説明

シリカ系微粒子の製造方法

【課題】 母体粒子全面にわたって、突起物が化学結合により強固に結着してなり、例えば樹脂用充填材や表面に導電層を被覆した導電性粒子の母材などとして好適なシリカ系微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】(A)特定のアルコキシシラン化合物を加水分解、縮合させてポリオルガノシロキサン粒子を生成させる工程、(B)該ポリオルガノシロキサン粒子を、表面吸着剤により表面処理する工程、および(C)上記(B)工程で表面処理されたポリオルガノシロキサン粒子全面に、該アルコキシシラン化合物を用いて突起を形成させる工程、を含むシリカ系微粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系微粒子の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、母体粒子全面に、ほぼ球状や半球状の突起物が化学結合により強固に結着したものであって、例えば樹脂用充填材や表面に導電層を被覆した導電性粒子の母材などとして好適なシリカ系微粒子を効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体樹脂封止剤やラジアルタイヤなどにおいては、性能を向上させる目的で、各種フィラーが混入されている。このフィラーとしては、無機系粒子やガラスファイバーが主に用いられている。
フィラーが球状粒子である場合と金平糖状粒子である場合、これらが半導体樹脂封止剤やラジアルタイヤなどの充填材として用いられた際、樹脂組成物やゴム組成物との密着性、あるいは熱膨張係数差に起因するクラック発生の防止効果などの点で、後者の方が優れている。
【0003】
従来、金平糖状粒子の製造に関しては、例えば、(1)分散重合法によって得た分散重合粒子の存在下で、単量体を重合させることにより、該分散重合粒子の表面に微小重合体粒子を付着させてなる表面に凹凸を有する樹脂粒子(特許文献1)、(2)母粒子の表面に、子粒子を接着剤を用いて付着させるか、直接融着させて、表面に突起物をもつ微粒子を作製する方法、あるいは母粒子を回転する容器に入れて、該粒子表面に子粒子の溶液を付着させ、容器を回転させながら溶媒を蒸発させることにより、母粒子表面に溶質を角状に析出させて、突起物をもつ微粒子を作製する方法(特許文献2)、(3)溶融球状シリカ粒子と、該シリカ粒子よりも微細な破砕状シリカ粒子とを高速回転気流中に投入処理し、粒子表面に突起物を有する粒子を作製する方法(特許文献3)などが開示されている。
【0004】
しかしながら、前記(1)の表面に凹凸を有する樹脂粒子は、粒子自体または突起物の剪断強度や破壊強度に乏しいという欠点を有しており、一方、(2)および(3)の方法により得られた表面に突起物を有する粒子は、物理的な接着や融着により母体粒子と突起物とが接合しているため、突起物の剪断強度や破壊強度に乏しいという欠点を有している。また、前記(3)の方法においては、高速回転気流下で処理が行われるため、粒子自体の耐熱性や耐圧性が必要となるなどの問題もある。
このような金平糖状粒子を充填材として用いた場合、母体粒子表面と突起物との結合強度の差により、得られる製品自体の破壊強度などの機械的強度に差が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−331216号公報
【特許文献2】特開平4−36902号公報
【特許文献3】特開平3−259960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで、母体粒子全面にわたって、突起物が化学結合により強固に結着してなり、例えば樹脂用充填材や表面に導電層を被覆した導電性粒子の母材などとして好適なシリカ系微粒子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の構造のアルコキシシラン化合物を加水分解してポリオルガノシロキサン粒子を生成させる工程、このポリオルガノシロキサン粒子を表面処理する工程、この表面処理ポリオルガノシロキサン粒子をシード粒子とし、該粒子全面にアルコキシシラン化合物を用いて突起物を形成させる工程、さらに場合により焼成処理工程を施すことにより、母体粒子全面に、実質上球状や半球状の突起物が化学結合により、強固に結着してなるシリカ系微粒子が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、母体粒子全面に、実質上球状および/または半球状の突起物を有し、該突起物が化学結合により母体粒子に結着しているシリカ系微粒子を製造する方法であって、
(A)一般式(I)
nSi(OR4−n ・・・(I)
(式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜10のアラルキル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、nは1または2を示し、nが2の場合、2つのRはたがいに同一でも異なっていてもよく、また、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表されるアルコキシシラン化合物を加水分解、縮合させ、場合により得られた粒子をシード粒子として粒径成長させてポリオルガノシロキサン粒子を生成させる工程、
(B)上記(A)工程で得られたポリオルガノシロキサン粒子を、表面吸着剤により表面処理する工程、および
(C)上記(B)工程で表面処理されたポリオルガノシロキサン粒子をシード粒子とし、前記一般式(I)で表されるアルコキシシラン化合物を用いて、該シード粒子全面に突起を形成させる工程、さらに場合により(D)焼成処理工程、
を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、母体粒子全面にわたって、ほぼ球状や半球状の突起物が化学結合により強固に結着した金平糖状のシリカ系微粒子が容易に得られる。このシリカ系微粒子は、例えば樹脂用充填材や表面に導電層を被覆した導電性粒子の母材などとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1において、異形化処理で得られたシリカ系微粒子の走査型電子顕微鏡写真図である。
【図2】実施例2において、異形化処理で得られたシリカ系微粒子の走査型電子顕微鏡写真図である。
【図3】実施例3において、異形化処理で得られたシリカ系微粒子の走査型電子顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の製造方法で得られるシリカ系微粒子は、母体粒子全面にわたって、実質上球状および/または半球状の突起物が化学結合により、強固に結着してなる金平糖状粒子である。
シリカ系微粒子においては、突起物と母体粒子双方が、通常一般式(I)
nSi(OR4−n ・・・(I)
で表されるアルコキシシラン化合物に由来する組成を有している。この場合、突起物を形成する原料のアルコキシシラン化合物と、母体粒子を形成する原料のアルコキシシラン化合物は、同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0012】
前記一般式(I)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜10のアラルキル基を示す。ここで、炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基及び各種ペンチル基が挙げられる。炭素数2〜5のアルケニル基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、その例としてはビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基などが挙げられる。炭素数6〜10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられ、炭素数7〜10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0013】
一方、Rは炭素数1〜5のアルキル基であり、このアルキル基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基及び各種ペンチル基が挙げられる。nは1または2であり、nが2の場合、2つのRはたがいに同一でも異なっていてもよく、また、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。
【0014】
前記一般式(I)で表されるアルコキシシラン化合物の例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシランなどが挙げられる。これらの中で、特にメチルトリメトキシシランおよびビニルトリメトキシシランが好適である。
【0015】
本発明においては、原料として、前記一般式(I)で表されるアルコキシシラン化合物を1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のシリカ系微粒子における母体粒子は、平均粒径が、通常0.5〜30μm、好ましくは2〜10μmであり、また、粒度分布の変動係数(CV値)が、通常5%以下であって、真球状の単分散粒子である。
【0016】
なお、変動係数(CV値)は下式により求められる。
CV値(%)=(粒径の標準偏差/平均粒径)×100
この母体粒子の全面に、化学結合により結着されている突起物は、実質上球状および/または半球状の形状を有しており、そして、突起物の高さ/母体粒子径の平均値は、通常0.02〜0.5の範囲である。また、1個の母体粒子に結着している突起物の数は、上記の突起物の高さ/母体粒子径の値により左右され、特に限定されない。
【0017】
さらに、シリカ系微粒子は、完全にシリカ化されたものについては、同じ粒子径をもつ従来の球状シリカ系粒子(突起をもたない)に比べて、窒素吸着比表面積が、約2倍以上に大きくなる。
このような形状を有するシリカ系微粒子は、以下に示す本発明の製造方法によって、効率よく製造することができる。
【0018】
本発明のシリカ系微粒子の製造方法は、(A)ポリオルガノシロキサン粒子の生成工程、(B)該ポリオルガノシロキサン粒子の表面処理工程、(C)突起物形成工程、および場合により施される(D)焼成処理工程を含むものであり、次に、各工程について説明する。
【0019】
(A)ポリオルガノシロキサン粒子の生成工程
この(A)工程においては、前記一般式(I)で表されるアルコキシシラン化合物を加水分解、縮合させ、場合により得られた粒子をシード粒子として粒径成長させてポリオルガノシロキサン粒子を生成させる工程である。
【0020】
この(A)工程においては、所望によりノニオン性界面活性剤を含有するアンモニアおよび/またはアミンの水性溶液の存在下に、前記一般式(I)で表されるアルコキシシラン化合物を加水分解・縮合させるが、上記アンモニアやアミンは、該アルコキシシラン化合物の加水分解・縮合反応の触媒である。ここで、アミンとしては、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミンなどを好ましく挙げることができる。このアンモニアやアミンは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、毒性が少なく、除去が容易で、かつ安価なことから、アンモニアが好適である。
【0021】
ノニオン性界面活性剤を含有するアンモニアおよび/またはアミンの水性溶液としては、水または水と水混和性有機溶剤との混合溶剤にノニオン性界面活性剤とアンモニアおよび/またはアミンを溶解した溶液が挙げられる。ここで、水混和性有機溶剤の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール類、アセトン、ジメチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。これらは単独で水と混合してもよいし、2種以上を組み合わせて水と混合してもよい。
アンモニアやアミンの使用量としては特に制限はないが、反応開始前の水層のpHが、7.5〜11.0の範囲になるように選定するのが好ましい。
【0022】
本発明においては、所望により用いられるノニオン性界面活性剤として、HLB値が8〜20の範囲にあるものが好ましく用いられる。このHLBは、親水性と親油性のバランスを表す指標であり、その値が小さいほど、親油性が高い。HLB値が上記範囲を逸脱するものでは、本発明の効果が十分に発揮されない。本発明の効果をよりよく発揮させるには、HLB値が10〜17の範囲にあるものが好ましい。
【0023】
反応形式としては特に制限はなく、混合均一系反応および2層系反応のいずれも用いることができるが、CV値が小さく、粒径精度のよい粒子が得られ、かつ反応操作が容易な点から2層系反応の方が有利である。
【0024】
この2層系反応においては、原料のアルコキシシラン化合物として、前記一般式(I)で表される単独物もしくは混合物の比重(23℃)が1以下であるものが用いられる。
まず、このアルコキシシラン化合物を、所望により用いられるノニオン性界面活性剤とアンモニアおよび/またはアミン含有水性溶液と実質上混合させることなく、2層状態を保持しながら、界面で反応させる。
【0025】
この反応においては、アルコキシシラン化合物とアンモニアやアミン水性溶液層とが、実質上混合することなく、2層状態を保持するように緩やかに撹拌することが必要である。これにより、上層のアルコキシシラン化合物が加水分解されて下層に移行し、そこでポリオルガノシロキサン粒子が成長する。この際の反応温度は、原料のアルコキシシラン化合物の種類などに左右されるが、一般的には0〜60℃の範囲で選ばれる。
この2層系反応においては、上層のアルコキシシラン化合物が消失してから、次工程へ供給する。
【0026】
本発明の(A)工程においては、必要に応じて、このようにして得られた粒子をシード粒子とし、さらに粒径成長させてもよい。この場合、シード粒子を生成させたのち、反応液を希釈倍率が、好ましくは2〜200倍、より好ましくは5〜100倍になるように水性媒体で希釈してシード粒子液を調製する。この際、希釈に使用する水性媒体としては、水または水と水混和性有機溶剤との混合溶剤が用いられるが、前記加水分解反応において、反応媒体として用いたものと同じものを用いるのが好ましい。
【0027】
次に、このシード粒子液に、前記一般式(I)で表されるアルコキシシラン化合物を添加して、上記と同様に2層系反応を行い、シード粒子を成長させる。この操作は、所望の粒径に成長させるまで繰り返し行うことができる。
【0028】
(B)ポリオルガノシロキサン粒子の表面処理工程
この(B)工程においては、前記(A)工程で得られたポリオルガノシロキサン粒子を、表面吸着剤により表面処理する工程である。
【0029】
この際使用する表面吸着剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及び界面活性剤を好ましく挙げることができる。ポリビニルアルコールとしては、ケン化度が、好ましくは34〜98モル%、より好ましくは88〜98モル%で、数平均分子量が好ましくは200〜3,500、より好ましくは500〜2,400の範囲にあるものが好適である。また、ポリビニルピロリドンとしては、数平均分子量が、好ましくは10,000〜360,000、より好ましくは40,000〜120,000の範囲にあるものが好適である。
【0030】
一方、界面活性剤としては、ノニオン性およびアニオン性のものが好ましく用いられる。ノニオン性界面活性剤として、HLB値が8〜20の範囲にあるものが好ましく用いられる。このHLBは、親水性と親油性のバランスを表す指標であり、その値が小さいほど、親油性が高い。HLB値が上記範囲を逸脱するものでは、本発明の効果が十分に発揮されない。本発明の効果をよりよく発揮させるには、HLB値が10〜17の範囲にあるものが好ましい。
【0031】
該ノニオン性界面活性剤としては、HLB値が上記の範囲にあるものであればよく、特に制限されず、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、アルキルフェノールホルマリン縮合物の酸化エチレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどのエーテル型ノニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油および硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルなどのエーテルエステル型ノニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどのエステル型ノニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキシドなどの含窒素型ノニオン性界面活性剤などが挙げられるが、これらの中でエーテル型が好ましく、特にポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが好適である。これらのノニオン性界面活性剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、アニオン性界面活性剤としては、HLB値が18〜42の範囲にあるものが用いられる。HLB値が上記範囲を逸脱するものでは、本発明の効果が十分に発揮されない。このようなアニオン性界面活性剤としては、HLB値が18〜42の範囲にあればよく、特に制限はないが、例えばアルキルアリールスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、脂肪酸アルカリ塩、アルキルリン酸塩、アルキルホスホン酸塩などが挙げられる。これらの中で、アルキル基の炭素数が8〜18のアルキルアリールスルホン酸塩、アルキル基の炭素数が8〜18のアルキル硫酸塩、アルキル基の炭素数が8〜18の脂肪酸アルカリ塩が好ましく、特にドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホネート、オレイン酸カリウムが好適である。また、このアニオン性界面活性剤は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
この(B)工程においては、前記(A)工程で得られたポリオルガノシロキサン粒子液と上記表面吸着剤を含む水性溶液を撹拌混合したのち、アンモニアおよび/またはアミンを添加し、好ましくは20〜60℃の温度において1〜20時間程度熟成することにより、表面処理が行われる。この際、上記混合液中の表面吸着剤の濃度は、0.1〜5重量%の範囲が好ましい。
このようにして表面処理されたポリオルガノシロキサン粒子は、好ましくは単離したのち、次工程の突起物形成工程に供給される。
【0034】
(C)突起物形成工程
この(C)工程においては、前記(B)工程で表面処理されたポリオルガノシロキサン粒子をシード粒子とし、前記一般式(I)で表されるアルコキシシラン化合物を加水分解、縮合させて、該シード粒子(母体粒子)の全面に突起物を形成させる工程である。
この(C)工程においても、混合均一系反応および2層系反応のいずれも用いることができるが、前記(A)工程と同様に2層系反応の方が有利である。
【0035】
この2層系反応においては、まず、所望により用いられるポリビニルアルコールなどの分散剤とアンモニアおよび/またはアミンを含有する水性溶液中に、前記(B)工程で得られた表面処理ポリオルガノシロキサン粒子を分散させてなる水性液を調製する。次いで、一般式(I)で表されるアルコキシシラン化合物を、該水性液と実質上混合させることなく、2層状態を保持しながら界面で反応させる。
【0036】
この反応においては、アルコキシシラン化合物とアンモニアやアミン水性溶液層とが、実質上混合することなく、2層状態を保持するように緩やかに撹拌することが必要である。これにより、上層のアルコキシシラン化合物が加水分解されて下層に移行し、そこで母体粒子のポリオルガノシロキサン粒子と化学結合し、突起物を成長させる。この際の反応温度は、原料のアルコキシシラン化合物の種類などに左右されるが、一般的には0〜60℃の範囲で選ばれる。
【0037】
反応終了後(上層が消失後)、常法に従って遠心分離および沈降分級により、粒子洗浄を行ったのち、乾燥処理することにより、母体粒子全面に、実質上球状および/または半球状の突起物を有するシリカ系微粒子が得られる。
【0038】
本発明においては、このようにして得られたシリカ系微粒子は、母体粒子および突起物共に、有機基をもつポリオルガノシロキサンから構成されているので、必要に応じ、次の焼成処理を施すことができる。
【0039】
(D)焼成処理工程
この(D)工程においては、最終製品の用途に応じ、焼成処理を、空気などの酸素含有ガスの存在下、好ましくは500〜1000℃、より好ましくは600〜900℃の範囲の温度で行い、完全シリカ化を行って高弾性率粒子を得てもよいし、あるいは、窒素などの不活性ガス雰囲気下または真空中において、好ましくは400〜900℃、より好ましくは500〜800℃の範囲の温度で焼成処理を行い、部分シリカ化または非シリカ化を行い、低弾性率粒子を得てもよい。すなわち、必要となる破壊強度や弾性率に応じて、最適な条件を選定すればよい。また、焼成装置については特に制限はなく、電気炉やロータリーキルンなどを用いることができるが、粒子の撹拌が可能なロータリーキルン中で焼成するのが有利である。
このようにして焼成処理してなる粒子の形状は、焼成前と実質上相似であり、母体粒子全面にわたり、ほぼ球状や半球状の突起物が化学結合により強固に結着した金平糖状を有している。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0041】
実施例1
(1)第1シード粒子液の調製
温度調節可能なマグネチックスターラー付き恒温水槽に、500ミリリットル容のガラスフラスコをセットし、これに、1モル/リットル濃度のアンモニア水12ミリリットル、ノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル「ノイゲンEA−137(HLB13)」[第一工業薬品(株)製]0.3ミリリットルおよびイオン交換水300gを混合した液を入れ、温度を30℃に保持した。次いで、この液の上に、界面が乱れないようにメチルトリメトキシシラン(MTMS)30gを注ぎ込み、2層状態としてから、下層のアンモニア水溶液をマグネチックスターラーにより緩やかに撹拌して、MTMSの加水分解反応を行った。時間の経過と共に、下層のアンモニア水溶液が白濁し始め、3時間後、上層のMTMSは、加水分解により下層のアンモニア水溶液中に移行して消失した。この白濁液中には、平均粒径1.85μmの単分散ポリメチルシルセスキオキサン(PMSO)粒子が生成しており、これを第1シード粒子液とした。
【0042】
(2)第2シード粒子液の調製
撹拌モーターおよび撹拌翼を備えた5リットルのガラスフラスコを恒温水槽にセットし、該フラスコにイオン交換水4500ミリリットルを入れ、20rpmで撹拌しながら、上記(1)で得られた第1シード粒子液の全量を添加して、シードPMSO粒子を希釈して分散させた。次いで、この分散液の上層にMTMS450gを注ぎ、反応温度を30℃として、再び2層状態で加水分解反応を行い、シードPMSO粒子の成長反応を行った。5時間後、上層のMTMSが消失した時点で、PMSO粒子は、平均粒径で5.0〜5.2μmまで成長しており、単分散球状粒子であった。これを第2シード粒子液とした。
【0043】
(3)表面処理
第2シード粒子液全量に対し、5重量%濃度のポリビニルアルコール[完全けん化型、数平均分子量(Mn)500]水溶液(PVA水溶液)1200ミリリットルを添加して撹拌混合し、PVA濃度が1重量%のシードPMSO粒子分散液を調製した。次いで、25重量%アンモニア水15ミリリットルを添加したのち、溶液温度を50℃まで昇温し、その温度で12時間保持した。ここで得られたPVA吸着PMSO粒子(母体粒子)は、平均粒径4.5μmの単分散微粒子であった。次に、これをメタノールで洗浄後、乾燥させ、シード粉体190gを得た。
【0044】
(4)異形化処理
温度調節可能なマグネチックスターラー付き恒温水槽に1リットルのガラスフラスコをセットし、これに上記(3)で得たシード粉体2gを1重量%PVA水溶液800ミリリットルに分散させた液と25重量%アンモニア水0.1ミリリットルとを混合した液を入れ、温度を30℃に保持した。次いで、この液の上に、界面が乱れないようにメチルトリメトキシシラン(MTMS)70gを注ぎ込み、2層状態としてから、下層のアンモニア水溶液をマグネチックスターラーにより緩やかに撹拌して、MTMSの加水分解反応を行った。時間の経過と共に、下層のアンモニア水溶液が白濁し始め、2時間後、上層のMTMSは、加水分解により下層のアンモニア水溶液中に移行して消失した。
【0045】
粒子を取り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)により形状を観察した結果、粒子全面に高さ1.4〜3.0μmの突起物を有し、見掛け上の平均粒径〔突起先端まで含めた粒径(以下最終平均粒径と表記)〕が6.5μmの金平糖状の粒子であった。図1に、この粒子のSEM写真図を示す。
次に、遠心分離及び沈降分級により、粒子洗浄を行い、最後にメタノールに分散させたのち、メタノールを除去し、120℃のオーブンで乾燥させて、乾燥粒子1.8gを得た。
【0046】
(5)焼成処理
上記(4)で得た乾燥粒子を、焼成容器に入れ、電気炉中にセットした後、空気を0.3リットル/分の流量で流しながら、室温から400℃まで1.25時間で昇温し、その温度で48時間保持してから、さらに800℃まで0.5時間で昇温し、その温度で6時間保持した後、室温まで降温させた。粒子の形状は、焼成前と相似であった。IR測定の結果、メチル基のピークが観察されず、シリカのみのIR吸収が認められ、シリカに変化していることが確認された。
なお、乾燥粒子を、窒素を0.3リットル/分の流量で流しながら、690℃で2.5時間、あるいは670℃で2.5時間焼成したところ、いずれもシリカ化していない低弾性率異形粒子が得られた。
【0047】
実施例2
実施例1における(1)〜(3)と同様の操作を行いシード粉体を得た。
(1)異形化処理
温度調節可能なマグネチックスターラー付き恒温水槽に1リットルのガラスフラスコをセットし、これに上記シード粉体2gを1重量%PVA水溶液800ミリリットルに分散させた液と25重量%アンモニア水0.1ミリリットルとを混合した液を入れ、温度を30℃に保持した。次いで、この液の上に、界面が乱れないようにメチルトリメトキシシラン(MTMS)20gを注ぎ込み、2層状態としてから、下層のアンモニア水溶液をマグネチックスターラーにより緩やかに撹拌して、MTMSの加水分解反応を行った。
【0048】
上層のMTMSが消失した時点で粒子を取り出し、SEMにより形状を観察した結果、粒子全面に高さ0.7〜2.0μmの突起物を有し、最終平均粒径が5.8μmの金平糖状粒子であった。図2に、この粒子のSEM写真図を示す。
【0049】
実施例3
実施例1における(1)〜(3)と同様の操作を行いシード粉体を得た。
(1)異形化処理
温度調節可能なマグネチックスターラー付き恒温水槽に1リットルのガラスフラスコをセットし、これに上記シード粉体10gを1重量%PVA水溶液800ミリリットルに分散させた液と25重量%アンモニア水0.1ミリリットルとを混合した液を入れ、温度を30℃に保持した。次いで、この液の上に、界面が乱れないようにメチルトリメトキシシラン(MTMS)20gを注ぎ込み、2層状態としてから、下層のアンモニア水溶液をマグネチックスターラーにより緩やかに撹拌して、MTMSの加水分解反応を行った。
【0050】
上層のMTMSが消失した時点で粒子を取り出し、SEMにより形状を観察した結果、粒子全面に高さ0.2〜1.1μmの突起物を有し、最終平均粒径が5.2μmの金平糖状粒子であった。図3に、この粒子のSEM写真図を示す。
【0051】
実施例4
実施例1における(1)、(2)と同様の操作を行い、第2シード粒子液を調製した。
(1)表面処理
実施例1(3)において、数平均分子量(Mn)が500のPVAを用いる代わりに、Mnが1000のPVAを用いた以外は、実施例1(3)と同様にして、平均粒径4.2μm、CV値1.9%のシード粉体を得た。
(2)異形化処理
実施例1(4)と同条件、同方法により、MTMSの加水分解反応を行い、粒子全面に突起物を有する金平糖状粒子を得た。この粒子は、粒子全面に高さ0.2〜0.6μmの突起物を有し、最終平均粒径が4.9μmの金平糖状の粒子であった。
【0052】
実施例5、6
実施例4において、数平均分子量(Mn)が1000のPVAの代わりに、Mnが3500(実施例5)および70000(実施例6)を用いた以外は、実施例4と同様な操作により、金平糖状粒子が得られることを確認した。
【0053】
実施例7、8
実施例4において、数平均分子量(Mn)が1000のPVAの代わりに、Mnが40,000(実施例7)および1,200,000(実施例8)のポリビニルピロリドン(PVP)を用いた以外は、実施例4と同様な操作により、金平糖状粒子が得られることを確認した。
【0054】
実施例9
実施例1における(1)、(2)と同様の操作を行い、第2シード粒子液を調製した。
(1)表面処理
撹拌モーターおよび撹拌翼を備えた500ミリリットルのガラスビーカーを恒温水槽にセットし、該ビーカーにノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル[「ノイゲンEA−137(HLB13)」第一工業薬品(株)製]1.5gとイオン交換水148.5gで1重量%に調整した水溶液に、上記第2シード粒子液300ミリリットルを添加して、撹拌混合した。次いで、25重量%アンモニア水15ミリリットルを添加したのち、12時間保持、撹拌して、平均粒径4.7μm、CV値1.47%の界面活性剤吸着PMSO粒子(母体粒子)を得た。
(2)異形化処理
実施例1(4)と同条件、同方法により、MTMSの加水分解反応を行い、粒子全面に突起物を有する金平糖状粒子を得た。この粒子は、粒子全面に高さ0.4〜0.9μmの突起物を有し、最終平均粒径が5.8μmの金平糖状粒子であった。
【0055】
実施例10〜15
実施例9において、「ノイゲンEA−137(HLB13)」の代わりに、HLBや種類の異なる第一工業薬品(株)製のノニオン系界面活性剤である「ノイゲンEA−157(HLB15)」(実施例10)、「ノイゲンEA−177(HLB17)」(実施例11)、「ノイゲンEA−73(HLB9)」(実施例12)、「ノイゲンEA−143(HLB14)」(実施例13)、「ノイゲンES−149(HLB14)」(実施例14)、「ノイゲンET−147(HLB14)」(実施例15)を用いた以外は、実施例9と同様な操作により、それぞれ金平糖状粒子が得られることを確認した。
【0056】
実施例16
実施例9において、「ノイゲンEA−137(HLB13)」の代わりに、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル「エマルジット9(HLB18〜20)」[第一工業薬品(株)製]を用いた以外は、実施例9と同様な操作により、それぞれ金平糖状粒子が得られることを確認した。
【0057】
実施例17
実施例9において、「ノイゲンEA−137(HLB13)」の代わりに、ドデシル硫酸ナトリウム[SDS、HLB40、第一工業薬品(株)製]を用いた以外は、実施例9と同様な操作により、金平糖状粒子が得られることを確認した。
【0058】
なお、「ノイゲンEA−157」、「ノイゲンEA−177」はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、「ノイゲンEA−73」、「ノイゲンEA−143」はポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、「ノイゲンES−149」はポリオキシエチレンオレイン酸エステル、「ノイゲンET−147」はポリオキシエチレンアルキルエーテルである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(I)で表されるアルコキシシラン化合物を加水分解、縮合させ、場合により得られた粒子をシード粒子として粒径成長させてポリオルガノシロキサン粒子を生成させる工程、
(B)上記(A)工程で得られたポリオルガノシロキサン粒子を、表面吸着剤により表面処理する工程、および
(C)上記(B)工程で表面処理されたポリオルガノシロキサン粒子をシード粒子とし、前記一般式(I)で表されるアルコキシシラン化合物を用いて、該シード粒子全面に突起を形成させる工程、
を含むことを特徴とするシリカ系微粒子の製造方法。
【請求項2】
さらに、(D)焼成処理工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(B)工程における表面吸着剤がポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたは界面活性剤である請求項1または2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−202181(P2011−202181A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151376(P2011−151376)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【分割の表示】特願2000−228365(P2000−228365)の分割
【原出願日】平成12年7月28日(2000.7.28)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】