説明

シリカ前駆体材料、この材料を用いたシリカ膜及びガスバリア防眩成形体

【課題】反射光の低減とガスバリア性を共に付与せることが可能なシリカ膜前駆体材料、これを用いたシリカ膜及び前記シリカ膜を形成させたガスバリア防眩成形体を、提供する。
【解決手段】シリカ前駆体であるシラザン化合物、層状粘土鉱物及び有機溶剤を含むシリカ膜前駆体材料を基材上に塗布し、加熱処理、加湿処理、紫外線照射処理、又は、前記加熱処理と紫外線照射処理とを同時に行う処理の何れかによりシリカ膜を形成し、ガスバリア防眩成形体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ前駆体材料、この材料を用いたシリカ膜及びガスバリア防眩成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示材料及びそれに付随する入力装置は、その利便性からタッチパネル化が進んでいる。
【0003】
タッチパネル製品は、表示材料と入力装置の両者を兼ねているため、これまで用いられてきた表示材料と入力装置とが、独立していた電子機器に比べ、更に表示材料表面の視認性を、高める必要がでてきた。
【0004】
特に、タッチパネル表面からの光の反射による視認性の低下は、屋内外を問わず発生する問題であり、タッチパネル表面等の表示材料からの反射光を低減する手法の開発が行われている。
【0005】
また、タッチパネル製品は、ガラス基材から合成樹脂基材への移行が進んでおり、具体的には、ポリカーボネートやポリメチルメタクリレート等の合成樹脂成形体が多く使用されるようになってきているが、それらはガラスに比べてガスバリア性に乏しいため、合成樹脂成形体内部を通過する酸素や水蒸気等のガス成分が問題となる。例えばガラス代替材として合成樹脂成形体を使用した場合、基材内部を通過した水蒸気成分により内部素子が劣化する等の懸念がある。そこで合成樹脂成形体においては、反射光を低減させるだけではなく、ガスバリア性を共に付与させる必要がある。
【0006】
一般的にタッチパネル等の表示材料からの反射光を低減させる手法としては、高屈折率を有する薄膜と低屈折率を有する薄膜を積層させ、各層における干渉現象を利用し、反射を防止する手法(アンチリフレクション法:AR法)や、表示材料表面に微細な凹凸を付与することで光を散乱させ、反射を防止する手法(アンチグレア法:AG法)が行われている。
尚、前者のAR法では、数十nmの膜厚を制御する必要があり、この膜厚制御が困難であること、また基材の屈折率が低いガラスやアクリル板等の場合には、高屈折材料と低屈折材料を多層構造とする必要があることから、汎用的には後者のAG法を用いることが多い。
【0007】
また、合成樹脂成形体にガスバリア性を付与する手法としては、金属又はセラミック薄膜を用いることが一般的であり、更に透明性を確保したい場合には、金属薄膜が不適切であるため、透明性を保つことが可能なセラミック薄膜によるガスバリア性の付与が、広く行われている。
【0008】
従来では、上記手法を併用することで、反射光低減とガスバリア性付与を両立させる技術の開発が行われてきた。
【0009】
例えば特許文献1では、基材上にガスバリア層を形成させ、その外側表面に凹凸構造を有するハードコート層を順に設け、低反射率性能とガスバリア性能を兼ね備えた反射防止樹脂シートを提供する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−4175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載される手法では、ガスバリア性を付与させる層と、反射光を低減させる層をそれぞれ形成する必要があり、複数の工程を必要とすることから、コストと時間が掛かるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、反射光の低減とガスバリア性を共に付与せることが可能なシリカ膜前駆体材料、これを用いたシリカ膜及び前記シリカ膜を形成させたガスバリア防眩成形体を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下のものに関する。
(1)シリカ前駆体であるシラザン化合物、層状粘土鉱物及び有機溶剤を含むシリカ膜前駆体材料。
(2)項(1)において、層状粘土鉱物の割合が全体に対して2質量%以下であるシリカ膜前駆体材料。
(3)項(1)又は(2)において、シラザン化合物が、パーヒドロキシポリシラザンであるシリカ膜前駆体材料。
(4)項(1)〜(3)の何れかにおいて、層状粘土鉱物がスメクタイトであるシリカ膜前駆体材料。
(5)項(1)〜(4)の何れかにおいて、有機溶剤が、芳香族化合物であるシリカ膜前駆体材料。
(6)項(1)〜(5)の何れかにおいて、有機溶剤が混合溶剤であり、その混合溶剤中に混合溶剤全体に対して、20質量%以上の芳香族化合物を含むシリカ膜前駆体材料。
(7)項(1)〜(6)の何れかに記載のシリカ膜前駆体材料を塗布することで得られる、ヘイズ(Haze)値が、20%以下であり、全光線透過率が80%以上であるシリカ膜。
(8)項(7)においてシリカ前駆体のシリカ転化が、加熱処理、加湿処理、紫外線照射処理、又は、前記加熱処理と紫外線照射処理とを同時に行う処理の何れかによりなされる、シリカ膜。
(9)項(7)又は(8)に記載のシリカ膜が、基材の一部又は全部に設けられた、ガスバリア防眩成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シリカ前駆体であるシラザン化合物、層状粘土鉱物及び有機溶剤を含むシリカ膜前駆体材料を用いることで、反射光の低減とガスバリア性の二つの機能を同時に付与可能なシリカ膜を得ることができる。
層状粘土鉱物の割合が全体に対して2質量%以下である場合は、反射率を低減させ且つ透過率を損なうことのないシリカ膜を得ることができる。
シラザン化合物が、パーヒドロキシポリシラザンである場合は、完全無機のシリカ膜を得ることが可能であり、硬度とガスバリア性に優れたシリカ膜を得ることができる。
層状粘土鉱物が、スメクタイトである場合は、シラザン化合物を溶解させる溶剤への分散性が良好であり、特にガスバリア性に優れたシリカ膜となる。
有機溶剤が、芳香族化合物ある場合、シラザン化合物及び層状粘土鉱物の分散性が良好である。特に層状粘土鉱物が凝集することがないため、層状粘土鉱物が均一に分散したシリカ前駆体を得ることができる。
有機溶剤が混合溶剤であり、その混合溶剤中に混合溶剤全体に対して、20質量%以上の芳香族化合物を含む場合は、シラザン化合物及び層状粘土鉱物の分散性が良好である。特に層状粘土鉱物が凝集することがないため、層状粘土鉱物が均一に分散したシリカ前駆体を得ることができる。また混合溶剤の配合を調節することで、耐薬品性に劣る基材への塗布も可能となる
ヘイズ(Haze)値が、20%以下であり、全光線透過率が80%以上であるシリカ膜である場合は、光の透過率を落とすことなく、基材表面からの反射光が防止されるため表示材料向けのコート膜としての使用に適したシリカ膜を得ることができる。
シリカ前駆体のシリカ転化が、加熱処理、加湿処理、紫外線照射処理、又は、前記加熱処理と紫外線照射処理とを同時に行う処理の何れかによりなされる場合は、シリカ転化反応を促進させることができる。特に、紫外線照射又は加熱処理と紫外線照射処理とを同時に施した場合は、室温(25℃)〜100℃程度の低温処理であってもシリカ転化が可能となる。
シリカ膜が、基材の一部又は全部に設けられた場合は、シリカ膜を設けた部分が、基材表面からの反射光が防止され視認性に優れ且つガスバリア性を有している基材となるため、表示材料用途として使用するのに適するガスバリア防眩成形体となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】片面に1層シリカ膜を形成させたガスバリア防眩成形体の断面図を示す。
【図2】片面に2層シリカ膜を形成させたガスバリア防眩成形体の断面図を示す。
【0016】
<シラザン化合物>
本発明にて述べるシラザン化合物は、完全無機のシリカ膜が形成され、得られるシリカ膜の硬度とガスバリア性に優れるため、下記化学構造式(1)に示す、パーヒドロキシポリシラザンを用いることが好ましいが、これに限定されず、下記化学構造式(1)に示される水素の一部又は全部をアルキル基等の有機成分で置換した、オルガノポリシラザンを用いても良く、単一の組成でも良いし、これらを混合して用いても良い。
【0017】
【化1】

【0018】
<層状粘土鉱物>
本発明にて述べる層状粘土鉱物は、シラザン化合物を溶解させる溶剤への分散性が良好であれば、特に限定されるものではなく、カオリン鉱物、雲母粘土鉱物、スメクタイト等が使用できるが、スメクタイトがシラザン化合物の溶剤への分散性が良好であるため好ましい。溶剤への分散性が良い場合、得られるシリカ膜内に均一に層状粘土鉱物が存在しているため、ガスバリア性に優れたシリカ膜となる。またスメクタイトは溶剤へそのまま分散させてもよいが、溶剤への分散性をあげるためにシランカップリング剤等により表面処理を施しても良い。
用いる層状粘土鉱物の大きさは、特に限定されるものではないが、平均粒径として、0.01〜10μmであることが好ましい。0.01μm未満では、得られるシリカ膜に凹凸がなくなるため表面の反射光を散乱させることができなくなり、10μmを超えると、シリカ膜の緻密性を崩してしまうため、シリカ膜のガスバリア性を劣化させてしまう。
尚、本明細書にて述べる平均粒径は、粒子の全体積を100%として粒径による累積度数分布曲線を求めた際に、体積50%に相当する点の粒径(D50)のことであり、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定することができる。
【0019】
<有機溶剤>
本発明にて述べる有機溶剤は、前述したシラザン化合物が溶解できれば、特に限定されるものではなく、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジブチルエーテル、ソルベッソ、ターペン、デカヒドロナフタレン等を用いることができるが、層状粘土鉱物の分散性が良い芳香族化合物を用いることが好ましい。
より具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベッソ等を用いることが好ましい。
また、塗布基材の耐薬品性等の問題で芳香族化合物を、単一で使用できない場合は、20質量%以上芳香族化合物を含む混合溶剤を用いても良い。混合溶剤は上記配合となるように例えばキシレンとジブチルエーテルを混合しても良く、またこのような組成であらかじめ混合され市販されているターペン「シェルLAWS」(シェルケミカルズジャパン株式会社製、商品名)等を使用しても良い。
【0020】
<混合質量比率>
層状粘土鉱物の混合割合としては、特に限定されるものではないが、層状粘土鉱物が全体に対して2質量%以下であるのが好ましい。2質量%を超えると得られるシリカ膜の透明性が失われたり、膜の硬度が損なわれたりすることがある。
層状粘土鉱物の最低混合割合は、特に限定されるものではないが、全体に対して0.01質量%以上であることが、反射防止効果を単層でも得られ易く、好ましい。
【0021】
<シリカ膜>
本発明にて述べるシリカ膜は、シラザン化合物、層状粘土鉱物及び有機溶剤を含有するシリカ膜前駆体から得られるものある。
シラザン化合物は、有機溶剤にて溶解され、これに層状粘土鉱物を分散させて使用される。そのため、上記3つの材料をシリカ前駆体として用いることで、湿式法による塗布が可能となり、複雑形状を有する基材にも適用可能となる。
また、一度に大面積を処理することができるため、低コストでの処理が可能となる。
さらに本発明のシリカ膜は、前述したシリカ前駆体を用いるものであり、層状粘土鉱物が、シリカ膜の表面に凹凸を形成することにより、光がその表面で乱反射され、反射光を低減することができる。また層状粘土鉱物は、燐片状の構造を有しているため、シリカ膜内部で基材表面に対して水平方向に配向することが可能であり、球状の添加物を加えた時と比較して、緻密性を崩すことがないため、シリカ膜のガスバリア性を保つことも可能となる。
【0022】
<ヘイズ値>
本発明に述べるシリカ膜のヘイズ値は、20%以下であるのが好ましい。ヘイズ値が20%以上を超えると透明性が失われてしまうためである。ヘイズ値を20%以下にするためには、層状粘土鉱物を2質量%以下の範囲で添加すれば良い。尚、本明細書にて述べるヘイズ値の測定は、日本電色工業株式会社製のヘイズメーター(商品名:NDH−1001DP)を用いて行える。
【0023】
<全光線透過率>
更に、本発明にて述べるシリカ膜の全光線透過率は、80%以上であるのが好ましい。全光線透過率が80%以下となる場合、光の透過性が悪く、例えばディスプレイ材料用途向けのコート膜としては使用しにくくなる。
尚、本明細書にて述べる全光線透過率の測定は、日本電色工業株式会社製のヘイズメーター(商品名:NDH−1001DP)を用いて行える。
【0024】
<シリカ転化>
シリカ膜前駆体をシリカ転化させる方法としては、加熱処理、加湿処理、紫外線照射、又は加熱処理と紫外線照射処理の併用処理が挙げられるが、加熱処理と紫外線照射処理を併用することが好ましい。両者を併用することで、シリカ転化をより短時間で終了させることができる。
尚、ここで述べる加熱処理と紫外線照射処理の併用とは、加熱を行いながらの紫外線照射であり、同時に行うことを意味する。
【0025】
<加熱処理>
加熱処理に関しては、特に限定されるものではなく、例えば乾燥器、ホットプレート等を用いることができる。なお加熱処理の温度に関しては、特に制限はないが、基材が変性しない範囲で、なるべく高温で加熱することで、シリカ転化が早くなる。例えば、シリカ前駆体の塗布基材としてガラスを使用した際には、300℃で30〜60分程度加熱を行えばよい。
【0026】
<加湿処理>
加湿処理に関しては、特に限定されるものではなく、一定温度・一定湿度に保った空間に静置しておけば良い。このような空間を作れるものとして例えば恒温恒湿槽がある。
尚、加湿処理時の温度、相対湿度、時間等に特に制限はないが、基材が変性しない範囲で、なるべく高温・高湿度で処理した方が、シリカ転化は早くなり処理時間を短縮できる。例えば、シリカ前駆体の塗布基材としてポリカーボネートを用いた場合では、80℃−95%RHの条件で3時間静置しておけば良い。また、加湿処理は、単独で行うよりも、加熱処理を行った後に加湿処理を行ったほうが、よりシリカ転化を早めることができる。
【0027】
<紫外線照射>
紫外線の照射に関しては、特に制限されるものではないが、200nm以下の波長を発する低圧水銀ランプ、アマルガムランプ及びエキシマランプ等を使用することが好ましい。200nm以下の波長の光によって生成される活性酸素種やオゾンが、シリカ転化に有効なため、シリカ転化が早くなる。
【0028】
<加熱・紫外線併用処理>
また、加熱・紫外線併用処理に関しては、前述した加熱処理及び紫外線処理が、同時に行われる時間帯があれば良く、例えば100℃で加熱を行いながら5mW/cm低圧水銀ランプを使用した場合60分程度照射を、20mW/cmのアマルガムランプを使用した場合、15分程度の照射を行えば、シラザン化合物をシリカ転化させることができる。
【0029】
<シリカ転化率>
シリカ膜前駆体のシリカ転化の程度は、好ましくはC及びNの残存率が、原子数%で10%以下、より好ましくは5%以下で、2%以下が特に好ましい。C及びNの残存率が10%を超えると、シリカ転化が不十分であり、十分な硬度、ガスバリア性を得ることが徐々にし難くなる。
尚、C及びNの残存率に関しては、元素分析が可能な分析装置を使用することで算出可能であり、このような分析が可能なものとして例えばXPS(X線光電子分光分析装置)等が挙げられる。
【0030】
<ガスバリア防眩成形体>
本発明にて述べるガスバリア防眩成形体は、基材の上に、前述したシリカ膜を単層または複数層形成させたものである。
【0031】
<基材>
本発明にて述べる基材は、その材質・形状を限定されるものではなく、例えばガラス材料、合成樹脂成形体等であり、それらの平板形状、凹凸のある立体形状物とすることができる。
【0032】
<合成樹脂成形体>
前述した合成樹脂成形体の材質は、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレナフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、エポキシ、フェノール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリイミド、アラミド(全芳香族ポリアミド)、アリルエステル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド樹脂等を、用いることができ、特にガラス転移温度が、250℃以上であるポリイミド、アラミド(全芳香族ポリアミド)、アリルエステル等の成形体が、耐熱性に優れ好ましい。
【0033】
また、合成樹脂成形体に透明性を求める場合は、前述した材質の中から、ポリカーボネートやポリメチルメタクリレート等の全光線透過率が、80%以上であるものを使用し、ガスバリア防眩成形体の全光線透過率を80%以上にすることが好ましい。このような合成樹脂成形体を用いることで、それらの透明性を確保でき、透明性に対する要求が厳しい、ディスプレイ材料等の光学用途としても、使用することが可能となる。
【0034】
<添加剤>
シリカ膜前駆体には、必要に応じて、シランカップリング剤、カルボン酸無水物、イソシアネート、チオール、カルボジイミド、金属ハロゲン化物等の添加剤を使用することができる。
更には、低温でのシリカ転化を進めるために、有機アミン化合物、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム類等の触媒を用いることもできる。触媒の添加量は、特に制限されるものではないが、例えばシリカ膜を形成する材料全体に対し、1〜10質量%程度添加することが好ましい。1質量%未満ではシリカ転化反応への触媒作用が弱く、10質量%を超えると膜の緻密性が失われ、硬度が弱くなるためである。また透明性が要求される場合には、有機アミン化合物を用いること好ましい。
【0035】
<洗浄・前処理>
シリカ膜を設ける場合のシリカ膜前駆体は、基材にそのまま塗布してもよいが、基材を侵すことのない有機溶剤で、基材を洗浄してから塗布することが好ましく、有機溶剤洗浄後、更にプラズマ処理又は紫外線処理等による表面処理を施すことが、より好ましい。基材に洗浄及び表面処理を施すことで、基材に対するシリカ膜前駆体の濡れ性が向上し、良好な密着性を得ることができる。
【0036】
<プラズマ処理・紫外線処理>
前述したプラズマ処理は、例えば大気圧プラズマ装置を用いて、窒素ガス、酸素ガス又はこれらの混合ガス雰囲気下で、2つの電極間にプラズマを発生させて試料に照射する方法が、簡便で好ましく用いられる。
前述した紫外線処理は、200nm以下の波長を発する低圧水銀ランプ、アマルガムランプ又はエキシマランプ等からの紫外光を、基材に照射する方法が、好ましく用いられる。
【0037】
<中間層>
シリカ膜は、前述したプラズマ処理や紫外線処理後の基材上に、直接形成しても良いが、密着性向上や寸法安定性のために、基材上に中間層を単層又は複数層設けた後に、その中間層上に形成しても良い。
【0038】
前述した中間層は、特に制限されるものではなく、例えばアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、酢酸ビニル樹脂、アミノ系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ビニルアルコール樹脂、スチレン系樹脂、メラミン樹脂及びこれらの混合物もしくは共重合体等の高分子化合物、ビニル官能性シラン、アクリル官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アミノ官能基シラン等のシランカップリング剤を用いることができる。
尚、シランカップリング剤を用いる場合には、シランカップリング剤を溶解させた溶解液に基材を浸漬させることで、膜状の中間層を形成することができる。
【0039】
<塗布>
シリカ膜前駆体の塗布は、先に述べた基材表面の一部又は全部に設けられる。これは、基材の形状が、シート状又は板体状のものであれば、片面、両面又は全面に塗布され、マカロニ状の貫通体形状であれば、その外表面、内表面又は内外表面に塗布されることを意味する。
尚、塗布は、同一面内であっても、その中の一部にのみ塗布することもできる。
【0040】
シリカ膜前駆体の塗布は、簡易且つ低コストで処理できることから、湿式法とすることが好ましい。その手法としては、公知の塗布法が適用可能であり特に限定されるものではない。より具体的に述べると、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ディップコート法、エアーナイフ法等を用いることができ、特にスピンコート法が好ましく、本手法を用いることで、コート面の膜厚が最も均一になる効果がある。
【0041】
<膜厚>
ガスバリア防眩成形体のシリカ膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.05〜3.0μmが好ましく、0.1〜1.0μmがより好ましく、0.2〜0.6μmが特に好ましい。0.05μm未満では十分なガスバリア性がなく、3μmを超えるとクラックや剥離が発生し易く、ガスバリア性が低下する可能性がある。
尚、ここで述べる総合厚みとは、単層であれば、その厚みを意味し、複数層であれば、各々の膜厚の合計(積算)値を示す。
【0042】
(シリカ膜の層数)
図1、図2は本発明によるガスバリア防眩成形体の断面であり、図1は、単層のシリカ膜を有し、図2は、複数層(2層)のシリカ膜を有するガスバリア防眩成形体である。
図1のガスバリア防眩成形体1は、基材4のその上面に、内部に層状粘土鉱物2を含んだシリカ膜3を備えている。また、図2のガスバリア防眩成形体6は、基材10のその上面に、内部に層状粘土鉱物7を含んだシリカ膜8及び9を備えている。
本発明のガスバリア防眩成形体は、シリカ膜の層数は、特に制限されるものではなく、単層でも、複数層でも良いが、好ましくは複数層とする。これは、図1に示すように、単層である場合は、シリカ膜3に、ピンホール又はクラック5が発生することで、ガスバリア防眩成形体のガスバリア性能が破壊されるが、図2に示すように、複数層であると、各々のシリカ膜8、9にピンホール又はクラック11が発生しても、このピンホール又はクラック11が同一箇所に発生しない限り、ガスバリア性能が破壊されることがない、との理由による。
また、ガスバリア性能は、シリカ膜にピンホール又はクラックが発生することを前提に考えると、層を増やす程に、全ての層において厚み方向の同一箇所に、ピンホール又はクラックが生じる確率が低くなり、結果として破壊されにくくなる。
【0043】
<ガスバリア性>
本発明におけるガスバリア防眩成形体の酸素透過度は、10cc/m・day以下、水蒸気透過度は、10g/m・day以下であるのが好ましい。上記性能を満たすことで、表示材料の中でも特に内部素子の劣化を防ぐ必要がある、液晶表示素子や有機EL素子等のディスプレイ材料用途として使用することに適する。
尚、本明細書にて述べる酸素透過度は、「JIS7126B」に規格化されているMOCON法よって、水蒸気透過度は、「JISK0208」で規格化されているカップ法、「JIS7129A」で規格化されている乾湿センサー法、「JIS7129B」で規格化されている赤外線センサー法の何れかを用いて測定でき。水蒸気透過度においては、何れかの測定方法にて、10g/m・day以下となるようにすることが好ましい。
【0044】
<光沢度>
本発明におけるガスバリア防眩成形体の光沢度は、特に制限されるものではないが、シリカ膜を形成させることで、基材の60°光沢度が20%以上低減していることが好ましい。例えば60°光沢度が117%のポリエチレンテレフテレートフィルムの場合90%程度となるようにする。60°光沢度の低減が20%未満であると、反射光の低減が目視で確認できないためである。
尚、本明細書にて述べる光沢度は、ハンディ光沢計グロスチェッカ「IG−331(株式会社堀場製作所製、商品名)」を用いて行える。
【実施例】
【0045】
以下、シリカ膜前駆体材料、これを用いたガスバリア防眩成形体について、実施例を用いて説明する。
尚、本実施例にて説明するヘイズ値及び全光線透過率の測定は、日本電色工業株式会社製のヘイズメーター(商品名:NDH−1001DP)により、ガスバリア性については、「JIS K0208」で規格化されているカップ法(40℃、90%RH)により、60°光沢度は、ハンディ光沢計グロスチェッカ「IG−331(株式会社堀場製作所製商品名)」により評価を行った。前記、ガスバリア防眩成形体の60°光沢度は、基材の裏面側からの裏面の影響を抑えるために、裏面をZEBRA株式会社製マッキー(商品名)にて、裏面を黒く塗りつぶして行った
【0046】
(実施例1)
和光純薬工業株式会社製キシレン:100gに層状粘土化合物「ルーセンタイトSAN」(コープケミカル株式会社製、商品名)を0.1g添加した(これを「A」とした)。
次に、シラザン化合物「NL110−20」(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、商品名):1gとA:3gを混合し、シリカ膜前駆体を得た。(層状粘土鉱物濃度0.07質量%)
東洋紡績株式会社製のポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:コスモシャインA4100、厚さ:50μm)を、イソプロパノール及びアセトンで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した後、1000rpm・30秒間の条件でシリカ前駆体をスピンコートした。
コート後80℃に設定したアズワン株式会社製乾燥機で10分間加熱し、再度1000rpm・30秒間の条件でシリカ前駆体をスピンコートした。その後、100℃に設定したアズワン株式会社製ホットプレートに静置し加熱を行いながらヘレウス株式会社製アマルガムランプを用いて紫外線を15分間照射し、片面に0.2μmのシリカ膜を形成させたガスバリア防眩成形体を得た。
得られたガスバリア防眩成形体は、後記する表1に示すように、ヘイズ値:1.9%、全光線透過率:91.5%、ガスバリア性(水蒸気透過度):2.7g/m・day、60°光沢度:84%であった。
【0047】
(実施例2)
和光純薬工業株式会社製キシレン:100gに層状粘土化合物「ルーセンタイトSAN」(コープケミカル株式会社製、商品名)を0.25g添加した(これを「B」とした)。
次に、シラザン化合物「NL110−20」(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、商品名):1gとB:3gを混合し、シリカ膜前駆体を得た。(層状粘土鉱物濃度0.18質量%)
東洋紡績株式会社製のポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:コスモシャインA4100、厚さ:50μm)を、イソプロパノール及びアセトンで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した後、1000rpm・30秒間の条件でシリカ前駆体をスピンコートした。
コート後80℃に設定したアズワン株式会社製乾燥機で10分間加熱し、再度1000rpm・30秒間の条件でシリカ前駆体をスピンコートした。その後、100℃に設定したアズワン株式会社製ホットプレートに静置し加熱を行いながらヘレウス株式会社製アマルガムランプを用いて紫外線を15分間照射し、片面に0.2μmのシリカ膜を形成させたガスバリア防眩成形体を得た。
得られたガスバリア防眩成形体は、後記する表1に示すように、ヘイズ値:2.4%、全光線透過率:91.2%、ガスバリア性(水蒸気透過度):2.0g/m・day、60°光沢度:65%であった。
【0048】
(実施例3)
和光純薬工業株式会社製キシレン:100gに層状粘土化合物「ルーセンタイトSAN」(コープケミカル株式会社製 商品名)を0.5g添加した(これを「C」とした)。
次に、シラザン化合物「NL110−20」(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、商品名):1gとC:3gを混合し、シリカ膜前駆体を得た。(層状粘土鉱物濃度0.37質量%)
東洋紡績株式会社製のポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:コスモシャインA4100、厚さ:50μm)を、イソプロパノール及びアセトンで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した後、1000rpm・30秒間の条件でシリカ前駆体をスピンコートした。
コート後80℃に設定したアズワン株式会社製乾燥機で10分間加熱し、再度1000rpm・30秒間の条件でシリカ前駆体をスピンコートした。その後、100℃に設定したアズワン株式会社製ホットプレートに静置し加熱を行いながらヘレウス株式会社製アマルガムランプを用いて紫外線を15分間照射し、片面に0.2μmのシリカ膜を形成させたガスバリア防眩成形体を得た。
得られたガスバリア防眩成形体は、後記する表1に示すように、ヘイズ値:9.7%、全光線透過率:90.8%、ガスバリア性(水蒸気透過度):3.8g/m・day、60°光沢度:58%であった。
【0049】
(実施例4)
和光純薬工業株式会社製キシレン:100gに層状粘土化合物「ルーセンタイトSAN」(コープケミカル株式会社製 商品名)を3g添加した(これを「D」とした)。
次に、シラザン化合物「NL110−20」(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、商品名):1gとD:3gを混合し、シリカ膜前駆体を得た。(層状粘土鉱物濃度2.18質量%)
東洋紡績株式会社製のポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:コスモシャインA4100、厚さ:50μm)を、イソプロパノール及びアセトンで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した後、1000rpm・30秒間の条件でシリカ前駆体をスピンコートした。
コート後80℃に設定したアズワン株式会社製乾燥機で10分間加熱し、再度1000rpm・30秒間の条件でシリカ前駆体をスピンコートした。その後、100℃に設定したアズワン株式会社製ホットプレートに静置し加熱を行いながらヘレウス株式会社製アマルガムランプを用いて紫外線を15分間照射し、片面に0.2μmのシリカ膜を形成させたガスバリア防眩成形体を得た。
得られたガスバリア防眩成形体は、後記する表1に示すように、ヘイズ値:13.3%、全光線透過率:89.5%、ガスバリア性(水蒸気透過度):2.5g/m・day、60°光沢度:46%であった。
【0050】
(比較例1)
シラザン化合物「NL110−20」(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製、商品名):1gと和光純薬工業株式会社製キシレン:3gを混合し、シリカ膜前駆体を得た。(層状粘土鉱物なし)
東洋紡績株式会社製のポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:コスモシャインA4100、厚さ:50μm)を、イソプロパノール及びアセトンで脱脂洗浄後、株式会社魁半導体製大気圧プラズマ装置(商品名:S5000)を用いて、Nガス雰囲気下でプラズマを発生させて、1分間処理を施した後、1000rpm・30秒間の条件でシリカ前駆体をスピンコートした。
コート後80℃に設定したアズワン株式会社製乾燥機で10分間加熱し、再度1000rpm・30秒間の条件でシリカ前駆体をスピンコートした。その後、100℃に設定したアズワン株式会社製ホットプレートに静置し加熱を行いながらヘレウス株式会社製アマルガムランプを用いて紫外線を15分間照射し、片面に0.2μmのシリカ膜を形成させたガスバリア防眩成形体を得た。
得られたガスバリア防眩成形体は、後記する表1に示すように、ヘイズ値:0.5%、全光線透過率:91.5%、ガスバリア性(水蒸気透過度):1.0g/m・day、60°光沢度:114%であった。
【0051】
(参考例1)
東洋紡績株式会社製のポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:コスモシャインA4100、厚さ:50μm)のヘイズ値、全光線透過率及びガスバリア性を評価するとヘイズ値:0.5%、全光線透過率:92%、ガスバリア性(水蒸気透過度):14g/m・day、60°光沢度:117%であった。
【0052】
前述した実施例1〜4、比較例1及び参考例1について、各項目を以下の表1に記載する。
【0053】
【表1】

【0054】
表1より、シリカ膜を形成させていない参考例1と比較して、層状粘土鉱物を添加したシリカ前駆体から得られたシリカ膜を有する実施例1〜4ではHaze値が大きくなっている。それに伴い60°光沢度が低減されていることから、反射光低減の効果が見られる。またあわせてガスバリア性も向上している。これに対し、層状粘土鉱物を添加していないシリカ前駆体から得られたシリカ膜を有する比較例1ではガスバリア性を付与することは可能であるが、60°光沢度は大きく低減しなかった。これらより本発明のシリカ前駆体から得られるシリカ膜は反射光低減とガスバリア性を同時に付与することが可能であることがわかる。また実施例4では、層状粘土鉱物の添加量を、2.0質量%を超える量としたところ、全光線透過率が90%を下回っており、全光線透過率を90%以上に保ちたいのであれば、層状粘度鉱物濃度を2.0質量%以下にすることが好ましい。
【符号の説明】
【0055】
1…ガスバリア防眩成形体、2…層状粘土鉱物、3…シリカ膜、4…基材、5…ピンホール又はクラック、6…ガスバリア防眩成形体、7…層状粘土鉱物、8…2層目のシリカ膜、9…1層目のシリカ膜、10…基材、11…ピンホール又はクラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ前駆体であるシラザン化合物、層状粘土鉱物及び有機溶剤を含むシリカ膜前駆体材料。
【請求項2】
請求項1において、層状粘土鉱物の割合が全体に対して2質量%以下であるシリカ膜前駆体材料。
【請求項3】
請求項1又は2において、シラザン化合物が、パーヒドロキシポリシラザンであるシリカ膜前駆体材料。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、層状粘土鉱物がスメクタイトであるシリカ膜前駆体材料。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、有機溶剤が、芳香族化合物であるシリカ膜前駆体材料。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかにおいて、有機溶剤が混合溶剤であり、その混合溶剤中に混合溶剤全体に対して、20質量%以上の芳香族化合物を含むシリカ膜前駆体材料。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のシリカ膜前駆体材料を塗布することで得られる、ヘイズ(Haze)値が20%以下であり、全光線透過率が80%以上であるシリカ膜。
【請求項8】
請求項7においてシリカ前駆体のシリカ転化が、加熱処理、加湿処理、紫外線照射処理、又は、前記加熱処理と紫外線照射処理とを同時に行う処理の何れかによりなされる、シリカ膜。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のシリカ膜が、基材の一部又は全部に設けられた、ガスバリア防眩成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−43812(P2013−43812A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183633(P2011−183633)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(508187665)日立化成テクノサービス株式会社 (11)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】