説明

シリカ系被膜形成用組成物、シリカ系被膜及びその製造方法、並びに電子部品

【課題】低誘電性、接着性に優れると共に十分な機械強度を有するシリカ系被膜を形成できるシリカ系被膜形成用組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のシリカ系被膜形成用組成物は、(a)成分:式(1);RSiX4−nで表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂、(b)成分:(a)成分を溶解可能な溶媒、及び(c)成分:オニウム塩を含み、(a)成分では、Si原子1モルに対する、H、F、B、N、Al、P、Si、Ge、Ti、及びCから成る群より選ばれる少なくとも一種の原子の総含有割合が0.50モル以下であり、150℃で3分間加熱したときに得られる被膜の応力が10MPa以上であり、且つ、最終硬化により得られる被膜の比誘電率が3.0未満となる硬化特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系被膜形成用組成物、シリカ系被膜、シリカ系被膜の製造方法、並びに電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI等の半導体素子といった電子デバイス部品に関しては、高集積化による配線の微細化に伴い、配線間容量の増大による信号遅延時間の増大が問題となっており、電子部品の絶縁材料に対して、耐熱性、機械特性等の他、更なる低比誘電率と熱処理工程の短縮が求められている。
【0003】
一般に配線の信号伝搬速度(v)と、配線材料が接する絶縁材料の比誘電率(ε)とは、下記式(3)で表される関係を示す(式中のkは定数である)。
v=k/√ε …(3)、
【0004】
つまり、使用する周波数領域を高くすると共に、絶縁材料の比誘電率(ε)を低減することにより、信号伝搬の高速化が達成される。例えば、従来から、比誘電率が4.2程度のCVD法によって形成されるSiO膜が層間絶縁膜の形成材料として用いられてきたが、デバイスの配線間容量を低減し、LSIの動作速度を向上させる観点から、更なる低誘電率を発現する材料が切望されている。
【0005】
これに対し、現在実用化されている低誘電率材料としては、比誘電率が3.5程度のCVD法で形成されるSiOF膜が挙げられる。また、比誘電率が2.5〜3.0である絶縁材料としては、有機SOG (Spin On Glass)、有機ポリマー等を例示できる。さらに、比誘電率が2.5以下の絶縁材料としては、膜中に空隙を有するポーラス材が有力と考えられており、LSIの層間絶縁膜に適用するための検討・開発が盛んに行われている。
【0006】
そのようなポーラス材の形成方法として、特開平11−322992号公報、特開平11−310411号公報等には、有機SOG材の低誘電率化が提案されている。この方法は、金属アルコキシシランの加水分解縮重合物と共に加熱することにより揮発又は分解する特性を有するポリマーを含む組成物から被膜を形成し、この被膜を加熱することによって空孔を形成するものである。
【特許文献1】特開平11−322992号公報
【特許文献2】特開平11−310411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らがかかる従来の方法について詳細に検討を行ったところ、このような従来方法では、最終加熱工程における有機SOGの縮合の際に、熱によるストレス以外に、被膜に急激な応力が作用し、場合によっては下層の配線等の機能を損なうような大きな影響が生じるおそれがある。
【0008】
また、かかる従来方法では、被膜を最終硬化させる際の加熱温度が450℃以上と高く、且つ、その硬化に1時間程度の長時間を要する傾向にある。こうなると、入熱量(サーマルバジェット)が過度に増大し、下層のうち特に配線層の劣化が懸念される。また、入熱量の増加に伴って基板の反りが顕著となるといった問題も生じ得る。
【0009】
さらに、先述の如く、高集積化による配線の微細化が加速しており、デバイスを構成する各部材層の薄層化・多層化、及び配線層等の材料変更が進んでいる。これに対応すべく、入熱による各層の材料劣化の影響は今まで以上に大きくなると予想され、各プロセスでの熱負荷の低減による熱履歴の改善が急務となっている。
【0010】
またさらに、本発明者らは、上記従来方法を用いると、絶縁膜に要求される所望の低誘電率を達成するために極めて多量の空孔(空隙)を膜中に導入する必要があることを見出した。こうなると、膜のベース材料となるSOGの機械的な膜強度又は膜硬度が本来的に不足している場合に、空隙率が過度に高まることにより、膜の機械強度が一層低下してしまう傾向にある。換言すれば、かかる従来の方法では、絶縁膜の誘電率が低下するにつれ、その膜強度が低下してしまう傾向にあり、プロセス適合性の観点から大きな問題がある。
【0011】
さらにまた、Cu−ダマシンプロセスの層間絶縁膜にシリカ系被膜を適用する場合、CVD法で成膜されるSiO膜等がキャップ膜として用いられているが、それらの界面において接着性(接合性)が弱くなると、配線金属を積層したときに生じる余分なCu膜を研磨するCu−CMP(Chemical Mechanical Polish)工程において、界面剥離が生じるおそれがある。
【0012】
加えて、層間絶縁膜材料に添加される成分によっては、吸湿による誘電率の上昇或いは脱離ガスの増加を招くおそれがある。これらの事態が生じると、プロセス適合性の観点から極めて不都合である。
【0013】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、低誘電性に優れ、十分な機械強度を有するシリカ系被膜を得ることができると共に、そのシリカ系被膜を形成するのに、低温又は短時間で十分に硬化させることができ、しかも、被膜の急激な応力上昇を抑えることが可能であり、さらに、他の層(膜)との接着性及び電気的信頼性を向上できるシリカ系被膜形成用組成物、それを用いて得られるシリカ系被膜、及びその製造方法並びにそのシリカ系被膜を備える電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明者らは、液状組成物からシリカ系被膜を形成する際の硬化挙動に着目し、且つ、組成物の材料成分及びその組成の観点から鋭意研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明によるシリカ系被膜形成用組成物は、シロキサン樹脂を含有して成り、流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるものであって、150℃で3分間加熱して予備硬化したときに得られるシリカ系被膜の応力が10MPa以上となり、且つ、最終硬化により得られるシリカ系被膜の比誘電率が3.0未満となるようなる硬化特性を有することを特徴とする。
【0016】
すなわち、
(1)シロキサン樹脂を含有して成り、流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるシリカ系被膜形成用組成物であって、
150℃で3分間加熱したときに得られる前記シリカ系被膜の応力が10MPa以上となり、且つ、最終硬化により得られるシリカ系被膜の比誘電率が3.0未満となるような硬化特性を有する、
シリカ系被膜形成用組成物。
【0017】
(2)シロキサン樹脂を含有して成り、流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるシリカ系被膜形成用組成物であって、
前記膜状態において第1の加熱温度で予備硬化され、さらにその後該第1の加熱温度よりも高い第2の加熱温度で最終硬化されたときに、該第2の加熱温度で最終硬化されたときのシリカ系被膜の第2の応力が、該第1の加熱温度で硬化されたときのシリカ系被膜の第1の応力よりも小さくなるような硬化特性を有する、
シリカ系被膜形成用組成物。
【0018】
(3)前記第1の加熱温度が100℃以上350℃未満の範囲内の温度であり、前記第2の加熱温度が350以上500℃以下の範囲内の温度である、(2)記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0019】
(4)シロキサン樹脂を含有して成り、流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるシリカ系被膜形成用組成物であって、
Modified-Edge Lift-OFF TEST(m−ELT)において求められるパラメータKの値が0.20以上であり、且つ、最終硬化により得られるシリカ系被膜の比誘電率が3.0未満となるような硬化特性を有する、
シリカ系被膜形成用組成物。
【0020】
(5)(a)成分:下記式(1);
SiX4−n …(1)、
(式中、Rは、H原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1〜20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0〜2の整数を示し、nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよく、nが0〜2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい)、
で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、
(b)成分:前記(a)成分を溶解可能な溶媒と、
(c)成分:オニウム塩と、
(d)成分:250〜500℃の加熱温度において熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物と、
を含有して成る(1)〜(4)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0021】
(6)(a)成分:下記式(1);
SiX4−n …(1)、
(式中、Rは、H原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1〜20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0〜2の整数を示し、nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよく、nが0〜2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい)、
で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、
(b)成分:前記(a)成分を溶解可能な溶媒と、
(c)成分:オニウム塩と、
(e)成分:ヒドロキシル基を含む側鎖を有する重合体と、
を備えており、
前記重合体が、下記式(2);
0<MOH<0.4×10−2 …(2)、
OH:当該重合体における前記ヒドロキシル基の濃度(mol/g)、
で表される関係を満たすものであるシリカ系被膜形成用組成物。
【0022】
(7)前記(b)成分が、アルキレングリコールアルキルエーテルアルキルエステル又はアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートから成る第1の溶媒成分、及び、アルキレングリコールモノアルキルエーテルから成る第2の溶媒成分を含むものである、(5)又は(6)に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0023】
(8)前記(b)成分は、前記第1の溶媒成分と前記第2の溶媒との質量含有割合が1:99〜60:40のものである、(7)記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0024】
(9)前記第1の溶媒成分がアルキレングリコールメチルエーテルアセテートである、(7)又は(8)に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0025】
(10)前記第1の溶媒成分がプロピレングリコールアルキルエーテルアセテートである、(7)〜(9)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0026】
(11)前記第1の溶媒成分がプロピレングリコールメチルエーテルアセテートである、(7)〜(10)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0027】
(12)前記第2の溶媒成分がプロピレングリコールモノプロピルエーテルである、(7)〜(11)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0028】
(13)前記(e)成分は、温度300〜500℃の窒素ガス雰囲気における減少率が95質量%以上のものである、(6)〜(12)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0029】
(14)前記(e)成分は、分子内にエステル結合が含まれるものである、(6)〜(13)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0030】
(15)前記(e)成分は、(メタ)アクリル酸誘導体を構成成分として含んであり、且つ、該(メタ)アクリル酸誘導体の含有濃度が0.5×10−2(mol/g)以上のものである、(6)〜(14)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0031】
(16)前記(c)成分がアンモニウム塩である、(5)〜(15)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0032】
(17)硝酸を更に含むことを特徴とする(5)〜(16)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0033】
(18)前記(a)成分は、Si原子1モルに対する、H原子、F原子、B原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子、Ti原子、及びC原子から成る群より選ばれる少なくとも一種の原子の総含有割合が0.65モル以下のものである、(5)〜(17)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【0034】
(19)(1)〜(18)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物を基体上に塗布し、塗布された被膜を加熱することにより形成される硬化膜から成るシリカ系被膜。
【0035】
(20)比誘電率が3.0未満である(19)記載のシリカ系被膜。
【0036】
(21)弾性率が2.5GPa以上である(19)記載のシリカ系被膜。
【0037】
(22)(1)〜(18)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物を基体上に塗布し、塗布された被膜を加熱して該被膜を硬化せしめるシリカ系被膜の製造方法。
【0038】
(23)(5)〜(18)のいずれかに記載のシリカ系被膜形成用組成物を基板上に塗布し、塗布された該被膜に含まれる溶媒を除去した後、該被膜を250〜500℃の加熱温度で焼成する、シリカ系被膜の製造方法。
【0039】
(24)素子構造が形成される基体上に絶縁膜が形成された電子部品であって、
前記絶縁膜が、(22)又は(23)に記載のシリカ系被膜の製造方法により製造されたシリカ系被膜を含むものである、ことを特徴とする電子部品。
【0040】
ここで、「応力」とは、以下に示す方法で求められる値をいう。
[応力の評価方法]
(1)応力測定用のシリカ系被膜の形成
まず、所定のSiウエハ上に、シリカ系被膜形成用組成物を一定の厚さとなるように塗布して被膜を形成する。具体的には、外径5インチのSiウエハ(厚さ:625±25μm)のオリエンテーションフラットを基準とし、薄膜ストレス測定装置(KLA Tencor社製の装置、型式:FLX−2320)内の所定位置に収容し、周囲温度23℃±2℃、及び湿度40%±10%の雰囲気下で、このSiウエハの‘反り’の量(初期値)を計測しておく。
【0041】
次いで、この装置からSiウエハを取り出し、その上にスピンコート法でシリカ系被膜形成用組成物を塗布して被膜を形成する。その後、このSiウエハを150℃/3分のホットプレート条件で加熱処理し、組成物に含まれる溶媒等を除去して予備硬化させ、シリカ系被膜を形成する。加熱終了後、そのシリカ系被膜の膜厚を測定する。次に、このSiウエハを、被膜形成前と同様にしてオリエンテーションフラットを基準として上記装置(FLX−2320)内の所定位置に収容し、そのSiウエハの‘反り’の量を計測する。
【0042】
得られたSiウエハの反りの初期値、加熱処理後の反りの値、及びシリカ系被膜の膜厚を用い、下記式(4);
【数1】


で表される関係から、シリカ系被膜の応力を算出する。
【0043】
式中、σはシリカ系被膜の応力(MPa)を示し、EはSiウエハのヤング率(dyn/cm)を示し、bはSiウエハの厚さ(μm)を示し、νはSiウエハのポアソン比(−)を示し、lは‘反り’を求める際の表面粗さ計の走査距離(mm)を示し、dはシリカ系被膜の厚さ(μm)を示し、δはSiウエハの‘反り’の変位量(つまり‘反り’の初期値と加熱処理後の値との差の絶対値)(μm)を示す。
【0044】
そして、このようなシリカ系被膜の形成処理及び応力評価を5枚のSiウエハに対して行い、150℃/3分間の加熱処理におけるシリカ系被膜の応力の平均値を求める。なお、本発明における「応力」はその絶対値を意味するものとする。
【0045】
このような本発明のシリカ系被膜形成用組成物は、ウエハ等の基板上に塗布された後、加熱によって硬化され、低誘電率を発現するシリカ系被膜(Low−k膜)が形成される。この際、当該組成物が、150℃で3分間予備硬化したときの応力が10MPa以上であるので、かかる低温加熱処理でもシロキサン骨格を形成する結合がある程度形成される傾向にある。よって、従来に比して低温及び短時間での加熱処理によるシリカ系被膜の硬化が実現される。また、この応力が10MPa未満であると、低温加熱処理でのシロキサン骨格を形成が不十分となり、予備硬化処理温度を有意に低温化することが困難となる。
【0046】
このようなシリカ系被膜形成用組成物としては、具体的には、(a)成分:下記式(1);
SiX4−n …(1)、
(式中、Rは、H原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1〜20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0〜2の整数を示し、nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよく、nが0〜2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい)で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、(b)成分:(a)成分を溶解可能な溶媒と、(c)成分:オニウム塩と、(d)成分:250〜500℃の加熱温度において熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物とを含有して成るものであると好ましい。
【0047】
このような組成を有すると、加熱により硬化が進行するときに、(d)成分の熱分解又は揮発によって、膜中に微細孔が徐々に形成され、最終硬化時にその微細化及び形状の均一化が図られ得る。さらに、(c)成分であるオニウム塩の存在により、式(1)で表される化合物の脱水縮合反応が進み、Si−OH結合が減少することによってシロキサン結合の密度が高められる。加えて、空孔形成過程及びシロキサン結合の高密度化と最終加熱時のアニール効果とが複合的に作用して膜の応力緩和が生起され得る。ただし、作用はこれに限定されない。
【0048】
一般に、かかる熱処理によって硬化形成されるシリカ系被膜は、上述の如く生じる応力が増大し、デバイスの特性上不利な傾向にあるが、これに対し、本発明の組成物によれば、熱印加による硬化履歴によってシリカ系被膜の応力が緩和されるので、かかる応力による影響を低減できる。
【0049】
また、(a)成分が、Si原子1モルに対する、H原子、F原子、B原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子、Ti原子、及びC原子から成る群より選ばれる少なくとも一種の原子の総含有割合が好ましくは0.65モル以下、より好ましくは0.55以下、更に好ましくは0.50以下、特に好ましくは0.45以下のものである。また、この総含有割合の下限値は、0.20程度であることが望ましい。このようにすれば、シリカ系被膜の他の膜(層)への接着性及び機械強度の低下が抑制される。
【0050】
或いは、本発明によるシリカ系被膜形成用組成物は、シロキサン樹脂を含有して成り、流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるものであって、膜状態において第1の加熱温度で予備硬化され、さらにその後、第1の加熱温度よりも高い第2の加熱温度で最終硬化されたときに、第2の加熱温度で最終硬化されたときのシリカ系被膜の第2の応力が、第1の加熱温度で硬化されたときのシリカ系被膜の第1の応力よりも小さくなるような硬化特性を有することを特徴とする。
【0051】
具体的には、第1の加熱温度Tが好ましくは100以上350℃未満、より好ましくは150〜300℃、特に好ましくは150〜250℃の範囲内の温度であり、第2の加熱温度Tが好ましくは350〜500℃の範囲内の温度であるときに、上記のような硬化特性を有すると好適である。ここで、「第1の応力」及び「第2の応力」における「応力」とは、以下に示す方法で求められる値をいう。
【0052】
[応力の評価方法]
(1)応力測定用のシリカ系被膜の形成
まず、所定のSiウエハ上に、シリカ系被膜形成用組成物を一定の厚さとなるように塗布して被膜を形成する。具体的には、外径5インチのSiウエハ(厚さ:625±25μm)のオリエンテーションフラットを基準とし、薄膜ストレス測定装置(KLA Tencor社製の装置、型式:FLX−2320)内の所定位置に収容し、周囲温度23℃±2℃、及び湿度40%±10%の雰囲気下で、このSiウエハの‘反り’の量(初期値)を計測しておく。
【0053】
次いで、この装置からSiウエハを取り出し、その上にスピンコート法でシリカ系被膜形成用組成物を塗布して被膜を形成する。その後、このSiウエハを所定の第1の加熱温度T℃(例えば、150℃/1分+250℃/1分)のホットプレート条件で加熱処理し、組成物に含まれる溶媒等を除去して予備硬化させ、シリカ系被膜を形成する(予備硬化工程)。加熱終了後、そのシリカ系被膜の膜厚を測定する。次に、このSiウエハを、被膜形成前と同様にしてオリエンテーションフラットを基準として上記装置(FLX−2320)内の所定位置に収容し、そのSiウエハの‘反り’の量を計測する。
【0054】
それから、その予備硬化工程が終了したSiウエハを、窒素(N)ガス雰囲気下、第2の加熱温度T℃(例えば400℃/30分)で加熱処理し最終硬化させる(最終硬化工程)。そして、得られたシリカ系被膜の膜厚を測定すると共に、上述した他のSiウエハと同様にしてSiウエハの‘反り’の量を計測する。
【0055】
得られたSiウエハの反りの初期値、両Siウエハの加熱処理後の反りの値、及び両Siウエハ上のシリカ系被膜の膜厚を用い、前出の下記式(4);
【数2】


で表される関係から応力を算出する。
【0056】
式中、σはシリカ系被膜の応力(MPa)を示し、EはSiウエハのヤング率(dyn/cm)を示し、bはSiウエハの厚さ(μm)を示し、νはSiウエハのポアソン比(−)を示し、lは‘反り’を求める際の表面粗さ計の走査距離(mm)を示し、dはシリカ系被膜の厚さ(μm)を示し、δはSiウエハの‘反り’の変位量(つまり‘反り’の初期値と加熱処理後の値との差の絶対値)(μm)を示す。
【0057】
そして、このようなシリカ系被膜の形成処理及び応力評価を5枚のSiウエハに対して行い、各加熱温度におけるシリカ系被膜の応力の平均値を求める。第1の加熱温度T℃で予備硬化処理したSiウエハ上のシリカ系被膜に対して算出された応力値が「第1の応力」であり、一方、第2の加熱温度T℃で最終硬化処理したSiウエハ上のシリカ系被膜に対して算出された応力値が「第2の応力」である。なお、本発明における「応力」はその絶対値を意味するものとする。
【0058】
このようなシリカ系被膜形成用組成物は、ウエハ等の基板上に塗布された後、加熱によって硬化され、低誘電率を発現するシリカ系被膜(Low−k膜)が形成される。この際、第1の加熱温度での熱処理工程においては、組成物が加熱初期から後期にわたって徐々に硬化され、これに伴い応力が上昇する。次いで、第2加熱温度での熱処理つまり最終硬化処理が施されると、得られるシリカ系被膜の応力は、第1の応力よりも小さい第2の応力へと減少する。
【0059】
一般に、かかる熱処理によって硬化形成されるシリカ系被膜は、上述の如く生じる応力が増大し、デバイスの特性上不利な傾向にあるが、これに対し、本発明の組成物によれば、熱印加による硬化履歴によってシリカ系被膜の応力が緩和されるので、かかる応力による影響を低減できる。
【0060】
このようなシリカ系被膜形成用組成物としては、具体的には、(a)成分:下記式(1);
SiX4−n …(1)、
(式中、Rは、H原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1〜20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0〜2の整数を示し、nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよく、nが0〜2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい)で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、(b)成分:(a)成分を溶解可能な溶媒と、(c)成分:オニウム塩と、(d)成分:250〜500℃の加熱温度において熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物とを含有して成るものであると好ましい。
【0061】
このような組成を有すると、加熱により硬化が進行するときに、(d)成分の熱分解又は揮発によって、膜中に微細孔が徐々に形成され、最終硬化時にその微細化及び形状の均一化が図られ得る。
【0062】
さらに、(c)成分であるオニウム塩の存在により、式(1)で表される化合物の脱水縮合反応が進み、Si−OH結合が減少することによってシロキサン結合の密度が高められる。加えて、空孔形成過程及びシロキサン結合の高密度化と最終加熱時のアニール効果とが複合的に作用して膜の応力緩和が生起され得る。ただし、作用はこれに限定されない。
【0063】
また、(a)成分が、Si原子1モルに対する、H原子、F原子、B原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子、Ti原子、及びC原子から成る群より選ばれる少なくとも一種の原子の総含有割合が好ましくは0.65モル以下、より好ましくは0.55以下、更に好ましくは0.50以下、特に好ましくは0.45以下のものである。また、この総含有割合の下限値は、0.20程度であることが望ましい。このようにすれば、シリカ系被膜の他の膜(層)への接着性及び機械強度の低下が抑制される。
【0064】
さらに、本発明によるシリカ系被膜形成用組成物は、シロキサン樹脂を含有して成り、流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるものであって、Modified-Edge Lift-OFF TEST(m−ELT)において求められるパラメータKの値が0.20以上、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.27以上、特に好ましくは0.29以上であり、且つ、最終硬化により得られるシリカ系被膜の比誘電率が3.0未満となるような硬化特性を有することを特徴とする。
【0065】
なお、Kの上限値としては、0.6程度が好ましい。ここで、「m−ELT」とは、以下に示す試験方法であり、Kはこの試験結果として得られる物性パラメータである。
【0066】
[Modified-Edge Lift-OFF TEST(m−ELT)の方法]
(1)K評価用のシリカ系被膜の形成
まず、所定のSiウエハ上に、シリカ系被膜形成用組成物を一定の厚さとなるように塗布して被膜を形成する。具体的には、8インチSiウエハ(厚さ:725±25μm)上に、シリカ系被膜形成用組成物を厚さが0.5〜0.6μmとなるようにスピンコート法で塗布して被膜を形成する。その後、このSiウエハを150℃/1分+250℃/1分の条件で加熱処理し、組成物に含まれる溶媒等を除去して予備硬化させ、更に窒素(N)ガス雰囲気下、400℃/30分で加熱処理して最終硬化させ、シリカ系被膜を形成せしめる。
【0067】
(2)パラメータK値の評価
以下の測定には、上記(1)でシリカ系被膜が形成された8インチSiウエハの中心部3.5cm×7cmの部位を試験片として用いる。まず、当該試験片の厚さh1を、Union Tool製のマイクロファインにより測定する。
【0068】
次に、UV−ozone処理装置(オーク製作所製;UVドライプロセッサー VUM−3073−B)を用いて試験片表面を150秒間処理した後、Flontier Semiconductor製のOmega99Epoxyを、BYK−Gardner Film Casting Knifeを用いて約200μmの厚さとなるように塗布する。続いて、その試験片を177℃に保持された危険物型高温乾燥機(楠本化成製;EHT−H02 ETAC)で1時間乾燥させる。
【0069】
その後、試験片をダイヤモンドカッターで1cm角に切り出し、四隅(頂部)の厚さh2を、h1の測定に用いた上記装置で測定する。さらに、1cm角に切り出した試験片をm−ELT装置(Modern Metalcraft社製)のチャンバ内ステージ上に載置し、下記温度プログラム;
・降温開始温度:100℃、
・降温終了温度:−175℃、
・降温速度:3℃/分、
で降温した際に、被着しているエポキシ樹脂が剥離した温度T(℃)を読み取る。
【0070】
得られた厚さh1,h2及び温度Tを用い、下記式(5)及び(6);
=σ×{(h1−h2)/2}1/2 …(5)、
σ=-0.0002×T−0.192×T+24.0 …(6)、
で表される関係からK値を算出する。
【0071】
こうして得られるm−ELTにおけるパラメータKは、シリカ系被膜と下地層との密着性、及び膜自身の強度を示す指標であり、このK値が大きい程シリカ系被膜と下地層との接着力(密着力)が高く、且つ膜強度に優れることを示す。
【0072】
このK値が0.2未満であると、シリカ系被膜をCu−ダマシンプロセスにおける層間絶縁膜として適用する場合に、被覆と下地のSiO膜との密着が不都合に減弱され、配線金属を積層したときに生じる余分なCu配線を研磨するCu−CMP工程において、剥離又は皮膜自体の凝集破壊が発生するといった大きな問題が生じ得るおそれがある。
【0073】
このようなシリカ系被膜形成用組成物としては、具体的には、(a)成分:下記式(1);
SiX4−n …(1)、
(式中、Rは、H原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1〜20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0〜2の整数を示し、nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよく、nが0〜2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい)で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、(b)成分:(a)成分を溶解可能な溶媒と、(c)成分:オニウム塩と、(d)成分:250〜500℃の加熱温度において熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物とを含有して成るものであると好ましい。
【0074】
このような組成を有すると、加熱により硬化が進行するときに、(d)成分の熱分解又は揮発によって、膜中に微細孔が徐々に形成され、最終硬化時にその微細化及び形状の均一化が図られ得る。さらに、(c)成分であるオニウム塩の存在により、式(1)で表される化合物の脱水縮合反応が進み、Si−OH結合が減少することによってシロキサン結合の密度が高められる。加えて、空孔形成過程及びシロキサン結合の高密度化と最終加熱時のアニール効果とが複合的に作用して膜の応力緩和が生起され得る。ただし、作用はこれに限定されない。
【0075】
また、(a)成分が、Si原子1モルに対する、H原子、F原子、B原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子、Ti原子、及びC原子から成る群より選ばれる少なくとも一種の原子の総含有割合が好ましくは0.65モル以下、より好ましくは0.55以下、更に好ましくは0.50以下、特に好ましくは0.45以下のものである。また、この総含有割合の下限値は、0.20程度であることが望ましい。このようにすれば、シリカ系被膜の他の膜(層)への接着性及び機械強度の低下が抑制される。
【0076】
またさらに、本発明者らは、絶縁膜としてのシリカ系被膜を得るための材料成分及びその組成の観点から鋭意研究を重ね、特定の成分を含有する組成物が、従来の種々の問題点を解消し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0077】
すなわち、本発明によるシリカ系被膜形成用組成物は、(a)成分:下記式(1);
SiX4−n …(1)、
で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、(b)成分:アルキレングリコールアルキルエーテルアルキルエステル又はアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートから成る第1の溶媒成分、及び、アルキレングリコールモノアルキルエーテルから成る第2の溶媒成分を含む溶媒と、(e)成分:ヒドロキシル基を含む側鎖を有する重合体と、(c)成分:オニウム塩(オニウム化合物)とを備えており、(e)成分である重合体が、下記式(2);
0<MOH<0.4×10−2 …(2)、
で表される関係を満たすものである。
【0078】
なお、式(1)中、Rは、H原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1〜20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0〜2の整数を示し、nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよく、nが0〜2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい。また、式(2)中、MOHは、(e)成分である重合体におけるヒドロキシル基の濃度(mol/g)を示す。
【0079】
このような構成を有する組成物は、ウエハ等の基板上に塗布された後、加熱によって硬化され、低誘電率を発現するシリカ系被膜(Low−k膜)が形成される。このとき、(b)成分である溶媒が、第1の溶媒成分及び第2の溶媒成分を含むことにより、最終的に得られるシリカ系被膜が十分な機械強度を実現することが確認された。
【0080】
また、(e)成分である重合体の側鎖にヒドロキシル基が含まれることにより、(b)成分の溶媒が揮散する際に(a)成分のシロキサン樹脂と上記重合体との相分離が防止され、膜内部に形成される空孔の微細化及び形状の均一化が図られる。それのみならず、加熱時に(e)成分の分解が抑えられると共に、その揮発が促進される。
【0081】
さらに、(c)成分であるオニウム塩が存在すると、式(1)で表される化合物の脱水縮合反応が進み、Si−OH結合が減少することによってシロキサン結合の密度が高められ、これにより機械強度が更に向上する。ただし、作用はこれに限定されるものではない。
【0082】
また、(a)成分が、Si原子1モルに対する、H原子、F原子、B原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子、Ti原子、及びC原子から成る群より選ばれる少なくとも一種の原子の総含有割合が好ましくは0.65モル以下、より好ましくは0.55以下、更に好ましくは0.50以下、特に好ましくは0.45以下のものである。また、この総含有割合の下限値は、0.20程度であることが望ましい。このようにすれば、シリカ系被膜の他の膜(層)への接着性及び機械強度の低下が抑制される。
【0083】
また、(b)成分が、第1の溶媒成分と第2の溶媒との質量含有割合が1:99〜60:40のものであると好ましい。こうすれば、シリカ系被膜の機械強度の低下を十分に抑制できると共に、その膜厚の均一性等の物性劣化が抑止される。
【0084】
具体的には、第1の溶媒成分がアルキレングリコールメチルエーテルアセテート、又はプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート、特にプロピレングリコールメチルエーテルアセテートであると有用である。或いは、第2の溶媒成分がプロピレングリコールモノプロピルエーテルであると好適である。
【0085】
さらに、(e)成分が、温度300〜500℃の窒素ガス雰囲気における減少率が好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、更に好ましくは99質量%以上の重合体であると好適である。このような(e)成分を用いると、当該組成物を加熱する際に、最終的に得られるシリカ系被膜中に重合体又は重合体由来の反応生成物が残留してしまうことが十分に抑制される。
【0086】
またさらに、(e)成分が、分子内にエステル結合が含まれるものであると一層好ましい。この場合、当該組成物を加熱したときの重合体の分解又は揮発が更に促進される。
【0087】
さらにまた、(e)成分が、(メタ)アクリル酸誘導体を構成成分として含んでおり、且つ、(メタ)アクリル酸誘導体の含有濃度が0.5×10−2(mol/g)以上のものであると有用である。こうすれば、当該組成物を加熱したときの重合体の分解又は揮発が更に促進される等の利点がある。
【0088】
加えて、(c)成分であるオニウム塩は特に限定されないが、得られるシリカ系被膜の電気特性及び機械特性をより向上でき、更に、組成物の安定性を高め得る観点よりアンモニウム塩であると有用である。
【0089】
より好ましくは、本発明のシリカ系被膜形成用組成物は、硝酸を更に含むものである。この場合、硝酸は、式(1)で表される化合物の加水分解縮合において、加水分解縮合反応を促進する触媒として機能する。かかる触媒機能を呈する物質が硝酸以外にも存在するが、特に硝酸を用いることにより、加熱硬化によって得られるシリカ系被膜の硬度が高められる。それのみならず、更なる低誘電率化の観点からも好適である。
【0090】
また、本発明によるシリカ系被膜は、本発明のシリカ系被膜形成用組成物をSiウエハ等の基体上に塗布し、塗布された被膜を加熱することにより形成される硬化膜から成るものである。
【0091】
また、本発明のシリカ系被膜形成用組成物から得られる本発明のシリカ系被膜は、上述したように比誘電率が3.0未満であり、2.7以下であると好ましく、2.5以下であるとより好ましく、2.2以下であると特に好ましい。このように、シリカ系被膜の比誘電率は、層間絶縁膜等の用いる観点から小さい程好ましいが、膜の機械強度の低下を防止する点において、下限値は1.5程度であることが望ましい。
【0092】
[比誘電率の測定方法]
ここで、本発明におけるシリカ系被膜の「比誘電率」とは、23℃±2℃、湿度40±10%の雰囲気下で測定された値をいい、Al金属とN型低抵抗率基板(Siウエハ)間の電荷容量の測定から求められる。具体的には、まず、比誘電率測定用のシリカ系被膜を形成する。
【0093】
例えば、N型低抵抗率Siウエハ(抵抗率<10Ωcm)上にスピンコート法でシリカ系被膜形成用組成物を、膜厚が0.5〜0.6μmとなるように塗布して被膜を形成する。次に、200℃に加熱したホットプレートで組成物中の溶媒を除去し、更に窒素(N)ガス雰囲気下、400℃で30分加熱して最終硬化させてシリカ系被膜を形成する。
【0094】
次いで、このシリカ系被膜上に、真空蒸着装置でAl金属を直径2mmの円で、厚さ約0.1μmになるように真空蒸着する。これにより、絶縁膜がAl金属と低抵抗率基板との間に配置された構造が形成される。次に、この構造体の電荷容量を、LFインピーダンスアナライザー(横河電機社製:HP4192A)に誘電体テスト・フィクスチャー(横河電機製:HP16451B)を接続した装置を用い、使用周波数1MHzにて測定する。
【0095】
そして、電荷容量の測定値を下記式(7);
シリカ系被膜の比誘電率=3.597×10−2×電荷容量(pF)×被膜の膜厚(μm) …(7)、
に代入し、シリカ系被膜の比誘電率を算出する。
【0096】
ところで、前述の如く、本発明によるシリカ系被膜は、低誘電性に優れるものであるが、更なる低誘電率化を実現するには、例えば、組成物中の(d)成分の含有量を調整して膜中への微細孔の導入量を多くすることが有効である。
【0097】
しかし、このようにして微細孔の導入量を過度に増大させると、被膜の機械強度の低下を招来するおそれがあるので留意すべきである。この点において、微細孔が導入されていない状態で本来的に比誘電率が極力低い膜が得られる組成のシリカ系被膜形成用組成物を用いてシリカ系被膜を形成すると好適である。
【0098】
さらに、シリカ系被膜の弾性率が2.5GPa以上であると好ましく、3.0GPa以上であるとより好ましく、3.5GPa以上であると更に好ましく、4.0GPa以上であると特に好ましく、4.5GPa以上であると極めて好ましい。
【0099】
上限値は特に制限されないが、通常は30GPa程度である。この弾性率が2.5GPa未満であると、例えば、このシリカ系被膜を半導体絶縁膜として用いるときに、加工が困難となる等の不都合が生じる可能性がある。
【0100】
なお、弾性率を増大せしめるには、例えば、シロキサン樹脂中に含有する空孔の割合を減少させることが有効ではあるが、先に述べたように、比誘電率を低下させる観点からは、被膜中の空孔量を増大させることが有利であり、両者の兼ね合いを考慮することが望ましい。
【0101】
[弾性率の測定方法]
ここで、本発明におけるシリカ系被膜の「弾性率」とは、被膜の表面近傍における弾性率であり、MTS社製のナノインデンターDCMを用いて測定される値をいう。測定用のシリカ系被膜は、[比誘電率測定方法]で説明したのと同様にして作成したものを用いる。このとき、シリカ系被膜の膜厚が薄いと下地の影響を受けてしまうため、上述したように、最初の被膜厚さを0.5〜0.6μmとすることが好ましい。
【0102】
また、表面近傍とは、膜厚の1/10以内の深度、より具体的には膜表面から深さ15nm〜50nm位置をいう。さらに、測定においては、荷重と荷重速度とを、下記の式(8);
dL/dt×1/L=0.05(sec−1) …(8)
で表される関係を満たすように変動させる。
【0103】
式中、Lは荷重を示し、tは時間を示す。またさらに、押し込みを行う圧子には、バーコビッチ圧子(素材:ダイヤモンド)を用い、圧子の振幅周波数を45Hzに設定して測定する。
【0104】
またさらに、本発明によるシリカ系被膜は、平均空孔径が好ましくは4.0nm以下、より好ましくは3.0nm以下、特に好ましくは2.2nm以下である空孔が(多数)形成されたものであると一層好適である。これにより、CMP耐性等の十分な機械強度を有しつつ、良好な低誘電率化が確実に達成される。この場合、平均空孔径は、空孔の形成が困難とならない程度であることが好ましい。また、平均空孔径が極度に小さいと、要求される低誘電率を実現することが困難なことがある。
【0105】
或いは、シリカ系被膜に形成された空孔の最高頻度空孔径が、好ましくは2.0nm以下、更に好ましくは1.5nm以下であることが望ましい。このようにしても、十分な機械強度及び低誘電率の双方が達成され易くなる。
【0106】
なお、本発明における「平均空孔径」とは、シリカ系被膜の薄膜に対し、一般に用いられるX線回折装置を用いたX線散漫散乱分析法によって測定された空孔分布(Pore Distribution)から求められる空孔径の平均値を示す。また、本発明における「最高頻度空孔径」とは、同様にして測定された空孔分布において出現頻度が最も大きな空孔径を示す。
【0107】
加えて、10nm以上の径を有する空孔が実質的に存在しないこと、換言すれば、形成された空孔径の最大値が10nm未満であることが好ましい。具体的には、上記の如く測定された空孔分布における最大空孔径が10nm未満であると好適である。これにより、空孔を起点とする膜の亀裂発生、進展、ひいては膜破断が十分に防止される。ここで、「実質的に存在しない」とは、空孔分布において頻度がゼロである場合のみでなく、統計的にみて測定装置の検出下限以下と判断されるような場合も含まれる。
【0108】
また、本発明によるシリカ系被膜の製造方法は、本発明のシリカ系被膜形成用組成物を基板上に塗布し、塗布された被膜を加熱して該被膜を硬化せしめることを特徴とする。より具体的には、本発明によるシリカ系被膜の製造方法は、本発明のシリカ系被膜形成用組成物を基板上に塗布し、塗布された被膜に含まれる溶媒を除去した後、その被膜を250〜500℃の加熱温度で焼成することを特徴とする。
【0109】
さらに、本発明による電子部品(デバイス)は、素子構造が形成される基体上に絶縁膜が形成されたものであって、絶縁膜が、本発明のシリカ系被膜の製造方法により製造されたシリカ系被膜、又はそのシリカ系被膜を含むものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0110】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明によるシリカ系被膜形成用組成物は、上述の如く、シロキサン樹脂を含有して成り、流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるものであって、150℃で3分間加熱したときに得られるシリカ系被膜の応力が10MPa以上となり、且つ、最終硬化により得られるシリカ系被膜の比誘電率が3.0未満となるようなる硬化特性を有するものである。
【0111】
よって、150℃程度の低温且つ数分程度の短時間の加熱処理によって、膜中においてシロキサン骨格の形成が開始され、ある程度の硬化つまり予備硬化を達成することができる。このように、従来に比して低温領域且つ短時間での硬化が行われるので、組成物が塗布されるウエハ等の基体への入熱量を低減できる。したがって、下地の配線層等への熱影響を軽減することが可能となる。また、より高温での最終硬化処理を短時間で実施し得るので、更なる入熱量の軽減を図ることができる。
【0112】
また、本発明によるシリカ系被膜形成用組成物は、上述の如く、シロキサン樹脂を含有して成り、流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるものであって、膜状態において第1の加熱温度で硬化され、さらにその後第1の加熱温度よりも高い第2の加熱温度で最終硬化されたときに、第2の加熱温度で最終硬化されたときのシリカ系被膜の第2の応力が、第1の加熱温度で硬化されたときのシリカ系被膜の第1の応力よりも小さくなるような硬化特性を有するものである。
【0113】
よって、このようなシリカ系被膜形成用組成物は、最終硬化前の第1の加熱温度での熱処理で形成される被膜が第2の加熱温度で最終硬化されると、その応力が低減される。したがって、得られるシリカ系被膜に急激な応力が作用することが防止される。
【0114】
また、最終硬化前の低温領域で予備硬化し得るので、最終硬化処理におけるより高温での熱処理を短時間で実施し得る。よって、組成物が塗布されるウエハ等の基体への入熱量を低減できる。したがって、下地の配線層等への熱影響を軽減することが可能となる。さらに、シリカ系被膜の応力が緩和されるので、他の層(膜)との接着性を向上させることも可能となる。
【0115】
さらに、本発明によるシリカ系被膜形成用組成物は、上述の如く、シロキサン樹脂を含有して成り、流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるものであって、m−ELTにおいて求められるパラメータKの値が0.20以上、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.27以上、特に好ましくは0.29以上でありであり、且つ、最終硬化により得られるシリカ系被膜の比誘電率が3.0未満となるようなる硬化特性を有するものである。また、Kの上限値としては、0.6程度が好ましい。
【0116】
このような組成物から得られるシリカ系被膜が半導体デバイス等の電子部品の層間絶縁膜等として用いられた場合、その下地層又は上層(他の膜)との接着性及び膜自身の強度が従来に比して格段に向上される。よって、例えばキャップ膜として用いられるSiC膜等との界面、及び下地層であるSiO膜との界面において、研磨時の剥離耐性及び凝集破壊に対する耐性が高められ、CMP工程における界面の剥離(デラミネーション)発生、及び凝集破壊を抑止できる。
【0117】
[第1の形態]
このような本発明のシリカ系被膜形成用組成物の具体的な組成としては、例えば、以下の(a)成分、(b)成分、(c)成分、及び(d)成分を必須成分として含むものが挙げられる。
【0118】
〈(a)成分〉
(a)成分は、下記式(1);
SiX4−n …(1)、
で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂である。
【0119】
ここで、式中、Rは、H原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1〜20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0〜2の整数を示し、nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよく、nが0〜2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい。
【0120】
加水分解性基Xとしては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アセトキシ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基等が挙げられる。これらの中では、組成物自体の液状安定性や被膜塗布特性等の観点からアルコキシ基が好ましい。
【0121】
加水分解性基Xが、アルコキシ基である式(1)の化合物(アルコキシシラン)としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等のテトラアルコキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−iso−プロポキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、メチルトリ−iso−ブトキシシラン、メチルトリ−tert−ブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリ−iso−プロポキシシラン、エチルトリ−n−ブトキシシラン、エチルトリ−iso−ブトキシシラン、エチルトリ−tert−ブトキシシラン、エチルトリフェノキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、n−プロピルトリ−iso−プロポキシシラン、n−プロピルトリ−n−ブトキシシラン、n−プロピルトリ−iso−ブトキシシラン、n−プロピルトリ−tert−ブトキシシラン、n−プロピルトリフェノキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、iso−プロピルトリ−iso−プロポキシシラン、iso−プロピルトリ−n−ブトキシシラン、iso−プロピルトリ−iso−ブトキシシラン、iso−プロピルトリ−tert−ブトキシシラン、iso−プロピルトリフェノキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、n−ブチルトリ−iso−プロポキシシラン、n−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、n−ブチルトリ−iso−ブトキシシラン、n−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、n−ブチルトリフェノキシシラン、sec−ブチルトリメトキシシラン、sec−ブチルトリエトキシシラン、sec−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、sec−ブチルトリ−iso−プロポキシシラン、sec−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、sec−ブチルトリ−iso−ブトキシシラン、sec−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、sec−ブチルトリフェノキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、t−ブチルトリ−iso−プロポキシシラン、t−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、t−ブチルトリ−iso−ブトキシシラン、t−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、t−ブチルトリフェノキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリ−iso−プロポキシシラン、フェニルトリ−n−ブトキシシラン、フェニルトリ−iso−ブトキシシラン、フェニルトリ−tert−ブトキシシラン、フェニルトリフェノキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロエチルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジ−iso−プロポキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジメチルジ−sec−ブトキシシラン、ジメチルジ−tert−ブトキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジ−n−プロポキシシラン、ジエチルジ−iso−プロポキシシラン、ジエチルジ−n−ブトキシシラン、ジエチルジ−sec−ブトキシシラン、ジエチルジ−tert−ブトキシシラン、ジエチルジフェノキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジフェノキシシラン、ジ−iso−プロピルジメトキシシラン、ジ−iso−プロピルジエトキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−n−プロポキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−n−ブトキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−iso−プロピルジフェノキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−ブチルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジフェノキシシラン、ジ−sec−ブチルジメトキシシラン、ジ−sec−ブチルジエトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジフェノキシシラン、ジ−tert−ブチルジメトキシシラン、ジ−tert−ブチルジエトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジフェノキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−プロポキシシラン、ジフェニルジ−iso−プロポキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、ジフェニルジ−sec−ブトキシシラン、ジフェニルジ−tert−ブトキシシラン、ジフェニルジフェノキシシラン、ビス(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン等のジオルガノジアルコキシシラン等が挙げられる。
【0122】
また、加水分解性基Xが、ハロゲン原子(ハロゲン基)である式(1)の化合物(ハロゲン化シラン)としては、上記の各アルコキシシラン分子中のアルコキシ基がハロゲン原子で置換されたものが挙げられる。
【0123】
さらに、加水分解性基Xが、アセトキシ基である式(1)の化合物(アセトキシシラン)としては、上記の各アルコキシシラン分子中のアルコキシ基がアセトキシ基で置換されたものが挙げられる。
【0124】
またさらに、加水分解性基Xが、イソシアネート基である式(1)の化合物(イソシアネートシラン)としては、上記の各アルコキシシラン分子中のアルコキシ基がイソシアネート基で置換されたものが挙げられる。
【0125】
さらにまた、加水分解性基Xが、ヒドロキシル基である式(1)の化合物(ヒドロキシシラン)としては、上記の各アルコキシシラン分子中のアルコキシ基がヒドロキシル基で置換されたものが挙げられる。
【0126】
これら式(1)で表される化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0127】
また、式(1)で表される化合物の加水分解縮合において加水分解縮合反応を促進する触媒として、蟻酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、酪酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−トルエンスルホン酸、フタル酸、スルホン酸、酒石酸、トリフルオロメタンスルフォン酸等の有機酸、塩酸、燐酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、フッ酸等の無機酸等を用いることができる。
【0128】
この触媒の使用量は、式(1)で表される化合物1モルに対して0.0001〜1モルの範囲が好ましい。この使用量が1モルを超える場合、加水分解縮合時にゲル化が促進される傾向があり、0.0001モル未満の場合、実質的に反応が進行しない傾向がある。
【0129】
さらに、この反応において、加水分解によって副生するアルコールを、必要に応じてエバポレータ等を用いて除去してもよい。またさらに、加水分解縮合反応系中に存在させる水の量を適宜決定することができるが、この水の量としては、式(1)で表される化合物1モルに対して0.5〜20モルの範囲内の値とすると好ましい。この水量が0.5モル未満の場合及び20モルを超える場合には、シリカ系被膜の成膜性が悪化すると共に、組成物自体の保存安定性が低下する場合がある。
【0130】
また、(a)成分としてのシロキサン樹脂は、溶媒への溶解性、機械特性、成形性等の観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)により測定され且つ標準ポリスチレンの検量線を使用して換算された質量平均分子量が、500〜20,000であることが好ましく、1,000〜10,000であるとより好ましい。この質量平均分子量が500未満であると、シリカ系被膜の成膜性が劣る傾向にある。一方、この質量平均分子量が20,000を超えると、溶媒との相溶性が低下する傾向にある。
【0131】
さらに、シロキサン樹脂のケイ素1原子あたりに結合しているH原子、F原子、B原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子、Ti原子及びC原子から成る群より選ばれる少なくとも一種の原子(以下、「特定の結合原子」という)の総数(M)が0.65以下であることが好ましく、0.55以下であるとより好ましく、0.50以下であると特に好ましく、0.45以下であると極めて好ましい。また、その下限値としては0.20程度が好ましい。
【0132】
この特定の結合原子の総数(M)が、0.65を超える場合、最終的に得られるシリカ系被膜の他の膜(層)との接着性、機械強度等が劣る傾向がある。一方、この総数(M)が0.20未満であると、絶縁膜として用いたときの誘電特性が劣る傾向にある。
【0133】
また、シロキサン樹脂は、これらの特定の結合原子のなかでも、シリカ系被膜の成膜性の点で、H原子、F原子、N原子、Si原子、Ti原子及びC原子のうち少なくともいずれか一種を含むとより好ましく、それらのなかでも、誘電特性及び機械強度の点において、H原子、F原子、N原子、Si原子及びC原子のうち少なくともいずれか一種を含むと一層好ましい。
【0134】
なお、この総数(M)は、(a)成分であるシロキサン樹脂の仕込み量から求めることができ、例えば、下記式(6);
M=(M1+(M2/2)+(M3/3))/Msi …(6)
で表される関係を用いて算出できる。
【0135】
式中、M1は、特定の結合原子のうち単一の(ただ1つの)Si原子と結合している原子の総数を示し、M2は、特定の結合原子のうち2つのケイ素原子で共有されている原子の総数を示し、M3は、特定の結合原子のうち3つのケイ素原子で共有されている原子の総数を示し、Msiは、Si原子の総数を示す。
【0136】
〈(b)成分〉
(b)成分は、(a)成分すなわち前述のシロキサン樹脂を溶解可能な溶媒であり、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−iso−ブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジ−iso−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、ジアセトンアルコール、アセトフェノン、γ−ブチロラクトン等のケトン系溶媒、エチルエーテル、iso−プロピルエーテル、n−ブチルエーテル、n−ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル、エチレンオキシド、1,2−プロピレンオキシド、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、テトラエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ノニル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノプロピルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸i−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル等のエステル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルスルホキシド等の溶媒を例示できる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0137】
この溶媒(つまり(b)成分)の使用量としては、(a)成分(シロキサン樹脂)の量が3〜25質量%となるような量とされることが好ましい。溶媒の量が過少で(a)成分の濃度が25質量%を超えると、シリカ系被膜の成膜性等が悪化すると共に、組成物自体の安定性が低下する傾向にある。これに対し、溶媒の量が過多で(a)成分の濃度が3質量%を下回ると、所望の膜厚を有するシリカ系被膜を形成し難くなる傾向にある。
【0138】
〈(c)成分〉
(c)成分は、オニウム塩であり、例えば、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、アルソニウム塩、スチボニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩、スタンノニウム塩、ヨードニウム塩等が挙げられる。
【0139】
これらのなかでは、組成物の安定性により優れる点でアンモニウム塩が好ましく、例えば、テトラメチルアンモニウムオキサイド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムフロライド、テトラブチルアンモニウムオキサイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムフロライド、テトラメチルアンモニウム硝酸塩、テトラメチルアンモニウム酢酸塩、テトラメチルアンモニウムプロピオン酸塩、テトラメチルアンモニウムマレイン酸塩、テトラメチルアンモニウム硫酸塩等が挙げられる。
【0140】
さらに、これらのなかでは、シリカ系被膜の電気特性を向上させる観点から、テトラメチルアンモニウム硝酸塩、テトラメチルアンモニウム酢酸塩、テトラメチルアンモニウムプロピオン酸塩、テトラメチルアンモニウムマレイン酸塩、テトラメチルアンモニウム硫酸塩等のアンモニウム塩が特に好ましい。
【0141】
また、(c)成分であるオニウム塩の使用量は、シリカ系被膜形成用組成物の全量に対して0.001ppm〜5%であることが好ましく、0.01ppm〜1%であるとより好ましく、0.1ppm〜0.5%であると一層好ましい。
【0142】
この使用量が0.001ppm未満であると、最終的に得られるシリカ系被膜の電気特性、機械特性が劣る傾向にある。一方、この使用量が5%を超えると、組成物の安定性、成膜性等が劣る傾向にあると共に、シリカ系被膜の電気特性及びプロセス適合性が低下する傾向にある。なお、これらのオニウム塩は、必要に応じて水や溶媒に溶解或いは希釈してから、所望の濃度となるように添加することができる。
【0143】
また、オニウム塩を水溶液とした場合、そのpHが1.5〜10であると好ましく、2〜8であるとより好ましく、3〜6であると特に好ましい。このpHが1.5を下回ると、或いは、pHが10を超えると、組成物の安定性、及び成膜性等が劣る傾向にある。
【0144】
〈(d)成分〉
(d)成分は、250〜500℃の加熱温度で熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物であり、例えば、ポリアルキレンオキサイド構造を有する重合体、(メタ)アクリレート系重合体、ポリエステル重合体、ポリカーボネート重合体、ポリアンハイドライド重合体、テトラキスシラン類等が挙げられる。
【0145】
上記ポリアルキレンオキサイド構造としてはポリエチレンオキサイド構造、ポリプロピレンオキサイド構造、ポリテトラメチレンオキサイド構造、ポリブチレンオキサイド構造等を例示できる。
【0146】
より具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、アルキルフェノールホルマリン縮合物の酸化エチレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型化合物、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩等のエーテルエステル型化合物、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のエーテルエステル型化合物等を挙げることができる。
【0147】
また、(メタ)アクリレート系重合体を構成するアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルコキシアルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルコキシアルキルエステル等を挙げることができる。
【0148】
アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル等の炭素数1〜6のアルキルエステル等を例示できる。
【0149】
また、メタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル等の炭素数1〜6のアルキルエステル等を例示できる。
【0150】
さらに、アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸エトキシエチル等を例示でき、メタクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、メタクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸エトキシエチル等が挙げられる。
【0151】
ヒドロキシル基を有するアクリル酸及びメタクリル酸としては、アクリル酸2−ヒドロキシルエチル、アクリル酸2−ヒドロキシルプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシルエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシルプロピル等が挙げられる。(メタ)アクリレート系重合体を構成する(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0152】
またさらに、ポリカーボネートとしては、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、ポリテトラメチレンカーボネート、ポリペンタメチレンカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート等の炭酸とアルキレングリコールとの重縮合物等を挙げることができる。
【0153】
さらにまた、ポリアンハイドライドとしては、ポリマロニルオキシド、ポリアジポイルオキシド、ポリピメイルオキシド、ポリスベロイルオキシド、ポリアゼライルオキシド、ポリセバコイルオキシド等のジカルボン酸の重縮合物等を挙げることができる。
【0154】
加えて、テトラキスシラン類としては、テトラキス(トリメチルシロキシ)シラン、テトラキス(トリメチルシリル)シラン、テトラキス(メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシプロポキシ)シラン等を挙げることができる。
【0155】
ここで、(d)成分である熱分解揮発性化合物が250℃を下回る温度で熱分解又は揮発するものであると、シロキサン骨格形成前に熱分解揮発してしまうため、所望の誘電特性が得られないおそれがある。一方、この熱分解揮発性化合物が500℃を超える温度で熱分解又は揮発するものであると、配線金属の劣化が生じるおそれがある。したがって、かかる温度範囲で熱分解又は揮発するものであれば、配線金属の劣化を抑えつつ、絶縁膜の誘電特性を調整し易くなる利点がある。
【0156】
なお、本発明のシリカ系被膜形成用組成物は、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含有しないことが望ましく、含まれる場合でも組成物中のそれらの金属イオン濃度が100ppb以下であると好ましく、20ppb以下であるとより好ましい。
【0157】
これらの金属イオン濃度が100ppbを超えると、組成物から得られるシリカ系被膜を有する半導体素子に金属イオンが流入し易くなってデバイス性能そのものに悪影響を及ぼすおそれがある。よって、必要に応じてイオン交換フィルター等を使用してアルカリ金属やアルカリ土類金属を組成物中から除去することが有効である。
【0158】
このようなシリカ系被膜形成用組成物は、後述するようにウエハ等の基板上に塗布された後、加熱、焼成によって硬化され、これにより、低誘電率を発現するシリカ系被膜(Low−k膜)が形成される。このとき、(d)成分の熱分解又は揮発によって、膜中に微細孔(空隙、空孔)が徐々に形成され、最終硬化時に空孔の更なる微細化及び形状の均一化が図られ得る。
【0159】
さらに、(c)成分であるオニウム塩を必須成分として含有するので、シリカ系被膜の機械強度及び電気的信頼性の向上が図られる。したがって、例えば後の工程においてCMPが施された場合、シリカ系被膜と他の層(膜)との界面において剥離が生じてしまうことを防止できる。かかる効果が奏される作用機構の詳細は、未だ不明な点があるものの、オニウム塩によって脱水縮合反応が促進されてシロキサン結合の密度が増加し、さらに残留するシラノール基が減少するため、機械強度及び誘電特性が向上されることが一因と推定される。
【0160】
そして、上記のような空孔形成過程、シロキサン結合の高密度化に加え、最終加熱時に奏され得るアニール効果が複合的に作用することによって、膜全体の応力緩和が引き起こされると考えられる。ただし、作用はこれらに限定されない。
【0161】
さらに、シロキサン樹脂における結合原子の総数が0.65以下とされることにより、更に十分な機械強度を実現でき、しかも他の膜(層)との十分な接着性が確保される。したがって、配線金属を積層したときに生じる余分なCu膜を研磨するCu−CMP工程における界面剥離の発生を一層防止できる。
【0162】
このような本発明のシリカ系被膜形成用組成物を用いて、基板上にシリカ系被膜を形成する方法について、一般にシリカ系被膜の成膜性及び膜均一性に優れるスピンコート法を例にとって説明する。この方法は、液状のシリカ系被膜形成用組成物をSiウエハ等の基板上に塗布して被膜とし、この被膜に対して予備硬化工程とそれに引き続く最終硬化工程とを実施することにより、本発明のシリカ系被膜を形成せしめる方法である。
【0163】
まず、シリカ系被膜形成用組成物をSiウエハ等の基板上に好ましくは500〜5000回転/分、より好ましくは1000〜3000回転/分でスピン塗布して被膜を形成する。この際、回転数が500回転/分未満であると、膜均一性が悪化する傾向にある一方で、5000回転/分を超えると、成膜性が悪化するおそれがあるため好ましくない。
【0164】
次いで、この被膜に対して予備硬化工程を実施する。この工程は、組成物中の溶媒の乾燥及びシロキサン樹脂の硬化度を高めるためのステップであり、好ましくは100〜350℃、より好ましくは150〜300℃、特に好ましくは150〜250℃の温度(第1の加熱温度T)で加熱処理を行う。なお、予備硬化工程は、必要に応じて、異なる温度での多段加熱であってもよい。
【0165】
この加熱温度Tが100℃未満であると、溶媒の乾燥が十分に行われない傾向にある。一方、加熱温度Tが350℃を超えると、被膜においてシロキサン骨格が形成される前にポーラス形成用の熱分解揮発性化合物((d)成分)が熱分解揮発してしまい、所望の機械強度及び低誘電特性を有するシリカ系被膜を得難くなるおそれがある。
【0166】
また、この予備硬化工程における加熱時間としては、好ましくは1秒〜1時間、より好ましくは2秒〜10分、更に好ましくは10秒〜5分、特に好ましくは30秒〜3分である。この加熱時間が1秒未満であると、溶媒の乾燥が不十分となり、且つ、樹脂の硬化が十分に進まない傾向にある。これに対し、加熱時間が1時間を超えると、スループットの低下を招来し、且つ、入熱量を十分に低く抑え難くなる。
【0167】
このような観点を比較考量すると、塗布された被膜の厚さや要求されるシリカ系被膜の物性等にもよるが、予備硬化工程における最適な条件は、例えば150℃/1分+250℃/1分の多段加熱が挙げられる。
【0168】
次に、溶媒が除去され且つ予備硬化が行われた被膜を、例えば350〜500℃の温度(第2の加熱温度T)で焼成して最終硬化を行う(最終硬化工程)。ただし、350℃以下、例えば300℃程度であってもよいが、300℃未満となると、十分な硬化を達成し難い傾向にある。また、この加熱温度が350℃未満の場合には、(d)成分の分解・揮発を十分に促進できないことがある。
【0169】
これに対し、加熱温度が500℃を超えると、金属配線層がある場合に、入熱量が増大して配線金属の劣化が生じるおそれがある。Siウエハへの入熱量を一層低減する観点及び十分な硬化を短時間に実施する観点を考慮すれば、特に400℃以下であると好ましく、375℃以下であるとより好ましく、350℃程度が更に好ましい。また、最終硬化は、N、Ar、He等の不活性雰囲気下で行うのが好ましく、この場合、酸素濃度が1000ppm以下であると好ましい。
【0170】
さらに、この際の加熱時間は2〜60分が好ましく、2〜30分であるとより好ましい。この加熱時間が60分を超えると、入熱量が過度に増大して配線金属の劣化が生じるおそれがある。さらに、加熱装置としては、石英チューブ炉その他の炉、ホットプレート、ラピッドサーマルアニール(RTA)等の加熱処理装置を用いることが好ましい。
【0171】
また、このようにして形成されるシリカ系被膜の膜厚は、0.01〜40μmであることが好ましく、0.1μm〜2.0μmであるとより好ましい。かかる膜厚が40μmを超えると、応力によってクラックが発生し易くなる一方で、0.01μm未満であると、シリカ系被膜の上下に金属配線層が存在する場合に、上下配線間のリーク特性が悪化する傾向がある。
【0172】
さらに、本発明のシリカ系組成物を用いた製造方法によれば、弾性率が好ましくは2.5GPa以上、より好ましくは3.0GPa以上、更に好ましくは3.5GPa以上、特に好ましくは4.0GPa以上の高弾性を有するシリカ系被膜を得ることができる。この弾性率が2.5GPa未満であると、例えば、シリカ系被膜を半導体絶縁膜として用いるときに、加工が困難となる等の不都合が生じるおそれがある。
【0173】
また、本発明によるシリカ系被膜は、平均空孔径が好ましくは4.0nm以下、より好ましくは3.0nm以下、特に好ましくは2.2nm以下である空孔が(多数)形成されたものである。この平均空孔径が、4.0nmを超えると、膜厚等によってはCMP耐性が不十分となることがある。一方、平均空孔径が極端に小さく(例えば、0.1nm以下)なると、空孔形成が困難になると共に、要求される低誘電率を実現し難くなることがある。
【0174】
さらに、最高頻度空孔径が、好ましくは2.0nm以下、更に好ましくは1.5nm以下であると一層有用である。この最高頻度空孔径が2.0nmを超えると、膜厚によっては、十分な機械強度の達成が困難となる傾向にある。
【0175】
またさらに、シリカ系被膜において10nm以上の径を有する空孔が実質的に存在しないこと(空孔径の最大値が10nm未満であること)が好ましい。平均10nm以上の空孔径が存在すると、他の空孔がより微細なものであっても、膜に何らかの応力等の不要な力が作用したときに、径が大きい空孔を起点として膜の亀裂が発生・進展し、ひいては膜破断が生じるおそれが懸念される。
【0176】
[第2の形態]
また、本発明によるシリカ系被膜形成用組成物としては、必須成分として(a)成分、(b)成分、及び以下に示す(e)成分を含むものであってもよい。以下、このシリカ系被膜形成用組成物について説明する。
【0177】
〈(a)成分〉
[第1の形態]で述べたものと同様である。
【0178】
〈(b)成分〉
本形態における(b)成分は、(a)成分すなわち前述のシロキサン樹脂を溶解可能な溶媒であって、特に、アルキレングリコールアルキルエーテルアルキルエステル又はアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートから成る第1の溶媒成分、及び、アルキレングリコールモノアルキルエーテルから成る第2の溶媒成分を必須成分として含む溶媒であることが望ましい。
【0179】
また、第1の溶媒成分と第2の溶媒との質量含有割合が、好ましくは1:99〜60:40、より好ましくは5;95〜50:50、更に好ましくは10:90〜40:60とされる。この質量含有割合が、1:99を下回る(つまり第1の溶媒/第2の溶媒の質量比が1/99未満となる)と、最終的に得られるシリカ系被膜の機械強度の劣化が顕著となる傾向にある。これに対し、この質量含有割合が60:40を超える(つまり第1の溶媒/第2の溶媒の質量比が60/40を超過する)と、シリカ系被膜の膜厚均一性といった物性の劣化が顕著となる傾向にある。
【0180】
第1の溶媒成分としては、例えば、エチレングリコールメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールエチルエーテルプロピオネート、アセテートエチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールエチルエーテルアセテート等が挙げられる。これらのなかでは、硬化膜として得られるシリカ系被膜の機械強度の観点から、アルキレングリコールメチルエーテルアセテート、又はプロピレングリコールアルキルエーテルアセテートが好ましく、更にそのうち、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートが特に好ましい。
【0181】
また、第2の溶媒成分としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられ、これらのなかでは、シリカ系被膜の膜厚均一性が高められる観点よりプロピレングリコールモノプロピルエーテルが特に好ましい。
【0182】
さらに、(b)成分である溶媒は、必要に応じて他の溶媒成分を含んでいてもよい。このような他の溶媒成分としては、例えば、先述した(b)成分として用いることが可能な各種溶媒が挙げられる。それらは単独で又は2種以上を組み合わせて第1の溶媒及び第2の溶媒と共に用いられ得る。
【0183】
(b)成分の使用量としては、前述したのと同様に、(a)成分(シロキサン樹脂)の量が3〜25質量%となるような量とされることが好ましい。溶媒の量が過少で(a)成分の濃度が25質量%を超えると、シリカ系被膜の成膜性等が悪化すると共に、組成物自体の安定性が低下する傾向にある。これに対し、溶媒の量が過多で(a)成分の濃度が3質量%を下回ると、所望の膜厚を有するシリカ系被膜を形成し難くなる傾向にある。
【0184】
〈(e)成分〉
(e)成分は、ヒドロキシル基を含む側鎖を有しており、且つ、側鎖におけるヒドロキシル基の濃度MOH(mol/g)が下記式(9);
0<MOH<0.4×10−2 …(9)、
で表される関係を満たす重合体である。
【0185】
このヒドロキシル基の濃度MOHが0(ゼロ)mol/g、すなわち側鎖にヒドロキシル基が含まれていない場合には、組成物から溶媒を揮散等による除去したときに、(a)成分のシロキサン樹脂と重合体とが相分離するおそれがある。こうなると、最終的に得られるシリカ系被膜の空孔径が過度に大きくなると共に、その径分布が広がり微細空孔の均一性が悪化する傾向があり、機械強度の低下を招くおそれがある。一方、ヒドロキシル基の濃度MOHが0.4×10−2mol/gを超過すると、加熱時に重合体が分解又は揮発し難くなり、加熱処理に高温又は長時間を要してしまうといった不都合が生じる。
【0186】
ここで、ヒドロキシル基の濃度MOH(mol/g)は、重合体の仕込み量から求めることができ、例えば、下記式(10);
OH=(Ma×Mb/Mb)/Mh×100 …(10)、
で表される関係を用いて算出できる。
【0187】
式中、Maはヒドロキシル基が含まれる最小繰り返しユニットのモル比率示し、Mbはヒドロキシル基(OH基)の分子量を示し、Mhは重合体の平均分子量を示す。
【0188】
また、(e)成分である重合体は、温度300〜500℃の窒素ガス雰囲気における減少率が95質量%以上であることが好ましく、より好ましくは97質量%以上であり、更に好ましくは99質量%以上である。この減少率が95質量%未満であると、当該組成物を加熱する際の重合体の分解又は揮散が不十分となる傾向にあり、最終的に得られるシリカ系被膜中に重合体、重合体の一部又は重合体由来の反応生成物が残留してしまうおそれがある。こうなると、比誘電率の上昇等、シリカ系被膜の電気特性の劣化を招来することがある。
【0189】
なお、本発明における(e)成分である重合体の「減少率」は、以下の装置及び条件によって求められる値である。
・使用装置:TG/DTA6300(セイコーインスツルメンツ社製)
・昇温開始温度:50℃
・昇温速度:10℃/min
・サンプル量:10mg
・雰囲気:窒素(N)ガス 200ml/min
・リファレンス:α−アルミナ(セイコーインスツルメンツ社製)
・試料容器:オープンサンプルパンφ5 アルミニウム(セイコーインスツルメンツ社製)
【0190】
また、(e)成分である重合体の分解開始前の基準質量は、昇温途中である150℃における質量とする。これは、150℃以下での質量減少が吸着した水分等の除去によるものであって、(e)成分である重合体そのものの分解は実質的に生じていないと推定されることによる。
【0191】
さらに、この「減少率」の測定において、(e)成分である重合体が溶液に溶解している等の理由で、重合体のみを直接量り取ることができない場合には、重合体を含む溶液を、例えば金属シャーレに約2g程度とり、常圧の空気中、150℃にて3時間乾燥して得られる残渣物を試料として用いる。
【0192】
また、(e)成分である重合体は、(a)成分であるシロキサン樹脂との相溶性等の観点から、GPCにより測定され且つ標準ポリスチレンの検量線を使用して換算された質量平均分子量が、500〜100,000であることが好ましく、1,000〜50,000であるとより好ましい。この質量平均分子量が500未満であると、シリカ系被膜の成膜性が劣る傾向にある。一方、この質量平均分子量が100,000を超えると、シロキサン樹脂との相溶性が低下する傾向にある。
【0193】
このような(e)成分の重合体を構成するヒドロキシル基を有する化合物(単量体成分)の具体例としては、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジプロピレングリコールメタクリレート等の(メタ)アクリル酸誘導体、ビニルアルコール、アリルアルコール等が挙げられる。
【0194】
また、(e)成分の重合体は、側鎖中のヒドロキシル基の濃度MOHを調整する目的で、ヒドロキシル基を有さない化合物を構成成分として含んでいてもよい。
【0195】
このようなヒドロキシル基を有さない化合物としては、例えば、ビニルエーテル系化合物、ポリエチレンオキサイド構造を有するビニル系化合物、ポリプロピレンオキサイド構造を有するビニル系化合物、ビニルピリジン系化合物、スチレン系化合物、アルキルエステルビニル系化合物、(メタ)アクリレート酸系化合物等が挙げられる。これらのなかでも、重合体の分解特性又は揮発特性に優れる観点よりエステル結合を有する化合物が好ましく、先の(d)成分の説明で言及したような(メタ)アクリレート酸系化合物((メタ)アクリレート酸誘導体)が特に好ましい。
【0196】
(メタ)アクリレート酸誘導体としては、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルコキシアルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルコキシアルキルエステル等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルが挙げられる。
【0197】
また、アクリル酸アルキルエステルとして、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル等の炭素数1〜6のアルキルエステルが挙げられ、メタクリル酸アルキルエステルとして、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル等の炭素数1〜6のアルキルエステルが挙げられる。
【0198】
さらに、アクリル酸アルコキシアルキルエステルとして、アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸エトキシエチル等が挙げられ、メタクリル酸アルコキシアルキルエステルとして、メタクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸エトキシエチル等が挙げられる。
【0199】
なお、この[第2の形態]のシリカ系被膜形成用組成物((a)成分、(b)成分及び(e)成分を必須成分として含むもの)も、[第1の形態]のものと同様に、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含有しないことが望ましく、含まれる場合でも組成物中のそれらの金属イオン濃度が100ppb以下であると好ましく、20ppb以下であるとより好ましい。
【0200】
これらの金属イオン濃度が100ppbを超えると、組成物から得られるシリカ系被膜を有する半導体素子に金属イオンが流入し易くなってデバイス性能そのものに悪影響を及ぼすおそれがある。よって、必要に応じてイオン交換フィルター等を使用してアルカリ金属やアルカリ土類金属を組成物中から除去することが有効である。
【0201】
また、本形態のシリカ系被膜形成用組成物も、[第1の形態]のものと同様に、後述するようにウエハ等の基板上に塗布された後、加熱、焼成によって硬化され、これにより、低誘電率を発現するシリカ系被膜(Low−k膜)が形成される。このとき、(b)成分の溶媒として上記の第1の溶媒成分及び第2の溶媒成分を含むものを用いるので、シリカ系被膜の機械強度が十分に高められると共に、膜厚の均一性を向上させることができる。
【0202】
また、必須成分である(e)成分としての重合体の側鎖にヒドロキシル基が含まれることにより、(b)成分の溶媒が揮散等で除去される際に(a)成分のシロキサン樹脂と上記重合体との相分離が防止され、膜内部に形成される空孔の微細化及び形状の均一化が図られる。よって、最終的に得られるシリカ系被膜の機械強度の低下をより一層抑制することが可能となる。
【0203】
加えて、(c)成分であるオニウム塩を必須成分として含有するので、シリカ系被膜の機械強度及び電気的信頼性の向上が図られる。したがって、CMP工程において、シリカ系被膜と他の層(膜)との界面において剥離が生じてしまうことを防止できる。
【0204】
かかる効果が奏される作用機構の詳細は、未だ不明な点があるものの、オニウム塩によって脱水縮合反応が促進されてシロキサン結合の密度が増加し、さらに残留するシラノール基が減少するため、機械強度及び誘電特性が向上されることが一因と推定される。但し、作用はこれに限定されない。
【0205】
さらに、シロキサン樹脂における結合原子の総数が0.65以下とされることにより、更に十分な機械強度を実現でき、しかも他の膜(層)との十分な接着性が確保される。したがって、シリカ系被膜上に被着されたCu等の配線金属をCMP(Chemical Mechanical Polish)する工程において、界面剥離の発生を一層防止できる。
【0206】
またさらに、(e)成分である重合体の側鎖におけるヒドロキシル基の濃度が上述した上限値以下とされているので、加熱時に(e)成分の分解が抑えられると共にその揮発が促進される。よって、過度に高温とすることなく、組成物を従来に比して低温又は短時間で硬化させることが可能となる。その結果、基板への入熱量を格段に低減でき、他の膜(層)ひいてはデバイスの特性劣化を抑止でき、しかもプロセス時間の短縮によりスループットの向上を図り得る。
【0207】
このような本発明のシリカ系被膜形成用組成物を用いて、基板上にシリカ系被膜を形成する方法について、上述したのと同様にスピンコート法を例にとって説明する。
【0208】
まず、シリカ系被膜形成用組成物をシリコンウエハ等の基板上に好ましくは500〜5000回転/分、より好ましくは1000〜3000回転/分でスピン塗布して被膜を形成する。この際、回転数が500回転/分未満であると、膜均一性が悪化する傾向にある一方で、5000回転/分を超えると、成膜性が悪化するおそれがあるため好ましくない。
【0209】
次いで、好ましくは50〜350℃、より好ましくは100〜250℃でホットプレート等にて被膜中の溶媒を乾燥させる。この乾燥温度が50℃未満であると、溶媒の乾燥が十分に行われない傾向にある。一方、乾燥温度が350℃を超えると、被膜においてシロキサン骨格が形成される前にポーラス形成用の重合体((e)成分)が熱分解されて揮発量が不都合な程に増大してしまい、所望の機械強度及び低誘電特性を有するシリカ系被膜を得難くなるおそれがある。
【0210】
次に、溶媒が除去された被膜を250〜500℃の加熱温度で焼成して最終硬化を行う。最終硬化は、N、Ar、He等の不活性雰囲気下で行うのが好ましく、この場合、酸素濃度が1000ppm以下であると好ましい。この加熱温度が250℃未満であると、十分な硬化が達成されない傾向にあると共に、(e)成分の分解・揮発を十分に促進できない傾向にある。これに対し、加熱温度が500℃を超えると、金属配線層がある場合に、入熱量が増大して配線金属の劣化が生じるおそれがある。
【0211】
また、この際の加熱時間は、上述した最終硬化工程におけるのと同様に、2〜60分が好ましく、2〜30分であるとより好ましい。この加熱時間が60分を超えると、入熱量が過度に増大して配線金属の劣化が生じるおそれがある。さらに、加熱装置としては、石英チューブ炉その他の炉、ホットプレート、ラピッドサーマルアニール(RTA)等の加熱処理装置を用いることが好ましい。
【0212】
また、このようにして形成されるシリカ系被膜の膜厚も上述したのと同様に、0.01〜40μmであることが好ましく、0.1μm〜2.0μmであるとより好ましい。かかる膜厚が40μmを超えると、応力によってクラックが発生し易くなる一方で、0.01μm未満であると、シリカ系被膜の上下に金属配線層が存在する場合に、上下配線間のリーク特性が悪化する傾向がある。
【0213】
[電子部品]
本発明のシリカ系被膜形成用組成物を用いて成るシリカ系被膜を有する電子部品としては、半導体素子、多層配線板等の絶縁膜を有するデバイスが挙げられる。
【0214】
具体的には、半導体素子においては、表面保護膜(パッシベーション膜)、バッファーコート膜、層間絶縁膜等として使用することができる。一方、多層配線板においては、層間絶縁膜として好適に使用することができる。
【0215】
より具体的には、半導体素子として、ダイオード、トランジスタ、化合物半導体、サーミスタ、バリスタ、サイリスタ等の個別半導体、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー)、SRAM(スタティック・ランダム・アクセス・メモリー)、EPROM(イレイザブル・プログラマブル・リード・オンリー・メモリー)、マスクROM(マスク・リード・オンリー・メモリー)、EEPROM(エレクトリカル・イレイザブル・プログラマブル・リード・オンリー・メモリー)、フラッシュメモリー等の記憶素子、マイクロプロセッサー、DSP、ASIC等の理論回路素子、MMIC(モノリシック・マイクロウェーブ集積回路)に代表される化合物半導体等の集積回路素子、混成集積回路(ハイブリッドIC)、発光ダイオード、電荷結合素子等の光電変換素子等が挙げられる。また、多層配線板としては、MCM等の高密度配線板などが挙げられる。
【0216】
このような電子部品は、低誘電率を発現する本発明のシリカ系被膜を備えることにより、信号伝搬遅延時間の低減といった高性能化が図られると同時に高信頼性を達成できる。
【実施例】
【0217】
以下、本発明に係る具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0218】
〈合成例1−1〉
以下の手順により(d)成分である熱分解揮発性化合物を合成した。まず、1000mlのフラスコにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を300g仕込み、200mlの滴下ロートにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2.0gを溶解させたメタクリル酸メチル100gを仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス雰囲気下、130℃のオイルバスで加熱攪拌しながら、滴下ロート内の溶液を2時間かけてフラスコ内に滴下した。
【0219】
次いで、30分間攪拌した後、滴下ロートにAIBN0.2gを溶解させたPGMEAを97.8g仕込み、1時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下後、更に2時間攪拌して、室温に戻し、溶液状の(d)成分である熱分解揮発性化合物を得た。
【0220】
GPC法によりこの質量平均分子量を測定したところ、12,800であった。さらに、溶液2gを金属シャーレに量り取り、150℃の乾燥機で3時間乾燥させることにより求めた熱分解揮発性化合物の濃度は18.5質量%であった。
【0221】
〈合成例1−2〉
テトラエトキシシラン116.7gとメチルトリエトキシシラン78.5gとをプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGP)339.8gに溶解させた溶液中に、70%硝酸0.92gを溶解させた水64.2gを、攪拌下で30分かけて滴下した。滴下終了後5時間反応させ、ポリシロキサン溶液を得た。
【0222】
〈実施例1−1〉
合成例1−2で得たポリシロキサン溶液200gと、合成例1−1で得た液状の熱分解揮発性化合物48.7gとを300mlナスフラスコに収容し、2時間攪拌した。次に、ロータリーエバポレーターを用いた減圧下、温浴中で生成エタノール及び低沸点物質を留去して液状の180.0gのポリシロキサン/熱分解揮発性化合物を得た。次いで、この溶液に2.4%のテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液13.5gを添加して本発明のシリカ系被膜形成用組成物を調製した。
【0223】
〈合成例1−3〉
以下の手順により(d)成分である熱分解揮発性化合物を合成した。まず、1000mlのフラスコにPGMEAを300g仕込み、200mlの滴下ロートにAIBN2.0gを溶解させたメタクリル酸メチル95gと2−ヒドロキシエチルメタクリレート5gとを仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス雰囲気下、130℃のオイルバスで加熱攪拌しながら、滴下ロート内の溶液を2時間かけてフラスコ内に滴下した。
【0224】
次いで、30分間攪拌した後、滴下ロートにAIBN0.2gを溶解させたPGMEAを97.8g仕込み、1時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下後、更に2時間攪拌して、室温に戻し、溶液状の(d)成分である熱分解揮発性化合物を得た。
【0225】
GPC法によりこの質量平均分子量を測定したところ、10,700であった。さらに、溶液2gを金属シャーレに量り取り、150℃の乾燥機で3時間乾燥させることにより求めた熱分解揮発性化合物の濃度は16.8質量%であった。
【0226】
〈実施例1−2〉
合成例1−2で得たポリシロキサン溶液200gと、合成例1−3で得た液状の熱分解揮発性化合物47.5gとを300mlナスフラスコに収容し、2時間攪拌した。次に、ロータリーエバポレーターを用いた減圧下、温浴中で生成エタノール及び低沸点物質を留去して液状の180.0gのポリシロキサン/熱分解揮発性化合物を得た。次いで、この溶液に2.4%のテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液13.5gを添加して本発明のシリカ系被膜形成用組成物を調製した。
【0227】
〈比較例1−1〉
合成例1−2で得たポリシロキサン溶液200gと、合成例1−1で得た液状の熱分解揮発性化合物48.7gとを300mlナスフラスコに収容し、2時間攪拌した。次に、ロータリーエバポレーターを用いた減圧下、温浴中で生成エタノール及び低沸点物質を留去して液状の180.0gのポリシロキサン/熱分解揮発性化合物から成るシリカ系被膜形成用組成物を調製した。
【0228】
〈応力評価1〉
(1)シリカ系被膜の形成及び膜厚等の測定
実施例1−1及び1−2並びに比較例1−1で得たシリカ系被膜形成用組成物を回転数1250rpm/30秒で複数のSiウエハ上にそれぞれ回転塗布して被膜を形成した。回転塗布後、各Siウエハを150℃/3分の加熱処理に供し、被膜中の溶媒を除去してシリカ系被膜を形成した。
【0229】
そして、この被膜の膜厚をエリプソメータ(ガートナー社製;エリプソメータL116B、使用波長:633nm)で測定した。具体的には、層間絶縁膜上にHe−Neレーザー光を照射し、指定波長における照射により生じた位相差から求められる膜厚を測定した。次いで、このSiウエハの‘反り’の量を上述した[応力の評価方法]に記載した方法及び手順に従って測定した。
【0230】
さらに、膜厚及び‘反り’の量を測定した上記Siウエハを、O濃度が100ppm前後にコントロールされた石英チューブ炉で、400℃/30分間熱処理し、シリカ系被膜を最終硬化した。この被膜について上述したのと同様にして膜厚及び‘反り’の量を測定した。
【0231】
(2)応力評価
得られた‘反り’の変位量、上記の膜厚測定値、及びその他のパラメータ値を式(4)に代入し、各シリカ系被膜の応力を算出した。結果を膜厚と共に表1−1に示す。
【0232】
〈比誘電率測定1〉
上記〈応力評価1〉で形成したシリカ系被膜の比誘電率を、上述した[比誘電率の測定方法]に従って測定した。結果を表1−1に併記する。
【0233】
〈弾性率測定1〉
上記〈応力評価1〉で形成したシリカ系被膜の弾性率を、上述した[弾性率の測定方法]に従って測定した。結果を表1−1に併記する。
(表1−1)
【0234】
【表1】

【0235】
〈空孔分布測定1〉
実施例1−2で形成したシリカ系被膜及び従来の組成物(従来品)を用いて形成したシリカ系被膜に対し、測定装置として理学電機工業(株)社製のX線回折装置ATX−Gを用い、X線散漫散乱データの解析によって各膜の空孔分布を測定した。図1は、得られた空孔分布(空孔径で規格化したもの)を示すグラフであり、図中曲線L1,L2は、それぞれ実施例1−2及び従来品のシリカ系被膜に対して得られた頻度分布を平滑化して示すものである。また、これらの空孔分布から得られた平均空孔径及び最高頻度空孔径の結果を表1−2に示す。
(表1−2)
【0236】
【表2】

【0237】
〈合成例2−1〉
以下の手順により(d)成分である熱分解揮発性化合物を合成した。まず、1000mlのフラスコにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を300g仕込み、200mlの滴下ロートにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2.0gを溶解させたメタクリル酸メチル95gと2−ヒドロキシエチルメタクリレート5gとを仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス雰囲気下、130℃のオイルバスで加熱攪拌しながら、滴下ロート内の溶液を2時間かけてフラスコ内に滴下した。
【0238】
次いで、30分間攪拌した後、滴下ロートにAIBN0.2gを溶解させたPGMEAを97.8g仕込み、1時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下後、更に2時間攪拌して、室温に戻し、溶液状の(d)成分である熱分解揮発性化合物を得た。
【0239】
GPC法によりこの質量平均分子量を測定したところ、10,700であった。さらに、溶液2gを金属シャーレに量り取り、150℃の乾燥機で3時間乾燥させることにより求めた熱分解揮発性化合物の濃度は16.8質量%であった。
【0240】
〈合成例2−2〉
テトラエトキシシラン116.7gとメチルトリエトキシシラン78.5gとをプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGP)339.8gに溶解させた溶液中に、70%硝酸0.92gを溶解させた水64.2gを、攪拌下で30分かけて滴下した。滴下終了後5時間反応させ、ポリシロキサン溶液を得た。
【0241】
〈実施例2−1〉
合成例2−2で得たポリシロキサン溶液200gと、合成例2−1で得た液状の熱分解揮発性化合物47.5gとを300mlナスフラスコに収容し、2時間攪拌した。次に、ロータリーエバポレーターを用いた減圧下、温浴中で生成エタノール及び低沸点物質を留去して液状の180.0gのポリシロキサン/熱分解揮発性化合物を得た。次いで、この溶液に2.4%のテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液13.5gを添加して本発明のシリカ系被膜形成用組成物を調製した。
【0242】
〈応力評価2〉
(1)シリカ系被膜の形成及び膜厚等の測定
実施例1で得たシリカ系被膜形成用組成物を回転数1390rpm/30秒で複数のSiウエハ上にそれぞれ回転塗布して被膜を形成した。回転塗布後、各Siウエハを、150℃/1分+250℃/1分の加熱処理(第1の加熱温度での予備硬化工程)に供し、被膜中の溶媒を除去してシリカ系被膜を形成した。
【0243】
そして、この被膜の膜厚をエリプソメータ(ガートナー社製;エリプソメータL116B、使用波長:633nm)で測定した。具体的には、層間絶縁膜上にHe−Neレーザー光を照射し、指定波長における照射により生じた位相差から求められる膜厚を測定した。次いで、このSiウエハの‘反り’の量を上述した[応力の評価方法]に記載した方法及び手順に従って測定した。
【0244】
さらに、膜厚及び‘反り’の量を測定した上記Siウエハを、O濃度が100ppm前後にコントロールされた石英チューブ炉で400℃/30分で熱処理し、シリカ系被膜を最終硬化した(第2の加熱温度での最終硬化工程)。この被膜について上述したのと同様にして膜厚及び‘反り’の量を測定した。
【0245】
(2)応力評価
得られた‘反り’の変位量、上記の膜厚測定値、及びその他のパラメータ値を式(3)に代入し、第1の加熱温度での予備硬化におけるシリカ系被膜の応力(第1の応力)、及び第2の加熱温度での最終硬化におけるシリカ系被膜の応力(第2の応力)を算出した。結果を膜厚と共に表2−1に示す。
【0246】
〈比誘電率測定2〉
上記〈応力評価2〉で形成したシリカ系被膜の比誘電率を、上述した[比誘電率の測定方法]に従って測定した。結果を表2−1に併記する。
【0247】
〈弾性率測定2〉
上記〈応力評価2〉で形成したシリカ系被膜の弾性率を、上述した[弾性率の測定方法]に従って測定した。結果を表2−1に併記する。
(表2−1)
【0248】
【表3】

【0249】
〈合成例3−1〉
以下の手順により(d)成分である熱分解揮発性化合物を合成した。まず、1000mlのフラスコにPGMEAを300g仕込み、200mlの滴下ロートにAIBN2.0gを溶解させたメタクリル酸メチル95gと2−ヒドロキシエチルメタクリレート5gとを仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス雰囲気下、130℃のオイルバスで加熱攪拌しながら、滴下ロート内の溶液を2時間かけてフラスコ内に滴下した。
【0250】
次いで、30分間攪拌した後、滴下ロートにAIBN0.2gを溶解させたPGMEAを97.8g仕込み、1時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下後、更に2時間攪拌して、室温に戻し、溶液状の(d)成分である熱分解揮発性化合物を得た。
【0251】
GPC法によりこの質量平均分子量を測定したところ、10,700であった。さらに、溶液2gを金属シャーレに量り取り、150℃の乾燥機で3時間乾燥させることにより求めた熱分解揮発性化合物の濃度は16.8質量%であった。
【0252】
〈合成例3−2〉
テトラエトキシシラン132.3gとメチルトリエトキシシラン65.1gとをプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGP)335.94gに溶解させた溶液中に、70%硝酸0.92gを溶解させた水65.8gを、攪拌下で30分かけて滴下した。滴下終了後5時間反応させ、ポリシロキサン溶液を得た。
【0253】
〈実施例3−1〉
合成例3−2で得たポリシロキサン溶液200gと、合成例3−1で得た液状の熱分解揮発性化合物53.2gとを300mlナスフラスコに収容し、2時間攪拌した。次に、ロータリーエバポレーターを用いた減圧下、温浴中で生成エタノール及び低沸点物質を留去して液状の180.0gのポリシロキサン/熱分解揮発性化合物を得た。次いで、この溶液に2.4%のテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液13.5gを添加して本発明のシリカ系被膜形成用組成物を調製した。
【0254】
〈比較例3−1〉
合成例3−2で得たポリシロキサン溶液200gと、ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル(n≒7、東京化成製)の20wt%PGP溶液44.7gを300mlナスフラスコに収容し、2時間攪拌した。次に、ロータリーエバポレーターを用いた減圧下、温浴中で生成エタノール及び低沸点物質を留去して液状の180.0gのポリシロキサン/熱分解揮発性化合物を得た。次いで、この溶液に2.4%のテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液13.5gを添加してシリカ系被膜形成用組成物を調製した。
【0255】
〈層間絶縁膜の製造1〉
実施例3−1及び比較例3−1で得たシリカ系被膜形成用組成物を回転数1500rpm/30秒で複数のSiウエハ上にそれぞれ回転塗布して被膜を形成した。回転塗布後、各Siウエハを150℃/1分+250℃/1分の加熱処理に供し、被膜中の溶媒を除去してシリカ系被膜を形成した。次いで、O濃度が100ppm前後にコントロールされた石英チューブ炉で、400℃/30分間熱処理し、層間絶縁膜としてのシリカ系被膜を最終硬化した。
【0256】
〈層間絶縁膜の評価1〉
得られた各層間絶縁膜に対して膜厚、比誘電率、弾性率、接着性、及び膜強度評価を以下に示す方法で実施した。結果をまとめて表3−1に示す。
【0257】
〔膜厚測定〕
各層間絶縁膜の膜厚を、エリプソメータ(ガートナー社製;エリプソメータL116B、使用波長:633nm)で測定した。具体的には、層間絶縁膜上にHe−Neレーザー光を照射し、指定波長における照射により生じた位相差から求められる膜厚を測定した。
【0258】
〔比誘電率測定〕
上述した[比誘電率の測定方法]に従って測定した。
【0259】
〔弾性率測定〕
上述した[弾性率の測定方法]に従って測定した。
【0260】
〔接着性評価〕
接着性の指標として上述した[Modified-Edge Lift-OFF TEST(m−ELT)の方法]に従ってパラメータKを求めた。
【0261】
〔単膜CMP耐性〕
各層間絶縁膜に対し、層間絶縁膜が研磨されないと考えられる条件でCMP研磨を実施した。具体的には、Siウエハを2cm角に切り出し、スラリーとして日立化成工業(株)製のHS−C430を用い、付加荷重を400gf/cmで1分間研磨を行い、絶縁膜の残存の有無を調べた。
【0262】
絶縁膜が残存する場合には膜強度が十分であることを示すものであり、表1においては、全く問題ないと認められた場合を‘○’と、絶縁膜の凝集破壊が認められた場合を‘×’と判定した。
(表3−1)
【0263】
【表4】

【0264】
〈合成例4−1〉
以下の手順により(e)成分である重合体を合成した。まず、1000mlのフラスコにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を300g仕込み、200mlの滴下ロートにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2.0gを溶解させたメタクリル酸メチル95gと2−ヒドロキシエチルメタクリレート5gとを仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス雰囲気下、130℃のオイルバスで加熱攪拌しながら、滴下ロート内の溶液を2時間かけてフラスコ内に滴下した。
【0265】
次いで、30分間攪拌した後、滴下ロートにAIBN0.2gを溶解させたPGMEAを97.8g仕込み、1時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下後、更に2時間攪拌して、室温に戻し、重合体溶液を得た。
【0266】
これらの仕込み量から、前出の式(10)を用いて計算された側鎖のヒドロキシル基濃度MOHは、0.038×10−2mol/gであった。また、GPC法により質量平均分子量を測定したところ、9,950であった。さらに、重合体溶液2gを金属シャーレに量り取り、150℃の乾燥機で3時間乾燥させることにより求めた重合体の濃度は16.7質量%であった。またさらに、得られた重合体乾燥物を用いて測定した500℃における質量減少率は99%であった。
【0267】
〈実施例4−1〉
テトラエトキシシラン132.3gとメチルトリエトキシシラン65.1gとをプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGP)335.94gに溶解させた溶液中に、70%硝酸0.92gを溶解させた水65.8gを攪拌下で30分かけて滴下した。滴下終了後5時間反応させ、ポリシロキサン溶液を得た。
【0268】
この溶液に、合成例1で得た重合体溶液229.6gを添加し、減圧下、温浴中で生成エタノールを留去して、PGMEAとPGPの質量含有割合(PGMEA:PGPの比率)が36:64であるポリシロキサン/重合体溶液を得た。次いで、このポリシロキサン/重合体溶液に2.38%のテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液(pH3.6)26.47gを添加して本発明のシリカ系被膜形成用組成物を調製した。
【0269】
〈合成例4−2〉
以下の手順により(e)成分である重合体を合成した。まず、1000mlのフラスコにPGPを300g仕込み、200mlの滴下ロートにAIBN1.7gを溶解させたメタクリル酸メチル45gと2−ヒドロキシエチルメタクリレート55gとを仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、窒素ガス雰囲気下、130℃のオイルバスで加熱攪拌しながら、滴下ロート内の溶液を2時間かけてフラスコ内に滴下した。
【0270】
次いで、30分間攪拌した後、滴下ロートにAIBN0.17gを溶解させたPGPを97.8g仕込み、1時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下後、更に2時間攪拌して、室温に戻し、重合体溶液を得た。
【0271】
これらの仕込み量から、前出の式(10)を用いて計算された側鎖のヒドロキシル基濃度MOHは、0.48mol/gであった。また、GPC法により質量平均分子量を測定したところ、10,700であった。さらに、重合体溶液2gを金属シャーレに量り取り、150℃の乾燥機で3時間乾燥させることにより求めた重合体の濃度は15.0質量%であった。またさらに、得られた重合体乾燥物を用いて測定した500℃における質量減少率は95%であった。
【0272】
〈比較例4−1〉
実施例4−1と同様にして調製したポリシロキサン溶液に、合成例4−2で得た重合体溶液255.6gを添加し、減圧下、温浴中で生成エタノールを留去して650gのポリシロキサン/重合体溶液から成るシリカ系被膜形成用組成物を調製した。
【0273】
〈層間絶縁膜の製造2〉
実施例4−1及び比較例4−1で得た各シリカ系被膜形成用組成物を回転数1500rpm/30秒でシリコンウエハ上に回転塗布して被膜を形成した。回転塗布後、150℃/1分+250℃/1分かけて被膜中の溶媒を除去した後、O濃度が100ppm前後にコントロールされた石英チューブ炉で400℃/30分間かけて被膜を最終硬化し、層間絶縁膜としてのシリカ系被膜を製造した。
【0274】
〈層間絶縁膜の評価2〉
得られた各層間絶縁膜に対して以下の方法で膜厚、電気特性、及び膜強度評価を行った。
【0275】
〔膜厚測定〕
各層間絶縁膜の膜厚を、〈層間絶縁膜の評価1〉と同様にして測定した。
【0276】
〔比誘電率測定〕
上述した[比誘電率の測定方法]に従って測定した。
【0277】
〔弾性率測定〕
上述した[弾性率の測定方法]に従って測定した。
【0278】
以上の各測定結果をまとめて表4−1に示す。
(表4−1)
【0279】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0280】
以上説明したように、本発明のシリカ系被膜形成用組成物、シリカ系被膜及びその製造方法によれば、低誘電性に優れると共に十分な機械強度を有しており、且つ、膜厚の均一性に優れ、更に、他の膜(層)への接着性が高められることによりCMP耐性が向上されて界面剥離の発生を防止できるシリカ系被膜を得ることが可能となる。また、従来に比して低温領域で硬化が進行するので、そのシリカ系被膜が形成される基体への入熱量を軽減できる。よって、下層の配線等の機能を損なうことを抑止できる。
【0281】
また、低温領域で硬化が進行するので、最終硬化を行うための高温加熱処理を短時間化できる。よって、熱履歴を更に改善できる。しかも、最終硬化において被膜の応力が減少するので、シリカ系被膜を形成する際に、被膜の急激な応力上昇を抑えることができる。よって、下層の配線等の機能を損なうことを抑止できる。
【0282】
また、本発明による電子部品は、かかるシリカ系被膜を有するので、デバイス全体の電気的信頼性を向上させることができ、製品生産の歩留まり及びプロセス裕度の向上を図ることが可能となる。さらに、シリカ系被膜の優れた特性により、高密度且つ高品位で信頼性に優れた電子部品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0283】
【図1】図1は、実施例1−2及び従来品のシリカ系被膜の空孔分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるシリカ系被膜形成用組成物であって、
(a)成分:下記式(1);
SiX4−n …(1)、
(式中、Rは、H原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1〜20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0〜2の整数を示し、nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよく、nが0〜2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい)、
で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、
(b)成分:前記(a)成分を溶解可能な溶媒と、
(c)成分:オニウム塩と、を含有し、
前記(a)成分は、Si原子1モルに対する、H原子、F原子、B原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子、Ti原子、及びC原子から成る群より選ばれる少なくとも一種の原子の総含有割合が0.50モル以下のものであり、
150℃で3分間加熱したときに得られる前記シリカ系被膜の応力が10MPa以上となり、且つ、最終硬化により得られるシリカ系被膜の比誘電率が3.0未満となるような硬化特性を有する、
シリカ系被膜形成用組成物。
【請求項2】
流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるシリカ系被膜形成用組成物であって、
(a)成分:下記式(1);
SiX4−n …(1)、
(式中、Rは、H原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1〜20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0〜2の整数を示し、nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよく、nが0〜2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい)、
で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、
(b)成分:前記(a)成分を溶解可能な溶媒と、
(c)成分:オニウム塩と、
(d)成分:250〜500℃の加熱温度において熱分解又は揮発する熱分解揮発性化合物と、
を含有して成り、
前記膜状態において第1の加熱温度で予備硬化され、さらにその後該第1の加熱温度よりも高い第2の加熱温度で最終硬化されたときに、該第2の加熱温度で最終硬化されたときのシリカ系被膜の第2の応力が、該第1の加熱温度で硬化されたときのシリカ系被膜の第1の応力よりも小さくなるような硬化特性を有する、
シリカ系被膜形成用組成物。
【請求項3】
前記第1の加熱温度が100℃以上350℃未満の範囲内の温度であり、前記第2の加熱温度が350以上500℃以下の範囲内の温度である、請求項2記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項4】
流動性を有し、且つ、基体上に塗布された膜状態において熱が印加されたときに硬化してシリカ系被膜が形成されるシリカ系被膜形成用組成物であって、
(a)成分:下記式(1);
SiX4−n …(1)、
(式中、Rは、H原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1〜20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0〜2の整数を示し、nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよく、nが0〜2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい)、
で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、
(b)成分:前記(a)成分を溶解可能な溶媒と、
(c)成分:オニウム塩と、
を含有して成り、
前記(a)成分は、Si原子1モルに対する、H原子、F原子、B原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子、Ti原子、及びC原子から成る群より選ばれる少なくとも一種の原子の総含有割合が0.50モル以下のものであり、
Modified-Edge Lift-OFF TEST(m−ELT)において求められるパラメータKの値が0.20以上であり、且つ、最終硬化により得られるシリカ系被膜の比誘電率が3.0未満となるような硬化特性を有する、
シリカ系被膜形成用組成物。
【請求項5】
前記(b)成分が、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN,N−ジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒である、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項6】
前記(b)成分が、アルキレングリコールアルキルエーテルアルキルエステル又はアルキレングリコールアルキルエーテルアセテートから成る第1の溶媒成分、及び、アルキレングリコールモノアルキルエーテルから成る第2の溶媒成分を含むものである、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項7】
前記(b)成分は、前記第1の溶媒成分と前記第2の溶媒成分との質量含有割合が1:99〜60:40のものである、
請求項6記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項8】
前記第1の溶媒成分がアルキレングリコールメチルエーテルアセテートである、
請求項6又は7に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項9】
前記第1の溶媒成分がプロピレングリコールメチルエーテルアセテートである、
請求項6又は7に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項10】
前記第2の溶媒成分がプロピレングリコールモノプロピルエーテルである、
請求項6〜9のいずれか一項に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項11】
前記(c)成分がアンモニウム塩、ホスホニウム塩、アルソニウム塩、スチボニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩、スタンノニウム塩及びヨードニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のオニウム塩である、
請求項1〜10のいずれか一項に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項12】
前記(c)成分がアンモニウム塩である、
請求項1〜11のいずれか一項に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項13】
硝酸を更に含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のシリカ系被膜形成用組成物を基板上に塗布し、塗布された該被膜を50〜350℃で予備硬化し、250〜500℃で最終硬化することにより形成される硬化膜から成るシリカ系被膜。
【請求項15】
比誘電率が3.0未満である請求項14記載のシリカ系被膜。
【請求項16】
弾性率が2.5GPa以上である請求項14又は15に記載のシリカ系被膜。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のシリカ系被膜形成用組成物を基板上に塗布し、塗布された該被膜を50〜350℃で予備硬化し、250〜500℃で最終硬化して該被膜を硬化せしめるシリカ系被膜の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のシリカ系被膜形成用組成物を基板上に塗布し、塗布された該被膜に含まれる溶媒を除去した後、該被膜を250〜500℃の加熱温度で焼成する、シリカ系被膜の製造方法。
【請求項19】
素子構造が形成される基体上に絶縁膜が形成された電子部品であって、
前記絶縁膜が、請求項17又は18に記載のシリカ系被膜の製造方法により製造されたシリカ系被膜を含むものである、ことを特徴とする電子部品。


【図1】
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【公開番号】特開2008−297550(P2008−297550A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157012(P2008−157012)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【分割の表示】特願2007−234334(P2007−234334)の分割
【原出願日】平成15年2月26日(2003.2.26)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】