説明

シリカ多孔質膜を有する積層体及びその製造方法

【課題】基材と多孔質シリカ膜との密着性が高く、可視光線透過率が高い、多孔質シリカ膜を有する積層体を提供する。
【解決手段】Tgが200℃以下の透光性基材上に、屈折率が1.20〜1.35である多孔質シリカ膜を有する積層体であって、ミルスペックMIL−CCC−c−440に記載のチーズクロスを荷重500g/cmで前記多孔質シリカ膜表面上を20往復させる耐摩耗性試験において、前記積層体の可視光線透過率の変化量が、試験前の前記積層体の可視光線透過率に対して5%未満であることを特徴とする積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ多孔質膜を有する積層体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
反射防止用途の多孔質シリカ膜としては、特許文献1〜5が知られている。
特許文献1、2は、鋳型材として有機ポリマーを使用して多孔質シリカ膜を形成するが、有機ポリマーの除去は加熱によるため、膜の収縮が発生し、十分な耐摩耗性が得られない。
特許文献3では、Tgの低い基材は使用されていない。
【0003】
特許文献4には、透明熱可塑性基板上に数珠状シリカストリングを用いた多孔性シリカ層を形成している。このシリカ含有積層体は、鉛筆硬度による膜強度は大きいが、耐摩耗性は低いと考えられる。
特許文献5は、粒径10〜60nmのシリカ粒子を含む液をガラスに塗布し、600℃以上の温度をかけることで低屈折率と耐摩耗性を得ている。この方法は、600℃以上の温度をかけることが必要であるため、Tgの低い基材には使用できない。
【0004】
また、特許文献1には、アルコキシシラン類、有機溶媒、水を含有したシリカ系組成物により、多孔質シリカ膜を形成している。特許文献1には、有機化合物を併用することも記載されているが、ここでは、有機ポリマーを使用したテンプレート法による多孔質膜は、有機ポリマーが取り除かれることで空孔が歪んだり、潰れたりして、膜構造が不安定な状態になってしまうと記載している。そのため、用いている有機化合物の分子量は小さく、有機ポリマーのような高分子量化合物を使用していない。その結果、得られる多孔性シリカ膜の多孔度を高く維持することが困難であり、低屈折率な多孔性シリカ膜を安定して製造することができないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−15309号公報
【特許文献2】特開2010−65174号公報
【特許文献3】特開2006−36598号公報
【特許文献5】特許第4437783号公報
【特許文献6】特表2004−511418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反射防止用途の多孔質シリカ膜を有する積層体としては、基材と多孔質シリカ膜との密着性が高く、可視光線透過率が高いものが求められているが、従来技術では両方を十分満足するものは無かった。
本発明の課題は、基材と多孔質シリカ膜との密着性が高く、可視光線透過率が高い、多孔質シリカ膜を有する積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の耐摩耗性を持つ積層体が、基材と多孔質シリカ膜との密着性が高いことを見出した。
また、Tgが200℃以下の透光性基材上に、屈折率1.20〜1.35の多孔質シリカ膜を積層させることにより、積層体の可視光線透過率が向上することを見出した。
また、多孔質シリカ膜形成工程において、鋳型材として有機ポリマーを使用し、有機ポリマーの抽出作業を行なうことにより、Tg200℃以下の透光性基材へ本発明の多孔質シリカ膜を形成することを可能にした。
【0008】
すなわち、本発明の第1の要旨は、Tgが200℃以下の透光性基材上に、屈折率が1.20〜1.35である多孔質シリカ膜を有する積層体であって、ミルスペックMIL−CCC−c−440に記載のチーズクロスを荷重500g/cmで前記多孔質シリカ膜表面上を20往復させる耐摩耗性試験において、前記積層体の可視光線透過率の変化量が、試験前の前記積層体の可視光線透過率に対して5%未満であることを特徴とする積層体に存する(請求項1)。
【0009】
本発明の第2の要旨は、Tgが200℃以下の透光性基材上に多孔質シリカ膜を有する積層体の製造方法であって、アルコキシシラン化合物、水、有機溶媒、および有機ポリマーを含む組成物をTgが200℃以下の透光性基材上に湿式塗布した後、前記有機ポリマーを抽出する工程を含むことを特徴とする多孔質シリカ膜を有する積層体の製造方法に存する(請求項4)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材と多孔質シリカ膜との密着性が高く、可視光線透過率が高い積層体を提供できる。上記のような高い密着性は高い耐磨耗性だけではなく、耐環境性試験により生じる局所的な多孔質シリカ膜の剥離、または膜歪の増大による膜のクラックを抑制できる。同時に剥離強度の向上に伴い、膜の清掃においても容易に汚れ拭き取りなどができ、易清掃の著しい向上が可能となる。
【0011】
また、本発明の積層体の製造に適した製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光学用途積層体(太陽電池用途)の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施できる。
1.多孔質シリカ膜積層体
本発明の積層体は、透光性基材上に多孔質シリカ膜を有する。
[耐摩耗性]
本発明の積層体は、ミルスペックMIL−CCC−c−440に記載のチーズクロスを荷重500g/cmで前記多孔質シリカ膜表面上を20往復させる耐摩耗性試験において、積層体の可視光線透過率の変化量が、試験前の積層体の可視光線透過率に対して5%未満であることを特徴とする。
【0014】
本発明の積層体は、上記の特定の耐摩耗性を有することにより、透光性基材と多孔質シリカ膜との密着性が良好となり、その結果、易接着層やハードコート層を必要とせず、生産しやすいという利点がある。
チーズクロスはミルスペックMIL−CCC−c−440に記載のチーズクロスと同等品を使用する。
【0015】
可視光透過率測定は、耐摩耗性試験を行なった部分のみを対象とする。
可視光透過率とは、波長380nm〜780nmまでの光の透過率を言う。測定には分光光度計や可視光線透過率計を用いることができる。
上記耐摩耗性試験前の積層体の可視光線透過率に対する、耐摩耗性試験における積層体
の可視光線透過率の変化量は、少ない方が好ましく、好ましくは3%以下、通常は0%以上である。
【0016】
[透光性基材]
基材はTg200℃以下の透光性基材を用いる。なお、透光性基材とは、所定の波長の光の透過性が高い基材をいうこととし、該波長は、透光性基材の用途に応じて適宜選択される。また、透光性基材は性能に影響を及ぼさない限り、散乱やヘーズを有していてもよい。なお、該波長は、可視光の範囲に限定されないが、レンズや、ディスプレイ、太陽電池、太陽熱発電などの光デバイス、建材や自動車の内外装の用途においては、可視光線領域の高い透過性が好ましい。通常は、全光線透過率が60%以上であるものが使用される。
【0017】
透光性基材の材料の例を挙げると、ポリメタクリル酸メチル、架橋アクリレート等のアクリル樹脂、ビスフェノールAポリカーボネート等の芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリシクロオレフィン等の非晶性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン等のスチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、イミド樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂などが挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)が好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を任意の組合せで用いることができる。
【0018】
本発明に用いられる基材の寸法は任意である。ただし、透光性基材として板状の基板を用いる場合には、当該基板の厚さは、機械的強度及びガスバリア性の観点から、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましく、0.1mm以上がより好ましい。また、当該厚さは、軽量化及び光線透過率の観点から、80mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましく、30mm以下がより好ましく、10mm以下がより好ましく、3mm以下が特に好ましい。さらに透光性基材の大きさとしては、光学的な効果を得る観点から0.1m以上が好ましく、0.5m以上がより好ましく、1m以上が特に好ましい。上限には特に制限はないが、通常100m以下が好ましく、50m以下がより好ましい。
【0019】
また、透光性基材の塗工面の中心線平均粗さも任意である。ただし、積層する多孔質シリカ膜の製膜性の観点から、当該中心線平均粗さは10nm以下が好ましく、8nm以下がより好ましく、5nm以下が更に好ましく、3nm以下が特に好ましい。中心線平均粗さは、JIS−B0601:1994に従った汎用の表面粗さ計(例えば、(株)東京精密社製サーフコム570A)により測定される。
【0020】
[多孔質シリカ膜]
<屈折率>
本発明の多孔質シリカ膜の屈折率は1.20以上1.35以下である。中でも、1.28以下がより好ましく、1.25以下が特に好ましい。また、1.23以上であることが好ましい。屈折率が大きすぎると、積層体の可視光線透過率が低下し、十分な光学効果が得られない。一方、屈折率が小さすぎると、積層体の可視光線透過率が低下し、多孔質シリカ膜(以下、「シリカ体」ということがある)の機械的強度が低下する可能性がある。
【0021】
Tgが200℃以下の透光性基材の屈折率は1.5前後になる材料が多く、低反射性を付与するためには、積層する膜の屈折率は1.20〜1.35が好ましい。
なお、屈折率は、分光エリプソメーター法、反射率測定、反射分光スペクトル測定或いはプリズムカプラーなどの光学的手法で測定された波長400nm〜700nmにおける値をいい、好ましくは分光エリプソメーターで測定されたものをいう。分光エリプソメー
ターで測定する場合、測定値をCauthyモデルまたはTauc−Lorentzモデルでフィッティングすることで、屈折率を見積もることができる。
【0022】
<組成>
多孔質シリカ膜中のシリカ含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に制限はないが、例えば、酸化ケイ素組成において、ケイ素を含む全ての陽性元素に対するケイ素の割合が、通常50mol%以上、好ましくは70mol%以上、より好ましくは80mol%以上、特に好ましくは90mol%以上であることをいう。前記のケイ素の含有割合が小さすぎると、シリカ系多孔質体の表面粗さが大きくなり、機械的強度も低下する可能性がある。また、ケイ素の含有割合が高いほど表面平滑性のよい多孔質シリカ膜が形成される。なお、上限は理想的には100mol%である。
【0023】
<多孔質構造>
本発明の多孔質シリカ膜は、屈折率を低く維持するために空孔を有した多孔質構造を有する。その構造は特に制限はなく、その空孔は、通常、トンネル状や独立空孔がつながった連結孔であるが、詳細な空孔の構造にも特に制限はない。ただし、当該空孔の構造としては連続的な空孔が好ましく、こうした連続的な空孔は電子顕微鏡により確認することができる。
【0024】
また、機械強度の高い骨格とするためには、規則構造を有さない方がよく、具体的には、XRDパターン(X線回折パターン)において、回折角(2θ)=0.5°〜10°の領域に、回折ピーク強度(面積)が標準偏差の2倍(即ち、2σ)以上の回折ピークを有さないことが好ましい。ここで、回折ピークとは、以下の定義により算出される周期構造サイズDが10Å以上となる回折ピークをいう。また、σは標準偏差を表わす。
【0025】
周期構造サイズDは、下記式(i)に示すScherrer式に基づき算出できる。なお、式(i)において、Scherrer定数Kは0.9であり、測定に用いたX線波長をλとする。ブラッグ角θおよび実測半価幅βoは、それぞれプロファイルフィティング法により算出する。試料由来の半価幅βは、下記式(ii)を用いて補正計算する。標準Siの回折ピークより計算した実測半価幅の回帰曲線を作成し、該当する角度の半価幅を読み取り装置由来半価幅βiとする。なお、Dの単位はÅ(オングストローム)であり、β、βo及びβiの単位はラジアンとする。
【0026】
【数1】

【0027】
【数2】

【0028】
標準偏差σは、以下のように定義される。
【0029】
【数3】

【0030】
また、空孔サイズや空隙率は調整することで、屈折率、誘電率、密度を調整することができ、それらを調整することで、光学用途の他にも、様々な用途にも応用することができる。
空孔サイズには特に制限はないが、平均空孔サイズは通常0.1〜300nmで、機械強度の優れた多孔質体となる。好ましくは0.5〜200nmが好ましく、0.8〜100nmがさらに好ましく、1〜80nmがもっとも好ましい。小さすぎると毛管力により空孔内に水蒸気が入り、それにより屈折率が変化したり、光学特性に影響を与える恐れがある。一方、大きすぎると、表面に欠陥ができ、表面性が悪化したり、散乱等のヘーズが生じる危険性がある。
【0031】
空隙率には特に制限はないが、平均空隙率は10〜90%が好ましく、平均空隙率は20〜85%がより好ましく、平均空隙率は30〜80%がさらに好ましい。小さすぎると屈折率が低くならず、十分な光学特性が得られない恐れがある。一方、大きすぎると、表面に欠陥ができ、表面性が悪化したり、散乱等のヘーズが生じる危険性がある。
<厚さ>
本発明の多孔質シリカ膜の厚さには特に制限はないが、光学機能層として用いるためには、0.05〜10μmが好ましく、0.08〜8μmがより好ましく、0.1〜5μmがさらに好ましく、0.13〜3μmがもっとも好ましい。0.05μmより薄いと、基材の平面度を向上させる必要がある場合があり、特に基材の大面積化の観点で、製膜工程が困難になる場合がある。一方、10μmを越えると、加熱工程において、シリカ系前駆体−基材界面でゾル−ゲル反応の進行が不均質になり、多孔質体に歪みが残存し易くなる可能性がある。
【0032】
<形状>
本発明の多孔質シリカ膜の形状は特に制限はないが、膜状であることが好ましい。多孔質シリカ膜の厚さは上記の膜厚と同様とすることができる。また、多孔質シリカ膜を光学機能層として使用する場合、多孔質シリカ膜は一定サイズ以上の基材に備えることが好ましい。即ち0.0025m以上が好ましく、0.05m以上がより好ましく、0.1m以上がさらに好ましく、1m以上がもっとも好ましい。かかるサイズより小さいと、光学特性が十分に現れない可能性がある。
【0033】
<表面性>
本発明の積層体は、用途に応じて、基材と多孔質シリカ膜との間に他の層を設けたり、多孔質シリカ膜上に他の層を積層することがある。こうした場合、多孔質シリカ膜表面の静的接触角を制御することが好ましく、具体的には、1時間の加熱処理後の水に対する静的接触角が、通常25°以上、中でも30°以上、特には33°以上であることが好ましく、また、通常90°以下、中でも87°以下、更には85°以下、特には82°以下が好ましい。前記の静的接触角が小さすぎると、シリカ体の親水性が高くなりすぎて、その表面に水分が吸着しやすくなり、他の層との密着性が低下する可能性がある。一方、前記の静的接触角が大きすぎると、シリカ体の表面が疎水状態となり、積層する層や基材の制限が大きくなる可能性がある。
【0034】
なお、前記の静的接触角は、以下の要領で測定できる。即ち、常温・常湿の雰囲気下で水滴の静的接触角を測定する。静的接触角は、水滴をシリカ体の表面に滴下させ、その際の水滴の接触角を測定する。測定は常温・常湿の雰囲気下で行ない、水滴サイズ2μlを滴下し、1分以内に測定、これを5回以上繰り返し、その平均値を前記の静的接触角として求める。
【0035】
<耐水性>
本発明の多孔質シリカ膜を光学用途に使用する場合には、光学膜厚(屈折率と膜厚の積)を制御することが重要であるため、水中に浸漬処理の前後での膜厚の変化が少ない方が好ましい。具体的には、水浸漬処理の前後での膜厚の変化率は、50%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましく、10%以下が特に好ましい。変化率が大きすぎると光学用途の適用において性能が低下する可能性がある。
【0036】
なお、膜厚の測定は、ケーエルエー・テンコール社製P−15型接触式表面粗さ計を用い、測定条件はスタイラス・フォース(触圧)0.2mg、スキャン速度10um/秒として行なえばよい。また分光エリプソメーター、反射分光スペクトル法、プリズムカプラによっても評価できる。
また、多孔質シリカ膜は、水浸漬処理した後にクラックが少ないものが好ましく、そのクラックは目視若しくは光学顕微鏡で観測できる。具体的には、クラックのサイズが100μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい、1μm以下がさらに好ましい。100μmを越えると基材との密着性の低下やヘーズが大きくなる可能性がある。さらに1mm×1mm内に前記クラックが存在しない領域の面積合計がシリカ体表面に対して50%以上であることが好ましく、70%以下がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。50%未満の場合、光学用途として光学性能の安定性や外観が低下する可能性がある。
【0037】
水浸漬処理とは、多孔質シリカ膜を常温・常湿(温度18℃〜28℃、湿度20%〜80%RH)の条件下で水に浸し、24時間後に取り出し、乾燥させる。乾燥は、100℃以上の加熱で行わず、風乾により行なう
また、耐湿熱性の評価として、「高温高湿処理」もある。即ち、本発明のシリカ体の波長550nmにおける屈折率n1を事前に測定した後、このシリカ体を温度85℃、湿度85%RH、又は温度60℃、湿度90%RHの条件下に静置し、500時間後に取り出す。その後、この多孔質シリカ膜の波長550nmにおける屈折率n2を再度測定する。このときの屈折率差の絶対値Δn´=|n2−n1|は0.001〜0.15が好ましく、0.003〜0.12がより好ましく、0.005〜0.1が更に好ましく、0.008〜0.08が特に好ましい。
【0038】
2.多孔質シリカ膜の製造方法
本発明の多孔質シリカ膜の製造方法において用いる組成物には、アルコキシシラン化合物、水、有機溶媒、有機ポリマーが含まれる。
特に組成物が、2種以上のアルコキシシラン、その加水分解物及び部分縮合物と、水と、有機溶媒と、鋳型剤と触媒とを含み、該組成物中の全アルコキシシラン類由来の珪素原子に対する水の割合(mol/mol)が10以上50以下であることが好ましい。以下に詳細を述べる。
【0039】
2−1.組成物
2−1−1.アルコキシシラン
本発明で使用するアルコキシシランとしては、テトラアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシラン、これらの加水分解物及び部分縮合物(オリゴマー等)などが挙げられる。
【0040】
アルコキシシランは、2種以上併用することが好ましく、また、これらのアルコキシシランの加水分解物及び部分縮合物を含むことが好ましい。
〔テトラアルコキシシラン〕
テトラアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(t−ブトキシ)シラン、テトラ(n−ペントキシ)シラン、テトラ(イソペントキシ)シランなどが挙げられる。
【0041】
粗乾燥工程におけるシリカ系前駆体の安定性の観点では、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシラン並びにそれらのオリゴマーが好ましく、テトラエトキシシランがさらに好ましい。
ただし、テトラアルコキシシランは経時的に加水分解及び部分縮合を生じやすいため、テトラアルコキシシランのみを用意した場合でも、通常はそのテトラアルコキシシランの加水分解物及び部分縮合物がテトラアルコキシシランと共存することが多い。
【0042】
〔モノアルキルトリアルコキシシラン〕
モノアルキルトリアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリ−n−プロポキシシラン、トリイソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリ−n−プロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、イソプロピルトリ−n−プロポキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロエチルトリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、ヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン、トリエトキシ−1H、1H、2H、2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン。
また、ケイ素原子に置換するアルキル基が反応性官能基を有する3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3-ジ
メチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシ
シラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3−カルボキシプロピルトリメトキシシラン、3−トリハイドロキシシリル−1−プロパン-スルフォン酸等がある。
【0043】
〔ジアルキルジアルコキシシラン〕
ジアルキルジアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルジ−n−プロポキシシラン、メチルジイソプロポキシシラン、エチルジメトキシシラン、エチルジエトキシシラン、エチルジ−n−プロポキシシラン、エチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジ−n
−プロポキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルエトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルジイソプロポキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルエトキシシラン、ジイソプロピルジ−n−プロポキシシラン、ジイソプロピルジイソプロポキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルエトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジメトキシシラン、ジ−sec−ブチルエトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−sec−プロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジイソプロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジメトキシシラン、ジ−tert−ブチルエトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジイソプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−プロポキシシラン、ジフェニルジイソプロポキシシラン等がある。また、ケイ素原子に置換するアルキル基が反応性官能基を有するN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等がある。
【0044】
〔トリアルキルアルコキシシラン〕
トリアルキルアルコキシシランの種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリ−n−プロピルメトキシシラン、トリ−n−プロピルエトキシシラン等がある。
〔他のアルコキシシラン〕
他のアルコキシシランを挙げると、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,3,5−トリス(トリメトキシシリル)ベンゼン等の有機残基が2つ以上のトリアルコキシシリル基を結合したものがある。
【0045】
アルコキシシランの中でも、多孔質構造の骨格を強固にするためには、テトラアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシランが好ましく、テトラアルコキシシランがより好ましい。
さらに、多孔質膜の耐環境性の観点では、芳香族炭化水素基又は脂肪族炭化水素基を有するモノアルキルトリアルコキシシラン及びジアルキルジアルコキシシランが好ましい。具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエチルシランなどが好ましいものとして挙げられる。
【0046】
〔好ましい組み合わせ〕
アルコキシシランを2種以上併用する場合、ゾル−ゲル反応の制御という観点では、その組み合わせとしては、テトラアルコキシシランとモノアルキルトリアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシラン同士が好ましい。
基材への濡れ性の観点では、テトラアルコキシシランとジアルキルジアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシランとジアルキルジアルコキシシランが好ましい。
【0047】
膜の平滑性向上の観点からは、3種以上のアルコキシシランを用いることが好ましい。
〔アルコキシシランの比率〕
2種以上のアルコキシシランを併用する場合、その配合比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限はない。2種のアルコキシシランを併用する場合、例えば、形成されるシリカ体の耐水性の観点から、アルコキシシランのケイ素原子換算で、2:8〜5:5が好ましく、3:7〜5:5がより好ましく、4:6〜5:5がもっとも好ましい。
【0048】
さらに、多孔質構造の骨格を強固する観点では、テトラアルコキシシランを含むことが
有効であり、テトラアルコキシシラン由来のケイ素原子の、全アルコキシシランのケイ素原子に対する割合が、通常0.15(mol/mol)以上、好ましくは0.3(mol/mol)以上、より好ましくは0.35(mol/mol)以上であり、また、通常0.9(mol/mol)以下、好ましくは0.8(mol/mol)以下、より好ましくは0.7(mol/mol)以下である。
【0049】
ここで、全アルコキシシランのケイ素原子とは、組成物に含有される全てのアルコキシシランが有するケイ素原子の数の合計をいう。したがって、組成物がアルコキシシラン以外にケイ素原子を有する化合物を含有していたとしても、当該化合物が有するケイ素原子は前記の割合の算出には関与しない。なお、前記のアルコキシシランのケイ素原子の割合は、Si−NMRにより測定することができる。
【0050】
組成物中に、ケイ素を含有する化合物(ケイ素原子含有化合物)は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上含有されていることが好ましく、また通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下含有されていることが好ましい。0.01重量%を下回ると、加熱工程において多孔質体の表面性が悪化し、外観不良になる恐れがある。一方、50重量%を越えると基材の平面性の影響を受けやすくなり、製膜工程におけるゾル−ゲル反応が面方向で不均一になる恐れがある。
【0051】
また、得られる多孔質シリカ膜の膜厚制御の観点から、前記ケイ素原子含有化合物や下記に説明する鋳型材などを含む固形分濃度は通常0.02重量%以上であり、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。また通常50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、35重量%以下がさらに好ましい。
2−1−2.水
本発明で用いる組成物は水を含有する。水はゾル−ゲル反応においては必須であるが、本発明では組成物の表面張力を制御し、製膜工程において良質なシリカ系前駆体を形成する上で重要な役割をする。用いる水の純度には特に制限はないが、通常は、イオン交換及び蒸留のうち、いずれか一方または両方の処理を施した水を用いればよい。ただし、例えば光学用途積層体のような微小不純物を特に嫌う用途分野に、得られたシリカ体を用いる場合には、より純度の高い多孔質シリカ膜が望ましいため、蒸留水をさらにイオン交換した超純水を用いることが好ましい。また、不純物の中でも100nm以上のコンタミはシリカ系組成物におけるゾル−ゲル反応の進行に影響を与える恐れがある。例えば0.01μm〜0.5μmの孔径を有するフィルターを通した水を用いればよい。
【0052】
水の使用量として、全アルコキシシランのケイ素原子に対する水の割合が、通常10(mol/mol)以上、好ましくは11(mol/mol)以上、より好ましくは12(mol/mol)以上とする。また、30(mol/mol)以下、20(mol/mol)以下とする。全アルコキシシランのケイ素原子に対する水の割合が前記の範囲よりも小さいと、ゾル−ゲル反応のコントロールが難しく、ポットライフも短く、また、不均質な状態で膜が形成され、表面が荒れて耐摩耗性が劣る可能性がある。また、前記の範囲よりも大きいと、ゾル−ゲル反応が進みにくくなるため反応に時間がかかってしまうため耐水性が低下する可能性がある。なお、水の量は、カールフィッシャー法(電量滴定法)により算出できる。
【0053】
2−1−3.有機溶媒
本発明で用いる組成物は有機溶媒を含有する。溶媒としてはアルコール類が最も適している。アルコール類は、前記アルコキシシラン、その加水分解物、さらには部分縮合物に対して親和性を有するため、多孔質体形成中のゾル−ゲル反応を均質に進行させるために
好ましい。さらに製膜工程に生じる気−液(組成物)界面、固(基材)−液(組成物)界面において安定した状態を保つことで、良質なシリカ系前駆体をえることができる。
【0054】
アルコール類の種類に制限は無い。好適なものの例を挙げると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、2−エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの1価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの2価アルコール、グリセリンなどの3価アルコール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、などが挙げられる。なお、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0055】
これらの中でも、含有するアルコキシシランの加水分解反応の進行の観点から1価アルコール、2価アルコールが好ましく、1価アルコールがより好ましい。
また、得られるシリカ体の表面性の観点から、メタノール、エタノール、1−プロパノール、t−ブタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、エチルアセテート、酢酸メチル、イソブチルアセテートなどが好ましい。したがって、これらの中から選ばれる少なくとも2種を用いることが好ましい。
【0056】
また、製膜工程におけるシリカ系前駆体の構造形成を容易にし、基材との濡れ性向上の観点から、沸点は110℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、t−ブタノール、2−プロパノールなどが好ましい。
一方、加熱工程において多孔質構造の変形を抑制する観点から、沸点は100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がより好ましい。例えば、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノールが好ましい。
【0057】
さらに上記の沸点が異なるアルコール類を混合してもよく、その際、各工程における共沸を抑制するために、組み合わせるアルコール類の沸点の差は5℃以上であることが好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。また、全アルコール類に対する高沸点側のアルコール類の割合は、通常5重量%以上であり、好ましくは10重量%以上、より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは80重量%以上とする。なお、当該割合の上限は通常98重量%である。上限を超えると、得られる多孔質シリカ膜の表面性が低下する恐れがあり、下限を下回ると十分な効果が得られない危険性がある。
【0058】
本発明で用いるシリカ系組成物には上記アルコール類以外の有機溶媒を含有してもよい。基材との濡れ性や製膜工程における造膜性をより向上させるために、アルコール類以外の有機溶媒を用いることができる。
好適な有機溶媒の例を挙げると、酢酸メチル、エチルアセテート、イソブチルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエーテル類またはエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−アセチルモルホリン、N−ホルミルピペリジン
、N−アセチルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルピロリジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジアセチルピペラジン等のアミド類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;テトラメチルウレア、N,N’−ジメチルイミダゾリジン等のウレア類;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0059】
また、有機溶媒全体の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、通常0.05重量%以上、中でも0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。また、通常50重量%以下、中でも40重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。有機溶媒の使用量が少なすぎても、多すぎても十分な効果を得られない可能性がある。
【0060】
2−1−4.有機ポリマー
本発明の製造方法で用いる組成物は鋳型材として有機ポリマーを含有する。有機ポリマーを含有する組成物を基材に塗布してシリカ系前駆体を形成した後、抽出工程で有機ポリマーの全部または一部を除去することで、多孔質構造を有するシリカ膜が得られる。
多孔質構造形成の観点から有機ポリマーの重量平均分子量は、通常500以上であり、1,000以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、5,000以上が特に好ましい。重量平均分子量が小さすぎると、多孔質シリカ膜の多孔度を高く維持することが困難な場合があり、低屈折率ナ多孔質シリカ膜を安定して製造することができない可能性がある。一方、重量平均分子量の上限に制限はないが、通常100,000以下、好ましくは70,000以下、より好ましくは40,000以下である。重量平均分子量が大きすぎると組成物が増粘し、造膜性が低下する可能性がある。
【0061】
有機ポリマーの種類は本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリレート系高分子、ポリアンハイドライド系高分子、ポリエーテル系高分子、ポリカーボネート系高分子、ポリエステル系高分子等の有機高分子が挙げられる。
(メタ)アクリレート系高分子は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、それらの誘導体より構成される。具体例として、ジエチレングリコールアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、アクリルアミド、ビニルピリジン、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジエチレングリコールメタクリレート、ジプロピレングリコールメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、アミルアクリレート、2−メトキシプロピルアクリレート、2−エトキシプロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、アミルメタクリレート、2−メトキシプロピルメタクリレート、2−エトキシプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、等が挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
ポリアンハイドライド系高分子は、炭素数2以上の脂肪族ジカルボン酸から得られる。具体例として、ポリマロニックアンハイドライド、ポリスクシニックアンハイドライド、ポリオキサリックアンハイドライド、ポリグルタリックアンハイドライド等、それらのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
ポリエーテル系高分子は、炭素数2以上のポリアルキレングリコール化合物から構成される。具体例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメ
チレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリペンタメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールブロック共重合体等、それらのメチルエーテル、エチルエーテル;ポリエチレングリコールモノ−p−メチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノ−p−エチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノ−p−プロピルフェニルエーテル、それらのメチルエーテル、エチルエーテル;ポリエチレングリコールモノペンタン酸エステル、ポリエチレングリコールモノヘキサン酸エステル、ポリエチレングリコールモノヘプタン酸エステル、それらのメチルエーテル、エチルエーテル等が挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
ポリカーボネート系高分子は、炭素数2以上の脂肪族ポリカーボネートであり、具体例として、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、ポリペンタメチレンカーボネート、それらのメチルエーテル、エチルエーテルが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリエステル系高分子は炭素数2以上の脂肪族鎖及びエステル結合からなる化合物で構成されている。具体例として、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンマロネート、ポリエチレンスクシネート、ポリエチレングリタレート、ポリプロピレンオキサレート、ポリプロピレンマロネート、ポリプロピレンスクシネート、ポリプロピレングリタレート、これらのメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル等が挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
シリカ体のポットライフ、製膜工程におけるシリカ体の安定性の観点から、(メタ)アクリル系高分子、ポリエーテル系高分子が好ましく、ポリエーテル系高分子がより好ましい。中でも加水分解基含有シランとの親和性の観点から、ポリエーテル系高分子を構成する繰り返し単位のアルキレングリコール化合物の炭素数2〜4が好ましく、2若しくは3がより好ましい。
【0066】
さらにシリカ系前駆体の構造を製膜工程から加熱工程まで安定に維持するためには、炭素数の異なるアルキレングリコール化合物を組み合わせた共重合体が好ましい。この際、炭素数の短い、つまり加水分解基含有シランのシラノール基との親和性の高いアルキレングリコール化合物の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常20重量%以上、好ましくは23重量%以上、より好ましくは25重量%以上であり、また、通常100重量%以下、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下である。上記の範囲に収まることで、加水分解基含有シランのゾル−ゲル反応中において形成される加水分解基含有シランの加水分解物や縮合物に対して、鋳型材がさらに安定に存在することができる。
【0067】
組成物に含有される有機ポリマーは、0.1重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、1.2重量%以上がさらに好ましく、1.4重量%以上が特に好ましい。これは製膜工程における加水分解基含有シランのゾル−ゲル反応を安定にし、製造することができる。上限値に制限はないが、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下が特に好ましい。上限値を超えると組成物が増粘し、造膜性が低下する可能性がある。
【0068】
2−1−5.界面活性剤
本発明で用いる組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限りは界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤とは公知の何れを用いることができる。特に基材の大面積化においては、添加することで造膜性が著しく向上する場合がある。その種類、組み合わせ、比
率には特に制限はなく、以下の2種以上の界面活性剤を用いてもよい。具体的な例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソブチレングリコールなどのノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、親油基がフッ化炭素基のフッ素系界面活性剤、親油基がシロキサン鎖のシリコーン系界面活性剤、親油基がアルキル基の界面活性剤等から2種以上が選択されることが好ましく、中でもノニオン系界面活性剤とフッ素系界面活性剤(特にパーフルオロアルキル基を含有するもの)との組合せ、及びノニオン系界面活性剤とシリコーン系界面活性剤(特にシロキサン結合を含有するもの)との組合せから選択されることが好ましい。これらの界面活性剤の親水基は、例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等が好ましい。またポリエーテル、ポリグリセリン等も好ましい。
【0069】
フッ素系界面活性剤として、例えば、ヘキサエチレングリコール(1,1,2,2,3,3−ヘキサフロロペンチル)エーテル、1,1,2,2−テトラフロロオクチル(1,1,2,2、−テトラフロロプロピル)エーテル、パーフロロドデシルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
またシリコーン系界面活性剤として、例えばSH21シリーズ、SH28シリーズ(東レ・ダウコーニング株式会社)などが挙げられる。
【0070】
また、全加水分解基含有シランのケイ素原子に対する界面活性剤の割合として、得られるシリカ体の表面性の観点から、通常0.001(mol/mol)以上、好ましくは0.002(mol/mol)以上、より好ましくは0.003(mol/mol)以上、また、通常0.05(mol/mol)以下、好ましくは0.04(mol/mol)以下、より好ましくは0.03(mol/mol)以下となるようにする。
【0071】
2−1−6.触媒
組成物には触媒を含有していてもよく、例えば上述したアルコキシシランの加水分解および脱水縮合反応を促進させる物質を任意に用いることができる。
その例を挙げると、フッ酸、燐酸、ホウ酸、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、ステアリン酸、リノレイン酸、安息香酸、フタル酸、クエン酸、コハク酸などの酸類;アンモニア、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類;ピリジンなどの塩基類;アルミニウムのアセチルアセトン錯体などのルイス酸類;などが挙げられる。
【0072】
また、触媒の例としては、金属キレート化合物も挙げられる。この金属キレート化合物の金属種としては、例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン等が挙げられる。金属キレート化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
アルミニウム錯体としては、例えば、ジ−エトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−イソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテー
ト)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物等を挙げることができる。
【0073】
チタン錯体としては、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等を挙げることができる。
【0074】
上述したものの中でも、アルコキシシラン化合物の加水分解および脱水縮合反応をより容易に制御するためには、酸類若しくは金属キレート化合物が好ましく、酸類がさらに好ましい。
なお、触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0075】
触媒の使用量は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、アルコキシシランに対して、通常0.001mol倍以上、中でも0.003mol倍以上、特には0.005mol倍以上が好ましく、また、通常0.8mol倍以下、中でも0.5mo
l倍以下、特には0.1mol倍以下が好ましい。触媒の使用量が少なすぎると加水分解反応が適度に進まず、製造後にシリカ体中にシラノール基などの活性基が残存しやすくなり、シリカ体の耐水性が低下する可能性があり、多すぎると反応制御が困難になり、製造中に触媒濃度が更に高くなることで、シリカ体の表面性が低下する可能性がある。
【0076】
また、造膜性の観点で組成物のpHが6以下であることが好ましい。より好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。この範囲にすることで製造時に基材の表面改質を同時に行うことができ、より造膜性が向上する傾向になる。
2−1−7.その他
本発明で用いる組成物には、上述したアルコキシシラン化合物、水、有機溶媒、触媒、鋳型材以外の成分を含有していても良い。また、当該成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0077】
2−2.組成物の調製
上述した組成物を構成する各成分を混合して、組成物を調製する。この際、各成分の混合の順番に制限は無い。また、各成分は、全量を一回で混合しても良く、2回以上に分けて連続又は断続的に混合しても良い。
ただし、従来、制御困難とされているゾル−ゲル反応を制御して、組成物をより工業的に調合するためには、以下の要領で混合することが好ましい。即ち、アルコキシシラン、水及び溶媒を混合し、その混合物を一定のゾル−ゲル反応(熟成)させることでアルコキシシランをある程度加水分解及び脱水重縮合させる。そして、その混合物に鋳型材を混合して組成物を調合する。これにより、ゾル−ゲル反応条件下で、アルコキシシランと鋳型材との親和性を維持することができる。なお、熟成は前記の混合物と鋳型材とを混合した後で行なってもよい。
【0078】
前記熟成の際、アルコキシシランの加水分解・脱水重縮合反応を進めるためには、加熱することが好ましい。加熱条件として、用いる溶媒の沸点を超えなければ、特に制限は無いが、通常30℃以上、中でも40℃以上、50℃以上とすることがさらに好ましく、55℃以上とすることがもっとも好ましい。加熱温度が低すぎると反応時間が長くなり、十分なゾル−ゲル反応が進まず、アルコキシシランと鋳型材との親和性が得られない可能性がある。一方、加熱温度の上限は、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。90℃を超えると組成物中の鋳型材の分子運動が激しくなり、上記同様、アルコキシシランと鋳型材との親和性が制御できなくなる可能性がある。
【0079】
また、加熱を伴う熟成時間に制限は無いが、通常10分以上、好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上、また、通常20時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは8時間以下、さらに好ましくは4時間以下である。熟成時間が短すぎると均一に反応を進めることが難しくなる可能性があり、長すぎると熟成温度を低くする必要があり、十分なゾル−ゲル反応が進まず、アルコキシシランと鋳型材との親和性が得られない可能性がある。
【0080】
さらに、熟成時の圧力条件に制限は無いが、通常は常圧で熟成を行なうことが好ましい。圧力が変化すると溶媒の沸点も変化し、熟成中の溶媒が揮発(蒸発)することで、組成比が変化して、シリカ系組成物の安定性が低くなる可能性がある。
また、熟成後、塗布工程前に用いる組成物は有機溶媒を更に混合して希釈することが好ましい。これにより、組成物内でのゾル−ゲル反応速度を低下させることができ、組成物のポットライフを長く維持することが可能となる。また、多孔質シリカ膜の製造における歩留まりの観点では、加熱を伴わない熟成を行うことが好ましい。加熱を伴わない熟成は、組成物の調製後に行ってもよい。
組成物のポットライフの観点では、中和工程を行ったり、触媒除去工程を行ってもよい。
【0081】
2−3.多孔質シリカ膜を有する積層体の製造方法
本発明の多孔質シリカ膜の製造方法では、アルコキシシラン、水、有機溶媒、有機ポリマーを含む組成物をTg200℃以下の透光性基板上に塗布し、有機ポリマーの抽出工程を経て多孔質シリカ膜を有する積層体を得ることを特徴とする。
本発明においては、上記組成物を用い、さらに、上記の抽出工程を経ることから、屈折率が1.20〜1.35以下と低く、かつ透光性基材との密着性に優れた多孔質シリカ膜を有する積層体を製造することができる。
【0082】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
2−3−1.製膜工程
本発明の多孔質シリカ膜を有する積層体の製造方法では、前述の組成物をTg200℃以下の透光性基材上に展開することで、シリカ系前駆体を製造する。
[製膜方法]
本発明において、その製膜方法に特に制限はなく、例えば、スプレーコーター、ダイコーター、バーコーター、テーブルコーター、アプリケーター、ドクターブレードコーター、ディップコーター、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。
【0083】
特に、製膜時のゾル−ゲル反応を組成物の組成に依らず、安定した状態でシリカ系前駆体とするためには、組成物の吐出部と基材との距離を制御し、さらに該組成物を流延することが好ましい。吐出部と基材からできる限られた空間の中で膜化することで、一定の環境下でゾル−ゲル反応を進めることができ、均質なシリカ系前駆体を形成できる。具体的には組成物の吐出部と基材との距離は100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、70μm以下がさらに好ましく、50μm以下がもっとも好ましい。100μmを超えると、吐出部周辺と基材周辺でゾル−ゲル反応の進行に違いが生じ、ウェット状態で膜中に対流が発生するため、安定してシリカ体を得ることができない傾向がある。一方、下限としては0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましく、0.8μm以上がもっとも好ましい。0.1μmを下回ると組成物への流延時のシェアが大きくなり、ゾル−ゲル反応が安定に進まない恐れがある。
【0084】
さらに、光学機能層として信頼性の高い膜厚制御を広範囲(大面積)で実現するためには、ダイコーター、バーコーター、テーブルコーター、アプリケーター、ドクターブレードコーターなどが好ましく、ダイコーターがより好ましい。
ダイコート法により製膜する場合、溶液供給点よりシリカ系組成物を一定流量で供給し、それをスリットを経てダイリップより吐出することにより基材表面上にシリカ系前駆体を形成させるもので、基材を一定速度で搬送させることにより、目的とする多孔質シリカ膜を形成し得るものである。
【0085】
スリットの幅には特に制限はないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、また、通常、100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下である。下限値を下回るとコンタミにより目詰まりを起こす恐れがあり、上限値を超えると均一な膜を製膜できない恐れがある。
ダイリップ(スリット)と基板との間隔(距離)であるGapには特に制限はないが、通常、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上、また、通常、100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下の範囲にすることにより、良質なシリカ系前駆体を得ることができる。
【0086】
吐出する流量には特に制限はないが、通常、1〜100cc/分、好ましくは1〜50
cc/分、より好ましくは1〜20cc/分、さらに好ましくは2〜10cc/分、もっとも好ましくは3〜6cc/分である。下限値を下回ると流延時のスリット速度精度を厳密にしなければいけなくなるため、基材の大面積化が難しくなる傾向がある。一方、上限値を超えるとシリカ系組成物に対流が生じ、安定なウェット膜を形成することができなくなる場合がある。
【0087】
塗工速度には特に制限はないが、通常、5〜300mm/秒、好ましくは10〜200mm/秒、より好ましくは20〜100mm/秒、さらに好ましくは30〜80mm/秒、もっとも好ましくは40〜60mm/秒である。下限値を下回ると製膜工程におけるシリカ系前駆体の流延条件を精密に制御しなければならず、生産性を損なう恐れがあり、上限値を超えると製膜工程においてシリカ系前駆体にせん断応力がかかり、鋳型材とシリカ成分とで構成される構造を破壊する恐れがある。
【0088】
塗工停止時間には特に制限はないが、通常、0.1〜3秒、好ましくは0.1〜2秒、より好ましくは0.2〜1秒、さらに好ましくは0.2〜0.8秒、もっとも好ましくは0.3〜0.6秒である。下限値を下回ると透光性基材とシリカ系前駆体の界面状態が安定せず、透光性基材との密着性が低下したり、膜表面のレベリングが進まず、膜の外観が悪化する恐れがあり、上限値を超えると基材とシリカ系前駆体の界面でのゾル−ゲル反応が進行しすぎてしまい、流延時に局所的な欠陥が生じる恐れがある。
【0089】
塗工距離には特に制限はないが、通常、0.05〜500m、好ましくは0.1〜300m、より好ましくは0.5〜100m、さらに好ましくは0.8〜50m、もっとも好ましくは1〜5mである。下限値を下回ると製膜工程における流延初期の不安定な状態を前駆体全体に及ぼす恐れがあり、上限値を超えると組成物中の局所的な不均一構造が得られる多孔質シリカ膜の表面性に影響を与える恐れがある。
【0090】
ダイリップと基板支持台の水平出し精度は、通常、±5μm以下、好ましくは±2μm以下、より好ましくは±1μm以下とすることで再現性よく塗布することができる。
使用し得るダイの形状としては、溶液等を横方向に均一に分配し得るものであれば特に制限はない。例としては、一般のフィルムキャスティング時に使用されるTダイ形状のもの、あるいはフィッシュテイルダイ形状のもの、あるいはコートハンガーダイ形状のもの等が挙げられる。さらには、ダイ横方向への分配をより均一にしやすくするために、ダイリップ間隔の調整機構を有するものであることが望ましい。
【0091】
製膜時のウェット膜厚には特に制限はないが、通常、0.1〜100μmであり、0.5〜80μmが好ましく、1〜55μmがより好ましく、5〜40μmがさらに好ましく、10〜25μmがもっとも好ましい。この範囲を超えると製膜工程における組成物のゾル−ゲル反応の進行を制御することが難しくなり、基材との濡れ性の影響を受けやすくなったり、それに伴い膜のレベリング効果が劣り、膜の外観が悪化する恐れがある。
【0092】
例えば、ダイコートの場合、該ウェット膜厚は吐出液量と基板の移動速度で制御する機構が好ましく、通常、5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、また、通常、60μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下の範囲にすることにより、塗布ムラの少ない均一な多孔質シリカ膜を得ることができる。
<製膜工程の環境>
製膜工程を行う際の相対湿度には特に制限はないが、相対湿度を制御することによりさらに安定した連続コーティングが可能となる。
【0093】
例えば、相対湿度が通常20%RH以上、好ましくは25%RH以上、より好ましくは30%RH以上、さらに好ましくは35%RH、また、通常85%RH以下、好ましくは
80%RH以下、より好ましくは75%以下RHの環境下においてシリカ系前駆体の製膜を行なうようにすることが好ましい。
製膜工程を行なう際の温度に制限は無いが、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上、もっとも好ましくは25℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さら好ましくは60℃以下、もっとも好ましくは50℃以下である。シリカ系前駆体を製造する際の温度が低すぎるとゾル−ゲル反応の進行が遅くなり、均質なシリカ系前駆体を得られない恐れがあり、高すぎると縮合反応が急速に起こることで、未加水分解のアルコキシシランが多く残存することで、多孔質シリカ膜の耐久性に影響を与える恐れがある。
【0094】
さらに、製造工程を行う際のクリーン度には特に制限はないが、基材上に存在するコンタミを核とした膜欠陥や核周辺でのゾル−ゲル反応の進行を抑制する観点から、通常、塵埃径0.5μm以上の塵埃数3,000,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましく、5,000以下がさらに好ましい。
また、製造工程における雰囲気に制限は無い。例えば、空気雰囲気中でシリカ系前駆体の製膜を行なっても良く、例えばアルゴン等の不活性雰囲気中でシリカ系前駆体の塗布を行なってもよい。
【0095】
<前処理>
本発明の製造方法では、組成物を透光性基材上に塗布するのに先立って、組成物の濡れ性、製造されるシリカ系前駆体の密着性の観点から、透光性基材に表面処理を施しておいてもよい。そのような透光性基材の表面処理の例を挙げると、シランカップリング処理、コロナ処理、UVオゾン処理、プラズマ処理などが挙げられる。また、表面処理は、1種のみを行なってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行なってもよい。なお、シランカップリング処理として、後述するシリル化剤を用いることもできる。
【0096】
また、製造工程は一回で行なってもよいが、二回以上に分けて行なってもよい。例えば、後述する粗乾燥工程を介して、製造工程を二回以上行なうようにすれば、積層構造を有する多孔質シリカ膜を形成することが可能である。これは、例えば屈折率が異なる層を積層したい場合などに有用である。
<後処理>
本発明の製造方法では、上述の製膜工程の後に、シリカ系前駆体中のアルコール類または触媒を除去することを目的として、シリカ系前駆体を粗乾燥させる粗乾燥工程を行なってもよい。粗乾燥工程を行なうことで、シリカ系前駆体中のアルコール類や水や触媒が除去されることで、前駆体中に存在する鋳型材とシリカ成分が安定した状態で構造を形成し、シリカ系前駆体の構造を安定化することができる。
【0097】
粗乾燥工程における粗乾燥の手法は制限されない。例えば加熱乾燥、減圧乾燥、通風乾燥等が挙げられる。これらは1種を単独で実施してもよく、2種以上を組み合わせて実施してもよい。
粗乾燥の手段も任意である。例えば粗乾燥を加熱乾燥により行なう場合、加熱乾燥の手段の例として、ホットプレート、オーブン、赤外線照射、電磁波照射等が挙げられる。また通風加熱乾燥の手段としては、例えば送風乾燥オーブン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0098】
粗乾燥時の温度は制限されないが、通常は室温以上であることが好ましい。特に加熱乾燥を行なう場合、その温度は通常20℃以上、好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上、もっとも好ましくは60℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下、もっとも好ましくは100℃以下の範囲が望ましい。なお、加熱乾燥時の温度は一定でもよいが、変動してもよい。
【0099】
粗乾燥時の圧力も制限されないが、特に減圧乾燥を行なう場合、通常は常圧以下、好ましくは10kPa以下、より好ましくは1kPa以下がより好ましい。
粗乾燥時の湿度も制限されないが、シリカ系前駆体の吸湿を防ぐため、通常は60%RH程度以下とすることが望ましく、好ましくは常圧で30%RH以下、或いは真空状態(湿度0%RH)とすることが望ましい。
【0100】
粗乾燥時の雰囲気も制限されず、大気雰囲気でも、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気でも、真空雰囲気でもよい。これらはシリカ系前駆体の特性等を考慮して選択すればよい。但し、通常はクリーンな雰囲気であることが好ましい。
粗乾燥時間も制限されず、シリカ系前駆体中のアルコール類や水や触媒が除去できれば任意であるが、粗乾燥時の温度・圧力・湿度等の条件や、組成物中に含まれるアルコール類や溶媒の沸点、プロセス速度、シリカ系前駆体の特性等を考慮して決定することが好ましい。通常1秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは1時間以上、また、通常100時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは3時間以下の範囲が望ましい。
【0101】
2−3−2.酸・塩基処理工程
上述した製膜工程の後に、シリカ系前駆体を酸または、塩基と接触させることもできる。この工程により、シリカ系前駆体のアルコキシシラン類の加水分解縮合反応を促進させ、シリカ系前駆体の構造体を維持して安定した多孔質膜を形成できて、好ましい。接触させる好ましい酸としては、塩化水素、ぎ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸などの気化しやすい酸類が挙げられる。また、好ましい塩基としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン,トリメチルアミン、アチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等、が挙げられる。
【0102】
シリカ系前駆体を酸または塩基と接触させる方法としては、酸または塩基の液体又は溶液もしくは蒸気が用いられる。また、後述する抽出工程で使用する有機溶媒に酸または塩基を溶解し抽出工程と同時に接触させることもできる。
また、酸・塩基処理の際に加熱を行なってもよい。加熱温度は、通常室温以上40℃以上100℃以上で、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは120℃以下である。
【0103】
アルカリ接触処理を行なう時間は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常30秒以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、また、通常5時間以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下である。
アルカリ処理を行なう際の圧力は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、減圧環境としてもよく、加熱工程では、圧力を、通常0.2MPa以下、好ましくは0.15MPa以下、より好ましくは0.1MPa以下とする。一方、圧力の下限に制限は無いが、通常10−4MPa以上、好ましくは10−3MPa以上、より好ましくは10−2MPa以上である。圧力が低すぎるとアルコキシシランのゾル−ゲル反応よりもアルコール類の揮発が進行し、吸湿性の高い多孔質シリカ膜となりやすく、光学特性の環境依存性に影響を与える恐れがある。
【0104】
2−3−3.抽出工程
上述した製膜工程の後に、シリカ系前駆体を溶剤と接触させることで、シリカ多孔質体とする鋳型材の抽出工程を行なう。溶剤との接触により、鋳型材をアルコキシシランからなるシリカ成分により形成された構造から、鋳型材を除去することで、多孔質構造を得ることができる。さらに得られた多孔質シリカ膜は低い屈折率を有するため、高い光学特性が実現される。
【0105】
抽出に使用する溶剤としては、特に制限されないが、鋳型材と親和性の高い物質がよい。親和性の高い溶剤であれば、鋳型材を溶解しやすく、シリカ成分により形成された構造から鋳型材を除去しやすいためである。溶剤としては、極性溶剤が好ましく、中でも一価アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、アミド類の1種
、又は2種以上の親水性溶剤が好ましい。2種類以上の親水性溶剤を組み合わせる際は、混合して用いても、それぞれの溶媒で単独に処理して組み合わせることもできる。さらには、同種の処理液を繰り返し作用させることもできる。
【0106】
抽出方法は特に制限されない。例えばシリカ系前駆体を溶剤中に浸漬すること、表面を溶剤で洗浄すること、溶剤を噴霧すること、蒸気を吹きつけることなどが挙げられる。また、前駆体を溶剤に浸漬して、超音波を利用したり、溶剤を攪拌したりして、積極的に鋳型材を抽出することも可能である。
また、抽出の際に加熱をしてもよい。加熱温度は通常200℃以下であればよい。好ましくは180℃以下、より好ましくは120℃以下である。また、通常室温以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上である。
【0107】
以上のように、抽出処理を行なうことにより多孔質シリカ膜を有する積層体を得ることができるが、加熱工程の後に、必要に応じて冷却工程や後処理工程等を実施することも可能である。
2−3−4.乾燥工程
乾燥工程とは、抽出工程で抽出に使用した溶剤を多孔質シリカ膜より除去する工程である。
【0108】
この際、冷却速度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下で、また通常室温以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上である。
また、乾燥工程における雰囲気は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、例えば、真空環境、不活性ガス環境であってもよい。
【0109】
2−3−5.後処理工程
後処理工程で行なう具体的な操作に制限は無いが、例えば、得られた多孔質シリカ膜をシリル化剤で処理することで、多孔質シリカ膜の表面をより機能性に優れたものにできる。具体例を挙げると、シリル化剤で処理することにより、多孔質シリカ膜に撥水性、撥油性、防汚性、防曇性、光触媒能、滑雪性などを付与することが可能である。
【0110】
シリル化剤としては、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルビニルメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類;トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、メチルクロロジシラン、トリフェニルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、ジフェニルジクロロシランなどのクロロシラン類;ヘキサメチルジシラザン、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ウレア、N−トリメチルシリルアセトアミド、ジメチルトリメチルシリルアミン、ジエチルトリエチルシリルアミン、トリメチルシリルイミダゾールなどのシラザン類;(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキ
シシラン等のフッ化アルキル基やフッ化アリール基を有するアルコキシシラン類;などが挙げられる。なお、シリル化剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0111】
シリル化の具体的操作としては、例えば、シリル化剤を多孔質シリカ膜に塗布したり、シリル化剤中に多孔質シリカ膜を浸漬したり、多孔質シリカ膜をシリル化剤の蒸気中に曝したりすることにより、行なうことができる。
また、後処理の別の例としては、本発明の多孔質シリカ膜を多湿条件下で熟成することで、多孔質構造中に存在する未反応シラノールを減らすことができ、これにより、シリカ体の耐環境性をより向上させることも可能である。さらには、多孔質シリカ膜の上に他の無機酸化物膜を形成することで、機械強度や耐アルカリ性を向上させることも可能である。
【0112】
2−3−6.その他
本発明の多孔質シリカ膜の製造方法では、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した各工程の工程前、工程中及び工程後の任意の段階で、任意の工程を行なってもよい。
2−4.光学用途積層体
また、本発明の多孔質シリカ膜は、直接又は他の層を介して基材上に設けられることになるが、通常は、本発明の多孔質シリカ膜は膜状に設けられることになる。
【0113】
多孔質シリカ膜は、他の層と組み合わせることもできる。用いられる用途に応じて適宜選択され、他の層と組み合わせることで、上記の表面反射防止膜の他に、紫外線反射膜、近赤外線反射膜、赤外線反射膜等、さらには、ディスプレイ等の発光デバイスに適用することで光取り出し膜(または輝度向上膜)としても用いることができる。組み合わせる他の層の具体例として、高屈折率層、散乱層、金属層、偏光層、熱線遮断層、紫外線劣化防止層、親水性層、防汚性層、防曇層、防湿層、防曇層、光触媒層、耐腐食層、耐指紋性層、接着層、ハード層、ガスバリア層、導電性層、アンチグレア層、拡散層等が挙げられる。これらの層は、透光基材のいずれの面に形成されていてもよく、また多孔質シリカ膜上に積層されていてもよい。なお、これらの層は光学フィルター中に、1種単独で用いてもよく、また2種以上を任意の組合せで用いてもよい。また、特性に影響を及ぼさない限り、上記の各構成間に他の層があっても構わない。
【0114】
また、本発明の光学用途積層体には、多孔質シリカ膜が形成された面とは反対側の面に電極を有することもできる。透光性基材の多孔質シリカ膜が形成された面とは反対側の面に電極を有する光学積層体とすることで、ディスプレイや太陽電池といった光デバイスの部材として好適である
ここで、本発明の光学用途積層体を太陽電池として構成した一例を図1に示す。例えば、本発明の光学用途積層体を太陽電池として構成する場合には、通常多孔質シリカ膜6及び透光性基材5を、太陽電池の光エネルギーを取り入れる受光面側の被覆に用いる構成とする。
【0115】
更に、太陽電池では、通常は一対の電極1及び3を設け、当該電極1及び3の間に半導体層2が位置するように構成する。
また、透光性基材5と電極3との間に中間層4があってもよい。さらには、熱線遮断層、紫外線劣化防止層、親水性層、防汚性層、防曇層、防湿層、粘着層、ハード層、導電性層、反射層、アンチグレア層、拡散層等(図示せず)と組み合わせてもよい。
【0116】
ここで、太陽電池とは、光起電力効果を利用して、光エネルギーを電力に変換することのできる素子または装置であり、例として、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池などのシリコン系太陽電池、CIS系太陽電池、
CIGS系太陽電池、GaAs系太陽電池などの化合物太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池、また多接合型太陽電池、HIT太陽電池が挙げられるが、特にこれらに限定するものではない。
【0117】
半導体層は、半導体材料を含有する層である。太陽電池では、通常、光を取り込むことで半導体層で電気エネルギーが生じ、その電気エネルギーを取り出すことで電池として機能するようになっている。
この際、半導体層に用いられる半導体の種類に制限は無い。また、半導体は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに、半導体層には、太陽電池としての機能を著しく損なわない限りその他の材料が含有されていても良い。
【0118】
また、半導体層は、単一の膜のみによって構成されていてもよく、2以上の膜によって構成されていても良い。具体的な型式でいえば、太陽電池における半導体層としては、例えば、バルクヘテロ接合型、積層型(ヘテロpn接合型)、ショットキー型、ハイブリッド型などのいずれであってもよい。
なお、半導体層の厚さに特に制限はないが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは5μm以下の寸法で形成する。
【0119】
一方、電極は、導電性を有する任意の材料により形成することが可能である。電極は、半導体層で生じた電気エネルギーを取り出すためのものである。ただし、半導体層の種類に応じて一対の電極のうち、少なくとも一方は透明である(即ち、太陽電池が発電するために半導体層が吸収する光を透過させる)ことが好ましい。
また、電極は直接又は他の層を介して基板に設けることができる。電極としてアルミニウム、錫、マグネシウム、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、白金、又はこれらを含む合金、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウム、酸化亜鉛などが挙げられる。中でも透明性の観点で酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウム、酸化亜鉛、又はこれを主組成としたものが好ましく、これらは1種単独で、または2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。またその膜厚は通常10nm以上、好ましくは40nm以上、より好ましくは80nm以上、さらに好ましくは100nm以上である。また通常500nm以下、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。10nmを下回ると膜に欠陥ができ易くなる傾向があり、500nmを越えると透明性を損なう可能性がある。
【0120】
さらに、電極は2層以上積層してもよく、表面処理による特性(電気特性やぬれ特性等)を改良してもよい。
また、本発明の光学用途積層体を太陽電池として構成する場合には、多孔質シリカ膜から半導体層までのC光の全光線透過率を、80%以上とすることが好ましく、83%以上とすることがより好ましく、86%以上とすることがさらに好ましく、90%以上とすることが特に好ましい。光の透過率が高いほど太陽電池が効率よく発電できるからである。また、前記全光線透過率は理想的には100%であるが、光学用途積層体の表面での部分反射を考慮すると通常99%以下である。本発明のシリカ体は、低屈折率を有するとともに耐摩耗性、耐水性に優れるため、このように太陽電池に非常に適した性能を発揮することが可能である。
【0121】
なお、本発明の光学用途積層体を太陽電池以外の光学用途に用いる場合であっても、通常は、多孔質シリカ膜の光線透過率は高いことが好ましい。これにより、本発明の光学用途積層体に、光学用途部材を構成する部材として有効な光学性能と性能の安定性とを備えさせることができるからである。
また、本発明の光学用途積層体は、耐摩耗性、耐水性に優れ、平滑な表面を有する点において、エレクトロルミネッセンス(EL)素子にも好適である。
【0122】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、本発明の多孔質膜、2つの電極、及び上記電極の間にエレクトロルミネッセンス層を有するものであればよく、通常、(i)電極(陰極)、(ii)エレクトロルミネッセンス層、(iii)電極(陽極)、(iv)本発明の多
孔質シリカ膜、及び(v)透光体がこの順に配置される構成をとること等が可能である。(i)〜(v)の順を維持するものであれば、それぞれの層の間に他の層を有していてもよい。例えば(iii)電極(陽極)と(iv)本発明の多孔質膜との間に、光散乱層及び/
または高屈折率層を入れること等も可能である。
【0123】
(i)陰極として用いられる材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。特に、アルミニウム、錫、マグネシウム、インジウム、カルシウム、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、白金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等で形成される。特にアルミニウムで形成することが好ましい。陰極の厚さは、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上である。また通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。
【0124】
(ii)エレクトロルミネッセンス層は、電界が印加されることにより発光現象を示す物質により成膜されたものであり、その物質としては、付活酸化亜鉛ZnS:X(ただし、Xは、Mn、Tb、Cu、Sm等の付活元素である。)、CaS:Eu、SrS:Ce、SrGa:Ce、CaGa:Ce、CaS:Pb、BaAl:Eu等の従来使用されている無機EL物質、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体、芳香族アミン類、アントラセン単結晶等の低分子色素系の有機EL物質、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾール等の共役高分子系の有機EL物質等、従来使用されている有機EL物質を用いることができる。エレクトロルミネッセンス層の厚さは、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上であり、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下とされる。エレクトロルミネッセンス層は、蒸着やスパッタリング等の真空成膜プロセス、あるいはキシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン等を溶媒とする塗布プロセスにより形成することが可能である。
【0125】
(iii)陽極としては、錫を混合した酸化インジウム(通常ITOと呼ばれている。)
、アルミニウムを混合した酸化亜鉛(通常AZOと呼ばれている。)、インジウムを混合した酸化亜鉛(通称IZOと呼ばれている。)等の複合酸化物薄膜が好ましく用いられる。特にITOであることが好ましい。
陽極は、可視光に対して透明性を有する透明電極層とすることも可能であり、透明電極層として形成される場合、可視光波長領域における光線透過率は大きいほど好ましい。この際、下限としては通常50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。また上限としては通常99%以下である。また陽極の電気抵抗は、面抵抗値として小さいほど好ましく、通常1Ω/□(オームパースクウェア;□=1cm2)以上とさ
れ、通常100Ω/□以下、好ましくは70Ω/□以下、より好ましくは50Ω/□以下とされる。
【0126】
また陽極を透明電極とする場合の陽極の厚さとしては、上述した光線透過率及び面抵抗値を満足するものであれば特に限定されないが、通常、0.01μm以上であり、また導電性の観点から好ましくは0.03μm以上、より好ましくは0.05μm以上である。また上限としては通常、10μm以下であるが、光線透過率の観点から1μm以下が好ま
しく、より好ましくは0.5μm以下である。
【0127】
また、本発明の光学用途積層体には、例えば、他の光学機能層及び保護膜を備えさせても良い。他の光学機能層は、用いる用途により適宜選択することができる。また、これらの層は1層のみを備えさせてもよく、2以上の層を任意に組み合わせて備えさせるようにしても良い。
本発明の光学用途積層体は、本発明の多孔質シリカ膜を備えるため、屈折率が低く、密着性に優れる。このため、本発明の多孔質シリカ膜を使用すれば、レンズやディスプレイ、太陽電池、太陽熱発電などの光デバイス、建材や自動車の内外装に用いられる低反射層、反射防止層、光制御層などの光学機能層に好適に用いることができる。
【実施例】
【0128】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
[実施例1]
[組成物の調製]
テトラエトキシシラン(以下、TEOS)6.78g、メチルトリエトキシシラン(以下、MTES)6.92g、エタノール(沸点78.3℃)2.30g、水5.56g及び、0.3重量%の塩酸水溶液13.0gを混合し、ウォーターバス中で30分、更に室温で30分攪拌して、混合物(A)を得た。
【0129】
次に、鋳型材として、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイドトリブロックポリマー(ALDRICH製、重量平均分子量5650、エチレンオキサイド部位の割合30重量%)6.14gとエタノール3.20gとを混合した混合液(B)に、前記の混合物(A)を添加して、室温で60分攪拌し0.45μmのフィルター(ワットマンジャパン(株)社製)でろ過することで混合物(C)を調整した。
【0130】
この混合物(C)40mlと希釈溶媒として1−ブタノール(沸点117.3℃)36mlとを混合し、室温で30分攪拌することでシリカ系組成物を得た。
[製膜工程]
得られた組成物を、透光性基材として1mm厚みのアクリル板(三菱レイヨン製 メタクリル樹脂板 アクリライト)を使用して、ディップコーター(MATSUTAME社製
卓上ディップコーター TD−150)で基材の両面に塗布した。ディップコーターは、引き上げ速度1.7mm/secで行なった。
【0131】
[後処理工程(粗乾燥)]
次に120℃に設定したオーブンに置き、大気雰囲気下で120分間加熱することで、基材上に外観の良好なシリカ系前駆体を得た。
[酸・アルカリ処理工程]
次にガラスビーカー内にアンモニア水を2ml入れたアンモニア雰囲気で満たされたガラスビーカー内で室温で30分さらした。
【0132】
[抽出処理工程]
次に、室温でエタノール溶液中に1分間浸し、超音波洗浄機(本多電子株式会社製 卓
上型超音波洗浄機W−113)で1分間かけて、鋳型材を除去した。
[乾燥工程]
次に、60℃に設定したオーブンに置き、大気雰囲気下で10分間加熱乾燥することで外観の良好なシリカ膜積層体を得た。
【0133】
《屈折率、膜厚算出》
分光膜厚計(大塚電子製FE−3000)により、反射率を測定した結果、透光性基材上に得られた多孔質シリカ膜の550nmにおける最小反射率は1.38%であり、フレネルの式を用いて屈折率を算出した結果、1.231であった。また、算出した屈折率と前記の波長より膜厚を算出した結果、164nmであった。積層体の可視光線透過率は97%であった。
【0134】
《摩耗試験》
ミルスペックMIL−CCC−c−440に記載のチーズクロスを荷重500g/cmで得られた多孔質シリカ膜表面上を20往復させた結果、積層体の可視光線透過率は96%で、摩耗試験前の可視光線透過率との変化量は1%であった。
《剥離試験》
Scotchテープ(住友スリーエム株式会社製)を得られた多孔質シリカ膜表面に空気が入らないように貼り付けたあと、引き剥がした。結果は、基材と多孔質シリカ膜との接着性が良好である場合(テープに付着物がない場合)には○、接着が不良の場合(テープに付着物がある場合)には×とした。
【0135】
実施例1の剥離試験の結果は、テープには、何も付着せず、基材と多孔質シリカ膜との接着性は良好であった。
[比較例1]
実施例1の[酸・アルカリ処理工程]及び[抽出処理工程]を行なわない以外は、実施例1と同様に多孔質シリカ膜を有する積層体を得た。
【0136】
《屈折率、膜厚算出》《摩耗試験》《剥離試験》も実施例1と同様に行い、550nmにおける最小反射率は3.56%であり、屈折率は1.455、膜厚は130nmであった。可視光線透過率は95%であった。摩耗試験後の可視光線透過率は72%で、摩耗試験前の可視光線透過率との変化量は23%であった。また、剥離試験においてはテープに多孔質シリカ膜が付着し、透光性基材と多孔質シリカ膜との接着性が十分でないことが確認された。
【0137】
[比較例2]
実施例1の製膜工程で、透光性基材として大判スライドガラス(松浪硝子工業株式会社製 S112)を使用して、スピンコーター(ミカサ製MS−A150)で塗布した。スピンコーターは、回転数500rpm、回転時間120秒、塗布液量1mlとした。次に450℃に設定したオーブンに10分間加熱することで、透光性基材上に概観の良好な多孔質シリカ膜を有する積層体を得た。
【0138】
《屈折率、膜厚算出》《摩耗試験》《剥離試験》も実施例1と同様に行い、550nmにおける最小反射率は0.15%であり、屈折率は1.26、膜厚は105nmであった。可視光線透過率は95%であった。摩耗試験後の可視光線透過率は89%で、摩耗試験前の可視光線透過率との変化量は6%であった。また、剥離試験においてはテープに多孔質シリカ膜が付着し、透光性基材と多孔質シリカ膜との接着性が十分でないことが確認された。
【0139】
実施例1、比較例1、2の評価結果を、表1に示す。
【0140】
【表1】

【符号の説明】
【0141】
1、3 電極
2 半導体層
4 中間層
5 透明基板
6 多孔質体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tgが200℃以下の透光性基材上に、屈折率が1.20〜1.35である多孔質シリカ膜を有する積層体であって、ミルスペックMIL−CCC−c−440に記載のチーズクロスを荷重500g/cmで前記多孔質シリカ膜表面上を20往復させる耐摩耗性試験において、前記積層体の可視光線透過率の変化量が、試験前の前記積層体の可視光線透過率に対して5%未満であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記透光性基材の厚さが0.01〜80mmであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記多孔質シリカ膜の表面粗さRaが8nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記透光性基材の材料が、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、及びテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体からなる群より選ばれるいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
Tgが200℃以下の透光性基材上に多孔質シリカ膜を有する積層体の製造方法であって、アルコキシシラン化合物、水、有機溶媒、および有機ポリマーを含む組成物をTgが200℃以下の透光性基材上に湿式塗布した後、前記有機ポリマーを抽出する工程を含むことを特徴とする多孔質シリカ膜を有する積層体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−30592(P2012−30592A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149156(P2011−149156)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】