説明

シリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体

【課題】セルロース若しくはヘミセルロース原料に対し、効率的な加水分解の実現に寄与し、また酵素の回収、再利用、連続利用が可能となる、シリカ系メソ多孔体とセルロース若しくはヘミセルロースを加水分解する酵素との複合体を提供する。
【解決手段】セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行う酵素とシリカ系メソ多孔体の複合体であって、シリカ系メソ多孔体へ固定化された酵素がセルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を触媒する活性を有していることからなるシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体、シリカ系メソ多孔体と酵素の溶解した溶液を混合することにより、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解酵素をシリカ系メソ多孔体上、及び細孔内に安定に吸着、保持、固定させることからなるシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法、及びその用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系メソ多孔体とセルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素の複合体に関するものであり、更に詳しくは、表面を未処理あるいは適切な溶液で官能基を付与する処理等を施したシリカ系メソ多孔体への酵素の吸着現象を、該酵素の固定化法として利用して合成されたシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体、その製造方法及びその用途に関するものである。
【0002】
本発明は、表面を未処理あるいは適切な溶液で官能基を付与する処理等を施したシリカ系メソ多孔体への酵素の吸着現象を、該酵素の固定化法として利用し、シリカ系メソ多孔体の細孔内若しくは表面に酵素を安定に固定して、その酵素の機能を発揮させることを可能としたシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体、その製造方法、及びその用途に関する新技術を提供するものである。
【0003】
本発明は、例えば、酵素を利用したバイオマスの分解や、繊維、食品製造等の技術分野において、酵素の安定性や耐久性、生産速度の向上等に寄与するばかりか、連続的生産手法の確立を可能とすると共に、生産物からの酵素の分離工程を排除することが可能であり、その工程を、従来技術に比べ、大幅に効率化、簡略化することを可能にする固定化酵素複合体を提供するものとして有用である。
【背景技術】
【0004】
一般に、酵素を用いたバイオマスの分解や、繊維、食品製造等の技術分野においては、従来、酵素を水に溶解させて用いる操作をすることが多い。しかし、この操作法では、タンパク質である酵素の溶解度に限界があり、ある一定濃度以上の酵素が存在すると、凝集を起こし、活性を失うことがしばしばである。一方、酵素反応を用いた反応系では、酵素の存在量が多いほど、反応速度、ひいては生成物の生産速度を高められることが予想されている。
【0005】
その一方で、シリカ系メソ多孔体は、2〜50nmの直径の細孔を有することを特徴としており、その細孔内部への酵素の導入、固定が可能である。したがって、シリカ系メソ多孔体は、数nmから十数nmの大きさを有する酵素、すなわちタンパク質の吸着、固定に対して有効な表面を多く有している有望な担体材料と見なすことができる。
【0006】
このシリカ系メソ多孔体を酵素の固定化のための担体として用いた場合、高密度に存在する酵素の凝集を防ぐことが可能となり、活性を有する酵素の高集積化が可能となると考えられる。このことは、酵素を用いた反応系において、溶液においては凝集を起こしてしまう量を越えて、酵素を存在させることが可能になることが期待される。
【0007】
担体に酵素を固定化して用いることは、従前より行われてきたことであるが、その目的は、酵素の分離、及び再利用に関するものがほとんどである。例えば、従来の酵素を用いたバイオマスの分解や、繊維、食品製造等の技術分野においては、酵素を水に溶解させて用いる操作をすることが多く、この操作法では、生成物と酵素の分離操作が必要不可欠であり、また、分離された酵素は廃棄されることが一般的である。この酵素の分離工程を省く目的で、酵素を担体に固定化して用いるための酵素の固定化技術が盛んに研究、開発されている。
【0008】
酵素の固定化法としては、例えば、樹脂ビーズ等に直接固定化する方法や、ポリマーの被覆によるマイクロカプセル化、酵素タンパク質表面を修飾して安定化させる表面修飾法等が提案されている。しかしながら、これらの方法は、酵素が固定化担体の表面上に固定されているだけで、酵素の固定化に対する担体の表面積が大きなものではなく、酵素の高集積化や固定化による酵素機能の向上を目指したものではないのが実情である。
【0009】
酵素の再利用を目的とした酵素の固定化も検討されている。この場合も、分離工程の排除を目的とした方法と大きな差はなく、各種担体表面への単純な固定を行っているものが多い。高分子発泡体に固定化する方法も用いられており、この場合は、発泡体を圧縮することにより、生成物を含む溶液を分離すること等の操作が行われている。
【0010】
酵素の固定化法の開発により、酵素を用いた生産プロセスにおいて、反応後の酵素の分離回収や、その再利用が可能となり、生産プロセスの効率化に貢献していることは事実である。しかし、酵素の固定化により、酵素の高集積化や酵素機能そのものの向上を目的とした検討は、十分には行われていない。
【0011】
このような状況下で、本発明者らは、酵素の固定化により酵素の高集積化や酵素機能そのものの向上を目的として、酵素の担体として有望なシリカ系メソ多孔体への酵素、すなわちタンパク質の吸着、固定化現象を研究し(特許文献1参照)、この過程で、酵素、すなわちタンパク質のシリカ系メソ多孔体の細孔内への固定や、それによるタンパク質の熱安定性や有機溶媒耐性の向上を見出し、シリカ系メソ多孔体を用いたタンパク質の機能賦活方法(特許文献1、及び非特許文献1)を発明するに至った。
【0012】
シリカ系メソ多孔体としては、一般に、MCM、FSM、SBAタイプ等の材料系が知られている。これらのシリカ系メソ多孔体は、2〜50nmの直径の細孔を有することを特徴としている。酵素、すなわちタンパク質は、数nmから十数nmの大きさを有しており、シリカ系メソ多孔体の有する細孔径と同程度の大きさの分布を有している。このことから、シリカ系メソ多孔体を酵素の固定化担体として用いた場合、酵素を表面のみならず、細孔内にも固定化することができると考えられる。
【0013】
シリカ系メソ多孔体は、その酵素の固定化に対する有効な表面積が、従来の技術によるものより極めて大きく、大量の酵素を固定化することができる。シリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体においても、その細孔内に酵素を固定化することが可能であり、また、集積化することも可能である。
【0014】
シリカ系メソ多孔体に種々の酵素を固定化しようとする試みには、いくつかの報告がある(非特許文献2、3,4)が、工業的な利用を想定した場合、種々の問題が未解決であると思われる。また、これらの報告では、セルロース、ヘミセルロースの加水分解を起こす酵素は扱われておらず、また、シリカ系メソ多孔体と酵素との相互作用、すなわち吸着作用が弱く、容易に酵素の脱離を起こすことが示されている。
【0015】
この問題を解決するために、シリカ系メソ多孔体の表面に所定の処理を加え、酵素との結合を形成する官能基をシリカ系メソ多孔体の表面に形成される方法が報告されている(非特許文献5)。しかしながら、ここで用いられている表面処理の方法は、極めて煩雑で効率の良くないものであり、また、価格的にも利点が少ないものである。バイオマスの分解や、繊維、食品製造等の技術分野においては、簡便な方法で酵素の固定化が行われることが望ましいのは、言うまでもない。そのため、当該技術分野においては、シリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体について、酵素の固定化による簡便で効率の良い機能賦活方法の開発が強く望まれていた。
【0016】
【特許文献1】特開2007−51076号公報
【非特許文献1】ChemBioChem,Vol.8(2007)6685−6674
【非特許文献2】J.Mol.Catal.B,2(1996)115−126
【非特許文献3】J.Mol.Catal.B,10(2000)453−469
【非特許文献4】J.Mol.Catal.B,22(2003)119−133
【非特許文献5】Micropor.Mesopor.Mater.,77(2005)67−77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記諸問題を解決するために鋭意研究を行い、シリカ系メソ多孔体にセルロース若しくはヘミセルロースを加水分解する酵素を吸着、固定化させ、その酵素が固定化されていること、すなわちシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の形成を確認し、更に、このシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を用いて、酵素反応の特性評価を行い、固定化された酵素が所定の活性を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明は、シリカ系メソ多孔体への吸着現象を酵素の固定化法として利用し、セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解を行う酵素とシリカ系メソ多孔体の複合体であり、固定化された酵素がセルロース乃至ヘミセルロースの加水分解を触媒する活性を有していることを特徴とする、シリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を提供することを目的とするものである。
【0019】
更に、本発明は、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行う際に、酵素の分離・回収を容易にし、繰り返し使用も可能とすると共に、基質を連続的に供給することで、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を連続的に進行させることができ、一般性及び普遍性が高く、かつ簡便な操作による酵素反応を利用した生産を可能にするシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を提供することを目的するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行う酵素と該酵素を固定化させたシリカ系メソ多孔体との複合体であって、シリカ系メソ多孔体へ固定化された酵素がセルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を触媒する活性を有していることを特徴とするシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
(2)シリカ系メソ多孔体が、ケイ素と酸素を必須成分として含む化合物の多孔体である、前記(1)に記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
(3)シリカ系メソ多孔体が、MCM、FSM又はSBAタイプである、前記(1)又は(2)に記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
(4)シリカ系メソ多孔体が、2〜50nmの直径の細孔を有する、前記(1)から(3)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
(5)シリカ系メソ多孔体が、0.1〜3.5ml/gの全細孔体積を有する、前記(1)から(4)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
(6)シリカ系メソ多孔体が、200〜1500mの比表面積を有する、前記(1)から(5)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
(7)セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行う酵素が、エンドグルカナーゼ(エンド−1,4−β−グルカナーゼ)、セロビオビドロラーゼ、キシラナーゼ(エンド−1,4−β−キシラナーゼ)、又はβ−グルコシダーゼである、前記(1)から(6)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
(8)シリカ系メソ多孔体と酵素の溶解した溶液を混合することにより、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解酵素をシリカ系メソ多孔体上、及び細孔内に安定に吸着、保持、固定させることを特徴とするシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
(9)シリカ系メソ多孔体に酵素を固定化させる操作を繰り返すことにより、固定化量を制御若しくは増大させる、前記(8)に記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
(10)シリカ系メソ多孔体が、MCM、FSM又はSBAタイプである、前記(8)又は(9)に記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
(11)シリカ系メソ多孔体が、2〜50nmの直径の細孔を有する、前記(8)から(10)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
(12)シリカ系メソ多孔体が、0.1〜3.5ml/gの全細孔体積を有する、前記(8)から(11)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
(13)シリカ系メソ多孔体が、200〜1500mの比表面積を有する、前記(8)から(12)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
(14)セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行う酵素が、エンドグルカナーゼ(エンド−1,4−β−グルカナーゼ)、セロビオビドロラーゼ、キシラナーゼ(エンド−1,4−β−キシラナーゼ)、又はβ−グルコシダーゼである、前記(8)から(13)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
(15)シリカ系メソ多孔体の中心細孔径を変えることにより、固定化される酵素の量及び活性を制御する、前記(8)から(14)のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
(16)前記(1)から(7)に記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を用いてセルロース若しくはヘミセルロースの加水分解反応を行うことを特徴とするセルロース若しくはヘミセルロース加水分解物の製造方法。
【0021】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行う酵素とシリカ系メソ多孔体の複合体であって、シリカ系メソ多孔体へ固定化された酵素がセルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を触媒する活性を有していることを特徴とするものである。また、本発明は、上記シリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を製造する方法であって、シリカ系メソ多孔体と酵素の溶解した溶液を混合することにより、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解酵素をシリカ系メソ多孔体上、及び細孔内に安定に吸着、保持、固定させることを特徴とするものである。
【0022】
本発明では、シリカ系メソ多孔体が、MCM、FSM又はSBAタイプであること、シリカ系メソ多孔体が、2〜50nmの直径の細孔を有すること、シリカ系メソ多孔体が、0.1〜3.5ml/gの全細孔体積を有すること、シリカ系メソ多孔体が、200〜1500mの比表面積を有すること、を好ましい実施の態様としている。
【0023】
本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体(以下、シリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体と記載することがある。)を構成するシリカ系メソ多孔体としては、一般に、MCM、FSM、SBAタイプ等の材料系が適用される。これらの材料系は、その作製法の違いにより分類されているが、基本的構造は、類似したものである。MCMやFSMタイプの合成は、カチオン性界面活性剤を用いて形成されるミセルを鋳型として、メソ多孔体が合成されている。但し、FSMタイプは、層状化合物であるカネマイトを原料として用いることに特徴がある。
【0024】
一方、SBAでは、中性の非イオン性界面活性剤のブロックコポリマーを用いて形成されるミセルを鋳型としている。このような複数のタイプのシリカ系メソ多孔体が、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行う酵素の固定用担体として挙げられる。しかし、シリカ系メソ多孔体の構造を持つものであれば、基本的には、該機能及び能力を有している限り、全て使用可能であって、シリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を構成するシリカ系メソ多孔体として、その製造方法や性状が特段に限定されるものではない。
【0025】
本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の作製に際しては、合成されたシリカ系メソ多孔体に対し、特段の表面処理を施すことなく、洗浄の操作のみを行ったものを用いることができる。セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素をシリカ系メソ多孔体に固定する操作は、セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素を溶解した溶液中に、当該シリカ系メソ多孔体を浸漬・混合する操作のみにより行うことが可能であり、極めて簡便で単純な方法である。シリカ系メソ多孔体に対する表面処理等は、必ずしも必要ではない。
【0026】
しかしながら、シリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を構成するシリカ系メソ多孔体の酵素に対する固定化の機能及び能力は、シリカ系メソ多孔体と酵素の間の吸着で発揮され、この際には、シリカ系メソ多孔体表面と酵素との間の親和性が重要となる上に、また、酵素の吸着は、その分散溶媒、分散溶媒中の酵素安定化剤、更には、分散溶媒のpH等で影響される場合も多いので、対象とする酵素及びそれを含む溶液の成分状況等に応じて、本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体は、それを構成するシリカ系メソ多孔体の表面状態で、多少変わることもあり得る。総じて言えば、表面に残るシラノール基は、反応性が高いため、悪影響を与えることが多く、シラン処理によりシラノール基が不活性化されたシリカ系メソ多孔体で構成されるものが好ましい場合があり得る。
【0027】
本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の作製に際し、シリカ系メソ多孔体の表面処理を施すことは、適宜可能であり、その表面処理操作の有無、処理方法等が特に限定されるものではない。例えば、シリカ系メソ多孔体表面に形成されるべき官能基としては、固定化する酵素との親和性を確保できる官能基、例えば、アルコキシ基、オクタデシル基、オクチル基、フェニル基、ニトリル基、アミノ基、メルカプトプロピル基、チオール基等を挙げることができ、基本的には、シリカ系メソ多孔体の表面に形成可能な官能基であれば、いずれでも良く、ここに例示した官能基類に限定されるものではない。
【0028】
本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を構成する元素は、一般には、ケイ素と酸素であるが、ケイ素の一部が他の元素に置換したシリカ系メソ多孔体も、酵素の固定化機能を有する。シリカ系メソ多孔体を構成するケイ素と置換可能なものの典型としては、例えば、アルミニウム、ホウ素、燐、ガリウム、ニオブ、チタン、錫、鉄、コバルト、銅、ニッケル、亜鉛、クロム、バナジウム、マンガン、ジルコニウム、タンタル、ハフニウム等を挙げることができる。しかし、これらに留まるものではなく、基本的に、シリカ系メソ多孔体の構造を破壊しないものであればいずれでも良い。
【0029】
また、その置換量に関しても、シリカ系メソ多孔体の構造を破壊しない量であれば、置換量は、いかなる量でもかまわず、該置換シリカ系メソ多孔体は、酵素固定用の担体となり得る。本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を構成するシリカ系メソ多孔体は、いずれも熱安定性、化学安定性に優れており、しかも環境に対する負荷が低い物質であるので、本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体は、例えば、バイオマスの分解や繊維、食品製造等にとって極めて有用であり、産業上の利用可能性とその経済効果は計り知れないものがある。
【0030】
シリカ系メソ多孔体は、一般には、数nmの細孔径を有するが、その細孔径は、シリカ系メソ多孔体の合成条件により制御可能である。例えば、固定化すべき酵素が5nmの大きさを有していた場合、その酵素の大きさに相応した細孔径を有するシリカ系メソ多孔体を酵素固定用担体として用いる選択肢があり、その場合には、酵素の固定量が増加したり、酵素の安定性が向上することがあり得る。このような状況を踏まえ、シリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を構成する際には、シリカ系メソ多孔体の細孔径を制御することが不可欠である。本発明では、シリカ系メソ多孔体の細孔径を制御することで、シリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を構成する上で、好適なシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を開発することが可能である。
【0031】
セルロースは、グルコースがβ−1,4結合した直鎖状の高分子化合物であり、このグルコースのβ−1,4結合を加水分解する酵素の総称がセルラーゼである。すなわち、セルラーゼとは、複数の酵素を含む多成分系をさしている。一般には、エンドグルカナーゼ(エンド−1,4−β−グルカナーゼ)、セロビオビドロラーゼ、β−グルコシダーゼが共同して作用するものと解釈されている。キシラナーゼ(エンド−1,4−β−キシラナーゼ)は、セルロースに類似したヘミセルロースの一種のキシランを分解する酵素であるが、セルラーゼとの共存により、多様なバイオマスの分解に対して効果があることが確認されている。
【0032】
本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の酵素には、セルロースの加水分解を行う酵素として、エンドグルカナーゼ(エンド−1,4−β−グルカナーゼ)、セロビオビドロラーゼ、キシラナーゼ(エンド−1,4−β−キシラナーゼ)、β−グルコシダーゼを用いることができるが、基本的には、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行える酵素であれば、どのような種に由来するものであっても良く、ここに例示した酵素類に限定されるものではない。
【0033】
いずれの酵素を用いた場合であっても、シリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を構成する上で、シリカ系メソ多孔体の細孔径を制御すること、及びシリカ系メソ多孔体表面上の官能基を制御することが可能である。それにより、選択された酵素に対して、シリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を構成する上での好適な所定の処理を施すことが可能である。
【0034】
本発明では、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解に際し、原料セルロース、ヘミセルロースの性状や特性に応じて好適な酵素を選択して、その酵素を用いたシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を、固定化酵素として選択することができる。本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を用いることで、多種多様なセルロース若しくはヘミセルロース原料を対象として、酵素反応により糖類を生成させることができる。
【0035】
本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体には、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行う酵素として、エンドグルカナーゼ(エンド−1,4−β−グルカナーゼ)、セロビオビドロラーゼ、キシラナーゼ(エンド−1,4−β−キシラナーゼ)、β−グルコシダーゼを用いることができるため、これらの酵素を固定化した、酵素反応に好適なシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を提供することができる。
【0036】
本発明は、シリカ系メソ多孔体に酵素が固定化されていることにより、反応系中に高濃度に酵素を存在させることが容易であること、酵素濃度が高くても、酵素の凝集を生じさせることなく酵素反応を進行させることが容易であること、酵素の回収が容易であること、酵素の繰り返し使用が可能であること、等の利点を有する。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、以下のような効果が奏される。
(1)本発明のシリカ系メソ多孔体は、酵素の導入可能な細孔径を有する細孔を有していることから、酵素の吸着可能な表面が大きいため、大量の酵素を固定することができ、酵素の高集積化が可能であり、また、繰り返し酵素の固定化を施すことにより、より多量な酵素を固定化することもできるため、酵素の高集積化が可能である。
(2)本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を用いることで、高集積化された酵素を反応系中に存在させることができるため、酵素反応をより効率的に進めることができ、また、固定化により高集積化された酵素を利用することから、酵素の凝集を避けることができるため、酵素を溶液に溶解した状態よりも高濃度に反応系中に存在させることが可能となり、酵素反応をより効率的に進めることに寄与できる。
(3)本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体では、シリカ系メソ多孔体に酵素が固定化されていることにより、酵素の回収が容易であり、酵素の繰り返し使用が可能であり、基質を連続的にシリカ系メソ多孔体−酵素複合体と接触して流通させ、連続的な酵素反応の実施が可能である。
(4)本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体は、環境に負荷の少ない材料系で構成されており、原材料は、入手しやすく、その作製方法も簡単で、安価である。
(5)本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体は、未処理若しくは適切な溶液による処理で官能基を有していることから、固定化される酵素の量や固定化状態を制御することができるため、酵素反応に好適なシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を選択することができ、また、その作製条件の制御により、シリカ系メソ多孔体の中心細孔径を変えることが可能であり、それにより固定化される酵素の量や活性を制御することができ、酵素反応に好適なシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を選択することができる。
(6)本発明のシリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体は、その作製条件の制御により、シリカ系メソ多孔体の中心細孔径を変えることが可能であり、それにより、固定化される酵素の安定性や耐久性を向上させることができ、酵素反応をより効率的に進行させることができる。
(7)上記の構成及び効果を組み合わせて利用することにより、新規のセルロース若しくはヘミセルロースの加水分解プロセスを構築し、提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例等によって何ら制約を受けるものではない。以下の実施例では、シリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の合成法について説明する。
【実施例1】
【0039】
(シリカ系メソ多孔体の合成)
シリカ系メソ多孔体のうち、SBAタイプに属するものの作製方法を示す。中性の非イオン性界面活性剤のブロックコポリマー(poly(ethylene glycol)−block−poly(propylene glycol)−block−poly(ethylene glycol))10gを、超純水100gに混合し、35℃で一晩、撹拌混合した。その後、35℃に暖めておいたシリカ源としてのTEOS(tetraethly orthosilicate)を31.33g加え、更に、同じく35℃の2Mの塩酸71.4gと35℃の超純水163gを加えた。
【0040】
80℃の温度に設定して、20時間、撹拌混合した。この撹拌混合には、マグネチックスターラーを用いた。尚、細孔径を制御する目的で、ブロックコポリマーの量を変化させたり、膨張剤としてトリメチルベンゼン(1,3,5−trimethylbenzene)を添加する場合がある。この溶液を吸引濾過した後、分離された固形物を超純水に再分散し、また、濾過を繰り返し、固形物の洗浄を行った。その後、60℃で24時間、乾燥した。更に、空気気流中にて550℃で10時間焼成することにより、各種細孔径を有するシリカ系メソ多孔体を得た。上記方法により作製したシリカ系メソ多孔体は、以下、SBA−15(9nm)と記載する。
【0041】
上記手法において、ブロックコポリマーを4g、超純水の総量を30g、2Mの塩酸120g、TEOSを8.5gと変更して作製したシリカ系メソ多孔体を、SBA−15(5nm)と記載し、また、ブロックコポリマーを12g、超純水の総量を360g、2Mの塩酸26.25g、TEOSを25.62gと変更し、更に、膨張剤としてのトリメチルベンゼン(1,3,5−trimethylbenzene)を4.8g加えて同様に作製したシリカ系メソ多孔体を、SBA−15(11nm)と記載する。
【0042】
上記手法により合成されたシリカ系メソ多孔体について、粉末X線回折法、走査電子顕微鏡法、透過電子顕微鏡法及び窒素吸着等温線の測定を適用した。粉末X線回折法においては、得られたX線回折パターンより、上記手法により作製されたシリカ系メソ多孔体は、2次元ヘキサゴナルの細孔配列構造を有していることが分かった。また、回折ピーク位置の解析から、合成時のブロックコポリマーの量や膨張剤の有無により、細孔径が制御されていることが確認できた。
【0043】
窒素吸着等温線の測定から得た細孔分布の結果を図1に示す。作製時の条件の違いに依存し、異なる細孔分布が得られた。SBA−15(5nm)のシリカ系メソ多孔体では、5.4nm径の細孔による鋭いピークが確認された。SBA−15(9nm)及びSBA−15(11nm)のシリカ系メソ多孔体の場合には、それぞれ8.9nm,11nmにピークを持つ、細孔の分布が確認された。図中には、参考のため、アモルファスシリカの測定結果も示してある。
【0044】
走査電子顕微鏡による観察から、合成されたシリカ系メソ多孔体は、柱状の粒子が方向を揃えた集合体として観察された。透過電子顕微鏡による観察からは、SBA−15(5nm)のシリカ系メソ多孔体では、およそ5nm径の細孔が分布していることが確認された。SBA−15(9nm)のシリカ系メソ多孔体では、およそ9nmの細孔が分布していることが確認され、また、SBA−15(11nm)のシリカ系メソ多孔体では、およそ11nmの細孔が分布していることが確認され、窒素吸着等温線の測定結果とよい一致を見た。
【実施例2】
【0045】
(1)シリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の作製
作製されたシリカ系メソ多孔体を酵素の固定化用担体として用い、Trichoderma viride由来のセルラーゼの固定化を行った。1.5mlマイクロチューブにシリカ系メソ多孔体を10mg入れ、そこに、10mM 酢酸バッファー(pH4)とセルラーゼ1mgを溶解させた溶液1mlを加え、4℃で一晩、撹拌・混合した後、遠心によりシリカ系メソ多孔体を沈降させることで、酵素の吸着・固定を行った。この操作の際、上清に残ったセルラーゼを定量することで、吸着・固定化されたセルラーゼを定量することができる。セルラーゼの定量は、280nmで吸光度測定し、濃度を算出した。
【0046】
これらの手法を用いることで、セルラーゼの最大吸着量を算出した。これらの結果を図2に示す。SBA−15(5nm)とSBA−15(9nm)は、ほぼ同様な傾向を示し、その酵素固定量は、シリカ系メソ多孔体 10mgに対して、セルラーゼが7.5mg吸着・固定されることが分かった。SBA−15(11nm)のグラフは、他の試料と異なる傾向を示しているが、最終的には、やはり同程度のシリカ系メソ多孔体10mgに対して、セルラーゼが7.5mg吸着・固定されることが分かった。図中には、参考のため、アモルファスシリカの測定結果も示してある。
【0047】
酵素の吸着・固定化後のセルラーゼが固定化されたシリカ系メソ多孔体複合体について、窒素吸着等温線の測定を行い、細孔径分布の評価を行った。その結果を図3に示す。セルラーゼを固定化する前に比較して、メソ孔領域の窒素吸着量が減少し、細孔分布におけるメソ孔領域の分布の減少が認められる。また、ピークの位置も若干径が小さい方にシフトしていることが確認される。このことは、シリカ系メソ多孔体のメソ孔内にセルラーゼが固定化されていることを示しており、セルラーゼは、シリカ系メソ多孔体の表面のみならず、その細孔内にも導入され、固定化されていることが分かる。
【0048】
(2)シリカ系メソ多孔体−セルロース、ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の酵素活性測定
微結晶のセルロースを分解する酵素反応をモデル反応として、シリカ系メソ多孔体−セルラーゼ複合体の酵素活性評価を行った。セルロースは、グルコースがβ−1,4結合した直鎖状の高分子化合物であり、セルラーゼは、このグルコースのβ−1,4結合をランダムに加水分解するEndoglucanase活性を有する。酵素反応を実施後、生成物である遊離したグルコースを定量することにより、固定化されたセルラーゼの酵素活性を評価した。
【0049】
具体的な測定手順は、以下のような手順を用いた。
1.微結晶セルロース40mgを、10mM 酢酸バッファー(pH4)800μlに分散させ、そこに、1mg/mlのセルラーゼが固定化されたシリカ系メソ多孔体を含む溶液200μlを加える。pHは、実験の条件により変更する。
2.37℃で2時間、撹拌し、セルラーゼの酵素反応を行わせる。
3.4℃、10000rpmで30分、遠心分離を行い、固定化された酵素を分離し、反応を停止させる。
【0050】
一方で、遊離したグルコースの定量のための試薬を用意する。
4.ATP 0.77μl/ml、NADP 0.91μl/ml、Hexokinase 1.5units/ml、Glucose−6−phosphate dehydrogenase 1.9units/ml、Tris−HCl with Mg2+ 0.1M により構成される、グルコース定量用の試薬を準備する。
5.1mlの上記4.の試薬の340nmの吸光度を測定する。
6.上記3.の上清200μlを上記5.の試薬に加える。
7.室温にて5分間静置する。
8.340nmの吸光度を測定し、遊離していたグルコースの濃度を算出する。
【0051】
図4に、各種固定化されたセルラーゼの異なるpH溶液中での酵素活性を示す。縦軸は、比活性であるが、該セルラーゼの有する等電点4.96付近において、最大活性を示す傾向が認められる。固定化されていないセルラーゼに対して、SBA−15(9nm)では、70%程度の比活性を、また、SBA−15(11nm)では、40%程度の比活性を有していることが分かる。このことから、シリカ系メソ多孔体に固定化されたセルラーゼは、多少の比活性の低下は認められるものの、酵素活性は保持されていること、その結果、セルロースの加水分解のための反応系において、シリカ系メソ多孔体複合体に固定化されたセルラーゼを共存させることにより、その溶解度を超えた量のセルラーゼを反応系内に存在させることが可能であることが分かる。このことは、言うまでもなく、反応速度、すなわちセルロースの加水分解速度の向上に寄与するものであり、また、反応生成物からも容易に酵素を回収できるものであることを意味している。
【0052】
セルラーゼを酵素として固定化したシリカ系メソ多孔体を用いて、固定化された酵素の安定性を検討した。検討は、以下のような手順で行った。セルラーゼを固定化したSBA−15(9nm)とアモルファスシリカ、更には、溶液中にセルラーゼが溶解しただけの状態の試料を、4℃で保存を行い、一週間後、二週間後、四週間後と、それぞれの試料の酵素活性を評価した。その結果を図5に示す。図の結果より明らかなように、SBA−15(9nm)に固定化されたセルラーゼは、その活性を低下することがなく、極めて安定な状態で固定化されていることが分かる。溶液中にセルラーゼが溶解しただけの状態の試料では、二週間を越えた後、急速に酵素活性を失ってしまっている。
【0053】
セルラーゼを酵素としたシリカ系メソ多孔体との複合体を用いて、その繰り返し利用を行った。この場合には、SBA−15(9nm)10mgに対して、5mgのセルラーゼを固定化させた試料を用いた。セルラーゼが固定化されたシリカ系メソ多孔体複合体について、その繰り返し活性の評価を行うためには、先に示した方法の様に、微結晶セルロースを基質として用いると、反応後、基質とセルラーゼが固定化されたシリカ系メソ多孔体複合体の分離が不可能となるため、活性評価法を変更する必要があった。
【0054】
そこに、繰り返し活性評価のためには、還元糖をジニトロサリチル酸(DNS)法(以下、DNS法と表記。)で検出する手法を適用することとした。DNS法では、基質カルボキシルメチルセルロース(CMC)(以下、CMCと表記。)がセルロースにより3−アミノ−5−ニトロサリチル酸に変化することを利用するものである。まず、DNS法を行うための試薬を用意する。
1.1.4% DNS、0.28% phenol、0.07% sodium sulfite、28% Na−K tartarate、1.4% NaOH により構成される、DNS法のための試薬を準備する。
【0055】
具体的な測定手順は、以下のような手順を用いた。
2.CMCを2%含む、10mM 酢酸バッファー(pH4)300μlに、5mg/mlのセルラーゼが固定化されたシリカ系メソ多孔体を含む溶液300μlを加える。セルラーゼが固定化されたシリカ系メソ多孔体は、同様に、10mM 酢酸バッファー(pH4)に分散されている。
3.50℃で30分、撹拌し、セルラーゼの酵素反応を行わせる。
4.上記1.のDNS法のための試薬600μlを、上記3.の酵素反応液に加える。
5.95℃にて5分間保持する。
6.540nmの吸光度を測定し、生成した3−アミノ−5−ニトロサリチル酸の濃度を算出する。
【0056】
その結果を図6に示す。図6では、セルラーゼの酵素活性により基質CMCから生成した3−アミノ−5−ニトロサリチル酸の量を測定することにより、セルラーゼの活性を評価している。反応を繰り返す毎に酵素活性の低下が認められるが、5回目以降は、その低下の度合いも弱くなり、急激な酵素活性の低下は認められず、10回目の反応においても酵素活性が残存していることが確認できた。
【0057】
これらの結果は、シリカ系メソ多孔体に固定化されたセルラーゼ、すなわちセルラーゼが固定化されたシリカ系メソ多孔体複合体は、繰り返し使用が可能であること、酵素の回収が容易であること、酵素の高集積化により反応を効率的に進行させることが可能であることを明確に示している。セルラーゼが固定化されたシリカ系メソ多孔体複合体を、更に、固定し、そこに、セルロースが共存・接触するような装置を構成することで、連続的な酵素反応の実施が可能である。
【0058】
セルラーゼを反応用の適切なバッファー等の溶液に溶解させた場合、10mg/ml以上の濃度において、酵素の沈澱、すなわち未溶解分が確認されることがしばしばである。一般に、酵素、すなわちタンパク質の溶解度には限界があり、それを越えると凝集という現象を起こす。セルラーゼの場合も例外ではなく、10mg/ml以上の濃度にすると、結果として凝集が始まり、凝集を起こした酵素は、活性を示さなくなる。一方で、シリカ系メソ多孔体複合体に固定化されたセルラーゼの場合、上記の限界値を超えた量を反応系内に存在させることができる。
【0059】
すなわち、先に示したSBA−15(9nm)10mgに対して、セルラーゼが5mg程度、吸着、固定されたシリカ系メソ多孔体複合体を、1mlの反応基質、すなわちセルロースが分散した溶液中に40mg分散させた場合、この反応系においては、溶液1mlにセルラーゼが5×40/10=20mg、存在していることが理解できる。固定化されていない酵素に対し、比活性が70%程度であることを考慮しても、20×70/100=14mg相当の活性な酵素が存在することになる。
【0060】
シリカ系メソ多孔体複合体に固定化されたセルラーゼを用いて、セルロースの加水分解反応を繰り返し、実施した。セルラーゼを溶液に溶解した場合には、変性凝集させることで、分離、回収することが一般的であり、酵素の失活を避けることができず、再利用は不可能である。一方、シリカ系メソ多孔体複合体に固定化されたセルラーゼの場合には、遠心分離や濾過等の方法により、容易に回収が可能であり、更には、再利用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上詳述したように、本発明は、シリカ系メソ多孔体とセルロース若しくはヘミセルロースを加水分解する加水分解酵素複合体に係るものであり、本発明により、表面を未処理あるいは適切な溶液で官能基を付与する処理等を施されたシリカ系メソ多孔体へのセルロース若しくはヘミセルロースを加水分解する酵素の吸着現象を、酵素の固定化法として利用したシリカ系メソ多孔体−セルロース若しくはヘミセルロースを加水分解する酵素複合体、その製造方法及びその用途を提供することができる。
【0062】
本発明によれば、シリカ系メソ多孔体の表面に未処理若しくは適切な溶液による処理で官能基を付与することができ、また、その合成条件を制御することで細孔径を制御できることから、固定化酵素に対して好適なシリカ系メソ多孔体−セルロース若しくはヘミセルロースを加水分解する酵素複合体を提供することができる。
【0063】
本発明では、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解に際し、原料の性状や特性に応じて好適な酵素を選択して、その酵素を用いたシリカ系メソ多孔体−セルロース若しくはヘミセルロースを加水分解する酵素複合体を、固定化酵素として選択することができる。そのため、酵素の回収が容易であり、繰り返し使用も可能となる他、基質を連続的にシリカ系メソ多孔体−セルロース若しくはヘミセルロースを加水分解する酵素複合体と接触して流通させる連続的な酵素反応の実施も可能となる。
【0064】
また、本発明によれば、固定化により高集積化された酵素を利用することから、酵素の凝集を避けることができるため、酵素を溶液に溶解した状態よりも高濃度に反応系中に存在させることが可能となり、酵素反応をより効率的に進めることに寄与できる。本発明は、例えば、多種多様な原料から、複数の酵素を作用させた状態で良質な加水分解物を効率的に製造する新規のセルロース若しくはヘミセルロース加水分解プロセスのシステムを構築し、提供することを可能とするものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、シリカ系メソ多孔体の細孔分布を示す。
【図2】図2は、シリカ系メソ多孔体へのセルラーゼの吸着等温線を示す。
【図3】図3は、セルラーゼを固定化前後のシリカ系メソ多孔体の細孔分布を示す。
【図4】図4は、シリカ系メソ多孔体に固定化されたセルラーゼの比活性を示す。
【図5】図5は、シリカ系メソ多孔体に固定化されたセルラーゼの安定性を示す。
【図6】図6は、シリカ系メソ多孔体に固定化されたセルラーゼを繰り返し利用した場合の活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行う酵素と該酵素を固定化させたシリカ系メソ多孔体との複合体であって、シリカ系メソ多孔体へ固定化された酵素がセルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を触媒する活性を有していることを特徴とするシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
【請求項2】
シリカ系メソ多孔体が、ケイ素と酸素を必須成分として含む化合物の多孔体である、請求項1に記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
【請求項3】
シリカ系メソ多孔体が、MCM、FSM又はSBAタイプである、請求項1又は2に記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
【請求項4】
シリカ系メソ多孔体が、2〜50nmの直径の細孔を有する、請求項1から3のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
【請求項5】
シリカ系メソ多孔体が、0.1〜3.5ml/gの全細孔体積を有する、請求項1から4のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
【請求項6】
シリカ系メソ多孔体が、200〜1500mの比表面積を有する、請求項1から5のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
【請求項7】
セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行う酵素が、エンドグルカナーゼ(エンド−1,4−β−グルカナーゼ)、セロビオビドロラーゼ、キシラナーゼ(エンド−1,4−β−キシラナーゼ)、又はβ−グルコシダーゼである、請求項1から6のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体。
【請求項8】
シリカ系メソ多孔体と酵素の溶解した溶液を混合することにより、セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解酵素をシリカ系メソ多孔体上、及び細孔内に安定に吸着、保持、固定させることを特徴とするシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
【請求項9】
シリカ系メソ多孔体に酵素を固定化させる操作を繰り返すことにより、固定化量を制御若しくは増大させる、請求項8に記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
【請求項10】
シリカ系メソ多孔体が、MCM、FSM又はSBAタイプである、請求項8又は9に記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
【請求項11】
シリカ系メソ多孔体が、2〜50nmの直径の細孔を有する、請求項8から10のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
【請求項12】
シリカ系メソ多孔体が、0.1〜3.5ml/gの全細孔体積を有する、請求項8から11のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
【請求項13】
シリカ系メソ多孔体が、200〜1500mの比表面積を有する、請求項8から12のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
【請求項14】
セルロース若しくはヘミセルロースの加水分解を行う酵素が、エンドグルカナーゼ(エンド−1,4−β−グルカナーゼ)、セロビオビドロラーゼ、キシラナーゼ(エンド−1,4−β−キシラナーゼ)、又はβ−グルコシダーゼである、請求項8から13のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
【請求項15】
シリカ系メソ多孔体の中心細孔径を変えることにより、固定化される酵素の量及び活性を制御する、請求項8から14のいずれかに記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体の製造方法。
【請求項16】
請求項1から7に記載のシリカ系メソ多孔体−セルロース乃至ヘミセルロースの加水分解酵素複合体を用いてセルロース若しくはヘミセルロースの加水分解反応を行うことを特徴とするセルロース若しくはヘミセルロース加水分解物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−125006(P2009−125006A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303834(P2007−303834)
【出願日】平成19年11月24日(2007.11.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】