説明

シリカ水性分散体

本発明は、分散体を生成する方法であって、a)シラン処理コロイダルシリカ粒子の水性分散体と少なくとも2個のヒドロキシル基を含有する少なくとも1つの有機化合物を混合して、シラン処理コロイダルシリカ粒子および前記少なくとも1つの有機化合物の水性分散体を提供するステップであって、混合が単官能アルコールの実質的に非存在下で行われるステップと、b)形成された水性分散体から、分散体中の水の残部が約10重量%未満になるまで水を抜き取るステップとを含む方法に関する。本発明はまた、それから得られる分散体、および分散体の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン処理コロイダルシリカ粒子と少なくとも2個のヒドロキシル基を含有する少なくとも1つの有機化合物とを含む分散体、このような分散体を生成する方法、およびポリマー材料を提供するためのその使用に関する。本発明はまた、ポリマー材料の生成方法にも関する。分散体は、ラッカーまたはコーティング用途でも使用することができる。
【背景技術】
【0002】
シリカゾルは、プラスチック、樹脂、ゴム、油などの様々な有機材料の充填、展延、濃化、および補強を含めて、多くの分野で幅広く有用であった。
【0003】
WO2006/128793には、パウダーまたはペーストの形態のシリカ粒子を含有するポリマー材料を作製する方法が開示されており、その方法は、
1)アルカリ安定化シリカゾルを水および/または水溶性有機溶媒で希釈するステップと、
2)撹拌されたステップ1のゾルに、シランならびに/またはポリオールおよびジカルボン酸から選択される有機化合物をポンプで注入するステップと、
3)ステップ2のゾルを、アニオンおよびカチオン交換樹脂と接触させることによって脱イオンするステップと、
4)脱イオンされたステップ3のゾルを、その水を蒸発させることによって乾燥するステップと
を含む。
【0004】
US2004/0147029は、非ラジカル反応でポリマーに変換することができる重合性モノマー、オリゴマー、および/もしくはプレポリマー;ならびに/またはポリマーを含有する外側の流動相と、非晶質二酸化ケイ素を含有する分散相とを含む二酸化ケイ素分散体に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
貯蔵および輸送時に、特に別個の安定剤の非存在下に安定なままであり、例えば様々な有機材料、例えばプラスチック、樹脂、またはゴムの充填、展延、濃化、および/または補強を含めた諸用途で使用することができる安定なコロイダルシリカ分散体を提供することは望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、分散体を生成する方法であって、
a)シラン処理コロイダルシリカ粒子の水性分散体と少なくとも2個のヒドロキシル基を含有する少なくとも1つの有機化合物を混合して、シラン処理コロイダルシリカ粒子および前記少なくとも1つの有機化合物の水性分散体を提供するステップであって、混合が単官能アルコールの実質的に非存在下で行われるステップと、
b)水性分散体から、分散体中の水の残部が約10重量%未満になるまで水を抜き取るステップと
を含む方法に関する。
【0007】
水の抜取りは、通常の操作装置のいずれか、例えばエバポレータによって行うことができる。
【0008】
「単官能アルコール」という用語は、1分子当たりヒドロキシル基を1個しか含有しないアルコール、例えばメタノールまたはエタノールである。
【0009】
単官能アルコールを「実質的に含まない」または単官能アルコールの「実質的に非存在」は、分散体中の単官能アルコールの含有率が、10重量%未満、さらに具体的には5重量%未満、特に1重量%未満であることを意味する。
【0010】
その結果として、コロイダルシリカ粒子は、単官能アルコールに関して実質的に修飾されていない。一実施形態によれば、シリカ粒子の10重量%未満、5重量%未満、1重量%未満、または0.1重量%未満、またはさらには0.05重量%未満しか、単官能アルコールで修飾されていない。
【0011】
一実施形態によれば、コロイダルシリカ粒子は、粒子および/または連続相中に存在することができるアルミニウム、窒素、ジルコニウム、ガリウム、チタン、および/またはホウ素などの他の元素で修飾されていることがあり、それらの他の元素を含有することができる。ホウ素修飾シリカゾルについては、例えばUS2,630,410に記載されている。アルミニウム修飾シリカゾルを調製する手順は、例えば"The Chemistry of Silica", by Iler, K. Ralph, pages 407-409, John Wiley & Sons (1979)およびUS5368833にさらに記載されている。
【0012】
コロイダルシリカ粒子は、約20から約1500、具体的には約50から約900、さらに具体的には約70から約600、または約120から約600m/g、例えば約150から約450m/gの比表面積を有することができる。
【0013】
コロイダルシリカ粒子は、約2から約150nm、例えば約5から約40などの約3から約60nm、または約6から約18nmなどの約5から約25nmの平均粒子径を有することができる。
【0014】
コロイダルシリカ粒子は狭い粒度分布、すなわち粒度の低い相対標準偏差を有することができる。粒度分布の相対標準偏差は、粒度分布の標準偏差と個数平均粒度の比である。粒度分布の相対標準偏差は、約60個数%より低く、具体的には約30個数%より低く、さらに具体的には約15個数%より低いことがある。
【0015】
コロイダルシリカ粒子を、具体的にはK、Na、Li、NH、有機カチオン、第一級、第二級、第三級、および第四級アミン、またはそれらの混合物などの安定化カチオンの存在下で水性媒体に分散させて、水性シリカゾルを形成することができる。しかし、有機媒体、例えばアセトンを、全媒体体積の具体的には約20体積%までの量、例えば約1から約20体積%、具体的には約1から約10体積%、さらに具体的には約1から約5体積%の量で含む分散体も使用することができる。しかし、特定の一実施形態において、別の媒体を何ら含まない水性シリカゾルが使用される。コロイダルシリカ粒子は、負に帯電することができる。シリカゾル中のシリカ含有率は、約10から約80重量%、具体的には約20から約70重量%、さらに具体的には約20から約60重量%または約25から約60重量%または約30から約60重量%とすることができる。シリカ含有率が高いほど、得られるシラン処理コロイダルシリカ分散体の濃度は高くなる。シリカゾルのpHは、約1から約13、具体的には約6から約12、さらに具体的には約7.5から約11とすることができる。しかし、アルミニウム修飾シリカゾルの場合、pHは約1から約12、具体的には約3.5から約11とすることができる。
【0016】
シリカゾルは、約20から約100、具体的には約30から約90、さらに具体的には約60から約90のS値を有することができる。
【0017】
これらの範囲内のS値を有する分散体は、得られる分散体の安定性を改善できることが明らかになった。S値は、コロイダルシリカ粒子の凝集の程度、すなわち凝集物またはミクロゲルの形成の程度を特徴付ける。S値の測定および算出は、J. Phys. Chem. 60(1956), 955-957 by Iler, R.K. & Dalton, R.L.に記載の式に従って行われた。
【0018】
S値は、コロイダルシリカ粒子のシリカ含有率、粘度、および密度に依存する。高いS値は、低いミクロゲル含有率を示唆する。S値は、例えばシリカゾルの分散相に存在するSiOの量を重量パーセントで表す。ミクロゲルの程度は、例えばUS5368833にさらに記載されているように生成プロセス中に制御することができる。
【0019】
本明細書でシリカゾルとも呼ばれるコロイダルシリカ粒子は例えば、十分な純度を有する沈降シリカ、マイクロシリカ(シリカフューム)、発熱性シリカ(フュームドシリカ)、またはシリカゲル、およびそれらの混合物に由来するものであり得る。これらを、WO2004/035474に記載の方法によってシラン化することができる。シリカゾルは、例えばUS、5,368,833に開示されるように、典型的には水ガラスから得ることもできる。
【0020】
コロイダルシリカ粒子を、適切な任意のシラン化合物で修飾することができる。例えば、トリス−(トリメトキシ)シラン、オクチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン;ビス−(3−[トリエトキシシリル]プロピル)ポリスルフィド、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、オクチルトリメチルオキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、ジメチルジメチオキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、i−ブチルトリエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、フェニルジメチルエトキシシラン;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)ヘキシルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリエトキシシランなど、エポキシ基を含有するシラン(エポキシシラン)、グリシドキシおよび/またはグリシドキシプロピル基を含有するシラン;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシランなど、ビニル基を含有するシラン;ヘキサメチルジシロキサン、塩化トリメチルシリル、ビニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシリザン、およびそれらの混合物。一実施形態によれば、メルカプト官能基を有するシラン化合物、例えば3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、HS(CH、Si(OCH、少なくとも1つのヒドロキシアルコキシシリル基および/または環式ジアルコキシシリル基を有するメルカプトシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランを使用することができる。
【0021】
一実施形態によれば、トリス−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌラートなど、アミド官能基、例えば(メタ)アクリルアミド基;ウレイド官能基、アミノ官能基、エステル官能基、および/またはイソシアナト官能基を有するシラン化合物を使用することができる。好適なウレイド官能性シランとしては、β−ウレイドエチル−トリメトキシシラン、β−ウレイドエチル−トリエトキシシラン、γ−ウレイドエチルトリメトキシシラン、および/またはγ−ウレイドプロピル−トリエトキシシランが挙げられる。ウレイド官能基を有するシラン化合物は、構造B(4−n)−Si−(A−N(H)−C(O)−NHを有することができるが、構造中において、Aは、1個から約8個の炭素原子を含有するアルキレン基であり、Bは、1個から約8個の炭素原子を含有するヒドロキシル基またはアルコキシ基であり、nは1から3の整数である。ただし、nが1または2である場合、Bはそれぞれ、同じでも異なってもよいことを条件とする。
【0022】
一実施形態によれば、アミノ官能基を有するシランは、例えばアミノメチルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)メチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノイソブチルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、およびN−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランとすることができる。使用することができる上記のシラン官能基の別の例としては、参照により本明細書に組み込まれるUS5,928,790およびUS4,927,749に記載のものが挙げられる。
【0023】
シラン処理コロイダルシリカ粒子を調製するために、シラン化合物およびコロイダルシリカ粒子を、例えば水相中、例えば約50から約75℃または約60から約70℃など約20から約95℃の温度で連続混合することができる。例えば、シランを、シリカ粒子に、約60℃を超える温度で激しい撹拌下に、好適には(コロイダルシリカ粒子上の)コロイダルシリカ表面積1nmおよび1時間当たりシラン分子約0.1個から約10個、約0.5個から約5個、または約1個から約2個など約0.01個から約100個である制御された速度でゆっくりと添加する。シランの添加は、シランの添加速度、添加量、および所望のシリル化度に応じて適切な任意の時間継続することができる。しかし、シランの添加は、適量のシラン化合物が添加されるまで最長約5時間または最長約2時間継続することができる。一実施形態によれば、コロイダルシリカ粒子の表面積1nm当たりシラン分子約0.3個から約3個または約1個から約2個など約0.1個から約6個が添加される。シランのコロイド粒子への連続添加は、最高約80重量%のシリカ含有率を有する高濃度シラン処理シリカ分散体を調製するときに特に重要であり得る。
【0024】
一実施形態によれば、シランをコロイダルシリカ粒子と混合する前に、例えば水で希釈して、シランと水のプレミックスを好適には約1:8から約8:1、約3:1から約1:3、または約1.5:1から約1:1.5の重量比で形成することができる。得られるシラン−水の溶液は、実質的に清澄であり、安定であり、コロイダルシリカ粒子と混合するのが容易である。
【0025】
一実施形態によれば、分散体中のシランとシリカの重量比は、約0.01から約1.5、具体的には約0.05から約1、さらに具体的には約0.1から約1または約0.15から約1または約0.2から約0.5とすることができる。
【0026】
シラン、コロイダルシリカ、およびシラン処理シリカの調製のさらに好適な実施形態が、EP1554221B1に開示されている。
【0027】
一実施形態によれば、少なくとも2個のヒドロキシル基を含有する有機化合物はポリオールである。
【0028】
一実施形態によれば、前記ポリオール以外のさらなる有機化合物をシリカと混合しない。一実施形態によれば、アルデヒドまたはケトンは全くまたは実質的に添加しない。
【0029】
「ポリオール」は、少なくとも2個のヒドロキシル基を含有する有機化合物、例えばそれぞれ2個、3個、および4個のヒドロキシル基を含有するジオール、トリオールおよびテトラオールを意味し、その化合物は、水と少なくとも部分混和可能であり、または水に少なくとも部分可溶である。「グリコール」は、特に2個のヒドロキシル基を含有する有機物質を意味する。ポリオールを、硬質フォーム、硬質固体および剛性コーティングを作製するのに使用することができる、62〜1000の分子量範囲および3〜8個の官能基を有するものと、可撓性フォームおよびエラストマーを作製するのに使用することができる、1000〜6500の分子量範囲および2〜3個の官能基を有するものとの2つのクラスに分類することができる。剛性/可撓性は、前記2つのクラスのポリオールを適宜混合することによって調整することができる。本発明に従って使用されるポリオールは、例えばポリエーテルタイプ、ポリエステルタイプ、またはアクリルタイプのものとすることができる。
【0030】
一実施形態によれば、少なくとも2個のヒドロキシル基を含む前記少なくとも1つの有機化合物、典型的にはポリオールは、約62から約10000g/モル、具体的には約62から約4000g/モルまでの分子量を有する。
【0031】
一実施形態によれば、有機化合物の分子量は、約62から約500g/モル、例えば約62から約400g/モルまたは約62から約200g/モルに及ぶ。一実施形態によれば、有機化合物の分子量は約200から約400に及ぶ。
【0032】
一実施形態によれば、ポリオールは、ポリエチレングリコール、グリセロール、3官能ポリエーテルポリオール、スクロースベースのポリエーテルポリオール、またはそれらの混合物から選択される。
【0033】
ポリエーテルポリオールは、テトラヒドロフラン(THF)の酸触媒重合により調製されるポリテトラメチレングリコールポリオール(PTMEG);酸化プロピレン単独、酸化エチレンと酸化プロピレンとの混合物、または酸化プロピレンと酸化エチレンと二重金属シアン化物触媒(DMC)との混合物をベースにすることができるポリプロピレングリコールポリオール;ポリマー修飾ポリオール;およびアミンを末端に有するポリエーテルポリオールのなかから選択することができる。
【0034】
ポリエステルポリオールは、ポリブタンジオールアジパート;ポリカプロラクトンポリオール;およびポリエチレンテレフタラートポリオールのなかから選択することができる。ポリエステルポリオールは線状または分枝状とすることができ、分枝は低分枝、中分枝、または高分枝(weak, moderate or extensive)とすることができる。ポリエステルポリオールの構造に低分子量の飽和脂肪酸を組み込むことによって、ポリエステルポリオールを修飾することができる。
【0035】
アクリルポリオールは、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、およびアリルアルコールプロポキシラートなどのヒドロキシルを含有するモノマー、ならびにメタクリル酸メチル、スチレン、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸、メタクリル酸、およびアクリロニトリルなどのコポリマーの重合によって調製される。
【0036】
ポリエステルおよびポリエーテルポリオールは、ポリオール1分子当たりのヒドロキシル基の平均個数と関係付けられ、通常約2個からほぼ4個の範囲に入るそれらのヒドロキシル官能基によって特徴付けられる。アクリルポリオールは、2個から8個の範囲の官能基を有する。例えば、エステル系サーモエラストマーを調製するのに使用することができるジオールタイプのポリオールは、非環式および脂環式ジヒドロキシ化合物である。例示的なジオールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、2,2’−ジメチル−トリメチレングリコール、ヘキセメチレングリコール、およびデカメチレングリコール、ジヒドロキシシクロヘキサン、シクロヘキサンジメタノールなどの2〜15個の炭素原子を有するそのようなものである。脂肪族ジオールの特定の基は、2〜8個の炭素原子を含有するそのようなものである。ジオールのエステルを形成する等価な誘導体も有用であり、例えば酸化エチレンまたは炭酸エチレンをエチレングリコールの代わりに使用することができる。ヒマシ油ポリオール、ポリカーボナートポリオール、およびポリブタジエンポリオールも使用することができる。さらに好適なポリオールが、とりわけUS5,840,781、US2004/0147029、およびUS4,269,945、ならびにWO2006/128793に開示されている。
【0037】
一実施形態によれば、ポリオールは実質的に水混和性である。
【0038】
一実施形態によれば、シリカと有機化合物、例えばポリオールとの重量比は、約1:20から約4:1、例えば約1:10から約2:1、または約1:5から約1:1、または約2:5から約2:3に及ぶ。
【0039】
蒸発時の温度は、好適には約10から約200℃、例えば約80から約200℃に及ぶ。蒸発時の圧力は、好適には約20から約50mbarに及ぶ。蒸発の時間は、好適には約1から約3時間、あるいは残留含水率が10重量%未満、例えば約5重量%未満または約3重量%未満または約1重量%未満になるまでの時間である。
【0040】
本発明はまた、シラン処理コロイダルシリカ粒子と少なくとも2個のヒドロキシル基を含有する少なくとも1つの有機化合物とを含む分散体であって、単官能アルコールを実質的に含まない分散体にも関する。
【0041】
本発明はまた、本方法で得られる安定な分散体にも関する。コロイダルシリカ粒子および有機化合物は、本出願の方法の部分で定義される特性であればいずれでも有することができる。
【0042】
一実施形態によれば、特に水を実質的に抜き取った後、分散体中のシリカと前記有機化合物の重量比は、約1:20から約4:1、例えば約1:10から約2:1または約1:5から約1:1または約2:5から約2:3に及ぶ。
【0043】
一実施形態によれば、分散体の含水率は、約10重量%未満、例えば約1重量%未満などの約5重量%未満である。
【0044】
一実施形態によれば、分散体は、単官能アルコールを5重量%未満または1重量%未満など10重量%未満しか含有しない。
【0045】
一実施形態によれば、分散体は安定である。「安定な分散体」という用語は、室温、すなわち約15から約35℃の温度での通常貯蔵において、少なくとも約2か月、具体的には少なくとも約4か月、さらに具体的には少なくとも約5か月以内に実質的にはゲル化も沈殿もしない分散体を意味する。
【0046】
一実施形態によれば、分散体の粘度は、2か月にわたって5倍未満または2倍未満など10倍未満しか上昇しない。
【0047】
分散体の安定性によって、貯蔵が可能になり、現場で使用直前に調製する必要がないので、いずれの用途においてもその取扱いおよび適用が容易になる。したがって、すでに調製された分散体を、容易に直接使用することができる。分散体は、危険量の毒性成分を伴わないという意味でも有利である。
【0048】
分散体は、シリカ粒子の粒度、シランとシリカの重量比、シラン化合物のタイプ、反応条件などに応じて、シラン処理コロイダルシリカ粒子のほかに非シラン処理コロイダルシリカ粒子を少なくともある程度含有することができる。一実施形態において、コロイダルシリカ粒子の少なくとも約40重量%、具体的には少なくとも約65重量%、具体的には少なくとも約90重量%、さらに具体的には少なくとも約99重量%がシラン処理(シラン修飾)されている。調製された分散体は、シラン基の形のシランまたはシリカ粒子の表面に結合もしくは連結しているシラン誘導体のほかに、自由に分散している非結合シラン化合物を少なくともある程度含んでもよい。一実施形態において、シラン化合物の少なくとも約40%、具体的には少なくとも約60%、さらに具体的には少なくとも約75%、さらに詳細には少なくとも約90%、さらに詳細には少なくとも約95重量%がシリカ粒子の表面に結合または連結している。
【0049】
コロイダルシリカ粒子のシラノール表面基の少なくとも約1個数%は、シラン化合物のシラン基に結合または連結できることがあり、具体的には少なくとも約5%、具体的には少なくとも約10%、さらに具体的には少なくとも約30%、特に少なくとも約50%がシラン基に結合または連結する。
【0050】
一実施形態によれば、分散体は、実質的に前記シラン処理コロイダルシリカ粒子と少なくとも2個のヒドロキシル基を含む前記有機化合物からなる。これらのシラン処理コロイダルシリカおよび有機化合物は、本明細書の分散体を提供する方法に記載されている通りとすることができる。しかし、前記シリカ粒子と有機化合物を含む分散体は、別の成分を含んでもよい。
【0051】
一実施形態によれば、得られた分散体は、いずれのアルデヒドもケトンも実質的に含まない。一実施形態によれば、アルデヒドおよび/またはケトンの含有率は、分散体の全重量に基づいて約5重量%未満または約1重量%未満である。
【0052】
一実施形態によれば、得られた分散体中のシリカ含有率は、約10から約80重量%、具体的には約15から約70重量%、例えば約20から約70重量%、さらに具体的には約25から約60重量%または約30から約60重量%または約30から約50重量%に及ぶ。
【0053】
本発明はまた、溶剤系ラッカーまたはコーティング組成物の全重量に基づいていずれの含水率も本質的に含まない、例えば5重量%未満または1重量%未満など10重量%未満の水しか含まない溶剤系ラッカーまたはコーティング組成物を提供するための、本明細書に記載されたように得られた分散体の使用にも関する。
【0054】
本発明はまた、分散体の縮合重合への使用にも関する。一実施形態によれば、重合を用いて、ポリエステル、アルキド、ポリアミド、ポリウレタン、フェノールホルムアルデヒド、ウレアホルムアルデヒド、エポキシポリマー、ケイ素ポリマーを生成することができる。
【0055】
本発明はまた、ポリマー材料を生成する方法であって、
a)シラン処理コロイダルシリカと少なくとも2個のヒドロキシル基を含有する少なくとも1つの有機化合物とを含む分散体と、
b)イソシアナート、ジカルボン酸、エポキシド、シロキサン、またはジアミンから選択される少なくとも1つの成分とを
反応させるステップを含む方法にも関する。
【0056】
イソシアナートは、好適にはジイソシアナートまたはジフェニルメタンジイソシアナートなどの2つ以上のイソシアナート官能基を有するモノマー、オリゴマー、またはポリマーである。反応は、好適には触媒の存在下で行われる。
【0057】
少なくとも2個のヒドロキシル基を含有する有機化合物を、非ラジカル反応、特にイソシアナート、ポリイソシアナート、ジカルボン酸、ジアミン、またはそれらの組合せが関与する非ラジカル反応によってポリマーに変換することができる。好適なイソシアナート、ポリイソシアナート、ジカルボン酸、およびジアミンの例は、例えばWO2006/128793に開示されている。
【0058】
本発明は、シリカが実質的に均質に分散しており、沈殿形などの不均質な形で出現しないためにより均質な生成物をもたらす。得られた生成物は、より均質なマトリックスを有するものであり、改善された機械的強度、耐久性などが得られる。
【0059】
一実施形態によれば、生成されたポリマー材料は、ウレタン系熱可塑性エラストマーや純粋なポリウレタンポリマーなどのウレタン系ポリマーである。ポリマー材料は、エステル系熱可塑性エラストマーを含めてポリエステル、または脂肪酸の添加によって修飾されたポリエステルであるアルキドとすることもできる。ポリマー材料は、メラミン、アミド系熱可塑性エラストマーを含めてポリアミド、およびウレタン基を含有するポリ尿素ポリマーとすることもできる。
【0060】
一実施形態によれば、ポリマー材料は、ポリウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリシロキサン、もしくはポリアミド、またはそれらの混合物である。
【0061】
もう1つの実施形態によれば、シラン処理シリカ粒子の量は、生成されたポリマー材料の約1から約40重量%、例えば約2から約20重量%、例えば約2から約15重量%または例えば約3から約10重量%を構成する(すなわち、ポリマー材料の重量に基づいたシラン処理シリカ含有率)。
【0062】
別の実施形態によれば、本方法の別の成分としては、とりわけ鎖延長剤、分枝剤、架橋剤、触媒、発泡剤、および消泡剤を挙げることができる。このような成分は、とりわけUS5,840,781に開示されている。
【0063】
本発明はまた、本明細書に記載される方法で得られるポリマー材料にも関する。
【0064】
本発明はまた、このようなポリマー材料、例えばポリウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリシロキサン、および/またはポリアミドの、可撓性および硬質のフォーム、繊維、コーティング、およびキャストエラストマーを生成するための使用にも関する。
【0065】
ポリオール含有分散体を用いたポリマーを生成する方法は、ポリウレタン、ウレタン系サーモエラストマー、エステル系サーモエラストマー、およびアミド系サーモエラストマーなど様々なポリマーの生成に使用することができ、その基本的概念については、WO2006/128793に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0066】
本発明をこのように説明しているが、様々に変更してもよいことは自明であろう。このような変形は、本発明の要旨および範囲から逸脱しているとみなされるべきでなく、当業者であれば自明であるはずのこのような修正形態はすべて、特許請求の範囲内に包含されるよう意図される。本明細書の以下に記載の実施例は、反応をより具体的に詳述するものであるが、以下の一般原則を本明細書に開示することができる。以下の実施例は、記載されている発明をいかに行うことができるかをさらに例示するものであって、その範囲を限定するものではない。
【0067】
別段の記載のない限り、部および百分率はすべて、重量部および重量パーセントを指す。
【実施例】
【0068】
実施例で使用されるシリカゾルを、以下の表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例で使用されるポリオールを、以下の表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
下記の表3に従う個々の実施例ごとの量および値を用いて、表1のシリカゾルの分散体を以下の一般説明に従って調製した。それぞれのシリカゾルを、仕様に従ってポリオールと混合した。実施例の一部では、記載の値に混合する前に、カチオン交換により、シリカゾルのpHをpH2に下げた。
【0073】
混合を約1分間続け、その後混合物を、もはや水が蒸発しなくなるまで典型的には20〜30mbarの減圧において記載の温度で蒸発にかけた。蒸発させた混合物の全重量に基づいた含水率は、表4aおよび4bに記載の通りであった。
【0074】
このように蒸発させた混合物の粘度は、調製日(表3)およびエイジング後(表5、試料の一部については初期粘度データもいくつか含まれている)に、ASTM D1200に従ってフォード粘度カップ#5を使用して決定した。表5において、一部の試料については、エイジング後に2回粘度測定を行った。粘度測定を行った日付は、表5に年−月−日の形式で記載されている。表3および5において、粘度は、別段の示唆のない限りフォード粘度カップ#5試験法を用いて秒単位で測定されている。試料のなかには、粘度が、ブルックフィールド粘度計で測定して単位mPasで記載されたものもあった。
【0075】
【表3A】

【0076】
【表3B】

【0077】
【表3C】

【0078】
【表4A】

【0079】
【表4B】

【0080】
【表5】

【0081】
表5から分かるように、本発明による分散体の貯蔵安定性は優れているが、比較分散体5〜6および13〜18(非シラン処理シリカ粒子を含む)は不安定になり、ゲルになるか、または類似の条件下、すなわち同等または同様のシリカの量、ポリオールの量、混合温度などで調製されたシラン処理シリカ粒子をベースにした分散体よりはるかに粘性が高くなる。
【0082】
熱安定性
温度安定性を評価し、シリカが樹脂、例えばアルキド重合に適切な温度下で使用されるポリオール中において十分安定であるだけでなく、ポリオール中に自由に分散しているかそれともポリオールと反応するかという徴候を示すために。約50g(体積約30ml)のシリカゾルNo.13およびNo.33を、50mlのオートクレーブ中、220℃で5時間オートクレーブ処理した。
【0083】
オートクレーブ処理後:
非シラン処理シリカゾルNo.13は完全重合されて、硬質の固体材料になった。一方、シラン処理シリカゾルNo.33は、高温において粘度が低く、室温において(粘性があるものの)液状であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散体を生成する方法であって、
a)シラン処理コロイダルシリカ粒子の水性分散体と少なくとも2個のヒドロキシル基を含有する少なくとも1つの有機化合物を混合して、シラン処理コロイダルシリカ粒子および前記少なくとも1つの有機化合物の水性分散体を調製するステップであって、単官能アルコールが実質的に非存在下で前記混合が行われるステップと、
b)形成された水性分散体から、分散体中の水の残部が約10重量%未満になるまで水を抜き取るステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの有機化合物がポリオールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリオールが、約62から約400g/モルの分子量を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
シリカと有機化合物の重量比が約1:20から約4:1の範囲である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法で得られる安定な分散体。
【請求項6】
シラン処理コロイダルシリカ粒子と少なくとも2個のヒドロキシル基を含有する少なくとも1つの有機化合物とを含む分散体であって、単官能アルコールを実質的に含まず、分散体中の含水率は約10重量%未満である分散体。
【請求項7】
分散体中の含水率が5重量%未満である、請求項6に記載の分散体。
【請求項8】
前記少なくとも1つの有機化合物がポリオールである、請求項5から7のいずれか一項に記載の分散体。
【請求項9】
シリカと有機化合物の重量比が約1:20から約4:1の範囲である、請求項5から8のいずれか一項に記載の分散体。
【請求項10】
前記少なくとも1つのポリオールが、約62から約400g/モルの分子量を有する、請求項5から9のいずれか一項に記載の分散体。
【請求項11】
請求項5から10のいずれか一項に記載の分散体の縮合重合への使用。
【請求項12】
請求項5から10のいずれか一項に記載の分散体のラッカーまたはコーティング組成物への使用。
【請求項13】
ポリマー材料を生成する方法であって、
a)請求項5から10のいずれか一項に記載の分散体と、
b)イソシアナート、ジカルボン酸、エポキシド、シロキサン、またはジアミンから選択される少なくとも1つの成分とを
反応させるステップを含む方法。
【請求項14】
ポリマー材料が、ポリウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリシロキサン、またはポリアミドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法で得られるポリマー材料。

【公表番号】特表2013−510061(P2013−510061A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535863(P2012−535863)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066551
【国際公開番号】WO2011/054774
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(509131443)アクゾ ノーベル ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フエンノートシャップ (26)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel Chemicals International B.V.
【住所又は居所原語表記】Stationsstraat 77, 3811 MH Amersfoort, Netherlands
【Fターム(参考)】