説明

シリカガラスで表面を被覆した蛍光体、及びその製造方法

【課題】耐水性に優れた蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 ゾル−ゲル法により蛍光体表面にシリカ被覆層を形成する被覆工程、を含む蛍光体の製造方法であって、前記シリカ被覆層はケイ素原子にフェニル基が2個以上結合した構造を有する有機ケイ素化合物を用いて形成されることを特徴とする、蛍光体の製造方法により課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラスで被覆した蛍光体、及びその製造方法に関するものであり、特に白色発光装置用に好適に用いられる、シリカガラスで被覆した蛍光体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白色発光装置における白色光の生成方法には、光源として青色LEDを用いて黄色蛍光体を組み合わせることで白色光を生成する方法や、光源として紫外LED、近紫外LED、または紫LEDを用いて赤、緑、及び青3色の蛍光体を組み合わせることで白色光を生成する方法が用いられている。
光源として紫外LED、近紫外LED、または紫LEDを用いる場合には、青色LEDを用いる場合と比べコスト高になり、また光源からの光エネルギーが高いために蛍光体や封止樹脂が劣化しやすい傾向にあるという問題があった。一方、光源として青色LEDを用いて黄色蛍光体を組み合わせる方法は、コストは安いものの、色再現性が乏しい傾向にあった。
【0003】
光源として青色LEDを用いて黄色蛍光体を組み合わせて白色光を生成する方法では、色再現性が乏しいという欠点を補うべく発色光を制御するために、黄色蛍光体の他に緑色蛍光体、橙色蛍光体、又は赤色蛍光体を更に組み合わせる方法が知られている。特に橙色蛍光体である(Sr,Ba)3SiO5:Eu(以下、SBSと表記する場合がある。)やSr3SiO5:Eu(以下、SSEと表記する場合がある。)は高い発光効率を有することが知られており、発色光制御の観点からは非常に有用である。しかしながら、これらの蛍光体は耐水性が悪いために、当該蛍光体を用いた発光装置の長期信頼性は、今のところ得られていない。
【0004】
一方、蛍光体の耐久性を向上させる方法として、シリカガラスを蛍光体に被覆させる方法が検討されている。具体的には、加水分解性ケイ素化合物又はそのオリゴマー、水、塩基性化合物、並びに水溶性有機溶媒を含む溶液を使用して、蛍光体表面にゾルゲル法で被覆層を形成する方法が開示されており、加水分解性ケイ素化合物としては4個の加水分解性基がケイ素に結合していることが好ましいと開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−284528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には、テトラエトキシシランを含むシリカ被覆層でYAG蛍光体を被覆し、表面が均質かつ緻密なシリカ層で被覆された蛍光体が開示されている。しかしながら、シリカ層の被覆によりどの程度蛍光体の劣化を防ぐことができるかについての検討は行われていない。
本発明者らが検討したところ、テトラエトキシシランを含むシリカ被覆層を施した蛍光体では、耐水性の観点からの被覆層の機能が十分ではなく、LED照明とした場合に市場が要求する十分な長期信頼性を得るものとはならなかった。本発明は、このような状況下なされたものであり、耐水性が向上した蛍光体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、シリカ被覆層について詳細に検討を行った結果、有機ケイ素化合物のうちフェニル基を2個以上有するものを用いて蛍光体を被覆することで、耐水性が著しく向上することを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は、ゾル−ゲル法により蛍光体表面にシリカ被覆層を形成する被覆工程、を含む蛍光体の製造方法であって、前記シリカ被覆層はケイ素原子にフェニル基が2個以上結合した構造を有する有機ケイ素化合物を用いて形成されることを特徴とする、蛍光体の製造方法である。
【0008】
また、本発明の好ましい態様としては、前記被覆工程が、有機ケイ素化合物、アルコール、及び水を有する水溶液中に、蛍光体とpH調整剤を添加することで蛍光体表面に被膜を形成する工程、及び前記被膜形成工程で得られた蛍光体を焼成する工程、を含むことが好ましい。
【0009】
また、前記被膜形成において、水溶液中における有機ケイ素化合物と水との含有比(モル比)が1:10〜1:75であることが好ましい。
また、前記有機ケイ素化合物は、ケイ素原子にフェニル基が2個結合した構造であることが好ましい。
また、前記蛍光体は、SSE蛍光体またはSBS蛍光体であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の別の態様は、ゾル−ゲル法により蛍光体表面にシリカ被覆層を形成して得られる蛍光体であって、前記シリカ被覆層はケイ素原子にフェニル基が2個以上結合した構造を有する有機ケイ素化合物を用いて形成されることを特徴とする、蛍光体である。
また、本発明の別の態様は、LEDチップ、上記製造方法により製造された蛍光体を少なくとも含む蛍光体層、を少なくとも含む白色発光装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法により、耐水性が向上した蛍光体を提供することができる。また、本発明の製造方法により製造された蛍光体を白色発光装置に用いることで、長期信頼性に優れた発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の蛍光体1及び比較例1の比較蛍光体1をイオン交換水中に添加した際の導電率の経時変化を示すグラフである。
【図2】実施例2及び3の蛍光体2及び3、並びに比較例2及び3の比較蛍光体2及び3をイオン交換水中に添加した際の導電率の経時変化を示すグラフである。
【図3】本発明の発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図4】本発明の発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
なお、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。例えば、「(Sr,Ba)3SiO5:Eu」という組成式は、「Sr3SiO5:Eu」と、「Ba3SiO5:Eu」と、「Sr3-xBaxSiO5:Eu」とを全て包括的に示しているものとする(但し、前記式中、0<x<1)。
【0014】
[有機ケイ素化合物]
本発明の蛍光体の製造方法は、ゾル−ゲル法により蛍光体表面にシリカ被覆層を形成す
る被覆工程を含み、シリカ被覆層はケイ素原子にフェニル基が2個以上結合した構造を有する有機ケイ素化合物を用いて形成されることを特徴としている。
本発明の製造方法により製造された蛍光体は、このような特定の有機ケイ素化合物を原料として、ゾル−ゲル法により被覆層が形成されていることで、優れた耐水性能を発揮するものである。
【0015】
本発明に用いる有機ケイ素化合物は、ケイ素原子にフェニル基が2個以上結合した構造を有する有機ケイ素化合物である。このような有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
SiXnPh4-n ・・・(1)
【0016】
式(1)中、Xは独立して有機基を表し、Phはフェニル基を表し、nは0、1、又は2である。好ましくはnが1または2であり、nが2であることがより好ましい。すなわち、1分子中に2個のフェニル基を有することが好ましい。
有機基Xは、本発明の有機ケイ素化合物がゲル化する限り特段限定されず、具体的にはアルコキシ基、アシロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、水素原子及びハロゲン等が挙げられる。これらのうち、アルコキシ基及びハロゲンが好ましい。アルコキシ基である場合には、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。このようなアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基等が挙げられる。また、1分子中の複数のXは、同一の基であっても異なる基であってもよいが、加水分解反応が進行する速度が均一であり、加水分解反応の制御が容易であることから、同一の基であることが好ましい。
【0017】
本発明に用いる有機ケイ素化合物の例としては、ジフェニルシラン、ジメチルジフェニルシラン、エチルジフェニルシラン、メチルジフェニルシラン、ジエチルジフェニルシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジフェノキシジフェニルシラン、メチルジフェニル(エチニル)シラン、フルオロ(メチル)ジフェニルシラン、[トリス(ジメチルメトキシシシリル)メチル]ジフェニルシラン、ジヒドロキシジフェニルシラン、ジアジドジフェニルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、エテニルエトキシジフェニルシラン、エトキシ(メチル)ジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、アリル(tert−ブチル)ジフェニルシラン、トリメチルスタニルメチルジフェニルシラン、ビス(1,1'−ビフェニル−4−イル)ジフェニルシラン、クロロ−N,N−ジメチルジフェニルシランアミン、アジド(メチル)ジフェニルシラン、(クロロジフェニルシリル)エテン、N,N,N',N'−テトラメチルジフェニルシランジアミン、ジフェニルジフルオロシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジエチルジフェニルシラン、ジフェニルメチルクロロシラン、ジフェニルシランジオール、tert−ブチルジフェニル(2−メチル−2−プロペニル)シラン、ジアニリノジメチルジフェニルシラン、クロロジフェニルシラン、ジアリルジフェニルシラン、tert−ブチルジフェニルクロロシラン、(1−フルオロビニル)メチルジフェニルシラン、tert−ブトキシジフェニルクロロシラン、ジクロロジフェニルシラン、トリフェニルシラン、メチルトリフェニルシラン、エチルトリフェニルシランなどがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0018】
[ゾル−ゲル法]
本発明は、上記説明した有機ケイ素化合物を用いて、ゾル−ゲル法により蛍光体表面にシリカ被覆層を形成するものである。本発明に用いるゾル−ゲル法は、金属の有機化合物又は無機化合物の溶液を用いてセラミックスを作製する方法の一つであり、溶液の触媒反応や熟成を利用してコロイドが分散したゾルを作製した後に、反応を促進させ形成したゲルを加熱処理することによって、乾燥、焼成する方法である。また、ゾル−ゲル法は、溶液を用いた方法であるため、被被覆体の形状に依存することなく、セラミックスを形成することができる方法である。
【0019】
本発明におけるゾル−ゲル法による蛍光体の製造方法は、以下のような方法であることが好ましい。まず、有機ケイ素化合物、アルコール、及び水を混合することで水溶液を調製し、該水溶液中に、蛍光体とpH調整剤を添加することで蛍光体表面に被膜を形成する(被膜形成工程)。そして、被膜形成工程で得られた蛍光体を、例えば100℃以上、500℃以下で焼成する(焼成工程)。このような工程を経ることで、蛍光体の表面にシリカ被覆層を形成することができる。上記焼成工程は、450℃以下であることがより好ましい。また、焼成時間は特段限定されないが、通常1時間以上、24時間以下である。
本発明の有機ケイ素化合物により形成されたシリカ被覆層は、大気中の水分と蛍光体を遮断する働きを有しており、長期間使用した場合であっても蛍光体の発光の減衰を抑制することができる。また、本発明のシリカ被覆層は、LEDチップからの光が長時間照射されて温度が上昇しても黄変・着色が発生しにくく、長期間にわたってLEDチップからの光が蛍光体に十分に届く。
【0020】
本発明の蛍光体の製造方法に用いるpH調整剤は、pHを調整できる限り特段限定されず、水酸化ナトリウム、アンモニア、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、クエン酸、乳酸等の公知のpH調整剤の中から、適宜選択して使用すればよい。このうち、アンモニアを用いることが好ましく、アンモニアはシリカ被膜層形成時において触媒の役割も果たす。pH調整の目安としては、酸側、アルカリ側のどちらに調整しても良いが、アルカリ側の方が緻密な膜を作りやすいため好ましく、pH7以上に調整することが好ましく、より好ましくはpH8以上、更に好ましくはpH9以上である。pH調整剤の含有量は、有機ケイ素化合物1モルに対し、0.02モル以上であることが好ましい。一方上限値は、0.14モル以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の蛍光体の製造方法に用いるアルコールは、溶媒として有機ケイ素化合物を溶解し得るものであれば特段限定されるものではなく、有機ケイ素化合物の種類に応じて適宜選択することができる。有機ケイ素化合物の溶解性の観点から低級アルコールを用いることが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの炭素数1〜4の低級アルコールを用いることがより好ましい。
上記アルコールは、有機ケイ素化合物1モルに対し、5モル以上であることが好ましい。一方上限値は、30モル以下であることが好ましい。上記範囲である場合には、より高い被覆性能を有するシリカ被覆層を形成することができるため、好ましい。
【0022】
本発明の蛍光体の製造方法に用いる水は、有機ケイ素化合物1モルに対し、10モル以上であることが好ましく、30モル以上であることがより好ましい。一方上限値は、75モル以下であることが好ましく、50モル以下であることがより好ましい。上記範囲である場合には、より高い被覆性能を有するシリカ被覆層を形成することができるため、好ましい。
【0023】
[蛍光体の平均一次粒径]
本発明の蛍光体の製造方法に用いる蛍光体は特段限定されず、どのような種類のものであっても、どのような形状のものであっても本発明を適用することが可能であるが、シリカ被覆層形成前の蛍光体の平均一次粒子径が1μm以上50μm以下であることが好ましい。より好ましくは10μm以上であり、また30μm以下である。平均一次粒子径は、蛍光体が異方性を有する粒子の場合には、その長径を表すものとする。用いる蛍光体の平均一次粒子径が上記範囲の場合には、シリカ被覆膜が適切に行われやすい。平均一次粒子径が1μm未満であると、所望の発光特性が発現し難くなる傾向にあり、特に好ましくは10μm以上である。一方、平均一次粒子径が50μmを超える場合には、得られる蛍光体の粒子径が大きくなりすぎるため、用途によっては使用が困難になるおどれがある。例
えば、本発明の製造方法により製造した蛍光体を硬化性樹脂組成物中に混入して樹脂層を形成する場合には、粒径が大きすぎると、平坦な樹脂層を得難くなったり、樹脂層に蛍光体粒子を均一に分散させ難くなる傾向にある。
なお、平均一次粒子径は、例えば堀場製作所、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置 LA−920を用いて測定することができる。
【0024】
[蛍光体の種類]
本発明の蛍光体の製造方法に用いることができる蛍光体は適宜選択されるが、赤色(橙色含む)、緑色、青色の代表的な蛍光体として、下記のものが挙げられる。
【0025】
赤色蛍光体としては、例えば、特開2006−008721号公報に記載されているCaAlSiN3:Eu、特開2008−7751号公報に記載されている(Sr,Ca)AlSiN3:Eu、特開2007−231245号公報に記載されているCa1-xAl1-xSi1+x3-xx:Eu等のEu付活酸化物、窒化物又は酸窒化物蛍光体等や、特開2008―38081号公報に記載されている(Sr,Ba,Ca)3SiO5:Euを用いることも可能である。
【0026】
緑色蛍光体として、例えば、国際公開WO2007−091687号公報に記載されている(Ba,Ca,Sr,Mg)2SiO4:Euで表されるEu付活アルカリ土類シリケート系蛍光体等が挙げられる。また、そのほか、緑色蛍光体としては、例えば、特許第3921545号公報に記載されているSi6-zAlz8-zz:Eu(但し、0<z≦4.2である。)等のEu付活酸窒化物蛍光体や、国際公開WO2007−088966号公報に記載されているM3Si6122:Eu(但し、Mはアルカリ土類金属元素を表す。)等のEu付活酸窒化物蛍光体や、特開2008−274254号公報に記載されているBaMgAl1017:Eu,Mn付活アルミン酸塩蛍光体を用いることも可能である。
【0027】
青色蛍光体として、例えば、BaMgAl1017:Euで表されるユウロピウム付活バリウムマグネシウムアルミネート系蛍光体、(Ca,Sr,Ba)5(PO43Cl:Euで表されるユウロピウム付活ハロリン酸カルシウム系蛍光体、(Ca,Sr,Ba)259Cl:Euで表されるユウロピウム付活アルカリ土類クロロボレート系蛍光体、(Sr,Ca,Ba)Al24:Euまたは(Sr,Ca,Ba)4Al1425:Euで表されるユウロピウム付活アルカリ土類アルミネート系蛍光体等が挙げられる。
【0028】
これらの蛍光体のうち、輝度が高いものの耐久性が良好とはいえない蛍光体が、本発明に用いる蛍光体には適しており、具体的には(Sr,Ba)3SiO5:Eu(SBS蛍光体)やSr3SiO5:Eu(SSE蛍光体)が好ましい。
【0029】
[蛍光体の用途]
本発明の蛍光体の製造方法により製造された蛍光体は、蛍光体を使用する任意の用途に用いることができる。本発明により得られる蛍光体を任意の用途に用いる場合には、単独で使用することも可能であるが、2種以上併用することも可能である。さらに、本発明により得られる蛍光体とその他の蛍光体とを併用した任意の組み合わせの蛍光体混合物として用いることも可能である。
また、本発明の蛍光体は、公知の液体媒体(例えば、シリコーン系化合物等)と混合して、蛍光体含有組成物として用いることもできる。
【0030】
上記蛍光体含有組成物は、LED発光装置用パッケージなどにマウントされたLEDチップからの光の波長を変更可能なように、蛍光体層としてLEDチップの周囲に配置することで、例えば白色発光装置として用いることもできる。発光装置の発光色としては白色に制限されず、蛍光体の組み合わせや含有量を適宜選択することにより、電球色(暖かみ
のある白色)やパステルカラー等、任意の色に発光する発光装置を製造することができる。こうして得られた発光装置を、画像表示装置の発光部(特に液晶用バックライトなど)や照明装置として使用することができる。
【0031】
以下、本発明の発光装置について、具体的な実施の形態を挙げて、より詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0032】
図3は、一般的に砲弾型と言われる形態の発光装置の代表例であり、LEDチップ1と、蛍光体層2とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。該発光装置10において、符号3はマウントリード、符号4はインナーリード、符号5は導電性ワイヤ、符号6はモールド部材をそれぞれ指す。
【0033】
LEDチップとしては、近紫外領域の波長を有する光を発する近紫外LEDチップ、紫領域の波長の光を発する紫LEDチップ、青領域の波長の光を発する青色LEDチップなどを用いることが可能であり、これらのチップは350nm以上520nm以下の波長を有する光を発する。図3及び後述する図4においてはLEDチップが1つのみ記載されているが、複数個のLEDチップを線状、平面状に配置することも可能であり、LEDチップを平面状に配置した場合には面照明とすることができ、該実施態様は、より光出力を強くしたい場合に好適である。
【0034】
蛍光体層は、蛍光体及びバインダー樹脂の混合物であり、LEDチップからの励起光を蛍光に変換する。蛍光体層に含まれる蛍光体は、LEDチップの励起光の波長に応じて適宜選択される。白色光を発する発光装置であれば、青色LEDチップを用いて、黄色の蛍光体、場合によっては緑色や橙色の蛍光体を加えて蛍光体層に含ませる場合や、緑色及び赤色の蛍光体を蛍光体層に含ませる場合が挙げられる。その他、紫色LEDチップを用い、青色及び黄色の蛍光体を蛍光体層に含ませる場合や、青色、緑色、及び赤色の蛍光体を蛍光体層に含ませる場合などが挙げられる。
【0035】
また、図4は、表面実装型と言われる形態の発光装置の代表例であり、LEDチップ11と蛍光体層12とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。図中、符号13はフレーム(パッケージ)、符号14は導電性ワイヤ、符号15及び符号16は電極をそれぞれ示す。
【0036】
本発明の発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
【実施例】
【0037】
以下、具体的な実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1、比較例1〕
蛍光体のシリカ被覆層をゾル-ゲル法により作製した。最初に、ジエトキシジフェニルシラン(C16202Si)、水(H2O)、エタノール(C26O)を混合した後に、アンモニア水溶液(NH4OH)を加えた。さらに、この溶液にSSE蛍光体(組成:Sr3SiO5:Eu、発光ヒ゜ーク波長:581nm、455nm励起時の発光色座標:(0.522,0.472))を添加した。ここで、ジエトキシジフェニルシラン:水:エタノール:アンモニア:Sr3SiO5:Euの混合比率は1:25:5:0.05:0.07(モル比)とした。
上記調製した水溶液は、ゲル化を進行させるために、室温にて3時間撹拌した。また、撹拌にはマグネチックスターラーを用いてSr3SiO5:Euが沈降しないように700rpmの回転数で行った。
攪拌後、固形分と液体分を遠心分離器で分離した。その後、固形分のみを取り出し、電気炉中で400℃、3時間の条件で熱処理を行うことによって、シリカ被覆層をSSE蛍光体の周囲に形成し、蛍光体1を得た。
【0039】
次に、得られた蛍光体1と、上記シリカ被覆層を形成していないSSE蛍光体(比較蛍光体1)について、水溶液中における導電率変化を測定した。100ccのイオン交換水に対して、蛍光体1及び比較蛍光体1をそれぞれ0.1g添加したときの導電率の経時変化を測定した。ここで、導電率変化が抑制できるほど高い水分遮断率を有する被覆層が形成できていることを示している。結果を図1、及び表1に示す。
【0040】
シリカ被覆層を形成していない比較蛍光体1は、急激に導電率変化が観測されたのに対して、シリカ被覆層を形成した蛍光体1は、導電率の変化は3時間後でも18.5mS/m程度に抑えられていた。
【0041】
[実施例2、3、比較例2、3、4]
有機ケイ素化合物として、ジメチルジフェニルシラン(実施例2)、ジエチルジフェニルシラン(実施例3)、テトラエトキシシラン(比較例2)、トリメトキシクロロシラン(比較例3)、フェニルトリエトシキシラン(比較例4)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、蛍光体2及び3、並びに比較蛍光体2、3及び4を得た。得られた蛍光体について、蛍光体1及び比較蛍光体1と同様の方法により導電率の経時変化を測定した。結果を図2、及び表1に示す。なお、比較例4のフェニルトリエトシキシランにより被覆層を形成した比較蛍光体4は、熱処理後に比較蛍光体4からの発光が観測されなくなった。ここで、発光の観測には365nmの紫外光ランプを蛍光体に照射して、目視での発光が観測出来るかで評価した。
【0042】
ケイ素原子にフェニル基が2個結合した有機ケイ素化合物を用いたシリカ被覆層を有する蛍光体2及び3は、導電率の変化が大幅に抑制されている。
【0043】
[実施例4、5、6及び7]
有機ケイ素化合物としてジメトキシジフェニルシランを用い、水の混合比率をジメトキシジフェニルシラン1モルに対して10モル(実施例4)、25モル(実施例5)、50モル(実施例6)、75モル(実施例7)とし、ゲル化進行のための攪拌時間を48時間とした以外は実施例1と同様にして、蛍光体4、5、6及び7を得た。得られた蛍光体について、蛍光体1及び比較蛍光体1と同様の方法により導電率の経時変化を測定した。結果を表1に示す。水の混合比率が、有機ケイ素化合物1モルに対し10モル〜75モルの水の含有量において、導電率の変化が大幅に抑制されている。
【0044】
[実施例8、9、及び10]
有機ケイ素化合物としてトリフェニルシランを用い、水の混合比率をトリフェニルシラン1モルに対して10モル(実施例8)、35モル(実施例9)、50モル(実施例10)とし、ゲル化進行のための攪拌時間を48時間とした以外は実施例1と同様にして、蛍光体8、9及び10を得た。得られた蛍光体について、蛍光体1及び比較蛍光体1と同様の方法により導電率の経時変化を測定した。結果を表1に示す。
ケイ素原子にフェニル基が3個結合した有機ケイ素化合物を用いたシリカ被覆層を有する蛍光体8、9、及び10は、導電率の変化が大幅に抑制されている。
【0045】
[実施例11、12、13、14、比較例5]
実施例4〜7で製造した蛍光体4〜7、及び比較蛍光体1を用いて、白色発光装置を製造した。
LEDチップは、昭和電工社製の350μm角チップ(波長460nm)「GU35R460T」を用い、それを透明ダイボンドペースト(シリコーン樹脂ベース)で、3528(3428)SMD型樹脂パッケージに接着させた。ボンディングワイヤは2本とした。
続いて、信越化学工業株式会社製2液型シリコーン樹脂SCR1016の主剤と硬化剤、上記蛍光体のそれぞれをEME社製「V−mini300」にて真空脱泡混合した。得られた混合液のうち、4μLを前述の半導体発光素子を設置した樹脂パッケージに注液し、ヤマト科学株式会社製送風定温恒温器「DKN−302」にて、蛍光体を沈降させるために1時間保持した後に、100℃で1時間保持、次いで150℃で5時間保持して混合液を硬化させ封止を行い、白色発光装置1、2、3及び4、並びに比較白色発光装置1を得た。
【0046】
[点灯評価試験]
上記得られた白色発光装置に20mAの電流を通電し、点灯開始直後(この時点を以下「0時間」という。)に、ファイバマルチチャンネル分光器(オーシャンオプティクス社製USB2000(積算波長範囲:200−1100nm、受光方式:約4.95mmφ(1.5インチ)の積分球))を用いて、20mA通電条件での発光スペクトルを測定した。次いで、エージング装置、LED AGING SYSTEM 100ch LED環境試験装置(山勝電子工業(株)製、YEL−51005)を用いて、85℃、相対湿度85%の条件下、発光装置を駆動電流20mAで連続通電した場合と通電せず、前記環境に保持し測定時のみ通電する2条件にて点灯試験を行った。一定時間毎に取り出して、再度、発光スペクトルを測定した。得られた発光スペクトルより算出された各種発光特性の値(全光束、色度座標Cx、Cy)を、0時間の値に対する経時の値を百分率で示した。
【0047】
表2に1000時間の高温高湿試験後の相対発光効率、相対発光強度、Cx維持率、Cy維持率を示す。なお、試験開始時を100とする。
【0048】
【表1】


【0049】
【表2】

【符号の説明】
【0050】
1 LEDチップ
2 蛍光体層
3 マウントリード
4 インナーリード
5 導電性ワイヤ
6 モールド部材
10 発行装置
11 LEDチップ
12 蛍光体層
13 フレーム(パッケージ)
14 導電性ワイヤー
15 電極
16 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾル−ゲル法により蛍光体表面にシリカ被覆層を形成する被覆工程、を含む蛍光体の製造方法であって、
前記シリカ被覆層はケイ素原子にフェニル基が2個以上結合した構造を有する有機ケイ素化合物を用いて形成されることを特徴とする、蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記被覆工程が、有機ケイ素化合物、アルコール、及び水を有する水溶液中に、蛍光体とpH調整剤を添加することで蛍光体表面に被膜を形成する工程、及び前記被膜形成工程で得られた蛍光体を焼成する工程、を含む請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記被膜形成工程において、水溶液中における有機ケイ素化合物と水との含有比(モル比)が1:10〜1:75である請求項2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記有機ケイ素化合物は、ケイ素原子にフェニル基が2個結合した構造を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記蛍光体は、SSE蛍光体またはSBS蛍光体を少なくとも含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
ゾル−ゲル法により蛍光体表面にシリカ被覆層を形成して得られる蛍光体であって、前記シリカ被覆層はケイ素原子にフェニル基が2個以上結合した構造を有する有機ケイ素化合物を含むことを特徴とする、蛍光体。
【請求項7】
LEDチップ、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により製造された蛍光体、または請求項6に記載の蛍光体を少なくとも含む蛍光体層、を少なくとも含む白色発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49745(P2013−49745A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186980(P2011−186980)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】