説明

シリカエアロゲル表面への金属酸化物被覆方法及びその方法により得られた金属酸化物で被覆されたシリカエアロゲル

【構成】 ケイ素アルコキシドの加水分解により得られたシリカの湿潤ゲルをアルコール中に浸せきしたのち、アルコール中の水分を脱水し、次いでシリカ表面の水酸基と縮合しうる金属化合物をそこへ加え、該水酸基と縮合させ、さらに未反応金属化合物を除去し、該湿潤ゲルを超臨界乾燥処理する。シリカエアロゲル表面への金属酸化物被覆方法、及びこの方法により得られた表面が金属酸化物で被覆されたシリカエアロゲルである。
【効果】 シリカエアロゲルと異なった特性をもつ表面が金属酸化物で被覆されたシリカエアロゲルが、広い密度範囲にわたって容易に得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はシリカエアロゲル表面への金属酸化物被覆方法及びその方法により得られた金属酸化物で被覆されたシリカエアロゲルに関するものである。さらに詳しくいえば、本発明は、シリカ以外の金属酸化物のエアロゲルとほぼ同じ化学特性を示すエアロゲルを得るために、シリカエアロゲル表面へ金属酸化物を効率よく被覆する方法、及びこの方法によって得られた表面が金属酸化物で被覆されたシリカエアロゲルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】エアロゲルは、シリカなどの酸化物の湿潤ゲルを、主として対応する金属アルコキシドの加水分解により調製し、それを超臨界乾燥することにより得られる極めて気孔率が高く、表面積の大きな物質であって、その構造の特徴から、例えば透明性、断熱性、低密度、低屈折率など特異な物性を示すことが知られている。したがって、従来このような特性を有するエアロゲル、特にシリカのエアロゲルに関して、その作製方法、特性評価、応用技術などが積極的に研究されてきた。
【0003】シリカ以外の金属酸化物、例えばチタニア、ジルコニアなどのエアロゲルについても、通常の酸化物とは異なった特異な物性を示すことが期待される。しかしながら、これらのエアロゲルをシリカエアロゲルと同様の手段で作製しようとする場合、ケイ素のアルコキシド(ケイ酸エチル、ケイ酸メチルなど)は加水分解速度が比較的遅く、湿潤ゲル形成能力も高いため、湿潤ゲルを広範囲のシリカ密度にわたって容易に調製でき、かつゲル構造が強固なので、超臨界乾燥条件にも耐えて広い密度範囲のエアロゲルをかなり容易に作製できるのに対して、その他の金属のアルコキシドは、一般に加水分解速度が速く、ゲル化の制御が困難なため、湿潤ゲルの調製自体が難しく、かつ調製できても強度不足により、超臨界乾燥条件に耐えられず、粉々に破壊してしまうなどの問題が起こりやすく、エアロゲルを広い密度範囲で任意に作製することは極めて困難である。
【0004】ところで、エアロゲルをシリカ以外の物質で作製して、その特性を利用しようとする場合、基本的にはその化学的特性や反応性の違いを利用しようとするわけであるから、その特性に影響を与えている原子の大部分は、エアロゲル多孔質体の構造表面の原子であると考えられる。したがって、シリカで多孔質構造を作り、その表面を所望の金属化合物で被覆してからエアロゲルを作製することにより、該金属酸化物のエアロゲルとほぼ同じ化学特性を示すエアロゲルを、シリカエアロゲルと同様に広い密度範囲で容易に得ることができる。また、この被覆構造により、該金属酸化物のエアロゲルとは異なった特性のものが得られる可能性もある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、シリカ以外の金属酸化物のエアロゲルとほぼ同じ化学特性を示すエアロゲルを、シリカエアロゲルと同様に広い密度範囲にわたって比較的容易に得るために、シリカエアロゲル表面へ該金属酸化物を効率よく被覆する方法、及びその方法により得られた金属酸化物で被覆されたシリカエアロゲルを提供することを目的としてなされたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、まず、ケイ素アルコキシドの加水分解、ゲル化によりシリカの湿潤ゲルを調製したのち、アルコール中において、完全に脱水した状態で該シリカゲル表面の水酸基と所望の金属化合物とを縮合させ、次いで未反応の金属化合物を除去してから、該湿潤ゲルを超臨界乾燥処理することにより、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】すなわち、本発明は、ケイ素アルコキシドの加水分解、ゲル化により得られたシリカのゼリー状湿潤ゲルをアルコール中に浸せきしたのち、脱水剤により該湿潤ゲル内の液相も含めアルコール中の水分を脱水し、次いでシリカ表面の水酸基と縮合しうる金属化合物を該アルコールに溶解させて湿潤ゲル網目構造空隙部の液相まで拡散させ、シリカ表面の水酸基と縮合させたのち、未反応金属化合物を除去し、該湿潤ゲルを超臨界乾燥処理することを特徴とするシリカエアロゲル表面への金属酸化物被覆方法、及びこの方法により得られた表面が金属酸化物で被覆されたシリカエアロゲルを提供するものである。
【0008】本発明においては、まずシリカのゼリー状湿潤ゲルを調製する。該湿潤ゲルは、ケイ素アルコキシド、例えばケイ酸メチルやケイ酸エチルなどをアルコールで希釈し、これに水及び所望により触媒を加えて加水分解、重合反応(ゲル化)を起こさせることにより、調製することができる。該アルコールとしては、低級脂肪酸アルコール、例えばメタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、各種ブタノールなどが好ましく用いられるが、特にケイ素アルコキシドを構成するアルコール残基に対応するアルコールが好適である。また、触媒としてはアンモニアやアンモニウム塩などを用いることができる。
【0009】ケイ素アルコキシドとアルコールと水との使用割合については、例えばケイ素アルコキシドとしてケイ酸メチルを用いる場合、該ケイ酸メチル1モルに対して、メタノールを10〜25モル、水を5〜7モルの割合で使用するのが望ましく、一方、ケイ酸エチルを用いる場合、該ケイ酸エチル1モルに対して、エタノールを5〜20モル、水を5〜7モルの割合で使用するのが望ましい。この際のアルコールでの希釈率が湿潤ゲルのシリカ濃度、そして最終的にはエアロゲル密度を決定する。また、加水分解及び重合反応(ゲル化)は、通常室温にて0.5〜5時間程度静置することにより、完了する。この際、湿潤ゲルのシリカ濃度を変えることにより、被覆エアロゲルの密度を変えることができる。
【0010】次に、このようにして調製されたシリカのゼリー状湿潤ゲルを大量のアルコール中に浸し、湿潤ゲルの液相中に含まれている余剰の水や触媒物質をアルコール置換する。該アルコールとしては、低級脂肪族アルコール、例えばメタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、各種ブタノールなどが挙げられる。さらに、モレキュラーシーブなどの強力な脱水剤を加え、該湿潤ゲル内の液相も含めたアルコール中の水分を実質上完全に除去する。
【0011】次いで、被覆すべき金属酸化物を構成する金属の化合物であって、該シリカ表面の水酸基と縮合しうるものを、湿潤ゲルを含むアルコール中に加えてアルコールに溶解させ、湿潤ゲル網目構造空隙部の液相まで拡散させる。該金属化合物としては、例えばチタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ‐n‐ブトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ‐n‐ブトキシドなどの金属アルコキシドなどを挙げることができる。この際、脱水操作が不完全であると、該金属アルコキシドなどの金属化合物は水との反応速度が極めて速いため加水分解反応が起こって、金属酸化物微粉末が析出する。
【0012】次に、該湿潤ゲル内の液相へ拡散した金属化合物とシリカ表面の水酸基とを縮合させる。この縮合反応は、通常30〜80℃の範囲の温度において1〜24時間程度保持することにより完了する。その後、アルコールを実質上完全に脱水した新たなものと交換して、余剰の未反応金属化合物を完全に除去する。
【0013】このようにして表面が被覆された湿潤ゲルを超臨界乾燥処理して多孔質体を得、さらにその表面にアルコキシル基やアルキル基などの有機基が残っている場合は、該多孔質体を空気中で500℃程度で熱処理することにより、表面が所望の金属酸化物のみで覆われたシリカエアロゲルが得られる。該超臨界乾燥処理方法としては、通常のシリカエアロゲルの作製時と同様の方法を用いることができる。例えば、該湿潤ゲルを超臨界乾燥装置(オートクレーブ)中に置き、アルコールでオートクレーブをほぼ満たし、通常250〜400℃の範囲の温度及び70〜120気圧の範囲の圧力において、10〜40時間程度処理してアルコールを除去する。
【0014】
【発明の効果】本発明によると、表面が金属酸化物で被覆されたシリカエアロゲルを、通常のシリカエアロゲルと同様に広い密度範囲で比較的容易に作製することができる。該金属酸化物で被覆されたシリカエアロゲルは、その特性が被覆物質の種類により左右され、新材料としての応用が期待される。
【0015】
【実施例】次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0016】実施例1ケイ酸メチル1モルをメタノール10モルで希釈し、この中へアンモニア0.01モルを含む水6モルを加え、よく混合したのち、これを型(10×20×5mm)の中へ流し込み、室温で1時間静置してゲル化させる。
【0017】次にこのようにして得た直方体状の湿潤ゲル片を金網製かごに入れ、エタノールの中へかごごと浸し、2時間放置後、エタノールを交換する操作を3回繰り返し、湿潤ゲル内の水を完全にエタノールと置き換える。次いで脱水剤(モレキュラーシーブ3A)10グラムを加えたエタノール0.5リットル中に湿潤ゲル片をかごごと移し、2日間放置することによりエタノールを完全な脱水状態にする。
【0018】次に、チタンテトライソプロポキシド20グラムを加え、乾燥雰囲気中、60℃において12時間反応させて、シリカ表面にチタンを結合させたのち、モレキュラーシーブ3Aで完全に脱水したエタノール中に浸せきし、2時間放置後エタノールを交換して再びこの中へ浸せきする操作を3回繰り返すことにより、未反応のチタンテトライソプロポキシドを完全に除去する。
【0019】このように処理した湿潤ゲル片を、エタノールを満たしたオートクレーブに収容し、温度約300℃、圧力約90気圧の条件下で24時間、超臨界乾燥処理する。
【0020】このようにして得られたエアロゲルは、ほぼ透明であり、シリカの湿潤ゲル片に対する線収縮率は95%程度であった。この線収縮率は、シリカの湿潤ゲルをそのまま超臨界乾燥させた場合とほとんど同じである。
【0021】このようにして得られた表面をチタン被覆したシリカエアロゲルの密度、比抵抗を表1に示す。また比較のためにチタン被覆処理を施さない場合のシリカエアロゲルの密度、比抵抗も表1に併記した。
【0022】実施例2ケイ酸エチル1モルをエタノール15モルで希釈し、この中へアンモニアとフッ化アンモニウムをそれぞれ0.005モルずつ含む水6モルを加え、よく混合したのち、実施例1と同様にして湿潤ゲル片を調製する。
【0023】次に、実施例1におけるチタンテトライソプロポキシドの代りに、ジルコニウムテトラ‐n‐ブトキシド15グラムを用い、実施例1と同様に処理して、ジルコニウムで被覆されたシリカエアロゲルを製造した。
【0024】このものの密度及び比抵抗を表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 ケイ素アルコキシドの加水分解、ゲル化により得られたシリカのゼリー状湿潤ゲルをアルコール中に浸せきしたのち、脱水剤により該湿潤ゲル内の液相も含めアルコール中の水分を脱水し、次いでシリカ表面の水酸基と縮合しうる金属化合物を該アルコールに溶解させて湿潤ゲル網目構造空隙部の液相まで拡散させ、シリカ表面の水酸基と縮合させたのち、未反応金属化合物を除去し、該湿潤ゲルを超臨界乾燥処理することを特徴とするシリカエアロゲル表面への金属酸化物被覆方法。
【請求項2】 請求項1記載の方法により得られた表面が金属酸化物で被覆されたシリカエアロゲル。

【公開番号】特開平6−227809
【公開日】平成6年(1994)8月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−34744
【出願日】平成5年(1993)1月29日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【氏名又は名称】工業技術院名古屋工業技術研究所長