シリカを含む構造物と他の構成部材とをセメントで接着して成るシリカ含有構造物及び既設のブッシングの補修方法
【課題】磁器製品と他の構成部材とをセメントで接着して成る磁器構造物の、セメント由来のアルカリ溶液の浸入によって磁器組織内にアルカリシリカ反応生成物を発生させないようにする。既設のブッシングに対して、碍管にマイクロクラックを発生させる要因となるアルカリシリカ反応を防止して長期安全性・安定性を確保する補修を簡便に行う。
【解決手段】シリカを含む碍管2の端部の外周面とフランジ継手5の碍管固定筒部5aの内周面とがセメント7で接着されて碍管2にフランジ継手5が取り付けられ、フランジ継手5の碍管固定筒部5a側の先端部と碍管2の端部の外周面との間に存在するセメントの露出面7aが防水材で被覆されて防水層10が形成されているブッシング1を有する既設のブッシングの補修方法であって、防水層10を剥離する工程と、セメントの露出面7aをリチウム含有物で被覆してリチウム含有層9を形成する工程と、リチウム含有層9を防水材で被覆して防水層10を再度形成する工程とを含むようにした。
【解決手段】シリカを含む碍管2の端部の外周面とフランジ継手5の碍管固定筒部5aの内周面とがセメント7で接着されて碍管2にフランジ継手5が取り付けられ、フランジ継手5の碍管固定筒部5a側の先端部と碍管2の端部の外周面との間に存在するセメントの露出面7aが防水材で被覆されて防水層10が形成されているブッシング1を有する既設のブッシングの補修方法であって、防水層10を剥離する工程と、セメントの露出面7aをリチウム含有物で被覆してリチウム含有層9を形成する工程と、リチウム含有層9を防水材で被覆して防水層10を再度形成する工程とを含むようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブッシングなどの磁器やガラスなどのシリカを含む構造物と他の構成部材とをセメントで接着して成るシリカ含有構造物並びに既設のブッシングの補修方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、セメントから滲出するアルカリ液で磁器組織中あるいはシリカを含む組織中においてアルカリシリカ反応を抑制可能なシリカを含む部品や製品などと他の構成部材とをセメントで接着して成るシリカ含有構造物及び既設のブッシングの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統設備において使用されているブッシングの一例を図5に示す。このブッシング101は、碍管102と、該碍管102内に封入される内部絶縁例えばSF6等の絶縁ガスや絶縁油とから成り、電気機器と接続される中心導体103が碍管102の中心に配置され、絶縁されている。
【0003】
碍管102の基部には、その外周面にフランジ継手105の碍管固定筒部105aの内周面がセメント107で接着されて、フランジ継手105が取り付けられている。また、碍管102の頭部には、その外周面にフランジ継手105’の碍管固定筒部105a’の内周面がセメント107’で接着されて、フランジ継手105’が取り付けられている。
【0004】
そこで、ブッシング101は、フランジ継手105の鍔部105bを利用して変圧器やGIS等の電気機器のタンク106にボルト等で取り付けられ、中心導体103の下端が接続端子110を介して電気機器本体(不図示)と接続されている。また、フランジ継手105’の鍔部105b’を利用して蓋部材108がボルト等で取り付けられている。蓋部材108には中心導体103を電力線と接続する上部端子104が備えられている。
【0005】
ここで、碍管102は、内部空間に封入するSF6等の絶縁ガスあるいは絶縁油が外部に漏洩するのを防ぐため、釉薬で表面が被覆されて不透水性・不透気性が高められ、絶縁ガス等の漏洩や吸湿を防ぐように配慮されている。このため、碍管102の外周面から水分が碍管102の内部に直接浸入することは阻止される。しかしながら、タンク106や蓋部材108に当接する碍管102の端面は、研磨されて平坦な面とされていることから釉薬が削り落とされて磁器の素地が露出している。他方、碍管102とフランジ継手105,105’とを接合するセメント107,107’部分(セメンチング部とも呼ばれる)から雨水等の水分が浸入し、セメント107,107’層を浸透して碍管102の無釉薬部の端面付近に滞留して無釉薬部の端面に接触し続け、碍管102の磁器組織内に浸入することが考えられる。また、場合によってはセメントの係着力を上げるために碍管固定筒部105a,105a’の内側の碍管の外周面部分に形成されたサンド部分を通して、セメント層を浸透する水分が碍管102の内部へ浸入することが考えられる。
【0006】
ブッシングを構成する碍管は、磁器によって構成されているため、これまでは適切な製造管理がなされていれば、現実的な使用条件下では劣化現象が発生しないものと認識されていた。したがって、水分の浸入についても、今まで特に問題とされることは無かった。しかしながら、最近になって、屋外において長期に亘って使用されてきた碍管のうち、稀に、碍管102とフランジ継手105,105’とを接着しているセメント107,107’部分から浸透した水分にセメントのアルカリ成分(Na、K)が溶出し、アルカリシリカ反応で磁器・碍管が吸湿劣化する事例が発生していることが報告されている(非特許文献1及び2参照)。碍管102の磁器組織内では、セメントのアルカリ成分を含む水分が浸入することにより、水分中のアルカリ成分と碍管102に含まれるシリカ成分とがアルカリシリカ反応を起こしてアルカリ・シリカ生成物が生成される。そして、このアルカリ・シリカ生成物が吸水・吸湿して膨張することに起因して、碍管102のマイクロクラックの発生並びに進展が生じているものと考えられている。アルカリ・シリカ生成物の膨張により、碍管102のシリカ質結晶やシリカガラス相中にマイクロクラックを発生させる。そして、さらにマイクロクラックが進展すると、磁器クラックが発生して碍管102から絶縁媒体である絶縁ガスや絶縁油が漏洩し、ブッシング101の絶縁性が低下し、場合によっては地落事故等の重大事故に繋がり得ることもある。しかも、絶縁ガスであるSF6は温暖化係数の極めて高いガスでもあることから、漏洩による大気中への拡散は好ましくない。
【0007】
そこで、現在、新設のブッシングのみならず、既設のブッシングに対しても、セメント107,107’の大気に露出している面107a、107a’をシリコーンゴム等のゴム系のコーキング材(防水材)で被覆して防水層を形成することにより、セメント107、107’への水分の浸入を防止して、アルカリシリカ反応に起因する碍管102のマイクロクラックの発生・進展を防止することが行われている。
【0008】
また、この磁器のアルカリシリカ反応に起因するマイクロクラックの発生並びにその進展による破損等は、ブッシング特有の問題ではなく、ブッシング以外の磁器製品とその他の部材例えば金属製治具などとをセメントを用いて接着する(セメンチング)場合にも同様に生ずる問題である。例えば、懸垂碍子や長幹碍子、高圧ピン碍子、高圧耐張がいしなどの碍子類においても、あるいはその他の磁器構造物においても、セメントに接する部分の碍子でマイクロクラックの発生並びにその進展が起こり、磁器製品の強度低下惹いては破損等を招く問題を有している。また、磁器に限らず、シリカを含む部品や製品などの構造物でセメントと接触する箇所でも、同様にアルカリシリカ反応を起こしてマイクロクラックの発生や進展が起こって問題となることがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】アルカリ・シリカ反応による磁器碍管の吸湿劣化診断技術、IEEJ Trans.PE、Vol.126、No.6、2006、p592−597
【0010】
【非特許文献2】アルカリシリカ反応碍管の劣化検証方法に関する研究、電気協同研究、第61巻、第3号、p215−219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、防水層を形成したとしても、防水材そのものの経年劣化を回避することはできないし、それは使用環境によっても大きく変動する。また、外観に現れ難い防水層の異常を簡単に判断することは難しく、防水層が局部的に劣化・損傷したり、剥離することがあっても、見過ごしてしまうこともある。このため、明白な防水層の異変に気がつくまで、アルカリシリカ反応に起因する碍管のマイクロクラック発生、さらにはその進展を未然に防ぐことができない問題を抱えている。さらには防水層の施工技術の善し悪しにも左右され、防水が当初から不十分な場合も起こり得る。このことから、防水層の維持に万全をきたすためには、定期点検の時期を比較的短い周期に設定したり、早めに防水層の補修を実施せざるを得ないこととなるが、それでも防水が不十分な事態に陥っていることを確実に回避することは難しい。そこで、防水層が形成されている既設のブッシングにおいても、たとえ防水層の劣化・損傷等を見過ごしたとしても、アルカリシリカ反応に起因する碍管のマイクロクラック発生・進展を未然に防止することのできるブッシング構造及びブッシング用碍管並びに既設のブッシングに対する補修が望まれる。
【0012】
このことは、防水材による防水層が未だ形成されていない既設のブッシングに対しても、さらにはこれから新設されるブッシングに対しても要望されることである。また、ブッシング以外の磁器製品を用いた設備例えば懸垂碍子などの碍子類やその他の磁器構造物などにおいても同様に要望されるものである。磁器組織内でセメント由来のアルカリ成分と磁器に含まれるシリカ成分とがアルカリシリカ反応を起こしてアルカリ・シリカ生成物が生成されることにより、強度低下を招く程度にまでマイクロクラックが進展すれば、磁器製品そのものの破損、若しくは破損に伴う絶縁隔離を保てなくなり絶縁破壊を起こすなどの不具合、さらには数トンから数十トンの吊り下げ荷重に耐えられずに破壊する虞もある。
【0013】
本発明は、かかる要望に応えるもので、アルカリシリカ反応に起因する磁器組織内あるいはシリカを含む組織内でのマイクロクラックの発生・進展を防止して、ブッシングなどの磁器を用いた構造物あるいはその他のシリカを含む構造物の安全性・安定性を長期に維持可能とするシリカ含有構造物及び既設のブッシングの補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、磁器やガラスなどのシリカを含む構造物と他の構成部材とをセメントで接着して成るシリカ含有構造物において、セメントに沿ってあるいはセメント内を浸透して磁器製品の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の少なくとも入り口または途中にリチウム含有層を形成し、さらにリチウム含有層よりも外側において浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆する防水層を形成するようにしている。
【0015】
ここで、リチウム含有層は浸入水の浸透経路の入り口を被覆するように形成され、該リチウム含有層をさらに覆って防水層を形成して成ることが好ましい。また、リチウム含有層はセメントにリチウム化合物が混入されてセメントそのものによって形成されていることが好ましい。また、リチウム含有層は、セメントの露出面あるいは磁器製品とセメントとの隙間にリチウム化合物を含有する溶液を直接塗布し、その上を防水層で覆っていることことが好ましい。
【0016】
さらに、本発明にかかるシリカ含有構造物は、両端部にフランジ継手をセメントで接着したブッシング用碍管、または磁器碍子と該磁器碍子を他の磁器構造物に連結するための金属製治具とをセメントで接着して成る碍子類であり、あるいは両端部にフランジ継手をセメントで接着した碍管と、フランジ継手を介して碍管の一端が機器に他端には蓋部材が固定されるブッシングであり、フランジ継手と碍管並びにフランジ継手と機器の容器あるいは蓋部材との間からセメントに沿ってあるいはセメント内を浸透して碍管の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の入り口または途中にリチウム含有層を形成したものであることが好ましい。
【0017】
また、本発明にかかる既設のブッシングの補修方法は、フランジ継手をセメントで端部に接着した碍管をフランジ継手を介して機器に固定し、フランジ継手と碍管あるいは機器の容器との間の浸入水の浸透経路の入り口となる隙間に防水材で被覆された防水層が形成されている既設のブッシングにおいて、防水層を剥離する工程と、防水層を剥離した後の隙間をリチウム含有物で被覆してリチウム含有層を形成する工程と、リチウム含有層を含めてフランジ継手と碍管あるいは機器の容器との間のセメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆して防水層を再形成する工程とを有するようにしている。
【0018】
また、本発明の既設のブッシングの補修方法は、フランジ継手をセメントで端部に接着した碍管をフランジ継手を介して機器に固定された既設のブッシングにおいて、フランジ継手と碍管あるいは機器の容器との間のセメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口をリチウム含有物で被覆してリチウム含有層を形成する工程と、該リチウム含有層を含めてフランジ継手と碍管あるいは機器の容器との間のセメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆して防水層を形成する工程とを有するようにしている。
【発明の効果】
【0019】
本発明のブッシングなどのシリカ含有構造物によれば、セメントに沿ってあるいはセメント内を浸透してシリカ含有構造物の磁器組織内あるいはシリカ含有組織内(以下これらを総称して単に磁器組織内と呼ぶ)に至る浸入水の浸透経路の少なくとも入り口または途中にリチウム含有層を形成し、さらにリチウム含有層よりも外側において浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆する防水層を形成するようにしているので、防水層が健全でかつ十分な時には雨水等の水分の浸入そのものが阻止されることによってセメントのアルカリ成分が碍管などの磁器製品あるいはその他のシリカ含有製品(以下これらを総称して単に磁器製品と呼ぶ)の磁器組織内に侵入することがなく、磁器組織内のシリカ成分との間でアルカリシリカ反応を起こすことがない。また、防水層が十分でなかったり、防水層が経年変化等により劣化したり、あるいは一部剥離等の損傷を起こすことによって雨水等の水分がセメント内に浸透したりセメントに沿って浸入しても、浸入水がリチウム含有物層を浸透する間にあるいはリチウム含有層に接触している間にリチウムイオンを含み、リチウムイオン水としてセメントさらには碍管などの磁器製品の磁器組織内に浸入するため、リチウムイオンの作用によって、セメントのアルカリ成分と磁器製品のシリカ成分とのアルカリシリカ反応を妨げ、磁器製品の磁器組織内でのマイクロクラックの発生を防止できる。リチウムイオンには、膨張性のないリチウム・シリカ生成物を優先的に生成してアルカリ・シリカ生成物の生成を抑える作用と、アルカリ・シリカ生成物の表面を水に対する溶解性、吸湿性を持たないリチウムモノシリケート(Li2・SiO2)またはリチウムジシリケート(Li2・2SiO2)に置換して吸水・吸湿反応を収束させて膨張を抑える作用がある。これら作用によって、碍管や碍子などの磁器製品内の磁器組織内にアルカリ・シリカ生成物が生成されるのを抑制し、あるいは生成されたアルカリ・シリカ生成物の吸水・吸湿による膨張を抑えて、磁器製品にマイクロクラックが発生・進展するのを防止することができる。
【0020】
即ち、防水層が健全性を損なったり、防水層の劣化・損傷などに因る雨水等の水分の浸入が起きたとしても、浸入水にリチウムイオンが含まれることから、セメント層を浸透して碍管や碍子などの磁器製品の無釉薬部の端面付近に滞留して無釉薬部の端面に接触し続け、磁器製品の磁器組織内に浸入しても、また場合によっては碍管や碍子などの磁器製品のセメントを付着させる面に形成されたサンド部分を通してセメント層を浸透する水分が磁器製品の内部へ浸入しても、膨張性のないリチウム・シリカ生成物を優先的に生成してアルカリ・シリカ生成物の生成を抑えると共に、アルカリ・シリカ生成物の表面を水に対する溶解性、吸湿性を持たないリチウム・シリカ生成物に置換して吸水・吸湿反応を収束させて膨張を抑えることから、磁器製品にマイクロクラックが発生・進展するのを確実に防止することができる。したがって、例えばブッシングに適用する場合には、たとえ防水層が局部的に劣化・損傷したり、剥離したことを見過ごして雨水等の水分の浸入が起きていたとしても、侵入水へのリチウムイオンの含有がアルカリ・シリカ生成物の生成と膨張を抑制するので、碍管のマイクロクラックの発生・進展を防いで、極めて長期的にブッシングの絶縁性能の低下を防ぎ、ブッシングとして求められる長期安定性と長期安全性を確保できる。また、懸垂碍子や長幹碍子、高圧ピン碍子、高圧耐張がいしなどの碍子類に適用する場合においても、あるいはその他の磁器構造物においても、磁器製品のセメントに接する部分からのマイクロクラックの発生並びにその進展を防いで、磁器製品の強度低下惹いては破損等を防ぐことができる。特に碍子類の場合、碍子そのものの破損、若しくは破損に伴う絶縁隔離を保てなくなり絶縁破壊を起こすなどの不具合、さらには数トンから数十トンの吊り下げ荷重に耐えられずに破壊することを防ぐことができる。
【0021】
特に、リチウム含有層が浸入水の浸透経路の入り口を被覆するように形成されたり、リチウム化合物が混入されたセメントそのものによって形成されている場合には、防水層の劣化などによって雨水等の水分の浸入が始まったとしても、リチウムイオンが含まれた状態でセメントに浸透するため、セメント内でのアルカリ・シリカ反応も防ぐことができるので、碍管や碍子などの磁器製品と他の構成部材との接合強度も損なうことがない。
【0022】
また、本発明をブッシング用碍管や碍子類の工場生産可能な磁器構造物に適用する場合には、リチウム含有層と防水層とを工場での管理下にばらつきなく安定した品質で構築できる。中でも、リチウム含有層がセメントそのものによって形成されている場合には、セメント材料としてリチウム化合物が混入されたセメントを用いると共に防水層を形成する工程を伴ういう変更だけで、製造工程を大きく変更せずに済む。勿論、リチウム含有層の形成並びに防水層の形成は、予め工場内で実施しても良いが、例えばブッシングのように変圧器やGIS等の大形タンク等に据え付ける場合には、碍管を現場で設置してから施工することもできる。
【0023】
さらに、本発明をブッシング用碍管に適用する場合には、変圧器やGIS等の大形タンク等に現場で組み付けてブッシングを構築すると同時に、フランジ継手と碍管とを接合するセメントに沿ってあるいはセメント内を浸透して碍管の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の入り口または途中にリチウムを含有する層を形成し、さらにリチウム含有層よりも外側において浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆する防水層を形成することができる。
【0024】
また、本発明の既設のブッシングの補修方法によれば、防水層を有している既設のブッシングの場合には防水層を一旦剥離し、水の浸透経路の入り口にリチウム含有物層を形成すると共にその外側に防水層を再構築するだけであり、あるいは防水層を有していない既設のブッシングの場合にはリチウム含有層を形成すると共に、その外側に防水層を形成するだけなので、据え付けられたブッシング構造には全く手を加える必要がなく、非常に簡単な作業で済む。しかも、ブッシングの固定構造は既設のまま全く変更せずに、浸入水の浸透経路の入り口をリチウム含有物層で覆い、さらにその上から防水材で被覆して防水層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明にかかるシリカ含有構造物の一実施形態をブッシングの変圧器やGIS等の電気機器のタンク等の容器に取り付けられる側の端部に適用した例を示す縦断面図である。
【図2】本発明にかかるシリカ含有構造物の一実施形態をブッシングの蓋部材が取り付けられる側の端部に適用した例を示す縦断面図である。
【図3】防水層を有する既設のブッシングに対する本発明のブッシング補修方法の一例を示すフロー図である。
【図4】防水層を備えていない既設のブッシングに対する本発明のブッシング補修方法を示すフロー図である。
【図5】従来のブッシングの構造と電気機器等への接続状態を示す断面図である。
【図6】本発明にかかるシリカ含有構造物をブッシングに適用した他の実施形態を示すもので、変圧器やGIS等の電気機器のタンク等の容器に取り付けられる側の端部に適用した例を示す断面図である。
【図7】本発明にかかるシリカ含有構造物をブッシングに適用した他の実施形態を示すもので、蓋部材が取り付けられる側の端部に適用した例を示す縦断面図である。
【図8】本発明にかかるシリカ含有構造物をブッシングに適用した他の実施形態を示すもので、ブッシングの基部の構造を示す縦断面図である。
【図9】本発明にかかるシリカ含有構造物をブッシングに適用した他の実施形態を示すもので、ブッシングの頭部の構造を示す縦断面図である。
【図10】本発明にかかるシリカ含有構造物の一実施形態を懸垂碍子に適用した例を示す縦断面図である。
【図11】シリカ含有構造物のアルカリシリカ反応を検証するための粉砕碍管を骨材としたモルタルの膨張量を示すグラフである。
【図12】本発明によるシリカ含有構造物のアルカリシリカ反応抑制剤による抑制効果検証試験を実施するための試験体の概念図である。
【図13】アルカリシリカ反応抑制効果検証用試験体の超音波伝播時間比の経時変化を示すグラフである。
【図14】比較用セメントペースト試験体(Φ5x10cm)の超音波伝播時間比の経時変化を示すグラフである。
【図15】アルカリシリカ反応を検証するための粉砕碍管の原料とした碍管の反射電子像であり、(a)はA社製碍管、(b)はB社製碍管をそれぞれ示す。
【図16】A社製碍管を用いたアルカリシリカ反応抑制効果の検証結果を示す反射電子像であり、(a)はLiなし試料、(b)はLi1.7質量%添加試料をそれぞれ示す。
【図17】A社製碍管を用いたアルカリシリカ反応抑制効果の検証結果を示す反射電子像であり、(a)はLiなし試料のK濃度、(b)はLi1.7質量%添加試料のK濃度をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0027】
本発明にかかるシリカ含有構造物は、例えばブッシング用碍管やこれを用いたブッシング、あるいは磁器碍子と該磁器碍子を他の磁器構造物に連結するための金属製治具とをセメントで接着して成る碍子類などの、磁器製品と他の構成部材あるいはガラスなどのシリカを含む構造物と他の構成部材とをセメントで接着して成るもの全般を含むものである。そして、本発明は、このシリカ含有構造物において、セメントに沿ってあるいはセメント内を浸透して磁器製品等の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の少なくとも入り口または途中にリチウム含有層を形成し、さらにリチウム含有層よりも外側において浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆する防水層を形成するようにしたものである。
【0028】
例えば磁器構成物としてのブッシングは、フランジ継手を利用して変圧器の容器やGISのタンク等の電気機器の筐体(以下、総称して機器筐体と呼ぶ)に取り付けられる碍管と、図示していない内部絶縁例えばSF6等の絶縁ガスや絶縁油とから構成されている。碍管とフランジ継手とはセメントで接着されており、該セメントに沿ってあるいはセメント内を浸透して碍管の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路のいずれか例えば入り口または途中にリチウム含有層を形成し、さらにリチウム含有層よりも外側において浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆して防水層が形成されている。
【0029】
ここで、フランジ継手は、碍管を機器筐体に取り付けるためのものであれば足り、特定の形状に限定されるものではないが、碍管に嵌め合わされて支持する筒状の碍管固定筒部と、他の部材に取り付けるための鍔部とを有していることが好ましい。そして、碍管固定筒部の内周面を碍管の外周面との間にセメントを充填してこれらを接着する一方、碍管固定筒部の基端部から径方向外側へ突出する鍔部を利用して機器筐体などにボルト等で接続・取り付けるようにしている。因みに、フランジ継手の材質には特に限定や制限はなく、一般的に使用される材質例えば鉄、ステンレス、アルミニウム鋳物や青銅鋳物、場合によっては合成樹脂等が使用可能である。
【0030】
また、リチウム含有層はセメントを浸透した浸入水あるいはセメントに沿って浸入した浸入水が碍管の磁器組織に至るまでの浸透経路の何処かに配置されていれば足りる。例えば、リチウム含有層は、浸入水の浸透経路の入り口または途中に形成されていることが好ましいが、より好ましくは浸透経路の入り口付近に配置することであり、場合によってはリチウム化合物が混入されたセメントそのものによって形成されることである。浸透経路のより上流側にリチウム含有層を配置する場合あるいはリチウム含有層がリチウム化合物が混入されたセメントそのものによって形成される場合には、雨水などの浸入時にリチウムイオンを含ませることができるので、浸入水がセメント内を浸透したりセメントに接して移動する場合にもセメント内でのアルカリシリカ反応を抑制できると共に、碍管表面のサンド部分から碍管内に浸入水の浸透が起きたとしても碍管の陶磁器組織内におけるアルカリシリカ反応を抑制することができる。勿論、碍管の陶磁器組織への浸入水の浸透は、研磨により無釉薬状態となっている端面から多くの場合起こるので、リチウム含有層が浸透経路の途中に形成されていても十分に機能するし、碍管の無釉薬部の端面付近にリチウム含有層を形成する場合においても碍管の無釉薬部の端面付近に滞留して無釉薬部の端面に接触し続ける浸入水に対して十分なリチウムイオンを確実に含ませることができる。碍管の無釉薬部の端面付近から磁器組織内に浸入する水分は碍管の吸湿劣化の主要因と考えられることから、碍管の無釉薬部の端面付近にリチウム含有層を形成する場合でも、碍管のマイクロクラックの発生・進展に対して十分な抑制効果が期待できる。
【0031】
このリチウム含有層は、リチウム化合物の粉末、あるいはリチウム化合物を含有する溶液やペーストをそのまま用いても良いし、他の材料と混合して用いても良い。例えばリチウム化合物をモルタル等に混合して用いる場合には、浸透経路の何処かに浸入水が必ず浸透するようにあるいは接触するような形態で配置して、フランジ継手やセメントなどに接着させて固定することができる。したがって、既設の磁器構造物例えばブッシングに対して補修によりリチウム含有層を形成する場合などには、リチウム化合物を混合したモルタルを、フランジ継手と碍管との隙間から露出したセメントの表面やフランジ継手と機器筐体との間の隙間の外部と連通する開口に盛ったり、塗布することにより、簡単に浸入水の浸透経路上にリチウム含有層を形成できる。また、リチウム含有液を含浸させたフェルトや海綿、綿、織物、繊維等を用いる場合には、これらリチウム含有フェルト等で浸透経路の入り口を覆った後、乾燥させてから塗膜防水材で被覆することにより固定するようにしても良い。また、リチウム化合物の粉末、あるいはリチウム化合物を含有する溶液やペーストをセメントの露出した面に直接散布したり塗布して、その上を防水層で被覆するようにしてもよい。したがって、本発明のリチウム含有層には、このようなリチウム化合物そのものの粉末散布やリチウム化合物を含有する溶液やペーストの塗布により形成される層も含まれる。また、場合によっては、碍管とフランジ継手の碍管固定筒部とを接合するセメントにリチウム化合物を混合して、接着剤としてのセメントそのものをリチウム含有物として利用しても良い。例えば、新設のブッシングや懸垂碍子などの磁器構造物の場合には、リチウム系溶液を添加して混練したセメントを接着剤として用い、碍管あるいは碍子を電気機器筐体あるいは連結ピンなどと接着することにより、セメントそのものをリチウム含有層として機能させることができる。しかも、リチウム化合物のセメントへの混入は、セメントの使用を妨げるような強度低下も生ずることがない。そこで、磁器製品とその他の構成部材とを接着するセメントの大気に晒される面を防水材で被覆あるいはコーキングすることで防水層を形成すれば、防水層が健全な間は防水層により雨水の浸入が阻止され、防水層が破られてもセメント内のリチウム化合物によるアルカリシリカ反応抑制効果により、磁器の組織内におけるマイクロクラックの発生や進展を防ぐことが実現できる。
【0032】
ここで、リチウム化合物としては、亜硝酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等の各種リチウム化合物またはその混合物が挙げられるが、特に高濃度の水溶液が得られ、セメントへの浸透性に優れかつセメント系材料との相性が良い亜硝酸リチウムの使用が好ましい。亜硝酸リチウムの亜硝酸は金属製治具を腐蝕させることがない上に、リチウムイオンも治具の腐蝕を防止することはあっても悪影響を与えることはない。また、亜硝酸リチウムの混合量は原液をそのまま混入させても(40質量%程度に相当)、セメントの固化を妨げることはない。
【0033】
さらに、浸入水の浸透経路の入り口、例えば碍管とフランジ継手との間の隙間の外部と連通する開口あるいはフランジ継手と機器筐体との間の隙間の外部と連通する開口には、該開口即ち浸入水の浸透経路の入り口を被覆するように防水層が形成されている。防水層は、特定の防水材に限定されるものではないが、例えばシリコーンゴム系のコーキング材(防水材)やウレタンゴム塗膜防水材などの使用が好ましい。
【0034】
以上のように構成されたブッシングによれば、防水層が健全でかつ十分な時には雨水等の水分の浸入そのものが阻止されることによってセメントのアルカリ成分が碍管の磁器組織内に侵入することがなく、碍管のシリカ成分との間でアルカリシリカ反応を起こすことがない。また、防水層が十分でなかったり、防水層が経年変化等により劣化したり、あるいは一部剥離等の損傷を起こすことによって雨水等の水分がセメント内に浸透したりセメントに沿って浸入しても、浸入水がリチウム含有物層を浸透する間にあるいはリチウム含有層に接触している間にリチウムイオンを含み、リチウムイオン水としてセメント7さらには碍管の磁器組織内に浸入するため、リチウムイオンの作用によって、セメントのアルカリ成分と碍管のシリカ成分とのアルカリシリカ反応を妨げ、碍管にマイクロクラックが発生・進展するのを防止することができる。したがって、防水層の劣化・損傷などの発見が遅れても、碍管の磁器組織内でのアルカリ・シリカ反応を起こす事態に至ることは極めて少なく、また仮にアルカリ・シリカ反応が局部的に起きていたとしても補修によりそれが進展するのを防ぐことができるので、極めて長期的にブッシングの絶縁性能の低下を防いでブッシングとして求められる長期安定性と長期安全性を確保できる。
【0035】
図1に本発明にかかるブッシングの一実施形態を碍管基部(機器筐体に取り付けられる側の端部)の構造を例に挙げてさらに詳細に説明する。本実施形態にかかるブッシング1は、ブッシング用碍管2の基部の外周面3とフランジ継手5の碍管固定筒部5aの内周面6とがセメント7で接着されて碍管2の基部にフランジ継手5が取り付けられ、フランジ継手5の碍管固定筒部5a側の先端部と碍管2の基部の外周面3との間に存在するセメント7の露出する表面7aがリチウム含有層9で被覆され、リチウム含有層9が防水層10で被覆されている。尚、図1において、符号17は碍管の内部空間、21は釉薬、22はサンドである。また、図1に示すブッシング1では、フランジ継手5の鍔部5bは、電気機器のタンク・機器筐体23とボルト(図示省略)等で接続され、Oリング25等によりタンク23とフランジ継手5の鍔部5bとの間の密閉性、ひいては碍管2の基部の密閉性が確保されている。また、碍管2のタンク23に当接する基部の無釉薬の端面14側のセメント表面7bはタンク23で覆われている。但し、ブッシング1の下端を電気機器のタンク等と接続する形態はこの形態に限定されるものではない。尚、本明細書において、セメントとは、セメントペーストのみならず、セメント・モルタルなどの所謂アルカリ性接着剤全般を含む広義のものである。また、ブッシング1を構成する導体の図示は省略している。
【0036】
また、図2に本発明にかかるブッシングの一実施形態を碍管の頭部(蓋部材が取り付けられる側の端部)の構造を例に挙げてさらに詳細に説明する。このブッシング1は、ブッシング用碍管2の頭部の外周面3とフランジ継手5’の碍管固定筒部5a’の内周面6’とがセメント7’で接着されて碍管2の頭部にフランジ継手5’が取り付けられ、フランジ継手5’の碍管固定筒部5a’側の先端部と碍管2の頭部の外周面との間に存在するセメントの露出面7a’がリチウム含有層9’で被覆され、リチウム含有層9’が防水層10’で被覆されている。尚、フランジ継手5’の鍔部5b’は蓋部材24とボルト等で接続され、鍔部5b’に設けられたOリング25’等により蓋部材24とフランジ継手5’の鍔部5b’との間の密閉性、ひいては碍管2の頭部の密閉性が確保されている。また、碍管2の蓋部材24に当接する基部の無釉薬の端面15側のセメント表面7b’は蓋部材24で覆われている。但し、ブッシング1の上端を密閉等する形態はこの形態に限定されるものではない。
【0037】
尚、防水層10の内側に封入されるリチウム化合物の量、換言すればリチウム含有層9、9’の容量は特に限定されるものではなく、少な過ぎる量であれば碍管の磁器組織内でのアルカリ・シリカ反応の抑制効果が短期的なものとなり、過多な量であればフランジ継手の内部にも端部にも成形し難いものとなる。そこで、例えば厚みに換算した場合には5mm〜20mm程度とすればよい。また、図6及び図7に示すように、セメント7、7’が碍管固定筒部5a、5a’の縁・高さよりも低い位置までにまでしか充填されない場合には、碍管固定筒部5a、5a’の上端までリチウム含有層9、9’を設けることとすればその上を覆う防水層10、10’の施工を含めて全体の施工が容易である。勿論、場合によってはさらに碍管固定筒部5a,5a’の上端を越えて盛り上がるように形成しても良い。尚、本発明は、セメントの全てにリチウムを含有させることが主目的ではなく、コーキングが破れた部分から浸入する雨水が碍管の磁器組織内でアルカリ水として機能しなければよいため、リチウムの含有量は全セメント量をカバーする程には必要としない。したがって、リチウム含有層としてモルタルにリチウムを混ぜたものを使用する場合、リチウム含有量はモルタルの固体化を大きく阻害しない量であれば特に限定されるものではないが、例えばモルタルに必要な水に対して5〜10重量%とすることが好適である。
【0038】
リチウム含有層9、9’には、防水材が被覆されて防水層10、10’が形成される。防水材としては、防水のためのコーキング材として一般的なもの、例えば、シリコーンゴム等のゴム系材料が挙げられるがこれらに限定されるものではない。防水層10、10’の厚みは特に限定されるものではなく、例えば現在使用されている防水層と同程度の厚みとすればよい。
【0039】
また、碍管2とタンク23との間あるいは碍管2と蓋部材24との間のシール構造は、図1及び図2並びに図6及び図7に示すケースに限られず、図8及び図9に示すように、碍管2の研磨された無釉薬の端面14,15とタンク23との間あるいは蓋部材24との間にシール25,25’を配置することによって構成されることもある。この場合、碍管2の基部側においては、碍管底部に設置されたOリング25によって、碍管2の底部(端面)14とタンク23との間の封止が行われ、Oリング25よりも先、即ち碍管2の内部空間17側への雨水等の浸入を阻止できるが、碍管底部14は平坦にするために研磨されて釉薬21がなくなっているため、Oリング25の外側の無釉薬部の端面から碍管2の磁器組織内に浸入することが考えられる。また、鍔部5bとタンク23との間の隙間8並びにボルト4と鍔部5bとの間の隙間12から浸入した雨水などの浸入水が、碍管の無釉薬部の端面付近のセメント7の内部を浸透する際に、あるいはセメント7とタンク23との間の隙間に浸入した水分がセメントの表面7bに触れている間に、セメント7のアルカリ成分(Na、K)を含んでから碍管2の磁器組織内に浸入し、碍管2に含まれるシリカ成分との間にアルカリシリカ反応を起こして、シリカ質結晶やシリカガラス相中にマイクロクラックを発生させることが考えられる。そして、この碍管2の底部14の隅で生じたマイクロクラックが時間の経過と共に徐々に奥側へと進展し、ついには碍管2の内外を連通させて碍管2の内部に封入されているSF6等の絶縁ガスや絶縁油が碍管2の外に漏洩する事態を惹起する虞がある。また、ブッシング1の頭部においても、同様に、鍔部5b’と蓋部材24との間の隙間8’並びにボルト4’と鍔部5b’との間の隙間12’から浸入した雨水などの浸入水が、碍管2に含まれるシリカ成分との間にアルカリシリカ反応を起こして、碍管が吸湿劣化する虞れがある。
【0040】
そこで、図8及び図9に示すシール構造を採るブッシング1の場合には、フランジ継手5の鍔部5bとタンク23との隙間8,8’及び鍔部5b,5b’と該鍔部5b,5b’を貫通する固定用ボルト4,4’の頭部との隙間12,12’を覆うようにリチウム含有物の層9,9’を形成し、さらに該リチウム含有層9,9’を防水材で覆うようにして防水層10,10’を形成することが好ましい。つまり、フランジ継手と碍管並びにフランジ継手と機器の容器及び蓋部材との間のセメントに向かう外部からの浸入水の浸透経路の入り口をリチウム含有層9,9’で被覆した上からさらに防水材で被覆する防水層10,10’を外側に形成することが好ましい。
【0041】
勿論、図8及び図9に示すような、浸入水の浸透経路の入り口にリチウム含有層9,9’を設ける場合に限られず、フランジ継手5の鍔部5bに発生する隙間8,8’,12,12’から浸入する雨水などの浸入水にリチウムを含ませるため、浸透経路の途中にリチウム含有物の層を形成しても良い。例えば、図示していないが、碍管2とフランジ継手5,5’とを接合するセメント7,7’の底部あるいは頂部にリチウム含有層9,9’を形成し、隙間8,8’及び12,12’を通って外部から浸入する雨水等の浸入水がリチウム含有物層9,9’を通過して、碍管の無釉薬部の端面から碍管2内に浸透するように設けても良い。
【0042】
本発明のブッシング構造は、既設のブッシングに対して補修を行うことによっても実現できる。例えば、フランジ継手5の碍管固定筒部5aと碍管2との隙間を塞ぐように防水層10が形成されている既設のブッシングを対象とする場合には、図3に示すように、まず防水層10を剥離し(S1)、フランジ継手の碍管固定筒部5aと碍管2との隙間から露出したセメント7の表面7aの上にリチウム含有物を盛ってリチウム含有層9を形成し(S2)、さらにそのリチウム含有層を覆ってリチウム含有層9を含めて碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の端面にかけて、あるいは碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の外周面に及ぶように防水材で被覆して防水層10を再度形成する(S3)。
【0043】
同様に、碍管2の頭部側においても、防水層10を剥離し(S1)、フランジ継手の碍管固定筒部と碍管との隙間から露出したセメントの露出面7aの上にリチウム含有物を盛ってリチウム含有層9を形成し(S2)、さらにそのリチウム含有層を覆ってリチウム含有層9を含めて碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の端面にかけて、あるいは碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の外周面に及ぶように防水材で被覆して防水層10を再度形成する(S3)。
【0044】
また、本発明のブッシング構造は、防水層10を形成していない既設のブッシングに対して補修を行うことによっても実現できる。この場合には、防水層10の剥離工程(S1)は不要となるので、図4に示すように、フランジ継手の碍管固定筒部と碍管との隙間から露出したセメントの露出面7aの上にリチウム含有物を盛ってリチウム含有層9を形成し(S2)、さらにそのリチウム含有層を覆ってリチウム含有層9を含めて碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の端面にかけて、あるいは碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の外周面に及ぶように防水材で被覆して防水層10を形成する(S3)。
【0045】
同様に、碍管2の頭部側においても、防水層を形成していない既設のブッシングを対象とする場合には、図4に示すように、フランジ継手5’の碍管固定筒部5a’側の先端部と碍管2の頭部の外周面との間に存在するセメントの露出面7a’をリチウム含有物で被覆してリチウム含有層9’を形成する工程(S2)と、リチウム含有層9’を防水材で被覆して防水層10’を再度形成する工程(S3)とを含むようにすればよい。
【0046】
また、本発明にかかる磁器構造物は、上述のブッシングの実施形態に限られず、それ以外の磁器製品と他の構成部材とのセメンチングによる接着・接合の例、例えば懸垂碍子や長幹碍子、高圧ピン碍子、高圧耐張がいしなどの碍子類にも適用することができる。図10に懸垂碍子に適用した例を示す。この懸垂碍子の場合、碍子本体26の中央の筒状部分の外周面には他の懸垂碍子を連結するための雌側連結部を備えるキャップ27を被せる一方、筒状部分の内方には他の懸垂碍子の雌側連結部と嵌合する雄側連結部となるピン27が備えられている。碍子本体26の筒状部分の外周面と内周面部分にはそれぞれサンド層が形成されてセメンチングにより金属製キャップやピンが連結具を抜け止めの固定するように設けられている。ここで、碍子本体26と金属製キャップ27及びピン28を接着するセメント29には、アルカリシリカ反応抑制剤例えば亜硝酸リチウムなどのリチウム化合物が混合されたセメントが使用され、セメントそのものによってリチウム含有層が形成されている。そして、このセメント29の大気に晒される面29aには、防水材が被覆されて防水層30が形成されている。防水層30としては、本実施形態の場合、防水のためのコーキング材として一般的な材料、例えばシリコーンゴム等のゴム系材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。尚、本発明は、セメントによって磁器とその他の構成材料との接着・接合が行われているその他の碍子類や、磁器構造物にも適用できることは言うまでも無い。
【0047】
これら懸垂碍子やその他の碍子類では、主に送電系統において高所で使用されることから、ほとんど点検もされることがなければ、補修されることもない。そこで、碍子製造時のセメンチングのときにセメントにアルカリシリカ反応抑制剤例えば亜硝酸リチウムなどのリチウム化合物を混合しておくことが望ましい。これにより、セメント層全体においてリチウム含有層が形成され、セメンチング用のセメント7そのものにリチウムイオン供給能を持たせることができる。しかも、リチウム化合物のセメントへの添加によって、セメントの強度が大きく低下することもなく、実用上問題となることはない。亜硝酸リチウムの混合量は原液をそのまま混入させても(40質量%程度に相当)、セメントの固化を妨げることはない。したがって、1.7質量%以上、多くとも5質量%程度の範囲で添加する場合には、セメントの接着剤としての強度も維持しながら、碍子でのアルカリシリカ反応を抑制する効果を得ることができる。
【0048】
上述のブッシングに用いられる碍管に、実際にアルカリシリカ反応を引き起こしているのか否か、並びにアルカリシリカ反応を抑制することができるか否かを、試験を行って確認した。
【0049】
1.モルタル試験体による碍管のアルカリシリカ反応性確認試験
(1)モルタル試験体の製造
コンクリート用骨材のアルカリシリカ反応性の有無を判定する場合に用いられるモルタル試験法(JIS A1146)を適用してA社製並びにB社製の碍管のアルカリシリカ反応性を評価した。
骨材状に碍管を粉砕し、JIS A1146に規定される粒度に調整した(表1)。JIS A1146に示されるモルタル試験ではアルカリシリカ反応を促進させるために水酸化ナトリウム(NaOH)を添加することで、セメントに含まれるアルカリ量(Na2O等価量)を1.2%になるように調整した(表2)。一方で、碍管で生じる反応ではセメントに含まれるアルカリのみに起因する高アルカリ水が碍管の非コーティング部分に接触することで生じるため、比較試験として、NaOHを添加せずに骨材とした粉砕碍管に対するセメントの質量比を高めた配合としたモルタル試験体も製造した(表2)。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
(2)モルタル試験体の膨張量測定結果
各モルタル試験体の両端に埋め込み型のゲージプラグ(こけし状のピン)が取り付けられており、そのプラグ間の長さ変化を1/1000読みのダイヤルゲージにて測定した。なお、各モルタル試験体はアルカリシリカ反応を促進させるために、38℃/R.H.95%以上の湿空槽内に静置した。測定日前日に20℃/R.H.95%以上の湿空槽に移し、長さ測定を実施した。
膨張量の経時変化を図11に示す。図11から、NaOHを添加したモルタル(A社(1)・(3),B社(1)・(3))、ならびにNaOH無添加モルタル(A社(2),B社(2)のいずれも材齢10週間で300〜500μm程度膨張し、アルカリシリカ反応性を有することが認められた。212日経過した時点でNaOH無添加モルタルの膨張挙動はほぼ収束した。
【0053】
図11に碍子がアルカリシリカ反応を起こすかどうかを検証するための試験結果を表わす。この結果から、アルカリシリカ反応促進のためのNaOHを添加した場合に限らず、添加しない場合でも、初期から急激に膨張が起こることから、アルカリシリカ反応を確実に起こしていることが確認された。また、EPMA分析装置によって諸元素濃度分布が異なることが確認されたA社,B社の2製品について条件をいろいろ変えて実験を行っても、アルカリシリカ反応が碍子に起こることが確認された。このことから、実際の碍管の固定部に用いられていたセメントに雨水が接触し、アルカリ成分が碍子に達することでアルカリシリカ反応が生じるものと判断できる。
【0054】
2.アルカリシリカ反応抑制剤の効果検証試験
(1)試験体準備
実際に使用していたA社製ブッシングの碍管端部近傍を切断し、図12に示すように上下端部(既存の露出面と切断面)に付着しないように碍管の表面に付着していた充填用セメント32の表面に遮水効果の高いエポキシ樹脂33を塗布するとによって、4つの試験体31を作製した。エポキシ樹脂33を塗布したのは、既設のブッシングの碍管には接着材としてのセメント32が強固に付着しており、碍子試料31から剥離することが困難であることから、遮水材33を塗ることで既存の充填用セメント32から浸出したアルカリ成分が測定面に影響を及ぼさないように対処するためである。各試験体の平滑な既存の露出面(碍管端部)には、異なる量のアルカリシリカ反応抑制剤(亜硝酸リチウム)を添加した3種類のセメントペースト(No.1〜No.3,表3)および無添加のセメントペースト(基準試料No.0)を厚さ1cmのセメントペーストブロック34に形成して密着させた。そして、38℃/R.H.95%以上の湿空養生槽で養生し、測定日前日に20℃/R.H.95%以上の湿空槽に移し、長さ測定を実施した。尚、図中の符号35は超音波探触子、36は超音波伝播速度測定装置である。超音波探触子35は、1つの試験体に3対設置し、1つの試験体から3箇所でデータを取得して平均処理した。
【0055】
【表3】
【0056】
(2)碍管のアルカリシリカ反応抑制効果検証結果
抑制効果検証用試験体(日本碍子製碍管)の超音波伝播速度の測定結果を図13に示す。なお、試料の寸法(測定長)が試料間で異なるため、試料準備直後に測定した超音波伝播時間に対する各材齢における超音波伝播時間の比率を伝播時間比として指標化した。
抑制剤無添加ペーストを密着させた試験体の超音波伝播速度は試験開始時に比べて低下した。これは、セメントの硬化反応(水和反応)の進行にともなう強度増加、すなわち剛性の増加に起因する(図14)。また、抑制剤を添加した試料においても同様に試験開始時に比べて超音波伝播速度が低下しており、碍管に密着させたセメント部の剛性増加が認められた。抑制剤を添加した場合(No.1,2,3)に比べて抑制剤無添加の場合(No.0)は超音波伝播速度の低下率が少ないことから、No.0ではセメントと碍管の界面でアルカリシリカ反応が生じている可能性が示唆された。尚、今回の検証では、試験体31の寸法を大きく設定し過ぎたため、超音波伝播速度に変化が生じる領域に対して変化が起こらない領域が圧倒的に大きくなってその差は僅かであった。碍子・試験体31の寸法を小さく設定することで、試料の変質状態をより精度良く評価することができるものと考える。
【0057】
3.碍管の空隙形態および元素分布分析結果
碍管の空隙形状と分布状態ならびに元素濃度分布を把握するために、碍管試料の破片を対象として鏡面研磨と導電物質の蒸着作業後にEPMA分析装置(電子線マイクロアナライザー)を用いた分析を行い、試料表面の凹凸や密度を観察した。
【0058】
(1)母材の空隙形態の比較
A社製碍管とB社製碍管のEPMA分析装置による反射電子像を図15に示す。白色〜灰色〜黒色に区分けされるが、白色域は高密度域、そして黒色は低密度域に相当する。また、図15に表示されている黒色の箇所は空隙に相当する。A社製碍管(図15(a))には直径10μm程度の空隙が連結することで長細い断面を形成する比較的大きな空隙が多く存在するが、B社製碍管(図15(b))では直径10μm程度の空隙が分散した状態で存在する。
反射電子像において薄い灰色で同じ色調となる領域はA社製碍管ではNa-K-Si-Alを主成分とし、Naが比較的多いことから曹長石の溶融相であると推測でき、B社製碍管ではK-Si-Alを主成分とするカリ長石の溶融相であると推測できる。
【0059】
(2)アルカリシリカ反応抑制効果の検証結果
A社製碍管を用いて図12に示すアルカリシリカ反応抑制効果についての検証を行った。Li化合物を添加しないセメントペーストを碍子に接触させた場合、界面から深さ約0.3mm(300μm)程度までの範囲でSi鉱物(石英もしくは非晶質鉱物)が溶解し、界面にアルカリシリカ反応ゲル(Ca固定型)が生成した(図16(a))。一方、Li化合物をセメント質量に対して1.7%以上添加した場合は、碍子界面近傍に溶解痕が形成されず、アルカリシリカ反応ゲル(ASRゲル)も生成しないことを確認した(図16(b))。図16の画像において、左側が碍子であり、右側がセメントペーストである。Liを添加しないセメントペーストを接触させた場合(図16(a))には、碍子の部分の特に濃いグレーの周囲にクレーターのように溝・凹みが生じていることがわかる。これに対し、Liを添加したセメントペーストを接触させた場合(図16(b))には、濃いグレーの箇所が周囲と同じ高さでクレーターのような溝・凹みが生じていないことが分かる。このことから、Li化合物をセメントに添加した場合は、碍子と鋼製冶具の接着材料として使用しても問題が無いことを明らかにした。また、既存の碍子躯体に対してLi添加セメントを所定の箇所に固着させることでLiイオンが碍子露出部まで浸透し、アルカリシリカ反応の進展を抑制できる可能性が認められた。尚、碍子とセメントペーストとの間の黒い部分は視度調節のときに生じた隙間である。
比較のため、図17にカリウム濃度を示す。亜硝酸リチウムをセメントペーストに混合させていない場合(図17(a))には、セメントから浸入するカリウム(白く表示された部分)が碍子の境界面から200〜300μm程度の範囲に見られた。しかし、亜硝酸リチウムを1.7質量%添加した場合(図17(b))には、カリウムは見いだせなかった。また、亜硝酸リチウムを1.7質量%添加した場合(図17(b))には、アルカリシリカ反応ゲルも存在しなかった。このことから、碍子の表面でアルカリシリカ反応が起こっていることが確認できた。リチウムが先に碍子の磁器組織に入ることで、カリウムの浸透を防いでいるものと推測される。これに対し、Li化合物をセメントに添加していない場合は、図17(a)に示すように、セメントペーストから浸入したカリウムがシリカを溶かしていることが分かる。つまり、図16の画像の濃いグレーの部分はシリカが多く集まった部分を示しており、硅石と長石のグループが多い所であり、図17(a)ではシリカが多く集まっている濃いグレーの部分の周りのシリカ特に硅石部分にカリウムが集まって居ることを示し、そのカリウムがシリカを溶かした結果、図16の(a)ではクレーターとして反射電子像に表れたことが判る。他方、亜硝酸リチウムを添加した場合(図17(b))には、Siが溶けずに健全な状態を維持していることが判る。
【0060】
ここで、リチウム添加量を1.7質量%よりも増やしても、リチウム反応抑制効果に違いはなく、その反面セメント構造物としての強度が僅かに弱くなる傾向が認められた。このことから、リチウム添加量はあまり多くなくても良いが、碍子に水分が浸透する箇所から離れた箇所から浸透する雨水にリチウムを含有させて供給する実施形態の場合には、多めに混合しておくことが好ましいと言える。例えば、5質量%程度の混入が好ましい。
【0061】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、碍管2としては、主に磁器製碍管を例に挙げて説明しているが、場合によってはガラス製碍管や、ナトリウム等のアルカリと反応してアルカリシリカ反応を起こすシリカ成分(例えばシリカ質結晶やシリカガラス相など)を含むその他の碍管を利用するブッシングに対しても実施可能である。また、碍管や碍子の他に、シリカを含む物、特にガラス(非晶質)材料にセメントが接触する場所では同様のアルカリシリカ反応を起こしてマイクロクラックを発生させることから、このような構造物あるいは部位に本発明を適用することは効果的である。さらに、防水層10、10’の表面やフランジ継手5、5’の碍管固定筒部5a、5a’、若しくはフランジ継手5、5’の全体を錆止塗装等するようにしてもよい。この場合、フランジ継手5,5’の錆付きが抑えられると共に、美的な外観を長期間維持することができる。また、防水層10、10’は、リチウム含有層9、9’だけでなく、フランジ継手5、5’の碍管固定筒部5a、5a’、さらにはフランジ継手5、5’の全体を被覆するようにしてもよい。
【0062】
また、上述の実施形態では、リチウム化合物をモルタルあるいはセメントペーストなどに混練した形態で磁器製品と金属製品とを接着するセメントの端部あるいはその近傍に配置したり、セメントそのものに混練した状態で配置する例を挙げて主に説明したが、これに特に限られるものではなく、雨水の浸入若しくは大気に晒される可能性のあるセメントの端部や磁器製品の釉薬が除去された面ないしはサンドが施された磁器製品の表面に、リチウム化合物の含有液(アルカリシリカ反応抑制剤)を直接塗布し、その上を止水材でコーキング処理あるいは防水材で被覆して防水層を形成するようにしても良い。この場合、リチウム化合物を含有するアルカリシリカ反応抑制剤は、コーキングあるいは防水層の被覆により外部に流出することが防がれる。
【符号の説明】
【0063】
1 ブッシング
2 碍管
5、5’ フランジ継手
5a、5a’ 碍管固定筒部
5b、5b’ 鍔部
7、7’ セメント
7a、7a’ 大気に露出するセメント表面
9、9’ リチウム含有層
10、10’ 防水層
26 碍子本体
27,28 金属製キャップ及びピン
29 セメント
30 防水層
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブッシングなどの磁器やガラスなどのシリカを含む構造物と他の構成部材とをセメントで接着して成るシリカ含有構造物並びに既設のブッシングの補修方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、セメントから滲出するアルカリ液で磁器組織中あるいはシリカを含む組織中においてアルカリシリカ反応を抑制可能なシリカを含む部品や製品などと他の構成部材とをセメントで接着して成るシリカ含有構造物及び既設のブッシングの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統設備において使用されているブッシングの一例を図5に示す。このブッシング101は、碍管102と、該碍管102内に封入される内部絶縁例えばSF6等の絶縁ガスや絶縁油とから成り、電気機器と接続される中心導体103が碍管102の中心に配置され、絶縁されている。
【0003】
碍管102の基部には、その外周面にフランジ継手105の碍管固定筒部105aの内周面がセメント107で接着されて、フランジ継手105が取り付けられている。また、碍管102の頭部には、その外周面にフランジ継手105’の碍管固定筒部105a’の内周面がセメント107’で接着されて、フランジ継手105’が取り付けられている。
【0004】
そこで、ブッシング101は、フランジ継手105の鍔部105bを利用して変圧器やGIS等の電気機器のタンク106にボルト等で取り付けられ、中心導体103の下端が接続端子110を介して電気機器本体(不図示)と接続されている。また、フランジ継手105’の鍔部105b’を利用して蓋部材108がボルト等で取り付けられている。蓋部材108には中心導体103を電力線と接続する上部端子104が備えられている。
【0005】
ここで、碍管102は、内部空間に封入するSF6等の絶縁ガスあるいは絶縁油が外部に漏洩するのを防ぐため、釉薬で表面が被覆されて不透水性・不透気性が高められ、絶縁ガス等の漏洩や吸湿を防ぐように配慮されている。このため、碍管102の外周面から水分が碍管102の内部に直接浸入することは阻止される。しかしながら、タンク106や蓋部材108に当接する碍管102の端面は、研磨されて平坦な面とされていることから釉薬が削り落とされて磁器の素地が露出している。他方、碍管102とフランジ継手105,105’とを接合するセメント107,107’部分(セメンチング部とも呼ばれる)から雨水等の水分が浸入し、セメント107,107’層を浸透して碍管102の無釉薬部の端面付近に滞留して無釉薬部の端面に接触し続け、碍管102の磁器組織内に浸入することが考えられる。また、場合によってはセメントの係着力を上げるために碍管固定筒部105a,105a’の内側の碍管の外周面部分に形成されたサンド部分を通して、セメント層を浸透する水分が碍管102の内部へ浸入することが考えられる。
【0006】
ブッシングを構成する碍管は、磁器によって構成されているため、これまでは適切な製造管理がなされていれば、現実的な使用条件下では劣化現象が発生しないものと認識されていた。したがって、水分の浸入についても、今まで特に問題とされることは無かった。しかしながら、最近になって、屋外において長期に亘って使用されてきた碍管のうち、稀に、碍管102とフランジ継手105,105’とを接着しているセメント107,107’部分から浸透した水分にセメントのアルカリ成分(Na、K)が溶出し、アルカリシリカ反応で磁器・碍管が吸湿劣化する事例が発生していることが報告されている(非特許文献1及び2参照)。碍管102の磁器組織内では、セメントのアルカリ成分を含む水分が浸入することにより、水分中のアルカリ成分と碍管102に含まれるシリカ成分とがアルカリシリカ反応を起こしてアルカリ・シリカ生成物が生成される。そして、このアルカリ・シリカ生成物が吸水・吸湿して膨張することに起因して、碍管102のマイクロクラックの発生並びに進展が生じているものと考えられている。アルカリ・シリカ生成物の膨張により、碍管102のシリカ質結晶やシリカガラス相中にマイクロクラックを発生させる。そして、さらにマイクロクラックが進展すると、磁器クラックが発生して碍管102から絶縁媒体である絶縁ガスや絶縁油が漏洩し、ブッシング101の絶縁性が低下し、場合によっては地落事故等の重大事故に繋がり得ることもある。しかも、絶縁ガスであるSF6は温暖化係数の極めて高いガスでもあることから、漏洩による大気中への拡散は好ましくない。
【0007】
そこで、現在、新設のブッシングのみならず、既設のブッシングに対しても、セメント107,107’の大気に露出している面107a、107a’をシリコーンゴム等のゴム系のコーキング材(防水材)で被覆して防水層を形成することにより、セメント107、107’への水分の浸入を防止して、アルカリシリカ反応に起因する碍管102のマイクロクラックの発生・進展を防止することが行われている。
【0008】
また、この磁器のアルカリシリカ反応に起因するマイクロクラックの発生並びにその進展による破損等は、ブッシング特有の問題ではなく、ブッシング以外の磁器製品とその他の部材例えば金属製治具などとをセメントを用いて接着する(セメンチング)場合にも同様に生ずる問題である。例えば、懸垂碍子や長幹碍子、高圧ピン碍子、高圧耐張がいしなどの碍子類においても、あるいはその他の磁器構造物においても、セメントに接する部分の碍子でマイクロクラックの発生並びにその進展が起こり、磁器製品の強度低下惹いては破損等を招く問題を有している。また、磁器に限らず、シリカを含む部品や製品などの構造物でセメントと接触する箇所でも、同様にアルカリシリカ反応を起こしてマイクロクラックの発生や進展が起こって問題となることがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】アルカリ・シリカ反応による磁器碍管の吸湿劣化診断技術、IEEJ Trans.PE、Vol.126、No.6、2006、p592−597
【0010】
【非特許文献2】アルカリシリカ反応碍管の劣化検証方法に関する研究、電気協同研究、第61巻、第3号、p215−219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、防水層を形成したとしても、防水材そのものの経年劣化を回避することはできないし、それは使用環境によっても大きく変動する。また、外観に現れ難い防水層の異常を簡単に判断することは難しく、防水層が局部的に劣化・損傷したり、剥離することがあっても、見過ごしてしまうこともある。このため、明白な防水層の異変に気がつくまで、アルカリシリカ反応に起因する碍管のマイクロクラック発生、さらにはその進展を未然に防ぐことができない問題を抱えている。さらには防水層の施工技術の善し悪しにも左右され、防水が当初から不十分な場合も起こり得る。このことから、防水層の維持に万全をきたすためには、定期点検の時期を比較的短い周期に設定したり、早めに防水層の補修を実施せざるを得ないこととなるが、それでも防水が不十分な事態に陥っていることを確実に回避することは難しい。そこで、防水層が形成されている既設のブッシングにおいても、たとえ防水層の劣化・損傷等を見過ごしたとしても、アルカリシリカ反応に起因する碍管のマイクロクラック発生・進展を未然に防止することのできるブッシング構造及びブッシング用碍管並びに既設のブッシングに対する補修が望まれる。
【0012】
このことは、防水材による防水層が未だ形成されていない既設のブッシングに対しても、さらにはこれから新設されるブッシングに対しても要望されることである。また、ブッシング以外の磁器製品を用いた設備例えば懸垂碍子などの碍子類やその他の磁器構造物などにおいても同様に要望されるものである。磁器組織内でセメント由来のアルカリ成分と磁器に含まれるシリカ成分とがアルカリシリカ反応を起こしてアルカリ・シリカ生成物が生成されることにより、強度低下を招く程度にまでマイクロクラックが進展すれば、磁器製品そのものの破損、若しくは破損に伴う絶縁隔離を保てなくなり絶縁破壊を起こすなどの不具合、さらには数トンから数十トンの吊り下げ荷重に耐えられずに破壊する虞もある。
【0013】
本発明は、かかる要望に応えるもので、アルカリシリカ反応に起因する磁器組織内あるいはシリカを含む組織内でのマイクロクラックの発生・進展を防止して、ブッシングなどの磁器を用いた構造物あるいはその他のシリカを含む構造物の安全性・安定性を長期に維持可能とするシリカ含有構造物及び既設のブッシングの補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、磁器やガラスなどのシリカを含む構造物と他の構成部材とをセメントで接着して成るシリカ含有構造物において、セメントに沿ってあるいはセメント内を浸透して磁器製品の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の少なくとも入り口または途中にリチウム含有層を形成し、さらにリチウム含有層よりも外側において浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆する防水層を形成するようにしている。
【0015】
ここで、リチウム含有層は浸入水の浸透経路の入り口を被覆するように形成され、該リチウム含有層をさらに覆って防水層を形成して成ることが好ましい。また、リチウム含有層はセメントにリチウム化合物が混入されてセメントそのものによって形成されていることが好ましい。また、リチウム含有層は、セメントの露出面あるいは磁器製品とセメントとの隙間にリチウム化合物を含有する溶液を直接塗布し、その上を防水層で覆っていることことが好ましい。
【0016】
さらに、本発明にかかるシリカ含有構造物は、両端部にフランジ継手をセメントで接着したブッシング用碍管、または磁器碍子と該磁器碍子を他の磁器構造物に連結するための金属製治具とをセメントで接着して成る碍子類であり、あるいは両端部にフランジ継手をセメントで接着した碍管と、フランジ継手を介して碍管の一端が機器に他端には蓋部材が固定されるブッシングであり、フランジ継手と碍管並びにフランジ継手と機器の容器あるいは蓋部材との間からセメントに沿ってあるいはセメント内を浸透して碍管の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の入り口または途中にリチウム含有層を形成したものであることが好ましい。
【0017】
また、本発明にかかる既設のブッシングの補修方法は、フランジ継手をセメントで端部に接着した碍管をフランジ継手を介して機器に固定し、フランジ継手と碍管あるいは機器の容器との間の浸入水の浸透経路の入り口となる隙間に防水材で被覆された防水層が形成されている既設のブッシングにおいて、防水層を剥離する工程と、防水層を剥離した後の隙間をリチウム含有物で被覆してリチウム含有層を形成する工程と、リチウム含有層を含めてフランジ継手と碍管あるいは機器の容器との間のセメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆して防水層を再形成する工程とを有するようにしている。
【0018】
また、本発明の既設のブッシングの補修方法は、フランジ継手をセメントで端部に接着した碍管をフランジ継手を介して機器に固定された既設のブッシングにおいて、フランジ継手と碍管あるいは機器の容器との間のセメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口をリチウム含有物で被覆してリチウム含有層を形成する工程と、該リチウム含有層を含めてフランジ継手と碍管あるいは機器の容器との間のセメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆して防水層を形成する工程とを有するようにしている。
【発明の効果】
【0019】
本発明のブッシングなどのシリカ含有構造物によれば、セメントに沿ってあるいはセメント内を浸透してシリカ含有構造物の磁器組織内あるいはシリカ含有組織内(以下これらを総称して単に磁器組織内と呼ぶ)に至る浸入水の浸透経路の少なくとも入り口または途中にリチウム含有層を形成し、さらにリチウム含有層よりも外側において浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆する防水層を形成するようにしているので、防水層が健全でかつ十分な時には雨水等の水分の浸入そのものが阻止されることによってセメントのアルカリ成分が碍管などの磁器製品あるいはその他のシリカ含有製品(以下これらを総称して単に磁器製品と呼ぶ)の磁器組織内に侵入することがなく、磁器組織内のシリカ成分との間でアルカリシリカ反応を起こすことがない。また、防水層が十分でなかったり、防水層が経年変化等により劣化したり、あるいは一部剥離等の損傷を起こすことによって雨水等の水分がセメント内に浸透したりセメントに沿って浸入しても、浸入水がリチウム含有物層を浸透する間にあるいはリチウム含有層に接触している間にリチウムイオンを含み、リチウムイオン水としてセメントさらには碍管などの磁器製品の磁器組織内に浸入するため、リチウムイオンの作用によって、セメントのアルカリ成分と磁器製品のシリカ成分とのアルカリシリカ反応を妨げ、磁器製品の磁器組織内でのマイクロクラックの発生を防止できる。リチウムイオンには、膨張性のないリチウム・シリカ生成物を優先的に生成してアルカリ・シリカ生成物の生成を抑える作用と、アルカリ・シリカ生成物の表面を水に対する溶解性、吸湿性を持たないリチウムモノシリケート(Li2・SiO2)またはリチウムジシリケート(Li2・2SiO2)に置換して吸水・吸湿反応を収束させて膨張を抑える作用がある。これら作用によって、碍管や碍子などの磁器製品内の磁器組織内にアルカリ・シリカ生成物が生成されるのを抑制し、あるいは生成されたアルカリ・シリカ生成物の吸水・吸湿による膨張を抑えて、磁器製品にマイクロクラックが発生・進展するのを防止することができる。
【0020】
即ち、防水層が健全性を損なったり、防水層の劣化・損傷などに因る雨水等の水分の浸入が起きたとしても、浸入水にリチウムイオンが含まれることから、セメント層を浸透して碍管や碍子などの磁器製品の無釉薬部の端面付近に滞留して無釉薬部の端面に接触し続け、磁器製品の磁器組織内に浸入しても、また場合によっては碍管や碍子などの磁器製品のセメントを付着させる面に形成されたサンド部分を通してセメント層を浸透する水分が磁器製品の内部へ浸入しても、膨張性のないリチウム・シリカ生成物を優先的に生成してアルカリ・シリカ生成物の生成を抑えると共に、アルカリ・シリカ生成物の表面を水に対する溶解性、吸湿性を持たないリチウム・シリカ生成物に置換して吸水・吸湿反応を収束させて膨張を抑えることから、磁器製品にマイクロクラックが発生・進展するのを確実に防止することができる。したがって、例えばブッシングに適用する場合には、たとえ防水層が局部的に劣化・損傷したり、剥離したことを見過ごして雨水等の水分の浸入が起きていたとしても、侵入水へのリチウムイオンの含有がアルカリ・シリカ生成物の生成と膨張を抑制するので、碍管のマイクロクラックの発生・進展を防いで、極めて長期的にブッシングの絶縁性能の低下を防ぎ、ブッシングとして求められる長期安定性と長期安全性を確保できる。また、懸垂碍子や長幹碍子、高圧ピン碍子、高圧耐張がいしなどの碍子類に適用する場合においても、あるいはその他の磁器構造物においても、磁器製品のセメントに接する部分からのマイクロクラックの発生並びにその進展を防いで、磁器製品の強度低下惹いては破損等を防ぐことができる。特に碍子類の場合、碍子そのものの破損、若しくは破損に伴う絶縁隔離を保てなくなり絶縁破壊を起こすなどの不具合、さらには数トンから数十トンの吊り下げ荷重に耐えられずに破壊することを防ぐことができる。
【0021】
特に、リチウム含有層が浸入水の浸透経路の入り口を被覆するように形成されたり、リチウム化合物が混入されたセメントそのものによって形成されている場合には、防水層の劣化などによって雨水等の水分の浸入が始まったとしても、リチウムイオンが含まれた状態でセメントに浸透するため、セメント内でのアルカリ・シリカ反応も防ぐことができるので、碍管や碍子などの磁器製品と他の構成部材との接合強度も損なうことがない。
【0022】
また、本発明をブッシング用碍管や碍子類の工場生産可能な磁器構造物に適用する場合には、リチウム含有層と防水層とを工場での管理下にばらつきなく安定した品質で構築できる。中でも、リチウム含有層がセメントそのものによって形成されている場合には、セメント材料としてリチウム化合物が混入されたセメントを用いると共に防水層を形成する工程を伴ういう変更だけで、製造工程を大きく変更せずに済む。勿論、リチウム含有層の形成並びに防水層の形成は、予め工場内で実施しても良いが、例えばブッシングのように変圧器やGIS等の大形タンク等に据え付ける場合には、碍管を現場で設置してから施工することもできる。
【0023】
さらに、本発明をブッシング用碍管に適用する場合には、変圧器やGIS等の大形タンク等に現場で組み付けてブッシングを構築すると同時に、フランジ継手と碍管とを接合するセメントに沿ってあるいはセメント内を浸透して碍管の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の入り口または途中にリチウムを含有する層を形成し、さらにリチウム含有層よりも外側において浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆する防水層を形成することができる。
【0024】
また、本発明の既設のブッシングの補修方法によれば、防水層を有している既設のブッシングの場合には防水層を一旦剥離し、水の浸透経路の入り口にリチウム含有物層を形成すると共にその外側に防水層を再構築するだけであり、あるいは防水層を有していない既設のブッシングの場合にはリチウム含有層を形成すると共に、その外側に防水層を形成するだけなので、据え付けられたブッシング構造には全く手を加える必要がなく、非常に簡単な作業で済む。しかも、ブッシングの固定構造は既設のまま全く変更せずに、浸入水の浸透経路の入り口をリチウム含有物層で覆い、さらにその上から防水材で被覆して防水層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明にかかるシリカ含有構造物の一実施形態をブッシングの変圧器やGIS等の電気機器のタンク等の容器に取り付けられる側の端部に適用した例を示す縦断面図である。
【図2】本発明にかかるシリカ含有構造物の一実施形態をブッシングの蓋部材が取り付けられる側の端部に適用した例を示す縦断面図である。
【図3】防水層を有する既設のブッシングに対する本発明のブッシング補修方法の一例を示すフロー図である。
【図4】防水層を備えていない既設のブッシングに対する本発明のブッシング補修方法を示すフロー図である。
【図5】従来のブッシングの構造と電気機器等への接続状態を示す断面図である。
【図6】本発明にかかるシリカ含有構造物をブッシングに適用した他の実施形態を示すもので、変圧器やGIS等の電気機器のタンク等の容器に取り付けられる側の端部に適用した例を示す断面図である。
【図7】本発明にかかるシリカ含有構造物をブッシングに適用した他の実施形態を示すもので、蓋部材が取り付けられる側の端部に適用した例を示す縦断面図である。
【図8】本発明にかかるシリカ含有構造物をブッシングに適用した他の実施形態を示すもので、ブッシングの基部の構造を示す縦断面図である。
【図9】本発明にかかるシリカ含有構造物をブッシングに適用した他の実施形態を示すもので、ブッシングの頭部の構造を示す縦断面図である。
【図10】本発明にかかるシリカ含有構造物の一実施形態を懸垂碍子に適用した例を示す縦断面図である。
【図11】シリカ含有構造物のアルカリシリカ反応を検証するための粉砕碍管を骨材としたモルタルの膨張量を示すグラフである。
【図12】本発明によるシリカ含有構造物のアルカリシリカ反応抑制剤による抑制効果検証試験を実施するための試験体の概念図である。
【図13】アルカリシリカ反応抑制効果検証用試験体の超音波伝播時間比の経時変化を示すグラフである。
【図14】比較用セメントペースト試験体(Φ5x10cm)の超音波伝播時間比の経時変化を示すグラフである。
【図15】アルカリシリカ反応を検証するための粉砕碍管の原料とした碍管の反射電子像であり、(a)はA社製碍管、(b)はB社製碍管をそれぞれ示す。
【図16】A社製碍管を用いたアルカリシリカ反応抑制効果の検証結果を示す反射電子像であり、(a)はLiなし試料、(b)はLi1.7質量%添加試料をそれぞれ示す。
【図17】A社製碍管を用いたアルカリシリカ反応抑制効果の検証結果を示す反射電子像であり、(a)はLiなし試料のK濃度、(b)はLi1.7質量%添加試料のK濃度をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0027】
本発明にかかるシリカ含有構造物は、例えばブッシング用碍管やこれを用いたブッシング、あるいは磁器碍子と該磁器碍子を他の磁器構造物に連結するための金属製治具とをセメントで接着して成る碍子類などの、磁器製品と他の構成部材あるいはガラスなどのシリカを含む構造物と他の構成部材とをセメントで接着して成るもの全般を含むものである。そして、本発明は、このシリカ含有構造物において、セメントに沿ってあるいはセメント内を浸透して磁器製品等の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の少なくとも入り口または途中にリチウム含有層を形成し、さらにリチウム含有層よりも外側において浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆する防水層を形成するようにしたものである。
【0028】
例えば磁器構成物としてのブッシングは、フランジ継手を利用して変圧器の容器やGISのタンク等の電気機器の筐体(以下、総称して機器筐体と呼ぶ)に取り付けられる碍管と、図示していない内部絶縁例えばSF6等の絶縁ガスや絶縁油とから構成されている。碍管とフランジ継手とはセメントで接着されており、該セメントに沿ってあるいはセメント内を浸透して碍管の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路のいずれか例えば入り口または途中にリチウム含有層を形成し、さらにリチウム含有層よりも外側において浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆して防水層が形成されている。
【0029】
ここで、フランジ継手は、碍管を機器筐体に取り付けるためのものであれば足り、特定の形状に限定されるものではないが、碍管に嵌め合わされて支持する筒状の碍管固定筒部と、他の部材に取り付けるための鍔部とを有していることが好ましい。そして、碍管固定筒部の内周面を碍管の外周面との間にセメントを充填してこれらを接着する一方、碍管固定筒部の基端部から径方向外側へ突出する鍔部を利用して機器筐体などにボルト等で接続・取り付けるようにしている。因みに、フランジ継手の材質には特に限定や制限はなく、一般的に使用される材質例えば鉄、ステンレス、アルミニウム鋳物や青銅鋳物、場合によっては合成樹脂等が使用可能である。
【0030】
また、リチウム含有層はセメントを浸透した浸入水あるいはセメントに沿って浸入した浸入水が碍管の磁器組織に至るまでの浸透経路の何処かに配置されていれば足りる。例えば、リチウム含有層は、浸入水の浸透経路の入り口または途中に形成されていることが好ましいが、より好ましくは浸透経路の入り口付近に配置することであり、場合によってはリチウム化合物が混入されたセメントそのものによって形成されることである。浸透経路のより上流側にリチウム含有層を配置する場合あるいはリチウム含有層がリチウム化合物が混入されたセメントそのものによって形成される場合には、雨水などの浸入時にリチウムイオンを含ませることができるので、浸入水がセメント内を浸透したりセメントに接して移動する場合にもセメント内でのアルカリシリカ反応を抑制できると共に、碍管表面のサンド部分から碍管内に浸入水の浸透が起きたとしても碍管の陶磁器組織内におけるアルカリシリカ反応を抑制することができる。勿論、碍管の陶磁器組織への浸入水の浸透は、研磨により無釉薬状態となっている端面から多くの場合起こるので、リチウム含有層が浸透経路の途中に形成されていても十分に機能するし、碍管の無釉薬部の端面付近にリチウム含有層を形成する場合においても碍管の無釉薬部の端面付近に滞留して無釉薬部の端面に接触し続ける浸入水に対して十分なリチウムイオンを確実に含ませることができる。碍管の無釉薬部の端面付近から磁器組織内に浸入する水分は碍管の吸湿劣化の主要因と考えられることから、碍管の無釉薬部の端面付近にリチウム含有層を形成する場合でも、碍管のマイクロクラックの発生・進展に対して十分な抑制効果が期待できる。
【0031】
このリチウム含有層は、リチウム化合物の粉末、あるいはリチウム化合物を含有する溶液やペーストをそのまま用いても良いし、他の材料と混合して用いても良い。例えばリチウム化合物をモルタル等に混合して用いる場合には、浸透経路の何処かに浸入水が必ず浸透するようにあるいは接触するような形態で配置して、フランジ継手やセメントなどに接着させて固定することができる。したがって、既設の磁器構造物例えばブッシングに対して補修によりリチウム含有層を形成する場合などには、リチウム化合物を混合したモルタルを、フランジ継手と碍管との隙間から露出したセメントの表面やフランジ継手と機器筐体との間の隙間の外部と連通する開口に盛ったり、塗布することにより、簡単に浸入水の浸透経路上にリチウム含有層を形成できる。また、リチウム含有液を含浸させたフェルトや海綿、綿、織物、繊維等を用いる場合には、これらリチウム含有フェルト等で浸透経路の入り口を覆った後、乾燥させてから塗膜防水材で被覆することにより固定するようにしても良い。また、リチウム化合物の粉末、あるいはリチウム化合物を含有する溶液やペーストをセメントの露出した面に直接散布したり塗布して、その上を防水層で被覆するようにしてもよい。したがって、本発明のリチウム含有層には、このようなリチウム化合物そのものの粉末散布やリチウム化合物を含有する溶液やペーストの塗布により形成される層も含まれる。また、場合によっては、碍管とフランジ継手の碍管固定筒部とを接合するセメントにリチウム化合物を混合して、接着剤としてのセメントそのものをリチウム含有物として利用しても良い。例えば、新設のブッシングや懸垂碍子などの磁器構造物の場合には、リチウム系溶液を添加して混練したセメントを接着剤として用い、碍管あるいは碍子を電気機器筐体あるいは連結ピンなどと接着することにより、セメントそのものをリチウム含有層として機能させることができる。しかも、リチウム化合物のセメントへの混入は、セメントの使用を妨げるような強度低下も生ずることがない。そこで、磁器製品とその他の構成部材とを接着するセメントの大気に晒される面を防水材で被覆あるいはコーキングすることで防水層を形成すれば、防水層が健全な間は防水層により雨水の浸入が阻止され、防水層が破られてもセメント内のリチウム化合物によるアルカリシリカ反応抑制効果により、磁器の組織内におけるマイクロクラックの発生や進展を防ぐことが実現できる。
【0032】
ここで、リチウム化合物としては、亜硝酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等の各種リチウム化合物またはその混合物が挙げられるが、特に高濃度の水溶液が得られ、セメントへの浸透性に優れかつセメント系材料との相性が良い亜硝酸リチウムの使用が好ましい。亜硝酸リチウムの亜硝酸は金属製治具を腐蝕させることがない上に、リチウムイオンも治具の腐蝕を防止することはあっても悪影響を与えることはない。また、亜硝酸リチウムの混合量は原液をそのまま混入させても(40質量%程度に相当)、セメントの固化を妨げることはない。
【0033】
さらに、浸入水の浸透経路の入り口、例えば碍管とフランジ継手との間の隙間の外部と連通する開口あるいはフランジ継手と機器筐体との間の隙間の外部と連通する開口には、該開口即ち浸入水の浸透経路の入り口を被覆するように防水層が形成されている。防水層は、特定の防水材に限定されるものではないが、例えばシリコーンゴム系のコーキング材(防水材)やウレタンゴム塗膜防水材などの使用が好ましい。
【0034】
以上のように構成されたブッシングによれば、防水層が健全でかつ十分な時には雨水等の水分の浸入そのものが阻止されることによってセメントのアルカリ成分が碍管の磁器組織内に侵入することがなく、碍管のシリカ成分との間でアルカリシリカ反応を起こすことがない。また、防水層が十分でなかったり、防水層が経年変化等により劣化したり、あるいは一部剥離等の損傷を起こすことによって雨水等の水分がセメント内に浸透したりセメントに沿って浸入しても、浸入水がリチウム含有物層を浸透する間にあるいはリチウム含有層に接触している間にリチウムイオンを含み、リチウムイオン水としてセメント7さらには碍管の磁器組織内に浸入するため、リチウムイオンの作用によって、セメントのアルカリ成分と碍管のシリカ成分とのアルカリシリカ反応を妨げ、碍管にマイクロクラックが発生・進展するのを防止することができる。したがって、防水層の劣化・損傷などの発見が遅れても、碍管の磁器組織内でのアルカリ・シリカ反応を起こす事態に至ることは極めて少なく、また仮にアルカリ・シリカ反応が局部的に起きていたとしても補修によりそれが進展するのを防ぐことができるので、極めて長期的にブッシングの絶縁性能の低下を防いでブッシングとして求められる長期安定性と長期安全性を確保できる。
【0035】
図1に本発明にかかるブッシングの一実施形態を碍管基部(機器筐体に取り付けられる側の端部)の構造を例に挙げてさらに詳細に説明する。本実施形態にかかるブッシング1は、ブッシング用碍管2の基部の外周面3とフランジ継手5の碍管固定筒部5aの内周面6とがセメント7で接着されて碍管2の基部にフランジ継手5が取り付けられ、フランジ継手5の碍管固定筒部5a側の先端部と碍管2の基部の外周面3との間に存在するセメント7の露出する表面7aがリチウム含有層9で被覆され、リチウム含有層9が防水層10で被覆されている。尚、図1において、符号17は碍管の内部空間、21は釉薬、22はサンドである。また、図1に示すブッシング1では、フランジ継手5の鍔部5bは、電気機器のタンク・機器筐体23とボルト(図示省略)等で接続され、Oリング25等によりタンク23とフランジ継手5の鍔部5bとの間の密閉性、ひいては碍管2の基部の密閉性が確保されている。また、碍管2のタンク23に当接する基部の無釉薬の端面14側のセメント表面7bはタンク23で覆われている。但し、ブッシング1の下端を電気機器のタンク等と接続する形態はこの形態に限定されるものではない。尚、本明細書において、セメントとは、セメントペーストのみならず、セメント・モルタルなどの所謂アルカリ性接着剤全般を含む広義のものである。また、ブッシング1を構成する導体の図示は省略している。
【0036】
また、図2に本発明にかかるブッシングの一実施形態を碍管の頭部(蓋部材が取り付けられる側の端部)の構造を例に挙げてさらに詳細に説明する。このブッシング1は、ブッシング用碍管2の頭部の外周面3とフランジ継手5’の碍管固定筒部5a’の内周面6’とがセメント7’で接着されて碍管2の頭部にフランジ継手5’が取り付けられ、フランジ継手5’の碍管固定筒部5a’側の先端部と碍管2の頭部の外周面との間に存在するセメントの露出面7a’がリチウム含有層9’で被覆され、リチウム含有層9’が防水層10’で被覆されている。尚、フランジ継手5’の鍔部5b’は蓋部材24とボルト等で接続され、鍔部5b’に設けられたOリング25’等により蓋部材24とフランジ継手5’の鍔部5b’との間の密閉性、ひいては碍管2の頭部の密閉性が確保されている。また、碍管2の蓋部材24に当接する基部の無釉薬の端面15側のセメント表面7b’は蓋部材24で覆われている。但し、ブッシング1の上端を密閉等する形態はこの形態に限定されるものではない。
【0037】
尚、防水層10の内側に封入されるリチウム化合物の量、換言すればリチウム含有層9、9’の容量は特に限定されるものではなく、少な過ぎる量であれば碍管の磁器組織内でのアルカリ・シリカ反応の抑制効果が短期的なものとなり、過多な量であればフランジ継手の内部にも端部にも成形し難いものとなる。そこで、例えば厚みに換算した場合には5mm〜20mm程度とすればよい。また、図6及び図7に示すように、セメント7、7’が碍管固定筒部5a、5a’の縁・高さよりも低い位置までにまでしか充填されない場合には、碍管固定筒部5a、5a’の上端までリチウム含有層9、9’を設けることとすればその上を覆う防水層10、10’の施工を含めて全体の施工が容易である。勿論、場合によってはさらに碍管固定筒部5a,5a’の上端を越えて盛り上がるように形成しても良い。尚、本発明は、セメントの全てにリチウムを含有させることが主目的ではなく、コーキングが破れた部分から浸入する雨水が碍管の磁器組織内でアルカリ水として機能しなければよいため、リチウムの含有量は全セメント量をカバーする程には必要としない。したがって、リチウム含有層としてモルタルにリチウムを混ぜたものを使用する場合、リチウム含有量はモルタルの固体化を大きく阻害しない量であれば特に限定されるものではないが、例えばモルタルに必要な水に対して5〜10重量%とすることが好適である。
【0038】
リチウム含有層9、9’には、防水材が被覆されて防水層10、10’が形成される。防水材としては、防水のためのコーキング材として一般的なもの、例えば、シリコーンゴム等のゴム系材料が挙げられるがこれらに限定されるものではない。防水層10、10’の厚みは特に限定されるものではなく、例えば現在使用されている防水層と同程度の厚みとすればよい。
【0039】
また、碍管2とタンク23との間あるいは碍管2と蓋部材24との間のシール構造は、図1及び図2並びに図6及び図7に示すケースに限られず、図8及び図9に示すように、碍管2の研磨された無釉薬の端面14,15とタンク23との間あるいは蓋部材24との間にシール25,25’を配置することによって構成されることもある。この場合、碍管2の基部側においては、碍管底部に設置されたOリング25によって、碍管2の底部(端面)14とタンク23との間の封止が行われ、Oリング25よりも先、即ち碍管2の内部空間17側への雨水等の浸入を阻止できるが、碍管底部14は平坦にするために研磨されて釉薬21がなくなっているため、Oリング25の外側の無釉薬部の端面から碍管2の磁器組織内に浸入することが考えられる。また、鍔部5bとタンク23との間の隙間8並びにボルト4と鍔部5bとの間の隙間12から浸入した雨水などの浸入水が、碍管の無釉薬部の端面付近のセメント7の内部を浸透する際に、あるいはセメント7とタンク23との間の隙間に浸入した水分がセメントの表面7bに触れている間に、セメント7のアルカリ成分(Na、K)を含んでから碍管2の磁器組織内に浸入し、碍管2に含まれるシリカ成分との間にアルカリシリカ反応を起こして、シリカ質結晶やシリカガラス相中にマイクロクラックを発生させることが考えられる。そして、この碍管2の底部14の隅で生じたマイクロクラックが時間の経過と共に徐々に奥側へと進展し、ついには碍管2の内外を連通させて碍管2の内部に封入されているSF6等の絶縁ガスや絶縁油が碍管2の外に漏洩する事態を惹起する虞がある。また、ブッシング1の頭部においても、同様に、鍔部5b’と蓋部材24との間の隙間8’並びにボルト4’と鍔部5b’との間の隙間12’から浸入した雨水などの浸入水が、碍管2に含まれるシリカ成分との間にアルカリシリカ反応を起こして、碍管が吸湿劣化する虞れがある。
【0040】
そこで、図8及び図9に示すシール構造を採るブッシング1の場合には、フランジ継手5の鍔部5bとタンク23との隙間8,8’及び鍔部5b,5b’と該鍔部5b,5b’を貫通する固定用ボルト4,4’の頭部との隙間12,12’を覆うようにリチウム含有物の層9,9’を形成し、さらに該リチウム含有層9,9’を防水材で覆うようにして防水層10,10’を形成することが好ましい。つまり、フランジ継手と碍管並びにフランジ継手と機器の容器及び蓋部材との間のセメントに向かう外部からの浸入水の浸透経路の入り口をリチウム含有層9,9’で被覆した上からさらに防水材で被覆する防水層10,10’を外側に形成することが好ましい。
【0041】
勿論、図8及び図9に示すような、浸入水の浸透経路の入り口にリチウム含有層9,9’を設ける場合に限られず、フランジ継手5の鍔部5bに発生する隙間8,8’,12,12’から浸入する雨水などの浸入水にリチウムを含ませるため、浸透経路の途中にリチウム含有物の層を形成しても良い。例えば、図示していないが、碍管2とフランジ継手5,5’とを接合するセメント7,7’の底部あるいは頂部にリチウム含有層9,9’を形成し、隙間8,8’及び12,12’を通って外部から浸入する雨水等の浸入水がリチウム含有物層9,9’を通過して、碍管の無釉薬部の端面から碍管2内に浸透するように設けても良い。
【0042】
本発明のブッシング構造は、既設のブッシングに対して補修を行うことによっても実現できる。例えば、フランジ継手5の碍管固定筒部5aと碍管2との隙間を塞ぐように防水層10が形成されている既設のブッシングを対象とする場合には、図3に示すように、まず防水層10を剥離し(S1)、フランジ継手の碍管固定筒部5aと碍管2との隙間から露出したセメント7の表面7aの上にリチウム含有物を盛ってリチウム含有層9を形成し(S2)、さらにそのリチウム含有層を覆ってリチウム含有層9を含めて碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の端面にかけて、あるいは碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の外周面に及ぶように防水材で被覆して防水層10を再度形成する(S3)。
【0043】
同様に、碍管2の頭部側においても、防水層10を剥離し(S1)、フランジ継手の碍管固定筒部と碍管との隙間から露出したセメントの露出面7aの上にリチウム含有物を盛ってリチウム含有層9を形成し(S2)、さらにそのリチウム含有層を覆ってリチウム含有層9を含めて碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の端面にかけて、あるいは碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の外周面に及ぶように防水材で被覆して防水層10を再度形成する(S3)。
【0044】
また、本発明のブッシング構造は、防水層10を形成していない既設のブッシングに対して補修を行うことによっても実現できる。この場合には、防水層10の剥離工程(S1)は不要となるので、図4に示すように、フランジ継手の碍管固定筒部と碍管との隙間から露出したセメントの露出面7aの上にリチウム含有物を盛ってリチウム含有層9を形成し(S2)、さらにそのリチウム含有層を覆ってリチウム含有層9を含めて碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の端面にかけて、あるいは碍管周面からフランジ継手の碍管固定筒部の外周面に及ぶように防水材で被覆して防水層10を形成する(S3)。
【0045】
同様に、碍管2の頭部側においても、防水層を形成していない既設のブッシングを対象とする場合には、図4に示すように、フランジ継手5’の碍管固定筒部5a’側の先端部と碍管2の頭部の外周面との間に存在するセメントの露出面7a’をリチウム含有物で被覆してリチウム含有層9’を形成する工程(S2)と、リチウム含有層9’を防水材で被覆して防水層10’を再度形成する工程(S3)とを含むようにすればよい。
【0046】
また、本発明にかかる磁器構造物は、上述のブッシングの実施形態に限られず、それ以外の磁器製品と他の構成部材とのセメンチングによる接着・接合の例、例えば懸垂碍子や長幹碍子、高圧ピン碍子、高圧耐張がいしなどの碍子類にも適用することができる。図10に懸垂碍子に適用した例を示す。この懸垂碍子の場合、碍子本体26の中央の筒状部分の外周面には他の懸垂碍子を連結するための雌側連結部を備えるキャップ27を被せる一方、筒状部分の内方には他の懸垂碍子の雌側連結部と嵌合する雄側連結部となるピン27が備えられている。碍子本体26の筒状部分の外周面と内周面部分にはそれぞれサンド層が形成されてセメンチングにより金属製キャップやピンが連結具を抜け止めの固定するように設けられている。ここで、碍子本体26と金属製キャップ27及びピン28を接着するセメント29には、アルカリシリカ反応抑制剤例えば亜硝酸リチウムなどのリチウム化合物が混合されたセメントが使用され、セメントそのものによってリチウム含有層が形成されている。そして、このセメント29の大気に晒される面29aには、防水材が被覆されて防水層30が形成されている。防水層30としては、本実施形態の場合、防水のためのコーキング材として一般的な材料、例えばシリコーンゴム等のゴム系材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。尚、本発明は、セメントによって磁器とその他の構成材料との接着・接合が行われているその他の碍子類や、磁器構造物にも適用できることは言うまでも無い。
【0047】
これら懸垂碍子やその他の碍子類では、主に送電系統において高所で使用されることから、ほとんど点検もされることがなければ、補修されることもない。そこで、碍子製造時のセメンチングのときにセメントにアルカリシリカ反応抑制剤例えば亜硝酸リチウムなどのリチウム化合物を混合しておくことが望ましい。これにより、セメント層全体においてリチウム含有層が形成され、セメンチング用のセメント7そのものにリチウムイオン供給能を持たせることができる。しかも、リチウム化合物のセメントへの添加によって、セメントの強度が大きく低下することもなく、実用上問題となることはない。亜硝酸リチウムの混合量は原液をそのまま混入させても(40質量%程度に相当)、セメントの固化を妨げることはない。したがって、1.7質量%以上、多くとも5質量%程度の範囲で添加する場合には、セメントの接着剤としての強度も維持しながら、碍子でのアルカリシリカ反応を抑制する効果を得ることができる。
【0048】
上述のブッシングに用いられる碍管に、実際にアルカリシリカ反応を引き起こしているのか否か、並びにアルカリシリカ反応を抑制することができるか否かを、試験を行って確認した。
【0049】
1.モルタル試験体による碍管のアルカリシリカ反応性確認試験
(1)モルタル試験体の製造
コンクリート用骨材のアルカリシリカ反応性の有無を判定する場合に用いられるモルタル試験法(JIS A1146)を適用してA社製並びにB社製の碍管のアルカリシリカ反応性を評価した。
骨材状に碍管を粉砕し、JIS A1146に規定される粒度に調整した(表1)。JIS A1146に示されるモルタル試験ではアルカリシリカ反応を促進させるために水酸化ナトリウム(NaOH)を添加することで、セメントに含まれるアルカリ量(Na2O等価量)を1.2%になるように調整した(表2)。一方で、碍管で生じる反応ではセメントに含まれるアルカリのみに起因する高アルカリ水が碍管の非コーティング部分に接触することで生じるため、比較試験として、NaOHを添加せずに骨材とした粉砕碍管に対するセメントの質量比を高めた配合としたモルタル試験体も製造した(表2)。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
(2)モルタル試験体の膨張量測定結果
各モルタル試験体の両端に埋め込み型のゲージプラグ(こけし状のピン)が取り付けられており、そのプラグ間の長さ変化を1/1000読みのダイヤルゲージにて測定した。なお、各モルタル試験体はアルカリシリカ反応を促進させるために、38℃/R.H.95%以上の湿空槽内に静置した。測定日前日に20℃/R.H.95%以上の湿空槽に移し、長さ測定を実施した。
膨張量の経時変化を図11に示す。図11から、NaOHを添加したモルタル(A社(1)・(3),B社(1)・(3))、ならびにNaOH無添加モルタル(A社(2),B社(2)のいずれも材齢10週間で300〜500μm程度膨張し、アルカリシリカ反応性を有することが認められた。212日経過した時点でNaOH無添加モルタルの膨張挙動はほぼ収束した。
【0053】
図11に碍子がアルカリシリカ反応を起こすかどうかを検証するための試験結果を表わす。この結果から、アルカリシリカ反応促進のためのNaOHを添加した場合に限らず、添加しない場合でも、初期から急激に膨張が起こることから、アルカリシリカ反応を確実に起こしていることが確認された。また、EPMA分析装置によって諸元素濃度分布が異なることが確認されたA社,B社の2製品について条件をいろいろ変えて実験を行っても、アルカリシリカ反応が碍子に起こることが確認された。このことから、実際の碍管の固定部に用いられていたセメントに雨水が接触し、アルカリ成分が碍子に達することでアルカリシリカ反応が生じるものと判断できる。
【0054】
2.アルカリシリカ反応抑制剤の効果検証試験
(1)試験体準備
実際に使用していたA社製ブッシングの碍管端部近傍を切断し、図12に示すように上下端部(既存の露出面と切断面)に付着しないように碍管の表面に付着していた充填用セメント32の表面に遮水効果の高いエポキシ樹脂33を塗布するとによって、4つの試験体31を作製した。エポキシ樹脂33を塗布したのは、既設のブッシングの碍管には接着材としてのセメント32が強固に付着しており、碍子試料31から剥離することが困難であることから、遮水材33を塗ることで既存の充填用セメント32から浸出したアルカリ成分が測定面に影響を及ぼさないように対処するためである。各試験体の平滑な既存の露出面(碍管端部)には、異なる量のアルカリシリカ反応抑制剤(亜硝酸リチウム)を添加した3種類のセメントペースト(No.1〜No.3,表3)および無添加のセメントペースト(基準試料No.0)を厚さ1cmのセメントペーストブロック34に形成して密着させた。そして、38℃/R.H.95%以上の湿空養生槽で養生し、測定日前日に20℃/R.H.95%以上の湿空槽に移し、長さ測定を実施した。尚、図中の符号35は超音波探触子、36は超音波伝播速度測定装置である。超音波探触子35は、1つの試験体に3対設置し、1つの試験体から3箇所でデータを取得して平均処理した。
【0055】
【表3】
【0056】
(2)碍管のアルカリシリカ反応抑制効果検証結果
抑制効果検証用試験体(日本碍子製碍管)の超音波伝播速度の測定結果を図13に示す。なお、試料の寸法(測定長)が試料間で異なるため、試料準備直後に測定した超音波伝播時間に対する各材齢における超音波伝播時間の比率を伝播時間比として指標化した。
抑制剤無添加ペーストを密着させた試験体の超音波伝播速度は試験開始時に比べて低下した。これは、セメントの硬化反応(水和反応)の進行にともなう強度増加、すなわち剛性の増加に起因する(図14)。また、抑制剤を添加した試料においても同様に試験開始時に比べて超音波伝播速度が低下しており、碍管に密着させたセメント部の剛性増加が認められた。抑制剤を添加した場合(No.1,2,3)に比べて抑制剤無添加の場合(No.0)は超音波伝播速度の低下率が少ないことから、No.0ではセメントと碍管の界面でアルカリシリカ反応が生じている可能性が示唆された。尚、今回の検証では、試験体31の寸法を大きく設定し過ぎたため、超音波伝播速度に変化が生じる領域に対して変化が起こらない領域が圧倒的に大きくなってその差は僅かであった。碍子・試験体31の寸法を小さく設定することで、試料の変質状態をより精度良く評価することができるものと考える。
【0057】
3.碍管の空隙形態および元素分布分析結果
碍管の空隙形状と分布状態ならびに元素濃度分布を把握するために、碍管試料の破片を対象として鏡面研磨と導電物質の蒸着作業後にEPMA分析装置(電子線マイクロアナライザー)を用いた分析を行い、試料表面の凹凸や密度を観察した。
【0058】
(1)母材の空隙形態の比較
A社製碍管とB社製碍管のEPMA分析装置による反射電子像を図15に示す。白色〜灰色〜黒色に区分けされるが、白色域は高密度域、そして黒色は低密度域に相当する。また、図15に表示されている黒色の箇所は空隙に相当する。A社製碍管(図15(a))には直径10μm程度の空隙が連結することで長細い断面を形成する比較的大きな空隙が多く存在するが、B社製碍管(図15(b))では直径10μm程度の空隙が分散した状態で存在する。
反射電子像において薄い灰色で同じ色調となる領域はA社製碍管ではNa-K-Si-Alを主成分とし、Naが比較的多いことから曹長石の溶融相であると推測でき、B社製碍管ではK-Si-Alを主成分とするカリ長石の溶融相であると推測できる。
【0059】
(2)アルカリシリカ反応抑制効果の検証結果
A社製碍管を用いて図12に示すアルカリシリカ反応抑制効果についての検証を行った。Li化合物を添加しないセメントペーストを碍子に接触させた場合、界面から深さ約0.3mm(300μm)程度までの範囲でSi鉱物(石英もしくは非晶質鉱物)が溶解し、界面にアルカリシリカ反応ゲル(Ca固定型)が生成した(図16(a))。一方、Li化合物をセメント質量に対して1.7%以上添加した場合は、碍子界面近傍に溶解痕が形成されず、アルカリシリカ反応ゲル(ASRゲル)も生成しないことを確認した(図16(b))。図16の画像において、左側が碍子であり、右側がセメントペーストである。Liを添加しないセメントペーストを接触させた場合(図16(a))には、碍子の部分の特に濃いグレーの周囲にクレーターのように溝・凹みが生じていることがわかる。これに対し、Liを添加したセメントペーストを接触させた場合(図16(b))には、濃いグレーの箇所が周囲と同じ高さでクレーターのような溝・凹みが生じていないことが分かる。このことから、Li化合物をセメントに添加した場合は、碍子と鋼製冶具の接着材料として使用しても問題が無いことを明らかにした。また、既存の碍子躯体に対してLi添加セメントを所定の箇所に固着させることでLiイオンが碍子露出部まで浸透し、アルカリシリカ反応の進展を抑制できる可能性が認められた。尚、碍子とセメントペーストとの間の黒い部分は視度調節のときに生じた隙間である。
比較のため、図17にカリウム濃度を示す。亜硝酸リチウムをセメントペーストに混合させていない場合(図17(a))には、セメントから浸入するカリウム(白く表示された部分)が碍子の境界面から200〜300μm程度の範囲に見られた。しかし、亜硝酸リチウムを1.7質量%添加した場合(図17(b))には、カリウムは見いだせなかった。また、亜硝酸リチウムを1.7質量%添加した場合(図17(b))には、アルカリシリカ反応ゲルも存在しなかった。このことから、碍子の表面でアルカリシリカ反応が起こっていることが確認できた。リチウムが先に碍子の磁器組織に入ることで、カリウムの浸透を防いでいるものと推測される。これに対し、Li化合物をセメントに添加していない場合は、図17(a)に示すように、セメントペーストから浸入したカリウムがシリカを溶かしていることが分かる。つまり、図16の画像の濃いグレーの部分はシリカが多く集まった部分を示しており、硅石と長石のグループが多い所であり、図17(a)ではシリカが多く集まっている濃いグレーの部分の周りのシリカ特に硅石部分にカリウムが集まって居ることを示し、そのカリウムがシリカを溶かした結果、図16の(a)ではクレーターとして反射電子像に表れたことが判る。他方、亜硝酸リチウムを添加した場合(図17(b))には、Siが溶けずに健全な状態を維持していることが判る。
【0060】
ここで、リチウム添加量を1.7質量%よりも増やしても、リチウム反応抑制効果に違いはなく、その反面セメント構造物としての強度が僅かに弱くなる傾向が認められた。このことから、リチウム添加量はあまり多くなくても良いが、碍子に水分が浸透する箇所から離れた箇所から浸透する雨水にリチウムを含有させて供給する実施形態の場合には、多めに混合しておくことが好ましいと言える。例えば、5質量%程度の混入が好ましい。
【0061】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、碍管2としては、主に磁器製碍管を例に挙げて説明しているが、場合によってはガラス製碍管や、ナトリウム等のアルカリと反応してアルカリシリカ反応を起こすシリカ成分(例えばシリカ質結晶やシリカガラス相など)を含むその他の碍管を利用するブッシングに対しても実施可能である。また、碍管や碍子の他に、シリカを含む物、特にガラス(非晶質)材料にセメントが接触する場所では同様のアルカリシリカ反応を起こしてマイクロクラックを発生させることから、このような構造物あるいは部位に本発明を適用することは効果的である。さらに、防水層10、10’の表面やフランジ継手5、5’の碍管固定筒部5a、5a’、若しくはフランジ継手5、5’の全体を錆止塗装等するようにしてもよい。この場合、フランジ継手5,5’の錆付きが抑えられると共に、美的な外観を長期間維持することができる。また、防水層10、10’は、リチウム含有層9、9’だけでなく、フランジ継手5、5’の碍管固定筒部5a、5a’、さらにはフランジ継手5、5’の全体を被覆するようにしてもよい。
【0062】
また、上述の実施形態では、リチウム化合物をモルタルあるいはセメントペーストなどに混練した形態で磁器製品と金属製品とを接着するセメントの端部あるいはその近傍に配置したり、セメントそのものに混練した状態で配置する例を挙げて主に説明したが、これに特に限られるものではなく、雨水の浸入若しくは大気に晒される可能性のあるセメントの端部や磁器製品の釉薬が除去された面ないしはサンドが施された磁器製品の表面に、リチウム化合物の含有液(アルカリシリカ反応抑制剤)を直接塗布し、その上を止水材でコーキング処理あるいは防水材で被覆して防水層を形成するようにしても良い。この場合、リチウム化合物を含有するアルカリシリカ反応抑制剤は、コーキングあるいは防水層の被覆により外部に流出することが防がれる。
【符号の説明】
【0063】
1 ブッシング
2 碍管
5、5’ フランジ継手
5a、5a’ 碍管固定筒部
5b、5b’ 鍔部
7、7’ セメント
7a、7a’ 大気に露出するセメント表面
9、9’ リチウム含有層
10、10’ 防水層
26 碍子本体
27,28 金属製キャップ及びピン
29 セメント
30 防水層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁器やガラスなどのシリカを含む構造物と他の構成部材とをセメントで接着して成るシリカ含有構造物において、前記セメントに沿ってあるいは前記セメント内を浸透して前記磁器製品の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の少なくとも入り口または途中にリチウム含有層を形成し、さらに前記リチウム含有層よりも外側において前記浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆する防水層を形成することを特徴とするシリカ含有構造物。
【請求項2】
前記リチウム含有層は前記セメントにリチウム化合物が混入されて前記セメントそのものによって形成されていることを特徴とする請求項1記載のシリカ含有構造物。
【請求項3】
前記リチウム含有層は前記浸入水の浸透経路の入り口を被覆するように形成され、該リチウム含有層をさらに覆って前記防水層を形成して成ることを特徴とする請求項1記載のシリカ含有構造物。
【請求項4】
前記リチウム含有層は、前記セメントの露出面あるいは前記磁器製品と前記セメントとの隙間にリチウム化合物を含有する溶液を直接塗布し、その上を前記防水層で覆っていることを特徴とする請求項1記載のシリカ含有構造物。
【請求項5】
前記シリカ含有構造物は両端部にフランジ継手をセメントで接着したブッシング用碍管である請求項1から4のいずれか1つに記載のシリカ含有構造物。
【請求項6】
前記磁器構造物は磁器碍子と該磁器碍子を他の磁器構造物に連結するための金属製治具とをセメントで接着して成る碍子類である請求項1から4のいずれかに記載のシリカ含有構造物。
【請求項7】
前記シリカ含有構造物は両端部にフランジ継手をセメントで接着した碍管と、前記フランジ継手を介して前記碍管の一端が機器に他端には蓋部材が固定されるブッシングであり、前記フランジ継手と前記碍管並びに前記フランジ継手と前記機器の容器あるいは前記蓋部材との間から前記セメントに沿ってあるいは前記セメント内を浸透して前記碍管の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の入り口または途中に前記リチウム含有層を形成したものである請求項1から4のいずれか1つに記載のシリカ含有構造物。
【請求項8】
フランジ継手をセメントで端部に接着した碍管を前記フランジ継手を介して機器に固定し、前記フランジ継手と前記碍管あるいは前記機器の容器との間の浸入水の浸透経路の入り口となる隙間に防水材で被覆された防水層が形成されている既設のブッシングにおいて、前記防水層を剥離する工程と、前記防水層を剥離した後の前記隙間をリチウム含有物で被覆してリチウム含有層を形成する工程と、前記リチウム含有層を含めて前記フランジ継手と前記碍管あるいは前記機器の容器との間の前記セメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆して防水層を再形成する工程とを有することを特徴とする既設のブッシングの補修方法。
【請求項9】
フランジ継手をセメントで端部に接着した碍管を前記フランジ継手を介して機器に固定された既設のブッシングにおいて、前記フランジ継手と前記碍管あるいは前記機器の容器との間の前記セメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口をリチウム含有物で被覆してリチウム含有層を形成する工程と、該リチウム含有層を含めて前記フランジ継手と前記碍管あるいは前記機器の容器との間の前記セメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆して防水層を形成する工程とを有することを特徴とする既設のブッシングの補修方法。
【請求項1】
磁器やガラスなどのシリカを含む構造物と他の構成部材とをセメントで接着して成るシリカ含有構造物において、前記セメントに沿ってあるいは前記セメント内を浸透して前記磁器製品の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の少なくとも入り口または途中にリチウム含有層を形成し、さらに前記リチウム含有層よりも外側において前記浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆する防水層を形成することを特徴とするシリカ含有構造物。
【請求項2】
前記リチウム含有層は前記セメントにリチウム化合物が混入されて前記セメントそのものによって形成されていることを特徴とする請求項1記載のシリカ含有構造物。
【請求項3】
前記リチウム含有層は前記浸入水の浸透経路の入り口を被覆するように形成され、該リチウム含有層をさらに覆って前記防水層を形成して成ることを特徴とする請求項1記載のシリカ含有構造物。
【請求項4】
前記リチウム含有層は、前記セメントの露出面あるいは前記磁器製品と前記セメントとの隙間にリチウム化合物を含有する溶液を直接塗布し、その上を前記防水層で覆っていることを特徴とする請求項1記載のシリカ含有構造物。
【請求項5】
前記シリカ含有構造物は両端部にフランジ継手をセメントで接着したブッシング用碍管である請求項1から4のいずれか1つに記載のシリカ含有構造物。
【請求項6】
前記磁器構造物は磁器碍子と該磁器碍子を他の磁器構造物に連結するための金属製治具とをセメントで接着して成る碍子類である請求項1から4のいずれかに記載のシリカ含有構造物。
【請求項7】
前記シリカ含有構造物は両端部にフランジ継手をセメントで接着した碍管と、前記フランジ継手を介して前記碍管の一端が機器に他端には蓋部材が固定されるブッシングであり、前記フランジ継手と前記碍管並びに前記フランジ継手と前記機器の容器あるいは前記蓋部材との間から前記セメントに沿ってあるいは前記セメント内を浸透して前記碍管の磁器組織内に至る浸入水の浸透経路の入り口または途中に前記リチウム含有層を形成したものである請求項1から4のいずれか1つに記載のシリカ含有構造物。
【請求項8】
フランジ継手をセメントで端部に接着した碍管を前記フランジ継手を介して機器に固定し、前記フランジ継手と前記碍管あるいは前記機器の容器との間の浸入水の浸透経路の入り口となる隙間に防水材で被覆された防水層が形成されている既設のブッシングにおいて、前記防水層を剥離する工程と、前記防水層を剥離した後の前記隙間をリチウム含有物で被覆してリチウム含有層を形成する工程と、前記リチウム含有層を含めて前記フランジ継手と前記碍管あるいは前記機器の容器との間の前記セメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆して防水層を再形成する工程とを有することを特徴とする既設のブッシングの補修方法。
【請求項9】
フランジ継手をセメントで端部に接着した碍管を前記フランジ継手を介して機器に固定された既設のブッシングにおいて、前記フランジ継手と前記碍管あるいは前記機器の容器との間の前記セメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口をリチウム含有物で被覆してリチウム含有層を形成する工程と、該リチウム含有層を含めて前記フランジ継手と前記碍管あるいは前記機器の容器との間の前記セメントに向かう浸入水の浸透経路の入り口を防水材で被覆して防水層を形成する工程とを有することを特徴とする既設のブッシングの補修方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図13】
【図14】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図13】
【図14】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−109232(P2012−109232A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232655(P2011−232655)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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