説明

シリカ・炭素複合多孔質体、及びその製造方法

【課題】微粒子状炭素がシリカ骨格の内部にまで均一に分散した状態にあって優れた電気伝導性を示すシリカ・炭素複合多孔質体と、その製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のシリカ・炭素複合多孔質体は、ケイ酸エステル又はその重合体をシリカ原料として、当該シリカ原料中に微粒子状の炭素を添加、混合して、その混合物中でシリカ原料を加水分解することにより、シリカと炭素の共分散体を作製して、当該共分散体中に含まれるシリカをゲル化させ、共分散体を多孔質化することによって得られる。このシリカ・炭素複合多孔質体は、比表面積が20−1000m2/g、細孔容積が0.3−2.0ml/g、平均細孔径が2−100nmに調製される。このようなシリカ・炭素複合多孔質体は、微粒子状炭素がシリカ骨格の内部にまで均一に分散した状態にあり、優れた電気伝導性を示すものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シリカゲル、メソポーラスシリカ等のシリカ多孔質体は、その高い比表面積から吸着剤、触媒担体等工業的利用の多い材料である。本発明はシリカ多孔質体に電気伝導性を付与してその機能を高め、特に電池材料、触媒担体としての応用優れた材料を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
電池材料として鉛蓄電池やリチウム二次電池では、電極材料を多孔化して比表面積を高くすることで、活物質の有効利用による高容量化やリチウムの電極内拡散を早めて、大電流対応や急速充電に対応できる電極材料の開発が行われている。
【0003】
従来、二次電池の電極などに利用される電気伝導性材料として、シリカと炭素を主成分とする電気伝導性材料は、すでに提案されている。例えば、下記特許文献1には、アセチレンブラックを担持させたシリカ粉末が開示されている(特許文献1:段落[0012]等参照。)。
【0004】
特許文献1に記載の技術では、精製水にアセチレンブラックを加えて懸濁させ、その懸濁液にシリカ粉末を加えて混合し、シリカ粉末の表面にアセチレンブラックを吸着させ、水分を蒸発させることにより、所期のアセチレンブラック担持シリカ粉末を作製する。
【0005】
また、テトラメトキシシランオリゴマー、フェノール樹脂、及び黒鉛粒子などを出発原料として、酸化珪素と電気伝導性物質の複合体を得る方法も検討されている(特許文献2:段落[0049]−[0050]等参照。)。
【0006】
特許文献2に記載の技術では、テトラメトキシシランオリゴマー、フェノール樹脂、及びメタノールを混合し、そこに黒鉛粒子を添加し、メタノールを留去しながら所定温度まで昇温、その後所定温度で所定時間保持して複合前駆体を得る。その後、900℃まで加熱してフェノール樹脂及びシラン化合物をそれぞれ炭化分解し、1300℃で焼成して炭化樹脂による酸化珪素の熱還元を行って所期の複合体を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−251896号公報
【特許文献2】特開2007−220411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アセチレンブラック等を含むカーボンブラック類は、一般に疎水性を示す微粒子であるため、特許文献1に記載の技術のように精製水に懸濁させたとしても、懸濁液中でカーボンブラック類を均一に分散させることは難しい。また、シリカ粉末の表面にアセチレンブラックを吸着させても、アセチレンブラックをシリカ粉末粒子の中心部にまで入り込ませることは難しい。
【0009】
そのため、上記特許文献1に記載の技術では、アセチレンブラックはシリカ粉末粒子の表面付近に偏在する状態になりやすく、シリカ粉末粒子の内部にまでアセチレンブラックを均一に分散させることは困難であった。
【0010】
また、上記特許文献2に記載の技術であれば、電気伝導性物質(炭素)の分散性については、特許文献1に記載の技術よりも改善されるものの、シリカをゲル化させる工程が含まれておらず、かつ高温焼成により材料は表面積の低い多孔度の乏しい材料である。
【0011】
こうした問題に対し、本件発明者らは、疎水性を示す微粒子状炭素をシリカ骨格の内部にまで均一に分散させることにより、高い比表面積、大きい細孔容積、及び高い電気伝導性を発現させることを主たる目標として、それらの目標を達成する技術について鋭意検討した。
【0012】
その結果、従来法とは異なる製法により、多孔質化されたシリカ・炭素複合体が得られることを見いだし、また、そのような製法によって得られたシリカ・炭素複合多孔質体が、優れた電気伝導性を示す材料となることをも見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明は、上記のような知見に基づいて完成されたものであり、その目的は、微粒子状炭素がシリカ骨格の内部にまで均一に分散した状態にあって、高い比表面積、大きい細孔容積、及び高い電気伝導性を示すシリカ・炭素複合多孔質体と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
請求項1に記載のシリカ・炭素複合多孔質体は、ケイ酸エステル又はその重合体をシリカ原料として、当該シリカ原料中に微粒子状の炭素を添加、混合して、その混合物中で前記シリカ原料を加水分解することにより、シリカと炭素の共分散体を作製して、当該共分散体中に含まれるシリカをゲル化させることにより、前記共分散体が多孔質化されてなり、比表面積が20−1000m2/g、細孔容積が0.3−2.0ml/g、平均細孔径が2−100nmに調製されていることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載のシリカ・炭素複合多孔質体は、炭素含有量が1−50%に調製されていることを特徴とする。
請求項3に記載のシリカ・炭素複合多孔質体の製造方法は、ケイ酸エステル又はその重合体をシリカ原料として、当該シリカ原料中に微粒子状の炭素を添加、混合して、その混合物中で前記シリカ原料を加水分解することにより、シリカと炭素の共分散体を作製して、当該共分散体中に含まれるシリカをゲル化させることにより、前記共分散体を多孔質化して、比表面積を20−1000m2/g、細孔容積を0.3−2.0ml/g、平均細孔径を2−100nmに調製することを特徴とする。
【0016】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明においては、ケイ酸エステル又はその重合体をシリカ原料として利用する。このようなシリカ原料の代表的な例としては、エチルシリケート、メチルシリケート、及びその一部加水分解物などを挙げることができる。もちろん、これら以外のケイ酸エステルであってもよい。
【0017】
また、微粒子状の炭素としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等を含むカーボンブラック類、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などの黒鉛類、カーボンファイバー、及びカーボンナノチューブなどを挙げることができる。これらの微粒子状炭素は、疎水性が高く、水には分散しにくいが、ケイ酸エステルのような有機ケイ素化合物に分散させれば、両者が均一に分散された共分散体を得ることができる。
【0018】
炭素含有量は1−50%(望ましくは5−30%)に調製される。この炭素含有量が1%を下回ると十分な電気伝導性を付与することが難しくなる傾向がある。また、炭素含有量が50%を上回るとシリカ骨格に比して炭素の含有量が過剰に多くなるので、多孔質体の機械的強度が低下し、多孔質体が解砕されやすくなる傾向がある。
【0019】
このような共分散体中に、水と少量の酸又はアルカリを触媒として加えれば、ケイ酸エステルが加水分解してコロイド状シリカを形成し、その後ゲル化する。触媒としては、鉱酸を用いると好ましく、鉱酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、及び炭酸などを利用することができる。
【0020】
共分散体を多孔質化する際には、表面積が20−1000m2/g(望ましくは100−700m2/g)、細孔容積が0.3−2.0ml/g(望ましくは0.3−1.2ml/g)、平均細孔径が2−100nm(望ましくは2−30nm)に調製される。このような数値範囲で示される多孔質体よりも多孔質度が低下すると、多孔質体としての効果が小さくなる。また、このような数値範囲で示される多孔質体よりも多孔質度を高めることは、実用上の利点がない。
【0021】
こうして得られる本発明のシリカ・炭素複合多孔質体は、ゲル化したシリカ(シリカゲル)の内部に微粒子状の炭素が均一に分散した状態になっているものとなる。シリカゲルは、SiO2を主成分とする多孔材料であり、その高い表面積、大きな内部空間容量(細孔容積)を有し、吸着剤、触媒、塗料へのつや消し剤、及び樹脂などへのフィラーなど、広範囲な用途に使用されている。ただし、シリカゲルのような無機酸化物は、一般に電気伝導性に乏しい。
【0022】
これに対し、本発明においては、シリカゲルの内部に微粒子状の炭素を均一に分散させることで、電気伝導性を有した多孔材料を実現しているので、ゲル化工程を経ないことで非多孔質となってしまうものに比べ、高い比表面積、及び大きい細孔容積を有し、且つ、高い電気伝導性を発現させることができる。
【0023】
したがって、本発明のシリカ・炭素複合多孔質体のような電気伝導性多孔材料であれば、新しい種々の用途への可能性が大いにある。例えば、二次電池への正極材料や負極材料、あるいは、電気化学反応を利用した触媒反応材料など、様々な新しい用途において、本発明のシリカ・炭素複合多孔質体を利用できるものと期待される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について一例を挙げて説明する。
[実施例1]
メチルシリケート(製品名:メチルシリケート51、多摩化学工業株式会社製)100gにメタノール80gを加え攪拌した。この混合溶液を攪拌しながらカーボンブラック(製品名:カーボンECP600JD、ライオン株式会社製)7.7gを添加し、攪拌を続けた。
【0025】
1mol/Lの塩酸水溶液19.1gを添加し、二相に分離した液体を激しく撹拌し、加水分解反応によりゲル状の固体(ヒドロゲル)を得た。このヒドロゲルを1cm3程度に砕き、イオン交換水1Lを使用したバッチ洗浄を5回行った。
【0026】
洗浄終了後のヒドロゲルをイオン交換水1Lに加え、アンモニア水を使用してpH値を10に調整し、その後加熱して85℃で8時間処理を行った。固液分離後180℃10時間乾燥し、シリカ・炭素複合多孔質体55.7gを得た。
【0027】
その物性値は、窒素吸着測定から比表面積301m2/g、細孔容積:0.81ml/g、平均細孔径12.9nm、炭素含有率11.5%であった(元素分析装置「Vario EL III」〔Elementar社製〕により測定)。
【0028】
[実施例2]
カーボンブラック(製品名:カーボンECP600JD、ライオン株式会社製)の量を5.1gにした以外は、実施例1に同様の工程で、シリカ・炭素複合多孔質体53.3gを得た。
【0029】
その物性値は、窒素吸着測定から比表面積250m2/g、細孔容積:0.68ml/g、平均細孔径10.9nm、炭素含有率8.2%であった(元素分析装置「Vario EL III」〔Elementar社製〕により測定)。
【0030】
[実施例3]
カーボンブラック(製品名:カーボンECP600JD、ライオン株式会社製)の量を2.5gにした以外は実施例1に同様の工程で、シリカ・炭素複合多孔質体50.8gを得た。
【0031】
その物性値は、窒素吸着測定から比表面積209m2/g、細孔容積:0.66ml/g、平均細孔径12.6nm、炭素含有率3.9%であった(元素分析装置「Vario EL III」〔Elementar社製〕により測定)。
【0032】
[比較例1]
メチルシリケート(製品名:メチルシリケート51、多摩化学工業株式会社製)100gにコハク酸(東京化成工業製)1.5gを加えて攪拌、溶解した。これを攪拌しながらカーボンブラック(製品名:VULCAN XC−72、キャボット社製)5.7gを添加し、攪拌を続けた。
【0033】
イオン交換水8.5gを添加し、更に攪拌を続けることで、加水分解反応によりゲル状の固体(ヒドロゲル)を得た。このヒドロゲルを1cm3程度に砕き、イオン交換水1Lを使用したバッチ洗浄を5回行った。洗浄終了後のヒドロゲルを180℃で10時間乾燥し、その後350℃で2時間焼成を行い、56.7gのシリカ・炭素複合体を得た。
【0034】
その物性値は、窒素吸着測定から比表面積106m2/g、細孔容積0.10ml/g、平均細孔径3.6nm、炭素含有率15.9%であった(元素分析装置「Vario EL III」〔Elementar社製〕により測定)。
【0035】
[比較例2]
メチルシリケート(製品名:メチルシリケート51、多摩化学工業株式会社製)100gにコハク酸(東京化成工業製)1.5gを加えて攪拌、溶解した。これを攪拌しながら黒鉛(日本黒鉛工業製)14.3gを添加し、攪拌を続けた。
【0036】
イオン交換水8.5gを添加し、更に攪拌を続けることで、加水分解反応によりゲル状の固体(ヒドロゲル)を得た。このヒドロゲルを1cm3程度に砕き、イオン交換水1Lを使用したバッチ洗浄を5回行った。洗浄終了後のヒドロゲルを180℃で10時間乾燥し、その後350℃で2時間焼成を行い、65.2gの黒鉛とシリカの複合体を得た。
【0037】
その物性値は、窒素吸着測定から比表面積0.4m2/g、平均細孔径1nm以下、細孔容積0.04ml/g、炭素含有率19.6%であった(元素分析装置「Vario EL III」〔Elementar社製〕により測定)。
【0038】
[電気伝導性評価]
実施例1〜3、及び比較例1,2の試料粉末0.9gにバインダーとしてPTFE粉末(3μm品)0.1gを加え、メノウ乳鉢を用いよく混合した。その後、少量のイオン交換水を加え更によく混合した。
【0039】
それを、直径10mmの錠剤成形用ダイスにて1100kg/cm3で圧縮成形し、120℃に設定したホットプレートで十分乾燥し、厚さ1.0mm、直径10.0mmの電気伝導度測定用サンプルを得た。電気伝導度測定は、抵抗率計ロレスタ−GP(三菱化学株式会社製)にて四探針法により電導率(S/cm)を測定した。
【0040】
測定結果を下記表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
上記表1から明らかなように、実施例1〜3のシリカ・炭素複合多孔質体は、高い比表面積、及び大きい細孔容積を有し、且つ、高い電気伝導性を示すことが明らかとなった。一方、比較例1,2の場合、比表面積は106m2/g,0.4m2/gと小さく、また、細孔容積が0.10ml/g,0.04ml/gと小さく、これらの結果から、実施例1〜3に比べ、十分に多孔質化されていないことがわかる。
【0043】
したがって、比較例1,2は、シリカ・炭素の複合体という点では、実施例1〜3と同種の成分で構成されているとは言えるものの、実施例1〜3とは異なり、多孔質体としての特性は備えていないので、そのような特性が要求される用途での利用は困難になるなど、実際の応用展開に制限が加わることとなる。
【0044】
[変形例等]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
【0045】
例えば、上記実施形態では、メチルシリケートの一部加水分解物をシリカ原料として利用したが、一部加水分解物を使用するか否かは任意であり、その加水分解の程度も任意である。また、メチルシリケート以外のケイ酸エステルを利用してもよく、例えば、エチルシリケートを利用してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸エステル又はその重合体をシリカ原料として、当該シリカ原料中に微粒子状の炭素を添加、混合して、その混合物中で前記シリカ原料を加水分解することにより、シリカと炭素の共分散体を作製して、当該共分散体中に含まれるシリカをゲル化させることにより、前記共分散体が多孔質化されてなり、
比表面積が20−1000m2/g、細孔容積が0.3−2.0ml/g、平均細孔径が2−100nmに調製されている
ことを特徴とするシリカ・炭素複合多孔質体。
【請求項2】
炭素含有量が1−50%に調製されている
ことを特徴とする請求項1に記載のシリカ・炭素複合多孔質体。
【請求項3】
ケイ酸エステル又はその重合体をシリカ原料として、当該シリカ原料中に微粒子状の炭素を添加、混合して、その混合物中で前記シリカ原料を加水分解することにより、シリカと炭素の共分散体を作製して、当該共分散体中に含まれるシリカをゲル化させることにより、前記共分散体を多孔質化して、比表面積を20−1000m2/g、細孔容積を0.3−2.0ml/g、平均細孔径を2−100nmに調製する
ことを特徴とするシリカ・炭素複合多孔質体の製造方法。

【公開番号】特開2012−246153(P2012−246153A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117107(P2011−117107)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000237112)富士シリシア化学株式会社 (38)
【Fターム(参考)】