説明

シリカフィルムの形態制御

【課題】コーティングされる基板材料やその形と共にコーティングの厚さや屈折率を効率的に制御できる強固なフィルムを作成するための低コストで簡単な方法を提供する。
【解決手段】以下の構造式で表わされる加水分解性ケイ酸塩オリゴマーを溶媒に加えることにより前駆体製剤を調整し、
【化1】


(ここで、Xは少なくとも三つのXが加水分解性基でなければならないという条件でそれぞれ独立的に加水分解性基又は非加水分解性基から選択される。)基板上に前記前駆体製剤のコーティングを形成し、塩基と水と前記加水分解性ケイ酸塩オリゴマーの加水分解を抑制する抑制剤とが含まれる気体雰囲気において前記コーティングを加水分解及び縮合することにより前記コーティングを硬化すること、を含むことを特徴とする基板上にコーティングされたシリカ又はシリカ様フィルムの作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカフィルム、シリカ様フィルム、その製造方法および反射防止(anti−reflective)コーティングおよび/又は曇り防止(anti−fogging)コーティングおよび/又は保護コーティングとしてのフィルムの使用に関する。特に、本発明はシリカフィルムおよびシリカ様フィルムの形態制御に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、これまでに特に有利な性質を有するシリカフィルムを発明してきた。そのフィルムは、他の潜在的に有用な特性に加え、有用な曇り防止特性及び反射防止特性を有する。シリカフィルムの一形態の製造方法の一つは、共に我々の係属であり、2005年6月2日に公開された国際出願番号WO2005/049757(国際公開第2005/049757)で述べられている。
【0003】
一般的に低屈折率薄膜は、ゾル−ゲル工程又は真空蒸着(vacuum evaporation deposition)技術によって作製される。薄膜作製のためのゾル−ゲル技術に依存する既知の工程は、複雑でコストがかかるマルチステップ(multi―step)工程であり、製造において高温及び/又は高圧力工程を必要とし、及び/又は鋳型(templating)のために界面活性剤を必要とする。これらのゾル−ゲル工程により製造されたフィルムは、一般的に容易にダメージを受け、及び/又は層間剥離が起き易い。
【0004】
以下の先行技術文献は、シリカから作られる低屈折率フィルムを製造するために用いられる方法のほんの数例である。
【0005】
既知のゾル−ゲル技術に基づく多くの従来工程は、我々の先の出願において述べられた。それら前述に加え、米国特許第4,652,467号が参照されてもよい。この特許は、アルコール及び例えばTEOSといった様々な加水分解性金属アルコキシドから作製された非ゲル状溶液から基板上に薄膜を形成(堆積)する工程を記述している。記述された工程は、非常に複雑だが、多孔率(proposity)及び孔径(poresize)を制御することを目的とする。工程は、フィルムを作製するための冷却、硬化および加熱の前の温度、pH、および停滞時間(standingtime)の調整を含む。
【0006】
米国特許第5,698,266号は、エタノール、テトラエトキシシラン(TEOS)及びアンモニアを混合した後、加水分解を48時間行って脂肪族アルコール内に分散されたコロイド状の酸化シリコン懸濁液を作製することにより、反射防止コーティングを作製する標準的なゾル−ゲル法を改良するように方向付けられている。シリカゾルは、次に基板上への形成のためのシリカ粒子を得るために、乾燥の前に濾過される。コーティングされた基板は、アンモニア雰囲気中(ammoniacalenvironment)に12時間配置されて反射防止コーティングを形成する。この最終工程は、シリカ粒子同士の結合を改善するためにクレーム(claim)され、フィルムをより強固のものとする。
【0007】
従来ゾル−ゲル工程を直接的に従わずにシリカコーティングを作製するための数少ない先行技術のうちの一つは、ダウコーニング社に譲渡された米国特許第6,231,989に記述されている。その特許は、メチルイソブチルケトンといった溶媒において少なくとも二つのSi−H基を含んだ樹脂を含む溶液からコーティングを形成する工程を記述している。その溶液は、基板に塗布され、コーティング中に約5%の溶媒が残存する。水溶性の塩基性触媒は、Si−H基の縮合を引き起こす。溶媒を多孔質コーティング(porouscoating)から蒸発させる。要約すれば、その方法は、結果として得られるフィルムの接着および機械的強度を改善するためにアンモニア気体段階(ammoniavapour step)を使用するが、主な部分においては常温常圧でコーティングを作製する従来のゾル−ゲル法に依存する。二つのSi−H基を含む適切な出発物質の調製は難しく、この技術の実用性を制限する。
【0008】
簡単な製造工程を使用して、多孔率及び孔径の大きさといった形態を制御できるフィルムを作製するための技術は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2005/049757パンフレット
【特許文献2】米国特許第4,652,467号明細書
【特許文献3】米国特許第5,698,266号明細書
【特許文献4】米国特許第6,231,989号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の方法は、コーティングされる基板材料やその形と共にコーティングの厚さや屈折率を効率的に制御できる強固なフィルムを作成するための低コストで簡単な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一形態において、それが唯一あるいは最も広範な形態である必要は無いが、本発明は、以下に表わされる加水分解性ケイ酸塩オリゴマーを溶媒に加えることにより前駆体製剤(precursorformulation)を作製し、
【化1】

(ここで、Xは少なくとも三つのXが加水分解性基でなければならないという条件でそれぞれ独立的に加水分解性基又は非加水分解性基から選択される。)
前駆体製剤のコーティングを基板上に形成し、その後、塩基と水と加水分解性ケイ酸塩オリゴマーの加水分解を抑制する抑制剤とを含む気体雰囲気(vapourousenvironment)においてコーティングを加水分解および縮合を行うことによりコーティングを硬化すること、を含む基板上を覆うシリカ又はシリカ様フィルムを形成する方法に属する。
【0012】
硬化することは、コーティングされた基板を気体状態の抑制剤が備えられたチャンバー内に配置し、続いて水と塩基とをチャンバー内に導入すること、を適宜含んでもよい。
【0013】
加水分解性ケイ酸塩オリゴマーは、以下に表わされる分子前駆体から適宜誘導できる。
【化2】

(ここで、nは3又は4、mは4−n、Rは加水分解性基からそれぞれ独立的に選択され、Xはそれぞれ非加水分解性基であり、非加水分解性基から選択される。)
【0014】
前記方法は、気体雰囲気における塩基、抑制剤及び水の分圧をそれぞれ制御することによるフィルムの形態制御、をさらに適宜含む。
【0015】
前記方法は、孔径を制御するための溶媒の選択及び孔の密度を制御するための溶媒及び/または抑制剤の選択をすることによるさらなるフィルムの形態制御、を含んでもよい。
【0016】
コーティングは、スピンコーティングまたはディップコーティングにより適宜行われる。さらに硬化前にコーティングを安定させる工程をさらに含んでもよい。
【0017】
当然のことながら、前駆体はコーティング工程(硬化前)の間は液体であり、好ましくは中性である。したがって、前記方法は、従来技術において記述されている従来のゾル−ゲル工程に従わない。さらに気体雰囲気は、安定で、高度に架橋したナノ多孔性(ナノポーラス)シリカ又はシリカ様網状構造を作り出すために、形成後のフィルムにおける加水分解及び重縮合の速度の制御に関与することも明らかである。
【0018】
孔径は、溶媒分子の大きさに適宜関連していてもよい。前駆体における溶媒量は、アンモニア雰囲気における抑制剤量に関連していてもよい孔の密度に関連している。
【0019】
前記方法は、常温及び常圧又はその付近で適宜実行される。
【0020】
本発明の別の形態は、以下の加水分解性ケイ酸塩オリゴマーと溶媒とを混合することを含む前駆体製剤の作製方法を提供する。
【化3】

(ここで、Xは少なくとも三つのXが加水分解性基でなければならないという条件でそれぞれ独立的に加水分解性基又は非加水分解性基から選択される。)
【0021】
さらなる形態において、本発明は、約1部の以下の加水分解性ケイ酸塩オリゴマー
【化4】

(ここで、Xは少なくとも三つのXが加水分解性基でなければならないという条件でそれぞれ独立的に加水分解性基又は非加水分解性基から選択される。)と、約0.2〜100部のアルコールと、約0.01〜1部の水とを含む前駆体製剤に属する。
【0022】
さらなる形態において、本発明は屈折率が1.1〜1.56であり上記方法により厚さが100μm未満に形成されたフィルムに属する。
【0023】
さらに別の形態において、本発明は、反射防止コーティング及び/又は曇り防止コーティング及び/又は保護コーティングを提供するための、透明基板上にコーティングされたシリカフィルムの使用を提供する。
【0024】
さらに別の形態において、本発明は、親水性フィルムを提供する。好ましくは、親水性フィルムは高表面積を有する。
【0025】
本発明の一形態において、加水分解性ケイ酸塩オリゴマーは、ケイ酸テトラメチルエステルホモポリマーではない。
【0026】
本明細書の全体を通じて記載のある「低屈折率」という語は、200nm〜20μmの波長範囲においてシリカガラス(石英ガラス)よりも低い屈折率を有する本発明のフィルムに言及することを意図している。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、フィルムはより強化され、フィルムの特性(多孔率及び屈折率)が制御可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一般的なスピンコーティングのプロファイルである。
【図2】硬化チャンバーの概略図である。
【図3】1.21の屈折率を有するように制御されたフィルムの電子顕微鏡画像である。
【図4】1.30の屈折率を有するように制御されたフィルムの電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の加水分解性ケイ酸塩オリゴマーは以下の構造式を有する。
【化5】

ここで、少なくとも三つのX基は、加水分解性基である。X基の選択は特に限定されないが、以下に説明する。これらの物質の特定の例は、オルトケイ酸塩テトラメチル及びオルトケイ酸塩テトラエチルのオリゴマー型であるケイ酸メチル、ケイ酸エチルをそれぞれ有する。これらの物質はまた、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランとしても知られる。
【0030】
一例として、オリゴマーは、以下の反応において描写される部分加水分解によりモノマーから作製される。
【化6】

【化7】

【0031】
市販のケイ酸メチルのnは、一般的には4であり、市販のケイ酸エチルのnは、一般的には5である。このオリゴマーにおける重合度は特に重要ではない。
【0032】
Xが加水分解性基である場合、限定されるわけではないが、C1〜C10のアルキル基、好ましくはC1〜C4のアルキル基、フェニル基又はナフチル基を含めたアリール基、任意で置換されたアリール基、ベンジル基を含めたアリール(C1〜C4)アルキル基を含む加水分解性基から独立的に選択される。
【0033】
また当然のことながら、Xは例えば、フッ素などのハロゲン化合物、アリール基、ヘテロアリール基あるいは、窒素、酸素又は硫黄といったシリカフィルムの構造に干渉しない置換基を有する一つ以上の不活性な置換基に任意で置換されてもよい。
【0034】
Xが非加水分解性基である場合、アルキル基、アルケニル基、アリール基を含む非加水分解性基、又はハロゲン、窒素、酸素、硫黄、ケイ素に任意で置換されたアルキル基、アルケニル基又はアリール基から独立的に選択される。
【0035】
本発明者らは、硬化雰囲気(curing environment)でアルコールを加えることによって、単一で液相の硬化工程においてシリカ薄膜の形態を制御することを実現している。例えば、テトラエトキシケイ酸塩(R=C)の硬化の際の加水分解反応式は、以下の通りである。
【化8】

【0036】
本発明者らは、ある加水分解性ケイ酸塩オリゴマーが、基板上にコーティングするための液相中で調製可能であるということを理解していた。上記で述べられた先の特許出願においては、ケイ酸テトラメチルエステルホモポリマー(特に、ケイ酸メチル51)から薄膜を形成するための工程が詳述されたが、形態制御の工程は詳述されていなかった。
【0037】
アルコール生成物(ROH)は加水分解反応速度を制限することが知られている。アルコールの硬化雰囲気への導入が加水分解速度を制御し、そのため縮合工程において形成されるフィルムの性質を制御する。硬化雰囲気におけるアルコールが硬化温度において分圧を有するように十分な揮発性を有することは重要である。便宜上、硬化工程は常温で実行されることが好ましい。その雰囲気における過度のアルコールは加水分解速度をおとす。
【0038】
適切な塩基は、硬化温度で分圧を有するように十分な揮発性を有する塩基であり、その温度は、常温又は常温付近である。塩基、揮発性の無機塩基又は有機塩基から選択されてもよい。さらに適切な塩基は、例えばアンモニアや第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンを含むアミノアルカン又はアミノアルケンやアルカロイドなどの揮発性窒素塩基といった揮発性無機塩基である。最も適切な塩基は、アンモニアである。
【0039】
溶媒は、オリゴマーを溶かすことのできる溶媒である。本発明者らは、アルコールが最も適切であると発見していた。適切なアルコールは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール及びエチレングリコールといったある種の多価アルコールを含む。
【0040】
抑制剤は、1つ以上のアルコール又は多価アルコールを含むことが好ましい。同族アルコールは加水分解を遅らせが、抑制剤は硬化の間に生成されるアルコールが好ましい。本発明により意図される抑制剤、ROH及び溶媒の組み合わせの例として、ROHとしてアルキルアルコール、溶媒としてメタノール、気体状の抑制剤としてエタノールを含んでもよい。当然ながら、他の組み合わせが採用されてもよい。
【0041】
したがって、限定されない一つの例において、Xはエトキシ基でn=4、すなわちSi(OC2H5)4、抑制剤はエタノールである。そのような例において、溶媒もエタノールであることが好ましい。
【0042】
当然ながら、加水分解性ケイ酸塩オリゴマーは全てのX基が同一である必要は無い。例えば、CH[(OCSiO]は、C[(OC)(OCH)SiO]CHと同様に適切な前駆体であると見込まれる。
【0043】
これら特定の例において、硬化環境におけるアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0044】
縮合を開始するために水及び塩基を導入する前に、任意で、コーティングされた基板を雰囲気中のアルコールと基板上のシリカ前駆体のアルコール含有量とが平衡に達するまでの時間だけアルコール雰囲気中に置いてもよい。
【0045】
フィルムを形成するための一般的な工程は、前駆体製剤を調製することから開始する。加水分解性ケイ酸塩オリゴマーの量は、アルコールと混合される。任意で、少量、一般的に5体積%未満の水が存在してもよい。その雰囲気からアルコール中に溶解する水の量は、大抵は差し支えないものであり、事実上避けることができない。加水分解性ケイ酸塩オリゴマーは適切には、ケイ酸塩メチル、ケイ酸塩エチル、テトラプロポキシシラン又はテトラブトキシシランといったモノマーから得られるより複雑なオリゴマー、又はジメトキシジエトキシシラン、テトライソプロポキシシランなどといった有機ケイ酸塩(有機シリケート)エステルの混合物から得られるオリゴマーである。
【0046】
前駆体製剤は、シリカ前駆体製剤中に分散された液滴をつくり最終フィルムにおける孔の形成を促進するアルコールを含んでもよい。
【0047】
適切なフィルム製造の多くの工程例を以下に詳述する。
【0048】
実施例1.ケイ酸塩エチル40
ケイ酸塩エチル40(ケイ酸テトラエチルエステルホモポリマー94%より多く(>94%)、テトラエトキシシラン4%未満(<4%)、エタノール4%未満(<4%)を含む){コルコート株式会社製:日本国143−0015東京都大田区大森西3−28−6}50mlをエタノール又はメタノール100mlに加えて、前駆体製剤を作製する。
【0049】
前駆体製剤は、シリカ前駆体製剤中に分散された液滴をつくり最終フィルムにおける孔の形成を促進するアルコールを含んでもよい。
【0050】
前駆体製剤は、基板、本例においてはスライドガラスにディップコーティングにより塗布される。
【0051】
当然ながら、スピンコーティングや噴霧方式(spraying)といった他の形成技術がシリカ前駆体の基板への塗布に用いられてもよい。一般的なスピンコーティングのプロファイル(profile)は、図1に示すように、1秒で500rpmになるように上げ、500rpmで1秒維持し、1秒で2500rpmになるように上げ、2500rpmで1秒維持し、5秒で毎秒500rpmずつ落とす。
【0052】
当然ながら、スピン形成の条件は、所望の膜厚及び屈折率に応じて変えてもよい。
【0053】
コーティングされた基板は、シリカフィルムを硬化するための適切なアンモニア雰囲気をつくる硬化剤(28%のアンモニア水溶液20ml及びアルコール20ml)を含むおよそ30lの密閉された容器内に配置される。容器は、フィルムが硬化液に接触しないように配置される。この硬化工程は、フィルムか固まり、機械的に強固になるまで続けられる。
【0054】
水と塩基とをアンモニア水溶液として加えることが便利だが、当然ながら、それぞれ別々に加えることもできる。実際、本発明者らは、塩基と水とを別々に反応チャンバーに導入した方がよりよく形態制御が達成可能であると考えている。
【0055】
硬化チャンバー(curing chamber)1の概略図は、図2に示されている。チャンバー1は、閉鎖系であり、基板3を受けるためのいくつかの台(mount)状のもの2を有している。容器4は、アンモニア、アルコール及び水の混合物で満たされており、それらは蒸発して、適用される温度及び圧力におけるアンモニア、アルコール及び水の分圧により決定される構成を有する雰囲気5をつくる。チャンバーを開けることなしにタンクにおける混合物を調節できるようにポート(port)6が設けられてもよい。
【0056】
少なくとも一部分において、作製されたフィルムの多孔率が硬化前の前駆体製剤におけるアルコールによって決定される。前駆体製剤におけるアルコールは、硬化後のフィルムにおける孔をつくるということが理解されている。少なくとも一部分において、孔の密度が硬化中の前駆体製剤におけるアルコールが存在する量により決定され、孔径は、アルコールの種類により決定される。価数の大きな多価アルコールは、メタノール又はエタノールよりも大きな孔径をつくる。
【0057】
硬化の間、アンモニア雰囲気中の水は、前駆体製剤の加水分解を引き起こす。前駆体製剤からのアルコール分子とアンモニア雰囲気中におけるアルコール分子との置換(exchange)は、アンモニア雰囲気又は硬化雰囲気のアルコールに加水分解反応を促す。これは、フィルムの最終的な多孔率が、アンモニアがチャンバーに導入され架橋反応を触媒する前に、コーティングされた基板をアルコール雰囲気中に配置することにより決定されることを意味する。
【0058】
当然ながら、米国特許第5,698,266号において見られるような従来の技術は、シリカが弱く結合されたナノ粒子のフィルムを作製するが、上述された工程は、途切れずに相互連続したナノ多孔性シリカ構造を作製する。したがって、フィルムはより強化され、フィルムの特性(多孔率及び屈折率)が制御可能となる。
【0059】
この実施例のフィルム及びこの実施例と同様な方法で作製されたフィルムは、共に継続中の出願WO2005/049757に述べられているように物理的に特徴付けられ、その内容は参照することによりここに組み込まれる。
【0060】
実施例2.エチルトリメトキシシラン
単量体のエチルトリメトキシシラン(ethyltrimethoxysilane:ETOS){Sigma−Aldrich社製:CastleHill,NSW Australia}を水と、2部の水に対して1部のETOSのモル比で混合する。ここで、水にはETOSを溶かすためのエタノールが十分に加えられている。この混合物は、反応してケイ酸塩オリゴマーを生成する。
【0061】
前駆体製剤は、ケイ酸塩オリゴマーにエタノール10ml又はメタノール10mlを加えることにより作製される。
【0062】
前駆体溶液は、前駆体溶液を数滴基板上に配置し、それらを重力の下で流し広げることにより基板、本例においてはスライドガラスに塗布される。
【0063】
コーティングされた基板は、シリカフィルムを硬化するための適切なアンモニア雰囲気を つくる硬化剤(28%のアンモニア水溶液20ml及びアルコール20ml)を含むおよそ30lの密閉された容器内に配置される。
【0064】
実施例3.メチルトリメトキシシラン
単量体のメチルトリメトキシシラン(methyltrimethoxysilane:MTOS){Sigma−Aldrich社製:CastleHill,NSW Australia}を水と、3部の水に対して1部のMTOSのモル比で混合する。ここで、水にはMTOSを溶かすためのエタノールが十分に加えられている。この混合物は、反応してケイ酸塩オリゴマーを生成する。他の比率、2部の水に対して1部のMTOS、4部の水に対して1部のMTOSでも適切であるということが認められている。
【0065】
前駆体製剤は、ケイ酸塩オリゴマーにエタノール10ml又はメタノール10mlを加えることにより作製される。加えるエタノールが20ml、40ml、80mlでも適切であると認められている。
【0066】
コーティングされた基板は、シリカフィルムを硬化するための適切なアンモニア雰囲気をつくる硬化剤(28%のアンモニア水溶液20ml及びアルコール20ml)を含むおよそ30lの密閉された容器内に配置される。
【0067】
アンモニア雰囲気又は硬化中に発生する気体(curing vapour)のアルコールが加水分解反応の間に生成される混合されたオリゴマーである前駆体中のアルコールと異なる場合を仮定する。初めに、前駆体製剤及びアンモニア雰囲気のアルコールは共に全体的な加水分解反応の速度とシリカフィルムにおいて形成される孔径とに寄与する反応制御の程度があると考えられる。例えば、前駆体製剤がケイ酸塩メチル及びメタノールを含み、硬化中に発生する気体がエタノールを含む場合、加水分解反応の間メタノールはケイ酸塩メチルから生成される。この反応は可逆反応であり、メタノールは硬化中に発生する気体から生成されてもよく、シリカ上に再生成されてもよい。エタノールも同様の可逆反応においてシリカと反応する。ケイ酸塩メチルの一結合を一度考慮すると、OCH3基はメタノールとして前駆体から外れ、これが加水分解である。この反応は、(加水分解反応で生成される)エタノール又はメタノールのどちらかが硬化中に発生する気体から戻ることができるので可逆反応であり、硬化中に発生する気体からのどちらのアルコールにもあてはまる。ケイ酸塩メチルオリゴマーは混合オリゴマーとなってもよく、加水分解は、最初に前駆体製剤に無いにも関わらず硬化中に発生する気体から生成される抑制剤として機能するアルコールにより逆向きの反応となる。
【0068】
前駆体製剤の溶媒量は、孔の密度に影響を与えるよう程度にフィルム構成に含まれると考えられる。コーティングは、硬化中に発生する気体内でも外でも揮発する。硬化中に発生する気体中のアルコールはフィルムにいくらか組み込まれ、フィルムにおけるアルコール以外のもののいくつかは硬化中に発生する気体に出される。前駆体製剤及び硬化中に発生する気体におけるアルコールの量と種類は、シリカフィルムの孔の密度に影響を与えるように組み合わせられてもよい。
【0069】
形態制御は、図3及び図4の電子顕微鏡画像により例示される。図3に示されるフィルムは、1.21の屈折率を有するように制御されている。図4に示されるフィルムは1.30の屈折率を有する。どちらの画像においても白い線が1μmとして示される。それぞれのフィルムより孔径及び孔の密度が異なることは明らかである。
【0070】
これらの方法により作製されたフィルムは、可視スペクトルにおいて一般的に1.1〜1.45の低い屈折率、高い光透過性、高い光均一性及び厚み均一性、ガラスと同様の機械的なロバスト性(robustness)、ガラスと同様の化学特性及び光化学特性、効果的な曇り防止作用を導く高い多孔率、ガラス、プラスチック、金属、セラミック、半導体などといった従来の基板に対する優れた接着性、及び永続性/長期間安定性を含む多くの長所を有する。
【0071】
本発明のフィルムの多くの特徴は、フィルムの最終的な用途に合わせて調整されてもよく、又は調整可能であってもよい。例えば、屈折率が調整可能―屈折率は必要に応じて構成、特にアルコール及び水の含有量を変えることにより調整可能であってもよく、フィルムの膜厚が調整可能―フィルムの厚さは前駆体製剤における初期のアルコール及び水の含有量、及び形成方法に関連するパラメータ(parameter)、例えば選択されたコーティング技術の標準的な方法を使用して、スピン速度、粘度、ディップコーティング引き上げ速度(dipcoating withdrawal rate)などを変えることにより調整できる。
【0072】
前駆体製剤の粘着性は、適用の範囲における使用を容易にするために変更されてもよい。例えば、基板上に前駆体の薄い被覆を形成するために噴霧された場合、硬化の際に著しく流れないように高粘着性の製剤が形成されてもよい。
【0073】
本発明の方法は、コートティングされる基板材料やその形と共にコーティングの厚さや屈折率を効率的に制御できる丈夫なフィルムを作成するための低コストで簡単な方法を提供する。
【0074】
上記特性により、つや消し層(frosted layers)、低屈折率支持体及び、クラッディング(cladding)及び誘電性バリア層(dielectric barrier layers)のための反射防止コーティング、化学的および機械的バリア(barrier)コーティング、曇り防止コーティング、グレア抑制(anti−glare)コーティング(光拡散効果)、高反射コーティング、高散乱コーティングを含む用途のための安価で強固、効率的な光学コーティングのフィルムの候補となる。
【0075】
本発明のフィルムは、反射抑制コーティング用の低屈折率光学コーティングとして、又は高−低屈折率多層コーティングにおける低屈折率材料及び高屈折率材料として採用されてもよい。低屈折率光学コーティングとして、シリカ薄膜は、メガネ、窓、フロントガラス、装飾などを含む全ての形態のガラス、CRT及びコンピュータのモニタ、テレビなどといった他の表示装置のコーティング、太陽電池のコーティング、レンズ、鏡などといった光学機器のコーティング、電気通信及び高度なフォトニクス(photonics)におけるアクティブ型及びパッシブ型の光導波路(activeand passive opticalwaveguides)、及び光電子装置に適用されてもよい。
【0076】
また、フィルムは、不可視の金属及びプラスチックの保護、不可視の精巧な光学面の保護を含む、物理的及び化学的バリアコーティングに使用されてもよい。
【0077】
さらに、フィルムは、自動車用及び船用ガラス、建築用ガラス、メガネ、あらゆる種類の窓、バスルームの鏡、及びシャワーカーテン(showerscreen)を含む用途のための曇り防止コーティングに使用されてもよい。
【0078】
さらに、フィルムは、フィルムを活性コーティング(active oating)とするために追加の要素を多孔性網状構造に組み込んで作製されてもよい。フィルムのナノ多孔性構造は、フィルムをナノシーブ(nanosieve)として潜在的に有用にする。
【0079】
上記フィルムが、既存の窓や鏡といったガラス表面に形成又は適用されてもよいということは、当業者にとって自明である。アフターマーケット(aftermarket)の適用において、シリカ前駆体製剤は、適用の直前に硬化剤と混合されても、例えば一般のスプレーノズルを通しての適用の間に、あるいは、前駆体が基板に適用された後に混合されてもよい。前駆体は、処理されるべき基板にそれぞれの要素をコーティング、ワイピング(wiping)又は噴射することにより塗布される。硬化剤は、アンモニア、アルカリ金属水酸化物、第4級アルキルアンモニウム水酸化物などを含む強アルカリ性の気体又は液体であってもよい。
【0080】
本明細書を通じて、本発明をいずれか一つの実施形態あるいは特徴の特定の集まりに限定することなしに、本発明の好ましい実施形態で記載することを目的とする。
【0081】
本明細書を通じて、特に他の言及が無い限り、“comprises”、及び“comprise”又は“comprising”などの変形は、あらゆる他の整数又は整数の集合を排除せず、記載された整数又は整数の集合を包含を暗示すると理解される。
【符号の説明】
【0082】
1 チャンバー
2 台状のもの
3 基板
4 容器
5 雰囲気
6 ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式で表わされる加水分解性ケイ酸塩オリゴマーを溶媒に加えることにより前駆体製剤を調整し、
【化1】

(ここで、Xは少なくとも三つのXが加水分解性基でなければならないという条件でそれぞれ独立的に加水分解性基又は非加水分解性基から選択される。)
基板上に前記前駆体製剤のコーティングを形成し、
塩基と水と前記加水分解性ケイ酸塩オリゴマーの加水分解を抑制する抑制剤とが含まれる気体雰囲気において前記コーティングを加水分解及び縮合することにより前記コーティングを硬化すること、
を含むことを特徴とする基板上にコーティングされたシリカ又はシリカ様フィルムの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−39570(P2013−39570A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−223424(P2012−223424)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【分割の表示】特願2008−513867(P2008−513867)の分割
【原出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(511170294)ブリスマット インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】