成物を成形して得られるため、上述の通り、押出成形時において外観が良好であり、また難燃性に優れる。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
[実施例1〜9、比較例1〜6]
各実施例・比較例において、オレフィン系樹脂と、シラノール縮合触媒と、遊離ラジカル発生剤と、シラン化合物とをそれぞれ表1〜2に示す配合量(質量部)で押出機に投入、200〜240℃で押出成形し、導体を被覆した。なお、各成分の詳細は以下の通りである。
ポリエチレン:NUCG−930(ダウケミカル日本(株)製)
ビニルメトキシシラン:TSL8113(日硝産業(株)製)
安息香酸ナトリウム:和光純薬工業(株)製
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム:LS250(ライオン(株)製)
アルキルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン:LT270(ライオン(株)製)
ジクミルパーオキサイド:パークミルD(日油(株))
【0027】
[評価試験]
(1)押出後の外観評価(押出外観)
押出後の被覆電線の外観を目視にて評価した。良好であったものを「良」、不良であったものを「悪」として表1〜2に示した。
(2)耐熱性(加熱変形率)
耐熱性(加熱変形)に係る試験は、日本工業規格JIS C 3005に準じ、押出後、23度にて168時間経過後のものを用いて行った(加熱温度:120℃、荷重:10N、判定基準:40%以下)。耐熱性(加熱変形)は、加熱変形率が40%以下の場合を「OK」、40%を超えた場合を「NG」として評価した。評価結果を表1〜2に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
表1〜2より、実施例1〜9においては、押出後の外観及び耐熱性のいずれも良好な結果が得られたのに対し、シラノール縮合触媒の配合量が本発明に規定する範囲外の比較例1〜6は押出後の外観及び耐熱性の双方とも同時に良好な結果とすることができなかったことが分かる。すなわち、本発明においては、所定のシラノール縮合触媒が規定の範囲内であることで、十分な架橋度が得られるため耐熱性に優れ、かつ押出後の外観にも優れることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂と、シラノール縮合触媒と、遊離ラジカル発生剤と、シラン化合物とを含有するシラン架橋ポリオレフィン組成物であって、
前記シラノール縮合触媒が、第1属元素若しくは第2属元素を含む塩、又はアルキルベンゼンスルホン酸の塩基性誘導体であり、該シラノール系縮合触媒を前記オレフィン系樹脂100質量部に対して0.1〜1.0質量部含むことを特徴とするシラン架橋ポリオレフィン組成物。
【請求項2】
前記第1属元素若しくは第2属元素を含む塩が、酸性触媒の塩、スルホン酸塩触媒であることを特徴とする請求項1に記載のシラン架橋ポリオレフィン組成物。
【請求項3】
前記アルキルベンゼンスルホン酸の塩基性誘導体が、アルキルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミンであることを特徴とする請求項1に記載のシラン架橋ポリオレフィン組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシラン架橋ポリオレフィン組成物を成形してなる成形物。

【公開番号】特開2013−1886(P2013−1886A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137165(P2011−137165)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(501418498)矢崎エナジーシステム株式会社 (79)
【Fターム(参考)】