説明

シリカを重合させるペプチドおよびその利用

【課題】Bacillus属細菌においてシリカの重合に関与する遺伝子やタンパク質の存在を明らかにするとともに、これらの利用方法を提供する。
【解決手段】アミノ酸配列(1)X1−X1−X2−X1−X3−X1−X1、(2)X1−X4−X5−X1−X6−X1、または(3)X1−X4−X1−X5−X1−X6−X1を含む、ペプチドを用いる(ただし、X1はKまたはRであり、X2は0〜2個の任意のアミノ酸であり、X3は2個の任意のアミノ酸であり、X4は2個の任意のアミノ酸であり、X5およびX6は0〜2個の任意のアミノ酸である。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカを重合させるペプチドおよびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素(Si)は、地球上で2番目に多い元素であり、種々の生物の体内に含まれている。近年、生体内におけるケイ素の役割が解明されつつある(例えば、非特許文献1参照)。真核生物である珪藻では、細胞壁の成分として体内へ取り込まれたケイ素が用いられていることが知られている。具体的には、ケイ素はケイ酸の状態にて生体内へ取り込まれてシリカ(SiO)に変換された後に、当該シリカが重合した状態にて細胞壁を形成している。
【0003】
珪藻の細胞壁の成分に関する研究において、珪藻の細胞壁をフッ素酸で溶かした溶液から、4kDa〜8kDaのタンパク質であるシラフィン(Silaffin)−1A、シラフィン−1A、シラフィン−1Bが単離された。そして、これらのタンパク質が、in vitroにおいてシリカを重合させる活性を有していることが明らかになった。さらに、この活性は、これらのタンパク質の特定領域が担っていること、および、当該領域からなるペプチド自体がシリカ重合活性を発揮して、ケイ酸との混合溶液中にてリン酸依存的にシリカを重合させることも明らかになった(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
上記ペプチドを組換え発現する大腸菌を、ケイ酸含有培地中にて培養することによって、シリカ重合体を製造する技術(例えば、特許文献1参照)、および、ケイ酸との混合溶液における上記ペプチドの濃度を調節することによってシリカ重合体の粒子径を調節する技術(例えば、特許文献2参照)が開示されている。そして、これらの技術を用いて作製されたシリカ重合体を電子材料または光学材料として用いることが試みられている(特許文献1および2参照)。
【0005】
原核生物であるBacillus属細菌を、ケイ酸を含む培地中にて培養すると、その表面にouter coat(OC)としてケイ酸からなる層(「ケイ酸層」ともいう。)を備えた胞子が生成される。本発明者らは、このような胞子が、ケイ酸層を備えていない胞子と比べて耐酸性が高いことを見出している(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−197825号公報(2006年8月3日公開)
【特許文献2】特開2009−126745号公報(2009年6月11日公開)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ryuichi Hirota et. al., Journal of Bacteriology, Jan. 2010, p111-116
【非特許文献2】Biomineralization Progress in Biology, Molecular Biology and Application(Second, Completely Revised and Extended Edition), Edited by Edmund Baeuerlein, WILEY-VCM, p137-157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
原核生物(Bacillus属細菌)におけるケイ酸層の形成機構は、真核生物(珪藻)における細胞壁の形成機構と類似している可能性がある。しかしながら、原核生物であるBacillus属細菌において、シラフィンのカウンターパートもホモログも見出されていない。
【0009】
本発明は、Bacillus属細菌におけるケイ酸層の形成機構を明らかにするとともに、そのケイ酸層の形成機構を利用した技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のペプチドは、上記課題を解決するために、(1)X1−X1−X2−X1−X3−X1−X1、(2)X1−X4−X5−X1−X6−X1、または(3)X1−X4−X1−X5−X1−X6−X1、のアミノ酸配列を含むペプチドであることを特徴としている。
本発明のペプチドにおいて、X1はKまたはRであり、X2は0〜2個の任意のアミノ酸であり、X3は2個の任意のアミノ酸であり、X4は2個の任意のアミノ酸であり、X5およびX6は0〜2個の任意のアミノ酸である。
【0011】
本発明のペプチドは、上記(1)〜(3)のアミノ酸配列を複数含んでいてもよい。本発明のペプチドは、アミノ酸数が20個以下であることが好ましく、配列番号1〜17に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであってもよい。
【0012】
本発明の組成物は、上記ペプチドを少なくとも1つ含有していることを特徴としている。
【0013】
本発明のシリカを重合させる方法は、上記課題を解決するために、本発明のペプチドとケイ酸との混合溶液を作製する工程を含むことを特徴としている。
【0014】
本発明のシリカを重合させる方法は、上記混合溶液において、上記ペプチドの濃度が、0.1μmol/mL〜2.0μmol/mLであることが好ましい。
【0015】
本発明の半導体基板は、本発明の方法にて得られたシリカ重合体を用いて作製されたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明を用いれば、シリカを効率よく重合させることができる。
【0017】
本発明は、シリカを重合させる際にリン酸を必要としない。それ故に、本発明を用いれば、重合したシリカを半導体の製造などに用いた場合に、不要なリン酸が半導体中に混入することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態であるCot Gタンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【図2】培地中のケイ酸濃度と、胞子形成のタイミングとの関係を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態であるペプチドのシリカ重合活性を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態であるペプチドのシリカ重合活性を示すグラフである。
【図5】比較例としてのシラフィンペプチドのシリカ重合活性を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態および比較例によるシリカ重合活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
〔1.ペプチド〕
本発明のペプチドは、シリカを重合させる活性(すなわち、シリカ重合活性)を有するものである。以下に、具体的な構成について説明する。
【0021】
本発明のペプチドは、アミノ酸配列
(1)X1−X1−X2−X1−X3−X1−X1、
(2)X1−X4−X5−X1−X6−X1、または、
(3)X1−X4−X1−X5−X1−X6−X1
を含むペプチドである。本発明のペプチドにおいて、X1はKまたはRであり、X2は0〜2個の任意のアミノ酸であり、X3は2個の任意のアミノ酸であり、X4は2個の任意のアミノ酸であり、X5およびX6は0〜2個の任意のアミノ酸である。
【0022】
X2〜X6のアミノ酸は特に限定されず、あらゆるアミノ酸であり得る。
【0023】
例えば、X2〜X4は、少なくともその一部が極性アミノ酸であり得る。勿論、X2〜X4は、極性アミノ酸のみからなっていてもよい。極性アミノ酸であれば、本発明のペプチドの親水性を高めることができる。極性アミノ酸としては特に限定されず、例えば、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、チロシン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リシンまたはアルギニンであり得る。
【0024】
本発明のペプチドは、上記(1)〜(3)のアミノ酸配列を複数含み得る。上記(1)〜(3)のアミノ酸配列を複数含む場合、上記(1)〜(3)のアミノ酸配列からなる群より選択される単一のアミノ酸配列を複数繰り返して含んでもよく、上記(1)〜(3)のアミノ酸配列からなる群より選択される少なくとも2つ以上のアミノ酸配列を含んでもよい。また、上記(1)〜(3)のアミノ酸配列を複数含む場合、本発明のペプチド内における各アミノ酸配列の位置関係は特に限定されない。本発明のペプチドに含まれるべき、上記(1)〜(3)のアミノ酸配列の数は特に限定されない。例えば、当該アミノ酸配列の数は、2個〜20個であり得、2個〜10個であり得る。
【0025】
本発明のペプチドの長さは特に限定されないが、例えば、20個以下であることが好ましく、15個以下であることが更に好ましく、12個以下であることが最も好ましい。
【0026】
本発明のペプチドに含まれるべきアミノ酸配列は、上記(1)〜(3)の何れかに分類されるものであればよく、その具体的なアミノ酸配列は特に限定されない。以下に、本発明のペプチドのアミノ酸配列の一例を示すが、本発明は、これらに限定されない。
【0027】
・ペプチドA :KKSRSYKKSYCRH (配列番号1)
・ペプチドA1 :KKRSHKKSHRTH (配列番号2)
・ペプチドA2 :KKSRSHKKSYCSH (配列番号3)
・ペプチドA3 :KKSRSHKKSFCSH (配列番号4)
・ペプチドA4 :KKSRSHKKSYCSH (配列番号5)
・ペプチドA5 :KKSRSHKKSYRSH (配列番号6)
・ペプチドA6 :KKSRSYKKSYRSY (配列番号7)
・ペプチドA7 :KKSRSYKKSCRSY (配列番号8)
・ペプチドA8 :KKSRSYKKYCSHK (配列番号9)
・ペプチドA9 :KKSRSYKKSCRTH (配列番号10)
・ペプチドA10 :KKSYRSHKKYYKK (配列番号11)
・ペプチドB :FVTKCTRRKKCT (配列番号12)
・ペプチドB1 :FVTKCTHVKKWT (配列番号13)
・ペプチドB2 :FVTKCTRVRVQKWT (配列番号14)
・ペプチドB3 :FVTKVTRRKECV (配列番号15)
・ペプチドB4 :LVTKRTRRKHCT (配列番号16)
・ペプチドB5 :FITKCIRFEKKFFWT (配列番号17)
図1に示すように、上記ペプチドA1〜A10は、Bacillus subtilis 168のCot Gタンパク質(配列番号19)の断片であって、本発明者によって特定されたペプチドである。また、上記ペプチドAは、上記ペプチドA1〜A10に基づいて本発明者によって設計されたペプチドである。
【0028】
図1に示すように、上記ペプチドB1〜B5は、Bacillus cereus ATCC 14579のCot Gタンパク質(配列番号20)の断片であって、本発明者によって特定されたペプチドである。また、上記ペプチドBは、上記ペプチドB1〜B5に基づいて本発明者によって設計されたペプチドである。
【0029】
本発明のペプチドはまた、配列番号1〜17に示されたアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が置換、付加または欠失されたアミノ酸配列を含んでいてもよく、その場合、シリカ重合活性が保持されていればよく、より詳細には、上記(1)〜(3)のアミノ酸配列を含んでいればよい。もちろん、本発明のペプチドは、配列番号1〜17に示されたアミノ酸配列からなるペプチドであってもよい。
【0030】
また、本発明のペプチドは、付加的なペプチドを含むものであってもよい。付加的なペプチドとしては特に限定されないが、例えば、His、Myc、Flagなどのエピトープ標識ペプチドが挙げられる。
【0031】
本発明のペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているものであればよいが、これに限定されるものではなく、糖鎖やイソプレノイド基などのペプチド以外の構造を含む複合ペプチドであってもよい。アミノ酸の官能基は修飾されていてもよい。アミノ酸はL型であることが好ましいが、これに限定されない。
【0032】
本発明のペプチドは、当該分野において公知の任意の手法に従って容易に作製され得、例えば、化学合成されても、組換え発現されてもよい。化学合成法としては、固相法または液相法を挙げることができる。固相法において、例えば、市販の各種ペプチド合成装置(Model MultiPep RS(Intavis AG)など)を利用することができる。さらには、Cot Gタンパク質を切断して得られたフラグメントとして生成されてもよい。
【0033】
本発明のペプチドは、リンカーを含んでいてもよい。ペプチドがリンカーを含んでいることによって、ペプチド同士を、ペプチドと他の物質(例えば、基材など)とを、リンカーを介して結合することができる。ペプチド同士が結合される場合、同一のペプチド同士が結合されてもよいし、異なるペプチド同士が結合されてもよく、上述したような(1)〜(3)のアミノ酸配列を複数含む態様の場合に、それぞれのアミノ酸配列からなる複数のペプチドがリンカーにて連結されていてもよい。リンカーは、例えば、本発明のペプチドのアミノ酸と結合(例えば、共有結合)されていてもよい。本発明のペプチドにリンカーを結合させるときには、当業者に公知の方法を用いて、リンカーを結合するアミノ酸以外のアミノ酸の官能基を保護することが好ましい。これによって、リンカーを結合させたい官能基と選択的に反応させることができるので、ペプチドの目的の部位にリンカーを結合させることができる。
【0034】
〔2.シリカを重合させるための組成物およびキット〕
本発明は、上述したペプチドを少なくとも1つ含有している組成物を提供する。上述したように、本発明のペプチドを用いれば、シリカを効率よく重合させることができる。すなわち、本発明のペプチドは、シリカ重合体を効率よく形成することができる。さらに、本発明のペプチドは、シリカそのものが有している重合能を補助することができる。シリカは、溶液中での濃度が高くなると重合しやすいので、高濃度のシリカが存在する環境下では、本発明のペプチドは、シリカ重合を促進する。すなわち、本発明の組成物は、シリカを重合させるための組成物であり、シリカ重合体を形成するための組成物でも、シリカの重合を促進するための組成物でもあり得る。本発明の組成物を用いれば、効率よくシリカ重合体を生成することができる。これを用いることにより、電子材料または光学材料などを製造することができ、特に、半導体基板を製造することができる。
【0035】
本明細書中で使用される場合、用語「組成物」はその含有成分を単一組成物中に含有する態様と、単一キット中に別個に備えている態様であってもよい。すなわち、本発明の組成物は、重合されるべきシリカまたはその材料としてのケイ酸(ケイ素)をさらに含んでいてもよいが、本発明のペプチドを含有している組成物と、重合されるべきシリカまたはその材料としてのケイ酸(ケイ素)とを別々に備えているキットの形態であってもよい。
【0036】
用いられるケイ酸の種類は特に限定されず、例えば、テトラエチルオルソケイ酸またはテトラメチルオルソケイ酸を用いることが可能である。これらの中では、テトラメチルオルソケイ酸が好ましいといえる。
【0037】
本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図されるが、組成物としての一物質中に材料を含有している形態もまた、用語「キット」に包含される。キットは、各材料を使用するための指示書を備えていることが好ましい。本明細書中においてキットの局面において使用される場合、「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図される。本発明のキットはまた、後述するシリカ重合の反応に用いられる希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。さらに、本発明のキットは、シリカ重合の反応に用いられる器具を備えていてもよい。
【0038】
〔3.シリカを重合させる方法〕
本発明のシリカを重合させる方法は、本発明のペプチド、または本発明の組成物と、ケイ酸との混合溶液を作製する工程を含む方法である。本発明のペプチドに関しては既に説明したので、ここでは、その詳細な説明は省略する。なお、本発明の方法は、シリカを重合させる方法であり、シリカ重合体を形成する方法でも、シリカの重合を促進する方法でもあり得る。本発明において、上述したペプチドまたは組成物が単独で用いられても2つ以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0039】
本発明のペプチドとケイ酸とを混合する際に用いられる溶液は特に限定されず、適宜、所望の溶液を用いることができる。例えば、トリス緩衝液(組成:0.1M tris(hydroxymethyl)aminomethane(pH8.0)などを用いることができる。
【0040】
本発明のシリカを重合させる方法では、溶液中にリン酸が存在しなくてもシリカを重合させることができる。半導体基板などを作製する場合には、半導体基板中にリン酸が混入することを避ける必要がある。本発明のシリカを重合させる方法であれば、シリカ重合体を作製する場合にリン酸を必要としないので、当該シリカ重合体を材料として半導体基板を作製すれば、半導体基板中へのリン酸の混入を防止することができる。
【0041】
本発明のペプチドとケイ酸との混合溶液におけるペプチドの濃度は特に限定されないが、例えば、0.1μmol/mL〜2.0μmol/mLであることが好ましく、0.1μmol/mL〜0.6μmol/mLであることが更に好ましい。
【0042】
上記混合溶液の温度は特に限定されないが、高すぎない方が好ましいといえる。例えば、25℃〜30℃であり得るが、これに限定されない。
【0043】
上記混合溶液のpHは特に限定されないが、弱アルカリ性であるpH7.0〜9.0であることが好ましく、pH7.5〜8.5であることが更に好ましく、pH8.0であることが更に好ましいといえる。
【0044】
〔4.半導体基板〕
上述した方法によって得られたシリカ重合体は、電子材料または光学材料として用いることが可能である。例えば、センサーまたは半導体基板の材料として用いることが可能であるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0045】
<1.培地中のケイ酸濃度と、胞子形成のタイミングとの関係>
R2A液体培地(0.05% 酵母エキス、0.05% ペプトン、0.05% カザミノ酸、0.05% グルコース、0.05% 可溶性デンプン、0.03% KHPO、0.005% MgSO・7HO、0.03% ピルビン酸ナトリウム、pH7.2)2mlに、Bacillus subtilisを植菌し、28℃で24時間の前培養を行った。
【0046】
100μg/mlケイ酸(オルトケイ酸換算)を添加したmR2A(R2A液体培地に微量金属(0.2 mM CaCl、0.01mM MnCl・4HO、0.05mM ZnCl、0.05mM FeSO・7HO)が添加された培地)50mLに、上記前培養液を1%(v/v)となるように植菌して、本培養を行った。
【0047】
経時的に培養液をサンプリングし、培地中の胞子の数、および、培地中のケイ酸濃度を測定した。培地中の胞子の数は、顕微鏡観察によって測定した。培地中のケイ酸濃度は、周知のケイ酸−モリブデン法に基づいて、市販のキットであるSilicate test(メルク社製、Cat.#1.14794.0001)を用いて行った。具体的には、超純水780μLに培養液20μLを加え、Solution I(キット中の試薬)を15mL添加して攪拌した後、3分間室温で静置した。その後、Solution II(キット中の試薬)を15μL添加して攪拌した後、Solution III(キット中の試薬)を80μL加えた。攪拌して10分間室温で静置した後、波長810nmの吸光度を測定した。
【0048】
図2に示すように、本培養の開始16時間後から、胞子の数が増加しはじめた(図2の三角印参照)。一方、本培養の開始16時間後から培地中のケイ酸の濃度が低下しはじめ、本培養の開始36時間後には、培地中のケイ酸が略枯渇した(図2の四角印参照)。
【0049】
本培養の開始16時間後の時点は、Bacillus属細菌の胞子形成過程におけるステージ4に分類される。ステージ4では胞子の形成が始まる。一方、本培養の開始32時間後の時点は、Bacillus属細菌の胞子形成過程におけるステージ5に分類される。ステージ5ではspore coatが形成される。
【0050】
<2.胞子形成過程におけるステージ5に発現する遺伝子>
本発明者は、spore coatがケイ酸によって形成されていることを以前に見出している(Ryuichi Hirota et. Al., Journal of Bacteriology, Jan. 2010, p111-116)。本発明者は、ステージ5においてケイ素の代謝に関与する遺伝子およびタンパク質が機能しているのではないかという独自の仮説に基づいて、引き続き実験を行った。
【0051】
Bacillus属細菌の胞子形成の過程は複数のステージに分けることが可能であり、現在までに、各ステージで発現する遺伝子が調べられている。ステージ5に発現することが知られている遺伝子としては、cot B遺伝子、cot C遺伝子、cot G遺伝子、cot S遺伝子、cot V遺伝子、cot W遺伝子、cot X遺伝子、cot Y遺伝子およびcot Z遺伝子などを挙げることができる。これらの遺伝子について、ケイ素の代謝に関与するという報告はこれまでになされていない。また、シラフィン遺伝子との相同性を比較したところ、何れの遺伝子もシラフィン遺伝子との相同性は低く、何れの遺伝子もシラフィン遺伝子とは異なる遺伝子であった。
【0052】
<3.ペプチドの合成>
上述した9個の遺伝子の中で、cot G遺伝子の機能は未知であった。そこで、本発明者らは、cot G遺伝子がコードしているCot Gタンパク質の機能を調べることにした。
【0053】
本実施例では、化学合成法によって作製した以下のペプチドを用いた。ペプチドAは、Bacillus subtilis 168のCot Gタンパク質内に見出される繰り返し配列のコンセンサス配列であり、ペプチドBは、Bacillus cereus ATCC 14579のCot Gタンパク質内に見出される繰り返し配列のコンセンサス配列である。シラフィンペプチドは、珪藻のシラフィンタンパク質の部分配列である。
【0054】
ペプチドA :KKSRSYKKSYCRH (配列番号1)
ペプチドB :FVTKCTRRKKCT (配列番号2)
シラフィンペプチド:SSKKSGSYSGSKGSKRRIL (配列番号18)
ネガティブコントロールとしては、BSAを用いた。
【0055】
<4.ペプチドによるシリカ重合試験>
ペプチドA、ペプチドB、シラフィンペプチドまたはBSAを超純水に溶解させて、5mM〜20mMになるように調製した。これをペプチド溶液とした。ペプチド溶液20mL、1mM HCl溶液で15分間水和させた1M TMOS(テトラメチルオルソケイ酸)溶液25mL、および、Sバッファー(0.1M KHPO[pH8.0]、0.1M NaOH)205mLを混合して、室温で2分間静置した。混合溶液を、10,000rpmにて30秒間遠心分離した。その後、上清を除去し、沈殿物を0.25mLのMilliQ水(超純水)で2回洗浄した。上清を完全に除いた後、アスピレータにて沈殿物を30分間乾燥させた。当該乾燥物をシリカ粒子(シリカ重合体)として以後の試験に用いた。
【0056】
<5.形成されたシリカの量の測定>
上述したシリカ粒子に対して250μLの1N NaOHを添加し、95℃にて30分間加熱した。
【0057】
この溶液を超純水にて適度に希釈した後、当該溶液のケイ酸の濃度を測定した。なお、ケイ酸の濃度は、周知のケイ酸−モリブデン法に基づいて、市販のキットであるSilicate test(メルク社製、Cat.#1.14794.0001)を用いて行った。具体的には、超純水780μLに測定試料20μLを加え、Solution I(キット中の試薬)を15μL添加して攪拌した後、3分間室温で静置した。その後、Solution II(キット中の試薬)を15μL添加して攪拌した後、Solution III(キット中の試薬)を80μL加えた。攪拌して10分間室温で静置した後、810nmにおける吸光度を測定した。
【0058】
ケイ素濃度の検量線は、1000mg/mLのケイ素標準液(メルク社製、Cat.#1.70236.0500)を、0〜100mg/mLの範囲の様々な濃度になるように超純水にて希釈し、それぞれの溶液の吸光度とケイ素濃度との関係に基づいて作製した。そして、当該検量線を用いて、上述したシリカ粒子中に含まれるシリカの量を算出した。
【0059】
<6.試験結果>
図3に、ペプチドAのシリカ重合活性を示すグラフを示し、図4に、ペプチドBのシリカ重合活性を示すグラフを示し、図5に、シラフィンペプチドのシリカ重合活性を示すグラフを示す。なお、図6は、図3〜図5をまとめたグラフである。
【0060】
図3〜図6から明らかなように、ペプチドAおよびペプチドBは、シラフィンペプチドと同様にシリカを重合させる活性を有していた。よって、ペプチドAおよびペプチドBもまた、シラフィンペプチドと同様に電子材料または光学材料などに利用可能なシリカ重合体を提供し得る。なお、BSAは、シリカを重合させる活性を有していなかった。
【0061】
真核生物である珪藻が、シリカを重合させる活性を有するシラフィンタンパク質を有していることは知られていたが、原核生物に、同様の機能を有するタンパク質が存在することは、予想外の発見であった。また、真核生物および原核生物は、進化上離れているので当然ではあるが、上記2つのタンパク質は、全く異なるアミノ酸配列を有する全く異なるタンパク質であった。
【0062】
本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明を用いれば、電子材料または光学材料などを製造することができ、特に、センサーまたは半導体基板を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列
(1)X1−X1−X2−X1−X3−X1−X1、
(2)X1−X4−X5−X1−X6−X1、または
(3)X1−X4−X1−X5−X1−X6−X1
を含む、ペプチド(ただし、X1はKまたはRであり、X2は0〜2個の任意のアミノ酸であり、X3は2個の任意のアミノ酸であり、X4は2個の任意のアミノ酸であり、X5およびX6はそれぞれ独立して0〜2個の任意のアミノ酸である。)。
【請求項2】
前記(1)〜(3)のアミノ酸配列を複数含んでいる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
アミノ酸数が20個以下である、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
配列番号1〜17に示されるアミノ酸配列からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項5】
請求項1に記載のペプチドを少なくとも1つ含有している、シリカを重合させるための組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のペプチドまたは請求項5に記載の組成物と、ケイ酸との混合溶液を作製する工程を含む、シリカを重合させる方法。
【請求項7】
上記混合溶液におけるペプチドの濃度が、0.1μmol/mL〜2.0μmol/mLである、請求項6に記載のシリカを重合させる方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の方法にて得られたシリカ重合体を用いて作製された半導体基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−31100(P2012−31100A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172121(P2010−172121)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ・刊行物名「日本農芸化学会2010年度(平成22年度)大会講演要旨集」 発行日 2010年3月5日 発行所 社団法人 日本農芸化学会
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】