説明

シリカ充填ゴムを製造する方法

【課題】マスターバッチが経済的に製造され、硬化系と効果的に相互作用してシリカをゴムに結合させることができ、そして許容しうる特性を有する加硫物を製造することができる湿式(エマルジョン)シリカマスターバッチの製造方法を提供する。
【解決手段】シリカ充填ゴムを製造する方法は、(a)トリメトキシシランカップリング剤と、水、アルコール、およびシリカとを混合することを含む工程を用いて疎水化シリカを形成するステップであって、トリメトキシシランカップリング剤は、少なくとも70重量%の水を含む水とアルコールとの混合物に溶解されるステップと、(b)ポリマーラテックスを形成するステップと、(c)疎水化シリカをポリマーラテックスと混合するステップと、(d)塩化カルシウムを用いて、ポリマーラテックスと疎水化シリカとの混合物を凝固させることにより、シリカ充填後ゴムを形成するステップからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メトキシシランを製造する方法、そのメトキシシランを用いてシリカを疎水化する方法、シリカ充填ゴムマスターバッチを製造するためにエマルジョン法または湿式法においてその疎水化シリカを用いる方法、およびゴム配合物、特にタイヤの中でシリカマスターバッチを用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤおよび他のゴム製品の製造では、シリカをエラストマまたはゴムと混合して、エラストマの特定の性質を改善することが望ましい。乾式混合法を用いて、シリカをゴムに練込むことは周知であり、その場合、ある材料を、混合工程でシリカの表面に付着させると、ゴムにブレンドすることが可能である。シリカをそのような薬剤でコーティングする場合に、そのシリカは疎水化と呼ばれ、疎水化シリカの製造に用いられるいずれの材料も、疎水化剤である。疎水化剤として、シラン化合物が開発されている。乾式混合法を用いてシリカをゴムに練込む方法は効果的であったが、時間がかかりエネルギー多消費型である。乾式混合法では、ゴム、シリカ、シランおよび配合成分の幾つかを、バンブリ(Bunbury)ゴムミキサに供給すると、シリカがシランと反応して反応混合化合物を形成する。この段階は、10分以上かかる場合があり、混合操作の効率を大きく低下させる。その混合法は、多大な時間および資本が必要であり、操作およびメンテナンスが高価になる。更に、シランから生じたエタノールを、混合ステップまたは下流の加工ステップで除去しなければならない。ゴム混合施設は、化学工場として機能するように設計されておらず、環境規準に適合させるためにアルコールを単離または燃焼させるのに、余分な装置を設置しなければならない。反応混合化合物を、再練り(remill)段階で更に混合し、更なるエタノールを除去する場合があり、そして更なる化合物成分を添加する場合がある。しかしこの工程は、主にシリカの分散を改善して加工素材のムーニー粘度を低下させるために用いられる。再練りされた加工素材を最終混合物中で硬化剤と混和すれば、タイヤトレッド加工素材での使用に適したゴム化合物が製造される。
【0003】
スコーチ時間は、ゴムの加工において非常に重要なパラメータである。スコーチ時間は、完全に配合されたゴムが、早期加硫または架橋を起こさずに熱加工される能力を反映するものである。ゴムは、架橋し始めると、もはや有用な製品に押出および/または成形することができなくなり、このため長いスコーチ時間が望ましい。スコーチ時間の長いゴム化合物は、スコーチ時間の短いゴムよりも高温で加工することができ、そして再加工することができる。スコーチ時間が長い化合物は、タイヤ工場の生産性を大きく改善することができる。
【0004】
Thurn他に発行された特許文献1は、許容しうる物理的性質および許容しうるスコーチ挙動を有する加硫物を製造させる、以下の構造を有するシランを開示している。
【0005】
【化1】

【0006】
この構造において、alkは、炭素が1〜18個の二価炭化水素を表し、nは2〜4の数であり、かつR1はアルコキシ基を表す。幾つかのシラン化合物は、シリカと反応する能力を有する場合があるが、分子の幾つかの部分もゴムと反応してシリカをゴムと結合させない限りは、必ずしも良好なカップリング剤にはなりえない。Thurnの分類のシラン化合物とカップリング剤を区別するものは、Thurn群の化合物が、シリカと反応する能力(トリアルコキシシラン基を介する)およびゴムと反応する能力(Sn基を介する)の両方を有する、ということである。
【0007】
Thurnは、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)−テトラスルフィド(TESPT)が、シリカおよびゴムの乾式ブレンドでのカップリング剤として特に有用であることを見出した。Thurnは、この分類の化合物で製造された加硫物を、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)で製造された加硫物と比較して(特許文献2参照)、両者とも改善された加硫物を提供し、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランから製造された化合物が、非常に少ないスコーチ時間を有することを見出した。これにより、早期加硫するため、下流の操作時に生ゴムを加工することが、不可能でないとしても困難になる。
【0008】
末端メルカプト基を有するシランの、スコーチ時間に対する影響に関するThurnの結論が、PohおよびNgにより検証され、メルカプト基を末端に有するシラン(具体的にはメルカプトプロピルトリメトキシシラン)は、天然ゴム化合物において、末端メルカプト基を含まないシラン、例えばビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)−ジスルフィドよりもスコーチし易い(scorchy)ことが見いだされた(非特許文献1参照)。つまり、末端メルカプト基を含む構造に基づいたカップリング剤は、シリカマスターバッチ中で疎水化剤として用いた場合にスコーチし易くなると予測された。
【0009】
乾式混合法でシリカをゴムに混合する代わりに、高濃度のシリカをゴムに練込んで、シリカ充填ゴムマスターバッチを形成することができ、その後、ゴムと混合して、最終生成物中でシリカを所望の濃度に分散させることができる。シリカ−ゴムマスターバッチは、充填剤とポリマー、そして場合により他の配合成分、例えば加工油および他の不活性材料との配合物である。ポリマーマトリックス、特にエマルジョンのスチレンブタジエンゴム(SBR)において入手できる市販のカーボンブラックマスターバッチが数多く存在する。何年にもわたる多くの努力にもかかわらず、対応する市販のシリカマスターバッチは存在しない。シリカ−ゴムマスターバッチの商業化の成功は、多くの問題に阻まれた。シリカマスターバッチに関する問題の幾つかは、シリカと非極性ポリマー、例えばSBRとが相互作用しないことに関係する。シリカマスターバッチの開発に成功するには、2つの事柄が望まれ、つまり、1)ゴムとより相溶性のあるシリカにするための薬剤による表面の処理、即ちシリカを疎水化する方法、および2)その薬剤は、シリカに付着されるとゴムの硬化系と相互作用し、硬化時にゴムをシリカに結合させなければならない。
【0010】
ゴムは、水中でのエマルジョン法もしくは湿式法、または有機溶媒中の溶液法により製造することができる。ゴムを製造する工程でシリカを添加して、シリカ−ゴムマスターバッチを製造する。シリカマスターバッチを製造する際の一つの問題は、未処理のシリカをSBRのエマルジョン(エマルジョン法または湿式法)または有機溶媒中のSBRの溶液に添加すると、シリカがポリマーに完全に練込まれず、凝固すると微粒子として分離することである。これらの微粒子は、マスターバッチの価値を低下させるだけでなく、微粒子を廃棄またはリサイクルしなければならないという処理上の問題も生じさせる。シリカと非極性ポリマーとの相互作用を改善する努力が数多くなされた結果、シリカマスターバッチを得ることができた。溶液のシリカマスターバッチの場合、Zhangに発行された特許文献3は、有機溶媒中のシリカをメルカプトシランおよびシランカップリング剤、例えば、典型的にはシリカトレッド化合物のために用いられるビス−(トリエトキシシリルプロピル)−ジスルフィド(TESPT)で処理し、その後、処理されたシリカをSBRの有機溶液にブレンドすることを教示している。これは、ポリマーセメントをスチームストリッッピングする際のシリカの損失を減少させる。シリカは、シランと直接反応して疎水化するため、広範囲のシランをこの方法で使用することができる。シランは、加硫の際にシリカをゴムに結合させる反応性部分を有する。
【0011】
湿式シリカマスターバッチ法において、Burkeに発行されるとともに参照により援用される特許文献4〜10は、未乾燥のアルカリシリカ顔料の水性分散体、または未乾燥のアルカリシリカ顔料の水性分散体とカーボンブラックとの混合物を使用して、ゴム100部に対して(phr)充填剤100部未満のレベルで、これらの充填剤の、ゴムマトリックス中への分散体を製造する方法を教示している。ポリマーと充填剤との相互作用を改善する(シリカを疎水化する)ために、Burkeは、シリカをカルボン酸塩、アミン、またはアミンのカルボン酸誘導体で処理した。この疎水化により、シリカの極性表面が非極性になり、疎水化シリカを非極性ポリマーに練込むことができた。Burkeは、疎水化シリカにより、シリカの全てがポリマーに練込まれ、ラテックスおよびシリカの凝固後に漿液(セラム)中に残留するシリカのないマスターバッチを製造することができた。しかしこれらの疎水化剤は、硬化系と効果的に相互作用してシリカをゴムに結合させるわけではなかった。したがって、相対的に低い加硫特性が得られた。
【0012】
Lightseyに発行された特許文献11は、ゴムを製造するための湿式(エマルジョン)法で、シリカをゴムラテックスに練込む方法を開示している。Lightseyは、水性懸濁液中でシリカを有機ケイ素化合物カップリング剤で処理して相溶化されたシリカを形成し、それをゴムラテックスに添加して凝固および乾燥させて、シリカ含浸ゴムマスターバッチとして回収した。Lightseyの場合、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランを酸性水/イソプロパノール溶液に溶解した。その溶液を用いてシリカを疎水化し、その後、それを用いてシリカマスターバッチを製造した。配合データが示されていないが、Thurnの実験に基づくと、Lightseyが用いた疎水化剤は、Thurnによってスコーチし易いと確認されたものと同一であったため、Lightseyの手順を用いて製造したマスターバッチはスコーチし易いと予測される。Lightseyの特許文献11に記載された方法の別の問題は、相当な量のアルコールを用いてシラン化合物を溶解しており、そのためアルコールの回収または廃棄に相当なコストが必要になることである。Lightseyの実施例1において、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン55.1gを、イソプロパノール27g、氷酢酸1.1g、および水27gに溶解したため、溶媒系が50%のアルコールからなり、それを廃棄または回収しなければならなかった。Lightseyの実施例2および4でも、溶媒系は、50%のアルコールからなるものであった。つまりLightseyが発見したシラン化合物は、シリカをゴムに分散させるのに十分に作用したが、多量のアルコールが必要で、リサイクルのためにラテックスセラムからアルコールを除去する場合、または廃水処理に高いコストが必要となる。
【0013】
水に不溶性または水/アルコール混合物に不溶性のシランを用いて、良好なスコーチ安全性を有するシリカ含浸ゴムを製造することができるが、その先行技術の方法は、1種以上の界面活性剤を使用し、このことがその方法を複雑にしている。疎水化工程の際に更なる物質移動ステップが存在し、具体的にはシランの分散液から水を経由してシリカ上へ移動し、それが不均質な疎水を起こす可能性がある。加えて、界面活性剤がシリカ表面と相互作用する場合があり、それが最終的なシリカマスターバッチの特性に有害作用を及ぼす場合がある。そのような方法の例を、Goerl他に発行された特許文献12に見出すことができる。Goerlは、シリカの乾式混合で用いられる一般的なシラン、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)−テトラスルフィドを用いており、Thurnが示したとおり、それは適切なスコーチ安全性を提供する。Goerl法の問題は、煩雑であることと、更なる成分が必要で、それが生成物の全体的性能に悪影響を及ぼす可能性があることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,076,550号明細書
【特許文献2】ベルギー特許第760,099号明細書
【特許文献3】米国特許第7,307,121号明細書
【特許文献4】米国特許第3,686,219号明細書
【特許文献5】米国特許第3,694,398号明細書
【特許文献6】米国特許第3,689,451号明細書
【特許文献7】米国特許第3,689,452号明細書
【特許文献8】米国特許第3,700,690号明細書
【特許文献9】米国特許第3,716,513号明細書
【特許文献10】米国特許第3,840,382号明細書
【特許文献11】米国特許第5,763,388号明細書
【特許文献12】米国特許第6,713,534号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】1998年7月7日発行のPohおよびNg著、「Effect of silan coupling agents on the Mooney scorch time of silica−filled nature rubber compound」, European Rubber Journal、第34巻、第975〜979頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
マスターバッチが経済的に製造され、硬化系と効果的に相互作用してシリカをゴムに結合させることができ、そして許容しうる特性を有する加硫物を製造することができる湿式(エマルジョン)シリカマスターバッチ法が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、一実施形態において、シリカを完全に疎水化し、得られた生成物がゴム化合物に硬化される際に優れたスコーチ安全性を有する、湿式法を用いたシリカマスターバッチの製造方法を提供する。加えて本発明は、そのような方法に適したシランを製造する方法を提供する。本発明の一態様は、シリカを疎水化するための特定のメトキシシランの使用であり、疎水化によりシリカを損失せずに本質的に完全にマスターバッチに練込まれうる疎水化シリカが提供される。本発明によるシランカップリング剤またはそれと水との反応生成物は、水を少なくとも約70%を含むアルコール/水混合物に可溶性である。本発明により製造されるシリカマスターバッチは、ゴム配合において用いることができ、スコーチ問題を有さない。
【0018】
一実施形態において、水中、または水を約70%含む水と有機溶媒との溶液中のシリカスラリーを、メトキシシラン、またはメトキシシランの混合物で処理することにより、疎水化シリカを提供する。凝固の前に、疎水化シリカをラテックス、そして場合により他の配合成分、例えば加工油と配合させる。混合物を従来の凝固剤を用いて凝固させて、クラムゴムを形成するが、塩化カルシウムが、好ましい凝固剤である。クラムを好ましくは脱水して、好ましくは乾燥させて、シリカマスターバッチを形成する。
【0019】
別の実施形態において、得られたシリカマスターバッチを、ゴムの配合で用いられる他の成分と混合して、加硫することにより、ゴム製品、特にタイヤを提供する。シリカマスターバッチ中で用いられるメトキシシラン、またはメトキシシランの混合物は、最終的なゴム製品中で従来の硬化系と共に用いられる際に良好なスコーチ安全性が提供されるように選択される。
【0020】
一実施形態において、本発明は、水溶性または水/アルコール可溶性のシランまたはシラン反応生成物を提供し、水/アルコール混合物は、水を少なくとも70%含み、可溶性シランまたはシラン反応生成物は、シリカを疎水化することができ、スコーチ安全性を提供することができる。以下の式1:
[(CHO)Si−(Alk)−(Ar)[B] 式1
(式中、
Bは、−SCN、R−C(=O)S(q=1の場合)またはS(q=2の場合)であり、
Alkは、直鎖または分枝鎖二価炭化水素基であり、
Rは、炭素を1〜18個含むアルキル基であり、
mは、0または1であり、pは、0または1であり、m+p=1、q=1または2であり、
Arは、炭素原子を6〜12個有するアリーレン基であり、かつ
Xは、2〜8の数である)で示された構造を有するメトキシ置換されたシランは、シリカマスターバッチのための湿式法においてシリカの疎水化に成功し、そして優れたスコーチ安全性を提供することが見いだされており、ここで、シランまたはそれと水との反応生成物は、水を少なくとも70%含むアルコール/水混合物に実質的に可溶性である。
【0021】
一実施形態において、これらのメトキシシランカップリング剤を、加硫時にゴムと反応性のないメトキシシランと混合し、混合されたシランカップリング剤を用いて、シリカを疎水化する。ゴムと相互作用しえない他のメトキシシランは、シリカの効果的な疎水化を補助する。混合物中で用いられるこれらの任意のトリメトキシシランは、(CH3O)Si−アルキル(式中、アルキルは、炭素を1〜6個含む直鎖または分枝鎖炭化水素基である)で表される。トリメトキシシランカップリング剤と任意のトリメトキシシランとのブレンドを用いることにより、マスターバッチの特性、例えばスコーチおよびムーニー粘度を制御することが可能となる。
【0022】
別の態様において、本発明は、トリメトキシシランカップリング剤を製造する方法を提供し、それは、メタノールを反応器に添加するステップと、Si(Hal)−Alk−HalまたはSi(OCH3)−Alk−Hal(式中、Halは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、Alkは、炭素原子を1〜4個有する二価アルキル基である)をその反応器に添加するステップと、硫黄および式MeSH(式中、Meは、アンモニウム、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属の均等物、および亜鉛からなる群から選択される金属である)で示される水硫化物をその反応器に添加するステップと、反応器内の水分量が低いことを確認するステップと、構造(CH3O)−Si−Alk−S−Alk−Si(OCH3)(式中、xは、2〜8の数である)を有するトリメトキシシランカップリング剤を形成するステップと、を含み、ここでトリメトキシシランカップリング剤は、水を少なくとも約70重量%含む水とアルコールとの溶液に可溶性である。メタノールは、好ましくは米国連邦等級(U.S. Federal Grade)AAの規準に適合する。メタノールの水分量は、好ましくは約0.05%(約500ppm)未満であり、より好ましくは約0.025%(約250ppm)未満であり、最も好ましくは約0.01%(約100ppm)未満である。MeSHは、好ましくは水1%以下まで乾燥させている。
【0023】
本発明の他の実施形態および利益は、当業者が以下の本発明の具体的な実施形態の詳細な説明を検討すれば明白となろう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、一実施形態において、シリカを疎水化するのに有用なメトキシシランを製造する方法を提供し、別の実施形態において、シリカ充填ゴムマスターバッチを製造するエマルジョン法または湿式法において疎水化シリカを用いる方法を提供し、別の実施形態において、シリカマスターバッチを用いてゴム製品を製造する方法、詳細にはタイヤを製造する方法を提供する。以下の開示は、第一に、シラン化合物を考慮しており、特に、最終的にゴム製品を有利に製造しうるような方法でシリカを疎水化するのに用いうるシラン化合物の製造方法を考慮している。シリカを製造する方法、およびシリカを疎水化する方法が開示される。ゴムを製造し、シリカをゴムに練込んでシリカ充填ゴムマスターバッチを製造する方法が開示され、また、シリカ充填ゴムマスターバッチを用いてゴム製品を製造する方法が開示される。
【0025】
シラン化合物
本発明に有用なシラン化合物の例としては、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリメトキシシラン(モーメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ(Momentive Performance Materials)(米国 06897 コネチカット州、ウィルトン、ダンブリー ロード 187)から市販される対応するトリエトキシシランから製造可能);ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−ジスルフィド(TMSPD)(Agostini他に発行され、参考として援用されている米国特許第5,440,064号に概説された手順を用いて製造可能);およびビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−テトラスルフィド(TMSPT)(Pletka他に発行され、参考として援用されている米国特許第4,072,701号に概説された手順を用いて製造可能)が挙げられる。本発明の好ましいシラン化合物としては、非限定的に、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−ジスルフィド(TMSPD)およびビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−テトラスルフィド(TMSPT)が挙げられる。本発明のこれらのシラン化合物の重要な特徴の一つは、それらが、またはそれらと水との反応生成物が、少なくとも約70重量%、好ましくは少なくとも約80重量%、より好ましくは少なくとも約90重量%、そして最も好ましくは少なくとも約95重量%の水を含むアルコール/水混合物に実質的に可溶性であるということである。本発明者らは、シラン化合物がわずか約70重量%の水およびわずか約30重量%のアルコール中で不溶性である場合、そのシラン化合物はシリカを効果的に疎水化しないことを見出した。シリカが効果的に疎水化されなければ、シリカがシリカ充填ゴムマスターバッチに完全に練込まれず、その結果、不適当かつ規準に適合しないマスターバッチ組成物、プロセス中でのシリカの損失(原材料のコストを増加させる)、およびプロセス中に失われた廃シリカの廃棄に関連する更なるコストをもたらす。
【0026】
Agostiniの‘064号特許は、実験室で非常に効果的であるTMSPDを製造する方法を教示しているが、それは商業的に実行可能でない。その方法では、化学量論量の二酸化マグネシウムが製造され、それを産業廃棄物として廃棄しなければならない。つまり経済的見地と環境的見地の両方から、その方法は工業的に用いるべきではない。同じく‘064号特許は、TMSPDに限定しており、TMSPTを使用することはできない。Pletkaの‘701号特許は、理論上はいずれの材料を製造するのにも用いることができる。
【0027】
原則として、TMSPDを製造するためには、3種のアプローチがある。Pletkaの‘701号特許で用いられるアプローチでは、平均硫黄鎖長が2のTMSPDを製造するような手法で、クロロシランを硫黄および水硫化物と反応させる。第2のアプローチでは、任意の標準法を用いて、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランからジスルフィドを製造する。ジスルフィドを製造する標準法のリストは、Comprehensive Organic Synthesis、第7巻、B. TrostおよびI. Fleming編、1991、p757ff内のS. Uemuraによる論文に見出すことができる。その方法は、酸素分子での酸化、様々な過酸化物での酸化、ハロゲンでの酸化、およびスルホキシド、例えばジメチルスルホキシドとの反応を含む。しかし、これらの方法の全てが、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを用いることができるわけではなく、当業者が適切な方法を選択しなければならない。水はTMSPDを加水分解し、そして続いて縮合を起こすため、合成においていかなる水も避けるよう注意を払わなければならない。同じく、微量でも加水分解が存在する場合には、塩基性条件が縮合速度を大きく上昇させるため、塩基性条件を避けなければならない。最後に、TMSPDを製造する第3の方法は、他のシリルエーテル、例えばTESPDを適切なエステル交換触媒でエステル交換することによる。
【0028】
シリカマスターバッチ中で使用されるシリカを疎水化するのに十分な純度を有し、商業的要件を満たすシランを、先行技術のこれらの発明者は見出さなかった。Pletkaは、米国特許第4,072,701号において、この発明で有用な式Z−Alk−Sx−Alk−Z(式中、Zは、(とりわけ)−Si(Rであってもよく、ここでRは、炭素原子が1〜8個のアルコキシである)で示される硫黄含有有機ケイ素化合物を製造することができることを教示している。この分類の化合物は、式Y−Alk−Hal(式中、Yは、Si(Hal)であってもよく、Halは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素である)で示される化合物を、好ましくは少なくとも1種の有機溶媒の存在下で、少なくとも1種のROH(式中、Rは、(とりわけ)炭素原子が1〜8個のアルキルである)で示される化合物、および式MeSH(式中、Meは、アンモニウム、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属の均等物である)で示される水硫化物、および硫黄と反応させることにより製造される。Pletkaは、「空気および/または水(水分)を除去して副生成物の形成を抑制しながらその反応を実行することが有利である」(第2欄第27行)と述べているが、本発明者らは、Pletkaの方法により製造された硫黄含有有機ケイ素化合物が、一貫して許容しうる生成物を製造しないことを発見した。Pletkaの手順による問題の一部は、原材料中に水が存在することであろう。典型的には、アルコール溶媒は、空気中で取り扱われると水分を吸収し、より厳密には、水和水を30%含みうる水硫化ナトリウムの自然な状態である。Pletkaは、試薬の事前処理について述べていない。
【0029】
本発明は、一実施形態において、シラン化合物、例えばビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−ジスルフィドおよびビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−テトラスルフィドを製造するためのPletkaの‘701号特許で教示された方法への改善を提供する。Pletkaの方法では、3−クロロプロピルトリクロロシランをわずかに過剰のアルコールと反応させて、3−クロロプロピルトリアルコキシシランおよび塩化水素を形成する。得られたトリアルコキシシランをアルコール溶媒中で金属水硫化物および硫黄で処理して、ビス−(3−トリアルコキシシリルプロピル)ポリスルフィドおよび金属塩化物塩を提供する。あるいは3−クロロプロピルトリアルコキシシランから出発し、それをアルコール中で金属水硫化物および硫黄と反応させて、ビス−(3−トリアルコキシシリルプロピル)ポリスルフィドを提供する。生成物を塩から分離するが、それは乾式混合シリカ化合物用のカップリング剤としての使用に適していると予測される。シリカマスターバッチのためのシランを製造するこの手順に関する問題は、反応に使用されたアルコール中の非常に少量の水分、または水硫化ナトリウム中に取り込まれた水分が、生成物の単離前に十分な縮合をもたらすことにより、生成物がシリカマスターバッチの製造に使用できなくなることである。本発明者らは、Pletkaの‘701号特許に述べられたもの以外の更なる予防措置を行わずにPletka手順を用いてTMSPDを製造することにより、得られたTMSPDシランを用いてシリカマスターバッチを製造することができないことを見いだした。これらのテストの結果を、以下の比較例に示す。
【0030】
この反応を更に研究して、反応を高速液体クロマトグラフィーを用いてモニタリングした。製造業者から受け取った試薬を用いてTMSPDに関するPletka手順の再現を試みたところ、TMSPDが合成において製造されるが、反応が進行するにつれ分解することが示された。以下の原材料の水分量は、カール・フィッシャー法(Karl−Fisher method)を用いて測定された:3−[(トリメトキシシリル)プロピル]クロリドは0.001%(10ppm)未満の水を含むことが判明した;硫黄は約1重量%の水を含んでいた;無水メタノールは0.001%(10ppm)未満の水を含んでいたが、水硫化ナトリウムは約32重量%の水を含んでいた。原材料中のこのような水の量のために、トリメトキシシラン出発原料を用いるPletkaの手順が、原材料から水分のほとんどを除去するステップを行わずに、高純度のメトキシシランの製造に使用可能であるというのは疑わしい。本発明者らは、Pletkaの手順を改良して、溶媒および他の原材料中の水のレベルを縮合がほとんど生じないように低く保つか、または連鎖停止剤(chain−stopping agent)を用いた場合、残留水が反応した後の縮合が制限され、シリカマスターバッチを首尾よく製造することのできるシラン化合物を製造可能であることを発見した。試薬の乾燥を保つことにより、水との反応と、それに続く縮合が防止される。したがって、反応器内および反応時に溶媒が乾燥していること、および反応前に金属水硫化物が乾燥していることを確実にする方法が効果的である。水が存在する場合、連鎖停止剤が所望のメトキシシランから得られる中間体の二官能性ヒドロキシシランと反応して、水を約70%含む水性溶媒系にもはや溶解できなくなり、シリカマスターバッチに適したシランをもはや製造できなくなる段階に至る前に縮合を停止させる。
【0031】
この反応の試薬を乾燥させるための許容しうる方法は多数存在し、その幾つかは、D. PerrinおよびW. ArmaregoによるPurification of Laboratory Chemicals 第3版に列挙されている。例えばメタノールは、分留により水分レベル0.01%(100ppm)まで乾燥および精製することができる。更なる水分低減が望まれる場合、メタノールを4オングストロームの分子ふるい床に通すことができる。硫黄を不活性大気中で100°を超えるまで加熱して、材料を乾燥させることができる。水硫化ナトリウムは、湿潤材料に乾燥不活性ガスの流れを通し、水分量増加が回避されるように乾燥生成物を注意深く貯蔵することにより、乾燥させることができる。3−メルカプトプロピルトリメトキシシランは、典型的には乾燥しており(水が0.01%(100ppm)未満)、通常は入手した状態で使用することができる。
【0032】
つまり本発明は、1)金属水硫化物MeSHをある程度、好ましくは約1%水分量まで乾燥させること、および2)トリアルコキシシラン出発原料を添加する前、または添加した時に、反応混合物を:
SiX(4−n)
(式中、Xは反応性基、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素またはCH−Oであり、Rはアルキルまたはアリールであり、かつ、nは1〜4の整数である)からなる構成の化学物質で処理すること、を含むPletkaの手順の改良を更に提供する。この材料を、出発原料のトリアルコキシシランを添加する前に反応混合物に添加すると、出発原料の添加前に反応混合物中の水のレベルが十分に低くなり、得られた硫化シランを用いてシリカマスターバッチの製造を成功させることができる。あるいはSiX(4−n)が一官能性、つまりn=1に限定される場合、この薬剤を、メトキシシランカップリング剤の製造の際に、他の反応物と共に添加してもよい。この場合、残留水は、SiX(4−n)と、または(より強い傾向としては)反応器内の水分と所望のメトキシシランとの反応により生成されたヒドロキシシランと反応しうる。これは、いずれのカップリング製品であっても、その分子量をかなり制限することになり、得られた生成物の、70/30の水/アルコールへの溶解度を、連鎖停止剤を有さない反応生成物を超えるように改善する。得られたメトキシシランが、水を約70重量%含む水/アルコール混合物に可溶性であれば、その反応は、湿式シリカマスターバッチ法で使用するためのシリカの疎水化に使用されるシランの製造に成功する。
【0033】
SiX(4−n)の例としては、非限定的に、クロロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン、クロロトリプロピルシラン、ブロモトリメチルシラン、ブロモトリエチルシラン、ブロモトリプロピルシラン、フルオロトリメチルシラン、メトキシトリメチルシラン、メトキシトリエチルシラン、メトキシトリプロピルシラン、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン、テトラクロロシラン、ブロモトリメチルシラン、ジブロモジメチルシラン、トリブロモメチルシラン、テトラブロモシラン、メトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、トリメトキシメチルシランおよびテトラメトキシシランが挙げられる。そのような化合物の混合物も、使用することができる。この改良法は、出発原料がY−Alk−Hal(式中、Yは、Si−(OCH3)である)であるシランの製造に用いることができる。望ましくない水分による所望のシランの縮合がほとんどまたは全く生じないようにするために十分に乾燥した反応条件および試薬を使用するか、あるいは生じる縮合の量を制限するために、縮合の程度を制限する一官能性のSiX(4−n)を選択することにより、得られるシランが70重量%の水を含む水/アルコール混合物に可溶性となるようにしなければならない。しかし本発明者らは、完全に乾燥した反応物では所望の硫化シランが製造されないことを見出しており、シラン化合物の製造には微量の水が必要であるらしいことを見出した。
【0034】
本発明者らは、米国特許第5,763,388号でLightseyが好んだシラン、例えば、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−ジスルフィド(TESPD)を‘388号特許に概説された手順を用いて使用すると、水への低い溶解度のために、シリカマスターバッチに適した疎水化シリカが製造されないことを発見した。以下の比較例2および表4を参照されたい。Lightseyは、広範囲のシランをクレームに記載しているが、一般にはシランは、水を約70重量%含む水/アルコール混合物への溶解度が乏しいと予測される。そのLightseyの明細書では、「天然および合成ポリマーへの相溶化を提供するカップリング剤の代表は、トリアルキルシラン、ジアルキルシラン、トリアルキルアルコキシシラン、トリアルキルハロシラン、ジアルキルアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、ジアルキルアルコキシハロシラン、トリアルキルシラノール、アルキルトリアルコキシシラン、アルキルジアルコキシシラン、アルキルジアルコキシハロシラン、およびモノアルキルシランからなる群のものであり、ここで、アルキル基は、C1〜C18の直鎖状、環状、もしくは分枝状炭化水素、またはそれらの混合であり、幾つかの特定の実施形態では、アルキル基1または2個が、フェニルもしくはベンジル基で置換されていてもよく、またはアルキル基1〜2個が、フェニル、ベンジル、もしくはアルコキシ置換されたアルキル基で置換されていてもよい」(第6欄第8〜22行)と述べられている。しかし、その化学文献は、これらのシランの全てが水溶性であるとは予測されないことを明確に教示している。例えば、Edwin Plueddemannによる「Silan Coupling Agents」の第51頁には、「RSi(OH)(シランの加水分解生成物)の水への溶解度を限定するのは、炭素6個の脂肪族基または炭素7個の芳香族基である。他の親水性有機官能基は、予測されるとおり水溶性を上昇させる」と述べられている。
【0035】
アルコキシシランを水に溶解する方法は、複雑である。現象の理論的説明に束縛されるのを望むものではないが、メトキシシランは、出発原料よりも水溶性がかなり高い対応するヒドロキシシランに加水分解される可能性が高い。ヒドロキシシランは、単独で縮合して、シリカの疎水化に効果的ではない長鎖化合物を形成することが公知である。つまり水性の工程を用いてシリカマスターバッチを製造するためには、シランまたはそれと水との反応生成物は、疎水化工程の際、および縮合工程の前に、水、または水を約70%含む水/アルコール混合物に可溶性でなければならない。
【0036】
本発明は、早期縮合生成物と反応することにより、または米国特許第4,072,701号においてPletkaにより用いられた反応物の添加前に溶媒およびその反応物を確実に乾燥させることにより、縮合の程度を抑制する化合物の添加に基づいた、シリカマスターバッチに適したこれらのシランの製造方法を提供する。Pletkaにより用いられた低級アルコール溶媒は、反応に用いられる前に水を容易に吸着することができ、そして金属水硫化物は、通常の状態で35%もの多量の水分を含む場合があるため、その水分は、得られたアルコキシシラン生成物の縮合を引き起こし、シリカを疎水化する能力に悪影響を及ぼす場合がある。事実、反応前に低級アルコール溶媒を湿空気中で取り扱うだけで、結果として得られるシランを、縮合反応によりシリカマスターバッチに適さないものにするのに十分な水が吸収される場合がある。トリクロロシランは水と反応すると予測されるため、このことはPletkaの実施例全てで用いられたトリクロロシラン出発原料ではそれほど問題ではないが、Pletkaもクレームに記載していながら彼の実施例では用いられなかったトリメトキシシラン出発原料を用いた場合には、大きな問題になる。クロロシラン出発原料は、原材料中に存在する水と反応して、反応系を乾燥させる。Pletkaは、出発原料としてトリアルコキシシランをクレームに記載しているが、彼は出発原料としてトリアルコキシシランを使用した実施例を示していない。トリメトキシシラン出発原料中に水が存在すれば、Pletkaは、加水分解および縮合を経験したであろう。トリエトキシシラン出発原料中に水が存在すれば、エトキシシランはメトキシシランよりもかなり緩やかに加水分解されるため、Pletkaが反応を実施して縮合の前に生成物を単離することができたかもしれない。本発明は、メトキシシランを必要とするため、相対的に乾燥した原材料が用いられない限り、記載されたPletkaの手順には価値がない。
【0037】
本発明は、一部分において、シリカをゴムに乾式混合するためにゴム業界で典型的に用いられている従来のエトキシシランが、コストのかかる更なる成分を用いない湿式マスターバッチ法におけるシリカの疎水化には効果的に用いることができない、という驚くべき発見に基づいている。例えば、メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)の水溶性をメルカプトプロピルトリエトキシシラン(MPTES)と比較すると、メトキシシランは可溶性であるが、エトキシシランは不溶性であることが示された(以下の表4参照)。本発明のメトキシシランは、シリカを効果的に疎水化すること、および良好なスコーチ安全性を有するマスターバッチを提供すること、の両方に有効である。それらは、疎水化に必要な水溶性およびスコーチ安全性の利点を提供するように選択される。
【0038】
本発明のメトキシシランは、混合工程で毒性のあるメタノールを放出するため、典型的にはゴム業界でシリカを乾式混合するのに用いられていないことに留意しなければならない。事実、ゴム業界に適したメトキシシランを商業的に見出すことは困難であり、その理由はおそらく、毒性のあるメタノール蒸気をバンブリ混合(Banbury mixing)の間に放出するために需要が少ないからである。対応するエトキシシランは、混合工程の副生成物が無害なエタノールであるため、乾式混合に用いられている。本明細書で想定されるシリカマスターバッチ法の疎水化ステップでは、シラン水溶液をシリカで処理する際に、メタノールが放出される。このため、それを蒸留により単離するか、または従来の排水処理法を用いて処理することができる。製造されたシリカマスターバッチをこれらのシランと混合する際には、メタノールを放出してはならない。
【0039】
本発明のシランの別の重要な特徴は、それらが優れたスコーチ安全性を提供することである。ゴム化合物のスコーチ防止の詳細は、James MarkおよびErman Burakの「Science and Technology of Rubber」第3版、第7章により完全に議論されている。しかしこの参考文献の引用文には、本発明の重要性が示されている。「スコーチ制御の重要性は、強調しすぎることはない」(p340)。
【0040】
本発明で用いられるシランと、先行技術の手順で製造されたシリカマスターバッチとのスコーチ挙動の差を、以下の表1および2に示す。表1および2では、Lightseyに発行された米国特許第5,763,388号に開示されたメルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)を用いたシリカマスターバッチ(SMB)を製造し、本発明のシリカマスターバッチを比較している。そのデータから、Lightsey手順を用いて製造されたマスターバッチが、本発明により製造されたマスターバッチよりもスコーチし易いことが示された(135Cでムーニー粘度を5ポイント上昇させるのに、44.5分に対して20.2分)。タイヤ工場では、この追加のスコーチ時間によって、スコーチ時間が長いゴムは高温で加工することができるという重要な利益が提供され、このため生産性が改善される。押出しから生じたスクラップを再生材料に戻すことができ、リサイクル材料中に硬化塊が形成せず、このため工場で製造されるスクラップゴムの量が削減される。スクラップゴムは、ゴム化合物での連続加熱歴から生じたもので、再加工により多数の加工を施されている。スコーチ時間が短縮すると、ゴムのバッチ全体がタイヤトレッド押出物中の硬化塊に費やされる前に、加工素材に加えられる作業量が少なくなる。
【0041】
シリカを製造し、そのシリカを疎水化する方法
本発明のシリカは、発熱性シリカ系顔料および沈殿シリカ系顔料を含むことができるが、沈殿シリカが好ましい。本発明で好ましく用いられるシリカ系顔料は、沈殿シリカ、例えばケイ酸ナトリウムなどの可溶性シリカの酸性化により得られるものである。そのようなシリカは、例えば窒素ガスにより測定して、約40〜約600m/gの範囲内、好ましくは約50〜約300m/gの範囲内のBET表面積を有することにより特徴づけることができる。表面積を測定するBET法は、the Journal of the American Chemical Society、第60巻、第304頁(1930年)に記載されている。CTABにより特徴づけられる表面積も重要であり、それは、化合物中のポリマーが有する表面積をより正確に反映するものである。そのようなシリカは、このテストを用いると、約40〜約600m/gの範囲内、好ましくは約50〜約300m/gの範囲内の表面積を有する可能性がある。CTABテストは、ASTM D6845−02(2008年)に記載されている。様々な市販のシリカを、本発明の実践に用いることができる。シリカの例としては、PPGインダストリーズ(PPG Industries)(一箇所は米国 15272 ペンシルバニア州ピッツバーグ)のHi−Sil 190および233;ロディア(Rhodia)(フランス国、92931 クールブヴォア、エスプラナード・シャルル・ド・ゴール110、クール・デファンス・ツール A−37階)のZ1165MPおよびZ165GR;ならびにエボニク−デグサ(Evonik−Degussa)(米国 07054−0677 ニュージャージー州、パーシッパニー、インターペース・パークウェイ 379)のウルトラシル7000(Ultrasil 7000)が挙げられる。
【0042】
沈殿シリカは、化学反応器内でケイ酸ナトリウムを酸、例えば硫酸で処理することにより製造される。得られた粗シリカをろ過して洗浄し、硫酸ナトリウム副生成物を除去して、湿式シリカケーキを形成する。従来は、湿式シリカケーキを噴霧乾燥機および粉砕乾燥機で乾燥させた後、包装して乾燥粒子物としての用途で輸送していた。湿式ケーキを製造した後のシリカの加工は、従来の乾燥シリカ製品を製造する際の重大なコスト要因である。本発明の一態様は、湿式シリカケーキを直接使用して、シリカの乾燥および包装にかかる支出を削減することである。このシリカは、乾燥および圧縮の前に単離することができ、ゴムへの分散がより容易であるという利点を有する。
【0043】
湿式シリカケーキをゴム製造工程に加える前に疎水化するために、シリカを水性アルコール溶液に溶解されたシランカップリング剤で処理する。その工程の第1のステップでは、メトキシシランカップリング剤を、触媒量の酢酸を含むほぼ等量のアルコールに溶解する。第2に、水を15〜60分間かけて溶液に緩やかに添加して、最終的なアルコール/水比が約30%以下になるようにすれば、アルコールのリサイクルまたは廃棄の必要性が最小限に抑えられる。好ましくは水添加の終了時に、アルコール含量を溶媒系の10%未満にし、より好ましくはアルコールを溶媒系の5%未満にする。添加の際に、混合物が懸濁してくる場合があるが、これは加水分解が進めば透明になる。水の添加が完了した後、溶液を約30分間撹拌して、確実に加水分解を完了させる。加水分解ステップで製造されるトリメトキシシランカップリング剤の量は、疎水化されるシリカの量に適合するように計算される。カップリング剤の量は、通常、用いられるシリカの重量%で示され、それぞれのシランおよびシリカの表面積に依存するが、好ましくはシリカに対してシラン化合物を約2重量%〜約10重量%、より好ましくは約4重量%〜約8重量%とする。疎水化されるシリカは、スラリー形態で適切な粘度を有するため、容易に撹拌することができる。好ましくは、シリカ濃度は1%〜25%、より好ましくは4%〜15%、最も好ましくは6%〜10%である。シリカスラリーと加水分解されたカップリング剤の溶液とを一緒に混合して、約30分間撹拌する。その後、混合物のpHを水酸化ナトリウムで約7.5に調整する。混合物を約71℃(約160°F)で約3時間加熱して、スラリー形態の疎水化シリカを提供する。シリカは、典型的にはゴム工場で疎水化される。ゴム工場では、シリカを疎水化した後、タンクに供給し、分散させるためにゴムラテックス溶液に混合して、凝固の際にゴムに練込む。
【0044】
本発明において、湿式シリカケーキは、シリカマスターバッチを製造するのに好ましいが、湿式シリカケーキは水を約80%含むため、材料の運搬については一般に経済的ではない。つまり理想的には、マスターバッチを製造するポリマー工場現場で、もしくはその付近において、湿式シリカケーキをシリカマスターバッチに用いるべきである。湿式シリカケーキの輸送コストを克服することができれば、シリカの乾式混合の代わりにゴム化合物中でシリカマスターバッチを用いることには重大な経済的利点がある。乾式混合法で用いられるシリカのコストが甚大なのは、シリカ工場内でシリカを乾燥させるためである。シリカマスターバッチを製造する方法では、湿式シリカケーキを乾燥させず、代わりにマスターバッチを乾燥させる時にシリカおよびクラムゴムの両方を乾燥させる。つまりシリカの製造現場とシリカマスターバッチの製造現場を近隣に設置することが、経済的に有利となる。本発明では、湿式シリカケーキを更に加工することなくゴムラテックスに直接添加し、それをポリマーと共に乾燥させるため、湿式シリカケーキから水を除去するのに必要な、シリカ乾燥設備のための資本の支出、乾燥設備に関連するメンテナンスの支出、およびエネルギーコストが削減される。シリカ工場を、好ましくはゴム工場に、またはゴム工場の付近に設置して、湿式シリカケーキをシリカ工場からゴム工場へ輸送するコストを最小限に抑える。湿式シリカケーキは、トラック、鉄道および/またはパイプラインによりシリカ工場からゴム工場へ移動させることができる。
【0045】
本発明は、ゴム工場の下流に更なる価値を提供して、ゴムのユーザに作業コストを削減させることができる。ゴム工場からゴムを得て、シリカをそのゴム製品に練込む顧客は、乾燥シリカをゴムに混合していたが、それはエネルギー消費、混合設備にかかる資本、および混合設備のメンテナンスの点で非常に高コストである。製造業者は、ゴムの最大の消費者の一つである。タイヤ製造業者は、従来、インターメッシュミキサ(Intermesh mixer)および/またはバンブリミキサを用いて乾燥シリカとゴムを混合して反応混合物を製造し、それをゴムミキサで再練りしていたが、その全てが非常に高コストで、操作に時間がかかる。マスターバッチ中のシリカは、シラン化合物を含む乾燥シリカよりもゴムに容易に混合および分散させることができるため、製造者およびシリカ充填ゴム製品の他のメーカは、本発明によるシリカ充填ゴムマスターバッチを用いることで操作コストが大きく節約されることを理解するであろう。加えて、タイヤ製造業者およびシリカ充填ゴム製品の他のメーカは、本発明のシリカマスターバッチを使用することにより、乾燥−混合法で必要となるシラン化合物から得られるアルコールを回収および廃棄する必要がなくなる。
【0046】
シリカ充填ゴムマスターバッチを製造する方法
次に、湿式またはエマルジョン法でシリカをラテックス形態のポリマーに練込む方法を開示した本発明の実施態様を考慮されたい。Lopez−Serrano Ramos他に発行された米国特許第6,646,028号には、ゴムを製造してカーボンブラックを練込み、カーボンブラックマスターバッチを製造する方法が記載されており、それは参考として援用されている。ゴムを製造する方法では、様々なモノマーを用いることができる。本発明の一実施形態において、湿式またはエマルジョン法で、スチレンおよびブタジエンモノマーを水中で一緒に混合し、改質剤、乳化剤および活性化剤をはじめとする添加剤を溶液に添加して、供給流れを形成する。供給流れを熱交換器へ供給して、供給流れから熱を除去する。開始剤を添加して、開始剤を含む供給流れを撹拌された一連の撹拌反応器へ流す。材料が反応器を通ると重合が起こり、スチレンおよびブタジエンモノマー単位が溶液中で利用可能である限り継続する。所望の重合鎖長で重合を停止させるために、重合停止剤(short−stopping agent)、例えばヒドロキノンを添加する。反応器の生成物流れをブローダウンタンクに供給し、蒸気を添加してスチレンおよびブタジエンモノマーを揮散させる。フラッシュタンク及び揮散カラムを用いて、残留するモノマーを更に除去して、揮散された水性ラテックス流れを形成し、それをラテックス貯蔵タンクに流し込むことができる。
【0047】
シリカおよびラテックスは、バッチ法または連続法のいずれかにより共に運ぶことができる。連続法では、ラテックスおよび疎水化シリカの蒸気を、パイプ内で一緒にブレンドし、最終的な凝固ゴム中で所望のシリカ/ゴム比が得られるような手法で、シリカスラリーおよびラテックスの流速を制御する。従来の静的ミキサをパイプ内で用いて、混合を実現することができる。パイプが空になり凝固容器に移動する時間までに、疎水化シリカおよびラテックスは完全に混合される。バッチ法では、公知のゴム含有物であるラテックスの測定量を撹拌容器に投入し、シリカスラリーをその容器に供給して、シリカがラテックスに適切に分散されるまで混合する。いずれかの方法で、ゴム/シリカ比を0.3/1.0よりも大きくし、好ましくは10/1〜1/1とし、より好ましくは4.0/1.0〜1.25/1.0とする。凝固剤を添加してラテックスを凝固させ、水性セラム中にゴムクラムを形成する。典型的にはセラム中の凝固補助剤の濃度を、約0.02%(約200パートパーミリオン(ppm))よりも低くする。典型的な凝固剤としては、製造されるゴムに応じて、硫酸、塩酸、塩化ナトリウム、および硫酸アルミニウムが挙げられる。
【0048】
凝固は、本発明により製造されるシリカ充填ゴムマスターバッチの製造の成功における重要な態様である。エマルジョンゴムを凝固する際、凝固系によって、ゴムの全てを水相から効果的に取り出さなければならない。シリカマスターバッチの場合、凝固系によって、ゴムおよびシリカも水相から効果的に取り出さなければならない。シリカが凝固後に水相に残留すれば、得られた微粒子が下流でのゴムの加工を妨害して、経済的に許容しえない程の材料損失をもたらす可能性がある。
【0049】
本発明人は、特定の凝固剤を用いれば、エマルジョンSBR中でのラテックスの凝固に成功し、シリカをラテックスに練込ませうることを発見した。ラテックスゴムを基にしたシリカマスターバッチの製造でシランを用いてシリカを疎水化する先行技術は、最終的なシリカマスターバッチの加工性のための凝固媒体の重要性を正当に評価することができなかった。事実、Lightseyは、「ラテックスの凝固は、一般には従来通りであり、本発明の一部を形成するものではない」と述べている。米国特許第5,985,953号の第9欄第13行および米国特許第5,763,388号の第7欄第66行。Goerlは、ルイス酸が凝固での好ましい塩である、と述べている。「好ましい塩としては、塩化マグネシウム、硫酸亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸コバルトおよび硫酸ニッケルが挙げられ、好ましくは、アルミニウム塩である。」米国特許第6,720,369号の第4欄第23行。
【0050】
本発明は、凝固工程でシリカをラテックスにより良好に練込む凝固媒体を塩化カルシウムとすることにより、シリカマスターバッチを改善する。本発明者らは、意外にも、シリカをシランで疎水化させたシリカマスターバッチを製造するための凝固媒体として塩化カルシウムを用いれば、他の従来の凝固媒体の使用と比較して、シリカマスターバッチのムーニー粘度が有意に低下することを発見した。加えて、以下の表3のデータに示されるとおり、塩化カルシウム凝固剤は、マスターバッチへのシリカの練込みを改善する。エマルジョンに添加される塩化カルシウム凝固剤の量は、約5重量%未満、好ましくは約2.5重量%未満、より好ましくは約1.0重量%未満、最も好ましくは約0.2〜約0.8重量%のラテックス中濃度を提供する。本発明者らは、一定量の塩化カルシウムを添加してラテックス中に約0.6重量%の塩化カルシウムの濃度を与えることが、ゴムラテックスを凝固させるのに良好に作用することを見出した。
【0051】
ゴム製品は、凝固タンク内で、ラテックスが凝固してゴムを形成し、かつそのゴムクラムの形成時に、そのマトリックス中にシリカを取り込むにつれて形成される。その製品はゴムマトリックス中に高度に分散されたシリカからなる。ゴム製品を脱水し、その後、乾燥機で乾燥させて、コンベアで荷造機へ運搬される。典型的には約36kg(約80ポンド)の重量であるが、所望の重さのゴムの梱包物を、重量計測してフィルムで覆い、タイヤ工場または他のゴム消費者へ運搬するために箱詰めされる。本発明により製造された、全体に分散された一定量のシリカを含むゴム製品を、シリカマスターバッチと呼ぶ。
【0052】
凝固製品を効果的に脱水するための任意の方法を用いることができる。実験室では、クラムを簡単にろ過して、圧縮乾燥することができる。製造の操作では、適切な脱水装置の例としては、フレンチ・オイル・マシーン(French Oil Machine)、チャンバフィルタプレスおよび反転式ろ過遠心機が挙げられる。フィルタプレスおよび遠心機が好ましい。後者の2種は、シリカマスターバッチの使用に関する米国特許第6,878,759号に記載されている。脱水したマスターバッチを、約3%未満の水分レベルまで乾燥させるためのいずれの公知の方法も、用いることができる。実験室では、強制空気オーブンを用いてこれを実行することができる。製造環境では、トンネル乾燥機または流動床乾燥機を用いることができる。
【0053】
水性分散体中に形成されうるいずれのゴム、エラストマまたはポリマーも、本発明で用いることができる。本発明では、ゴムのブレンドを用いることもできる。ポリマーは、好ましくはスチレン−ブタジエンゴム、天然ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ネオプレンゴム、ポリブタジエンゴム、ビニルピリジンブタジエンゴムおよびスチレンブタジエンターモノマーゴムからなる群から選択され、そのターモノマーは、ヒドロキシアルキルアクリレート、ビニルピリジンおよびアクリロニトリルからなる群から選択される。スチレンブタジエンターモノマーゴムは、米国化学学会のゴム部門の第172回技術会議(the 172nd Technical Meeting of the Rubber Division of the American Chemical Society)で発表された表題「Chemically Modified Emulsion SBR’s In Tire Treads」のGeorges Thielenによる論文により完全に記載されている。
【0054】
シリカおよびラテックスと共に含まれうる任意の成分としては、加工油、他の充填剤、例えば、カーボンブラック、タルクまたは粘土、6−PPDなどの安定化剤、もしくは他の劣化防止剤、亜鉛塩、ワックス、樹脂、または架橋化学物質のような材料が挙げられる。更なる配合に必要で、凝固および下流工程を妨害しないいずれの材料も、含むことができる。
【0055】
マスターバッチを用いる最終化合物中のシリカの量は、広く変動させることができる。タイヤ化合物では、これはゴム100部あたり10部〜ゴム100部あたり90部で変動してもよい。シリカマスターバッチの配合における柔軟性を最大にするためには、シリカマスターバッチに含まれるシリカのレベルを、ポリマー工場およびタイヤ工場の両方の加工施設が取り扱える限り高くしなければならない。ポリマー工場では、マスターバッチは凝固の際にほとんど微粒子を生成してはならず、工程の残り全てで加工できなければならない。タイヤ工場では、シリカマスターバッチは、最終化合物を製造するのに用いられる他のゴムまたは配合成分を容易に分散できなければならない。
【0056】
より簡単な用語を用いて要約すると、本発明はシリカ充填ゴムマスターバッチを製造する方法を提供し、その方法は、
(a)水溶液中でシリカをトリメトキシシランカップリング剤により処理して、相溶化されたシリカスラリーを形成するステップであって、そのカップリング剤が、シリカの表面と化学反応して、そこにカップリング剤を結合させる能力を有し、ここでトリメトキシシランが、式:
[(CHO)Si−(Alk)−(Ar)[B]
(式中、
Bは、−SCN、R−C(=O)S(q=1の場合)またはS(q=2の場合)であり、
Alkは、直鎖または分枝鎖二価炭化水素基であり、
Rは、炭素を1〜18個含むアルキル基であり、
mは、0または1であり、
pは、0または1であり、
m+p=1であり、
qは、1または2であり、
Arは、炭素原子を6〜12個有するアリーレン基であり、
xは、2〜8の数である)により表されるステップと、
(b)ポリマーラテックスを相溶化されたシリカスラリーおよび任意に他の相溶性配合成分と接触させることにより、シリカおよび全ての任意含有成分を、ラテックス全体に実質的に均質に分配させるステップと、
(c)(b)から得られたラテックスをクラム状に凝固させるステップと、
(d)凝固したクラムを脱水するステップと、
(e)脱水したクラムを乾燥させるステップとを含み、ここでシラン(またはそれと水との反応生成物)は、水を約70%含有するアルコール/水混合物中に実質的に可溶性である。好ましくは、xは2〜4の数であり、qは2であり、mは1であり、かつBはSである。より好ましくは、シランカップリング剤は、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−ジスルフィド(TMSPD)である。
【0057】
別の実施形態において、本発明はシリカマスターバッチを製造する方法を提供し、その方法は、
(a)シリカをトリメトキシシランの混合物で処理して、相溶化されたシリカスラリーを形成するステップであって、ここで、トリメトキシシランはシリカに結合し、かつトリメトキシシランの混合物の第1の部分が、式:
[(CHO)Si−(Alk)−(Ar)[B]
(式中、
Bは、−SCN、R−C(=O)S(q=1の場合)またはS(q=2の場合)であり、
Alkは、直鎖または分枝鎖二価炭化水素基であり、
Rは、炭素を1〜18個含むアルキル基であり、
mは、0または1であり、
pは、0または1であり、
m+p=1であり、
qは、1または2であり、
Arは、炭素原子を6〜12個有するアリーレン基であり、かつ
xは、2〜8の数である)により表されるカップリング剤であり、
トリメトキシシランの混合物の第2の部分が、式(CHO)Si−アルキル(式中、アルキルは、炭素原子を1〜6個含む直鎖または分枝鎖炭化水素基である)により表され、ここで
トリメトキシシランの混合物(および/またはそれと水との反応生成物)は、水を約70重量%含むアルコール/水混合物に実質的に可溶性であるステップと、
(b)ポリマーラテックスを形成し、相溶化されたシリカスラリーをポリマーラテックスに混合するステップと、
(c)ポリマーラテックスを凝固させて、クラムゴムを形成するステップと、
(d)クラムゴムを脱水するステップと、
(e)脱水したクラムゴムを乾燥させるステップとを含む。好ましくは、トリメトキシシランの混合物は、水を約70%含むアルコール/水混合物に実質的に可溶性である。好ましくは、xは2〜4の数であり、qは2であり、m=1であり、そしてBはSである。好ましくは、トリメトキシシランの混合物は、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−ジスルフィド(TMSPD)を含む。この実施形態において、トリメトキシシランの混合物の第1の部分は、ゴムと反応してシリカをゴムに結合させるための官能基、例えばポリスルフィドを含む。トリメトキシシランの混合物の第2の部分は、そのような官能基を含まず、ゴムと反応しないか、またはゴムに結合しない。しかし、トリメトキシシランの混合物の第2の部分は、シリカをより完全に疎水化し、それがポリマーラテックスの炭化水素相とシリカとの相溶化を補助し、その結果、シリカがクラムゴムに練込まれる可能性が高くなると考えられる。
【0058】
別の実施形態において、本発明はシリカマスターバッチの製造方法を提供し、その方法は、
(a)トリメトキシシランカップリング剤を得る工程であって、そのトリメトキシシランカップリング剤は、
メタノールをSi(Hal)−Alk−HalまたはSi−(OCH−Alk−Hal(式中、Halは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、Alkは、炭素原子を1〜4個有する2価アルキル基である)と反応させて中間生成物を形成するステップであって、ここで反応混合物中の水を約0.1%(約1000ppm)未満に維持するステップと、
中間生成物を硫黄および式MeSH(式中、Meは、アンモニウム、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属の均等物、および亜鉛からなる群から選択される金属である)で示される水硫化物と反応させるステップと、
構造(CHO)−Si−Alk−S−Alk−Si−(OCH(式中、xは、2〜8の数である)を有するトリメトキシシランカップリング剤を形成するステップであって、ここでトリメトキシシランカップリング剤が、水を約70重量%含む水とアルコールとの溶液に可溶性であるステップと
を含む方法により製造される工程と、
(b)水溶液中でシリカをトリメトキシシランカップリング剤により処理して、相溶化されたシリカスラリーを形成する工程であって、そのカップリング剤は、シリカの表面と化学反応してそこにカップリング剤を結合させる能力を有する工程と、
(c)ポリマーラテックスを形成し、相溶化されたシリカスラリーをポリマーラテックスに混合する工程と、
(d)ポリマーラテックスを凝固させてクラムを形成する工程と、
(e)凝固したクラムを脱水する工程と、
(f)脱水したクラムを乾燥させる工程と
を含む。水硫化物は、好ましくは水約5重量%未満まで乾燥させる。
【0059】
本発明の別の態様において、シリカをシリカマスターバッチと同じゴム工場現場で製造するか、またはパイプラインによりゴム工場現場に運搬されるか、またはゴム工場現場に対し、トラックおよび/もしくは鉄道による経済的な運搬に十分近い場所に設置される。シリカの供給源がゴム工場に位置する場合、またはパイプラインを通してシリカスラリーをゴム工場にポンプ輸送可能である場合、湿式シリカケーキに関連する多量の水を輸送するコストを除去することができる。シランカップリング剤も、シリカマスターバッチ工場現場で、またはその付近で製造することができる。タイヤ工場、またはシリカマスターバッチを用いてゴム製品を製造するための他の工場を、シリカマスターバッチ工場現場に、またはその付近に設置することもできる。好ましくは、メトキシシラン、シリカを製造する工程、シリカを疎水化する工程、シリカ充填ゴムマスターバッチを製造する工程、そしてゴム製品、特にタイヤを製造する工程は、1つのコンビナート内で行われる。
【0060】
ゴム製品を製造する方法
本発明によりゴム工場で製造されるシリカマスターバッチを用いて、様々なゴム製品、例えばホース、管、ガスケット、自動車の部品およびケーブルシースを製造することができるが、シリカマスターバッチの最大の使用は、タイヤ製造工場であろうと予測される。シリカマスターバッチは、タイヤの製造方法を大きく改善するであろう。
【0061】
タイヤ製造方法は、James MarkおよびBurak Erman著、Science and Technology of Rubber、第3版、p655〜661に概説されるとおり、5つの一般分野に分けることができる。これらの分野は、1)ゴム混合、2)圧延、3)押出し、4)タイヤ成形、および5)硬化である。混合の分野は一般に、参考として援用されている米国特許第5,711,904号に記載されている。ここでは、ポリマー、充填剤、油およびワックスをミキサ内でブレンドし、「非生産的」混合物を提供し、その後、硬化剤をブレンドして低温で混合し、「生産的」混合物を提供してそれを下流で使用する。タイヤ工場の第2のユニットは、圧延の分野であり、一般に、参考として援用されている米国特許第4,126,720号に記載されている。生産的混合ゴムを、織物上またはスチール製のコード上のいずれかに、ゴムが織物またはスチールコードの全体を覆うように付着させる。ゴムがシート状に伸ばされ、繊維またはワイヤがシートに埋め込まれるように、ゴムを圧延ロール上に置く。圧延を終えた材料を、タイヤ成形機の長さおよび幅に切断する。タイヤ工場の第3の分野は押出しであり、そこでトレッド、エーペックスおよびサイドウォールなどの要素が加工される。押出し工程は、混合の分野と同じく、米国特許第5,711,904号に記載されている。混合の分野から得られたゴムを、末端にダイを含む「コールドフィード」または「ホットフィード」押出機のいずれかに入れる。ゴムは、ダイを通して押出され、押出されたゴムが必要な寸法になるように切断されて、タイヤ成形機に送られる。タイヤ工場の第4の分野は、タイヤ成形の分野であり、ここでは押出された部品、圧延されたプライ、ベルトおよびビーズなど、これまでの操作から得られた成分を全て成形機に集めて、「生タイヤ」を提供する。この工程は、参考として援用されている米国特許第4,402,782号により詳細に概説されている。タイヤ製造方法の第5の分野は、生タイヤの加硫により最終生成物を提供することである。加硫工程は、参考として援用されている米国特許第5,240,669号に概説されている。生タイヤを金型に入れて、蒸気または高温水で加圧した加熱されたゴム製袋を用いて金型の形状にプレスする。ゴム製袋により、生タイヤを十分な時間高温で保持してタイヤの硬化を確実に完了させ、その後、タイヤは品質管理に送られる。
【0062】
シリカをゴムに添加する従来の乾式混合法の代わりに、シリカマスターバッチを用いてタイヤトレッドを形成することには、重大な価値がある。シリカマスターバッチ法では、ゴムと混合する前にシリカをシランと反応させて、疎水化シリカを提供し、このためゴム混合施設でアルコールをシランから回収または排除する必要がなくなる。疎水化シリカをラテックスとブレンドして、混合物を凝固させる。凝固したシリカ/ゴム混合物をポリマー工場で乾燥させて、シリカおよびポリマーの両方をこのステップで乾燥させる。これにより、シリカを含浸させたタイヤトレッドゴムを製造するのに、従来の乾式混合法で用いられていた、湿式シリカケーキを乾燥させて乾燥シリカを製造させることに関連するコストがなくなる。シリカマスターバッチを用いることで、シリカは既に十分にゴム全体に分散されており、ゴム混合工場で適切な補強および耐摩耗性に必要な充填剤の分散を実現するための混合があまり必要でない。こうしてシリカマスターバッチを用いるゴム混合施設では、多数の混合サイクルを減らすことができ、シリカマスターバッチを使用することで、シリカをゴムに添加する従来の乾式混合法よりも、タイヤ工場の生産性および採算性を改善することができる。タイヤ製品中でシリカを同レベルで分散させるために、シリカ充填ゴムマスターバッチをゴムに混合するのに必要な時間およびエネルギーは、従来の乾式混合工程で乾燥シリカをゴムに直接混合するのに必要なそれらよりも少ない。加えて、本発明のシリカマスターバッチを用いることにより、タイヤ製造業者およびシリカ充填ゴム製品の他のメーカは、乾式混合法では必要な、シラン化合物から得られたアルコールの回収および廃棄を行う必要がなくなる。
【0063】
実施例
比較例1:米国特許第5,763,388号に記載された手順の変法を利用し、メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)を用いたシリカマスターバッチ(SMB)の製造
A.相溶化されたシリカスラリーの製造
容器にイソプロパノール4g、酢酸0.7g、その後メルカプトプロピルトリメトキシシラン(シルケスト(登録商標)A189(Silquest A189))1.57g(シリカ4重量%)を投入することにより、シランの水溶液を製造した。その後、混合物を室温で激しく撹拌しながら、水96gをゆっくりと添加した。その後、溶液が透明になるまで、混合物を更に15分間撹拌した。
【0064】
撹拌機を装備した分離容器に、シリカケーキ196g(20%固体)および水331gを投入した。その後、混合物を15分間撹拌して、ケーキの完全な分散を確実にした。その後、シラン水溶液を添加して、更に30分間撹拌した。25%NaOH溶液を用いて、混合物のpHを7.5に上昇させた。その後、混合を続けながら、混合物を約70℃で4時間加熱した。
【0065】
B.シリカマスターバッチの製造
撹拌機を装備した容器に、24.5重量%の1502 SBRを含むエマルジョンSBRラテックス320gを、芳香族油25.48gおよび抗酸化剤0.31gと共に投入した。その後、混合物を撹拌しながら50℃に加熱した。その後、(A)から得られた相溶化されたシリカスラリーを高温のラテックス混合物に添加した。その後、ラテックス/シリカスラリー混合物を撹拌しながら50℃で更に30分間保持した。その後、塩化カルシウムの0.6%溶液を混合物に添加して、ラテックスを凝固させた。その後、チーズクロスこし器を用いて、クラムを脱水した。その後、脱水した生成物を50℃で4時間乾燥させた。
【0066】
比較例2:米国特許第5,763,388号に記載された手順の変法を利用し、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)−ジスルフィド(TESPD)を用いた相溶化されたシリカスラリー製造の試行
比較例1Aの手順に従い、低レベルの縮合生成物を含む高純度TESPDを、シランとして用いたが、シランは、水−アルコール混合物に可溶性ではないため、その手順は成功しなかった。不溶性シランの使用を試みたところ、凝固したマスターバッチ中に総量の遊離シリカが得られた。
【0067】
比較例3:米国特許第4,072,701号のPletkaの手順を用いて製造されたTMSPDを含むシリカマスターバッチ製造の試行
Pletka法を用い、その方法で用いられるメタノールを精製するための通常にはない予防措置は行わずに、TMSPDを製造した。TMSPDは、70/30の水/イソプロパノール混合物には不溶性であるため、疎水化手順は成功しなかった。不溶性のシランを用いてシリカの疎水化を試みたところ、凝固したマスターバッチ中に総量の遊離シリカが得られた。
【0068】
実施例1:ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−ジスルフィド(TMSPD)を用いたSMBの製造
A.相溶化されたシリカスラリーの製造
容器にイソプロパノール4g、米国特許第5,440,064号の手順を用いて製造された、縮合生成物を本質的に含まないTMSPD2.36g(後に投入されるシリカ6.0重量%)、および酢酸0.7gを投入することにより、シランの水溶液を製造した。その後、混合物を室温で激しく撹拌しながら、水96gをゆっくりと添加した。その後、溶液が透明になるまで、混合物を更に15分間撹拌した。
【0069】
撹拌機を装備した分離容器に、シリカケーキ196g(残留物の水を含む固体20%)および水331gを投入した。その後、混合物を15分間撹拌して、ケーキの完全な分散を確実にした。その後、シラン水溶液を添加して、更に30分間撹拌した。25%NaOH溶液を用いて、混合物のpHを7.5に上昇させた。その後、混合を続けながら、混合物を約70℃で4時間加熱した。
【0070】
B.シリカマスターバッチの製造
撹拌機を装備した容器に、24.5重量%の1502 SBRを含むラテックス320gを、芳香族油25.48gおよび抗酸化剤0.31gと共に投入した。その後、混合物を撹拌しながら50℃に加熱した。その後、相溶化されたシリカスラリーを高温のラテックス混合物へ添加した。その後、ラテックス/シリカスラリー混合物を撹拌しながら50℃で更に30分間保持した。その後、塩化カルシウムの0.6%溶液を混合物に添加して、ラテックスを凝固させた。その後、チーズクロスこし器を用いて、クラムを脱水した。その後、脱水した生成物を50℃で4時間乾燥させた。
【0071】
C.TMSPDおよびメルカプトプロピルトリメトキシシランから製造されたマスターバッチの配合
ニップを約2mmに設定し、初期温度を約60℃(140°F)に設定したコベルコ・スチュワート・ボーリング社(Kobelco Stewart Bolling Inc)製の双ロール式粉砕機で、シリカマスターバッチ120gを混合し、回転バンク(rolling bank)を形成した。シリカマスターバッチの組成を、表1の最初の部分に示す。用いられたシリカの量は、乾重量で示している。表の2番目の部分には、示された量のシリカマスターバッチに対して用いられた硬化剤の量を列挙している。硬化剤を添加して、得られた化合物を粉砕機のシリンダ内に巻き込んだ。粉砕機のニップの間で、シリンダを90°回転させて、元に戻した。粉砕機の中で、シリンダを10回通し、混合を完了させた。この手順により、シリカマスターバッチを硬化剤と混合して、スコーチ挙動を評価し、得られた硬化加工素材の物理的性質を測定するための標準法が提供される。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
ASTM D412に示された手順を用いて張力を測定し、ASTM D1646パートCを用いテスト温度135℃で、ムーニースコーチ時間を測定した。ASTM D2084には、ゴムの硬化時間およびスコーチ特性をテストするためのプロトコルが概説されている。表2のデータに示唆されるとおり、TMSPDマスターバッチとA189シリカマスターバッチの間には、張力、モジュラスおよび伸び率の有意差が存在しない。TMSPDマスターバッチのムーニースコーチ時間は、A189マスターバッチの約2倍であり、高い有意差が存在し、TMSPDシリカマスターバッチがタイヤ工場でのより高温での加工が可能で、それにより生産性が改善され、再加工で生じるスクラップが減少する。
【0075】
表1の配合表にしたがって製造され、本発明により製造されたシリカ充填ゴムマスターバッチを用いて製造したゴム組成物では、ゴム組成物の135℃でのT5スコーチは一般に、約25分よりも長く、好ましくは約30分よりも長く、より好ましくは約35分よりも長く、最も好ましくは約40分よりも長い。表2の実験データは、ゴム組成物の125℃のT5スコーチが、約45分であることを示している。本発明により製造されたシリカマスターバッチから製造されたシリカ充填ゴムを、重要な成分として用いて製造された製品では、シリカ充填ゴムは、135℃でのT5スコーチ時間が約35分より長いと思われる。
【0076】
D.様々な凝固システムを用いたシリカマスターバッチの製造
機械的撹拌機を装備した容器に、21.0重量%の1502 SBRを含むe−SBRラテックス400gを、芳香族油33.6gおよび抗酸化剤0.34gと共に投入した。混合物を50℃に加熱し、その後、相溶化されたシリカスラリー364gを高温のラテックス混合物へ添加した。その後、ラテックス/シリカスラリー混合物を撹拌しながら50℃で更に30分間保持した。
【0077】
以下の表3を参照すると、試料SMB039では、塩化カルシウムの0.6%溶液をラテックス混合物に添加して、ラテックスを凝固させた。試料SMB040では、硫酸アルミニウムの0.3%溶液を混合物に添加して、ラテックスを凝固させた。試料SMB041では、0.1N硫酸溶液中のNaClの6%溶液を混合物に添加して、ラテックスを凝固させた。
【0078】
チーズクロスこし器を用いて、各試料を脱水した。脱水した生成物を50℃で4時間乾燥させた。各凝固から得られたセラムをガラス製沈殿容器に捕捉した。16時間沈殿させた後、セラムをデカンテーションすることにより、一定量の練込まれなかったシリカを単離した。シリカを除去し、その後、70℃で乾燥させて、乾燥シリカ残渣の総重量を測定した。この実験の結果を、表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3のデータは、シリカマスターバッチを塩化カルシウムで凝固させることの予想しなかった利点を実証している。塩化カルシウムは、ムーニー粘度の低いマスターバッチを提供し、そのためタイヤ工場でのマスターバッチの加工がより容易になり、塩化カルシウム凝固剤により、リサイクルするか、または廃棄物として捨てなければならない遊離シリカの量も減少する。
【0081】
実施例2:シラン化合物の溶解度
十分な水溶性のないシランカップリング剤は、シリカを効果的に疎水化せず、その場合、多量のシリカがマスターバッチに練込まれない。可溶性が不十分である場合、シリカ充填ゴムマスターバッチの組成が、タイヤ製造要件に合致しせず、シリカは工程中で失われるため、原材料を増やすことになりゴム工場の廃棄物処理コストが上昇する。以下の実験を実施して、様々なシランカップリング剤の溶解度を検査した。
【0082】
【表4】

【0083】
表4のデータは、アルコール/水の溶液へのメトキシシランとエトキシシランの溶解度の差を示している。TESPD(エトキシ)シランは、22.2%水の溶液に可溶性であり、水の濃度を27.8%に上昇させると、不溶性になる。これに対して、本発明のTMSPD(メトキシ)シランは、水96%の溶液に可溶性である。類似の効果が、メルカプトプロピルトリアルコキシシランに見られる。MPTMS(メトキシ)シランは、水96%の溶液に可溶性であるが、MPTES(エトキシ)シランは、わずか水63%の溶液に不溶性である。つまり、エトキシ系のシラン、例えば、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)−ジスルフィドでシリカスラリーを製造するのは、材料の溶解に必要なアルコールが多量になり、アルコールの回収に実質的なコストがかかるか、またはアルコールを除去する廃棄物処理に実質的なコストがかかるため、商業上は実践的でない。トリメトキシシランが、水が70%より多い水/アルコール溶液に不溶性であるという事実は、加水分解が不完全で、続くシリカ疎水化の能力が低いことも示す可能性がある。本発明のシランカップリング剤は、約70%水の水/アルコール溶液に可溶性である。アルコールが4%しかないアルコール溶液中のMPTMSと同様にシランを用いた本発明の方法は、他のシランを用いた先行技術の方法よりもかなり優れている。つまり、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)−ジスルフィドを用いて製造されたシリカマスターバッチは水溶性が低いため製造が困難であるが、MPTMSで製造されたマスターバッチはスコーチ時間が短いため、本発明のメトキシシラン、例えばTMDPSを用いれば低コストの方法になり、優れたスコーチ特性を有する材料が製造される。
【0084】
これは、TMSPDの生成物を水と反応させる最も経済的な経路であるため、本発明者らによりTESPDを加水分解するために少なからぬ努力が払われた。TESPDを完全に加水分解する努力は、全て失敗に終わった。これらには、極性非プロトン性およびプロトン性溶媒の両方、例えばDMSO、ギ酸、酢酸およびイソプロピルアルコールの中で反応を実施したことも含まれる。多数の異なる酸、例えば、ギ酸、酢酸、リン酸を試みた。温度の効果も検討し、幾つかは室温で実施し、他は45℃で実施した。縮合の前に、生成物の可溶性溶液が形成される例はなく、反応混合物からポリマー塊が沈殿する例はなかった。
【0085】
以下、上記実施形態から把握できる技術的思想を付記する。
(付記1)有機ケイ素化合物を製造する方法であって、
(a)式Y−Alk−Hal(式中、Yは、Si(Hal)またはSi−(OCH3)であり、Halは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、Alkは、炭素原子を1〜4個有する2価アルキル基である)で示される化合物を、YがSi(Hal)であ
る場合にはメタノールと反応させ、またはYがSi−(OCH3)である場合にはいずれの物質とも反応させないステップと、
(b)ステップ(a)で得られた生成物を硫黄および式MeSH(式中、Meは、アンモニウム、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属の均等物、および亜鉛からなる群から選択される金属である)で示される水硫化物と反応させるステップと、
(c)構造(CHO)−Si−Alk−Sx−Alk−Si−(OCH(式中、xは2〜8の数である)を有するトリメトキシシラン化合物を回収するステップと、を含み、
MeSH中の硫黄を含む硫黄の量が、xを満たすのに十分であり、
水硫化物、硫黄およびメタノールからなる群の少なくとも1つを反応の前または反応時に乾燥させて、水分を除去し、かつ
トリメトキシシラン化合物が、水を少なくとも約70重量%含む水とアルコールとの溶液に可溶性である方法。
(付記2)前記水硫化物を水約5重量%未満まで乾燥させる、付記1に記載の方法。
(付記3)乾燥剤を用い、前記乾燥剤が、
SiZ(4−n)
(式中、Zは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素またはCH−Oからなる群から選択される反応性基であり、Rはアルキルまたはアリールであり、かつ、nは1〜4の整数である)からなる組成を有する、付記1に記載の方法。
【0086】
本発明の先の詳細な説明は、説明を目的として示されている。本発明の範囲を逸脱することなく、数多くの変更および改良を施しうることは、当業者は明白であろう。したがって上述の説明全てが、例示であり、限定的意義はないと解釈しなければならず、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲のみによって定義されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ充填ゴムを製造する方法であって、
(a)トリメトキシシランカップリング剤と、水、アルコール、およびシリカとを混合することを含む工程を用いて疎水化シリカを形成するステップであって、前記ステップの開始時にpHを低くし、その後上昇させ、前記トリメトキシシランカップリング剤は、少なくとも70重量%の水を含む水とアルコールとの混合物に溶解されるステップと、
(b)ポリマーラテックスを形成するステップと、
(c)疎水化シリカをポリマーラテックスと混合するステップと、
(d)塩化カルシウムを用いて、ポリマーラテックスと疎水化シリカとの混合物を凝固させることにより、シリカ充填後ゴムを形成するステップ
を含む方法。
【請求項2】
疎水化シリカを形成するステップは、
(i)アルコール、酸、および水の混合物にトリメトキシシランカップリング剤を溶解してトリメトキシシランカップリング剤の加水分解を促進し、縮合反応のためのトリメトキシシランカップリング剤を調製するために、加水分解されたトリメトキシシランカップリング剤溶液を形成する工程と、
(ii)加水分解されたトリメトキシシランカップリング剤溶液をシリカと混合し、塩基を添加してpHを上昇させ、トリメトキシシランカップリング剤をシリカに結合させるための縮合反応を促進して疎水化シリカを形成する工程
の2つの工程からなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸は酢酸である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
トリメトキシシランカップリング剤が溶解されるアルコール、酸、及び水の混合物のpHが3.5〜4.1である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
トリメトキシシランカップリング剤は、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−ジスルフィド、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−テトラスルフィド、および3−メルカプトプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ポリマーラテックスに、加工油、カーボンブラック、タルク、粘土、6−PPD安定化剤、劣化防止剤、亜鉛塩、ワックス、および樹脂からなる群から選択される1つ以上の材料を混合する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法により製造されるシリカ充填ゴムを主要な成分として含む製品。
【請求項8】
請求項1に記載の方法により製造されるシリカ充填ゴムマスターバッチ。
【請求項9】
請求項8に記載のシリカ充填ゴムマスターバッチを用いて製造されたゴムのトレッドを備えるタイヤ。
【請求項10】
シリカマスターバッチを製造する方法であって、
(a)シリカをトリメトキシシランカップリング剤により処理するステップであって、前記トリメトキシシランカップリング剤は、シリカの表面と化学反応して前記表面に前記トリメトキシシランカップリング剤を結合させる能力を有するステップと、
(b)ポリマーラテックスを形成し、前記トリメトキシシランカップリング剤により処理されたシリカを前記ポリマーラテックスに混合してポリマーラテックス−シリカ混合物を形成するステップと、
(c)前記ポリマーラテックス−シリカ混合物を、塩化カルシウムを用いて凝固させてクラムを形成するステップと、
(d)凝固したクラムを脱水するステップと、
(e)脱水したクラムを乾燥させるステップと
を含む方法。
【請求項11】
前記トリメトキシシランカップリング剤が、ゴムの加硫時にシリカをゴムに結合させる能力を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記トリメトキシシランカップリング剤が、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−ジスルフィド、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−テトラスルフィド、および3−メルカプトプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ポリマーが、スチレン−ブタジエンゴム、天然ゴム、ネオプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、ビニルピリジンブタジエンゴムおよびスチレンブタジエンターモノマーゴムからなる群から選択され、ただし、前記ターモノマーは、ヒドロキシアルキルアクリレート、ビニルピリジンおよびアクリロニトリルからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマーラテックスに、加工油、カーボンブラック、タルク、粘土、6−PPD安定化剤、劣化防止剤、亜鉛塩、ワックス、および樹脂からなる群から選択される1つ以上の材料を混合する工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記シリカマスターバッチが、前記乾燥させるステップの完了時に形成されるとともに、68以下のムーニー粘度(ML−4)を有する請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記シリカマスターバッチが、前記乾燥させるステップの完了時に形成されるとともに、58のムーニー粘度(ML−4)を有する請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記トリメトキシシランカップリング剤によりシリカを処理するステップが、前記トリメトキシシランカップリング剤を、アルコールおよび酸を含む水溶液であって、アルコールおよび水を合わせた重量において、水の重量が少なくとも70%を占める水溶液に溶解してトリメトキシシランカップリング剤溶液を形成する工程と、前記トリメトキシシランカップリング剤溶液をシリカと混合する工程と、塩基を添加してpHを上昇させる工程とを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記トリメトキシシランカップリング剤溶液が少なくとも80重量%の水を含み、かつ前記酸が酢酸である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記トリメトキシシランカップリング剤溶液が少なくとも95重量%の水を含み、前記酸が酢酸であり、かつpHを7.5に上昇させる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
請求項17に記載の方法により製造されるシリカマスターバッチ。
【請求項21】
請求項17に記載の方法により製造されるシリカマスターバッチを用いて製造される、シリカ充填ゴムを主要な成分として含む製品。
【請求項22】
請求項17に記載の方法により製造されるシリカマスターバッチを用いて製造される、シリカ充填ゴムを含むゴムのトレッドを備えるタイヤ。
【請求項23】
前記トリメトキシシランカップリング剤が、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−ジスルフィド、ビス−(3−トリメトキシシリルプロピル)−テトラスルフィド、および3−メルカプトプロピルトリメトキシシランからなる群より選択され、シリカを前記トリメトキシシランカップリング剤により処理するステップが、前記トリメトキシシランカップリング剤を、アルコールおよび酸を含む水溶液であって、アルコールおよび水を合わせた重量において、水の重量が少なくとも70%を占める水溶液に溶解してトリメトキシシランカップリング剤溶液を形成する工程と、前記トリメトキシシランカップリング剤溶液をシリカと混合する工程と、塩基を添加してpHを7.5に上昇させる工程とを含む請求項10に記載の方法。

【公開番号】特開2013−79400(P2013−79400A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−10103(P2013−10103)
【出願日】平成25年1月23日(2013.1.23)
【分割の表示】特願2011−512482(P2011−512482)の分割
【原出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(510321871)インダストリアス ネグロメックス ソシエダ アノニマ ド キャピタル バリアブル (2)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAS NEGROMEX,S.A. DE C.V.
【出願人】(501166968)クーパー タイヤ アンド ラバー カンパニー (10)
【氏名又は名称原語表記】Cooper Tire & Rubber Company
【住所又は居所原語表記】701 Lima Avenue, Findlay, Ohio 45840, United States of America
【Fターム(参考)】